説明

蛍光温度センサ

【課題】測定対象と蛍光材料との間に生じる温度差をなくして、測定精度を向上させることができる蛍光温度センサを提供する。
【解決手段】蛍光温度センサの温度計測部10は、測定対象Xに接触する大径板状の底部11と、底部11と同一の熱伝導体で構成され、これから起立した小径筒状の側壁12と、側壁12の内面で保持され、蛍光材料1に端面が対向するように配置される光ファイバ7の端部外周を覆う保護管13とを備える。側壁12は、保護管13を介して蛍光材料1の温度が変化することを抑止する厚さおよび長さを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光励起された蛍光材料の蛍光から温度信号を生成する蛍光温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の蛍光温度センサにおける温度計測部としては、特許文献1の図1または図3に示すように、先端部が閉じた筒状の熱伝導体で形成されたキャップ部に蛍光材料を内蔵してなるものが知られている。かかる温度計測部は、蛍光材料を透明板で封入し、蛍光材料から光ファイバを該透明板の厚みだけ離して配置することにより、蛍光材料と光ファイバとの距離を一定として測定精度を維持させる。
【特許文献1】特開2000−55747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の蛍光温度センサの温度計測部では、キャップ部の先端でのみ測定対象と接触するため、接触面積が小さく、蛍光材料に測定対象の温度を効率的に伝えることができなかった。さらに、キャップ部の開口部側は、スプリング押さえを兼ねるように極端に長いか、極端に短いものであり、開口部側からの熱の出入りを考慮したものとはなっていなかった。
【0004】
そのため、従来の蛍光温度センサでは、測定対象と蛍光材料との間に温度差が生じて、測定誤差を生じる要因となっていた。
【0005】
上記の事情に鑑みて、本発明は、測定対象と蛍光材料との間に生じる温度差をなくして、測定精度を向上させることができる蛍光温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の蛍光温度センサは、光励起された蛍光材料の蛍光から温度信号を生成する蛍光温度センサにおいて、前記蛍光材料が内蔵される有底筒状の温度計測部を有し、該温度計測部は、測定対象に接触する大径板状の底部と、該底部から起立した小径筒状の側壁と、該側壁の内面で保持され、前記蛍光材料に端面が対向するように配置される光ファイバの端部外周を覆う保護管とを備え、少なくとも前記底部と前記側壁とが同一の熱伝導体で構成されることを特徴とする。
【0007】
第1発明の蛍光温度センサによれば、測定対象に接触する温度計測部の底部が大径板状に形成されるため、測定対象との接触面積を大きくして、蛍光材料に測定対象の温度を効率良く伝達することができる。また、底部と側壁とが同一の熱伝導体で構成されているため、底部と側壁とを同一の温度として蛍光材料を取り囲み、蛍光材料の温度を測定対象の温度と同一に維持し、測定精度を向上させることができる。
【0008】
第2発明の蛍光温度センサは、第1発明の蛍光温度センサにおいて、前記側壁は、前記底部より肉厚であって、前記保護管を介して前記蛍光材料の温度が変化することを抑止する長さであることを特徴とする。
【0009】
第2発明の蛍光温度センサによれば、側壁は、保護管から蛍光材料の熱が放熱され、または、保護管から蛍光材料に熱が供給されることを抑止する厚さおよび長さを有することにより、測定対象と蛍光材料との間に生じる温度差をなくして、測定精度を向上させることができる。
【0010】
第3発明の蛍光温度センサは、第1発明または第2発明の蛍光温度センサにおいて、前記保護管の端部は、前記蛍光材料との間に間隙を有して配置されることを特徴とする。
【0011】
温度計側部の底部を大径とすると、測定対象と底部とが接触した際の反発力が大きくなり、接触時に側壁が変形し得る。また、測定対象と底部とを接触させた後、測定対象や温度計測部の振動等によっても、側壁に変形が生じ得る。
【0012】
かかる変形の発生に鑑みて、第3発明の蛍光温度センサでは、蛍光材料と保護管との間に間隙を設けることにより、間隙が側壁内の中空部分となり、これに対応した側壁部分が容易に変形する。そして、かかる側壁部分は、変形しても内部が中空で蛍光材料等と直接接触することがないため、変形による伝熱特性等の変化を受け難い。このように、側壁に予め変形し易い部分を設けることにより変形をコントロールすることができ、変形による影響を低減することができる。ひいては、変形により測定対象と蛍光材料との間に温度差が生じることを抑止して、測定精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一実施形態としての蛍光温度センサについて、図1〜図3を参照して説明する。
【0014】
図1を参照して、本実施形態の蛍光温度センサの全体的な構成について説明する。蛍光温度センサは、温度によって異なる蛍光特性を示す蛍光材料1と、蛍光材料1に投光する投光素子としてのLED2と、LED2を駆動する駆動回路3と、蛍光材料1が発する蛍光を受光する受光素子としてのフォトダイオード4とを備える。また、信号処理回路5には電源6が接続されており、電源6により蛍光温度センサの作動に必要な電力が供給される。
【0015】
また、蛍光温度センサは、一端側で蛍光材料1への投光および蛍光材料の蛍光の受光を行う光ファイバ7と備える。光ファイバ7は他端側が分岐して、LED2からの光を蛍光材料1に伝達する投光用光ファイバ7aと、蛍光材料1の蛍光をフォトダイオード4に伝達する受光用光ファイバ7bとなっている。
【0016】
蛍光材料1は、光ファイバ7の一端部を覆うように設けられた温度計測部10の中に、光ファイバ7のコア部7a(図2参照)に対向するように配置される。
【0017】
ここで、図1に図示したように光ファイバ7の端面を蛍光材料1に当接させて構成することで光ファイバ7からの投光および蛍光材料1の蛍光が減衰、拡散することなく伝達することができ、より好ましい形態となる。
【0018】
LED2は、LEDモジュール2a内に配置された、例えば青色系の波長を発光色とする発光ダイオードである。LEDモジュール2aは、投光用光ファイバ7aが接続されるコネクタ部2bを有し、コネクタ部2bを介して接続された投光用光ファイバ7aがLED2の発光部20と対向している。
【0019】
駆動回路3は、制御回路のLED2の発光に必要な駆動電流の大きさおよび発光時間を規定したパルス電流をLED2に印加する。例えば、駆動回路3は、蛍光材料1に対応して、一回の計測におけるLED2の発光時間を1ms〜500msの間のいずれかの時間とする所定の大きさのパルス電流をLED2に印加する。
【0020】
フォトダイオード4は、フォトダイオードモジュール4a内に配置されて、照射された光の光量(輝度)を測定する。フォトダイオードモジュール4aは、受光用光ファイバ7bに接続されるコネクタ部4bを有し、コネクタ部4bを介して接続された受光用光ファイバ7bがフォトダイオード4の受光部(図示せず)と対向している。
【0021】
信号処理回路5は、フォトダイオード4によって測定された蛍光材料1の蛍光の減衰特性、特に蛍光緩和時間を計測する。具体的には、信号処理回路5は、これがあらかじめ備える蛍光緩和時間と蛍光材料1との関係式(データテーブルやマップ等を含む)から、蛍光材料1が存在する温度測定環境の温度を算出して出力する。
【0022】
次に、図2を参照して、温度計測部10の具体的な構成について説明する。図2(a)は、温度計測部10の斜視図であり、図2(b)は、温度計測部10の断面図である。
【0023】
図2(a)および(b)に示すように、温度計測部10は、当該温度センサにより温度を測定する測定対象Xに接触する底部11と、底部11から起立した筒状の側壁12とを備え、底部11および側壁12により構成された有底筒体の底部に蛍光材料1が内蔵される。
【0024】
底部11は、側壁12の径に対して大径円盤状の板体であり、測定対象Xとの接触面積を大きくして、蛍光材料1に測定対象Xの温度を効率良く伝達する。一方、側壁12は、底部11に対して肉厚で、その長さは後述するように保護管13との関係で定められる。底部11および側壁12は、同一の熱伝導体として、同じ金属、或いは熱伝達率や熱膨張係数がほぼ同一の金属材料(熱伝導体)により構成される。そのため、底部11と側壁12とが測定対象Xと同一の温度となって蛍光材料1を取り囲み、測定対象Xの温度を蛍光材料1の温度とすることができる。また、底部11と側壁12とは一体成型されてもよいが、本実施形態では、溶接、半田付け、ろう付け等により接合されてなる。
【0025】
温度計測部10に接続される光ファイバ7には、そのクラッド7cを覆うように保護管13が一定の長さに亘って取り付けられる。本実施形態において、保護管13は、底部11や側壁12と同質の金属材料により構成されているが、これに代えて、例えば、光ファイバ7の外周を覆う自己伸直性を有するスパイラルチューブと、スパイラルチューブの外周を覆うシースとからなる合成樹脂製の材料等により構成されてもよい。
【0026】
保護管13が外挿された光ファイバ7は、そのコア部7dが蛍光材料1に対向するように配置され、保護管13が側壁12の内面に保持されることにより、保護管13および光ファイバ7が温度計測部10に固定される。なお、保護管13および光ファイバ7の固定の際には、必要に応じて接着剤(例えば、熱硬化性樹脂やガラス接着剤等)が用いられる。
【0027】
以上のように構成された温度計測部10において、側壁12は、保護管12を介して蛍光材料1の温度が変化することを抑止する厚さおよび長さを有するように、例えば、底部を1.0mm、側壁を1.5mmとして設計される。
【0028】
そのため、保護管13から蛍光材料1の熱が放熱されることや、保護管13を介して蛍光材料1に測定対象X以外の熱が供給されることを抑止することができ、測定対象Xと蛍光材料1との間に生じる温度差をなくして、測定精度を向上させることができる。
【0029】
尚、本実施形態において、図3(a)に示すように、保護管13を、その端部が蛍光材料1との間に間隙14を有するように配置してもよい。これにより、温度計側部10の底部11を大径としたことによる側壁12の変形の影響を低減することができる。
【0030】
すなわち、温度計側部10の底部11を大径とすることにより、測定対象Xと底部11とが接触時の反発力による側壁12の変形や、測定対象Xや温度計測部10が振動等による側壁12の変形が大きくなる。然るに、保護管13の端部と蛍光材料1との間に間隙14を設けることにより、間隙14が側壁12内の中空部分となり、図3(b)に示すように、これに対応した側壁部分12aを容易に変形させることができる。そして、かかる側壁部分12aは、変形しても内部が中空で蛍光材料1等と直接接触することがないため、変形による伝熱特性等の変化を受けることはない。
【0031】
このように、間隙14を形成することにより、側壁12に予め変形し易い部分12aを設けて変形をコントロールすることができ、変形による熱および伝熱特性の変化の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態の蛍光温度センサの全体構成図。
【図2】温度計測部の具体的構成を示す説明図。
【図3】図2に示す温度計測部の変更例を示す説明図。
【符号の説明】
【0033】
1…蛍光材料、2…LED、3…駆動回路、4…フォトダイオード、5…信号処理回路、6…電源、7…光ファイバ、7a…投光用光ファイバ、7b…受光用光ファイバ、10…温度計測部、11…底部、12…側壁、13…保護管、14…間隙、X…測定対象。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光励起された蛍光材料の蛍光から温度信号を生成する蛍光温度センサにおいて、
前記蛍光材料が内蔵される有底筒状の温度計測部を有し、該温度計測部は、測定対象に接触する大径板状の底部と、該底部から起立した小径筒状の側壁と、該側壁の内面で保持され、前記蛍光材料に端面が対向するように配置される光ファイバの端部外周を覆う保護管とを備え、
少なくとも前記底部と前記側壁とが同一の熱伝導体で構成されることを特徴とする蛍光温度センサ。
【請求項2】
請求項1記載の蛍光温度センサにおいて、
前記側壁は、前記底部より肉厚であって、前記保護管を介して前記蛍光材料の温度が変化することを抑止する長さであることを特徴とする蛍光温度センサ。
【請求項3】
請求項1または2記載の蛍光温度センサにおいて、
前記保護管の端部は、前記蛍光材料との間に間隙を有して配置されることを特徴とする蛍光温度センサ。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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