説明

蛍光体の製造方法、製造装置および電界放出型表示装置

【課題】発光輝度の高い硫化物蛍光体を短時間で効率よく製造する方法および装置を提供する。
【解決手段】第1の蛍光体の製造方法は、2価Eu付活硫化物蛍光体(例えば、SrGa:Eu)を製造するにあたり、蛍光体の母体および付活剤を構成する元素または該元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を、回転する加熱炉内で流動または転動させながら加熱して焼成する工程を備える。また第2の製造方法は、蛍光体原料を加熱炉内に収容し、直接硫化水素ガスを吹き付けながら加熱して焼成する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体の製造方法と製造装置、および電界放出型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチメディア時代の到来に伴って、デジタルネットワークのコア機器となるディスプレイ装置には、大画面化や高精細化、コンピュータ等の多様なソースへの対応性などが求められている。
【0003】
ディスプレイ装置の中で、電界放出型冷陰極素子などの電子放出素子を用いた電界放出型表示装置(フィールドエミッションディスプレイ;FED)は、様々な情報を緻密で高精細に表示することのできる大画面で薄型のデジタルデバイスとして、近年盛んに研究・開発が進められている。
【0004】
FEDは、基本的な表示原理が陰極線管(CRT)と同じであり、電子線により蛍光体を励起して発光させているが、電子線の加速電圧(励起電圧)がCRTに比べて低いうえに、電子線による単位時間当りの電流密度も低い。したがって、十分な輝度を得るためには、CRTに比べて非常に長い励起時間を必要としている。このことは、所定の輝度を得るための単位面積当たりの投入電荷量を多くしなければならないことを意味しており、蛍光体の寿命の悪化を助長している。
【0005】
そのため、従来からCRT用として使用されている硫化亜鉛を母体とする蛍光体を使用したのでは、十分な発光輝度や寿命が得られなかった。(例えば、特許文献1参照)
【0006】
また従来から、硫化亜鉛のような硫化物を母体とする蛍光体を製造するには、蛍光体母体と付活剤を構成する元素などを含む蛍光体原料を、石英またはアルミナなどのるつぼ内に充填し、所定の温度で加熱して焼成する方法が採られているが、このような焼成方法では、蛍光体原料への均一な熱伝導を得ることが難しいため、長時間の加熱・焼成を必要としていた。
【0007】
さらに、硫化物蛍光体を製造するには、蛍光体原料として硫化物を使用することが望ましいが、原料が高価であるため、適切な反応助剤などを添加することで、硫化水素雰囲気で酸化物などを使用して焼成することも行われている。しかし、化学的に安定な酸化物などの原料を高温の硫化水素雰囲気にさらしても完全に硫化することが難しいため、焼成に要する時間が長くなってしまうという問題があった。そのため、硫化水素ガスを使用して硫化物蛍光体を合成する場合には、管状の焼成炉を使用することが行われていた。
【0008】
しかしながら、この方法は量産性に乏しく、大量の蛍光体を一度に製造することができないという欠点があった。これに対して、量産性に優れた焼成炉として、硫化水素ガスの導入機構を備えた箱型の加熱・焼成炉がある。そして、この焼成炉内での加熱・焼成と、炉からの焼成物の排出を連続的に行うように構成されていた。しかしこの装置では、焼成炉内に導入された硫化水素ガスが高温で分解しやすいため、蛍光体原料との反応効率が低いという問題があった。
【特許文献1】特開2002−226847公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記した問題を解決するためになされたもので、発光輝度の高い硫化物蛍光体を短時間で効率よく製造する方法および装置を提供することを目的としている。また、そのような発光輝度の高い硫化物蛍光体を用いることによって、高輝度で色再現性などの表示特性に優れた電界放出型表示装置(FED)を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の発明である蛍光体の製造方法は、2価のユーロピウムで付活された硫化物蛍光体を製造するにあたり、前記蛍光体の母体および付活剤を構成する元素または該元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を、回転する加熱炉内で流動または転動させながら加熱して焼成する工程を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の発明である蛍光体の製造方法は、2価のユーロピウムで付活された硫化物蛍光体を製造するにあたり、前記蛍光体の母体および付活剤を構成する元素または該元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を加熱炉内に収容し、直接硫化水素ガスを吹き付けながら加熱して焼成する工程を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の発明である蛍光体の製造装置は、2価のユーロピウムで付活された硫化物蛍光体を製造する装置であり、加熱機構を備えた加熱炉と、前記蛍光体の母体および付活剤を構成する元素または該元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を収容し、前記加熱炉内に配置される耐熱性の焼成容器と、前記加熱炉内に硫化水素ガスを導入する機構を備え、前記硫化水素ガス導入機構が、前記焼成容器内に収容された前記蛍光体原料の近傍にガス噴出口を有する硫化水素ガス送入管を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の第4の発明の電界放出型表示装置は、青色発光蛍光体層と緑色発光蛍光体層と赤色発光蛍光体層をそれぞれ含む蛍光体層と、前記蛍光体層に加速電圧が5〜15kVの電子線を照射して発光させる電子源と、前記電子源と前記蛍光体層を真空封止する外囲器とを具備する電界放出型表示装置であり、前記蛍光体層が、前記した第1の発明の製造方法あるいは第2の発明の製造方法により製造された蛍光体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明の製造方法によれば、蛍光体原料が、加熱炉内で炉自体の軸の回りの回転運動により流動または転動されながら加熱され、周囲全体から均等に熱を受けるので、蛍光体粒子を構成する原子の組成比が粒子表面から内部まで均一であり、かつ粒子径の小さい蛍光体を得ることができる。また、加熱の際の熱効率が非常に良好であるので、短時間で所望の単一組成を有する硫化物蛍光体を得ることができる。
【0015】
また、第2の発明の製造方法によれば、加熱炉内に収容された蛍光体原料に直接硫化水素ガスを吹き付けながら加熱・焼成しており、硫化水素ガスが蛍光体原料の近傍で分解するように構成されているので、硫化水素ガスの反応の効率が従来に比べて格段に向上するうえに、蛍光体原料の各部に均等に反応が生じる。したがって、短時間で所望の均一な組成の硫化物蛍光体を得ることができる。
【0016】
さらに、第3の発明の製造装置によれば、前記した第2の発明の製造方法を効率的に実施することができ、均一な組成の硫化物蛍光体を短時間で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
本発明の第1の実施形態は、2価のユーロピウム(Eu)を付活剤とする硫化物蛍光体を製造する方法であり、蛍光体の母体および付活剤を構成する元素またはその元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を、加熱し焼成する工程を備えている。
【0019】
焼成工程では、蛍光体原料を、軸の回りに回転する管状の加熱炉に連続的に通し、加熱炉内で所定の焼成温度まで加熱し、かつ加熱炉の回転に応じて転動させながら炉内を移動させる。こうして、蛍光体原料を必要かつ十分な時間だけ加熱して焼成する。その後、焼成物を加熱炉から連続的に排出し、排出された焼成物を冷却する。
【0020】
このような実施形態において、管状の加熱炉の内部および加熱炉から排出された焼成物の冷却部は、無酸素状態であり、かつ硫化水素雰囲気に保持されていることが望ましい。また、加熱炉の回転速度は0.5〜50回転/分、より好ましくは0.5〜20回転/分とする。回転速度が50回転/分を超える場合は、焼成時間を制御することが困難であり好ましくない。
【0021】
また、加熱炉を水平方向に対して傾斜して配置するとともに、加熱炉内で蛍光体原料を上方から下方へ連続的に移動させ、移動過程で必要かつ十分な時間だけ加熱されるように構成することができる。加熱炉の水平に対する傾斜角度は、1〜20°の範囲で調整することができる。傾斜角度を炉の長さや回転速度などに合わせて調整することで、蛍光体原料を焼成に十分な時間だけ炉内に滞留させることができる。
【0022】
第1の実施形態に使用する焼成装置の一例を図1に示す。
【0023】
図において、符号1は、石英またはアルミナ等から成る円形管状の耐熱性容器を示す。この耐熱性容器1は、水平に対して傾斜して配置されており、かつモータ等の回転機構2により、中心軸の回りに回転するように構成されている。
【0024】
耐熱性容器1の水平に対する傾斜角は、蛍光体原料が焼成に十分な時間だけ後述する加熱部に滞留することができるように、加熱部の長さや回転速度などに合せて調整可能に構成されている。
【0025】
この耐熱性容器1の上端から大部分の外周には、モリブデンシリサイドのような発熱体3が設けられ、加熱部4が形成されている。そして、発熱体3が周設されていない耐熱性容器1の上部および下部は、焼成物などの冷却部5a,5bとなっている。冷却は、主に水冷により行われている。
【0026】
耐熱性容器1の上端部には、加熱・焼成すべき蛍光体原料を連続的に送り込む送入機構(フィーダ)6が設けられており、冷却部5bを構成する耐熱性容器1の下端部には、焼成物を連続的に受け取る焼成物捕集器7が設けられている。
【0027】
また、このような焼成装置には硫化水素ガスの導入機構が付設されている。そして、硫化水素ガスがガス導入口8から送り込まれ、耐熱容器1内部を焼成物とともに上方から下方へと流動し、焼成物捕集器7に取り付けられたガス導出口9から排出されるように構成されている。このとき焼成物は、冷却部5bで完全に冷却されるようになっている。
【0028】
第1の実施形態で製造されるEu付活硫化物蛍光体は、例えば、SrGa:Eu、CaS:Eu、MgS:Eu、あるいは(Mg,Ca)S:Euなどである。特に、2価のEuで付活されたストロンチウムチオガレート蛍光体を製造することができる。
【0029】
2価のEuで付活されたストロンチウムチオガレート蛍光体は、化学式:SrGa:Euで実質的に表され、加速電圧が5〜15kVより好ましくは7〜13kVのパルス状電子線により励起されて高輝度の緑色発光を生じる。
【0030】
第1の実施形態において、以下に示すようにしてEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体を製造することができる。
【0031】
すなわち、蛍光体の母体と付活剤を構成する元素またはその元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を、所望の組成(SrGa:Eu)となるように秤量し、これらを乾式で混合する。具体的には、硫化ストロンチウムとオキシ水酸化ガリウムを所定量混合し、付活剤(を含む化合物)を適量添加することで蛍光体の原料とする。硫化ストロンチウムの代わりに、硫酸ストロンチウムなどの酸性ストロンチウム原料を使用してもよい。付活剤を含む化合物としては、硫化ユーロピウムやシュウ酸ユーロピウムを使用することができる。
【0032】
次いで、この蛍光体原料を、水平方向に対して傾斜して配置された管状で中心軸の回りに回転する加熱炉に投入し、連続的に通過させる。そして、加熱炉内で蛍光体原料を所定の焼成温度まで加熱し、かつ加熱炉の回転に応じて転動させながら炉内を上方から下方へ移動させる。こうして、蛍光体原料を必要かつ十分な時間だけ加熱して焼成する。その後、焼成物を加熱炉から連続的に排出し、排出された焼成物を冷却する。
【0033】
本発明の第1の実施形態によれば、蛍光体原料が、水平に対して傾斜して配置され軸の回りに回転する管状の加熱炉に連続的に通され、この加熱炉内を移動する過程で転動しながら急激に加熱されるので、無酸素状態でかつ硫化水素雰囲気で蛍光体原料に均一な熱エネルギーが加えられる。その結果、従来のるつぼを用いた焼成方法に比べて短時間で焼成を完了することができ、粒径の小さい蛍光体粒子を得ることができる。
【0034】
また、蛍光体粒子の凝集を抑制することができるので、焼成後さらに粉砕を行う必要がない。したがって、粉砕工程を重ねることによる蛍光体劣化を抑制することができ、その結果、再アニールなどの工程を追加する必要がなく、工程の削減が可能となる。さらに、蛍光体原料は、加熱炉内を転動しながら加熱・焼成されるので、球形に近い形状で均一な粒径を有する蛍光体粒子を得ることができる。
【0035】
本発明の第2の実施形態は、前記第1の実施形態と同様な2価のEu付活硫化物蛍光体(例えば、Eu付活ストロンチウムチオガレート(SrGa:Eu)蛍光体)を製造する方法であり、蛍光体の母体および付活剤を構成する元素または該元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を加熱炉内に収容し、この蛍光体原料に直接硫化水素ガスを吹き付けながら加熱して焼成する工程を備えている。
【0036】
第2の実施形態に使用する焼成装置の一例を図2に示す。
【0037】
図2において、符号11は、ヒータなどの加熱手段(図示を省略。)を備えた焼成炉を示す。この焼成炉11の内部には、蛍光体原料12を収容した耐熱性の焼成容器13が配置されている。また、焼成炉11には、蛍光体原料12を収容した焼成容器13を炉内に送り込む機構と、焼成物を焼成容器13ごと炉外に排出し後段の冷却室などに送り込む機構(いずれも図示を省略。)がそれぞれ設けられており、焼成炉11への送入と焼成炉11内での加熱・焼成、および焼成炉11から冷却部への焼成物の排出が連続的に行われるように構成されている。
【0038】
さらに、焼成炉11には、硫化水素ガスの送入管14および排出管15がそれぞれ取付けられている。硫化水素ガス送入管14の一方の端部は硫化水素ガスボンベ(図示を省略。)に接続され、他端部は焼成炉11の内部に引き込まれている。硫化水素ガス送入管14の少なくとも焼成炉11内に引き込まれた部分(14a)は、石英管で構成されている。そして、このような硫化水素ガス送入管14の先端部のガス噴出口16が、焼成容器13に収容された蛍光体原料12の近傍に位置するように配置され、送入管14により送り込まれた硫化水素ガスが蛍光体原料12に直接吹き付けられるように構成されている。
【0039】
このように構成される焼成装置を使用し、Eu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体の製造を以下に示すようにして行うことができる。
【0040】
すなわち、蛍光体原料12を所望の組成(SrGa:Eu)となるように秤量し、これらを乾式で混合した後、適当量の硫黄とともに耐熱性の焼成容器13に収容し、これを焼成炉11内に配置する。そして、硫化水素ガスボンベからガス送入管14により送り込まれた硫化水素ガスを、蛍光体原料12に直接吹き付けながら所定の温度に加熱して焼成する
【0041】
焼成条件は、蛍光体母体(SrGa)の結晶構造を制御するうえで重要であり、焼成温度は700〜900℃とすることが好ましい。焼成時間は60〜180分とし、焼成後は焼成炉11から排出して冷却する。その後、得られた焼成物をイオン交換水などで水洗し乾燥した後、必要に応じて粗大粒子を除去するための篩別などを行うことによって、Eu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体(SrGa:Eu)を得ることができる。
【0042】
このように構成される第2の実施形態によれば、焼成炉11内に収容された蛍光体原料12に直接硫化水素ガスを吹き付けながら加熱・焼成しているので、硫化水素ガスの反応効率が従来に比べて格段に向上するうえに、蛍光体原料12の各部で均一な反応が生じる。したがって、短時間で所望の均一な組成の硫化物蛍光体を得ることができる。
【0043】
第2の実施形態に使用する焼成装置の第2および第3の例を、図3および図4にそれぞれ示す。図3および図4において、図2と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0044】
図3に示す焼成装置では、焼成容器13が、複数の皿型容器13a,13b、………が互いに狭い間隔をおいて垂直方向に積み上げられた多段構造を有しており、各段の皿型容器13a,13b、………内には、それぞれ蛍光体原料12a,12b、………が収容されている。各段の皿型容器13a,13b、………内に収容された蛍光体原料12a,12b、………の厚さは、薄くすることが好ましく、特に20mm以下とすることが好ましい。そして、硫化水素ガス送入管14の先端部のガス噴出口16が、多段に積み上げられた皿型容器13a,13b、………の中ほどの高さに配置され、各段の蛍光体原料12a,12b、………に均等に硫化水素ガスが吹き付けられるように構成されている。
【0045】
このように構成される焼成装置によれば、加熱・焼成の際に、各段の皿型容器13a,13b、………内に薄い層状に収容された蛍光体原料12a,12b、………にそれぞれ硫化水素ガスが直接吹き付けられるので、硫化水素ガスの反応効率が極めて高く、かつ各段の蛍光体原料12a,12b、………において、表面から内部まで均等に反応が生じる。したがって、短時間で均一な組成の硫化物蛍光体を得ることができる。
【0046】
また、図4に示す焼成装置では、硫化水素ガス送入管14の先端部が、焼成炉11内の底部近くまで延出して配設されており、各段の皿型容器13a,13b、………に対応する高さの位置に、複数のガス噴出口16a,16b、………がそれぞれ形成されている。
【0047】
このような構造の焼成装置によれば、各段の皿型容器13a,13b、………内に収容された蛍光体原料12a,12b、………に、図3に示す焼成装置に比べてより均等に硫化水素ガスを吹き付けることができ、蛍光体原料12a,12b、………各部の反応もより均等に行わせることができる。
【0048】
第1の実施形態および第2の実施形態で得られたEu付活硫化物(例えば、ストロンチウムチオガレート)蛍光体を使用し、公知の印刷法あるいはスラリー法を用いて蛍光体層を形成することができる。印刷法により蛍光体層を形成するには、Eu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体を、例えばポリビニルアルコール、n−ブチルアルコール、エチレングリコール、水などからなるバインダ溶液と混合して蛍光体ペーストを調製し、この蛍光体ペーストをスクリーン印刷などの方法で基板上に塗布する。次いで、例えば500℃の温度で1時間加熱してバインダ成分を分解・除去するベーキング処理を行う。
【0049】
また、スラリー法で蛍光体層を形成するには、Eu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体を、純水、ポリビニルアルコール、重クロム酸アンモニウムなどの感光性材料、界面活性剤などとともに混合して蛍光体スラリーを調製し、この蛍光体スラリーをスピンコータなどを用いて基板上に塗布・乾燥した後、紫外線などを照射して露光・現像し、乾燥する。こうして、所定のパターンを有する蛍光体層を形成することができる。
【0050】
次に、こうしてEu付活硫化物(例えば、ストロンチウムチオガレート)蛍光体により形成された蛍光体層を有する電界放出型表示装置(FED)について説明する。
【0051】
図5は、本発明の第3の実施形態であるFEDの要部構成を示す断面図である。図5において、符号21はフェイスプレートであり、ガラス基板22などの透明基板上に形成された蛍光体層23を有している。この蛍光体層23は、画素に対応させて形成した青色発光蛍光体層、緑色発光蛍光体層および赤色発光蛍光体層を有し、これらの間を黒色導電材から成る光吸収層24により分離した構造となっている。緑色発光蛍光体層が、前記したEu付活硫化物(例えば、ストロンチウムチオガレート)蛍光体により形成された蛍光体層となっている。青色発光蛍光体層および赤色発光蛍光体層は、公知の青色発光硫化亜鉛蛍光体および赤色発光酸硫化物蛍光体を用いてそれぞれ形成されている。
【0052】
Eu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体により形成された緑色発光蛍光体層の厚さは1〜10μmとすることが望ましく、より好ましくは6〜10μmとする。緑色発光蛍光体層の厚さを1μm以上に限定したのは、厚さが1μm未満で蛍光体粒子が均一に並んだ蛍光体層を形成することが難しいためである。また、緑色発光蛍光体層の厚さが10μmを超えると、発光輝度が低下し実用に供し得ない。各色の蛍光体層23の間に段差が生じないように、青色発光蛍光体層および赤色発光蛍光体層の厚さは、緑色発光蛍光体層と同じにすることが望ましい。
【0053】
上述した緑色発光蛍光体層、青色発光蛍光体層、赤色発光蛍光体層、およびそれらの間を分離する光吸収層24は、それぞれ水平方向に順次繰り返し形成されており、これらの蛍光体層23および光吸収層24が存在する部分が画像表示領域となる。この蛍光体層23と光吸収層24との配置パターンには、ドット状またはストライプ状など、種々のパターンが適用可能である。
【0054】
蛍光体層23上にはメタルバック層25が形成されている。メタルバック層25は、Al膜などの金属膜からなり、蛍光体層23で発生した光のうち、後述するリアプレート方向に進む光を反射して輝度を向上させるものである。また、メタルバック層25は、フェイスプレート1の画像表示領域に導電性を与えて電荷が蓄積されるのを防ぐ機能を有し、リアプレートの電子源に対してアノード電極の役割を果たす。また、メタルバック層25は、フェイスプレート1や真空容器(外囲器)内に残留するガスが電子線で電離して生成するイオンにより、蛍光体層23が損傷することを防ぐ機能を有する。さらに、使用時に蛍光体層23から発生したガスが真空容器(外囲器)内に放出されることを防ぎ、真空度の低下を防止するなどの効果も有している。
【0055】
メタルバック層25上には、Baなどからなる蒸発型ゲッタ材により形成されたゲッタ膜26が形成されている。このゲッタ膜26によって、使用時に発生したガスが効率的に吸着される。そして、このようなフェイスプレート21とリアプレート27とが対向配置され、これらの間の空間が支持枠28を介して気密に封止されている。支持枠28は、フェイスプレート21およびリアプレート27に対して、フリットガラス、あるいはInやその合金などからなる接合材29により接合され、これらフェイスプレート21、リアプレート27および支持枠28によって、外囲器としての真空容器が構成されている。
【0056】
リアプレート27は、ガラス基板やセラミックス基板などの絶縁性基板、あるいはSi基板などからなる基板30と、この基板30上に形成された多数の電子放出素子31とを有している。電子放出素子31は、例えば電界放出型冷陰極や表面伝導型電子放出素子などを備え、リアプレート27の電子放出素子31の形成面には、図示を省略した配線が施されている。すなわち、多数の電子放出素子31は、各画素の蛍光体に応じてマトリックス状に形成されており、このマトリックス状の電子放出素子31を一行ずつ駆動する、互いに交差する配線(X−Y配線)を有している。なお、支持枠28には、図示を省略した信号入力端子および行選択用端子が設けられている。これらの端子は、前記したリアプレート27の交差配線(X−Y配線)に対応する。また、平板型のFEDを大型化させる場合、薄い平板状であるためにたわみなどが生じるおそれがある。このようなたわみを防止し、また大気圧に対して強度を付与するために、フェイスプレート21とリアプレート27との間に、大気圧支持部材(スペーサ)32を適宜配置してもよい。
【0057】
このようなFEDにおいては、緑色発光蛍光体層がEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体により構成されているので、加速電圧が5〜15kVのパルス状電子線の照射による発光の輝度や色純度が高く、良好な表示特性が得られる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0059】
実施例1
以下に示すようにして、Eu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体(SrGa:Eu)を製造した。すなわち、蛍光体の母体(SrGa)および付活剤を構成する元素またはその元素を含有する化合物を含む原料を、所定の組成(SrGa:Eu含有割合2モル%)になるように秤量し、十分に混合した後、得られた蛍光体原料を、適当量の硫黄とともに、図1に示す焼成装置の耐熱性容器1内に投入した。なお、耐熱性容器1は石英製で、内径は60mm、長さは1800mmであった。また、回転速度は5回転/分、傾斜角は5°とした。
【0060】
そして、投入された蛍光体原料を、無酸素状態でかつ硫化水素ガス雰囲気(硫化水素ガス流量2L/min.)に保持された加熱部内を連続的に通過させ、700〜900℃に加熱して焼成した後、焼成物を冷却部で急速に冷却した。焼成に要した時間は1時間であった。
【0061】
次いで、得られた焼成物を水洗および乾燥しさらに篩別することによって、平均粒子径が3μmのEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体(SrGa:Eu)を得た。なお、平均粒子径の測定は透過法により行った。
【0062】
こうして得られた蛍光体のXRD(X線回折)パターンを測定することにより、この蛍光体が化学式:SrGa:Euで表されるEu付活ストロンチウムチオガレートのみから成り、その他の硫化物や酸硫化物(SrSO、Ga、EuGaなど)を含有しないことが確かめられた。
【0063】
次いで、得られた蛍光体を用いてペーストを調製し、スクリーン印刷により塗布層を形成した後、ベーキングによりペースト中の樹脂を分解させ、所定の厚さの蛍光体層を形成した。なお、蛍光体層の厚さ(ベーキング前の塗布層の厚さ)は、蛍光体の平均粒子径の2倍程度で6μmとした。その後、蛍光体層の上にラッカー法によりアルミニウムのメタルバック層を形成し、発光素子とした。
【0064】
比較例1,2
実施例1と同じ蛍光体原料を使用し、図6に示す従来からの箱型焼成炉を用いてEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体を製造した。図6に示す箱型焼成炉においては、硫化水素ガス送入管14の先端部が内部に引き込まれておらず、焼成炉11の上面に開口部(ガス噴出口16)が形成されている。そして、このガス噴出口16から焼成炉11内全体に均等に硫化水素ガスが吹き込まれるように構成されている。なお、図6において、図2〜図4と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0065】
800℃の温度で1時間(比較例1)および6時間(比較例2)加熱・焼成した後、得られた焼成物を水洗および乾燥し、さらに篩別することによって、平均粒子径が4μmおよび9μmのEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体を得た。
【0066】
比較例1で得られた蛍光体のXRD(X線回折)パターンを測定したところ、この蛍光体には、SrGa:Euの他に、SrSO、Ga、EuGaなどの硫化物や酸硫化物が存在することがわかった。
【0067】
次いで、得られた蛍光体を用い実施例1と同様にして蛍光体層を形成し、さらにその上にラッカー法によりアルミニウムのメタルバック層を形成した。
【0068】
実施例2
実施例1と同じ蛍光体原料を使用し、図1に示す焼成装置を用いて実施例1と同様にしてEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体を製造した。なお、焼成時間は2時間とした。得られた蛍光体の平均粒子径は5μmであった。
【0069】
次いで、得られた蛍光体を用い実施例1と同様にして蛍光体層を形成し、さらにその上にラッカー法によりアルミニウムのメタルバック層を形成した。
【0070】
実施例3
実施例1と同じ蛍光体原料を使用し、図2に示す焼成装置を用いてEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体を製造した。なお、硫化水素ガス流量は10L/min.とし、加熱温度は700〜800℃、焼成時間は2時間とした。得られた蛍光体の平均粒子径は7μmであった。
【0071】
次いで、得られた蛍光体を用い実施例1と同様にして蛍光体層を形成し、さらにその上にラッカー法によりアルミニウムのメタルバック層を形成した。
【0072】
実施例4
実施例1と同じ蛍光体原料を使用し、図3に示す焼成装置を用いてEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体を製造した。なお、硫化水素ガス流量は10L/min.とし、加熱温度は700〜800℃、焼成時間は1時間とした。得られた蛍光体の平均粒子径は7μmであった。
【0073】
次いで、得られた蛍光体を用い実施例1と同様にして蛍光体層を形成し、さらにその上にラッカー法によりアルミニウムのメタルバック層を形成した。
【0074】
実施例5
実施例1と同じ蛍光体原料を使用し、図4に示す焼成装置を用いてEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体を製造した。なお、硫化水素ガス流量は5L/min.とし、加熱温度は700〜800℃とした。焼成時間は1時間であった。得られた蛍光体の平均粒子径は8μmであった。
【0075】
次いで、得られた蛍光体を用い実施例1と同様にして蛍光体層を形成し、さらにその上にラッカー法によりアルミニウムのメタルバック層を形成した。
【0076】
次に、実施例1〜5および比較例1,2で得られた蛍光体層の発光輝度を測定した。発光輝度の測定は、蛍光体層に加速電圧10kV、1パルス当たりのエネルギー密度3mJ/cmのパルス状電子線を照射して行い、発光輝度を比較例2の発光輝度を100%としたときの相対値として求めた。なお、1パルス当たりのエネルギー密度は、パルス状電子線の加速電圧と電流密度とパルス幅の積で表されるものであり、電流値はオシロスコープを用いて測定した。測定結果を焼成条件(焼成時間、硫化水素ガス流量)、蛍光体の平均粒子径とともに表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1から明らかなように、実施例1および実施例2の回転式の焼成装置により得られたEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体、および実施例3〜5の改良された箱型焼成炉を使用する方法で得られたEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体は、いずれも、従来からの箱型焼成炉を使用する方法で同程度の焼成時間をかけて製造された比較例1の蛍光体に比べて、発光輝度が高いものであった。そして、これらの実施例で得られたEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体は、比較例2の蛍光体と同程度の良好な発光輝度を有し、かつ比較例2に比べて焼成に要する時間を大幅に短縮することができた。
【0079】
実施例6
実施例1で得られたEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体(SrGa:Eu)と、公知の青色発光蛍光体(ZnS:Ag,Al)および赤色発光蛍光体(Y22S:Eu)をそれぞれ用い、ガラス基板上に蛍光体層を形成してフェイスプレートとした。このフェイスプレートと多数の電子放出素子を有するリアプレートとを支持枠を介して組立てるとともに、これらの間隙を真空排気しつつ気密封止した。このようにして作製されたFEDは、発光輝度をはじめとする色再現性に優れ、さらに常温、定格動作で1000時間駆動させた後においても良好な輝度特性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、所望の均一な組成を有する2価のEuで付活された硫化物蛍光体を、短時間で効率的に得ることができる。そして、得られたEu付活硫化物蛍光体は、加速電圧が5〜15kVのパルス状電子線を照射した場合に、高輝度で色純度が良好な発光を生じるので、このような蛍光体を使用することにより、高輝度で色再現性などの表示特性に優れた電界放出型表示装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1の実施形態に使用する焼成装置の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に使用する焼成装置の第1の例を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に使用する焼成装置の第2の例を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に使用する焼成装置の第3の例を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施形態であるFEDを概略的に示す断面図である。
【図6】比較例1,2で使用する従来からの箱型焼成炉を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1…耐熱性容器、3…発熱体、4…加熱部、5a,5b…冷却部、6…送入機構、7……焼成物捕集器、8…ガス導入口、9…ガス導出口、11…焼成炉、12…蛍光体原料、13…焼成容器、13a、13b…皿型容器、14…硫化水素ガス送入管、16…ガス噴出口、21…フェイスプレート、22…ガラス基板、23…蛍光体層、24…光吸収層、25…メタルバック層、26…ゲッタ膜、27…リアプレート、28…支持枠、31…電子放出素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価のユーロピウムで付活された硫化物蛍光体を製造するにあたり、
前記蛍光体の母体および付活剤を構成する元素または該元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を、回転する加熱炉内で流動または転動させながら加熱して焼成する工程を備えることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記加熱炉内が硫化水素雰囲気に保持されていることを特徴とする請求項1記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記蛍光体原料を、水平に対して傾斜して配置された中心軸の回りに回転する石英製の加熱管内で、一方の端部からもう一方の端部へ向かって流動または転動させながら加熱し焼成することを特徴とする請求項1または2記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記蛍光体原料が移動する方向と同一方向に硫化水素ガスを流しながら加熱・焼成することを特徴とする請求項3記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
2価のユーロピウムで付活された硫化物蛍光体を製造するにあたり、
前記蛍光体の母体および付活剤を構成する元素または該元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を加熱炉内に収容し、直接硫化水素ガスを吹き付けながら加熱して焼成する工程を備えることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記硫化物蛍光体の母体が、アルカリ土類元素の硫化物であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記硫化物蛍光体の母体が、化学式:SrGaで実質的に表されるストロンチウムチオガレートであることを特徴とする請求項6記載の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
2価のユーロピウムで付活された硫化物蛍光体を製造する装置であり、
加熱機構を備えた加熱炉と、
前記蛍光体の母体および付活剤を構成する元素または該元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を収容し、前記加熱炉内に配置される耐熱性の焼成容器と、
前記加熱炉内に硫化水素ガスを導入する機構を備え、
前記硫化水素ガス導入機構が、前記焼成容器内に収容された前記蛍光体原料の近傍にガス噴出口を有する硫化水素ガス送入管を有することを特徴とする蛍光体の製造装置。
【請求項9】
前記硫化水素ガス送入管の少なくとも前記加熱炉内に配設された部分が、石英製であることを特徴とする請求項8記載の蛍光体の製造装置。
【請求項10】
前記焼成容器が、複数の皿型容器が互いに間隔をおいて垂直方向に積み上げられた多段構造を有し、各段の皿型容器内に収容された前記蛍光体原料の厚さが20mm以下であることを特徴とする請求項8または9記載の蛍光体の製造装置。
【請求項11】
前記硫化水素ガス送入管が複数のガス噴出口を有し、これらのガス噴出口が、前記各段の皿型容器内に収容された前記蛍光体原料の近傍にそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項10記載の蛍光体の製造装置。
【請求項12】
青色発光蛍光体層と緑色発光蛍光体層と赤色発光蛍光体層をそれぞれ含む蛍光体層と、前記蛍光体層に加速電圧が5〜15kVの電子線を照射して発光させる電子源と、前記電子源と前記蛍光体層を真空封止する外囲器とを具備する電界放出型表示装置であり、
前記蛍光体層が、請求項1乃至7のいずれか1項記載の製造方法により製造された蛍光体を含むことを特徴とする電界放出型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−127465(P2008−127465A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314043(P2006−314043)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】