説明

蛍光検出装置

【課題】前記従来の課題を解決するもので、マイクロ流路内を電気泳動する生体物質のSNPsバンドやDNAラダーバンドを高分解能で検出出来、且つマイクロ流路の位置ズレに影響されることなく励起光を照射出来る蛍光検出装置を提供する。
【解決手段】生体物質を測定するための生体物質検出用基板を用いる装置において、平行光を出射する光源ユニットと、前記平行光を前記生体物質検出用基板上の検出用流路に照射する照射光学部と、前記照射光学部を経由した投射光が前記検出用流路の幅よりも広くなるように前記平行光中に配置したビーム整形手段と、を備えた蛍光検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAやタンパクその他の生体物質を緩衝剤中で移動させて得られる輸送反応を検出して生体物質を検出する蛍光検出装置に関する。
【0002】
より詳細には、測定対象の位置ずれに影響されることなく、励起光を検体へむらなく照射することができ、且つ、生体物質の輸送反応を高分解能に解析する技術に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、生体物質を分析する研究が盛んに行われ、例えば、DNA、RNA、タンパク質などの解明における発展が著しい。その一方で、DNA等のアッセイ分析を迅速に、かつ、正確に行える装置の開発が求められている。
【0004】
この種の装置は、特定の生体物質の有無や、変異型の生体物質の発現を調べる目的に使用される。測定対象の生体物質をガラスやプラスチックなどの基板上に固定した、DNAチップ、DNAマイクロアレイ(以下、生体物質検出用基板と呼ぶ)を用いて、生体物質の検出を行う。この種の装置では、生体物質に蛍光標識を修飾することにより、蛍光検出測定が行われる。しかし、ここで検出する蛍光量は、非常に微弱なので、感度の高い蛍光検出装置が求められている。
【0005】
蛍光検出装置としては、冷却CCD検出、共焦点光学系などが挙げられる。
【0006】
冷却CCDを用いた方式では、露光時間を長くすることにより、弱い蛍光を検出可能であるが、バックグラウンドノイズが高くなり、共焦点光学系の方が微弱検出に向いている。
【0007】
共焦点光学系を用いた方式では、レーザー励起の共焦点光学系の検出方式が一般的である。共焦点光学系は、蛍光標識された生体物質から発せられる蛍光を、共役な位置に集光する光学系であり、集光点に設置したフォトダイオードや光電子増倍管などにより検出を行う。
【0008】
図5を用いて、従来の蛍光検出装置を説明する。この方式の蛍光検出装置は、光源50に半導体レーザーを用い、光源50の光はレンズ51を通過した後、ダイクロイックミラー52で反射され、対物レンズ53により集光され、生体物質検出用基板56へ照射される。励起光を照射された生体物質検出用基板56上の検体から発せられる蛍光は、対物レンズ53、ダイクロイックミラー52を通り、結像レンズ54により結像され、検出器55で検出される。さらに、オートフォーカス用ダイクロイックミラー57で反射された光をオートフォーカス用受光器58により受光し、オートフォーカス回路59でフォーカス制御用の信号処理を行い、アクチュエータ60により対物レンズ53を駆動することによりフォーカスを合わせる(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
このように、従来の蛍光検出装置においては、光源と、生体物質検出用基板へ照射するための対物レンズと、検体から発せられる蛍光を集光するための結像レンズと、検出するための検出器と、オートフォーカス機構とを一つの筐体に配置し、生体物質読み取り装置全体を小型化することができた。生体物質検出用基板上の検体へ励起光を集光させて照射するため、高感度に検出可能であった。
【特許文献1】特開2001−242081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記従来の構成では、静止した生体物質の測定には適しているが、マイクロ流路内を電気泳動する生体物質を測定する場合には問題が生じる。すなわち、この場合には、SNPsバンドやDNAラダーバンドを検出しなければならないが、高分解能で測定するには、励起光サイズをこれらのバンドサイズよりも小さくする必要がある。しかし、マイクロ流路が設けられている生体物質検出用基板と光学検出ユニットとの間には装着時の位置ズレがあるので、励起光サイズを小さくすると、マイクロ流路内を電気泳動する生体物質に励起光が当たらず目的の生体物質を検出できないという課題を有していた。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、マイクロ流路内を電気泳動する生体物質のSNPsバンドやDNAラダーバンドを高分解能で検出出来、且つマイクロ流路の位置ズレに影響されることなく励起光を照射出来る蛍光検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明の蛍光検出装置は、生体物質を測定するための生体物質検出用基板を用いる装置において、平行光を出射する光源ユニットと、前記平行光を前記生体物質検出用基板上の検出用流路に照射する照射光学部と、前記照射光学部を経由した投射光が前記検出用流路の幅よりも広くなるように前記平行光中に配置したビーム整形手段と、を備えたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蛍光検出装置によれば、マイクロ流路内を電気泳動する生体物質を測定する場合、生体物質のSNPsバンドやDNAラダーバンドを高分解能に検出することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の蛍光検出装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における蛍光検出装置を示す図である。この蛍光検出装置は、緩衝液中を電気泳動する生体物質からの蛍光を測定するための装置である。光源ユニット19は、波長635nmの半導体レーザー2と、コリメートレンズ3により構成され、半導体レーザー2の光を平行光にして出射する。光源ユニット19からの平行光は、励起用スリット4、照射光学部18を通り、生体物質検出基板14上の検出用流路15へ投射される。励起用スリット4の形状は、矩形型の孔であり、検出用流路15へ照射される投射光のビーム形状を制限する。投射光のビームが、検出用流路15に沿う方向に短く、検出用流路15を横切る方向に長い形状で照射されるように、励起用スリット4を配置する。照射光学部18は、主に、励起用フィルタ5、投光レンズ6、対物レンズ8から構成される。
【0016】
以上のように構成された蛍光検出装置の詳細を以下に説明する。励起用スリット4を通過した光は、励起フィルタ5を通る。この励起フィルタ5は、蛍光標識Cy5を励起し、蛍光を読み取るときに使用されるフィルタであり、蛍光標識Cy5の励起波長領域を透過し、蛍光波長領域をカットする性質を有している。
【0017】
励起フィルタ5を透過した光は、投光レンズ6により収束される。投光レンズ6を通った光は、ダイクロイックミラー7で反射される。ダイクロイックミラー7は、半導体レーザー2の光(635nm)を反射し、蛍光標識Cy5の蛍光波長領域の光(670nm)を透過する特性を持つ。
【0018】
ダイクロイックミラー7で反射された光は、対物レンズ8を通る。投光レンズ6を通った光の収束位置と、対物レンズ8の後側焦点距離が一致するように配置することにより、対物レンズ8を通った光は平行光となり、生体物質検出用基板14上の検出用流路15へ投射される。投射光のサイズは、0.5mm×1.8mmである。
【0019】
検出用流路15内には検体が存在し、励起された検体から発した蛍光は、対物レンズ8により平行光に集束される。その平行光は、ダイクロイックミラー7、蛍光フィルタ10を通過する。蛍光フィルタ10は、蛍光標識Cy5の蛍光波長領域の光を透過し、半導体レーザー2の波長をカットする特性を持つフィルタを用いる。
【0020】
蛍光フィルタ10を透過した光は、結像レンズ11で蛍光用スリット12位置に集光され、蛍光用スリット12を通過した光は検出器13で受光される。蛍光用のスリットのサイズを0.5mm×1.8mmとすることにより、迷光を遮光してバックグラウンドノイズを抑えることが出来る。
【0021】
図2は、励起用スリット4、投光レンズ6、及び対物レンズ8と、それらを通過する光線を示した図である。投射光のビームサイズは、励起用スリット4の矩形孔のサイズによって決まり、矩形孔のサイズは、投光レンズ6と対物レンズ8の結像関係で決まる。本発明の実施の形態1の場合、投光レンズ6の焦点距離は50mm、対物レンズの焦点距離は14mmである。結像関係により、矩形孔のサイズ、及び、投射光のサイズの比は、50:14である。即ち、矩形孔のサイズを2.0mm×7.2mmとすることにより、投射光のサイズを約14/50(0.28)倍の0.5mm×1.8mmとすることが出来る。
【0022】
図3(a)は、生体物質検出用基板14を示す平面図であり、図3(b)は、その一つの流路ユニット21を拡大した図である。生体物質検出用基板14の材料はアクリル系の樹脂であり、厚みは2mmである。流路形成面には深さ50μmの流路やリザーバーとなる溝が掘られ、さらにその上面に厚さ50μmのアクリル製フィルムを接着することで密閉流路が形成されている。また、重心22に、生体物質検出用基板14を蛍光検出装置に固定するための孔が設けられている。本実施の形態において、8つの泳動ユニット21が、生体物質検出用基板14の円周上に等間隔に並んで構成している。
【0023】
以下、図3(b)を用いて、生体物質検出用基板14の泳動ユニット21の働きについて詳細に説明する。
【0024】
生体物質は、判別したいSNPs部位を含む約60塩基長の1本鎖DNAであり、蛍光物質(Cy5)で標識されたDNAである。サンプル注入部23へ注入された生体物質は、流路24を通りサンプル保持部25まで移動し、一定量の生体物質がサンプル保持部25に保持される。一定量を超える生体物質は、流路26を通りバッファ部27まで移動する。
【0025】
緩衝剤としてDNAコンジュゲートを準備する。DNAコンジュゲートとは、6〜12塩基長1本鎖DNAの5'末端に高分子のリニアポリマーが共有結合したものである。さらにDNAは、正常型に対しては相補であるが変異型に対しては相補ではない配列であり、正常型DNAに対しての結合力が強く、変異型DNAに対しての結合力が弱い特性がある。また、電気泳動した場合、5'末端に結合した。リニアポリマーがおもりとなり泳動速度がかなり遅いという特性もある。緩衝剤注入部28へ注入された緩衝剤は、流路29より正電極部30及び負電極部31へ移動し、さらに、流路32及び検出用流路15を満たす。
【0026】
正電極部30及び負電極部31との間に電圧を印加する。電圧の印加は、正電極部30及び負電極部31より緩衝剤に接触するように電極シートを設けており、針状の電極を電極シートへ接触させた状態で行う。電圧印加により、流路32及び検出用流路15に電場が発生し、サンプル保持部25に保持された生体物質は、検出用流路15中を電気泳動する。
【0027】
蛍光標識を修飾したDNAに励起光を照射して発している蛍光を検出することで、検出用流路15中を電気泳動するDNAを定量的に測定できる。さらに、生体物質検出用基板14を駆動部16で回転させ、検出用流路15に沿って蛍光を検出することにより、DNAの分布を解析することが出来る。
【0028】
図4を用いて、本発明の励起用スリット4の効果について説明する。図4(a)と図4(b)は、いずれも流路ユニット21の検出用流路15の一部40の拡大図を示す。図4(a)は、励起用スリット4が無い場合を示し、図4(b)は、本発明の励起用スリット4がある場合を示す。本実施例での検出用流路15内を電気泳動するSNPsバンド41のバンド幅44は約1.0mmなので、投射光のビームサイズを0.5mm×1.8mmに制限した。そのための励起用スリット4の矩形孔は、2.0mm×7.2mmとした。
【0029】
励起用スリット4が無い場合では、図4(a)の左図に示すように、投射光のビームサイズがSNPsバンドより大きいので、SNPsバンドがビームに埋もれてしまい、図4(a)の右図に示すように検出の分解能は低下する。
【0030】
一方、図4(b)のように励起用スリット4がある場合には、投射光のビームサイズがSNPsバンドより小さいので、SNPsバンドがビームに埋もれることはない。したがって、図4(b)の右図に示すように、SNPsバンドを高分解能に検出することが出来る。なお、本実施の形態1で用いたスリットのサイズは、一例であり、これに限るもではない。照射光の形状は、矩形に限るものではなく、楕円でも同様の効果がある。
【0031】
また、検出用流路15の流路幅が0.2mmに対して、投射光のビームサイズは1.8mmであり、検出用流路15の流路幅よりも大きい。従って、生体物質検出用基板14と光学部1の位置が検出用流路15を横切る方向に±0.8mmずれたとしても、検出用流路15へ確実に投射光を照射することが出来る。
【0032】
以上のように、本発明の実施の形態1において、マイクロ流路内を電気泳動する検体をスキャンする際に、ビーム形状を矩形とすることにより、マイクロ流路内を電気泳動するSNPsバンドを高分解能に検出することが可能である。また、マイクロ流路の位置ずれに影響されることなく、励起光を確実に照射することが可能である。さらに、本発明の実施の形態1に示す光源の種類、蛍光標識の種類、レンズの焦点距離は、本発明を説明するための一例であり、本発明の技術的範囲はこれに限るものではない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る蛍光検出装置は、光源の平行光中に配置したビーム整形手段により矩形形状のビームを照射する特徴を有し、照射範囲を限定することにより、測定対象物を高分解能に検出することが出来る点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態1における蛍光検出装置の構成図
【図2】本発明の実施の形態1における投光レンズ6及び対物レンズ8の結像関係を示す図
【図3】本発明の実施の形態1における生体物質検出用基板の構成図及び泳動ユニット模式図
【図4】本発明の実施の形態1における泳動ユニットの検出用流路15の一部40の拡大図及び検出結果を示す図
【図5】従来の蛍光検出装置の模式図
【符号の説明】
【0035】
1 光学部
2 光源
3 コリメートレンズ
4 励起用スリット
5 励起フィルタ
6 投光レンズ
7 ダイクロイックミラー
8 対物レンズ
10 蛍光フィルタ
11 結像レンズ
12 蛍光用スリット
13 検出器
14 生体物質検出用基板
15 検出用流路
17 矩形孔
18 照射光学部
19 光源ユニット
21 泳動ユニット
22 重心
23 サンプル注入部
24 流路
25 サンプル保持部
26 流路
27 バッファ部
28 緩衝剤注入部
29 流路
30 正電極
31 負電極
32 流路
40 流路ユニット21の検出用流路15の一部
41 SNPsバンド
42 円形投射光
43 矩形投射光
44 バンド幅
50 光源
51 レンズ
52 ダイクロイックミラー
53 対物レンズ
54 結像レンズ
55 検出器
56 生体物質検出用基板
57 オートフォーカス用ダイクロイックミラー
58 オートフォーカス用検出器
59 オートフォーカス回路
60 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質を測定するための生体物質検出用基板を用いる装置において、
平行光を出射する光源ユニットと、
前記平行光を前記生体物質検出用基板上の検出用流路に照射する照射光学部と、
前記照射光学部を経由した投射光が前記検出用流路の幅よりも広くなるように前記平行光中に配置したビーム整形手段と、
を備えた蛍光検出装置。
【請求項2】
前記生体物質は、蛍光標識を修飾したDNAサンプルである請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項3】
前記光源ユニットは、半導体レーザー光源とコリメートレンズとから成り、
前記コリメートレンズは、前記半導体レーザー光源からのレーザー光を平行光にするように配置されている請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項4】
前記検出用流路は、
緩衝液を充填した後に前記生体物質を電気泳動させるように形成されている請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項5】
前記照射光学部は、
前記平行光を集光点に収束する投光レンズと収束光を平行光にして前記検出用流路に照射する対物レンズとから成り、
前記対物レンズは、その前側焦点と前記投光レンズの集光点とが一致する位置に配置されている請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項6】
前記ビーム整形手段は、
前記検出用流路に照射される照射光の大きさが、前記検出用流路の流路方向に対して直角方向では前記検出用流路の幅より大きく、且つ前記流路方向では前記直角方向の照射光の大きさより小さくなるように前記平行光を整形する請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項7】
前記流路方向での前記照射光の大きさは、
前記検出用流路を流れる前記生体物質のDNAバンドの半値幅よりも小である請求項6に記載の蛍光検出装置。
【請求項8】
前記流路方向に直角方向での前記照射光の大きさは、
前記蛍光検出装置と前記生体物質検出用基板との装着時の位置ずれ量と前記検出用流路の流路幅との和よりも大である請求項6に記載の蛍光検出装置。
【請求項9】
前記ビーム整形手段は、矩形型のスリットである請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項10】
前記ビーム整形手段は、楕円型のスリットである請求項1に記載の蛍光検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−294160(P2009−294160A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150091(P2008−150091)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】