説明

蟹の品質判別方法

【課題】蟹の殻内の身入り状態に対して高い相関を示す指標を用いて、蟹の品質を非破壊で正確且つ安定的に判別可能な蟹の品質判別方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、殻の外側から蟹に向かって照射した近赤外線を含む判別光の吸収された度合によって水分含有率を検出し、この水分含有率が低い程身入り状態が良い特性を利用して殻内の蟹肉の身入り状態を判定することにより蟹の品質を非破壊で判別し、判別光が600乃至1100ナノメートルの波長成分よりなり、蟹の胸又は脚に判別光を照射して蟹の水分含有率を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蟹の品質を非破壊で判別する蟹の品質判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本近海で捕獲される蟹は、漁業関係者がその外観や触れた感覚等から品質を判別し、品質に応じて選別を行っている。例えば、ズワイガニは、最終脱皮から所定期間を経過して甲羅(殻)が硬く殻内の蟹肉(肉)の身入り状態が良い(殻の内部に蟹肉が良く詰った状態で殻の内部における蟹肉の充填率が高い)高品質の硬ガニと、最終脱皮から所定期間が経過しておらず甲羅が軟らかく殻内の蟹肉の身入り状態が悪い低品質の水ガニとに大別され、この判別を漁業関係者等が行っている。
【0003】
上記判別は、例えば、蟹の脚を途中から切断して殻内の身入り状態を目視する等、蟹を破壊すれば比較的容易に行うことが可能であるが、蟹を破壊してしまうとその蟹が売り物にならないことがあり、通常は蟹を破壊すること無く行う必要がある。このため蟹の品質判別の正確さは漁業関係者等の経験に依るところが大きく、蟹の品質を非破壊で誰にでも正確に判別可能な蟹の品質判別方法が切望されていた。
【0004】
この要望に対して、上記硬ガニと水ガニとで水分含有率や、色調が異なることを見出し、この特性から蟹の品質を判別できる可能性があることを示唆した非特許文献1に示す研究結果が公知になっている。
【非特許文献1】原田、大谷、「ズワイガニの硬ガニおよび水ガニの品質評価手法に関する検討」、日本水産学会誌、社団法人日本水産学会2006年11月、第72巻、第6号、p.1103−1107
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記文献では、既に選別された硬ガニと水ガニとで、水分含有率が異なる点には言及しているが、水分含有率と殻内の蟹肉の身入り状態とにどのような相関があるのかを具体的に検討しておらず、例えば、前述の硬ガニの中でも品質の違いがあるが、この品質の違いを判断することは困難である。くわえて、水分含有率を検出するために、殻内から蟹肉を実際に取出して乾燥させており、蟹の品質を非破壊で判別するという観点から課題がある。
【0006】
また、色調についても、既に選別された硬ガニと水ガニとで、色調値が異なる点には言及しているが、具体的に色調値と殻内の蟹肉の身入り状態とにどのような相関があるのかについては言及していない。くわえて、色調値の測定は、太陽光や蛍光灯の影響を受け易く、精度の高い測定を行うことが困難な場合がある。
【0007】
すなわち、上記文献は、蟹の色調や水分含有率が蟹の品質を判別する指標になる可能性がある旨は言及しているが、具体的にどのような手段により蟹の品質を判別するのかについては言及していない。
本発明は、上記課題を解決し、蟹の殻内の身入り状態に対して高い相関を示す指標を用いて、蟹の品質を非破壊で正確且つ安定的に判別可能な蟹の品質判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、第1に、殻の外側から蟹に向かって照射した近赤外線を含む判別光の吸収された度合によって水分含有率を検出し、この水分含有率が低い程身入り状態が良い特性を利用して殻内の蟹肉の身入り状態を判定することにより蟹の品質を非破壊で判別することを特徴としている。
【0009】
第2に、判別光が600乃至1100ナノメートルの波長成分よりなることを特徴としている。
【0010】
第3に、蟹の胸又は脚に判別光を照射して蟹の水分含有率を検出することを特徴としている。
【0011】
第4に、胸の身入り状態から脚の身入り状態又は脚の身入り状態から胸の身入り状態を検出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
以上のように構成される本発明の蟹の品質判別方法によれば、蟹の殻内の身入り状態に対して相関が高い水分含有率を、判別光を照射することによって検出して蟹の品質を判定するため、蟹の品質を非破壊で正確且つ安定的に判別できるという効果がある。
【0013】
また、蟹の胸又は脚に判別光を照射して蟹の水分含有率を検出することにより、より正確に、蟹の品質を判定できるという効果がある。
【0014】
さらに、胸の身入り状態から脚の身入り状態又は脚の身入り状態から胸の身入り状態を検出することにより、2箇所の身入り状態を1箇所の水分含有率を検出することにより、判定可能であるため、作業性が向上するという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本願発明者らは、蟹の品質を殻内の身入り状態から判別するにあたり、蟹の水分含有率が低くなるに従って蟹の殻内の身入り状態が良好になることを見出し、近赤外線を多く含む判別光を照射することによって蟹の水分含有率を検出して蟹の品質を判別する蟹の品質判別方法を発明した。以下、蟹の身入り状態と蟹の水分含有率との相関関係について説明し、続いて、水分含有率の測定手段について説明する。
【0016】
まず、図1乃至2に基づき、蟹の水分含有率と身入り状態との相関関係について説明する。
図1は、仰向けにした状態のズワイガニの全体平面図である。本願発明者らは、蟹としてズワイガニを用いた。ズワイガニは、一般の蟹と略同一の構造を有し、頭胸部(胴体)1から延びる左右一対の鋏脚(脚,鉗脚)2,2と、この鋏脚2に最も近い歩脚である左右一対の第1歩脚(脚,歩脚)3,3と、第1歩脚3に近く第1歩脚3に比べて鋏脚2から遠ざかる左右一対の第2歩脚(脚,歩脚)4,4と、第2歩脚4に近く第1歩脚4に比べて鋏脚2から遠ざかる左右一対の第3歩脚(脚,歩脚)6,6と、第3歩脚6に近く鋏脚2から最も遠く且つ他の脚2,3,4,6に比べて長さが短い左右一対の第4歩脚(脚,歩脚)7,7とを備えている。
【0017】
上記各歩脚3,4,6,7は、基端(胴体1側端)側に近い方から順に基節(歩脚基節)Aと、座節(歩脚座節)Bと、長節(歩脚長節)Cと、腕節(歩脚腕節)Dと、前節(歩脚前節)Eと、指節(歩脚指節)Fとを有している。歩脚3,4,6,7中で一番蟹肉量の多い長節Cは、基節Aに対して折れ曲り可能で、前節Eは長節Cに対して折れ曲り可能で、指節Fは前節Eに対して折れ曲り可能である。
【0018】
上記頭胸部1は、歩脚3,4,6,7による歩行の際に歩行面と対向する側である腹側における左右の各第1歩脚3,3及び第2歩脚4,4の付根部箇所及び付根箇所近傍に胸部(胸)8を有しており、この左右の胸部8,8からも多くの蟹肉を採取することが可能である。くわえて、上記鋏脚2も、歩脚3,4,6,7と同様に複数の節により構成され、中途箇所に折れ曲り可能な箇所を有する。ちなみに、蟹肉は生の状態では半液状であり、加熱処理によって凝固して固体化する。
【0019】
本願発明者らは、身入り状態の異なるズワイガニを用意し、各ズワイガニに対して、冷凍状態で、左右の第1歩脚3,3及び第2歩脚4,4の各長節Cにおける基端から先端に至る中央部を測定箇所M(図1参照)とし、この測定箇所Mを切断し、その切断面を観察するとともに、上記測定箇所M付近の蟹肉を採取してその水分含有率を測定した。ちなみに、蟹肉が生の状態では半液状であるため、生の状態で脚2,3,4,6,7を切断すると、蟹肉が漏れ出して正確な水分含有率の測定ができない。このため、ズワイガニを冷凍させている。
【0020】
水分含有率の測定は、従来公知の常圧加熱乾燥法(常圧105℃乾燥法)を用いることにより行う。具体的には、常圧加熱乾燥法による処理前の水分を含んだ状態の蟹肉の重量を湿重量Wとし、上記常圧加熱乾燥法による処理後の蟹肉の重量を乾重量Wとした場合、水分含有率Xは下記式によって求められる。
【0021】

【0022】
なお、本実験では、便宜上、水分含有率Xに代えて下記式によって定義される固形分Yを用いた。
【0023】

【0024】
上記実験の結果、固形分Yの値が高く、水分含有率Xが低い程、身入り状態が良くなることが観察された。そして、ズワイガニはケガニ等の十脚目の短尾類に属する蟹であるが、ズワイガニの体の構造は十脚目の短尾類に属する一般的な蟹が有する体の構造と変わりがないため、ズワイガニ以外の十脚目の短尾類に属する蟹も上記特性を有するものと推定され、実際に、他の種類の十脚目短尾類に属する蟹でも固形分Yの値が高い程身入り状態が良くなる現象が観察された。さらに、ズワイガニは、タラバガニやハナサキガニ等の十脚目異尾類に属する蟹と比較しても、その体の構造に大きな違いがあるわけでは無いため、十脚目異尾類に属する蟹も、上記特性を有するものと考えられる。すなわち、上記特性は、蟹全般が有している特性であると推定される。
【0025】
図2は、ズワイガニの脚の固形分と胸の固形分との相関関係を示すグラフである。本願発明者らは、大きさや状態の異なる複数の冷凍状態のズワイガニに対して、左及び右の胸8における固形分Yの値と、第1歩脚3及び第2歩脚4の上記測定箇所Mにおける固形分Yの値とを常圧加熱乾燥法によって測定した。
【0026】
具体的には、左側の胸8内の蟹肉における固形分Yの値を測定するとともに、その蟹の左側の第1歩脚3及び第2歩脚4の測定箇所Mの蟹肉における測定された固形分Yの平均値を測定して、「カニ胸の固形分Y」と「カニ脚の固形分」の組合せを1セット取得する一方で、右側の胸8内の蟹肉における固形分Yの値を測定するとともにその蟹の右側の第1歩脚3及び第2歩脚4の測定箇所Mの蟹肉における測定された固形分Yの平均値を測定して、「カニ胸の固形分Y」と「カニ脚の固形分」の組合せを1セット取得する。すなわち、1尾のズワイガニに対して、「カニ胸の固形分Y」と「カニ脚の固形分」の値の組合せデータを2セット取得し、この測定を複数のズワイガニに対して行った。
【0027】
その結果は、同図に示すように、第1歩脚3及び第2歩脚4の固形分Yの値に対して胸部8の固形分Yの値が全体的に少し高くはなったものの、第1歩脚3及び第2歩脚4と胸部8の固形分Yの値は略同一であり、同一個体の蟹では、第1歩脚3及び第2歩脚4の固形分Yと胸8の固形分Yの値に高い相関関係があることが示された。また、第1歩脚3及び第2歩脚4の構造は他の脚2,6,7と略同じであるため、他の脚2,6,7と胸部8の固形分Yの値も略一致し、高い相関関係があることが推測される。くわえて、ズワイガニの体の構造は前述したように一般的な蟹と変わらないため、この特性は他の蟹でも同様であるものと考えられる。
【0028】
ちなみに、同図の例では、胸8から蟹肉部分のみを取出すことができず、水分の含有量の少ない殻が付いた状態で、蟹肉の固形分Yの値を常圧加熱乾燥法により測定したため、脚3,4部分よりも胸8部分の方が蟹肉の固形分Yの値が高くなったものと考えられ、脚2,3,4,6,7と胸8の固形分Yの値は略一致することが推測される。
【0029】
上記事実から、本願発明者らは、蟹の品質を示す指標として水分含有率Xを用いるとともに、胸8の水分含有率Xを測定することにより脚2,3,4,6,7の水分含有率Xを検出する一方で、脚2,3,4,6,7の水分含有率Xを測定することにより胸8の水分含有率Xを検出する蟹の品質判別方法を見出した。
【0030】
次に、判別光による蟹の水分含有率Xの測定手段について説明する。
蟹の水分含有率Xは、前述した常圧加熱乾燥法により測定可能であるが、この測定法は、蟹肉を殻から取出す必要があることから蟹の品質を非破壊では判別できない他、測定対象物を加熱処理等する必要があり測定に時間と手間が掛かることから実用性に乏しいという欠点がある。くわえて、生きた状態又は生きた状態に近い状態である生鮮状態の蟹肉は半液状であり、そのような蟹肉の固形分Yの値を常圧加熱乾燥法により測定するためには、前述したように蟹を冷凍処理する必要があるという欠点もある。このため、本発明では、600〜1100nmの波長域の光から構成され近赤外線を多く含む判別光を用いて、冷凍処理も加熱処置もしない生状態の蟹の固形分Yを検出測定する。
【0031】
固形分Yの計測手段としては、蟹の特定部位に殻の外側から判別光を照射し、蟹から反射した光を受光する近赤外分光法の理論を用いたインタラクタンス法を用いる。具体的には、波長をλ、照射光のスペクトルをSin(λ)、反射光のスペクトルをSout(λ)とした場合、吸光度L(λ)は以下の式で示される。
【0032】

【0033】
この際に、近赤外線が吸収される性質を利用して測定可能な測定値は、波長λを用いて、以下の検量式で算出されることが従来公知である。ちなみに、この測定値は、ここでは、固形分Yの値になる。
【0034】

【0035】
ここでD〜Dは、選択された所定波長λ〜λでの吸光度L(λ)の二次微分値であり、a〜aは定数である。そして、対象の蟹に対して、前述した蟹の脚2,3,4,6,7又は胸8の固形分Yを常圧加熱乾燥法等の従来公知の手段によって測定するとともに、判別光を照射して所定波長λ〜λでの吸光度L(λ)の二次微分値D〜Dを計測算出する。上記処理を複数の同種の蟹における同一箇所でそれぞれ行うことにより、固形分Yと、所定波長λ〜λでの吸光度L(λ)の二次微分値D〜Dとからなるデータを複数組用意しサンプルデータとし、このサンプルデータから重回帰分析を行い、定数a〜aの値を算出する。
【0036】
ちなみに、所定波長λ〜λの選定は、正確な固形分Yの値が算出可能になるように従来公知の手段により最適化されているとともに、変数D〜Dの個数nも、正確な固形分Yの値が算出されるように従来公知の手段により最適化されており、一般的には数個になる。そして、変数が1個になる場合もあり、この場合には重回帰分析では無く、単回帰分析を行うことにより、検量式の定数a,aを求める。
【0037】
この検量式が一度求まると、あとは、所定波長λ〜λでの吸光度L(λ)の二次微分値D〜Dを計測算出することにより、固形分Yを算出することが可能になり、蟹の脚2,3,4,6,7又は胸8での固形分Yを算出することにより、蟹の品質の判断を行う。
【0038】
また、この手段では、蟹の同一箇所からのサンプルデータによって検量式を求め、そして、この同一箇所に判定光を照射して固形分Yの値を測定するため、蟹のどの箇所を測定箇所とするかが固形分Yを測定する上で重要になる。そして、本願発明者らは、鋭利検討の結果、生状態の蟹における脚2,3,4,6,7、その中でも特に、第1歩脚3及び第2歩脚4における長節C中央部の腹側面の殻外面側及び胸8の殻外面側を照射箇所とすることが、判別光による固形分Yの測定を行う上で、有効である事実を見出した。
【0039】
上記箇所が判別光の照射箇所として有効な理由は、その部分が蟹の各種部位の中でも一番白っぽく且つ他の部分と比べて殻も薄いため、光を良く通して判別光が効率良く蟹肉に達する点、蟹の各部位の中でも蟹肉量が最も多い部位の1つと考えられる点、形状に個体差が少なく安定したスペクトル測定が可能である点等が挙げられる。
【0040】
そして、実際に、甲羅の背中側(腹側と反対側)等、上記箇所と別の箇所を照射箇所として、同一個体の同一箇所に判定光を照射し、反射した光又は透過する光を受光してそのスペクトル成分を測定した結果、脚2,3,4,6,7及び胸8と比較して、測定毎に同一のスペクトル成分を安定して得ることができなかった。
【0041】
なお、判別光の蟹への照射によって固形分Yを測定する手段は、前述した手段に限定されるものではなく、特定波長λの光(特に赤外線領域の光)が蟹(蟹肉)に良く吸収されるという特徴を利用した測定手段であればよい。くわえて、判別光を照射してから、固形分Yを算出測定するまでの間の処理を、上記アルゴリズムを搭載したソフトフェア等により自動化してもよい。
【0042】
以上のように構成される蟹の品質判別方法によれば、殻内の身入り状態を、蟹を破壊すること無く迅速且つ正確に判定できるため、効率良く高精度で、蟹の品質を判別することが可能になる。
【実施例1】
【0043】
大きさや状態の異なる複数のズワイガニに対して、図1に符号Mで示す第1歩脚3の長節C中央部及び第2歩脚4の長節C中央部における腹側の固形分Yの値を、上記蟹の品質判別方法によって測定するとともに、前述の常圧加熱乾燥法によって測定した。この際に、判別光を発光する発光素子と、蟹からの反射光を受光する受光素子とを備え、それぞれのスペクトルSin(λ)、Sout(λ)を計測可能な装置としては、600〜1100nmの波長成分からなり、特に近赤外線領域の光を多く含む判別光を照射可能なFANTEC社のポータブル型近赤外分光光度計である「NIR−GUN」を用いた。
【0044】
具体的には、各ズワイガニに対して、水揚げ後1日目に、上記蟹の品質判別方法により左右の第1歩脚3及び第2歩脚4の各測定箇所Mにおける蟹肉の固形分Yの値を2回測定してその測定値を検出値とするとともに、前述の常圧加熱乾燥法により左右の第1歩脚3及び第2歩脚4の各測定箇所Mにおける蟹肉の固形分Yの値を1回測定してその測定値を分析値とし、1尾のズワイガニから検出値と分析値の組合せのデータを8セット取得した。詳しくは、4本の各脚3,3,4,4について、1つの分析値と2つの検出値を得て2セットの検出値と分析値の組合せデータを取得する。ちなみに、固形分Yの値を上記蟹の品質判別方法により2回測定する際には、判別光の照射箇所を1回目と2回目で微妙にずらして測定を行った。このように照射箇所を微妙にずらすことにより、照射箇所がずれることによる測定誤差を抑制している。
【0045】
くわえて、全ズワイガニ中の一部の個体については、水揚げ後2日目も同様の手段により検出値と分析値の組合せのデータを8セット取得した。すなわち、1尾のズワイガニに対して最大16セットの検出値と分析値の組合せのデータを取得した。このように1日経過したズワイガニに対して固形分Yの値を測定することにより、鮮度が落ちた蟹にも本発明が適用できるか否かの検証を行った。
【0046】
なお、水揚げ後2日目における検出値と分析値の組合せデータを取得する場合には、水揚げ後1日目に分析値の測定を行わず、水揚げ後2日目に分析値の測定を行い、この分析値を用いて16セットの組合せデータを取得する。すなわち、水揚げ後1日目で測定を完了するズワイガニも、水揚げ後2日目まで測定を続けるズワイガニも、常圧加熱乾燥法により分析値を測定する回数は同一になる。
【0047】
図3は、ズワイガニの脚部分の固形分を、常圧加熱乾燥法によって測定した場合の測定値である分析値と、近赤外線によって測定した場合の測定値である検出値との相関関係を示すグラフである。同図では上記分析値と検出値が略一致しており、判別光による固形分Y測定の精度の高さを示す結果になっている。くわえて、1日経過したズワイガニでも同様の結果となったため、鮮度がある程度落ちても上記蟹の品質判別方法が適用可能であることが確認された。ちなみに、同図に示す結果を得るために用いられた検量式は下記に示す通りであり、Dが850nmでの吸光度L(λ)の二次微分値を示し、Dが886nmでの吸光度L(λ)の二次微分値を示し、Dが1014nmでの吸光度L(λ)の二次微分値を示している。
【0048】

【実施例2】
【0049】
大きさや状態の異なる複数のズワイガニに対して、左右の胸8における固形分Yの値を、前述の「NIR−GUN」を用いた上記蟹の品質判別方法によって測定するとともに、前述の常圧加熱乾燥法によって測定した。
【0050】
具体的には、各ズワイガニに対して、水揚げ後1日目に、上記蟹の品質判別方法により左右の胸8における蟹肉の固形分Yの値を2回測定してその測定値を検出値とするとともに、前述の常圧加熱乾燥法により左右の胸8における蟹肉の固形分Yの値を1回測定してその測定値を分析値とし、1尾のズワイガニから検出値と分析値の組合せのデータを4セット取得した。詳しくは、左右の各胸8,8について、1つの分析値と2つの検出値を得て、2セットの検出値と分析値の組合せデータを取得する。ちなみに、固形分Yの値を上記蟹の品質判別方法により2回測定する際には、判別光の照射箇所を1回目と2回目で微妙にずらして測定を行った。このように照射箇所を微妙にずらすことにより、照射箇所がずれることによる測定誤差を抑制している。
【0051】
くわえて、全ズワイガニ中の一部の個体については、水揚げ後2日目も同様の手段により検出値と分析値の組合せのデータを4セット取得した。すなわち、1尾のズワイガニに対して最大8セットの検出値と分析値の組合せのデータを取得した。このように1日経過したズワイガニに対して固形分Yの値を測定することにより、鮮度が落ちた蟹にも本発明が適用できるか否かの検証を行った。
【0052】
なお、水揚げ後2日目における検出値と分析値の組合せデータを取得する場合には、水揚げ後1日目に分析値の測定を行わず、水揚げ後2日目に分析値の測定を行い、この分析値を用いて8セットの組合せデータを取得する。すなわち、水揚げ後1日目で測定を完了するズワイガニも、水揚げ後2日目まで測定を続けるズワイガニも、常圧加熱乾燥法により分析値を測定する回数は同一になる。
【0053】
図4は、ズワイガニの胸部分の固形分を、常圧加熱乾燥法によって測定した場合の測定値である分析値と、近赤外線によって測定した場合の測定値である検出値との相関関係を示すグラフである。同図では上記分析値と検出値が略一致しており、判別光による固形分Y測定の精度の高さを示す結果になっている。くわえて、1日経過したズワイガニでも同様の結果となったため、鮮度がある程度落ちても上記蟹の品質判別方法が適用可能であることが確認された。ちなみに、同図に示す結果を得るために用いられた検量式は下記に示す通りであり、Dが854nmでの吸光度L(λ)の二次微分値を示し、Dが886nmでの吸光度L(λ)の二次微分値を示し、Dが918nmでの吸光度L(λ)の二次微分値を示している。
【0054】

【実施例3】
【0055】
図5(A)乃至(E)は、状態の異なる複数のズワイガニを蒸して胸部分の殻を取外すことにより、各ズワイガニにおける胸内の蟹肉の身入り程度を示した底面図であり、図6(A)乃至(E)は、図5のズワイガニにおける切断した脚の本体側の身入り状態をそれぞれ示す断面図であり、図7(A)乃至(E)は、それぞれ図5のズワイガニにおける切断した脚の頭胸部1側の身入り状態をそれぞれ示す断面図である。大きさや状態が異なり且つ市場で硬ガニと判断された5尾のズワイガニを用意し、生状態の各ズワイガニに対して左右の胸8に判別光を照射して検出算出された固形分Yの平均値をカニ胸の固形分Yの値とする一方で、これらのズワイガニをそれぞれ蒸した後、各ズワイガニの向かって右側の胸8における殻内の蟹肉の身入り状態を確認した。
【0056】
図5(A)では左右の胸8における蟹肉の固形分Yの平均値が23.7%になり、同図(B)では左右の胸8における蟹肉の固形分Yの平均値が23.3%になり、同図(C)では左右の胸8における蟹肉の固形分Yの平均値が19.0%になり、同図(D)では左右の胸8における蟹肉の固形分Yの平均値が20.2%になり、同図(E)では左右の胸8における蟹肉の固形分Yの平均値が19.0%になった。
【0057】
同図に示すように、(A),(B)に示す固形分Yの値が高いズワイガニでは、殻と蟹肉との間に殆ど隙間がなく、身が良く詰っているのに対して、(A),(B)のズワイガニよりも固形分Yの値が低い(D)のズワイガニでは、殻と蟹肉との間に隙間が多く、蟹の身入り状態が(A),(B)のズワイガニと比較して、良くないことが分かる。さらに、(D)のズワイガニよりも固形分Yの値が低い(C),(E)のズワイガニでは、殻と蟹肉との間に隙間が多く、蟹の身入り状態が(D)のズワイガニと比較して、良くないことが分かる。
【0058】
続いて、上記蒸した状態の5尾の各ズワイガニにおける第1歩脚3,3及び第2歩脚4,4の長節C腹側の図1に示す各測定箇所Mを切断し、その切断面を観察して殻内の蟹肉の身入り状態を確認した。図6及び7に示すように、図6及び7の(A),(B)に示す固形分Yの値が高いズワイガニでは、殻と蟹肉との間に殆ど隙間がなく、身が良く詰っているのに対して、図6及び7の(A),(B)のズワイガニよりも固形分Yの値が低い図6及び7の(D)のズワイガニでは、殻と蟹肉との間に隙間が多く、蟹の身入り状態が図6及び7の(A),(B)のズワイガニと比較して、良くないことが分かる。さらに、図6及び7の(D)のズワイガニよりも固形分Yの値が低い図6及び7の(C),(E)のズワイガニでは、殻と蟹肉との間に隙間が多く、蟹の身入り状態が図6及び7の(D)のズワイガニと比較して、良くないことが分かる。すなわち、脚3,4の蟹肉の身入り状態は、胸8の固形分Yの値が高くなるに従って良くなっている。
【0059】
以上のように、上記蟹の品質判別方法により測定した固形分Yの値が高いズワイガニの方が身入り状態が良い結果となるとともに、市場で硬ガニと呼ばれる品質の良いズワイガニであってもその品質を判別可能であることが示された。くわえて、胸8の固形分Yの値から脚2,3,4,6,7の身入り状態が判別可能であることも示された。
【0060】
なお、蟹が生きている場合は脚2,3,4,6,7が動くため、胸8の方がうまく固形分Yの値を測定できるので、この胸8部分の蟹肉の固形分Yの値を測定することにより、脚2,3,4,6,7の殻内の身入り状態が検出できる本発明の蟹の品質判別方法は、利便性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】仰向けにした状態のズワイガニの全体平面図である。
【図2】ズワイガニの脚の固形分と胸の固形分との相関関係を示すグラフである。
【図3】ズワイガニの脚部分の固形分を、常圧加熱乾燥法によって測定した場合の測定値である分析値と、近赤外線によって測定した場合の測定値である検出値との相関関係を示すグラフである。
【図4】ズワイガニの胸部分の固形分を、常圧加熱乾燥法によって測定した場合の測定値である分析値と、近赤外線によって測定した場合の測定値である検出値との相関関係を示すグラフである。
【図5】(A)乃至(E)は、ズワイガニを蒸して胸部分の殻を取外すことにより、各ズワイガニにおける胸内の蟹肉の身入り程度を示した底面図である。
【図6】(A)乃至(E)は、図5のズワイガニにおける切断した脚の本体側の身入り状態をそれぞれ示す断面図である。
【図7】(A)乃至(E)は、それぞれ図5のズワイガニにおける切断した脚の頭胸部1側の身入り状態をそれぞれ示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 頭胸部(胴体)
2 鋏脚(脚,鉗脚)
3 第1歩脚(脚,歩脚)
4 第2歩脚(脚,歩脚)
6 第3歩脚(脚,歩脚)
7 第4歩脚(脚,歩脚)
8 胸部(胸)
A 基節(歩脚基節)
B 座節(歩脚座節)
C 長節(歩脚長節)
D 腕節(歩脚腕節)
E 前節(歩脚前節)
F 指節(歩脚指節)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殻の外側から蟹に向かって照射した近赤外線を含む判別光の吸収された度合によって水分含有率を検出し、この水分含有率が低い程身入り状態が良い特性を利用して殻内の蟹肉の身入り状態を判定することにより蟹の品質を非破壊で判別する蟹の品質判別方法。
【請求項2】
判別光が600乃至1100ナノメートルの波長成分よりなる請求項1の蟹の品質判別方法。
【請求項3】
蟹の胸又は脚に判別光を照射して蟹の水分含有率を検出する請求項1又は2の蟹の品質判別方法。
【請求項4】
胸の身入り状態から脚の身入り状態又は脚の身入り状態から胸の身入り状態を検出する請求項3の蟹の品質判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−117177(P2010−117177A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289017(P2008−289017)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】