説明

蛍光体シートの製造方法

【課題】高価な蛍光体を無駄にすることなく、所定形状の多数の蛍光体シートを製造することができる蛍光体シートの製造方法の実現。
【解決手段】所定形状の不織布シート22を多数形成し、次に、上記多数の不織布シート22を集めた状態で、蛍光体16が分散された粘性を有する液状結合剤24中に不織布シート22を浸漬して撹拌することにより、各不織布シート22に蛍光体16が分散された液状結合剤24を含浸させ、次に、不織布シート22を液状結合剤24から取り出した後、上記液状結合剤24と相溶しない高浸透性の溶剤26中に浸漬して撹拌することにより、上記液状結合剤24の含浸過程で相互に固着した不織布シート22同士を剥離して個々の不織布シート22に分離させ、次に、不織布シート22を上記溶剤26から取り出した後、不織布シート22に含浸された液状結合剤24を硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、不織布に蛍光体を担持させて成る蛍光体シートの製造方法に係り、特に、高価な蛍光体を無駄にすることなく、所定形状の多数の蛍光体シートを製造することができる蛍光体シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布に蛍光体を担持させて成る蛍光体シートとして、本出願人は先に、特開2005−105423号(特許文献1)を提案した。
また、本出願人は、特開2006−286999号(特許文献2)において、特許文献1の蛍光体シートを発光ダイオードに応用した提案も行った。
【0003】
図10は、特許文献2に開示された蛍光体シート70を示すものであり、該蛍光体シート70は、多数の繊維が絡み合って形成された不織布72に蛍光体74を担持させて成るものである。
上記蛍光体シート70は、多数の繊維が立体的に絡み合って形成され、単位体積当たりの繊維の表面積が極めて大きい不織布72に蛍光体74を担持せしめたことから、担持する蛍光体74の量を飛躍的に増大させることができるのである。
【0004】
上記蛍光体シート70を多数製造する場合には、大判な不織布72を準備し、該不織布72を、蛍光体74が分散された樹脂液やガラス質液等より成る液状結合剤中に浸漬した後、乾燥・硬化させる(図11参照)。この結果、不織布72に蛍光体74が担持される。
次に、図12に示すように、上記不織布72を多数の円形に型抜きすることにより、図10の蛍光体シート70を多数製造することができる。
【特許文献1】特開2005−105423
【特許文献2】特開2006−286999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の上記製造方法にあっては、大判な不織布72に蛍光体74を担持させた後に、型抜きを行って円形等の所定形状の蛍光体シート70を製造していたことから、型抜き後に残った不用な不織布72部分にも高価な蛍光体74が担持されたままとなっており、相当量の蛍光体74が無駄になっていた。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高価な蛍光体を無駄にすることなく、所定形状の多数の蛍光体シートを製造することができる蛍光体シートの製造方法の実現にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明に係る蛍光体シートの製造方法は、
所定形状の不織布シートを多数形成し、次に、
上記多数の不織布シートを集めた状態で、各不織布シートに蛍光体が分散された液状結合剤を含浸させ、次に、
上記液状結合剤と相溶しない高浸透性の溶剤中に浸漬して撹拌することにより、上記液状結合剤の含浸過程で相互に固着した不織布シート同士を剥離して個々の不織布シートに分離させ、次に、
不織布シートを上記溶剤から取り出した後、不織布シートに含浸された液状結合剤を硬化させることを特徴とする。
【0008】
上記液状結合剤の一例としてシリコーン樹脂があり、この場合、シリコーン樹脂より成る液状結合剤と相溶しない高浸透性の上記溶剤として、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール、アセトンが該当する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蛍光体シートの製造方法にあっては、先ず、所定形状の不織布シートを多数形成し、その後、各不織布シートに、蛍光体が分散された液状結合剤を含浸させた後、液状結合剤を硬化させることにより、不織布に蛍光体が担持された蛍光体シートを製造するようにしたので、高価な蛍光体を無駄にすることなく、所定形状の多数の蛍光体シートを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づき、本発明に係る蛍光体シートの製造方法の実施形態を説明する。
図1及び図2は、本発明に係る方法で製造される蛍光体シート10を示すものであり、該蛍光体シート10は、多数の繊維12が絡み合って円形シート状に形成された不織布14に蛍光体16を担持させて成る。
上記不織布14は、繊維12間に多数の空隙18(図3参照)が形成されており、また、多数の繊維12が立体的に絡み合っているため、単位体積当たりの繊維12の表面積が極めて大きいものである。
尚、上記繊維12の繊維密度や、不織布14の厚さ、目付等を適宜調整することにより、不織布14を構成する繊維12の総表面積を数倍〜数百倍にも増減可能である。
【0011】
上記不織布14には、蛍光体16を分散・添加した後述する透光性の液状結合剤24を含浸・硬化することにより、不織布14を構成する繊維12の表面に、結合剤20を介して蛍光体16を被着・担持させると共に、繊維12間の空隙18に、蛍光体16が添加された結合剤20を充填させて成る。
図3及び図4に示すように、繊維12の表面に被着される蛍光体16の量は、空隙18に充填された結合剤20中の蛍光体16の量よりも多くなっており、さらに、空隙18に充填された結合剤20中の蛍光体16の分布状態は、繊維12に近づくに従って蛍光体16の量が多くなっている。
【0012】
上記透光性の結合剤20は、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の各種有機材料、ゾルゲルガラス、水ガラス等の各種無機材料を使用することができる。
上記繊維12は、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン等の樹脂繊維、レーヨン等のセルロース系の化学繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、金属繊維等の短繊維から成り、その直径は1〜20μm、長さは0.5〜20mm程度であるが、長さが50〜100mm程度の長繊維から成る繊維12を用いることも勿論可能である。
尚、光の透過性の観点から、透光性材料で繊維12を構成するのが好ましい。
【0013】
上記蛍光体16は、紫外線や青色可視光等の光の照射を受けると、この光を所定波長の可視光等の光に波長変換するものであり、例えば以下の組成のものを用いることができる。
紫外線を赤色可視光に変換する赤色発光用の蛍光体16として、MS:Eu(Mは、La、Gd、Yの何れか1種)、0.5MgF・3.5MgO・GeO:Mn、2MgO・2LiO・Sb:Mn、Y(P,V)O4:Eu、YVO4:Eu、(Sr,Mg)3(PO4):Sn、Y:Eu、CaSiO:Pb,Mn等がある。
また、紫外線を緑色可視光に変換する緑色発光用の蛍光体16として、BaMgAl1627:Eu,Mn、ZnSiO4:Mn、(Ce,Tb,Mn)MgAl1119、LaPO4:Ce,Tb、(Ce,Tb)MgAl1119、YSiO:Ce,Tb、ZnS:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al、(Zn,Cd)S:Cu,Al、SrAl:Eu、SrAl:Eu,Dy、SrAl1425:Eu,Dy、YAl12:Tb、Y(Al,Ga)12:Tb、YAl12:Ce、Y(Al,Ga)12:Ce等がある。
更に、紫外線を青色可視光に変換する青色発光用の蛍光体16として、(SrCaBa)(PO)Cl:Eu、BaMgAl1627:Eu、(Sr,Mg)7:Eu、Sr7:Eu、Sr:Sn、Sr(PO4Cl:Eu、BaMgAl1627:Eu、CaWO4、CaWO4:Pb、ZnS:Ag,Cl、ZnS:Ag,Al、(Sr,Ca,Mg)10(PO)Cl:Eu等がある。
また、青色可視光を発光するLEDチップを光源に用いて白色光を得る場合等において、LEDチップから放射される青色可視光を緑色可視光に変換する緑色発光用の蛍光体16として、Y(Al,Ga)12:Ce、SrGa:Eu、CaScSi12:Ce、α−SiAlON:Eu、β−SiAlON:Eu等がある。
さらに、青色可視光を発光するLEDチップを光源に用いた場合等において、LEDチップから放射される青色可視光を赤色可視光に変換する赤色発光用の蛍光体16として、(Sr,Ca)S:Eu、(Ca,Sr)Si:Eu、CaSiN:Eu、CaAlSiN:Eu等がある。
上記赤色発光用の蛍光体16、緑色発光用の蛍光体16、青色発光用の蛍光体16を適宜選択・混合して用いることで、種々の色の発色が可能である。
尚、上記蛍光体16は、有機、無機の蛍光染料や、有機、無機の蛍光顔料を含むものである。
【0014】
以下において、上記蛍光体シート10の製造方法にの一例について説明する。
先ず、大判なシート状の不織布14を準備(図5)し、該不織布14を多数の円形に型抜きする(図6)ことにより、蛍光体シート10の元となる、蛍光体16が担持されていない多数の不織布シート22を形成する(図7)。尚、不織布シート22は、例えば、直径5.2mm、厚さ0.5mm程度の大きさと成される。
而して、型抜き後に残った不用な不織布14部分には蛍光体16は一切担持されていない。
【0015】
次に、上記多数の不織布シート22を集めた状態で、蛍光体16が分散・添加された透光性の樹脂液やガラス質液等より成り、粘性を有する液状結合剤24中に不織布シート22を浸漬して撹拌する(図8)ことにより、各不織布シート22に蛍光体16が分散された液状結合剤24を含浸させる。
この際、液状結合剤24の粘度が高い場合には、液状結合剤24と相溶する溶剤を添加して適宜の粘度に希釈する。例えば、液状結合剤24がシリコーン樹脂の場合には、有機溶剤であるトリオール、キシロール、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘブタン等の芳香族炭化水素類を用いることができる。
尚、図8に示すように、液状結合剤24は粘性を有しているので、各不織布シート22に液状結合剤24を含浸させる過程で、不織布シート22同士は固着することとなる。
不織布シート22に含浸された液状結合剤24中の蛍光体16は、液状結合剤24中で移動するが、不織布14を構成するる繊維12に衝突して移動が妨げられる結果、上記の通り、繊維12表面に被着される蛍光体16の量は、空隙18に充填された結合剤20中の蛍光体16の量よりも多くなり、さらに、空隙18に充填された結合剤20中の蛍光体16の分布状態は、繊維12に近づくに従って蛍光体16の量が多くなるのである(図4参照)。
【0016】
次に、不織布シート22を液状結合剤24から取り出した後、網材の上に載置する等して余分な液状結合剤24の液切りを行う。その後、不織布シート22を、上記液状結合剤24と相溶しない高浸透性の溶剤26中に浸漬して撹拌する(図9)。尚、不織布シート22取り出し後の蛍光体16が分散された液状結合剤24は、再び蛍光体シート10の製造に利用することができるので、液状結合剤24中に残された蛍光体16が無駄になることはない。
而して、相互に固着している不織布シート22を、液状結合剤24と相溶しない高浸透性の溶剤26中に浸漬して撹拌することにより、固着した不織布シート22間に溶剤26が浸透して不織布シート22同士を剥離して個々の不織布シート22に分離させることができる。また、撹拌力により不織布シート22の表面に付着している粘性の有る液状結合剤24を除去することができるので、不織布シート22同士が再び固着することがない。
尚、上記液状結合剤24がシリコーン樹脂の場合、該シリコーン樹脂と相溶しない高浸透性の溶剤26として、アルコール類であるエチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール、又は、ケトン類であるアセトンを用いることができる。
【0017】
次に、個々の不織布シート22に分離された後、図示しないフィルターで溶剤26を濾して不織布シート22を溶剤26から取り出した後、不織布シート22を高温乾燥して、不織布シート22に含浸された液状結合剤24を硬化させる。この結果、液状結合剤24が上記結合剤20と成り、不織布14に蛍光体16が担持された図1に示す蛍光体シート10が完成する。
【0018】
尚、不織布シート22に蛍光体16が添加された液状結合剤24を含浸させるには、上記方法以外にも、例えば、多数の不織布シート22を集めた状態で、液状結合剤24を上方から滴下する方法、液状結合剤24をスプレー塗布する方法等を用いることができる。
また、液状結合剤24の含浸量は、不織布シート22の空隙18の体積に対して90〜120%と成すのが好ましい。すなわち、液状結合剤24の含浸量が90%未満の場合には、不織布シート22に担持できる蛍光体16の量が少なくなり、一方、120%以上の場合には、不織布シート22同士の固着が強固となりすぎて剥離作業が煩雑となるためである。
【0019】
上記においては、蛍光体シート10として、円形シート状に形成されたものを例示したが、これに限定されるものでは勿論なく、方形シート状等、所定形状で形成することができる。
【0020】
本発明に係る蛍光体シート10の製造方法にあっては、先ず、所定形状の不織布シート22を多数形成し、その後、各不織布シート22に、蛍光体16が分散された液状結合剤24を含浸させた後、液状結合剤24を硬化させることにより、不織布14に蛍光体16が担持された蛍光体シート10を製造するようにしたので、高価な蛍光体16を無駄にすることなく、所定形状の多数の蛍光体シート10を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る蛍光体シートを模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明に係る蛍光体シートを模式的に示す部分拡大図である。
【図3】本発明に係る蛍光体シートを構成する繊維を模式的に示す拡大図である。
【図4】本発明に係る蛍光体シートを構成する繊維を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に係る蛍光体シートの製造方法を模式的に示す説明図である。
【図6】本発明に係る蛍光体シートの製造方法を模式的に示す説明図である。
【図7】本発明に係る蛍光体シートの製造方法を模式的に示す説明図である。
【図8】本発明に係る蛍光体シートの製造方法を模式的に示す説明図である。
【図9】本発明に係る蛍光体シートの製造方法を模式的に示す説明図である。
【図10】従来の蛍光体シートを模式的に示す斜視図である。
【図11】従来の蛍光体シートの製造方法を模式的に示す説明図である。
【図12】従来の蛍光体シートの製造方法を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0022】
10 蛍光体シート
12 繊維
14 不織布
16 蛍光体
18 空隙
20 結合剤
22 不織布シート
24 液状結合剤
26 液状結合剤と相溶しない高浸透性の溶剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状の不織布シートを多数形成し、次に、
上記多数の不織布シートを集めた状態で、各不織布シートに蛍光体が分散された液状結合剤を含浸させ、次に、
上記液状結合剤と相溶しない高浸透性の溶剤中に浸漬して撹拌することにより、上記液状結合剤の含浸過程で相互に固着した不織布シート同士を剥離して個々の不織布シートに分離させ、次に、
不織布シートを上記溶剤から取り出した後、不織布シートに含浸された液状結合剤を硬化させることを特徴とする蛍光体シートの製造方法。
【請求項2】
上記液状結合剤がシリコーン樹脂であり、液状結合剤と相溶しない高浸透性の上記溶剤が、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール、アセトンの何れかであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−168705(P2010−168705A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14130(P2009−14130)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000122690)岡谷電機産業株式会社 (135)
【Fターム(参考)】