説明

血栓の形成の防止および/または安定化の防止

本発明は、XII因子活性を阻害しそして3次元的な血栓の形成および/または安定化を予防するための、少なくとも1つの抗体および/または1つの阻害剤の使用に関する。これはまた、医薬組成物、およびXII因子の抗血栓剤の標的としての使用、にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、最も広範な局面において、三次元的な動脈性または静脈性血栓の形成および/または安定化の防止についてのものである。
【0002】
とりわけ本発明は、XII因子活性を阻害しそして血栓の形成および/または安定化および血栓の成長を防止するための、少なくとも1つの抗体および/または1つの阻害剤の使用に関する。これはまた、医薬組成物、およびXII因子の抗血栓剤の標的としての使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
血管壁の傷害は、突発性の癒着および血小板の凝集を引き起こし、次いで血漿中の凝固系が活性化され、そして、傷害部位を閉塞するフィブリン含有血栓の形成が生じる。これらの事象は、外傷後の血液損失を制限するために非常に重要であるが、しかし病んだ血管を閉塞することにより、生命維持に必須の器官の虚血および梗塞をもたらす可能性があるウォーターホールまたはカスケードモデルにおいて、血液凝固は、最終的にトロンビンの爆発的な生成をもたらす、限定的なタンパク分解によるチモーゲンの活性化を含む一連の反応により進行し、このトロンビンは血漿フィブリノゲンをフィブリンに変換しそして血小板を強力に活性化する。その逆に、コラーゲン−またはフィブリン−付着性血小板は、凝固プロテアーゼ複合体の会合および活性化を進める向凝固性(procoagulant)ホスファチジルセリン(PS)をそれらの外側に露出させることにより、そして血小板受容体と凝固因子との間の直接の相互作用により、数桁規模の大きさでの増強規模で、トロンビンの生成を促進する。
【0004】
外因性(血管壁)または内因性(血液に支持された)のいずれかの血管系成分により引き起こされる、収斂する2つの凝固経路が存在する。「外因性」経路は、血漿VII因子(FVII)と、管腔表面には存在しないが血管の内皮下層中で強く発現している必須の凝固因子である、貫通型膜タンパク質の組織因子(TF)との複合体により開始される。循環している微小胞(microvesicle)中で発現しているTFは、また、活性化血小板の表面上でトロンビン生成を持続することにより血栓の成長に寄与するかもしれない。
【0005】
「内因性」または接触活性化経路は、XII因子(FXII、ハーゲマン因子)が、高分子量キニノゲンおよび血漿カリクレインが関与する反応において、マイナスに荷電した表面に接触させられた場合に開始する。FXIIは、グリコサミノグリカンおよびコラーゲン、スルファチド、ヌクレオチドならびに他の可溶性ポリアニオンのような内皮下マトリクス高分子性構成成分、またはガラスもしくはポリマーのような非生理的材料により活性化される。最も強力な接触アクチベーターはカオリンであり、そしてこの反応は、主要な臨床的凝固試験、(活性化)部分トロンボプラスチン時間(PTT、aPTT)のための機械的基盤として役立つ。血小板により拡大する反応において、活性化FXIIは次にFXIを活性化し、今度はFXIaがIX因子を活性化する。インビトロでのその強い血液凝固の誘導能力にもかかわらず、FXIIが引き起こす内因性凝固経路の(病理)生理的意義については、遺伝的FXII欠損症ならびに高分子量キニノゲンおよび血漿カリクレインが出血性合併症とは関連していない、という事実から疑問がもたれている。外因性経路の構成成分、例えばTF、FVIIまたはIX因子を欠くヒトおよびマウスで重篤な出血がみられるという観察結果とも合わせて、このことは、フィブリン生成はインビボではもっぱら外因性カスケードによって開始される、という現在の仮説を導いてきた(Mackman,N. (2004). Role of tissue factor in hemostasis, thrombosis, and vascular development. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 24, 1015-1022)。
【0006】
全ての生理的機構と同じように、凝固カスケードは不適切に活性化され、そして血管内部に止血栓の生成をもたらす可能性がある。それにより、血管が閉鎖され次いで遠位の器官への血液供給が制限される可能性がある。この過程は、血栓塞栓として知られており、そして高い致死性と関連している。さらに、血液と接触する人工補綴器具の使用は、凝固カスケードが活性化され、そして人工補綴器具表面の被覆によりしばしばその機能が損なわれることから、著しく制限される。そうした人工補綴器具の例には、血液透析装置、心肺バイパス循環回路、血管ステント、および留置カテーテルが挙げられる。そうした器具を使用する場合、ヘパリンのような抗凝固剤を、表面へのフィブリン沈着を防止するために用いる。しかしながら、ある患者ではヘパリンに不耐性がみられ、血小板凝集および生命に係わる血栓が結果的にもたらされるという、ヘパリン誘導性血小板減少症(HIT)を引き起こす可能性がある。さらに、臨床で使用される全ての血液凝固剤に内在するリスクは、付随する重篤な出血が増大するリスクである。それゆえに、そうした合併症を伴わないで罹患した患者で使用でき、または出血性傾向を増加させることなく血栓を予防する、より優れた治療コンセプトとして使用できる、新しいタイプの血液凝固剤の必要性が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、血栓症および類似の疾患の治療または予防のための改良された医療についての必要性がなお存在していることは明らかである。したがって、そうした必要性を満たすことが本発明の目的である。50年以上にわたって、凝固XII因子の欠損は、自然発生的または傷害に関連する出血性合併症の増加とは関連していないことが知られていた(Ratnoff, O.D. & Colopy, J.E. (1955) A familial hemorrhagic trait associated with a deficiency of a clot-promoting fraction of plasma. J Clin Invest 34, 602-13)。実際、病理学的なaPTT(内因性凝固経路に向けられた臨床的凝固試験)の存在にもかかわらず、FXIIを欠損するヒトは、たとえ大きな外科手術の間であっても、異常な出血に襲われることはない(Colman, R. W. Hemostasis and Thrombosis. Basic principles & clinical practice (eds. Colman R. W., Hirsch. J., Mader V. J., Clowes A. W., & George J.) 103-122 (Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2001)。反対に、FXIIの欠損は、静脈性血栓症のリスクの増加と関連している(Kuhli, C., Scharrer, I., Koch, F., Ohrloff, C. & Hattenbach, L.O. (2004) Factor XII deficiency: a thrombophilic risk factor for retinal vein occlusion. Am. J. Ophthalmol. 137, 459-464., Halbmayer, W.M., Mannhalter, C., Feichtinger, C., Rubi, K. & Fischer, M. (1993) Factor XII (Hageman factor) deficiency: a risk factor for development of thromboembolism. Incidence of factor XII deficiency in patients after recurrent venous or arterial thromboembolism and myocardial infarction. Wien. Med. Wochenschr. 143, 43-50)。この考え方を支持する研究および症例報告は、肺塞栓で亡くなったFXII欠損症の、ジョン・ハーゲマン氏の初発症例に言及している。FXII欠損と向血栓性のリスクの増加とが関連しているという仮説は、血栓症を伴ったFXII欠損症についてのいくつかの症例報告の最近の再評価により挑戦をうけている(Girolami, A., Randi, M.L., Gavasso, S., Lombardi, A.M. & Spiezia, F. (2004) The Occasional Venous Thromboses Seen in Patients with Severe (Homozygous) FXII Deficiency are Probably Due to Associated Risk Factors: A Study of Prevalence in 21 Patients and Review of the Literature. J. Thromb. Thrombolysis 17, 139-143)。ほとんどの症例で、この著者らは、FXII因子欠損症と組み合わされた、FXIIとは別の血栓性イベントに関与すると考えられる随伴する先天性または後天性の向血栓性のリスク因子を同定した。十分に特徴付けられた患者(Koster, T., Rosendaal, F.R., Briet, E. & Vandenbroucke, J.P. (1994) John Hageman's factor and deep-vein thrombosis: Leiden thrombophilia Study. Br. J. Haematol. 87, 422-424)およびFXII欠損家系(Zeerleder, S. et al. (1999) Reevaluation of the in
cidence of thromboembolic complications in congenital factor XII deficiency-a study on 73 subjects from 14 Swiss families. Thromb. Haemost. 82, 1240-1246)を用いた最大規模の疫学的研究は、FXII欠損症と全ての向血栓性または抗血栓性のリスクとは相関性がないことを示した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、当業者の常識に反して、本出願人は、XII因子が引き起こす内因性凝固経路が、インビボでの動脈性血栓生成のために必須であり、しかし正常な組織特異的な止血には必要ではないことを発見した。意外にも、これらの結果は、インビボでの血液凝固がもっぱら外因性経路により媒介されるという長い間の概念を変え、そしてXII因子を病理学的血栓形成の過程における中心的な位置に置く。
【0009】
したがって、本発明の第一の主題は、XII因子を阻害し、そして三次元的な動脈性または静脈性血栓の生成および/または安定化を防止するための、少なくとも1つの抗体および/または少なくとも1つの阻害剤の使用である。抗FXII抗体およびそれぞれの阻害剤は、それによりFXII活性化を阻害するように機能し、および/または、FXII活性化に決定的に関与するFXII分子の他の部分に干渉するだろう。
【0010】
内因性経路は止血に必要とされないという事実と合わせて、このことはXII因子が強力な抗凝固剤の有力な新しい標的であることを立証するものである。さらにこれらの結果は、他の接触系に関連した(病的)機構、例えば炎症、補体活性化、フィブリン溶解、血管新生およびキニン生成を制御する抗FXII剤の開発のために重要である。
【0011】
そのために、本発明はさらに、そうした抗体および/または阻害剤の、動脈性血栓形成に関連した症状または疾患、すなわち、卒中または心筋梗塞、炎症、補体活性化、フィブリン溶解、血管新生および/または、低張性ショックのような病理学的キニン生成に関連する疾患、遺伝性血管浮腫を含む浮腫、細菌性感染症、関節炎、膵炎、または関節性痛風、の治療または予防における使用を提供する。
【0012】
特に、少なくとも1つの抗FXII抗体(例えば、F1抗体のようなもの(MoAb F1, Ravon et al., Blood. 1995 Dec 1;86(11):4134-43))の使用、および/または、FXII駆動型血栓生成を阻害する少なくとも1つのプロテアーゼインヒビターの使用は、本発明によるものである。
【0013】
特に好ましいのは、例えば、AT IIIインヒビター、アンジオテンシン転換酵素阻害剤、C1インヒビター、アプロチニン、α-1プロテアーゼインヒビター、アンチペイン([(S)-1-カルボキシ-2-フェニルエチル]-カルバモイル-L-Arg-L-Val-アルギナル)、Z-Pro-Pro-アルデヒド-ジメチルアセテート、DX88(ダイアックス・インク、300 テクノロジースクエア、ケンブリッジ、マアチューセッツ州02139、米国; Williams A. and Baird LG., Transfus Apheresis Sci. 2003 Dec: 29 (3):255-8で引用)、ロイペプチン、Fmoc-Ala-Pyr-CNのようなプロリルオリゴペプチダーゼの阻害剤、ウシ膵臓トリプシンインヒビターの変異体、エコチン、YAP(コガネガレイ抗凝固タンパク質)、およびセイヨウカボチャ・イソインヒビター(Curcurbita maxima isoinhibitor)を含むセイヨウカボチャ・トリプシンインヒビターV(Cucurbita maxima trypsin inhibitor-V)から選択されたプロテアーゼインヒビターである。
【0014】
したがって、本発明は、本願で記載されたそうした抗体および/または阻害剤の、医療での使用;およびまたそうした抗体および/または阻害剤の、医薬の製造のための使用、を提供する。
【0015】
それゆえに、本発明の他の局面により、XII因子を阻害するために適し、そして三次元的な動脈性または静脈性血栓の生成および/または安定化を阻害する、少なくとも1つの抗体および/または1つの阻害剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0016】
特に、医薬組成物で用いるための抗体は、抗FXII抗体(例えば、F1抗体のようなもの(MoAb F1, Ravon et al., Blood. 1995 Dec 1;86(11):4134-43)であり、そして阻害剤はプロテアーゼインヒビター、例えば、それに限定されないが、AT IIIインヒビター、アンジオテンシン転換酵素阻害剤、C1インヒビター、アプロチニン、α-1プロテアーゼインヒビター、アンチペイン([(S)-1-カルボキシ-2-フェニルエチル]-カルバモイル-L-Arg-L-Val-アルギナル)、Z-Pro-Pro-アルデヒド-ジメチルアセテート、DX88(ダイアックス・インク、300 テクノロジースクエア、ケンブリッジ、マアチューセッツ州02139、米国; Williams A. and Baird LG., Transfus Apheresis Sci. 2003 Dec: 29 (3):255-8で引用)、ロイペプチン、Fmoc-Ala-Pyr-CNのようなプロリルオリゴペプチダーゼの阻害剤、ウシ膵臓トリプシンインヒビターの変異体、エコチン、YAP(コガネガレイ抗凝固タンパク質)、およびセイヨウカボチャ・イソインヒビターを含むセイヨウカボチャ・トリプシンインヒビターV、から選択されたプロテアーゼインヒビターである。
【0017】
抗体はまた、阻害活性を保持するそれの断片または模倣物、例えば、米国特許6,613,890の特に第4欄から第8欄で開示されたような、アミロイド前駆体タンパク質のクニッツ・プロテアーゼインヒビタードメインの類似体である。他の適切な阻害剤は、Harahiko Isawa等(The Journal of Biological Chemistry, Vol. 277, No. 31(August 2, pp. 27651−27658, 2002))により開示されたハマダリンでありうる。適切なトウモロコシ・トリプシンインヒビターおよびその製造方法は、Zhi-Yuan Chen等(Applied and Environmental Microbiology, March 1999, p. 1320−1324およびそれに引用された参考文献19)で開示される。引用された全ての参考文献は、本明細書にその全体の内容を含んで参照により組み込まれる。最後に特に、FXIIそれぞれのFXIIa阻害を、選択の基礎となるアッセイ法として用いて単離された小分子、ならびにそれらそれぞれの上記または下記の使用もまた、本発明の部分である。これらの小分子FXIIa阻害剤は、FXIIの結晶構造を基にして設計することができるだろう。それゆえに、各種のFXIIドメインまたは軽鎖を、大腸菌、酵母または哺乳細胞のような発現系で組換え的に発現させることができる。次に、このタンパク質は、FXII基質のFXIについて記載された(Jin L, et al. (2005) Crystal structures of the FXIa catalytic domain in complex with ecotin mutants reveal substrate-like interactions.J Biol Chem. 280(6):4704-12.)のような、標準的な方法を用いて、精製または結晶化される。代わりに、小分子セリンプロテアーゼ阻害剤は、FXII構造を安定化するために含ませることができる。タンパク質の標的の小分子阻害剤を含み、例えばそうした標的タンパク質の結晶から導かれて設計できるそうした製剤は、当該分野でよく知られており、そして、例えば患者に全身的に(例えば非経口的に、または経口的または局所的に)投与される医薬組成物を含む。
【0018】
本願中で用いられる「非経口的」という表現は、皮下、静脈内、筋肉内、動脈内および気管内注射、点滴注入、噴霧適用ならびに輸液方法を含む。非経口用製剤は好ましくは、ボーラス形態もしくは持続注入のいずれかで静脈内に、または皮下的に、公知方法により投与される。非経口使用に関して周知の好ましい液性担体は、滅菌水、生理食塩水、水性デキストロース、糖溶液、エタノール、グリセロールおよび油を含む。
【0019】
経口投与用の錠剤およびカプセルは、結合剤、充填剤、滑沢剤および湿潤剤等の慣用の賦形剤を含むことができる。経口液性製剤は、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳剤、シロップ、エリキシール等の形態であってよく、または使用のために水もしくは他の適当なビークルにより再構成される乾燥製品であってもよい。そうした液性製剤は、慣用の添加物、例えば懸濁剤、乳化剤、非水性ビークルおよび保存剤を含むことができる。
【0020】
局所適用に適した製剤は、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳剤、ゲル、または、好ましくは乳化軟膏の形態であってよい。噴霧適用に適した製剤は、噴霧可能な液体または乾燥粉末の形態であってよい。
【0021】
本発明の第三の局面によると、XII因子の少なくとも1つの抗体および/または1つの阻害剤による阻害による、XII因子の抗血栓剤の標的としての使用、およびそれによる血管中での三次元的血栓の形成および/または安定化の防止が提供される。
【0022】
本発明の性質、利点およびさらなる様相は、以下の実施された実施例およびそれらの結果の詳細な記載を、以下に記載した付属する図面と共に読むことによって、明白となる。
【0023】
XII因子欠損マウスを、止血および血栓症における内因性凝固カスケードの機能を分析するために使用した。生体内蛍光顕微鏡および超音波流量測定は、血管系の異なった動脈枝における三次元的血栓の生成および安定化の重篤な欠陥を明らかにした。変異体マウスとヒトXII因子との再構成は、インビトロでの内因性凝固経路およびインビボでの動脈血栓形成を回復させた。機構的に、内因性経路の向凝固活性が、活性化血小板により決定的に促進された。これらの結果は、FXII誘導性内因性血液凝固カスケードを、血漿凝固と血小板凝集を結びつける動脈血栓形成の過程における中心的な位置に置くものである。
【0024】
図1は、FXII欠損マウスの凝固分析を記載する:
(A)野生型(wt)(n=12)およびFXII-/-(n=11)マウスの尾出血時間。各記号は1匹の個体を表す。(B)FXII-/-およびwtマウスの、末梢血液カウント(1,000/μlの単位で)および全体の凝固指標。略語は、白血球カウント(WBC)、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)およびプロトロンビン時間(PT)である。値は、各遺伝子型の10匹の平均値±SDである。(C)特異的抗体を用いたウエスタン・ブロッティングにより、FXII-/-およびwt血漿0.3 μl中で検出された、接触系タンパク質、FXII、血漿カリクレイン(PK)および高分子量キニノゲン(HK)。分子量の標準品は左に記した。(D)C57BL/6 ならびに129sv wt、FXII-/-、FcRγ-/-およびインテグリンα2-欠損マウスからの、血小板不含(上のパネル)および血小板富化(下のパネル)血漿で、カオリン(暗色カラム)またはコラーゲン(明色カラム)で活性化した再カルシウム化凝固時間を測定した。JON/Aの効果を、50 μg/ml の抗体を補充したC57BL/6血漿で分析した。6回の実験の平均±STDを記載する。
【0025】
図2.(A)血栓塞栓性の死亡数が、コラーゲン(0.8 mg/kg)およびエピネフリン(60μg/kg)の静脈内投与後に観察された。野生型マウスは全て5分以内に死亡した。チャレンジ後の30分まで生存した動物は、生存動物と判断された。(B)コラーゲン/エピネフリンの注入後2分での、コントロール(n=19)、FXII-/- (n=14) およびFcRγ-/- (n=5) 中の血小板カウント。(C)野生型およびFXII-/-マウス由来のヘパリン処理した血小板富化血漿を、コラーゲン(10μg/ml)またはADP(5μM)で刺激し、光透過率を標準的な血小板凝集計で記録した。示された結果は、1群につき6匹のマウスの代表値である。(D)コラーゲン/エピネフリンの注入後2分での、指示されたマウスの肺のヘマトキシリン/エオジン染色切片。視野中の血栓を、20倍拡大して数えた。棒グラフは100個の視野からの平均±SDTを表す。
【0026】
図3は、XII因子を欠くマウスのインビボでの不完全な血栓形成を記載する。インビボでの血栓形成は、20% FeCl3で誘発した傷害について腸間膜小動脈をモニターした。(A)全てのマウス系統で、傷害後5分で、単一の血小板吸着が検出され、傷害後7〜8分にwtマウスで最初の血栓が観察され、他方FXII-/-では最初の血栓が傷害後14〜35分に、FXI-/-では傷害後5〜35分に観察された。(B)野生型マウスでは、血栓形成が100%の腸間膜動脈で観察されたが、FXII-/-マウスでは50%、およびFXI-/-マウスでは44.4%のみで観察された。(C)wtマウスで形成された血栓は傷害後平均25分で血管を閉塞したのに対し、FXIIおよびFXI欠損マウスでは閉塞に至らなかった。(D)1つの実施例の代表的な図。
【0027】
図4.(A)野生型(n=10)、FXII-/-(n=10) およびFXI-/-(n=11) を動脈閉塞モデルで分析した。鉗子で一回きつく圧縮することにより、大動脈中に血栓を誘発させた。血流は血管周囲の超音波流量プローブで、完全な閉塞に至るまでモニターした。実験は40分後に停止した。各記号は1個の個体を表す。(B)頚動脈中の機械的傷害を結紮により誘発した。フィラメントを除いた後、野生型(n=10) および FXII-/- (n=10) の血栓面積をμm2単位で計測した。(C)顕微鏡写真は、傷害後2分での代表的な画像を示す。
【0028】
図5は、ヒトFXIIで回復したFXII欠損動物の血栓形成欠損を記載する。(A)FeCl3誘導傷害による血栓形成が、野生型マウス、およびヒトFXIIを注射したFXII-/-マウスの100%の腸間膜動脈で観察された。(B)形成した血栓は、野生型マウスでは傷害後平均25分で、およびヒトFXIIを注射したFXII-/-マウスでは傷害後22.7分で、血管を閉塞した。各記号は1個の個体を表す。(C)代表的画像を示す。(D)FXII-/- マウスに2 mg/kgのhFXIIを与え、そして鉗子により一回きつく圧縮することにより、大動脈中に血栓を誘発した。血流は、血管周囲超音波流量プローブで、完全な閉塞に至るまでモニターした。実験は40分後に停止した。各記号は1個の個体を表す。
【0029】
図6は、マウスのインビボでの血栓形成を阻害する抗FXII抗体を記載する。野生型マウスに2 mg/kg の抗-FXII抗体または非免疫性IgGをi.v.で与えた。15分後、インビボでの血栓形成を20% FeCl3で誘発した傷害について腸間膜細動脈でモニターした。(A)両方の群において、傷害後5分で、単一の血小板吸着が検出された。傷害後7〜8分にコントロールIgG処置マウスで最初の血栓が観察され、他方、抗-FXII抗体処置マウスでは傷害後12〜32分に最初の血栓が生じた。(B)コントロールマウスでは、血栓形成が100%の腸間膜動脈で観察されたが、抗-FXII抗体処置マウスでは60%のみで観察された。(C)完全な閉塞に至る時間を示す。各記号は1個の個体を表す。
【0030】
図7は、動脈血栓形成の改められたモデルを記載する。最初に、血管性病変の部位では、血栓形成は主に内皮下マトリクス中の組織因子(TF)露出に起因する。FVIIと複合体化したTFは、凝固の外因性経路を開始する。傷害部位では、トロンビン(FII)産生のためのFXIを介した内因性経路を駆動するFXIIの寄与は小さく、そして正常な止血に関しては無視しうる。したがって、FXII欠損の個体は出血を被らない。産生されたトロンビンは、フィブリンを形成しそして血小板を活性化することにより、血栓の形成を開始する。血栓成長の伝播:成長する血栓中に露出した表面上で、FXII誘導型の内因性経路がトロンビン産生に決定的に寄与する。活性化FXIIはさらなるフィブリンを、FXIを介して産生する。したがって、FXII-ならびにFXI-欠損は著しく血栓形成を損なう。
【0031】
本発明において、インビボの病理的血栓形成に関する内因性凝固経路の可能な寄与を、生体内顕微鏡および流量測定を基礎とする、XII因子を欠損するマウスを用いた動脈性血栓のモデルで評価した。傷害部位での血小板の最初の付着は、変異動物では変わらないが、続く三次元的血栓の形成および安定化は大きく損なわれる。この欠損は脈管構造の異なった分枝で観察され、そして外から与えたヒトXII因子により完全に回復できた。これらの知見は、血栓形成の改良されたモデルにおいて、一次的および二次的止血の間の主要なリンクとしての、XII因子駆動型の内因性凝固経路を立証するするものである。
【0032】
インビボの凝固に関するFXIIの機能を分析するために、FXII欠損マウスを作成した。FXII-/-マウスは健康で、表現形はそれらの野生型同腹仔とは区別がつかず、そして繁殖力があった。詳細な組織学的および止血学的分析では、眼窩後方で採取した血漿中の68±17秒の延長されたaPTTおよび412±78秒の再カルシウム化時間にもかかわらず(野生型では、それぞれ、23±4および210±31秒)、FXII-/-マウスでの増加する血栓または出血に関しての関連性はみられなかった(Pauer,H.U., et al. (2004). Targeted deletion of murine coagulation factor XII gene-a model for contact phase activation in vivo. Thromb. Haemost. 92, 503-508)。FXII欠損のヒトと同様に、FXII-/-マウスには、野生型動物でみられたものと類似した尾出血時間により示されるように、出血傾向の増加は存在しなかった(それぞれ、369.5±201.7および355.9±176.1秒、1群n=12、図1A)。変異マウスの末梢血液細胞カウントは、野生型の対照群とは異ならなかった。明らかに、FXII-/-マウスのプロトロンビン時間(PT)は野生型と類似しており(8.9±1.3対9.1±1.3秒)、このことはFXII欠損が外因性凝固系によるフィブリン形成に影響しないことを示している(図1B)。ヒトとマウスの間のFXII向凝固活性の可能な差異を評価するために、FXII−欠損ヒト(FXII < 1%)をげっ歯類野生型血漿またはその逆で再構成し、そして混合物のPTTを測定した。いずれの場合でも、凝固形成は正常化し、このことは凝固に関するFXIIの機能がヒトおよびマウスで同等であるとの考えを支持する。
【0033】
ヒトにおいて、FXII欠損と同様に、接触系のタンパク質の血漿カリクレイン(PK)および高分子量キニノゲン(HK)の欠損は、aPTTの延長にもかかわらず、出血性リスクの増加をもたらさなかった。FXII-/-マウスでのaPTTの延長が接触相タンパク質の追加の欠損によるものでないことを確認するために、FXII-/-および野生型の血漿中のPKおよびHKを分析した。ウエスタンブロットは、HKおよびPK濃度が、変異体および野生型マウスで等しいことを示していた(図1C)。機能的に、コラーゲンまたはカオリンに晒したFXII-/-血漿では、HKの進行およびトロンビン形成が野生型と比べて大きく損なわれていた。
【0034】
血液凝固および血小板活性化は補完的であり、そして相互に依存する過程である。血小板は各種の凝固因子と相互作用し活性化へ寄与し、そして中心的な凝固生成物であるトロンビンは強力な血小板活性化物質である。そのために、次に、血小板およびFXIIの、凝固形成への寄与をより詳細に調べた。このために、伝統的にFXIIを活性化するが血小板には直接の作用をもたないカオリン、またはFXIIおよび血小板の両方を活性化し多くの受容体(最も重要なものはα2β1インテグリンおよびGPVI)と相互作用をするコラーゲン、のいずれかを用いて凝固を誘導した。コラーゲンの存在は、血小板は存在しない場合に、野生型血漿での凝固形成において、カオリンより活性が大きかった(図1D)。反対に、活性化欠損FcRγ-/-血小板を含む血漿において、カオリンとコラーゲンの相対的強度はPFPに類似しており、そして同様の作用がインテグリンα2-/-マウスからのPRPを用いても観察された。血小板の向凝固活性はまた、血漿の凝固を効率よく引き起し、そしてフィブリン(フィブリノゲン)受容体αIIbβ3がこの過程で重要な働きを果たすことが示されているが、その根底にある機構は完全には理解されていない。これらの報告と合致して、αIIbβ3-機能阻止抗体JON/Aは、凝固時間の血小板依存性減少を大きく阻害する(図1D)。合わせて、これらの結果は、向凝固状態での血小板がFXII−誘導性凝固形成を促進できることを示した。
【0035】
コラーゲン誘導性FXII活性化がインビボで機能的因果関係を有するかどうかを調べるために、野生型およびFXII-/-マウスを、コラーゲン(0.8 mg/kg体重)およびエピネフリン(60 μg/kg体重)の混合物の注入によって誘発される、致死的肺血栓塞栓症のモデルにした。コントロールマウスは全て(19/19)広汎な肺血栓、および、チャレンジ後2分経過直後の循環血小板カウントの >95%の減少を伴う心停止により、5分以内に死亡した(図2A,B)。これらの実験条件下で、FXII-/-マウスは、野生型コントロールと同様に末梢血小板カウントが減少したにもかかわらず、35.7% (5/14) が生存し、このことは観察された保護作用は血小板活性化の欠損には基づいていないことを示唆している。この仮説は、FXII-/-の血小板が正常レベルの主要表面糖タンパク質(コラーゲン受容体を含む)を発現していること、および、この細胞が、古典的なアゴニスト、例えばトロンビン、アデノシンジホスフェート(ADP)、またはGPVI−特異的アゴニスト、コラーゲン関連ペプチドによって正常に活性化されること(インテグリンαIIbβ3およびP-セレクチンの発現により測定されるように)を示すインビトロの実験で確認された。これと合わせて、FXII-/-の血小板は、コラーゲン、ADP(図2C)、PMAまたはトロンビンに対する応答の変化を示さない。
【0036】
平行して行った実験において、FcRγ-/-マウスを、コラーゲン/エピネフリンでチャレンジした。これらのマウスは完全に致死から保護され、そして血小板計測はチャレンジ後2分でほんの少し減少したに過ぎず、このことはこのモデルにおいて致死性に関する血小板活性化の厳密な必要性を確認するものである。これらのデータはさらに、異なった群のマウスに由来する肺切片の組織学的分析から支持された。野生型マウスでは大部分の血管が閉塞されていたのに対し、FXII-/-マウス(生存動物および非生存動物)においてこれは顕著に減少していた。以前の報告書に一致して、FcRγ-/-マウス由来の肺では血栓は実質的にほとんど見られなかった(図2D)。これらの結果は、コラーゲンがインビボで、血小板活性化およびFXII依存性の内因性凝固経路の両方を引き起こし、このモデルでは協働して閉塞性肺血栓を生成することを示唆している。
【0037】
病理学的血栓形成は、しばしば、血管系の動脈分枝におけるアテローム性プラークの亀裂または突然の破裂により開始され、内皮下層上の表面における非生理的な強い血小板活性化および向凝固活性を導く。これらの過程におけるFXIIの役割を調べるために、野生型およびFXII-/-マウスで、異なった動脈損傷モデルを用いて血栓形成を調べた。最初のモデルでは、腸間膜小動脈(直径60−100 μm)中に酸化的障害を誘導し、そして血栓形成をインビボの蛍光顕微鏡で調べた。同じ遺伝型の野生型およびFXII-/-マウスに蛍光標識血小板(1 x 108)を投与し、次に、20%塩化第二鉄(FeCl3)で飽和した濾紙を1分間局所的に適用し、フリーラジカルの形成を誘発させ、内皮細胞の破壊を導いた。傷害血管壁と血小板の相互作用は速やかに開始し、そして傷害の5分後には、両方の群のマウスで固く付着した血小板の数は同様であった(図3A)。しかしながら、野生型のマウスでは、付着する血小板は絶えず追加の血小板を血液循環から引き寄せて凝集体の形成をもたらしていたが、変異マウスではこの過程は著しく損なわれていた。コントロールの血管の100%(17/17)において、直径 >20 μmの安定した血栓が傷害後10分で形成され、時間の経過に伴い連続して成長していき、そして最終的に、40分の観察時間以内(平均閉塞時間:25.6±8.9分)に、94.1% (16/17)の血管において完全な閉塞が導かれた(図3)。著しく対照的に、変異マウスでは、微小凝集体の形成または発生する血栓は、50 % (7/14)の血管で完全にみられなかった。残りの50 % (7/14)の血管では、血栓が形成されたが、しかし、常に不安定でそして速やかに血管壁から離脱した。血管のいずれにおいても、直径 >20 μmの血栓が、1分間を超えて傷害部位に付着したまま残存することはなかった。したがって、FXII-/-マウスでは、観察時間(40分)以内に、閉塞した血管はなかった。これらの予期せぬ結果は、FXIIが、FeCl3-傷害小動脈における血小板を豊富に含む血栓の形成および安定化に必要であることを証明し、そして、FXII誘導型凝固経路が本質的に観察された血栓反応に寄与していることを示唆した。この仮説は、FXI欠損マウスを同一のモデルで分析したときに確認された。FXIは「内因性」カスケードでFXIIの主要な基質であるから、血栓形成における同様の欠損がこれらのマウスでも予想されるだろう。実際、FXII-/-マウスと非常に良く似て、傷害後最初の3分間に、傷害部位に実質的に正常な血小板付着が検出でき、一方、血栓の形成は血管の55.6% (5/9)において完全に阻害された。残りの血管では、形成した微小凝集体および血栓は不安定でありそして連続的に閉鎖を形成していた(図3)。結果として、観察時間(40分)以内に閉塞された血管はなかった。このデータは、FXI欠損マウスが、頚動脈のFeCl3-誘導性閉鎖モデルにおいて保護されていることを示している。
【0038】
FeCl3-誘導性の動脈血栓形成は、血小板と血栓産生に依存することが知られているが、このタイプの傷害が、病的血管中で生じる血栓形成性環境、例えばアテローム性プラークの破壊における状態、をどれだけ良く再現しているかどうかは明確ではない。したがって、大量のFeCl3-誘導性酸化的障害が、人為的にFXII−依存性接触相活性化に方向付けられた非生理的状況をもたらしている可能性を除外するために、第二の、十分に確立された、傷害を機械的に大動脈内に誘導し血流を超音波流量プローブでモニターする、動脈血栓モデルを用いて評価した。傷害直後に一過性の増加の後に、血流は全ての試験したマウスにおいて、数分間かけて徐々に減少した。試験した野生型マウスでは全ての例(10/10)で、この減少が傷害後1.6から11.1分以内に血管の完全なそして非可逆的な閉塞をもたらした(平均閉塞時間5.3±3.0分、図4A)。異なった画像が、安定な血栓形成が著しく欠損していたFXII-/- マウスで見られた。全ての動物で、傷害後の最初の数分間に徐々に血流の減少が観察された一方、閉塞は10例中4例のマウスでのみ生じた。さらに、それらのマウスでの閉塞性血栓は全ての例で不安定で容易に血栓が形成され、その結果血流が閉塞後10から115秒の間に再開された。再開した血管のいずれも二回閉塞されることはなかった。したがって、全てのFXII-/- マウスは、観察時間(40分)の終了時には傷害血管を通して、本質的に正常な流速を示した。非常に良く似た結果がFXI-/- マウスでも得られ、そこでは11例中9例が、観察時間以内(30分)に閉塞性血栓を確立することができなかった(図5A)。
【0039】
FXII-/- マウスの動脈性血栓形成の著しい欠損は、第三の別のモデルで確認され、ここでは傷害した頚動脈における血小板の取り込みが、インビボの蛍光顕微鏡により調べられた。血小板はドナーのマウスから精製し、蛍光標識をし、そして同じ遺伝子型のレシピエントのマウスへ注射した。血管損傷は、頚動脈のきつい結紮により誘発させ、これは持続的に上皮層の破壊を生じさせそしてしばしば内部の弾性板を壊し、傷害部位での速やかなコラーゲン起因性血小板付着および血栓形成をもたらした(Gruner et al., Blood 102: 12/8/2005、2003)。野生型動物では、迅速に大きく安定な血栓が形成され(血栓面積:102.821±39.344μm2; t = 5分)閉塞はしなかったが、一方、変異マウスでは非常に小さいか中程度の凝集体が形成され、これはしばしば傷害部位から離脱した(図4B、C)。したがって、変異マウスでは、最初の血管壁への血小板付着は損なわれてはいないようだが、血栓面積は劇的に減少した(8.120±13.900μm2; t = 5分)。
【0040】
FXII-/- マウスの血栓形成の著しい欠損が、血漿FXIIもしくは血小板FXIIの不足に起因するのか、または可能性として、二次的な、FXII欠損の知られていない作用、例えば脈管構造の変化によるものかどうか調べるために、ヒトFXIIの投与(2 μg/g体重)後のFXII-/- マウスにおける動脈性血栓形成を調べた。この処置はPTTを正常化し(27±6秒)そして、動脈性血栓形成を完全に回復させた。FeCl3-傷害腸間膜小動脈の100%において、>20 μmの血栓が傷害後10分以内に形成され、そして全ての血管が、観察時間以内に完全に閉塞された(図5A-C)。再構成されたFXII-/- マウスでは、未処置の野生型対照マウスと比べて、より速い検出可能な閉塞傾向さえ存在していた(平均閉塞時間:22.7±8.2分対25.6±8.9分)。同様の結果が、大動脈において機械的に傷害が誘導された場合も得られた。全ての調べた血管において、完全で非可逆的な閉塞が傷害後10分以内に生じ(図5D)、このことは血漿FXIIの欠損がFXII-/- マウスで観察された血栓の欠損を説明することを立証する。
【0041】
上記の試験は、FXIIが動脈性血栓形成に関して決定的な要件であり、それゆえに抗血栓剤の標的として利用できることを立証している。
【0042】
このことを直接評価するために、マウスを2 mg/kg体重のウサギ抗マウスFXIIポリクローナル抗体または非免疫ウサギ抗体で処置し、次いでFeCl3-誘発性傷害後の腸間膜動脈での血小板取り込みおよび血栓形成を評価した。図6Aに示したように、傷害部位での血小板付着は、いずれの群のマウスでも同等であった。しかしながら、コントロール血管の100%において、>20 μmの血栓が傷害後10分以内に形成され、そして全ての血管が、観察時間以内に完全に閉塞された(図6B, C)のに対して、抗FXII抗体で処置された動物では、>20μmの血栓が血管の67%で観察されたのみであり、そして閉塞も血管の50%だけに生じただけであった。
【0043】
他の方法として、小分子FXII阻害剤の影響を調べるために、頚動脈におけるFeCl3-誘発性傷害の5分前に、FXIIインヒビターであるトウモロコシ・トリプシンインヒビター(CTI、50μg/g 体重)を野生型マウスに注入した(Wang et al. (2005) J. Thromb. Heamost. 3: 695-702)。阻害剤による処置はaPTTを延長したが(62±11秒、n=4)、外科処置中の出血には影響がなかった。調べた動物のいずれでも、FeCl3の投与の後30分以内に、血管を閉鎖する血栓は生じなかった。
【0044】
これらの結果は、抗FXII抗体または小分子FXII阻害剤のような抗FXII治療剤が、動脈性血栓形成に対して大きな保護作用を提供することを示している。
【0045】
FXIIの接触活性化は50年以上にもわたって内因性血液凝固カスケードの出発点として認識されており、この経路は血液凝固とは無関係であると考えられていた。本発明において、FXII-欠損マウスにおける動脈傷害部位での血小板取り込みおよび血栓形成を、その場所での(in situ)ビデオ顕微鏡および超音波流量測定により分析するために、3つの異なったインビボモデルを使用し、そして安定な三次元的な血栓を形成する能力が著しく損なわれていることを示した。この欠陥は、外来性のヒトFXIIの静脈内注射により完全に回復し(図6)、それによりまた観察された表現型に寄与するFXII欠損の二次的効果を排除することから、他の区分成分ではなく、血漿中のFXIIの欠損に基づくものであった。
【0046】
これらの結果は予期せぬものであり、その理由は、FXII欠損と増加する静脈性血栓の発生率との関連性を示したいくつかの報告書に基づいてFXIIが向凝固性酵素というよりは抗凝固剤とみなされていたからである(Kuhli,C., Scharrer,I., Koch,F., Ohrloff,C., and Hattenbach,L.O. (2004). Factor XII deficiency: a thrombophilic risk factor for retinal vein occlusion. Am. J. Ophthalmol. 137, 459-464; Halbmayer,W.M., Mannhalter,C., Feichtinger,C., Rubi,K., and Fischer,M. (1993). [Factor XII (Hageman factor) deficiency: a risk factor for development of thromboembolism. Incidence of factor XII deficiency in patients after recurrent venous or arterial thromboembolism and myocardial infarction]. Wien. Med. Wochenschr. 143, 43-50)。
【0047】
FXII欠損マウスは、正常な出血時間を示し(図1A)そして自然発生的または増加する外傷後(手術内)出血の微候を示さないので、このことはFXIIが正常な止血には不要であることを確からしいとするものである。一見すれば、これらの結果は、その欠損が出血または血栓症を伴う因子だけが血液凝固に関連する、という止血に関するセントラル・ドグマに反しているようにみえる。しかし、詳細にみると、このデータはこの理論に挑戦しているわけではなく、むしろ、止血および動脈血栓が異なった機構を介して生じているのかもしれないという興味ある可能性を生じさせる。
【0048】
持続するトロンビン産生の上記で論じた機構は止血性栓の形成に十分かもしれないが、このデータは、少なくともマウスでは、安定な血栓の形成には内因性凝固経路の追加の活性化が必要であることを示している。種特異的な差異がFXIIの機能または酵素の基質において存在するという可能性についての証拠は存在しない。変異マウスの全ての凝固指標および止血表現型は、ヒトのFXII欠損と一致しており、そして動物で観察される全ての変化は、ヒトFXIIによる再構成で正常化した(図5)。血栓の欠損が特定の実験モデルに限定されるということも、それが血管構造の異なった動脈分枝で見出されたこと、および傷害のタイプに依存しないことから除外される。急性の心血管系症候群の主要な引き金と考えられているアテローム性プラークの破壊により生じる血管病変を、どのようなタイプの損傷が最もよく反映するのかを決定することは困難であるだろう。アテローム性病変は、血栓形成性成分に富んでおり、その中で最も重要なのはTFおよび線維性コラーゲンである。アテローム形成の過程において、内膜性平滑筋細胞および線維芽細胞によるコラーゲン産生の増加が、内腔の狭窄化に大きく寄与していることが示されてきた。プラークの破壊または破裂は、コラーゲン繊維の流動血液への露出をもたらし、血小板の付着および凝集を引き起こす。さらに、これらは、本願で、血管壁中でみられる主要なコラーゲンのタイプである線維性コラーゲンタイプ1について示したように、FXII活性化を誘導する。しかし、コラーゲンは、傷害部位におけるFXIIの唯一の(病理)生理学的なアクチベーターではありそうもない。他の候補は、崩壊した細胞から遊離しもしくはHSP90を含むECM中に露出する物質、または可溶性および不溶性ポリアニオン、例えばヌクレオソームもしくはグリコサミノグリカンであるだろう。
【0049】
これらのFXIIアクチベーターの中で、コラーゲンが、また強力に血小板を活性化するために、圧倒的に最も強力な血栓形成性である。傷害部位において、血小板は、血小板GPIb-V-IXとコラーゲン結合vWfとの間の可逆的な相互作用によりECMに拘束され、これにより細胞の速度が減少しそして他の受容体との結合を可能にする。それらの中で、コラーゲン受容体GPVIが、インテグリンα2β1およびαIIbβ3を活性化するために、最も重要であり、これらは次に安定な付着を媒介しそして細胞性活性化に寄与する。さらに、GPVI/FcRγ-鎖複合体を介する血小板活性化は、細胞の向凝固状態を誘導し、これは、ホスファチジルセリン(PS)の露出および(PSが露出している)膜小胞および微小胞の形成により特徴つけられる。インテグリンα2β1はこの過程を、「裏返し」シグナルによって直接的に、およびGPVI-コラーゲン相互作用の強化によって間接的に、促進する。PS-含有膜が、凝固過程での2つの中心的反応である、テナーゼおよびプロトロンビナーゼ反応を強力に促進することは確立している。本発明は向凝固性血小板が、インビトロで、GPVI/FcRγ-鎖複合体ならびにα2β1の両方の関与による機構でFXII-依存性凝固を促進することを示している(図2)。このことは、なぜα2β1-欠損マウスが、動脈傷害部位での血小板付着が変わらないにもかかわらず、閉塞性血栓の形成において部分的な欠陥を示すのかを、部分的に説明できるだろう。コラーゲンの他に、凝固する血漿は、インテグリンαIIbβ3依存性機構による、血小板の向凝固活性を強力に刺激する。本実験において、αIIbβ3の遮断は、FXII依存性凝固における血小板の関与をほぼ完全に阻止し、このことは周知のαIIbβ3アンタゴニストの抗凝固活性が、部分的にはFXII駆動性の内因性凝固経路の阻害に基づくかもしれないことを示している。合わせて、本発明は、FXII駆動性接触系および血小板活性化が、病理学的血栓形成において協働して互いに依存しあう過程であるかもしれないことを示している。
【0050】
実験結果に基づいて、図式的に図7に示した病理的血栓形成のモデルが提案された。血管傷害部位において、血小板の第一層が、さらにTFおよびフィブリンに富む環境中でコラーゲンと接触するようになる。したがって、損傷した血管への血小板付着がFXII-/-マウスでは損なわれていないということは驚くべきことではなく、そしてそれらの細胞が十分に活性化をうけ向凝固状態で存在しているということが最も確からしい。しかしながら、成長する血栓において、コラーゲンは存在しておらず、そして微小胞により供給されるTF濃度は血管壁に比べて少なく、活性化血小板から大量に放出されたTFPIによりそれらの活性が減少させられている可能性がある。これらの条件下で、新たな血小板の取り込みを活性化し、フィブリン形成を介して、それらの凝固活性を誘発するために、空間的・時間的トロンビン生成を維持するさらなる機構が必要である。FXII-/-マウスが安定な血栓を確立する能力を著しく欠くことは、疑いなくFXII駆動型の内因性凝固経路がこの過程で必須の作用プレーヤーであることを立証している。低TFマウスもまた動脈血栓が損なわれているという観察と合わせて、これらの結果は、三次元的に形成され最終的に閉塞する血栓の形成を促進するために、外因性および内因性経路の両方が作用しそして協働しなければならないことを示唆している。反対に、FXII-/-マウスでの出血の欠如は、三次元的な血栓の成長が、血管壁の穴を閉じるために必ずしも必要ではないかもしれないことを示唆している。このことは、なぜ、最初のフィブリンの薄い層および活性化血小板を産生する外因性経路が、正常な止血を媒介するためには十分なのかということを説明できるだろう。我々の結果は、三次元的血栓の形成が止血以外の機能を果たすという興味ある可能性も生み出す。これらは、浸入してきた病原体または毒素の血流による伝達を防止するために、外傷組織の特定の領域で血流を留めることを含むのかもしれない。
【0051】
実験方法
動物:
全ての動物および飼育は、地域の動物飼育および使用委員会の承認を受けた。XI因子欠損(FXI-/-)、XII因子欠損 (FXII-/-)、α2インテグリン欠損 (α2-/-) の従来型のマウス変異体は、以下に記載されたように作成した(Gailani,D., Lasky,N.M., and Broze,G.J., Jr. (1997). A murine model of factor XI deficiency. Blood Coagul. Fibrinolysis 8, 134-144; Pauer,H.U., Renne,T., Hemmerlein,B., Legler,T., Fritzlar,S., Adham,I., Muller-Esterl,W., Emons,G., Sancken,U., Engel,W., and Burfeind,P. (2004). Targeted deletion of murine coagulation factor XII gene-a model for contact phase activation in vivo. Thromb. Haemost. 92, 503-508; Holtkotter,O., Nieswandt,B., Smyth,N., Muller,W., Hafner,M., Schulte,V., Krieg,T., and Eckes,B. (2002). Integrin alpha 2-deficient mice develop normally, are fertile, but display partially defective platelet interaction with collagen. J Biol Chem JID - 2985121R 277, 10789-10794)。対照としてC57B/6Jマウス (FXI-/-) またはSv129 (FXII-/-) を用いた。FcRγ-鎖に欠損を有するマウスはタコニクス、ジャーマンタウンから入手した(Takai,T., Li,M., Sylvestre,D., Clynes,R., and Ravetch,J.V. (1994). FcR gamma chain deletion results in pleiotrophic effector cell defects. Cell 76, 519-529)。
【0052】
抗FXII抗体の産生:
全細胞性RNAを129sv野生型マウスの肝臓から分離し、そしてFXII-cDNA の合成を、キアゲンからの「一工程RT-PCRキット」を用いて、製造者の指示書に従って行った。FXII因子の重鎖(61〜1062位置、残基21〜354に対応)を、それぞれ25 pmolの5-および3-プライマー(ttggatccccaccatggaaagactccaagおよびttgaattcgcgcatgaacgaggaca g)を用いて増幅し、それぞれBamH IおよびEcoR I制限酵素部位を導入し、それには以下の手順に従った:熱サイクラー(ビオメトラ、ゲッチンゲン、ドイツ)上で95℃で30秒、58℃で60秒、そして72℃で1分間を30サイクル。このPCR生成物をpGEX-2T発現ベクター(ファルマシア)のBamH IおよびEcoR I部位へとクローン化した。配列決定後、タンパク質を大腸菌株BL21で発現させた。指数的に増殖する細菌を0.5 mM イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドで1時間刺激し、回収し、次に、1 mM EDTA、200 mM NaCl、10 μg/ml 塩酸ベンズアミジン、10 μg/mlフェニルメチルスルホン酸フッ化物を含む10 mM トリス-塩酸、pH 7.4中で再懸濁し、次に各15秒のパルスで3分間超音波処理した。4℃で20分間15,000 x gで遠心分離後、上清を取り、そして精製用のGST−セファロースカラム(ファルマシア)に移した。溶出したタンパク質は、コマシー染色SDS-PAGEから推定して >95%の純度であった。GST−重鎖FXIIに対するポリクローナル抗体を、標準方法に従ってウサギで作成した。抗体を、マルトース結合タンパク質(MBP)に融合したFXII-重鎖を付けたカラムを用いて、高免疫化血清から選択した。融合タンパク質を、pMAL-c2発現系およびアミロース樹脂カラムを、GST−融合構築体と同様に用いて、発現させそして精製した。
【0053】
血小板調製:
マウスをエーテル麻酔下に眼窩後血管叢から採血した。血液を20 U/mLヘパリンを含む試験管に回収し、次に室温(RT)で10分間300 gで遠心分離して血小板富化血漿(prp)を得た。洗浄血小板については、prpを8分間1000 gで遠心分離し、そして修正タイロード・へペス緩衝液(134mM NaCl、0.34mM Na2HPO4、2.9mM KCl、12mM NaHCO3、20mM ヘペス、5mM グルコース、0.35%ウシ血清アルブミン、pH6.6)で、プロスタサイクリン(0.1μg/ml) およびアピラーゼ(0.02 U/mL) の存在下に、2回再懸濁した。次に、血小板を同じ緩衝液(pH 7.0、0.02 U/mLのアピラーゼ)で再懸濁し、そして分析前に37°Cで少なくとも30分間インキュベートした。
【0054】
フロー・サイトメトリー:
ヘパリン処理した全血を、5 mMグルコース、0.35%ウシ血清アルブミン(BSA)および 1
mM CaCl2を含む、修正タイロード・へペス緩衝液(134mM NaCl、0.34mM Na2HPO4、2.9mM KCl、12mM NaHCO3、20mM ヘペス[N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸]、pH 7.0)で、1:20に希釈した。試料を、室温で15分間、蛍光発色体標識化抗体とインキュベートし、そしてFACScalibur(ベクトン・デキンソン、ハイデルベルグ、ドイツ)を用いて直接分析した(Nieswandt,B., Schulte,V., and Bergmeier,W. (2004).
【0055】
血小板凝集測定:
血小板凝集を測定するために、prp(0.5 x 106 血小板/μLを200 μL)を用いて光透過率を測定した。透過率をフィブリンタイマー4チャンネル血小板凝集計(APACT ラボルゲレーテ・ウント・アナリセンシステメ、ハンブルグ、ドイツ)で10分間にわたって記録し、そして血漿で100%透過率に調節した任意の単位で表した。血小板凝集は、コラーゲン(10 μg/mL) およびADP (5 μM) の添加により誘導した。
【0056】
出血時間実験:
マウスをトリブロモエタノール(アルドリッチ)(0.15 ml/10g体重)の腹腔内注射で麻酔し、そして尻尾の先端から3 mmの断片を外科用ナイフで切り離した。尻尾からの出血を、濾紙を用いて血液球を、傷害部位に接触させないように丁寧に吸収させてモニターした。15秒間の間隔後、紙の上に出血が見られなくなった時、出血が終了したと決めた。必要な場合は、出血は20分後に手を用いて止めた。指示された場合には、マウスは100 μg/マウスのhFXIIで処置された。
【0057】
生体内顕微鏡観察のための血小板の調製:
マウス血液(1容量)を20 U/mLヘパリンを含むヘペス緩衝液の0.5容量中に回収した。血液を250 gで10分間遠心分離し、血小板富化血漿をゆっくりと新鮮な試験管に移した。血小板を、5-カルボキシフルオレセイン・二酢酸スクシニミジルエステル(DCF)で標識し、そして最終濃度を200 x 106血小板/250μlに調整した(Massberg,S., Sausbier,M.,
Klatt,P., Bauer,M., Pfeifer,A., Siess, W., Fassler,R., Ruth,P., Krombach,F., and Hofmann,F. (1999). Increased adhesion and aggregation of platelets lacking cyclic guanosine 3',5'-monophosphate kinase I. J Exp Med 189, 1255-1264)。
【0058】
FeCl3-誘発性傷害によるインビボ血栓モデル:
4から5週令の雄性および雌性マウスを、2,2,2-トリブロモエタノールおよび2-メチル-2-ブタノール(シグマ)(0.15 ml/10g体重、2.5% 溶液から)の腹腔注射により麻酔した。腸間膜を腹部中線切開部位から丁寧に外に取り出した。小動脈(直径35−50μm)を、蛍光ランプ源およびビデオレコーダ(AG-7355、パナソニック、松下電工、日本)に接続したカメラ(CV-M300)を備えたツァイス・アキソバート(Zeiss Axiovert)200倒立顕微鏡(x10)により可視化した。血管傷害および内皮の露出を誘発するFeCl3 (20%)を局所的に適用した後、小動脈を40分間または完全な閉塞が生じるまで(血流は >1分で停止した)モニターした。安定した血小板付着は傷害後5分まで血管壁上に沈着した蛍光標識血小板の数として測定し、血栓は直径が20μmより大きい血小板凝集体として特徴つけられ、血管の閉塞時間は少なくとも1分間血流を停止するために必要な時間として特徴つけられる。全ての実験において、2つの小動脈を露出部の性質を基にして各マウスから選択された。総計で、17個のwt、14個のFXII-/-および9個の FXI-/-を調べた。
【0059】
生体内顕微鏡−頚動脈:
傷害頚動脈の生体内顕微鏡は、本質的に(Massberg,S., Gawaz,M., Gruner,S., Schulte,V., Konrad,I., Zohlnhofer,D., Heinzmann,U., and Nieswandt,B. (2003). A crucial role of glycoprotein VI for platelet recruitment to the injured arterial wall in vivo. J Exp Med JID - 2985109R 197, 41-49)に記載されたように実施した。略記すれば、マウスをケタミン/キシラジン(ケタミン100 mg/kg、パーク・デービス、カールスルーエ、ドイツ;キシラジン5 mg/kg、バイエルAG、レバークーセン、ドイツ)の腹腔内注射により麻酔した。ポリエチレン製カテーテル(ポルテックス、ハイズ、英国)を右頚静脈中に挿し込み、そして蛍光血小板(200 x 106/250 μl)を静脈内に注入した。内皮を露出するために、頚動脈傷害を強い結紮により誘発した。血管傷害の前と後で、上部照明のために100 W HBO水銀ランプを備えたツァイス・アキソテック(Zeiss Axiotech)顕微鏡(20 x 水浸対物レンズ、W 20x/0.5、ツァイス、ゲッチンゲン、ドイツ)により、蛍光血小板を可視化した。傷害の誘発から5分後の血小板付着および血栓形成を記録し、そしてコンピューター支援画像解析プログラム(ビジトロン、ミュンヘン、ドイツ)を用いて、ビデオテープに録画した画像を評価した。
【0060】
肺血栓性塞栓症:
マウスを、2,2,2-トリブロモエタノールおよび2-メチル-2-ブタノール(アルドリッチ)(0.15 ml/10g体重、2.5%溶液から)の腹腔注射により麻酔した。麻酔したマウスの、頚静脈中にコラーゲン(0.8 mg/kg)およびエピネフリン(60 μg/kg)の混合物を注射により投与した。生き延びたマウスの切開部を縫合し、そして回復させた。4%ホルムアルデヒド中に固定した肺について死後解剖および組織学的検査を行い、そしてパラフィン切片をヘマトキシリン/エオシンで染色した。
【0061】
血小板計数:
血小板計数を、FACScalibur(ベクトン・デキンソン、ハイデルベルグ、ドイツ)を用いたフロー・サイトメトリーにより測定した。結果を、平均±S.Dまたはコントロールの百分率として表す(wt、n=19; FXII-/-、n=14およびFcRγ-/-、n=5)。
【0062】
閉塞時間:
麻酔したマウスの腹腔を縦に切開し、腹部大動脈を準備した。超音波流量プローブを大動脈周囲に設置し、そして鉗子による一つの固い圧迫により血栓を誘発した。血流を、完全な閉塞が生じるまでモニターした。実験は45分後に用手法で停止した。指示のある場合、ヒトXII因子を実験直前に静脈内に投与した。
【0063】
組織病理的分析:
マウスを犠牲にし、肺を迅速に取り出し、そして4℃で24時間、4% ホルマリン(pH 7.4;ケボ)中で固定した。組織を脱水し、パラフィン(ヒストラボ・プロダクトAB)に埋め込み、4μmの切片に切り出し、そして標本にした。パラフィンを取り除いた後、組織をメイヤーズ・ヘマトキシリン(ヒストラボ・プロダクトAB)およびエオジン(サージパス・メディカル・インダストリー, Inc)で染色した。
【0064】
SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、ウエスタン・ブロッテイング、およびイムノプリンテング:
血漿(0.3μl/レーン)を1% (w/v) SDS(Laemmli, 1970)の存在下で、ポリアクリルアミドゲルゲル電気泳動により分離した。タンパク質を100mAで30分間ニトロセルロース膜に転写した。膜を4% (w/v) 乾燥ミルク粉末および0.05% (w/v) ツィーン-20、pH 7.4を含むPBSでブロックした。膜をMBK3に対するモノクローナル抗体0.5μg/mlでプローブ処理した(Haaseman J. Immunology 1988)。結合した抗体はマウス抗体に対するペルオキシダーゼ共役二次抗体(希釈1:5000)を用い、そして化学発光検出方法により検出した。
【0065】
凝固アッセイ:
再カルシウム化凝固時間を測定するために、クエン酸処理抗凝固マウス血漿(クエン酸ナトリウム)100 μlを、ホルム型コラーゲン(ニコメド、ミュンヘン、ドイツ)、エラグ酸、硫酸コンドロイチン(いずれもシグマから)、カオリンまたは緩衝液(最終濃度30μg/ml)100 μlとKC10「クーゲルコアグロメーター」(アメルング、レムゴ、ドイツ)中37°Cで120秒間、インキュベートした。FXII依存性凝固への血小板活性化の作用を調べるために、洗浄した血小板を、4 mM Ca2+ および5μM Ca2+-イオノホールA23187(シグマ)を含むタイロード緩衝液で、血小板を含まない血漿を加える前に10分間再懸濁した。凝固形成は、100 μl の25 mM CaCl2-溶液で再カルシウム化することにより開始し、そして凝固が生じるまでの時間を、凝固タイマーKC4(アメルング)を用いて記録した。
【0066】
凝固分析:
全体および単一の凝固指標を、自動化血液凝固システム(BCS、デード・ベーリング)により、デード・ベーリングの試薬を用いて、製造者により詳細に記載されたヒト試料のための手順書にしたがって測定した。BCSアッセイ手順書の原理は、デード・ベーリングの添付文書から入手可能であり、これはデード・ベーリングのウエブサイト(http://www.dadebehring.com)において見つけることができる。D-ダイマーはアッセラクロム(ロシュ)によるELISAを用いて測定した。末梢血の計数はシスメックスXE 2100により、標準的な手順書にしたがって測定した。
【0067】
トロンビン測定:
トロンビン産生はAronson等(Circulation, 1985)の方法にわずかな改良を加えて測定した。血小板に富む血漿または血小板を含まない血漿のアリコット(0.5 ml)をホルムス型コラーゲン(100μg/ml、24時間、4℃)を被覆した丸底ポリプロピレンチューブ中に入れて、20 μlの1 M Ca2+を加えて凝固を開始した。試料(10 μl)を90 μlの3.8% クエン酸ナトリウムを含むマイクロタイタープレートのウエルに、2.5-10分の間隔で60分間、加えた。1 mmol/Lのトリス (pH 8.1) 中の2mmol/L S-2238(H-D-Phe-Arg-NH-NO2-HCl、トロンビン特異的基質、クロモゲニックス、メルンダール、スエーデン)を50 μl添加して、2分間発色させた。遊離した有色生成物を、Vmaxマイクロタイタープレートリーダー(イーズイリーダー、EAR 340AT、SLTラボ・インストールメントGmbH、ウイーン、オーストリア)を用いて、405 nmの波長で分光学的測定した。測定は、各時点で三回ずつ行った。
【0068】
統計的評価:
統計的解析は不対スチューデント試験を用いて行った。
【0069】
好ましい実施態様のみを特定して説明し、本願で記載したが、本発明の多くの修正および変更が、上記の教唆に照らして、そして付随する特許請求の範囲において、本発明の精神および意図する範囲から離れることなしに、可能であることが理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】FXII欠損マウスの凝固分析を記載した。(A)尾出血時間。(B)FXII-/-およびwtマウスの、末梢血液計数および全体の凝固指標。(C)特異的抗体を用いたウエスタン・ブロッテイング。(D)血小板不含(上のパネル)および血小板富化(下のパネル)血漿で、カオリン(暗色カラム)またはコラーゲン(明色カラム)で活性化した、再カルシウム化凝固時間。
【図2】(A)コラーゲン(0.8 mg/kg)およびエピネフリン(60μg/kg)の静脈内投与後に観察された血栓塞栓性の死亡数。(B)コラーゲン/エピネフリンの注入後2分での、コントロール(n=19)、FXII-/- (n=14) およびFcR (-/- (n=5) 中の血小板計数。(C)野生型およびFXII-/-マウス由来のヘパリン処理した血小板富化血漿を、コラーゲン(10μg/ml)またはADP(5μM)で処理し、光透過率を標準的な血小板凝集計で記録した。(D)コラーゲン/エピネフリンの注入後2分での、指示されたマウスの肺のヘマトキシリン/エオジン染色切片。
【図3】XII因子を欠くマウスのインビボでの不完全な血栓形成を記載した。(A)傷害後の血栓の観察。(B)腸間膜動脈での血栓形成の観察。(C)傷害後の血栓による血管閉塞。(D)1つの実施例の代表的な図。
【図4】(A)野生型、FXII-/-およびFXI-/-の動脈閉塞モデルでの分析。(B)頚動脈中の機械的傷害を結紮による誘発。(C)顕微鏡写真は、傷害後2分での代表的な画像を示す。
【図5】ヒトFXIIで回復したFXII欠損動物の血栓形成の欠損を記載する。(A)FeCl3誘導傷害による血栓形成。(B)形成した血栓による血管の閉塞。(C)代表的画像を示す。(D)FXII-/- マウスでの大動脈中の血栓誘導。
【図6】マウスのインビボでの血栓形成を阻害する抗FXII抗体を記載する。(A)傷害後の血小板吸着および血栓の観察。(B)腸間膜動脈での血栓形成の観察。(C)完全な閉塞に至る時間を示す。
【図7】動脈血栓形成の改められたモデルを記載する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
XII因子活性を阻害し、そして血栓の形成および/または安定化およびそれによる3次元的な管腔内血栓成長を防止するための、少なくとも1つの抗体および/または1つの阻害剤の使用。
【請求項2】
抗体が、抗XII因子抗体である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
抗体が、XII因子活性化を阻害する、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
阻害剤が、プロテアーゼインヒビターである、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
阻害剤が、セリンプロテアーゼインヒビターである、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
プロテアーゼインヒビターが、AT IIIインヒビター、アンジオテンシン転換酵素阻害剤、C1インヒビター、アプロチニン、α−1プロテアーゼインヒビター、アンチペイン([(S)-1-カルボキシ-2-フェニルエチル]-カルバモイル-L-Arg-L-Val-アルギナル)、Z-Pro-Pro-アルデヒド-ジメチルアセテート、DX88、ロイペプチン、Fmoc-Ala-Pyr-CNのようなプロリルオリゴペプチダーゼ阻害剤、トウモロコシ・トリプシンインヒビター、ウシ膵臓トリプシンインヒビターの変異体、エコチン、YAP(コガネガレイ抗凝固タンパク質)、ならびにセイヨウカボチャ・トリプシンインヒビターVおよびセイヨウカボチャ・イソインヒビターから選択される、請求項4の使用。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の、抗体および/または阻害剤の、医薬における使用。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の、抗体および/または阻害剤の、医薬の製造における使用。
【請求項9】
静脈性または動脈性血栓形成に関連する症状または疾患、特に卒中もしくは心筋梗塞、炎症、補体活性化、フィブリン溶解、血管新生、および/または、遺伝性血管浮腫のようなXII因子誘導型キニン形成に関連する疾患、肺の細菌感染、トリパノソーマ感染、低血圧性ショック、膵炎、シャーガス病、または関節性痛風、の治療または予防における、請求項1〜4のいずれかに記載の、抗体および/または阻害剤の使用。
【請求項10】
XII因子の阻害に適しており、そして病的血栓の形成および/または安定化を防止する、少なくとも1つの抗体および/または1つの阻害剤を含む、医薬製剤。
【請求項11】
抗体が、抗XII因子抗体である、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
抗体が、XII因子活性化を阻害する、請求項10に記載の製剤。
【請求項13】
阻害剤が、プロテアーゼインヒビターである、請求項10に記載の製剤。
【請求項14】
阻害剤が、セリンプロテアーゼインヒビターである、請求項10に記載の製剤。
【請求項15】
プロテアーゼインヒビターが、AT IIIインヒビター、アンジオテンシン転換酵素阻害剤、C1インヒビター、アプロチニン、α-1プロテアーゼインヒビター、アンチパイン([(S)-1-カルボキシ-2-フェニルエチル]-カルバモイル-L-Arg-L-Val-アルギナル)、Z-Pro-Pro-アルデヒド-ジメチルアセテート、DX88、ロイペプチン、Fmoc-Ala-Pyr-CNのようなプロリルオリゴペプチダーゼ阻害剤、トウモロコシ・トリプシンインヒビター、ウシ膵臓トリプシンインヒビターの変異体、エコチン、YAP(コガネガレイ抗凝固タンパク質)、ならびにセイヨウカボチャ・トリプシンインヒビターVおよびセイヨウカボチャ・イソインヒビターから選択される、請求項10の製剤。
【請求項16】
少なくとも1つの抗体および/または1つの阻害剤によりXII因子活性を阻害し、そしてそれにより血栓の形成および/または安定化または血栓成長を防止することによる、抗血栓剤の標的としてのXII因子の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−525342(P2008−525342A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547323(P2007−547323)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【国際出願番号】PCT/EP2005/013714
【国際公開番号】WO2006/066878
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(597070264)ツェー・エス・エル・ベーリング・ゲー・エム・ベー・ハー (32)
【Fターム(参考)】