説明

血小板機能の流動状態下での測定方法

【課題】 本発明は血小板機能診断の分野に関し、そして流動状態下の血小板機能のインビトロ測定方法に関する。
【解決手段】 本方法は特に、経口摂取後のクロピドグレルおよび抗血栓活性を有する他のP2Y(12)アンタゴニストの効果の測定、ならびに抗血栓活性を有するP2Y(1)受容体アンタゴニストの測定に適するもので、
a)血液を、毛細管の中を通過させ、そして次に、少なくとも1つの血小板活性化物質を含有する仕切部材の開口部を通過させ;そして
b)仕切部材の開口部で、この開口部を閉止するまで血栓が生成するために必要な時間を測定すること;
を含み、
ここで、全血試料は、毛細管の中を通過させる前に、細胞内アデニル酸シクラーゼ活性化物質と混合する、ことからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血小板機能診断の分野に関し、そして流動状態下の血小板機能のインビトロ測定方法に関する。本方法は特に、経口摂取後のクロピドグレルおよび抗血栓活性を有する他のP2Y(12)アンタゴニストの効果の測定、ならびに抗血栓活性を有するP2Y(1)受容体アンタゴニストの測定に適している。
【背景技術】
【0002】
一方では血管系の血液の流動性を保証し、そして他方では血栓形成により血管外への血液損失を回避する生理的過程は止血という用語で分類される。数多くのタンパク質因子が止血並びに、血小板のような細胞成分の制御に関与している。血管損傷の場合は、内皮下コラーゲンへの血小板の接着が最初に起こる。この接着は、例えばフォン・ウィルブランド因子(VWF)のような接着タンパク質によって仲介される。接着過程の間、血小板は活性化されそしてそれらの顆粒からメディエーターを放出し、それによりさらなる血小板の凝集および活性の増大化が誘導される。このように一次性血管壁閉塞(一次性止血)が生じ、次いで血漿凝固系の反応によりさらに安定化される(二次性止血)。そうした過程の異常調節は血栓性素因または出血傾向をもたらし、このことは重症度へ依存して、生命を危機に陥れる結末をもたらすかもしれない。
【0003】
凝固診断において異なったインビトロ試験方法が開発されてきており、その助けにより、患者の血液が適切に凝固しているかどうか、または凝固異常が存在していないかどうかを測定することが可能である。凝固異常の場合、最適な治療手段を選択するために、存在する異常の原因に関する正確な情報を得ることが多くの場合必要である。特に研究することができる凝固系の重要な下位機能は一次性止血であり、これは本質的に血小板の機能性に依存している。
【0004】
血小板機能を測定する方法は、後天性または遺伝性の血小板機能障害の診断のために用いられるだけではなく、抗血栓剤治療のモニタリングのためにも用いられる。血小板の凝集を阻害するための薬物療法は、主に心筋梗塞または卒中のような動脈の血栓塞栓性イベントの予防および治療のために用いられる。血小板凝集阻害活性を有する最も広汎に用いられている活性化合物はアセチルサリチル酸(ASA)並びにチエノピリジン類のクロピドグレルおよびチクロピジンである。ASAは非可逆的にシクロオキシゲナーゼ−1(COX−1)を阻害し、この酵素は血小板凝集プロモーターのトロンボキサンA2の合成に関与する細胞内酵素である。それらの活性形態によって、クロピドグレルおよびチクロピジンはP2Y(12)アンタゴニストのクラスに属する。クロピドグレルまたはチクロピジンの経口摂取後、代謝物が肝臓中で形成され、選択的にプリン作用性P2Y(12)受容体をブロックする。このプリン作用性P2Y(12)受容体は血小板表面に発現しており、そして細胞外のアデノシン−5'−ジホスフェート(ADP)により活性化することができる。P2Y(12)受容体の活性化の結果、例えばcAMP生成の阻害のような、血小板中での細胞内プロセスを誘導し、それにより血小板凝集反応が引き起こされる。P2Y(12)アンタゴニストは血小板表面のP2Y(12)受容体をブロックし、それゆえに抗血栓活性を有する。
【0005】
第二のプリン作用性ADP受容体P2Y(1)もまた血小板表面で発現しており、そして細胞外のアデノシン−5'−ジホスフェートにより活性化される。プリン作用性P2Y(1)受容体の活性化の結果、例えば細胞内カルシウムの増加のような、血小板中での細胞内プロセスが開始し、それにより血小板凝集反応が引き起こされる。P2Y(1)受容体アンタゴニストはこのプロセスに対抗して働き、それゆえに抗血栓活性を有する。
【0006】
抗血栓剤治療を受けている患者の血小板機能状態の正確な知識は、例えば、いわゆるクロピドグレル耐性の発生が、増大する危険因子として真剣に考慮されているために、その重要性が増大していると考えられている。標準用量のクロピドグレルの投与により、患者の血小板機能がほんのわずかしか影響されないか、または全く影響されない場合に、クロピドグレル耐性が存在している。一方では、血小板機能の測定により、選択した用量で適切な抗血栓性反応が実際に達成されたかどうかを測定するための試験を実施することができる。他方では、あまりに高すぎる抗血栓剤治療の用量または応答を測定でき、そして必要な場合、例えば、出血性合併症を除外するために手術前に、処置できる。
【0007】
従来技術において血小板機能の研究のための異なった方法が知られている。出血時間の測定は、一次性止血を記録する全体的なインビボ試験である。患者に小切開または刺し傷を施し、そして凝固時間を測定することで、出血時間が測定される。これは、緊急状況において、一次性止血の全体像を得るために最初に使用される、標準化が困難で粗い情報を与える試験である。血小板凝集阻害剤を摂取することで出血時間が増加する。出血時間測定の欠点は、正常な出血時間であっても血小板機能障害が除外できないことである。
【0008】
異なったインビトロ試験は血小板の機能障害のより顕著に感度の高い検出を行うことを可能にする。一般にこれらの方法では、血小板凝集を、全血試料または血小板濃縮血漿(PRP)試料中で、活性化物質を添加することで誘導し、そして凝集反応を測定する。血小板活性化の誘導に使われる最も一般的な活性化物質は、ADP(アデノシン5'−ジホスフェート)、コラーゲン、エピネフリン(アドレナリン)、リストセチンおよびそれらの様々な組合せ、ならびにトロンビン、TRAP(トロンビン受容体活性化タンパク質)またはセロトニンである。
【0009】
ボルン(Born)血小板凝集としても知られている光透過凝集測定において、血小板濃縮血漿中での血小板凝集効率は、血小板凝集測定計を用いて凝集誘導化合物の存在下で光度的に測定される。PRP試料の光透過性は凝集形成により増加し、それにより例えば凝集形成速度が光透過性の測定によって決定される。医療で使用される血小板凝集阻害剤の治療効果もまた、光透過性凝集計を用いて測定できる。光透過凝集測定の欠点は、試料材料としては血小板濃縮血漿しか使用できないことである。血小板濃縮血漿は、例えば赤血球および白血球のような重要な血液成分を欠くだけでなく、時間を費やしエラーを生じやすい試料調製を必要とする。
【0010】
血小板機能の測定のための他の試験原理は、血小板機能アナライザー(PFA−100(R)、デード・ベーリング・マールブルグGmbH、マーブルグ、ドイツ)で働いている。PFA−100(R)は、全体的で自動化され標準化されたインビトロ全血試験であり、それにより一次性止血が流動状態でそして高い剪断力の存在下で測定される。より小さい動脈血管で主となる流動状態および剪断力を模擬するために、特別な試験カートリッジ中で約−40mbarの部分真空を生成させる。試料容器中に入れたクエン酸添加全血が約200μm径の毛細管を通して吸い込まれる。この毛細管は、部分真空により血流が通過する中心毛細管口(開口部)を有する、仕切部材、例えば膜に近接した測定室内に導かれる。多くの場合、膜、少なくとも開口部周囲内の膜を、血小板凝集を誘導する1またはそれ以上の活性化物質で被覆し、それにより通過血液を開口部領域中の凝集誘導物質と接触できるようにする。誘導された血小板の接着および凝集の結果、血栓が開口部領域で生成し、それが膜の開口部を閉止し、そして血流を止める。この系では、膜開口部を閉止するために要する時間を測定する。このいわゆる閉止時間(closure time)は血小板の機能効率と相関している。閉止時間に基づく血小板機能の測定方法で用いる試験カートリッジは、例えば、WO 97/34698の特許明細書に記載されている。これまでは、コラーゲン(Col)およびADPまたはエピネフリン(Epi)のいずれかで被覆された膜を備えた、試験カートリッジが、閉止時間の測定方法において使用されている。したがって、構成により、Col/ADP試験カートリッジおよびCol/Epi試験カートリッジの間で識別が為される。通常、患者試料は最初にCol/Epi試験カートリッジを用いて分析される。血小板凝集の障害を示唆するCol/Epi閉止時間の異常な増加が見られる場合に、続いてCol/ADP測定を実施する。もしCol/ADP閉止時間が同様に異常に増加する場合は、これは血小板機能異常症またはフォン・ウィルブランド因子の障害の指標である。反対にもしCol/ADP閉止時間が正常な場合は、これはアセチルサリチル酸の存在または後天的もしくは遺伝的な血小板減少症、例えば貯蔵プール病の存在を示唆することができる。PFA−100(R)系の欠点は、利用可能なCol/ADPおよびCol/Epi試験カートリッジが、チエノピリジングループの血小板凝集阻害剤(例えば、クロピドグレル、チクロピジン)の凝集阻害効果に関して限定された感度しか有しないことである。医療で用いられるクロピドグレルおよびチクロピジンの治療効果のより信頼できる測定は、特に患者がASA(例えば、アスピリン(R))も摂取している場合には、PFA−100(R)系においてCol/ADPおよびCol/Epi試験カートリッジを用いてもこれまでは不可能であった。
【0011】
特許明細書WO 2005/007868 A2には、クロピドグレルおよび他のP2Y(12)アンタゴニストの治療効果が検出できる血小板機能の測定のための代わりの方法が記載されている。この方法では患者の全血試料を抗凝固剤と混合し、そして血小板凝集の誘導のためにADPで処理する。さらに、プロスタグランジンE1(PGE1)をこの試料に加える。ヒトのアラキドン酸代謝の生成物であるプロスタグランジンE1は、低用量であっても血小板の反応性を顕著に減少させることができ、そのために血小板活性化を阻害するために使用することもできる。WO 2005/007868 A2に記載された試験方法において、PGE1はADP受容体P2Y(1)の望ましくない活性化を減少させるために用いられ、それによりP2Y(12)受容体およびP2Y(12)アンタゴニスト、例えばクロピドグレルに関する試験方法の特異性を増大させることができる。さらに、GPIIb/IIIa受容体、例えばフィブリノゲンのためのリガンドを連結したマイクロパーティクルを加え、そして凝集反応を光透過性の増加を基にして凝集測定法で測定する。この方法の欠点は、光透過凝集測定では血小板機能を流動状態および剪断力の影響下で測定できないことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の基礎を形成する課題は、流動条件下での血小板機能測定のための、特にP2Y(12)アンタゴニストの抗血栓性効果の測定を可能にするような感度の良い方法を提供することである。この課題は、特許請求の範囲に記載された本発明による方法を提供することで解決される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、全血試料で血小板機能を測定するためのインビトロ試験方法である。好ましくは、全血試料は新鮮に採取され抗凝固処理されたヒトまたは動物の静脈血であり、本発明の方法により血液採取後4時間以内に試験される。この全血は好ましくは抗凝固剤の添加により抗凝固処理される。抗凝固剤として使用するために好ましいものは、カルシウム結合クエン酸緩衝液、例えば3.2または3.8%クエン酸ナトリウム緩衝液であり、同様に、天然もしくは合成の直接トロンビン阻害物質、例えばヒルジン、PPACK(D−Phe−Pro−Arg−クロロメチルケトン、HCl)、アルガトロバンおよびメラガトラン、または天然もしくは合成の直接Xa因子阻害剤、例えばアンチスタシン(antistasin)、ダニ抗凝固ペプチド、ヤジン(yagin)、ドラクリン、GGACK(H−Glu−Glu−Arg−クロロメチルケトン)、ジアミジノ−Xa因子阻害剤およびモノベンズアミジンXa因子阻害剤である。
【0014】
血小板機能の測定のための本発明の方法はいくつかの方法論的段階を含む。小動脈で主たる生理的流動状態の模擬のために、最初に貯留槽に入れられた血液を、好ましくは約200μm径を有する毛細管の中を通過させる。この毛細管は、仕切部材で二つの区画に分けられた測定室内に導かれる。この仕切部材は、血液を第一から第二の区分室に通過させる開口部を有する。この仕切部材は少なくとも1つの血小板活性化物質を含み、それによりこの仕切部材の開口部を通して流れる血液が、仕切部材内またはその上に含まれる少なくとも1つの血小板活性化物質と接触させられる。少なくとも1つの血小板活性化物質と接触することにより誘導された血小板凝集の結果、仕切部材の開口部に血栓が生成する。この仕切部材の開口部において、この開口部を閉止するまで血栓が生成するために必要な時間を測定する。
【0015】
好ましくは、閉止時間の測定において、試験中の開口部を通る血流を測定する圧センサーを含む装置が使用される。したがって、試験カートリッジのデッドボリュームの最初の急速な吸引の後、開始時の流速が最初に測定される。流速が、3秒を超える間にこの開始時の流速の10%未満に低下した場合、測定は終了し、そしてそれまでに経過した時間を、いわゆる閉止時間として記録する。このいわゆる閉止時間は、動脈内(i.a.)では刺激された血小板の凝集反応に依存しており、血小板機能の指標である。好ましくは、患者の全血試料について測定された閉止時間と、健常人の全血試料の閉止時間の参照範囲とを比較する。
【0016】
好ましくは、測定室中で吸引により部分真空を形成することにより、毛細管を通過しそして仕切部材の開口部を通過する血流が得られる。特に好ましい実施態様では、この部分真空は、適切な試験カートリッジと器具を組み合わせた作用によって得られる。そうした系の例は、例えばWO 97/034698の特許明細書に記載されている。
【0017】
本発明の方法は、毛細管を通過させる前に、全血試料を少なくとも1つの細胞内アデニル酸シクラーゼ活性化物質、例えば、プロスタグランジンE1(PGE1)および/またはフォルスコリンおよび/またはプロスタグランジンI2(同義語:プロスタサイクリン)および/またはそれらの誘導体もしくは類似体、と混合するという点で特徴付けられる。好ましいプロスタグランジンI2類似体はイロプロストおよびシカプロストである。プロスタグランジンE1は、全血試料中に、好ましくは1nMから50nMの最終濃度で、特に好ましくは10nMから20nMの最終濃度で、さらに特に好ましくは11nMから13nMの最終濃度で添加される。フォルスコリンは、全血試料中に、好ましくは0.1μMから5μMの最終濃度で、特に好ましくは0.5μMから2.5μMの最終濃度で、さらに特に好ましくは1μMから1.5μMの最終濃度で添加される。
【0018】
全血試料は、少なくとも1つの細胞内アデニル酸シクラーゼ活性化物質を含む溶液と簡単に混合することによって、所望の活性化物質と混合できる。この目的で、少なくとも1つの細胞内アデニル酸シクラーゼ活性化物質は、例えば、追加で抗凝固剤を含む吸引媒体中に既に存在するか、または、既に抗凝固処理された全血に溶液を加えるかのいずれかであって良い。少なくとも1つの細胞内アデニル酸シクラーゼ活性化物質を、試料の閉止時間の測定のために供される装置の貯留槽中に存在させることもさらに可能である。少なくとも1つの細胞内アデニル酸シクラーゼ活性化物質は凍結乾燥したまたは溶解した形態のいずれかで貯留槽中に導入することができる。
【0019】
本発明の方法で使用される仕切部材は、血小板凝集を誘導する少なくとも1つの血小板活性化物質を含む。用いた仕切部材は、例えば、特にアデノシン5'−ジホスフェート(ADP)および2−メチルチオアデノシン5'−ジホスフェート(2−MeSADP)およびそれらの誘導体を含む、プリン受容体活性化物質の群からの血小板活性化物質、を含有することができる。好ましい実施態様では、使用される仕切部材はADP塩または2−MeSADP塩を含有する。好ましい実施態様では、使用される仕切部材は、ADPを1から100μg、特に好ましくは10から50μg含有する。使用される仕切部材は、さらにコラーゲンおよびエピネフリンの群からの血小板活性化物質を含有してもよく、この場合コラーゲンは0.1から5μg、特に好ましくは1μg、またはエピネフリンは1から100μgが使用される。他の好ましい実施態様では、ADPとコラーゲンまたはエピネフリンとコラーゲンを含有する仕切部材が使用される。このタイプの仕切部材およびそれらの製造と使用は、例えばEP 716 744 B1の特許明細書に記載されている。
【0020】
本発明の方法のさらなる好ましい実施態様では、さらにカルシウムイオンを、好ましくは塩化カルシウム二水和物の形態で含有する仕切部材が用いられる。好ましい実施態様では、塩化カルシウム二水和物の形態でカルシウムイオンを50から200μg、特に好ましくは100から150μg、最も好ましくは125μgを含有する仕切部材が使用される。
【0021】
使用される仕切部材は、血小板凝集を誘導する少なくとも1つの血小板活性化物質のための、そして場合によってはカルシウムイオンのための、有孔または無孔の支持体マトリクスである。好ましくは、仕切部材は膜の形状で構成されている。好ましい材料は、上記の物質が溶液で適用できるような液体吸収性である。特に好ましい材料は、セルロースエステル類、セラミック、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、およびフッ化ポリビニリデン(PVDF)である。好ましくは、所望の物質で湿らせたまたは浸した仕切部材は乾燥させる。血液と仕切部材と接触することによって、この物質が仕切部材から溶出しそして血液試料と混合する。
【0022】
本発明の方法で、例えばADPのようなプリン受容体活性化物質の群(表2も参照する)からの少なくとも1つの血小板活性化物質を含有する仕切部材の使用において、例えばクロピドグレルのようなP2Y(12)アンタゴニストの他の血小板凝集阻害剤の、血小板凝集阻害(抗血栓)効果の正確な測定が、たとえアセチルサリチル酸(ASA)を含有している場合でも可能になる程度まで、ASAの血小板凝集阻害活性が最小化できることが判明した。
【0023】
本発明の方法は、最も好ましくは、P2Y(12)アンタゴニストの抗血栓(血小板凝集阻害)効果を測定するために使用され、特に、クロピドグレル、チクロピジン、プラスグレル(同義語:CS−747)および他のチエノピリジン類、AR−C67085MX (2−プロピルチオ−D−β,γ−ジクロロメチレン−アデノシン5'−トリホスフェート)、カングレロール(同義語: AR−C69931MX、N6−[2−メチルチオ)エチル]−2−(3,3,3−トリフルオロプロピル)チオ−5'−アデニル酸)、C1330−7(N1−(6−エトキシ−1,3−ベンゾチアゾール−2−イル−2−(7−エトキシ−4−ヒドロキシ−2,2−ジオキソ−2H−2−6ベンゾ[4,5][1,3]チアゾール[2,3−c][1,2.4]チアジアジン−3−イル)−2−オキソ−1−エタンスルホンアミド)、AZD 6140(ヌクレオシド類似体)、MRS 2395(2,2−ジメチル−プロピオン酸3−(2−クロロ−6−メチルアミノプリン−9−イル)−2−(2,2−ジメチル−プロピオニルオキシメチル)−プロピルエステル)、および2−MeSAMP(2−メチルチオアデノシン5'−モノホスフェート)の群からのP2Y(12)アンタゴニストを測定するために使用される。
【0024】
驚くべきことに、本発明の方法はまた、P2Y(1)アンタゴニストの抗血栓(血小板凝集阻害)効果を測定するためにも使用することができることが分かった。特にこの方法は、MRS2179 (2'−デオキシ−N6−メチルアデノシン3',5'−ジホスフェート、ジアンモニウム塩)、MRS 2279((N)−メタノカルバ(methanocarba)−N6−メチル−2−クロロ−2'−デオキシアデノシン3',5'−ビスホスフェート)、MRS 2500(2−ヨード−N6−メチル−(N)−メタノカルバ−2'−デオキシアデノシン3'5'−ビスホスフェート)、A2P5P(アデノシン2',5'−ビスホスフェート)、A3P5P(アデノシン3',5'−ビスホスフェート)、A3P5PS(アデノシン3'−ホスフェート5'−ホスホスルフェート)の群からのP2Y(1)アンタゴニストの抗血栓効果を測定するために使用することができる。
【0025】
仕切部材は好ましくは、パンチにより支持体マトリクス中に作成された円形開口部を有している。仕切部材の開口部の直径は、開口部を閉止しそして血流を停止できるそれぞれの方法の条件下で血栓が形成できるような寸法である。好ましくは仕切部材の開口部は、約100μmから約200μmの間の直径を有している。特に好ましい仕切部材の開口部の直径は、約150μmである。
【0026】
以下の実施態様の実施例は本発明の方法を説明するために用いられ、そして制限するものと理解してはならない。
【0027】
図1
図1は、血小板機能測定のための本発明の方法を実施するために適切な装置をどのように構築するかを、例を用いて示す。WO 97/34698に基づいた試験カートリッジを縦断面で示しており、これは本発明の方法を実施するために適切な装置中に設置され、そしてその中に部分真空の生成を担う真空装置(15)が伸びている。この真空装置(15)は、試料容器(10)の円周縁(12)上にシールとして置かれているリングガスケット(27)を有している。この試験カートリッジは、貯蔵器(61)および試験室(63)を形成するハウジングを有する。試験室(63)は、試料容器(10)を収納できるように構成されており、その空洞はまた測定室とも呼ばれる。試料容器(10)は、薬剤で被覆され中心部に口(開口部)を伴う仕切部材(6)、および、毛細管(40)と試料容器(10)を連結する毛細管取付具(30,31)を担持している。貯蔵器(61)と試験室(63)は貫通可能なエレメント(70)により隔てられている。この図は、真空装置(15)が試料容器(10)と接触し、次に、試料容器(10)の底部が支持体(71)と接触しそして毛細管(40)が貫通可能なエレメント(70)を突き破って、試料(11)中に入ることができるように、下方に移動した後の、試験サイクルの相を示している。この装置は、試料(11)を測定室の第一区分室へと毛細管(40)を通して吸い込み、そして次に仕切部材(6)の開口部を通すことで、試料容器(10)中に部分真空を生成する。
【0028】
図2
正常な未処理全血試料(対照)に関する、および、インビトロでP2Y(12)アンタゴニストMRS 2395またはCOX−1阻害剤アセチルサリチル酸(ASA)で処理した全血試料に関する、閉止時間(秒単位で)の、例示のための図解である(実施例1を参照)。11人の正常人供与者に由来する、緩衝化クエン酸ナトリウムで抗凝固処理された全血試料を用いた。Col/Epi試験カートリッジで測定した閉止時間の平均および標準偏差(カットオフ:158秒)を示す。左方のブロックは、従来方法に基づいて、細胞内アデニル酸シクラーゼの活性化物質と混合していない試料(未処理)の閉止時間を示す。毛細管を通過させる前にPGE1またはフォルスコリンと混合した、本発明の試料の閉止時間を、中央および右方のブロックに示す。
【0029】
図3
正常な未処理全血試料(対照)に関する、および、インビトロでP2Y(12)アンタゴニストMRS 2395またはCOX−1阻害剤アセチルサリチル酸(ASA)で処理した全血試料に関する、閉止時間(秒単位で)の、例示のための図解である(実施例1を参照)。11人の正常人供与者に由来する、緩衝化クエン酸ナトリウムで抗凝固処理された全血試料を用いた。Col/ADP試験カートリッジで測定した閉止時間の平均および標準偏差(カットオフ:115秒)を示す。左方のブロックは、従来方法に基づいて、細胞内アデニル酸シクラーゼの活性化物質と混合していない試料(未処理)の閉止時間を示す。毛細管を通過させる前にPGE1またはフォルスコリンと混合した、本発明の試料の閉止時間を、中央および右方のブロックに示す。
【実施例】
【0030】
〔実施例1〕
標準試験カートリッジCol/EpiおよびCol/ADPを用いた、P2Y(12)アンタゴニストおよびアセチルサリチル酸のインビトロでの抗血栓効果の測定のための、本発明の方法の使用
1a)試料の調製
静脈血を11人の健常人供与者から採取しそしてクエン酸ナトリウム(3.2%緩衝化クエン酸ナトリウム)で抗凝固処理した。
クエン酸処理した全血試料のアリコットをインビトロでP2Y(12)アンタゴニストMRS 2395(シグマ−アルドリッヒ・ヘミーGmbH、シュタインハイム、ドイツ)で処理した。この目的のために、エタノール性MRS 2395保存溶液(15 mg/mL)を全血試料と混合し、最終濃度を100μmol/Lとした。
クエン酸処理した全血試料の別のアリコットをインビトロでCOX−1阻害剤アセチルサリチル酸(略語:ASA; シグマ−アルドリッヒ・ヘミーGmbH、シュタインハイム、ドイツ)で処理した。この目的のために、水性ASA保存溶液(1mg/mL)を全血試料と混合し、最終濃度を30μmol/Lとした。
薬剤の添加後、血液試料を室温で5分間インキュベートした。
【0031】
1b)ADP誘導光透過凝集測定(ボルンに準拠する)によるMRS 2395の抗血栓効果の測定
MRS 2395で処理した試料が実際に減少した血小板凝集を示すかどうかチェックするために、血小板濃縮(PRP)および血小板枯渇(PPP)血漿を、実施例1a)で記載した未処理およびMRS 2395処理全血試料のアリコットから調製した。次に、試料を5μM ADPで処理した。PPP試料はブランク対照として用いた。凝集反応の光度測定を、自動化凝固装置BCT(R)(デード・ベーリング・マールブルグGmbH、マーブルグ、ドイツ)中で連続的に攪拌しながら(600rpm)実施した。MRS 2395で処理した試料の血小板凝集は、未処理試料の血小板凝集と比べて平均27%減少していた。
【0032】
1c)Col/EpiおよびCol/ADP試験カートリッジの参照範囲の決定
静脈血を健常人供与者から採取しそしてクエン酸ナトリウム(3.2%緩衝化クエン酸ナトリウム)で抗凝固処理した。閉止時間測定は、PFA−100(R)装置中で各全血試料について実施した。186人の供与者からの試料を、二回ずつ、Col/Epi PFA−100(R) 試験カートリッジ(実施例1d)を参照)およびCol/ADP PFA−100(R) 試験カートリッジ(実施例1d)を参照)で測定した。
Col/Epi閉止時間およびCol/ADP閉止時間の参照範囲(正常範囲)は、健常人の測定値の90%が観察された測定値の範囲(全測定値の正規分布の90%中央区間)として定められた。これにより以下のような閉止時間の参照範囲が得られた:
Col/Epi 70〜158秒
Col/ADP 60〜115秒
【0033】
この参照範囲の上方の参照境界値を、血小板機能異常症のカットオフ、すなわち閾値として定めた。患者試料の閉止時間がこの参照範囲から逸脱する場合は、血小板機能異常症を示唆できる。このことは、158秒より大きなCol/Epi閉止時間および115秒より大きなCol/ADP閉止時間が、減少した凝集能力という意味の範囲で、血小板機能異常症の存在を示唆していることを意味する。
【0034】
1d)本発明の方法を用いた流動条件下でのMRS 2395およびアセチルサリチル酸の抗血栓効果の測定
血小板機能の測定として、Col/Epi PFA−100(R) 試験カートリッジ(仕切部材上にコラーゲン2μgおよびエピネフリン10μgを含有する;直径150μmの開口部;デード・ベーリング・マールブルグGmbH、マーブルグ、ドイツ)およびCol/ADP PFA−100(R) 試験カートリッジ(仕切部材上にコラーゲン2μgおよびADP 50μgを含有する;直径150μmの開口部;デード・ベーリング・マールブルグGmbH、マーブルグ、ドイツ)を用いて閉止時間を測定するために、実施例1a)で記載した全血試料をPFA−100(R) 装置(血小板機能アナライザー−100、デード・ベーリング・マールブルグGmbH、マーブルグ、ドイツ)で調べた。
【0035】
1a)で記載した試料のアリコットを取り、次に、本発明にしたがって、細胞内アデニル酸シクラーゼの活性化のために、プロスタグランジンE1(略語:PGE1)またはフォルスコリン(いずれもシグマ−アルドリッヒ・ヘミーGmbH、シュタインハイム、ドイツから購入)のいずれかと混合した。この目的のために、試料を、エタノール性PGE1保存溶液(0.05mg/mL)またはエタノール性フォルスコリン保存溶液(5mg/mL)と混合し、最終濃度で12.5nMのPGE1または最終濃度で1μMのフォルスコリンとした。1a)で記載した試料の別のアリコットは細胞内アデニル酸シクラーゼの活性化物質とは混合せず、対照として使用した。
【0036】
次に、Col/EpiまたはCol/ADP試験カートリッジ(+37℃)の貯留槽中に、PGE1もしくはフォルスコリンと混合した血液試料または対照試料の各場合800μlを入れて、そして装置中で+37℃で3分間インキュベートした。−40mbarの部分真空を装置により生成し、そして血液を、貯留槽から毛細管(200μm径)を通してそして最終的に仕切部材の口(開口部)を通して測定室中に吸い上げた。閉止時間は、血栓生成により開口部が閉止されるまでに要する時間として測定された。調べられた試料のそれぞれは、二回ずつ測定され、そして二回の測定の平均を測定値として用いた。
【0037】
試験の結果は、Col/Epi試験カートリッジに関しては図2に、そしてCol/ADP試験カートリッジに関しては図3に、関連する図の説明と共に、まとめられている。
【0038】
表1および表2は、MRS2395−またはアセチルサリチル酸処理試料のそれぞれの場合に、標準的なCol/Epi試験カートリッジ(表1)またはCol/ADP試験カートリッジ(表2)を用いた本発明の方法により測定されたカットオフを超える閉止時間を示したケースが、11例のうち何例あったかの詳細を示している。
【0039】
Col/Epi試験カートリッジ
Col/Epi試験カートリッジを用いて、細胞内アデニル酸シクラーゼの活性化物質を添加せずに測定したところ(対照)、MRS2395処理試料では11例中わずか3例で、およびASA処理試料中では11例中8例で異常に減少した血小板凝集が測定された。本発明の方法を用いて、すなわち試料をあらかじめPGE1またはフォルスコリンと混合して測定したところ、異常に減少した血小板凝集が、PGE1を使用した全てのMRS 2395処理試料および全てのASA処理試料で検出され、ならびにフォルスコリンを使用したMRS 2395処理試料の11例中9例および全てのASA処理試料で検出された。しかしながら、使用したプロスタグランジンE1の量はまた対照の閉止時間の有意な延長をもたらし、その一方、使用したフォルスコリンの量ではほんのわずかの対照の閉止時間の延長が観察されただけであった。本発明の方法の使用は、P2Y(12)受容体のブロックまたはシクロオキシゲナーゼ−1の阻害により生じる血小板機能異常症に関して、Col/Epi試験カートリッジの感度の明らかな増加をもたらす。
【0040】
【表1】

【0041】
Col/ADP試験カートリッジ
Col/ADP試験カートリッジを用いて、細胞内アデニル酸シクラーゼの活性化物質を添加せずに測定したところ(対照)、MRS2395処理試料では11例中わずか2例で、およびASA処理試料中では11例中わずか1例で異常に減少した血小板凝集が測定された。本発明の方法を用いて、すなわち試料をあらかじめPGE1またはフォルスコリンと混合して測定したところ、異常に減少した血小板凝集が、PGE1を使用した全てのMRS 2395処理試料およびASA処理試料の11例中4例で検出され、ならびにフォルスコリンを使用したMRS 2395処理試料の11例中10例で検出されたが、フォルスコリンを使用したASA処理試料では全く検出さなかった。使用したフォルスコリンの量も使用したプロスタグランジンE1の量もいずれも対照の閉止時間の有意な延長はもたらさなかった。P2Y(12)受容体のブロックに関する感度は1μMのフォルスコリンの添加によって明らかに増大でき、それによりASA誘導血小板機能異常症に関する有意な感度を引き起こすことはなく、これは12.5nMプロスタグランジンの添加の場合と同様であった。
したがって、本発明の方法は、そのP2Y(12)アンタゴニスト誘導血小板機能異常症に対する高い感度、および、Col/ADP試験カートリッジの場合は、そのアセチルサリチル酸誘導血小板機能異常症に対する低い感度のために、2つのクラスの抗血栓剤の識別に適している。
【0042】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】血小板機能測定のための本発明の方法を実施するために適切な装置をどのように構築するかを、例を用いて示す。
【図2】正常な未処理全血試料(対照)に関する、および、インビトロでP2Y(12)アンタゴニストMRS 2395またはCOX−1阻害剤アセチルサリチル酸(ASA)で処理した全血試料に関する、閉止時間(秒単位で)の、例示のための図解である(実施例1を参照)。
【図3】正常な未処理全血試料(対照)に関する、および、インビトロでP2Y(12)アンタゴニストMRS 2395またはCOX−1阻害剤アセチルサリチル酸(ASA)で処理した全血試料に関する、閉止時間(秒単位で)の、例示のための図解である(実施例1を参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全血試料の血小板機能の測定のための方法であって、以下の工程:
a)血液を、毛細管の中を通過させ、そして次に、少なくとも1つの血小板活性化物質を含有する仕切部材の開口部を通過させ;そして
b)仕切部材の開口部で、この開口部を閉止するまで血栓が生成するために必要な時間を測定すること;
を含み、
ここで、全血試料は、毛細管の中を通過させる前に、細胞内アデニル酸シクラーゼ活性化物質と混合する、方法。
【請求項2】
工程a)で使用される仕切部材が、プリン受容体活性化物質の群からの少なくとも1つの血小板活性化物質を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)で使用される仕切部材が、アデノシン5'−ジホスフェート、2−メチルチオアデノシン5'−ジホスフェートおよびそれらの誘導体の群からの少なくとも1つのプリン受容体活性化物質を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)で使用される仕切部材が、コラーゲンおよびエピネフリンの群からの少なくとも1つの血小板活性化物質を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
全血試料を、毛細管の中を通過させる前に、プロスタグランジンE1、フォルスコリン、プロスタグランジンI2およびそれらの誘導体の群からの少なくとも1つの細胞内アデニル酸シクラーゼ活性化物質と混合する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
プロスタグランジンE1が、全血試料中に1nMから50nM、好ましくは10nMから20nM、特に好ましくは11nMから13nMの最終濃度で添加される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
フォルスコリンが、全血試料中に0.1μMから5μM、好ましくは0.5μMから2.5μM、特に好ましくは1.0μMから1.5μMの最終濃度で添加される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
全血試料を、クエン酸塩、直接トロンビン阻害剤、または直接Xa因子阻害剤で抗凝固処理する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
P2Y(12)アンタゴニストの抗血栓効果の測定のための、請求項1〜8のいずれかに記載の方法の使用。
【請求項10】
クロピドグレル、チクロピジン、プラスグレル、MRS 2395、AR−C67085MX、カングレロール、C1330−7および2−メチルチオアデノシン5'−モノホスフェートの群からのP2Y(12)アンタゴニストの抗血栓効果の測定のための、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
P2Y(1)アンタゴニストの抗血栓効果の測定のための、請求項1〜8のいずれかに記載の方法の使用。
【請求項12】
MRS 2179、MRS 2279、MRS 2500、アデノシン2',5'−ビスホスフェート、アデノシン3',5'−ビスホスフェート、およびアデノシン3'−ホスフェート5'−ホスホスルフェートの群からのP2Y(1)アンタゴニストの抗血栓効果の測定のための、請求項11に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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