説明

蛍光体とその製造方法、および当該蛍光体を用いたプラズマディスプレイパネル

【課題】ユーロピウム(Eu)付活蛍光体、特に青色蛍光体において、波長変換効率を高く維持し、且つ真空紫外光による経時劣化を低減する。また、当該蛍光体の経時劣化に起因するプラズマディスプレイパネルの焼き付き現象を防止する。
【解決手段】蛍光体粒子におけるEuの濃度分布が、粒子全体より粒子表面近傍(表面から深さ10nm程度まで)で高く、且つ、蛍光体粒子に含まれる全Euに占める2価Eu率が、蛍光体粒子全体より前記粒子表面近傍で低いEu付活アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体とする。この蛍光体をプラズマディスプレイパネルの青色蛍光体として用いることで、経時劣化に起因する焼き付き現象を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーロピウム(Eu)で付活された蛍光体、特にアルカリ土類金属アルミン酸塩青色蛍光体に関する。また、当該蛍光体を蛍光体層に利用してなるプラズマディスプレイパネル(PDP)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、三波長蛍光ランプ等に使用される省エネルギーの蛍光体として、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体が実用化されている。具体的には以下の組成のものを挙げることができる。
【0003】
青色蛍光体;(Ba、Sr)MgAl1017:Eu
緑色蛍光体;CeMgAl1119:EuまたはBaMgAl1017:Eu、Mn
このような青色蛍光体及び緑色蛍光体が、それぞれ単体で、または他の種類の蛍光体、或いは赤色蛍光体と組み合わせて用いられ、例えば白色発光をなすように調整される。
【0004】
またPDP用青色蛍光体として、真空紫外領域による波長変換効率が高い(Ba、Sr)MgAl1017:Euが使用されている。(Ba、Sr)とEuの合計mol量に対して、約5mol%から15mol%の範囲にEumol量を規定すると、満足できる発光特性が得られる。
【0005】
これらのデバイスでは、蛍光体にバインダーを混合しスラリー化してガラス等の基体に塗布し、その後ベーキングを行って蛍光体層(蛍光体膜)からなる発光スクリーンを形成する。
【0006】
ところで(Ba、Sr)MgAl1017:Euは、使用状況によっては波長変換効率が経時的に劣化してしまう現象が見られる。
このような劣化対策としては、例えば特許文献1のように、蛍光体原料に5mol%以下のガドリニウムを添加する方法が提案されている。
【0007】
また特許文献2では、蛍光体粒子の表面をアルカリ土類金属などの2価金属珪酸塩で被覆する方法が提案されている。さらに特許文献3のように、蛍光体粒子の表面をアンチモン(Sb)の酸化物で被覆する方法も提案されている。
【0008】
また、特許文献4では、(Ba、Sr)MgAl1017:Euに含まれるEuのうち、2価であるEuの率を45〜85%にする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平6−29418号公報
【特許文献2】特開2000−34478号公報
【特許文献3】特開平10−330746号公報
【特許文献4】特開2003−213258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1および2の方法では、熱による劣化に対しては抑制効果が高いが、真空紫外線照射による劣化に対しては、十分な劣化抑制効果が得られない。
また特許文献3に記載されている方法では、実際にはSbの酸化膜で蛍光体粒子の表面を均一に被覆することが難しい。また、色度変化と発光強度維持率とは互いに相反する関係があるため、当該両者をともに向上させるのは難しいという問題点を有している。
【0011】
また、このような蛍光体を蛍光体層に利用したPDPでは、いわゆる「焼き付き現象」と呼ばれる問題が発生する。これは、上記Eu付活蛍光体において比較的発光強度や色度が経時変化しやすい性質が見られることに起因するものであって、駆動時において、あたかも画面が焼き付いたように特定の色残像(青色配合を損なった画像)が表示されたままになることで、表示性能を損なう問題である。
【0012】
また、特許文献4の方法では、バルクの全Euに占める2価Eu率が規定されているが、発明者らの詳細な検討によれば、バルクの全Euに占める2価Eu率を規定するだけでは、特許文献4に記載されている効果、すなわち、蛍光体層各種製造工程における熱による劣化や、画像表示時の真空紫外光による劣化を抑制する効果が十分に得られない場合があることが分かった。
【0013】
以上のように、蛍光体の劣化対策としては、いまだ改善の余地があると考えられる。
本発明の目的は、波長変換効率を高く維持し、且つ真空紫外光による経時劣化を低減することのできるユーロピウム(Eu)付活蛍光体を提供することにある。
【0014】
また別の目的として、当該蛍光体の経時劣化に起因する焼き付き現象の発生を防止して、優れた表示性能を備えるプラズマディスプレイパネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、Euに付活される蛍光体であって、当該蛍光体粒子において、その粒子表面および表面近傍における2価Eu率が、前記蛍光体粒子全体の2価Eu率よりも低い構成とした。
【0016】
ここで前記2価Eu率は、粒子全体で60%以上95%以下、表面近傍で4%以上50%以下とすることができる。
より好ましくは、さらに2価Eu率が、粒子全体で60%以上80%以下、表面近傍で4%以上15%以下とすることができる。
【0017】
このような前記蛍光体としては、Eu付活アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体とすることができる。
さらに本発明では、前記蛍光体が、当該蛍光体粒子において、その粒子の表面及び近傍のEu平均濃度が、前記粒子全体のEu平均濃度より高い構成とした。
【0018】
このような前記蛍光体は、その組成が
Ba1−XSrEuMgAl1017
で示されるEu付活アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体であって、且つ、蛍光体粒子全体における組成が0.05≦x≦0.40、0≦y≦0.25、0.05≦z≦0.30、x−y≦zであり、前記蛍光体粒子の表面及び表面近傍において、Eu濃度z'が、3z≦z'≦10zであるものとした。
【0019】
さらに前記Eu付活アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体では、
前記蛍光体粒子で、0.15≦x≦0.25、0.05≦y≦0.15、0.05≦z≦0.15、x−y≦zであり、前記表面及び表面近傍でのEu濃度z'が、7z≦z'≦10zとした。
【0020】
また本発明はEu付活蛍光体の製造方法であって、前記蛍光体の原料混合粉、或いは大気焼成粉を、還元性雰囲気で焼成する第一ステップと、前記第一ステップ中または当該第一ステップ後に、前記蛍光体の原料混合粉あるいは大気焼成粉を不活性雰囲気に置く第二ステップとを経るものとした。
【0021】
ここで前記第一ステップにおける焼成の降温時に、前記第二ステップを行うこともできる。
また前記還元性雰囲気は、窒素および水素の混合雰囲気であり、前記不活性雰囲気が窒素雰囲気とすることも可能である。
【発明の効果】
【0022】
上記課題を解決するために発明者らが検討したところ、Eu付活蛍光体で発光強度維持率と経時劣化の抑制の両立のためには、Eu濃度を蛍光体粒子の表面近傍とそれ以外の粒子内部とで不均一にすること、また、蛍光体粒子内における2価と3価のEuの分布状態を制御することが重要であることを見出した。
【0023】
この知見に基づき、本発明のEu付活蛍光体は上記構成に設定するものである。
ここで「蛍光体粒子の表面近傍」とは、具体的には、真空紫外線等の短波長の光を受けた蛍光体粒子において、励起され発光する領域を指す。具体的には、後述のXPS法で確認できる蛍光体粒子の表面から10nm程度の厚み範囲である。但し、励起光の波長により蛍光体粒子中へ進入するエネルギーの深さは変わるため、上記10nmの厚み範囲を超える場合もある。
【0024】
本発明では、このような構成の蛍光体粒子とすることで、従来に比べて発光強度維持率が高く、且つ経時劣化の少ないEu付活蛍光体を得ることができる。
また、本発明のEu付活蛍光体を例えばPDPの青色蛍光体層に用いれば、長時間駆動を行っても良好な発色を維持して得ることができるので、的確な色バランスを保ち、上記焼き付き現象の発生を抑制して、優れた表示性能のPDPを実現することが可能である。
【0025】
なお、現在のところ、本発明の蛍光体粒子の構成によって得られる効果の原理的なメカニズムは必ずしも明確になっていない。しかし、粒子全体のEu量(濃度)が一定の条件下では、蛍光体の組成を少なくとも上記したように設定することで、蛍光体粒子の表面では結果的に3価Euを多く存在させることができる。このように高濃度の3価Euが存在すれば、蛍光体粒子の表面近傍からの酸素抜けを抑制し、波長変換効率を高く維持したまま、熱による経時劣化および真空紫外光による経時劣化が抑制される。したがって、本発明の蛍光体を用いれば結果的に焼き付き現象等の問題を低減させることが可能であると推測される。
【0026】
また、本発明はEu付活アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体において特に有効であることを発明者らは確認している。
このような構成のEu付活アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体によれば、従来に比べて波長変換効率を高く維持し、且つ経時劣化を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の蛍光体粒子(アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体粒子)の構成を示す模式的な断面図である。
【図2】蛍光体焼成工程における還元焼成の温度プロファイルと水素供給のタイミングを示す図である。
【図3】(Ba、Sr)MgAl1017:Eu蛍光体のX線光電子分光測定(XPS)におけるEu3d5/2ピークの一例と、X線吸収端微細構造測定(XANES)におけるEuL殻吸収端スペクトルの一例を示す図である。
【図4】実施の形態のPDPの構成を示す図である。
【図5】PDPの輝度変化(発光強度維持率)を従来例と比較するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.実施の形態1
<アルカリ土類アルミン酸塩蛍光体粒子の構成>
ここでは本発明の実施の形態1であるEu付活蛍光体の構成例について説明する。図1は、本実施の形態1のEu付活蛍光体粒子の構成を示す模式的な断面図である。
【0029】
この蛍光体粒子はEu付活蛍光体の一例であるアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体(青色蛍光体)であって、以下の組成を有している。
Ba1−XSrEuMgAl1017:Eu
(ただし、x=0.20、y=0.10、z=0.10)
さらに、当該蛍光体粒子の構成は図1に示すように、粒子の表面及び表面近傍のEu濃度(表面Eu濃度)が、粒子全体のEu濃度(バルクEu濃度)より高く調整されている。これに加え、蛍光体粒子中の全Euに占める2価Eu率について、粒子の表面及び表面近傍の2価Eu率(表面2価Eu率)が、粒子全体の2価Eu率(バルク2価Eu率)よりも低くなるように調整された特徴を持つ。
【0030】
より具体的には、蛍光体粒子における前記バルク2価Eu率が、蛍光体粒子全体で60%以上80%以下、表面近傍で4%以上15%以下の各範囲となるように設定されている。ここで、Euは2価以外には通常、3価の値を取りうるので、上記前記バルク2価Eu率を100%から差し引いた数値範囲が、すなわちバルク3価Eu率となる。
【0031】
このような理由によって、上記構成を有する本実施の形態1の蛍光体粒子では、その表面及び表面近傍の2価Eu率が低く設定されており、これとは相対的に3価Euが表面に多く存在することになる。
【0032】
なお、本発明で規定する蛍光体粒子の表面Eu濃度と表面2価Eu率の各値は、後述するAlKα線によるX線光電子分光法(XPS)等の測定値より確認し、又は設定することが可能である。
【0033】
以上の構成を持つ本実施の形態1の蛍光体粒子によれば、比較的高濃度の3価Euが、蛍光体粒子表面近傍からの酸素抜け(組成中に含まれる酸素原子の脱落のこと)を抑制する効果が期待される。この効果により、本発明の蛍光体粒子では表面近傍における蛍光体組成を従来に比べて良好に維持できるため、波長変換効率を高く維持したまま、熱による経時劣化および真空紫外光による経時劣化の抑制が可能であり、蛍光体の性能向上が図られる。本実施の形態1の蛍光体粒子の具体的な効果を示すデータについては後述する。
【0034】
なお、本発明のEu付活蛍光体の組成は、本実施の形態1の組成に限定するものではなく、またアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体(青色蛍光体)に限定するものでもない。上記組成で示したx、y、zの各値は、要求される蛍光体の色度、発光強度、劣化耐性等の特性に応じて、適宜調整する必要がある。
【0035】
具体的には、Sr量yを多くすると色度yが大きくなり、輝度を向上させることができるが、色再現範囲は狭くなる。さらに、Eu量zを増やすと発光強度は高くなるが、熱劣化し易くなる。この特性変化を目安に組成を考慮すればよい。
【0036】
例えば、組成がBa1−XSrEuMgAl1017
(粒子全体で、0.05≦x≦0.40、0≦y≦0.25、0.05≦z≦0.30、x−y≦zであり、前記表面近傍でのEu濃度z'が、3z≦z'≦10z)
で表されるものを用いると、青色から若干緑色を帯びた発色範囲の調整に適当なアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体が得られる。
【0037】
この場合、前記バルク2価Eu率が、粒子全体で60%以上95%以下、表面近傍で4%以上50%以下に設定するのが望ましい。
また、例えば組成がBa1−XSrEuMgAl1017
(粒子全体で、0.15≦x≦0.25、0.05≦y≦0.15、0.05≦z≦0.15、x−y≦zであり、前記表面近傍でのEu濃度z'が、7z≦z'≦10z)
で表されるものを用いると、特にPDP用に好適なアルカリ土類アルミン酸塩青色蛍光体が得られる。
【0038】
この場合、前記バルク2価Eu率を60%以上80%以下、表面2価Eu率を4%以上15%以下に設定するのが望ましい。
2.実施の形態2
<本発明のアルミン酸塩蛍光体の製造方法について>
本実施の形態2では、本発明のアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体の製造方法の一例を説明する。
【0039】
(材料の準備)
アルミニウム源となる材料として、高純度(純度99%以上)の水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、ハロゲン化アルミニウム等の、焼成によりアルミナになるアルミニウム化合物を用いることができる。また、直接高純度(純度99%以上)のアルミナ(結晶形はαアルミナでも中間アルミナでもよい)を用いることもできる。
【0040】
バリウム源となる材料として、高純度(純度99%以上)の水酸化バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウム、ハロゲン化バリウム、シュウ酸バリウム等の、焼成により酸化バリウムになるバリウム化合物を用いることができる。また、直接高純度(純度99%以上)の酸化バリウムを用いることもできる。
【0041】
カルシウム源となる材料として、高純度(純度99%以上)の水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、ハロゲン化カルシウム、シュウ酸カルシウム等の、焼成により酸化カルシウムになるカルシウム化合物を用いることができる。また、直接高純度(純度99%以上)の酸化カルシウムを用いることもできる。
【0042】
ストロンチウム源となる材料として、高純度(純度99%以上)の水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、ハロゲン化ストロンチウム、シュウ酸ストロンチウム等の、焼成により酸化ストロンチウムになるストロンチウム化合物を用いることができる。また、直接高純度(純度99%以上)の酸化ストロンチウムを用いることもできる。
【0043】
マグネシウム源となる材料として、高純度(純度99%以上)の水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、ハロゲン化マグネシウム、シュウ酸マグネシウム等の、焼成により酸化マグネシウムになるマグネシウム化合物を用いることができる。また、直接高純度(純度99%以上)の酸化マグネシウムを用いることもできる。
【0044】
Eu源となる材料として、高純度(純度99%以上)の水酸化ユーロピウム、炭酸ユーロピウム、硝酸ユーロピウム、ハロゲン化ユーロピウム、シュウ酸ユーロピウム等の、焼成により酸化ユーロピウムになるユーロピウム化合物を用いることができる。また、直接高純度(純度99%以上)の酸化ユーロピウムを用いることもできる。
【0045】
(材料の混合)
以上の各材料を用意したのち、各材料の配合を行う。具体的な配合例としては以下の組み合わせを挙げることができる。この配合例は、
Ba1−XSrEuMgAl1017:Eu
(ただし、x=0.20、y=0.10、z=0.10)
の組成を持つアルミン酸塩蛍光体を形成するためのものであって、勿論、各材料の配合比率を変えることによって、上記以外の組成のEu付活蛍光体の作製も可能である。
【0046】
BaCO 0.80mol
SrCO 0.10mol
Eu 0.05mol
MgCO 1.00mol
Al 5.00mol
各材料の混合には、工業的に通常用いられるV型混合機、撹拌機等を用いることが可能であるほか、粉砕機能を有したボールミル、振動ミル、ジェットミル等も用いることができる。なお、混合に先立ち、蛍光体材料の混合粉を秤量して確認することが望ましい。
【0047】
以上で蛍光体材料の混合粉が得られる。
(焼成工程について)
次に、上記混合粉について焼成工程を行う。
【0048】
ここで実施の形態2の製造方法は、上記混合粉の焼成工程の降温時に水素の供給を停止させ、不活性ガス雰囲気(一例として窒素のみを含む雰囲気)とする点において、従来法と異なる特徴を持つ。
【0049】
その焼成工程の具体的な条件としては、焼成炉を用いて窒素と水素の混合ガス(一例として、窒素96%、水素4%の混合ガス)中で1500℃で4時間還元焼成するプロファイルが挙げられる。
【0050】
ここで図2は、焼成炉の温度プロファイル例である。図中、時間tは、降温開始時刻からの経過時間を示す。
当図2に示す温度プロファイルでは、焼成開始後7時間程度で最高温度1500℃に達するようにしている。そして、この最高温度を維持して4時間焼成を行い、その後雰囲気を不活性ガス(窒素のみからなるガス)とする。この雰囲気下で、約10時間かけて降温させる。
【0051】
なお本実施の形態2では、焼成温度1500℃、焼成時間4時間に設定する例について説明したが、当然ながら焼成温度、焼成時間等は原料の粒径や使用するフラックス(例えばAlF)の量、原料アルミナの結晶性により最適値を合わせるために適宜調整が必要であることは言うまでもない。
【0052】
また本実施の形態2では、混合粉を還元焼成する場合に関して記述したが、還元焼成前に一度大気中で焼成し、焼成粉を得るステップを経るようにしても構わない。
これにより本発明の粒子状のアルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体が製造される。
【0053】
<蛍光体組成の測定方法について>
ここでは本発明の蛍光体粒子の構成を実際に確認する具体的な手法について説明する。
本発明のEu付活蛍光体粒子の表面Eu濃度と表面2価Eu率は、X線光電子分光法(XPS)等の分析方法を用いることで測定可能である。XPSは、試料表面に波長既知のX線(通常はAlKα線、或いはMgKα線)を照射し、試料から飛び出す光電子のエネルギーを測定する方法である。この方法によれば、通常の装置設定条件において、試料とする蛍光体粒子の粒子表面から深さ10nm程度の表面近傍までの情報が選択的に得られるものと解される。XPSでは各元素それぞれに相対感度因子が明らかになっており、この相対感度因子により蛍光体粒子の表面Eu濃度、および組成比を測定できる。本発明の蛍光体粒子「表面近傍」は、このXPSによって実際に測定される範囲を指すが、励起光の波長により蛍光体粒子中へ進入するエネルギーの深さは変化する。従って、「表面近傍」の値は上記10nmの厚み範囲を超える場合もある。
【0054】
さらにXPSでは、各元素について、その化学状態によりピークの光電子エネルギーがシフトするケミカルシフトを確認できる。
本発明の蛍光体(Ba、Sr)MgAl1017:Euでは図3(a)に示すように、Eu3d5/2ピークに関して、2価Euに起因する結合エネルギー1124eV付近のピークと、3価Euに起因する1132eV付近のピークが明瞭に区別できる。その強度比(すなわち図中に示される各ピークの面積比)から、蛍光体粒子表面に含まれる全Euに占める2価Eu率が算出できる。したがって、XPSにより表面2価Eu率が測定できる。但しこのとき、1137eV付近に現れるBa3p1/2のピークを混同しないように注意すべきである。
【0055】
本発明のEu付活蛍光体粒子では、当該蛍光体粒子の表面2価Eu率のみではなく、バルク2価Eu率をも規定しているが、その測定方法としてはX線吸収端微細構造法(XANES)がある。これは放射光を用いた内殻吸収スペクトルの微細構造により、特定元素の化学状態を測定する方法である。2価Eu率を測定するには、スペクトルのうちL吸収端を利用する。
【0056】
図3(b)に示すように、2価Eu(Eu(II))の吸収は、6970eV付近に現れ、3価Eu(Eu(III))の吸収は、6980eV付近に現れる。これら2つのピークの強度比(ピークの面積比で表される)から、2価Eu率を求める。
【0057】
XANESには、吸収を直接測定する吸収法の他に、X線吸収に引き続いて発生するオージェ電子を測定する2次電子法、同じくX線吸収に引き続いて発生する蛍光X線を測定する蛍光法がある。本発明の蛍光体の特定としては、深さ方向依存性が比較的小さい蛍光法で測定する。
【0058】
なお、バルク2価Eu率を測定する他の方法としては、試料を酸またはアルカリ溶液に溶解させ、酸化還元滴定により求める方法がある。さらに、2価Euと3価Euの磁化率の差を利用する方法も考えられる。
【0059】
<発光強度維持率について>
本実施の形態2の方法で実際に製造したアルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体について、その性能測定を行った。測定方法には上記XPSとXANESをそれぞれ使用した。
【0060】
表1に、時間(窒素+水素雰囲気で最高温度からの降温時における還元焼成時間)tと、作製された蛍光体粒子のバルクEu濃度、表面Eu濃度、バルク2価Eu率、表面2価Eu率、および波長146nmの真空紫外光(VUV)励起による蛍光体粒子の発光強度Y/yの初期(照射開始時)、真空紫外光100時間照射後の発光強度Y/yの値、さらに照射前後の発光強度維持率Y/y(%)との関係をそれぞれ示す。
【0061】
【表1】

窒素+水素雰囲気で所定時間還元焼成を行ったのちは、窒素ガスからなる不活性ガス下で降温させている。
ただし、Yおよびyは国際照明委員会XYZ表色系における輝度Yと色度yであり、Y/yは相対値である。また時間tが10時間のデータは比較例のものに相当する。
【0062】
表1に示すデータから明らかなように、蛍光体粒子の表面及び表面近傍のEu濃度が高く、且つ、表面2価Eu率が低いほど発光強度維持率Y/y(%)が向上することがわかる。一般に蛍光体では、発光強度維持率Y/y(%)は時間tが短いほど高くなる特性がある。このことから例えばt=−2(降温時に加え、最高温度での焼成時間における4時間中2時間も窒素雰囲気のみ)の場合、表面Eu濃度は0.88(但しAlを10molとして規格化)となり、バルクEu濃度0.10の約9倍となっている。このときにバルク2価Eu率は65%、表面2価Eu率は11%となった。
【0063】
したがって、本実施の形態2の製造方法により作製された蛍光体粒子では、その表面及び表面近傍にEuが移動して表面Eu濃度が高まるとともに、そのEuのほとんどが3価の状態で存在することが確認できる。
【0064】
3.実施の形態3
本実施の形態3では、上記実施の形態2とは別例のアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体の製造方法を説明する。
【0065】
原料の秤量、混合までは実施の形態2の方法と同じである。実施の形態3の製造方法では、焼成を、降温時も含めて完全に還元性雰囲気で行う点に特徴を有している。
次に、700℃で数時間熱処理する。熱処理時の雰囲気は、窒素ガス雰囲気などの不活性雰囲気とする。
【0066】
このような方法によっても、本発明の蛍光体を形成することが可能である。
<発光強度維持率について>
本実施の形態3の方法で製造した蛍光体についてのEu濃度及び性能測定を行った。Eu濃度測定方法には上記XPSとXANESを使用した。
【0067】
表2に、窒素ガス雰囲気での熱処理時間sと、実施の形態2と同様に蛍光体の諸特性の関係を示す。
【表2】

表2から明らかなように、実施の形態3では実施の形態2と同様に、蛍光体粒子において、表面Eu濃度が高く、且つ、表面2価Eu率が低いほど、発光強度維持率Y/y(%)が向上することが分かる。発光強度維持率Y/y(%)は、時間sが長いほど高くなる。
【0068】
s=20の場合、表面Eu濃度は0.40(但しAlを10molとして規格化)となり、バルクEu濃度0.10の4倍となった。このときバルク2価Eu率は81%、表面2価Eu率は49%となった。
【0069】
なお本実施の形態3では、熱処理温度を700℃に設定する場合について例示したが、本発明はこれに限定するものではなく、適宜温度調整を行ってもよい。例えば熱処理温度を高く、且つ熱処理時間を長くすると、Y/yの値は低下し、そのVUV照射に関する維持率は向上するので、その関係から適宜熱処理温度と熱処理時間を設定する。
【0070】
また熱処理雰囲気は、窒素ガス雰囲気を用いる例を示したが、これ以外のガス、例えばアルゴンガス等の希ガスを雰囲気に利用してもよい。
なお、XPSを用いた測定および別の実験より、本発明の蛍光体粒子では、バルクEu濃度zと表面Eu濃度z'の関係が3z≦z'≦10zであると、発光強度維持率が顕著に向上することが分かっている。特に、PDP用青色蛍光体としてより好ましい範囲は、7z≦z'≦10zの範囲である。
【0071】
また2価Eu率としては、バルク2価Eu率が60%以上95%以下、表面2価Eu率が4%以上50%以下が望ましい。
特に、PDP用青色蛍光体として利用する場合に最適な範囲は、バルク2価Eu率が60%以上80%以下、表面2価Eu率が4%以上15%以下の範囲である。
【0072】
<焼成工程時の雰囲気について>
前述した製造方法例では、還元性雰囲気での焼成工程の降温時に水素の供給を停止する方法、或いは還元焼成後に不活性ガス雰囲気で再度熱処理する方法に関して記述した。しかし本発明のEu付活蛍光体は、このような実施の形態2および3のいずれかのみの方法で製造するものに限定されず、結果的にEu付活蛍光体の粒子のEu濃度において、表面Eu濃度がバルクEu濃度より高く、且つ、2価Eu率について、表面2価Eu率が、バルク2価Eu率よりも低いものが得られれば、どのような製造方法を採用してもよい。
【0073】
上記以外の製造方法としては、還元性雰囲気で焼成した後、さらに焼成粉にEu2O3を追加し熱処理する方法が挙げられる。さらには通常の方法で蛍光体粒子を形成しておき、その後、粒子表面を表面酸化処理することが考えられる。この表面酸化処理は、具体的には酸素を含んだ雰囲気でのプラズマ処理や、同じく酸素を含んだ雰囲気での紫外線照射、またオゾンを含んだ雰囲気での処理、さらには酸素ラジカルを含んだ雰囲気での処理のいずれかによって行うことができる。
【0074】
なお、上記各実施の形態では、(Ba、Sr)MgAl1017:Euの組成からなる蛍光体に関して記述したが、本願発明は同じEu付活蛍光体である(Ca、Sr、Ba)MgSi;Eu、(Ca、Sr、Ba)MgSi;Eu、(Ca、Sr、Ba)MgSi;Eu、およびSrAl10SiO20;Euに関しても同様の効果を奏することが期待できる。
【0075】
4.実施の形態4
図4は、本発明の実施の形態4に係る交流面放電型プラズマディスプレイパネル10(以下単に「PDP10」という)の主要構成を示す部分的な拡大断面図である。
【0076】
このPDP10は一例として42インチクラスのVGA仕様に合わせたサイズ設定になっているが、PDP10は勿論この他のサイズおよび仕様に適用させてもよい。
図4に示すように、PDP10の構成は互いに主面を対向させて配設されたフロントパネル20およびバックパネル26に大別される。
【0077】
フロントパネル20の基板となるフロントパネルガラス21には、その片面に厚さ0.1μm、幅150μmの帯状の透明電極220(230)と、これに厚さ7μm、幅95μmのバスライン221(231)が重ねられてなる一対の表示電極22(23)(X電極23、Y電極22)が、y方向を長手方向としてx方向に複数対にわたり並設されている(23、230は図面奥側に位置するため不図示)。
【0078】
各対の表示電極22、23は、それぞれフロントパネルガラス21の幅方向(Y方向)端部付近でパネル駆動回路(不図示)と電気的に接続されている。このとき、Y電極22は一括してパネル駆動回路に接続され、X電極23はそれぞれ独立してパネル駆動回路に接続される。これにより前記パネル駆動回路からY電極22と特定のX電極23に給電すると、当該表示電極22、23の間隙(約80μm)で面放電(維持放電)が行われる。
【0079】
さらに、X電極23はスキャン電極としても作動し、アドレス電極28と書き込み放電(アドレス放電)をなすようになっている。
複数対の表示電極22、23を配設したフロントパネルガラス21の表面には、前記複数対の表示電極22、23を覆うように厚さ約30μmの誘電体層24がコートされている。さらに、この誘電体層24の上に厚さ約1.0μmの保護層25が積層されている。
【0080】
バックパネル26の基板となるバックパネルガラス27には、その片面に厚さ5μm、幅60μmの複数のアドレス電極28が、x方向を長手方向としてy方向に複数並設されている。隣合う2つのアドレス電極28の並設にかかるピッチは例えば約150μmである。複数のアドレス電極28は、それぞれ独立して前記パネル駆動回路に接続され、個別に給電されるようになっており、特定のアドレス電極28と、特定のX電極23との間でアドレス放電がなされるようになっている。
【0081】
複数のアドレス電極28を並設したバックパネルガラス27の表面には、前記複数のアドレス電極28を覆うように厚さ30μmの誘電体膜29がコートされている。さらに誘電体膜29上には、隣接するアドレス電極28のピッチに合わせて高さ約150μm、幅約40μmの隔壁30が、x方向を長手方向として配設されている。
【0082】
隣り合う2つの隔壁30の側面とその間の誘電体膜29の面上には、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の何れかに対応する蛍光体層31〜33が形成されている。これらのRGB各蛍光体層31〜33はy方向に繰り返し配列される。
【0083】
フロントパネル20とバックパネル26は、アドレス電極28と表示電極22、23が直交するように互いに対向配置させられた後、両パネル20、26の外周縁部において互いに接着される。これにより、当該両パネル20、26の間が封止される。この両パネル20、26間には、He、Xe、Neから選ばれた元素の希ガス成分を含む放電ガスが所定の圧力(通常6.7×10〜1.0×10Pa程度)で封入されている。隣接する2つの隔壁30の間に対応する空間が、放電空間34となる。また、一対の表示電極22、23と1本のアドレス電極28が放電空間34を挟んで交叉する領域が、画像表示にかかるセルに対応する。
【0084】
なお一例として、x方向のセルピッチは約1080μm、y方向のセルピッチは約360μmに設定することができる。
このような構成を有するPDP10では、その駆動時にはまず前記パネル駆動回路によって、特定のアドレス電極28と、特定のX電極23にパルス電圧を印加し、アドレス放電を発生させる。そして当該アドレス放電後に、一対の表示電極22、23間に交互にパルス電圧を印加し、維持放電させることによって、放電空間34中に短波長の紫外線(波長約147nmを中心波長とする共鳴線)を発生させる。この紫外線照射により蛍光体層31〜33に含まれる蛍光体が可視光発光し、画像表示がなされる。
【0085】
ここにおいて本実施の形態4では、前記蛍光体層31〜33に含まれる蛍光体として、赤色蛍光体、緑色蛍光体には一般的な組成からなる蛍光体を利用しているが、青色蛍光体には以下の組成からなるアルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体を用いている。
【0086】
青色蛍光体;Ba1−XSrEuMgAl1017
(但し、蛍光体粒子全体で、0.15≦x≦0.25、0.05≦y≦0.15、0.05≦z≦0.15、x−y≦zであり、蛍光体粒子表面及び表面近傍でのEu濃度z'が、7z≦z'≦10zである)
このような組成からなるアルミン酸塩蛍光体は、実施の形態1〜3で説明したものと同様の蛍光体粒子を用いている。この蛍光体粒子を用いた蛍光体インクによって、次の方法例で蛍光体層が形成される。
【0087】
蛍光体インクは、例えば平均粒径2μmの青色蛍光体30wt%、エチルセルロース(分子量約20万)4.5wt%、溶剤(ブチルカルビトールアセテート)65.5wt%を混合して作製する。インクの粘度は、当該蛍光体インクを隔壁30に十分付着させるため、塗布時に2000〜6000cps程度の範囲となるように調整するのが望ましい。このように粘度を調整してなる蛍光体インクを、例えばメニスカス法で塗布し、これを乾燥・焼成(例えば500℃で10分)することにより、効率よく良好な蛍光体層31〜33を完成させることができる。
【0088】
なお、当然ながら蛍光体インクの成分はこれに限定されるものではない。また、塗布方法もメニスカス法以外の方法(例えばラインジェット法)を用いてもよい。
このような方法で本発明の蛍光体粒子を用いて製造されたPDP10では、優れた表示性能を発揮することができる。すなわち、従来に比べて発光強度維持率が高い実施の形態1〜3に記載のいずれかのEu付活蛍光体を青色蛍光体層に用いることで、長時間駆動を行っても従来に比べて良好な発色を得ることが可能である。これにより、当初の各色蛍光体による色バランスが駆動時間に伴って崩れてしまい、あたかも画面が焼き付いたように特定の色残像(青色配合を損なった画像)が表示されたままになる焼き付き現象の発生を抑制して、優れた表示性能を持つPDPが実現されることとなる。
【0089】
ここで図5は、従来例として、実施の形態2における還元雰囲気での焼成工程時間t=10の蛍光体を使用し(常温)、本発明として還元雰囲気での焼成工程時間t=0の蛍光体を使用した例の特性を示すグラフである。このとき、パネルは青色1色固定表示とした。発光強度維持率は任意単位で示している。
【0090】
当図5によれば、本発明のPDPは、従来のものより経時的な輝度劣化が抑制されており、波長変換効率の低下による焼き付きを防止できることが分かる。
また、別の実験により、本発明の色度の変化は従来と差がなく、良好であることが確認されている。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のEu付活蛍光体粒子は、プラズマディスプレイパネルなどのガス放電パネルにおける蛍光体層や、その他蛍光ランプの蛍光膜に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0092】
10 交流面放電型プラズマディスプレイパネル
20 フロントパネル
21 フロントパネルガラス
22、23 表示電極
24 誘電体層
26 バックパネル
28 アドレス電極
31、32、33 蛍光体層
38 放電空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ba1−XSrEuMgAl1017
で示されるEu付活アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体の製造方法であって、
原料混合粉、或いは大気焼成粉を、還元性雰囲気で焼成する第一ステップと、
前記第一ステップ後に、前記蛍光体の原料混合粉あるいは大気焼成粉を不活性雰囲気に置く第二ステップと
を含む、Eu付活アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体の製造方法。
但し、蛍光体粒子全体における組成を0.05≦x≦0.40、0≦y≦0.25、0.05≦z≦0.30、x−y≦zとし、
前記蛍光体粒子の表面及び表面近傍において、Eu濃度z'を、3z≦z'≦10zとする。
【請求項2】
前記還元性雰囲気は、窒素および水素の混合雰囲気であり、前記不活性雰囲気が窒素雰囲気である、請求項1に記載のEu付活蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−248525(P2010−248525A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138326(P2010−138326)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【分割の表示】特願2004−251015(P2004−251015)の分割
【原出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】