説明

蛍光体及びそれを使用した発光装置

【課題】近紫外領域から青色領域の光により励起した時、黄色ないし橙色、もしくは橙色ないし赤色に発光する輝度及び発光効率の高い蛍光体を提供する。
【解決手段】CuKα線(1.54184Å)を用いて測定された粉末X線回折パターンにおいて、2θが34°以上36.7°以下の範囲に最強ピークを有し、2θが10°以上17°以下の範囲に存在するピークのピーク強度比Iが4%以下であることを特徴とする窒化物又は酸窒化物を母体とする蛍光体。ただし、ピーク強度比Iは、2θが10゜以上60゜以下の範囲の粉末X線回折パターンにおいて、2θが34゜以上36.7゜以下の範囲に存在する最強ピークの高さImaxに対する該当ピークの高さIの比(I×100)/Imax(%)である。ここで、ピーク強度はバックグラウンド補正を行って得た値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物又は酸窒化物を母体とする高輝度の蛍光体に関する。本発明はまた、この蛍光体を用いた蛍光体含有組成物及び発光装置、並びにその発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光灯、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、白色発光ダイオード(LED)などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、可視光線、電子線などの高いエネルギーを有する励起源により励起されて、紫外線、可視光線、赤外線を発する。しかしながら、蛍光体は前記のような励起源に長時間曝されると、蛍光体の輝度が低下するという問題があった。
【0003】
そこで、近年、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ホウ酸塩蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、三元系以上の窒化物について多くの新規物質が合成されている。近年、特に窒化珪素をベースとした多成分窒化物や酸窒化物において優れた特性を有する蛍光体が開発されている。
【0004】
特許文献1に、一般式MSi:Eu[ここで、MはCa、Sr、及びBaからなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属元素であり、かつ、x、y、及びzはz=2/3x+4/3yを満たす数である。]で表される蛍光体が開示されている。これらの蛍光体は、アルカリ土類金属を窒化することによりアルカリ土類金属の窒化物を合成し、これに窒化珪素を加えて合成するか、あるいは、アルカリ土類金属及び珪素のイミドを原料として窒素又はアルゴン気流中で加熱することにより合成されている。いずれも空気や水分に敏感なアルカリ土類金属窒化物を原料として使用しなくてはならず、工業的な製造には問題があった。
【0005】
また、特許文献2に、一般式M16Si1532で表されるオキシニトリド、一般式MSiAl、M13Si18Al121836、MSiAlON及びMSiAlON10で表されるサイアロン構造を有する酸窒化物蛍光体が開示されている。特に、MがSrの場合に、SrCOとAlNとSiとを1:2:1の割合で混合し、還元雰囲気(水素含有窒素雰囲気)中で加熱したところ、SrSiAl:Eu2+が得られたことが記載されている。
この場合、得られる蛍光体は、酸窒化物蛍光体のみであり、酸素を含まない窒化物蛍光体は得られていない。
【0006】
また、上記窒化物又は酸窒化物蛍光体は、使用される原料粉末の反応性がいずれも低いことから、焼成時に原料混合粉末の間の固相反応を促進する目的で原料粉末間の接触面積を大きくして加熱する必要がある。そのため、これらの蛍光体は、高温において圧縮成形した状態、すなわち非常に硬い焼結体の状態で合成される。よって、この様にして得られた焼結体は、蛍光体の使用目的に適した微粉末状態まで粉砕する必要がある。ところが、硬い焼結体となっている蛍光体を通常の機械的粉砕方法、例えばジョークラッシャーやボールミルなどを使用して長時間に渡り多大なエネルギーをかけて粉砕すると、蛍光体の母体結晶中に多数の欠陥を発生させ、蛍光体の発光強度を著しく低下させてしまうという不都合が生じていた。
【0007】
また、窒化物又は酸窒化物蛍光体の製造において、窒化カルシウム(Ca)、窒化ストロンチウム(Sr)などのアルカリ土類金属窒化物を使用することが好ましいとされているが、一般に2価の金属の窒化物は水分と反応して水酸化物を生成しやすく、水分含有雰囲気下で不安定である。特に、SrやSr金属の粉末の場合はこの傾向が著しく、取り扱いが非常に難しい。
【0008】
以上の理由から、新たな蛍光体原料及びその製造方法が求められていた。
【0009】
近年、金属を出発原料とした窒化物蛍光体の製造方法に関し、特許文献3が報告された。特許文献3には窒化アルミニウム系蛍光体の製造方法の一例が開示され、原料として、遷移元素、希土類元素、アルミニウム及びその合金が使用できる旨が記載されている。しかし、実際に合金を原料として用いた実施例は記載されておらず、Al源としてAl金属を用いることを特徴としている。また、原料に着火し、瞬時に高温(3000K)まで上昇させる燃焼合成法を用いる点で、本発明と大きく異なり、この方法で高特性の蛍光体を得ることは困難であると推測される。即ち、瞬時に3000Kという高温まで昇温させる方法では付活元素を均一に分布させることは難しく、特性の高い蛍光体を得ることは困難である。また、合金原料から得られるアルカリ土類金属元素を含む窒化物蛍光体、更に珪素を含む窒化物蛍光体に関する記載は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2003−515665号公報
【特許文献2】特開2003−206481号公報
【特許文献3】特開2005−54182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、近紫外領域から青色領域の光により励起した時、黄色ないし橙色、もしくは橙色ないし赤色に発光する輝度及び発光効率の高い蛍光体を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、粉末X線回折パターンにおいて、特定の範囲のピークが低い蛍光体が、輝度及び発光効率が高いことを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下の[1]〜[19]を要旨とするものである。
【0013】
[1] 下記一般式(1)で表される蛍光体であって、CuKα線(1.54184Å)を用いて測定された粉末X線回折パターンにおいて、2θが34°以上36.7°以下の範囲に最強ピークを有し、2θが下記<表A>に示す領域1(10°以上17°以下)の範囲に存在するピークのピーク強度比Iが4%以下であり、更に、領域2〜領域6におけるピーク強度比Iが10%以下であることを特徴とする蛍光体。
ただし、ピーク強度比Iは、2θが10゜以上60゜以下の範囲の粉末X線回折パターンにおいて、2θが34゜以上36.7゜以下の範囲に存在する最強ピークの高さImaxに対する該当ピークの高さIpの比(Ip×100)/Imax(%)である。ここで、ピーク強度はバックグラウンド補正を行って得た値である。
【0014】
【表1】

【0015】
(1)
(但し、a、b、c、d、e、fはそれぞれ下記の範囲の値である。
0.00001≦a≦0.15
a+b=1
0.5≦c≦1.5
0.5≦d≦1.5
2.5≦e≦3.5
0≦f≦0.5
また、MはEu又はEuとCeよりなる付活元素を表し、Mは2価の金属元素であって、90モル%以上がCa及びSrで構成される元素を表し、MはAlを表し、MはSiを表す。)
【0016】
[2] 下記一般式(2)で表される蛍光体であって、CuKα線(1.54184Å)を用いて測定された粉末X線回折パターンにおいて、2θが34°以上36.7°以下の範囲に最強ピークを有し、2θが下記<表A>に示す領域1(10°以上17°以下)の範囲に存在するピークのピーク強度比Iが4%以下であり、更に、領域2〜領域6におけるピーク強度比Iが10%以下であることを特徴とする蛍光体。
ただし、ピーク強度比Iは、2θが10゜以上60゜以下の範囲の粉末X線回折パターンにおいて、2θが34゜以上36.7゜以下の範囲に存在する最強ピークの高さImaxに対する該当ピークの高さIpの比(Ip×100)/Imax(%)である。ここで、ピーク強度はバックグラウンド補正を行って得た値である。
【0017】
【表2】

【0018】
1’a’Srb’Cac’2’d’Ale’Sif’g’ (2)
(但しa’,b’,c’,d’,e’,f’,g’はそれぞれ下記の範囲の値である。
0.00001≦a’≦0.15、
0.1≦b’≦0.99999、
0≦c’<1、
0≦d’<1、
a’+b’+c’+d’=1、
0.5≦e’≦1.5、
0.5≦f’≦1.5、
0.8×(2/3+e’+4/3×f’)≦g’≦1.2×(2/
3+e’+4/3×f’)
1’はEu又はEuとCeよりなる付活元素を表し、M2’はMg及び/又はBaを表す。)
【0019】
[3] b’が、0.7≦b’≦0.99999である[2]に記載の蛍光体。
【0020】
[4] 発光ピーク波長が590nm以上、650nm以下であることを特徴とする、[1]ないし[3]のいずれかに記載の蛍光体。
【0021】
[5] 酸素の含有量が5重量%以下である、[1]ないし[4]のいずれかに記載の蛍光体。
【0022】
[6] 結晶構造が斜方晶であり、格子定数が9.75Å≦a≦9.93Å、5.69Å≦b≦5.77Å、5.1Å≦c≦5.18Å、280Å≦V≦298Åである[1]ないし[5]のいずれかに記載の蛍光体。
【0023】
[7] 内部量子効率が0.6以上である[1]ないし[6]のいずれかに記載の蛍光体。
【0024】
[8] [1]ないし[7]のいずれかに記載の蛍光体と、液状媒体とを含有することを特徴とする蛍光体含有組成物。
【0025】
[9] 第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、該第2の発光体が、[1]ないし[7]のいずれかに記載の蛍光体の少なくとも1種を、第1の蛍光体として含有することを特徴とする発光装置。
【0026】
[10] 前記第2の発光体が、前記第1の蛍光体とは発光ピーク波長の異なる少なくとも1種の蛍光体を、第2の蛍光体として含有することを特徴とする[9]に記載の発光装置。
【0027】
[11] 前記第1の発光体が、420nm以上500nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、前記第2の発光体が、前記第2の蛍光体として、500nm以上550nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体を含有することを特徴とする[10]に記載の発光装置。
【0028】
[12] 前記第1の発光体が、300nm以上420nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、前記第2の発光体が、前記第2の蛍光体として、420nm以上490nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体と、500nm以上550nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体とを含有することを特徴とする[10]に記載の発光装置。
【0029】
[13] [9]ないし[12]のいずれかに記載の発光装置を有することを特徴とする画像表示装置。
【0030】
[14] [9]ないし[12]のいずれかに記載の発光装置を有することを特徴とする照明装置。
【発明の効果】
【0031】
本発明の窒化物又は酸窒化物を母体とする蛍光体は、従来の窒化物又は酸窒化物蛍光体よりも高輝度の発光を示すものであり、黄色ないし橙色、もしくは橙色ないし赤色の蛍光体として優れている。また、本発明の蛍光体は、長時間励起源に曝された場合でも、輝度が低下することが少なく、VFD、FED、PDP、CRT、白色LEDなどに好適に使用される有用な蛍光体である。また、母体の色が赤色系であり、紫外線を吸収することから、赤色の顔料及び紫外線吸収剤にも好適である。
また、この蛍光体を含有する組成物を用いることによって、発光効率の高い発光装置を得ることができる。この発光装置は、画像表示装置や照明装置等の用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の発光装置の一実施例を示す模式的斜視図である。
【図2】図2(a)は、本発明の砲弾型発光装置の一実施例を示す模式的断面図であり、図2(b)は、本発明の表面実装型発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の照明装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図4】実施例1の蛍光体の粉末X線回折パターンを示すチャートである。
【図5】実施例1〜3及び参考例1の蛍光体の温度特性を示すグラフである。
【図6】実施例1〜3及び参考例1の蛍光体の輝度維持率を示すグラフである。
【図7】実施例1及び実施例2の蛍光体の励起スペクトルを示すチャートである。
【図8】比較例1の蛍光体の粉末X線回折パターンを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0034】
[蛍光体の組成]
本発明の窒化物又は酸窒化物を母体とする蛍光体の組成については特に制限はないが、以下に例を挙げて説明する。
なお、本明細書において、蛍光体の母体とは、付活元素を固溶し得る結晶又はガラス(アモルファス)を意味し、付活元素を含有せずに、結晶又はガラス(アモルファス)それ自体が発光するものも含むものとする。
【0035】
本発明の蛍光体は、少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、Si以外の金属元素の1種類以上とを含むものであり、さらに付活元素Mを含有する。ここで、Si以外の金属元素としては、アルカリ土類金属元素が好ましい。
本発明の蛍光体は、付活元素M、2価の金属元素M、及び少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含むことが好ましく、付活元素M、2価の金属元素M、3価の金属元素M、及び少なくともSiを含む4価の金属元素Mを含むことがより好ましい。
【0036】
付活元素Mとしては、窒化物又は酸窒化物を母体とする蛍光体を構成する結晶母体に含有可能な各種の発光イオンを使用することができるが、Cr、Mn、Fe、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbよりなる群から選ばれる1種以上の元素を使用すると、発光特性の高い蛍光体を製造することが可能なので好ましい。また、付活元素MとしてはMn、Ce、Pr及びEuの1種又は2種以上を含むことが好ましく、特にCe及び/又はEuを含むことが高輝度の赤色発光を示す蛍光体を得ることができるので更に好ましい。また、輝度を上げることや蓄光性を付与するなど様々な機能を持たせるために、付活元素MとしてはCe及び/又はEu以外に共付活剤を1種又は複数種含有させても良い。
【0037】
付活元素M以外の元素としては、各種の2価、3価、4価の金属元素が使用可能である。2価の金属元素MがMg、Ca、Sr、Ba、及びZnよりなる群から選ばれる1種以上の元素であり、3価の金属元素MがAl、Ga、In、及びScよりなる群から選ばれる1種以上の元素であり、4価の金属元素MがSi、Ge、Sn、Ti、Zr、及びHfよりなる群から選ばれる1種以上の元素であることが、発光特性の高い蛍光体を得ることができるので好ましい。
【0038】
また、2価の金属元素Mの50モル%以上がCa及び/又はSrとなるように組成を調整すると発光特性の高い蛍光体が得られるので好ましい。中でも、2価の金属元素Mの80モル%以上をCa及び/又はSrとすることがより好ましく、90モル%以上をCa及び/又はSrとすることが更に好ましく、2価の金属元素Mの全てをCa及び/又はSrとすることが最も好ましい。
【0039】
また、3価の金属元素Mの50モル%以上がAlとなるように組成を調整すると発光特性の高い蛍光体が得られるので好ましい。中でも、3価の金属元素Mの80モル%以上をAlとすることが好ましく、90モル%以上をAlとすることがより好ましく、3価の金属元素Mの全てをAlとすることが最も好ましい。
【0040】
また、少なくともSiを含む4価の金属元素Mの50モル%以上がSiとなるように組成を調整すると発光特性の高い蛍光体が得られるので好ましい。中でも、少なくともSiを含む4価の金属元素Mの80モル%以上をSiとすることが好ましく、90モル%以上をSiとすることがより好ましく、4価の金属元素Mの全てをSiとすることが好ましい。
【0041】
特に、2価の金属元素Mの50モル%以上がCa及び/又はSrであり、かつ、3価の金属元素Mの50モル%以上がAlであり、かつ、少なくともSiを含む4価の金属元素Mの50モル%以上がSiとなるようにすることにより、発光特性が特に高い蛍光体が製造できるので好ましい。
【0042】
中でも、本発明の蛍光体としては、下記一般式[1]で表される化学組成を有することが好ましい。
[1]
(但し、a、b、c、d、e、fはそれぞれ下記の範囲の値である。
0.00001≦a≦0.15
a+b=1
0.5≦c≦1.5
0.5≦d≦1.5
2.5≦e≦3.5
0≦f≦0.5 )
尚、前記一般式[1]において、Mは前記付活元素Mを表し、Mは前記2価の金属元素Mを表し、Mは前記3価の金属元素Mを表し、Mは前記少なくともSiを含む4価の金属元素Mを表す。
【0043】
また、前記一般式[1]におけるa〜fの数値範囲の好適理由は次の通りである。
【0044】
aが0.00001より小さいと十分な発光強度が得られない傾向にあり、aが0.15より大きいと濃度消光が大きくなって発光強度が低くなる傾向にある。従って、aは0.00001≦a≦0.15の範囲となるように原料を混合することが好ましい。同様の理由で、0.0001≦a≦0.1が好ましく、0.001≦a≦0.05がより好ましく、0.002≦a≦0.04がさらに好ましく、0.004≦a≦0.02とすることが最も好ましい。
【0045】
aとbの合計は、蛍光体の結晶母体中において付活元素Mが2価の金属元素Mの原子位置を置換するので、通常1となるように原料混合組成を調整する。
【0046】
cが0.5より小さい場合も、cが1.5より大きい場合も、製造時に異相が生じ、前記蛍光体の収率が低くなる傾向にある。従って、cは0.5≦c≦1.5の範囲となるように原料を混合する。発光強度の観点からも0.5≦c≦1.5が好ましく、0.6≦c≦1.4がより好ましく、0.8≦c≦1.2が最も好ましい。
【0047】
dが0.5より小さい場合も、dが1.5より大きい場合も、製造時に異相が生じ、前記蛍光体の収率が低くなる傾向にある。従って、dは0.5≦d≦1.5の範囲となるように原料を混合する。また、発光強度の観点からも0.5≦d≦1.5が好ましく、0.6≦d≦1.4がより好ましく、0.8≦d≦1.2が最も好ましい。
【0048】
eは窒素の含有量を示す係数であり、
【数1】

となる。この式に0.5≦c≦1.5,0.5≦d≦1.5を代入すれば、eの範囲は
1.84≦e≦4.17
となる。しかしながら、前記一般式[1]で表される蛍光体組成において、窒素の含有量を示すeが2.5未満であると蛍光体の収率が低下する傾向にある。また、eが3.5を超えても蛍光体の収率が低下する傾向にある。従って、eは通常2.5≦e≦3.5である。
【0049】
前記一般式[1]で表される蛍光体中の酸素は、原料金属中の不純物として混入する場合、粉砕工程、窒化工程などの製造プロセス時に導入される場合などが考えられる。酸素の割合であるfは蛍光体の発光特性低下が容認できる範囲で0≦f≦0.5が好ましい。
【0050】
前記一般式[1]で表される蛍光体の中でも、下記一般式[2]で表される蛍光体とすることができる。
1’a’Srb’Cac’2’d’Ale’Sif’g’ [2]
(但し、a’、b’、c’、d’、e’、f’、g’はそれぞれ下記の範囲の値である。
0.00001≦a’≦0.15
0.1≦b’≦0.99999
0≦c’<1
0≦d’<1
a’+b’+c’+d’=1
0.5≦e’≦1.5
0.5≦f’≦1.5
0.8×(2/3+e’+4/3×f’)≦g’≦1.2×(2/3+e’+4/3×f’))
【0051】
ここで、M1’は前記一般式[1]におけるMと同様に、Cr、Mn、Fe、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選ばれる付活元素を表す。付活元素M1’としては中でも、Mn、Ce、Pr及びEuの1種又は2種以上を含むことが好ましく、特にEu及び/又はCeを含むことが好ましい。
【0052】
2’はMg及び/又はBaを表し、好ましくはMgである。Mgを含有させることにより、蛍光体の発光ピーク波長を長波長化することができる。
【0053】
a’の範囲は、通常0.00001≦a’≦0.15であり、好ましくは0.001≦a’≦0.05、より好ましくは0.002≦a’≦0.01である。
【0054】
b’の範囲は、通常0.1≦b’≦0.99999であり、好ましくは0.4≦b’≦0.99999、より好ましくは0.7≦b’≦0.99999である。
【0055】
c’の範囲は、通常0≦c’<1であり、好ましくは0≦c’≦0.5、より好ましくは0≦c’≦0.3である。
【0056】
d’の範囲は、通常0≦d’<1であり、好ましくは0≦d’≦0.5、より好ましくは0≦d’≦0.2である。
【0057】
a’、b’、c’、d’相互の関係は通常、
a’+b’+c’+d’=1
を満足する。
【0058】
e’の範囲は通常、0.5≦e’≦1.5であり、好ましくは0.8≦e’≦1.2、より好ましくは0.9≦e’≦1.1である。
【0059】
f’の範囲は通常、0.5≦f’≦1.5であり、好ましくは0.8≦f’≦1.2、より好ましくは0.9≦f’≦1.1である。
【0060】
g’の範囲は、通常
0.8(2/3+e’+4/3×f’)≦g’≦1.2×(2/3+e’+4/3×f’)であり、好ましくは0.9×(2/3+e’+4/3×f’)≦g’≦1.1×(2/3+e’+4/3×f’)、より好ましくは、2.5≦g’≦3.5である。
【0061】
以下に、一般式[2]においてb’の値が、0.4≦b’≦0.99999の範囲であり、かつ、d’=0である蛍光体、すなわち、Sr置換量が多い蛍光体を「SCASN蛍光体」と略記する場合がある。
【0062】
本発明の蛍光体に含まれる酸素は、原料金属中の不純物として混入するもの、粉砕工程、窒化工程などの製造プロセス時に混入するものなどが考えられる。
酸素の含有量は蛍光体の発光特性低下が容認できる範囲で通常5重量%以下、好ましくは2重量%以下、最も好ましくは1重量%以下である。
【0063】
蛍光体の組成の具体例としては、(Sr,Ca,Mg)AlSiN:Eu、(Sr,Ca,Mg)AlSiN:Ce、(Sr,Ca)Si:Ce等が挙げられる。
【0064】
[蛍光体の製造方法]
本発明の蛍光体を製造する方法としては、特に制限はないが、原料由来の不純物が少なく、製造工程においても不純物の混入が少ない製造方法が好ましい。また、原料を高圧下で窒化すると発光特性の高い蛍光体を得られる傾向にあり、より好ましい。具体的には、合金を原料とする製造方法(以下、「合金法」と称する場合がある。)や、金属化合物を原料として高圧下で窒化することにより蛍光体を得る製造方法が挙げられる。中でも、得られる蛍光体の発光特性がより優れたものであることから、合金法を用いることが好ましい。
【0065】
<合金法>
以下、合金法による蛍光体の製造方法について詳述する。
合金法を用いて本発明の蛍光体を製造するには、例えば、前記一般式[1]で表される組成を有する蛍光体を製造する場合、下記一般式[3]の組成となるように、原料となる金属やその合金(以下、単に「原料金属」と言う場合がある。)を秤量する。次いで、これを融解させて合金化して蛍光体原料用合金を製造し、その後、この蛍光体原料用合金を粉砕して合金粉末を製造し、窒素含有雰囲気中で加熱することにより窒化を行う。
【0066】
合金法について、以下にさらに詳しく説明するが、少なくともSiを含む4価の金属元素Mと、2価の金属元素Mとしてアルカリ土類金属元素の1種以上とを含む蛍光体原料用合金を製造しようとする場合であれば、後述するように原料金属を融解する際に、高融点(高沸点)のSi金属及び/又はSiを含む合金を融解させた後、低融点(低沸点)のアルカリ土類金属を融解させることが好ましい。
[3]
(但し、M、M、M、M、a、b、c、dはそれぞれ前記一般式[1]におけると同義である。)
【0067】
〈原料金属の純度〉
合金の製造に使用する金属の純度は、合成される蛍光体の発光特性の点から、付活元素Mの金属原料としては不純物が0.1モル%以下、好ましくは0.01モル%以下まで精製された金属を使用することが好ましい。付活元素MとしてEuを使用する場合には、Eu原料としてEu金属を使用することが好ましい。付活元素M以外の元素の原料としては、2価、3価、4価の各種金属等を使用する。付活元素Mと同様の理由から、いずれも含有される不純物濃度は0.1モル%以下であることが好ましく、0.01モル%以下であることがより好ましい。例えば、不純物としてFe、Ni、及びCoからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する場合、各々の元素の含有量は、通常500ppm以下、好ましくは100ppm以下である。
【0068】
〈原料金属の形状〉
原料金属の形状に制限は無いが、通常、直径数mmから数十mmの粒状又は塊状のものが用いられる。
2価の金属元素Mとしてアルカリ土類金属元素を用いる場合、その原料としては、粒状、塊状など形状は問わないが、原料の化学的性質に応じて適切な形状を選択するのが好ましい。例えば、Caは粒状、塊状のいずれでも大気中で安定であり、使用可能であるが、Srは化学的により活性であるため、塊状の原料を用いることが好ましい。
【0069】
〈原料金属の融解〉
原料金属を、目的の組成となるように秤量し、これを融解する。原料金属を融解する方法に特に制限はないが、例えば、抵抗加熱法、電子ビーム法、アーク融解法、高周波誘導加熱法等を用いることができる。また、融解時に用いることのできるルツボの材質としては、アルミナ、カルシア、黒鉛、モリブデン等が挙げられる。
【0070】
原料金属の秤量にあたっては、融解時に揮発やルツボ材質との反応等により損失する金属元素については、必要に応じて、予め過剰に秤量し添加してもよい。
また、原料金属の融解にあたっては、特に、Siと2価の金属元素Mとしてアルカリ土類金属元素を含む蛍光体原料用合金を製造する場合、以下の問題点があるため、高融点(高沸点)のSi金属及び/又はSiを含む合金を融解させた後、低融点(低沸点)のアルカリ土類金属を融解させることが好ましい。
【0071】
Siの融点は1410℃であり、アルカリ土類金属の沸点と同程度である(例えば、Caの沸点は1494℃、Srの沸点は1350℃、Baの沸点は1537℃である)。特に、Srの沸点がSiの融点より低いため、SrとSiを同時に融解させることは極めて困難である。
【0072】
これに対して、Si金属を先に融解させて好ましくは母合金を製造し、次いでアルカリ土類金属を融解することによって、この問題点を解決することができる。
さらに、このようにSi金属を融解した後にアルカリ土類金属の融解を行うことにより、得られる合金の純度が向上し、それを原料とする蛍光体の特性が著しく向上するという効果も奏される。
【0073】
本発明における原料金属の融解法については、特に制限はないが、通常、抵抗加熱法、電子ビーム法、アーク融解法、高周波誘導加熱法(以下、「高周波融解法」と称する場合がある。)等を用いることができる。中でも、アーク融解法、高周波融解法を用いることが好ましく、製造コストを考えると高周波融解法を用いることが特に好ましい。
以下、(1)アーク融解法・電子ビーム法の場合、(2)高周波融解法の場合を例に更に詳しく説明する。
【0074】
(1)アーク融解法・電子ビーム融解法の場合
アーク融解・電子ビーム融解の場合は、以下の手順で融解を行う。
i)Si金属又はSiを含む合金を電子ビームあるいはアーク放電により融解する。
ii)次いで間接加熱によりアルカリ土類金属を融解し、Siとアルカリ土類金属とを含む合金を得る。
ここで、Siを含む溶湯にアルカリ土類金属が溶け込んだ後、電子ビームあるいはアーク放電により加熱・攪拌して混合を促進しても良い。
【0075】
(2)高周波融解法の場合
アルカリ土類金属元素を含む合金は酸素との反応性が高いため、大気中ではなく真空あるいは不活性ガス中で融解する必要がある。このような条件では通常、高周波融解法が好ましい。しかしながら、Siは半導体であり、高周波を用いた誘導加熱による融解が困難である。例えば、アルミニウムの20℃における比抵抗率は2.8×10−8Ω・mであるのに対し、半導体用多結晶Siの比抵抗率は10Ω・m以上である。このように比抵抗率が大きいものを直接高周波融解することは困難であるため、一般に導電性のサセプタを用い、熱伝導や放射によりSiに熱移動を行って融解する。サセプタとしては、ディスク状、管状なども可能であるが坩堝を用いることが好ましい。サセプタの材質としては、黒鉛、モリブデン、炭化珪素などが一般に用いられるが、これらは、非常に高価であり、また、アルカリ土類金属と反応しやすいという問題点がある。一方、アルカリ土類金属を融解可能な坩堝(アルミナ、カルシアなど)は絶縁体であり、サセプタとして使用することが難しい。従って、アルカリ土類金属とSi金属とを坩堝に仕込んで高周波融解するにあたり、公知の導電性の坩堝(黒鉛など)をサセプタとして使用して、間接的な加熱によりSi金属とアルカリ土類金属とを同時に融解することは困難である。そこで、次のような順序で融解することで、この問題点を解決する。
i)Si金属を導電性の坩堝を使用して間接加熱により融解する。
ii)次に、絶縁性の坩堝を使用して、アルカリ土類金属を融解することにより、Siとアルカリ土類金属元素とを含む合金を得る。
【0076】
上記i)、ii)の工程の間でSi金属を冷却しても良いし、冷却せず連続してアルカリ土類金属を融解しても良い。連続して行う場合には導電性の容器にアルカリ土類金属の融解に適したカルシア、アルミナなどで被覆した坩堝を使用することもできる。
【0077】
更に具体的な工程を記述すると、以下の通りである。
i)Si金属と金属M(例えばAl、Ga)を導電性の坩堝を使用して間接加熱により融解し、導電性の合金(母合金)を得る。
ii)次いで、アルカリ土類金属耐性坩堝を使用して、i)の母合金を融解させた後、アルカリ土類金属を高周波により融解させることにより、Siとアルカリ土類金属元素とを含む合金を得る。
【0078】
Si金属あるいはSiを含む母合金を先に融解させ、次いでアルカリ土類金属を融解させる具体的方法としては、例えば、Si金属あるいはSiを含む母合金を先に融解させ、そこにアルカリ土類金属を添加する方法等が挙げられる。
【0079】
また、Siを2価の金属元素M以外の金属Mと合金化して導電性を付与することもできる。この場合、得られる合金の融点がSiより低いことが好ましい。SiとAlの合金は、融点が1010℃付近と、アルカリ土類金属元素の沸点より融点が低くなるので特に好ましい。
Siと2価の金属元素M以外の金属Mとの母合金を用いる場合、その組成には特に制限はないが、母合金が導電性を有していることが好ましい。この場合、Siと金属Mとの混合割合(モル比)は、Siのモル数を1とした場合に、金属Mが、通常0.01以上、5以下の範囲となるようにして、アルカリ土類金属元素の沸点よりも融点の低い母合金を製造することが好ましい。
なお、Siを含む母合金に、さらにSi金属を加えることもできる。
【0080】
本発明において、Si金属を融解させた後にアルカリ土類金属を融解させること以外に、他の原料金属の融解時期には特に制限はないが、通常、量が多いもの、もしくは、融点が高いものを先に融解させる。
付活元素Mを均一に分散させるため、また、付活元素Mの添加量は少量であるため、Si金属を融解させた後に付活元素Mの原料金属を融解させることが好ましい。
【0081】
前述の一般式[3]で表され、少なくともSiを含む4価の金属元素MがSiであり、2価の金属元素Mとして少なくともSrを含む蛍光体原料用合金を製造する場合、次のような手順で融解させることが好ましい。
(1) Siと3価の金属元素Mとの母合金を製造する。この際、好ましくはSiと3価の金属元素Mとは、一般式[3]におけるSi:M比で合金化する。
(2) (1)の母合金を融解させた後、Srを融解させる。
(3) その後、Sr以外の2価の金属元素、付活元素Mを融解させる。
【0082】
このような原料金属の融解時の雰囲気としては、不活性雰囲気が好ましく、中でもArが好ましい。
【0083】
また、圧力は、通常、1×10Pa以上1×10Pa以下の範囲であることが好ましく、安全性の面から、大気圧以下で行うことが望ましい。
【0084】
〈溶湯の鋳造〉
原料金属の融解により製造された合金溶湯から直接窒素含有合金を製造することもできるが、原料金属の融解により製造された合金溶湯を金型に注入して成型する鋳造工程を経て、凝固体(合金塊)を得ることが好ましい。ただし、この鋳造工程において溶融金属の冷却速度によって偏析が生じ、溶融状態で均一組成であったものが組成分布に偏りが生じることもある。従って、冷却速度はできるだけ速いことが望ましい。また、金型は銅などの熱伝導性のよい材料を使用することが好ましく、熱が放散しやすい形状であることが好ましい。また、必要に応じて水冷などの手段により金型を冷却する工夫をすることも好ましい。
【0085】
このような工夫により、例えば厚さに対して底面積の大きい金型を用い、溶湯を金型へ注湯後、できるだけ早く凝固させることが好ましい。
【0086】
また、合金の組成によって偏析の程度は異なるので必要な分析手段、例えばICP発光分光分析法などによって、得られた凝固体の数箇所より試料を採取して組成分析を行い、偏析の防止に必要な冷却速度を定めることが好ましい。
【0087】
このような鋳造時の雰囲気は、不活性雰囲気が好ましく、中でもArが好ましい。
【0088】
〈鋳塊の粉砕〉
鋳造工程で得られた合金塊は次いで粉砕することにより、所望の粒径、粒度分布を有する合金粉末を調製することができる。粉砕方法としては、乾式法や、エチレングリコール、ヘキサン、アセトン等の有機溶媒を用いる湿式法で行うことが可能である。以下、乾式法を例に詳しく説明する。
この粉砕工程は、必要に応じて、粗粉砕工程、中粉砕工程、微粉砕工程等の複数の工程に分けてもよい。この場合、全粉砕工程を同じ装置を用いて粉砕することもできるが、工程によって使用する装置を変えてもよい。
【0089】
ここで、粗粉砕工程とは、合金粉末のおおよそ90重量%が粒径1cm以下になるように粉砕する工程であり、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、クラッシングロール、インパクトクラッシャーなどの粉砕装置を使用することができる。中粉砕工程とは、合金粉末のおおよそ90重量%が粒径1mm以下になるように粉砕する工程であり、コーンクラッシャー、クラッシングロール、ハンマーミル、ディスクミルなどの粉砕装置を使用することができる。微粉砕工程とは、合金粉末が後述する重量メジアン径になるように粉砕する工程であり、ボールミル、チューブミル、ロッドミル、ローラーミル、スタンプミル、エッジランナー、振動ミル、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。
【0090】
中でも、不純物の混入を防止する観点から、最終の粉砕工程においては、ジェットミルを使用することが好ましい。ジェットミルを用いるためには、粒径2mm以下程度になるまで予め合金塊を粉砕しておくことが好ましい。ジェットミルでは、主に、ノズル元圧から大気圧に噴射される流体の膨張エネルギーを利用して粒子の粉砕を行うため、粉砕圧力により粒径を制御すること、不純物の混入を防止することが可能である。粉砕圧力は、装置によっても異なるが、通常、ゲージ圧で0.01MPa以上、2MPa以下の範囲であり、中でも、0.05MPa以上、0.4MPa未満が好ましく、0.1MPa以上、0.3MPa以下がさらに好ましい。
【0091】
いずれの場合も粉砕工程中に鉄等の不純物の混入が起こらないよう、粉砕機の材質と被粉砕物の関係を適切に選択する必要がある。例えば、接粉部は、セラミックライニングが施されていることが好ましく、セラミックの中でも、アルミナ、窒化ケイ素、タングステンカーバイド、ジルコニア等が好ましい。
【0092】
また、合金粉末の酸化を防ぐため、粉砕工程は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度は10%以下、特に5%以下が好ましい。また、酸素濃度の下限としては、通常、10ppm程度である。特定の範囲の酸素濃度とすることによって、粉砕中に合金の表面に酸化被膜が形成され、安定化すると考えられる。酸素濃度が5%より高い雰囲気中で粉砕工程を行う場合、粉砕中に粉塵が爆発する恐れがあるため、粉塵を生じさせないような設備が必要である。不活性ガスの種類に特に制限はないが、通常、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの気体のうち1種単独雰囲気又は2種以上の混合雰囲気が用いられ、経済性の観点から窒素が特に好ましい。
また、粉砕中に合金粉末の温度が上がらないように必要に応じて冷却してもよい。
【0093】
〈合金粉末の分級〉
粉砕工程で粉砕された合金粉末は、バイブレーティングスクリーン、シフターなどの網目を使用した篩い分け装置、エアセパレータ等の慣性分級装置、サイクロン等の遠心分離機を使用して、後述の所望の重量メジアン径D50及び粒度分布に調整される。
粒度分布の調整においては、粗粒子を分級し、粉砕機にリサイクルすることが好ましく、分級及び/又はリサイクルが連続的であることがさらに好ましい。
【0094】
この分級工程についても、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度は10%以下、特に5%以下が好ましい。不活性ガスの種類に特に制限はないが、通常、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの1種単独雰囲気又は2種以上の混合雰囲気が用いられ、経済性の観点から窒素が特に好ましい。
【0095】
後述の一次窒化工程前の合金粉末は、当該合金粉末を構成する金属元素の活性度により粒径を調整する必要があり、その重量メジアン径D50は、通常の場合、100μm以下、好ましくは80μm以下、特に好ましくは60μm以下、また、0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは1μm以上である。また、Srを含有する場合は、雰囲気ガスとの反応性が高いため、合金粉末の重量メジアン径D50は、通常5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは13μm以上とすることが望ましい。前述の重量メジアン径D50の範囲よりも小さいと、窒化等の反応時の発熱速度が大きくなり、反応の制御が困難となる場合がある。一方で前述の重量メジアン径D50の範囲よりも大きいと、合金粒子内部での窒化等の反応が不十分となる場合がある。
【0096】
<蛍光体の製造>
上記の合金粉末を用いて、蛍光体を製造する方法には特に制限はなく、窒化物、酸窒化物など蛍光体の種類に応じて反応条件が設定されるが、以下に窒化反応を例にとって説明する。
【0097】
合金粉末の窒化処理は例えば以下の様にして行われる。
即ち、まず、窒化処理原料である合金粉末をるつぼ、或いはトレイに充填する。ここで使用するるつぼ或いはトレイの材質としては、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、モリブデン、タングステン等が挙げられるが、窒化ホウ素が耐食性に優れることから好ましい。
【0098】
この合金粉末を充填したるつぼ或いはトレイを、雰囲気制御が可能な加熱炉に納めた後、窒素を含むガスを流通して系内を十分にこの窒素含有ガスで置換する。必要に応じて、系内を真空排気した後、窒素含有ガスを流通しても良い。
【0099】
窒化処理の際に使用する窒素含有ガスとしては、窒素を含むガス、例えば窒素、アンモニア、或いは窒素と水素の混合気体等が挙げられる。系内の酸素濃度は製造される蛍光体の酸素含有量に影響し、余り高い含有量となると高い発光が得られなくなるため、窒化処理雰囲気中の酸素濃度は、低いほど好ましく、通常1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下とする。また、必要に応じて、炭素、モリブデン等の酸素ゲッターを系内加熱部分に入れて、酸素濃度を低下させても良い。
【0100】
窒化処理は、窒素含有ガスを充填した状態或いは流通させた状態で加熱することにより行うが、その圧力は大気圧よりも幾分減圧、大気圧或いは加圧の何れの状態でも良い。大気中の酸素の混入を防ぐためには大気圧以上とするのが好ましい。大気圧未満にすると加熱炉の密閉性が悪い場合には多量の酸素が混入して、得られる蛍光体の特性が低下する場合がある。窒素含有ガスの圧力は少なくともゲージ圧で0.2MPa以上が好ましく、10MPaから200MPaが最も好ましい。
【0101】
合金粉末の加熱は、通常800℃以上、好ましくは1000℃以上、更に好ましくは1200℃以上で、通常2200℃以下、好ましくは2100℃以下、更に好ましくは2000℃以下の温度で実施する。加熱温度が800℃より低いと、窒化処理に要する時間が長くなる傾向にある。一方、加熱温度が2200℃より高いと、生成する窒化物が揮発或いは分解し、得られる窒化物蛍光体の化学組成がずれて、特性の高い蛍光体が得られない場合や、再現性が悪くなる場合がある。
【0102】
窒化処理時の加熱時間(最高温度での保持時間)は、合金粉末と窒素との反応に必要な時間で良いが、通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは60分以上とする。加熱時間が1分より短いと窒化反応が充分に進行せず特性の高い蛍光体が得られない場合がある。加熱時間の上限は生産効率の面から、通常24時間以下であることが好ましい。
【0103】
合金の窒化処理後、得られた蛍光体について粉砕、分級処理を行なうことが好ましい。例えば、得られた蛍光体粒子の90%以上が5μm以上、20μm以下の粒子となるように粉砕、分級処理を行うことが特に好ましい。
【0104】
なお、本発明の蛍光体を製造する方法としては、得られる蛍光体の発光特性がより優れているため、上述の合金法が最も好ましいが、合金法に限定されるものではない。原料として、金属化合物(好ましくは、金属窒化物)を用いて、窒素含有雰囲気中、高圧下で加熱することにより窒化する方法を用いても、本発明の蛍光体を製造することが可能である。また、本発明の蛍光体は、蛍光体を構成する1種又は2種以上の元素を有するイミド化合物又はアミド化合物を原料として用いる方法でも製造することができると考えられる。
【0105】
[蛍光体の特性]
(結晶構造)
本発明の蛍光体の結晶構造に関して述べる。
本発明の蛍光体の結晶構造としては、WO2005/052087に記載のCASN構造と同一の斜方晶(Cmc2、#36)の結晶構造を有することが好ましい。格子定数は通常、9.7Å≦a≦9.93Å、5.6Å≦b≦5.8Å、5.0Å≦c≦5.2Å、270Å≦V≦300Åであり、さらに好ましくは、9.75Å≦a≦9.93Å、5.69Å≦b≦5.77Å、5.1Å≦c≦5.18Å、280Å≦V≦298Å、である。
【0106】
(粉末X線回折パターン)
本発明者らは、本発明の蛍光体についてCuKα線(1.54184Å)を用いた場合に測定される粉末X線回折パターンについて検討を行った。
【0107】
本発明の蛍光体は、 CuKα線(1.54184Å)を用いて測定された粉末X線回折パターンにおいて、2θが34°以上36.7°以下の範囲に最強ピークを有し、2θが10°以上17°以下の範囲(即ち、〈表A〉における領域1を意味する。)に存在するピークのピーク強度比Iが、通常4%以下、好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下であることを特徴とする。ただし、ピーク強度比Iは、2θが10゜以上60゜以下の範囲の粉末X線回折パターンにおいて、2θが34゜以上36.7゜以下の範囲に存在する最強ピークの高さImaxに対する該当ピークの高さIの比(I×100)/Imax(%)である。ここで、ピーク強度はバックグラウンド補正を行って得た値である。
【0108】
本発明の蛍光体は、上記に加えて、CuKα線(1.54184Å)を用いて測定された粉末X線回折パターンにおいて、下記〈表A〉に示す領域2〜領域6におけるピーク強度比Iが通常10%以下、好ましくは8%以下、更に好ましくは3%以下であることが好ましい。
【0109】
【表3】

【0110】
粉末X線回折パターンの例を、下記〈表B〉に示す。〈表B〉では、X線粉末回折ピーク位置を2θ(10゜から60゜の範囲とする。)で表記している。
【0111】
本発明の蛍光体が、前述の一般式[1]で表される化学組成を有する場合、含有可能なSr、Caの量は変化させることが出来る。〈表B〉において、例1、例2、例3、例4、例5の順でCaの量を減らし、Srの量を増加させている。〈表B〉に記載の例1〜5は、いずれもCASNと同型の斜方晶であり、最強ピーク以下いくつかのピークを示す。
〈表B〉から、Srの置換量によって、回折ピーク位置がずれることがわかる。CaよりもSrの方が、イオン半径が大きいため、Sr置換量が多いものほど格子定数が大きくなり、ピーク位置の2θの値が小さくなる。
【0112】
【表4】

【0113】
本発明の蛍光体のCaAlSiN結晶と同一の結晶構造に由来する粉末X線回折パターンにおけるピークの位置は、通常、例5を下限とし、例1を上限とする位置であり、好ましくは、例4を下限とし、例2を上限とする位置である。さらには、例3のピーク位置±0.2°の範囲内であることが好ましい。
【0114】
本発明の蛍光体は、〈表B〉に示すピークのうち、通常7本以上を有し、好ましくは10本以上を有する。
【0115】
(発光スペクトル)
例えば、本発明の蛍光体が、前記一般式[2]で表される化学組成を有し、かつ、付活元素MとしてEuを含有する場合、橙色ないし赤色蛍光体としての用途に鑑みて、ピーク波長465nmの光で励起した場合における発光スペクトルを測定した場合に、以下の特徴を有することが好ましい。
【0116】
まず、上記の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおけるピーク波長λp(nm)が、通常590nmより大きく、中でも600nm以上、また、通常650nm以下、中でも640nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長λpが短過ぎると黄味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると暗赤味を帯びる傾向があり、何れも橙色ないし赤色光としての特性が低下する場合があるので好ましくない。
【0117】
また、上記の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅(full width at half maximum。以下適宜「FWHM」と略称する。)が、通常50nmより大きく、中でも70nm以上、更には75nm以上、また、通常120nm未満、中でも100nm以下、更には90nm以下の範囲であることが好ましい。この半値幅FWHMが狭過ぎると発光強度が低下する場合があり、広過ぎると色純度が低下する場合がある。
【0118】
なお、上記の蛍光体をピーク波長465nmの光で励起するには、例えば、GaN系発光ダイオードを用いることができる。また、本発明の蛍光体の発光スペクトルの測定は、例えば、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)等を用いて行うことができる。発光ピーク波長、及び発光ピークの半値幅は、得られる発光スペクトルから算出することができる。
【0119】
(重量メジアン径D50
本発明の蛍光体は、その重量メジアン径D50が、通常3μm以上、中でも5μm以上、また、通常30μm以下、中でも20μm以下の範囲であることが好ましい。重量メジアン径D50が小さすぎると、輝度が低下する場合や、蛍光体粒子が凝集してしまう場合がある。一方、重量メジアン径D50が大きすぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。
なお、本発明における蛍光体の重量メジアン径D50は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置等の装置を用いて測定することができる。
【0120】
(温度特性)
本発明の蛍光体は、温度特性にも優れるものである。具体的には、波長455nmにピークを有する光を照射した場合における25℃での発光スペクトル図中の発光ピーク強度値に対する150℃での発光スペクトル図中の発光ピーク強度値の割合が、通常55%以上であり、好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。
また、通常の蛍光体は温度上昇と共に発光強度が低下するので、該割合が100%を越えることは考えられにくいが、何らかの理由により100%を超えることがあっても良い。ただし150%を超えるようであれば、温度変化により色ずれを起こす傾向となる。
【0121】
本発明の蛍光体は、上記発光ピーク強度に関してだけでなく、輝度の点からも温度特性に優れたものである。具体的には、波長455nmにピークを有する光を照射した場合の25℃での輝度に対する150℃での輝度の割合も、通常55%以上であり、好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。
【0122】
尚、上記温度特性を測定する場合は、例えば、発光スペクトル装置として大塚電子製MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置、輝度測定装置として色彩輝度計BM5A、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ及び光源として150Wキセノンランプを備える装置を用いて、以下のように測定することができる。ステージに蛍光体サンプルを入れたセルを載せ、温度を20℃から150℃の範囲で変化させる。蛍光体の表面温度が測定温度で一定となったことを確認する。次いで、光源から回折格子で分光して取り出したピーク波長455nmの光で蛍光体を励起して発光スペクトル測定する。測定された発光スペクトルから発光ピーク強度を求める。ここで、蛍光体の励起光照射側の表面温度の測定値は、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いる。
【0123】
(その他)
本発明の蛍光体は、その内部量子効率が高いほど好ましい。その値は、通常0.5以上、好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上である。内部量子効率が低いと発光効率が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0124】
本発明の蛍光体は、その吸収効率も高いほど好ましい。その値は通常0.5以上、好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上である。吸収効率が低いと発光効率が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0125】
[蛍光体の用途]
本発明の蛍光体は、高輝度であり、演色性が高いという特性を生かして、各種の発光装置(後述する「本発明の発光装置」)に好適に用いることができる。例えば、本発明の蛍光体が橙色ないし赤色蛍光体である場合、緑色蛍光体、青色蛍光体等を組み合わせれば、高演色性の白色発光装置を実現することができる。こうして得られた発光装置を、画像表示装置の発光部(特に液晶用バックライトなど)や照明装置として使用することができる。また、本発明の蛍光体を単独で使用することも可能であり、例えば、近紫外LEDと本発明の橙色蛍光体とを組み合わせれば、橙色発光装置を製造することができる。
【0126】
[蛍光体含有組成物]
本発明の蛍光体は、液体媒体と混合して用いることもできる。特に、本発明の蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液体媒体中に分散させた形態で用いることが好ましい。本発明の蛍光体を液体媒体中に分散させたものを、適宜「本発明の蛍光体含有組成物」と呼ぶものとする。
【0127】
<蛍光体>
本発明の蛍光体含有組成物に含有させる本発明の蛍光体の種類に制限は無く、上述したものから任意に選択することができる。また、本発明の蛍光体含有組成物に含有させる本発明の蛍光体は、1種のみであってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。更に、本発明の蛍光体含有組成物には、必要に応じて本発明の蛍光体以外の蛍光体を含有させてもよい。
【0128】
<液体媒体>
本発明の蛍光体含有組成物に使用される液体媒体としては、該蛍光体の性能を目的の範囲で損なわない限りにおいて特に限定されない。例えば、所望の使用条件下において液状の性質を示し、本発明の蛍光体を好適に分散させるとともに、好ましくない反応を生じないものであれば、任意の無機系材料及び/又は有機系材料が使用できる。
【0129】
無機系材料としては、例えば、金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液、又はこれらの組み合わせを固化した無機系材料(例えばシロキサン結合を有する無機系材料)等を挙げることができる。
【0130】
有機系材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。具体的には、例えば、ポリメタアクリル酸メチル等のメタアクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;ブチラール樹脂;ポリビニルアルコール;エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0131】
これらの中で特に照明など大出力の発光装置に蛍光体を用いる場合には、耐熱性や耐光性等を目的として珪素含有化合物を使用することが好ましい。
【0132】
珪素含有化合物とは、分子中に珪素原子を有する化合物をいい、例えば、ポリオルガノシロキサン等の有機材料(シリコーン系材料)、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の無機材料、及びホウケイ酸塩、ホスホケイ酸塩、アルカリケイ酸塩等のガラス材料を挙げることができる。中でも、ハンドリングの容易さ等の点から、シリコーン系材料が好ましい。
【0133】
上記シリコーン系材料とは、通常、シロキサン結合を主鎖とする有機重合体をいい、例えば下記式(i)で表される化合物及び/又はそれらの混合物が挙げられる。
【0134】
【化1】

【0135】
上記式(i)において、RからRは同じであっても異なってもよく、有機官能基、水酸基、水素原子からなる群から選択される。
また、上記式(i)において、M、D、T及びQは、各々0以上1未満の数であり、且つ、M+D+T+Q=1を満足する数である。
【0136】
該シリコーン系材料は、後述の第1の発光体として用いることができる半導体発光素子の封止に用いる場合、液状のシリコーン系材料を用いて封止した後、熱や光によって硬化させて用いることができる。
【0137】
シリコーン系材料を硬化のメカニズムにより分類すると、通常、付加重合硬化タイプ、縮重合硬化タイプ、紫外線硬化タイプ、パーオキサイド架硫タイプなどのシリコーン系材料を挙げることができる。これらの中では、付加重合硬化タイプ(付加型シリコーン樹脂)、縮合硬化タイプ(縮合型シリコーン樹脂)、紫外線硬化タイプが好適である。以下、付加型シリコーン系材料、及び縮合型シリコーン系材料について説明する。
【0138】
付加型シリコーン系材料とは、ポリオルガノシロキサン鎖が、有機付加結合により架橋されたものをいう。代表的なものとしては、例えばビニルシランとヒドロシランをPt触媒などの付加型触媒の存在下反応させて得られるSi−C−C−Si結合を架橋点に有する化合物等を挙げることができる。これらは市販のものを使用することができ、例えば付加重合硬化タイプの具体的商品名としては信越化学工業社製「LPS−1400」「LPS−2410」「LPS−3400」等が挙げられる。
【0139】
一方、縮合型シリコーン系材料とは、例えば、アルキルアルコキシシランの加水分解・重縮合で得られるSi−O−Si結合を架橋点に有する化合物を挙げることができる。
具体的には、下記一般式(ii)及び/又は(iii)で表される化合物、及び/又はそ
のオリゴマーを加水分解・重縮合して得られる重縮合物が挙げられる。
【0140】
m+m−n (ii)
(式(ii)中、Mは、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、及びチタンより選択される少なくとも1種の元素を表し、Xは、加水分解性基を表し、Yは、1価の有機基を表し、mは、Mの価数を表す1以上の整数を表し、nは、X基の数を表す1以上の整数を表す。但し、m≧nである。)
【0141】
s+s−t (iii)
(式(iii)中、Mは、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、及びチタンより選択される少なくとも1種の元素を表し、Xは、加水分解性基を表し、Yは、1価の有機基を表し、Yは、u価の有機基を表し、sは、Mの価数を表す1以上の整数を表し、tは、1以上、s−1以下の整数を表し、uは、2以上の整数を表す。)
【0142】
また、縮合型シリコーン系材料には、硬化触媒を含有させてもよい。この硬化触媒としては、例えば、金属キレート化合物などを好適なものとして用いることができる。金属キレート化合物は、Ti、Ta、Zrの何れか1以上を含むものが好ましく、Zrを含むものが更に好ましい。なお、硬化触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0143】
このような縮合型シリコーン系材料としては、例えば特願2006−47274号〜47277号明細書及び特願2006−176468号明細書に記載の半導体発光デバイス用部材が好適である。
【0144】
縮合型シリコーン系材料の中で、特に好ましい材料について、以下に説明する。
シリコーン系材料は、一般に半導体発光素子や素子を配置する基板、パッケージ等との接着性が弱いことが課題とされるが、密着性が高いシリコーン系材料として、特に、以下の特徴〔1〕〜〔3〕のうち1つ以上を有する縮合型シリコーン系材料が好ましい。
【0145】
〔1〕ケイ素含有率が20重量%以上である。
〔2〕後に詳述する方法によって測定した固体Si−核磁気共鳴(NMR)スペクトルにおいて、下記(a)及び/又は(b)のSiに由来するピークを少なくとも1つ有する。
(a)ピークトップの位置がテトラメトキシシランを基準としてケミカルシフト−40ppm以上、0ppm以下の領域にあり、ピークの半値幅が0.3ppm以上、3.0ppm以下であるピーク。
(b)ピークトップの位置がテトラメトキシシランを基準としてケミカルシフト−80ppm以上、−40ppm未満の領域にあり、ピークの半値幅が0.3ppm以上5.0ppm以下であるピーク。
〔3〕シラノール含有率が0.1重量%以上、10重量%以下である。
【0146】
本発明においては、上記の特徴〔1〕〜〔3〕のうち、特徴〔1〕を有するシリコーン系材料が好ましく、上記の特徴〔1〕及び〔2〕を有するシリコーン系材料がより好ましく、上記の特徴〔1〕〜〔3〕を全て有するシリコーン系材料が特に好ましい。
以下、上記の特徴〔1〕〜〔3〕について説明する。
【0147】
<特徴〔1〕(ケイ素含有率)>
従来のシリコーン系材料の基本骨格は炭素−炭素及び炭素−酸素結合を基本骨格としたエポキシ樹脂等の有機樹脂であるが、これに対し本発明のシリコーン系材料の基本骨格はガラス(ケイ酸塩ガラス)などと同じ無機質のシロキサン結合である。このシロキサン結合は、下記表5の化学結合の比較表からも明らかなように、シリコーン系材料として優れた以下の特徴がある。
【0148】
(I)結合エネルギーが大きく、熱分解・光分解し難いため、耐光性が良好である。
(II)電気的に若干分極している。
(III)鎖状構造の自由度は大きく、フレキシブル性に富む構造が可能であり、シロキサ
ン鎖中心に自由回転可能である。
(IV)酸化度が大きく、これ以上酸化されない。
(V)電気絶縁性に富む。
【0149】
【表5】

【0150】
これらの特徴から、シロキサン結合が3次元的に、しかも高架橋度で結合した骨格で形成されるシリコーン系のシリコーン系材料は、ガラス或いは岩石などの無機質に近く、耐熱性・耐光性に富む保護皮膜となることが理解できる。特にメチル基を置換基とするシリコーン系材料は、紫外領域に吸収を持たないため光分解が起こり難く、耐光性に優れる。
【0151】
本発明に好適なシリコーン系材料のケイ素含有率は、通常20重量%以上であるが、中でも25重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。一方、上限としては、SiOのみからなるガラスのケイ素含有率が47重量%であるという理由から、通常4
7重量%以下の範囲である。
【0152】
なお、シリコーン系材料のケイ素含有率は、例えば以下の方法を用いて誘導結合高周波プラズマ分光(inductively coupled plasma spectrometry:以下適宜「ICP」と略する。)分析を行ない、その結果に基づいて算出することができる。
【0153】
{ケイ素含有率の測定}
シリコーン系材料を白金るつぼ中にて大気中、450℃で1時間、次いで750℃で1時間、950℃で1.5時間保持して焼成し、炭素成分を除去した後、得られた残渣少量に10倍量以上の炭酸ナトリウムを加えてバーナー加熱し溶融させ、これを冷却して脱塩水を加え、更に塩酸にてpHを中性程度に調整しつつケイ素として数ppm程度になるよう定容し、ICP分析を行なう。
【0154】
<特徴〔2〕(固体Si−NMRスペクトル)>
本発明に好適なシリコーン系材料の固体Si−NMRスペクトルを測定すると、有機基の炭素原子が直接結合したケイ素原子に由来する前記(a)及び/又は(b)のピーク領域に少なくとも1本、好ましくは複数本のピークが観測される。
【0155】
ケミカルシフト毎に整理すると、本発明に好適なシリコーン系材料において、(a)に記載のピークの半値幅は、分子運動の拘束が小さいために、全般に後述の(b)に記載のピークの場合より小さく、通常3.0ppm以下、好ましくは2.0ppm以下、また、通常0.3ppm以上の範囲である。
一方、(b)に記載のピークの半値幅は、通常5.0ppm以下、好ましくは4.0ppm以下、また、通常0.3ppm以上、好ましくは0.4ppm以上の範囲である。
【0156】
上記のケミカルシフト領域において観測されるピークの半値幅が大き過ぎると、分子運動の拘束が大きくひずみの大きな状態となり、クラックが発生し易く、耐熱・耐候耐久性に劣る部材となる場合がある。例えば、四官能シランを多用した場合や、乾燥工程において急速な乾燥を行ない大きな内部応力を蓄えた状態などにおいて、半値幅範囲が上記の範囲より大きくなる。
【0157】
また、ピークの半値幅が小さ過ぎると、その環境にあるSi原子はシロキサン架橋に関わらないことになり、三官能シランが未架橋状態で残留する例など、シロキサン結合主体で形成される物質より耐熱・耐候耐久性に劣る部材となる場合がある。
【0158】
但し、大量の有機成分中に少量のSi成分が含まれるシリコーン系材料においては、−80ppm以上に上述の半値幅範囲のピークが認められても、良好な耐熱・耐光性及び塗布性能は得られない場合がある。
【0159】
本発明に好適なシリコーン系材料のケミカルシフトの値は、例えば以下の方法を用いて固体Si−NMR測定を行ない、その結果に基づいて算出することができる。また、測定データの解析(半値幅やシラノール量解析)は、例えばガウス関数やローレンツ関数を使用した波形分離解析等により、各ピークを分割して抽出する方法で行なう。
【0160】
{固体Si−NMRスペクトル測定及びシラノール含有率の算出}
シリコーン系材料について固体Si−NMRスペクトルを行なう場合、以下の条件で固体Si−NMRスペクトル測定及び波形分離解析を行なう。また、得られた波形データより、シリコーン系材料について、各々のピークの半値幅を求める。また、全ピーク面積に対するシラノール由来のピーク面積の比率より、全ケイ素原子中のシラノールとなっているケイ素原子の比率(%)を求め、別に分析したケイ素含有率と比較することによりシラノール含有率を求める。
【0161】
{装置条件}
装置:Chemagnetics社InfinityCMX-400核磁気共鳴分光装置
29Si共鳴周波数:79.436MHz
プローブ:7.5mmφCP/MAS用プローブ
測定温度:室温
試料回転数:4kHz
測定法:シングルパルス法
1Hデカップリング周波数:50kHz
29Siフリップ角:90゜
29Si90゜パルス幅:5.0μs
繰り返し時間:600s
積算回数:128回
観測幅:30kHz
ブロードニングファクター:20Hz
基準試料:テトラメトキシシラン
【0162】
シリコーン系材料については、512ポイントを測定データとして取り込み、8192ポイントにゼロフィリングしてフーリエ変換する。
【0163】
{波形分離解析法}
フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについてローレンツ波形及びガウス波形或いは両者の混合により作成したピーク形状の中心位置、高さ、半値幅を可変パラメータとして、非線形最小二乗法により最適化計算を行なう。
なお、ピークの同定は、AIChE Journal,44(5),p.1141,1998年等を参考にする。
【0164】
<特徴〔3〕(シラノール含有率)>
本発明に好適なシリコーン系材料は、シラノール含有率が、通常0.1重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下、更に好ましくは5重量%以下の範囲である。シラノール含有率を低くすることにより、シラノール系材料は経時変化が少なく、長期の性能安定性に優れ、吸湿・透湿性何れも低い優れた性能を有する。但し、シラノールが全く含まれない部材は密着性に劣るため、シラノール含有率に上記のごとく最適な範囲が存在する。
【0165】
なお、シリコーン系材料のシラノール含有率は、例えば上記<特徴〔2〕(固体Si−NMRスペクトル)>の{固体Si−NMRスペクトル測定及びシラノール含有率の算出}の項において説明した方法を用いて固体Si−NMRスペクトル測定を行ない、全ピーク面積に対するシラノール由来のピーク面積の比率より、全ケイ素原子中のシラノールとなっているケイ素原子の比率(%)を求め、別に分析したケイ素含有率と比較することにより算出することができる。
【0166】
また、本発明に好適なシリコーン系材料は、適当量のシラノールを含有しているため、通常は、デバイス表面に存在する極性部分にシラノールが水素結合し、密着性が発現する。極性部分としては、例えば、水酸基やメタロキサン結合の酸素等が挙げられる。
【0167】
また、本発明に好適なシリコーン系材料は、通常、適当な触媒の存在下で加熱することにより、デバイス表面の水酸基との間に脱水縮合による共有結合を形成し、更に強固な密着性を発現することができる。
【0168】
一方、シラノールが多過ぎると、系内が増粘して塗布が困難になったり、活性が高くなり加熱により軽沸分が揮発する前に固化したりすることによって、発泡や内部応力の増大が生じ、クラックなどを誘起する場合がある。
【0169】
<液体媒体の含有率>
本発明の蛍光体含有組成物の液体媒体の含有率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の蛍光体含有組成物全体に対して、通常50重量%以上、好ましくは75重量%以上であり、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下である。液体媒体の量が多い場合には特段の問題は起こらないが、発光装置とした場合に所望の色度座標、演色指数、発光効率等を得るには、通常、上記のような配合比率で液体媒体を用いることが望ましい。一方、液体媒体が少な過ぎると流動性がなく取り扱い難くなる可能性がある。
【0170】
液体媒体は、本発明の蛍光体含有組成物において、主にバインダーとしての役割を有する。液体媒体は、1種を単独で用いてもよいが、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。例えば、耐熱性や耐光性等を目的として珪素含有化合物を使用する場合は、当該珪素含有化合物の耐久性を損なわない程度に、エポキシ樹脂など他の熱硬化性樹脂を含有してもよい。この場合、他の熱硬化性樹脂の含有量は、バインダーである液体媒体全量に対して通常25重量%以下、好ましくは10重量%以下とすることが望ましい。
【0171】
<その他の成分>
なお、本発明の蛍光体含有組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、蛍光体及び液体媒体以外に、その他の成分を含有させてもよい。また、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0172】
[発光装置]
次に、本発明の発光装置について説明する。
本発明の発光装置(以下、適宜「発光装置」という)は、第1の発光体(励起光源)と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを有する発光装置であって、該第2の発光体が、前述の本発明の蛍光体の1種又は2種以上を第1の蛍光体として含有するものである。
【0173】
本発明の発光装置に用いる本発明の蛍光体としては、前述の本発明の蛍光体であれば、その組成や発光色に特に制限はない。例えば、本発明の蛍光体が、前記一般式[2]で表され、かつ、付活元素MとしてEuを含有する場合、本発明の蛍光体は、通常は、励起光源からの光の照射下において、橙色ないし赤色領域の蛍光を発する蛍光体(以下「本発明の橙色ないし赤色蛍光体」と言う場合がある。)となる。具体的に、本発明の蛍光体が橙色ないし赤色蛍光体である場合は、590nm〜640nmの波長範囲に発光ピークを有するものが好ましい。本発明の蛍光体は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0174】
また、本発明の発光装置に用いる本発明の蛍光体の重量メジアン径D50は、通常10μm以上、中でも15μm以上、また、通常30μm以下、中でも20μm以下の範囲であることが好ましい。重量メジアン径D50が小さ過ぎると、輝度が低下し、蛍光体粒子が凝集してしまう傾向がある。一方、重量メジアン径D50が大き過ぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。
【0175】
また、本発明の発光装置に用いられる本発明の蛍光体の好ましい具体例としては、前述の[蛍光体の組成]の欄に記載した本発明の蛍光体や、後述の[実施例]の欄の各実施例に用いた蛍光体が挙げられる。
【0176】
本発明の発光装置は、第1の発光体(励起光源)を有し、且つ、第2の発光体として少なくとも本発明の蛍光体を使用している他は、その構成は制限されず、公知の装置構成を任意にとることが可能である。装置構成の具体例については後述する。
【0177】
本発明の発光装置の発光スペクトルにおける橙色ないし赤色領域の発光ピークとしては、590nm〜670nmの波長範囲に発光ピークを有するものが好ましい。
【0178】
本発明の発光装置のうち、特に白色発光装置として、具体的には、第1の発光体として後述するような励起光源を用い、上述のような橙色ないし赤色蛍光体の他、後述するような緑色の蛍光を発する蛍光体(以下、適宜「緑色蛍光体」という)、青色の蛍光を発する蛍光体(以下、適宜「青色蛍光体」という)、黄色の蛍光を発する蛍光体(以下、適宜「黄色蛍光体」という)等の公知の蛍光体を任意に組み合わせて使用し、公知の装置構成をとることにより得られる。
【0179】
ここで、該白色発光装置の白色とは、JISZ8701により規定された、(黄みの)白、(緑みの)白、(青みの)白、(紫みの)白及び白の全てを含む意であり、このうち好ましくは白である。
【0180】
<発光装置の構成(発光体)>
(第1の発光体)
本発明の発光装置における第1の発光体は、後述する第2の発光体を励起する光を発光するものである。
【0181】
第1の発光体の発光波長は、後述する第2の発光体の吸収波長と重複するものであれば、特に制限されず、幅広い発光波長領域の発光体を使用することができる。通常は、紫外領域から青色領域までの発光波長を有する発光体が使用され、近紫外領域から青色領域までの発光波長を有する発光体を使用することが特に好ましい。
【0182】
第1の発光体の発光ピーク波長の具体的数値としては、通常200nm以上が望ましい。このうち、近紫外光を励起光として用いる場合には、通常300nm以上、好ましくは330nm以上、より好ましくは360nm以上、また、通常420nm以下の発光ピーク波長を有する発光体を使用することが望ましい。また、青色光を励起光として用いる場合には、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、また、通常500nm以下、好ましくは480nm以下の発光ピーク波長を有する発光体を使用することが望ましい。何れも、発光装置の色純度の観点からである。
【0183】
第1の発光体としては、一般的には半導体発光素子が用いられ、具体的には発光LEDや半導体レーザーダイオード(semiconductor laser diode。以下、適宜「LD」と略称する。)等が使用できる。その他、第1の発光体として使用できる発光体としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス発光素子、無機エレクトロルミネッセンス発光素子等が挙げられる。但し、第1の発光体として使用できるものは本明細書に例示されるものに限られない。
【0184】
中でも、第1の発光体としては、GaN系化合物半導体を使用したGaN系LEDやLDが好ましい。なぜなら、GaN系LEDやLDは、この領域の光を発するSiC系LED等に比し、発光出力や外部量子効率が格段に大きく、本発明の蛍光体と組み合わせることによって、非常に低電力で非常に明るい発光が得られるからである。例えば、20mAの電流負荷に対し、通常GaN系LEDやLDはSiC系の100倍以上の発光強度を有する。GaN系LEDやLDにおいては、AlGaN発光層、GaN発光層又はInGaN発光層を有しているものが好ましい。GaN系LEDにおいては、それらの中でもInGaN発光層を有するものは発光強度が非常に強いので特に好ましく、GaN系LEDにおいては、InGaN層とGaN層の多重量子井戸構造のものが発光強度は非常に強いので特に好ましい。
【0185】
なお、上記においてX+Yの値は通常0.8〜1.2の範囲の値である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましいものである。
【0186】
GaN系LEDはこれら発光層、p層、n層、電極、及び基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlGaN層、GaN層、又はInGaN層などでサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが、発光効率が高くて好ましく、更にヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが、発光効率が更に高いため、より好ましい。
なお、第1の発光体は、1個のみを用いてもよく、2個以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0187】
(第2の発光体)
本発明の発光装置における第2の発光体は、上述した第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する発光体であり、第1の蛍光体として前述の本発明の蛍光体(例えば、橙色ないし赤色蛍光体)を含有するとともに、その用途等に応じて適宜、後述する第2の蛍光体(例えば、緑色蛍光体、青色蛍光体、黄色蛍光体等)を含有する。また、例えば、第2の発光体は、第1及び第2の蛍光体を封止材料中に分散させて構成される。
【0188】
上記第2の発光体中に用いられる、本発明の蛍光体以外の蛍光体の組成には特に制限はないが、結晶母体となる、Y、YVO、ZnSiO、YAl12、SrSiO等に代表される金属酸化物、SrSi等に代表される金属窒化物、Ca(PO)Cl等に代表されるリン酸塩及びZnS、SrS、CaS等に代表される硫化物、YS、LaS等に代表される酸硫化物等にCe、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等の希土類金属のイオンやAg、Cu、Au、Al、Mn、Sb等の金属のイオンを付活元素又は共付活元素として組み合わせたものが挙げられる。
【0189】
結晶母体の好ましい例としては、例えば、(Zn,Cd)S、SrGa、SrS、ZnS等の硫化物;YS等の酸硫化物;(Y,Gd)Al12、YAlO、BaMgAl1017、(Ba,Sr)(Mg,Mn)Al1017、(Ba,Sr,Ca)(Mg,Zn,Mn)Al1017、BaAl1219、CeMgAl1119、(Ba,Sr,Mg)O・Al、BaAlSi、SrAl、SrAl1425、YAl12等のアルミン酸塩;YSiO、ZnSiO等の珪酸塩;SnO、Y等の酸化物;GdMgB10、(Y,Gd)BO等の硼酸塩;Ca10(PO)(F,Cl)、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO)Cl等のハロリン酸塩;Sr、(La,Ce)PO等のリン酸塩等を挙げることができる。
【0190】
但し、上記の結晶母体及び付活元素又は共付活元素は、元素組成には特に制限はなく、同族の元素と一部置き換えることもでき、得られた蛍光体は近紫外から可視領域の光を吸収して可視光を発するものであれば用いることが可能である。
【0191】
具体的には、蛍光体として以下に挙げるものを用いることが可能であるが、これらはあくまでも例示であり、本発明で使用できる蛍光体はこれらに限られるものではない。なお、以下の例示では、前述の通り、構造の一部のみが異なる蛍光体を、適宜省略して示している。
【0192】
(第1の蛍光体)
本発明の発光装置における第2の発光体は、第1の蛍光体として、少なくとも上述の本発明の蛍光体を含有する。本発明の蛍光体は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、第1の蛍光体としては、本発明の蛍光体以外にも、本発明の蛍光体と同色の蛍光を発する蛍光体(同色併用蛍光体)を用いてもよい。例えば、本発明の蛍光体が、前記一般式[2]で表され、かつ、付活元素MとしてEuを含有する場合において、通常、本発明の蛍光体は橙色ないし赤色蛍光体であるので、第1の蛍光体として、本発明の蛍光体と共に他種の橙色ないし赤色蛍光体を併用することができる。
【0193】
該橙色ないし赤色蛍光体としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。
この際、同色併用蛍光体である橙色ないし赤色蛍光体の発光ピーク波長は、通常570nm以上、好ましくは580nm以上、より好ましくは585nm以上、また、通常780nm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは680nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0194】
このような橙色ないし赤色蛍光体としては、例えば、赤色破断面を有する破断粒子から構成され、赤色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)Si:Euで表されるユーロピウム賦活アルカリ土類シリコンナイトライド系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ球形状を有する成長粒子から構成され、赤色領域の発光を行なう(Y,La,Gd,Lu)S:Euで表されるユーロピウム賦活希土類オキシカルコゲナイド系蛍光体等が挙げられる。
【0195】
更に、特開2004−300247号公報に記載された、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、W、及びMoよりなる群から選ばれる少なくも1種類の元素を含有する酸窒化物及び/又は酸硫化物を含有する蛍光体であって、Al元素の一部又は全てがGa元素で置換されたアルファサイアロン構造をもつ酸窒化物を含有する蛍光体も、本発明において用いることができる。なお、これらは酸窒化物及び/又は酸硫化物を含有する蛍光体である。
【0196】
また、そのほか、赤色蛍光体としては、(La,Y)S:Eu等のEu付活酸硫化物蛍光体、Y(V,P)O:Eu、Y:Eu等のEu付活酸化物蛍光体、(Ba,Mg)SiO:Eu,Mn、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu,Mn等のEu,Mn付活珪酸塩蛍光体、LiW:Eu、LiW:Eu,Sm、Eu、Eu:Nb、Eu:Sm等のEu付活タングステン酸塩蛍光体、(Ca,Sr)S:Eu等のEu付活硫化物蛍光体、YAlO:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、Ca(SiO:Eu、LiY(SiO:Eu、(Sr,Ba,Ca)SiO:Eu、SrBaSiO:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、(Y,Gd)Al12:Ce、(Tb,Gd)Al12:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu等のEu付活酸化物、窒化物又は酸窒化物蛍光体、(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Ce等のCe付活酸化物、窒化物又は酸窒化物蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロリン酸塩蛍光体、BaMgSi:Eu,Mn、(Ba,Sr,Ca,Mg)(Zn,Mg)Si:Eu,Mn等のEu,Mn付活珪酸塩蛍光体、3.5MgO・0.5MgF・GeO:Mn等のMn付活ゲルマン酸塩蛍光体、Eu付活αサイアロン等のEu付活酸窒化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La):Eu,Bi等のEu,Bi付活酸化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)S:Eu,Bi等のEu,Bi付活酸硫化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)VO:Eu,Bi等のEu,Bi付活バナジン酸塩蛍光体、SrY:Eu,Ce等のEu,Ce付活硫化物蛍光体、CaLa:Ce等のCe付活硫化物蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgP:Eu,Mn、(Sr,Ca,Ba,Mg,Zn):Eu,Mn等のEu,Mn付活リン酸塩蛍光体、(Y,Lu)WO:Eu,Mo等のEu,Mo付活タングステン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)Si:Eu,Ce(但し、x、y、zは、1以上の整数を表す。)等のEu,Ce付活窒化物蛍光体、(Ca,Sr,Ba,Mg)10(PO(F,Cl,Br,OH):Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロリン酸塩蛍光体、((Y,Lu,Gd,Tb)1−x−yScCe(Ca,Mg)1−r(Mg,Zn)2+rSiz−qGe12+δ等のCe付活珪酸塩蛍光体等を用いることも可能である。
【0197】
赤色蛍光体としては、β−ジケトネート、β−ジケトン、芳香族カルボン酸、又は、ブレンステッド酸等のアニオンを配位子とする希土類元素イオン錯体からなる赤色有機蛍光体、ペリレン系顔料(例えば、ジベンゾ{[f,f’]−4,4’,7,7’−テトラフェニル}ジインデノ[1,2,3−cd:1’,2’,3’−lm]ペリレン)、アントラキノン系顔料、レーキ系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、アントラセン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、フタロシアニン系顔料、トリフェニルメタン系塩基性染料、インダンスロン系顔料、インドフェノール系顔料、シアニン系顔料、ジオキサジン系顔料を用いることも可能である。
【0198】
以上の中でも、赤色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、(La,Y)S:Eu又はEu錯体を含むことが好ましく、より好ましくは(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)S:Eu又は(La,Y)S:Eu、もしくはEu(ジベンゾイルメタン)・1,10−フェナントロリン錯体等のβ−ジケトン系Eu錯体又はカルボン酸系Eu錯体を含むことが好ましく、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Sr,Ca)AlSiN:Eu又は(La,Y)S:Euが特に好ましい。
【0199】
また、以上例示の中でも、橙色蛍光体としては(Sr,Ba)SiO:Euが好ましい。
以上例示した橙色ないし赤色蛍光体は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0200】
(第2の蛍光体)
本発明の発光装置における第2の発光体は、その用途に応じて、上述の第1の蛍光体以外にも蛍光体(即ち、第2の蛍光体)を含有していてもよい。この第2の蛍光体は、第1の蛍光体とは発光ピーク波長が異なる蛍光体である。通常、これらの第2の蛍光体は、第2の発光体の発光の色調を調節するために使用されるため、第2の蛍光体としては第1の蛍光体とは異なる色の蛍光を発する蛍光体を使用することが多い。上記のように、第1の蛍光体として橙色ないし赤色蛍光体を使用する場合、第2の蛍光体としては、例えば緑色蛍光体、青色蛍光体、黄色蛍光体等の第1の蛍光体とは異なる色を発する蛍光体を用いる。
【0201】
本発明の発光装置に使用される第2の蛍光体の重量メジアン径は、通常10μm以上、中でも12μm以上、また、通常30μm以下、中でも25μm以下の範囲であることが好ましい。重量メジアン径D50が小さ過ぎると、輝度が低下し、蛍光体粒子が凝集してしまう傾向がある。一方、重量メジアン径D50が大き過ぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。
【0202】
<青色蛍光体>
第2の蛍光体として青色蛍光体を使用する場合、当該青色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、青色蛍光体の発光ピーク波長は、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上、また、通常490nm以下、好ましくは480nm以下、より好ましくは470nm以下、更に好ましくは460nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0203】
このような青色蛍光体としては、規則的な結晶成長形状としてほぼ六角形状を有する成
長粒子から構成され、青色領域の発光を行なう(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Euで表されるユーロピウム賦活バリウムマグネシウムアルミネート系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ球形状を有する成長粒子から構成され、青色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)(PO(Cl,F):Euで表されるユウロピウム賦活ハロリン酸カルシウム系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ立方体形状を有する成長粒子から構成され、青色領域の発光を行なう(Ca,Sr,Ba)Cl:Euで表されるユウロピウム賦活アルカリ土類クロロボレート系蛍光体、破断面を有する破断粒子から構成され、青緑色領域の発光を行なう(Sr,Ca,Ba)Al:Eu又は(Sr,Ca,Ba)Al1425:Euで表されるユウロピウム賦活アルカリ土類アルミネート系蛍光体等が挙げられる。
【0204】
また、そのほか、青色蛍光体としては、Sr:Sn等のSn付活リン酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba)Al:Eu又は(Sr,Ca,Ba)Al1425:Eu、BaMgAl1017:Eu、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu、BaMgAl1017:Eu,Tb,Sm、BaAl13:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、SrGa:Ce、CaGa:Ce等のCe付活チオガレート蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu,Mn等のEu,Mn付活アルミン酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Eu、(Ba,Sr,Ca)(PO(Cl,F,Br,OH):Eu,Mn,Sb等のEu付活ハロリン酸塩蛍光体、BaAlSi:Eu、(Sr,Ba)MgSi:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、Sr:Eu等のEu付活リン酸塩蛍光体、ZnS:Ag、ZnS:Ag,Al等の硫化物蛍光体、YSiO:Ce等のCe付活珪酸塩蛍光体、CaWO等のタングステン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)BPO:Eu,Mn、(Sr,Ca)10(PO・nB:Eu、2SrO・0.84P・0.16B:Eu等のEu,Mn付活硼酸リン酸塩蛍光体、SrSi・2SrCl:Eu等のEu付活ハロ珪酸塩蛍光体、SrSiAl19ON31:Eu、EuSiAl19ON31等のEu付活酸窒化物蛍光体、La1−xCeAl(Si6−zAl)(N10−z)(ここで、x、及びyは、それぞれ0≦x≦1、0≦z≦6を満たす数である。)、La1−x−yCeCaAl(Si6−zAl)(N10−z)(ここで、x、y、及びzは、それぞれ、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦6を満たす数である。)等のCe付活酸窒化物蛍光体等を用いることも可能である。
【0205】
また、青色蛍光体としては、例えば、ナフタル酸イミド系、ベンゾオキサゾール系、スチリル系、クマリン系、ピラリゾン系、トリアゾール系化合物の蛍光色素、ツリウム錯体等の有機蛍光体等を用いることも可能である。
【0206】
以上の例示の中でも、青色蛍光体としては、(Ca、Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu又は(Ba,Ca,Mg,Sr)SiO:Euを含むことが好ましく、(Ca、Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu又は(Ba,Ca,Sr)MgSi:Euを含むことがより好ましく、BaMgAl1017:Eu、Sr10(PO(Cl,F):Eu又はBaMgSi:Euを含むことがより好ましい。また、このうち照明用途及びディスプレイ用途としては(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Eu又は(Ca、Sr,Ba)MgAl1017:Euが特に好ましい。
【0207】
以上例示した青色蛍光体は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0208】
<黄色蛍光体>
第2の蛍光体として黄色蛍光体を使用する場合、当該黄色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、黄色蛍光体の発光ピーク波長は、通常530nm以上、好ましくは540nm以上、より好ましくは550nm以上、また、通常620nm以下、好ましくは600nm以下、より好ましくは580nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0209】
このような黄色蛍光体としては、各種の酸化物系、窒化物系、酸窒化物系、硫化物系、
酸硫化物系等の蛍光体が挙げられる。
特に、RE12:Ce(ここで、REは、Y、Tb、Gd、Lu、及びSmからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表し、Mは、Al、Ga、及びScからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。)やM12:Ce(ここで、Mは2価の金属元素、Mは3価の金属元素、Mは4価の金属元素を表す。)等で表されるガーネット構造を有するガーネット系蛍光体、AE:Eu(ここで、AEは、Ba、Sr、Ca、Mg、及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表し、Mは、Si、及び/又はGeを表す。)等で表されるオルソシリケート系蛍光体、これらの系の蛍光体の構成元素の酸素の一部を窒素で置換した酸窒化物系蛍光体、AEAlSiN:Ce(ここで、AEは、Ba、Sr、Ca、Mg及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。)等のCaAlSiN構造を有する窒化物系蛍光体等のCeで付活した蛍光体が挙げられる。
【0210】
また、その他、黄色蛍光体としては、CaGa:Eu、(Ca,Sr)Ga:Eu、(Ca,Sr)(Ga,Al):Eu等の硫化物系蛍光体、Cax(Si,Al)12(O,N)16:Eu等のSiAlON構造を有する酸窒化物系蛍光体等のEuで付活した蛍光体、(M1−A−BEuMn(BO1−P(POX(但し、Mは、Ca、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種以上の元素を表し、Xは、F、Cl、及びBrからなる群より選ばれる1種以上の元素を表す。A、B、及びPは、各々、0.001≦A≦0.3、0≦B≦0.3、0≦P≦0.2を満たす数を表す。)等のEu付活又はEu,Mn共付活ハロゲン化ホウ酸塩蛍光体等を用いることも可能である。
【0211】
また、黄色蛍光体としては、例えば、brilliant sulfoflavine FF(Colour Index Number 56205)、basic yellow HG(Colour Index Number 46040)、eosine(Colour Index Number 45380)、rhodamine 6G(Colour Index Number 45160)等の蛍光染料等を用いることも可能である。
【0212】
以上例示した黄色蛍光体は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0213】
<緑色蛍光体>
第2の蛍光体として緑色蛍光体を使用する場合、当該緑色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、緑色蛍光体の発光ピーク波長は、通常500nmより大きく、中でも510nm以上、更には515nm以上、また、通常550nm以下、中でも542nm以下、更には535nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長が短過ぎると青味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると黄味を帯びる傾向があり、何れも緑色光としての特性が低下する場合がある。
【0214】
緑色蛍光体として具体的には、例えば、破断面を有する破断粒子から構成され、緑色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)Si:Euで表されるユウロピウム付活アルカリ土類シリコンオキシナイトライド系蛍光体等が挙げられる。
【0215】
また、その他の緑色蛍光体としては、SrAl1425:Eu、(Ba,Sr,Ca)Al:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(Sr,Ba)AlSi:Eu、(Ba,Mg)SiO:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ba,Sr,Ca)(Mg,Zn)Si:Eu、(Ba,Ca,Sr,Mg)(Sc,Y,Lu,Gd)(Si,Ge)24:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、YSiO:Ce,Tb等のCe,Tb付活珪酸塩蛍光体、Sr−Sr:Eu等のEu付活硼酸リン酸塩蛍光体、SrSi−2SrCl:Eu等のEu付活ハロ珪酸塩蛍光体、ZnSiO:Mn等のMn付活珪酸塩蛍光体、CeMgAl1119:Tb、YAl12:Tb等のTb付活アルミン酸塩蛍光体、Ca(SiO:Tb、LaGaSiO14:Tb等のTb付活珪酸塩蛍光体、(Sr,Ba,Ca)Ga:Eu,Tb,Sm等のEu,Tb,Sm付活チオガレート蛍光体、Y(Al,Ga)12:Ce、(Y,Ga,Tb,La,Sm,Pr,Lu)(Al,Ga)12:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、CaScSi12:Ce、Ca(Sc,Mg,Na,Li)Si12:Ce等のCe付活珪酸塩蛍光体、CaSc:Ce等のCe付活酸化物蛍光体、Eu付活βサイアロン等のEu付活酸窒化物蛍光体、BaMgAl1017:Eu,Mn等のEu,Mn付活アルミン酸塩蛍光体、SrAl:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(La,Gd,Y)S:Tb等のTb付活酸硫化物蛍光体、LaPO:Ce,Tb等のCe,Tb付活リン酸塩蛍光体、ZnS:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al等の硫化物蛍光体、(Y,Ga,Lu,Sc,La)BO:Ce,Tb、NaGd:Ce,Tb、(Ba,Sr)(Ca,Mg,Zn)B:K,Ce,Tb等のCe,Tb付活硼酸塩蛍光体、CaMg(SiOCl:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロ珪酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba)(Al,Ga,In):Eu等のEu付活チオアルミネート蛍光体やチオガレート蛍光体、(Ca,Sr)(Mg,Zn)(SiOCl:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロ珪酸塩蛍光体、MSi:Eu、MSi12:Eu(但し、Mはアルカリ土類金属元素を表す。)等のEu付活酸窒化物蛍光体等を用いることも可能である。
【0216】
また、緑色蛍光体としては、ピリジン−フタルイミド縮合誘導体、ベンゾオキサジノン系、キナゾリノン系、クマリン系、キノフタロン系、ナルタル酸イミド系等の蛍光色素、テルビウム錯体等の有機蛍光体を用いることも可能である。
【0217】
以上例示した緑色蛍光体は、いずれか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0218】
<第2の蛍光体の選択>
上記第2の蛍光体としては、1種類の蛍光体を単独で使用してもよく、2種以上の蛍光体を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、第1の蛍光体と第2の蛍光体との比率も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。従って、第2の蛍光体の使用量、並びに、第2の蛍光体として用いる蛍光体の組み合わせ及びその比率等は、発光装置の用途等に応じて任意に設定すればよい。
【0219】
本発明の発光装置において、以上説明した第2の蛍光体(黄色蛍光体、青色蛍光体、緑色蛍光体等)の使用の有無及びその種類は、発光装置の用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、本発明の発光装置を橙色ないし赤色発光の発光装置として構成する場合には、第1の蛍光体(橙色ないし赤色蛍光体)のみを使用すればよく、第2の蛍光体の使用は通常は不要である。
【0220】
一方、本発明の発光装置を白色発光の発光装置として構成する場合には、所望の白色光が得られるように、第1の発光体と、第1の蛍光体(橙色ないし赤色蛍光体)と、第2の蛍光体を適切に組み合わせればよい。具体的に、本発明の発光装置を白色発光の発光装置として構成する場合における、第1の発光体と、第1の蛍光体と、第2の蛍光体との好ましい組み合わせの例としては、以下の(i)〜(iii)の組み合わせが挙げられる。
【0221】
(i)第1の発光体として青色発光体(青色LED等)を使用し、第1の蛍光体として赤色蛍光体(本発明の蛍光体等)を使用し、第2の蛍光体として緑色蛍光体を使用する。
【0222】
(ii)第1の発光体として近紫外発光体(近紫外LED等)を使用し、第1の蛍光体として赤色蛍光体(本発明の蛍光体等)を使用し、第2の蛍光体として青色蛍光体及び緑色蛍光体を併用する。
【0223】
(iii)第1の発光体として青色発光体(青色LED等)を使用し、第1の蛍光体として橙色蛍光体(本発明の蛍光体等)を使用し、第2の蛍光体として緑色蛍光体を使用する。
【0224】
上記の蛍光体の組み合わせについて、さらに具体例を以下の表a)〜h)に挙げる。
但し、以下の表d)、表h)、及び後掲の表5)で深赤色蛍光体として例示している(Ca,Sr)AlSiNi:Euとは、CaとSrの合計量に対するCaの量が40モル%以上であり、波長630nm以上700nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する蛍光体であり、本発明の蛍光体であってもよい。
【0225】
【表6】

【0226】
【表7】

【0227】
【表8】

【0228】
これらの組み合わせの中でも、半導体発光素子と蛍光体を、下記の表1)〜7)に示す組み合わせで使用した発光装置が特に好ましい。
【0229】
【表9】

【0230】
【表10】

【0231】
また、本発明の蛍光体は、他の蛍光体と混合(ここで、混合とは、必ずしも蛍光体同士が混ざり合っている必要はなく、異種の蛍光体が組み合わされていることを意味する。)して用いることができる。特に、上記に記載の組み合わせで蛍光体を混合すると、好ましい蛍光体混合物が得られる。なお、混合する蛍光体の種類やその割合に特に制限はない。
【0232】
<封止材料>
本発明の発光装置において、上記第1及び/又は第2の蛍光体は、通常、封止材料である液体媒体に分散させて用いられる。
該液体媒体としては、前述の[蛍光体含有組成物]の項で記載したのと同様のものが挙げられる。
【0233】
また、該液体媒体は、封止部材の屈折率を調整するために、高い屈折率を有する金属酸化物となり得る金属元素を含有させることができる。高い屈折率を有する金属酸化物を与える金属元素の例としては、Si、Al、Zr、Ti、Y、Nb、B等が挙げられる。これらの金属元素は単独で使用されてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で併用されてもよい。
【0234】
このような金属元素の存在形態は、封止部材の透明度を損なわなければ特に限定されず、例えば、メタロキサン結合として均一なガラス層を形成していても、封止部材中に粒子状で存在していてもよい。粒子状で存在している場合、その粒子内部の構造はアモルファス状であっても結晶構造であってもよいが、高屈折率を与えるためには結晶構造であることが好ましい。また、その粒子径は、封止部材の透明度を損なわないために、通常は、半導体発光素子の発光波長以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。例えばシリコーン系材料に、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化ニオブ等の粒子を混合することにより、上記の金属元素を封止部材中に粒子状で存在させることができる。
また、上記液体媒体としては、更に、拡散剤、フィラー、粘度調整剤、紫外線吸収剤等公知の添加剤を含有していてもよい。
【0235】
<発光装置の構成(その他)>
本発明の発光装置は、上述の第1の発光体及び第2の発光体を備えていれば、そのほかの構成は特に制限されないが、通常は、適当なフレーム上に上述の第1の発光体及び第2の発光体を配置してなる。この際、第1の発光体の発光によって第2の発光体が励起されて(即ち、第1及び第2の蛍光体が励起されて)発光を生じ、且つ、この第1の発光体の発光及び/又は第2の発光体の発光が、外部に取り出されるように配置されることになる。この場合、第1の蛍光体と第2の蛍光体とは必ずしも同一の層中に混合されなくてもよく、例えば、第1の蛍光体を含有する層の上に第2の蛍光体を含有する層が積層する等、蛍光体の発色毎に別々の層に蛍光体を含有するようにしてもよい。
【0236】
また、本発明の発光装置では、上述の励起光源(第1の発光体)、蛍光体(第2の発光体)及びフレーム以外の部材を用いてもよい。その例としては、前述の封止材料が挙げられる。該封止材料は、発光装置において、蛍光体(第2の発光体)を分散させる目的以外にも、励起光源(第1の発光体)、蛍光体(第2の発光体)及びフレーム間を接着する目的で用いたりすることができる。
【0237】
<発光装置の実施形態>
以下、本発明の発光装置について、具体的な実施の形態を挙げて、より詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0238】
本発明の発光装置の一例における、励起光源となる第1の発光体と、蛍光体を有する蛍光体含有部として構成された第2の発光体との位置関係を示す模式的斜視図を図1に示す。図1中の符号1は蛍光体含有部(第2の発光体)、符号2は励起光源(第1の発光体)としての面発光型GaN系LD、符号3は基板を表す。相互に接触した状態をつくるために、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とそれぞれ別個に作製し、それらの面同士を接着剤やその他の手段によって接触させてもよいし、LD(2)の発光面上に蛍光体含有部(第2の発光体)を製膜(成型)させてもよい。これらの結果、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とを接触した状態とすることができる。
【0239】
このような装置構成をとった場合には、励起光源(第1の発光体)からの光が蛍光体含有部(第2の発光体)の膜面で反射されて外にしみ出るという光量損失を避けることができるので、装置全体の発光効率を良くすることができる。
【0240】
図2(a)は、一般的に砲弾型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。該発光装置(4)において、符号5はマウントリード、符号6はインナーリード、符号7は励起光源(第1の発光体)、符号8は蛍光体含有樹脂部、符号9は導電性ワイヤ、符号10はモールド部材をそれぞれ指す。
【0241】
また、図2(b)は、表面実装型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。図中、符号22は励起光源(第1の発光体)、符号23は蛍光体含有部(第2の発光体)としての蛍光体含有樹脂部、符号24はフレーム、符号25は導電性ワイヤ、符号26及び符号27は電極をそれぞれ指す。
【0242】
<発光装置の用途>
本発明の発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、色再現範囲が広く、且つ、演色性も高いことから、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
【0243】
[照明装置]
本発明の発光装置を照明装置に適用する場合には、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。例えば、図3に示されるような、前述の発光装置(4)を組み込んだ面発光照明装置(11)を挙げることができる。
【0244】
図3は、本発明の照明装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。この図3に示すように、該面発光照明装置は、内面を白色の平滑面等の光不透過性とした方形の保持ケース(12)の底面に、多数の発光装置(13)(前述の発光装置(4)に相当)を、その外側に発光装置(13)の駆動のための電源及び回路等(図示せず。)を設けて配置し、保持ケース(12)の蓋部に相当する箇所に、乳白色としたアクリル板等の拡散板(14)を発光の均一化のために固定してなる。
【0245】
そして、面発光照明装置(11)を駆動して、発光装置(13)の励起光源(第1の発光体)に電圧を印加することにより光を発光させ、その発光の一部を、蛍光体含有部(第2の発光体)としての蛍光体含有樹脂部における前記蛍光体が吸収し、可視光を発光し、一方、蛍光体に吸収されなかった青色光等との混色により演色性の高い発光が得られ、この光が拡散板(14)を透過して、図面上方に出射され、保持ケース(12)の拡散板(14)面内において均一な明るさの照明光が得られることとなる。
【0246】
[画像表示装置]
本発明の発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合には、その画像表示装置の具体的構成に制限は無いが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【実施例】
【0247】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
後述の各実施例及び各比較例において、各種の評価は以下の手法で行った。
【0248】
〈発光スペクトル及び輝度測定方法〉
発光スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)用いて測定した。励起光源からの光を焦点距離が10cmである回折格子分光器に通し、波長450nm〜475nmの励起光のみを光ファイバーを通じて蛍光体に照射した。励起光の照射により蛍光体から発生した光を焦点距離が25cmである回折格子分光器により分光し、300nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、パーソナルコンピュータによる感度補正等の信号処理を経て発光スペクトルを得た。なお、測定時には、受光側分光器のスリット幅を1nmに設定して測定を行なった。
また、JIS Z8724に準拠して算出したXYZ表色系における刺激値Yから、後述する参考例1における蛍光体の刺激値Yの値を100%とした相対輝度を算出した。なお、輝度は、励起青色光をカットして測定した。
【0249】
〈色度座標の測定方法〉
発光スペクトルの480nm〜800nm(励起波長455nmの場合)の波長領域のデータから、JIS Z8724に準じた方法で、JIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標CIExとCIEyを算出した。
【0250】
〈化学組成〉
ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry;以下「ICP法」と称する場合がある。)により、ジョバイボン社製ICP化学分析装置「JY 38S」を使用して分析した。
【0251】
〈粉末X線回折測定〉
粉末X線回折測定条件の詳細は以下の通りである。
測定装置:PANalytical社製 PW1700型
粉末X線回折測定条件:
X線源:Cu−Kα線(λ=1.54184Å)、
出力設定:40kV・30mA
測定時光学条件:発散スリット=1°
散乱スリット=1°
受光スリット=0.2mm
回折ピークの位置 2θ(回折角)
測定範囲:2θ=10°〜89.95°
スキャン速度:0.05度(2θ)/sec,連続スキャン
試料調製:めのう乳鉢を用いて人力で粉砕し、試料成形治具(旧Philips社製
PW1001/00型)を使って成形した。
サンプルホルダー:PANalytical社製 PW1781/00型
試料部寸法
外径:53mm
内径:27mm
深さ:2.6mm
【0252】
〈温度特性(発光ピーク強度の維持率)〉
発光スペクトル測定装置として大塚電子製MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置、ペルチエ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ、及び光源として150Wキセノンランプを備える装置を使用して測定した。
ステージに蛍光体サンプルを入れたセルを載せ、温度を20℃から175℃の範囲で変化させた。すなわち、蛍光体の表面温度が20℃から175℃の範囲の測定温度で一定となったことを確認してから、各温度において、光源から回折格子で分光して取り出したピーク波長455nmの光で蛍光体を励起して発光スペクトルを測定した。測定された発光スペクトルから発光ピーク強度を求め、各温度における該ピーク強度値を25℃におけるピーク強度値を100とした場合の割合で計算した。
なお、蛍光体の表面温度の測定値は、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いた。
【0253】
〈輝度維持率〉
上記装置に輝度測定装置として色彩輝度計BM5Aを加えたものを用いて、測定を行った。具体的には、輝度測定装置により測定された輝度値の、25℃における輝度値に対する相対値を輝度維持率とした。
【0254】
〈励起スペクトル〉
日立製作所製蛍光分光光度計F−4500を使用して、25℃における各蛍光体の橙色発光ピーク強度をモニターして300nm〜530nmの波長範囲内の励起スペクトルを得た。モニターするピーク波長は、各蛍光体の励起波長465nmにおける橙色発光ピーク波長とした。
【0255】
また、以下において、合金の原料に用いた金属単体は、いずれも不純物濃度0.01モル%以下の高純度品である。また、原料金属の形状は、Srは塊状、その他は粒状である。
【0256】
(実施例1)
金属元素組成比がAl:Si=1:1(モル比)となるように各金属を秤量し、黒鉛ルツボを用い、アルゴン雰囲気で高周波誘導式溶融炉を用いて原料金属を溶融した後、ルツボから金型へ注湯して凝固させ、金属元素組成比がAl:Si=1:1(モル比)である合金(母合金)を得た。
【0257】
金属元素組成比がEu:Sr:Ca:Al:Si=0.008:0.792:0.2:1:1(モル比)となるよう母合金、その他の原料金属を秤量した。炉内を5×10−2Paまで真空排気した後、排気を中止し、炉内にアルゴンを所定圧まで充填した。この炉内でカルシアルツボ内の母合金を溶解し、次いでSr、Eu、Caを加えて、全成分が融解した溶湯が誘導電流により撹拌されるのを確認後、ルツボから水冷された銅製の金型(厚さ40mmの板状)へ溶湯を注湯して凝固させた。
【0258】
得られた厚み40mm、重量約5kgの板状合金についてICP法で組成分析を行った。板の重心付近一点と、板の端面付近一点から約10gサンプリングし、ICP法により元素分析を行ったところ、
板の中心部 Eu:Sr:Ca:Al:Si=0.009:0.782:0.212:1:0.986、
板の端面 Eu:Sr:Ca:Al:Si=0.009:0.756:0.21:1:0.962
であり、分析精度の範囲において実質的に同一組成であった。従って、Euを始め、各々の元素が均一に分布していると考えられた。
【0259】
得られた合金はSr(Si0.5Al0.5と類似した粉末X線回折パターンを示し、AlB型のアルカリ土類シリサイドと呼ばれる金属間化合物と同定された。
【0260】
この板状合金塊を、窒素気流中で重量メジアン径20.0μmに粉砕して得た合金粉末5gを、内径55mmの窒化ホウ素製トレイに充填し、熱間等方加圧装置(HIP装置)内にセットした。装置内を5×10−1Paまで真空排気した後、300℃に加熱し、300℃で真空排気を1時間継続した。その後、窒素を1MPa充填し、冷却後に0.1MPaまで放圧し、再び1MPaまで窒素を充填する操作を2回繰り返した。加熱開始前に50MPaまで窒素を充填し、600℃/時で試料温度1900℃まで昇温し、それと同時に内圧を平均45MPa/時で190MPaまで昇圧した。その後装置内圧を190MPaに保ちながら1900℃まで加熱し、この温度で2時間保持して、仕込み組成がSr0.792Ca0.2AlSiN:Eu0.008である目的の複合窒化物蛍光体を得た。
【0261】
得られた蛍光体の粉末X線回折パターンは図4に示す通りであり、CaAlSiNと同型の斜方晶の結晶相が生成していた。また、ピーク位置(2θ)は〈表C−3〉に示す通りであり、この蛍光体の各領域のピーク強度比Iは〈表C−1〉に示す通りであった。
また、この蛍光体について、発光特性の測定結果を〈表C−1〉に、ICP化学分析結果を〈表C−2〉に示した。
〈表C−1〉において、輝度は、後述の参考例1で得られた蛍光体の輝度を100%としている。
【0262】
得られた蛍光体について、温度特性(発光ピーク強度の維持率)、及び輝度維持率を上述の方法により測定した。その結果を、温度特性については図5に、輝度維持率については図6に示す。温度特性、及び輝度維持率の測定では、YAG:Ce黄色蛍光体(化成オプトニクス製 P46−Y3)を比較サンプルとして同時に測定した。
また、得られた蛍光体について、上述の方法により励起スペクトルを測定した。測定された励起スペクトルを図7に示す。
【0263】
(実施例2)
実施例1における蛍光体原料用合金の製造において、金属元素組成比がEu:Sr:Al:Si=0.008:0.992:1:1(モル比)となるように各金属及び母合金を秤量したこと以外は実施例1と同様に板状合金を製造した。
得られた合金についてICP法で組成分析を行ったところ、仕込み組成と分析の精度の範囲内で一致した。従って、Euを始め、各々の元素が均一に分布していると考えられた。
【0264】
また、得られた合金は、主相がSr(Si0.5Al0.5と類似した粉末X線回折パターンを示し、得られた合金が単一相であることが確認された。
得られた板状合金を、実施例1と同様の条件で、粉砕し、焼成した。得られた複合窒化物から、非発光部分を除去し、水洗、及び乾燥して、仕込み組成がSr0.992AlSiN:Eu0.008である蛍光体を得た。
【0265】
得られた蛍光体について、粉末X線回折測定を行った結果、CaAlSiNと同型の斜方晶の結晶相が生成していた。 また、ピーク位置(2θ)は〈表C−3〉に示す通りであり、この蛍光体の各領域のピーク強度比Iは〈表C−1〉に示す通りであった。
また、この蛍光体について、発光特性の計測結果を〈表C−1〉に、ICP法により蛍光体の組成を分析した結果を〈表C−2〉に示した。
【0266】
さらに、得られた蛍光体について、温度特性、及び輝度維持率を実施例1と同様の方法により測定した。その結果を、温度特性については図5に、輝度維持率については図6に示す。
また、得られた蛍光体について、上述の方法により励起スペクトルを測定した。測定された励起スペクトルを図7に示す。
【0267】
(実施例3)
実施例1において、金属元素組成比がEu:Sr:Ca:Al:Si=0.006:0.494:0.5:1:1(モル比)となるように各金属及び母合金を秤量したこと以外は実施例1と同様の条件で重量約5kgの板状合金を製造した。
得られた合金について、ICP法により組成分析を行ったところ、仕込み組成と分析の精度の範囲内で一致した。従って、Euを始め、各々の元素が均一に分布していると考えられた。
【0268】
得られた合金は、主相がSr(Si0.5Al0.5と類似した粉末X線回折パターンを示した。また、粉末X線回折パターンから、得られた合金が単一相であることが確認された。
この板状合金を、実施例1と同様の条件で、粉砕し、焼成し、仕込み組成がSr0.494Ca0.5AlSiN:Eu0.006である蛍光体を得た。
【0269】
得られた蛍光体について、粉末X線回折測定を行った結果、CaAlSiNと同型の斜方晶の結晶相が生成していた。
また、ピーク位置(2θ)は〈表C−3〉に示す通りであり、この蛍光体の各領域のピーク強度比Iは〈表C−1〉に示す通りであった。
【0270】
また、この蛍光体について、発光特性の計測結果を〈表C−1〉に示した。
さらに、得られた蛍光体について、温度特性、及び輝度維持率を実施例1と同様の方法により測定した。その結果を、温度特性については図5に、輝度維持率については図6に示す。
【0271】
(実施例4)
金属元素組成比がEu:Sr:Ca:Al:Si=0.008:0.792:0.2:1:1(モル比)となるように、EuN、Sr、Ca(CERAC社製200mesh pass)、AlN(トクヤマ社製グレードF)、Si(宇部興産社製SN−E10)の粉末をアルゴン雰囲気中で秤量し、乳鉢中で混合した。得られた原料混合物を実施例1と同様の条件で窒化して、仕込み組成がSr0.792Ca0.2AlSiN:Eu0.008である蛍光体を得た。
なお、EuN、Srは原料金属(それぞれレアメタリック社製、アルドリッチ社製)を4%水素含有窒素雰囲気下、800℃で12時間窒化して得たものである。
【0272】
得られた蛍光体について、粉末X線回折測定を行った結果、CaAlSiNと同型の斜方晶の結晶相が生成していた。また、ピーク位置(2θ)は〈表C−3〉に示す通りであり、この蛍光体の各領域のピーク強度比Iは〈表C−1〉に示す通りであった。
また、この蛍光体について、発光特性の計測結果を〈表C−1〉に示した。
【0273】
(比較例1)
金属元素組成比がEu:Sr:Ca:Al:Si=0.008:0.792:0.2:1:1(モル比)となるように、EuN、Sr、Ca(CERAC社製200mesh pass)、AlN(トクヤマ社製グレードF)、Si(宇部興産社製SN−E10)をアルゴン雰囲気で秤量し、乳鉢中で混合した。得られた原料混合物を窒素雰囲気中、0.92MPa加圧下で、1600℃で2時間、次いで、1800℃で2時間加熱することにより窒化して複合窒化物蛍光体を得た。なお、EuN、及びSrは原料金属(それぞれレアメタリック社製、アルドリッチ社製)を4%水素含有窒素雰囲気下、800℃で12時間窒化することにより製造したものである。
【0274】
得られた蛍光体の粉末X線回折パターンを図8に、その評価結果及び発光特性の計測結果を〈表C−1〉に、ICP法により蛍光体の組成を分析した結果を〈表C−2〉に示した。〈表C−1〉から、CaAlSiNと同型の斜方晶の結晶相の他に、前述の領域1〜6にピークとして現れる不純物が生成していることがわかる。
【0275】
(比較例2)
窒化を雰囲気加熱炉中(1600℃、常圧)で行ったこと以外は、実施例1と同様の条件で複合窒化物蛍光体を得た。
得られた蛍光体の粉末X線回折の評価結果及び発光特性の計測結果を〈表C−1〉に、ICP法により蛍光体の組成を分析した結果を〈表C−2〉に示した。〈表C−1〉から、CaAlSiNと同型の斜方晶の結晶相の他に、前述の領域1〜6にピークとして現れる不純物が生成していることがわかる。
【0276】
(参考例1)
金属元素組成比がEu:Ca:Al:Si=0.008:0.992:1:1(モル比)となるように、Ca(CERAC社製200mesh pass)、AlN(トクヤマ社製グレードF)、Si(宇部興産社製SN−E10)、及びEu(信越化学社製)をアルゴン雰囲気中で秤量し、混合機を用いて混合した。得られた原料混合物を窒化ホウ素製ルツボへ充填し、雰囲気加熱炉中にセットした。装置内を1×10−2Paまで真空排気した後、排気を中止し、装置内へ窒素を0.1MPaまで充填した後、1600℃まで昇温し、1600℃で5時間保持して目的の複合窒化物蛍光体を得た。励起波長465nmにおける、この蛍光体の発光ピーク波長は648nmであった。〈表C−3〉にこの蛍光体の粉末X線回折パターンのピーク位置(2θ)を示す。
【0277】
【表11】

【符号の説明】
【0278】
1 蛍光体含有部(第2の発光体)
2 励起光源(第1の発光体)(LD)
3 基板
4 発光装置
5 マウントリード
6 インナーリード
7 励起光源(第1の発光体)
8 蛍光体含有樹脂部
9 導電性ワイヤ
10 モールド部材
11 面発光照明装置
12 保持ケース
13 発光装置
14 拡散板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で表される蛍光体であって、CuKα線(1.54184Å)を用いて測定された粉末X線回折パターンにおいて、
2θが34°以上36.7°以下の範囲に最強ピークを有し、
2θが下記<表A>に示す領域1(10°以上17°以下)の範囲に存在するピークのピーク強度比Iが4%以下であり、更に、領域2〜領域6におけるピーク強度比Iが10%以下である
ことを特徴とする蛍光体。
ただし、ピーク強度比Iは、2θが10゜以上60゜以下の範囲の粉末X線回折パターンにおいて、2θが34゜以上36.7゜以下の範囲に存在する最強ピークの高さImaxに対する該当ピークの高さIpの比(Ip×100)/Imax(%)である。ここで、ピーク強度はバックグラウンド補正を行って得た値である。
【表1】

[1]
(但し、a、b、c、d、e、fはそれぞれ下記の範囲の値である。
0.00001≦a≦0.15
a+b=1
0.5≦c≦1.5
0.5≦d≦1.5
2.5≦e≦3.5
0≦f≦0.5
また、MはEu又はEuとCeよりなる付活元素を表し、Mは2価の金属元素であって、90モル%以上がCa及びSrで構成される元素を表し、MはAlを表し、MはSiを表す。)
【請求項2】
下記一般式[2]で表される蛍光体であって、CuKα線(1.54184Å)を用いて測定された粉末X線回折パターンにおいて、
2θが34°以上36.7°以下の範囲に最強ピークを有し、
2θが下記<表A>に示す領域1(10°以上17°以下)の範囲に存在するピークのピーク強度比Iが4%以下であり、更に、領域2〜領域6におけるピーク強度比Iが10%以下である
ことを特徴とする蛍光体。
ただし、ピーク強度比Iは、2θが10゜以上60゜以下の範囲の粉末X線回折パターンにおいて、2θが34゜以上36.7゜以下の範囲に存在する最強ピークの高さImaxに対する該当ピークの高さIpの比(Ip×100)/Imax(%)である。ここで、ピーク強度はバックグラウンド補正を行って得た値である。
【表2】

1’a’Srb’Cac’2’d’Ale’Sif’g’ [2]
(但しa’,b’,c’,d’,e’,f’,g’はそれぞれ下記の範囲の値である。
0.00001≦a’≦0.15、
0.1≦b’≦0.99999、
0≦c’<1、
0≦d’<1、
a’+b’+c’+d’=1、
0.5≦e’≦1.5、
0.5≦f’≦1.5、
0.8×(2/3+e’+4/3×f’)≦g’≦1.2×(2/
3+e’+4/3×f’)
1’はEu又はEuとCeよりなる付活元素を表し、M2’はMg及び/又はBaを表す。)
【請求項3】
b’が、0.7≦b’≦0.99999である請求項2に記載の蛍光体。
【請求項4】
発光ピーク波長が590nm以上、650nm以下であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項5】
酸素の含有量が5重量%以下である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項6】
結晶構造が斜方晶であり、格子定数が9.75Å≦a≦9.93Å、5.69Å≦b≦5.77Å、5.1Å≦c≦5.18Å、280Å≦V≦298Åである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項7】
内部量子効率が0.6以上である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の蛍光体と、液状媒体とを含有することを特徴とする蛍光体含有組成物。
【請求項9】
第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、
該第2の発光体が、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の蛍光体の少なくとも1種を、第1の蛍光体として含有することを特徴とする発光装置。
【請求項10】
前記第2の発光体が、前記第1の蛍光体とは発光ピーク波長の異なる少なくとも1種の蛍光体を、第2の蛍光体として含有することを特徴とする請求項9に記載の発光装置。
【請求項11】
前記第1の発光体が、420nm以上500nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、
前記第2の発光体が、前記第2の蛍光体として、500nm以上550nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体を含有することを特徴とする請求項10に記載の発光装置。
【請求項12】
前記第1の発光体が、300nm以上420nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、
前記第2の発光体が、前記第2の蛍光体として、420nm以上490nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体と、500nm以上550nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体とを含有することを特徴とする請求項10に記載の発光装置。
【請求項13】
請求項9ないし12のいずれか1項に記載の発光装置を有することを特徴とする画像表示装置。
【請求項14】
請求項9ないし12のいずれか1項に記載の発光装置を有することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−14782(P2013−14782A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−224353(P2012−224353)
【出願日】平成24年10月9日(2012.10.9)
【分割の表示】特願2007−70849(P2007−70849)の分割
【原出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】