血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ
【課題】 PAF-AHが媒介する病理学的状態の治療方法およびそのための医薬組成物を提供する。
【解決手段】 ヒト血漿から精製されたPAF-AHまたは酵素活性を有するその断片あるいはこれらを含む医薬組成物を、PAF-AHが媒介する病理学的状態(壊死性大腸炎、成人呼吸窮迫症候群、再灌流傷害、早期分娩または敗血症)にあるか、またはその状態にあると疑われる哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに十分な量だけ投与する工程を含む治療方法。
【解決手段】 ヒト血漿から精製されたPAF-AHまたは酵素活性を有するその断片あるいはこれらを含む医薬組成物を、PAF-AHが媒介する病理学的状態(壊死性大腸炎、成人呼吸窮迫症候群、再灌流傷害、早期分娩または敗血症)にあるか、またはその状態にあると疑われる哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに十分な量だけ投与する工程を含む治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼに関し、さらに詳細には、ヒト血漿の血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼをコードする新規な精製され単離されたポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドがコードする血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ産物、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ産物の組換え生産のための材料および方法、ならびに血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼに特異的な抗体物質に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板活性化因子(PAF)は、種々の細胞種により合成される、生物学的に活性を有するリン脂質である。 In vivoで、かつ10-10〜10-9Mという通常濃度において、PAFは、特異的なGタンパク質が、カップリングした細胞表面受容体に結合することにより、血小板および好中球などの標的細胞を活性化する(ベナブル(Venable)ら、J. Lipid Res.,34巻、691〜701頁、(1993))。 PAFは、1-O-アルキル-2-アセチル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン構造を有する。 至適な生物学的活性のためには、PAFグリセロール骨格のsn-1位が脂肪族アルコールとエーテル結合をなしておらなければならず、また、sn-3位がホスフォコリン先頭部(head group)を有していなければならない。
【0003】
通常の生理学的プロセス(例えば、炎症、鬱血および分娩)においてPAFは機能し、病理学的炎症応答(例えば、喘息、アナフィラキシー、敗血病性ショックおよび関節炎)において影響を受ける(ベナブルら、前出、およびリンドバーグ(Lindsberg)ら、Ann. Neurol.,30巻、117〜129頁、(1991))。 病理学的応答におけるPAFの関与の可能性は、PAFへの活性修飾の試みを喚起し、そして、これらの試みで主に焦点が向けられるのは、PAFの細胞表面受容体に対する結合を阻害する、PAFの活性の拮抗剤の開発となっている。 例えば、ヒュアー(Heuer)ら、Clin. Exp.Allergy、22巻、980〜983頁、(1992)を参照されたい。
【0004】
PAFの合成および分泌は、その分解およびクリアランスと同様、厳密に制御されているようである。 PAFの病理学的炎症作用が、過剰生産、不適切な生産または分解の不足を増大せしめるPAF調節機構の不全が原因で起こる限りにおいては、PAFの活性を修飾する代替手段が、炎症の解消に導くような自然のプロセスを模倣するかまたは増大させることに関与するであろう。 マクロファージ(スタッフォリニ(Stafforini)ら、J. Biol. Chem.,265巻、17号、9682〜9687頁、(1990))、肝細胞およびヒト肝癌細胞系HepG2(サトー(Satoh)ら、J. Clin. Invest.,87巻、476〜481頁、(1991)およびターベット(Tarbet)ら、J. Biol. Chem.,266巻、25号、16667〜16673頁、(1991))は、PAFを不活性化するPAFアセチルヒドロラーゼ(PAF-AH)の酵素活性を放出することが報告されている。 PAFを不活性化することに加えて、PAF-AHは炎症を媒介するアラキドン酸カスケードの産物などの酸化的に断片化したリン脂質をも不活性化する。 ストレムラー(Stremler)ら、J. Biol.Chem.,266巻、17号、11095〜11103頁、(1991)を参照されたい。 PAF-AHによるPAFの不活性化は、主にPAFのsn-2のアセチル基の加水分解によって引起こされ、また、PAF-AHはsn-2のアシル基を除去することにより、酸化的に断片化されたリン脂質を代謝する。 2つの型のPAF-AHが同定されている。 すなわち、内皮細胞および赤血球などの種々の細胞型および組織中に見出される細胞質型、ならびに血漿および血清中に見出される細胞外型である。 血漿PAF-AHは、PAFを除く無傷のリン脂質を加水分解せず、そしてこの基質特異性のために、この酵素は、完全に活性な状態で有害な作用なしにin vivoで循環することができる。 血漿PAF-AHによって、ex vivoでのヒト血液におけるPAFの分解のすべてが説明されるように思われる(スタッフォリニら、J. Biol. Chem., 262巻、9号、4223〜4230頁、(1987))。
【0005】
細胞質および血漿のPAF-AHが同様な基質特異性を有するようである一方で、血漿PAF-AHは、細胞質PAF-AHおよび特徴が明らかとなった他のリパーゼと、血漿PAF-AHとを差別化する生化学的特徴を有する。 特に、血漿PAF-AHは、リポタンパク質粒子に会合し、ジイソプロピルフルオロホスフェートによって阻害され、カルシウムイオンによっては影響を受けず、タンパク質分解酵素には比較的抵抗性であり、そして、43,000ダルトンの見かけの分子量を有する。 スタッフォリニら(1987)、前出、を参照されたい。 同じスタッフォリニらの文献に、ヒト血漿からのPAF-AHの部分精製の手法およびその手法を用いることによって得られる血漿物質のアミノ酸組成が記載されている。 細胞質PAF-AHは、スタッフォリニら、J. Biol. Chem.,268巻、6号、3857〜3865頁、(1993)において報告されているように、赤血球から精製されており、そしてその文献に細胞質PAF-AHの10のアミノ末端残基もまた記載されている。 ハットリ(Hattori)ら、J. Biol. Chem., 268巻、25号、18748〜18753頁、(1993)は、ウシ脳からの細胞質PAF-AHの精製を記載している。 これまでの特許出願に続いて、ハットリら、J. Biol. Chem.,269巻、237号、23150〜23155頁、(1994)においてウシ脳の細胞質PAF-AHのヌクレオチド配列が公表された。 今日まで、PAF-AHの血漿型のヌクレオチド配列は公表されていない。
【0006】
PAF-AHの組換えによる生産により、in vivoでの炎症の消散の正常なプロセスを模倣または増大するために、外来のPAF-AHを利用することが可能となるであろう。 PAF-AHは、血漿中に通常見出される産物であるので、PAF-AHの投与によって、PAF受容体拮抗剤の投与よりも生理学上の利点が提供されるであろう。 さらに、PAFと構造的に関連性のあるPAF受容体拮抗剤は、本来のPAF-AH活性を阻害し、PAFおよび酸化的に断片化されたリン脂質の望ましい代謝が、それによって妨げられる。 このように、PAF受容体拮抗剤によるPAF-AH活性の阻害は、その拮抗剤によるPAF受容体の競合的阻害を妨げる。 ストレムラーら、前出、を参照されたい。 加えて、急性の炎症の局所において、例えばオキシダントの放出の結果本来のPAF-AH酵素の不活性化が起こり、次には、PAF受容体と結合させるため外から投与されるPAF受容体拮抗剤のいずれのものとも競合するであろうPAFおよびPAF様化合物の局所レベルを上昇せしめる結果となる。 対照的に、組換えPAF-AHを用いた処置により、内在性のPAF-AH活性が増大され、そして不活性化された内在性酵素が補われるであろう。 このように、当該技術分野においてヒト血漿PAF-AHをコードするポリヌクレオチド配列を同定および単離し、PAF-AHの組換え生産に有用な材料および方法を開発し、そして血漿中でのPAF-AHの検出用の試薬を作り出す必要性がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ヒト血漿PAF-AHまたはその酵素的に活性を有する断片をコードする、新規な、精製され、単離されたポリヌクレオチド(すなわち、いずれもセンスおよびアンチセンスストランドのDNAおよびRNA)を提供する。 本発明の好ましいDNA配列には、ゲノムおよびcDNA配列ばかりでなく、全体または部分的に化学合成されたDNA配列が含まれる。 配列番号:7で示されるPAF-AHをコードするDNA配列および、標準のストリンジェンシーの条件下で該配列のノンコーディングストランドとハイブリダイズするDNA配列または遺伝コードの縮重(redundancy of the genetic code)を伴わなければハイブリダイズするであろうDNA配列が、本発明で企図される。 さらに本発明で企図されるのは、本発明のDNA配列の生物学的複製物(すなわち、in vivoまたはin vitroで作製された、単離されたDNA配列のコピー)である。 PAF-AH配列を組込んだプラスミドおよびウイルスDNAベクターなどの自律的に複製する組換え構築体ならびに、特に、PAF-AHをコードするDNAが内在性または外来性発現制御DNA配列および転写ターミネーターと作動可能に結合されるベクターもまた提供される。
【0008】
本発明の他の局面において、所望のDNA配列がその中で発現されることを許容する方法で、原核性または真核性宿主細胞が、本発明のDNA配列で安定に形質転換される。 PAF-AH産物を発現する宿主細胞は、多岐にわたる有用な目的に役立つことができる。 このような細胞は、PAF-AHと特異的に免疫反応性を有する、抗体物質の開発のための抗原の貴重な供給源を構成する。 本発明の宿主細胞は、細胞が好適な培養培地中で生育され、そして細胞からまたは細胞が生育される培地から、例えば免疫アフィニティー精製によって、所望のポリペプチド産物が単離される、PAF-AHの大規模な製造法において顕著に有用である。
【0009】
血漿からPAF-AHを精製するための、本発明により企図される非免疫学的方法には、(a)低密度リポタンパク質粒子を単離し、(b)該低密度タンパク質粒子を10mM CHAPSを含む緩衝液中にて可溶化し、第1のPAF-AH酵素溶液を作製し、(c)該第1のPAF-AH酵素溶液をDEAE陰イオン交換カラムに適用し、(d)1mM CHAPSを含むおよそpH7.5の緩衝液を用いて該DEAE陰イオン交換カラムを洗浄し、(e)0〜0.5M NaClの濃度勾配でなるpH約7.5の緩衝液を用いて、該DEAE陰イオン交換カラムからPAF-AH酵素を溶出して画分とし、(f)該DEAE陰イオン交換カラムから溶出した、PAF-AH酵素活性を有する画分をプールし、(g)該DEAE陰イオン交換カラムからの、該プールした活性画分を、1OmM CHAPSに調整して、第2のPAF-AH酵素溶液を作製し、(h)ブルーダイリガンドアフィニティーカラムに、該第2のPAF-AH酵素溶液を適用し、(i)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムから、1OmM CHAPSおよびカオトロピック塩を含む緩衝液を用いてPAF-AH酵素を溶出し、(j)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムからの溶出液を、Cuリガンドアフィニティーカラムに適用し、(k)1OmM CHAPSおよびイミダゾールを含む緩衝液を用いて、該CuリガンドアフィニティーカラムからPAF-AH酵素を溶出し、(l)該Cuリガンドアフィニティーカラムからの溶出液をSDS-PAGEに供し、そして、(m)SDS-ポリアクリルアミドゲルから、約44kDaのPAF-AH酵素を単離する、という工程が含まれる。 好ましくは、工程(b)の緩衝液は25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、pH 7.5であり、工程(d)の緩衝液は25mMトリス-塩酸、1mM CHAPSであり、工程(h)のカラムはブルーセファロースファストフローカラムであり、工程(i)の緩衝液は25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、0.5M KSCN、pH 7.5であり、工程(j)のカラムはCuキレーティングセファロースカラムであり、そして工程(k)の緩衝液はpHがpH約7.5〜8.0の範囲にある、25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、0.5M NaCl、50mM イミダゾールである。
【0010】
本発明により企図される、PAF-AHを生産する大腸菌(E.Coli)から酵素的に活性なPAF-AHを精製するための方法は、(a)PAF-AH酵素を生産する、溶菌した大腸菌から遠心上清を調製し、(b)ブルーダイリガンドアフィニティーカラムに、該遠心上清を適用し、(c)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムから、1OmM CHAPSおよびカオトロピック塩を含む緩衝液を用いてPAF-AH酵素を溶出し、(d)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムからの溶出液を、Cuリガンドアフィニティーカラムに適用し、および、(e)1OmM CHAPSおよびイミダゾールを含む緩衝液を用いて、該CuリガンドアフィニティーカラムからPAF-AH酵素を溶出する、という工程を含む。 好ましくは、工程(b)のカラムはブルーセファロースファストフローカラムであり、工程(c)の緩衝液は25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、0.5M KSCN、pH 7.5であり、工程(d)のカラムはCuキレーティングセファロースカラムであり、そして工程(e)の緩衝液は25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、0.5M NaCl、100mM イミダゾール、pH 7.5である。
【0011】
本発明により企図される、PAF-AHを生産する大腸菌から酵素的に活性なPAF-AHを精製するための他の方法は、(a)PAF-AH酵素を生産する、溶菌した大腸菌から遠心上清を調製し、(b)該遠心上清を、10mM CHAPSを含む低pH緩衝液で希釈し、(c)該希釈された遠心上清を、pH約7.5にて平衡化した陽イオン交換カラムに適用し、(d)1Mの塩を用いて該陽イオン交換カラムからPAF-AH酵素を溶出し、(e)該陽イオン交換カラムからの該溶出液のpHをあげ、そして該溶出液の塩濃度を約0.5Mの塩に調整し、(f)ブルーダイリガンドアフィニティーカラムに、該陽イオン交換カラムからの該調整された溶出液を適用し、(g)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムから、約2M〜約3Mの塩を含む緩衝液を用いてPAF-AH酵素を溶出し、および、(h)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムからの該溶出液を、約0.1%ツイーンを含む緩衝液を用いて透析する、という工程を含む。 好ましくは、工程(b)の緩衝液は25mM MES、10mM CHAPS、1mM EDTA、pH 4.9であり、工程(c)のカラムは、25mM MES、10mM CHAPS、1mM EDTA、50mM NaCl、pH 5.5で平衡化したSセファロースカラムであって、PAF-AHは、工程(d)において、1mM NaClを用いて溶出され、工程(e)における溶出液のpHは、2Mトリスベースを用いてpH 7.5に調整され、工程(f)におけるカラムはセファロースカラムであり、工程(g)における緩衝液は25mMトリス、10mM CHAPS、3M NaCl、1mM EDTA、pH 7.5であり、また、工程(h)における緩衝液は25mMトリス、0.5M NaCl、0.1% ツイーン80、pH 7.5である。
【0012】
PAF-AH産物は、天然の細胞供給源からの単離物として得られることができ、または化学的に合成されてもよいが、好ましくは、本発明の原核性または真核性宿主細胞が関与する組換え手法によって生産される。 配列番号:8で示されるアミノ酸配列の一部またはすべてを有するPAF-AH産物が企図される。 哺乳動物宿主細胞を用いることで、本発明の組換え発現産物に至適な生物学的活性を賦与するのに必要であるかもしれない転写後の修飾(例えば、ミリストレーション、グリコシレーション、トランケーション、リピデーション、および、チロシン、セリンまたはスレオニンのリン酸化)の実現が期待される。 本発明のPAF-AH産物は、完全長のポリペプチド、断片または誘導体であってよい。
【0013】
誘導体は、1以上の特定の(すなわち、天然にコードされる)アミノ酸が欠失もしくは置換されるかまたは、1以上の非特定のアミノ酸が付加された、PAF-AH誘導体からなり、(1)PAF-AHに特異的な1以上の酵素活性または免疫学的特性を損失することなく、または(2)PAF-AHの特定の生物学的活性を特異的に損なわせしめるとよい。 PAF-AHに結合するタンパク質または他の分子を、その活性を修飾するために用いてもよい。
【0014】
本発明によりさらに企図されるものには、抗体物質(例えば、モノクローナルおよびポリクローナル抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、CDR-移植抗体等)およびPAF-AHに特異性を有する他の結合タンパク質もある。 特に、本発明の実例となる結合タンパク質は、1994年9月30日に、20852 メリーランド州、ロックビル、パークロウン ドライブ 12301に所在のアメリカン タイプ カルチャー コレクション(ATCC)に寄託されて、HB 11724およびHB11725の寄託番号が付与された、ハイブリドーマ90G11Dおよび90F2Dによって生産されるモノクローナル抗体である。 PAF-AHに特異的に結合するタンパク質または他の分子(例えば、脂質または小分子)は、血漿から単離されたPAF-AH、組換えPAF-AH、PAF-AH誘導体、またはこのような産物を発現する細胞を用いて同定することができる。
【0015】
さらには、結合タンパク質は、PAF-AHの精製のためばかりでなく、免疫用の組成物において有用であり、また、既知の免疫学的手法による液体および組織試料中のPAF-AHの検出または定量に有用である。 PAF-AH特異的抗体物質に特異的な抗イディオタイプ抗体もまた、企図される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のDNAおよびアミノ酸配列の開示が寄与する情報の科学的価値は明白である。
【0017】
一連の例として、PAF-AHに対するcDNA配列を知ることで、PAF-AHをコードするゲノムDNA配列のDNA/DNAハイブリダイゼーションによる単離や、プロモーター、オペレーター等のPAF-AH発現の制御調節配列を特定することが可能となる。 当該技術分野において標準のストリンジェンシーの条件下で、本発明のDNA配列を用いて行われるDNA/DNAハイブリダイゼーション手法により、PAF-AHの対立変異体(allelic variant)、PAF-AHの1以上の生化学的および/または免疫学的特性を担う構造的に関連のある他のタンパク質、ならびにPAF-AHと相同のヒト以外の種のタンパク質をコードするDNAの単離を許容することが、同様に期待される。 本発明により提供されるDNA配列の情報によって、相同組換えまたは、機能を有するPAF-AH酵素を発現しない齧歯類またはPAF-AH酵素変異体を発現する齧歯類の「ノックアウト」ストラテジー(例えば、カペッチ(Kapecchi)、Science、244巻、1288〜1292頁、(1989)を参照されたい)による開発もまた可能となる。 本発明のポリヌクレオチドを好適にラベルした場合、細胞がPAF-AH酵素を合成する能力を検出するハイブリダイゼーション分析において有用である。 本発明のポリヌクレオチドは、1または複数の疾病状態の基礎になる、PAF-AH遺伝子座における1または複数の遺伝的変更を同定するために有用な診断法のための基礎となるかもしれない。 さらに本発明によって入手可能となるのものに、PAF-AHを通常発現している細胞による、PAF-AHの発現調節に関係するアンチセンスポリヌクレオチドもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
哺乳動物、特にヒトの被験者に、病理学的炎症状態の改善を目的として、本発明のPAF-AH調製物を投与することが企図される。 病理学的炎症状態におけるPAFの関与が暗示されることに基づき、例えば、喘息(ミワ(Miwa)ら、J. Clin. Invest.,82巻、1983〜1991頁、(1988)、シー(Hsieh)ら、J. Allergy Clin. Immunol.,91巻、650〜657頁、(1993)、およびヤマシタ(Yamashita)ら、 Allergy、 49巻、60〜63頁、(1994))、アナフィラキシー(ベナブルら、前出)、ショック(ベナブルら、前出)、再灌流傷害(reperfusion injury)および中枢神経系虚血(リンドバーグら(1991)、前出)抗原誘発性関節炎(ザルコ(Zarco)ら、Clin. Exp. Immunol.,88巻、318〜323頁、(1992))粥腫形成(atherogenesis)(ハンドレイ(Handley)ら、Drug Dev.Res.,7巻、361〜375頁、(1986))、クローン病(デニゾット(Denizot)ら、Digestive Diseases and Sciences、37巻、3号、432〜437頁、(1992))、虚血性腸壊死/壊死性小腸結腸炎(デニゾットら、前出、およびカプラン(Caplan)ら、Acta Paediatr.,追補、396巻、11〜17頁、(1994))、潰瘍性結腸炎(デニゾットら、前出)、虚血性発作(サトー(Satoh)ら、Stroke、23巻、1090〜1092頁、 (1992))、虚血性脳傷害(リンドバーグら、Stroke、21巻、1452〜1457頁、(1990)およびリンドバーグら(1991)前出)、全身性紅斑性狼瘡(マツザキ(Matsuzaki)ら、Clinica Chimica Acta、210巻、139〜144頁、(1992))、急性膵炎(カルド(Kald)ら、Pancreas、8巻、4号、440〜442頁、(1993))、敗血症、カルドら、前出)、急性後天性連鎖球菌性(acute post streptococcal)糸球体腎炎(メッツァノ(Mezzano)ら、J. Am. Soc. Nephrol.,4巻、235〜242頁、(1993))、IL-2治療により引き起こされる肺浮腫(ラビノビッチ(Rabinovici)ら、J. Clin. Invest.,89巻、1669〜1673頁、(1992))、アレルギー性炎症(ワタナベ(Watanabe)ら、Br. J.Pharmacol.,111巻、123〜130頁、(1994))、虚血性腎不全(グリノ(Grino)ら、Annals of Internal Medicine、121巻、5号、345〜347頁、(1994))、早期分娩(preterm labor)(ホフマン(Hoffman)ら、Am. J. Obstet. Gynecol.,162巻、2号、525〜528頁、(1990)およびマキ(Maki)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85巻、728〜732頁、(1988))、ならびに成人呼吸窮迫症候群(adult respiratory distress syndrome)ラビノビッチら、J.Appl. Physiol.,74巻、4号、1791〜1802頁、(1993)、マツモトら、Clin. Exp. Pharmacol. Physiol.,19巻、509〜515頁、(1992)およびロドリゲツ−ロイジン(Rodriguez-Roisin)ら、J. Clin. Invest.,93巻、188〜194頁、(1994))などの治療において、PAF-AHを投与することが示唆される。
【0019】
前記の病理学的状態の多くの動物モデルが、当該技術分野において記載されている。
【0020】
例えば、喘息、鼻炎、および湿疹に対するマウスモデルが本願明細書の実施例16に記載され、関節炎に対するウサギモデルがザルコら、前出、に記載され、虚血性腸壊死/壊死性小腸結腸炎に対するラットのモデルがフルカワ(Furukawa)ら、Ped. Res.,34巻、2号、237〜241頁、(1993)およびカプランら、前出、に記載され、発作に対するウサギのモデルがリンドバーグら(1990)、前出、に記載され、狼瘡に対するマウスのモデルがマツザキら、前出、に記載され、急性膵炎に対するラットのモデルがカルドら、前出、に記載され、IL-2治療により引き起こされる肺浮腫に対するラットのモデルがラビノビッチら、前出、に記載され、アレルギー性炎症のラットのモデルがワタナベら、前出、に記載され、腎異系移植のウサギのモデルが、ワトソン(Watson)ら、Transplantation、56巻、4号、1047〜1049頁、(1993)に記載され、ならびに成人呼吸窮迫症候群のラットのモデルがラビノビッチら、前出、に記載されている。
【0021】
本発明により特に企図されるのは、哺乳動物内で内在性PAF-AH活性を補足し、病因となる量のPAFを不活性化するに足る量のPAF-AHを、哺乳動物に投与することからなる、PAF-AHが媒介する病理学的状態が疑われるかまたは罹患している哺乳動物の治療法に用いられるPAF-AH組成物である。
【0022】
本発明により企図される治療用組成物は、PAF-AHおよび生理学的に許容しうる希釈剤(賦形剤)または担体を含み、また、抗炎症効果を有する他の試薬を含んでもよい。 指示される投与量は、内在性PAF-AH活性を補い、かつ病理的状態をもたらす量のPAFを不活性化するに足る量であろう。 一般的な投与量の考慮のためには、 Remmington's Pharmaceutical Sciences、18版、Mack Publishing Co., イーストン、ペンシルベニア州(1990)を参照されたい。 投与量は、約0.1〜約1000μg PAF-AH/kg 体重の間で変動するであろう。
【0023】
本発明の治療用組成物は、処置すべき病理学的状態に依存して、種々の経路により投与されうる。 例えば、投与は、静脈内、皮下、経口、座薬、および/または肺を経由する経路により投与されてもよい。
【0024】
肺の病理学的状態のためには、肺を経由する経路によるPAF-AHの投与が特に指示される。
【0025】
肺を経由する投与における用途のために企図されるのは、例えば、当該技術分野において標準的な、噴霧器、投与量吸入器(dose inhaler)、および粉末吸入器(powder inhaler)を含む広範な送達(delivery)デバイスである。 エアロゾル調剤の吸入による肺および循環系への種々のタンパク質の送達は、アジェイ(Adjei)ら、Pharm. Res.,7巻、6号、565〜569頁、(1990)(ロイプロリド アセテート(leuprolide acetate))、ブラケット(Braquet)ら、J. Cardio.Pharm.,13巻(追補 5): s.143〜146頁、(1989)(エンドセリン-1)、ハッバード(Hubbard)ら、Annals of Internal Medicine、III巻、3号、206〜212頁、(1989)(α1-アンチトリプシン)、スミス(Smith)ら、J. Clin. Invest.,84巻、1145〜1146頁、(1989)(α-1-プロテナーゼインヒビター)、デブス(Debs)ら、J. Immunol.,140巻、3482〜3488頁、(1933)(組換えガンマインターフェロンおよび腫瘍壊死因子アルファ)、1994年9月15日公開の、特許協力条約(PCT) 国際公開番号第 WO 94/20069号(組換え係留化(pegylated)顆粒球コロニー刺激因子)に記載されている。
【実施例】
【0026】
以下の実施例によって、本発明を例証する。
【0027】
実施例1は、ヒト血漿からのPAF-AHの新規な精製法を示す。
【0028】
実施例2に、精製されたヒト血漿PAF-AHのアミノ酸マイクロ配列決定を記載する。
【0029】
実施例3に、ヒト血漿PAF-AHをコードする全長のcDNAのクローニングを記載する。
【0030】
実施例4に、ヒト血漿PAF-AH遺伝子の、推定されるスプライス変異体の同定を記載する。
【0031】
実施例5に、ヒト血漿PAF-AHをコードするゲノム配列のクローニングを記載する。
【0032】
実施例6に、ヒト血漿PAF-AH cDNAと相同な、イヌ、マウス、ラットおよびマカクのcDNAのクローニングを記載する。
【0033】
実施例7は、COS7細胞で一過性に発現された組換えPAF-AHの酵素活性の証拠となる分析結果を示す。
【0034】
実施例8に、大腸菌および酵母(S. cerevisiae)におけるヒトPAF-AHの発現を記載する。
【0035】
実施例9は、大腸菌からの組換えPAF-AHの精製のためのプロトコル、およびその酵素活性を確証する分析を示す。
【0036】
実施例10に、アミノ酸置換誘導体ならびにアミノ末端側およびカルボキシ末端側の欠損産物を含む種々の組換えPAF-AH産物を記載する。
【0037】
実施例11は、種々の組織および細胞系におけるヒト血漿PAF-AH RNAの発現に対するノザンブロットアッセイの結果を示し、一方で、実施例12は、in situハイブリダイゼーションの結果を示す。
【0038】
実施例13に、ヒト血漿PAF-AHに特異的なモノクローナル抗体の作製を記載する。
【0039】
実施例14、15および16は、それぞれ、ラットにおける急性炎症、胸膜炎および喘息への、本発明の組換えPAF-AH産物の投与の、in vivoでの治療的効果を記載する。
【0040】
実施例17には、PAF-AH活性の欠損を示すヒト患者の血清のイムノアッセイの結果が示されており、また、明らかにその欠損の原因と思われる、その患者における遺伝的傷害の同定が記載されている。
【0041】
実施例1
アミノ酸配列決定のための材料を供給するために、ヒト血漿からPAF-AHを精製した。
【0042】
A:精製条件の至適化
最初に、リンタングステン酸(phosphotungstate)を用いて、血漿から低密度リポタンパク質(LDL)粒子を沈澱させ、次いで、0.1%ツイーン20中に可溶化し、そしてスタッフォリニら(1987)、前出、の方法に従って、DEAEカラム(ファルマシア(Pharmacia)社、ウプサラ(Uppsala)、スウェーデン)のクロマトグラフィーに供したが、可溶化の再評価および引き続いての精製条件に必要なDEAEカラムからのPAF-AH活性体の溶出は、一致しないものであった。
【0043】
ツイーン20、CHAPS(ピアスケミカル社(Pierce Chemical Co.,)、ロックフォード(Rockford)、イリノイ州)およびオクチルグルコシドを、LDL粒子の可溶化能について、遠心およびゲル濾過クロマトグラフィーにより評価した。 CHAPSにより、可溶化した活性体の回収がツイーン20よりも25%上回り、またオクチルグルコシドよりも300%上回る回収がなされた。 次いで、10mM CHAPSで可溶化したLDL沈澱物を、DEAEセファロースファストフローカラム(陰イオン交換カラム、ファルマシア社)で、1mM CHAPSを含む緩衝液を用いて分画して、次なるカラムの評価用の部分精製したPAF-AHの大量のプール(「DEAEプール」)を得た。
【0044】
DEAEプールは、さらなるPAF-AH活性体の精製における有用性について、種々のクロマトグラフィーカラムをテストするための出発材料として用いた。 テストしたカラムとしては、ブルーセファロースファストフロー(ファルマシア社)(ダイリガンドアフィニティーカラム)、S-セファロースファストフロー(ファルマシア社)(陽イオン交換カラム)、Cuキレーティングセファロース(ファルマシア社)(金属リガンドアフィニティーカラム)、フラクトゲル S(イー・エム・セパレーションズ(EM Separations)社)、ギッブスタウン(Gibbstown)、ニュージャージー州)(陽イオン交換カラム)、およびセファクリル(Sephacryl)-200(ファルマシア社)(ゲル濾過カラム)が挙げられる。 これらのクロマトグラフィー手法では、1mM CHAPSで操作した場合、すべて低く、満足のいかないレベルの精製にとどまった。 引き続き1mM CHAPS中でセファクリルS-200のゲル濾過クロマトグラフィーを行うと、期待された44kDaのおおよそのサイズというよりもむしろ、広範なサイズ範囲にわたって溶出する酵素的に活性な画分が得られた。 まとめて考えると、これらの結果は、LDLリポタンパク質が溶液中で凝集していることを示唆していた。
【0045】
そこで、PAF-AH活性体の凝集について分析用ゲル濾過クロマトグラフィーにより、異なるLDL試料を評価した。 DEAEプールおよび新たに可溶化したLDL沈澱物からの試料は、1mM CHAPSを含む緩衝液で平衡化したスペローズ(Superose)12(ファルマシア社)で分析した。 いずれの試料とも、ほとんどの活性体が150kDaを越える、きわめて広い範囲の分子量にわたって溶出した。 次いで、10mM CHAPSを含む緩衝液で平衡化したスペローズ12で試料を分析したところ、活性体の大半がPAF-AH活性体について期待された44kDa付近に溶出された。 しかしながら、試料には、凝集物に相当する高分子量の領域に、いくらかのPAF-AH活性体が含まれていた。
【0046】
引き続き、他の試料をゲル濾過によってテストすると、およそ44kDaの範囲に専らPAF-AH活性体を溶出した。 これらの試料とは、0.5M NaClの存在下で10mM CHAPS中で可溶化したLDL沈澱物および、DEAEカラムから溶出した後10mM CHAPSに調整した新たなDEAEプールであった。 これらのデータにより、非凝集性のPAF-AHを維持するために、少なくとも10mMのCHAPSが必要であることが示唆される。 DEAEのクロマトグラフィーの後、ただし、引き続いてのクロマトグラフィー工程の前に、1mMから10mMへとCHAPS濃度を高めることで、精製に劇的な差が生じた。 例えば、S-セファロースファストフローでのPAF-AHの精製の度合いは、2倍から10倍へと増大した。 PAF-AH活性体は、1mM CHAPS中でブルーセファロースファストフローカラムに不可逆的に結合したが、このカラムにおいて10mM CHAPSで最も高いレベルの精製がなされた。 10mM CHAPSを前もって添加しても、DEAEクロマトグラフィーは改善されなかった。
【0047】
ブルーセファロースファストフローカラムの後のCuキレーティングセファロースのクロマトグラフィーで、PAF-AH活性体が15倍濃縮された。 試料が煮沸されない限りにおいて、還元SDS-ポリアクリルアミドゲルからPAF-AH活性体を回収できることも、判定された。
【0048】
Cuキレーティングセファロースカラムから溶出された物質の活性は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供すると、ゲルを銀染色した場合に見られる主たるタンパク質のバンドに一致した。
【0049】
B:PAF-AH精製プロトコル
かくして、アミノ酸配列決定用のPAF-AHを精製するために用いる新規のプロトコルは、4℃で実施される以下の工程からなるものであった。 ヒト血漿を、1リットルのナルゲンボトル中、900mlアリコート(aiquot)づつに分割し、pH 8.6に調整した。 次いで90 mlの3.85%リンタングステン酸ナトリウムに続き23mlの2M MgCl2を添加することにより、LDL粒子を沈澱させた。 その後、血漿を3600gにて15分間遠心した。 ペレットを800mlの0.2%クエン酸ナトリウム中に再懸濁させた。 10g NaClおよび24mlの2M MgCl2を添加することにより、再びLDLを沈澱させた。 3600gにて15分間遠心することにより、LDL粒子をペレットとした。 この洗浄を2度繰り返した。 次に、ペレットを−20℃で凍結せしめた。 5Lの血漿からのLDL粒子を、5Lの緩衝液A(25mMトリス塩酸、10mM CHAPS、pH 7.5)中に再懸濁させて一晩撹拌した。 可溶化したLDL粒子を、3600gにて1.5時間遠心した。
【0050】
上清を集めて、残っている固形物をすべて除去するために、ワットマン(Whatman) 113濾紙を用いて濾過した。 可溶化したLDL上清を、緩衝液B(25mM トリス塩酸、1mM CHAPS、pH 7.5)で平衡化したDEAEセファロースファストフローカラム(11cm×10cm、1L樹脂容量、80ml/分)に負荷した。 吸光度がベースラインに戻るまで、緩衝液Bを用いてカラムを洗浄した。 8Lの、0〜0.5M NaClの濃度勾配を用いてタンパク質を溶出し、480mlの画分を集めた。 この工程は、以下のブルーセファロースファストフローカラムへ結合させるために必須であった。 本質的に実施例4に記載の方法によって、各画分についてアセチルヒドロラーゼ活性を分析した。 活性画分をプールし、該プールを約10mM CHAPSとするために充分なCHAPSを添加した。 0.5M NaClを含む緩衝液Aで平衡化したブルーセファロースファストフローカラム(5cm×10cm、200mlベッド容量)に、DEAEプールを4ml/分にて一晩かけて負荷した。 吸光度がベースラインに戻るまで、16ml/分にて平衡化緩衝液を用いてカラムを洗浄した。 PAF-AH活性体は、16ml/分にて、0.5M KSCN(カオトロピック塩)を含む緩衝液Aを用いて段階的に溶出し、50mlの画分を集めた。 この工程の結果、1000倍を越える精製がなされた。 活性画分をプールし、1Mトリス塩酸、pH 8.0を用いてそのプールをpH 8.0に調整した。 ブルーセファロースファストフロークロマトグラフィーからの活性なプールは、緩衝液C(25mMトリス塩酸、10mM CHAPS、0.5MNaCl、pH 8.0(pH 7.5でも有効であった))で平衡化したCuキレーティングセファロースカラム(2.5cm×2cm、10mlベッド容量、4ml/分)に負荷し、カラムを50mlの緩衝液Cを用いて洗浄した。
【0051】
PAF-AH活性体は、50mMイミダゾールを含む緩衝液Cを100ml用いて溶出し、10mlの画分を集めた。 PAF-AH活性を含む画分をプールし、緩衝液Aに対して透析した。 PAF-AH活性体の15倍の濃縮がなされることに加えて、Cuキレーティングセファロースカラムにより若干の精製が行われた。 Cuキレーティングセファロースプールを、37℃にて15分間、50mM DTT中で還元し、0.75mm、7.5%ポリアクリルアミドゲルに負荷した。 0.5cm毎にゲルの薄片を切断し、200μlの25mMトリス塩酸、10mM CHAPS、150mM NaClを含む使い捨てのマイクロフュージ(microfuge)チューブに入れた。 薄片を粉砕し、4℃にて一晩インキュベーションさせておいた。 次いで、各ゲル薄片の上清をPAF-AH活性についてアッセイして、SDS-PAGE上のいずれのタンパク質バンドがPAF-AH活性を含むかを判定した。 PAF-AH活性は、およそ44kDaのバンドにおいて見出された。 平行して実験を行った2つのゲルからのタンパク質をPVDF膜(イモビロン(Immobilon)-P、ミリポア(Millipore)社)に電気を用いて転写し、クマシーブルーで染色した。 そのPVDF膜の写真を図1に示す。
【0052】
以下の表1に示すように、5Lのヒト血漿からおよそ200μgのPAF-AHが、2×106倍精製された。 それと比較して、スタッフォリニら(1987)、前出、には、PAF-AH活性体の3×104倍の精製が記載されているのである。
【0053】
【表1】
要約すると、以下の工程、すなわち、(1)10mM CHAPS中での可溶化およびクロマトグラフィー、(2)ブルーセファロースファストフローなどのブルーリガンドアフィニティーカラムでのクロマトグラフィー、(3)CuキレーティングセファロースなどのCuリガンドアフィニティーカラムでのクロマトグラフィー、ならびに(4)SDS-PAGEからのPAF-AHの溶出、が独自のものであり、微量試料を用いたアミノ酸配列決定用の血漿PAF-AHを成功裡に精製するために重大である。
【0054】
実施例2
アミノ酸配列決定のため、実施例1に記載のPAF-AHを含むPVDF膜からの、およそ44kDaタンパク質のバンドを切除し、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)473Aプロテインシーケンサーを用いて配列決定した。 PAF-AH活性体に対応する〜44kDaのタンパク質バンドのN-末端配列分析により、そのバンドが2つのメジャーな配列と2つのマイナーな配列を含むことが示唆された。 その2つのメジャーな配列の割合は1:1であり、よって、配列データを解読するのは困難であった。
【0055】
SDSゲルで分離された2つのメジャーなタンパク質の配列を判別するため、およそ44kDaのバンドを含む平行して実験を行った2枚のPVDF膜を半分に切断し膜の上部と下部とが別個に配列決定に供されるようにした。
【0056】
膜の下半分について得られたN-末端配列は、FKDLGEENFKALVLIAF(配列番号:1)であった。 タンパク質データベースの検索により、この配列がヒト血清アルブミンの断片であることが明らかとなった。 同じPVDF膜の上半分についても配列決定を行い、決定したN-末端アミノ酸配列は、IQVLMAAASFGQTKIP(配列番号:2)であった。 この配列は、検索したデータベースの中のいずれのタンパク質にもマッチせず、また、スタッフォリニら(1993)、前出、における赤血球の細胞質PAF-AHについて報告された、MKPLVVFVLGG(配列番号:3)のN-末端アミノ酸配列とも異なっていた。 新規配列(配列番号:2)を、以下の実施例3に記載のように、ヒト血漿PAF-AHのcDNAクローニングに利用した。
【0057】
実施例3
ヒト血漿PAF-AHをコードする全長のクローンを、マクロファージcDNAライブラリーから単離した。
【0058】
A:マクロファージcDNAライブラリーの構築
末梢血単球由来のマクロファージから、ポリA+RNAを採取した。 インビトロゲン コピー キット(Invitrogen Copy Kit)(サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いて、二本鎖のブラントエンドとした(blunt-ended)cDNAを作製し、哺乳動物発現ベクター、pRc/CMV(インビトロゲン)へと挿入する前に、そのcDNAにBstXIアダプターを連結した。 エレクトロポレーションにより、得られたプラスミドを大腸菌株XL-1ブルーに導入した。 形質転換された菌を、総計978枚のアガロースプレート1枚当たりおよそ3000コロニーの密度で播種した。 各プレートから別々に調製したプラスミドDNAは、個々のプールとして保持し、また、それぞれ300,000クローンを表す、より大きなプールへと集めることも行った。
【0059】
B:PCRによるライブラリースクリーニング
実施例2に記載の新規なN-末端アミノ酸配列に基づく、縮重アンチセンスオリゴヌクレオチドPCRプライマーを利用した、ポリメラーゼ連鎖反応により、マクロファージライブラリーをスクリーニングした。 プライマーの配列を、以下に、IUPAC命名法に従って記載するが、ここで「I」は、イノシンである。
【0060】
5' ACATGAATTCGGIATCYTTIGTYTGICCRAA 3'(配列番号:4)
プライマーの各コドンの第3位のヌクレオチドを選択するために、ワダ(Wada)ら、Nuc.Acids Res.,19S巻、1981〜1986頁、(1991)のコドン選択表を用いた。 プライマーは、300,000クローンのマクロファージライブラリープールをスクリーニングするために、いずれもpRc/CMVのクローニング部位の側に位置するSP6またはT7プロモーター配列のどちらかに特異的なプライマーと組合わせて用いた。 すべてのPCR反応には、100ngの鋳型cDNA、1μgの各プライマー、0.125mMの各dNTP、10mMのトリス塩酸、pH 8.4、50mM MgCl2および2.5単位のTaqポリメラーゼが含まれていた。 94℃、4分間で最初の変性工程を行なった後、94℃で1分、60℃で1分、そして、72℃で2分の増幅を30サイクル行った。 その結果得られたPCR産物は、pブルースクリプトSK-(ストラタジーン(Stratagene)社、ラ・ヨラ(La Jolla)、カリフォルニア州)中にクローン化し、そして、そのヌクレオチド配列を、ダイデオキシチェーンターミネーター法により決定した。 PCR産物は、新規ペプチド配列により予測される配列を含み、配列番号:7のヌクレオチド1〜331に対応するものである。
【0061】
以下に記すPCRプライマーは、前記のクローン化したPCR断片に特異的なものであり、全長のクローンを同定するためにデザインした。
【0062】
センスプライマー:5' TATTTCTAGAAGTGTGGTGGAACTCGCTGG 3'(配列番号:5)
アンチセンスプライマー:5' CGATGAATTCAGCTTGCAGCAGCCATCAGTAC 3'(配列番号:6)
これらのプライマーを利用するPCR反応を前記のごとくに行い、まず、300,000クローンのcDNAプールを、次いで、より小さい3000クローンのプールの適切なサブセット(subset)をスクリーニングした。 その後、期待されるサイズのPCR産物を生産している3000クローンのプール3つを、菌の形質転換のために用いた。
【0063】
C:ハイブリダイゼーションによるライブラリースクリーニング
形質転換された菌からのDNAを、元のクローン化したPCR断片をプローブとして用いたハイブリダイゼーションによって、引き続きスクリーニングした。 コロニーをニトロセルロース上にブロットし、50%ホルムアミド、0.75M 塩化ナトリウム、0.075M クエン酸ナトリウム、0.05M リン酸ナトリウム、pH 6.5、1%ポリビニルピロリドン、1%フィコール、1%ウシ血清アルブミンおよび50ng/mlの超音波処理済サケ精子DNA中でプレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションを行った。 ハイブリダイゼーションプローブは、ランダムヘキサマープライミングによってラベルした。 42℃にて一晩ハイブリダイゼーションを行った後、ブロットを、42℃にて、0.03M 塩化ナトリウム、3mMクエン酸ナトリウム、0.1%SDS中で良く洗浄した。 ハイブリダイズする10個のクローンのヌクレオチド配列を決定した。 クローンのうちの1つ、クローンsAH 406-3は、ヒト血漿から精製したPAF-AH活性体の元のペプチド配列により予測される配列を含んでいた。 ヒト血漿PAF-AHのDNAおよび決定したアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:7および8に記す。
【0064】
クローンsAH 406-3は、予測される441アミノ酸のタンパク質をコードする読み取り枠を有する1.52kbのインサートを含む。 アミノ末端において、比較的疎水性の領域である41残基が、タンパク質マイクロ配列決定により同定されたN-末端アミノ酸(配列番号:8の42位のイソロイシン)の前に存在する。 しかして、コードされているタンパク質は、長いシグナル配列かまたは、切断されて機能を有する成熟タンパク質を生じる付加的なペプチドをシグナル配列に加えて有しているかもしれない。 シグナル配列の存在が、分泌タンパク質の1つの特徴である。 それに加えて、あらゆる既知の哺乳動物リパーゼ、微生物リパーゼおよびセリンプロテアーゼの活性部位のセリンを含むと信じられている、コンセンサスGxSxGモチーフが、クローンsAH 406-3がコードするタンパク質に含まれている(配列番号:8のアミノ酸271〜275)。 チャプス(Chapus)ら、Biochimie、70巻、1223〜1224頁、(1988)およびブレンナー(Brenner)、Nature、334巻、528〜530頁、(1988)を参照されたい。
【0065】
以下の表2は、配列番号:8より予測される本発明のヒト血漿PAF-AHのアミノ酸組成と、スタッフォリニら(1987)、前出、に記載の、称するところによれば精製されたものの、アミノ酸組成の比較である。
【0066】
【表2】
本発明のヒト血漿PAF-AHの成熟型のアミノ酸組成と、ヒト血漿PAF-AHであると称されている、以前に精製された物質のアミノ酸組成は明らかに異なっていた。
【0067】
前出のハットリらのウシ脳細胞質PAF-AHのヌクレオチドおよび決定されたアミノ酸配列と、本発明のヒト血漿PAF-AHのヌクレオチドおよびアミノ酸配列とのアラインメントを試みると、配列における有意な構造的類似性は、なんら観察されなかった。
【0068】
実施例4
PAF-AH cDNAの5'非翻訳領域(配列番号:7のヌクレオチド31〜52)および3'端における翻訳終止コドンにわたる領域(配列番号:7のヌクレオチド1465〜1487)にハイブリダイズするプライマーを用いて、マクロファージおよび刺激したPBMC cDNAについてPCRを実施すると、ヒトPAF-AH遺伝子の推定されるスプライスバリアントが1つ検出された。 PCR反応により、ゲル上に2つのバンドが得られ、1つは実施例3のPAF-AH cDNAの予期されるサイズに対応しており、いま1つはそれより約100bp短かった。 両方のバンドの配列決定により、大きい方のバンドが実施例3のPAF-AH cDNAであって、一方で、短い方のバンドは血漿PAF-AHのシグナルおよびプロペプチド配列と推定される領域をコードするPAF-AH配列のエキソン2(以下の実施例5)を欠失していた。 触媒活性3つ組残基(catalytic triad)と思われるアミノ酸およびすべてのシステインが、短い方のクローンに存在していたので、該クローンがコードするタンパク質の生化学的活性は血漿の酵素の活性に匹敵するかもしれないと思われる。
【0069】
実施例5
ヒト血漿PAF-AHのゲノム配列も単離した。 高いストリンジェンシーの条件下でのDNAハイブリダイゼーションにより、ヒトゲノムDNAを含むラムダおよびP1ファージクローンを単離することによって、PAF-AH遺伝子の構造を決定した。 ファージクローンの断片をサブクローン化し、そして、cDNAクローンsAH 406-3全体において一定の間隔でアニール(anneal)するよう設計されたプライマーを用いて配列決定した。 さらに、エキソンの側部に位置するイントロン領域と再結合するよう設計された新たな配列決定用プライマーを、配列を確認するために、エキソン−イントロン境界を越えて、改めて配列決定を行うために用いた。 エキソン/イントロン境界は、ゲノム配列とcDNA配列とが分岐する点として明らかにされた。 これらの分析により、ヒトPAF-AH遺伝子が12のエキソンからなることが明らかとなった。
【0070】
エキソン1、2、3、4、5、6および7の一部は、ラムダFIX(ストラタジーン社)中で構築された雄性胎児の胎盤のライブラリーから単離された。 ニトロセルロース上にファージプラークをブロットし、50%ホルムアミド、0.75M 塩化ナトリウム、75mM クエン酸ナトリウム、50mM リン酸ナトリウム(pH 6.5)、1%ポリビニルピロリドン、1%フィコール、1%ウシ血清アルブミンおよび50ng/mlの超音波処理済サケ精子DNA中でプレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションを行った。 エキソン2〜6および7の一部を含むファージクローンを同定するために用いるハイブリダイゼーション用プローブは、cDNAクローンsAH 406-3全体で構成されるものであった。 エキソン1を含むクローンは、cDNAクローンの5'端由来の断片(配列番号:7のヌクレオチド1〜312)を用いて同定した。
【0071】
両プローブとも、ヘキサマーランダムプライミングによって、32Pでラベルした。 42℃にて一晩ハイブリダイゼーションを行った後、ブロットを、42℃にて、30mM 塩化ナトリウム、3mM クエン酸ナトリウム、0.1% SDS中で良く洗浄した。 エキソン1、2、3、4、5および6のDNA配列に加えて、部分的な周囲のイントロン配列を、それぞれ配列番号:9、10、11、12、13および14に記す。
【0072】
エキソン7の残部ならびにエキソン8、9、10、11および12は、ヒトP1ゲノムライブラリーから単離したP1クローンからサブクローン化した。 ニトロセルロース上にP1ファージプラークをブロットし、0.75M 塩化ナトリウム、50mM リン酸ナトリウム(pH 7.4)、5mM EDTA、1%ポリビニルピロリドン、1%フィコール、1%ウシ血清アルブミン、0.5% SDS、および0.1mg/mlの総ヒトDNA中でプレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションを行った。 ヘキサマーランダムプライミングによって32Pでラベルしたハイブリダイゼーションプローブは、前記のように単離したラムダクローンの3'端から由来するゲノムDNAの2.6 kbのEcoR1断片で構成されていた。 この断片は、ファージクローン上に存在するエキソン6およびエキソン7の一部を含んでいた。 65℃にて一晩ハイブリダイゼーションを行った後、前記のようにブロットを洗浄した。 エキソン7、8、9、10、11および12のDNA配列に加えて、部分的な周囲のイントロン配列を、それぞれ配列番号:15、16、17、18、19および20に記す。
【0073】
実施例6
全長の血漿PAF-AH cDNAクローンを、マウスおよびイヌ脾臓cDNAライブラリーから単離し、ラット胸腺cDNAライブラリーから部分的なラットのクローンを単離した。 クローンは、低いストリンジェンシーでのハイブリダイゼーションにより同定した(ハイブリダイゼーション条件は、50%ホルムアミドの代わりに20%ホルムアミドを用いたこと以外は、前記実施例5のエキソン1〜6について記載したと同じであった)。 ヒトPAF-AH sAH 406-3 cDNAクローンの1kb HindIII断片(配列番号:7のヌクレオチド309〜1322)をプローブとして用いた。 加えて、部分的なサルのクローンを、配列番号:7のヌクレオチド285〜303および851〜867に基づくプライマーを用いて、PCRによりマカク脳cDNAから単離した。
【0074】
マウス、イヌ、ラットおよびマカクのcDNAクローンのヌクレオチドおよび決定されたアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:21、22、23および24に記す。
【0075】
それらのcDNAクローンとヒトcDNAクローンの決定されたアミノ酸配列を比較することにより、以下の表3に示す、アミノ酸の同一性のパーセンテージ値が得られた。
【0076】
【表3】
実施例7
ヒト血漿PAF-AH cDNAクローンsAH 406-3(実施例3)が、PAF-AH活性を有するタンパク質をコードしているか否かを確定するため、pRc/CMV発現構築体をCOS7細胞内で一過性に発現させた。 DEAEデキストラン法によりトランスフェクトして3日後に、COS細胞培地を、PAF-AH活性についてアッセイした。
【0077】
60mm組織培養ディッシュ当たり300,000細胞の密度で、細胞を播種した。 翌日、0.5mg/ml DEAEデキストラン、0.1mMクロロキンおよび5〜10μgのプラスミドDNAを含有するDMEM中で細胞を2時間インキュベーションした。 次いで、細胞を、10%DMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水中で1分間処理し、培地で洗浄し、そしてジイソプロピルフルオロホスフェート(DFP)を用いて前処理して内在性ウシ血清のPAF-AHを不活性化しておいた子牛胎児血清10%を含有するDMEM中でインキュベーションした。 3日間インキュベーションした後、トランスフェクトした細胞からの培地をPAF-AH活性について分析した。 10mM EDTAまたは1mM DFPのいずれかの存在下または非存在下で分析を行い、スタッフォリニら(1987)、前出、により以前に血漿PAF-AHについて報告されたように、組換え酵素がカルシウム非依存性であり、セリンエステラーゼ阻害剤DFPによって阻害されるか否かを判定した。 陰性の対照には、インサートを欠くpRc/CMVかまたはsAH 406-3インサートを逆方向に有するpRc/CMVを用いてトランスフェクトした細胞が含まれていた。
【0078】
トランスフェクト体上清におけるPAF-AH活性は、以下の変更を加えて、スタッフォリニら(1990)、前出、の方法により測定した。 要約すると、[アセチル-3H]PAF(ニューイングランドヌクレアー(New England Nuclear)社、ボストン、マサチューセッツ州)での3H-アセテートの加水分解を測定することによって、PAF-AH活性を測定した。 水性の遊離3H-アセテートは、オクタデシルシリカゲルカートリッジ(ベーカーリサーチプロダクツ(Baker Research Products)社、フィリプスバーグ(Phillipsburg)、ペンシルベニア州)を用いた逆相カラムクロマトグラフィーにより、ラベルされた基質から分離した。 50μlの反応液容量で0.1Mヘペス緩衝液、pH 7.2中、10μlのトランスフェクト体の上清を用いて、アッセイを行った。 標識:非標識(cold)のPAFの割合を1:5として、1反応当たり計50ピコモルの基質を用いた。 37℃にて、30分間反応液をインキュベーションし、40μlの10 M酢酸を添加することによって停止した。 オクタデシルシリカゲルカートリッジを通して溶液を洗浄し、次いでカートリッジは0.1M酢酸ナトリウムですすいだ。 各試料からの水性溶出液を集めて、液体シンチレーションカウンターで1分間計測した。 酵素活性は、1分当たりのカウント数で表した。
【0079】
図2に示すように、sAH 406-3でトランスフェクトした細胞からの培地は、バックグラウンドよりも4倍のレベルでPAF-AH活性を有していた。 この活性は、EDTAの存在によっては影響を受けなかったが、1mM DFPにより阻止された。 これらの観察から、クローンsAH 406-3が、ヒト血漿酵素PAF-AHに一致した活性体をコードしていることが証明された。
【0080】
実施例8
大腸菌発現ベクター内へのサブクローニングが容易に行える、クローンsAH 406-3からのヒト血漿PAF-AH cDNAのタンパク質をコードする断片を作製するために、PCRを用いた。
【0081】
サブクローン化したセグメントは、Ile42(配列番号:8、ヒト血漿から精製された酵素のN-末端残基)をコードするコドンを有するヒト遺伝子の5'端で始まるものであった。
構築体中には、本来の終止コドンまでの遺伝子の残部が含まれた。 利用した5'センスPCRプライマーは、5' TATTCTAGAATTATGATACAAGTATTAATGGCTGCTGCAAG 3'(配列番号:25)であり、翻訳開始コドン(下線部)のみならずXbaIクローニング部位を含むものであった。
【0082】
利用した3'アンチセンスプライマーは、5' ATTGATATCCTAATTGTATTTCTCTATTCCTG 3'(配列番号:26)であって、sAH406-3の終止コドンにおよび、EcoRVクローニング部位を含むものであった。 PCR反応は、本質的に実施例3に記載のように実施した。 その結果得られたPCR産物は、XbaIおよびEcoRVを用いて消化し、そして、クローニング部位に近接した上流にTrpプロモーター(デボエ(deBoer)ら、PNAS、80巻、21〜25頁、(1983))を含むpBR322ベクター内にサブクローン化した。 大腸菌株XL-1ブルーをその発現構築体で形質転換し、次いで、100μg/mlのカルベニシリン(carbenicillin)を含むLブロス(broth)中で培養した。
【0083】
一晩培養した培養物からの形質転換体をペレットとし、50mM トリス塩酸、pH 7.5、50 mM NaCl、10mM CHAPS、1mM EDTA、100μg/ml リソゾーム、および0.05 トリプシン阻害単位(TIU)/ml のアプロチニン(Aprotinin)を含む溶菌用緩衝液中に再懸濁した。 氷上で1時間インキュベーションし、2分間超音波処理を施した後、実施例4に記載の方法により、PAF-AH活性について溶菌物をアッセイした。 発現構築体(trp AHと名付けた)で形質転換された大腸菌は、PAF-AH活性を有する産物を作り出していた。 実施例9の表6を参照されたい。
【0084】
tacIIプロモーター(デボエ、前出)、サルモネラ菌(Salmonella typhimurium)からのアラビノース(ara)Bプロモーター(ホルビッツ(Horwitz)ら、Gene、14巻、309〜319頁、(1981))、およびバクテリオファージT7プロモーターの、3種類のプロモーターを含む構築体もまた、大腸菌内でのヒトPAF-AH配列の発現を行うために利用した。 Trpプロモーター(pUC trp AH)、tacIIプロモーター(pUC tac AH)、およびaraBプロモーター(pUCara AH)からなる構築体をプラスミドpUC19(ニューイングランドバイオラブス(New England Biolabs)社、マサチューセッツ州)の中に組み立て、一方で、T7プロモーターからなる構築体(pET AH)はプラスミドpET15B(ノバゲン(Novagen)社、マディソン、ウィスコンシン州)の中に組み立てた。 T7プロモーター領域のリボソーム結合部位に融合されたaraBプロモーターで構成されるハイブリッドプロモーター、pHAB/PHを含む構築体もまた、pET15Bの中に組み立てた。 すべての大腸菌構築体が、20〜50 U/ml/OD600の範囲内でPAF-AH活性を生産した。 この活性は、総細胞タンパク質の1%以上が総組換え体タンパク質に対応することを示す。
【0085】
組換えヒトPAF-AHは、酵母菌(Saccharomyces cerevisiae)内でも発現させた。rPAF-AH発現を行なうために、酵母ADH2プロモーターを用いて、7U/ml/OD600を生産した(下記、表4)。
【0086】
【表4】
アミノ末端側を伸長した大腸菌発現構築体のいくつかについても、PAF-AHの生産について検討を行った。 天然型の血漿PAF-AHのN-末端は、アミノ酸配列決定(実施例2)によりIle42として同定された。 しかしながら、Ile42に近接した上流の配列は、シグナル配列切断部位で見出されるアミノ酸には一致していない(すなわち、リジンが-1位に見出されないので、「-3-1-ルール」には従っていない、フォン・ヘイネ(von Heijne)、Nuc.Acids Res.,14巻、4683〜4690頁、(1986)を参照されたい)。 おそらくは、より古典的なシグナル配列(M1〜A17)が、細胞分泌系により認識され、引き続きタンパク質内部分解性切断(endoproteolytic cleavage)が行われる。 開始のメチオニンで始まるPAF-AHに対する全コード配列(配列番号:7のヌクレオチド162〜1487)を、大腸菌内で発現するために、trpプロモーターを用いて作った。 表5に示すように、この構築体は活性なPAF-AHを産生したが、Ile42で始まる元の構築体のレベルの約50分の1しか発現しなかった。
【0087】
Val18で始まる他の発現構築体(配列番号:7のヌクレオチド213〜1487)は、元の構築体の約3分の1のレベルで、活性なPAF-AHを生産した。 これらの結果より、大腸菌において生産される組換えPAF-AHの活性に対して、アミノ末端部の延長は重要または必須ではないことが示唆される。
【0088】
【表5】
実施例9
大腸菌内で発現される組換えヒト血漿PAF-AH(Ile42で始まる)を、種々の方法により単一のクマシーブルー染色SDS-PAGEバンドにまで精製し、そして、本来のPAF-AH酵素が示す活性についてアッセイした。
【0089】
A:組換えPAF-AHの精製
利用した第1の精製手法は、本来のPAF-AHについて実施例1において記載した手法と類似している。 以下の工程は、4℃にて実施した。 PAF-AHを生産している大腸菌(発現構築体trp AHで形質転換したもの)50mlからの菌体を、実施例8に記載のように溶菌した。
【0090】
10,000gで20分間遠心することにより、残渣を除去した。 緩衝液D(25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、0.5M NaCl、pH 7.5)で平衡化したブルーセファロースファストフローカラム(2.5cm×4cm、20mlベッド容量)に、0.8ml/分でその上清を負荷した。 カラムは、100mlの緩衝液Dで洗浄し、0.5M KSCNを含む緩衝液A 100mlで3.2ml/分にて溶出した。 緩衝液Dで平衡化した1mlのCuキレーティングセファロースカラムに15mlの活性画分を負荷した。 カラムを5mlの緩衝液Dで洗浄し、引き続き100mMイミダゾールを含む緩衝液Dを5ml用いて重力の速度で溶出した。 PAF-AH活性を有する画分を、SDS-PAGEにより分析した。
【0091】
精製の結果は表6に示すとおりであり、ここでの単位は、1時間当たりのPAF加水分解のμmol数に等しい。 4℃にて得られる精製産物は、43kDaのマーカーの下に単一の強いバンドとして、直接その上下に染まっている拡散した染色部分とともに、SDS-PAGE上に現れた。 組換え物質は、実施例1に記載の血漿からのPAF-AH調製物に比較して有意に、より純粋であり、より大きな比活性を呈する。
【0092】
【表6】
常温で同じ精製プロトコルを実施した場合、43kDaのマーカーの下のバンドに加えて、29kDaのマーカーの下のバンドの群が、アッセイしたゲルスライスのPAF-AH活性に呼応していた。 これらの低分子量のバンドは、酵素活性を保持しているPAF-AHのタンパク質分解断片であるかもしれない。
【0093】
常温にて、異なる精製手法も実施した。 PAF-AHを生産している大腸菌(発現構築体pUC trp AHで形質転換したもの)の菌体(100g)を200mlの溶菌用緩衝液(25mMトリス、20mM CHAPS、50mM NaCl、1mM EDTA、50μg/ml ベンズアミド、pH 7.5)中に再懸濁し、次いで15,000psiにてマイクロフルイダイザー(microfluidizer)を3回通すことによって溶菌した。 14,300×gにて1時間遠心することにより、固形物を除去した。 希釈用緩衝液(25mM MES(2-[N-モルフォリノ]エタンスルホン酸)、10mM CHAPS、1mM EDTA、pH 4.9)中に上清を10倍希釈し、緩衝液E(25mM MES、10mM CHAPS、1mM EDTA、50mM NaCl、pH 5.5)で平衡化したSセファロースファストフローカラム(200ml)(陽イオン交換カラム)に25ml/分にて負荷した。 1リットルの緩衝液Eでカラムを洗浄し、1M NaClを用いて溶出して、次いで、溶出液を集めて、0.5mlの2Mトリスベースを用いてpH 7.5に調整した50mlの画分とした。 PAF-AH活性を含む画分をプールし、0.5M NaClに調整した。 そのSプールを、緩衝液F(25mMトリス、10mM CHAPS、0.5M NaCl、1mM EDTA、pH 7.5)に平衡化したブルーセファロースファストフローカラム(2.5cm×4cm、20ml)に、1ml/分にて負荷した。
【0094】
カラムを100mlの緩衝液Fで洗浄し、4ml/分にて、3M NaClを含む緩衝液Fを100ml用いて溶出した。 次いで、試料中のエンドトキシンレベルを低減せしめるため、ブルーセファロースファストフロークロマトグラフィー工程を繰り返した。 PAF-AH活性を含む画分をプールし、緩衝液G(25mMトリス、pH 7.5、0.5M NaCl、0.1%ツイーン80、1mM EDTA)に対して透析した。 精製の結果を表7に示すが、ここで単位(unit)は、1時間当たりのPAF加水分解のμmol数に等しい。
【0095】
【表7】
得られた精製産物は、43kDaのマーカーの下に単一の強いバンドとして、直接その上下に染まっている拡散した染色部分とともに、SDS-PAGE上に現れた。 組換物質は、実施例1に記載の血漿からのPAF-AH調製物に比較すると、有意に、より純粋であり、より大きな比活性を呈する。
【0096】
本発明により企図されるさらに別の精製手法は、以下の、菌の溶菌、清澄化(clarification)、および第1のカラム工程を伴う。 菌体を、溶菌用緩衝液(25mMトリス、pH 7.5、150mM NaCl、1%ツイーン80、2mM EDTA)中に1:1に希釈する。 冷却したマイクロフルイダイザー中に、15,000〜20,000psiにて材料を3回通すことにより溶菌を実施し、その結果99%を越える細胞の破壊を引き起こさせる。 溶菌物は、希釈用緩衝液(25mMトリス、pH 8.5、1mM EDTA)中に1:20に希釈し、次いで、Q-セファロースビッグビーズクロマトグラフィーメディア(ファルマシア社)を詰めて、25mMトリス、pH 8.5、1mM EDTA、0.015%ツイーン80で平衡化したカラムに適用する。 溶出液を、25mM MES、pH5.5、1.2M 硫酸アンモニウム、1mM EDTA中に1:10に希釈し、次いで、同じ緩衝液に平衡化したブチルセファロースクロマトグラフィーメディア(ファルマシア社)に適用する。
【0097】
25mM MES、pH 5.5、0.1%ツイーン80、1mM EDTA中にPAF-AH活性が溶出される。
【0098】
B:組換えPAF-AHの活性
PAFアセチルヒドロラーゼの最も顕著な特性は、基質のsn-2位に短い残基を持つ基質に対する、著しい特異性である。 この厳密な特異性によって、PAFアセチルヒドロラーゼがPLA2の他の型から区別される。 かくして、組換えPAF-AHがsn-2位に長鎖脂肪酸を持つリン脂質を分解するか否かを判定するため、1-パルミトイル-2-アラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(アラキドノイルPC)の加水分解を分析した。 その理由は、この物質が、よく特徴付けをなされたPLA2の型に対する好ましい基質であるからである。 本来のPAF-AHを用いた以前の研究から予測されるように、組換えPAF-AHとともにインキュベーションした場合、このリン脂質は加水分解を受けなかった。 追加の実験で、アラキドノイルPCを、0〜125μMの範囲の濃度で標準のPAF加水分解アッセイに入れ、それが組換えPAF-AHによるPAFの加水分解を阻害するかどうかを判定した。 PAFの濃度より5倍大きい、最も高い濃度のPAF-AHにおいてさえ、PAF加水分解は何等阻害されなかった。
【0099】
かくのごとく、組換えPAF-AHは、本来の酵素と同じ基質特異性を呈し、長鎖の基質は認識しないものである。
【0100】
さらに、組換えPAF-AH酵素は、sn-2脂肪酸の酸化的切断がなされていた酸化型リン脂質(グルタロイルPC)を速やかに分解した。 本来の血漿PAF-AHは、カルシウム非依存性、およびスルフヒドリル基を修飾する化合物またはジスルフィイドを開裂せしめる化合物に対する耐性を含めた、他のホスフォリパーゼとPAF-AHとの区別がなされる種々の他の特性を有する。
【0101】
本来のおよび組換え血漿PAF-AH酵素のいずれも、DFPに対して感受性を有し、このことによりそれらの活性部位の一部がセリンを含んでなることが示唆される。 本来の血漿PAFアセチルヒドロラーゼの希有の特徴は、それが循環しているリポタンパク質と強固に会合しており、そしてその触媒活性がリポタンパク質との環境により影響を受けることである。
【0102】
本発明の組換えPAF-AHをヒト血漿(内在性酵素活性を除くためにDFPで前処理したもの)とともにインキュベーションすると、本来の活性体と同様に低密度および高密度リポタンパク質と会合した。 低密度リポタンパク質の修飾は、粥腫において観察されるコレステロールの沈着に必須であること、および脂質の酸化がこの過程における初発因子であることの実質的な証拠があるので、この結果は重要である。 PAF-AHは、in vitroで酸化条件下に低密度リポタンパク質を修飾から保護し、そしてそのような役割をin vivoで果たしているかもしれない。 したがって、炎症を消散させるためのみならず、アテローム性動脈硬化プラーク(atherosclerotic plaque)におけるリポタンパク質の酸化の抑制にも、PAF-AHの投与が指示される。
【0103】
これらの結果はすべて、cDNAクローンsAH 406-3がヒト血漿PAFアセチルヒドロラーゼの活性を有するタンパク質をコードしていることを確証するものである。
【0104】
実施例10
他の種々の組換えPAF-AH産物を、大腸菌内で発現させた。 それらの産物には、単一のアミノ酸変異を有するPAF-AH誘導体およびPAF-AH断片が含まれる。
【0105】
A:PAF-AHアミノ酸置換産物
PAF-AHは、リン脂質であるPAFを加水分解するので、リパーゼである。 PAF-AHと他の特徴付けがなされたリパーゼの間に明らかな相対的類似性は存在しない一方で、構造的に特徴付けがなされたリパーゼの比較において見出される保存された残基がある。 1つのセリンが、活性部位のメンバーとして同定されている。 そのセリンは、アスパラギン酸残基およびヒスチジン残基とともに、そのリパーゼの活性部位を呈する触媒活性3残基群を形成する。 3つの残基は、一次タンパク質配列においては近接していないが、構造的研究により、三次元空間においてはその3つの残基が近接していることが証明されている。
【0106】
哺乳動物リパーゼの構造の比較によれば、Asp残基が、通常は、活性部位のセリンに対して24アミノ酸だけC-末端側にあることが示唆されている。 加えて、ヒスチジンは、通常、活性部位のセリンに対し、109〜111アミノ酸だけC-末端側にある。
【0107】
部位特異的突然変異およびPCRによって、ヒトPAF-AHコード配列の個々のコドンを、アラニン残基をコードするように変えて、大腸菌内で発現させた。 以下の表8に示すように、ここで例えば「S108A」の略語は108位のセリン残基がアラニンに変えられていることを示すのであるが、Ser273、Asp296、またはHis351の点突然変異により完全にPAF-AH活性が損なわれる。 活性部位残基間の距離は、PAF-AH(SerからAspは23アミノ酸、SerからHisは78アミノ酸)と他のリパーゼについては類似している。 これらの実験により、Ser273、Asp296およびHis351が、活性に対して重要な残基であり、それゆえに触媒活性3残基群の残基の候補となりそうそうであることが立証される。 システインは、ジスルフィド結合を形成することができるので、タンパク質の機能的な完全性にしばしば重要である。
【0108】
血漿PAF-AHは5つのシステインを含んでいる。 5つのうちのいずれかが酵素活性に重要であるかを判定するために、各システインを個々にセリンに突然変異せしめ、その結果得られた突然変異体を大腸菌内で発現させた。 以下の表8に示すように、Cys229またはCys291をセリンに変換することにより、PAF-AH活性はすべては喪失されないが、有意に喪失されるという結果となった。 よって、これらのシステインは、完全なPAF-AH活性にとって必要であると思われる。 他の点突然変異は、PAF-AH触媒活性にほとんど、または全く効果を有しなかった。
【0109】
表8において、「++++」は約40〜60 U/ml/OD600の野生型PAF-AH活性を表し、「+++」は、約20〜40 U/ml/OD600活性を表し、「++」は、約10〜20 U/ml/OD600活性を表し、「+」は、1〜10 U/ml/OD600活性を表し、そして、「-」は、<1U/ml/OD600活性を示す。
【0110】
【表8】
B:PAF-AH断片産物
種々の時間にわたりエキソヌクレアーゼIIIを用いてPAF-AHコード配列の3'端を消化し、その後、すべての3つの読み取り枠における終止コドンをコードするプラスミドDNAに、短くしたコード配列を連結することにより、C-末端側欠失体を調製した。 10の異なる欠失体構築体を、DNA配列分析、タンパク質発現、およびPAF-AH活性により特徴付けした。 21〜23のC-末端アミノ酸を除去すると、触媒活性が大幅に低減し、52残基を除去すると完全に活性が損なわれた。 図3を、参照されたい。
【0111】
PAF-AHのアミノ末端領域でも、同様の欠失を行った。 N-末端側に大腸菌チオレドキシンを付加したPAF-AHとの融合体を調製して、一貫して高レベルにPAF-AH活性体を発現させることを容易ならしめた(ラ バリー(LaVallie)ら、Bio/technology、11巻、187〜193頁、(1993))。 自然にプロセッシングを受けたN-末端(Ile42)から19アミノ酸を除去すると、融合タンパク質における酵素活性は完全に損なわれた。 図3を、参照されたい。
【0112】
実施例11
ヒト組織におけるヒト血漿PAF-AH mRNAの発現パターンの予備分析を、ノザンブロットハイブリダイゼーションによって行った。
【0113】
RNAは、RNAスタット(Stat) 60(テル−テスト(Tel-Test)"B"、フレンズウッド(Friendswood)、テキサス州)を用いて、ヒト大脳皮質、心臓、腎臓、胎盤、胸腺および扁桃腺から調製した。 加えて、ホルボールエステルである、ホルボールミリスチルアセテート(PMA)を用いてマクロファージ様表現型に分化誘導した、ヒト造血前駆体様細胞系、THP-1(ATCC TIB 202)からRNAを調製した。 組織のRNAならびに、誘導前および誘導して1〜3日後の前骨髄球細胞THP-1細胞系から調製したRNAは、1.2%アガロースホルムアルデヒドゲルで電気泳動を行い、引き続き、ニトロセルロース膜に転写した。 全長のヒト血漿PAF-AH cDNAであるsAH 406-3は、ランダムプライミングによりラベリングを行い、ライブラリースクリーニングについて実施例3に記載したと同様の条件下で膜にハイブリダイズさせた。
【0114】
初期の結果では胸腺、扁桃腺、およびより低い度合いで胎盤のRNA中の1.8 kbのバンドに、PAF-AHプローブがハイブリダイズすることが示唆された。
【0115】
ヒト血液から単離した単球におけるPAF-AH RNAの発現、および培養中にそれらがマクロファージへと自発的に分化する間のPAF-AH RNAの発現も調べた。 新しい単球ではほとんど、または全くRNAが検出されなかったが、マクロファージへと分化する間に発現が誘導されそして維持された。 分化している細胞の培養培地においてPAF-AH活性の相伴う蓄積があった。 ヒト血漿PAF-AH転写物の発現は、1日目にTHP-1細胞RNAでも観察されたが、誘導後3日目には観察されなかった。 THP-1細胞は、基底状態ではPAF-AHに対するmRNAを発現していなかった。
【0116】
実施例12
In situハイブリダイゼーションによって、ヒトおよびマウス組織中のPAF-AHの発現を調べた。
【0117】
ヒトの組織は、National Disease Research Interchangeおよびthe Cooperative HumanTissue Networkから得た。 正常マウス脳および脊髄、ならびにEAEステージ3マウスの脊髄は、S/JLJマウスから採取した。 正常S/JLJマウスの胎児は、受胎後11〜18日目に採取した。
【0118】
組織切片を、少量のOCT化合物(マイルス社(Miles, Inc.,)、エルクハート(Elkhart)、インディアナ州)とともに、ティッシュ・テク(Tissue Tek)IIクリオモールド(cryomold)(マイルスラボラトリーズ社(Miles Laboratories, Inc.,)、ナパービル(Naperville)、イリノイ州)内に置いた。 それらはクリオモールド内の中心に置き、クリオモールドにOCT化合物を満たし、その後、2-メチルブタン(C2H5CH(CH3)2、アルドリッチケミカルカンパニー社(AldrichChemical Company, Inc.,)、ミルウォーキー、ウィスコンシン州)入りの容器に入れて、そして容器は液体チッ素中に入れた。 クリオモールド内の組織およびOCT化合物が一旦凍結すると、切断するまで−80℃にてそのブロックを保存しておいた。
【0119】
組織ブロックを6μmの厚さに切断し、ベクタボンド(Vectabond)(ベクターラボラトリーズ社(Vector Laboratories, Inc.,)、バーミンガム、カリフォルニア州)を被覆したスライドに固着させ、−70℃にて保存し、そして、それらを暖めてかつ凝結(condensation)を除去するために、およそ5分間、50℃に置いて、その後、4℃にて、20分間、4%パラホルムアルデヒド中で固定して、70%、95%、100%エタノールで各等級につき1分間づつ4℃にて脱水して、次いで、室温で30分間風乾させた。 70%ホルムアミド/2×SSC中で70℃にて2分間切片を変性させ、2×SSCで2度すすぎ、脱水した後、30分間風乾した。 In vitro RNA転写35S-UTP(アマーシャム社)取り込みによって、PAF-AH遺伝子の内部の1KbのHindIII断片(配列番号:7のヌクレオチド308〜1323)由来のDNAから作り出された、放射能で標識した単鎖のmRNAを用いて、組織をin situでハイブリダイズさせた。 プローブは、250〜500bpの種々に異なる長さのものを用いた。 ハイブリダイゼーションは、50℃にて一晩(12〜16時間)、35S-標識リボプローブ(6×105cpm/切片)、tRNA(0.5μg/切片)およびジエチルピロカーボネート(depc)処理した水を、ハイブリダイゼーション用緩衝液に加え、50%ホルムアミド、0.3M NaCl、20mM トリス、pH 7.5、10%デキストラン硫酸、1×デンハーツ(Denhardt's)溶液、100mMジチオスレトール(DTT)および5mM EDTAという最終濃度となるようにした。 ハイブリダイゼーションの後、4×SSC/10mM DTTで室温にて1時間、その後、50%ホルムアミド/1×SSC/10mM DTTで60℃にて40分間、2×SSCで室温にて30分、さらに0.1×SSCで室温にて30分、切片を洗浄した。 切片を脱水し、2時間風乾してコダックNTB2写真用乳濁液(photographic emulsion)で被覆し、2時間風乾して現像(完全な暗所で4℃にて保管した後)して、ヘマトキシリン/エオシンで対比染色した。
【0120】
A:脳
小脳: マウスおよびヒトのいずれの脳においても、小脳のプルキニエ細胞層内、ならびに歯状核(小脳内の4つの深核(deep nuclei)の1つ)内の個々の神経細胞体上に、強いシグナルが見られた。 加えて、顆粒球内の個々の細胞および灰白質の分子層内にシグナルが見られた。
【0121】
海馬: ヒト海馬切片では、神経細胞体らしき、切片全体にわたる個々の細胞が強いシグナルを示した。
【0122】
脳幹: ヒトおよびマウスいずれもの脳幹切片上には、灰白質内の個々の細胞に強いシグナルが認められた。
【0123】
皮質: (大)脳、後頭、および側頭皮質から取ったヒト皮質切片上、ならびにマウス全脳切片上において、皮質全体の個々の細胞が、強いシグナルを示した。 皮質の異なる層における発現パターンに、差異はないように思われた。 これらのin situハイブリダイゼーションの結果は、ノザンブロッティングによって得られる(大)脳皮質に対する結果とは異なっている。 ノザンブロッティングの感度に比べてin situハイブリダイゼーションの感度の方がより高いことからこの差異が生じるようである。
【0124】
脳下垂体: ヒト組織切片の下垂体前葉内の個々の分散細胞上に、幾分弱いシグナルが見られた。
【0125】
B:ヒト結腸
健常およびクローン病の結腸のいずれも、切片の粘膜内に存在するリンパ凝集体(lymphatic aggregation)内にシグナルを呈し、シグナルのレベルは、クローン病患者からの切の方がわずかに高かった。 クローン病患者の結腸では、固有層にも強いシグナルが見られた。 同様に、クローン病患者の虫垂切片において高レベルのシグナルが観察され、一方で、健常人の虫垂ではより低いものの検出可能なシグナルを呈した。 潰瘍性大腸炎患者からの切片は、リンパ凝集体にも、固有層にも明らかなシグナルを示さなかった。
【0126】
C:ヒト扁桃腺および胸腺
扁桃腺の胚中心の中および胸腺の中の個々の細胞の分散された群に、強いシグナルが見られた。
【0127】
D:ヒトリンパ腺
健常な提供者から採取したリンパ腺切片上には強いシグナルが観察されたが、一方で、敗血病性ショックの提供者からのリンパ節の切片においては、幾分弱いシグナルが観察された。
【0128】
E:ヒト小腸
健常人およびクローン病患者の小腸のいずれも、パイエル集腺および固有層における切片で弱いシグナルを呈し、クローン病患者の組織でのシグナルの方がわずかに高かった。
【0129】
F:ヒト脾臓および肺
脾臓(健常および脾臓膿瘍切片)または肺(健常および気腫切片)組織のいずれにおいても、シグナルは観察されなかった。
【0130】
G:マウス脊髄
正常およびEAEステージ3の脊髄のいずれにおいても、脊髄の灰白質内に強いシグナルがあり、その発現はEAEステージ3の脊髄でわずかに高かった。 EAEステージ3の脊髄において、おそらくは、浸潤マクロファージおよび/または他の白血球であろうが、白質内の細胞および血管周囲のカフス(cuffs)でシグナルを示し、これは正常の脊髄にはなかった。
【0131】
F:マウス胎児
11日目のマウス胎児において、第4脳室内の中枢神経系でシグナルが明瞭であり、脳および脳幹へと発達する間の胎児の経時的変化にわたって、そのシグナルは一定のままであった。 胎児が成熟するにつれ、脊髄内の中枢神経系(12日目)、初期皮質およびガッセル半月神経節(14日目)、および下垂体(16日目)でシグナルが明瞭となった。 脊髄を残す神経の末梢神経系(14または15日目の初め)で、シグナルが観察され、さらに17日目に、胎児の頬鬚(whiskers)の周囲に強いシグナルが出現した。 14日目には肝臓および肺に、腸(15日目の初め)に、ならびに口/喉の後部(posterior portion)(16日目の初め)においても、発現が見られた。 18日目までには、発現パターンは皮質、後脳(小脳および脳幹)、脊髄の腰椎領域を残す神経、口/喉の後部、肝臓、腎臓へと分化していき、肺および腸においてかなり弱いシグナルが見られた。
【0132】
G:要約
扁桃腺、胸腺、リンパ腺、パイエル集腺、虫垂および結腸リンパ凝集体におけるPAF-AHmRNAの発現は、これらの組織に食細胞性および抗原作用(antigen-processing)細胞として役立つ組織マクロファージが存在するので、可能性のある優勢な、PAF-AHのin vivoでの源はマクロファージであるという結論に一致する。 炎症のある組織におけるPAF-AHの発現は、単球由来のマクロファージの役割が、炎症を消散させることであるという仮説に一致するであろう。 PAF-AHはPAFおよび前炎症性リン脂質を不活性化し、かくしてこれらのメディエーターにより開始せしめられる結果生じる炎症カスケードをダウンレギュレートすることが期待されるであろう。
【0133】
PAFは、脳組織内全体で検出されており、培養しているラット脳顆粒球細胞によって分泌されている。 In vitroおよびin vivoでの実験により、PAFは神経組織内の特異的な受容体に結合し、そしてカルシウムの動員、転写活性化遺伝子のアップレギュレーション、および神経前駆細胞系であるPC12の分化などの、機能的変化および表現型の変化を誘導することが証明されている。 これらの観察により、脳内でのPAFについての生理学的役割が示唆され、そして、これに一致して、海馬の組織切片培養物とPAF誘導体およびPAF拮抗剤を用いた最近の実験により、海馬の長期協力作用(long term potentiation)における重要な逆行性(retrograde)メッセンジャーとしてPAFが関わっていることが示されている。
【0134】
それ故、炎症におけるその病理学的作用に加えて、PAFは通例の神経シグナルプロセスに関与しているようである。 脳内でのPAF-AHの細胞外の発現は、PAFが媒介するシグナル発生の持続時間および強さを制御するのに役立つかもしれない。
【0135】
実施例13
組換えヒト血漿PAF-AHに特異的なモノクローナル抗体を、抗原として大腸菌が生産したPAF-AHを用いて作った。
【0136】
マウス#1342に、0日目、19日目および40日目に、組換えPAF-AHを注射した。 融合前の追加抗原刺激のため、抗原を含むPBSをマウスに注射し、4日後にマウスを屠殺してその脾臓を無菌的に取り出し、無血清のRPMI、10ml中に入れた。 2mM L-グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム、100単位/ml ペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシン(RPMI)(ギブコ(Gibco)社、カナダ)を補った、無血清のRPMI 1640の中に沈めた2枚の顕微鏡スライドガラスの氷結させた端部間でその脾臓を粉砕することにより、単一細胞懸濁液を形成させた。 細胞懸濁液は、無菌の70-メッシュ ナイテックス(Nitex)セルストレーナー(ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)社、パーシパニー(Parsippany)、ニュージャージー州)を通して濾過し、200gで5分間遠心し、そのペレットを20mlの無血清RPMI中に再懸濁することにより2回の洗浄を行った。 投薬を受けたことがない3匹のBalb/cマウスから取った胸腺細胞を、同様に調製した。 11%ウシ胎児血清(FBS)(ハイクローンラボラトリーズ社(Hyclone Laboratories, Inc.,)、ロガン(Logan)、ユタ州)を含むRPMI中で、融合前の3日間対数増殖期に保ったNS-1ミエローマ細胞を、200gで5分間遠心して、ペレットを前の段落に記載したように2回洗浄した。
【0137】
1×108の脾臓細胞を、2.0×107のNS-1細胞と合わせ、遠心して、上清は吸引した。
【0138】
細胞ペレットを、チューブを軽く叩いて動かして(dislodged)、37℃の PEG 1500(75mMヘペス、pH 8.0中、50%)(ベーリンガーマンハイム(BoehringerMannheim)社)1mlを、1分間にわたって撹拌しながら添加し、引き続き、7分間にわたって7mlの無血清RPMIを添加した。 追加に8mlのRPMIを添加し、細胞を200gで10分間遠心した。 上清を廃棄した後、ペレットを、15% FBS、100μM ヒポキサンチンナトリウム、0.4μM アミノプテリン、16μM チミジン(HAT)(ギブコ社)、25単位/ml IL-6(ベーリンガーマンハイム社)、および1.5×106胸腺細胞/mlを含むRPMI 200ml中に再懸濁して、10枚のコーニング(Corning)平底96ウェル組織培養プレート(コーニング社、コーニング、ニューヨーク州)の中に播種した。 融合後2、4および6日目に、100μlの培地を融合プレートのウェルから除去し、新鮮な培地に置き換えた。 8日目に、ELISAによって融合をスクリーニングし、組換えPAF-AHに結合するマウスIgGの存在について調べた。 イムロン(Immulon)4プレート(ダイナテック(Dynatech)社、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)を、25mM トリス、pH 7.5中に希釈した組換えPAF-AH、100ng/ウェルで、37℃にて2時間被覆した。 被覆用溶液を吸引し、200μl/ウェルのブロッキング溶液(CMF-PBS中に希釈した0.5%フィッシュスキンゼラチン(シグマ(Sigma)社))を添加して、37℃にて30分間インキュベーションした。
【0139】
0.05%ツイーン20を含むPBS(PBST)でプレートを3回洗浄し、50μlの培養上清を加えた。
【0140】
37℃にて30分間インキュベーションし、前記のように洗浄した後、PBSTで1:3500に希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ複合ヤギ抗マウスIgG(fc)(ジャクソンイムノリサーチ(Jackson ImmunoResearch)社、ウェストグローブ(West Grove)、ペンシルベニア州)50μlを添加した。 前記のようにプレートをインキュベーションし、PBSTで4回洗浄して、100mM クエン酸、pH 4.5中、1mg/ml o-フェニレンジアミン(シグマ社)および0.1μl/mlの30% H2O2で構成される基質100μLを添加した。 50μlの15% H2SO4を添加して、5分で呈色反応を停止した。 プレートリーダー(ダイナテック社)でA490を読み取った。
【0141】
選択したフュージョンウェル(fusion well)を、96ウェルプレートの中に希釈し、5日後にコロニー数/ウェルを目視的に評価することにより、2回のクローン化を行った。
【0142】
クローン化したハイブリドーマは、90D1E、90E3A、90E6C、90G11D(ATCC HB 11724)、および90F2D(ATCC HB 11725)であった。
【0143】
ハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体は、イソストリップ(Isostrip)システム(ベーリンガーマンハイム社、インディアナポリス、インディアナ州)を用いてイソタイプを判別した(isotyped)。 その結果、融合90からのハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体がすべてIgG1であることが示された。
【0144】
実施例14
ラット足の浮腫モデル(ヘンリークス(Henriques)ら、Br. J.Pharmacol.,106巻、579〜582頁、(1992))を用いて、急性炎症に対する本発明の組換えPAF-AHのin vivoでの治療効果を評価するために、実験研究を行った。 これらの研究の結果、PAF-AHがPAFで誘発した浮腫を阻止することが立証された。 2つの市販されているPAFアンタゴニストと、PAF-AHの有効性とを比較するために、平行して実験を行った。
【0145】
A:PAF-AHの調製
PAF-AH発現ベクターpuc trp AHで形質転換した大腸菌を、マイクロフルイダイザー内で溶菌し、固形物は遠心により除いて、細胞上清をS-セファロースカラム(ファルマシア社)に負荷した。 50mM NaCl、10mM CHAPS、25mM MESおよび1mM EDTA、pH 5.5からなる緩衝液でカラムを良く洗浄した。 緩衝液のNaCl濃度を1Mにまで上げることによってPAF-AHを溶出した。 その後、ブルーセファロースカラム(ファルマシア社)を用いたアフィニティークロマトグラフィーを、追加の精製工程として用いた。 ブルーセファロースカラムにPAF-AH調製物を負荷する前に試料を1:2に希釈して、0.5MにまでNaCl濃度を下げ、さらにpHを7.5に調整した。 0.5M NaCl、25mMトリス、10mM CHAPSおよび1mM EDTA、pH 7.5からなる緩衝液でブルーセファロースカラムを良く洗浄した後、NaCl濃度を3.0Mにまで上げることでPAF-AHを溶出した。
【0146】
この方法で単離したPAF-AHの純度は、通常、SDS-PAGEにより評価すると95%であり、活性は5000〜10,000 U/mlの範囲内にあった。 各PAF-AH調製物に対してなされた追加のクオリティーコントロールとして、エンドトキシンレベルおよび新鮮に獲得したラット赤血球への溶血活性の測定が挙げられた。 25mMトリス、10mM CHAPS、0.5M NaCl、pH 7.5を含む緩衝液が、酵素の保管用媒体としてだけでなく、投与のための担体として機能した。
【0147】
実験に用いた投与量は、実験直前に行った酵素活性分析に基づくものであった。
【0148】
B:浮腫の誘発
180〜200グラム重量の、6〜8週令の雌性ロングエバンス(Long Evans)ラット(チャールスリバー(Charles River)、ウィルミントン(Wilmington)、マサチューセッツ州)を、すべての実験に用いた。 実験操作の前に、動物1匹当たり、1回の投与当たり、およそ2.5 mgのケタセット(Ketaset)(フォートドッジラボラトリーズ(Fort Dodge Laboratories)社、フォートドッジ、アイオワ州)、1.6mgのロンパン(Rompun)(マイルス社、シャウニーミッション(Schawnee Mission)、カンサス州)、0.2mgのエースプロマジン(Ace Promazine)(アベコ(Aveco)社、フォートドッジ、アイオワ州)にて、麻酔用ケタセット、ロンパンおよびエースプロマジンの混合物の皮下投与を用いて動物に麻酔をかけた。 PAFまたはザイモサンのいずれかを以下のように投与することにより、足に浮腫を誘発させた。 PAF(シグマ#P-1402)は、クロロホルム/メタノール(9:1)中で−20℃にて保管している19.1 mMの貯蔵溶液から、各実験用に新たに調製した。 窒素下で乾燥して必要とされる容量にまで減じ、150mM NaCl、10mMトリス、pH 7.5、および0.25% BSAを含有する緩衝液で1:1000に希釈し、次いで5分間超音波処理した。 動物に、後足の肉趾間へ、PAF(最終投与量0.96ナノモル)50μlを皮下投与し、1時間後、実験によっては2時間後にも、浮腫を評価した。 ザイモサンA(シグマ#A-8800)は、PBS中、10mg/mlの懸濁液として、各実験のために新たに調製した。 動物に、後足の肉趾間へ、ザイモサン(最終投与量500μg)50μlを皮下投与し、2時間後に浮腫を評価した。
【0149】
PAFまたはザイモサン投与直前に、およびPAFまたはザイモサン刺激後の示された時点で、足の容量を測定することにより、浮腫を定量化した。 浮腫は、ミリリットルでの足の容量の増大として表した。 水に漬けた足で置き換わる水の容量を計るプレチスモメーター(UGOバシレ(Basile)、モデル#7150)を用いて、麻酔をかけた動物の容量置換測定を行った。 ある時点と次の時点とが、足を漬けることで比較できることを保証するために、後足の毛の生え際と踵の境界に消えないインクで印を付けた。 この技法を用いて同じ足を繰り返し測定すると、精度が5%以内であることが示された。
【0150】
C:PAF-AH投与経路および投与量
PAF-AHは、足の肉趾間へ局所的に、または尾静脈内への静脈内(IV)注射により全身に、注射した。 局所投与の場合、右後足の肉趾間皮下に100μlのPAF-AH(4000〜6000 U/ml)をラットに投与した。 左足は、100μlの担体(緩衝化した塩溶液)を投与することにより、対照として用いた。 PAF-AHの全身投与のために、尾静脈内より、300μl担体中に示したユニット数のPAF-AHを含むものをラットに静脈内投与した。 対照群は、尾静脈内に静脈内注射で適切な容量の担体を与えた。
【0151】
D:PAF-AHの局所投与
ラット(N=4)に、右足肉趾間へ100μlのPAF-AH(4000〜6000 U/ml)を皮下注射した。
【0152】
左足には100μlの担体(緩衝化した塩溶液)を注射した。 他の4匹のラットには担体のみを注射した。 すべてのラットに、直ちに足への皮下注射を介してPAFで刺激し、そして、刺激後1時間で足の容量を評価した。 図4において、各処置群について足の容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表され、PAFで誘発した足の浮腫が、PAF-AHの局所投与により阻止されることを示す。 PAF刺激の前にPAF-AHの局所処置を受けた群は、対照の注射を行った群に比べて炎症が低減することが示された。 担体で処置した対照群で足の容量の増大が0.63ml±0.14(SEM)であるのに比して、PAF-AH群では0.08ml±0.08(SEM)認められた。 担体のみを足に注射した動物では足の容量の増大を呈しなかったので、足の容量の増大は、PAFの注射の直接的な結果である。
【0153】
E:PAF-AHの静脈内投与
ラット(1群当たりN=4)に、PAF刺激の前15分に、PAF-AH(300μl担体中、2000 U)または担体単独を用いて静脈内へ前処置を行った。 PAF刺激の後1時間および2時間後に、浮腫を評価した。 図5において、各処置群について容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表され、PAFで誘発した足の浮腫が、刺激後1および2時間で、PAF-AHの静脈内投与により阻止されることを示す。 静脈内経路によって2000 UのPAF-AHを与えられた群は、2時間の経時変化にわたり炎症が低減することが示された。 PAF-AH処置群では容量の増大の平均値は0.10ml±0.08(SEM)であったが、これに対して、担体で処置した対照群では0.56ml±0.11(SEM)であった。
【0154】
F:PAFまたはザイモサンで誘発された浮腫におけるPAF-AHによる保護の比較
ラット(1群当たりN=4)に、PAF-AH(300μl担体中、2000 U)または担体単独を用いて静脈内へ前処置を行った。 前処置後15分に、前記群にPAFまたはザイモサンAを投与し、それぞれ1時間および2時間後に、足の容量を評価した。 図6に示すように、ここで各処置群について容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表され、PAF-AH(2000 U)の全身投与は、PAFで誘発した足の浮腫を低減させるのに有効であったが、ザイモサンで誘発した浮腫は阻止しえなかった。 0.08±0.02の容量の増大の平均値がPAF-AH処置群において認められ、これに対し、対照群については0.49 ±0.03であった。
【0155】
G:PAF-AHによる保護の有効投与量の検討
2つの別個の実験において、ラットの群(1群当たりN=3〜4)に、PAF刺激の前15分に、300μlの容量で、PAF-AHの連続的な希釈液または担体の対照を用いて静脈内前処置を行った。 両足ともにPAFで刺激を行い(前記の通り)、1時間後に浮腫を評価した。
【0156】
図7にて、各処置群について容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表され、PAF-AHの投与量を増大させて注射するにつれて、ラットにおけるPAFで誘発した浮腫からの保護は増大することが示される。 実験において、静脈内経路により与えられたPAF-AHのID50は、ラット1匹当たり40Uと80Uとの間であることが見出された。
【0157】
H.投与後の時間の機能としてのPAF-AHのin vivoでの有効性
2つの別個の実験において、2群のラット(1群当たりN=3〜4)に、PAF-AH(300μl担体中、2000 U)または担体単独を用いて静脈内へ前処置を行った。 投与後に、PAF-AH投与の後15分から47時間の範囲内の時点で、ラットの群にPAFを投与した。 PAF刺激の1時間後に、浮腫を評価した。 図8に示すように、ここで各処置群について容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表され、2000 UのPAF-AHを投与すると、少なくとも24時間、PAFで誘発した浮腫からラットが保護される。
【0158】
I:PAF-AHの薬物動態学
4匹のラットに、300μlの容量で静脈内注射により、2000 UのPAF-AHを投与した。 種々の時点で血漿を集め、4℃にて保存し、二重mAb捕獲アッセイ(double mAb capture assay)を用いたELISAによってPAF-AHの血漿中の濃度を測定した。 すなわち、モノクローナル抗体90G11D(実施例13)を50mM炭酸緩衝液、pH 9.6で100 ng/mlに希釈し、そして4℃にて一晩、イムロン4 ELISAプレートに固定化した。 0.05%ツイーン20を含有するPBSで良く洗浄した後、0.5%フィッシュスキンゼラチン(シグマ社)を含むPBSで、室温にて1時間、プレートをブロッキングした。 洗浄したELISAプレートに、15mM CHAPSを含むPBSで希釈した血清試料をデュプリケートで添加し、室温にて1時間インキュベーションした。
【0159】
洗浄後、モノクローナル抗体90F2D(実施例13)のビオチン複合体をPBSで5μg/mlの濃度に希釈してウェルに加え、次いで室温にて1時間インキュベーションした。 洗浄の後、エクストラアビジン(ExtraAvidin)(シグマ社)の1:1000希釈液を50μlウェルに加え、室温にて1時間インキュベーションした。 洗浄後、基質としてOPDを用いてウェルを現像し、定量した。
【0160】
その後、標準曲線から酵素活性を計算した。 図9で、データのポイントは平均値±SEMを表すが、180〜200グラムのラットについて5〜6mlの血漿に基づいて予測された濃度、平均値=374 U/ml±58.2に、血漿の酵素レベルが1時間で到達したことが示される。 1時間を越えると、血漿中のレベルは徐々に減衰し、24時間で血漿中の濃度の平均値は19.3U/ml±3.4に達するが、それでもなお、酵素的アッセイによりおよそ4 U/mlであることが見出されている内在性のラットPAF-AHレベルよりもかなり高い。
【0161】
J:PAFアンタゴニストに対するPAF-AHの有効性
以下の3つの潜在力を有する抗炎症剤、腹腔内(IP)投与(200μl EtOH中、2mg)されるPAFアンタゴニストCV3988(バイオモル(Biomol) #L-103)、腹腔内投与(200μl EtOH中、2mg)されるPAFアンタゴニストのアルプラゾラム(Alprazolam)(シグマ #A-8800)、または静脈内投与されるPAF-AH(2000 U)のうちの1つを用いて、ラットの群(1群当たりN=4)を前処置した。 対照のラットには、300μl容量の担体を静脈内注射した。 PAFアンタゴニストは、エタノールに溶解されているので、腹腔内に投与した。 CV3988またはアルプラゾラムを注射したラットは、PAFアンタゴニストが循環系の中に入ることを許容するよう、PAFアンタゴニストの投与後30分にPAF刺激を施し、一方で、PAF-AHおよび担体で処置したラットは、酵素の投与後15分で刺激を施した。 確立されたPAFアンタゴニストのCV3988およびアルプラゾラムにより成し遂げられるよりはるかに、PAFで誘発した浮腫が、PAF-AHを注射したラットで低減されることが示された。 図10において、各処置群について容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表されている。
【0162】
要約すると、PAF-AHは、in vivoでPAFにより媒介される浮腫を阻止するうえで有効である。 PAF-AHの投与は、局所投与または静脈内注射による全身投与とすることができる。
【0163】
投与量の研究で、160〜2000 U/ラットの範囲の静脈内注射により、PAFが介する炎症を劇的に低減させることが見出され、また、ID50の量は40〜80 U/ラットの範囲にあるようである。 180〜200グラムのラットに対する血漿容量に基づく計算により、25〜40 U/mlの範囲の血漿中の濃度で、PAFで誘発した浮腫が阻止されるはずであると予測される。 この予測は、予備的な薬物動態学研究により支持される。 2000 UのPAF-AH投与量で、少なくとも24時間の間、PAFが媒介する浮腫の阻止に有効であることが見出された。 PAF-AHの投与後24時間で、酵素の血漿中の濃度はおよそ25 U/mlであることが見出された。 PAF-AHは、試験を行った2つの既知のPAFアンタゴニストよりもさらに有効に、PAFで誘発した浮腫を阻止することが見出された。
【0164】
まとめると、これらの結果により、PAFで誘発した炎症をPAF-AHが有効に阻止し、PAFが第1のメディエーターである疾患においてPAF-AHは治療的価値を有するかもしれないことが立証される。
【0165】
実施例15
本発明の組換えPAF-AHを、第2のin vivoモデルであるPAFで誘発した胸膜炎において試験を行った。 PAFが胸膜空間へと導入された際に脈管の漏泄を誘発することが、すでに報告されている(ヘンリークら、前出)。 雌性ラット(チャールスリバー、 180〜200g)に対して、0.9%とした200μlの1%エバンスブルー染色液とともに、300μlの組換えPAF-AH(1500μmol/ml/時、実施例14に記載の方法で調製した)または等量の対照緩衝液を、尾静脈に注射した。 15分後に、ラットの胸膜空間にPAF(2.0 nmol)の100μlを注射した。 PAF刺激の1時間後にラットを屠殺し、ヘパリン処理したリン酸緩衝化生理食塩水3mlで胸腔を洗浄することで、胸膜液を回収した。 脈管の漏泄の程度を、 620nmの吸光度で定量した胸膜空間でのエバンスブルー染色液量によって定量した。 PAF-AHで前処置されたラットが、対照動物よりも脈管の漏泄の程度がかなり小さい(80%以上の炎症の低減が認められた)ことが判明した。
【0166】
前記の結果は、本発明の組換えPAF-AH酵素の、胸膜炎に罹患した被検者の治療効果を支持するものである。
【0167】
実施例16
本発明の組換えPAF-AHは、抗原誘発した好酸球モデルでの有効性についても試験を行った。 気道での好酸球の蓄積は、喘息、鼻炎および湿疹を引き起こす後期免疫応答の特徴である。 BALB/cマウス(チャールスリバー) は、2週間間隔で行った、4mgの水酸化アルミニウム(イムジェクト・アルム(Imject alum)、ピアスラボラトリーズ(Pierce Laboratories)社、ロックフォード、イリノイ州)中に1μgのオボアルブミン(OVA)で構成される2度の腹腔内注射によって感作させた。 2回目の免疫処置から14日後に、感作したマウスを、エアロゾル化したOVAまたは対照として生理食塩水のいずれかで刺激を施した。
【0168】
刺激を施す前に、各群に4匹ずつなるように、マウスを任意に4つの群に分けた。 1群および3群のマウスには、25mM トリス、0.5M NaCl、1mM EDTAおよび0.1%ツイーン80で構成される対照緩衝液140μlを腹腔内注射により前処置を行った。 2群および4群のマウスは、 750単位(140μlのPAF-AH緩衝液を投与した場合の活性は、5500単位/mlであった)のPAF-AHで前処置した。 PAF-AHまたは緩衝液を投与して30分後、1および2群のマウスを以下に記載するようにエアロゾル化したPBSに曝し、一方で、3および4群のマウスはエアロゾル化したOVAに曝した。 24時間後に、140μlの緩衝液(1および3群)または140μlの緩衝液中750単位のPAF-AH(2および4群)のいずれかを静脈内に注射することにより、2回目の処置を行った。
【0169】
気管での好酸球の浸潤は、感作したマウスをエアロゾル化したOVAに曝すことで誘発された。 感作したマウスを、円錐形の50ml遠心用チューブ(コーニング社)の中に入れ、ネブライザー(モデル646、デビルビス社(DeVilbiss Corp.,)、サマーセット、ペンシルベニア州)を用いて、20分間、0.9%の生理食塩水に溶解してエアロゾル化したOVA(50mg/ml)を強制的に吸入させた。 対照マウスには、ネブライザーにて0.9%の生理食塩水を用いた以外は、上記と同様の方法にて処置した。 エアロゾル化したOVAまたは生理食塩水に曝してから48時間後に、マウスを屠殺し、気管を摘出した。 各群から摘出した気管を、OCTに埋設し、組織を切断するまで−70℃にて保存した。
【0170】
気管の好酸球浸潤を評価するために、マウスの4群からの組織切片を、ルナ溶液とヘマトキシリン−エオシン溶液、またはペルオキシダーゼのいずれかで染色した。 6μmの厚みの組織切片12個を、マウスの各群から切り出し、順次番号付けを行った。 奇数番号が付与された切片を、ルナ溶液で以下のように染色した。 切片を、室温にて5分間、ホルマルアルコール中で固定し、室温にて2分間、水道水を3回交換して洗浄し、次いで、室温にて1分間、蒸留水を2回交換して洗浄した。 組織切片を、ルナ染色液(ルナ染色液は、90mlのヴァイゲルトの鉄ヘマトキシリンおよび10mlの1%ビーブリッヒスカーレットからなる)で室温にて5分間染色した。 染色した切片スライドを、1%酸性アルコールに6回浸し、室温にて1分間、水道水で洗浄し、0.5%炭酸リチウム溶液に5回浸し、そして、室温にて2分間、流水の水道水で洗浄した。 切片スライドを、70%、95%、100%のエタノールを用いてそれぞれ、室温にて1分間で脱水させ、室温にて1分間、キシレンを2回交換して洗浄し、そして、サイトシール(Cytoseal)60上に置いた。
【0171】
ペルオキシダーゼによる染色のために、偶数番号の切片を、4℃のアセトンにて10分間で固定し、そして、風乾させた。 200μl のDAB溶液を各切片に添加し、室温にて5分間放置した。 切片スライドを、室温にて5分間、水道水で洗浄し、そして、2滴の1%オスミウム酸を各切片に対して3〜5秒間作用させた。 切片スライドを、室温にて5分間、水道水で洗浄し、そして、25℃の室温にて、メイアーズのヘマトキシリンで対比染色した。
【0172】
切片スライドを、流水の水道水で5分間すすぎ、70%、95%、100%のエタノールでそれぞれ、室温にて1分間づつで脱水させた。 切片スライドを、室温にて1分間、キシレンを2回交換して洗浄し、そして、サイトシール60上に載置した。
【0173】
気管の粘膜下組織中の好酸球の数を評価した。 1群および2群のマウスの気管には、粘膜下組織全体にわたって分散した好酸球はほとんど見出されなかった。 緩衝液で前処置され、霧状のOVAに曝された、3群のマウスの気管では、予期されるとおり、粘膜下組織全体にわたり、多数の好酸球が認められた。 これとは対照的に、PAF-AHで前処置され、霧状のOVAに曝された、4群のマウスの気管では、1群および2群の2つの対照群で見られる結果に匹敵して、粘膜下組織に好酸球がほとんど見られなかった。
【0174】
このように、喘息、鼻炎および湿疹において生じるような、気道での好酸球の蓄積を含む後期免疫応答を呈する被検者を、PAF-AHで治療することが指示されるのである。
【0175】
実施例17
日本人の約4%は、血漿中に、低量または検出不可能なレベルのPAF-AH活性を有している。 この欠損は、常染色体で劣性に起こる欠損を遺伝的に引き継いだと思われる喘息小児患者の呼吸症状と厳密に相関する(ミワら、J. Clin. Invest.,82巻、1983〜1991頁、(1988))。
【0176】
酵素は存在するが不活性な状態、もしくはPAF-AHの生合成不能の状態からこの欠損が生じるのかを確かめるために、PAF-AH活性が欠損している複数の患者からの血漿を、PAF-AH活性について(形質変換体に関する実施例10に記載した方法によって)ならびに以下のサンドウィッチ ELISAにおいてモノクローナル抗体90G11Dおよび90F2D(実施例13)を用いてPAF-AHの存在についての双方に関して分析をした。 イムロン4平底プレート(ダイナテック社、チャンティリー、ヴァージニア州)を、100ng/ウェルのモノクローナル抗体90G11Dで被覆し、一晩置いた。 このプレートを、CMF-PBSに希釈した 0.5%フィシュスキンゼラチン(シグマ社) で室温にて1時間ブロックし、3回洗浄した。 患者の血漿を、15mM CHAPSを含むPBSで希釈し、プレートの各ウェルに添加(50μl/ウェル)した。 このプレートを、室温にて1時間インキュベーションし、4回洗浄した。 常法によってビオチン化し、PBSTに希釈した5μg/mlのモノクローナル抗体 90F2Dの50μlを各ウェルに添加し、プレートを、室温にて1時間インキュベーションし、そして3回洗浄した。 CMF-PBSTに1/1000に希釈したエキストラアビジン(シグマ社)50μlを引き続き各ウェルに添加し、現像前に、室温にて1時間インキュベーションした。
【0177】
PAF-AH活性と酵素レベルとの間の直接的な相関が観察された。 患者の血清中の活性の欠如は、検出可能な酵素の欠如として反映されていた。 同様に、正常な活性の半分の活性を有する血漿試料は、正常レベルのPAF-AH活性の半分の活性を有していた。 これらの観察結果より、PAF-AH活性の欠損が、酵素合成の不能またはモノクローナル抗体を認識しない不活性酵素によるものであることが示唆された。
【0178】
さらなる実験により、この欠損がヒト血漿PAF-AH遺伝子における遺伝的損傷によるものであることが明らかとなった。 PAF-AH欠損の個体からのゲノムDNAを単離し、PAF-AH遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCRの鋳型として使用した。 コーディング配列エキソンのそれぞれをまず増幅し、1つずつ配列決定した。 エキソン9での一つのヌクレオチドの変更(配列番号:7の996位のGからTへ)が観察された。 このヌクレオチドの変更の結果、PAF-AH配列の279位のフェニルアラニンからバリンへのアミノ酸置換(V279F)がもたらされた。 さらに11人のPAF-AH欠損患者個体からのゲノムDNAより、エキソン9を増幅しところ、同じ点突然変異を有することが見出された。
【0179】
この突然変異が酵素を失活させるか否かを試験するために、この突然変異を含む大腸菌発現構築体を、実施例10に記載したと同様の方法により作製した。 大腸菌内に導入すると、発現構築体はPAF-AH活性を示さなかったが、この突然変異を伴わない対照発現構築体では活性が十分に認められた。 このアミノ酸置換はおそらく、観察された活性の欠損を引き起こし、本発明のPAF-AH抗体との免疫反応性を欠如せしめる、構造的な修飾をもたらすものであると思われる。
【0180】
よって、本発明のPAF-AH特異抗体は、血清中のPAF-AHの異常なレベル(正常レベルは、約1〜5単位/mlである) を検出し、PAF-AHを用いた病理学的状態の治療の改善のための診断法において使用することができる。 さらに、PAF-AH遺伝子の遺伝的損傷の同定は、日本人患者に認められるPAF-AH欠損の遺伝子スクリーニングを可能とする。 この突然変異により、制限エンドヌクレアーゼ部位(Mae II)が新しく生じるので、活性体の対立遺伝子と変異体の対立遺伝子とを識別する、制限断片長多型性(RFLP)分析の簡単な方法を可能なものとする。 レウィン(Lewin)、Genes V、オックスフォードユニバーシティープレス(Oxford University Press)ニューヨーク、ニューヨーク州(1994)の第136〜141頁を参照されたい。
【0181】
12人のPAF-AH欠損患者のゲノムDNAのスクリーニングをMaeIIによるDNAの消化、サザンブロッティング、およびエキソン9プローブ(配列番号:17のヌクレオチド1〜396)を用いたハイブリダイゼーションによって行った。 すべての患者において、突然変異対立遺伝子と一致するRFLPが認められた。
【0182】
本発明を特定の実施態様・実施例に関して説明してきたが、当業者であればこれらに様々な修正や変更を施せるものと考えられる。 よって、特許請求の範囲に記載された限定のみが、本発明に付加されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明のPAF-AHの精製方法、すなわち、血漿からPAF-AHを精製する方法は、PAF-AH、特に、ヒト血漿PAF-AHまたは酵素活性を有するその断片を効率的に生産する手段として有用である。
【0184】
また、PAF-AHが媒介する病理学的状態にあるか、またはその状態にあると疑われる哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに十分な量のPAF-AHを投与する工程を含む本発明の治療方法は、当該病理学的状態の治療・改善を図る手段として有用である。
【0185】
さらに、本発明のPAF-AH組成物は、PAF-AHが媒介する病理学的状態(例えば、胸膜炎、喘息、鼻炎、湿疹、壊死性大腸炎、成人呼吸窮迫症候群、再灌流傷害、早期分娩または敗血症)を治療するための医薬組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】ヒト血漿から精製されたPAF-AHを含むPVDF膜の写真である。
【図2】組換えヒト血漿PAF-AHの酵素活性を示すグラフである。
【図3】組換えPAF-AH断片およびそれらの触媒活性を表す図面である。
【図4】本発明の組換えPAF-AHを局所投与してPAFで誘発したラット足浮腫の阻止を示すグラフである。
【図5】PAF-AHを静脈内投与してPAFで誘発したラット足浮腫の阻止を示す棒グラフである。
【図6】PAFで誘発した浮腫をPAF-AHは阻止するものの、ザイモサン(zymosan A)で誘発した浮腫をPAF-AHは阻止しないことを示す棒グラフである。
【図7A】ラット足浮腫でのPAF-AHの抗炎症活性の量相関を示すグラフである。
【図7B】ラット足浮腫でのPAF-AHの抗炎症活性の量相関を示すグラフである。
【図8A】単回投与量のPAF-AHのin vivoでの経時的な有効性を示すグラフである。
【図8B】単回投与量のPAF-AHのin vivoでの経時的な有効性を示すグラフである。
【図9】ラットの循環系でのPAF-AHの薬物動態学を示すグラフである。
【図10】ラット足浮腫におけるPAF-AHの抗炎症効果を示すグラフである。
【配列表フリーテキスト】
【0187】
<210> 4(配列番号:4)
<222> グループ (13、21、27)DNA
<223> これらの位置でのヌクレオチドは、イノシンである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼに関し、さらに詳細には、ヒト血漿の血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼをコードする新規な精製され単離されたポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドがコードする血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ産物、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ産物の組換え生産のための材料および方法、ならびに血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼに特異的な抗体物質に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板活性化因子(PAF)は、種々の細胞種により合成される、生物学的に活性を有するリン脂質である。 In vivoで、かつ10-10〜10-9Mという通常濃度において、PAFは、特異的なGタンパク質が、カップリングした細胞表面受容体に結合することにより、血小板および好中球などの標的細胞を活性化する(ベナブル(Venable)ら、J. Lipid Res.,34巻、691〜701頁、(1993))。 PAFは、1-O-アルキル-2-アセチル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン構造を有する。 至適な生物学的活性のためには、PAFグリセロール骨格のsn-1位が脂肪族アルコールとエーテル結合をなしておらなければならず、また、sn-3位がホスフォコリン先頭部(head group)を有していなければならない。
【0003】
通常の生理学的プロセス(例えば、炎症、鬱血および分娩)においてPAFは機能し、病理学的炎症応答(例えば、喘息、アナフィラキシー、敗血病性ショックおよび関節炎)において影響を受ける(ベナブルら、前出、およびリンドバーグ(Lindsberg)ら、Ann. Neurol.,30巻、117〜129頁、(1991))。 病理学的応答におけるPAFの関与の可能性は、PAFへの活性修飾の試みを喚起し、そして、これらの試みで主に焦点が向けられるのは、PAFの細胞表面受容体に対する結合を阻害する、PAFの活性の拮抗剤の開発となっている。 例えば、ヒュアー(Heuer)ら、Clin. Exp.Allergy、22巻、980〜983頁、(1992)を参照されたい。
【0004】
PAFの合成および分泌は、その分解およびクリアランスと同様、厳密に制御されているようである。 PAFの病理学的炎症作用が、過剰生産、不適切な生産または分解の不足を増大せしめるPAF調節機構の不全が原因で起こる限りにおいては、PAFの活性を修飾する代替手段が、炎症の解消に導くような自然のプロセスを模倣するかまたは増大させることに関与するであろう。 マクロファージ(スタッフォリニ(Stafforini)ら、J. Biol. Chem.,265巻、17号、9682〜9687頁、(1990))、肝細胞およびヒト肝癌細胞系HepG2(サトー(Satoh)ら、J. Clin. Invest.,87巻、476〜481頁、(1991)およびターベット(Tarbet)ら、J. Biol. Chem.,266巻、25号、16667〜16673頁、(1991))は、PAFを不活性化するPAFアセチルヒドロラーゼ(PAF-AH)の酵素活性を放出することが報告されている。 PAFを不活性化することに加えて、PAF-AHは炎症を媒介するアラキドン酸カスケードの産物などの酸化的に断片化したリン脂質をも不活性化する。 ストレムラー(Stremler)ら、J. Biol.Chem.,266巻、17号、11095〜11103頁、(1991)を参照されたい。 PAF-AHによるPAFの不活性化は、主にPAFのsn-2のアセチル基の加水分解によって引起こされ、また、PAF-AHはsn-2のアシル基を除去することにより、酸化的に断片化されたリン脂質を代謝する。 2つの型のPAF-AHが同定されている。 すなわち、内皮細胞および赤血球などの種々の細胞型および組織中に見出される細胞質型、ならびに血漿および血清中に見出される細胞外型である。 血漿PAF-AHは、PAFを除く無傷のリン脂質を加水分解せず、そしてこの基質特異性のために、この酵素は、完全に活性な状態で有害な作用なしにin vivoで循環することができる。 血漿PAF-AHによって、ex vivoでのヒト血液におけるPAFの分解のすべてが説明されるように思われる(スタッフォリニら、J. Biol. Chem., 262巻、9号、4223〜4230頁、(1987))。
【0005】
細胞質および血漿のPAF-AHが同様な基質特異性を有するようである一方で、血漿PAF-AHは、細胞質PAF-AHおよび特徴が明らかとなった他のリパーゼと、血漿PAF-AHとを差別化する生化学的特徴を有する。 特に、血漿PAF-AHは、リポタンパク質粒子に会合し、ジイソプロピルフルオロホスフェートによって阻害され、カルシウムイオンによっては影響を受けず、タンパク質分解酵素には比較的抵抗性であり、そして、43,000ダルトンの見かけの分子量を有する。 スタッフォリニら(1987)、前出、を参照されたい。 同じスタッフォリニらの文献に、ヒト血漿からのPAF-AHの部分精製の手法およびその手法を用いることによって得られる血漿物質のアミノ酸組成が記載されている。 細胞質PAF-AHは、スタッフォリニら、J. Biol. Chem.,268巻、6号、3857〜3865頁、(1993)において報告されているように、赤血球から精製されており、そしてその文献に細胞質PAF-AHの10のアミノ末端残基もまた記載されている。 ハットリ(Hattori)ら、J. Biol. Chem., 268巻、25号、18748〜18753頁、(1993)は、ウシ脳からの細胞質PAF-AHの精製を記載している。 これまでの特許出願に続いて、ハットリら、J. Biol. Chem.,269巻、237号、23150〜23155頁、(1994)においてウシ脳の細胞質PAF-AHのヌクレオチド配列が公表された。 今日まで、PAF-AHの血漿型のヌクレオチド配列は公表されていない。
【0006】
PAF-AHの組換えによる生産により、in vivoでの炎症の消散の正常なプロセスを模倣または増大するために、外来のPAF-AHを利用することが可能となるであろう。 PAF-AHは、血漿中に通常見出される産物であるので、PAF-AHの投与によって、PAF受容体拮抗剤の投与よりも生理学上の利点が提供されるであろう。 さらに、PAFと構造的に関連性のあるPAF受容体拮抗剤は、本来のPAF-AH活性を阻害し、PAFおよび酸化的に断片化されたリン脂質の望ましい代謝が、それによって妨げられる。 このように、PAF受容体拮抗剤によるPAF-AH活性の阻害は、その拮抗剤によるPAF受容体の競合的阻害を妨げる。 ストレムラーら、前出、を参照されたい。 加えて、急性の炎症の局所において、例えばオキシダントの放出の結果本来のPAF-AH酵素の不活性化が起こり、次には、PAF受容体と結合させるため外から投与されるPAF受容体拮抗剤のいずれのものとも競合するであろうPAFおよびPAF様化合物の局所レベルを上昇せしめる結果となる。 対照的に、組換えPAF-AHを用いた処置により、内在性のPAF-AH活性が増大され、そして不活性化された内在性酵素が補われるであろう。 このように、当該技術分野においてヒト血漿PAF-AHをコードするポリヌクレオチド配列を同定および単離し、PAF-AHの組換え生産に有用な材料および方法を開発し、そして血漿中でのPAF-AHの検出用の試薬を作り出す必要性がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ヒト血漿PAF-AHまたはその酵素的に活性を有する断片をコードする、新規な、精製され、単離されたポリヌクレオチド(すなわち、いずれもセンスおよびアンチセンスストランドのDNAおよびRNA)を提供する。 本発明の好ましいDNA配列には、ゲノムおよびcDNA配列ばかりでなく、全体または部分的に化学合成されたDNA配列が含まれる。 配列番号:7で示されるPAF-AHをコードするDNA配列および、標準のストリンジェンシーの条件下で該配列のノンコーディングストランドとハイブリダイズするDNA配列または遺伝コードの縮重(redundancy of the genetic code)を伴わなければハイブリダイズするであろうDNA配列が、本発明で企図される。 さらに本発明で企図されるのは、本発明のDNA配列の生物学的複製物(すなわち、in vivoまたはin vitroで作製された、単離されたDNA配列のコピー)である。 PAF-AH配列を組込んだプラスミドおよびウイルスDNAベクターなどの自律的に複製する組換え構築体ならびに、特に、PAF-AHをコードするDNAが内在性または外来性発現制御DNA配列および転写ターミネーターと作動可能に結合されるベクターもまた提供される。
【0008】
本発明の他の局面において、所望のDNA配列がその中で発現されることを許容する方法で、原核性または真核性宿主細胞が、本発明のDNA配列で安定に形質転換される。 PAF-AH産物を発現する宿主細胞は、多岐にわたる有用な目的に役立つことができる。 このような細胞は、PAF-AHと特異的に免疫反応性を有する、抗体物質の開発のための抗原の貴重な供給源を構成する。 本発明の宿主細胞は、細胞が好適な培養培地中で生育され、そして細胞からまたは細胞が生育される培地から、例えば免疫アフィニティー精製によって、所望のポリペプチド産物が単離される、PAF-AHの大規模な製造法において顕著に有用である。
【0009】
血漿からPAF-AHを精製するための、本発明により企図される非免疫学的方法には、(a)低密度リポタンパク質粒子を単離し、(b)該低密度タンパク質粒子を10mM CHAPSを含む緩衝液中にて可溶化し、第1のPAF-AH酵素溶液を作製し、(c)該第1のPAF-AH酵素溶液をDEAE陰イオン交換カラムに適用し、(d)1mM CHAPSを含むおよそpH7.5の緩衝液を用いて該DEAE陰イオン交換カラムを洗浄し、(e)0〜0.5M NaClの濃度勾配でなるpH約7.5の緩衝液を用いて、該DEAE陰イオン交換カラムからPAF-AH酵素を溶出して画分とし、(f)該DEAE陰イオン交換カラムから溶出した、PAF-AH酵素活性を有する画分をプールし、(g)該DEAE陰イオン交換カラムからの、該プールした活性画分を、1OmM CHAPSに調整して、第2のPAF-AH酵素溶液を作製し、(h)ブルーダイリガンドアフィニティーカラムに、該第2のPAF-AH酵素溶液を適用し、(i)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムから、1OmM CHAPSおよびカオトロピック塩を含む緩衝液を用いてPAF-AH酵素を溶出し、(j)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムからの溶出液を、Cuリガンドアフィニティーカラムに適用し、(k)1OmM CHAPSおよびイミダゾールを含む緩衝液を用いて、該CuリガンドアフィニティーカラムからPAF-AH酵素を溶出し、(l)該Cuリガンドアフィニティーカラムからの溶出液をSDS-PAGEに供し、そして、(m)SDS-ポリアクリルアミドゲルから、約44kDaのPAF-AH酵素を単離する、という工程が含まれる。 好ましくは、工程(b)の緩衝液は25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、pH 7.5であり、工程(d)の緩衝液は25mMトリス-塩酸、1mM CHAPSであり、工程(h)のカラムはブルーセファロースファストフローカラムであり、工程(i)の緩衝液は25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、0.5M KSCN、pH 7.5であり、工程(j)のカラムはCuキレーティングセファロースカラムであり、そして工程(k)の緩衝液はpHがpH約7.5〜8.0の範囲にある、25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、0.5M NaCl、50mM イミダゾールである。
【0010】
本発明により企図される、PAF-AHを生産する大腸菌(E.Coli)から酵素的に活性なPAF-AHを精製するための方法は、(a)PAF-AH酵素を生産する、溶菌した大腸菌から遠心上清を調製し、(b)ブルーダイリガンドアフィニティーカラムに、該遠心上清を適用し、(c)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムから、1OmM CHAPSおよびカオトロピック塩を含む緩衝液を用いてPAF-AH酵素を溶出し、(d)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムからの溶出液を、Cuリガンドアフィニティーカラムに適用し、および、(e)1OmM CHAPSおよびイミダゾールを含む緩衝液を用いて、該CuリガンドアフィニティーカラムからPAF-AH酵素を溶出する、という工程を含む。 好ましくは、工程(b)のカラムはブルーセファロースファストフローカラムであり、工程(c)の緩衝液は25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、0.5M KSCN、pH 7.5であり、工程(d)のカラムはCuキレーティングセファロースカラムであり、そして工程(e)の緩衝液は25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、0.5M NaCl、100mM イミダゾール、pH 7.5である。
【0011】
本発明により企図される、PAF-AHを生産する大腸菌から酵素的に活性なPAF-AHを精製するための他の方法は、(a)PAF-AH酵素を生産する、溶菌した大腸菌から遠心上清を調製し、(b)該遠心上清を、10mM CHAPSを含む低pH緩衝液で希釈し、(c)該希釈された遠心上清を、pH約7.5にて平衡化した陽イオン交換カラムに適用し、(d)1Mの塩を用いて該陽イオン交換カラムからPAF-AH酵素を溶出し、(e)該陽イオン交換カラムからの該溶出液のpHをあげ、そして該溶出液の塩濃度を約0.5Mの塩に調整し、(f)ブルーダイリガンドアフィニティーカラムに、該陽イオン交換カラムからの該調整された溶出液を適用し、(g)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムから、約2M〜約3Mの塩を含む緩衝液を用いてPAF-AH酵素を溶出し、および、(h)該ブルーダイリガンドアフィニティーカラムからの該溶出液を、約0.1%ツイーンを含む緩衝液を用いて透析する、という工程を含む。 好ましくは、工程(b)の緩衝液は25mM MES、10mM CHAPS、1mM EDTA、pH 4.9であり、工程(c)のカラムは、25mM MES、10mM CHAPS、1mM EDTA、50mM NaCl、pH 5.5で平衡化したSセファロースカラムであって、PAF-AHは、工程(d)において、1mM NaClを用いて溶出され、工程(e)における溶出液のpHは、2Mトリスベースを用いてpH 7.5に調整され、工程(f)におけるカラムはセファロースカラムであり、工程(g)における緩衝液は25mMトリス、10mM CHAPS、3M NaCl、1mM EDTA、pH 7.5であり、また、工程(h)における緩衝液は25mMトリス、0.5M NaCl、0.1% ツイーン80、pH 7.5である。
【0012】
PAF-AH産物は、天然の細胞供給源からの単離物として得られることができ、または化学的に合成されてもよいが、好ましくは、本発明の原核性または真核性宿主細胞が関与する組換え手法によって生産される。 配列番号:8で示されるアミノ酸配列の一部またはすべてを有するPAF-AH産物が企図される。 哺乳動物宿主細胞を用いることで、本発明の組換え発現産物に至適な生物学的活性を賦与するのに必要であるかもしれない転写後の修飾(例えば、ミリストレーション、グリコシレーション、トランケーション、リピデーション、および、チロシン、セリンまたはスレオニンのリン酸化)の実現が期待される。 本発明のPAF-AH産物は、完全長のポリペプチド、断片または誘導体であってよい。
【0013】
誘導体は、1以上の特定の(すなわち、天然にコードされる)アミノ酸が欠失もしくは置換されるかまたは、1以上の非特定のアミノ酸が付加された、PAF-AH誘導体からなり、(1)PAF-AHに特異的な1以上の酵素活性または免疫学的特性を損失することなく、または(2)PAF-AHの特定の生物学的活性を特異的に損なわせしめるとよい。 PAF-AHに結合するタンパク質または他の分子を、その活性を修飾するために用いてもよい。
【0014】
本発明によりさらに企図されるものには、抗体物質(例えば、モノクローナルおよびポリクローナル抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、CDR-移植抗体等)およびPAF-AHに特異性を有する他の結合タンパク質もある。 特に、本発明の実例となる結合タンパク質は、1994年9月30日に、20852 メリーランド州、ロックビル、パークロウン ドライブ 12301に所在のアメリカン タイプ カルチャー コレクション(ATCC)に寄託されて、HB 11724およびHB11725の寄託番号が付与された、ハイブリドーマ90G11Dおよび90F2Dによって生産されるモノクローナル抗体である。 PAF-AHに特異的に結合するタンパク質または他の分子(例えば、脂質または小分子)は、血漿から単離されたPAF-AH、組換えPAF-AH、PAF-AH誘導体、またはこのような産物を発現する細胞を用いて同定することができる。
【0015】
さらには、結合タンパク質は、PAF-AHの精製のためばかりでなく、免疫用の組成物において有用であり、また、既知の免疫学的手法による液体および組織試料中のPAF-AHの検出または定量に有用である。 PAF-AH特異的抗体物質に特異的な抗イディオタイプ抗体もまた、企図される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のDNAおよびアミノ酸配列の開示が寄与する情報の科学的価値は明白である。
【0017】
一連の例として、PAF-AHに対するcDNA配列を知ることで、PAF-AHをコードするゲノムDNA配列のDNA/DNAハイブリダイゼーションによる単離や、プロモーター、オペレーター等のPAF-AH発現の制御調節配列を特定することが可能となる。 当該技術分野において標準のストリンジェンシーの条件下で、本発明のDNA配列を用いて行われるDNA/DNAハイブリダイゼーション手法により、PAF-AHの対立変異体(allelic variant)、PAF-AHの1以上の生化学的および/または免疫学的特性を担う構造的に関連のある他のタンパク質、ならびにPAF-AHと相同のヒト以外の種のタンパク質をコードするDNAの単離を許容することが、同様に期待される。 本発明により提供されるDNA配列の情報によって、相同組換えまたは、機能を有するPAF-AH酵素を発現しない齧歯類またはPAF-AH酵素変異体を発現する齧歯類の「ノックアウト」ストラテジー(例えば、カペッチ(Kapecchi)、Science、244巻、1288〜1292頁、(1989)を参照されたい)による開発もまた可能となる。 本発明のポリヌクレオチドを好適にラベルした場合、細胞がPAF-AH酵素を合成する能力を検出するハイブリダイゼーション分析において有用である。 本発明のポリヌクレオチドは、1または複数の疾病状態の基礎になる、PAF-AH遺伝子座における1または複数の遺伝的変更を同定するために有用な診断法のための基礎となるかもしれない。 さらに本発明によって入手可能となるのものに、PAF-AHを通常発現している細胞による、PAF-AHの発現調節に関係するアンチセンスポリヌクレオチドもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
哺乳動物、特にヒトの被験者に、病理学的炎症状態の改善を目的として、本発明のPAF-AH調製物を投与することが企図される。 病理学的炎症状態におけるPAFの関与が暗示されることに基づき、例えば、喘息(ミワ(Miwa)ら、J. Clin. Invest.,82巻、1983〜1991頁、(1988)、シー(Hsieh)ら、J. Allergy Clin. Immunol.,91巻、650〜657頁、(1993)、およびヤマシタ(Yamashita)ら、 Allergy、 49巻、60〜63頁、(1994))、アナフィラキシー(ベナブルら、前出)、ショック(ベナブルら、前出)、再灌流傷害(reperfusion injury)および中枢神経系虚血(リンドバーグら(1991)、前出)抗原誘発性関節炎(ザルコ(Zarco)ら、Clin. Exp. Immunol.,88巻、318〜323頁、(1992))粥腫形成(atherogenesis)(ハンドレイ(Handley)ら、Drug Dev.Res.,7巻、361〜375頁、(1986))、クローン病(デニゾット(Denizot)ら、Digestive Diseases and Sciences、37巻、3号、432〜437頁、(1992))、虚血性腸壊死/壊死性小腸結腸炎(デニゾットら、前出、およびカプラン(Caplan)ら、Acta Paediatr.,追補、396巻、11〜17頁、(1994))、潰瘍性結腸炎(デニゾットら、前出)、虚血性発作(サトー(Satoh)ら、Stroke、23巻、1090〜1092頁、 (1992))、虚血性脳傷害(リンドバーグら、Stroke、21巻、1452〜1457頁、(1990)およびリンドバーグら(1991)前出)、全身性紅斑性狼瘡(マツザキ(Matsuzaki)ら、Clinica Chimica Acta、210巻、139〜144頁、(1992))、急性膵炎(カルド(Kald)ら、Pancreas、8巻、4号、440〜442頁、(1993))、敗血症、カルドら、前出)、急性後天性連鎖球菌性(acute post streptococcal)糸球体腎炎(メッツァノ(Mezzano)ら、J. Am. Soc. Nephrol.,4巻、235〜242頁、(1993))、IL-2治療により引き起こされる肺浮腫(ラビノビッチ(Rabinovici)ら、J. Clin. Invest.,89巻、1669〜1673頁、(1992))、アレルギー性炎症(ワタナベ(Watanabe)ら、Br. J.Pharmacol.,111巻、123〜130頁、(1994))、虚血性腎不全(グリノ(Grino)ら、Annals of Internal Medicine、121巻、5号、345〜347頁、(1994))、早期分娩(preterm labor)(ホフマン(Hoffman)ら、Am. J. Obstet. Gynecol.,162巻、2号、525〜528頁、(1990)およびマキ(Maki)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85巻、728〜732頁、(1988))、ならびに成人呼吸窮迫症候群(adult respiratory distress syndrome)ラビノビッチら、J.Appl. Physiol.,74巻、4号、1791〜1802頁、(1993)、マツモトら、Clin. Exp. Pharmacol. Physiol.,19巻、509〜515頁、(1992)およびロドリゲツ−ロイジン(Rodriguez-Roisin)ら、J. Clin. Invest.,93巻、188〜194頁、(1994))などの治療において、PAF-AHを投与することが示唆される。
【0019】
前記の病理学的状態の多くの動物モデルが、当該技術分野において記載されている。
【0020】
例えば、喘息、鼻炎、および湿疹に対するマウスモデルが本願明細書の実施例16に記載され、関節炎に対するウサギモデルがザルコら、前出、に記載され、虚血性腸壊死/壊死性小腸結腸炎に対するラットのモデルがフルカワ(Furukawa)ら、Ped. Res.,34巻、2号、237〜241頁、(1993)およびカプランら、前出、に記載され、発作に対するウサギのモデルがリンドバーグら(1990)、前出、に記載され、狼瘡に対するマウスのモデルがマツザキら、前出、に記載され、急性膵炎に対するラットのモデルがカルドら、前出、に記載され、IL-2治療により引き起こされる肺浮腫に対するラットのモデルがラビノビッチら、前出、に記載され、アレルギー性炎症のラットのモデルがワタナベら、前出、に記載され、腎異系移植のウサギのモデルが、ワトソン(Watson)ら、Transplantation、56巻、4号、1047〜1049頁、(1993)に記載され、ならびに成人呼吸窮迫症候群のラットのモデルがラビノビッチら、前出、に記載されている。
【0021】
本発明により特に企図されるのは、哺乳動物内で内在性PAF-AH活性を補足し、病因となる量のPAFを不活性化するに足る量のPAF-AHを、哺乳動物に投与することからなる、PAF-AHが媒介する病理学的状態が疑われるかまたは罹患している哺乳動物の治療法に用いられるPAF-AH組成物である。
【0022】
本発明により企図される治療用組成物は、PAF-AHおよび生理学的に許容しうる希釈剤(賦形剤)または担体を含み、また、抗炎症効果を有する他の試薬を含んでもよい。 指示される投与量は、内在性PAF-AH活性を補い、かつ病理的状態をもたらす量のPAFを不活性化するに足る量であろう。 一般的な投与量の考慮のためには、 Remmington's Pharmaceutical Sciences、18版、Mack Publishing Co., イーストン、ペンシルベニア州(1990)を参照されたい。 投与量は、約0.1〜約1000μg PAF-AH/kg 体重の間で変動するであろう。
【0023】
本発明の治療用組成物は、処置すべき病理学的状態に依存して、種々の経路により投与されうる。 例えば、投与は、静脈内、皮下、経口、座薬、および/または肺を経由する経路により投与されてもよい。
【0024】
肺の病理学的状態のためには、肺を経由する経路によるPAF-AHの投与が特に指示される。
【0025】
肺を経由する投与における用途のために企図されるのは、例えば、当該技術分野において標準的な、噴霧器、投与量吸入器(dose inhaler)、および粉末吸入器(powder inhaler)を含む広範な送達(delivery)デバイスである。 エアロゾル調剤の吸入による肺および循環系への種々のタンパク質の送達は、アジェイ(Adjei)ら、Pharm. Res.,7巻、6号、565〜569頁、(1990)(ロイプロリド アセテート(leuprolide acetate))、ブラケット(Braquet)ら、J. Cardio.Pharm.,13巻(追補 5): s.143〜146頁、(1989)(エンドセリン-1)、ハッバード(Hubbard)ら、Annals of Internal Medicine、III巻、3号、206〜212頁、(1989)(α1-アンチトリプシン)、スミス(Smith)ら、J. Clin. Invest.,84巻、1145〜1146頁、(1989)(α-1-プロテナーゼインヒビター)、デブス(Debs)ら、J. Immunol.,140巻、3482〜3488頁、(1933)(組換えガンマインターフェロンおよび腫瘍壊死因子アルファ)、1994年9月15日公開の、特許協力条約(PCT) 国際公開番号第 WO 94/20069号(組換え係留化(pegylated)顆粒球コロニー刺激因子)に記載されている。
【実施例】
【0026】
以下の実施例によって、本発明を例証する。
【0027】
実施例1は、ヒト血漿からのPAF-AHの新規な精製法を示す。
【0028】
実施例2に、精製されたヒト血漿PAF-AHのアミノ酸マイクロ配列決定を記載する。
【0029】
実施例3に、ヒト血漿PAF-AHをコードする全長のcDNAのクローニングを記載する。
【0030】
実施例4に、ヒト血漿PAF-AH遺伝子の、推定されるスプライス変異体の同定を記載する。
【0031】
実施例5に、ヒト血漿PAF-AHをコードするゲノム配列のクローニングを記載する。
【0032】
実施例6に、ヒト血漿PAF-AH cDNAと相同な、イヌ、マウス、ラットおよびマカクのcDNAのクローニングを記載する。
【0033】
実施例7は、COS7細胞で一過性に発現された組換えPAF-AHの酵素活性の証拠となる分析結果を示す。
【0034】
実施例8に、大腸菌および酵母(S. cerevisiae)におけるヒトPAF-AHの発現を記載する。
【0035】
実施例9は、大腸菌からの組換えPAF-AHの精製のためのプロトコル、およびその酵素活性を確証する分析を示す。
【0036】
実施例10に、アミノ酸置換誘導体ならびにアミノ末端側およびカルボキシ末端側の欠損産物を含む種々の組換えPAF-AH産物を記載する。
【0037】
実施例11は、種々の組織および細胞系におけるヒト血漿PAF-AH RNAの発現に対するノザンブロットアッセイの結果を示し、一方で、実施例12は、in situハイブリダイゼーションの結果を示す。
【0038】
実施例13に、ヒト血漿PAF-AHに特異的なモノクローナル抗体の作製を記載する。
【0039】
実施例14、15および16は、それぞれ、ラットにおける急性炎症、胸膜炎および喘息への、本発明の組換えPAF-AH産物の投与の、in vivoでの治療的効果を記載する。
【0040】
実施例17には、PAF-AH活性の欠損を示すヒト患者の血清のイムノアッセイの結果が示されており、また、明らかにその欠損の原因と思われる、その患者における遺伝的傷害の同定が記載されている。
【0041】
実施例1
アミノ酸配列決定のための材料を供給するために、ヒト血漿からPAF-AHを精製した。
【0042】
A:精製条件の至適化
最初に、リンタングステン酸(phosphotungstate)を用いて、血漿から低密度リポタンパク質(LDL)粒子を沈澱させ、次いで、0.1%ツイーン20中に可溶化し、そしてスタッフォリニら(1987)、前出、の方法に従って、DEAEカラム(ファルマシア(Pharmacia)社、ウプサラ(Uppsala)、スウェーデン)のクロマトグラフィーに供したが、可溶化の再評価および引き続いての精製条件に必要なDEAEカラムからのPAF-AH活性体の溶出は、一致しないものであった。
【0043】
ツイーン20、CHAPS(ピアスケミカル社(Pierce Chemical Co.,)、ロックフォード(Rockford)、イリノイ州)およびオクチルグルコシドを、LDL粒子の可溶化能について、遠心およびゲル濾過クロマトグラフィーにより評価した。 CHAPSにより、可溶化した活性体の回収がツイーン20よりも25%上回り、またオクチルグルコシドよりも300%上回る回収がなされた。 次いで、10mM CHAPSで可溶化したLDL沈澱物を、DEAEセファロースファストフローカラム(陰イオン交換カラム、ファルマシア社)で、1mM CHAPSを含む緩衝液を用いて分画して、次なるカラムの評価用の部分精製したPAF-AHの大量のプール(「DEAEプール」)を得た。
【0044】
DEAEプールは、さらなるPAF-AH活性体の精製における有用性について、種々のクロマトグラフィーカラムをテストするための出発材料として用いた。 テストしたカラムとしては、ブルーセファロースファストフロー(ファルマシア社)(ダイリガンドアフィニティーカラム)、S-セファロースファストフロー(ファルマシア社)(陽イオン交換カラム)、Cuキレーティングセファロース(ファルマシア社)(金属リガンドアフィニティーカラム)、フラクトゲル S(イー・エム・セパレーションズ(EM Separations)社)、ギッブスタウン(Gibbstown)、ニュージャージー州)(陽イオン交換カラム)、およびセファクリル(Sephacryl)-200(ファルマシア社)(ゲル濾過カラム)が挙げられる。 これらのクロマトグラフィー手法では、1mM CHAPSで操作した場合、すべて低く、満足のいかないレベルの精製にとどまった。 引き続き1mM CHAPS中でセファクリルS-200のゲル濾過クロマトグラフィーを行うと、期待された44kDaのおおよそのサイズというよりもむしろ、広範なサイズ範囲にわたって溶出する酵素的に活性な画分が得られた。 まとめて考えると、これらの結果は、LDLリポタンパク質が溶液中で凝集していることを示唆していた。
【0045】
そこで、PAF-AH活性体の凝集について分析用ゲル濾過クロマトグラフィーにより、異なるLDL試料を評価した。 DEAEプールおよび新たに可溶化したLDL沈澱物からの試料は、1mM CHAPSを含む緩衝液で平衡化したスペローズ(Superose)12(ファルマシア社)で分析した。 いずれの試料とも、ほとんどの活性体が150kDaを越える、きわめて広い範囲の分子量にわたって溶出した。 次いで、10mM CHAPSを含む緩衝液で平衡化したスペローズ12で試料を分析したところ、活性体の大半がPAF-AH活性体について期待された44kDa付近に溶出された。 しかしながら、試料には、凝集物に相当する高分子量の領域に、いくらかのPAF-AH活性体が含まれていた。
【0046】
引き続き、他の試料をゲル濾過によってテストすると、およそ44kDaの範囲に専らPAF-AH活性体を溶出した。 これらの試料とは、0.5M NaClの存在下で10mM CHAPS中で可溶化したLDL沈澱物および、DEAEカラムから溶出した後10mM CHAPSに調整した新たなDEAEプールであった。 これらのデータにより、非凝集性のPAF-AHを維持するために、少なくとも10mMのCHAPSが必要であることが示唆される。 DEAEのクロマトグラフィーの後、ただし、引き続いてのクロマトグラフィー工程の前に、1mMから10mMへとCHAPS濃度を高めることで、精製に劇的な差が生じた。 例えば、S-セファロースファストフローでのPAF-AHの精製の度合いは、2倍から10倍へと増大した。 PAF-AH活性体は、1mM CHAPS中でブルーセファロースファストフローカラムに不可逆的に結合したが、このカラムにおいて10mM CHAPSで最も高いレベルの精製がなされた。 10mM CHAPSを前もって添加しても、DEAEクロマトグラフィーは改善されなかった。
【0047】
ブルーセファロースファストフローカラムの後のCuキレーティングセファロースのクロマトグラフィーで、PAF-AH活性体が15倍濃縮された。 試料が煮沸されない限りにおいて、還元SDS-ポリアクリルアミドゲルからPAF-AH活性体を回収できることも、判定された。
【0048】
Cuキレーティングセファロースカラムから溶出された物質の活性は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供すると、ゲルを銀染色した場合に見られる主たるタンパク質のバンドに一致した。
【0049】
B:PAF-AH精製プロトコル
かくして、アミノ酸配列決定用のPAF-AHを精製するために用いる新規のプロトコルは、4℃で実施される以下の工程からなるものであった。 ヒト血漿を、1リットルのナルゲンボトル中、900mlアリコート(aiquot)づつに分割し、pH 8.6に調整した。 次いで90 mlの3.85%リンタングステン酸ナトリウムに続き23mlの2M MgCl2を添加することにより、LDL粒子を沈澱させた。 その後、血漿を3600gにて15分間遠心した。 ペレットを800mlの0.2%クエン酸ナトリウム中に再懸濁させた。 10g NaClおよび24mlの2M MgCl2を添加することにより、再びLDLを沈澱させた。 3600gにて15分間遠心することにより、LDL粒子をペレットとした。 この洗浄を2度繰り返した。 次に、ペレットを−20℃で凍結せしめた。 5Lの血漿からのLDL粒子を、5Lの緩衝液A(25mMトリス塩酸、10mM CHAPS、pH 7.5)中に再懸濁させて一晩撹拌した。 可溶化したLDL粒子を、3600gにて1.5時間遠心した。
【0050】
上清を集めて、残っている固形物をすべて除去するために、ワットマン(Whatman) 113濾紙を用いて濾過した。 可溶化したLDL上清を、緩衝液B(25mM トリス塩酸、1mM CHAPS、pH 7.5)で平衡化したDEAEセファロースファストフローカラム(11cm×10cm、1L樹脂容量、80ml/分)に負荷した。 吸光度がベースラインに戻るまで、緩衝液Bを用いてカラムを洗浄した。 8Lの、0〜0.5M NaClの濃度勾配を用いてタンパク質を溶出し、480mlの画分を集めた。 この工程は、以下のブルーセファロースファストフローカラムへ結合させるために必須であった。 本質的に実施例4に記載の方法によって、各画分についてアセチルヒドロラーゼ活性を分析した。 活性画分をプールし、該プールを約10mM CHAPSとするために充分なCHAPSを添加した。 0.5M NaClを含む緩衝液Aで平衡化したブルーセファロースファストフローカラム(5cm×10cm、200mlベッド容量)に、DEAEプールを4ml/分にて一晩かけて負荷した。 吸光度がベースラインに戻るまで、16ml/分にて平衡化緩衝液を用いてカラムを洗浄した。 PAF-AH活性体は、16ml/分にて、0.5M KSCN(カオトロピック塩)を含む緩衝液Aを用いて段階的に溶出し、50mlの画分を集めた。 この工程の結果、1000倍を越える精製がなされた。 活性画分をプールし、1Mトリス塩酸、pH 8.0を用いてそのプールをpH 8.0に調整した。 ブルーセファロースファストフロークロマトグラフィーからの活性なプールは、緩衝液C(25mMトリス塩酸、10mM CHAPS、0.5MNaCl、pH 8.0(pH 7.5でも有効であった))で平衡化したCuキレーティングセファロースカラム(2.5cm×2cm、10mlベッド容量、4ml/分)に負荷し、カラムを50mlの緩衝液Cを用いて洗浄した。
【0051】
PAF-AH活性体は、50mMイミダゾールを含む緩衝液Cを100ml用いて溶出し、10mlの画分を集めた。 PAF-AH活性を含む画分をプールし、緩衝液Aに対して透析した。 PAF-AH活性体の15倍の濃縮がなされることに加えて、Cuキレーティングセファロースカラムにより若干の精製が行われた。 Cuキレーティングセファロースプールを、37℃にて15分間、50mM DTT中で還元し、0.75mm、7.5%ポリアクリルアミドゲルに負荷した。 0.5cm毎にゲルの薄片を切断し、200μlの25mMトリス塩酸、10mM CHAPS、150mM NaClを含む使い捨てのマイクロフュージ(microfuge)チューブに入れた。 薄片を粉砕し、4℃にて一晩インキュベーションさせておいた。 次いで、各ゲル薄片の上清をPAF-AH活性についてアッセイして、SDS-PAGE上のいずれのタンパク質バンドがPAF-AH活性を含むかを判定した。 PAF-AH活性は、およそ44kDaのバンドにおいて見出された。 平行して実験を行った2つのゲルからのタンパク質をPVDF膜(イモビロン(Immobilon)-P、ミリポア(Millipore)社)に電気を用いて転写し、クマシーブルーで染色した。 そのPVDF膜の写真を図1に示す。
【0052】
以下の表1に示すように、5Lのヒト血漿からおよそ200μgのPAF-AHが、2×106倍精製された。 それと比較して、スタッフォリニら(1987)、前出、には、PAF-AH活性体の3×104倍の精製が記載されているのである。
【0053】
【表1】
要約すると、以下の工程、すなわち、(1)10mM CHAPS中での可溶化およびクロマトグラフィー、(2)ブルーセファロースファストフローなどのブルーリガンドアフィニティーカラムでのクロマトグラフィー、(3)CuキレーティングセファロースなどのCuリガンドアフィニティーカラムでのクロマトグラフィー、ならびに(4)SDS-PAGEからのPAF-AHの溶出、が独自のものであり、微量試料を用いたアミノ酸配列決定用の血漿PAF-AHを成功裡に精製するために重大である。
【0054】
実施例2
アミノ酸配列決定のため、実施例1に記載のPAF-AHを含むPVDF膜からの、およそ44kDaタンパク質のバンドを切除し、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)473Aプロテインシーケンサーを用いて配列決定した。 PAF-AH活性体に対応する〜44kDaのタンパク質バンドのN-末端配列分析により、そのバンドが2つのメジャーな配列と2つのマイナーな配列を含むことが示唆された。 その2つのメジャーな配列の割合は1:1であり、よって、配列データを解読するのは困難であった。
【0055】
SDSゲルで分離された2つのメジャーなタンパク質の配列を判別するため、およそ44kDaのバンドを含む平行して実験を行った2枚のPVDF膜を半分に切断し膜の上部と下部とが別個に配列決定に供されるようにした。
【0056】
膜の下半分について得られたN-末端配列は、FKDLGEENFKALVLIAF(配列番号:1)であった。 タンパク質データベースの検索により、この配列がヒト血清アルブミンの断片であることが明らかとなった。 同じPVDF膜の上半分についても配列決定を行い、決定したN-末端アミノ酸配列は、IQVLMAAASFGQTKIP(配列番号:2)であった。 この配列は、検索したデータベースの中のいずれのタンパク質にもマッチせず、また、スタッフォリニら(1993)、前出、における赤血球の細胞質PAF-AHについて報告された、MKPLVVFVLGG(配列番号:3)のN-末端アミノ酸配列とも異なっていた。 新規配列(配列番号:2)を、以下の実施例3に記載のように、ヒト血漿PAF-AHのcDNAクローニングに利用した。
【0057】
実施例3
ヒト血漿PAF-AHをコードする全長のクローンを、マクロファージcDNAライブラリーから単離した。
【0058】
A:マクロファージcDNAライブラリーの構築
末梢血単球由来のマクロファージから、ポリA+RNAを採取した。 インビトロゲン コピー キット(Invitrogen Copy Kit)(サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いて、二本鎖のブラントエンドとした(blunt-ended)cDNAを作製し、哺乳動物発現ベクター、pRc/CMV(インビトロゲン)へと挿入する前に、そのcDNAにBstXIアダプターを連結した。 エレクトロポレーションにより、得られたプラスミドを大腸菌株XL-1ブルーに導入した。 形質転換された菌を、総計978枚のアガロースプレート1枚当たりおよそ3000コロニーの密度で播種した。 各プレートから別々に調製したプラスミドDNAは、個々のプールとして保持し、また、それぞれ300,000クローンを表す、より大きなプールへと集めることも行った。
【0059】
B:PCRによるライブラリースクリーニング
実施例2に記載の新規なN-末端アミノ酸配列に基づく、縮重アンチセンスオリゴヌクレオチドPCRプライマーを利用した、ポリメラーゼ連鎖反応により、マクロファージライブラリーをスクリーニングした。 プライマーの配列を、以下に、IUPAC命名法に従って記載するが、ここで「I」は、イノシンである。
【0060】
5' ACATGAATTCGGIATCYTTIGTYTGICCRAA 3'(配列番号:4)
プライマーの各コドンの第3位のヌクレオチドを選択するために、ワダ(Wada)ら、Nuc.Acids Res.,19S巻、1981〜1986頁、(1991)のコドン選択表を用いた。 プライマーは、300,000クローンのマクロファージライブラリープールをスクリーニングするために、いずれもpRc/CMVのクローニング部位の側に位置するSP6またはT7プロモーター配列のどちらかに特異的なプライマーと組合わせて用いた。 すべてのPCR反応には、100ngの鋳型cDNA、1μgの各プライマー、0.125mMの各dNTP、10mMのトリス塩酸、pH 8.4、50mM MgCl2および2.5単位のTaqポリメラーゼが含まれていた。 94℃、4分間で最初の変性工程を行なった後、94℃で1分、60℃で1分、そして、72℃で2分の増幅を30サイクル行った。 その結果得られたPCR産物は、pブルースクリプトSK-(ストラタジーン(Stratagene)社、ラ・ヨラ(La Jolla)、カリフォルニア州)中にクローン化し、そして、そのヌクレオチド配列を、ダイデオキシチェーンターミネーター法により決定した。 PCR産物は、新規ペプチド配列により予測される配列を含み、配列番号:7のヌクレオチド1〜331に対応するものである。
【0061】
以下に記すPCRプライマーは、前記のクローン化したPCR断片に特異的なものであり、全長のクローンを同定するためにデザインした。
【0062】
センスプライマー:5' TATTTCTAGAAGTGTGGTGGAACTCGCTGG 3'(配列番号:5)
アンチセンスプライマー:5' CGATGAATTCAGCTTGCAGCAGCCATCAGTAC 3'(配列番号:6)
これらのプライマーを利用するPCR反応を前記のごとくに行い、まず、300,000クローンのcDNAプールを、次いで、より小さい3000クローンのプールの適切なサブセット(subset)をスクリーニングした。 その後、期待されるサイズのPCR産物を生産している3000クローンのプール3つを、菌の形質転換のために用いた。
【0063】
C:ハイブリダイゼーションによるライブラリースクリーニング
形質転換された菌からのDNAを、元のクローン化したPCR断片をプローブとして用いたハイブリダイゼーションによって、引き続きスクリーニングした。 コロニーをニトロセルロース上にブロットし、50%ホルムアミド、0.75M 塩化ナトリウム、0.075M クエン酸ナトリウム、0.05M リン酸ナトリウム、pH 6.5、1%ポリビニルピロリドン、1%フィコール、1%ウシ血清アルブミンおよび50ng/mlの超音波処理済サケ精子DNA中でプレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションを行った。 ハイブリダイゼーションプローブは、ランダムヘキサマープライミングによってラベルした。 42℃にて一晩ハイブリダイゼーションを行った後、ブロットを、42℃にて、0.03M 塩化ナトリウム、3mMクエン酸ナトリウム、0.1%SDS中で良く洗浄した。 ハイブリダイズする10個のクローンのヌクレオチド配列を決定した。 クローンのうちの1つ、クローンsAH 406-3は、ヒト血漿から精製したPAF-AH活性体の元のペプチド配列により予測される配列を含んでいた。 ヒト血漿PAF-AHのDNAおよび決定したアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:7および8に記す。
【0064】
クローンsAH 406-3は、予測される441アミノ酸のタンパク質をコードする読み取り枠を有する1.52kbのインサートを含む。 アミノ末端において、比較的疎水性の領域である41残基が、タンパク質マイクロ配列決定により同定されたN-末端アミノ酸(配列番号:8の42位のイソロイシン)の前に存在する。 しかして、コードされているタンパク質は、長いシグナル配列かまたは、切断されて機能を有する成熟タンパク質を生じる付加的なペプチドをシグナル配列に加えて有しているかもしれない。 シグナル配列の存在が、分泌タンパク質の1つの特徴である。 それに加えて、あらゆる既知の哺乳動物リパーゼ、微生物リパーゼおよびセリンプロテアーゼの活性部位のセリンを含むと信じられている、コンセンサスGxSxGモチーフが、クローンsAH 406-3がコードするタンパク質に含まれている(配列番号:8のアミノ酸271〜275)。 チャプス(Chapus)ら、Biochimie、70巻、1223〜1224頁、(1988)およびブレンナー(Brenner)、Nature、334巻、528〜530頁、(1988)を参照されたい。
【0065】
以下の表2は、配列番号:8より予測される本発明のヒト血漿PAF-AHのアミノ酸組成と、スタッフォリニら(1987)、前出、に記載の、称するところによれば精製されたものの、アミノ酸組成の比較である。
【0066】
【表2】
本発明のヒト血漿PAF-AHの成熟型のアミノ酸組成と、ヒト血漿PAF-AHであると称されている、以前に精製された物質のアミノ酸組成は明らかに異なっていた。
【0067】
前出のハットリらのウシ脳細胞質PAF-AHのヌクレオチドおよび決定されたアミノ酸配列と、本発明のヒト血漿PAF-AHのヌクレオチドおよびアミノ酸配列とのアラインメントを試みると、配列における有意な構造的類似性は、なんら観察されなかった。
【0068】
実施例4
PAF-AH cDNAの5'非翻訳領域(配列番号:7のヌクレオチド31〜52)および3'端における翻訳終止コドンにわたる領域(配列番号:7のヌクレオチド1465〜1487)にハイブリダイズするプライマーを用いて、マクロファージおよび刺激したPBMC cDNAについてPCRを実施すると、ヒトPAF-AH遺伝子の推定されるスプライスバリアントが1つ検出された。 PCR反応により、ゲル上に2つのバンドが得られ、1つは実施例3のPAF-AH cDNAの予期されるサイズに対応しており、いま1つはそれより約100bp短かった。 両方のバンドの配列決定により、大きい方のバンドが実施例3のPAF-AH cDNAであって、一方で、短い方のバンドは血漿PAF-AHのシグナルおよびプロペプチド配列と推定される領域をコードするPAF-AH配列のエキソン2(以下の実施例5)を欠失していた。 触媒活性3つ組残基(catalytic triad)と思われるアミノ酸およびすべてのシステインが、短い方のクローンに存在していたので、該クローンがコードするタンパク質の生化学的活性は血漿の酵素の活性に匹敵するかもしれないと思われる。
【0069】
実施例5
ヒト血漿PAF-AHのゲノム配列も単離した。 高いストリンジェンシーの条件下でのDNAハイブリダイゼーションにより、ヒトゲノムDNAを含むラムダおよびP1ファージクローンを単離することによって、PAF-AH遺伝子の構造を決定した。 ファージクローンの断片をサブクローン化し、そして、cDNAクローンsAH 406-3全体において一定の間隔でアニール(anneal)するよう設計されたプライマーを用いて配列決定した。 さらに、エキソンの側部に位置するイントロン領域と再結合するよう設計された新たな配列決定用プライマーを、配列を確認するために、エキソン−イントロン境界を越えて、改めて配列決定を行うために用いた。 エキソン/イントロン境界は、ゲノム配列とcDNA配列とが分岐する点として明らかにされた。 これらの分析により、ヒトPAF-AH遺伝子が12のエキソンからなることが明らかとなった。
【0070】
エキソン1、2、3、4、5、6および7の一部は、ラムダFIX(ストラタジーン社)中で構築された雄性胎児の胎盤のライブラリーから単離された。 ニトロセルロース上にファージプラークをブロットし、50%ホルムアミド、0.75M 塩化ナトリウム、75mM クエン酸ナトリウム、50mM リン酸ナトリウム(pH 6.5)、1%ポリビニルピロリドン、1%フィコール、1%ウシ血清アルブミンおよび50ng/mlの超音波処理済サケ精子DNA中でプレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションを行った。 エキソン2〜6および7の一部を含むファージクローンを同定するために用いるハイブリダイゼーション用プローブは、cDNAクローンsAH 406-3全体で構成されるものであった。 エキソン1を含むクローンは、cDNAクローンの5'端由来の断片(配列番号:7のヌクレオチド1〜312)を用いて同定した。
【0071】
両プローブとも、ヘキサマーランダムプライミングによって、32Pでラベルした。 42℃にて一晩ハイブリダイゼーションを行った後、ブロットを、42℃にて、30mM 塩化ナトリウム、3mM クエン酸ナトリウム、0.1% SDS中で良く洗浄した。 エキソン1、2、3、4、5および6のDNA配列に加えて、部分的な周囲のイントロン配列を、それぞれ配列番号:9、10、11、12、13および14に記す。
【0072】
エキソン7の残部ならびにエキソン8、9、10、11および12は、ヒトP1ゲノムライブラリーから単離したP1クローンからサブクローン化した。 ニトロセルロース上にP1ファージプラークをブロットし、0.75M 塩化ナトリウム、50mM リン酸ナトリウム(pH 7.4)、5mM EDTA、1%ポリビニルピロリドン、1%フィコール、1%ウシ血清アルブミン、0.5% SDS、および0.1mg/mlの総ヒトDNA中でプレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションを行った。 ヘキサマーランダムプライミングによって32Pでラベルしたハイブリダイゼーションプローブは、前記のように単離したラムダクローンの3'端から由来するゲノムDNAの2.6 kbのEcoR1断片で構成されていた。 この断片は、ファージクローン上に存在するエキソン6およびエキソン7の一部を含んでいた。 65℃にて一晩ハイブリダイゼーションを行った後、前記のようにブロットを洗浄した。 エキソン7、8、9、10、11および12のDNA配列に加えて、部分的な周囲のイントロン配列を、それぞれ配列番号:15、16、17、18、19および20に記す。
【0073】
実施例6
全長の血漿PAF-AH cDNAクローンを、マウスおよびイヌ脾臓cDNAライブラリーから単離し、ラット胸腺cDNAライブラリーから部分的なラットのクローンを単離した。 クローンは、低いストリンジェンシーでのハイブリダイゼーションにより同定した(ハイブリダイゼーション条件は、50%ホルムアミドの代わりに20%ホルムアミドを用いたこと以外は、前記実施例5のエキソン1〜6について記載したと同じであった)。 ヒトPAF-AH sAH 406-3 cDNAクローンの1kb HindIII断片(配列番号:7のヌクレオチド309〜1322)をプローブとして用いた。 加えて、部分的なサルのクローンを、配列番号:7のヌクレオチド285〜303および851〜867に基づくプライマーを用いて、PCRによりマカク脳cDNAから単離した。
【0074】
マウス、イヌ、ラットおよびマカクのcDNAクローンのヌクレオチドおよび決定されたアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:21、22、23および24に記す。
【0075】
それらのcDNAクローンとヒトcDNAクローンの決定されたアミノ酸配列を比較することにより、以下の表3に示す、アミノ酸の同一性のパーセンテージ値が得られた。
【0076】
【表3】
実施例7
ヒト血漿PAF-AH cDNAクローンsAH 406-3(実施例3)が、PAF-AH活性を有するタンパク質をコードしているか否かを確定するため、pRc/CMV発現構築体をCOS7細胞内で一過性に発現させた。 DEAEデキストラン法によりトランスフェクトして3日後に、COS細胞培地を、PAF-AH活性についてアッセイした。
【0077】
60mm組織培養ディッシュ当たり300,000細胞の密度で、細胞を播種した。 翌日、0.5mg/ml DEAEデキストラン、0.1mMクロロキンおよび5〜10μgのプラスミドDNAを含有するDMEM中で細胞を2時間インキュベーションした。 次いで、細胞を、10%DMSOを含むリン酸緩衝生理食塩水中で1分間処理し、培地で洗浄し、そしてジイソプロピルフルオロホスフェート(DFP)を用いて前処理して内在性ウシ血清のPAF-AHを不活性化しておいた子牛胎児血清10%を含有するDMEM中でインキュベーションした。 3日間インキュベーションした後、トランスフェクトした細胞からの培地をPAF-AH活性について分析した。 10mM EDTAまたは1mM DFPのいずれかの存在下または非存在下で分析を行い、スタッフォリニら(1987)、前出、により以前に血漿PAF-AHについて報告されたように、組換え酵素がカルシウム非依存性であり、セリンエステラーゼ阻害剤DFPによって阻害されるか否かを判定した。 陰性の対照には、インサートを欠くpRc/CMVかまたはsAH 406-3インサートを逆方向に有するpRc/CMVを用いてトランスフェクトした細胞が含まれていた。
【0078】
トランスフェクト体上清におけるPAF-AH活性は、以下の変更を加えて、スタッフォリニら(1990)、前出、の方法により測定した。 要約すると、[アセチル-3H]PAF(ニューイングランドヌクレアー(New England Nuclear)社、ボストン、マサチューセッツ州)での3H-アセテートの加水分解を測定することによって、PAF-AH活性を測定した。 水性の遊離3H-アセテートは、オクタデシルシリカゲルカートリッジ(ベーカーリサーチプロダクツ(Baker Research Products)社、フィリプスバーグ(Phillipsburg)、ペンシルベニア州)を用いた逆相カラムクロマトグラフィーにより、ラベルされた基質から分離した。 50μlの反応液容量で0.1Mヘペス緩衝液、pH 7.2中、10μlのトランスフェクト体の上清を用いて、アッセイを行った。 標識:非標識(cold)のPAFの割合を1:5として、1反応当たり計50ピコモルの基質を用いた。 37℃にて、30分間反応液をインキュベーションし、40μlの10 M酢酸を添加することによって停止した。 オクタデシルシリカゲルカートリッジを通して溶液を洗浄し、次いでカートリッジは0.1M酢酸ナトリウムですすいだ。 各試料からの水性溶出液を集めて、液体シンチレーションカウンターで1分間計測した。 酵素活性は、1分当たりのカウント数で表した。
【0079】
図2に示すように、sAH 406-3でトランスフェクトした細胞からの培地は、バックグラウンドよりも4倍のレベルでPAF-AH活性を有していた。 この活性は、EDTAの存在によっては影響を受けなかったが、1mM DFPにより阻止された。 これらの観察から、クローンsAH 406-3が、ヒト血漿酵素PAF-AHに一致した活性体をコードしていることが証明された。
【0080】
実施例8
大腸菌発現ベクター内へのサブクローニングが容易に行える、クローンsAH 406-3からのヒト血漿PAF-AH cDNAのタンパク質をコードする断片を作製するために、PCRを用いた。
【0081】
サブクローン化したセグメントは、Ile42(配列番号:8、ヒト血漿から精製された酵素のN-末端残基)をコードするコドンを有するヒト遺伝子の5'端で始まるものであった。
構築体中には、本来の終止コドンまでの遺伝子の残部が含まれた。 利用した5'センスPCRプライマーは、5' TATTCTAGAATTATGATACAAGTATTAATGGCTGCTGCAAG 3'(配列番号:25)であり、翻訳開始コドン(下線部)のみならずXbaIクローニング部位を含むものであった。
【0082】
利用した3'アンチセンスプライマーは、5' ATTGATATCCTAATTGTATTTCTCTATTCCTG 3'(配列番号:26)であって、sAH406-3の終止コドンにおよび、EcoRVクローニング部位を含むものであった。 PCR反応は、本質的に実施例3に記載のように実施した。 その結果得られたPCR産物は、XbaIおよびEcoRVを用いて消化し、そして、クローニング部位に近接した上流にTrpプロモーター(デボエ(deBoer)ら、PNAS、80巻、21〜25頁、(1983))を含むpBR322ベクター内にサブクローン化した。 大腸菌株XL-1ブルーをその発現構築体で形質転換し、次いで、100μg/mlのカルベニシリン(carbenicillin)を含むLブロス(broth)中で培養した。
【0083】
一晩培養した培養物からの形質転換体をペレットとし、50mM トリス塩酸、pH 7.5、50 mM NaCl、10mM CHAPS、1mM EDTA、100μg/ml リソゾーム、および0.05 トリプシン阻害単位(TIU)/ml のアプロチニン(Aprotinin)を含む溶菌用緩衝液中に再懸濁した。 氷上で1時間インキュベーションし、2分間超音波処理を施した後、実施例4に記載の方法により、PAF-AH活性について溶菌物をアッセイした。 発現構築体(trp AHと名付けた)で形質転換された大腸菌は、PAF-AH活性を有する産物を作り出していた。 実施例9の表6を参照されたい。
【0084】
tacIIプロモーター(デボエ、前出)、サルモネラ菌(Salmonella typhimurium)からのアラビノース(ara)Bプロモーター(ホルビッツ(Horwitz)ら、Gene、14巻、309〜319頁、(1981))、およびバクテリオファージT7プロモーターの、3種類のプロモーターを含む構築体もまた、大腸菌内でのヒトPAF-AH配列の発現を行うために利用した。 Trpプロモーター(pUC trp AH)、tacIIプロモーター(pUC tac AH)、およびaraBプロモーター(pUCara AH)からなる構築体をプラスミドpUC19(ニューイングランドバイオラブス(New England Biolabs)社、マサチューセッツ州)の中に組み立て、一方で、T7プロモーターからなる構築体(pET AH)はプラスミドpET15B(ノバゲン(Novagen)社、マディソン、ウィスコンシン州)の中に組み立てた。 T7プロモーター領域のリボソーム結合部位に融合されたaraBプロモーターで構成されるハイブリッドプロモーター、pHAB/PHを含む構築体もまた、pET15Bの中に組み立てた。 すべての大腸菌構築体が、20〜50 U/ml/OD600の範囲内でPAF-AH活性を生産した。 この活性は、総細胞タンパク質の1%以上が総組換え体タンパク質に対応することを示す。
【0085】
組換えヒトPAF-AHは、酵母菌(Saccharomyces cerevisiae)内でも発現させた。rPAF-AH発現を行なうために、酵母ADH2プロモーターを用いて、7U/ml/OD600を生産した(下記、表4)。
【0086】
【表4】
アミノ末端側を伸長した大腸菌発現構築体のいくつかについても、PAF-AHの生産について検討を行った。 天然型の血漿PAF-AHのN-末端は、アミノ酸配列決定(実施例2)によりIle42として同定された。 しかしながら、Ile42に近接した上流の配列は、シグナル配列切断部位で見出されるアミノ酸には一致していない(すなわち、リジンが-1位に見出されないので、「-3-1-ルール」には従っていない、フォン・ヘイネ(von Heijne)、Nuc.Acids Res.,14巻、4683〜4690頁、(1986)を参照されたい)。 おそらくは、より古典的なシグナル配列(M1〜A17)が、細胞分泌系により認識され、引き続きタンパク質内部分解性切断(endoproteolytic cleavage)が行われる。 開始のメチオニンで始まるPAF-AHに対する全コード配列(配列番号:7のヌクレオチド162〜1487)を、大腸菌内で発現するために、trpプロモーターを用いて作った。 表5に示すように、この構築体は活性なPAF-AHを産生したが、Ile42で始まる元の構築体のレベルの約50分の1しか発現しなかった。
【0087】
Val18で始まる他の発現構築体(配列番号:7のヌクレオチド213〜1487)は、元の構築体の約3分の1のレベルで、活性なPAF-AHを生産した。 これらの結果より、大腸菌において生産される組換えPAF-AHの活性に対して、アミノ末端部の延長は重要または必須ではないことが示唆される。
【0088】
【表5】
実施例9
大腸菌内で発現される組換えヒト血漿PAF-AH(Ile42で始まる)を、種々の方法により単一のクマシーブルー染色SDS-PAGEバンドにまで精製し、そして、本来のPAF-AH酵素が示す活性についてアッセイした。
【0089】
A:組換えPAF-AHの精製
利用した第1の精製手法は、本来のPAF-AHについて実施例1において記載した手法と類似している。 以下の工程は、4℃にて実施した。 PAF-AHを生産している大腸菌(発現構築体trp AHで形質転換したもの)50mlからの菌体を、実施例8に記載のように溶菌した。
【0090】
10,000gで20分間遠心することにより、残渣を除去した。 緩衝液D(25mMトリス-塩酸、10mM CHAPS、0.5M NaCl、pH 7.5)で平衡化したブルーセファロースファストフローカラム(2.5cm×4cm、20mlベッド容量)に、0.8ml/分でその上清を負荷した。 カラムは、100mlの緩衝液Dで洗浄し、0.5M KSCNを含む緩衝液A 100mlで3.2ml/分にて溶出した。 緩衝液Dで平衡化した1mlのCuキレーティングセファロースカラムに15mlの活性画分を負荷した。 カラムを5mlの緩衝液Dで洗浄し、引き続き100mMイミダゾールを含む緩衝液Dを5ml用いて重力の速度で溶出した。 PAF-AH活性を有する画分を、SDS-PAGEにより分析した。
【0091】
精製の結果は表6に示すとおりであり、ここでの単位は、1時間当たりのPAF加水分解のμmol数に等しい。 4℃にて得られる精製産物は、43kDaのマーカーの下に単一の強いバンドとして、直接その上下に染まっている拡散した染色部分とともに、SDS-PAGE上に現れた。 組換え物質は、実施例1に記載の血漿からのPAF-AH調製物に比較して有意に、より純粋であり、より大きな比活性を呈する。
【0092】
【表6】
常温で同じ精製プロトコルを実施した場合、43kDaのマーカーの下のバンドに加えて、29kDaのマーカーの下のバンドの群が、アッセイしたゲルスライスのPAF-AH活性に呼応していた。 これらの低分子量のバンドは、酵素活性を保持しているPAF-AHのタンパク質分解断片であるかもしれない。
【0093】
常温にて、異なる精製手法も実施した。 PAF-AHを生産している大腸菌(発現構築体pUC trp AHで形質転換したもの)の菌体(100g)を200mlの溶菌用緩衝液(25mMトリス、20mM CHAPS、50mM NaCl、1mM EDTA、50μg/ml ベンズアミド、pH 7.5)中に再懸濁し、次いで15,000psiにてマイクロフルイダイザー(microfluidizer)を3回通すことによって溶菌した。 14,300×gにて1時間遠心することにより、固形物を除去した。 希釈用緩衝液(25mM MES(2-[N-モルフォリノ]エタンスルホン酸)、10mM CHAPS、1mM EDTA、pH 4.9)中に上清を10倍希釈し、緩衝液E(25mM MES、10mM CHAPS、1mM EDTA、50mM NaCl、pH 5.5)で平衡化したSセファロースファストフローカラム(200ml)(陽イオン交換カラム)に25ml/分にて負荷した。 1リットルの緩衝液Eでカラムを洗浄し、1M NaClを用いて溶出して、次いで、溶出液を集めて、0.5mlの2Mトリスベースを用いてpH 7.5に調整した50mlの画分とした。 PAF-AH活性を含む画分をプールし、0.5M NaClに調整した。 そのSプールを、緩衝液F(25mMトリス、10mM CHAPS、0.5M NaCl、1mM EDTA、pH 7.5)に平衡化したブルーセファロースファストフローカラム(2.5cm×4cm、20ml)に、1ml/分にて負荷した。
【0094】
カラムを100mlの緩衝液Fで洗浄し、4ml/分にて、3M NaClを含む緩衝液Fを100ml用いて溶出した。 次いで、試料中のエンドトキシンレベルを低減せしめるため、ブルーセファロースファストフロークロマトグラフィー工程を繰り返した。 PAF-AH活性を含む画分をプールし、緩衝液G(25mMトリス、pH 7.5、0.5M NaCl、0.1%ツイーン80、1mM EDTA)に対して透析した。 精製の結果を表7に示すが、ここで単位(unit)は、1時間当たりのPAF加水分解のμmol数に等しい。
【0095】
【表7】
得られた精製産物は、43kDaのマーカーの下に単一の強いバンドとして、直接その上下に染まっている拡散した染色部分とともに、SDS-PAGE上に現れた。 組換物質は、実施例1に記載の血漿からのPAF-AH調製物に比較すると、有意に、より純粋であり、より大きな比活性を呈する。
【0096】
本発明により企図されるさらに別の精製手法は、以下の、菌の溶菌、清澄化(clarification)、および第1のカラム工程を伴う。 菌体を、溶菌用緩衝液(25mMトリス、pH 7.5、150mM NaCl、1%ツイーン80、2mM EDTA)中に1:1に希釈する。 冷却したマイクロフルイダイザー中に、15,000〜20,000psiにて材料を3回通すことにより溶菌を実施し、その結果99%を越える細胞の破壊を引き起こさせる。 溶菌物は、希釈用緩衝液(25mMトリス、pH 8.5、1mM EDTA)中に1:20に希釈し、次いで、Q-セファロースビッグビーズクロマトグラフィーメディア(ファルマシア社)を詰めて、25mMトリス、pH 8.5、1mM EDTA、0.015%ツイーン80で平衡化したカラムに適用する。 溶出液を、25mM MES、pH5.5、1.2M 硫酸アンモニウム、1mM EDTA中に1:10に希釈し、次いで、同じ緩衝液に平衡化したブチルセファロースクロマトグラフィーメディア(ファルマシア社)に適用する。
【0097】
25mM MES、pH 5.5、0.1%ツイーン80、1mM EDTA中にPAF-AH活性が溶出される。
【0098】
B:組換えPAF-AHの活性
PAFアセチルヒドロラーゼの最も顕著な特性は、基質のsn-2位に短い残基を持つ基質に対する、著しい特異性である。 この厳密な特異性によって、PAFアセチルヒドロラーゼがPLA2の他の型から区別される。 かくして、組換えPAF-AHがsn-2位に長鎖脂肪酸を持つリン脂質を分解するか否かを判定するため、1-パルミトイル-2-アラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(アラキドノイルPC)の加水分解を分析した。 その理由は、この物質が、よく特徴付けをなされたPLA2の型に対する好ましい基質であるからである。 本来のPAF-AHを用いた以前の研究から予測されるように、組換えPAF-AHとともにインキュベーションした場合、このリン脂質は加水分解を受けなかった。 追加の実験で、アラキドノイルPCを、0〜125μMの範囲の濃度で標準のPAF加水分解アッセイに入れ、それが組換えPAF-AHによるPAFの加水分解を阻害するかどうかを判定した。 PAFの濃度より5倍大きい、最も高い濃度のPAF-AHにおいてさえ、PAF加水分解は何等阻害されなかった。
【0099】
かくのごとく、組換えPAF-AHは、本来の酵素と同じ基質特異性を呈し、長鎖の基質は認識しないものである。
【0100】
さらに、組換えPAF-AH酵素は、sn-2脂肪酸の酸化的切断がなされていた酸化型リン脂質(グルタロイルPC)を速やかに分解した。 本来の血漿PAF-AHは、カルシウム非依存性、およびスルフヒドリル基を修飾する化合物またはジスルフィイドを開裂せしめる化合物に対する耐性を含めた、他のホスフォリパーゼとPAF-AHとの区別がなされる種々の他の特性を有する。
【0101】
本来のおよび組換え血漿PAF-AH酵素のいずれも、DFPに対して感受性を有し、このことによりそれらの活性部位の一部がセリンを含んでなることが示唆される。 本来の血漿PAFアセチルヒドロラーゼの希有の特徴は、それが循環しているリポタンパク質と強固に会合しており、そしてその触媒活性がリポタンパク質との環境により影響を受けることである。
【0102】
本発明の組換えPAF-AHをヒト血漿(内在性酵素活性を除くためにDFPで前処理したもの)とともにインキュベーションすると、本来の活性体と同様に低密度および高密度リポタンパク質と会合した。 低密度リポタンパク質の修飾は、粥腫において観察されるコレステロールの沈着に必須であること、および脂質の酸化がこの過程における初発因子であることの実質的な証拠があるので、この結果は重要である。 PAF-AHは、in vitroで酸化条件下に低密度リポタンパク質を修飾から保護し、そしてそのような役割をin vivoで果たしているかもしれない。 したがって、炎症を消散させるためのみならず、アテローム性動脈硬化プラーク(atherosclerotic plaque)におけるリポタンパク質の酸化の抑制にも、PAF-AHの投与が指示される。
【0103】
これらの結果はすべて、cDNAクローンsAH 406-3がヒト血漿PAFアセチルヒドロラーゼの活性を有するタンパク質をコードしていることを確証するものである。
【0104】
実施例10
他の種々の組換えPAF-AH産物を、大腸菌内で発現させた。 それらの産物には、単一のアミノ酸変異を有するPAF-AH誘導体およびPAF-AH断片が含まれる。
【0105】
A:PAF-AHアミノ酸置換産物
PAF-AHは、リン脂質であるPAFを加水分解するので、リパーゼである。 PAF-AHと他の特徴付けがなされたリパーゼの間に明らかな相対的類似性は存在しない一方で、構造的に特徴付けがなされたリパーゼの比較において見出される保存された残基がある。 1つのセリンが、活性部位のメンバーとして同定されている。 そのセリンは、アスパラギン酸残基およびヒスチジン残基とともに、そのリパーゼの活性部位を呈する触媒活性3残基群を形成する。 3つの残基は、一次タンパク質配列においては近接していないが、構造的研究により、三次元空間においてはその3つの残基が近接していることが証明されている。
【0106】
哺乳動物リパーゼの構造の比較によれば、Asp残基が、通常は、活性部位のセリンに対して24アミノ酸だけC-末端側にあることが示唆されている。 加えて、ヒスチジンは、通常、活性部位のセリンに対し、109〜111アミノ酸だけC-末端側にある。
【0107】
部位特異的突然変異およびPCRによって、ヒトPAF-AHコード配列の個々のコドンを、アラニン残基をコードするように変えて、大腸菌内で発現させた。 以下の表8に示すように、ここで例えば「S108A」の略語は108位のセリン残基がアラニンに変えられていることを示すのであるが、Ser273、Asp296、またはHis351の点突然変異により完全にPAF-AH活性が損なわれる。 活性部位残基間の距離は、PAF-AH(SerからAspは23アミノ酸、SerからHisは78アミノ酸)と他のリパーゼについては類似している。 これらの実験により、Ser273、Asp296およびHis351が、活性に対して重要な残基であり、それゆえに触媒活性3残基群の残基の候補となりそうそうであることが立証される。 システインは、ジスルフィド結合を形成することができるので、タンパク質の機能的な完全性にしばしば重要である。
【0108】
血漿PAF-AHは5つのシステインを含んでいる。 5つのうちのいずれかが酵素活性に重要であるかを判定するために、各システインを個々にセリンに突然変異せしめ、その結果得られた突然変異体を大腸菌内で発現させた。 以下の表8に示すように、Cys229またはCys291をセリンに変換することにより、PAF-AH活性はすべては喪失されないが、有意に喪失されるという結果となった。 よって、これらのシステインは、完全なPAF-AH活性にとって必要であると思われる。 他の点突然変異は、PAF-AH触媒活性にほとんど、または全く効果を有しなかった。
【0109】
表8において、「++++」は約40〜60 U/ml/OD600の野生型PAF-AH活性を表し、「+++」は、約20〜40 U/ml/OD600活性を表し、「++」は、約10〜20 U/ml/OD600活性を表し、「+」は、1〜10 U/ml/OD600活性を表し、そして、「-」は、<1U/ml/OD600活性を示す。
【0110】
【表8】
B:PAF-AH断片産物
種々の時間にわたりエキソヌクレアーゼIIIを用いてPAF-AHコード配列の3'端を消化し、その後、すべての3つの読み取り枠における終止コドンをコードするプラスミドDNAに、短くしたコード配列を連結することにより、C-末端側欠失体を調製した。 10の異なる欠失体構築体を、DNA配列分析、タンパク質発現、およびPAF-AH活性により特徴付けした。 21〜23のC-末端アミノ酸を除去すると、触媒活性が大幅に低減し、52残基を除去すると完全に活性が損なわれた。 図3を、参照されたい。
【0111】
PAF-AHのアミノ末端領域でも、同様の欠失を行った。 N-末端側に大腸菌チオレドキシンを付加したPAF-AHとの融合体を調製して、一貫して高レベルにPAF-AH活性体を発現させることを容易ならしめた(ラ バリー(LaVallie)ら、Bio/technology、11巻、187〜193頁、(1993))。 自然にプロセッシングを受けたN-末端(Ile42)から19アミノ酸を除去すると、融合タンパク質における酵素活性は完全に損なわれた。 図3を、参照されたい。
【0112】
実施例11
ヒト組織におけるヒト血漿PAF-AH mRNAの発現パターンの予備分析を、ノザンブロットハイブリダイゼーションによって行った。
【0113】
RNAは、RNAスタット(Stat) 60(テル−テスト(Tel-Test)"B"、フレンズウッド(Friendswood)、テキサス州)を用いて、ヒト大脳皮質、心臓、腎臓、胎盤、胸腺および扁桃腺から調製した。 加えて、ホルボールエステルである、ホルボールミリスチルアセテート(PMA)を用いてマクロファージ様表現型に分化誘導した、ヒト造血前駆体様細胞系、THP-1(ATCC TIB 202)からRNAを調製した。 組織のRNAならびに、誘導前および誘導して1〜3日後の前骨髄球細胞THP-1細胞系から調製したRNAは、1.2%アガロースホルムアルデヒドゲルで電気泳動を行い、引き続き、ニトロセルロース膜に転写した。 全長のヒト血漿PAF-AH cDNAであるsAH 406-3は、ランダムプライミングによりラベリングを行い、ライブラリースクリーニングについて実施例3に記載したと同様の条件下で膜にハイブリダイズさせた。
【0114】
初期の結果では胸腺、扁桃腺、およびより低い度合いで胎盤のRNA中の1.8 kbのバンドに、PAF-AHプローブがハイブリダイズすることが示唆された。
【0115】
ヒト血液から単離した単球におけるPAF-AH RNAの発現、および培養中にそれらがマクロファージへと自発的に分化する間のPAF-AH RNAの発現も調べた。 新しい単球ではほとんど、または全くRNAが検出されなかったが、マクロファージへと分化する間に発現が誘導されそして維持された。 分化している細胞の培養培地においてPAF-AH活性の相伴う蓄積があった。 ヒト血漿PAF-AH転写物の発現は、1日目にTHP-1細胞RNAでも観察されたが、誘導後3日目には観察されなかった。 THP-1細胞は、基底状態ではPAF-AHに対するmRNAを発現していなかった。
【0116】
実施例12
In situハイブリダイゼーションによって、ヒトおよびマウス組織中のPAF-AHの発現を調べた。
【0117】
ヒトの組織は、National Disease Research Interchangeおよびthe Cooperative HumanTissue Networkから得た。 正常マウス脳および脊髄、ならびにEAEステージ3マウスの脊髄は、S/JLJマウスから採取した。 正常S/JLJマウスの胎児は、受胎後11〜18日目に採取した。
【0118】
組織切片を、少量のOCT化合物(マイルス社(Miles, Inc.,)、エルクハート(Elkhart)、インディアナ州)とともに、ティッシュ・テク(Tissue Tek)IIクリオモールド(cryomold)(マイルスラボラトリーズ社(Miles Laboratories, Inc.,)、ナパービル(Naperville)、イリノイ州)内に置いた。 それらはクリオモールド内の中心に置き、クリオモールドにOCT化合物を満たし、その後、2-メチルブタン(C2H5CH(CH3)2、アルドリッチケミカルカンパニー社(AldrichChemical Company, Inc.,)、ミルウォーキー、ウィスコンシン州)入りの容器に入れて、そして容器は液体チッ素中に入れた。 クリオモールド内の組織およびOCT化合物が一旦凍結すると、切断するまで−80℃にてそのブロックを保存しておいた。
【0119】
組織ブロックを6μmの厚さに切断し、ベクタボンド(Vectabond)(ベクターラボラトリーズ社(Vector Laboratories, Inc.,)、バーミンガム、カリフォルニア州)を被覆したスライドに固着させ、−70℃にて保存し、そして、それらを暖めてかつ凝結(condensation)を除去するために、およそ5分間、50℃に置いて、その後、4℃にて、20分間、4%パラホルムアルデヒド中で固定して、70%、95%、100%エタノールで各等級につき1分間づつ4℃にて脱水して、次いで、室温で30分間風乾させた。 70%ホルムアミド/2×SSC中で70℃にて2分間切片を変性させ、2×SSCで2度すすぎ、脱水した後、30分間風乾した。 In vitro RNA転写35S-UTP(アマーシャム社)取り込みによって、PAF-AH遺伝子の内部の1KbのHindIII断片(配列番号:7のヌクレオチド308〜1323)由来のDNAから作り出された、放射能で標識した単鎖のmRNAを用いて、組織をin situでハイブリダイズさせた。 プローブは、250〜500bpの種々に異なる長さのものを用いた。 ハイブリダイゼーションは、50℃にて一晩(12〜16時間)、35S-標識リボプローブ(6×105cpm/切片)、tRNA(0.5μg/切片)およびジエチルピロカーボネート(depc)処理した水を、ハイブリダイゼーション用緩衝液に加え、50%ホルムアミド、0.3M NaCl、20mM トリス、pH 7.5、10%デキストラン硫酸、1×デンハーツ(Denhardt's)溶液、100mMジチオスレトール(DTT)および5mM EDTAという最終濃度となるようにした。 ハイブリダイゼーションの後、4×SSC/10mM DTTで室温にて1時間、その後、50%ホルムアミド/1×SSC/10mM DTTで60℃にて40分間、2×SSCで室温にて30分、さらに0.1×SSCで室温にて30分、切片を洗浄した。 切片を脱水し、2時間風乾してコダックNTB2写真用乳濁液(photographic emulsion)で被覆し、2時間風乾して現像(完全な暗所で4℃にて保管した後)して、ヘマトキシリン/エオシンで対比染色した。
【0120】
A:脳
小脳: マウスおよびヒトのいずれの脳においても、小脳のプルキニエ細胞層内、ならびに歯状核(小脳内の4つの深核(deep nuclei)の1つ)内の個々の神経細胞体上に、強いシグナルが見られた。 加えて、顆粒球内の個々の細胞および灰白質の分子層内にシグナルが見られた。
【0121】
海馬: ヒト海馬切片では、神経細胞体らしき、切片全体にわたる個々の細胞が強いシグナルを示した。
【0122】
脳幹: ヒトおよびマウスいずれもの脳幹切片上には、灰白質内の個々の細胞に強いシグナルが認められた。
【0123】
皮質: (大)脳、後頭、および側頭皮質から取ったヒト皮質切片上、ならびにマウス全脳切片上において、皮質全体の個々の細胞が、強いシグナルを示した。 皮質の異なる層における発現パターンに、差異はないように思われた。 これらのin situハイブリダイゼーションの結果は、ノザンブロッティングによって得られる(大)脳皮質に対する結果とは異なっている。 ノザンブロッティングの感度に比べてin situハイブリダイゼーションの感度の方がより高いことからこの差異が生じるようである。
【0124】
脳下垂体: ヒト組織切片の下垂体前葉内の個々の分散細胞上に、幾分弱いシグナルが見られた。
【0125】
B:ヒト結腸
健常およびクローン病の結腸のいずれも、切片の粘膜内に存在するリンパ凝集体(lymphatic aggregation)内にシグナルを呈し、シグナルのレベルは、クローン病患者からの切の方がわずかに高かった。 クローン病患者の結腸では、固有層にも強いシグナルが見られた。 同様に、クローン病患者の虫垂切片において高レベルのシグナルが観察され、一方で、健常人の虫垂ではより低いものの検出可能なシグナルを呈した。 潰瘍性大腸炎患者からの切片は、リンパ凝集体にも、固有層にも明らかなシグナルを示さなかった。
【0126】
C:ヒト扁桃腺および胸腺
扁桃腺の胚中心の中および胸腺の中の個々の細胞の分散された群に、強いシグナルが見られた。
【0127】
D:ヒトリンパ腺
健常な提供者から採取したリンパ腺切片上には強いシグナルが観察されたが、一方で、敗血病性ショックの提供者からのリンパ節の切片においては、幾分弱いシグナルが観察された。
【0128】
E:ヒト小腸
健常人およびクローン病患者の小腸のいずれも、パイエル集腺および固有層における切片で弱いシグナルを呈し、クローン病患者の組織でのシグナルの方がわずかに高かった。
【0129】
F:ヒト脾臓および肺
脾臓(健常および脾臓膿瘍切片)または肺(健常および気腫切片)組織のいずれにおいても、シグナルは観察されなかった。
【0130】
G:マウス脊髄
正常およびEAEステージ3の脊髄のいずれにおいても、脊髄の灰白質内に強いシグナルがあり、その発現はEAEステージ3の脊髄でわずかに高かった。 EAEステージ3の脊髄において、おそらくは、浸潤マクロファージおよび/または他の白血球であろうが、白質内の細胞および血管周囲のカフス(cuffs)でシグナルを示し、これは正常の脊髄にはなかった。
【0131】
F:マウス胎児
11日目のマウス胎児において、第4脳室内の中枢神経系でシグナルが明瞭であり、脳および脳幹へと発達する間の胎児の経時的変化にわたって、そのシグナルは一定のままであった。 胎児が成熟するにつれ、脊髄内の中枢神経系(12日目)、初期皮質およびガッセル半月神経節(14日目)、および下垂体(16日目)でシグナルが明瞭となった。 脊髄を残す神経の末梢神経系(14または15日目の初め)で、シグナルが観察され、さらに17日目に、胎児の頬鬚(whiskers)の周囲に強いシグナルが出現した。 14日目には肝臓および肺に、腸(15日目の初め)に、ならびに口/喉の後部(posterior portion)(16日目の初め)においても、発現が見られた。 18日目までには、発現パターンは皮質、後脳(小脳および脳幹)、脊髄の腰椎領域を残す神経、口/喉の後部、肝臓、腎臓へと分化していき、肺および腸においてかなり弱いシグナルが見られた。
【0132】
G:要約
扁桃腺、胸腺、リンパ腺、パイエル集腺、虫垂および結腸リンパ凝集体におけるPAF-AHmRNAの発現は、これらの組織に食細胞性および抗原作用(antigen-processing)細胞として役立つ組織マクロファージが存在するので、可能性のある優勢な、PAF-AHのin vivoでの源はマクロファージであるという結論に一致する。 炎症のある組織におけるPAF-AHの発現は、単球由来のマクロファージの役割が、炎症を消散させることであるという仮説に一致するであろう。 PAF-AHはPAFおよび前炎症性リン脂質を不活性化し、かくしてこれらのメディエーターにより開始せしめられる結果生じる炎症カスケードをダウンレギュレートすることが期待されるであろう。
【0133】
PAFは、脳組織内全体で検出されており、培養しているラット脳顆粒球細胞によって分泌されている。 In vitroおよびin vivoでの実験により、PAFは神経組織内の特異的な受容体に結合し、そしてカルシウムの動員、転写活性化遺伝子のアップレギュレーション、および神経前駆細胞系であるPC12の分化などの、機能的変化および表現型の変化を誘導することが証明されている。 これらの観察により、脳内でのPAFについての生理学的役割が示唆され、そして、これに一致して、海馬の組織切片培養物とPAF誘導体およびPAF拮抗剤を用いた最近の実験により、海馬の長期協力作用(long term potentiation)における重要な逆行性(retrograde)メッセンジャーとしてPAFが関わっていることが示されている。
【0134】
それ故、炎症におけるその病理学的作用に加えて、PAFは通例の神経シグナルプロセスに関与しているようである。 脳内でのPAF-AHの細胞外の発現は、PAFが媒介するシグナル発生の持続時間および強さを制御するのに役立つかもしれない。
【0135】
実施例13
組換えヒト血漿PAF-AHに特異的なモノクローナル抗体を、抗原として大腸菌が生産したPAF-AHを用いて作った。
【0136】
マウス#1342に、0日目、19日目および40日目に、組換えPAF-AHを注射した。 融合前の追加抗原刺激のため、抗原を含むPBSをマウスに注射し、4日後にマウスを屠殺してその脾臓を無菌的に取り出し、無血清のRPMI、10ml中に入れた。 2mM L-グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム、100単位/ml ペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシン(RPMI)(ギブコ(Gibco)社、カナダ)を補った、無血清のRPMI 1640の中に沈めた2枚の顕微鏡スライドガラスの氷結させた端部間でその脾臓を粉砕することにより、単一細胞懸濁液を形成させた。 細胞懸濁液は、無菌の70-メッシュ ナイテックス(Nitex)セルストレーナー(ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)社、パーシパニー(Parsippany)、ニュージャージー州)を通して濾過し、200gで5分間遠心し、そのペレットを20mlの無血清RPMI中に再懸濁することにより2回の洗浄を行った。 投薬を受けたことがない3匹のBalb/cマウスから取った胸腺細胞を、同様に調製した。 11%ウシ胎児血清(FBS)(ハイクローンラボラトリーズ社(Hyclone Laboratories, Inc.,)、ロガン(Logan)、ユタ州)を含むRPMI中で、融合前の3日間対数増殖期に保ったNS-1ミエローマ細胞を、200gで5分間遠心して、ペレットを前の段落に記載したように2回洗浄した。
【0137】
1×108の脾臓細胞を、2.0×107のNS-1細胞と合わせ、遠心して、上清は吸引した。
【0138】
細胞ペレットを、チューブを軽く叩いて動かして(dislodged)、37℃の PEG 1500(75mMヘペス、pH 8.0中、50%)(ベーリンガーマンハイム(BoehringerMannheim)社)1mlを、1分間にわたって撹拌しながら添加し、引き続き、7分間にわたって7mlの無血清RPMIを添加した。 追加に8mlのRPMIを添加し、細胞を200gで10分間遠心した。 上清を廃棄した後、ペレットを、15% FBS、100μM ヒポキサンチンナトリウム、0.4μM アミノプテリン、16μM チミジン(HAT)(ギブコ社)、25単位/ml IL-6(ベーリンガーマンハイム社)、および1.5×106胸腺細胞/mlを含むRPMI 200ml中に再懸濁して、10枚のコーニング(Corning)平底96ウェル組織培養プレート(コーニング社、コーニング、ニューヨーク州)の中に播種した。 融合後2、4および6日目に、100μlの培地を融合プレートのウェルから除去し、新鮮な培地に置き換えた。 8日目に、ELISAによって融合をスクリーニングし、組換えPAF-AHに結合するマウスIgGの存在について調べた。 イムロン(Immulon)4プレート(ダイナテック(Dynatech)社、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)を、25mM トリス、pH 7.5中に希釈した組換えPAF-AH、100ng/ウェルで、37℃にて2時間被覆した。 被覆用溶液を吸引し、200μl/ウェルのブロッキング溶液(CMF-PBS中に希釈した0.5%フィッシュスキンゼラチン(シグマ(Sigma)社))を添加して、37℃にて30分間インキュベーションした。
【0139】
0.05%ツイーン20を含むPBS(PBST)でプレートを3回洗浄し、50μlの培養上清を加えた。
【0140】
37℃にて30分間インキュベーションし、前記のように洗浄した後、PBSTで1:3500に希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ複合ヤギ抗マウスIgG(fc)(ジャクソンイムノリサーチ(Jackson ImmunoResearch)社、ウェストグローブ(West Grove)、ペンシルベニア州)50μlを添加した。 前記のようにプレートをインキュベーションし、PBSTで4回洗浄して、100mM クエン酸、pH 4.5中、1mg/ml o-フェニレンジアミン(シグマ社)および0.1μl/mlの30% H2O2で構成される基質100μLを添加した。 50μlの15% H2SO4を添加して、5分で呈色反応を停止した。 プレートリーダー(ダイナテック社)でA490を読み取った。
【0141】
選択したフュージョンウェル(fusion well)を、96ウェルプレートの中に希釈し、5日後にコロニー数/ウェルを目視的に評価することにより、2回のクローン化を行った。
【0142】
クローン化したハイブリドーマは、90D1E、90E3A、90E6C、90G11D(ATCC HB 11724)、および90F2D(ATCC HB 11725)であった。
【0143】
ハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体は、イソストリップ(Isostrip)システム(ベーリンガーマンハイム社、インディアナポリス、インディアナ州)を用いてイソタイプを判別した(isotyped)。 その結果、融合90からのハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体がすべてIgG1であることが示された。
【0144】
実施例14
ラット足の浮腫モデル(ヘンリークス(Henriques)ら、Br. J.Pharmacol.,106巻、579〜582頁、(1992))を用いて、急性炎症に対する本発明の組換えPAF-AHのin vivoでの治療効果を評価するために、実験研究を行った。 これらの研究の結果、PAF-AHがPAFで誘発した浮腫を阻止することが立証された。 2つの市販されているPAFアンタゴニストと、PAF-AHの有効性とを比較するために、平行して実験を行った。
【0145】
A:PAF-AHの調製
PAF-AH発現ベクターpuc trp AHで形質転換した大腸菌を、マイクロフルイダイザー内で溶菌し、固形物は遠心により除いて、細胞上清をS-セファロースカラム(ファルマシア社)に負荷した。 50mM NaCl、10mM CHAPS、25mM MESおよび1mM EDTA、pH 5.5からなる緩衝液でカラムを良く洗浄した。 緩衝液のNaCl濃度を1Mにまで上げることによってPAF-AHを溶出した。 その後、ブルーセファロースカラム(ファルマシア社)を用いたアフィニティークロマトグラフィーを、追加の精製工程として用いた。 ブルーセファロースカラムにPAF-AH調製物を負荷する前に試料を1:2に希釈して、0.5MにまでNaCl濃度を下げ、さらにpHを7.5に調整した。 0.5M NaCl、25mMトリス、10mM CHAPSおよび1mM EDTA、pH 7.5からなる緩衝液でブルーセファロースカラムを良く洗浄した後、NaCl濃度を3.0Mにまで上げることでPAF-AHを溶出した。
【0146】
この方法で単離したPAF-AHの純度は、通常、SDS-PAGEにより評価すると95%であり、活性は5000〜10,000 U/mlの範囲内にあった。 各PAF-AH調製物に対してなされた追加のクオリティーコントロールとして、エンドトキシンレベルおよび新鮮に獲得したラット赤血球への溶血活性の測定が挙げられた。 25mMトリス、10mM CHAPS、0.5M NaCl、pH 7.5を含む緩衝液が、酵素の保管用媒体としてだけでなく、投与のための担体として機能した。
【0147】
実験に用いた投与量は、実験直前に行った酵素活性分析に基づくものであった。
【0148】
B:浮腫の誘発
180〜200グラム重量の、6〜8週令の雌性ロングエバンス(Long Evans)ラット(チャールスリバー(Charles River)、ウィルミントン(Wilmington)、マサチューセッツ州)を、すべての実験に用いた。 実験操作の前に、動物1匹当たり、1回の投与当たり、およそ2.5 mgのケタセット(Ketaset)(フォートドッジラボラトリーズ(Fort Dodge Laboratories)社、フォートドッジ、アイオワ州)、1.6mgのロンパン(Rompun)(マイルス社、シャウニーミッション(Schawnee Mission)、カンサス州)、0.2mgのエースプロマジン(Ace Promazine)(アベコ(Aveco)社、フォートドッジ、アイオワ州)にて、麻酔用ケタセット、ロンパンおよびエースプロマジンの混合物の皮下投与を用いて動物に麻酔をかけた。 PAFまたはザイモサンのいずれかを以下のように投与することにより、足に浮腫を誘発させた。 PAF(シグマ#P-1402)は、クロロホルム/メタノール(9:1)中で−20℃にて保管している19.1 mMの貯蔵溶液から、各実験用に新たに調製した。 窒素下で乾燥して必要とされる容量にまで減じ、150mM NaCl、10mMトリス、pH 7.5、および0.25% BSAを含有する緩衝液で1:1000に希釈し、次いで5分間超音波処理した。 動物に、後足の肉趾間へ、PAF(最終投与量0.96ナノモル)50μlを皮下投与し、1時間後、実験によっては2時間後にも、浮腫を評価した。 ザイモサンA(シグマ#A-8800)は、PBS中、10mg/mlの懸濁液として、各実験のために新たに調製した。 動物に、後足の肉趾間へ、ザイモサン(最終投与量500μg)50μlを皮下投与し、2時間後に浮腫を評価した。
【0149】
PAFまたはザイモサン投与直前に、およびPAFまたはザイモサン刺激後の示された時点で、足の容量を測定することにより、浮腫を定量化した。 浮腫は、ミリリットルでの足の容量の増大として表した。 水に漬けた足で置き換わる水の容量を計るプレチスモメーター(UGOバシレ(Basile)、モデル#7150)を用いて、麻酔をかけた動物の容量置換測定を行った。 ある時点と次の時点とが、足を漬けることで比較できることを保証するために、後足の毛の生え際と踵の境界に消えないインクで印を付けた。 この技法を用いて同じ足を繰り返し測定すると、精度が5%以内であることが示された。
【0150】
C:PAF-AH投与経路および投与量
PAF-AHは、足の肉趾間へ局所的に、または尾静脈内への静脈内(IV)注射により全身に、注射した。 局所投与の場合、右後足の肉趾間皮下に100μlのPAF-AH(4000〜6000 U/ml)をラットに投与した。 左足は、100μlの担体(緩衝化した塩溶液)を投与することにより、対照として用いた。 PAF-AHの全身投与のために、尾静脈内より、300μl担体中に示したユニット数のPAF-AHを含むものをラットに静脈内投与した。 対照群は、尾静脈内に静脈内注射で適切な容量の担体を与えた。
【0151】
D:PAF-AHの局所投与
ラット(N=4)に、右足肉趾間へ100μlのPAF-AH(4000〜6000 U/ml)を皮下注射した。
【0152】
左足には100μlの担体(緩衝化した塩溶液)を注射した。 他の4匹のラットには担体のみを注射した。 すべてのラットに、直ちに足への皮下注射を介してPAFで刺激し、そして、刺激後1時間で足の容量を評価した。 図4において、各処置群について足の容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表され、PAFで誘発した足の浮腫が、PAF-AHの局所投与により阻止されることを示す。 PAF刺激の前にPAF-AHの局所処置を受けた群は、対照の注射を行った群に比べて炎症が低減することが示された。 担体で処置した対照群で足の容量の増大が0.63ml±0.14(SEM)であるのに比して、PAF-AH群では0.08ml±0.08(SEM)認められた。 担体のみを足に注射した動物では足の容量の増大を呈しなかったので、足の容量の増大は、PAFの注射の直接的な結果である。
【0153】
E:PAF-AHの静脈内投与
ラット(1群当たりN=4)に、PAF刺激の前15分に、PAF-AH(300μl担体中、2000 U)または担体単独を用いて静脈内へ前処置を行った。 PAF刺激の後1時間および2時間後に、浮腫を評価した。 図5において、各処置群について容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表され、PAFで誘発した足の浮腫が、刺激後1および2時間で、PAF-AHの静脈内投与により阻止されることを示す。 静脈内経路によって2000 UのPAF-AHを与えられた群は、2時間の経時変化にわたり炎症が低減することが示された。 PAF-AH処置群では容量の増大の平均値は0.10ml±0.08(SEM)であったが、これに対して、担体で処置した対照群では0.56ml±0.11(SEM)であった。
【0154】
F:PAFまたはザイモサンで誘発された浮腫におけるPAF-AHによる保護の比較
ラット(1群当たりN=4)に、PAF-AH(300μl担体中、2000 U)または担体単独を用いて静脈内へ前処置を行った。 前処置後15分に、前記群にPAFまたはザイモサンAを投与し、それぞれ1時間および2時間後に、足の容量を評価した。 図6に示すように、ここで各処置群について容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表され、PAF-AH(2000 U)の全身投与は、PAFで誘発した足の浮腫を低減させるのに有効であったが、ザイモサンで誘発した浮腫は阻止しえなかった。 0.08±0.02の容量の増大の平均値がPAF-AH処置群において認められ、これに対し、対照群については0.49 ±0.03であった。
【0155】
G:PAF-AHによる保護の有効投与量の検討
2つの別個の実験において、ラットの群(1群当たりN=3〜4)に、PAF刺激の前15分に、300μlの容量で、PAF-AHの連続的な希釈液または担体の対照を用いて静脈内前処置を行った。 両足ともにPAFで刺激を行い(前記の通り)、1時間後に浮腫を評価した。
【0156】
図7にて、各処置群について容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表され、PAF-AHの投与量を増大させて注射するにつれて、ラットにおけるPAFで誘発した浮腫からの保護は増大することが示される。 実験において、静脈内経路により与えられたPAF-AHのID50は、ラット1匹当たり40Uと80Uとの間であることが見出された。
【0157】
H.投与後の時間の機能としてのPAF-AHのin vivoでの有効性
2つの別個の実験において、2群のラット(1群当たりN=3〜4)に、PAF-AH(300μl担体中、2000 U)または担体単独を用いて静脈内へ前処置を行った。 投与後に、PAF-AH投与の後15分から47時間の範囲内の時点で、ラットの群にPAFを投与した。 PAF刺激の1時間後に、浮腫を評価した。 図8に示すように、ここで各処置群について容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表され、2000 UのPAF-AHを投与すると、少なくとも24時間、PAFで誘発した浮腫からラットが保護される。
【0158】
I:PAF-AHの薬物動態学
4匹のラットに、300μlの容量で静脈内注射により、2000 UのPAF-AHを投与した。 種々の時点で血漿を集め、4℃にて保存し、二重mAb捕獲アッセイ(double mAb capture assay)を用いたELISAによってPAF-AHの血漿中の濃度を測定した。 すなわち、モノクローナル抗体90G11D(実施例13)を50mM炭酸緩衝液、pH 9.6で100 ng/mlに希釈し、そして4℃にて一晩、イムロン4 ELISAプレートに固定化した。 0.05%ツイーン20を含有するPBSで良く洗浄した後、0.5%フィッシュスキンゼラチン(シグマ社)を含むPBSで、室温にて1時間、プレートをブロッキングした。 洗浄したELISAプレートに、15mM CHAPSを含むPBSで希釈した血清試料をデュプリケートで添加し、室温にて1時間インキュベーションした。
【0159】
洗浄後、モノクローナル抗体90F2D(実施例13)のビオチン複合体をPBSで5μg/mlの濃度に希釈してウェルに加え、次いで室温にて1時間インキュベーションした。 洗浄の後、エクストラアビジン(ExtraAvidin)(シグマ社)の1:1000希釈液を50μlウェルに加え、室温にて1時間インキュベーションした。 洗浄後、基質としてOPDを用いてウェルを現像し、定量した。
【0160】
その後、標準曲線から酵素活性を計算した。 図9で、データのポイントは平均値±SEMを表すが、180〜200グラムのラットについて5〜6mlの血漿に基づいて予測された濃度、平均値=374 U/ml±58.2に、血漿の酵素レベルが1時間で到達したことが示される。 1時間を越えると、血漿中のレベルは徐々に減衰し、24時間で血漿中の濃度の平均値は19.3U/ml±3.4に達するが、それでもなお、酵素的アッセイによりおよそ4 U/mlであることが見出されている内在性のラットPAF-AHレベルよりもかなり高い。
【0161】
J:PAFアンタゴニストに対するPAF-AHの有効性
以下の3つの潜在力を有する抗炎症剤、腹腔内(IP)投与(200μl EtOH中、2mg)されるPAFアンタゴニストCV3988(バイオモル(Biomol) #L-103)、腹腔内投与(200μl EtOH中、2mg)されるPAFアンタゴニストのアルプラゾラム(Alprazolam)(シグマ #A-8800)、または静脈内投与されるPAF-AH(2000 U)のうちの1つを用いて、ラットの群(1群当たりN=4)を前処置した。 対照のラットには、300μl容量の担体を静脈内注射した。 PAFアンタゴニストは、エタノールに溶解されているので、腹腔内に投与した。 CV3988またはアルプラゾラムを注射したラットは、PAFアンタゴニストが循環系の中に入ることを許容するよう、PAFアンタゴニストの投与後30分にPAF刺激を施し、一方で、PAF-AHおよび担体で処置したラットは、酵素の投与後15分で刺激を施した。 確立されたPAFアンタゴニストのCV3988およびアルプラゾラムにより成し遂げられるよりはるかに、PAFで誘発した浮腫が、PAF-AHを注射したラットで低減されることが示された。 図10において、各処置群について容量の増大の平均値(ml)±SEMとして浮腫が表されている。
【0162】
要約すると、PAF-AHは、in vivoでPAFにより媒介される浮腫を阻止するうえで有効である。 PAF-AHの投与は、局所投与または静脈内注射による全身投与とすることができる。
【0163】
投与量の研究で、160〜2000 U/ラットの範囲の静脈内注射により、PAFが介する炎症を劇的に低減させることが見出され、また、ID50の量は40〜80 U/ラットの範囲にあるようである。 180〜200グラムのラットに対する血漿容量に基づく計算により、25〜40 U/mlの範囲の血漿中の濃度で、PAFで誘発した浮腫が阻止されるはずであると予測される。 この予測は、予備的な薬物動態学研究により支持される。 2000 UのPAF-AH投与量で、少なくとも24時間の間、PAFが媒介する浮腫の阻止に有効であることが見出された。 PAF-AHの投与後24時間で、酵素の血漿中の濃度はおよそ25 U/mlであることが見出された。 PAF-AHは、試験を行った2つの既知のPAFアンタゴニストよりもさらに有効に、PAFで誘発した浮腫を阻止することが見出された。
【0164】
まとめると、これらの結果により、PAFで誘発した炎症をPAF-AHが有効に阻止し、PAFが第1のメディエーターである疾患においてPAF-AHは治療的価値を有するかもしれないことが立証される。
【0165】
実施例15
本発明の組換えPAF-AHを、第2のin vivoモデルであるPAFで誘発した胸膜炎において試験を行った。 PAFが胸膜空間へと導入された際に脈管の漏泄を誘発することが、すでに報告されている(ヘンリークら、前出)。 雌性ラット(チャールスリバー、 180〜200g)に対して、0.9%とした200μlの1%エバンスブルー染色液とともに、300μlの組換えPAF-AH(1500μmol/ml/時、実施例14に記載の方法で調製した)または等量の対照緩衝液を、尾静脈に注射した。 15分後に、ラットの胸膜空間にPAF(2.0 nmol)の100μlを注射した。 PAF刺激の1時間後にラットを屠殺し、ヘパリン処理したリン酸緩衝化生理食塩水3mlで胸腔を洗浄することで、胸膜液を回収した。 脈管の漏泄の程度を、 620nmの吸光度で定量した胸膜空間でのエバンスブルー染色液量によって定量した。 PAF-AHで前処置されたラットが、対照動物よりも脈管の漏泄の程度がかなり小さい(80%以上の炎症の低減が認められた)ことが判明した。
【0166】
前記の結果は、本発明の組換えPAF-AH酵素の、胸膜炎に罹患した被検者の治療効果を支持するものである。
【0167】
実施例16
本発明の組換えPAF-AHは、抗原誘発した好酸球モデルでの有効性についても試験を行った。 気道での好酸球の蓄積は、喘息、鼻炎および湿疹を引き起こす後期免疫応答の特徴である。 BALB/cマウス(チャールスリバー) は、2週間間隔で行った、4mgの水酸化アルミニウム(イムジェクト・アルム(Imject alum)、ピアスラボラトリーズ(Pierce Laboratories)社、ロックフォード、イリノイ州)中に1μgのオボアルブミン(OVA)で構成される2度の腹腔内注射によって感作させた。 2回目の免疫処置から14日後に、感作したマウスを、エアロゾル化したOVAまたは対照として生理食塩水のいずれかで刺激を施した。
【0168】
刺激を施す前に、各群に4匹ずつなるように、マウスを任意に4つの群に分けた。 1群および3群のマウスには、25mM トリス、0.5M NaCl、1mM EDTAおよび0.1%ツイーン80で構成される対照緩衝液140μlを腹腔内注射により前処置を行った。 2群および4群のマウスは、 750単位(140μlのPAF-AH緩衝液を投与した場合の活性は、5500単位/mlであった)のPAF-AHで前処置した。 PAF-AHまたは緩衝液を投与して30分後、1および2群のマウスを以下に記載するようにエアロゾル化したPBSに曝し、一方で、3および4群のマウスはエアロゾル化したOVAに曝した。 24時間後に、140μlの緩衝液(1および3群)または140μlの緩衝液中750単位のPAF-AH(2および4群)のいずれかを静脈内に注射することにより、2回目の処置を行った。
【0169】
気管での好酸球の浸潤は、感作したマウスをエアロゾル化したOVAに曝すことで誘発された。 感作したマウスを、円錐形の50ml遠心用チューブ(コーニング社)の中に入れ、ネブライザー(モデル646、デビルビス社(DeVilbiss Corp.,)、サマーセット、ペンシルベニア州)を用いて、20分間、0.9%の生理食塩水に溶解してエアロゾル化したOVA(50mg/ml)を強制的に吸入させた。 対照マウスには、ネブライザーにて0.9%の生理食塩水を用いた以外は、上記と同様の方法にて処置した。 エアロゾル化したOVAまたは生理食塩水に曝してから48時間後に、マウスを屠殺し、気管を摘出した。 各群から摘出した気管を、OCTに埋設し、組織を切断するまで−70℃にて保存した。
【0170】
気管の好酸球浸潤を評価するために、マウスの4群からの組織切片を、ルナ溶液とヘマトキシリン−エオシン溶液、またはペルオキシダーゼのいずれかで染色した。 6μmの厚みの組織切片12個を、マウスの各群から切り出し、順次番号付けを行った。 奇数番号が付与された切片を、ルナ溶液で以下のように染色した。 切片を、室温にて5分間、ホルマルアルコール中で固定し、室温にて2分間、水道水を3回交換して洗浄し、次いで、室温にて1分間、蒸留水を2回交換して洗浄した。 組織切片を、ルナ染色液(ルナ染色液は、90mlのヴァイゲルトの鉄ヘマトキシリンおよび10mlの1%ビーブリッヒスカーレットからなる)で室温にて5分間染色した。 染色した切片スライドを、1%酸性アルコールに6回浸し、室温にて1分間、水道水で洗浄し、0.5%炭酸リチウム溶液に5回浸し、そして、室温にて2分間、流水の水道水で洗浄した。 切片スライドを、70%、95%、100%のエタノールを用いてそれぞれ、室温にて1分間で脱水させ、室温にて1分間、キシレンを2回交換して洗浄し、そして、サイトシール(Cytoseal)60上に置いた。
【0171】
ペルオキシダーゼによる染色のために、偶数番号の切片を、4℃のアセトンにて10分間で固定し、そして、風乾させた。 200μl のDAB溶液を各切片に添加し、室温にて5分間放置した。 切片スライドを、室温にて5分間、水道水で洗浄し、そして、2滴の1%オスミウム酸を各切片に対して3〜5秒間作用させた。 切片スライドを、室温にて5分間、水道水で洗浄し、そして、25℃の室温にて、メイアーズのヘマトキシリンで対比染色した。
【0172】
切片スライドを、流水の水道水で5分間すすぎ、70%、95%、100%のエタノールでそれぞれ、室温にて1分間づつで脱水させた。 切片スライドを、室温にて1分間、キシレンを2回交換して洗浄し、そして、サイトシール60上に載置した。
【0173】
気管の粘膜下組織中の好酸球の数を評価した。 1群および2群のマウスの気管には、粘膜下組織全体にわたって分散した好酸球はほとんど見出されなかった。 緩衝液で前処置され、霧状のOVAに曝された、3群のマウスの気管では、予期されるとおり、粘膜下組織全体にわたり、多数の好酸球が認められた。 これとは対照的に、PAF-AHで前処置され、霧状のOVAに曝された、4群のマウスの気管では、1群および2群の2つの対照群で見られる結果に匹敵して、粘膜下組織に好酸球がほとんど見られなかった。
【0174】
このように、喘息、鼻炎および湿疹において生じるような、気道での好酸球の蓄積を含む後期免疫応答を呈する被検者を、PAF-AHで治療することが指示されるのである。
【0175】
実施例17
日本人の約4%は、血漿中に、低量または検出不可能なレベルのPAF-AH活性を有している。 この欠損は、常染色体で劣性に起こる欠損を遺伝的に引き継いだと思われる喘息小児患者の呼吸症状と厳密に相関する(ミワら、J. Clin. Invest.,82巻、1983〜1991頁、(1988))。
【0176】
酵素は存在するが不活性な状態、もしくはPAF-AHの生合成不能の状態からこの欠損が生じるのかを確かめるために、PAF-AH活性が欠損している複数の患者からの血漿を、PAF-AH活性について(形質変換体に関する実施例10に記載した方法によって)ならびに以下のサンドウィッチ ELISAにおいてモノクローナル抗体90G11Dおよび90F2D(実施例13)を用いてPAF-AHの存在についての双方に関して分析をした。 イムロン4平底プレート(ダイナテック社、チャンティリー、ヴァージニア州)を、100ng/ウェルのモノクローナル抗体90G11Dで被覆し、一晩置いた。 このプレートを、CMF-PBSに希釈した 0.5%フィシュスキンゼラチン(シグマ社) で室温にて1時間ブロックし、3回洗浄した。 患者の血漿を、15mM CHAPSを含むPBSで希釈し、プレートの各ウェルに添加(50μl/ウェル)した。 このプレートを、室温にて1時間インキュベーションし、4回洗浄した。 常法によってビオチン化し、PBSTに希釈した5μg/mlのモノクローナル抗体 90F2Dの50μlを各ウェルに添加し、プレートを、室温にて1時間インキュベーションし、そして3回洗浄した。 CMF-PBSTに1/1000に希釈したエキストラアビジン(シグマ社)50μlを引き続き各ウェルに添加し、現像前に、室温にて1時間インキュベーションした。
【0177】
PAF-AH活性と酵素レベルとの間の直接的な相関が観察された。 患者の血清中の活性の欠如は、検出可能な酵素の欠如として反映されていた。 同様に、正常な活性の半分の活性を有する血漿試料は、正常レベルのPAF-AH活性の半分の活性を有していた。 これらの観察結果より、PAF-AH活性の欠損が、酵素合成の不能またはモノクローナル抗体を認識しない不活性酵素によるものであることが示唆された。
【0178】
さらなる実験により、この欠損がヒト血漿PAF-AH遺伝子における遺伝的損傷によるものであることが明らかとなった。 PAF-AH欠損の個体からのゲノムDNAを単離し、PAF-AH遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCRの鋳型として使用した。 コーディング配列エキソンのそれぞれをまず増幅し、1つずつ配列決定した。 エキソン9での一つのヌクレオチドの変更(配列番号:7の996位のGからTへ)が観察された。 このヌクレオチドの変更の結果、PAF-AH配列の279位のフェニルアラニンからバリンへのアミノ酸置換(V279F)がもたらされた。 さらに11人のPAF-AH欠損患者個体からのゲノムDNAより、エキソン9を増幅しところ、同じ点突然変異を有することが見出された。
【0179】
この突然変異が酵素を失活させるか否かを試験するために、この突然変異を含む大腸菌発現構築体を、実施例10に記載したと同様の方法により作製した。 大腸菌内に導入すると、発現構築体はPAF-AH活性を示さなかったが、この突然変異を伴わない対照発現構築体では活性が十分に認められた。 このアミノ酸置換はおそらく、観察された活性の欠損を引き起こし、本発明のPAF-AH抗体との免疫反応性を欠如せしめる、構造的な修飾をもたらすものであると思われる。
【0180】
よって、本発明のPAF-AH特異抗体は、血清中のPAF-AHの異常なレベル(正常レベルは、約1〜5単位/mlである) を検出し、PAF-AHを用いた病理学的状態の治療の改善のための診断法において使用することができる。 さらに、PAF-AH遺伝子の遺伝的損傷の同定は、日本人患者に認められるPAF-AH欠損の遺伝子スクリーニングを可能とする。 この突然変異により、制限エンドヌクレアーゼ部位(Mae II)が新しく生じるので、活性体の対立遺伝子と変異体の対立遺伝子とを識別する、制限断片長多型性(RFLP)分析の簡単な方法を可能なものとする。 レウィン(Lewin)、Genes V、オックスフォードユニバーシティープレス(Oxford University Press)ニューヨーク、ニューヨーク州(1994)の第136〜141頁を参照されたい。
【0181】
12人のPAF-AH欠損患者のゲノムDNAのスクリーニングをMaeIIによるDNAの消化、サザンブロッティング、およびエキソン9プローブ(配列番号:17のヌクレオチド1〜396)を用いたハイブリダイゼーションによって行った。 すべての患者において、突然変異対立遺伝子と一致するRFLPが認められた。
【0182】
本発明を特定の実施態様・実施例に関して説明してきたが、当業者であればこれらに様々な修正や変更を施せるものと考えられる。 よって、特許請求の範囲に記載された限定のみが、本発明に付加されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明のPAF-AHの精製方法、すなわち、血漿からPAF-AHを精製する方法は、PAF-AH、特に、ヒト血漿PAF-AHまたは酵素活性を有するその断片を効率的に生産する手段として有用である。
【0184】
また、PAF-AHが媒介する病理学的状態にあるか、またはその状態にあると疑われる哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに十分な量のPAF-AHを投与する工程を含む本発明の治療方法は、当該病理学的状態の治療・改善を図る手段として有用である。
【0185】
さらに、本発明のPAF-AH組成物は、PAF-AHが媒介する病理学的状態(例えば、胸膜炎、喘息、鼻炎、湿疹、壊死性大腸炎、成人呼吸窮迫症候群、再灌流傷害、早期分娩または敗血症)を治療するための医薬組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】ヒト血漿から精製されたPAF-AHを含むPVDF膜の写真である。
【図2】組換えヒト血漿PAF-AHの酵素活性を示すグラフである。
【図3】組換えPAF-AH断片およびそれらの触媒活性を表す図面である。
【図4】本発明の組換えPAF-AHを局所投与してPAFで誘発したラット足浮腫の阻止を示すグラフである。
【図5】PAF-AHを静脈内投与してPAFで誘発したラット足浮腫の阻止を示す棒グラフである。
【図6】PAFで誘発した浮腫をPAF-AHは阻止するものの、ザイモサン(zymosan A)で誘発した浮腫をPAF-AHは阻止しないことを示す棒グラフである。
【図7A】ラット足浮腫でのPAF-AHの抗炎症活性の量相関を示すグラフである。
【図7B】ラット足浮腫でのPAF-AHの抗炎症活性の量相関を示すグラフである。
【図8A】単回投与量のPAF-AHのin vivoでの経時的な有効性を示すグラフである。
【図8B】単回投与量のPAF-AHのin vivoでの経時的な有効性を示すグラフである。
【図9】ラットの循環系でのPAF-AHの薬物動態学を示すグラフである。
【図10】ラット足浮腫におけるPAF-AHの抗炎症効果を示すグラフである。
【配列表フリーテキスト】
【0187】
<210> 4(配列番号:4)
<222> グループ (13、21、27)DNA
<223> これらの位置でのヌクレオチドは、イノシンである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壊死性大腸炎に罹患しているか、または壊死性大腸炎が疑われるヒト以外の哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに足る量のPAF-AHを、当該哺乳動物に投与する工程を含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
成人呼吸窮迫症候群に罹患しているか、または成人呼吸窮迫症候群が疑われるヒト以外の哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに足る量のPAF-AHを、当該哺乳動物に投与する工程を含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする方法。
【請求項3】
再灌流傷害に罹患しているか、または再灌流傷害が疑われるヒト以外の哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに足る量のPAF-AHを、当該哺乳動物に投与する工程を含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする方法。
【請求項4】
早期分娩に罹患しているか、または早期分娩が疑われるヒト以外の哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに足る量のPAF-AHを、当該哺乳動物に投与する工程を含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする方法。
【請求項5】
敗血症に罹患しているか、または敗血症が疑われるヒト以外の哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに足る量のPAF-AHを、当該哺乳動物に投与する工程を含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする方法。
【請求項6】
医薬上有効な量のPAF-AHを含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする壊死性大腸炎の治療用の医薬組成物。
【請求項7】
医薬上有効な量のPAF-AHを含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする成人呼吸窮迫症候群の治療用の医薬組成物。
【請求項8】
医薬上有効な量のPAF-AHを含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする再灌流傷害の治療用の医薬組成物。
【請求項9】
医薬上有効な量のPAF-AHを含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする早期分娩の治療用の医薬組成物。
【請求項10】
医薬上有効な量のPAF-AHを含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする敗血症の治療用の医薬組成物。
【請求項1】
壊死性大腸炎に罹患しているか、または壊死性大腸炎が疑われるヒト以外の哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに足る量のPAF-AHを、当該哺乳動物に投与する工程を含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
成人呼吸窮迫症候群に罹患しているか、または成人呼吸窮迫症候群が疑われるヒト以外の哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに足る量のPAF-AHを、当該哺乳動物に投与する工程を含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする方法。
【請求項3】
再灌流傷害に罹患しているか、または再灌流傷害が疑われるヒト以外の哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに足る量のPAF-AHを、当該哺乳動物に投与する工程を含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする方法。
【請求項4】
早期分娩に罹患しているか、または早期分娩が疑われるヒト以外の哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに足る量のPAF-AHを、当該哺乳動物に投与する工程を含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする方法。
【請求項5】
敗血症に罹患しているか、または敗血症が疑われるヒト以外の哺乳動物の治療方法であって、当該哺乳動物内で内在性PAF-AHを補足し、病因となる量のPAFを不活性化せしめるに足る量のPAF-AHを、当該哺乳動物に投与する工程を含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする方法。
【請求項6】
医薬上有効な量のPAF-AHを含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする壊死性大腸炎の治療用の医薬組成物。
【請求項7】
医薬上有効な量のPAF-AHを含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする成人呼吸窮迫症候群の治療用の医薬組成物。
【請求項8】
医薬上有効な量のPAF-AHを含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする再灌流傷害の治療用の医薬組成物。
【請求項9】
医薬上有効な量のPAF-AHを含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする早期分娩の治療用の医薬組成物。
【請求項10】
医薬上有効な量のPAF-AHを含み、かつ当該PAF-AHが、配列番号:8に記載のアミノ酸配列の第42位のアミノ酸から第441位のアミノ酸に至る連続するアミノ酸からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチド、または、S108A、D338A、H395A、H399A、C67S、C334SおよびC407Sからなるグループから選択されるアミノ酸置換が組み込まれた配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる精製および単離したヒト血漿PAF-AHポリペプチドの変異体である、ことを特徴とする敗血症の治療用の医薬組成物。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図1】
【公開番号】特開2006−56901(P2006−56901A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308889(P2005−308889)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【分割の表示】特願2003−408851(P2003−408851)の分割
【原出願日】平成6年10月6日(1994.10.6)
【出願人】(500246762)イコス コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【分割の表示】特願2003−408851(P2003−408851)の分割
【原出願日】平成6年10月6日(1994.10.6)
【出願人】(500246762)イコス コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】
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