説明

蛍光体混合物及びその製造方法

【課題】従来の蛍光体混合物よりも製造及び色度調整が容易な蛍光体混合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】適切な化学組成と温度・圧力の選択により、複数種類の蛍光体が均一に分散した蛍光体混合物を単一プロセスで製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体混合物及びその製造方法に関するもので、照明や表示媒体などに利用できる蛍光体組成物の開発に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から照明用光源として広く普及している白色蛍光灯には、白色ハロリン酸カルシウム蛍光体が使用されている。しかし、発光スペクトルに赤味成分が乏しく、演色性に劣るという問題点があった。そこで最近になって、蛍光灯の演色性と発光出力を改善する目的で、赤色蛍光体と緑色蛍光体、青色蛍光体の適切な混合物を用いる三波長発光型蛍光灯が実用化されている。特許文献1乃至3では、三波長発光よりも演色性の優れた発光を実現するために、四種類以上の蛍光体を組み合わせて蛍光体混合物を製造する方法が開示されている。色むらの無い発光色を実現するためには、これら複数種類の蛍光体粉末を凝集させることなく均一に混合することが必要である。その解決方法として、特許文献4では均一沈殿法を用いて単一球状蛍光体粒子を合成し、凝集を防ぐ方法が開示されている。
【特許文献1】2006−63233
【特許文献2】2004−269845
【特許文献3】2002−198008
【特許文献4】平8−143305
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1乃至3で開示されているような、複数種類の蛍光体を組み合わせて蛍光体混合物を製造する方法では、複数種類の蛍光体を均一に混合して色むらを防ぐこと、さらに各種蛍光体混合粉末の相対的な割合を微調整して要求された色度に設定することが容易ではないという問題があった。
【0004】
また、上記特許文献4で開示された均一沈殿法を用いて凝集を防ぐ方法では、合成時に精密な温度調整や溶液の濃度調整を必要とするため、製造プロセスが複雑になるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、適切な化学組成と温度・圧力の選択によって、複数種類の蛍光体が均一に混合した蛍光体混合物を、簡単な製造プロセスで提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、適切な化学組成と温度・圧力の選択によって、複数の固相が安定に共存する領域で合成される多相混合物を蛍光体の母体とすることを特徴とする蛍光体混合物及びその製造方法である。
【0007】
本発明によれば、適切な化学組成と温度・圧力の選択によって、複数の固相が安定に共存する領域で合成される多相混合物を蛍光体の母体とすることによって、複数種類の蛍光体が均一に混合し、色度調整された蛍光体混合物を簡単なプロセスで製造することができる。
【0008】
適切な化学組成と温度・圧力の選択によって、複数の固相が安定に共存する領域で合成される複数種類の蛍光体混合物は、各蛍光体が均一に分散して生成することから、混合プロセスが不要もしくは大幅に省くことができる。
さらに、多相共存領域内において平均化学組成がごく僅かでも変化すると、共存する相の割合(相組成)がその影響を受けて変化し、結果的に蛍光体混合物全体の発光スペクトルが変化する。すなわち、蛍光体混合物の平均化学組成を操作することによって、蛍光体混合物全体の色度を微調整することができる。
【0009】
また、共存する多相混合物の化学組成や結晶構造が類似している場合には、全く異なる化学組成や結晶構造をもつ蛍光体同士を混合して製造する蛍光体ブレンドに比べて、共存する蛍光体が経時劣化する速度の差が小さく、カラーバランスが崩れにくいという利点も期待できる。
【発明の効果】
【0010】
複数種類の蛍光体からなる蛍光体混合物を製造する従来の方法では、各種蛍光体を別々に合成し、その後、それら複数種類の蛍光体粉末を所定の割合で均一に混合することが必要であった。本発明による蛍光体混合物の製造方法によると、均一に分散した複数種類の蛍光体混合物が製造プロセスの結果として得られるので、混合プロセスが不要もしくは大幅に省くことができる。
【0011】
従来の蛍光体混合物では、色度を調整するためには、複数種類の蛍光体を所定の割合で混合する必要があった。しかし本発明では、蛍光体混合物の平均化学組成を操作することによって、蛍光体混合物全体の発光スペクトル又は色度を調整することができる。
【0012】
複数種類の蛍光体からなる混合粉末を、製品に実装した場合、各蛍光体の耐久性に差があり、各蛍光体が異なった経時劣化を示し、その結果全体のカラーバランスが崩れてしまうという問題があった。しかし、本発明による蛍光体混合物では、共存する蛍光体の化学組成や結晶構造が類似している場合には、全く異なる化学組成や結晶構造をもつ蛍光体同士を混合して製造する蛍光体ブレンドに比べて、共存する蛍光体が経時劣化する速度の差が小さく、カラーバランスが崩れにくいという利点も期待できる。
【0013】
ある種の蛍光体は、母体結晶中に賦活剤と呼ばれる不純物イオンが分散した構造をもつ。賦活剤としての発光イオン種は、希土類など一部のイオンに限定されるのに対し、母体結晶は賦活剤の濃度や種類を変化させることによって、異なる用途に転用することが可能である。したがって、請求項1から請求項6によって提供するところの蛍光体混合物は、今回の実施例に用いた発光イオンに限った蛍光体ではなく、発光中心を生成しうる元素であれば、これを賦活剤として用いることができる。さらに、請求項1から請求項6によって提供するところの蛍光体混合物は、波長200 nmから400 nmの紫外線励起に限った発光材料ではなく、真空紫外光や電子線、電界などの励起によって発光する表示媒体や照明用の蛍光体へ転用が可能であり、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ、電界放射ディスプレイ、フルカラー蛍光表示管、エレクトロルミネッセンスなどに応用できる材料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施例1、2について図面を参照して詳細に説明する。本実施例では、二種類の蛍光体が均一に分散して共存する蛍光体混合物を製造するが、これらは例示であり、三種類もしくはそれ以上の蛍光体が共存する蛍光体混合物を製造する場合でも、本発明が成立することはいうまでもない。
【0015】
また、本実施例では、結晶質の焼結体試料を合成・粉砕してから蛍光体混合粉末を得て、蛍光特性を評価しているが、薄膜又はガラス又はその他の形状の試料を合成しても、本発明が成立することはいうまでもない。
【0016】
また、単一の固相又は単一の液相が安定な領域で均一な単一の固相又は均一な単一の液相を合成した後に、温度又は圧力を操作して複数の固相が安定に共存する温度・圧力領域に変化させて、スピノーダル分解又は均一核生成・成長又は不均一核生成・成長などの相分離を起こさせることによって複数の固相が共存する蛍光体混合物を製造する場合でも、本発明が成立することはいうまでもない。
【実施例1】
【0017】
本実施例では、Ca3(PO4)2−Sr3(PO4)2二成分系におけるα相とβ’相の二相が共存する混合物に、Euを賦活することによって得られる蛍光体混合物の製造方法について説明する。
【0018】
Ca3(PO4)2−Sr3(PO4)2二成分系の組成物であるCa3-xSrx(PO4)2の相組成は、非特許文献1にその報告がある。それによると、xの値が2.31以上の化学組成範囲(2.31≦x)で、α相とβ’相が安定であるとされている。しかし、α相はSr3(PO4)2 (x = 3)と等価な構造であることから、xの値が3に近い化学組成領域では、α単一相が安定であると考えられる。そこで、先ずCa3(PO4)2−Sr3(PO4)2二成分系におけるα相とβ’相の二相共存領域を決定した。
【非特許文献1】Chemistry of Materials, Vol.14, No.7, 3197 (2002) 出発原料として炭酸カルシウム(CaCO3)と炭酸ストロンチウム(SrCO3)、リン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)を用い,0.06:2.94:2及び0.05:2.95:2(モル比)で混合した。これらの出発原料比はそれぞれ平均化学組成がCa0.06Sr2.94(PO4)2(x = 2.94)とCa0.05Sr2.95(PO4)2(x = 2.95)で表される組成物が生成する比である。次にこれらの混合粉末を直径約12mm×高さ約3mmのペレット状に一軸加圧成形し,大気中にて400℃で1時間加熱した後、電気炉から取り出して室温まで冷却した。得られた試料を粉砕混合した後、直径約12mm×高さ約3mmのペレット状に一軸加圧成形し,大気中にて1300℃で3時間加熱し、電気炉の電源を切って炉内で約3時間かけて室温まで冷却した。
【0019】
得られた試料は粉砕して細かな粉末にした。CuKα1線(45 kV×40mA)を入射光とする X線粉末回折装置を用いて,10.0°から75.0°の2θ範囲におけるプロフィル強度を測定した。得られたX線回折パターンから、Ca0.06Sr2.94(PO4)2(x = 2.94)組成の試料は、α相と微量のβ’相が共存していたのに対して、Ca0.05Sr2.95(PO4)2(x = 2.95)組成の試料は、α単一相から構成されていた。以上から、Ca3(PO4)2−Sr3(PO4)2二成分系におけるα相とβ’相の二相共存領域の化学組成範囲は、2.31≦x≦2.95であることが判明した。
【0020】
そこで、発明者らは、α相とβ’相の二相が共存するCa3-xSrx(PO4)2組成物が、本発明による蛍光体混合物の母体として有望であると考え、Euを賦活剤とする蛍光体二相混合物の作製を試みた。
【0021】
出発原料として炭酸カルシウム(CaCO3)と炭酸ストロンチウム(SrCO3)、酸化ユーロピウム(Eu2O3)、リン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)を用い,1.00:1.98:0.01:2.00及び0.39:2.59:0.01:2.00、0.35:2.63:0.01:2.00、0:2.98:0.01:2.00(モル比)で混合して、4種類の原料混合粉末を得た。それぞれの原料混合比は、平均化学組成がCa3-xSrx-0.02Eu2+0.02(PO4)2であり、xの値がx = 2.00と2.61、2.65、3.00で表される4種類の組成物が生成する比である。原料混合粉末を直径約12mm×高さ約3mmのペレット状に一軸加圧成形し,大気中にて400℃で1時間加熱した後、電気炉から取り出して室温まで冷却した。得られた試料を粉砕混合した後、直径約12mm×高さ約3mmのペレット状に一軸加圧成形し,3%の水素と97%のアルゴンガス混合気流中にて、1300℃で3時間加熱し、電気炉の電源を切って炉内で約3時間かけて室温まで冷却した。
【0022】
得られた試料は粉砕して細かな粉末にした。CuKα1線(45 kV×40mA)を入射光とする X線粉末回折装置を用いて,10.0°から75.0°の2θ 範囲におけるプロフィル強度を測定した。このX線回折パターンから、試料x = 2.00はβ’単一相であり、試料x = 3.00はα単一相であった。一方、試料x = 2.61と試料 x = 2.65はβ’相とα相の二相が共存していた。これらの試料中に含まれるβ’相とα相の存在割合を,X線粉末回折パターンからリートベルト法(非特許文献2)を用いて求めたところ、試料x = 2.61は19wt%α相+81wt%β’相であり、試料x = 2.65は22%wtα相+78%wtβ’相であった。
【非特許文献2】Journal of Applied Crystallography, Vol. 2, 65 (1969) 市販の分光蛍光光度計を用い、波長200 nmから400 nmの励起光を用いて、波長200 nmから800 nmの蛍光強度を測定した。発光色は国際照明委員会の定めたXYZ表示系で示し、評価はJIS Z8722に準じて行った。
【0023】
試料x = 2.00の励起スペクトル及び、発光スペクトルについて評価した結果を図1に示す。図1に示す評価結果から明らかなように、得られた試料x = 2.00は280 nm付近の紫外域に励起ピーク波長を有している。励起波長280 nmの紫外線により試料x = 2.00の発光スペクトルを観測したところ、蛍光はピークが515 nmで半価幅が98 nmの比較的ブロードなスペクトルを観測し、350 nmから700 nmにわたる幅の比較的広いスペクトルになった。
【0024】
試料x = 3.00の励起スペクトル及び、発光スペクトルについて評価した結果を図2に示す。図2に示す評価結果から明らかなように、得られた試料x = 3.00は275 nm付近の紫外域に励起ピーク波長を有している。励起波長275 nmの紫外線により試料x = 3.00の発光スペクトルを観測したところ、蛍光はピークが406 nmで半価幅が35 nmの比較的シャープなスペクトルを観測した。
【0025】
次に、励起波長365 nmの紫外線により、試料x = 2.00と試料x = 3.00の発光スペクトルを観測した(図3)。試料x = 2.00では、蛍光はピークが515 nmで半価幅が85 nmの比較的ブロードなスペクトルを観測し、435 nmから685 nmにわたる幅の比較的広いスペクトルになった。色度座標の値から、発光色は黄がかった緑に分類された(図4)。すなわち、上記の方法により得られたユーロピウム賦活のβ’相カルシウムストロンチウムリン酸塩系蛍光体は、波長が365 nmの紫外線により励起されて黄がかった緑に発光する蛍光体である。一方、試料x = 3.00では、蛍光はピークが406 nmで半価幅が40 nmの比較的シャープなスペクトルを観測した。色度座標の値から、発光色は青がかった紫に分類された(図4)。すなわち、上記の方法により得られたユーロピウム賦活のα相ストロンチウムリン酸塩系蛍光体は、波長が365 nmの紫外線により励起されて青がかった紫に発光する蛍光体である。
【0026】
励起波長365 nmの紫外線により、試料x = 2.61と試料x = 2.65の発光スペクトルを観測した(図5)。試料x = 2.61と試料x = 2.65は、共にβ’相とα相の二相が共存していることから、両相に帰属する発光スペクトルの特徴を示している。すなわち、試料x = 2.61と試料x = 2.65には、蛍光のピークが515 nmと410 nmの二箇所に存在し、380 nmから650 nmにわたるブロードなスペクトルを観測した。色度座標の値から、試料x = 2.61の発光色は白色に分類され、試料x = 2.65の発光色は青がかった紫色に分類された(図4)。
【0027】
高圧水銀灯から発せられる紫外線を用いて、x = 2.61と試料x = 2.65の発光色を肉眼で確認したところ、均一な発光色であった。このことから、発光スペクトルの異なる二種類の蛍光体が均一に混合されていることが確認できた。
【0028】
図4に示す色度図から明らかなように、β’相とα相の二相が共存している試料x = 2.61とx = 2.65の色度座標の位置は、β’単一相から成る試料x = 2.00の色度座標(0.295, 0.569)と、α単一相から成る試料x = 3.00の色度座標(0.164, 0.012)の位置を繋ぐ直線上にある。このことから、上記の方法により得られた平均化学組成が一般式Ca3-xSrx-0.02Eu2+0.02(PO4)2(但し、xは2.31≦x≦2.95の範囲の数である。)で表される蛍光体混合物は、発光スペクトルの異なる二種類の蛍光体が均一に共存しており、xの値を操作することによって発光の色度を色度座標(0.295, 0.569)から色度座標(0.164, 0.012)の間で、任意に設定することができる。
【実施例2】
【0029】
本実施例では、平均化学組成が一般式Na2xCa3-xAl2O6 (但し、xは0.10≦x≦0.16の範囲の数である。)で表される組成物に、Biを賦活することによって得られる蛍光体混合物の製造方法について説明する。
【0030】
この母体結晶は、非特許文献3によって、Naの濃度に対する相組成が報告されている。それによるとxの値が0≦x<0.10の範囲では立方晶系の結晶構造(C相)が安定であり、0.16<x≦0.20の範囲では斜方晶系の結晶構造(O相)が安定である。一方、0.10≦x≦0.16の範囲では、x = 0.10組成のC相とx = 0.16組成のO相の二相が共存することが明らかにされている。
【非特許文献3】Cement Chemistry; pp. 1-28. Thomas Telford Publishing, London, U.K., (1997) 発明者らは、一般式Na2xCa3-xAl2O6で表される0.10≦x≦0.16の範囲の二相混合物が、本発明による蛍光体混合物の母体として有望であるとの着想を得て、以下に記述するところの蛍光体二相混合物の合成実験を行った。
【0031】
出発原料として炭酸カルシウム(CaCO3)とアルミナ(Al2O3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、酸化ビスマス(Bi2O3)を用い,平均化学組成がNa2xCa2.97-xBi0.02Al2O6(x = 0.05、0.10、0.11、0.125、0.135、0.15、0.16、0.20)で表される8種類の組成物が生成する割合で秤量した。これらの原料混合粉末を直径約12mm×高さ約3mmのペレット状に一軸加圧成形し,大気中にて925℃で1時間加熱した後、電気炉から取り出して室温まで冷却した。得られた試料を粉砕混合した後、直径約12mm×高さ約3mmのペレット状に一軸加圧成形し,大気中にて、1200℃で2時間加熱し、電気炉から取り出して室温まで冷却した。
【0032】
得られた試料は粉砕して細かな粉末にした。CuKα1線(45 kV×40mA)を入射光とする X線粉末回折装置を用いて,10.0°から60.0°の2θ 範囲におけるプロフィル強度を測定した。得られたX線回折パターンから、xの値が0.05≦x≦0.10の範囲の試料はC相であり、0.16≦x≦0.20の範囲の試料はO相であり、xの値が0.11≦x≦0.15の範囲の試料はC相とO相の二相が共存していることを確認した。
【0033】
市販の分光蛍光光度計を用い、波長254 nmの励起光を用いて、波長200 nmから800 nmの蛍光強度を測定した。発光色は国際照明委員会の定めたXYZ表示系で示し、評価はJIS Z8722に準じて行った。
【0034】
試料x = 0.05と試料x =0.10は共にC相のみから構成されていることから、これらの発光スペクトルに顕著な違いは認められなかった。また、試料x = 0.16と試料x =0.20は共にO相のみから構成されていることから、これらの発光スペクトルに顕著な違いは認められなかった。試料x = 0.10と試料x = 0.16の発光スペクトルについて評価した結果を図6に示す。図6に示す評価結果から明らかなように、試料x = 0.10では、蛍光はピークが478 nmで半価幅が93 nmの比較的ブロードなスペクトルを観測し、350 nmから700 nmにわたる幅の比較的広いスペクトルになった。色度座標の値は(0.155、0.235)であり、発光色は緑がかった青に分類された(図7)。すなわち、上記の方法により得られたビスマス賦活の立方晶ナトリウムカルシウムアルミネート系蛍光体は、波長が254 nmの紫外線により励起されて緑がかった青に発光する蛍光体である。
【0035】
試料x = 0.16では、蛍光はピークが537 nmで半価幅が105 nmの比較的ブロードなスペクトルを観測し、350 nmから700 nmにわたる幅の比較的広いスペクトルになった(図6)。色度座標の値は(0.284、0.468)であり、発光色は黄がかった緑に分類された(図7)。すなわち、上記の方法により得られたビスマス賦活の斜方晶ナトリウムカルシウムアルミネート系蛍光体は、波長が254 nmの紫外線により励起されて黄がかった緑に発光する蛍光体である。
【0036】
次に、xの値が0.11≦x≦0.15の範囲をもつ一連の試料の発光スペクトルを観測した(図8)。これらの試料はC相とO相の二相が共存しており、xの値が増加する(Naの濃度が増加する)に従い、発光スペクトルのピーク位置が、484 nmから528 nmまで連続的に増加した。
【0037】
低圧水銀灯から発せられる紫外線を用いて、xの値が0.11≦x≦0.15の範囲をもつ一連の試料の発光色を肉眼で確認したところ、均一な発光色であった。このことから、発光スペクトルの異なる二種類の蛍光体が均一に混合されていることが確認できた。
【0038】
図7に示す色度図から明らかなように、C相とO相の二相が共存している試料の色度座標の位置は、C単一相から成る試料の色度座標(0.155、0.235)と、O単一相から成る試料の色度座標(0.284、0.468)の位置を繋ぐ直線上にある。このことから、上記の方法により得られた平均化学組成が一般式Na2xCa2.97-xBi0.02Al2O6(但し、xは0.11≦x≦0.15の範囲の数である。)で表される蛍光体混合物は、発光スペクトルの異なる二種類の蛍光体が均一に共存しており、xの値を操作することによって発光の色度を色度座標(0.155、0.235)から色度座標(0.284、0.468)の間で、任意に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の蛍光体混合物は、波長200 nmから400 nmの紫外線励起に限った発光材料ではなく、真空紫外光や電子線、電界などの励起によって発光する表示媒体や照明用の蛍光体へ転用が可能であり、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ、電界放射ディスプレイ、フルカラー蛍光表示管、エレクトロルミネッセンスなどに利用可能性である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は本発明の実施例1に係る試料x = 2.00の励起スペクトルと発光スペクトルを示した図である。
【図2】図2は本発明の実施例1に係る試料x = 3.00の励起スペクトルと発光スペクトルを示した図である。
【図3】図3は本発明の実施例1に係る試料x = 2.00と試料x = 3.00の励起波長365 nmにおける発光スペクトルを示した図である。
【図4】図4は本発明の実施例1に係る色度図を示した図である。
【図5】図5は本発明の実施例1に係る試料x = 2.61と試料x = 2.65の励起波長365 nmにおける発光スペクトルを示した図である。
【図6】図6は本発明の実施例2に係る試料x = 0.10と試料x = 0.16の励起波長254 nmにおける発光スペクトルを示した図である。
【図7】図7は本発明の実施例2に係る色度図を示した図である。
【図8】図8は本発明の実施例2に係るxの値が0.10≦x≦0.16の範囲である試料の励起波長254 nmにおける発光スペクトルを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適切な化学組成と温度・圧力の選択によって、複数の固相が安定に共存する領域で合成される多相混合物を蛍光体の母体とすることを特徴とする蛍光体混合物及びその製造方法。
【請求項2】
請求項1の母体が、希土類元素、ビスマス、アンチモン又はマンガンから選択された少なくとも1種類以上の元素を賦活剤として含むことを特徴とする蛍光体混合物及びその製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の母体の平均化学組成が、一般式Ca3-xSrx(PO4)2 (但し、xは2.31≦x≦2.95の範囲の数である。)で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光体混合物及びその製造方法。
【請求項4】
請求項3の母体が、Euを賦活剤として含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光体混合物及びその製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の母体の平均化学組成が、一般式Na2xCa3-xAl2O6 (但し、xは0.11≦x≦0.15の範囲の数である。)で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光体混合物及びその製造方法。
【請求項6】
請求項5の母体が、Biを賦活剤として含むことを特徴とする請求項1又は2又は5のいずれかに記載の蛍光体混合物及びその製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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