説明

血中尿酸を急速に低減させるための医薬組成物およびパッケージならびに血中尿酸を急速に低減させるためのアンセリンの使用

【課題】被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させるための、50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを含む、痛風の治療および/または高い血中尿酸レベルと関連した症状の軽減に有用である医薬組成物の提供。
【解決手段】被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させるための、50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを含む医薬組成物。前記組成物を被験者に投与することにより、一回用量当たり50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを与えることを示すラベルおよび/または添付文書とを含むパッケージ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させるように、50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを投与することに関する。
【背景技術】
【0002】
尿酸はヒトにおけるプリン代謝の最終産物である。血中尿酸レベルは、プリンの分解と尿酸排泄の速度との間のバランスの関数である。長年、高尿酸血症は痛風と関連しているか、または同じものであると考えられてきた。しかし、現在、尿酸はいくつかの代謝異常および血行力学異常のマーカーとして認定されている。高い血中尿酸レベルは痛風を誘発し、筋痙攣、限局性腫脹、炎症、関節痛、筋肉疲労、ストレス感、および心筋梗塞などの症状に通常関係する。
【0003】
多くの市販薬、例えばベンズブロマロン(ユリノーム)、プロベネシド、アロプリノール、ブコローム、シンコフェン、およびコルヒチンは、痛風治療のために使用されている。これらの薬剤は、例えば、尿酸の形成を阻害し、過剰な尿酸を除去し、腎臓に作用して尿酸の排泄を助け、キサンチンを尿酸に変換するキサンチンオキシダーゼの活性を阻害し、尿酸の排出を促進することによって作用する。しかし、これらの薬剤は、肝毒性を有し、尿路結石、消化管閉塞、黄疸、および貧血など多くの副作用を引き起こすことが知られている。これらの薬剤が被験者の血中尿酸レベルを急速に減少させることができるとの報告はない。
【0004】
いくつかのジペプチドが血中尿酸レベルを低下させるのに有用であることが知られている。例えば、ROC(Taiwan)特許第I280136号(ROC(Taiwan)特許出願第092114798号)は、被験者の尿酸を減少させるための組成物を開示している。この組成物は、ヒスチジンまたはその機能的均等物、およびアラニンまたはその機能的均等物からなる一種類以上のジペプチドの有効量を含む。このROC特許に記載のジペプチドの例は、カルノシン、アンセリン、カルシニン、およびオフィジンを含む。ROC特許は、この組成物を経口投与して、一日当たり約8mgから約50mg、好ましくは約10mgから約45mgの量のジペプチドを与えることを教示しているに過ぎず、ジペプチドの投与により被験者の血中尿酸レベルを急速に減少させる可能性のあるいかなる経路も開示も示唆もしていない。
【0005】
アンセリン(β−アラニル−1−メチル−L−ヒスチジン)は、約7.1のpK値を有する非常に安定なジペプチドであり、低いpH(<3.0)でも分解しない。アンセリンは、脊椎動物の骨格筋組織および脳組織に天然に存在し、β−アラニンと1−メチル−L−ヒスチジンとのペプチド結合によって形成される(Tolkachevskaya,NF.1929.Z Physiol Chem.185:28−32を参照)。1938年に、アンセリンは理想的な生理的酸−塩基緩衝剤であるとの報告がある。その生理的酸−塩基緩衝能のために、アンセリンは生体系のpH値が変わることによって促進される脂質過酸化を排除するのに効果的である。痛風に罹患している、酸血症の被験者にとって、酸−塩基緩衝剤として作用するアンセリンの投与は、血液のpH値の調節を助け、血中尿酸レベルを低下させるのに有利となる。速筋線維の緩衝能の40%は、移動相中のジペプチドの寄与によるが、一方速筋線維の緩衝能の残りの割合は、本質的に固定相中にある筋タンパク質の寄与による(Bate−Smith,EC.1938、「硬直した筋肉の緩衝化:タンパク質、リン酸塩、およびカルノシン(The buffering of muscle in rigour:protein,phosphate and carnosine)」J Physiol.92:336−43を参照)。この文献は、高度に構造化した筋細胞では局所的な酸−塩基勾配が移動相の緩衝作用支援と固定相の緩衝作用抑制とから構成されることを示す。
【0006】
さらに、アンセリンは種々の抗酸化特性を有し、フリーラジカルスカベンジャーまたは金属キレート剤として有用である。長期にわたって炎症に罹患している被験者は、通常、より高いインビボフリーラジカル濃度を示す。フリーラジカルスカベンジャーとして作用するアンセリンの投与は、フリーラジカルを除去するのに有利となる。
【0007】
アンセリンはまた、鉄、ヘモグロビン、脂質ペルオキシダーゼ、および一重項酸素によって促進される脂質過酸化を抑制するのに有効である(Babizhayev MA ら、1994、「ヒドロキシルラジカル捕捉活性および脂質ペルオキシダーゼ活性を有する天然の抗酸化剤として作用するL−カルノシン(ベータ−アラニル−L−ヒスチジン)およびカルシニン(ベータ−アラニルヒスタミン)
(L-carinosine(beta-alanyl-L-histidine) and carcinine (beta-alanylhistamine) act as natural antioxidants with hydroxyl-radical-scavenging and lipid-peroxidase activities)」Biochem J.304(Pt 2):509−516、およびKohen R.ら、1988、「筋および脳中に存在するカルノシン、ホモカルノシン、およびアンセリンの抗酸化活性(Antioxidant activity of carnosine,homocarnosine,and anserine present in muscle and brain)」Proc Natl Acad Sci USA.85(9):3175−3179を参照)。
【0008】
加えて、アンセリンは疲労により引き起こされるインビボ酸化的ストレスを改善し、生体内の酸素ラジカル吸収能を増強することができる。アンセリンはまた、中枢のヒスタミン作動性神経系における伝達物質の前駆体としての働きもある。アンセリンに含有されるヒスチジンの代謝を介して、アンセリンは効果的に、中枢神経系中のヒスタミン濃度を調節し、血中コルチゾール濃度を低下させ、疲労を軽減することができる(Aoi Wら、2006、「運動および機能性食品(Exercise and functional foods)」Nutr J.5:15−22、および米国特許第6,680,294号を参照)。
【0009】
しかし、アンセリンを含む痛風治療のための市販される薬剤に被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させる効果があるとの報告はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させ、それによって痛風を治療し、高い血中尿酸レベルと関連した症状を軽減することができる新しい薬剤の開発が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは驚くべきことに、1回用量当たり50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンの投与が被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させ得ることを発見した。
【0012】
したがって、本発明は、50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを含む、被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させるための医薬組成物に関する。
【0013】
本発明はさらに、本発明の医薬組成物と、上記組成物を被験者に投与することにより1回用量当たり50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを与えることを示すラベルおよび/または添付文書とを含むパッケージに関する。
【0014】
さらに本発明は、被験者に50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを投与することからなる、被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させる方法に関する。
【0015】
加えて、本発明は被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させるための医薬品の製造におけるアンセリンの使用に関し、上記医薬品は50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1の態様において、本発明は、50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを含む、被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させるための医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させることができ、それによって痛風を治療し、および/または高い血中尿酸レベルに関連した症状を改善する。
【0017】
第2の態様において、本発明は、本発明の医薬組成物と、上記組成物を被験者に投与すると1回用量当たり50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを与えることを示すラベルおよび/または添付文書とを含むパッケージを提供する。本発明のパッケージは、被験者の血中尿酸レベルを急速に減少させるのに有用であり、それによって痛風を治療し、および/または高い血中尿酸レベルと関連した症状を改善する。
【0018】
第3の態様において、本発明は、50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを被験者に投与することを含む、被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させる方法を提供する。本発明の方法は、被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させることができ、それによって痛風を治療し、および/または高い血中尿酸レベルと関連した症状を改善する。
【0019】
第4の態様において、本発明は、被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させることができる医薬品の製造におけるアンセリンの使用を提供し、上記医薬品は50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを含む。上記医薬品は、被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させることができ、それによって痛風を治療し、および/または高い血中尿酸レベルと関連した症状を改善する。
【0020】
アンセリンは、天然に存在するものでも、あるいは合成されたものでもよい。本発明では、被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させる効果を得るために、1回用量当たり、50mgより多く、約600mgまでの量、好ましくは約100mgから約500mgまでの量、さらに好ましくは約150mgから約250mgまでの量のアンセリンを被験者に投与する。
【0021】
本出願において、「血中尿酸レベルを急速に低減させる」という用語は、アンセリンの投与1時間以内の被験者の血中尿酸レベルの減少量が約0.5から約4mg/dL(dLはデシリットル、以下同じ)の量であることを意味する。「被験者」という用語は、哺乳動物、好ましくはヒトを指す。さらに、「高い尿酸レベルに関連した症状」という用語は、例えば、筋痙攣、限局性腫脹、炎症、関節痛、筋肉疲労、ストレス感、心筋梗塞、またはそれらの組み合わせを指す。
【0022】
本発明の医薬組成物および医薬品は、当分野で知られている任意の従来の方法によって調製することができる。活性成分であるアンセリンに加えて、本発明の医薬組成物および医薬品は、薬学的または生理学的に許容される賦形剤を含んでもよい。薬学的に許容される適切な賦形剤として、デキストリン−マルトース、乳糖、ショ糖、マンニトール、でんぷん、微晶質セルロース、カルボキシメチルセルロース、タルク、およびステアリン酸マグネシウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の医薬組成物および医薬品は、様々な投与経路用に錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、および懸濁剤などの適切な剤形に製剤化できる。本発明の医薬組成物および医薬品は、任意の適切な経路、好ましくは経口または非経口経路を介して投与することができる。
【0024】
任意の知られている包装および印刷方法を本発明のパッケージの作成に用いることができる。
【実施例】
【0025】
本発明は、以下の実施例を参照することで明らかとなるが、以下の実施例は、純粋に例示的なものであり、請求項に記載の本発明の範囲を限定するものと解釈するべきではない。
【0026】
(実施例1)
アンセリン(GL Biochem Ltd.,Shanghai,China)およびデキストリン−マルトースをゼラチンカプセルに充填した(全重量400mg)。上記カプセルは、50mgのアンセリンを含んでいた。痛風に罹患し、高い血中尿酸レベルを有する被験者は、3カプセル(総量150mgのアンセリン)を1日2回、同日に5カプセル(総量250mgのアンセリン)を1回服用した。したがって、被験者が一日に服用したアンセリンの総用量は550mgであった。迅速血清尿酸試験紙であるウロスピード(UroSpeed)(Apex Biotechnology Co.,Inc.Hsinchu,Taiwan,ROC)によって血中尿酸レベルをモニターした。結果は表1に示され、さらに図1に図示されている。
【表1】

【0027】
表1および図1に示されているように、血中尿酸レベルの減少範囲は、アンセリンを含むカプセルの投与1時間後で0.9mg/dLから1.5mg/dLである。10時35分にアンセリン150mgを投与して1時間後に、血中尿酸レベルは1.5mg/dL減少した。上記被験者が正午にビーフヌードルを摂取した後、被験者の血中尿酸レベルは、11.9mg/dLまで増加した。13時15分にアンセリン150mgを投与して1時間後に、被験者の血中尿酸レベルは0.9mg/dL減少した。17時17分にアンセリン250mgを摂取して1時間後に、被験者の血中尿酸レベルは1.3mg/dL降下した。表1中のデータは、アンセリンの投与が被験者の血中尿酸レベルを1時間以内に急速に減少させることができることを示す。
【0028】
(実施例2)
慢性高尿酸血症を有する15人の成人ボランティア(28歳から53歳までの9人の男性と6人の女性)に本経口投与試験を実施した。これら被験者は、少なくとも3日間通常の薬物療法を中止した。これら被験者の血中尿酸レベルは、9.3mg/dLより高くなった。これら被験者は、各グループが3被験者より構成される5グループに無作為に分けられ、以下の用量のアンセリンを服用した。用量はそれぞれ50mg、100mg、150mg、200mg、および250mgであった。1時間後、被験者の血中尿酸レベルを測定した。被験者の血中尿酸レベルは1.1mg/dLから1.3mg/dL降下することが見出された。5グループ間で、アンセリン150mgを服用したグループの血中尿酸レベルの減少が最も顕著であった。結果は表2に示されている。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】血中尿酸レベルに対する経口投与されたアンセリンの影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させるための医薬組成物であって、50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを含む、医薬組成物。
【請求項2】
約100mgから約400mgの量のアンセリンを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
約150mgから250mgの量のアンセリンを含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
痛風の治療および/または高い血中尿酸レベルと関連した症状の軽減に有用である、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記症状が、筋痙攣、限局性腫脹、炎症、関節痛、筋肉疲労、ストレス感、心筋梗塞、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
アンセリンを含む医薬組成物と、
前記組成物を被験者に投与することにより、痛風を治療し、および/または高い血中尿酸レベルと関連した症状を軽減するように1回用量当たり50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを与えることを示すラベルおよび/または添付文書と
を含むパッケージ。
【請求項7】
前記ラベルおよび/または前記添付文書が、前記組成物を被験者に投与することにより約100mgから約500mgの量のアンセリンを与えることを示す、請求項6に記載のパッケージ。
【請求項8】
前記ラベルおよび/または前記添付文書が、前記組成物を被験者に投与することにより約150mgから約250mgの量のアンセリンを与えることを示す、請求項7に記載のパッケージ。
【請求項9】
前記症状が、筋痙攣、限局性腫脹、炎症、関節痛、筋肉疲労、ストレス感、心筋梗塞、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項6に記載のパッケージ。
【請求項10】
被験者の血中尿酸レベルを急速に低減させるための、50mgより多く、約600mgまでの量のアンセリンを含む医薬品の製造におけるアンセリンの使用。
【請求項11】
前記医薬品が、約100mgから約400mgの量のアンセリンを含む、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記医薬品が、約150mgから約250mgの量のアンセリンを含む、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記医薬品が、痛風の治療および/または高い血中尿酸レベルと関連した症状の軽減に有用である、請求項10に記載の使用。
【請求項14】
前記症状が、筋痙攣、限局性腫脹、炎症、関節痛、筋肉疲労、ストレス感、心筋梗塞、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項13に記載の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2009−102248(P2009−102248A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−274191(P2007−274191)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(507349684)リトン エンタープライズ インク. (1)
【Fターム(参考)】