説明

蛍光標識としての置換アザポルフィン

本発明は、マーカー成分、蛍光プローブ、オリゴヌクレオチド、ハイブリダイゼーションアッセイ、およびこのような生成物を使用するイムノアッセイ、ならびにこのような生成物を製造する方法に関する。本発明によれば、該分子平面の両側に1つずつ、2つの小さい可溶化基に結合した蛍光部分を含む検出可能に標識されたマーカー成分であって、前記蛍光部分は、溶媒感受性および非特異的結合の問題を軽減または除去するように正味電荷を制御するための置換基を有する、マーカー成分が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は一般に、蛍光写真法、蛍光定量測定および蛍光プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書で言及されている出版物および他の参考資料は、参照により本書に援用される。以下の、発明の背景に関する以下の記述は、本発明の理解を助けることが目的であり、本発明を説明したり、先行技術を本発明に組み入れるものではない。
【0003】
プロフィリン類、フタロシアニン類および他のアザポルフィリンならびにある種の他の芳香族窒素含有大環状分子は、その近赤外吸収および発光のため、当分の間、蛍光標識として使用するための魅力的な候補者であった。
【0004】
フタロシアニン類は、特に近赤外吸収が強く(モル吸光係数約200,000)、量子収率が高くまた一般的な金属フタロシアニン色素の退色に抵抗するため、それらを蛍光標識として利用するために多くの努力が払われてきた。しかし、フタロシアニンは、殊に向かい合った集合体状でスタッキングすることによって会合したり、様々な他の分子表面に強く結合したり(非特異的結合)する傾向が異常に強いため、この線に沿った当初の努力は、完全に申し分ない成果をもたらしはしなかった。
【0005】
分子内スタッキンッグの結果として、未置換のフタロシアニンは、有機溶媒中でも、水性溶媒中でも、非常に低い溶解性を有する。今では周知の通り、スタッキングする傾向は、荷電基、たとえばスルホネートの導入により、低減させることができる。このような置換基を有するフタロシアニンは、水中および電解質の水溶液中で高い溶解性を有する可能性はあるが、非特異的に結合する傾向は、大部分が存続する。蛍光標識に対する科学的興味の多くは、生体試料たとえば組織切片、細胞、細胞片、グリコールタンパク質およびリポタンパク質を含むタンパク質、ペプチド類、オリゴ糖、多糖類、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドおよび脂質を含む用途に集中している。こうした試料を含む蛍光測定で非特異的に結合する傾向は、当該の特異的相互作用を部分的にマスキングすることにより妨げることが可能である。該非特異的結合ならびにスタッキング傾向は、該フタロシアニン色素を、1以上のポリオキシヒドロカルビル基、一般的にメトキシ末端ポリ(エチレングリコール)、(PEG)にカップリングすることにより、治療薬物の測定で無視できるレベルまで低減させることができる。同時に、このような基の付着は、望ましい吸収特性および発光特性を持続する。同テクノロジーはまた、多種多様な他の近赤外色素にも有効である。米国特許第5,403,928号明細書を参照されたい。
【0006】
イムノアッセイで関連パラメーターを測定する能力は、さらに著しく進歩した。たとえば、「過渡状態発光測定装置(Transient State Luminescence Assay Apparatus)」と題する、ダンドライカー(Dandliker)らに付与された米国特許第5,302,349号明細書(あらゆる図面を含め、全体として、参照により本明細書に援用する)に記載の技術を使用することにより、均一アッセイ形式で、すなわち結合形と遊離形の分離を必要とせずに、成分の結合形および遊離形の濃度を決定することが可能になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蛍光標識の分野およびデータ分析面で顕著かつ有望な改良がなされたにもかかわらず、本質的な利点を有するのみならず、調製が容易でかつより高い化学的安定性を有するさらなる色素が、当技術分野で依然として必要である。他の研究者による、密接な関係がある先行技術は、米国特許第5,135,717号明細書、米国特許第5,346,670号明細書、および米国特許第5,494,793号明細書で見つけられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明
本発明は、ある種のフタロシアニンは、蛍光性プローブの作製に有用な蛍光色素に変換できるという結果の発見および適用として、特徴づけ、説明することができる。これは、数原子しか持たない軸配位子を担持する適切な金属原子を有するフタロシアニンを提供すること、および必要な付加として、通常は負の、イオン電荷を提供するための環置換により、実行することができる。こうした変化は、分子スタッキンッグ(向かい合った集合体)および同符号の電荷を担持する他分子表面への非特異的結合も、大部分排除する。
【0009】
本発明は、−OHのような、非常に小さい基でさえも、このような2個の基が、分子平面の両側に1個ずつ存在し、かつ該分子全体の正味電荷が十分に大きければ、平面分子の非特異的結合およびスタッキンッグを効果的に防御できるという予期せぬ結果に端を発する。
【0010】
したがって、本発明の一態様は、ポリオキシヒドロカルビル基にカップリングすることによってフタロシアニン類および他の蛍光色素を工作することの望ましい効果を、該色素上の正味電荷が十分に大きいという条件で、代わりに2つの非常に小さい軸配位子(たとえば−OH等)によって得られることである。生理的pH範囲で、タンパク質およびDNAを包含するほとんどの生体試料も、負の正味電荷を担持するため、たいていの場合、この正味電荷は、好ましくは負である。したがって、抗体を標識するために使用するとき、ある種のスルホン化ジヒドロキシシリコンジカルボキシフタロシアニン、特にラホヤブルー3(La Jolla Blue−3)(LJB−3)は、高い活性および特異性を有する複合物をもたらすことを、本発明者らは発見した。LJB−3は、軸ポリエチレングリコール(PEG)を担持する色素/フルオロフォアより調製がはるかに容易であり、加えて、LJB−3は、化学的にはるかに安定している。図1は、(LJB−3)の推定される構造を示す。スルホ基の位置は不確実であり、他の未置換のベンゾ環のいずれか1つにあると考えられる。LJB−3に関する近赤外吸光度は、679nmで最大である。
【0011】
フルオロフォア(蛍光部分)の性能は、遊離色素(すなわち完成した蛍光プローブ状ではない)を用いた測定で、ある程度評価することができる。この種のテストで重要なパラメーターとしては、該フルオロフォアが、異なるイオン強度、特定のイオンまたは血清中に存在するような生体分子に暴露されるとき通常変化する、蛍光強度および偏光/異方性などがある。こうした作用は、「溶媒効果」と考えられ、凝集の状態を変えるための該フルオロフォアの分子間の相互作用またはフルオロフォア分子と溶媒成分との相互作用(非特異的結合、NSB)の変化のいずれかによって生じる可能性がある。
【0012】
本発明の色素構造とフタロシアニン類(Pc)を蛍光プローブ用標識として使用しようとする以前の試みの構造との際立った相違は、遊離色素を血清に添加し、結果として生じる偏光または異方性を測定する、NSB用のテスト形式で判断することができる。結合したときの分子量の増加は、回転ブラウン運動の速度低下を招くため、非特異的結合が生じれば、偏光が増加する。
【0013】
表1で、表の端から端まで水平に進むと、いずれか1つの色素の性能を、蛍光強度の変化(I)、および/または偏光の変化(mp、ミリ偏光単位)によって判断することができる。「完璧な」蛍光標識であれば、溶媒組成と関係なく、これらの各パラメーターは同じ値を有するであろう。
【0014】
正常なヒト血清中での挙動と、グリセロール中での挙動との比較は、血清の存在下での、NSBによる潜在的偏光変化の損失の尺度となるため、有益である。列挙した5つの色素では、グリセロール中での偏光と、正常なヒト血清中での偏光との差の値は、60.4、73.6、103、12、61および44.1である。これらの差は、中心原子としてのSiの劇的な有益な効果を示し、またLJB−3を群の最良の選択として提示する。グリセロール中での強度を、正常なヒト血清中での強度で割った比率もまた、指標となる。表を下に下がると、これらは、1.46、1.27、1.51、2.91、4.82および0.42であり、またSiがAlより著しく優れていること、およびLJB−3の極めて満足のいく性能を示す。
【0015】
加えて、LJB−3は、カルボキシル基およびスルホン酸基の両者を有し、多くの方法で「活性化」することができる、すなわち、自発的に反応して、生理的pHおよび環境温度で、標識すべき生体分子上の基(通常はアミノ)と共有結合する構造に変換することができる。本発明者らは、抗体、viz.を標識するために、カルボニルジイミダゾールおよびスクシンイミジルテトラメチルウロニウム・テトラフルオロボレート(STUT)という2つの異なる活性化試薬を使用した。後者の試薬は、取り扱い易さという点でも、結果の再現性という点でも、好ましいことが分かった。これは、STUTを使用するとき、中間体である、該色素のNHSエステルの安定性が高いためであろう。加えて、STUTで活性化するための最良の溶媒は、DMSOであることが分かった。DMFを使用してもよいが、避けられない微量のアミン類に悩まされる公算が高い。
【0016】
フルオロフォアの、所与の用途への適合性に関する最も信頼できるテストは、該色素を、完成したプローブに組み入れて、該プローブをテストすることである。該遊離色素を用いた上記血清試験は有用な指標であるが、特異的プローブを用いて行われるテストに完全に取って代わることはできない。
【0017】
表2および表3は、LJB−3標識抗ヒトIgGをANA(抗核抗体)用プローブとして使用した、説明に役立つ結果を示す。性能の質は、FIU(正/負)(またはFIU[+/−])値、すなわち陰性(正常)コントロールからのシグナルと比較した、陽性サンプルからのシグナルの比率によって評価することができる。7以上の値は、有用である;これらの表中のデータは、該テクノロジーが開発されようとしている時に得られた;日常的な使用で、FIU(+/−)のより高い値は、一様な結果となることが予期されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
全般的論考
本発明は、−OHのような非常に小さい基でさえも、このような2個の基が、分子平面の両側に1個ずつ存在し、かつ正味電荷が十分に大きければ、平面分子における非特異的結合およびスタッキンッグを、水溶液中で効果的に防御できるという予期せぬ結果に端を発する。
【0019】
したがって、本発明の一態様は、ポリオキシヒドロカルビル基にカップリングすることによってフタロシアニンおよび他の蛍光色素を工作することの望ましい効果を、該色素上の正味電荷が十分に大きいという条件で、代わりに2つの非常に小さい軸配位子(たとえば−OH等)によって得られることである。生理的pH範囲で、タンパク質およびDNAを包含するほとんどの生体試料も、負の正味電荷を担持するため、たいていの場合、この正味電荷は、好ましくは負である。したがって、抗体を標識するために使用するとき、ある種のスルホン化ジヒドロキシシリコンジカルボキシフタロシアニン類(特にLJB−3、図1)は、PEG−複合非スルホン化色素とほぼ同じ位低い、血清タンパク質への非特異的結合性を有することを、本発明者らは発見した。
【0020】
加えて、PEGによるミセル形成がないという点において、利点が現れる。10-4M以上の色素濃度で、PEG工作色素は、30Kダルトン以上の分子の通過を妨害するようにデザインされた膜の通過が非常に妨げられるという点で、概して巨大分子のように行動する。また、該色素は、巨大分子を小分子と分離するためにデザインされたゲル浸透クロマトグラフィーにおいて空隙容量内で移動する。対照的に、LJB−3は、その式量を有する分子について予想される通りに行動する。
【0021】
蛍光偏光および強度の変化によって測定されるような非特異的結合に関して、該色素が、たとえば、希釈したヒト血清LJB−3に暴露されたとき、PEG結合した色素とほぼ同様に行動する。これに関連して、非スルホン化ジヒドロキシジカルボキシシリコンフタロシアニンが、かなりの非特異的結合を示すことを考えると、負電荷それ自体が、非特異的結合の減少に著明な影響を及ぼすことに注目することは重要である。ヒドロキシアルミニウムフタロシアニントリスルホネートは、イオン強度に対する強い感受性を示し、また強い非特異的結合も有する。該フタロシアニン分子は、分子平面の両側に軸配位子を有するに違いないが、該正味電荷が十分に高ければ、−OH基は、非特異的結合を事実上排除できるほど十分に大きいと思われる。
【0022】
本発明のもう1つの利点は、標識されようとしている分子、たとえばタンパク質およびオリゴヌクレオチドが、それ自体、負に帯電していても、高電荷とともに、−OHまたは他の小さい可溶化軸配位子によって工作された色素は、(標識反応で)化学的にはるかに反応しやすいと思われることである。このことから、PEG配位子は、巨大分子の標識に干渉するが、ハプテンおよび他の小分子の標識は通常、容易に進行することが示唆される。
【0023】
より小さい負の正味電荷を有するジヒドロキシジカルボキシシリコンフタロシアニンは、アルミニウム色素よりさらに強い非特異的結合を示すであろうと推測される可能性がある、ヒドロキシアルミニウムフタロシアニントリスルホネートの強い非特異的結合を考慮すると、本発明は全く予想外である。本発明は、正反対を示す結果に、ある程度基づいている。他の小さい軸配位子たとえば−OCH3、−O−CH2OH、−Cl、−Brおよび−Fの作用もまた有用であろう。−OPO32-の挙動もまた重要であり、他の潜在的に有用な配位子、たとえばボレートおよびサルフェート等が示唆される。
【0024】
多くの他の窒素含有大環状分子は、14族原子でメタレートすることができ、類似した結果が得られる。このような大環状分子は、ポルフィリン類、アザポルフィリン類、コロール類、サフィリン類(sapphyrins)、ペンタフィリン類、ポルフィセン類、および広範囲にわたって非局在化したπ電子系を有する他の類した大環状分子の誘導体および構造的変異形を包含する。このような大環状分子は、多くの望ましい性質を組み入れることを考慮すると、殊に好ましいクラスの大環状分子は、アザポルフィリン誘導体および構造的変異形を含む。アザポルフィリン誘導体は、モノ−、ジ−、およびトリアザポルフィリンおよびプロフィラジン(prophyrazine)の誘導体を包含する。これらの大環状分子はいずれも、任意に縮合芳香族環も有してもよい。このようなアザポルフィリン誘導体および変異形は、フタロシアニン、ベンゾトリアザポルフィリンおよびナフタロイアニン(naphthaloyanine)およびそれらの誘導体ならびにそれらのオキサ−、チア−、またはアザ−構造的変異形を包含する。ある種の非大環状芳香族構造、たとえばキサンテン誘導体もまた、上記クラスの必要な蛍光特性を有する可能性がある(ドールトロッツォ(Daltrozzo)ら、米国特許第6,552,199号明細書、2003年4月23日)。
【0025】
したがって、本発明は、マーカー成分、蛍光プローブ、天然および合成の治療薬物、抗原、ハプテン、抗体、オリゴヌクレオチド、ハイブリダイゼーション・アッセイ、およびこのような生成物を使用するイムノアッセイならびにこのような生成物を製造する方法に関する。本発明によれば、通常は軸上の2つ以上の小さい可溶化配位子に結合したフルオロフォア部分を含み、該軸は、中心金属原子により形成される錯体の八面体形状によって画定される、検出可能に標識されたマーカー成分が提供され、これによって、溶媒感受性および非特異的結合という問題が好ましく軽減または除去される。
【0026】
このような検出可能な標識またはマーカー成分をアッセイで使用することは、こうした標識が、血清等の生体試料の存在下および非存在下で、実質的に同じ強度の、蛍光発光の平行成分および垂直成分を有する点で有利である。したがって、こうした標識を使用する検定方法は、組織サンプルまたは培養細胞等の、体液中または生体表面上の低濃度の分析物、標的分析物またはその類似物を検出することができる。用語「分析物」は、少なくとも1つの共通のエピトープ部位または受容体を共有する、モノエピトープ性または多エピトープ性である、抗原性またはハプテン性の、1以上の化合物である、その受容体が天然に存在する任意の化合物であってもよく、または調製することができる、アッセイで測定しようとしている化合物を指す。用語「標的分析物」は、少なくとも1つの共通のエピトープ部位または受容体を共有する、モノエピトープ性または多エピトープ性である、抗原性またはハプテン性の、1以上の化合物である、その受容体が天然に存在する任意の化合物であってもよく、または調製することができる、アッセイで測定しようとしている化合物を指す。標的分析物の「類似物」は、受容体への結合に関して、標的分析物と競合することができる化合物を意味する。用語「受容体」は、標的分析物またはその類似物を特異的に認識することができるか、または標的分析物またはその類似物により認識される分子複合体を指す。抗体は、抗原にとって受容体であろう。
【0027】
これらのマーカー成分は、分析物、抗原、抗体または他の分子を標識するための標識として使用することが可能である。該マーカー成分が、該分析物、抗原、抗体または他の分子に結合できるようにするリンカー・アームを含むように、こうしたマーカー成分を場合により機能的なものにすることがある。この目的に適している様々なリンカー・アームは、記述されている。Kricka,J.J.;Ligand Binder Assays:Labels and Analytical Strategies;1551ページ;Marcel Dekker,Inc.,New York,NY(1985)。該マーカー成分は、従来の技術を使用して、分析物、抗原、抗体または他の分子に結合される。
【0028】
一態様において、本発明は、(1)好ましくは、少なくとも約550nmの励起波長を有する、発光性の実質的に平面分子の構造を含む蛍光部分、および(2)それに結合した2つ以上の小さい可溶化軸配位子、および(3)十分に大きい負の正味電荷を有すること、を含む検出可能に標識されたマーカー成分を提供する。好ましいフルオロフォア、小さい可溶化軸配位子、および該二者の連結の例を、本書に詳述する。加えて、溶媒感受性および非特異的結合の低減における、該軸配位子および該正味電荷の有効性を証明する証拠を提示する。
【0029】
用語「溶媒感受性」は、使用される溶媒系による、分子の蛍光挙動の変化を指し、特に、有機溶媒(DMF等)と比較した、水溶液中での蛍光挙動の違いを指す。DMF等の有機溶媒中で高い蛍光強度を示す多くのフルオロフォアは、水溶液中で、大幅に低下した蛍光強度を示す。蛍光強度は、サンプル濃度および該励起放射線の強度に関係している。ある特定の色素の蛍光強度を、その特有の光吸収率(吸光係数)および蛍光量子効率、ならびに環境因子に相関させることができる。こうしたマーカー成分はまた、それらの放射寿命または非消光寿命に匹敵する増大した減衰時間を示す。本発明者らは、用語「減衰時間」を、励起された分子の濃度が、その初期濃度からその値の1/eに低下するために経過しなければならない時間を表すために総称的に使用する。たとえば、Demos,J.N.,Excited State.Lifetime Measurements,Academic Press,New York,N.Y.(1983)、10、35、44、158ページの、寿命に関する用語の使用は、様々である。
【0030】
フルオロフォアの性能は、遊離色素(すなわち、完成した蛍光プローブ状ではない)を用いた測定で、ある程度評価することができる。この種のテストで重要なパラメーターとしては、該フルオロフォアが、異なるイオン強度、特定のイオンまたは血清中に存在するような生体分子に暴露されるとき通常変化する、蛍光強度および偏光/異方性などがある。こうした作用は、「溶媒効果」と考えられ、凝集の状態を変えるための該フルオロフォアの分子間の相互作用またはフルオロフォア分子と溶媒成分との相互作用(非特異的結合、NSB)の変化のいずれかによって生じる可能性がある。
【0031】
本発明の色素構造とフタロシアニン類(Pc)を蛍光プローブ用標識として使用しようとした以前の試みの構造との際立った相違は、遊離色素を血清に添加し、結果として生じる偏光または異方性を測定する、NSB用の上記モデルで理解することができる。結合したときの分子量の増加は、回転ブラウン運動の速度低下を招くため、非特異的結合が生じれば、偏光が増加する。
【0032】
表1で、表の端から端まで水平に進むと、いずれか1つの色素の性能を、蛍光強度の変化(I)、および/または偏光の変化(mp、ミリ偏光単位)によって判断することができる。「完璧な」蛍光標識であれば、溶媒組成と関係なく、こうしたパラメーターのそれぞれで、同じ値を有するであろう。
【0033】
正常なヒト血清中での挙動と、グリセロール中での挙動との比較は、血清の存在下での、NSBによる潜在的偏光変化の損失の尺度となるため、有益である。列挙した5つの色素では、グリセロール中での偏光と、正常なヒト血清中での偏光との差の値は、60.4、73.6、103、12、61および44.1である。これらの差は、中心原子としてのSiの劇的な有益な効果を示し、またLJB−3を群の最良の選択として提示する。グリセロール中での強度を、正常なヒト血清中での強度で割った比率もまた、指標となる。表を下に下がると、これらは、1.46、1.27、1.51、2.91、4.82および0.42であり、またSiがAlより著しく優れていること、およびLJB−3(図1に示す構造)の極めて満足のいく性能を示す。
【0034】
加えて、LJB−3は、カルボキシル基およびスルホン酸基の両者を有し、多くの方法で「活性化」することができる、すなわち、自発的に反応して、生理的pHおよび環境温度で、標識すべき生体分子上の基(通常はアミノ)と共有結合する構造に変換することができる。本発明者らは、抗体、viz.を標識するために、カルボニルジイミダゾールおよびスクシンイミジルテトラメチルウロニウム・テトラフルオロボレート(STUT)という2つの異なる活性化試薬を使用した。後者の試薬は、取り扱い易さという点でも、結果の再現性という点でも、好ましいことが分かった。これは、STUTを使用するとき、中間体である、該色素のNHSエステルの安定性が高いためであろう。加えて、STUTで活性化するための最良の溶媒は、DMSOであることが分かった。DMFを使用してもよいが、避けられない微量のアミン類に悩まされる公算が高い。
【0035】
実験結果
フルオロフォアの、所与の用途への適合性に関する最も信頼できるテストは、該色素を、完成したプローブに組み入れて、該プローブをテストすることである。該遊離色素を用いた上記血清試験は有用なガイドであるが、特異的プローブを用いて行われるテストに完全に取って代わることはできない。
【0036】
表2および表3は、LJB−3標識抗ヒトIgGをANA(抗核抗体)用プローブとして使用した、説明に役立つ結果を示す。性能の質は、FIU(正/負)(またはFIU[+/−])値、すなわち陰性(正常)コントロールからのシグナルと比較した、陽性サンプルからのシグナルの比率によって評価することができる。7以上の値は、有用である;これらの表中のデータは、該テクノロジーが開発されようとしている時に得られた;日常的な使用で、FIU(+/−)のより高い値は、一様な結果となることが予期されるであろう。
【0037】
【表1】

略語:mp:103(偏光);TDx緩衝液:蛍光偏光測定法で使用される市販の緩衝溶液;Pc:フタロシアニン;BBS:ホウ酸緩衝食塩水(0.25M NaCl、0.0232Mホウ酸および0.00179M四ホウ酸ナトリウム。pHを、1M NaOHで8.0+/−0.05に最終調整する)。血清をテストするとき、全血清25μlを、BBS 1ml(既に添加された色素25μlを含有する)を加えた。水平方向に進むときにのみ、蛍光強度の比較が意味あるように、様々なフルオロフォアの相対濃度は、不明であることに注目されたい。水溶液中でLJB−3を操作するためのBBSに代わるものは、0.70Mホウ酸33.1ml、0.50M K247 4.0ml、4.0M KCl 75mlおよび水を混合して1リットルにすることにより作られるホウ酸緩衝KCl(BBKCl)(pH約8.1)である。
【0038】
蛍光測定:これらの測定は、過渡状態偏光蛍光計(FAST−1、フロリダ州マイアミ州のヒペリオン有限会社(Hyperion,Inc))で行われる。




【0039】
【表2】

(1)各標識中にタンパク質1mg(クマシー・ブルー(Comassie Blue)による)
(2)FIU:ANAテストで確認された蛍光強度の比;コントラストの尺度:サンプル/陰性対照
(3)2つの異なる抗体調製物:DおよびJ
【0040】
【表3】

*スクシンイミジルテトラメチルウロニウム・テトラフルオロボレート
【0041】
詳細な背景および範囲
これらのマーカー成分は、蛍光プローブに組み入れるための蛍光標識として有用である。用語「蛍光プローブ」は、当該物質の存在を判定し、かつ/または定量化するするためのフルオロイムノアッセイ等のアッセイで使用される分析物、抗原、ハプテン、抗体または他の分子に、結合されているか、あるいは直接またはリンカー・アームを介して配位結合させる、フルオロフォア部分を含むマーカー成分を指す。これらのマーカー成分の幾つかは、リン光性標識として有用である。本発明の成分はまた、in vivo画像法用標識としても、またin vivo腫瘍治療で使用される薬剤用標識としても、有用である。
【0042】
これらのマーカー成分は、体液のサンプルを使用するアッセイで特に有用であるため、使用する者にとって好ましいのは、他のサンプル成分の環境蛍光からの干渉が最小限に抑えられる近赤外領域内に励起波長および/または発光波長を有するフルオロフォアである。500nm未満の励起波長が使用されるとき、血清等の一部のサンプルは、フラビン類、フラボプロテイリ(flavoproteiri)類、NADH等々から、かなりの干渉バックグラウンド蛍光性を示す可能性がある。
【0043】
ある種の用途、たとえば蛍光偏光イムノアッセイ等にとって、好ましいフルオロフォアは、結合した形であるとき、高度の、好ましくは、観測可能な偏光に関する理論的最大値の約10%超の、蛍光偏光も示す可能性がある。語「結合した」は、分子と、その特異的結合との間に結合相互作用が形成されている状態を指す。ある種の用途、たとえば蛍光過渡状態アッセイ等にとって、好ましいフルオロフォアはまた、約1ナノ秒〜約50ナノ秒の範囲内、好ましくは約5〜約20ナノ秒の範囲内の、蛍光減衰時間測定値により特性決定される。他の用途、たとえばリン光性標識には、いっそう長い減衰時間を有するフルオロフォアを使用することが可能である。
【0044】
好ましい小さい可溶化軸配位子は、−OH、−O−t−ブチル(有機溶媒の存在下でたぶん有用である)、−OCH2OH、−OCH2CH2OH、OCH2CHOHCH2OH、−OCH2CH2−OCH2CH2OH、−OCH2CH2−CH2−O−CH2−CH2CH2OH、−OPO32、−OB(OH)2、Cl、BrおよびFを包含する。
【0045】
好ましい実施形態では、該フルオロフォア部分は、2つの小さい可溶化軸配位子と配位結合することができる中心原子に配位結合した実質的に平面の、多座大環状配位子を有する。蛍光結合アッセイでマーカー成分として使用するために、適当な中心原子は、該中心原子に、2つの軸配位子を配位結合させることが可能であり、かつ三重項状態への遷移によって蛍光消光を引き起こせるほど十分に大きい原子番号を持たないのものである。該中心原子に好ましい元素は、ケイ素、ゲルマニウム、およびスズを包含し、殊に好ましいのは、ケイ素およびゲルマニウムである。
【0046】
本発明のこのような検出可能標識またはマーカー成分の、イムノアッセイにおける使用は、これらの標識が、血清等の体液の存在下および非存在下で、実質的に同じ強度の、蛍光発光の平行成分および垂直成分を有するという点で、有利である。したがって、これらの標識を使用するアッセイ方法は、体液中の低濃度の標的分析物を検出することができる。
【0047】
本発明の方法は、「蛍光計検出システム(Fluorometer Detection System)」と題する、同一出願人による米国特許第5,323,008号明細書に記載の改良された蛍光検出システムとともに使用するのに特に適する。
【0048】
蛍光標識を利用する競合阻害アッセイ手順で、本発明は、標的分析物を含むと思われるサンプルを、十分に高い負の正味電荷と一緒に平面分子構造の両側に1つずつある、2つの小さい可溶化軸配位子に結合した発光性の実質的に平面な分子構造を含む蛍光部分で構成されている、検出可能に標識されたマーカー成分を含む蛍光プローブに連結された、添加された標的分析物またはその類似物の既知量と接触させ、該混合物を、該標的構造を特異的に認識することができる受容体と接触させ、受容体に結合しているかまたは遊離の蛍光プローブの量を測定することにより、標的分析物量の存在を決定する方法に関する。ブランク・サンプルおよび既知量の標的分析物を含有するサンプルの測定値から、未知のサンプル中の分析物の量を推定することが可能である。
【0049】
別の態様で、本発明は、(a)標的分析物を含むと思われるサンプルを、該標的分析物を特異的に認識することができる第1の受容体と接触させて、該標的分析物および該第1の受容体の複合体体を形成する工程であって、該第1の受容体は、十分に高い負の正味電荷と一緒に、該平面分子構造の両側に1つずつある2つの小さい可溶化軸配位子に結合した発光性の実質的に平面な分子構造を有するフルオロフォア部分を有する蛍光プローブで標識される工程;(b)該複合体を、該標的分析物または該第1の受容体を特異的に認識することができる第2の受容体と接触させる工程であって、該第2の受容体は、固体担体に結合されて、該第1の標識された受容体、該標的分析物および該固体担体に結合された第2の受容体の複合体を形成する工程;および(c)該固体担体と結合した、標識された第1の受容体の量または未反応の標識された第1の受容体の量のいずれかを測定する工程;を有する、「サンドイッチ」または「2部位」イムノアッセイを実施する方法を提供する。
【0050】
別の実施形態で、該アッセイは、未知のサンプル中の、標識された第1の受容体の量を、該標的分析物のないコントロールサンプル中の、測定された標識された第1の受容体の量、または既知量の標的分析物を含むサンプル中の、測定された標識された第1の受容体の量と関連づけるという、さらなる工程を組み入れることが可能である。
【0051】
別の態様において、本発明は、相互干渉なしに、独立して該分析物により認識されることができる2つの異なる受容体を利用できる、標的分析物の測定に有用なサンドイッチ型蛍光イムノアッセイ法を提供する。各受容体は、異なる色素で標識されている。たとえば、一方の受容体は、それぞれ680nmおよび690nmの吸収最大および発光最大を有する第1の色素で標識されており、他方の受容体は、それぞれ695nmおよび705nmの吸収最大および発光最大を有する第2の色素で標識されている。該分析物の検出および定量化定量化は、定常状態測定または過渡状態測定のいずれかを使用して行うことができる。いずれにしても、所与の例では、励起は680nmで、検出は705nmであろう。この種のアッセイは、エネルギー移動に基づいており、均質であるという利点を有する。
【0052】
好ましい実施形態で、本発明のマーカーおよびプローブは、スペクトルの近赤外領域内の過渡状態偏光蛍光を用いてモニターされる、均一に混合して測定するアッセイ(homogenous mix and read assay)で最も有利に利用される。この形式の組み合わせは、大量で容易に実施することができ、かつ数値で示される読取値を与えるように容易に自動化することができる、非常に迅速な手順をもたらす。このようなアッセイは、近赤外波長(低い副蛍光(adventitious fluorescence))および過渡状態テクノロジー(レイリー(Rayleigh)散乱およびラマン(Raman)散乱を回避する)の両者によって生じるバックグラウンド干渉が低いため、精度および確度に好都合な、固有の特徴を有する。
【0053】
本発明は、血清、血漿、全血、尿および無処理の細胞を含む体液に対して、後者は、たとえば懸濁液として、または蛍光顕微鏡法に関しては、固体表面上に付着させて、実施するイムノアッセイに関する。全血を用いた測定では、アッセイの前に、ステアロイル−リゾレシチン、パルミトイル−リゾレシチンまたはミリストイルリゾレシチン等の溶解剤で赤血球を溶解させることが、通常は有利である。
【0054】
一実施形態で、該標的分析物は、薬物または薬物の代謝産物である。該薬物は、ステロイド、ホルモン、抗生物質、免疫抑制剤、抗喘息薬、抗悪性腫瘍薬、抗不整脈薬、抗痙攣薬、抗関節炎薬、抗うつ薬、または強心配糖体であってもよい。このような薬物の例としては、ジゴキシン、ジギトキシン、テオフィリン、フェノバルビタール、チロキシン、N−アセチルプロカインアミド、プリミドン、アミカシン、ゲンタマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、カルバマゼピン、エトスクシミド、バルプロ酸、ジソピラミド、リドカイン、プロカインアミド、キニジン、メトトレキサート、アミトリプチリン、モートリプチリン(mortriptyline)、イミプラミン、デシピラミン、バンコマイシン、およびシクロスポリンなどがある。
【0055】
別の実施形態で、該標的分析物は、ペプチド生体分子またはその断片である。このようなペプチド生体分子としては、たとえば、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、甲状腺刺激ホルモン、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、プロラクチン、インスリン等のペプチドホルモン、癌胎児性抗原等の腫瘍マーカー、または風疹ウイルス等のウイルスなどがある。
【0056】
本発明の方法は、約10-5M〜約10-13Mの濃度、特に約10-9M〜約10-12Mの濃度範囲の標的分析物を測定する方法を提供する。こうした測定は、サンプル中または受容体調製物中の副蛍光の量にも、蛍光発光の強度にも、非常に敏感である。概して、該波長を、近赤外線に移し、過渡状態検出を利用することは、有利であるが、各種サンプル中に存在する不純物が違うため、アッセイ開発中に、アッセイのタイプごとに最適化を行う必要があると言って間違いないであろう。
【0057】
本発明の主な目的は、信頼性および利便性が大幅に増大した、改良された蛍光に基づくアッセイを提供することである。本発明のまた別の目的は、多くの場合わずか数分で、迅速かつ正確な測定ができる方法を提供することである。本発明の目的は、極めて低濃度の蛍光標識またはマーカーを測定することができる方法を提供することである。本発明の目的は、迅速かつ正確であり、比較的低費用で、また未修正の生体サンプル、たとえば全血等とともに使用することができるという点で、臨床状況に有用な方法を提供することである。これらの目的は、1)該蛍光マーカーの光学特性の最適化、2)該検出システムの高感度および安定性、3)レイリー(Rayleigh)およびラマン(Raman)散乱を排除する、過渡状態検出の使用、4)分離を撤廃し、簡単な、混合して測定するだけの手順を提供するために、該アッセイを均一にすること、および5)機器およびサンプルサイズを小型化することにより、最もよく実現される。
【0058】
本発明はまた、該フルオロフォア部分を、該可溶化軸配位子の反応形と反応させることにより、マーカー成分を合成する方法も提供する。本発明はまた、特異的結合ペアの一方のメンバーまたは類似物の標的分析物に連結された、本発明のマーカー成分を有する蛍光プローブも、特徴とする。用語「特異的結合ペア」は、一方の分子が表面上または空洞内に、他方の分子(または他の分子を含む分子複合体)のある特定の空間構造および極構造を特異的に認識して結合する領域を有する、2つの異なる分子(または組成物)を指す。
【0059】
本発明の蛍光色素は、DNAテクノロジーおよび研究の幾つかの分野に用途がある。一般的に、これらの用途は、処理過程またはテストで、1本鎖DNA配列の活性を追跡して可視化できるようにするために、該配列を標識しなければならないというものである。たとえば、DNA配列決定のためのサンガー(Sanger)法では、プライマー分子(鋳型の3’末端の短い部分に相補的な、DNAの短い配列)を末端標識する(上記プライマーの5’末端上)。次いで、該該鋳型に相補的な新しい鎖を生成して、プライマー配列の3’末端を、該鋳型の5’末端方向に延長するために、4つのヌクレオチド三リン酸を有するDNAポリメラーゼを使用する。反応がずっと進行する前に、反応混合物を、4つに等分し、4つのジデオキシヌクレオチド三リン酸(A、T、GまたはC)の1つでそれぞれを別々に処理して、鎖延長を無作為に止め、使用したジデオキシヌクレオチド三リン酸中に含まれる同一塩基(A、T、GまたはC)で終わる様々な長さの新しい配列の混合物を作る。この、様々な長さの新しい鎖の混合物を、鎖長に従って分離するPAGE電気泳動で分離させ、これを、観察のためにバンドのパターンを「ブロッティング」によりニトロセルロース膜に転写するサザンブロットで可視化することができる。
【0060】
サザンブロットが使用される他の場合には、該DNAは通常、高いpHで変性されており、したがって1本鎖である。こうした状況で、本発明の蛍光標識を担持する相補的プローブとのハイブリダイゼーションは、サザンブロットからDNAを可視化するための、高感度および特異性を有する方法を提供する。
【0061】
DNA指紋法は、重要性が高まることが予期されるもう1つの分野である。1つの指紋法では、同定すべきサンプルからの制限酵素消化DNAのサザンブロットにおける一本鎖材料と、テスト・プローブ(標識された一本鎖配列)を、ハイブリダイズさせる。この方法を使用することにより、蛍光標識は、高感度と視覚的検出を併せて提供する。
【0062】
本発明の蛍光色素の無類の特性は全体として新しいタイプの、微量DNA用アッセイを生むことができるであろう。こうしたアッセイであれば、過渡状態蛍光偏光(TSFP)とともに数値で示される読取値を使用する。このようなアッセイの卓越した利点は、分離を必要とせずに、マイクロリットルの規模で行われる、混合して測定するだけの簡単なアッセイであり得ることである。DNAを検出および同定するための基本型アッセイは、以下の通りに進めることが可能であろう:
1.検出しようとしているDNAを含んでいる可能性があるサンプルを採集する。
2.該サンプルをPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅する。
3.本発明の蛍光色素で標識された1本鎖DNAを、増幅混合物に加え、TSPFを経時的に追跡する(たぶん数分)。標識されたDNAプローブに相補的なDNAがテストサンプル中に存在する場合、ハイブリダイゼーションが起こり、時間とともに偏光が増加する。
【0063】
本発明はまた、新規な色素−オリゴヌクレオチド複合物、それらを合成する方法、およびそれらの使用方法にも関する。こうした複合物またはプローブの使用方法は、核酸ハイブリダイゼーション法、核酸増幅法および核酸配列決定法を含むであろう。色素−オリゴヌクレオチド複合物の色素部分は、本発明の蛍光マーカーである。これらのマーカーは、DNAまたはRNAにカップリングするために付いている様々な官能基を有してもよい。こうした官能基としては、カルボキシル、アミノおよびN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHSエステル)などがある。
【0064】
「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチド残基の比較的短い鎖を意味する。一般的に、本発明で有用なオリゴヌクレオチドは、5〜50ヌクレオチドの長さを有する。本発明の方法で使用されるオリゴヌクレオチドプローブでは、DNA、RNAまたは核酸配列にハイブリダイズできる他のあらゆる種類の配列のポリヌクレオチドを包含する。このような核酸配列が、塩基類縁体ならびに天然の塩基シトシン、アデニン、グアニン、チミンおよびウラシルを含んでもよいことは、十分に理解されるであろう。このような塩基類縁体は、ヒポキサンチン、2.6−ジアミノプリンおよび8−アズグアニン(azguanine)を包含する。該プローブは、二本鎖形であっても1本鎖形であってもよいが、好ましくは1本鎖形である。該プローブは、直接合成、ポリメラーゼ介在延長反応で、あるいはクローニングまたは任意の他の都合のよい方法で調製してもよい。「連結された」は、両部分を接続する中間分子で化学的に結合されていることを意味する。
【0065】
該マーカーへの、該オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの連結は、たとえばアミド結合、エステル結合、ヒドラゾン結合、セミカルバゾン結合、チオセミカルバゾン結合、尿素結合、およびチオ尿素結合の形成につながる縮合反応を使用して実施することが可能である。たとえば、リンカーは、アミノ基、好ましくは第一級アミノ基で終わってもよい。他のリンカーは、カルボキシル基で終わってもよい。
【0066】
別の態様において、本発明は、ある種の色素−複合オリゴヌクレオチドを調製するための方法を提供する。一実施形態では、このような方法は、(a)アミノ基で終わるリンカーが付いたオリゴヌクレオチドを、該平面分子構造の両側に1つずつある2つの小さい可溶化軸配位子に結合した発光性の実質的に平面の分子構造を含み、かつ凝集および非特異的結合の両者を抑制するために十分なさらなる負電荷を有する、フルオロフォア部分を含む検出可能に標識されたマーカー成分のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルまたはイミダゾライドと反応させて、複合物を形成する工程;および工程(a)で形成された複合物を、未反応のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドおよび未反応の色素と分離する工程を含む。オリゴヌクレオチドへのリンカーの結合は、ジアミンまたはアミノアルコールを使用して実施することができる。好ましくは、該検出可能に標識されたマーカー成分は、ケージドジカルボキシ・シリコン・フタロシアニン色素を含む。
【0067】
あるいは、該色素複合オリゴヌクレオチドの調製は、ヒドロキシベンゾトリアゾールが存在し、かつオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが存在する中で、マーカー成分を、カルボジイミドと反応させて、複合物を形成すること;および結果として生じた複合物を、反応混合物の他成分と分離すること;によって実施することが可能である。
【0068】
別の態様で、本発明は、サンプル核酸を、本発明の蛍光マーカーで標識されたオリゴヌクレオチドと接触させる工程であって、上記オリゴヌクレオチドは、均質な溶液中で上記標的核酸配列とハイブリダイズすることができる工程と、このようなハイブリダイゼーションの存在または量を、過渡状態(または定常状態)偏光蛍光により検出する工程とを含む、サンプル中の標的核酸配列を検出するための方法に関する。
【0069】
さらなる態様で、本発明は、標的核酸を検出または定量化する方法であって、該標的核酸は、核酸増幅の産物である方法に関する。核酸増幅方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ鎖反応(LCR)、自立配列複製(3SR)および転写物に基づく増幅システム(TAS)などがある。
【0070】
本発明の方法は、「蛍光計検出システム(Fluorometer Detection System)」と題する、同一出願人による、スタッドホーム(Studholme)ら、米国特許第5,323,008号明細書に記載の、時間相関過渡状態検出システムとともに使用するとき、特に有用である。そのシステムは、サンプルの時間依存的偏光の直接読み取りを可能にする過渡状態検出を特徴とする。該システムは、非常に高い周波数、たとえば、MHzの速度で、変調することができるレーザー・ダイオードを使用し、また高い出力を示す。一般的に、レーザー「オン」の時間は、約2〜3ナノ秒である。該溶液からの光子は、単一光子計数モードで作動している光電子増倍管を使用して検出する。光子イベントを、レーザーパルス時間と比較した、該光子イベントの相対的時間と一緒に測定する。個々の光子イベント時間を記憶することにより、時間の関数としての、光子の周波数のヒストグラムを作成する。
【0071】
別の態様で、本発明は、核酸増幅プロセスの反応速度をモニタリングし、かつ/または標的サンプル中の核酸を定量化する方法を提供する。たとえば、PCRによる増幅中に、「キャッピング」し、併せて本発明の蛍光色素で標識しておいたオリゴヌクレオチドからなるプローブを、PCR反応に直接加えてもよい。「キャッピング」は、3’末端を、ジデオキシヌクレオチド三リン酸と反応させておいたことを意味する。次いで、反応が進むにつれて、反応を追跡するために、蛍光の時間依存性の過渡状態検出を使用することができる。
【0072】
各冷却期に、増幅産物とのハイブリダイゼーションを、速度論敵に追跡することが可能である。増幅産物の濃度が上昇するにつれて、プローブと増幅産物との結合速度が上昇し、増幅産物の濃度を定量する。この情報はサイクル数と一緒に、増幅前に、サンプル中に当初存在していたDNAの量を定量する。
【0073】
本発明の別の態様は、蛍光計のデザイン、変更または改良への広範囲におよぶ適用である。この適用性の広さは、下記の、専門の機器の例で十分に例証される。非吸収性媒体では、より低い屈折率を有する第2の媒体Bで取り囲まれた媒体A内を横行する光波は、入射角が臨界角より大きければ、媒体Aの境界で全内部反射を受ける。しかし、該全反射した光の電磁界は、境界を短い距離、突破し、AとBの界面付近にある蛍光分子の励起等の、物理作用を生じさせることができる。
【0074】
この作用は、媒体Aの表面上、したがって蛍光の励起が起こり得る唯一の位置である界面に、固定された分子との特異的反応が起こる、均一な、蛍光に基づくアッセイを可能にする。単純なガラスまたはプラスチックのプレートは、入射光線用の光導波路および該表面上の機知の位置に前もって置かれた特異的受容体用の担体の両者の役割をする。この方法論は、「エバネセント光フルオロイムノアッセイ(evanescent light fluoroimmunoassay)」(ヘロン(Herron)ら、米国特許第5,512,492号明細書)と呼ばれる。
【0075】
好都合なことに、本発明は、一般に近紫外励起領域を有し、スペクトルの近赤外領域内で発光するN含有大環状分子(以下に列挙したクラス)に基づく蛍光色素を使用する、非常に大きいストローク・シフト(Strokes’ shift)の特徴を含む。このような色素は、定常状態モードまたは過渡状態モードの免疫/受容体アッセイに適用できる。励起光源としては、水銀アーク、窒素レーザーおよび窒素レーザー励起色素レーザーなどがある。あるいは、ダイオードレーザーを用いて、これらの同色素を近赤外で励起し、パルス励起および過渡状態検出を用いて優れた結果を与えることができる。光源の選択は、件の個々の色素の吸収バンドの位置、励起および検出の好ましいモード、定常状態か過渡状態か、および所要空間によって異なる。
【0076】
こうした特長を、「エバネセント光フルオロイムノアッセイ」に関する化学および機器のデザインに含めることは、非常に低いバックグラウンドと一緒に高いシグナルレベルをもたらし、したがって高いアッセイ感度を与える。
【0077】
上述の発明の概要は非限定的であり、本発明の他の特徴および利点は、以下の、好ましい実施形態の説明、および特許請求の範囲から明白になるであろう。
【0078】
好ましいマーカー成分の吸光度および偏光挙動
2つの小さい可溶化軸配位子に結合した中心原子(たとえば、ケイ素)を含むこれらのマーカー成分は、過渡状態蛍光の測定に特徴づけられるであろう。このような測定では、励起パルスの偏光の方向に平行または垂直な、偏光した2成分の強度を、該マーカー成分の減衰時間の約3倍に相当する時間、モニターする。このような曲線は、吸光係数、量子収率、減衰時間および偏光の状態を反映し、また該マーカー成分の化学的状態および物理的状態に関する繊細な示唆を与える。たとえば、該励起状態が不活化されるか、または三重項状態に変換されると、総体的な強度は低下し、減衰時間は短縮される。粘度上昇によって、または大きい分子に結合されることによって、該分子の回転ブラウン運動が変化すると、平行成分と垂直成分の強度比は上昇する。
【0079】
本発明の幾つかのマーカー成分は、約5%の実験誤差内で、DMF(有機溶媒)中で、SAP(食塩リン酸アジド(saline azide phosphate)、水性中性緩衝溶液)中と同じ強度、減衰時間および偏光を示す。ある程度まで、こうした特性を、他のマーカー成分調製物も共有する。本発明のマーカー成分の示差的で重要な特性は、血清中の成分に対する感度(および血清中の成分に結合しないこと)であり、強度、減衰時間または該蛍光の偏光成分の相対的な大きさに対して、有意な測定される血清の作用がないことから明らかである。この特性は、生体試料を使用するアッセイ等の用途に使用しようとしているマーカー成分に極めて重要である。
【0080】
好ましいマーカー成分の調製
本発明の好ましいマーカー成分の一調製方法によれば、一般的な反応スキーム:
Mcl−−CA−(X)2+2(SM) Mcl、−CA−(SM)2+2X
(ここで、Mclは、大環状配位子を示し、CAは、中心原子を、Xは、置き換えられた配位子を、SMは、可溶化部分を示す)による配位子交換反応で、軸配位子としてヒドロキシ基またはハライド基を有する適当なフルオロフォア部分を、可溶化部分の反応形と反応させる。この反応は、ニートで実行してもよく、あるいは必要に応じて、溶媒中で実行してもよい。適当な溶媒としては、キノリン、THF、DMF、イミダゾール(他の列挙した溶媒の1つに溶解されるとき)等々がある。適当な反応温度は、該大環状の出発材料および該可溶化基の性質μによって異なるであろう。該反応は一般的に、約2分〜約24時間で完了する。該反応混合物は、還流させながら、または砂浴等の方法で、便利に加熱することができる。利便性のため、該反応を環境気圧で実行することが可能である。この反応は、2段階で行われ、一度に1つのポリオキシヒドロカルビル基が軸配位子として配位結合する。
【0081】
蛍光イムノアッセイで蛍光標識として使用されるとき、これらのマーカー成分は、特異的結合ペア(「標識された結合パートナー」)の一方のメンバーまたはこのようなメンバーの類似物に連結されていてもよい。用語「結合パートナー」は、ある特定の分子または分子複合体を特異的に認識することができる、またはある特定の分子または分子複合体により特異的に認識されることができる、分子または分子複合体を指す。該マーカー成分は、それに直接付着または結合されていてもよく、またはリンカー・アームを介して付着または結合されていてもよい。
【0082】
利用性
本発明のマーカー成分は、蛍光プローブ用および蛍光結合アッセイにおける蛍光標識として有用であり、in vivo画像法用標識としても、またin vivo腫瘍治療用標識としても有用である。
【0083】
これらのマーカー成分は、蛍光偏光イムノアッセイを含む、従来の蛍光結合アッセイで、蛍光標識として有利に使用することができる。そのように使用するとき、これらのマーカー成分は、特異的結合ペア(「標識された結合パートナー」)の一方のメンバーまたはこのようなメンバーの類似体に連結されていてもよい。該マーカー成分は、それに直接付着または結合されていてもよく、またはリンカー・アームを介して付着または結合されていてもよい。
【0084】
これらの標識された結合パートナーは、様々な形式を有するアッセイ、たとえば分析物または分析物結合パートナー(使用されるような標識された分析物または分析物類似物であれば)に関して競合を含むアッセイで有用であり、均一アッセイまたは不均一アッセイのいずれでも使用することが可能である。
【0085】
それらは、都合よく、水溶液中で凝集が存在しないこと、および溶媒感受性がないこと(検出可能な凝集を示さない)、併せて血清成分および他の生物学的巨大分子への非特異的結合がないことを考慮すると、これらのマーカーは、生物学的流体、たとえば血清等を含むサンプル中の分析物を検出するためのアッセイでの使用に特に適している。このように、これらのマーカー成分は、血清成分による非特異的結合が、アッセイの感度をひどく落とし、その確度および精度の両者に影響を及ぼすであろう、溶液中の分析物を検出するための蛍光プローブ用の標識として使用することが可能である。
【0086】
あるいは、これらのマーカー成分は、in vivo画像法用造影剤として使用することが可能である。造影剤として使用されるとき、これらのマーカー成分は、特異的結合ペアの一方のメンバーに結合されて、標識された結合パートナーを与える。該標識された結合パートナーは、動物に導入される。該特異的結合ペアの他方のメンバーが存在すれば、該標識された結合パートナーはそれに結合し、該マーカー成分によって生じたシグナルを測定し、その局在位置を同定することが可能である。
【0087】
これらのマーカー成分はまた、in vivo腫瘍治療でも使用することが可能である。たとえば、光線力学治療は、該マーカー成分を感光剤として使用することを含む。該マーカー成分(蛍光標識)は、腫瘍細胞の成分を特異的に認識して結合することが可能な、結合パートナーに結合される。
【0088】
本発明は、核酸プローブならびに該プローブの製造方法および使用方法を提供する。該新規な核酸プローブの使用方法は、現在既知の、またはその後開発される様々な核酸ハイブリダイゼーション配列決定技術、および現在既知の、またはその後開発される様々な核酸増幅技術を含む。該プローブ(本明細書では、複合物とも言う)および本発明の方法は、均一なハイブリダイゼーションアッセイで1 fmol感度の達成を可能にし;この感度は、現行の不均一ハイブリダイゼーション測定技術で達成される感度に匹敵する。しかし、上記の通り、現行の不均一アッセイには、汚染のリスク増大および該アッセイの実施に要する時間増加を含む、幾つかの不都合があるが、それらは該アッセイに含まれる多くの段階に起因する。該本発明の組成物および方法の他の利点は、本明細書に提供されている実施例を再検討するとき、当業者に明白になるであろう。
【実施例】
【0089】
本発明の理解を助けるために、一連の実験結果を説明する以下の実施例を含める。本発明に関連する下記の実施例は、もちろん、本発明を具体的に限定すると解釈されてはならず、また、現在既知のまたはその後開発される、当業者の権限内であろう、本発明のこのような変更は、本明細書に記載の通り、および下文に特許請求する通り、本発明の範囲に入ると考えられる。
【0090】
実施例1:1,2,4,5−テトラシアノベンゼン(TCNB)からの、テトラジイミノピロメリット酸ジイミドの合成
1リットル用三つ口フラスコ内のTCNB、20.0g(0.112モル)を、真空で約1時間乾燥させた。該フラスコに、遅い、高トルク、テフロン(登録商標)羽根スターラー、アンモニア中で泡立たせるためまたは液体を加えるための入口、および水冷コンデンサーを取り付けた。装置全体に窒素をどっと流した後、メタノール400mlを加え、室温で撹拌を開始し、アンモニアをゆっくり泡立てた。
【0091】
アンモニアの吸収は非常に効率よく、数分後、該懸濁液は、澄んだ淡緑色の溶液になる。数分後(アンモニアを絶えず加えながら)、該溶液は濁り、温度はわずかに上昇する。アンモニアの添加開始から40分後、該反応混合物は、撹拌することが難しくなるため、撹拌しながらさらに200mlのメタノールを加え、アンモニア添加を続けた。該懸濁液の表面から現れる泡がないことから明らかなように、この時点で、アンモニア吸収は依然として非常に効率がよかった。100分後、撹拌を可能にするために、さらに175mlのメタノールを加えることが必要であった。125分後、コンデンサーからの出口に大量のアンモニアが現れ始めたので反応混合物を45℃の水浴に入れ、混合、加熱およびアンモニア添加をさらに240分続けた。冷却後、該反応混合物を+4℃で24時間、保存した。次いで、ワットマン(Whatman)#42ペーパーを用いて固形物を吸引濾過し、真空乾燥した。収量23.2g(0.109モル)。
【0092】
実施例2:ビス−クロロ(2;3ジカルボキシフタロシアニノ)ケイ素(IV)の合成
ジイミノイソインドリン(30.0g;0.207モル)およびテトラジイミノピロメリット酸ジイミド(10.5g;0.050モル)を一緒に粉砕し、1リットル用三つ口フラスコ内で、真空で一晩乾燥させた。該フラスコに、テフロン(登録商標)羽根ミキサー、隔壁、温度計およびシリカゲル乾燥管付き還流コンデンサーを取り付けた。撹拌された反応物質が入った該装置に、窒素条件下で乾いた窒素をどっと流し、窒素流れ下でキノリン600mlを加えて30分間混合した。一様な流体懸濁液が結果として生じた。その後、5分間にわたり、隔壁を通して四塩化ケイ素60mlを徐々に加えた。該溶液は黒ずみ、そして加熱せずに撹拌を15分間、続けた。
【0093】
次いで、連続的に撹拌しながら、195℃に予熱した油浴の位置を上げて、フラスコを、その内容物より上のレベルまで沈める。5分後、該油浴の温度は、175℃まで下がっていたが、さらに15分後には、元の185〜190℃で安定し、この温度でさらに60分間維持した。次いで、該油浴を下げ、反応混合物を約15分間、冷却させた。次いで、コンデンサー出口の湿ったpH試験紙で検出される、未反応の四塩化ケイ素を除去するために、窒素流を開始した。約45分間の換気後、今度は100℃の油浴を置き換えて、約130℃まで徐々に加熱を続けて四塩化ケイ素の除去を促進し、キノリン臭のみが明白であった、さらに70分後、上記テストにより終わらせた。
【0094】
次いで、該油浴を取り除き、該反応混合物が約80℃まで冷めたとき、水424mlおよび濃塩酸424mlの混合物を、混合しながら加えた。熱が発生し、最終混合物は酸性であった。反応生成物を、室温で一晩静置した。翌日、さらに水424mlおよび濃塩酸424mlを混合しながら加え、混合物を室温で一晩、沈降させた。
【0095】
次いで、該反応混合物をブフナーロート(Buchner funnel)(24cm濾紙)で濾過し、水で洗浄し、フード内で一晩、風乾した。濡れた濾過ケーキを、アセトン1リットル中で撹拌し、濾過した。洗浄した材料をフード内で2日間、乾燥させた。乾燥した材料(50g)を、アセトンの入った乳鉢内で粉砕し、該混合物を撹拌し、濾過して真空で乾燥させたとき、暗色の微粉化した固形物47.9gが残った。
【0096】
実施例3:ビス−クロロ(2;3−ジカルボキシフタロシアニノ)ケイ素(IV)、(ジカルボキシジクロロ色素)の加水分解
フラスコの口を濡らさないために長脚ロートを使用して、濃硫酸(98ml)を、250ml用丸底フラスコに入れた。短脚ロートを介して、マグネット・スターラーとともに、ジカルボキシジクロロ色素16.3gを少しずつ加えた。添加は約1時間にわたり、色素塊を分散させてから、追加の固形物を加えた。乾燥管を該フラスコに取り付け、混合物を油浴中で加熱して、50℃で24時間、維持した。
【0097】
該反応フラスコを油浴から取り出して氷中で冷却した。水(75ml)を少しずつ冷却せずに、注意深く加え、80℃の油浴中で20時間、該混合物を撹拌しながら加熱した。冷却後、該混合物を1リットル用ビーカー中の氷に注ぎ入れて撹拌した。
【0098】
該混合物を、室温で、2000×gで30分間、遠心分離した。沈殿を水(約250ml)中に懸濁し、再度、遠心分離した。この洗浄をもう一度繰り返し、沈殿を回収し、1M K2CO3 300ml中に懸濁した。時計皿で覆ったビーカー内で、該混合物を撹拌しながら加熱した。10分で、温度は90℃に達し、加熱を、約93℃で50分間、続けた。まだ熱い間に、該混合物を濃HClで酸性化し、冷却させ、室温で2日間、放置した。
【0099】
次いで、固形物を、11cmのブフナー(Buchner)ロートとワットマン(Whatman)#42濾紙で回収し、濾過には約1時間を要した。ロート上の固形物を3×100mlの水で洗浄し、フード内で風乾させた。次いで、該固形物を15分割して、P25およびKOH上、真空で乾燥させた。収量13.3g(87%)。
【0100】
実施例4:シリカを用いた吸着クロマトグラフィによるビス−ヒドロキシ(2,3ジカルボキシフタロシアニノ)ケイ素IV(ジカルボキシ色素)の精製
実施例3で生成した、未精製のジカルボキシ色素3.0gを、250ml用のビンに入れ、2%(v/v)エチルジイソプロピルアミン(DIEA)を含有するMeOH 100mlを加え、該混合物を30分間、撹拌した。この後、シリカ(EMサイエンス(EM Science))43gを加え、混合物を手で振り、暗色のペーストを生じた。20分後、2%DIEAを含む追加のMeOH 100mlを加え、底を数回、逆さにし、内容物を20分間、撹拌した。MeOHおよびDIEAの他にもEtOHを加えて溶媒特性を調整することにより、抽出される色素の組成が変わり、単一成分の抽出が可能になる。次いで、減圧条件下、焼結ガラスロート(微孔性、直径6.5cm)で固形物を濾過した。MeOHの多大な損失を防止するために、ある程度真空を生じさせたタンクに接続することにより、減圧を維持した。一晩、濾過した後、残留物を2×50mlのMeOH+DIEAで洗浄し、約30時間を要した。濾液(230ml)を回転蒸発器でほぼ乾固するまで濃縮した。残留物をMeOH+DIEA 14mlに溶解し、溶液を等分して、2本の40ml円錐形遠沈管に入れた。
【0101】
各遠沈管の内容物を濃HCl 200ulで酸性化し、管をほぼ満たすまで水を加えた。内容物を、数回、逆さにしたり振ったりすることによって混合し、約650×gで30分間、遠心分離した。褐色の上澄液を傾瀉し、沈殿を0.01M HC1で3回洗浄した。沈殿を100ml用丸底フラスコに移し、該混合物を回転蒸発で乾燥させ、次いでH2SO4およびKOH上、真空で乾燥させた。乾燥重量は304mgであった(精製ジカルボキシ色素)。
【0102】
実施例5:クロロスルホン酸による精製ジカルボキシ色素のスルホン化
精製したジカルボキシ色素(実施例4)161mgを、マグネティック・ミキサー付き50ml用首長丸底フラスコに計り入れた。N2条件下、室温で、ClSO3H 3.4mlを加えた。N2バルーン付きの小さい空冷コンデンサーを取り付け、フラスコおよび内容物を、110℃の油浴中で約3.7時間加熱し、その時点で、1μlサンプルを試験用に採取した。次いで110℃でさらに3.3時間、加熱を続け、すぐに加熱をやめて第2のサンプルを採取した。両サンプルに氷を加え、それぞれを重量390mgまで、水で希釈した。次いで、1M NaHCO3 2mlを各サンプルに加え、希釈したサンプル10μlを、中性緩衝溶液2mlで希釈して測定を行うことによって、それぞれの吸光度を測定した。両サンプルともAmaxは、690nmであり、3.7時間のサンプル測定値は0.650で、7時間のサンプル測定値は0.490であり、最後の3.3時間の加熱期に、色素の約25%が破壊されたことが分かる。あるいは、精製ジカルボキシ色素をClSO3H中、70℃で36時間、加熱することにより、スルホン化を実行してもよい。
【0103】
主反応混合物を、ビーカー内の氷に少しずつ加え、該冷混合物を約700×gで30分間、遠心分離した。かすかに着色した上澄液を傾瀉した。沈殿を、氷冷水30ml中に懸濁させ、水と一緒に250nmエルレンマイヤー・フラスコに移し、1M KHCO3約40mlで塩基性にし、室温で一晩撹拌した。該反応混合物をビーカーに移し、濃HClで酸性化し、室温で6時間、撹拌し、室温で48時間、保存した。
【0104】
該混合物を約700×gで遠心分離し;色の上澄流体はそのままにしておき、沈殿を1M NaHCO3に溶解して2時間撹拌した。暗緑色の溶液を、セプ・パック(Sep Pak)(2gサイズ、レイニン(Rainin)25)を通過させ、酸性化後の濾液を、遠心分離からの上澄流体と併せた。全量は約400mlであった。暗青色の酸性溶液を、セプ・パック(Sep Pak)上に吸着させ、3N HClでカラムを洗浄し、およびMeOHで溶出させた。セプ・パック(Sep Pak)は、MeOHおよび3N HClで洗浄後、何度も繰り返し使用できる。該色素を含有するMeOH溶出液を、回転蒸発、ならびにH2SO4およびKOH真空で乾燥させた。収量は158mgであった。シリカを用いたクロマトグラフィによる、この材料の精製で、ラホヤブルー(La Jolla Blue)−3(LJB−3)を生じた。
【0105】
結果を表1および表2に示し、また蛍光強度および偏光測定で評価した、3色素の非特異的結合および溶媒感受性を特性決定した。強度に関して、所望の特性は、溶媒成分と無関係な不変性とともに高い蛍光出力である。一方、偏光は、理想的には低粘度の媒体中で低いままで、かつグリセロール等の粘性の溶媒中で可能な限り高いことが望ましい。
【0106】
表1は、アルミニウムフタロシアニントリスルホネートからの蛍光強度は、非常に溶媒に敏感なことを示す。比較すると、ジヒドロキシジカルボキシシリコンフタロシアニンスルホネートは、緩衝溶液中、緩衝溶液と血清中、またはグリセロール単独中で、ほぼ同じ蛍光出力を有する、劇的に改良された性能を示す。この改良の一部は、それ自体、血清および溶媒に対する感受性がAl化合物より低い、ジヒドロキシ−ジカルボキシ−シリコン−フタロシアニン(スルホン酸基なし)との比較により、スルホン化に起因すると思われる。
【0107】
表2は、中心原子としてのAlと比較するとき、中心のSi原子の単なる存在が、環境に対する感受性を低下させることを、いっそう強く示す。この違いは、Siは2つの軸配位子を有し、したがって、該分子平面の両側に「保護基」が存在するため、色素の平面構造を、溶媒効果から「守る」という事実にたぶん起因するであろう。Alの場合には、軸配位子が1つだけ存在し、したがって分子平面の片側は、溶媒効果に自由に影響される。図2では、該色素を、グリセロールに入れることにより(回転運動がほとんど停止すると、該偏光の近似限界を示す)、ほぼ到達可能な最大まで、Al色素の偏光が非常に大幅に増加する点に、この相互作用の結果がはっきり見える。
【0108】
結論
本発明に関連した上記の代表的な用途は、本発明の範囲を制限するもとの考えてはならない。当業者の権限の範囲に含まれるであろう、現在既知の、または後で開発される、本発明のこのような変更は、下文に特許請求する通り、本発明の範囲に含まれると考えるべきである。
【0109】
本明細書で言及した全ての特許および出版物は、本発明が関係する技術分野における熟練者の水準を示す。各出版物を具体的かつ個別に示したのと同程度まで、全ての特許および出版物を、参照により本明細書に援用する。
【0110】
本明細書で実例を挙げて適切に説明されている本発明は、本明細書で具体的に開示されていない、要素または制限の非存在下で実施することが可能である:したがって、たとえば、本明細書のどの場合にも、用語「含む(comprising)」、「本質的になる(consisting essentially of)」および「からなる(consisting of)」のいずれも、他の2つの用語のいずれとも置き換えることができる。使用されてきた用語および表現は、制限の用語としてではなく、説明の用語として使用されており、このような用語および表現を使用する際に、示され、説明された、特徴の等価物またはその一部を排除する意図はないが、特許請求された発明の範囲内で、様々な修飾が可能なことは理解されるであろう。したがって、好ましい実施形態および任意の特徴によって本発明を具体的に開示してきたが、本明細書に開示されている概念の修飾および変更は、当業者によって使われること、およびこのような修飾および変更は、添付の特許請求の範囲によって規定される、本発明の範囲内であると考えられることを、理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心金属原子を有する大環状の蛍光性配位子であって、前記原子は2つの軸配位子を大環状分子の両側に1つずつ有し、前記軸配位子は、アルコキシ基、ハライド基、ヒドロキシ基、ホウ酸基、硫酸基またはリン酸基から独立に選択され、前記大環状分子は、1以上のベンゾ基、および1つのベンゾ環上の環置換基として、2つのオルトカルボキシ基または1つのカルボキシ基とともに、カルボキシではない、水溶液中、pH5以上で負に帯電している1つの他の基、および前記大環状分子上の任意の他の可能な位置における他の環置換基として、カルボキシではない、水溶液中、pH5以上で、負に帯電している1以上の基を有する、大環状の蛍光性配位子。
【請求項2】
前記大環状分子は、フタロシアニンであり、前記中心金属原子は、SiまたはGeであり、前記軸配位子はヒドロキシルであり、前記環置換基は、1つの環上の2つのオルトカルボキシ基、および他の環の1つの上の、1つのスルホ基である、請求項1に記載の大環状の蛍光性配位子。
【請求項3】
平面部分の両側に1つずつある2つの可溶化基に結合した発光性の実質的に平面の部分とともに、マーカー成分の正味電荷を制御し、また前記マーカー成分の他分子へのカップリングを可能にするために必要に応じて前記実質的に平面の部分の置換基を含む、マーカー成分。
【請求項4】
前記発光性の実質的に平面の部分が、1〜4個のベンゾ基を有するトリアザポルフィリンである、請求項3に記載のマーカー成分。
【請求項5】
前記発光性の実質的に平面の部分が、1〜4個のベンゾ基を有するジアザポルフィリンである、請求項3に記載のマーカー成分。
【請求項6】
前記発光性の実質的に平面の部分が、1〜4個のベンゾ基を有するモノアザポルフィリンである、請求項3に記載のマーカー成分。
【請求項7】
生体分子、たとえば抗原、ハプテン、抗体、オリゴペプチドまたはオリゴヌクレオチドに結合した、または天然もしくは合成の治療薬に結合した、請求項4、5または6に記載の発光性の部分を含む蛍光プローブ。
【請求項8】
過渡状態蛍光偏光/異方性の測定により実施されるアッセイで使用するのに適切な蛍光強度、偏光および減衰時間のような特性を有する、請求項7に記載の蛍光プローブ。
【請求項9】
平面部分の両側に1つずつある2つの可溶化基に結合した発光性の実質的に平面の部分とともに、マーカー成分の正味電荷を制御し、また前記マーカー成分の他分子へのカップリングを可能にするために必要に応じて前記実質的に平面の部分の置換基からなる、マーカー成分。
【請求項10】
中心金属原子を有する大環状の蛍光性配位子であって、前記原子は2つの軸配位子を前記大環状分子の両側に1つずつ有し、前記軸配位子は、アルコキシ基、ハライド基、ヒドロキシ基、ホウ酸基、硫酸基またはリン酸基から独立に選択され、前記大環状分子は、カップリングおよび正味電荷の制御を可能にするための置換基を担持する1以上のベンゾ基を有するモノアザポルフィリンである、大環状の蛍光性配位子。
【請求項11】
中心金属原子を有する大環状の蛍光性配位子であって、前記原子は2つの軸配位子を前記大環状分子の両側に1つずつ有し、前記軸配位子は、アルコキシ基、ハライド基、ヒドロキシ基、ホウ酸基、硫酸基またはリン酸基から独立に選択され、前記大環状分子は、カップリングおよび正味電荷の制御を可能にするための置換基を有する、コリン、サフィリン、ポルフィセンまたはナフタロシアニン誘導体である、大環状の蛍光性配位子。
【請求項12】
中心金属原子を有する大環状の蛍光性配位子であって、前記原子は2つの軸配位子を前記大環状分子の両側に1つずつ有し、前記軸配位子は、アルコキシ基、ハライド基、ヒドロキシ基、ホウ酸基、硫酸基またはリン酸基から独立に選択され、前記大環状分子は、カップリングおよび正味電荷の制御を可能にするための置換基を有する、27−フェニルテトラベンゾトリアザポルフィリンまたは27−(p−メチルフェニル)テトラベンゾトリアザポルフィリン誘導体である、大環状の蛍光性配位子。
【請求項13】
本明細書に開示されている蛍光性マーカーまたは蛍光プローブを利用する、蛍光に基づくアッセイ。
【請求項14】
本明細書に開示されている蛍光性マーカーまたはプローブを利用する核酸ハイブリダイゼーションを含む、均一に混合して測定するアッセイ。
【請求項15】
前記蛍光部分が、(1)キノイド色素(2)インダンスレン色素(3)1,4−ジアミノアントラキノン−2,3−ジカルボキサミド類(4)テトラアミノアントラキノン類(5)アジン色素(6)ピリリウムまたはチオピリリウム色素および(7)ナフトキノンメチド類からなる群から選択される、マーカー成分。
【請求項16】
非特異的結合および平面分子のスタッキンッグを効果的に防御する方法であって、
a)少なくとも2つの小さい軸配位子を提供する工程、
b)前記配位子の1以上を、前記分子によって画定される前記分子平面の反対側に置く工程、及び
c)前記分子全体の正味電荷が、前記防御がもたらされるのに十分であることを保証する工程、
を含む、方法。
【請求項17】
前記軸配位子が、−OHからなる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記配位子が、−OH、−O−t−ブチル、−OCH2OH、−OCH2CH2OH、OCH2CHOHCH2OH、−OCH2CH2−OCH2CH2OH、−OCH2CH2−CH2−O−CH2CH2OH、−OPO32、−OB(OH)2、Cl、BrおよびFを含む群から選択される、請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2008−502681(P2008−502681A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516503(P2007−516503)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2005/017352
【国際公開番号】WO2006/001944
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(506414923)
【Fターム(参考)】