説明

蛍光粒子およびその製造方法

【課題】新規な蛍光粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】蛍光粒子の製造方法は、溶媒5中のターゲット7にレーザ光線2を照射する方法である。ここで、ターゲットの材質は、Sr2MgSi2O7:Er,Dy、SrAl2O4:Eu,Dy、SrAl2O4:Eu、Sr4Al14O25:Eu,Dy、Ca2Al2SiO7:Ce、CaAl2O4:Eu,Nd、Lu2SiO5:Ce、ZnS:Cu、CaSrS:Bi、CaS:Eu,Tmであることが好ましい。また、液体は、純水、メタノール、エタノール、プロパノール等の極性溶媒、ヘキサン、ベンゼン等の非極性溶媒であることが好ましい。また、液体に添加するものは、ドデシル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド等のカチオン性界面活性剤、アルキルカルボキシベタイン等の両性界面活性剤、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の非イオン性界面活性剤であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な蛍光粒子に関する。
また、本発明は、新規な蛍光粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノメータサイズの粒径を持つナノ粒子はコロイドと呼ばれ古くから研究されてきたが、近年、その光学的特異性から注目を浴びている。作製方法としては、気相法と液相法に大別できるが、バイオメディカル用途等では液体中のナノ粒子を用いることが多いこともあり液相法が適していると考えられる。
【0003】
これまで液相法としては沈降法、ゾルゲル法、ソルボサーマル法、ホットソープ法等の方法がある。これにより量子ドットやドープ型蛍光体が数多く作製され、その応用が検討されているが、溶液中に分散した残光特性を持つナノ粒子はこれまでに作製された例がない。残光特性とは、励起光を遮断した後も長時間蛍光を発している現象を示し、これまでに多くの報告(例えば、非特許文献1,2参照)があるが、すべて結晶や多結晶凝集した固体である。
【0004】
一方、バイオイメージングは、生体内の特定の部位や細胞等をマーカにより染色するものであり、バイオメディカル分野での研究開発を加速したり、早期診断に役立てたりするものである。これは、マーカに紫外光等の励起光を照射すると可視光の蛍光を発する現象を利用しているものである。
【0005】
マーカとしては有機系蛍光色素であるシアニン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素等が用いられている(例えば、非特許文献3参照)が、これらはストークスシフトが小さい、数分で褪色しマーカとして使えなくなる等の問題点があり、近年、量子ドット等のナノ粒子がバイオイメージング用に研究されている。
【0006】
他方、がん治療法の1つとして光線力学的療法(PDT: Photo-Dynamic Therapy)がある(例えば、非特許文献4〜6参照)。これは、ポルフィリン等の光感受性物質をがん細胞に蓄積させ、これに光ファイバーで光線を照射することにより、活性酸素を発生させ、がん細胞を死滅させるものである。
【0007】
これは、抗がん剤が投与された後、生体内の色々な正常細胞で副作用を発生して問題になるのに対して、光感受性物質と光線が存在するがん細胞の部分のみで細胞が死滅する画期的な方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】村山義男、日経サイエンス、5月1日、22-29 (1996).
【非特許文献2】T. Matsuzawa, et al. J. Electrochem. Soc. 143 (1996) 2670.
【非特許文献3】The Handbook-A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies, Tenth Edition: Molecular Probes Invitrogen detection technologies
【非特許文献4】T. J. Dougherty, et al: J. Natl. Cancer Inst. 90 (1998) 889.
【非特許文献5】W. M. Sharman, et al: J. E. Drug Discovery Today 4 (1999) 507.
【非特許文献6】S. B. Brown: Lancet Oncol, 5 (2004) 497.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したように、量子ドットやドープ型蛍光体が数多く作製され、その応用が検討されているが、溶液中に分散した残光特性を持つナノ粒子はこれまでに作製された例がない。これまでに多くの報告があるが、すべて結晶や多結晶凝集した固体である。
【0010】
また、上述した有機色素や量子ドット等は残光特性を有しないため、マーカとして使用する場合は高輝度の紫外光等の励起光を照射し続ける必要がある。この時、マーカに紫外光を照射する際には、生体にも紫外光が照射されてしまう。高輝度の紫外光は細胞毒性があり、生体に多くの変化を発生させ、生体本来の状態をイメージングすることができない可能性があるという問題点がある。
【0011】
また、上述した有機色素や量子ドット等は残光特性を有しないため、マーカとして使用する場合は励起光を照射し続ける必要がある。この時、マーカに励起光を照射する際には、生体にも励起光が照射されてしまう。生体内にはクロロフィルやフラビン等の蛍光を示す物質が存在し、上記蛍光物質をマーカとして使用する際には、これらの物質も一緒に発光する自家蛍光が発生して鮮明なイメージングをすることができない問題点がある。
【0012】
また、上述した光線力学的療法(PDT: Photo-Dynamic Therapy)では光ファイバーが届く部分のがん細胞しか治療できず、適応範囲が狭いという問題点がある。
そのため、このような課題を解決する、新規な蛍光粒子およびその製造方法の開発が望まれている。
【0013】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な蛍光粒子を提供することを目的とする。
また、本発明は、新規な蛍光粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の蛍光粒子の製造方法は、液体中のターゲットにレーザ光を照射する、蛍光粒子の製造方法において、前記ターゲットが残光特性を有する蛍光材料からなる方法である。
【0015】
ここで、限定されるわけではないが、ターゲットの材質は、Sr2MgSi2O7:Er,Dy、SrAl2O4:Eu,Dy、SrAl2O4:Eu、Sr4Al14O25:Eu,Dy、Ca2Al2SiO7:Ce、CaAl2O4:Eu,Nd、Lu2SiO5:Ce、ZnS:Cu、CaSrS:Bi、CaS:Eu,Tmのうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせであることが好ましい。また、限定されるわけではないが、液体は、純水、メタノール、エタノール、プロパノール等の極性溶媒、ヘキサン、ベンゼン等の非極性溶媒のうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせであることが好ましい。また、限定されるわけではないが、液体に添加するものは、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等のアニオン性界面活性剤、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)等のカチオン性界面活性剤、アルキルカルボキシベタイン等の両性界面活性剤、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)等の非イオン性界面活性剤のうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせであることが好ましい。
【0016】
本発明の蛍光粒子は、残光特性を有する。
【0017】
ここで、限定されるわけではないが、蛍光粒子の材質は、Sr2MgSi2O7:Er,Dy、SrAl2O4:Eu,Dy、SrAl2O4:Eu、Sr4Al14O25:Eu,Dy、Ca2Al2SiO7:Ce、CaAl2O4:Eu,Nd、Lu2SiO5:Ce、ZnS:Cu、CaSrS:Bi、CaS:Eu,Tmのうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせであることが好ましい。また、限定されるわけではないが、平均粒子径は5〜200nmの範囲内にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、バイオイメージングに用いる蛍光粒子であって、 前記蛍光粒子を含む溶液に励起光を照射して、前記蛍光粒子から可視光を発光させ、可視光を発光する溶液を生体内に投与して、目的部位に前記蛍光粒子を取り込ませることが好ましい。また、限定されるわけではないが、がん治療に用いる蛍光粒子であって、生体内に光感受性物質を投与して、がん細胞に前記光感受性物質を取り込ませ、前記蛍光粒子を含む溶液に励起光を照射して前記蛍光粒子から可視光を発光させ、可視光で発光する溶液を生体内に投与して前記がん細胞に前記蛍光粒子を取り込ませ、前記がん細胞に蓄積した前記光感受性物質と前記蛍光粒子を用い、光化学反応により活性酸素を発生させ、前記がん細胞を死滅させることが好ましい。また、限定されるわけではないが、バイオイメージングに用いる蛍光粒子であって、抗原を有する組織に対して一次抗体を接合し、前記蛍光粒子を接合した二次抗体を前記一次抗体に接合し、前記組織に励起光を照射した後に前記励起光を遮断し、前記組織の自家蛍光が消えた後に、前記蛍光粒子の発光を観察することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0019】
本発明の蛍光粒子の製造方法は、液体中のターゲットにレーザ光を照射する、蛍光粒子の製造方法において、前記ターゲットが残光特性を有する蛍光材料からなるので、新規な蛍光粒子の製造方法を提供することができる。
【0020】
本発明の蛍光粒子は残光特性を有するので、新規な蛍光粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例において用いた装置の概略図である。
【図2】作製した蛍光粒子のSEM像を示す図である。
【図3】蛍光スペクトル(励起波長280nm)を示す図である。
【図4】蛍光強度の径時変化のデータ(励起波長280nm、蛍光波長465nm)を示す図である。
【図5】残光特性を有する蛍光ナノ粒子を用いる、自家蛍光のないバイオイメージングを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、蛍光粒子およびその製造方法にかかる発明を実施するための形態について説明する。
【0023】
蛍光粒子の製造方法について説明する。
蛍光粒子の製造方法は、液体中のターゲットにレーザ光を照射する、蛍光粒子の製造方法において、前記ターゲットが残光特性を有する蛍光材料からなる方法である。
【0024】
ターゲットの材質としては、Sr2MgSi2O7:Er,Dy、SrAl2O4:Eu,Dy、SrAl2O4:Eu、Sr4Al14O25:Eu,Dy、Ca2Al2SiO7:Ce、CaAl2O4:Eu,Nd、Lu2SiO5:Ce、ZnS:Cu、CaSrS:Bi、CaS:Eu,Tm等、残光特性を有する蛍光材料のうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせを採用することができる。
【0025】
レーザとしては、固体レーザ、ガスレーザ、半導体レーザ等を採用することができる。
【0026】
用いるレーザの波長の基準は、ターゲットに対して吸収を持つものがアブレーションをしやすいため、一般に、400nm以下の紫外光をもちいるが、十分に高いエネルギー密度を有するものであれば多光子吸収等による吸収もあるため、長波長のレーザ光でもアブレーションが可能である。また、物質の吸収端は物質の種類によって異なるため、最適な波長は用いるターゲットの種類により異なる。
【0027】
用いるレーザ強度は、アブレーションを生じる閾値以上でなくてはならない。この値はターゲットの種類、および、ターゲットの作製方法、溶媒の種類によって変化するため各系で最適なものとすることが望ましい。
【0028】
レーザの発振方式はパルス発振だけでなく、十分な出力を有すれば連続発振でも利用することができる。
用いるパルス幅は、アブレーションを生じる閾値に大きな影響を与える。これは、パルス幅を変えることにより、同じエネルギーのパルスでもピーク値(尖頭値)が変わるためであり、パルス幅を狭くすると、ピーク値は高くなる。
【0029】
繰り返し周波数は、高いほど単位時間あたりに作製できるナノ粒子の量が増えるため、高い程望ましい。
【0030】
焦点位置での光線の直径は、アブレーションのためのエネルギー密度と密接な関係がある。1パルス当たりのエネルギーが同じレーザでも、焦点位置での光線の直径が小さい程、エネルギー密度は大きくなる。また、焦点位置での光線の直径が大きい程、エネルギー密度は小さくなる。これにより、焦点位置での光線の直径は、アブレーションの閾値を超えるか超えないかが決定されるパラメータとなる。
【0031】
上記焦点位置での光線の直径は、レーザより出射される光線の直径が一定の場合、配置するレンズの焦点距離と大きく関連する。焦点距離が大きくなると焦点位置での光線の直径は大きくなり、焦点距離が小さくなると焦点位置での光線の直径も小さくなる。この値は幾何光学的に算出できる。
【0032】
レーザの照射時間は長い程、作製できるナノ粒子の量が増える。照射時間とナノ粒子の生成量はほぼ比例関係にあり、時間を長くすることにより多くのナノ粒子が得られる。
【0033】
液体としては、純水、メタノール、エタノール、プロパノール等の極性溶媒や、ヘキサン、ベンゼン等の非極性溶媒のうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0034】
液体に添加するものとしては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等のアニオン性界面活性剤、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)等のカチオン性界面活性剤、アルキルカルボキシベタイン等の両性界面活性剤、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)等の非イオン性界面活性剤等のうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせを採用することができる。
【0035】
これらの添加物を入れることにより、蛍光強度が増加すると同時に単位時間当たりの蛍光強度の減衰が小さくなり、残光特性が向上する。また、適切な添加剤を選択することにより分散性も向上する。
【0036】
蛍光粒子について説明する。
蛍光粒子は、残光特性を有するものである。
【0037】
蛍光粒子の材質としては、Sr2MgSi2O7:Er,Dy、SrAl2O4:Eu,Dy、SrAl2O4:Eu、Sr4Al14O25:Eu,Dy、Ca2Al2SiO7:Ce、CaAl2O4:Eu,Nd、Lu2SiO5:Ce、ZnS:Cu、CaSrS:Bi、CaS:Eu,Tm等、残光特性を有する蛍光材料のうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせを採用することができる。
【0038】
蛍光粒子の形状は、球、楕円体、棒状などがある。
【0039】
蛍光粒子の平均粒子径は5〜200nmの範囲内にあることが好ましい。生体内では、細網内皮系組織のクッパー細胞等により、200nm以上の微粒子は貪食され肝臓や脾臓に蓄積されてしまう。このため生体内で微粒子を用いる場合は200nm以下にする必要がある。また、5nm以下の微粒子は腎臓で体外に排出されてしまう。このため、生体内で微粒子を用いる場合は5nm以上にする必要がある。これらはEPR(Enhanced Permeability and Retention effect)として知られている。本方法で得られた粒子は粒径の分布をもつが、必要に応じて、遠心分離や透析等により所望の粒径のみを取り出して利用することが可能である。
【0040】
蛍光粒子の残光特性は、時間-蛍光強度の両対数グラフの傾きで評価でき、通常、負の値を有する。この値は小さい程、長時間の残光を示していることになる。本発明では、界面活性剤の添加により著しく改善し、各種用途が広がる。
【0041】
蛍光粒子は、以下のような用途に用いることができる。
バイオイメージング方法への用途について説明する。本方法で作製した蛍光粒子を含む溶液に紫外光等の強い励起光を十分な時間照射する。これにより、残光特性を有する蛍光粒子は、励起光である紫外光を照射しなくても可視光を発し続ける。この可視光で発光している溶液を生体内に投与する。投与の方法は径呼吸器投与、経口投与、口腔・舌下・鼻空内投与、皮膚を介したTTS(transdermal therapeutic system)、皮下注射、筋肉注射、局所投与等がある。この際、目的部位への受動ターゲティングによる薬物輸送システム(DDS)の他に、モノクローナル抗体等の抗体やペプチド、磁性ナノ粒子等を用いた能動ターゲッティングも用いることができる。これにより、細胞毒性を有する紫外光励起をしなくてもそのままバイオイメージングが可能である。
【0042】
また、残光特性を有する蛍光粒子を用いて自家蛍光のないバイオイメージングを行うことができる。例えば、免疫組織化学染色法を利用することができる。すなちわ、抗原を有する組織に対して一次抗体を接合し、前記蛍光粒子を接合した二次抗体を前記一次抗体に接合し、前記組織に励起光を照射した後に前記励起光を遮断し、前記組織の自家蛍光が消えた後に前記蛍光粒子の発光を観察することができる。励起光を遮断すると、組織の自家蛍光は数n秒程度で発光が消えてしまうのに対して、本発明の残光特性を有する蛍光粒子は数秒間発光し続ける。このため、数秒後に観察すると鮮明なバイオイメージング画像観察ができる。なお、ここでは免疫組織化学染色法の例を説明したが、この方法に限定するものではなく、他の一般的なイメージング方法に用いることもできる。
【0043】
がん治療方法への用途について説明する。先ず、生体内にポルフィリン等の光感受性物質を投与する。がん細胞は活発に分裂しているため、ポルフィリン等は受動的に取り込まれる傾向がある。次に、本方法で作製した蛍光粒子を含む溶液に紫外光等の強い励起光を十分な時間照射する。これにより、残光特性を有する蛍光粒子は、励起光である紫外光を照射しなくても可視光を発し続ける。この可視光で発光している溶液を生体内に投与する。投与の方法は径呼吸器投与、経口投与、口腔・舌下・鼻空内投与、皮膚を介したTTS(transdermal therapeutic system)、皮下注射、筋肉注射、局所投与等がある。蛍光粒子は活発に分裂しているがん細胞への受動に取り込まれる傾向がある。また、モノクローナル抗体等の抗体やペプチド、磁性ナノ粒子等を用いた能動ターゲッティングを用いても、がん細胞に蛍光粒子を効果的に薬物輸送できる。これにより、腫瘍組織であるがん細胞に光感受性物質と光を発する残光特性蛍光粒子を蓄積し、ここで光化学反応により活性酸素が発生し、がん細胞が死滅する。
【0044】
通常、光感受性物質の吸収波長と残光特性蛍光粒子の蛍光波長は一致する組み合わせを用いるが、一致しない場合は、色変換材料をあわせて用いることができる。例えばこれは、光感受性物質の吸収波長が赤色で、残光特性蛍光粒子の蛍光波長が青色の場合、青色の光を励起光として赤色を発する色変換材料を用いることにより活性酸素が発生する。この色変換材料とはカズン蛍光体(CaAlSiN3:Eu)、ニトリドシリケート(Eu2Si5N8、Ba2Si5N8:Eu)、硫化物(CaS:Eu2+、SrS:Eu2+)、YAG:Ce3+ (Y3Al5O12)、ケイ酸塩(Sr2SiO4:Eu2+)、複合チオメタレート(CaGaS4:Eu3+)、αサイアロン(Ca(Si,Al)12(N,O)16:Eu)等である。これらが水溶性の場合はシリカ等の無機物やPEGのような有機物による耐水コーティングが必要となる。
【0045】
なお、本発明は上述の発明を実施するための形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0046】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0047】
<試料の調製>
【0048】
a) ターゲットの作製
ターゲット用の原料粉末として、Sr2MgSi2O7:Eu2+,Dy3+(化成オプトニクス(株)社製、P170NB)を用い、これをカーボン製の容器に入れ上下から加圧しながら電圧を印可するスパークプラズマ焼結法(SPS)で成形しターゲットを作製した。スパークプラズマ焼結法(SPS)の条件は温度1100℃、圧力50Mpa、焼結時間10分間で行った。ペレットサイズは直径15mm、厚さ5mmとした。)
【0049】
b) レーザアブレーション
実施例1
図1の装置概略図においてレーザ1から発振した光線2を所望の位置に配置したミラー3で折り返し、焦点距離100mmの平凸レンズ4で直径1mmに集光する。この焦点位置に、溶媒を入れた石英セル内のターゲット7を配置することにより液相レーザアブレーションを実施する。集光されたパルスレーザ光は高いエネルギーを有しており、ターゲット7からナノ粒子を作製することができる。溶媒は純水を使用し、添加剤としてはポリエチレングリコール(関東化学社製、ポリエチレングリコール2000、分子量2000)を1g/リットル添加した。レーザアブレーションは室温で実施し、溶媒の温度も室温である。照射時間は3時間であったが、長くするとこによりナノ粒子の作製量を増やすことができる。用いたレーザはNd:YAG 3倍波固体レーザ(EXPLA社製PL2143C, パルス発振, パルス幅25ps, 発振波長355nm, 繰り返し周波数10Hz, 60mW, 6mJ/pulse)である。
【0050】
実施例2
ポリエチレングリコールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様である。
【0051】
実施例3
レーザとして、KrFエキシマーレーザ(Lambda Physik社製 LPX, パルス発振, パルス幅20ns, 発振波長248nm, 繰り返し周波数10Hz, 2W, 200mJ/pulse)を用いたこと以外は、実施例1と同様である。
【0052】
実施例4
レーザとして、Nd:YAG 3倍波固体レーザ(JDSU社製 M210S, パルス発振, パルス幅20ns, 発振波長248nm, 繰り返し周波数10kHz, 5W, 0.5mJ/pulse) を用いたこと以外は、実施例1と同様である。
【0053】
<評価方法>
【0054】
a) 形状、平均粒子径
粒子の形状とサイズ等は、作製したナノ粒子を含む溶媒を乾燥させて得たものを走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ、S-4800)で測定した。
【0055】
b) 蛍光スペクトル
蛍光スペクトルは、作製したナノ粒子を含む溶媒を石英セルに入れて、蛍光分光光度計(日立ハイテクノロジーズ、F-7000)で測定した。
【0056】
c) 蛍光残光特性
蛍光残光特性は、作製したナノ粒子を含む溶媒を石英セルに入れて、蛍光分光光度計(日立ハイテクノロジーズ、F-7000)で測定した。)
【0057】
<評価結果>
【0058】
a) 形状、平均粒子径
一般に、レーザアブレーション法ではサイズ分布を有する、粒子が作製される。実施例1では、図2に示すように数〜数100nmのサイズを有する粒子が形成された。平均粒子径はおよそ100nmであった。また、形状は主に球形であった。他の実施例2〜4でもほぼ同様のものが作製された。
【0059】
b) 蛍光スペクトル
溶液内に分散した粒子はターゲットと同じ465nm付近にピークを持つEu2+の5d→4f遷移に起因するブロードな青色の発光を示した。作製した粒子はターゲットと同様の組成を維持しているものと思われる。
【0060】
レーザアブレーションの際に界面活性剤(ポリエチレングリコール)が存在する場合(実施例1)としない場合(実施例2)の蛍光スペクトル(励起波長280nm)のデータを図3に示す。界面活性剤を入れることにより、界面活性剤がナノ粒子をコートしているものと思われる。これによりナノ粒子表面の表面欠陥を保護し、欠陥準位が消失することにより蛍光特性が改善するものと思われる。
【0061】
c) 蛍光残光特性
レーザアブレーションの際に界面活性剤(ポリエチレングリコール)が存在する場合(実施例1)としない場合(実施例2)の蛍光強度の径時変化のデータ(励起波長280nm、蛍光波長465nm)を図4に示す。界面活性剤を入れることにより、界面活性剤がナノ粒子をコートしているものと思われる。これによりナノ粒子表面の表面欠陥を保護し、欠陥準位が消失することにより残光特性が改善するものと思われる。
【0062】
実施例5
上記方法で作製した残光特性を有する蛍光ナノ粒子を用いる、自家蛍光のないバイオイメージングについて、図5を用いて説明する。
ホルマリン固定パラフィン包埋した観察する組織をミクロトーム等で3〜5μm程度の組織切片8にする。これを58℃程度のオーブンで加熱し、キシレンに浸した後、無水エタノールに浸してから水洗し、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に浸してパラフィンを除去する。組織が染色されにくい場合は酵素回復、マイクロウェーブ回復等を行い抗原(タンパク質)9の露出を行う。これに対して希釈した一次抗体10を100μl滴下して組織切片8を覆い、加湿チャンバー中で37℃,60分間インキュベートして、PBSで洗浄した後、水洗する。次に、残光特性を有する蛍光ナノ粒子11を接合した二次抗体12を希釈し、100μl組織切片8に滴下して覆い、加湿チャンバー中で37℃,60分インキュベートして、PBS槽に浸す。このサンプルの組織切片8を蛍光顕微鏡で観察する。
【0063】
通常、励起光を照射すると組織切片8は自家蛍光のために発光し、蛍光マーカの発光が確認できない。しかしながら、励起光を遮断すると、組織切片8の自家蛍光、および、通常の蛍光マーカは数n秒程度で発光が消えてしまうのに対して、本発明の残光特性を有する蛍光ナノ粒子11は数秒間発光し続ける。このため、数秒後に観察すると鮮明なバイオイメージング画像観察が可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1‥‥レーザ、2‥‥光線、3‥‥ミラー、4‥‥レンズ、5‥‥溶媒、6‥‥ナノ粒子、7‥‥ターゲット、8‥‥組織切片、9‥‥抗原(タンパク質)、10‥‥一次抗体、11‥‥蛍光ナノ粒子、12‥‥二次抗体、13‥‥スライドグラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中のターゲットにレーザ光を照射する、蛍光粒子の製造方法において、
前記ターゲットが、残光特性を有する蛍光材料からなる
ことを特徴とする蛍光粒子の製造方法。
【請求項2】
ターゲットの材質は、Sr2MgSi2O7:Er,Dy、SrAl2O4:Eu,Dy、SrAl2O4:Eu、Sr4Al14O25:Eu,Dy、Ca2Al2SiO7:Ce、CaAl2O4:Eu,Nd、Lu2SiO5:Ce、ZnS:Cu、CaSrS:Bi、CaS:Eu,Tmのうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせである
ことを特徴とする請求項1記載の蛍光粒子の製造方法。
【請求項3】
ターゲットの材質は、Sr2MgSi2O7:Er,Dyである
ことを特徴とする請求項1記載の蛍光粒子の製造方法。
【請求項4】
液体は、純水、メタノール、エタノール、プロパノール等の極性溶媒、ヘキサン、ベンゼン等の非極性溶媒のうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせである
ことを特徴とする請求項1記載の蛍光粒子の製造方法。
【請求項5】
液体は、純水である
ことを特徴とする請求項1記載の蛍光粒子の製造方法。
【請求項6】
液体に添加するものは、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等のアニオン性界面活性剤、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)等のカチオン性界面活性剤、アルキルカルボキシベタイン等の両性界面活性剤、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)等の非イオン性界面活性剤のうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせである
ことを特徴とする請求項1記載の蛍光粒子の製造方法。
【請求項7】
液体に添加するものは、ポリエチレングリコール(PEG)である
ことを特徴とする請求項1記載の蛍光粒子の製造方法。
【請求項8】
ターゲットの材質は、Sr2MgSi2O7:Er,Dyであり、
液体は、純水である
ことを特徴とする請求項1記載の蛍光粒子の製造方法。
【請求項9】
ターゲットの材質は、Sr2MgSi2O7:Er,Dyであり、
液体は、純水であり、
液体に添加するものは、ポリエチレングリコール(PEG)である
ことを特徴とする請求項1記載の蛍光粒子の製造方法。
【請求項10】
残光特性を有する
ことを特徴とする蛍光粒子。
【請求項11】
蛍光粒子の材質は、Sr2MgSi2O7:Er,Dy、SrAl2O4:Eu,Dy、SrAl2O4:Eu、Sr4Al14O25:Eu,Dy、Ca2Al2SiO7:Ce、CaAl2O4:Eu,Nd、Lu2SiO5:Ce、ZnS:Cu、CaSrS:Bi、CaS:Eu,Tmのうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせである
ことを特徴とする請求項10記載の蛍光粒子。
【請求項12】
蛍光粒子の材質は、Sr2MgSi2O7:Er,Dyである
ことを特徴とする請求項10記載の蛍光粒子。
【請求項13】
平均粒子径は、5〜200nmの範囲内にある
ことを特徴とする請求項10記載の蛍光粒子。
【請求項14】
蛍光粒子の材質は、Sr2MgSi2O7:Er,Dyであり、
平均粒子径は、5〜200nmの範囲内にある
ことを特徴とする請求項10記載の蛍光粒子。
【請求項15】
バイオイメージングに用いる蛍光粒子であって、
前記蛍光粒子を含む溶液に励起光を照射して、前記蛍光粒子から可視光を発光させ、
可視光を発光する溶液を生体内に投与して、目的部位に前記蛍光粒子を取り込ませる
ことを特徴とする請求項10記載の蛍光粒子。
【請求項16】
がん治療に用いる蛍光粒子であって、
生体内に光感受性物質を投与して、がん細胞に前記光感受性物質を取り込ませ、
前記蛍光粒子を含む溶液に励起光を照射して、前記蛍光粒子から可視光を発光させ、
可視光で発光する溶液を生体内に投与して、前記がん細胞に前記蛍光粒子を取り込ませ、
前記がん細胞に蓄積した前記光感受性物質と前記蛍光粒子を用い、光化学反応により活性酸素を発生させ、前記がん細胞を死滅させる
ことを特徴とする請求項10記載の蛍光粒子。
【請求項17】
バイオイメージングに用いる蛍光粒子であって、
抗原を有する組織に対して一次抗体を接合し、
前記蛍光粒子を接合した二次抗体を、前記一次抗体に接合し、
前記組織に励起光を照射した後に前記励起光を遮断し、
前記組織の自家蛍光が消えた後に、前記蛍光粒子の発光を観察する
ことを特徴とする請求項10記載の蛍光粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−242059(P2010−242059A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1556(P2010−1556)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】