説明

蛍光寿命の測定装置及び方法

蛍光寿命を測定する方法であって、少なくとも1つの蛍光発光団を含むサンプルを光で照射して蛍光を励起させるステップと、励起光の強度を第1強度I1と第2強度I2との間で反復して切り替えるステップとを含んでいる。サンプルの蛍光によって発生する光を検出し、検出光信号を発生させる。検出光信号は反復して切り替えられ、第1部分と第2部分とに分割され、第1と第2部分のそれぞれで検出された光の量を、第1発光値S1と第2発光値S2を得るため測定する。第1及び第2発光値S1とS2から蛍光寿命を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光寿命の測定装置及び測定方法に関する。本発明は特に、蛍光寿命画像測定(fluorescence lifetime imaging measurement (FLIM)及び蛍光分析等の様々な蛍光寿命測定に利用できる。本発明は、フォトルミネセンスによるDNA塩基配列、蛋白質塩基配列及び半導体材料特性評価等にも適している。本発明は、物品に取り付けられたラベルに含まれる蛍光材の蛍光寿命の検出による、特にセキュリティマークが付けられた物品等のラベル付物品の特定方法及び特定システムも提供する。
【背景技術】
【0002】
蛍光寿命の測定はますます重要になってきている。なぜなら蛍光体の蛍光寿命は、pH,粘性等の物理的又は化学的環境に影響され、それらの特性の1指標を提供するからである。蛍光寿命は、蛍光強度の絶対値への非依存性が重要である顕微鏡分野で、追加的対比メカニズムとしてもよく利用されている。蛍光寿命についての正確な知識を得ることは、FRET(Forster 共鳴エネルギー伝達)の研究においても重要である。最近、商業的重要性の見地から、DNA塩基配列等の分析における利用が有用であると考えられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
蛍光寿命の測定には2つの大きなアプローチがある。1つは超短レーザーパルスを利用する蛍光励起である。寿命は後続の蛍光性の経時的減衰で推測される。このアプローチの欠点は次のようなものである。
【0004】
(i)適切な短パルスレーザーの必要性。生物学的に関連する蛍光発光団の一般値である1〜10ns範囲の寿命を測定するには、100ps以下のパルス幅が要求される。この条件は、高価なTi:サファイアレーザー(Sapphire lasers)又はNd:グラスレーザー(Glass lasers)によって満たされる。これらは典型的には2光子励起蛍光に利用されるであろう。あるいは、さらに安価な半導体レーザーを利用できるが、明度不足である。
【0005】
(ii)経時的蛍光減衰の測定は普通、高価な時間相関単一光子計測法(time correlated single photon counting (TCSPC)を必要とする。
【0006】
蛍光寿命測定への2つめのアプローチでは、照度強度を調和的に調節し、励起照度と検出蛍光信号との間の相対位相シフト(及び変調)から寿命を推察する。このアプローチの大きな欠点は次のようなものである。
【0007】
(i)典型的寿命のための位相シフトの妥当値を達成するために、MHz周波数で、理想的にはシヌソイド式に照度を調節する必要がある。
【0008】
(ii)複数の寿命データの抽出が困難である。
【0009】
(iii)広範な周波数で位相変調情報を提供する必要があるため、復調用電子機器が複雑になる。
【0010】
本発明の目的の1つは、前述の欠点の少なくともいくつかを緩和する蛍光寿命の測定装置及び測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によって蛍光寿命の測定方法が提供される。本方法は、蛍光を励起するために少なくとも1つの蛍光発光団を含むサンプルを励起光で照射するステップ、励起光強度を、第1強度I1と第2強度I2の間で反復的に切り替えるステップ、サンプルの蛍光によって生じる発生光を検出し、検出光信号を発生させるステップ、検出光信号を反復的に切り替えて第1部分と第2部分へ分割するステップ、第1部分と第2部分のそれぞれで検出した光量を測定し、第1発光値S1と第2発光値S2を得るステップ、及び第1及び第2発光値S1とS2から蛍光寿命を決定するステップ、を含んでいる。
【0012】
この方法によって蛍光発光団の蛍光寿命の決定が迅速且つ正確に行われる。短パルスレーザー等の非常に高価な装置は必要としない。光源強度をシヌソイド式に調節する必要がない。よって、単純且つ安価なダイオードレーザー等の切替式光源が利用できる。制御回路と検出回路は非常に単純構造でよく、単純なデジタル論理回路等が利用できる。検出器が継続運転するため、全ての検出光が利用できる。さらに、感光性サンプルの感光リスク回避するため、低強度光源が利用できる。
【0013】
第2強度I2は実質的にゼロでよい。言い換えれば、励起光を単純にオンとオフに切り替えればよい。
【0014】
有利には、励起光は第1周波数F1で切り替えられ、検出光信号は、FDがF1と相関関係にある場合は第2周波数FDで切り替えられる。FDは好適にはF1と同調し、F1と同等であってもよいか、あるいはF1の調波である。
【0015】
励起光は有利には1から1000MHzの範囲の周波数で切り替えられ、好適には10から100MHzで切り替えられる。さらに高周波数又はさらに低周波数でも可能である。
【0016】
2つの異なる蛍光発光団の蛍光寿命を決定するための好ましい1方法では、第1蛍光寿命を決定する発生光値S1とS2の第1セットを得るため、検出光信号は第1周波数FDで切り替えられ、検出光信号はその後、第2蛍光寿命を決定する発生光値S1とS2の第2セットを得るため、第2周波数FDで切り替えられる。FDとFDは好適には励起光切替周波数F1(そのうちの1つはF1と同等であってもよい)の調波である。これによって2つの異なる蛍光発光団の蛍光寿命が決定される。
【0017】
励起光は、異なる周波の複数要素を含む切替機能に従って切り替えることができる。例えば切替機能は、第1要素F1とF1の調波である第2要素F1を含むことができる。例えばこの機能は第1周波数Fと第2周波数10Fを含むことができる。切替機能の基本形は好適には方形波である。
【0018】
あるいは励起光の強度を、第1強度I1と、第2強度I2と、実質的にはゼロであることが望ましい第3強度I3との間で反復して切り替えてもよい。
【0019】
本発明の別の特徴によれば、少なくとも1つの蛍光発光団を含んだサンプルの蛍光寿命を測定する装置が提供され、この装置はサンプルを、蛍光発光団を励起する光で照射するための光源、第1強度I1と第2強度I2間で励起光強度を反復して切り替えるための第1切替手段、サンプル蛍光による発生光を検出し、検出光信号を発生させるための検出機、検出光信号を第1部分と第2部分へ分割するための第2切替手段、第1発生光値S1と第2発生光値S2を得るため、第1部分と第2部分で検出された光量を測定するための手段、及び第1と第2発生光値S1とS2から蛍光寿命を決定する手段、を含んでいる。
【0020】
この装置は、第1切替手段と第2切替手段の切替のため制御された制御手段を含むことができる。
【0021】
第1切替手段を、光源から発生する光強度を制御するよう、光源に接続してもよい。あるいは第1切替手段を、サンプルに入射する励起光強度を制御するように調節装置へ接続してもよい。調節装置は好適には機械的シャッターであるか、さらに好適には電子光学的シャッター又は音響光学的シャッターである。
【0022】
光源はダイオードレーザーであってもよく、又は1以上の発光ダイオード(LEDs)を含んでもよい。その他の光源も適している。
【0023】
この装置は、共焦点スキャン顕微鏡等を含む顕微的画像システムの部分を含んでもよい。あるいはこの装置は蛍光分析システムの部分を含んでもよい。この蛍光分析システムは複数のサンプルホルダーを含むことができ、この装置は複数の検出機と、実質的に同時にサンプルホルダー内のサンプルの蛍光寿命を測定する手段を含んでいる。
【0024】
この装置は好適には、本発明の前述説明の1つによって定義される方法に従って操作するように提供される。
【0025】
多くの蛍光寿命利用装置及び方法(例:コントラストが重要である画像処理)は、TCSPC等によって提供される様な詳細な量的寿命情報、又は複数の周波数位相蛍光測定法を必要としない。1周波数で1度測定するだけで十分である。しかしながら現在のところ、これを達成する単純で安価な方法は存在していない。
【0026】
本発明は特に蛍光寿命測定方法を提供し、これは迅速なアナログ切替とローパスフィルターで実行可能な単純ステップを含んでいる。利用される全ての信号処理は安価な要素を用いて実現可能である。よって、多くの検出回路を並列して実行することができ、これは寿命ベースの蛍光分析で直接利用できる。現在の分析では一般的にTCSPCボードでの時間領域手法を用いており、これらの要素への出費のため、遂次操作に限られている。
【0027】
レーザー光源を必ずしも利用する必要はない。例えば特に、画像処理を利用しない場合は高速スイッチングLEDsを利用してもよい。
【0028】
超短パルスダイオードレーザー又はLED照射を利用する従来のTCSPCシステムでは、低負荷サイクルのため、平均光力は低い。本アプローチでは負荷サイクルは典型的には50%であり、よって、より高平均の光力を利用する。これは、TCSPCの場合よりもさらに多い光子が単位時間当たり検出されることを意味する。あらゆる測定の正確性は結局のところ検出光子の数に関係しているため、このアプローチはこの点においてより優れていると考えられる。
【0029】
必要とされる切替時間を蛍光発光団の寿命によって選択することができる。この方法では所望の寿命だけが測定されるため、最低限の操作でよい。
【0030】
このアプローチは寿命の高速測定を提供するため、スキャン(共焦点)顕微鏡での利用に適している。商用TCSPCシステムへ、低費用の代替物を提供する。1つの寿命係数の測定には、TCSPCシステムと比べてこの方法はかなり速い。
【0031】
本発明の別の目的は、特にセキュリティーマーク付物品等、ラベル付物品の特定装置並びに特定方法を提供することである。
【0032】
本発明のこの特徴によって、ラベル付物品の特定方法が提供される。この方法では、それぞれの物品は蛍光材の組み合わせを含んだラベルを有している。この方法は、ラベルを照射して蛍光を励起するステップ、蛍光材の蛍光によって生じる発生光を検出するステップ、蛍光材の蛍光寿命を測定するステップ、蛍光寿命からラベルに存在する蛍光材の組み合わせを特定するステップ、及びその組み合わせから物品を特定するステップ、を含んでいる。
【0033】
蛍光材の蛍光寿命は、好適には本発明の前述説明による方法を用いて測定される。
【0034】
有利には、この方法は発生光の波長測定ステップと、波長と蛍光寿命からラベルに存在する蛍光材の組み合わせを特定するステップをさらに含んでいる。好適には、発生光強度を測定するステップと、波長、強度及び蛍光寿命からラベルに存在する蛍光材の組み合わせを特定するステップを含んでいる。
【0035】
好適には、ラベルは物品に付されたインクマーキングを含んでおり、そのインクは蛍光材の組み合わせを含んでいる。
【0036】
本発明のさらに別の特徴によれば、ラベル付物品を特定するシステムが提供される。それぞれの物品は蛍光材の組み合わせを含むラベルを含んでおり、その組み合わせは物品を特定し、そのシステムは、蛍光励起するためにラベルを照射する光源、蛍光材の蛍光によって生ずる発生光を検出する検出機、蛍光材の蛍光寿命を測定するための手段、その蛍光寿命からラベルに存在する蛍光材の組み合わせを特定し、その組み合わせから物品を特定する処理機を含んでいる。
【0037】
蛍光材の蛍光寿命は、好適には本発明の前述説明による装置を用いて測定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の様々な実施例を添付の図面を参考にして説明する。図1は蛍光寿命測定用装置の概要図であり、スキャン顕微鏡2で実行される。顕微鏡2は従来の共焦点設計で、光源4、ミラー6、波長フィルター8、走査用光学素子10、及び光源4から試験体14へ光を集中させるための対物レンズ12を含んでいる。試験体14から発生する光は対物レンズ12によって集束され、走査用光学素子10を通過し、波長フィルター8によって光検出機16へ反射される。波長フィルター8は、短波長光を伝達し、長波長光を反射する(又は構造によっては逆)2色性要素のセット等を含んでいる。光源4からの励起光は波長フィルター8を通って伝達されるが、サンプル蛍光によって発生する光は異なる波長であり、波長フィルター8によって光検出機16へ反射される。
【0039】
例えばダイオードレーザー及びLEDs等の様々な光源が利用可能である。これらは検出される蛍光発光団の性質により、可視、赤外又は紫外波長で操作するよう設計されてもよい。ここで “光”とは、可視、赤外、紫外波長のものを含んでいる。光電子増倍管、光ダイオード及び電荷結合デバイス(CCD)等を含むあらゆる適切なアナログ又はデジタル光検出機が利用可能である。光検出機がデジタルタイプ(例:単一光子検出機)である場合、単純なデジタル電子機器を用いて出力をモニターすることができる。
【0040】
この装置はコンピュータ20へ接続される電子制御ユニット18を含む。制御ユニット18は光検出機16へ接続され、記録と分析のため、光検出機からコンピュータ20へ出力信号を伝達する。光源の操作を制御するよう、制御ユニット18を光源4に接続してもよい。あるいは制御ユニット18を、光源4の前に位置するオプション的変調機22へ接続して励起光の強度を調節してもよい。電気光学変調機又は機械的シャッター等を含むあらゆる適切な変調機22が利用できる。例えばダイオードレーザー等、光源4を直接変調できる場合には、変調機22は不要であろう。
【0041】
制御ユニット18の要素の概要は図2に示す。これらは選択周波数で方形波出力信号を発生させる発生装置24を含んでいる。この信号は、励起光の強度を制御するため、光源4又はオプション的に変調機22に適用される。制御ユニット18は出力信号を光検出機16から出力信号を、そして信号発生装置24から制御信号を受領し、信号発生装置24で決定される周波数で出力信号を2つの出力28a,bへ交互に切り替えて2つの出力信号S1、S2を提供する電子切替装置26も含んでいる。それぞれの出力28a,bはローパスフィルターを含んでおり、出力信号S12を平滑化する。
【0042】
サンプルの蛍光寿命を測定する方法を図3で説明する。図3は励起光の照射強度I、発光強度E、及び光検出機16の出力用の切替周期Tを示す。
【0043】
励起光の強度Iは、第1レベルI1と、ゼロであるか、必ずしもゼロである必要はないがI1より低い第2レベルI2の間で交互に切り替えられる。切替周期Tは信号発生装置24で決定される。典型的には、切替周期は2つの強度レベル間で等しく分割される。励起光はよって時間T/2の第1レベルI1と、時間T/2の第2レベルI2である。あるいは切替周期はこれら2つの強度レベル間で不平等に分割される。
【0044】
励起光が高い強度レベルI1である場合、光で照射されるサンプルの蛍光発光団のいくらかは励起され、発光強度は最高値E1へと増強される。その後、励起光強度が低レベルI2へ下降すると、発光強度は最低値E2へと減衰する。このサイクルが継続して繰り返される。
【0045】
光検出機16はサンプルから届く全ての発生光を検知して継続的に作動する。光検出機16の出力は、励起光が高強度レベルI1である間、サイクル(A)の第1部分の検出光が第1出力部28aへ向けられるよう、制御ユニット18によって切り替えられるが、励起光の強度が低レベルI2である間、サイクル(B)の第2部分の発生光は、第2出力部28bへ向けられる。制御ユニット18は従って、2つの出力信号Y1(t)とY2(t)を有しており、それらは半サイクル間にそれぞれ検出された光強度に対応する。これらの出力信号はローパスフィルター30で平滑化され、2つの出力アナログ信号S1とS2を提供する。
照光周期の2期間に検出された蛍光の相対総量は、寿命τと切替周期Tの割合による。(S1+S2)は検出蛍光総量を表し、(S1−S2)は、高及び低励起強度周期間の蛍光強度の差を表す。(S1−S2)/(S1+S2)は蛍光強度とは関係がなく、以下の式による蛍光発光団の蛍光寿命τに対する1級数減衰と関係する。
【0046】
【数1】

切替周期Tへの適値を選択することで、前述の関数はτ/Tの一次関数となることができ、蛍光寿命τが簡単に決定される、。
【0047】
実際には試験体は、異なる蛍光寿命を有する2以上の蛍光発光団を含むであろう。これらの寿命要素は、異なる検出機切替周期を用いて抽出される。図4で示すこのアプローチでは、発生光は先ず励起光の周期Tと等しい検出機切替周期を用いて検出され、次に励起周波数の調波である検出機切替周波数を用いて検出される。検出機切替周期がT/3となるように、検出機切替周波数は例えば励起周波数の3倍であってもよい。これは、蛍光寿命τを決定するために使用できる出力信号S1とS2への2対値、すなわち2つの値を提供する。蛍光発光団の寿命が十分異なるとすれば、この方法は、蛍光発光団の蛍光寿命の相当正確な見積もりを提供する。
【0048】
蛍光発光団の蛍光寿命が互いに十分かけ離れているとすれば、サンプルが2以上の蛍光発光団を含んでいる場合、検出プロセスを異なる周波数で適当な回数繰り返すことで、異なる蛍光寿命を抽出できる。
【0049】
あるいは又は追加的に、蛍光寿命に適した周波数で異なる蛍光発光団を励起するよう、励起光の切替周波数を変更することができる。
【0050】
別のアプローチでは、周波数の組み合わせを含むように励起光を変調することができる。例えば図5で示すように、励起光の強度は、周期Tを有する第1要素と、周期T/10を有する第2要素を含むことができる。この結果、それぞれが期間T/2である第1部分と第2部分を有する波形となる。第1部分は、強度がI1とI2間で変化する周期T/10を有する方形波を含んでおり、第2部分では、強度は一定値I2(ゼロであってもよい)である。検出機は、出力信号S1とS2へ2つの対値を提供するよう、先ずTの周期で切り替えられ、次にT/10の周期で切り替えられ、それらから蛍光発光団の蛍光寿命を決定することができる。
【0051】
さらに別のオプションは、例えば図6で示す如く、3以上のレベル間で励起光を切り替えるステップを含んでいる。この例では、励起波形の第1部分は、第1強度レベルI1と第2強度レベルI2間で変化するT/10周期を有する方形波であり、波形の第2部分は、第2強度レベルI2と第3強度レベルI3(ゼロであってもよい)間で変化する方形波を含んでいる。検出機切替周期は再度、それぞれTとT/10である。この方法でTとT/10に対応する寿命を測定することができる。
【0052】
その他のアプローチのその他の変更も可能である。例えば、異なる波形を用いて励起光の切替周期と検出機との間に遅延状態を導入することもできる。2つの出力信号Y1(t)とY2(t)を提供するよう、検出機の出力を物理的に切り替える代わりに、コンピュータを使用する等で出力信号を電子的に分割し、サイクルのそれぞれの部分で検出された光量を表す2つの値S1とS2を提供するよう、出力信号の2部分を経時的に統合することができる。
【0053】
前述のシステムは、例えば蛍光分析等、多数の試験体の蛍光寿命特性を同時に測定するための並行システムとして利用できる。このようなシステムの1例の概要を図7に示す。このシステムで、信号発生装置24は、光源24又は変調機22のどちらかに接続されており、励起光を複数の試験体34へ提供するための多重光学素子32を有する。サンプル34からの発生光を検知するよう、光検出機36の列が提供され、電子切替ユニットの列38に平行に接続されており、信号発生装置24からの制御信号も受領する。これら切替ユニットのそれぞれは一対の出力部40を含んでおり、サンプル34それぞれの蛍光寿命を同時に決定させる。
【0054】
光源と光検出機の切替周波数は、検出対象の蛍光発光団の寿命に依存する。例えば、生物学的に関連性を有する蛍光発光団の多くは1から10nsの寿命を有する。これらは可視蛍光プロテイン(例:緑蛍光プロテインすなわちGFP)を含んでいる。GFPは通常3nsの寿命を有する。ローダミン(Rhodamine)6Gはおよそ4nsの寿命を有する。DAPIはDNAのラベリングに頻繁に使用され、取り付けられるDNAの性質によって0.4と3.9nsの間で変化する2つの寿命要素を有する。これは本発明で主に利用される範囲であろう。これら寿命の測定には、およそ10から100MHzの範囲の切替周波数が適当である。
【0055】
10から100ps程度のさらに短い寿命要素も多くの物質に存在する。これらの寿命には、周波数を1000MHzまで、又はさらに高いMHzで切り替えるのが適当である。さらに長寿命の蛍光発光団も存在する(例:100nsから1μsの範囲の寿命を有する金属リガンド複合体)。これらは、さらに長い時間スケールを有するあらゆる形態のルミネセンスと同様、本発明の範囲内である。これらの場合、およそ1から10MHz又はさらに低い周波数で切り替えるのが適当であろう。
【0056】
本発明は、物品に付されたラベルに含まれる蛍光材の蛍光寿命を検出することによって、ラベル付された物品を特定する方法及びシステムも提供する。これは例えば貴重品、重要書類、及び紙幣、パスポート、認証カード等その他の物品の偽造を防止する等、安全確保の面で大いに有用である。
【0057】
蛍光材を物品のラベル付けに利用できることは既に知られており、蛍光を生じさせるようラベルを照射し、発生照射の波長及び強度を測定して物品を特定することができる。この方法は例えば、ショード チャン(Shoude Chang)、ミン ゾウ(Ming Zhou)及びチャンダー ピー.グローバー(Chander P. Grover)によるオプティックス エクスプレス第143号第12巻No.1(2004年1月12日)「物品特定のための蛍光半導体ナノ結晶を用いた情報コード及び検索」で説明されている。
【0058】
簡単に説明すると、この文献で説明されている方法は、1以上の蛍光材を含む半導体ナノ結晶(“量子ドット”)で物品をマーキングするステップを含んでおり、これらの蛍光材のスペクトル特性(すなわち波長及び強度)の組み合わせは、物品を特定するコード情報を含む“署名”を提供する。物品を特定するため、フルオロスペクトロメーターを用いてこの情報を読み取り、適切な波長フィルターを用いてそれぞれの発生源から発生する光を異なる波長ウィンドウへ分離する。重複するスペクトルプロフィールを分離するため、デコンポリューションベースアルゴリズムを利用する。異なる種類の蛍光源の相対的割合を測定し、その情報をラベル署名のデータベースと比較することで、物品を特定できる。
【0059】
本発明の1実施例では、ラベルに含まれる蛍光材の蛍光寿命を、単独、あるいは他のスペクトル特性(その波長と強度)の一方又は両方のどちらかと組み合わせたものを物品特定のために使用する以外は、前述の文献で説明されているものと同様の方法が利用されている。これは、従来に提案された方法の有用な延長であり、さらに多くの情報の暗号化を可能にし、及び/又は過大な測定に頼る必要性(信頼できないことがある)を排除させる。
【0060】
蛍光寿命は好適には前述の方法で測定され、この方法では、励起光の強度が2つの異なる強度値間で反復して切替え、検出光信号が複数の部分へと分割し、それぞれの部分で検出された光量を、蛍光材の蛍光寿命を決定するために測定する。これによって低費用の蛍光寿命測定システムを用いた方法が可能となる。蛍光寿命を測定する他の方法も利用できる。
【0061】
本発明の簡単な形態では、物品は、好適には最適な量子ドットに含まれる2種類の蛍光発生源を含んだインクでラベリングされる。蛍光発光団は、例えば1方の種が寿命τを有するとき、もう1方は典型的には寿命10τを有する等、異なる蛍光寿命を有するように選択されることが望ましい。大きく離れた寿命を利用すれば、2種類の発生源の性質を簡単に分離することができる。インクは、LED又はダイオードレーザー等、前述の如く適した状態に切り替えられた、適当な放射源で励起される。発生光を検出した後、2種類の発生源の蛍光寿命の相対的割合及び/又は蛍光寿命が検出信号から導き出される。
【0062】
この検出方法は蛍光発光団のスペクトル分離を必要としないので、蛍光発光団の発生スペクトルが重複することがある。恒常状態スペクトルからは2種類の発生源の存在が明確ではない可能性があるため、セキュリティマーキングの時には有益である:この情報は蛍光発光団の寿命の特徴が測定される時のみ明確になる。
【0063】
ラベリング物品を特定するシステムは、光試験ステーション2(共焦点顕微鏡を含んでもよいが、一般的にはより単純な光学機を利用する)を含んでおり、例えば図1及び図2で示すシステムとほぼ類似し、光源4,波長フィルターのセット8,光源4からの光を試験体14上に焦点させる対物レンズ12、及び光検出機16を含んでいる。
【0064】
このシステムは、コンピュータ20へ接続される電子制御ユニット18をさらに含んでいる。制御ユニット18は光検出機16へ接続され、記録と分析のため、出力信号を光検出機16からコンピュータ20へ送信する。制御ユニット18も光源4へ接続され、光源4を制御操作する。あるいは制御ユニット18を光源4の前に位置する変調機22へ接続し、励起光強度を変調することもできる。
【0065】
このシステムで特定されるそれぞれの物品には、例えば、共同で “署名”を形成する蛍光特性を有した蛍光材の組み合わせを含んだ量子ドットの形態のラベルが付されており、物品を特定する。署名のリストと、署名が付された物品は、コンピュータ20内のデータベースに保存される。このシステムは、実質的には前述の如く作動し、ラベルに含まれる蛍光発光団の蛍光特性を測定する。特性には蛍光材の蛍光寿命が含まれるであろうし、必要であれば、発生光の波長と強度も測定されるであろう。この情報をラベルの蛍光署名をコンパイルするために使用する。コンパイルされた署名をデータベースに保存された署名データベースと比較して物品を特定する。
【0066】
この方法とシステムの変形も可能である。例えば、異なる寿命を有する3つ以上の蛍光発光団をインクに組み込むこともでき、検出システムを、例えばいくつかの異なる切替周波数を組み合わせて蛍光発光団を検出するよう、適した状態で提供することができる。蛍光寿命測定をスペクトル分離と組み合わせて、寿命測定を異なるスペクトルウィンドウで同時に行うこともできる。特定波長用フィルターを用いることで、スペクトル要素を異なる経路へと分離したり、切替蛍光寿命検出システムをそれぞれのスペクトル経路へと組み込むことができよう。あるいは、種々な蛍光発光団を励起するよう、多数の光源からの異なる励起波長を利用することができる。光源を、異なる周波数又は別の方法で切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、スキャン顕微鏡で実行される蛍光寿命の測定装置の概要図である。
【図2】図2は、図1で示す装置の検出電子機器の概要図である。
【図3】図3は、照射強度、発光強度及び検出機切替周期の関係を示すグラフのセットである。
【図4】図4は、照射強度と検出機切替周期の別例の関係を示すグラフのセットである。
【図5】図5は、照射強度と検出機切替周期の別例の関係を示すグラフのセットである。
【図6】図6は、照射強度と検出機切替周期の別例の関係を示すグラフのセットである。
【図7】図7は、蛍光分析装置で実行される、蛍光寿命測定用の第2装置の概要図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光寿命の測定方法であって、本方法は、
少なくとも1つの蛍光発光団を含むサンプルを光で照射して蛍光を励起させるステップと、
前記励起光の強度を第1強度I1と第2強度I2との間で反復して切り替えるステップと、
前記サンプルの蛍光によって発生する光を検出し、検出光信号を発生させるステップと、
該検出光信号を反復して切り替え、第1部分と第2部分へと分割するステップと、
前記第1部分と前記第2部分のそれぞれで検出された光の量を測定し、第1発光値S1と第2発光値S2とを得るステップと、
該第1発光値S1と第2発光値S2とから蛍光寿命を決定するステップと、
を含んでいる測定方法。
【請求項2】
励起光は第1周波数F1で切り替えられ、検出光信号は、
DがF1と相関関係にある、第2周波数FDで切り替えられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
DはF1と同調することを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
DはF1と等しいことを特徴とする請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
DはF1の調波であることを特徴とする請求項2又は3記載の方法。
【請求項6】
励起光は1から1000MHzの範囲の周波数で切り替えられ、好適には10から100MHzの範囲で切り替えられることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
検出光信号は第1周波数FDで切り替えられ、第1蛍光寿命を決定する第1セットの発光値S1とS2とが得られ、前記検出光信号はその後、第2周波数FDで切り替えられ、第2蛍光寿命を決定する第2セットの発光値S1とS2とを得ることを特徴とする方法。
【請求項8】
DとFDは励起光切替周波数F1と異なる調波であることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
励起光は、異なる周波数の複数の要素を含む切替機能に従って切り替えられることを特徴とする請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
励起光の切替機能は、第1要素F1と、F1の調波である第2要素F1とを含んでいることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
励起光の強度は、第1強度I1と、第2強度I2と、第3強度I3との間で反復して切り替えられることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
第3強度I3は実質的にゼロであることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの蛍光発光団を含むサンプルの蛍光寿命を測定する装置であって、本装置は、
前記サンプルを光で照射して蛍光を励起する光源と、
前記励起光の強度を第1強度I1と第2強度I2との間で反復して切り替える第1切替手段と、
前記サンプルの蛍光によって発生する光を検出し、検出光信号を発生させる検出機と、
前記検出光信号を第1部分と第2部分とへ分割する第2切替手段と、
前記第1部分と前記第2部分とで検出された光の量を測定し、第1発光値S1と第2発光値S2を得る手段と、
前記第1及び第2発光値S1とS2とから蛍光寿命を決定する手段と、
を含んでいる装置。
【請求項14】
第1切替手段と第2切替手段との切替を制御する手段を含んでいることを特徴とする請求項13記載の装置。
【請求項15】
第1切替手段は光源に接続され、該光源によって発生される光の強度を制御することを特徴とする請求項13又は14記載の装置。
【請求項16】
第1切替手段は変調機に接続され、サンプルに入射する励起光強度を制御することを特徴とする請求項13又は14記載の装置。
【請求項17】
変調機は電子光学シャッターを含んでいることを特徴とする請求項16記載の装置。
【請求項18】
光源はダイオードレーザーであることを特徴とする請求項13から17のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
光源は1以上のLEDを含んでいることを特徴とする請求項13から17のいずれかに記載の装置。
【請求項20】
顕微的画像システムの部分を含んでいることを特徴とする請求項13から19のいずれかに記載の装置。
【請求項21】
顕微的画像システムは共焦点スキャン顕微鏡を含んでいることを特徴とする請求項20記載の装置。
【請求項22】
蛍光分析システムの部分を含んでいることを特徴とする請求項13から19のいずれかに記載の装置。
【請求項23】
蛍光分析システムは複数のサンプルホルダーを含んでおり、複数の検出機と前記サンプルホルダー内のサンプルの寿命を実質的に同時に測定するための手段を含んでいることを特徴とする請求項22記載の装置。
【請求項24】
請求項1から12のいずれかに記載の方法に従って作動するよう構成されていることを特徴とする請求項13から23のいずれかに記載の装置。
【請求項25】
ラベル付けされた物品の特定方法であって、それぞれの物品が蛍光材の組み合わせを含むラベルを含んでおり、本方法は、
前記ラベルを照射し、前記蛍光材を励起するステップと、
前記蛍光材の蛍光によって発生する光を検出するステップと、
前記蛍光材の蛍光寿命を測定するステップと、
前記蛍光寿命から前記ラベルに存在する蛍光材の組み合わせを特定するステップと、
前記組み合わせから物品を特定するステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項26】
蛍光材の蛍光寿命は請求項1から12のいずれかに記載の方法を用いて測定されることを特徴とする請求項25記載の方法。
【請求項27】
発生光の波長を測定するステップと、
前記波長と蛍光寿命からラベルに存在する蛍光材の組み合わせを特定するステップと、
を含んでいることを特徴とする請求項25又は26記載の方法。
【請求項28】
発生光の強度を測定するステップと、波長、強度及び蛍光寿命からラベルに存在する蛍光材の組み合わせを特定するステップとを含んでいることを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項29】
ラベルは、物品に付されるインクマーキングを含んでおり、該インクは蛍光材の組み合わせを含んでいることを特徴とする請求項25から28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
ラベル付けされた物品を特定する装置であって、それぞれの物品は蛍光材の組み合わせを含むラベルを含んでおり、前記組み合わせは物品を特定し、本装置は、
前記ラベルを照射して蛍光を励起する光源と、
前記蛍光材の蛍光によって発生する光を検出する検出機と、
前記蛍光材の蛍光寿命を測定する手段と、
前記測定された蛍光寿命から前記ラベルに存在する前記蛍光材の組み合わせを特定し、該組み合わせから物品を特定する処理機と、
を含んでいることを特徴とする装置。
【請求項31】
蛍光材の蛍光寿命は、請求項13から21のいずれかに記載の装置を用いて測定されることを特徴とする請求項30記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−530916(P2007−530916A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520003(P2006−520003)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003068
【国際公開番号】WO2005/010507
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(502144729)アイシス イノベイシヨン リミテツド (18)
【Fターム(参考)】