説明

蛍光材料、その製造方法および発光デバイス

【課題】無機材料を用いたエネルギー移動型の蛍光材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一対の半導体層110および希土類イオン層120を含む蛍光材料100は、半導体層は、負電荷を有しており、希土類イオン層は、正電荷を有しており、少なくとも1種類の希土類イオンを含み、少なくとも一対の半導体層および希土類イオン層のそれぞれは、互いに隣接するように積層されており、半導体層のドナー準位のエネルギーEDと、少なくとも1種類の希土類イオンの励起状態のエネルギーEReとは、関係ED>EReを満たす。該蛍光材料の製造工程は、半導体層を含有する懸濁液を精製する工程、希土類イオンを含有する反応溶液を調整する工程、前記懸濁液と反応溶液を混合する工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類イオンを含む蛍光材料とその製造方法とに関し、より詳細には、含有される希土類イオンへのエネルギー移動によって発光する蛍光材料と、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
希土類イオンまたはランタノイド系(Ln)イオンを含有する蛍光材料の、エレクトロルミネッセンス素子、オプトエレクトロニクスおよびフラットパネルディスプレイ等の技術応用に大きな関心が寄せられている。
【0003】
このような蛍光材料の1つに、希土類元素と配位子とを含む蛍光錯体がある。上記蛍光錯体は、希土類元素の塩(例えば、ユウロピウム、ネオジウム)と低分子配位子(例えばβ-ジケトン化合物)とを溶媒に混合し、塩基性化合物を加えてpHを調整することによ
って得られる。このような蛍光錯体では、配位子を励起することによって、配位子から希土類イオンへのエネルギー移動が生じ、希土類イオンによる強い蛍光が観察される。
【0004】
このような蛍光は、配位子を励起させればよいため、直接希土類イオンを励起する場合に比べて、有利である。なぜなら、希土類イオンに比べて配位子の方が広い波長範囲に吸収を有するため、励起波長に制限がないためである。しかしながら、このような蛍光錯体は有機物であるため、応用技術が制限される可能性がある。また、有機物は熱的に不安定であるといった問題も有する。
【0005】
このような問題を克服するために、近年、希土類元素を含む無機半導体材料の開発が進んでいる(例えば、非特許文献1を参照。)。非特許文献1は、チタンイソプロポキシド溶液と、ユウロピウム硝酸塩溶液との混合溶液からゾル・ゲル法を用いて、種々のユウロピウム濃度を含有する酸化チタン(チタニア)を製造する技術を開示している。
【0006】
【非特許文献1】A. Conde−Gallardoら, Applied Physics Letters, Vol.78, No.22, pp.3436
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記非特許文献1に記載されるユウロピウムを含有する酸化チタンは、酸化チタンからユウロピウムへのエネルギー移動による十分な蛍光は見られない。これは、ユウロピウムのドーピング仕込み量のうち、酸化チタンの結晶格子内に含まれるユウロピウム量よりも酸化チタンの表面に吸着したユウロピウム量の方が多く存在するためである。また、非特許文献1に記載する技術では、充分な発光強度が得られるのに必要な量のユウロピウムを酸化チタンの結晶格子内に含有させるのは困難である。
【0008】
したがって、本発明の目的は、無機材料を用いたエネルギー移動型の蛍光材料およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による少なくとも一対の半導体層および希土類イオン層を含む蛍光材料は、前記半導体層は、負電荷を有しており、前記希土類イオン層は、正電荷を有しており、少なくとも1種類の希土類イオンを含み、前記少なくとも一対の前記半導体層および前記希土類イオン層のそれぞれは、互いに隣接するように積層されており、前記半導体層の欠陥準位
のエネルギーEDと、前記少なくとも1種類の希土類イオンの励起状態のエネルギーERe
とは、関係ED>EReを満たし、これにより上記目的を達成する。
【0010】
前記半導体層は、酸化チタンナノシート、酸化マンガンナノシート、酸化ニオブナノシート、酸化チタン・ニオブナノシート、ペロブスカイト型酸化ニオブナノシート、ペロブスカイト型酸化タンタルナノシート、および、ペロブスカイト型酸化チタンナノシートからなる群から選択されてもよい。
【0011】
前記少なくとも1種類の希土類イオンは、Sm3+、Eu3+、Tb3+、Dy3+、Pr3+、Nd3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、および、Yb3+からなる群から選択されてもよい。
【0012】
前記希土類イオン層は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、水素イオン、および、アンモニウムイオンからなる群から選択されるイオンをさらに含んでもよい。
前記半導体層の厚さは、0.5nm〜2nmの範囲であってもよい。
【0013】
本発明による半導体層と希土類イオン層とを含む蛍光材料を製造する方法は、負電荷を有する前記半導体層を含有する懸濁液を生成する工程と、少なくとも1種類の希土類イオンを含有する反応溶液を調製する工程であって、前記半導体層の欠陥準位のエネルギーEDと、前記少なくとも1種類の希土類元素の励起状態のエネルギーEReとは、関係ED>EReを満たす、工程と、前記懸濁液と前記反応溶液とを混合する工程であって、前記半導体層上に前記少なくとも1種類の希土類イオンを含む、正電荷を有する前記希土類イオン層が形成される、工程とを包含し、これにより上記目的を達成する。
【0014】
前記半導体層は、酸化チタンナノシート、酸化マンガンナノシート、酸化ニオブナノシート、酸化チタン・ニオブナノシート、ペロブスカイト型酸化ニオブナノシート、ペロブスカイト型酸化タンタルナノシート、および、ペロブスカイト型酸化チタンナノシートからなる群から選択されてもよい。
【0015】
前記少なくとも1種類の希土類イオンは、Sm3+、Eu3+、Tb3+、Dy3+、Pr3+、Nd3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、および、Yb3+からなる群から選択されてもよい。
【0016】
前記調製する工程は、前記反応溶液にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン遷移金属イオン、水素イオン、および、アンモニウムイオンからなる群から選択されるイオンをさらに添加する工程を包含してもよい。
前記半導体層の厚さは、0.2nm〜2nmの範囲であってもよい。
【0017】
前記混合する工程は、前記反応溶液に前記懸濁液を0.5〜50ml/分の速度で加え、室温〜100℃の温度範囲において、1〜24時間保持してもよい。
前記混合する工程の後に、前記蛍光材料を洗浄し、乾燥させる工程をさらに包含してもよい。
【0018】
本発明による発光デバイスは、上記蛍光材料を用いることによって、上記目的を達成する。
【発明の効果】
【0019】
本発明による蛍光材料は、少なくとも一対の、半導体層、および、少なくとも1種類の希土類イオンを含む希土類イオン層を含む。半導体層は負電荷を有しており、希土類イオン層は、正電荷を有している。これにより、少なくとも一対の半導体層および希土類イオン層のそれぞれは、互いに隣接するように積層される。その結果、希土類イオンを高濃度
で含有させることができる。
半導体層の欠陥準位のエネルギーEDと、少なくとも1種類の希土類イオンの励起状態
のエネルギーEReとは、関係ED>EReを満たすため、半導体層に基づく励起光を照射す
ることによって、吸収エネルギーを容易に希土類イオンに移動させ、半導体層の欠陥準位に基づく蛍光ではなく、希土類イオンに基づく蛍光を容易に発生することができる。したがって、エネルギー移動を介した蛍光を高効率で発生し得る。また、本発明による蛍光材料は、有機物を用いていないため、熱的に安定である。この結果、本発明の蛍光材料を用いれば、長寿命のデバイスが得られ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明による蛍光材料の模式図である。
本発明による蛍光材料100は、半導体層110と希土類イオン層120との組130を含む。半導体層110と希土類イオン層120とは隣接して積層されている。
【0022】
半導体層110は、半導体の欠陥準位のエネルギーEDが、後述する希土類イオン層1
20の希土類イオンの励起状態のエネルギーEReより高くあり、かつ、負電荷を有せば、任意の材料を用いることができる。半導体層110は、好ましくは、酸化チタンナノシート、酸化マンガンナノシート、酸化ニオブナノシート、酸化チタン・ニオブナノシート、ペロブスカイト型酸化ニオブナノシート、および、ペロブスカイト型酸化チタンナノシートからなる群から選択される。
【0023】
なお、本明細書において、酸化チタンナノシートは、Ti1-x2(x<0.15)、Ti37、Ti49、および、Ti511を含む。また、酸化マンガンナノシートは、Mn
2、Mn37、および、他の遷移金属が固溶したMn1ーδCoδ2(ここでδ<0.
5)、および、Mn1ーδFeδ2(ここでδ<0.2)を含む。酸化ニオブナノシートは、Nb617およびNb38を含む。酸化チタン・ニオブナノシートは、TiNbO5およびTi2NbO7を含む。ペロブスカイト型酸化ニオブナノシートは、Ca2Nb310、Sr2Nb310、および、Pb2Nb310を含む。ペロブスカイト型酸化タンタルナノシートは、Ca2Ta310、Sr2Ta310、および、Pb2Ta310を含む。ペロブスカイト型酸化チタンナノシートは、La2Ti310である。
【0024】
半導体層110の厚さは、0.5nm〜2nmの範囲である。このような厚さを有する半導体層110は、分子的な側面を有している。
【0025】
希土類イオン層120は、半導体層110上に隣接しており、少なくとも1種類の希土類イオンを含む。希土類イオン層120は、正電荷を有している。これにより半導体層110が有する負電荷と引力によって互いに隣接し、積層構造が形成され得る。
【0026】
このような積層構造により、半導体層110の有する電荷と希土類イオン層120の有する電荷との間で、実質的に電荷補償(電気的中性を満足)するように、半導体層110間に希土類イオンを含有させることができる。
【0027】
したがって、従来に比べて確実に所望量の希土類イオンを半導体材料に含有させることができる。含有される希土類イオン濃度は、選択される半導体材料と希土類イオンとに依存し得る。
【0028】
なお、本明細書において、実質的に「電荷補償(電気的中性を満足)する」とは、完全
に半導体層110と希土類イオン層120との間で電荷補償されていない(すなわち、電気的中性が満足されていない)が、それによってデバイスに及ぼす影響はないことを言う。また、半導体層110の層間隔Dは、選択された希土類イオンの直径およびナノシートの厚みに依存し、1〜3nmの範囲であり得る。
【0029】
希土類イオン層120に含まれる少なくとも1種類の希土類イオンの励起状態のエネルギーEReは、後述する、半導体層110の欠陥準位のエネルギーEDよりも低いことを満
たしている。詳細には、少なくとも1種類の希土類イオンは、その希土類イオンの励起準位と基底準位とのエネルギー差(f−f遷移)が可視光〜赤外域に存在するという条件を満たせばよい。少なくとも1種類の希土類イオンは、好ましくは、Sm3+、Eu3+、Tb3+、Dy3+、Pr3+、Nd3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、および、Yb3+からなる群から選択される。
【0030】
希土類イオン層120は、半導体層110と実質的に電荷補償(電気的中性を満足)するように、上述の希土類イオンを組み合わせて含んでもよい。この場合、含有される希土類イオンの種類に応じて、多種類の波長を有する発光を取り出すことができる。また、希土類イオン層120は、希土類イオンに加えて、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、水素イオン、および、アンモニウムイオンからなる群から選択されるイオンをさらに含んでもよい。これにより、含有される希土類イオンの濃度を所望の濃度になるように調整してもよい。このように発光に寄与する希土類イオンの濃度を制御することによって、発光強度が制御され得る。
【0031】
次に、本発明による蛍光材料の蛍光メカニズムを説明する。
図2は、本発明による蛍光材料の蛍光メカニズムを示す模式図である。
【0032】
半導体層110(図1)であるホストは、価電子帯(VB)と伝導帯(CB)とを有する。光を蛍光材料100(図1)に照射し、半導体層110のVBに存在する電子をCBに励起させる(実線A)。
【0033】
従来の蛍光材料であれば、CBに励起した電子は、VBに直接遷移するか(点線B)、または、欠陥準位にトラップされた後、VBのホールと再結合するか(点線C)のいずれかによって、余ったエネルギーを蛍光として放出していた。
【0034】
しかしながら、本発明による蛍光材料100では、CBに励起した電子は、VBに直接遷移することなく欠陥準位にトラップされた後、VBのホールと再結合することなく、希土類イオンの励起準位にエネルギー移動し得る(実線D)。
【0035】
このようなエネルギー移動は、ホストである半導体層と希土類イオンとが近接していることによって生じる。より詳細には、ホストである0.5〜2nmの厚さの半導体層110と希土類イオン層120中の希土類イオンとは、結晶格子レベルで混ざり合った状態にあるため、ホストの欠陥にトラップされた電子は容易に希土類イオンの励起準位にエネルギー移動することができる。
【0036】
このように本発明による蛍光材料によれば、蛍光材料のホストとなる半導体層で吸収を生じる波長の光を、蛍光材料に照射することによって、容易に含有される希土類イオンに基づく蛍光を取り出すことができる。
【0037】
蛍光材料に照射されるべき光は、半導体層で吸収が生じればよいので、その波長範囲は、希土類イオンにおける吸収の波長範囲に比べて十分広い。したがって、本発明の蛍光材料を用いて、デバイス設計する場合、光源の制約が小さく有利であり得る。
【0038】
また、本発明による蛍光材料は、無機材料から構成されているため、従来の有機材料による蛍光材料を用いたデバイスに比べて、動作環境に対する耐性が大きく、デバイスを安定に動作させることができる。
【0039】
次に、本発明による蛍光材料の製造方法を説明する。
図3は、本発明による蛍光材料を製造する工程を示すフローチャートである。
【0040】
各工程を説明する。
工程S310:半導体層を含有する懸濁液を生成する。半導体層は、半導体の欠陥準位のエネルギーEDが、後に生成される希土類イオン層に含有される希土類イオンの励起状
態のエネルギーEReより高くあり、かつ、負電荷を有していれば、任意の材料を用いることができる。半導体層は、好ましくは、酸化チタンナノシート、酸化マンガンナノシート、酸化ニオブナノシート、酸化チタン・ニオブナノシート、ペロブスカイト型酸化ニオブナノシート、および、ペロブスカイト型酸化チタンナノシートからなる群から選択される。
【0041】
なお、本明細書において、酸化チタンナノシートは、Ti1-x2(<0.15)、Ti37、Ti49、および、Ti511を含む。また、酸化マンガンナノシートは、MnO2、Mn37、および、他の遷移金属が固溶したMn1ーδCoδ2(ここでδ<0.5)、および、Mn1ーδFeδ2(ここでδ<0.2)を含む。酸化ニオブナノシートは、Nb617およびNb38を含む。酸化チタン・ニオブナノシートは、TiNbO5およびTi2NbO7を含む。ペロブスカイト型酸化ニオブナノシートは、Ca2Nb310、Sr2Nb310、および、Pb2Nb310を含む。ペロブスカイト型酸化タンタルナノシートは、Ca2Ta310、Sr2Ta310、および、Pb2Ta310を含む。ペロブスカイト型酸化チタンナノシートは、La2Ti310である。半導体層110の厚さは、0.5nm〜2nmの範囲である。
【0042】
なお、このような半導体層は、例えば、特許第1966650号および特許第2671949号に記載される技術を用いて製造され得るが、任意の方法によって得られた半導体層を採用することができる。
半導体層を分散媒に分散させて懸濁液を生成する。分散媒は、例えば、水であり得るが、半導体層および後述する希土類イオンのいずれもが可溶であれば任意の溶媒を用いることができる。ここで半導体層は、分散媒中で1層ずつ分散した状態で保持され得る。
【0043】
工程S320:少なくとも1種類の希土類イオンを含有する反応溶液を調整する。少なくとも1種類の希土類イオンは、その希土類イオンの励起準位と基底準位とのエネルギー差(f−f遷移)が可視光〜赤外域に存在するという条件を満たせばよい。少なくとも1種類の希土類イオンは、好ましくは、Sm3+、Eu3+、Tb3+、Dy3+、Pr3+、Nd3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、および、Yb3+からなる群から選択される。
【0044】
これらから選択された希土類イオンを含む硝酸塩溶液、硫酸塩溶液、または、酢酸塩溶液は、工程S310で用いた半導体層の負電荷に対して実質的に電荷補償(電気的中性を満足)するように、希土類イオン濃度が調整され得る。なお、希土類イオンを含む溶液は、上記に限定されず、工程S310で調製された懸濁液に可溶であれば、任意の溶液を用いることができる。
【0045】
なお、希土類イオンに加えて、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、水素イオン、および、アンモニウムイオンから選択されるイオンを反応溶液に加えてもよい。この場合、これら追加される金属イオンもまた、硝酸塩溶液、硫酸塩溶液
、または、酢酸塩溶液として追加され得るが、工程S310で調製された懸濁液に可溶であれば、任意の溶液を用いることができる。さらなる金属イオンを含有させることによって、希土類イオンの濃度を所望の濃度になるように調整してもよい。
【0046】
工程S330:工程S310で生成されたコロイド懸濁液と、工程S320で調整された反応溶液とを混合する。反応溶液にコロイド懸濁液を手動にて、または、装置を用いて滴下して混合させてもよい。装置を用いる場合、0.5〜50ml/分の速度で反応溶液にコロイド懸濁液を加える。工程S330は、室温〜100℃の温度範囲において行われ、混合後、1時間〜24時間保持される。なお、本明細書において室温とは、10℃〜35℃の温度範囲を意図する。
【0047】
この間に、半導体層が希土類イオンを挟み込んで沈殿(フロキュレーション)する。このフロキュレーションは、半導体層が有する負電荷と、希土類イオンが有する正電荷との引力によって、自己組織化的に進行する。得られた沈殿物が、本発明による蛍光材料100(図1)である。沈殿物を濾過した後、任意の洗浄液(超純水等)を用いて洗浄し、乾燥してもよい。なお、工程S310と工程S320とは、任意の順番で行われ得る。
【0048】
このように本発明による方法によれば、ホストとなるコロイド懸濁液と、希土類イオンを含有する反応溶液とを作製し、これらを混合するだけで、容易に蛍光材料を得ることができる。また、半導体層と希土類イオンとが自己組織的に交互に積層するので、得られた蛍光材料に含まれる希土類イオンは、ホストの結晶格子内に取り込まれたことに相当し、電気的中性を満足する高濃度の希土類イオンを半導体層間に挿入することができる。これにより、図2を参照して説明した、ホストの欠陥準位から希土類イオンの励起準位への効率的なエネルギー移動が可能な蛍光材料を製造することができる。
【0049】
(実施の形態2)
図4は、本発明による蛍光材料を用いた表示装置の斜視図である。
表示装置400は、AC面放射型プラズマディスプレイ(PDP)である。表示装置400は、フロント部410とリア部420とを含む。
【0050】
フロント部410は、第1のガラス基板411と、第1のガラス基板411上に形成された表示電極412と、表示電極412上に形成された第1の誘電体層413と、第1の誘電体層413上に形成された保護層414とを含む。
【0051】
リア部420は、第2のガラス基板421と、第2のガラス基板421上に形成されたアドレス電極422と、アドレス電極422上に形成された第2の誘電体層423と、第2の誘電体層423上に形成された隔壁424と、隔壁424間に配置された蛍光材料425とを含む。
【0052】
第1のガラス基板411は、例えば、高ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラスであり得る。第2のガラス基板421は、第1のガラス基板411と同じ材料であってもよいし、異なる材料(例えば、ソーダライムガラス)であってもよい。
【0053】
表示電極412は、透明電極であり、例えば、Cr・Al膜、ITO膜であり得る。アドレス電極422は、表示電極112と同じ材料であってもよいし、異なる材料(例えば、Al)であってもよい。
【0054】
第1の誘電体層413と第2の誘電体層423とは、例えば、ガラスから形成され得、コンデンサとして機能する。保護層414は、例えば、酸化マグネシウムであり得る。
【0055】
隔壁424は、例えば、ガラスペーストであり得る。隔壁424は、所定の間隔で配置されており、これによりセル430が形成される。蛍光材料425は、実施の形態1で説明した本発明による蛍光材料である。なお、各セル430には、例えば、Xeを含む不活性ガスの混合ガスが封入されているが、本発明の蛍光材料425に含まれる半導体層110(図1)を励起させることができる波長を有する光を発する限り任意のガスを用いることができる。
【0056】
このようにして形成されたPDP400の表示動作を説明する。
表示電極412とアドレス電極422との間にAC電圧を印加する。表示電極412とアドレス電極422とによって選択されたセル430に電圧が印加される。次いで、セル430内にはプラズマが発生する。この放電の際に放出される紫外線により蛍光材料425に含まれる半導体層110が励起される。半導体層110が励起された後、図2を参照して説明したようにエネルギー移動を生じて、蛍光材料425に含有される希土類イオンに基づく蛍光(可視光)が放出される。
【0057】
蛍光材料425から放出された蛍光は、保護層414、第1の誘電体層413、表示電極412および第1のガラス基板411を介して出射され、表示光として観察者(図示せず)によって認知される。
【0058】
本発明による表示装置400は、実施の形態1で説明した蛍光材料を用いているため、有機材料からなる蛍光材料を用いた表示装置に比べて、動作の安定性が高く、かつ、動作環境に対する耐性を有し得る。
【0059】
実施の形態2で説明したPDP400は、本発明の蛍光材料100、425を適用する一例に過ぎないことを理解されたい。本発明の蛍光材料100、425を、例えば、光増幅器、マイクロレーザ、テレビスクリーン、照明器具等の発光デバイスに適用してもよい。この場合も上述の効果を奏することができる。
【0060】
次に、実施例を述べるが、本発明は実施例に限定されるものではないことに留意されたい。
【実施例1】
【0061】
Ti0.912ナノシートを水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液に分散させ、pH9
、0.4wt%、100cm3のコロイド懸濁液を作製した。Ti0.912ナノシートは、プロトン層状チタネートH0.7Ti1.8254・H2Oを単層になるように剥離して合成した。用いたTi0.912ナノシートは、厚さ0.75nmであり、横方向の長さが0.1〜
1μmであった。反応溶液として0.1moldm-3のEuCl3・6H2O水溶液を100cm3調製した。
【0062】
次いで、室温にてコロイド懸濁液を反応溶液に攪拌しながら手動にてゆっくり添加した。コロイド懸濁液を滴下すると同時に、白い析出物が確認された。析出物を濾過し、超純水で洗浄した後、大気中で25℃、一晩乾燥させた。乾燥後に得られた粉末(以降では、Ti0.912/Euと称する)は白色であった。
【0063】
図5は、実施例1で得られたTi0.912/EuのX線回折パターンを示す図である。
RINT 2000S粉末X線回析装置(Rigaku、Japan)を用いて得られたTi0.912/Euの構造評価を行った。X線回折装置の動作条件は、Cu−Kα線(
λ=0.15405nm)を用いて、40kV/40mA、1.5°2θ/分の走査速度であった。図5に示される丸は、それぞれ、8.2°および15°であり、これらの値より得られたTi0.912/EuにおいてTi0.912ナノシートが1.06nm(ナノシー
トの厚さを含む)の間隔で積層されていることを確認した。また、この値はEuイオンが希土類イオン層(図1の120)としてTi0.912ナノシート間に配置されていると考
えれば妥当である。
【0064】
図5に示される三角および四角で示したピークは、それぞれ、48°および62°であり、Ti0.912ナノシートの2次元原子配列の周期を示す。より詳細には、これら48
°および62°は、0.38nm×0.30nmの2次元面心長方形格子に由来する20および02反射である。これらの結果より、得られた粉末において、2次元原子配列がTi0.912の原子配列を満たし、Ti0.912ナノシートが1.06nm間隔で積層していることが確認された。
【0065】
図6は、実施例1で得られた粉末のTEM画像を示す図である。
JEM−3000F(JEOL、Japan)を用いて高解像度透過型電子顕微鏡によるTi0.912/Euの観察を行った。観察は、加速電圧300kVで行った。図6に示
されるように、Ti0.912/Euが層状のラメラ構造であることを確認した。またその
層間隔は、図5に示されるX線回折の結果と同様に約1nmであった。
【0066】
図7は、実施例1で得られたTi0.912/EuのEDSスペクトルを示す図である。
JEM−3000Fに付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いてTi0.912/Euの組成の同定を行った。図7に示されるように、主としてTi、OおよびE
uが検出された。また、各成分のスペクトル強度比よりEuの濃度を算出したところ、10%であった。このことは、得られたTi0.912/Euにおいて、Ti0.9120.36-
Eu3+とが実質的に電気的中性を満たしていることを示す。
【0067】
以上、図5〜図7の結果より、得られたTi0.912/Euは、図1に示されるような
、半導体層110(図1)としてTi0.912ナノシート、および、希土類イオン層12
0(図1)としてEu3+イオンを含む積層構造を有していることが分かった。
【0068】
得られたTi0.912/Euの吸収スペクトルを、U−4000型分光光度計(Hit
achi、Japan)を用いて測定した。測定は、測定波長200nm〜700nmを拡散反射モードで行った。
得られたTi0.912/EuのPLスペクトルを、F−4500蛍光分光光度計(Hi
tachi、Japan)を用いて測定した。測定は、測定波長200nm〜750nmを蛍光モードで行った。
これらの結果を図8および図9に示し、後述する。
【0069】
(比較例1)
反応溶液として0.1moldm-3のHCl水溶液を100cm3調製した以外は、実
施例1と同様であるため、説明を省略する。比較例1で得られた粉末(以降では、Ti0.912/Hと称する)は、希土類イオンを含まない以外は、実施例1と同様であった。
得られたTi0.912/Hの吸収スペクトルおよび発光スペクトルを、それぞれ、U−
4000型分光光度計およびF−4500蛍光分光光度計を用いて測定した。測定条件は、実施例1と同様である。これらの結果を図8および図9に示し、後述する。
【0070】
図8は、実施例1で得られたTi0.912/Eu(a)と、比較例1で得られたTi0.912/H(b)の吸収スペクトルを示す図である。
図8において(a)および(b)のいずれにも約380nm近傍に強いUV吸収が確認された。このUV吸収から算出されるバンドギャップは、3.24eVであった。この値から、実施例1および比較例1で得られた粉末が、周知のアナターゼのバンドギャップ(3.18eV)およびルチル(3.03eV)と同様のバンドギャップを有するチタニア
であることを確認した。
【0071】
図8(a)の吸収スペクトルは、380nmよりも長波長側に3つのピークを有する(挿入図を参照のこと)。一方図8(b)の吸収スペクトルは、380nmの吸収以外のピークは見られなかった。これら3つのピーク位置は、それぞれ、395nm、464nmおよび536nmであった。これらの3つのピークは、公知のEu3+による4f−4f内殻遷移に相当する。
【0072】
図9は、実施例1で得られたTi0.912/Eu(a)と、比較例1で得られたTi0.912/H(b)とのPLスペクトルを示す図である。
図9(a)の励起スペクトルは、380nmよりも長波長側に3つのピークを有した(ただし、図を明瞭にするため、500nmよりも長波長側のスペクトルを省略している)。これら3つのピーク位置は、それぞれ、395nm、464nmおよび536nm(図示せず)であり、上述した図8(a)に示される吸収スペクトルと一致した。励起光として波長395nmを有する光(Eu3+による吸収波長)をTi0.912/Euに照射させ
た場合の蛍光スペクトル(点線)は、Eu3+に特有の蛍光スペクトルを示した。詳細には、4つのピーク(590nm、612nm、653nmおよび693nm)が確認された。これらのピークは、それぞれ、507j(j=1〜4)遷移に起因する。この場合の蛍光は、Ti0.912/Eu内のEu3+を直接励起することによって得られる蛍光である

【0073】
励起光として波長250nmを有する光(ホストTi0.912による吸収波長)をTi0.912/Euに照射させた場合の蛍光スペクトル(実線)もまた、上述の場合と同様のEu3+に特有の蛍光スペクトルを示した。この場合の蛍光は、Ti0.912/Euのホスト
であるTi0.912を励起することによって得られる蛍光である。これにより、Ti0.91
2/Euは、ホストであるTi0.912を励起させて、励起された電子が、Ti0.912
からEu3+へエネルギー移動することによって、Eu3+による蛍光が得られることを確認した。また、このようにして得られたEu3+の蛍光は、発光デバイスに応用するに十分な強度を有することを確認した。また、このような蛍光が赤色の発光であることを目視確認した。
【0074】
図9(b)の励起スペクトル(点線)は、図8(b)に示される吸収スペクトルと同様に380nm以外のピークは見られなかった。励起光として波長250nmを有する光をTi0.912/Hに照射させた場合の蛍光スペクトル(実線)は、395nmに比較的弱
いピーク以外観察されなかった。このピークは、Ti0.912/Hの欠陥状態に起因して
おり、この結果は公知のTi0.912ナノシートの蛍光スペクトルに類似した。
【0075】
以上より、Ti0.912/Euは、Ti0.912を励起させるだけで十分な強度のEu3+による蛍光を容易に取り出すことができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
このように本発明による蛍光材料によれば、蛍光材料のホストとなる半導体層で吸収を生じる波長の光を、蛍光材料に照射することによって、容易に含有される希土類イオンに基づく蛍光を取り出すことができる。照射光は、半導体層で吸収が生じればよいので、励起光の波長範囲は、希土類イオンにおける吸収の波長範囲に比べて広い。したがって、本発明の蛍光材料を用いて、デバイス設計する場合、光源の制約が小さく有利であり得る。本発明による蛍光材料は、ディスプレイデバイス、光増幅器、マイクロレーザ、テレビスクリーン、照明器具等に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明による蛍光材料の模式図
【図2】本発明による蛍光材料の蛍光メカニズムを示す模式図
【図3】本発明による蛍光材料を製造する工程を示すフローチャート
【図4】本発明による蛍光材料を用いた表示装置の斜視図
【図5】実施例1で得られたTi0.912/EuのX線回折パターンを示す図
【図6】実施例1で得られた粉末のTEM画像を示す図
【図7】実施例1で得られたTi0.912/EuのEDSスペクトルを示す図
【図8】実施例1で得られたTi0.912/Eu(a)と、比較例1で得られたTi0.912/H(b)の吸収スペクトルを示す図
【図9】実施例1で得られたTi0.912/Eu(a)と、比較例1で得られたTi0.912/H(b)とのPLスペクトルを示す図
【符号の説明】
【0078】
100、425 蛍光材料
110 半導体層
120 希土類イオン層
130 半導体層と希土類イオン層との組
400 表示装置
410 フロント部
420 リア部
411 第1のガラス基板
412 表示電極
413 第1の誘電体層
414 保護層
421 第2のガラス基板
422 アドレス電極
423 第2の誘電体層
424 隔壁
430 セル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の半導体層および希土類イオン層を含む蛍光材料であって、
前記半導体層は、負電荷を有しており、
前記希土類イオン層は、正電荷を有しており、少なくとも1種類の希土類イオンを含み、
前記少なくとも一対の前記半導体層および前記希土類イオン層のそれぞれは、互いに隣接するように積層されており、
前記半導体層の欠陥準位のエネルギーEDと、前記少なくとも1種類の希土類イオンの
励起状態のエネルギーEReとは、関係ED>EReを満たす、蛍光材料。
【請求項2】
前記半導体層は、酸化チタンナノシート、酸化マンガンナノシート、酸化ニオブナノシート、酸化チタン・ニオブナノシート、ペロブスカイト型酸化ニオブナノシート、ペロブスカイト型酸化タンタルナノシート、および、ペロブスカイト型酸化チタンナノシートからなる群から選択される、請求項1に記載の蛍光材料。
【請求項3】
前記少なくとも1種類の希土類イオンは、Sm3+、Eu3+、Tb3+、Dy3+、Pr3+、Nd3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、および、Yb3+からなる群から選択される、請求項1に記載の蛍光材料。
【請求項4】
前記希土類イオン層は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、水素イオン、および、アンモニウムイオンからなる群から選択されるイオンをさらに含む、請求項1に記載の蛍光材料。
【請求項5】
前記半導体層の厚さは、0.5nm〜2nmの範囲である、請求項1に記載の蛍光材料。
【請求項6】
半導体層と希土類イオン層とを含む蛍光材料を製造する方法であって、
負電荷を有する前記半導体層を含有する懸濁液を生成する工程と、
少なくとも1種類の希土類イオンを含有する反応溶液を調製する工程であって、前記半導体層の欠陥準位のエネルギーEDと、前記少なくとも1種類の希土類元素の励起状態の
エネルギーEReとは、関係ED>EReを満たす、工程と、
前記懸濁液と前記反応溶液とを混合する工程であって、前記半導体層上に前記少なくとも1種類の希土類イオンを含む、正電荷を有する前記希土類イオン層が形成される、工程と
を包含する、方法。
【請求項7】
前記半導体層は、酸化チタンナノシート、酸化マンガンナノシート、酸化ニオブナノシート、酸化チタン・ニオブナノシート、ペロブスカイト型酸化ニオブナノシート、ペロブスカイト型酸化タンタルナノシート、および、ペロブスカイト型酸化チタンナノシートからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種類の希土類イオンは、Sm3+、Eu3+、Tb3+、Dy3+、Pr3+、Nd3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、および、Yb3+からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記調製する工程は、前記反応溶液にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン遷移金属イオン、水素イオン、および、アンモニウムイオンからなる群から選択されるイオンをさらに添加する工程を包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記半導体層の厚さは、0.2nm〜2nmの範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記混合する工程は、前記反応溶液に前記懸濁液を0.5〜50ml/分の速度で加え、室温〜100℃の温度範囲において、1〜24時間保持する、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記混合する工程の後に、前記蛍光材料を洗浄し、乾燥させる工程をさらに包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれかに記載に蛍光材料を用いた発光デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−96897(P2006−96897A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285812(P2004−285812)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】