説明

蛍光検出装置

【課題】時系列に取得される蛍光量のデータから現蛍光量がいかなる段階にあるかを判断し、次処理の時期予測を可能にする蛍光検出装置を提供すること。
【解決手段】生体2を観察した第1画像と、前記第1画像と同視野内で蛍光観察した第2画像とを時系列的に取得する撮像部8と、前記第2画像から蛍光閾値輝度を設定し、当該閾値輝度未満の蛍光を発現している蛍光画像から蛍光発現量を計測する画像処理装置10と、前記蛍光発現量を時系列的に記憶する記憶装置14と、前記蛍光発現量の時系列計測データに基づき、過去の蛍光発現量計測データの中から当該時系列計測データに最もフィッティングする蛍光発現量計測データを参照する画像解析装置15と、前記最もフィッティングする蛍光発現量計測データと前記時系列計測データとを重ねて表示する表示装置11と、を有することを特徴とする蛍光検出装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本からの蛍光を検出する蛍光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光タンパク質を発現している、または蛍光物質で染色されている細胞の明視野画像(例えば、位相差画像、或いは微分干渉画像)と蛍光画像とを時系列で取得し、かつユーザが設定した閾値で取得した画像を処理し、測定対象領域(例えば正常にタンパク質を発現している領域)と、非測定対象領域(例えば異常にタンパク質を発現している領域)とを抽出して、測定対象領域のみの蛍光量を計測する蛍光検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−110930号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の蛍光検出装置では、計測中の蛍光量を測定することは出来るものの、現在得られている蛍光量の計測値から、時系列的に蛍光量が推移する状態のうち、現在の状態がいかなる段階にあるか等を判断したり、次の処理を行うための時期を事前に予測する等を行うにはユーザが過去のデータを調べグラフ化する等の煩雑な処理を別途行う必要がある。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みて行われたものであり、時系列に取得される蛍光量の初期データから標本の発する現在の蛍光量が蛍光量の時間推移のうちでいかなる段階にあるか等を判断したり、次の処理を行うための時期を事前に予測する等を行うことを可能にする蛍光検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、生体を顕微鏡観察した第1画像と、前記第1画像と同視野内で蛍光観察した第2画像とを時系列的に取得する撮像部と、前記第2画像から蛍光の閾値輝度を設定し、当該閾値輝度未満の蛍光を発現している蛍光画像から蛍光発現量を計測する画像処理装置と、前記蛍光発現量を時系列的に記憶する記憶装置と、計測開始時点からの前記蛍光発現量の時系列計測データに基づき、前記記憶手段に記憶された過去の蛍光発現量計測データの中から当該時系列計測データに最もフィッティングする蛍光発現量計測データを参照する画像解析装置と、前記最もフィッティングする蛍光発現量計測データと前記時系列計測データとを重ねて表示する表示装置と、を有することを特徴とする蛍光検出装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、時系列に取得される蛍光量の初期データから標本の発する現在の蛍光量が蛍光量の時間推移のうちでいかなる段階にあるか等を判断したり、次の処理を行うための時期を事前に予測する等を行うことを可能にする蛍光検出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態にかかる蛍光検出装置について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態は、発明の理解の容易化のためのものに過ぎず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において当業者により実施可能な付加・置換等を施すことを排除することは意図していない。
【0008】
図1は、実施の形態にかかる蛍光検出装置の概略構成を示す。図1において、細胞が入れられたウェルプレート等の標本2が面内に移動可能なステージ3上に載置されている。標本2の上方(紙面上方)には、標本2の位相差画像を取得するための透過照明光学系4が配置されている。透過照明光学系4で照明されて標本2から射出した光は、標本2の下方(紙面下方)に配置された対物レンズ5で集光され、位相差フィルタ13を介してフィルタターレット6に入射、透過した後、結像レンズ7でCCD等の撮像装置8に結像される。なお、このとき、フィルタターレット6に配置されている後述する蛍光キューブ6a等は光軸中から外されている。
【0009】
結像された標本2の位相差像は撮像装置8で撮像され制御装置9の画像処理装置10で処理され標本2の位相差画像としてメモリ14に記憶されると共に、制御装置9に接続された表示装置11に表示される。なお、制御装置9はパーソナルコンピュータ(PC)などが使用され、表示装置11にはPCのモニタなどが使用される。
【0010】
標本2の位相差画像を取得した後、標本2への照明光を蛍光観察用の励起照明光学系12に切換えるために不図示のシャッタ等が開放される。このとき透過照明光学系4からの照明光は、内蔵された不図示のシャッタ等により照明光が遮断され標本2に照射されることがないように制御装置9で制御される。また、位相差フィルタ13も光軸外に移動される。
【0011】
励起照明光学系12は、波長の異なる複数の光源12a、12b、12cを有し、光源12a〜12cより射出した光は、ダイクロイックミラー12dやハーフミラー12e、ミラー12fで反射、透過されフィルタターレット6に入射する。なお、光源12a〜12cにはレーザやLED等の光源が用いられる。
【0012】
蛍光観察時、フィルタターレット6には所定の波長を反射するダイクロイックミラー6dと所定の蛍光を透過するエミッションフィルタ6eを内蔵する蛍光キューブ6aが光軸に挿入されている。
【0013】
励起照明光学系12からの励起光は、蛍光キューブ6a中のダイクロイックミラー6dで対物レンズ5方向に反射され、対物レンズ5で標本2に集光される。標本2で発現した蛍光は、対物レンズ2で集光されて蛍光キューブ6aに入射し、蛍光キューブ6a内のダイクロイックミラー6dとエミッションフィルタ6eを透過して結像レンズ7で撮像装置8に結像される。結像された標本2の蛍光像は撮像装置8で撮像され制御装置9の画像処理装置10で処理され標本2の蛍光画像としてメモリ14に記憶されると共に、制御装置9に接続された表示装置11に表示される。
【0014】
また、画像処理装置10は、取得された位相差画像(以後、標本画像とも記す)と蛍光画像とを用いて正常な蛍光を発現している部位を抽出し、抽出された領域の蛍光画像から蛍光発現量を計測しメモリ14に記憶すると共に制御装置9に接続された表示装置11に表示する。また、メモリ14には、標本の種類、蛍光色素の種類、ターゲットとする蛍光タンパク質の種類、蛍光の計測時間間隔などの各種実験条件や、これら各種実験条件に基づく過去の時系列的な蛍光発現量計測データ等が記憶されている。このようにして、蛍光検出装置1が構成されている。
【0015】
次に、実施の形態にかかる蛍光検出装置1による蛍光タンパク質発現量の時系列データ取得と過去の時系列データの比較参照について図2を参照しつつ説明する。
【0016】
図2は、実施の形態にかかる蛍光検出装置1における解析処理フローを示す。図3は、計測データの表示例を示し、(a)は現計測データのプロットを、(b)は現計測データと過去の計測データを重ねて表示した例をそれぞれ示す。
【0017】
(ステップS1)位相差、蛍光、画像取得
上述の蛍光検出装置1の動作説明に従って撮像装置8、画像処理装置10により位相差画像、蛍光画像を取得しメモリ14に各種実験条件、計測時間と共に保存する。なお、透過照明による標本画像と励起光照明による蛍光画像の取得は、標本2の細胞移動が無視できる程度の時間間隔で連続的に実行され、標本画像と蛍光画像とはいずれが先に取得されても良い。
【0018】
(ステップS2)画像処理
取得した標本画像と蛍光画像とを用いて画像処理装置10が所定の処理を行い測定対象とする蛍光タンパク質の発現領域を抽出し、蛍光発現量を計測する。
【0019】
例えば、測定対象とする蛍光発現を示した細胞は、蛍光タンパク質の発現量が過度でなく、発現が特定の部位に存在すると言う特徴を有する。そのため、測定対象とする蛍光タンパク質の発現量の測定は、蛍光輝度値と空間配置と言う少なくとも二つの情報を用いて抽出することでより精度が向上する。蛍光タンパク質の発現量が過度になると蛍光画像の輝度値が大きくなるため、この特性を生かし輝度値が予め設定した輝度閾値を超えた細胞を抽出対象から除外することで測定対象とする蛍光発現量を計測することが可能になる。
【0020】
また、測定対象とする蛍光タンパク質は特定の部位に存在するため、細胞内で占める面積が決まっている。ある倍率で細胞を観察した場合、核の典型的な面積、細胞質の典型的な面積が存在しているため、目標としているタンパク質が発現すべき部位の面積から著しく外れる部位を除外することで測定対象とする蛍光量に信頼度を与えることができる。目標としているタンパク質が発現する部位のみを抽出するため、細胞の形状や構造などの詳細な空間情報を得る必要は無く、一つの視野内に多数の細胞を含む場合の計測が可能になる。また、多数の細胞を一つの観察視野内に入れられるため、一つの画面から画像解析を繰返し行い、計測された蛍光発現量の再評価を繰返し行うことが可能になる。
【0021】
このような画像解析、蛍光発現量計測方法は、本願出願人による特許出願(特願2007−112177号)に詳細に説明されおり、本願では詳細な説明を省略する。
【0022】
(ステップS3)計測データの追加
ステップS2で計測された蛍光発現量の計測結果を、蛍光タンパク質発現量の時系列データへ追加しメモリ14に保存する。図3(a)は、t1からt4までの蛍光タンパク質発現量を時系列に計測し記憶装置14に保存すると共に、表示装置11に時系列に表示した状態を示している。
【0023】
この状態では、蛍光タンパク質発現量が時系列的にプロット表示されるのみであり、これから以後の変化を推定することや、所望のイベントがいつ頃発現するかなどを予測することは困難である。
【0024】
(ステップS4)過去時系列データとの比較
ここで、画像解析装置15はメモリ14に記憶されている同じ実験に基づく過去の蛍光タンパク質発現量の時系列データと、現在得られている蛍光タンパク質発現量の時系列データt1、t2、t3、t4とを公知のフィッティング法を用いて比較参照し、最もフィッティングする過去の蛍光タンパク質発現量の時系列データBを図3(b)に示すように、現計測データと重ねて表示装置11に表示する。
【0025】
最もフィッティングする過去の蛍光タンパク質発現量の時系列データBを参照して、以後の蛍光タンパク質発現量の経過を予測することが可能になる。また、同じ実験に基づく過去の蛍光タンパク質発現量の時系列データBを参照することで、所望のイベントがいつ頃発現するか等を予測することが可能になると共に、イベントに対する色々な実験準備を前もってすることが出来る。
【0026】
(ステップS5)画像の取得数判定
所定の時間間隔で必要量の画像(位相差、蛍光)画像を取得したか否かを判定し、NOであればステップS1にジャンプしS1からS5までを繰り返す。YESであれば、ステップS6を実行する。
【0027】
(ステップS6)現時系列データの登録
必要な数の時系列データが取得されたので、新たな蛍光タンパク質発現量の時系列データとして、各種条件と共にメモリ14に保存する。
【0028】
このように、蛍光検出装置1は、取得した蛍光タンパク質発現量の時系列データをメモリ14に保存し、保存した時系列データを適時比較参照することが出来る。
【0029】
以上述べたように、実施の形態にかかる蛍光検出装置1によれば、蛍光タンパク質発現量の時系列データのうち初期の段階(例えば、t1〜t4)と、同じ実験に基づく過去の蛍光タンパク質発現量の時系列データとを公知のフィッティング法を用いて比較参照し、現時系列データに最もフィッティングする時系列データとを重ねて表示装置11に表示することで、今回の実験(実験A)が過去の実験Bを再現できているか否かをユーザが判定することが出来る。
【0030】
また、実験Aが実験Bを再現できていることから、実験Bで発現したイベントの時間tAを算出し、表示装置11上に表示することができる。ここで、イベントとは、例えば蛍光タンパク質発現量が最も多くなる時期(細胞分裂が活性化するとき等)、或いは細胞の培地を交換する時期などである。
【0031】
また、実験Aの初期時系列データ(例えば、t1〜t4)が同じ実験の時系列データとフィッティングしない場合、ユーザが時刻t4の計測データを取得した時点で実験Aが失敗しているという判断をすることが出来る。これにより、ユーザは早い時期に実験の良否の判断が出来、再度の実験のスタートを早め、実験、研究の迅速化を促進することが出来る。
【0032】
また、各種実験条件と共に蛍光タンパク質発現量の時系列データをメモリ14に保存しておくことで、多くの実験データを一元的に管理、参照することが可能になり、実験、研究の効率化を図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施の形態にかかる蛍光検出装置の概略構成を示す。
【図2】実施の形態にかかる蛍光検出装置における解析処理フローを示す。
【図3】計測データの表示例を示し、(a)は現計測データのプロットを、(b)は現計測データと過去の計測データを重ねて表示した例をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0034】
1 蛍光検出装置
2 標本
3 ステージ
4 透過照明光学系
5 対物レンズ
6 フィルタターレット
7 結像レンズ
8 撮像装置
9 制御装置(PC)
10 画像処理装置
11 モニタ
12 励起照明光学系
13 位相差フィルタ
14 メモリ
15 画像解析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体を顕微鏡観察した第1画像と、前記第1画像と同視野内で蛍光観察した第2画像とを時系列的に取得する撮像部と、
前記第2画像から蛍光の閾値輝度を設定し、当該閾値輝度未満の蛍光を発現している蛍光画像から蛍光発現量を計測する画像処理装置と、
前記蛍光発現量を時系列的に記憶する記憶装置と、
計測開始時点からの前記蛍光発現量の時系列計測データに基づき、前記記憶手段に記憶された過去の蛍光発現量計測データの中から当該時系列計測データに最もフィッティングする蛍光発現量計測データを参照する画像解析装置と、
前記最も近い蛍光発現量計測データと前記時系列計測データとを重ねて表示する表示装置と、
を有することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項2】
前記画像解析装置は、前記最もフィッティングする蛍光発現量計測データに基づき、前記計測開始時点から所望の蛍光が発現する時間を算出し前記表示手段に表示することを特徴とする請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項3】
前記記憶装置は、前記蛍光発現量の計測実験条件を記憶することを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−175101(P2009−175101A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16705(P2008−16705)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】