説明

血栓症及び癌の治療、及び/又は予防のためのACRP30の使用

血栓症、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移の治療、及び/又は予防のための新規手段を提供することが、本発明の目的である。より詳しく述べると、本発明は、血栓症に関連する障害、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のためのAcrp30の球状頭部を含むポリペプチドの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、広く、血栓症及び癌の分野にある。より詳しく述べると、本発明は、血栓症に関連する障害、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移の治療用、及び/又は予防用医薬品の製造のためのAcrp30の球状頭部を含むポリペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
1. Acrp30
脂肪組織は、長い間、脂肪を貯蔵する能力で知られており、レジスチン、アジプシン、レプチン、及びTNF-αを含めた多くのホルモン及びパラクリン媒介物質の供給源としての重要な役割を果たしている。これらの分子は、ホルモン及び合成の部位としてのそれらの役割を強調するために、アディポカインと総称される。アディポネクチン又はApM-1とも呼ばれるAcrp30は、そのようなアディポカインの1つであり、脂肪組織によって産生される。しかしながら、その血漿中濃度がホルモンの範囲内にないので、Acrp30をホルモンであるとみなすことができない。実際に、血漿中Acrp30濃度は、2〜18μg/mlと幅があるのに対して、ホルモン濃度は、通常、ng/mlの範囲内であるか、又はその範囲より低い。
【0003】
マウスAcrp30は、1995年(Schererら、1995年)に最初に同定され、脂肪細胞分化中に100倍を上回る上方制御がなされることが分かった。ヒト相同体は、1996年(Maedaら、1996年)に同定された。Acrp30は、アミノ末端シグナル配列と、それに続くコラーゲン反復を含む中心領域、及び球状補体因子C1qに対する相同性を有するカルボキシル末端ドメインを含む。この後者のドメインは、一般的に、Acrp30の「球状頭部」とも呼ばれる。いくつかの研究が、球状頭部を含むAcrp30のフラグメントに特に注目している(例えば、WO 01/51645及びFruebisら、2001年)。
【0004】
異なった分子量を持つ、別の種類のAcrp30ポリペプチドが存在する。異なる見掛け上の分子量のこれらの種類の構造が調査された(Tsaoら、2002年;Tsaoら、2003)。完全長の融合タンパク質として細菌において発現され、そして、ゲル濾過クロマトグラフィーによって分離された時に、3種類のAcrp30:六量体及び2種類の三量体、が同定された。真核細胞発現研究では、3種類のAcrp30種:細菌で産生されたタンパク質に見られなかった高分子量(HMW)の種、及び六量体と1種類の三量体に相当する種、が産み出された。
【0005】
研究では、Acrp30が肥満及びII型糖尿病に関連していることが実証された。遺伝子データでは、日本人の患者集団においてAcrp30遺伝子内に位置する非コード一塩基多型(SNPs)がII型糖尿病に関連していることが実証された(Haraら、2002年)。球状頭部を侵すミスセンス突然変異がAcrp30の血清レベルと相関があることが更に実証された(Kondoら、2002年)。
【0006】
加えて、Acrp30の血清レベルは、レプチン欠損マウス、レプチン受容体欠損マウス、及びサル・モデルを含めた、いくつもの肥満モデルにおいて低下している(Huら、1996年;Yamauchiら、2001年)。人体の研究において、Acrp30レベルは、糖尿病と肥満の両方に逆相関し、そして、それらは冠動脈疾患の患者において更に低下する(Aritaら、1999年)。低下したAcrp30レベルと、インスリン耐性及びII型糖尿病の進行の間の因果関係の更なる証拠が、低いAcrp30血清レベルを持つピマ・インディアン族の人々が高いAcrp30血清レベルの人々に比べてII型糖尿病を発症する可能性が高いことを示したLindsayらによって得られた(Lindsayら、2002年)。2002年に、ホモ接合Acrp30欠損マウスは、普通食を与え続けた時、高血糖ではないが、それらは低下した血清遊離脂肪酸クリアランスを示すことが分かった。高脂肪、高ショ糖食に切り換えられると、それらは、重度のインスリン耐性を示し、そして、対照動物と比較して高い体重増加をはっきり示した(Maedaら、2002年)。
【0007】
肥満及び糖尿病における極めて重要な役割に加えて、Acrp30が、他の障害において役割を果たすことが示唆された。特に、Acrp30の血清又は血漿レベルと、多嚢胞性卵巣症候群(Panidisら、2003年)、子宮内膜癌(Petridouら、2003年)、子癇前症(Ramsayら、2003年)、及び腎炎症候群(Zoccaliら、2003年)との関連性が観察された。Acrp30は、また、抗炎症性を示し(Yokotaら、2000年)、及びマウスにおける脂肪肝疾患を緩和することを示した(Xuら、2003年)。
【0008】
加えて、Clarkら(2004年)は、完全長のAcpr30が心筋からのTNF-αの産生を下方制御していることを教示している。Clarkら(2004年)は、心筋虚血に関連した急性及び慢性心不全の治療のための完全長Acpr30の使用を更に開示している。
【0009】
2. 凝固亢進、及び/又は高血小板凝集に関連する疾患
血栓塞栓症は、心虚血症候群及び脳卒中に次いで3番目に多い急性心血管疾患である。
血栓塞栓症は、脚、骨盤、又は腕の深部静脈内の血栓の形成につながる血液凝固亢進又は閉塞によって引き起こされる。凝塊が伝播するのに従って、近位部の伸展が起こり、それは、遊離するか、断片化し、そして、肺動脈に塞栓を形成するかもしれない。これは、肺動脈閉塞を引き起こし、そして、血小板による血管作用性物質(すなわち、セロトニン)の放出が肺動脈血管抵抗を増大させる。動脈閉塞が、肺胞死腔を増加させるので、血流量の再分配につながり、これにより、肺内の低換気血流領域の形成に起因してガス交換を低下させる。刺激受容体の刺激は、肺胞の過換気を引き起こす。反射性気管支収縮が起こり、そして、気道抵抗を増大させる。肺浮腫は、肺コンプライアンスを減少させる。増大した肺動脈血管抵抗は、右心室後負荷の増大を引き起こすので、右心室壁の張力が上昇し、それが右心室の拡張、機能不全、及び虚血につながるかもしれない。右心不全が、起こり、そして、心原性ショック及び死にさえつながりかねない。卵円孔開存症、又は心房中隔欠損症がある場合に、重度の無酸素血症を伴う血液の右から左への短絡だけでなく、奇異性塞栓症も起こるかもしれない。
【0010】
現在利用可能な血栓塞栓性疾患(thromboembolitic diseases)の治療法には、抗凝血剤を使用した治療、線維素溶解薬を使用した治療、及び外科手術が含まれる(Nutescu、2004年;Haines、2004年;Hawkins、2004年)。大部分の現在利用可能な血栓塞栓性疾患の治療のための治療法は、作用物質の抗凝血剤特性に基づいており、上述の作用物質が凝血塊のタンパク質成分を分解する。これまで、抗凝血剤であるだけでなく凝集抑制剤でもあるヒルジンが、直接的に血小板に作用する唯一の作用物質であった。
【0011】
2.1. 静脈血栓症に関連する疾患
凝血塊(血栓)が深部静脈で形成され、そして、多くの場合、遊離して肺に移動する症候群である静脈血栓塞栓症は、近代医療において最も困難、且つ、重大な問題の1つのである。静脈血栓塞栓症は、同じスペクトルの一部である2つの相関する状態である、深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓症(PE)を包含する。PEは、肺血管内につかえた凝血塊による肺の1つ以上の動脈への血流の閉塞である。PEとDVTは、病気の経過の中で、重症のための入院の後に、又は大手術の後に現れる可能性がある。
【0012】
臨床的に疑われていないかもしれないので、DVTとPEは共に、診断されないままであることが多い。疾患のスペクトルは、臨床的に疑われていないものから、臨床的に問題のないものまで、死をもたらすひどい塞栓症にまで及ぶ。未処置の急性近位DVTは、33〜50 %の患者で臨床的PEを引き起こす。未処置のPEは、多くの場合、数日間〜数週間にわたり再発し、そして、自然に良くなるか、又は死をもたらす可能性がある。PEの症例の約3分の1が死に至る。これらの67%が、死亡前に診断されておらず、そして、34%が、急に起こっている。臨床的に疑われることのないDVTとPEの高い比率が、著しい診断及び治療の遅延につながり、そして、これが罹患率及び死亡率のかなりの部分を占める。
【0013】
抗凝血剤は、凝血塊の形成を防ぐので、1930年代の臨床用途へのヘパリンの最初の導入以来、DVTとPEの治療法の主流であった。血栓塞栓性疾患を治療するための現在市販の抗凝血薬には、凝血塊を形成するのに必要なトロンビン及び他のいくつかの凝固因子を不活化することによって作用する静脈内ヘパリン、並びに血液凝固に極めて重要な肝臓のビタミンK依存性因子の産生を抑制することによって作用する、例えば、ワルファリンやジクマロールなどの経口抗凝血剤が含まれる。抗ビタミンK作用物質の作用機序は、肝臓におけるビタミンKの利用可能性を低下させることである。それ故に、ワルファリン及びジクマロールは、有効になるまで数日間〜数週間もかかる。ヘパリン及び抗ビタミンK作用物質は共に、血液凝固系に作用し、血漿中に存在しているタンパク質分解酵素のカスケードの活性化を必要とする。ヘパリン及び抗ビタミンK作用物質は共に、タンパク質分解酵素の活性の活性化カスケードに対して主に作用する。この活性化カスケードは、凝血塊のタンパク質部分(proteic part)であるフィブリンを作り出すようにフィブリノーゲンを切断するトロンビンを最終的に産生する。血小板は、凝塊の細胞部分を構成する。凝集は、例えば、トロンビンなどの物質によって活性化された血小板が互いに結合して、凝塊の細胞成分を形成することを経る過程である。
【0014】
線溶療法は、血漿中のプロ酵素であるプラスミノーゲンをその活性形態であるプラスミンに活性化することによって異常な凝塊を取り除くことを可能にする。プラスミンは、フィブリンを可溶性ペプチドに分解する。出力チャンネルを元に戻す以外に、病気の経過の十分早いうちに実施された場合、血栓の溶解が、正常な静脈弁の構造と機能を保護、及び修復することが実証された。このカテゴリに属する、市場に出回っている薬物には、ストレプトキナーゼとウロキナーゼが含まれている。
残念ながら、血栓症が広範囲に及ぶ時には、フィブリン溶解だけでは、存在する血栓の容量を溶解するのに不十分であるかもしれなので、外科手術が必須となる。稀にしか使用されないが、静脈の血栓切除術は長期の転帰を向上させるかもしれない。
【0015】
2.2. 動脈血栓症に関連する疾患
動脈血栓症と心血管疾患の進行における血小板の中心となる重要性は十分に明らかにされている(Jackson及びSchoenwaelder、2003年;Bhatt及びTopol、2003年)。他のどんな単独の細胞型も、血小板ほど多くの病的状態及び死亡の原因であるものはないので、結果として、それは治療的介入のための主な標的であることを意味している。様々な抗凝集物質治療法が、動脈血栓症と心血管疾患の治療に成功することが分かった。例えば、アテローム性動脈硬化における、トロンボキサン経路の阻害剤であるアスピリンの有効性を支持する臨床データは圧倒的である。抗血小板被験者の協力(ATC)は、プラシーボに対して、抗血小板療法、主としてアスピリンに関して血管系死亡、心筋梗塞、又は脳卒中の約25%の相対的危険度を低減することを発見した(ATC、1994年)。不可逆的な血小板阻害剤であるクロピドグレルとチクロピジンもまた、動脈血栓症の治療のための効果的な治療法であることが立証された。実際に、データの大多数が、例えば、跛行、不安定狭心症、冠状動脈バイパス手術、末梢動脈バイパス手術、及び脳血管障害などの状態におけるチクロピジンの有効性を支持している。
【0016】
2.3. 妊娠中の高血圧障害
血小板の活性化は、また、妊娠中の高血圧障害とその合併症の病因の重要な側面でもある。高血圧障害は、全ての妊娠の6%〜8%で起こり、そして、妊婦の死亡の2番目の主な原因であるので、新生児期の罹患率と死亡率に顕著に寄与する。そのような障害において、この障害に関連する広範囲の内皮機能不全の結果として血小板の活性化が起こる。実際に、抗血小板薬は、妊娠中の高血圧障害に関連している合併症を予防するのに、並びにある程度まで障害の出現を予防するのに有効である(Nadar及びLip、2004年)。
【0017】
2.4. 癌
静脈の血栓塞栓症の患者において、患者の15〜20%に随伴性の癌が存在する。血栓症治療に使用される抗凝血薬物は、また、癌治療に有益でもあることが観察された。これは、最初に、経口抗凝血剤が癌患者で死亡率を低下させることを発見したMichaelsによって観察された(Michaels、1964年)。Berkardaらは、ワルファリン抗凝血剤がルイス肺腫瘍を接種されたマウスにおける転移形成を抑制することを示した(Berkardaら、1978年)。前記観察は、後に、ヒトにおいて確認された(Zacharskiら、1990年;Berkardaら、1992年)。最近、Huらは、トロンビンの強力な阻害剤であるヒルジンが腫瘍の移植性転移、播種、及び自然転移を抑制することを示した(Huら、2004年)。
【0018】
これにより、抗凝血剤、及び/又は抗凝集剤は、動脈血栓症と静脈血栓症の治療だけでなく、癌における転移形成の予防、及び妊娠中の高血圧障害に関連する合併症の治療にも効果的である。
【発明の開示】
【0019】
発明の概要
球状頭部を含むAcrp30のフラグメントが抗凝血剤、及び/又は抗凝集剤特性を示すことが、本発明の枠組みの中で分かった。加えて、15.4kDaと20kDaの2つの新規な天然に存在するAcrp30の切断産物が同定された。
【0020】
そのため、本発明の第1の側面は、血栓症の治療用、及び/又は予防用医薬品の製造のためのAcrp30gポリペプチド又はその作動薬の使用に関する。
【0021】
第2の側面は、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移の治療用、及び/又は予防用医薬品の製造のためのAcrp30gポリペプチド又はその作動薬の使用に関する。
【0022】
3番目の側面は、妊娠中の高血圧障害の治療用、及び/又は予防用医薬品の製造のためのAcrp30gポリペプチド又はその作動薬の使用に関する。
【0023】
4番目の側面は、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、並びに腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種及び転移から成る群から選択される疾患の治療用、及び/又は予防用医薬品の製造のための、Acrp30gポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子の使用に関する。
【0024】
第5の側面は、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療用、及び/又は予防用医薬品の製造における、細胞においてAcrp30gポリペプチド又はその作動薬の体内産生を誘導する、及び/又は促進するベクターの使用に関する。
【0025】
第6の側面は、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療用、及び/又は予防用医薬品の製造における、Acrp30gポリペプチド又はその作動薬を産生するように遺伝子操作した細胞の使用に関する。
【0026】
第7の側面は、必要に応じて医薬として許容される担体と一緒に有効量のAcrp30gポリペプチド又はその作動薬を、それを必要とする患者に投与するステップを含む、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療方法、及び/又は予防方法に関する。
【0027】
第8の側面は、約15.4kDa、及び/又は約20kDaの質量を特徴とするAcrp30フラグメントに特異的に結合する抗体に関する。
【0028】
第9の側面は、本発明の前述の抗体を含む診断キットに関する。
【0029】
第10の側面は、血漿サンプル中の約15.4kDa、及び/又は20kDaの質量を特徴とするAcrp30フラグメントの存在又は不存在、あるいはそのレベルを評価する、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、代謝性疾患、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の診断方法に関する。
【0030】
第11の側面は、代謝異常の治療用、及び/又は予防用医薬品の製造のためのAcrp30gポリペプチドの使用であって、上記Acrp30gポリペプチドが約20kDaのAcrp30フラグメントを含むことを特徴とする使用に関する。
【0031】
配列の簡単な説明
配列番号1は、完全長Acrp30ポリペプチドのアミノ酸配列に相当する。
配列番号2は、Acrp30g-1と呼ばれるAcrp30ポリペプチドに相当する。
配列番号3は、Acrp30g-2と呼ばれるAcrp30ポリペプチドに相当する。
【0032】
発明の詳細な説明
本発明の枠組みの中で、球状頭部を含むAcrp30のフラグメントが、トロンビンで誘発した血小板凝集を抑制し、強力な抗凝集剤活性を示すことが分かった。
【0033】
具体的には、配列番号2又は3(更に、それぞれ、Acrp30g-1やAcrp30g-2とも呼ばれる)のポリペプチドでの正常マウス又はdb/dbマウスの慢性期治療が、出血後に採取される血液量を増加させることが示された(実施例1)。Acrp30g-2での正常マウスの急性期治療(acute treatment)又はdb/dbマウスの慢性期治療(chronic treatment)が、血小板数を変更することなく、且つ、目に見える胃出血促進作用なしに、ハウエル時間(Howell time)の有意な延長を引き起こすことが更に示された(実施例2及び3)。Acrp30g-2での痩せた又は肥満のマウスの慢性期治療が、トロンビン凝固時間、血小板数、又はフィブリノーゲンの循環濃度に対する有意な影響なしに、尾部出血時間を延長することもまた、実証された(実施例4及び5)。更に、Acrp30g-2での正常マウスの急性期治療が、尾部出血時間を延長することが分かった(実施例6及び7)。急速な肺塞栓症、そして、死につながるコラーゲンで誘発した急性深部静脈血栓塞栓症を発症するマウス・モデルのAcrp30g-2での予防的治療が、死亡の有意な減少が認められた(実施例10)。Acrp30g-2での治療的処置が、この動物モデルにおける死亡の有意な減少を生じさせることが示された(実施例11)。データは、400μg/kgのAcrp30g-2が、肺塞栓症モデル・マウスにおいて生存率を高めるために現在の治療量より高い用量で注射されたヘパリンよりも更に効果的であることを示している(実施例12)。このマウス・モデルにおいて、ヘパリンとファモキシン(famoxin)は、同時に注射された時に、累積効果を示す(実施例12)。Acrp30g-2は、コラーゲン又はトロンビンのいずれかによって誘発された血小板凝集を抑制するが、ADPによって誘発された凝集は抑制しない(実施例15)。この効果は、トロンビンによって誘発された血小板凝集を抑制しない完全長Acrp30では見られない(実施例16)。更に、Acrp30g-2がトロンビンによって活性化されたヒト血小板の脱凝集(desaggregation)を引き起こすのに対して、ヘパリンもアスピリンもトロンビンによって活性化されたヒト血小板の脱凝集を引き起こさないことが実証された(実施例17)。一酸化窒素合成酵素(eNOS)がAcrp30g-2の抗血栓効果に重要であること(実施例26)、及び完全長Acrp30ではなく、Acrp30g-2がNO産生を増強したこと(実施例29)もまた、実証された。最終的に、Acrp30g-2が動脈血栓症のマウス・モデルにおいて動脈血流を回復させることもまた示された(実施例27)。
【0034】
従って、本明細書中に提示された実験的証拠は、血栓症に関連する疾患、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、転移を治療する、並びに妊娠中の高血圧障害に関連する合併症を予防する新しい可能性を提供している。
【0035】
加えて、2種類の新規な天然のAcrp30切断産物が、本発明の枠組みの中で同定された(実施例19)。第1の切断産物は、約15kDaの質量を持ち、且つ、それが配列番号3の天然に存在するポリペプチドに相当することが示された。更に、それが凝固中に構造変化を受けることが示された(実施例21)。第2の切断産物は、20kDaであり、且つ、血漿中のその存在が遊離脂肪酸量に関連し、肥満者におけるエネルギー消費を休止させることが示された(実施例20)。
【0036】
従って、本明細書中に提示された実験的証拠は、約15.4kDa、及び/又は約20kDaの質量を特徴とするAcrp30フラグメントに結合する抗体を使用した、代謝性疾患、血栓症に関連する疾患、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、転移、及び妊娠中の高血圧障害を診断する新しい可能性を提供する。
【0037】
従って、第1の側面において、本発明は、血栓症に関連する疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のためのAcrp30gポリペプチド又はその作動薬の使用に関する。
【0038】
用語「Acrp30ポリペプチド」は、本明細書中に使用される場合、完全長又は成熟Acrp30タンパク質、及び生物活性を有するそのフラグメントを指す。
【0039】
用語「Acrp30gポリペプチド」は、本明細書中に使用される場合、Acrp30のフラグメントである、(i)配列番号1の第114〜244アミノ酸を含み、且つ、(ii)配列番号1の第1〜70アミノ酸を欠く前述のフラグメントを含むポリペプチドであって、生物活性を有するものを指す。前記用語は、また、Acrp30タンパク質のそのようなフラグメントの突然変異タンパク質をも包含する。前記用語は、他の種によるヒトAcrp30gポリペプチドの相同体を更に包含する。しかしながら、本発明の方法及び用途において、好ましくは、ヒトAcrp30gが使用される。Acrp30gポリペプチドは、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分若しくはフラグメント、循環的並び換え誘導体(circularly permutated derivative)、又はが配列番号1の第114〜244アミノ酸を含み、且つ、配列番号1の第1〜70アミノ酸を欠くポリペプチドの塩、あるいはその突然変異タンパク質に相当するかもしれない。
【0040】
本明細書中に使用される場合、Acrp30gポリペプチドの「生物活性」という用語は、抗凝血剤活性、及び/又は抗凝集剤活性を指す。Acrp30gポリペプチドの生物活性は、いずれかの実施例に記載されているように評価できる。Acrp30gポリペプチドの抗凝血剤、及び/又は抗凝集剤活性は、例えば、実施例2に記載のハウエル時間、を測定することによって、又は実施例14に記載されるようにトロンビンで誘発した血小板凝集を計測することによって評価される。
【0041】
好ましい態様において、実施例2に記載されるように好ましくは計測されるハウエル時間が、Acrp30gポリペプチドの漸増用量の注射によって用量依存性の様式で延長される場合には、Acrp30gポリペプチドは生物活性を有している。より好ましい態様において、0.3mg/mlの用量のAcrp30gがマウスに注射された時に、対照(例えば、生理食塩水溶液を注射されたマウス)と比べて、ハウエル時間が少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、又は50%延長される場合には、Acrp30gポリペプチドは生物活性を有している。最も好ましい態様において、0.3mg/mlの用量のAcrp30gがマウスに注射された時に、対照と比べて、前記ハウエル時間の少なくとも15%の延長がある。
【0042】
用語「Acrp30gポリペプチドの作動薬」は、本明細書中に使用される場合には、Acrp30gポリペプチドによって媒介された抗凝血剤、及び/又は抗凝集剤活性を刺激するか、又は模倣する分子に関する。そのような作動薬には、Acrp30gポリペプチドの生物活性を促進するあらゆる作用物質が包含される。本明細書中に開示されている全ての方法及び用途が、Acrp30gポリペプチド又はその作動薬のいずれかを用いて実施されるかもしれない。
【0043】
Acrp30gポリペプチドの作動薬は、天然に存在する化合物、及び合成化合物であるかもしれない。そのような化合物には、例えば、天然のリガンド、作動性小分子、作動性抗体、及び作動性アプタマーが含まれる。本明細書中に使用される場合、用語「天然のリガンド」は、生体内においてAcrp30gポリペプチドに結合するあらゆるシグナル伝達分子を指し、そして、例えば、脂質、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、アミノ酸、ぺプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物、及び無機分子などの分子が含まれる。本明細書中に使用される場合、用語「小分子」は、有機化合物を指す。本明細書中に使用される場合、用語「抗体」は、抗原に結合する、免疫系の細胞によって産生されるタンパク質又はそのフラグメントを指す。本明細書中に使用される場合、用語「アプタマー」は、人工的な核酸リガンドを指す(Ellington及びSzostak、1990年)。
【0044】
好ましい態様において、前記作動薬は、Acrp30の受容体に結合し、その結果、その受容体を活性化する小分子、アプタマー、又は抗体に相当する。好ましくは、前記作動薬は、Acrp30の受容体に結合する作動性抗体に相当する。T-カドヘリン(Hugら、2004年及びWO 2005/057222)、Omoxin(WO 03/013578)、並びにAdipoR1及びAdipoR2(Yamauchiら、2003年)を含めたいくつかのAcrp30受容体が、当該技術分野で知られている。好ましくは、前述の作動薬は、T-カドヘリン又はadipoR1に結合する。
【0045】
作動薬の候補化合物をスクリーニングするために使用されるかもしれない方法の一例は、以下のステップ:
a)Acrp30gポリペプチドを候補化合物と接触させ;そして
b)前記候補化合物の存在下、前記Acrp30gポリペプチドの活性を試験する、
を含む方法であり、ここで、前述の化合物の不存在下での前述のAcrp30gポリペプチドの活性と比べて、前述の化合物の存在下での前述のAcrp30gポリペプチドの活性の増強は、その化合物が前記Acrp30gポリペプチドの作動薬であることを示している。好ましくは、そのような方法は、また、前述の候補化合物の不存在下で前述のAcrp30gポリペプチドの活性を試験するステップも含む。
作動薬の候補化合物のスクリーニングのために使用されるかもしれない方法に関する他の例は、以下のステップ:
a)Acrp30に対する受容体を発現する細胞を候補化合物と接触させ;そして
b)前記候補化合物の存在下、Acrp30gの活性を試験する、
を含む方法であり、ここで、前述の化合物の不存在下での前述のAcrp30gポリペプチドの活性に比べて、前述の化合物の存在下での前述のAcrp30gポリペプチドの活性の増強は、その化合物が前述のAcrp30gポリペプチドの作動薬であることを示している。好ましくは、そのような方法は、また、前述の候補化合物の不存在下、前述のAcrp30gポリペプチドの活性を試験するステップも含む。
【0046】
用語「治療」及び「予防」は、本明細書中に使用される場合、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の1つ以上が症状又は原因、並びに前述の疾患に付随する症状、疾患又は合併症の予防、抑制、減弱、改善、又は覆すこととして理解されるべきである。血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患を「治療する」時、本発明の物質が疾患の発症後に与えられ、「予防」は、疾患の兆候が患者に認められる前の物質の投与に関する。
【0047】
本明細書中に使用される場合、用語「血栓症に関連する疾患」は、動脈血栓症に関連する疾患、静脈血栓症に関連する疾患の両方、及びそれに関連する疾患を包含する。
【0048】
用語「静脈血栓症に関連する疾患」と「血栓塞栓症」は本明細書中において互換的に使用される。これらの用語は、以下の疾患、障害、及び症候群:血栓塞栓、深部静脈血栓症(DVT)、血栓性静脈炎、静脈性跛行、静脈血栓塞栓症又は静脈血栓塞栓症(VTE)、肺血栓性塞栓症(PTE)、肺塞栓症(PE)、静脈血栓症、深部静脈血栓(deep vein thrombus、deep venous thrombus)、閉塞した静脈の流出、慢性静脈不全(CVI)、静脈炎後症候群、を包含する。これらの疾患には、「発明の背景」に詳細に記載したもの、及びMerck Research Laboratoriesによって1999年に刊行された「The Merck Manual for Diagnosis and Therapy」第17版の中に開示されたものが含まれる。好ましくは、前述の血栓症に関連する疾患は、深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、慢性静脈不全(CVI)、血栓性静脈炎、及び静脈炎後症候群から成る群から選択される。最も好ましくは、前述の血栓塞栓性疾患は、DVT又はPEである。
【0049】
用語「動脈血栓症」又は「動脈血栓症に関連する疾患」は、本明細書中に使用される場合、以下の疾患、障害、及び症候群:冠状動脈血栓症(例えば、不安定狭心症、安定狭心症、又は心筋梗塞)、虚血性脳卒中、間欠性跛行症、及び心房細動を包含する。動脈血栓症は、原発性、及び/又は二次性虚血性疾患に関連するかもしれない。例えば、冠状動脈血栓症は、心筋梗塞、不安定若しくは安定狭心症、経皮経管冠動脈形成術後の急性再閉塞、又は再狭窄から成る群から選択される原発性、及び/又は二次性虚血性疾患に関連するかもしれない。虚血性脳卒中は、例えば、血栓性脳卒中、一過性虚血発作、及び可逆性虚血性神経障害から成る群から選択される原発性、及び/又は二次性虚血性イベントに関連するかもしれない。Acrp30gポリペプチドは、以下の:
(i)動脈血栓症の急性期の間;
(ii)慢性動脈血栓症の間;及び/又は
(iii)二次性虚血性イベントを治療、及び/又は予防するために、
使用されるかもしれない。
【0050】
他の血栓症に関連する疾患には、例えば、以下の:
(i)動静脈シャントの血栓症(例えば、外科手術による瘻孔);
(ii)増大した凝血及び血栓症の危険性に関連する疾患、例えば、播種性血管内凝固、後天性又は先天性凝固亢進症候群(例えば、抗リン脂質症候群、ネフローゼ症候群)、血栓形成傾向(例えば、原発性血栓形成傾向、骨髄増殖性症候群)など;及び
(iii)例えば、血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathie)、糖尿病性マイクロ及びマクロ血管症(増殖性及び非増殖性)、骨壊死、フロスト(frost)、レイノー症候群(及び関連する状態、例えば、全身性強皮症、Sharp症候群、及び全身的ループス)、勃起機能不全、血管腫、アンゲイチス(angeitis)などの微小血管の部分的又は完全な閉塞に関連する疾患、
(iv)臓器の再移植、例えば、指の再移植の後の凝固及び臓器の損失、
が含まれる。
【0051】
血栓症に関連する疾患を予防又は治療するAcrp30gポリペプチド又はその作動薬の能力は、例えば、実施例10及び11に記載されているとおり評価され得る。
【0052】
第2の側面において、本発明は、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のためのAcrp30gポリペプチド又はその作動薬の使用に関する。
【0053】
本明細書中に使用される場合、用語「腫瘍」は悪性腫瘍を指す。具体的には、この用語は、原発性癌性腫瘍、及び転移性腫瘍を包含する。この用語は、例えば、結腸癌、子宮内膜癌、乳癌、メラノーマ、骨髄腫、肉腫、リンパ腫、白血病、例えば、慢性若しくは急性リンパ性白血病など、癌腫、例えば、非小細胞肺癌や乳房癌腫など、を包含する。
【0054】
腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移を抑制するAcrp30gポリペプチド又はその作動薬の能力は、例えば、実施例23〜25、及びHuら(2004年)に記載されているように評価される。
【0055】
好ましい態様において、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び/又は転移は、血栓症に関連する疾患に関係する。実際のところ、血栓症に関連する疾患を患う患者の多くには随伴性の癌が存在する。具体的に言うと、随伴性の癌は、静脈血栓塞栓症を患う患者の15〜20%に存在する。
【0056】
第3の側面において、本発明は、更に、妊娠中の高血圧障害の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のためのAcrp30gポリペプチド又はその作動薬の使用に関する。
【0057】
本明細書中に使用される場合、用語「妊娠中の高血圧障害」は、妊娠性高血圧(GH)、非タンパク尿妊娠性高血圧、子癇前症、非タンパク尿子癇前症、子癇、非タンパク尿子癇、及び妊娠で誘発された高血圧(PIH)を包含する。
【0058】
好ましい態様において、妊娠中の高血圧障害は、血栓症に関連する疾患に関係する。実際には、抗血小板薬は、合併症、例えば、妊娠中の高血圧障害に関連する血栓症に関連する障害などを予防するのに、並びに、ある程度まで妊娠中の高血圧障害の発生を予防するのに有効である(Nadar及びLip、2004年)。
【0059】
本発明は、更に、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療、及び/又は予防方法であって、上述の疾患を患う個体にAcrp30gポリペプチド又はその作動薬を投与するステップを含むものに関する。
【0060】
本発明の好ましい態様において、Acrp30gポリペプチドは、以下の:
a)配列番号1の第114〜244アミノ酸を含むポリペプチド;
b)配列番号2を含むポリペプチド;
c)配列番号3を含むポリペプチド;
d)配列番号1の第106〜244アミノ酸を含むポリペプチド;
e)配列番号1の第79〜244アミノ酸を含むポリペプチド;
f)アミノ酸配列が、(a)〜(e)の配列の少なくとも1つに対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を持っている(a)〜(e)のいずれかの突然変異タンパク質;
g)中程度のストリンジェント条件下、又は高いストリンジェント条件下、(a)〜(e)のいずれかをコードする天然のDNA配列の相補配列にハイブリダイズするDNA配列によってコードされる(a)〜(e)のいずれかの突然変異タンパク質;
h)そのアミノ酸配列内のあらゆる変更が(a)〜(e)のアミノ酸配列に対して保存的なアミノ酸置換である(a)〜(e)のいずれかの突然変異タンパク質;
i)(a)〜(h)のいずれかの塩、あるいは融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分、又は循環的並び換え誘導体、
から成る群から選択され、ここで、上述のAcrp30gポリペプチドは配列番号1の第1〜70アミノ酸を含まず;且つ、ここで、上述のAcrp30ポリペプチドには抗凝血剤、及び/又は抗凝集剤活性がある。
【0061】
好ましくは、抗凝血剤、及び/又は抗凝集剤活性は、ハウエル時間を計測することによって評価される。すなわち、ハウエル時間は漸増用量のAcrp30gポリペプチドの注射によって用量依存的な様式で延長される。より好ましくは、対照(例えば、生理食塩水溶液を注射したマウス)と比べて、0.3mg/mlの用量のAcrp30gがマウスに注射された時に、ハウエル時間が少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、又は50%延長される場合、Acrp30gポリペプチドには生物活性がある。最も好ましくは、対照と比べて、0.3mg/mlの用量のAcrp30gがマウスに注射された時に、前述のハウエル時間が少なくとも15%延長される。
【0062】
本発明のAcrp30gポリペプチドは、配列番号1の第1〜70アミノ酸を含まない。好ましくは、それは、配列番号1の第1〜75アミノ酸、第1〜80アミノ酸、第1〜90アミノ酸、第1〜95アミノ酸、第1〜100アミノ酸、第1〜105アミノ酸、第1〜107アミノ酸、第1〜109アミノ酸、第1〜110アミノ酸、又は第1〜113アミノ酸を含まない。
【0063】
本明細書中に使用される場合、配列番号2から成るポリペプチドはAcrp30g-1と呼ばれ、そして、配列番号3から成るポリペプチドはAcrp30g-2と呼ばれる。
【0064】
1つの態様において、本発明のAcrp30gポリペプチドは、WO 01/51645で開示されているAcrp30ポリペプチドから選択される。
【0065】
本発明の好ましい態様において、本発明のAcrp30gポリペプチドは、実施例19及び21で記載されているAcrp30の15.4kDaの切断産物に相当する。より好ましくは、本発明のAcrp30gポリペプチドは、配列番号1の第105位、第106位、第107位、第108位、第109位、第110位、第111位、第112位、第113位、又は114位のアミノ酸で始まり、そして、配列番号1の第244位のアミノ酸で終わる一連の範囲を含む。最も好ましくは、本発明のAcrp30gポリペプチドは、配列番号1の第107位、第108位、第109位、又は第110位のアミノ酸で始まり、そして、配列番号1の第244位のアミノ酸で終わる一連の範囲を含む。
【0066】
あるいは、本発明のAcrp30gポリペプチドは、実施例19及び20で記載されているAcrp30の20kDaの切断産物に相当する。好ましくは、本発明のAcrp30gポリペプチドは、配列番号1の第75位、第76位、第77位、第78位、第79位、第80位、第81位、第82位、第83位、第84位、第85位、第86位、第87位、第88位、第89位、第90位、第91位、又は第92位のアミノ酸で始まり、そして、配列番号1の第244位のアミノ酸で終わる一連の範囲を含む。最も好ましくは、本発明のAcrp30gポリペプチドは、配列番号1の第78位、第79位、又は第80位のアミノ酸で始まり、そして、配列番号1の第244位のアミノ酸で終わる一連の範囲を含む。
【0067】
Acrp30の20kDaの切断産物に相当するそのようなAcrp30gポリペプチドは、例えば、ヒト血漿の免疫沈降反応を実施することによって得られるかもしれない。例えば、免疫沈降反応は、配列番号1の第110〜244アミノ酸から成る組み換えポリペプチドの注射によって免疫された哺乳動物から得られるポリクローナル抗体を使用して実施されてもよい。あるいは、免疫沈降反応は、ヒトAcrp30の球状頭部に対するPreprotechのビオチン化抗体を使用して実施されてもよい。Acrp30の20kDaの切断産物は、また、配列番号1の第75位、第76位、第77位、第78位、第79位、第80位、第81位、第82位、第83位、第84位、第85位、第86位、第87位、第88位、第89位、第90位、第91位、又は第92位のアミノ酸で始まり、そして、第244位のアミノ酸で終わる組み換えポリペプチドを作り出すことによって模倣されてもよい。
【0068】
当業者は、配列番号2又は3のAcrp30gポリペプチドのスプライス変異体、対立遺伝子変異体、突然変異タンパク質、フラグメント、塩、他の種の相同体、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分、及び循環的並び換え誘導体が、配列番号2又は3のAcrp30gポリペプチドと比べて類似した、又はより更に良好な生物学的な活性を保有することを理解する。
【0069】
好ましい活性画分は、配列番号2又は3のAcrp30gポリペプチドの活性と比べて等しいか、又はより良好である活性か、例えば、より良好な安定性、又はより低い毒性若しくは免疫原性などの更なる利点がある活性を有するか、あるいは、それらは、量産するのがより簡単であるか、又は精製するのがより簡単である。当業者は、突然変異タンパク質、活性フラグメント、及び機能性誘導体が、先に触れたように、適切なプラスミド内に対応するcDNAをクローンニングし、同時培養アッセイにおいてそれらを試験することによって製造されることを理解している。
【0070】
本発明のAcrp30gポリペプチドは、グリコシル化又は非グリコシル化されるかもしれず、それらは、例えば、体液などの天然起源に由来するか、又はそれらは、好ましくは、組み換えによって製造されるかもしれない。組み換えによる発現は、例えば、E.コリ(E. coli)などの原核生物発現系において、又は、例えば、昆虫細胞などの真核生物発現系において、そして、好ましくは、例えば、CHO細胞若しくはHEK細胞などの哺乳動物発現系で実施されるかもしれない。
【0071】
本明細書中で使用される場合、用語「突然変異タンパク質」は、配列番号1の第114〜244アミノ酸を含み、且つ、配列番号1の第1〜70アミノ酸を欠くAcrp30gポリペプチドの類似体であって、配列番号2又は3のポリペプチドと比較して得られた生成物の活性を著しく変えることなく、上述のポリペプチドの1つ以上のアミノ酸残基が別のアミノ酸残基によって置き換えられているか、若しくは欠失しているか、又は上述のポリペプチドの天然の配列に1つ以上のアミノ酸残基が付加されているものを指す。これらの突然変異タンパク質は、公知の合成法によって、及び/又は部位特異的突然変異誘発技術によって、又はそれらに好適ないずれかの公知の技術によって製造される。用語「突然変異タンパク質」は、天然に存在する対立遺伝子変異体、及び天然に存在するスプライス変異体、又は配列番号1のAcrp30ポリペプチドの切断産物を包含する。
【0072】
本発明に従って使用され得る、配列番号1の第114〜244アミノ酸を含み、且つ、配列番号1の第1〜70アミノ酸を欠くAcrp30gポリペプチドの突然変異タンパク質、又はそれをコードする核酸は、本明細書中に提示された教示及び手引きに基づいて、必要以上の実験なしに、当業者によって日常的に得られ得る置換ぺプチド又はポリヌクレオチドに実質的に該当する配列の有限集合を含む。
【0073】
本発明の突然変異タンパク質は、中程度又は高いストリンジェント条件下、配列番号1の第114〜244アミノ酸を含み、且つ、配列番号1の第1〜70アミノ酸を欠くAcrp30gポリペプチドをコードするDNA又はRNAにハイブリダイズする、例えば、DNA又はRNAなどの核酸によってコードされるタンパク質を含む。用語「ストリンジェント条件」は、ハイブリダイゼーションとその後の洗浄条件を指し、当業者は、通常、「ストリンジェント」と呼ぶ。Ausubefら、Current Protocols in Molecular Biology、前掲、Interscience、N.Y.、§§6.3及び6.4(1987年、1992年)及びSambrookら、(Sambrook, J. C.、Fritsch, E. F.、及びManiatis, T.(1989年)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, NY)を参照のこと。
【0074】
制限されることなしに、ストリンジェント条件に関する例には、検討中のハイブリッドの計算されたTmを12〜20℃下回り、例えば、2×SSC及び0.5%のSDS中、5分間、2×SSC及び0.1%のSDS中、15分間;0.1×SSC及び0.5%のSDS中、37℃にて30〜60分間、その後、0.1×SSC及び0.5%のSDS中、68℃にて30〜60分間の洗浄条件が含まれる。当業者は、ストリンジェントな条件は、また、DNA配列、オリゴヌクレオチド・プローブ(例えば、10〜40塩基など)、又は混成オリゴヌクレオチド・プローブの長さにも依存することを理解している。混成プローブが使用される場合、SSCの代わりに塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を使用することが望ましい。Ausubel、前掲を参照のこと。
【0075】
好ましい態様において、そのような突然変異タンパク質はいずれも、配列番号1の第114〜244アミノ酸を含み、且つ、配列番号1の第1〜70アミノ酸を欠くAcrp30gポリペプチドの配列と少なくとも40%の同一性を有する。より好ましくは、それに対して、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、あるいは、最も好ましくは、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有する。
【0076】
他の好ましい態様において、そのような突然変異タンパク質は、配列番号2又は3のAcrp30gポリペプチドの配列と少なくとも40%の同一性を有する。より好ましくは、それに対して、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、あるいは、最も好ましくは、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有する。
【0077】
同一性は、配列を比較することによって測定される2つ以上のポリペプチド配列、又は2つ以上のポリヌクレオチド配列の間の相関を反映する。一般に、同一性は、比較される配列の全長にわたる2つのポリヌクレオチド、又は2つのポリペプチド配列それぞれの、厳密なヌクレオチドとヌクレオチド、又はアミノ酸とアミノ酸の一致を指す。
【0078】
厳密な一致が存在しない配列に関して、「%同一性」が測定されるかもしれない。一般に、比較されるべき2つの配列を、その配列の間で最大の相関を生じさせるように整列される。これには、整列の度合いを高めるための、一方又は双方の配列への「ギャップ」の挿入が含まれるかもしれない。%同一性は、特に同じであるか非常に似通った長さの配列に関してより好適である、比較されるそれぞれの配列の全長にわたって測定されるか(いわゆる、「全般的な整列」)、あるいは、不揃いな長さの配列に関してより好適である、より短い、規定された長さにわたって測定されるかもしれない(いわゆる、「局所的な整列」)。本発明の枠組みの中で、「%同一性」は、比較されるそれぞれの配列の全長にわたって測定された全般的な同一性パーセントを指す。
【0079】
いずれの特定のポリペプチドが本発明の配列に対して一定のパーセンテージ同一性であるかどうか測定するために、公知のコンピュータ・プログラムが使用されるかもしれない。そのようなアルゴリズム及びプログラムには、例えば、TBLASTN、BLASTP、FASTA、TFASTA、及びCLUSTALWが含まれる(Altschulら、1990年;Altschulら、1997年;Higginsら、1996年;Pearson及びLipman、1988年;Thompsonら、1994年)。タンパク質及び核酸配列の相同性は、好ましくは、当該技術分野で周知であるBasic Local Alignment Search Tool(「BLAST」)を使用して評価される(Altschulら、1990年;Altschulら、1997年、及びKarlin及びAltschul、1990年)。
【0080】
BLASTプログラムは、問い合わせアミノ若しくは核酸配列と、タンパク質又は核酸配列データベースから好ましくは得られる試験配列の間の、本明細書中で「高スコアリング・セグメント対」と呼ばれる類似したセグメントを特定することによって相同性配列を特定する。高スコアリング・セグメント対は、その多くが当該技術分野で知られているスコア・マトリックスによって、好ましくは特定される(すなわち、整列される)。使用されるスコアリング・マトリックスは、BLOSUM62マトリックスであるかもしれない(Gonnetら、1992年;Henikoff及びHenikoff、1993年)。PAM又はPAM250マトリックスもまた、使用されるかもしれない(例えば、Schwartz及びDayhoff編、(1978年)Matrices for Detecting Distance Relationships:Atlas of Protein Sequence and Structure、Washington:National Biomedical Research Foundationを参照のこと)。BLASTプログラムは、特定された全ての高スコアリング・セグメント対の統計的有意性を評価して、そして、好ましくは、例えば、使用者によって指定されたパーセント相同性などの使用者によって指定された有意性の閾値を満たすそれらのセグメントを選択する。好ましくは、高スコアリング・セグメント対の統計的有意性は、カルランの統計的有意性式を使用することで評価される(Karlin及びAltschul、1990年)。BLASTプログラムは、初期設定のパラメーター又は使用者によって提供される修飾パラメーターを用いて使用されるかもしれない。
【0081】
全般的な配列の整列とも呼ばれる、問い合わせ配列(本発明の配列)と対象配列の間の最良の全体的な一致を測定するための好ましい方法は、Brutlagのアルゴリズムに基づくFASTDBコンピュータ・プログラムを使用することで測定できる(Brutlagら、1990年)。配列整列において、問い合わせ配列と対象配列は共にアミノ酸配列である。前述の全般的な配列の整列の結果は、パーセント同一性単位である。FASTDBアミノ酸整列に使用される好ましいパラメーターは:マトリックス=PAM 0、k-タプル(k-tiple)=2、ミスマッチ・ペナルティー=1、連結ペナルティー=20、ランダム化群=25、長さ=0、カットオフ・スコア=1、ウインドウ・サイズ=配列長、ギャップ・ペナルティ=5、ギャップ・サイズ・ペナルティー=0.05、ウインドウ・サイズ=247又は対象アミノ酸配列の長さのいずれか短い方、である。
【0082】
内側の欠失によってではなく、N若しくはC末端の欠失により対象配列が問い合わせ配列より短い場合には、全般的なパーセント同一性について計算する時に、FASTDBプログラムは対象配列のN及びC末端の先端切断を考慮しないので、パーセント同一性の結果を手作業で補正しなければならない。問い合わせ配列と比べて、N及びC末端にて先端を切断されている対象配列に関して、パーセント同一性は、問い合わせ配列の全塩基の中の割合(%)として対応する対象残基と一致/整列しない、対象配列のN及びC末端である問い合わせ配列の残基数を計算することによって補正される。残基が一致/整列するかどうかは、FASTDBの配列整列の結果によって判断される。そして、このパーセンテージが、指定されたパラメーターを使用した先のFASTDBプログラムによって計算されたパーセント同一性から差し引かれて、最終的なパーセント同一性スコアを導き出す。この最終的なパーセント同一性スコアが、本発明の目的のために使用される。問い合わせ配列と一致/整列しない対象配列のN及びC末端の残基だけが、パーセント同一性スコアを手作業で調整する目的のために考慮される。すなわち、対象配列の最も遠いN及びC末端残基の外側の問い合わせアミノ酸残基だけである。
【0083】
例えば、90アミノ酸残基の対象配列を、100残基の問い合わせ配列と整列させて、パーセント同一性を測定する。対象配列のN末端で欠失が起こっているので、FASTDB整列は、N末端において最初の残基と一致又は整列していない。10個の不対残基は配列の10%に相当するので(一致しなかったN及びC末端における残基数/問い合わせ配列の総残基数)、FASTDBプログラムによって計算されたパーセント同一性スコアから10%が差し引かれる。残った90残基が完全に一致している場合には、最終的なパーセント同一性は90%になるだろう。
【0084】
本発明の突然変異タンパク質の好ましい変更は、「保存的な」置換として知られているものである。本発明のAcrp30gポリペプチドの保存的なアミノ酸置換には、その群のメンバー間の置換がその分子の生物学的機能を維持する十分に類似した生理化学的性質を有する群の中の同義アミノ酸が含まれるかもしれない(Grantham、1974年)。特に、その挿入又は欠失がわずかなアミノ酸、例えば30アミノ酸未満、好ましくは10アミノ酸未満にのみ影響を及ぼし、そして、機能的な立体構造に重要なアミノ酸、例えば、システイン残基、を取り外し又は置き換えしない場合には、アミノ酸の挿入及び欠失もまた、それらの機能を変えることなく先に規定された配列において行われるかもしれないことが明らかである。そのような欠失、及び/又は挿入によって作り出されたタンパク質及び突然変異タンパク質は、本発明の範囲に含まれる。
【0085】
好ましくは、同義アミノ酸群は、表Iで規定されるものである。より好ましくは、同義アミノ酸群は、表IIで規定されるものであり;及び最も好ましくは、同義アミノ酸群は、表IIIで規定されるものである。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
配列番号2又は3のAcrp30gポリペプチドの突然変異タンパク質を得るために使用され得るポリペプチドにおけるアミノ酸置換の製造に関する例には、例えば、Markらに対する米国特許第4,959,314号、同第4,588,585号、及び同第4,737,462号;Kothsらに対する米国特許第5,116,943号;Namenらに対する米国特許第4,965,195号;Chongらに対する米国特許第4,879,111号;及びLeeらに対する米国特許第5,017,691号などに提示されるあらゆる公知の方法ステップ;並びに米国特許第4,904,584号(Shawら)に提示されているリジン置換タンパク質などが含まれる。
【0090】
用語「融合タンパク質」は、例えば、体液中で長い滞留時間を有する別のタンパク質と融合させた、配列番号1の第114〜244アミノ酸を含み、且つ、配列番号1の第1〜70アミノ酸を欠くポリペプチド又はその突然変異タンパク質を指す。Acrp30g部分は、別のタンパク質、ポリペプチド、又は同様のもの、例えば、免疫グロブリン若しくはそのフラグメントに融合されるかもしれない。免疫グロブリンFc部分は、二量体又は多量体Ig融合タンパク質の製造に特に好適である。本発明のAcrp30g部分は、例えば、IgのFc部分によって二量化されたAcrp30gポリペプチドを作り出すような方法で免疫グロブリンの一部に連結されるかもしれない。あるいは、Acrp30g部分の配列は、促進された分泌を可能にするシグナル・ペプチド、及び/又はリーダー配列に融合される。前記リーダー配列は、例えば、PCT出願PCT/EP2004/052302で開示されたIgSP-tPAプレ-プロペプチドに相当するかもしれない。
【0091】
好ましい態様において、本発明のAcrp30gポリペプチドは、血液脳関門の通過を促進する担体分子、ペプチド、又はタンパク質を含む、及び/又は半減期を延長する担体分子、ペプチド、又はタンパク質を含む融合タンパク質である。
【0092】
前記融合は、直接的なものであるか、あるいは、長さが1〜3アミノ酸残基くらい短いか、又はより長いもの、例えば、長さが13アミノ酸残基、であってもよい短いリンカー・ペプチドを介したものであるかもしれない。前述のリンカーは、例えば、Acrp30g配列と免疫グロブリン配列の間に導入される、配列E-F-M(Glu-Phe-Met)によって表されるトリペプチドであるか、又は、例えば、Glu-Phe-Gly-Ala-Gly-Leu-Val-Leu-Gly-Gly-Gln-Phe-Metを含む13個のアミノ酸のリンカー配列であるかもしれない。得られた融合タンパク質には、例えば、体液中の長い滞留時間(半減期)、又は増強された比活性、増強された発現レベルなどの改良された特性がある。Ig融合はまた、融合タンパク質の精製を容易にするかもしれない。
【0093】
本発明の更なる好ましい態様において、融合タンパク質は免疫グロブリン(Ig)ドメインを含む。
【0094】
更に他の好ましい態様において、本発明のAcrp30gポリペプチドは、Ig分子の定常領域を含む融合タンパク質である。好ましくは、それを、例えば、ヒトIgG1のCH2及びCH3ドメインのような重鎖領域と融合させる。Ig分子の他のアイソフォーム、例えば、アイソフォームIgG2若しくはIgG4、又は、例えば、IgMのような他のIgクラスなどもまた、本発明の融合タンパク質の製造に好適である。融合タンパク質は、単量体、又はヘテロ若しくはホモ多量体である多量体であるかもしれない。融合タンパク質の免疫グロブリン部分は、補体結合又は補体カスケードを活性化しないか、又はFc受容体に結合しないように更に修飾されるかもしれない。
【0095】
融合タンパク質は、また、二量体、三量体などの形成を可能にする他のタンパク質から分離されたドメインと、Acrp30g部分を融合することによっても調製されるかもしれない。本発明のポリペプチドの多量体化を可能にするタンパク質配列の例は、例えば、hCG(WO 97/30161)、X型コラーゲン(WO 04/33486)、C4BP(WO 04/20639)、Erbタンパク質(WO 98/02540)、又はコイルドコイル・ぺプチド(WO 01/00814)などのタンパク質から分離されたドメインである。
【0096】
従って、本発明の更なる好ましい態様は、hCGドメインを含む融合タンパク質を対象とする。
【0097】
本明細書中に使用される「機能性誘導体」は、当該技術分野で公知の手段によって、残基の側鎖又はN若しくはC末端として生じる官能基から調製されるかもしれない、配列番号1の第114〜244アミノ酸を含み、且つ、配列番号1の第1〜70アミノ酸を欠くポリペプチドの誘導体、あるいはその突然変異タンパク質に及び、そして、それらが医薬として許容されるままである限り、すなわち、それらが、配列番号2又は3のポリペプチドの活性と実質的に類似したタンパク質の活性を破壊せず、また、それを含む組成物に毒性特性を与えない限り、本発明に含まれる。
【0098】
これらの誘導体には、例えば、抗原部位をマスクし、体液中で天然に存在するAcrp30gポリペプチドの滞留を延長するかもしれないポリエチレングリコール側鎖が含まれるかもしれない。他の誘導体には、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニア又は1級若しくは2級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル部分(例えば、アルカノイル又はカルボシクリル・アロイル基)により形成されたアミノ酸残基の遊離アミノ基のN-アシル誘導体、あるいは、アシル部分により形成された遊離ヒドロキシル基(例えば、セリル又はトレオニル残基のもの)のO-アシル誘導体が含まれる。
【0099】
配列番号1の第114〜244アミノ酸を含み、且つ、配列番号1の第1〜70アミノ酸を欠くポリペプチド、又はその突然変異タンパク質の「活性画分」として、本発明は、単独の、又はそれに連結している関連分子若しくは残基、例えば、糖若しくはリン酸残基、と一緒に、タンパク質分子のポリペプチド鎖のあらゆる断片、又は前駆体、あるいは、それら自体によるタンパク質分子若しくは糖残基の集合体に及ぶが、上述の断片は、配列番号2又は3のAcrp30gポリペプチドに実質的に類似した活性を有することを条件とする。
【0100】
用語「塩」は、本明細書中、配列番号1の第114〜244アミノ酸を含み、且つ、配列番号1の第1〜70アミノ酸を欠くポリペプチド又は突然変異タンパク質のカルボキシル基の塩、及びアミノ基の酸付加塩の両方を指す。カルボキシル基の塩は、当該技術分野で知られている手段によって形成されるかもしれず、そして、無機塩、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、第二鉄塩、又は亜鉛塩など、及び、例えば、アミンを用いて形成されたもののような有機塩基、例えば、トリエタノールアミン、アルギニン若しくはリジン、ピペリジン、プロカインなどを用いた塩が含まれる。酸付加塩には、例えば、鉱酸、例えば、塩酸若しくは硫酸などを用いた塩、及び、有機酸、例えば、酢酸又はシュウ酸などを用いた塩が含まれる。もちろん、そのような塩のいずれもが、配列番号2又は3のAcrp30gポリペプチドの生物活性を維持しなければならない。
【0101】
機能性誘導体は、例えば、安定性、半減期、生物学的利用能、人体による許容度、又は免疫原性などのタンパク質の性質を改良するために重合体に結合されているかもしれない。この目標を達成するために、Acrp30gポリペプチドは、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)に連結されるかもしれない。PEG化は、例えば、WO 92/13095に記載されている公知の方法によって実施されるかもしれない。
【0102】
それ故に、本発明の好ましい態様において、本発明のAcrp30gポリペプチドはPEG化される。
【0103】
好ましい態様において、本発明のAcrp30gポリペプチドは、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の三量体種で構成される。
【0104】
本発明は、更に、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のための、以下の:
(i)Acrp30gポリペプチド又はその作動薬;及び
(ii)上述のAcrp30gポリペプチド又はその作動薬と異なる抗凝血剤、及び/又は抗凝集剤、
の同時の、連続した、又は別々の使用に関する。前述のAcrp30gポリペプチド又はその作動薬と異なる抗凝血剤が、トロンビン又は他の凝固因子を不活化するいずれかの作用物質に相当するかもしれない。そのような抗凝血剤には、例えば、ヘパリン、ヒルジン、ワルファリン、ジクマロール、及びその誘導体が含まれる。抗凝集剤は、いずれかの抗血小板薬に相当するかもしれない。例えば、抗凝集剤は、アスピリン、糖タンパク質IIb/IIIa阻害剤、又はチクロピジン、例えば、クロピドグレル及びチエノピリジンに相当するかもしれない。
【0105】
本発明は、更に、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のための、以下の:
(iii)Acrp30gポリペプチド又はその作動薬;及び
(iv)線維素溶解薬、
の同時の、連続した、又は別々の使用に関する。線維素溶解薬は、フィブリンの可溶性ペプチドへの分解を促進するあらゆる作用物質に相当するかもしれない。そのような線維素溶解薬には、例えば、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、及びその誘導体が含まれる。
【0106】
本発明は、更に、血栓症に関連する疾患の治療のための、Acrp30gポリペプチド又はその作動薬、及び経皮経管的血管形成術の同時の、連続した、又は別々の使用に関する。
【0107】
本発明は、更に、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療のための、Acrp30gポリペプチド又はその作動薬、及び外科的介入の同時の、連続した、又は別々の使用に関する。
【0108】
本発明は、更に、腫瘍移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のための、以下の:
(v)Acrp30gポリペプチド又はその作動薬;及び
(vi)癌治療のための薬物、
の同時の、連続した、又は別々の使用に関する。癌治療のための多数の薬物が、当該技術分野で知られていて、そして、本態様の枠組みの中で使用されるかもしれない。これらの薬物には、化学療法で使用されるもの、標的療法で使用されるもの(例えば、放射性モノクローナル抗体及びチロシンキナーゼ阻害剤)、生物学的療法で使用されるもの(例えば、インターフェロン、インターロイキン、モノクローナル抗体、コロニー形成刺激因子、サイトカイン、及びワクチン)、及びホルモン療法で使用されるものが含まれる。Acrp30gポリペプチド又はその作動薬の使用は、また、外科手術、及び/又は癌細胞を傷つけるか又は死滅させるための高エネルギー線を使用する放射線治療、あるいは、幹細胞移植に関係するかもしれない。
【0109】
本発明の好ましい態様において、本発明のAcrp30gポリペプチドは、以下の量:
a)約0.01〜10mg/kg体重;又は
b)約0.1〜1mg/kg体重;又は
c)約9、8、7、6、5、4、3、2、又は1mg/kg体重、
にて使用される。
【0110】
本発明の第4の側面は、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のための、本発明のAcrp30gポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子の使用に関する。
【0111】
前記核酸は、例えば、筋肉内注射によって、例えば、裸の核酸分子として投与されるかもしれない。
【0112】
それは、更に、ヒトの体内、好ましくは、適切な細胞又は組織の中で核酸分子によってコードされた遺伝子の発現に有用な、例えば、ウイルス配列などのベクター配列を含むかもしれない。
【0113】
従って、好ましい態様において、前記核酸分子は、更に、発現ベクター配列を含む。発現ベクター配列は当該技術分野で周知であり、それらは着目の遺伝子の発現に役立つ更なる要素を含む。それらは、例えば、プロモーターやエンハンサ配列などの調節配列、選択マーカー配列、複製開始点を含むかもしれない。よって、遺伝子治療アプローチが、疾患を治療する、及び/又は予防するために使用される。有利なことには、本発明のAcrp30gポリペプチドの発現は、in situである。
【0114】
本発明の好ましい態様において、発現ベクターは、筋肉内注射によって投与されるかもしれない。
【0115】
更に、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造における、細胞における、Acrp30g又はその作動薬の体内産生を誘導、及び/又は促進するためのベクターの使用が、本発明によって包含される。好ましくは、前記細胞は、通常、前述のAcrp30gポリペプチドの発現に関してサイレントであるか、又は組み換えタンパク質の工業的生産を可能にするのに十分でない量の前述のAcrp30gポリペプチドしか発現しない。前記ベクターは、本発明のAcrp30gポリペプチドを発現することが所望される細胞において機能的な調節配列を含むかもしれない。例えば、そのような調節配列は、プロモーター又はエンハンサであるかもしれない。そして、前記調節配列は、相同組み換えによってゲノムの適切な遺伝子座に導入され、それにより、誘導されるか、又は促進される必要がある遺伝子とその調節配列が作動できるように連結されるかもしれない。前記技術は、通常、「内在性遺伝子活性化」(EGA)と呼ばれ、そして、それは、例えば、WO 91/09955に記載されている。
【0116】
本発明の第6の側面は、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造における、本発明のAcrp30gポリペプチドを産生するように遺伝子を組み換えた細胞の使用に関する。これにより、細胞治療アプローチが、人体の適切な部分に薬物をデリバリーするために使用されるかもしれない。
【0117】
本発明は、更に、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の予防、及び/又は治療に特に有用である、以下の:
a)治療的有効量の本発明のAcrp30gポリペプチド又はその作動薬;及び
b)医薬として許容される担体、
を含む医薬組成物に関する。
【0118】
「医薬として許容される担体」の定義は、有効成分の生物活性の有効性を妨げることなく、且つ、それが投与される宿主にとって毒性でない、あらゆる担体を含むことを意味する。例えば、非経口投与において、活性タンパク質は、例えば、生理食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミン、及びリンゲル液などの溶媒中に注射用の単位投与形態で処方されるかもしれない。
【0119】
本発明の医薬組成物の有効成分は、さまざまな方法で個人に投与され得る。投与経路には、皮内、(例えば、持続放出製剤による)経皮、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口、硬膜外、局所、くも膜下腔内、直腸、又は鼻腔内経路が含まれる。その他の治療として有効な投与経路、例えば、上皮若しくは内皮組織を通じた吸収、又は生体内で発現され、そして分泌されるべき活性物質をもたらす、活性物質をコードするDNA分子が(例えば、ベクターを介して)患者に投与される遺伝子治療、が使用されてもよい。加えて、本発明のタンパク質は、例えば、医薬として許容される界面活性剤、賦形剤、担体、希釈剤、及び溶媒などの生理活性物質の他の成分と一緒に投与されてもよい。
【0120】
非経口(例えば、静脈内、皮下、筋肉内)投与のために、活性タンパク質は、溶液、懸濁液、乳濁液、又は医薬として許容される非経口的溶媒(例えば、水、生理食塩水、デキストロース溶液)、及び等張性を維持する添加物(例えば、マンニトール)又は化学的安定性を維持する添加物(例えば、保存料と緩衝剤)を伴った凍結乾燥粉末として処方されてもよい。製剤は、一般的に使用される技術によって殺菌される。
【0121】
本発明の活性タンパク質の生物学的利用能はまた、例えば、PCT特許出願WO 92/13095に記載されているようにポリエチレングリコールに分子を連結して、人体内での分子の半減期を延ばす結合手順を使用することによって改善されてもよい。
【0122】
活性タンパク質の治療的有効量は、タンパク質のタイプ、タンパク質の親和性、拮抗薬によって示されるいずれかの残留細胞毒性活性、投与経路、(無毒レベルの内在性Acrp30g活性を維持することの望ましさを含めた)患者の臨床症状を含めた多変数関数になる。
【0123】
「治療的有効量」は、投与した時に、本発明のAcrp30gポリペプチドが血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患に対して有益な効果を発揮するような量である。個人に、単回若しくは複数回投与として、投与される投薬量は、Acrp30gの薬物動力学特性、投与経路、患者の症状及び特徴(性別、年齢、体重、健康状態、体格)、症状の程度、併用治療、治療の頻度、並びに所望される効果を含めたさまざまな要因によって変化する。
【0124】
本発明のAcrp30gポリペプチドは、好ましくは、約0.01〜10mg/kg、約0.05〜5mg/kg体重、約0.1〜3mg/kg体重、又は約1〜2mg/kg体重の量で使用される。Acrp30gポリペプチドの更なる好ましい量は、約0.1〜1000μg/kg体重、約1〜100μg/kg体重、又は約10〜50μg/kg体重の量である。
【0125】
投与経路は、好ましくは非経口である。本発明のAcrp30gポリペプチドは、例えば、皮下、静脈内、又は筋肉内経路によって、投与されるかもしれない。
【0126】
更に好ましい態様において、本発明のAcrp30gポリペプチドは、毎日又は一日おきに投与される。
【0127】
日用量は、通常、分割された投与で、又は所望の成果を得るために有効な徐放形態で与えられる。2回目又は次の投与は、個人に投与された初回又は以前の用量と比べて、同じであるか、より少ないか、又はより多い投薬量で実施されてもよい。2回目又は次の投与は、疾患の発症中に、又は発症前に投与されてもよい。
【0128】
本発明によると、本発明のAcrp30gポリペプチドは、治療的有効量で、他の治療計画若しくは治療薬より前に、同時に、又は連続して(例えば、多剤レジメン)、個人に予防的に、あるいは治療的に投与されてもよい。他の治療薬と同時に投与される活性物質は、同じ、又は別個の組成物で投与されてもよい。
【0129】
第7の側面において、本発明は、更に、必要に応じて、医薬として許容される担体と一緒に、本発明のAcrp30gポリペプチド、又はその作動薬の有効量を、それを必要とする患者に投与するステップを含む、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の治療方法に関する。
【0130】
そのような方法において、Acrp30gポリペプチド又はその作動薬は、前述のAcrp30gポリペプチドとは異なる抗凝血剤、及び/又は抗凝集剤、線維素溶解薬、並びに癌治療用の薬物から成る群から選択されるポリペプチドと一緒に投与されるかもしれない。
【0131】
第8の側面において、本発明は、更に、約15.4kDa、及び/又は約20kDaの質量を特徴とするAcrp30フラグメントに特異的に結合する抗体に関する。本発明のそのような抗体は、完全長Acrp30に結合しない。
【0132】
第1の態様は、以下の:
(i)前述の抗体は、約15.4kDaのAcrp30gポリペプチドに特異的に結合し;
(ii)前述の抗体は、約20kDaのAcrp30gポリペプチドに特異的に結合し;及び
(iii)前述の抗体は、完全長Acrp30に結合しない、
を特徴とする抗Acrp30g-bth抗体を対象とする。
【0133】
第2の態様は、以下の:
(i)前述の抗体は、約15.4kDaのAcrp30gポリペプチドに特異的に結合し;
(ii)前述の抗体は、約20kDaのAcrp30gポリペプチドに特異的に結合せず;及び
(iii)前述の抗体は完全長Acrp30に結合しない、
を特徴とする抗Acrp30g-15.4抗体を対象とする。
【0134】
第3の態様は、以下の:
(i)前述の抗体は、約20kDaのAcrp30gポリペプチドに特異的に結合し;
(ii)前述の抗体は、約15.4kDaのAcrp30gポリペプチドに特異的に結合せず;及び
(iii)前述の抗体は、完全長Acrp30に結合しない、
を特徴とする抗Acrp30g-20抗体を対象とする。
【0135】
本発明の抗体は、モノクローナルであるか、又はポリクローナルであるかもしれない。本発明の抗体には、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体が含まれる。本発明の抗体には、(IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含めた)IgG、(IgA1及びIgA2を含めた)IgA、IgD、IgE、又はIgM、並びにIgYが含まれる。用語「抗体」(Ab)は、抗原との免疫学的反応を可能にする、抗原の抗原決定基の特徴に対して相補的な表面形状と荷電分布を有する三次元的な結合空間を形成するような抗体化合物の可変ドメインの折り畳みから形成される少なくとも1つの結合領域を含むポリペプチド、あるいは、ポリペプチド群を指す。本明細書中に使用される場合、用語「抗体」は、一本鎖抗体の全体、及び抗原結合フラグメントを含めた抗体の全体を含むことを意味する。好ましい態様において、抗体は、これだけに制限されることなく、Fab、Fab’F(ab)2、及びF(ab’)2、Fd、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィド連結Fvs(sdFv)、及びVL又はVHドメインのいずれかを含むフラグメントを含めた本発明のヒト抗原結合抗体フラグメントである。抗体は、トリ及び哺乳動物を含めたあらゆる動物起源からのものであるかもしれない。好ましくは、抗体は、ヒト、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ、又はニワトリからである。本発明には、更に、ヒト化抗体及びヒト抗体が含まれる。
【0136】
本発明は、更に、診断目的のための本発明のそのような抗体の使用に関する。
1つの態様において、本発明は、個人が、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患を患っているか、又は患う危険性があるかどうか測定するための抗Acrp30g-bth抗体、及び/又は抗Acrp30g-15.4抗体の使用に関係する。
【0137】
他の態様において、本発明は、個人が代謝異常を患っているか、又は患う危険性があるかどうか測定するための抗Acrp30g-bth抗体、及び/又は抗Acrp30g-20抗体の使用に関係する。
【0138】
本明細書中に使用される場合、用語「代謝異常」には、肥満、II型糖尿病、インスリン耐性、高コレステロール血症、高脂血症、脂質異常症、X症候群、及びアテローム性動脈硬化が含まれる。用語「肥満」、「II型糖尿病」、「インスリン耐性」、「高コレステロール血症」、「高脂血症」、「脂質異常症」、及び「アテローム性動脈硬化症」は、「The Merck Manual-Second Home Edition」(出版社:Merck & Co)で規定されている状態を指す。用語「X症候群」は、インスリン耐性、高インスリン血症、脂質異常症、高血圧症、及び肥満を含めたアテローム性動脈硬化の危険因子の一群を指す(Rothら、2002年)。
【0139】
第9の側面において、本発明は、本発明の抗体を含む診断キットに関する。
【0140】
1つの態様は、抗Acrp30g-bth抗体、及び/又は抗Acrp30g-15.4抗体を含むという点を特徴とする、個人が、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患を患っているか、又は患う危険性があるかどうか測定するための診断キットを提供する。
【0141】
他の態様は、抗Acrp30g-bth抗体、及び/又は抗Acrp30g-20抗体を含むという点を特徴とする、個人が、代謝異常を患っているか、又は患う危険性があるかどうか測定するための診断キットを提供する。
【0142】
本発明のキットは、本発明の抗体と試薬を含む。好ましくは、本発明の抗体は、標識されている。あるいは、本発明の抗体は、標識されておらず、そして、前記キットは、本発明の抗体に結合する標識された二次抗体を含む。
【0143】
第10の側面において、本発明は、血漿サンプル中の約15.4kDa又は約20kDaのAcrp30gポリペプチドの存在若しくは不存在、又はレベルのいずれかが評価される、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、代謝性疾患、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の診断方法に関する。
【0144】
1つの態様において、本発明は、個人からの血漿検査試料中の約15.4kDaのAcrp30gポリペプチドの存在又は不存在を測定するステップを含む、血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の診断方法を提供する。
【0145】
他の態様において、本発明は、個人からの血漿検査試料中の約20kDaのAcrp30gポリペプチドの存在又は不存在を測定するステップを含む代謝異常の診断方法であって、上述の血漿検査試料中の約20kDaのAcrp30gポリペプチドの不存在が、上述の個人が上述の代謝異常を患っているか、又は患う危険性があるという指標を提供する。そのような方法は、例えば、実施例20で記載されているように、実施されるかもしれない。
【0146】
他の態様において、本発明は、個人における血栓症に関連する疾患、妊娠中の高血圧障害、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患の診断方法であって、以下のステップ:
(i)上述の個人から得られた組織細胞の血漿検査試料中の約15.4kDaのAcrp30gポリペプチドのレベルを検出し;及び
(ii)血漿対照試料中の上述の約15.4kDaのAcrp30gポリペプチドのレベルを検出する、
を含み、上述の対照試料中のレベルと比較した上述の検査試料中の上述の約15.4kDaのAcrp30gポリペプチドのレベルの統計的に有意な変化が、上述の個人が上述の疾患を患っているか、又は患う危険性があることを示す前記診断方法を提供する。好ましくは、上述の約15.4kDaのAcrp30gポリペプチドのレベルは、抗体を使用して検出される。最も好ましくは、上述の約15.4kDaのAcrp30gポリペプチドのレベルは、本発明の抗Acrp30g抗体、及び/又は抗Acrp30g-15.4抗体を使用して検出される。
【0147】
他の態様に、本発明は、個人の代謝性疾患の診断方法であって、以下のステップ:
(i)上述の個人から得られた組織細胞の血漿検査試料中の約20kDaのAcrp30gポリペプチドのレベルを検出し;及び
(ii)血漿対照試料中の上述の約20kDaのAcrp30gポリペプチドのレベルを検出する、
を含み、ここで、上述の対照試料中のレベルと比較した上述の検査試料中の上述の約20kDaのAcrp30gポリペプチドのレベルの統計的に有意な変化が、上述の個人が上述の疾患を患っているか、又は患う危険性があることを示す前記診断方法を提供する。好ましくは、上述の約20kDaのAcrp30gポリペプチドのレベルは、抗体を使用して検出される。最も好ましくは、上述の約20kDaのAcrp30gポリペプチドのレベルは、本発明の抗Acrp30g抗体、及び/又は抗Acrp30g-20抗体を使用して検出される。
【0148】
血漿中の20kDaのAcrp30切断産物の存在が、肥満者における遊離脂肪酸レベル、及びエネルギー消費の休止に関連することが、本発明の枠組みの中で示された(実施例20)。
【0149】
従って、第11の側面において、本発明は、代謝異常の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のためのポリペプチドの使用であって、上述のポリペプチドが約20kDaのAcrp30フラグメントを含むことを特徴とするものを想定する。そのような約20kDaのAcrp30フラグメントは、好ましくは、配列番号1の第75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、又は92位のアミノ酸で始まり第244位のアミノ酸で終わる、配列番号1の一連の範囲から成る。最も好ましくは、そのような約20kDaのAcrp30フラグメントは、配列番号1の第78、79、又は80位のアミノ酸で始まり第244位のアミノ酸で終わる、配列番号1の一連の範囲から成る。
【0150】
この側面との関連において、約20kDaのAcrp30フラグメントを含むポリペプチドは、抗凝集剤、及び/又は抗凝血剤活性を示す必要はないが、遊離脂肪酸酸化の促進、筋脂質酸化の促進、脂質分配の促進、及び脂質代謝の促進から成る群から選択される活性を示さなければならない。そのような活性を計測するための方法は、当該技術分野で周知であり、そして、例えば、WO 0151645で開示されている。
【0151】
学術雑誌の記事若しくは抄録、公開された若しくは未公開の米国若しくは外国特許出願、交付された米国若しくは外国特許、又はその他の参考文献を含めた本明細書中に引用されている全ての参考文献は、引用された参考文献中に提示された全てのデータ、表、図面、及び文章を含めて本明細書中に完全に援用される。加えて、本明細書中に引用されている参考文献中に引用された参考文献の全内容もまた、完全に援用される。
【0152】
公知の方法ステップ、従来の方法のステップ、公知の方法、又は従来の方法の参照は、本発明のいずれかの側面、説明、又は態様が、関連技術により開示、教示、又は示唆されていると認めるものでは決してない。
【0153】
先の具体的な態様の説明が本発明の全般的な性質を十分に明らかにしているので、他のものは、(本明細書中に引用された参考文献の内容を含めた)当該技術分野の技能の範囲内の知識を応用することによって、必要以上の実験なしに、本発明の全般的な概念から逸脱することなく、そのような具体的な態様を容易に変更、及び/又は様々な適用に適合させることができる。それ故に、そのような適応及び修飾は、本明細書中に提示された教示及び手引きに基づく、開示された態様の同等物の意味の範囲内にあるものとする。本明細書中の表現又は用語は、説明のためのものであって、制限するためのものではないことが理解されるべきであり、本明細書中の用語又は表現は、当業者の知識と組み合わせて、本明細書中に提示された教示及び手引きを踏まえて当業者によって解釈されるべきである。
【0154】
これまで本発明について説明してきたので、実例として提供され、しかも、本発明を制限しない以下の実施例を参照することによって、より容易に本発明が理解されるだろう。
【実施例】
【0155】
実施例1:db/dbマウスにおける眼窩後方の穿刺又は断頭術によって採取された血液量に対するAcrp30gの効果
材料と方法
配列番号2(Acrp30g-1)と配列番号3(Acrp30g-2)のポリペプチドを、E.コリ(E. coli)において産生させた。
Acrp30g-1とAcrp30g-2を、皮下経路によって、4日間又は5日間、毎日2回、30μg/kgと100μg/kgの用量にてdb/dbマウス(糖尿病マウス)に投与した。最後の日に、マウスを、眼窩後方の穿刺を使用した放血によって、又は断頭術によって屠殺した。血液を、採取し、そして、重さを量った。各実験群は、6〜8匹のマウスを有した。
【0156】
結果
図1として示されたデータである表1は、Acrp30g-1及びAcrp30g-2が、用量依存的な様式で、眼窩後方の穿刺によって、又は断頭術によって採取された血液量を有意に増加させたことを実証している。
【0157】
【表4】

【0158】
結論
Acrp30g-1又はAcrp30g-2での正常又はdb/dbマウスの毎日の処置は、出血後に採取された血液量を増加させた。
【0159】
実施例2:C57BL/6マウスにおけるハウエル時間に対するAcrp30g-2の影響
序論
ハウエル時間は、化合物の抗凝血剤、及び/又は抗凝集剤効果を評価することを可能にする。それは、多血小板血漿(PRP)のカルシウム再添加後の凝固時間に相当する。この試験は、1次止血(生体外における血小板凝集)と2次止血(フィブリン形成)を含めた凝固カスケード全体について調査する。
【0160】
材料と方法
Acrp30g-2を、皮下経路によって100μg/kgの用量にてC57BL/6マウス(正常マウス)に投与した。2時間又は4時間後に、マウスを、イソフルラン麻酔下、心穿刺(intracardiac puncture)を使用した放血によって屠殺した。各実験群は、11〜12匹のマウスを有していた。血液を、抗凝血剤としてクエン酸塩を含んだバイアル内に採取した。PRPを、遠心分離(250g×10分間)によってクエン酸塩添加血液から得た。PRP中の血小板を、Beckman-Coulterカウンターを使用してカウントした。ハウエル時間を、100mlの25mM CaCl2を100MlのPRPの一緒に37℃でインキューベートした時の凝固に至るまでの時間として測定した。結果を、表2A、図2A、及び図2Cに示す。
【0161】
2番目の実験を、30、100、又は300μg/kgのAcrp30g-2用量、又は200IU/kgのヘパリン用量のいずれかを用いて実施した。マウスを、2時間後に屠殺した。各実験群は、8匹のマウスを有していた。結果を、表2B及び図2Cに示した。
【0162】
結果
測定の2時間又は4時間前にAcrp30g-2を注射した時に、ハウエル時間が有意に延長された。PRP中の血小板数は、Acrp30g-2での処理によって有意な影響を受けなかった。Acrp30g-2(30、100、及び300μg/kg、sc)は、用量依存的な様式で(それぞれ、+7%、+15%、及び+21%)ハウエル時間を延長した。ヘパリン(200IU/kg)は、それを43%まで延長した。
【0163】
【表5】

【0164】
【表6】

【0165】
実施例3:db/dbマウスにおけるハウエル時間に対するAcrp30g-2の影響
材料と方法
Acrp30g-2を、皮下経路によって10、30、又は100μg/kgの用量にてdb/dbマウスに投与した。2時間後に、マウスを、イソフルラン麻酔下、心穿刺を使用した放血によって屠殺した。血液を、抗凝血剤としてクエン酸塩を含んだバイアル内に採取した。各実験群は、12匹のマウスを含んでいた。PRPを、遠心分離(250g×10分間)によってクエン酸塩添加血液から得た。ハウエル時間を、25mMのCaCl2(100μl)をPRP(100μl)と一緒に37℃にてインキューベートした時の凝固に至るまでの時間として測定した。
【0166】
結果
結果を、表3及び図3に示す。Acrp30g-2(30、100、及び300μg/kg、sc)は、用量依存的な様式で(それぞれ、+2%、+15%、及び+22%)ハウエル時間を延長した。ヘパリン(200IU/kg)は、それを64%まで延長した。
【0167】
【表7】

【0168】
実施例3:db/dbマウスにおけるAcrp30g-2での反復処置の抗凝集剤/抗凝血剤、及び出血促進性の性質
材料と方法
Acrp30g-2を、皮下経路によって5日間、毎日2回、100μg/kgの用量にてdb/dbマウスに投与した。最後の注射の2時間後に、マウスを、イソフルラン麻酔下、心穿刺によって放血させた。血液を、抗凝血剤としてクエン酸塩を含むバイアル内に採取した。各実験群は、6〜8匹のマウスを有していた。
【0169】
抗凝集剤/抗凝血剤効果をハウエル時間によって評価した。PRPを、遠心分離(250g×10分間)によってクエン酸塩添加血液から得た。ハウエル時間を、100mlの25mM CaCl2を37℃にて100mlのPRPと一緒にインキューベートした時に、凝固に至る時間として測定した。
【0170】
出血促進効果を、Hemocult(登録商標)を使用した糞便中の血液の検査によって評価し、そして、赤血球と血小板の関係パラメータの測定には、Beckman-Coulterカウンターを使用した。
【0171】
結果
結果を表4に示す。ハウエル時間は、Acrp30g-2(100μg/kg、皮下注射)での毎日の処置によって有意に延長された。PRP中の血小板数は、この処置によって有意に影響を受けることはなかった。これらの結果は、Acrp30g-2の抗凝集剤、及び/又は抗凝血剤性質を示した。
【0172】
Acrp30g-2が胃腸管において出血作用を引き起こしたとすると、生理反応は変化するだろう。例えば、当業者は、減少した血中ヘモグロビン、赤血球、及びヘマトクリット、血液中の網状赤血球の存在、又は糞便中の血液の存在を観察するだろう。これらのパラメーターのいずれもが、Acrp30g-2によって影響を受けなかった。平均赤血球容積と赤血球分布幅だけがわずかに変化した。これらの下方変化には、病態生理学的有意はない。よって、これらのデータは、Acrp30g-2には出血促進性の性質がないことを示した。
【0173】
【表8】

【0174】
【表9】

【0175】
表4で使用される略語は、以下のとおりである:PLT:血小板;MPV:平均血小板容積;RBC:赤血球;HGB:ヘモグロビン;HCT:ヘマトクリット;MCV:平均赤血球容積;MCH:平均赤血球ヘモグロビン量;MCHC:平均赤血球ヘモグロビン濃度;RDW:赤血球分布幅;WBC:白血球;NE:好中球;LY:リンパ球;MO:単球;EO:好酸球;BA:好塩基球。
【0176】
結論
ハウエル時間は、100μg/kgのAcrp30g-2での毎日の処置によって有意に延長された。これらの結果は、Acrp30g-2の抗凝集剤、及び/又は抗凝血剤性質を示した。
【0177】
加えて、胃腸管における出血作用は全く観察されなかった。血中ヘモグロビン、赤血球、及びヘマトクリットは、変化しなかった。網状赤血球と血液は、それぞれ、血中と糞便中に検出されなかった。MPVとMCHCだけが、わずかに変化した。これらの下方変化には、病態生理学的有意はない。これらの結果は、Famoxinには出血促進性の性質がないであろうことを裏付ける。
【0178】
実施例4:C57BL/6マウスにおけるAcrp30g-2での反復処置の抗凝集剤/抗凝血剤、及び出血促進性の性質
材料と方法
Acrp30g-2を、皮下経路によって5日間(9回投与)、毎日2回、100μg/kgの用量にてC57BL/6マウスに投与した。最後の注射の2時間後に、マウスを、イソフルラン麻酔下、心穿刺によって放血させた。血液を、抗凝血剤としてクエン酸塩を含むバイアル内に採取した。各実験群は、6〜8匹のマウスを有していた。抗凝集剤/抗凝血剤効果をハウエル時間によって評価した。PRPを、遠心分離(250g×10分間)によってクエン酸塩添加血液から得た。ハウエル時間を、25mMのCaCl2(100μl)をPRP(100μl)と一緒に37℃にてインキューベートした時の、凝固に至る時間として測定した。出血促進性効果を、糞便(Hemocult(登録商標))の血液の検査によって評価し、そして、赤血球と血小板の関係パラメータの測定には、Beckman-Coulterカウンターを使用した。
【0179】
結果
結果を表5に示す。ハウエル時間は、AS902036(100μg/kg、sc)での毎日の処置によって有意に延長された。Acrp30g-2は、PRP中の血小板数を有意に減少させたが、全血では減少させなかった。これは、Acrp30g-2が血小板の容積、及び/又は密度に変更を加えることを示唆している。加えて、これらの結果は、Acrp30g-2が抗凝集剤、及び/又は抗凝血剤性質を示すことを示した。
【0180】
【表10】

【0181】
結論
実施例3及び4は、Acrp30g-2での正常及びdb/dbマウスの処置が、血小板数を変更することなしに、且つ、胃の出血促進効果なしに、有意に抗凝集剤、及び/又は抗凝血剤効果を引き起こしたことを示している。
【0182】
実施例5: C57BL/6マウスにおける尾静脈出血時間に対するAcrp30g-2での2週間の処置の効果
序論
止血の調節を寄与(contrite)し得るかどうか検討するために、マウスにおける尾静脈出血時間に対する慢性Acrp30g-2注射の効果を試験した。このパラメーターは、生体内において横方向に切断した小静脈と動脈においてプラグを形成する血小板の能力を評価する。
【0183】
材料と方法
第1群は肥満マウスに該当した。この群には、高脂肪食を与えた7週齢の雌C57BL/6マウスが含まれた。この食餌の状態で5カ月後に、マウスは38〜42gまで体重が増えた。6匹のマウスから成る群を、50μg/kgのAcrp30g-2の1日あたり2回の注射で7日間、処置し、それに続いて、50μg/kgのAcrp30g-2の1日あたり3回の注射で7日間、処置した。Acrp30g-2を、皮下に投与した(図3の+)。対照群(n=6)には、同じ注射スケジュールを用いて等量の無菌生理食塩水を注射した(図3の肥満−)。処置の2週間後に、動物を、イソフルランで一時的に麻酔し、そして、尾部を、先端から2mmを手術用メスの刃で横方向に切断した。タイマを、尾部切断の時点で始動させ、そして、出血がやむまで血液滴をワットマン紙で採取した。出血停止の発生の秒単位の時間を、各マウスについて記録した。結果は、秒で表される出血時間の平均値+/−SEMである。平均値間の相違の統計的有意性を、スチューデントt検定によって測定した。
【0184】
第2群は、痩せたマウスに該当した。この群には、他の処置なしに7日間、高脂肪食に慣らした8週齢の雌C57/bl6マウス(n=12)が含まれた。これが終わった時点で、動物を6匹から成る2つの群に無作為に分けた。Acrp30g-2処置群には、7日間与え(1日あたり2*50μg/kg、SC)、次に、用量を1日あたり3*50μg/kgに調整し、そして、処置を7日間続けた(図1のレーン+)。対照の生理食塩水注射を、Sc注射の容量及びスケジュールに適合するように調整した(図1のレーン−)。2週間の処置が終わった時点で、マウスを、イソフルランで麻酔し、そして、肥満群について先に説明したとおり、尾部出血時間に関して試験した。
結果を図4に示す。
【0185】
結論
2週間にわたるAcrp30g-2の連日注射は、高脂肪食下、マウスの尾部出血時間を有意に延長した。Acrp30g-2処置によって引き起こされた尾部出血時間の延長は、痩せ及び肥満マウスの両方で有意である。尾部出血時間に対する高脂肪給餌の有意な効果は観察されていない。興味深いことに、尾部出血時間は、最後のAcrp30g-2注射の12時間後にしか計測されなかった。これは、1次止血に対するAcrp30g-2の作用を実証している。
【0186】
実施例6:C57BL/6マウスにおけるTCT、血小板カウント、及びフィブリノーゲン・レベルに対するAcrp30g-2での2週間の処置の効果
序論
以下の実験を、血小板数の減少に起因して実施例4において観察された出血時間が延長された可能性を排除するために実施した。
【0187】
方法と結果
実施例5に記載の尾部出血の実験に使用した動物を、次に、主要な血液パラメータの変化に関して試験した。尾部出血時間の計測を完了した後1時間以内にこれをやり遂げるために、動物を、イソフルランを使用して麻酔し、そして、血液サンプルを、頚動脈の開口部を通じて採取した。血小板数、トロンビン凝固時間(TCT)、及びフィブリノーゲン・レベルの測定を可能にするために、抗凝血剤としてクエン酸を含む試験管内にサンプルを採取した。3種類のパラメーター全てを、例えば、検査室マニュアル「Manuel d’hemostase」(J. Sampol、D. Arnoux、及びB. Boutiere、Elsevier、1995年)に開示されているものなどの臨床血液学検査室の日常的な手順を用いて測定した。
【0188】
結果
結果は、Acrp30g-2慢性暴露が、フィブリンの産生につながるタンパク分解性カスケードの効力の目安を提供するTCTに対して検出可能な効果を持っていなかったことを示している(図5A)。血小板カウントは、最長2週間までのAcrp30g-2への慢性暴露によって有意に減少しなかった(図5B)。血漿フィブリノーゲン・レベルの違いは、Acro30g-2(図5C)を用いて処置されたマウスにおいて観察されなかった。
【0189】
結論
実施例5及び6に記載の実験は、慢性Acrp30g-2処置が尾部出血時間を有意に増強し、且つ、この効果が血小板の喪失のためでなかったことを示している。トロンビン凝固時間に対する効果の不足の実証は、凝血塊を形成する血小板の能力を低下させ、その結果、出血の停止を遅らせるAcrp30g-2と一致している。
【0190】
実施例7:C57BL/6マウスにおける尾部出血時間に対するAcrp30g-2の単回投与の効果
序論
Acrp30g-2への2週間の慢性暴露後に観察される延長された尾部出血時間が単回投与後にも起こるかどうか測定するために、以下の実験を実施した。更に、効果が高脂肪食の投与に関連しないことを確かめるために、それを行った。
【0191】
方法
正常カロリー(normocaloric)食餌を与えたA群の12〜14週齢のC57BL/6雌マウスに、尾部出血時間の実験を実施する3時間前に、皮下投与される、漸増用量のAcrp30g-2を注射した。この注射スケジュールを、放射線標識したAcrp30g-2を使用して得られた薬物動力学データに基づいて選択した。薬物動力学データは、Acrp30g-2の最高血漿中濃度がAcrp30g-2の皮下注射の3〜4時間後に達成されたことを示した。動物には、午前9時にAcrp30g-2の指示された用量を皮下に注射し、そして、通常の照明サイクルを維持した。尾部出血時間実験を、Acrp30g-2注射の3時間後から開始した。実施例5に記載のイソフルラン麻酔と横方向の尾部切断から成る同じプロトコールを適用した。
【0192】
結果
図6に示された結果は、100μg/kg体重の用量におけるAcrp30g-2の単回投与が尾部出血時間を有意に延長するのに十分であることを示した。効果は、200μg/kgの用量でより強かった。50μg/kgの用量の注射は、尾部出血時間を延長する傾向はあるが、統計的に有意な様式でこのパラメーターを延長しなかった。
【0193】
結論
通常食餌下、正常マウスへの100μg/kgのAcrp30g-2の単回投与は、横方向に切断された動脈及び静脈血管の先端における凝血塊を形成するために血小板が必要とする時間を有意に延長した。この効果は、Acrp30g-2の単回皮下注射後の3時間以内に検出可能であった。
【0194】
実施例8:血小板凝集に対するAcrp30g-2の試験管内における効果
序論
実験4〜6を、生体内において実施した。本実験では、Acrp30g-2を、高脂肪食下のマウスから得られた多血小板血漿に直接加え、そして、これが、遅延した血小板凝集を引き起こすかどうかを測定した。
【0195】
方法
高脂肪食を与え(n=12)、且つ、27±3グラムの平均体重を有するマウスを、イソフルランで麻酔し、そして、凝固を防ぐがリカルシネーション(recalcination)後に血小板凝集も可能にするためにクエン酸チューブに直接、頚動脈から血液を採取した。頚動脈出血によって誘導された凝固因子の干渉を最小にするために、最初の700μlの血液だけを各動物から採取した。次に、血液サンプルを、プールし、そして、室温及び100gにて10分間の遠心分離によって多血小板血漿を得た。PRPを採取し、そして、8本のガラス管に分配した。次に、2本のサンプルには、1μg/mlの終濃度に達するようにAcrp30g-2を補った。2本の残りのサンプルには、同等量の生理食塩水溶液を補った。Acrp30g-2の添加の60秒後に、サンプルに22mMのCa2+を補った。次に、サンプルを、37℃の水浴内に置き、そして、血小板凝集塊がパスツールピペットによって捕えられるまで、先曲りガラス・パスツール・ピペットで混ぜた。この事象の発生時間を各チューブについて記録した。
【0196】
結果
Acrp30g-2は、カルシウムの存在下で計測された凝固時間を有意に延長した(図7)。
【0197】
実施例9:急性肺塞栓に関するマウス・モデルの確立
序論
肺塞栓症、そして、死につながる大規模な静脈内血小板凝集のマウス・モデルを確立し、そして、Acrp30g-2が生体内において抗凝集剤効果を発揮するかどうか測定するために、予備試験を行った。
【0198】
方法
雌C57BL/6マウスを、60mg/kgのペントバルビタールで麻酔した。次に、尾静脈にカニューレを挿入し、そして、45μg/kgのエピネフリンに関連するコラーゲンを注射した。コラーゲンは、血小板凝集を引き起こすことが知られている(Savageら、2001年)。マウス群(n=9)に、コラーゲン用量反応曲線を確立する3時間前に、500μgのAcrp30g-2の注射を与えた。この実験において、0.250μg/kg及び0.375μg/kgのコラーゲン注射は、有意な数の動物の死を引き起こした。最大死亡率は80%であった。死亡は、コラーゲン注射から3〜6分以内に起こった。(i)この重篤な期間を乗り切った動物、及び(ii)注射後に10分間、生き残った動物を、生存者であるとみなした。科学文献は、10分よりも長い期間の生存が、マウスがコラーゲン抗原投与を完全に克服したことを示すと教示している(Angelillo-Scherrerら、2001年)。しかしながら、生き残った動物に不要な苦痛を与えるのを避けるために、全ての実験の結果を、以下のとおり分析した:コラーゲン注射の10分後にまだ生きている動物を生存者と見なすのに対して、コラーゲン注射後10分の間に1分間より長い無呼吸が認められるもの死者として分類した。全ての動物を、ペントバルビタール麻酔下、頸椎脱臼によってそれに続いて屠殺した。
【0199】
第2の1セットの実験では、マウスに、375μg/kgのコラーゲンと45μg/kgのエピネフリンを注射した。コラーゲン/エピネフリン抗原投与の5分後にAcrp30g-2を注射した。
【0200】
結果
第1セットの実験において、尾静脈中へのコラーゲン注射が、対照マウスにおいて約80%の死亡率をもたらした。コラーゲン注射の3時間前に500μg/kgのAcrp30g-2で処置されたマウスでは、9匹のうちの6匹の動物がコラーゲン注射を乗り切った(図8)。
【0201】
第2セットの実験において、5分以内に100%の死亡が起こった。図9Bは、Acrp30g-2が用量依存的な様式で、最大50%の生存率を有意に改善したことを示している(図9B)。
【0202】
このマウス・モデルにおけるPEの出現を、心電図(ECG)システムを使用して記録した。図9Aに示されるとおり、尾静脈を通じてコラーゲン及びエピネフリンが注射したマウスが、頻脈を経験し、心電気軸の右側へのシフト、及び低導出におけるr’波の出現を実証した。最初の頻脈に続いて徐脈及び息切れエピソードがあり、呼吸停止があり、そして、死亡した。興味深いことに、生存者において得られた心電図データ(図9C)は、非生存者の第2導出において観察された典型的なr’波を示さなかった(図9A)。
【0203】
結論
マウス・モデルに関して、これらの結果は、尾静脈コラーゲン注射を用いて大規模な静脈内血小板凝集を作り出すことが可能であったことを示している。この効果は、コラーゲン用量依存的であった。肺塞栓症に関するこのマウス・モデルは、約80%〜100%の死亡率に至った。
【0204】
Acrp30g-2の生体内における効果に関して、コラーゲン注射の3時間前の500μg/kgのAcrp30g-2の注射が、肺塞栓症のマウス・モデルにおいて約40%〜50%まで死亡率を減少させることが実証された。
【0205】
実施例10:急性肺塞栓のマウス・モデルの生存率に対するAcrp30g-2を用いた予防的処置の効果
序論
先に記載の肺塞栓症のマウス・モデルにおけるAcrp30g-2の効果の統計的な有意性を試験するために、この実験を実施した。
【0206】
方法
正常なマウスを、先に記載のとおり、0.250mg/kgのコラーゲン及び30μg/kgのエピネフリンを用いて抗原投与した。対照群には、21匹のマウスが含まれた。12匹のマウスが含まれた第2群には、コラーゲン-エピネフリン抗原投与に供する3時間前に50μg/kgのAcrp30g-2の皮下注射を与えた。12匹のマウスが含まれた第3群には、コラーゲン抗原投与に供する3時間前に500μg/kgのAcrp30g-2の皮下注射を与えた。
【0207】
結果
第2群における死亡率は80%のままであった。すなわち、死亡率は対照群のものと等しかった(図10)。第3群において、死亡率は25%に低下した。得られたデータの統計的な有意性を、カイ2乗解析を使用して検定した。生存者の頻度に対する死亡の頻度の違いは、対照群と第2群の間には見られなかった。第3群と対照群を比較した時に、違いは統計的に有意であった。
【0208】
結論
コラーゲン注射の3時間前の500μg/kgのAcrp30g-2の皮下注射は、マウスの尾静脈中へのコラーゲンの直接注射によって引き起こした血小板凝集に続く広範な肺塞栓症に起因する死亡を劇的に低減できる。これにより、Acrp30g-2は進行性血小板凝集を急速に抑制する。因果関係として、Acrp30g-2は、例えば、深部静脈血栓症又は心房細動に続いて起こる急性肺塞栓の治療に使用され得る。
【0209】
実施例11:生存率に対する漸増用量のAcrp30g-2注射の効果
序論
実施例9及び10に記載の結果に基づいて、Acrp30g-2は、静脈血栓症合併症の予防手段として使用され得る。本実験は、肺塞栓症につながる既に始まった広範な血小板凝集の進行を止める可能性を有する緊急用医薬品としてAcrp30g-2を使用でるかどうか測定することを目的とした。
【0210】
方法
正常なマウスの尾静脈にカニューレを挿入し、0.375μg/kgのコラーゲンと45μg/kgのエピネフリンを注射した。カニューレを適当な位置に残し、そして、コラーゲン注射の30秒後に、200μg/kgのAcrp30g-2又は同量の生理食塩水溶液のいずれかを静脈内に注射した。12匹のマウスに各溶液を注射した。Acrp30g-2用量を、外挿入した薬物動力学データに基づいて1〜1.6μg/mlの範囲をとる血漿中濃度を達成するように選択した。
【0211】
結果
生理食塩水溶液を注射した対照群では、12匹のマウスのうちの4匹が生き残った。Acrp30g-2を注射した群では、12匹のマウスのうちの8匹が生き残った(図10)。
【0212】
結論:
Acrp30g-2の緊急の注射は、マウス尾部の静脈区画における広範な血小板凝集が開始した30秒後にAcrp30g-2を投与した時に、肺塞栓症に起因した死亡率を有意に低減した。これらの結果は、急速に凝集する血小板に対するAcrp30g-2の効果が進行中の肺塞栓症の治療薬を提供するのに十分に急速であり、且つ、強力であったことを示している。
【0213】
実施例12:ヘパリンの効果とAcrp30g-2の効果の比較
序論
次に、ヘパリンとの比較によってAcrp30g-2の治療的有効性を試験することが求められた。
【0214】
方法
コラーゲン・エピネフリン抗原投与を、0.375mg/kgのコラーゲンと45μg/kgのエピネフリンを用いて実施した。
【0215】
2つの群の動物に、コラーゲン・エピネフリン抗原投与の30分前に以下の2種類の異なった用量:
− ヒト被験者において緊急状態下で使用される最大用量の10,000IUに相当する125IU/kg;又は
− 500IU/kg、
にてヘパリンを注射した。
【0216】
第3群の動物には、400μg/kgでAcrp30g-2を注射した。
【0217】
第4群の動物には、Acrp30g-2とヘパリンの両方を注射した。
【0218】
マウス尾静脈を通ったヘパリン注射が続く心室内のコラーゲン-エピネフリン注射を不可能にするので、ヘパリンを腹腔内経路を通じて注射した。対照的に、非常に高用量のAcrp30g-2の心室内注射は、尾静脈外観を変えなかったので、これにより、続くコラーゲン-エピネフリン注射を妨げなかった。
【0219】
結果
ヘパリンは、500IU/kgにて、マウスにおけるPEの効果的な治療であり、そして、40%まで生存率を改善した。これらの同一条件下、Acrp30g-2は生存を50%まで増加させた。それぞれ最大用量でのAcrp30g-2とヘパリンの注射は、相加効果につながった。実際に、Acrp30g-2とヘパリンの両方を注射した時に、生存率は約80%であった(図12A)。ヘパリンと比較したAcrp30g-2の治療的有効性をより良好に評価するために、カプラン-マイヤー分析を、低用量ヘパリン(125IU/kg)又は低用量Acrp30g-2(100μg/kg)のいずれかで処置した動物において、生存時間と50%の死亡率に至る時間に適用した(図12B)。
【0220】
結論
これらの結果は、ヘパリンとAcrp30g-2が血栓塞栓症の治療に関する有効な治療的処置であることを示している。加えて、Acrp30g-2は、ヘパリンに比べて有意により強力である。そのうえ、Acrp30g-2とヘパリンの両方が注射された時に、蓄積効果が観察された。
【0221】
実施例13:コラーゲン-エピネフリン抗原投与後のAcrp30g-2の注射
序論
コラーゲン-エピネフリン抗原投与の60秒後にAcrp30g-2を注射することが、すなわち、動物が重度の右心室の後負荷を受けた時に、まだ生存率の増加を可能にするかどうかを更に測定した。
【0222】
方法
実験を、図12に対する凡例に記載されているように実施した。
【0223】
結果
図12Cは、実際にこれがそうであることを示している。有効性は抗原投与の5分前に実施した注射と比較していくらか低く見えたが、増加し生存率は統計的に有意であった(p<0.02)。
【0224】
加えて、コラーゲン-エピネフリン抗原投与の3時間前に、静脈内よりもむしろ皮下(sc)に投与されたAcrp30g-2が予防処置として有効かどうか試験した。薬物動力学データに基づいて、Acrp30g-2の有効な血漿中濃度が血漿の1mlあたりの800〜1600ngのAcrp30g-2の範囲にわたることを推定した(データ未掲載)。そして、コラーゲン-エピネフリン抗原投与の3時間前に皮下に投与される500μg/kgのAcrp30g-2の単回投与がこの治療域に血漿レベルを増加させると計算された。
【0225】
10倍の低用量のAcrp30g-2又は生理食塩水溶液のいずれかの注射を受けたマウスと比べると、図12Dの結果は、皮下に投与された500μg/kgのAcrp30g-2が生存率を有意に増加させたことを示した。
【0226】
実施例14:トロンビン開始フィブリン形成に対するAcrp30g-2の効果
序論
フィブリノーゲンのトロンビン切断のヘパリンの抑制効果は、十分に確立されている。Acrp30g-2もまたフィブリノーゲンのトロンビン切断に作用する場合、測定するために、Acrp30g-2の不存在又は存在下でトロンビン活性を研究した。
【0227】
方法
フィブリン形成を、Tran及びStewart(2003年)に記載されているように計測した。
【0228】
結果
結果を図13に示す。Acrp30g-2は、トロンビン誘発フィブリン形成に対する抑制効果を持たなかった。これは、ヘパリンとAcrp30g-2が異なった作用機序を持ち、凝固カスケードの異なった標的に作用することを示唆している。この結果は、実施例11で見られるヘパリンとAcrp30g-2の蓄積効果と一致している。
【0229】
実施例15:コラーゲンとエピネフリン、トロンビン、又はADPによって活性化された血小板に対するAcrp30g-2の効果
序論
血小板凝集に対するAcrp30g-2の効果を、試験管内において計測した。
【0230】
方法
健常ボランティアからの血液を、抜いて、クエン酸(Becton Dickinson)を含む試験管内に回収した。室温にて200×gで10分間の遠心分離によって、多血小板血漿(PRP)をサンプリング直後に調製した。室温にて1000×gにて10分間のそれに続く遠心分離によって、乏血小板血漿(PPP)を得た。PRPとPPPを、室温で保存し、そして、調製後1時間以内に使用した。血小板凝集を、室温にてELISAプレート・リーダー(BIORAD Benchmark Plusマイクロプレート分光光度計、注文番号170-6935)を使用して計測した。1ウェルあたり100μLのPRP又はPPPのアリコートを、Acrp30g-2の不存在下、又は存在下、インキューベートした。一部の実験において、血小板凝集を誘導する作用物質を加えた。血小板凝集を誘導する作用物質の添加後に、プレートを、すぐにプレートリーダに乗せ、20秒間混合し、その後に595nmにて作動薬の添加の1分後に最初の測定を行った。測定値を、毎分得た;それぞれの読み出し前にプレートを20秒間、混合した。透過率(%)の値を、吸収度の値から計算し、そして、PPPのみは、100%凝集の基準値とみなした。血小板凝集を引き起こす作用物質としてトロンビンを使用した実験では、血小板をペレット化し、PRPから洗浄した(方法指示)。室温にて2000×gで血小板をペレット化し、5nMのプロスタサイクリンを含むCa2+不含タイロード・バッファー中に緩やかに再懸濁し、そして、再ペレット化した。2回目の洗浄の後に、血小板を、2mMのCaCl2を含み、且つ、プロスタサイクリンを含まないタイロード・バッファー中に再懸濁した。血小板をカウントし、そして、細胞懸濁液を、1×108細胞/mlに調整した。示した濃度のAcrp30g-2及びトロンビンの不存在下、又は存在下、インキューベートした100μL/ウェルのアリコートにおいて血小板凝集を計測した。
【0231】
結果
図14Aは、マウス多血小板血漿におけるコラーゲン-エピネフリン誘発血小板凝集がAcrp30g-2の存在下で50%を上回るまで抑制されたことを示している。
【0232】
本実験は、また、コラーゲン-エピネフリンによって引き起こした血小板凝集のこの抑制がヒト血小板を使用しても観察されるかどうか測定した。図14Bに示されている代表的な実験は、コラーゲンとエピネフリンによって引き起こしたヒト血小板の凝集が、PEのマウス・モデルにおいて増加した生存率につながる濃度と同じ範囲にある濃度にてAcrp30g-2によって抑制されることを実証した。
【0233】
ADPによって引き起こしたヒト血小板凝集は、Acrp30g-2の添加によって影響を受けなかった(図14C)。
【0234】
トロンビンは、血小板凝集を誘導する最も強力な作用物質である。Acrp30g-2の存在下でインキューベートした洗浄ヒト血小板のトロンビン誘導凝集の有意な抑制が観察された(図14D)。
【0235】
結論
この実験は、Acrp30g-2がアンチトロンビン性質を示し、且つ、トロンビン誘発血小板凝集を抑制することを実証した。
【0236】
実施例16:トロンビンによって活性化した血小板に対するAcrp30g-2と完全長Acrp30の効果の比較
序論
試験管内で計測された血小板凝集に対するAcrp30g-2の効果を、完全長Acrp30の効果と比較した。
【0237】
方法
実験を、実施例15に記載されているとおり実施した。
【0238】
結果
完全長Acrp30は、コラーゲン-エピネフリン誘発血小板凝集を予防するのに完全に効果がなかった(図15)。これにより、完全長Acrp30は、トロンビンの存在下、血小板に対してあらゆる抑制性質、又は脱凝集性質を示さなかった。
【0239】
結論
完全長Acrp30ではなく、Acrp30g-2が、トロンビンの存在下、血小板に対して脱凝集性質を示した。
【0240】
実施例17:トロンビンによって活性化した血小板に対するAcrp30g-2の効果
序論
トロンビン誘発血小板凝集に対するAcrp30g-2の効果を研究するために、追実験を実施した。
【0241】
方法
実験を、実施例15に記載されているとおり実施した。
【0242】
結果
Acrp30g-2が、0.1U/ml又は0.5U/mlのトロンビンによって誘発した血小板凝集を抑制することが示された(図16)。低濃度のトロンビンにて、Acrp30g-2の存在下、血小板がトロンビン添加の5分後に血小板凝集の有意な減速を示した。高濃度のトロンビンにて、Acrp30g-2は、トロンビン誘発の4〜5分後に強力な脱凝集効果を示した。
【0243】
トロンビンで処理した血小板を使用したAcrp30g-2の用量反応曲線は、有意な脱凝集作用が400ng/ml〜1200ng/mlのAcrp30g-2で観察されることを実証した(図17)。
【0244】
トロンビンによって凝集を誘発した5分後にAcrp30g-2が加えられた場合、有意な抑制効果が、用量依存的な様式で観察される(図18)。500μg/mlのAcrp30g-2は、血小板凝集を完全に止め、そして、1200μg/mlのAcrp30g-2にて脱凝集が観察された。
【0245】
Acrp30g-2がトロンビンの存在下で有意な血小板の脱凝集を引き起こす一方で、ヘパリンもアスピリンも類似効果を示さないことが示された(図19)。それとは反対に、増強された血小板凝集は、高用量のヘパリン又はアスピリンにて観察された。薬理学的作用物質の添加前に種々のサンプルの凝集速度に違いがなかったことに留意すべきである。
【0246】
結論
Acrp30g-2は、強力な抗凝集剤活性を示し、且つ、トロンビンの存在下、血小板に対して強力な脱凝集剤活性さえ示す。実際に、Acrp30g-2はトロンビンによって活性化したヒト血小板の脱凝集を引き起こすが;ヘパリンもアスピリンもこのモデルにおいて少しの活性も示さない。これは、ヘパリンとAcrp30g-2が異なった作用機序を持ち、かつ、凝固カスケードの異なった標的に作用することを更に確認する。
【0247】
実施例18:免疫学的方法
ヒト被験者からのサンプル採取
ヒト血液サンプルを、静脈穿刺によって健常ボランティアから得た。血液を、血清用乾燥試験管内、又はEDTA又はクエン酸を含む試験管内に直接採取した。血漿調製物のためのサンプルを、氷上に置き、すぐに、4℃、1000×gにて20分間、遠心分離した。37℃にて30分間のインキュベーションと、それに続く血漿用のそれと同じ条件下の遠心分離の後に血清を得た。
【0248】
免疫沈降反応
免疫沈降反応を、AbAcrp30gと呼ばれるアフィニティー精製ポリクローナル抗体を使用して、1mLの新鮮ヒト血漿に対して通常実施した。この抗体を、配列番号1の第110〜244アミノ酸にわたるヒトAcrp30配列を含む組み換えタンパク質によって免疫したウサギにより製造した。免疫グロブリンを、プロテインAのアフィニティー・クロマトグラフィーを使用し、それに続いて立体構造依存性抗体を捕獲するための組み換えタンパク質(配列番号1の第110〜244アミノ酸)を使用したアフィニティー・クロマトグラフィー・カラムを使用して精製した。数回の洗浄の後に、タンパク質を、プロテインAから溶出し、そして、SDS-PAGEによって分離しPVDF膜に転写した。ウエスタン・ブロットを、ヒトAcrp30の球状頭部に対するビオチン化抗体(Peprotech, Inc)、又はコラーゲン・テールに対するポリクローナル抗体によって明らかにした。コラーゲン・テールに対するこの抗体を、コラーゲン・テール内に位置しているペプチド(配列番号1の第19〜36アミノ酸に相当するETTTQGPGVLLPLPKGAC)で免疫したウサギにより製造した。
【0249】
ネイティブ分子量の測定
Acrp30g-2のネイティブ分子量の測定を、0.5mL/分の流速にてPBSバッファー(30mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl、pH7.4)で平衡化したAkta Explorer 10クロマトグラフィー・システム、及びSuperdex 200 HR10-30カラム(GE-Healthcare)を使用したゲル濾過によって実施した。較正のために、以下の分子質量標準(Sigma):(1)シトクロムc(12.4kDa)、(2)ミオグロビン(17kDa)、(3)カルボニック・アンヒドロラーゼ(29kDa)、及び(4)ウシ血清アルブミン(66kDa)を使用した。それぞれ、8.15及び23.8mLのカラムの空隙及び総容量は、分配係数Kavの計算を可能にする重クロム酸カリウム及びブルーデキストラン色素を用いて測定した。
【0250】
表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(SELDI-TOF)
アフィニティー精製したAbAcrp30g(PBS中に0.4μg)を、前もって活性化したRS100 Protein Chip(登録商標)Arrays(Ciphergen Biosystems Inc.、USA)上に共有結合により固定した。RS100アレイは、それらのNH2基(N末端及びリシン)と共有結合的に反応させることによってタンパク質を結合するカルボニル・ジイミダゾール基を持つ表面から成る。アレイを、湿度室内で25℃にて1時間、抗体の存在下でインキューベートし、そして、残った活性部位を20分間、5μlのブロッキング・バッファー(0.5Mのエタノールアミン、pH8.0)でブロックした。次に、アレイを、Bioprocessor(Ciphergen Biosystems Inc)内で洗浄バッファー(100mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl、Triton 0.5%、pH7.4)及びPBSを用いて3回洗浄した。Acrp30g-2(10μg/mL)を、ヒト血液中でスパイクし、凝固を、容認したか(血清)、又は妨げた(血漿)。対照実験を、(凝固後の)血清中でAcrp30g-2をスパイクすることによって実施した。50μlの血漿(血清)と50μlの結合バッファー(100mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl、Triron 0.1%、pH7.4)を、各スポットに適用し、そして、湿度室内で25℃にて1時間、インキューベートした。次に、サンプルを、100μlの結合バッファー(3回)、PBS(3回)、及び5mMのHEPES、pH7(1回)を用いて洗浄した。風乾したアレイを、0.1%のトリフルオロ酢酸及び50%のアセトニトリル中、シナピン酸で飽和状態にし、その後で機器(Ciphergen Protein Chip System、PCS4000)により読み出した。機器の設定は、以下のとおりであった:レーザ強度5000、収束質量16000、分子量範囲0〜200kDa。ヒルジン(BHVK、7034Da)、シトクロムc(ウシ、12230Da)、ミオグロビン(ウマ、16951Da)、カルボニック・アンヒドロラーゼ(ウシRBC、29023Da)、エノラーゼ(S.セレビシエ(S.cerevisiae)、46671Da)、アルブミン(ウシ血清、66433Da)、及びIgG(ウシ、147300Da)を較正物質として使用した。
【0251】
実施例19:ヒト血漿におけるAcrp30切断産物の同定
生理学的なAcrp30切断産物の存在に関してスクリーニングするために、ヒト血漿を、タンパク質の球状頭部内に位置するエピトープを検出する抗体を使用した免疫沈降反応に供した。これに、球状頭部に対する抗体を使用したウエスタンブロッティングが続いた。免疫沈降反応(IP)を、健康で、正常なボランティアから採取したサンプルに対して実施した。AbAcrp30gポリクローナル抗体、及びAcrp30の球状頭部内に位置するエピトープを検出する市販のモノクローナル抗体(Preprotech)を使用した。
【0252】
2種類のAcrp30の生理学的な切断産物の存在を実証した:Acrp30g-2と同じレベルで移動した20kDaのバンドと15.4kDaのバンド(データ未掲載)。
【0253】
実施例20:20kDaのAcrp30切断産物の特徴づけ
20kDaのバンドがIP手順中に試験管内で起こるタンパク質分解によるものでないことを確かめるために、タンパク分解阻害剤カクテルを血漿に加えた。違いは見られなかった(データ未掲載)。20kDaのバンドの検出が免疫グロブリン・フラグメントによる汚染に起因する可能性を排除するために、ウエスタンブロットを、抗マウスIgG、Acrp30の球状頭部に対するPreprotech製モノクローナル抗体、及び抗ヒトIgGを使用して明らかにした。結果は、20kDaのバンドが、ヒト血漿に由来したIgG軽鎖にも、免疫沈降反応に使用された抗体にも合致しないことを明確に確証する(データ未掲載)。これにより、この20kDaのバンドはAcrp30切断産物に該当する。
【0254】
20kDaのAcrp30切断産物の存在又は不存在に関してヒト・サンプルの我々の採取物をスクリーニングするために、そして、我々の血漿サンプルが冷凍状態で保存されることを考慮して、冷凍することがIP後にタンパク質の検出感度に影響するかどうか試験した。それは、凍結-解凍サイクルが血漿中の20kDaのバンドの検出を変化させないことを示した(データ未掲載)。
【0255】
系統的なIPを、29人の肥満者、及び30人の痩せた者に対して実施した。20kDaのバンドは、全ての被験者ではなく、数人に検出された。完全長Acrp30は常に検出された。次に、肥満及び痩せた被験者の集団を、前記タンパク質の存在及び不存在に関して層別化した。20kDaのAcrp30切断産物の存在又は不存在を測定する調査員には、個人の肥満対痩せの体質を分からないようにした。痩せ及び肥満集団内の20kDaのAcrp30切断産物に関する陽性及び陰性の個人の分布の分析を、カイ2乗解析を使用して実施した。結果を表5に示す。
【0256】
【表11】

【0257】
20kDaのAcrp30切断産物を、痩せた者の57%、及び肥満者の31%で検出した。これらの結果は、有意により多数の肥満被験者が、痩せた集団と比べて20kDaのタンパク質を欠くこと示している(表5、χ2、p<0.05)。
肥満者及び痩せた者の表現型を、20kDaのバンドの存在又は不存在の相関関係において分析した。女性についての結果を表6として示す。男性についての結果を表7として示す。結果を平均値±標準誤差として表した。
【0258】
【表12】

【0259】
【表13】

【0260】
女性では、検出可能な20kDaタンパク質の欠如は、有意に高い血漿遊離脂肪酸(FFA)レベル、及び有意に低い安静時エネルギー消費量(REE)に関連した。これは、痩せた女性群と肥満女性群の両方で確認された。男性では、肥満被験者は、より高い遊離脂肪酸レベルと有意に低いREEを有する。痩せた男性群において違いは観察されなかった。
【0261】
結論
20kDaの切断産物は、ヒト血漿中に生理的条件下で存在している。更に、前記タンパク質は、有意に低い比率の肥満被験者において検出可能である。肥満被験者から得られた血漿中の前記タンパク質の欠如は、有意に低いREE、及びより高い血漿FFAレベルに関連する。
【0262】
実施例21:15.4kDaのAcrp30切断産物の特徴づけ
免疫沈降反応(IP)を、特異的にヒトAcrp30の球状頭部に対するAbAcrp30gポリクローナル抗体を使用して正常ヒト血漿に対して実施した。Acrp30の球状頭部に対する市販の抗体、又はAcrp30のコラーゲン・テールに対するポリクローナル抗体のいずれかを使用し、引き続きウエスタンブロッティングを実施した。AbAcrp30gは、Acrp30の球状頭部を含むタンパク質に相当する15.4kDaのバンドを明らかにした(図20A、レーン1)。コラーゲン・テールを含むタンパク質に相当するバンドは、Acrp30のコラーゲン・テールに対するポリクローナル抗体により検出されなかった(図20A、レーン2)。陽性対照は、ウエスタンブロッティングにおいて使用した抗球状頭部抗体と抗コラーゲン・テール抗体の両方が完全長Acrp30を認識していることを示した(データ未掲載)。これにより:
(i)ヒト血漿は、Acrp30のコラーゲン・テールではなく、球状頭部を含む15.4kDaのAcrp30切断産物を含む。この切断産物は、Acrp30-15.4kDaとも呼ばれる;及び
(ii)AbAcrp30gは、完全長のタンパク質を認識しない。
【0263】
AbAcrp30gが厳密に立体構造依存性であることが更に示された。AbAcrp30gが、血漿中の溶液中のAcrp30-15.4kDaには結合するが、ウエスタンブロット上のAcrp30-15.4kDaタンパク質の直鎖エピトープには結合しない(データ未掲載)。加えて、AbAcrp30gは完全長Acrp30の検出可能量を共沈させることなく、Acrp30-15.4kDaが完全長Acrp30を含む複合体に結合しないことを示した。
【0264】
前記の実験の全てを、EDTA中に健常ボランティア(n=4)から採取した血液から調製した新鮮血漿サンプルを使用して実施した。血液をEDTAチューブ内に採取し、タンパク分解阻害剤カクテルを加え、そして、遠心分離の後に、血漿サンプルを4℃に置き、そして、実験の間中、この温度で維持した。真核細胞により製造した組み換えヒト完全長Acrp30を使用した対照実験は、タンパク質が多量体を自然に形成し、そして、37℃にてタンパク質分解的な切断を受けることを示した。サンプルを4℃に維持すること、又はタンパク質分解酵素阻害剤カクテルを加えることで、完全長Acrp30のタンパク質分解を抑制した(データ未掲載)。これは、AbAcrp30g抗体によって検出されるAcrp30-15.4kDaタンパク質がヒト血漿中に生理的条件下で実際に存在していることを立証している。
【0265】
これらの調査の中で、血清サンプルによりIPを実施した後に、Acrp30-15.4kDaが検出可能でなかったことに留意のこと(データ未掲載)。凝固過程がAcrp30-15.4kDaの立体構造を変更するかどうか試験するために、同じ個体から得た血清と血漿によりIPを実施し、それに続いて、AbAcrp30g抗体を使用したウエスタンブロットを実施した。図1bの結果は、凝固過程が、特異的な立体構造依存性AbAcrp30g抗体によるAcrp30-15.4kDa認識を顕著に減少させたことを示している。
【0266】
アミノ酸配列に基づくサイズ予測と合わせてAcrp30-15.4kDaと完全長Acrp30の相対的なサイズの比較は、切断が配列番号1の第108位のアラニンで起こったという結論に至った。これにより、Acrp30-15.4kDaは、配列番号1の第108〜244アミノ酸から成るAcrp30の切断産物、すなわち、配列番号3のポリペプチドに相当する。
【0267】
実施例22:組み換えAcrp30g-2の特徴づけ
Acrp30g-2とも呼ばれる配列番号3の組み換えポリペプチドを、E.コリ(E. coli)により製造した。均質性と再折り畳みに対する精製の後に、Acrp30g-2を、47.7kDaの見かけ上の分子量を持つ安定な三量体構造物として作り上げた(図20B)。変性ゲル電気泳動下、Acrp30g-2は、ヒト血漿から単離したAcrp30-15.4kDaタンパク質のものと同一の位置に移動した(図20C、レーン1、2)。溶液中では、可溶性Acrp30g-2(図20D、レーン4)を、正常ヒト血漿からAcrp30-15.4kDa(図20C、レーン1、3)を選択的に沈殿させる立体構造依存性AbAcrp30g抗体によって沈殿させた。Acrp30-15.4kDaと同様に、Acrp30g-2を、Acrp30のコラーゲンに対する抗体によって(図20C、レーン6)ではなく、Acrp30の球状頭部に対する抗体によって(図20C、レーン2、4)選択的に特定した。
【0268】
構造依存性AbAcrp30g抗体へのAcrp30g-2の結合が、血液凝固過程によっても影響を受けるかどうか更に試験した。図20Dは、ヒト血液中でAcrp30g-2をスパイクすることが、RS100タンパク質チップ・アレイに共有結合された立体構造依存性AbAcrp30g抗体への結合と、それに続くSeldi分析(15.9kDa)の後の血漿中の組み換えタンパク質の検出をもたらすことを示している。対照的に、血液凝固過程を開始させ、そして、血清を得た時、スパイクしたAcrp30g-2はもはや検出可能でなかった。スパイクが凝固の停止直後の血清において実施された時に、Acrp30g-2が実際に検出可能であったことが確認された(図20D)。
【0269】
結論
配列番号3の組み換え及び生理学的なポリペプチドは、凝固の間、構造的な変化を受ける。
【0270】
実施例23:ヌード・マウスにおける腫瘍の移植性転移、並びに非小細胞肺癌及び乳房癌腫細胞の増殖に対するAcrp30gの効果
American Tissue Culture Company(ATCC、USA)から入手した約1×106の非小細胞肺癌A549細胞、又は約1.5×106のヒト乳癌MDAMB 231細胞を、ヌード・マウス(Taconic Farms、USA)の側腹部に注射する。加えて、ヌード・マウスに、癌腫細胞の皮下注射の5分前と4時間後に50μg/kg〜20mg/kgのAcrp30g-2を腹腔内に注射する。必要に応じて、毎日のAcrp30g-2注射を、追加の4〜9日間、又は1日おきに与えられる追加の10回の注射が継続される。腫瘍サイズを、Boeckler Instruments Modelの3-MRカメラ(USA)及びRZM Biometrics BQ Nova Primeソフトウェア(USA)を接続したLeica microsystem MML B 100S顕微鏡(ドイツ)を使用して0日目〜20日目の毎日計測する。生理食塩水溶液を、陰性対照として使用し、そして、20mg/kgのヒルジンを、陽性対照として使用するかもしれない。
【0271】
実施例24:尾静脈注射に続いて非小細胞肺癌細胞の実験的な肺転移を受けたヌード・マウスの生存に対するAcrp30gの効果
約1×106又は5×106の非小細胞肺癌A549細胞を、ヌード・マウスの尾静脈に注射する。ヌード・マウスには、また、癌腫細胞の皮下注射の5分前と4時間後に50μg/kg〜20mg/kgのAcrp30g-2も腹腔内に注射する。Acrp30g-2注射を、1日おきに10日間、継続する。生存率を120日間で計算する。120日以内に死亡した全ての動物の肺を解剖する。生理食塩水溶液を陰性対照として使用し、そして、20mg/kgのヒルジンを陽性対照として使用するかもしれない。
【0272】
実施例25:同系マウスにおける腫瘍の増殖に対するAcrp30g処置の効果
ATCCから入手した約1×106のB16F10メラノーマ細胞、又は1×105の4T1乳房癌腫細胞を、C57BL/6又はBALB/C同系マウスに皮下注射した。B15F10細胞を用いた実験では、マウスに、B16F10の移植性転移の5分前、並びにその後5日間連続して50μg/kg〜20mg/kgのAcrp30g-2を注射する。4T1細胞を用いた実験では、マウスに、4T1の移植性転移の5分前、並びにその後10日間連続して50μg/kg〜20mg/kgのAcrp30g-2を注射する。生理食塩水溶液を陰性対照として使用し、そして、10mg/kgのヒルジンを陽性対照として使用するかもしれない。
【0273】
実施例26:eNOS−/−マウスに対するAcrp30g処置の効果
序論
科学的刊行物には、完全長Acrp30が一酸化窒素合成酵素(eNOS)の構成型を活性化することによって一酸化窒素(NO)産生を増強することが述べられている。Acrp30のマウス及びヒト球状形態もまた、NO産生を高めることが示されている。NOは、血管拡張応答を引き起こし、且つ、血小板凝集を調節する、筋肉のグルコース利用を調節する強力なシグナル伝達分子である。この情報に基づいて、動物モデルにおけるPEに対する有益な効果は、NO産生の急激な増加に起因するかもしれない。eNOS−/−マウスを使用したPEモデル(実施例9を参照のこと)におけるAcrp30g-2の効果を試験した。
【0274】
方法
7週齢のeNOS−/−マウス(Jackson Laboratories)を、12時間の明-12時間の暗サイクルをもつ規制で認可された病原菌を含まない動物施設内で飼育した。
【0275】
結果
図21Aの結果は、Acrp30g-2が、eNOS−/−マウスにおいてPE誘導後の生存率に対して効果がなかったことを実証している。更に、eNOS阻害剤であるNω-ニトロ-L-アルギニン・メチルエステル塩酸塩(L-NAME)で前処置したC57BI6/Jマウスにおいて、生存率に対するAcrp30g-2の統計的に有意な効果は検出されなかった(図21B)。
【0276】
結論
総合すれば、これらの結果は、Acrp30g-2の抗血栓効果のためにeNOS酵素が重要であることを示唆している。この結論は、2つの独立した調査方法:小分子阻害剤、並びに遺伝子の不活性化によるeNOSの不活性化、に依存している。
【0277】
実施例27:血栓症の第2のマウス・モデルに対するAcrp30gの効果
序論
Acrp30gによるeNOS活性化の効果は、他の血栓モデルを使用して調査した。
【0278】
方法
このモデルでは、血栓症は高血圧動脈区画内に起こる。血流量を、ドップラ・プローブを使用した、麻酔したマウスの露出した頚動脈で観察した。ベースライン・レベルを確立した後に、以下で説明するようにFeCl3を適用した。動脈壁と内腔への拡散によるFeCl3毒素の浸透は、動脈の血栓形成と減少した血流量を引き起こす。50%の血液流量の減少が達成された後に、Acrp30g-2又は生理食塩水溶液を投与した。
【0279】
動脈血栓症を、(Wang及びXu、2005年)で開示されているプロトコールから適合された手順を使用してFeCl3を用いて誘発した。マウスを、ペントバルビタール・ナトリウム(60mg/kg)を用いて麻酔した。麻酔の後に、皮膚の切開を、右総頚動脈領域の上に直接作製した。次に、筋膜を解剖し、そして、右総頚部の部分を露出した。我々は、Transonic(登録商標)血流プローブ(Transonic(登録商標)Systems、INC)を使用して、マウス頚動脈の血流量を計測した。ベースライン濃度を確立した後に、3.75%のFeCl3溶液中に浸した濾紙を血流プローブの下流に適用し、そして、実験全体の間中、維持した。50%の血流量が達成した後に、溶媒(0.9%のNaCl)又はAcrp30g-2(400μg/kg)をIPに注射した。また、Nω-ニトロ-L-アルギニン・メチル・エステル塩酸塩(L-NAME、Sigma)でも処置されるマウス群では、L-NAME(100mg/kg)を、FeCl3を用いた動脈血栓症の誘発の1時間前にIPに注射した。
【0280】
結果
Acrp30g-2を用いた動物の処置は、50%の血液流量の減少を示した対照(図22、白抜き四角)と比較した場合に、10分(図22、黒色四角)以内に実質的にベースライン濃度に動脈血流を回復させた。FeCl3が実験の間中、頚動脈に接触したままであるという事実にもかかわらず、血流量の回復が起こった。この動脈血栓症モデルでは、Acrp30g-2の抗血栓効果はL-NAMEによって抑制され、NO産生が血流量の回復の原因であるという考え方と一致した。
【0281】
結論
Acrp30g-2は、強力な静脈及び動脈の抗血栓活性を有する治療薬である。これらの効果は、eNOSに誘導されるNOの急速な放出に直接関連する。
【0282】
実施例28:試験管内の止血に対するAcrp30gの効果
コラーゲン、及びエピネフリン誘発血小板凝集に対するAcrp30g-2の効果を試験するために、少量のサンプル容量により血小板凝集のモニタリングを可能にする微量法を、(Walkowiakら、1997年)に記載されているとおり実施した。
【0283】
ヒトPRPを使用した血小板凝集に対するAcrp30g-2の効果を、400ng/mlの濃度で試験した。完全長Acrp30ではなく、Acrp30g-2が、ヒト血小板凝集を減少させた(図23)。その効果は、eNOS阻害剤であるL-NAMEによって抑制された。これらの試験管内アッセイにおける有効な治療用量は、動脈及び静脈血栓症の両方に保護が見られた生体内注射後に達成される範囲の中に存在する。
【0284】
実施例29:ECV304細胞株におけるAcrp30g-2誘発NO産生
序論
血栓形成は、損害を受けた内皮と、循環している血小板の間の異常な分子クロストークに伴って生じる。NO産生の刺激を通じた血小板凝集に対するAcrp30g-2の直接作用を実証した後に、ヒト内皮細胞に対するAcrp30g-2の効果を調査した。これを、培養培地中の硝酸塩及び亜硝酸塩レベルを計測することでNO産生を評価することによって実施した。Acrp30g-2誘発NO産生を、ECV304細胞株において計測した。ECV304細胞を、漸増用量のAcrp30g-2、又は同等なモル濃度の完全長Acrp30の存在下、37℃にて5分間、インキューベートした。
【0285】
方法
細胞を、0日目に蒔き、そして、80〜90%集密の2日目に使用した。細胞を、Acrp30g-2又は完全長Acrp30の存在下、又は不存在下、あらかじめ温めておいたフェノールレッド不含DMEM中でインキューベートした。一部の実験では、図25に関して記載のとおり、細胞を、Acrp30g-2の添加前にL-NAMEと一緒にプレインキューベートした。インキュベーション時間の後に、細胞を、氷上に置き、培地を回収し、そして、製造業者の指示に従い市販キットを使用して(Cayman Chemical)、硝酸塩及び亜硝酸塩の濃度に関してアッセイした。
【0286】
結果
図24Aは、培地中の硝酸塩と亜硝酸塩の形成として計測されるNO産生は、Acrp30g-2の存在下でインキューベートした細胞において用量依存的様式で有意に増強されたことを示している。これとは対照的に、完全長Acrp30はNO形成を増強しなかった。完全長Acrp30は、NO形成のわずかな減少すら引き起こしていた。Acrp30g-2によって刺激されたNO形成は、L-NAMEによって抑制された(図24B)。最大阻害は25μMのL-NAMEによって達成された。
【0287】
【化1】

【0288】
【化2】

【0289】
【化3】

【0290】
【化4】

【図面の簡単な説明】
【0291】
【図1】db/dbマウスにおいて眼窩後方の穿刺(ROP)又は断頭術のいずれかによって採取した血液量に対するAcrp30g-1とAcrp30g-2の効果を示す。
【図2】C57BL/6マウスにおけるAcrp30g-2を用いた急性皮下治療の抗凝集剤、及び/又は抗凝血剤活性を実証する。マウスに、100μg/kgのAcrp30g-2(+)が注射された。対照マウス(−)には、いかなる注射も与えなかった。ハウエル時間と多血小板血漿(PRP)が、実施例2に記載されているように計算された。A.この図は、ハウエル時間に対するAcrp30g-2注射の効果を示す。白抜きの棒が、負の対照に相当する。灰色の棒が、Acrp30g-2を注射したマウスに相当する。B.この図は、PRPに対するAcrp30g-2注射の効果を示す。白抜きの棒が、負の対照に相当する。灰色の棒が、Acrp30g-2を注射したマウスに相当する。
【図2C】C57BL/6マウスにおけるAcrp30g-2を用いた急性皮下治療の抗凝集剤、及び/又は抗凝血剤活性を実証する。マウスに、100μg/kgのAcrp30g-2(+)が注射された。対照マウス(−)には、いかなる注射も与えなかった。ハウエル時間と多血小板血漿(PRP)が、実施例2に記載されているように計算された。C.この図は、ハウエル時間に対するAcrp30g-2注射の漸増用量の効果を示す。
【図3】C57BL/6マウスにおけるハウエル時間に対するAcrp30g-2を用いた急性皮下治療の効果を示す。マウスには、生理食塩水溶液、Acrp30g-2、又はヘパリンを与えた。
【図4】C57BL/6マウスにおける尾部出血時間に対するAcrp30g-2を用いた2週間の治療の効果を示す。マウスには、高脂肪食(肥満)又は普通食(痩せ)のいずれかが与えられた。マウスには、100μg/kgのAcrp30g-2(+)又は生理食塩水溶液(−)が注射された。
【図5】以下の:A.トロンビン凝固時間(TCT);B.血小板数(PLT);及びC.フィブリノーゲン・レベル、に対するAcrp30g-2を用いた2週間の治療の有意な効果の欠落を示す。マウスには、Acrp30g-2(+)又は生理食塩水溶液(−)が注射された。
【図6】C57BL/6マウスにおける尾部出血時間に対する漸増用量のAcrp30g-2を含む単回皮下注射の効果を示す。「N」は、各用量について試験したマウスの数を示す。
【図7】試験管内における凝固時間に対する、Acrp30g-2(+)と共に軽度の肥満マウスからの多血小板血漿を補うことの効果を示す。対照は、生理食塩水溶液(−)を補った軽度の肥満マウスからの多血小板血漿に相当する。Acrp30g-2の添加後に、サンプルには、22mMのCa2+又は11mMのCa2+のいずれかが補充された。
【図8】コラーゲン(−)の尾静脈注射の後の、急性肺塞栓を患っている雌C57BL/6マウスの生存率を示す。500μg/kgのAcrp30g-2注射の効果もまた、示されている(+)。
【図9】肺塞栓症マウス・モデルにおける生存率とECG特性に対するAcrp30g-2の影響を示す。A.ペントバルビタール・ナトリウムで麻酔したマウス麻酔への375μg/kgのコラーゲン及び45μg/kgのエピネフリンの尾静脈注射の前、並びにその30、60、及び90秒後の典型的なECG特性。6種の遠位部の導出(distal derivations)、I、II、III、aVF、avR、及びavLが示されている。B.12匹のマウスから成る4つの群に、生理食塩水(白四角)、100(黒四角)、130(黒三角)、又は200(白三角)μg/kgのAcrp30g-2と共にIVが注射され、その5分後に、aに記載されているとおりにコラーゲン/エピネフリン抗原投与を行った。生存率は、各時点における生存固体の数として示される。C.200μg/kgのAcrp30g-2注射の30及び60秒後の生存個体のECG特性の導出II。代表的な二相性ピークは、実験の継続期間中には観察されなかった。
【図10】コラーゲンの尾静脈注射後の、急性肺塞栓を患っている雌C57BL/6マウスの生存率に対するAcrp30g-2注射の効果を示す。Acrp30g-2はコラーゲン抗原投与の3時間前に注射された。
【図11】コラーゲンの尾静脈注射後の、急性肺塞栓を患っている雌C57BL/6マウスの生存率に対するAcrp30g-2注射の効果を示す。200μg/kgのAcrp30g-2又は同量の生理食塩水溶液が、コラーゲン注射の30秒後に静脈内に注射された。
【図12】マウスにおける肺塞栓症の予防策又は治癒策としてのAcrp30g-2の効果を示す。A.マウスの5つの群に、生理食塩水(n=20、白四角)、400μg/kgのAcrp30g-2、(n=12、黒四角)、125IU/kg(n=12、黒三角)、又は500IU/kgのヘパリン(n=12、白三角)、又は400μg/kgのAcrp30g-2と500IU/kgのヘパリンの両方(n=8、◆)が注射された。ヘパリン及びAcrp30g-2は、それぞれ、コラーゲン及びエピネフリン抗原投与の5分前にIPに、及び30分前にIVに投与された。生存率が観察されて、そして、左のパネルに示されている。カプラン-マイヤー分析による低用量有効性の統計的試験が、右のパネルに示されている。B.図11Aに示したデータのカプラン-マイヤー分析。C.12匹のマウスから成る3つの群において、生理食塩水(白四角)、100(黒四角)、又は200(黒三角)μg/kgのAcrp30g-2が、コラーゲン/エピネフリン抗原投与の60秒後にIVに投与された。結果は、経時的な生存率(%)として示される。統計的な差は、χ2法を使用することで試験した。D.マウスには、コラーゲン/エピネフリン抗原投与の3時間前に、示された濃度のAcrp30g-2(各群n=10)がSCに注射された。
【図13】トロンビンのタンパク質分解活性に対するAcrp30g-2の効果を示す。トロンビンのタンパク質分解活性は、示されている濃度のAcrp30g-2又はヘパリンの不存在又は存在下、トロンビンによって引き起こされるフィブリノーゲンからのフィブリン形成として計測された。結果は、三重反復試験の測定の平均値±SEMとして示される。
【図14】血小板凝集に対するAcrp30g-2の効果を示す。A. 10μg/mLのコラーゲン及び1μg/mL(5.5μM)のエピネフリンによって誘発した血小板凝集が、Acrp30g-2の不存在下、又は400若しくは800μg/mlのAcrp30g-2の存在下、マウス多血小板血漿(PRP)において計測された。結果は、対照と比較した、2分から4分までの間で観察された血小板凝集の割合の平均値(%)として表現される。B-C.10μg/mLのコラーゲン、1μg/mLのエピネフリン、10μMのADP(d)によって誘発したヒト血小板凝集が、800μg/mLのAcrp30g-2の不存在下(白四角)又は存在下(黒四角)で計測された。D. 0.1U/mLのトロンビンによって誘発した洗浄ヒト血小板凝集が、800μg/mlのAcrp30g-2の不存在下(白四角)又は存在下(黒四角)、洗浄した血小板を使用して計測された。
【図15】トロンビンで誘発した血小板凝集に対する完全長のAcrp30の効果の不存在を示す。
【図16】異なった用量のトロンビンによって誘発した血小板凝集に対するAcrp30g-2の効果を示す。A.0.1U/mlのトロンビンが注射された。B.0.5U/mlのトロンビンが注射された。
【図17】Acrp30g-2がトロンビンの前に加えられた時の、トロンビンで誘発した血小板凝集に対するAcrp30g-2の効果を示す。
【図18】Acrp30g-2がトロンビンの後に加えられた時の、トロンビンで誘発した血小板凝集に対するAcrp30g-2の効果を示す。
【図19】トロンビンで誘発した血小板凝集に対するAcrp30g-2、ヘパリン、及びアスピリンの効果を比較する。
【図20】ヒト血漿中のAcrp30の15kDa球状頭部の同定を示す。A.ヒトAcrp30の球状頭部に対する、新規の構造依存性アフィニティー精製した抗体を使用した新鮮ヒト血漿における免疫沈降反応(IP)の溶出画分のウエスタンブロット。前記ウエスタンブロットは、実施例18で詳細に記載されているとおりに、Acrp30の球状頭部に対する抗体(レーン1)によって、又はAcrp30のコラーゲン・テールに対する抗体(レーン2)によって明らかになった。ヒト血漿におけるウエスタンブロットは、Acrp30の球状頭部に対する抗体(レーン3)によって、又はAcrp30のコラーゲン・テールに対する抗体(レーン4)によって明らかになった。B.Superdex 200 HR10-30条でのゲル濾過による組み換えAcrp30g-2の分子量測定。クロマトグラフィーは、PBSバッファー(30mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl、pH7.4)を用いたSuperdex 200 HR10-30カラム(GE-Healthcare)により0.5mL/分にて実施された(実施例18を参照のこと)。分子質量標準であるシトクロムc、ミオグロビン、カルボニック・アンヒドロラーゼ、及びウシ血清アルブミンは、それぞれ、1〜4の番号によって表される(●)。Acrp30g-2のデータ(○)は、矢印によって同様に示される。Acrp30g-2のクロマトグラムは、差し込み図に表されている。C.2つの対象:男性(レーン1)及び女性(レーン3と5)の新鮮ヒト血漿において、又は組み換えAcrp30g-2(レーン4と6)において実施されたIPの溶出画分のウエスタンブロット。組み換えAcrp30g-2は、また、IPなしにゲル上に直接添加された(レーン2)。ウエスタンブロットは、Acrp30の球状頭部に対する抗体(レーン1〜4)によって、又はAcrp30のコラーゲン・テールに対する抗体(レーン5と6)によって明らかになった。D.表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析特性(14500-18000質量-対-電荷比)を、凝固の前後のヒト全血(human all blood)中の組み換えAcrp30g-2をスパイクすることによって得た。アフィニティー精製した抗Acrp30g-2抗体が、Protein Chip Arrays上に共有結合により固定され、そして、10μg/mLの組み換えAcrp30g-2を含むヒト全血と一緒にインキューベートされた(実施例18を参照のこと)。(A)10μg/mLの組み換えAcrp30g-2が、新鮮ヒト血液中でスパイクされ、そして、凝固が起こらないようにEDTAによって防がれた。(B)10μg/mLの組み換えAcrp30g-2が新鮮ヒト血液中でスパイクされ、そして、37℃で30分間凝固をさせた。(C)10μg/mLの組み換えAcrp30g-2が、凝固が起こった後の新鮮ヒト全血、すなわち、血清の中でスパイクされた。組み換えAcrp30g-2の測定されたm/z比もまた、示される。
【図21】eNOS−/−マウスにおける、及びeNOS阻害剤であるNω-ニトロ-L-アルギニン・メチルエステル塩酸塩(L-NAME)であらかじめ処理された、又は処理されていないC57BI6/JマウスにおけるPE誘導後のAcrp30g-2の効果を示す。A. 生理食塩水溶液(n=6)又はAcrp30g-2(300μg/kg、1群あたりn=6)が、eNOS−/−マウスにおいてコラーゲン(375μg/kg)及びエピネフリン(45μg/kg)の注射によるPE誘導(t=0分)の5分前に静脈内(IV)に注射された。結果は、PEの誘導後の平均生存時間として表される。B. 図2のようにコラーゲン/エピネフリン抗原投与(t=0分)が実施される5分前に、1つのC57BI6/Jマウス群には生理食塩水溶液(n=9)が注射され、他の2つの群には300μg/kgのAcrp30g-2(n=9と10)が静脈内に注射された。Acrp30g-2(n=9)が与えられた1つのマウス群において、L-NAME(100mg/kg)もまた、PE誘導の1時間前にIPに注射された。結果は、PE誘導のt=10分後の生存率(%)として表される。
【図22】マウス動脈血栓症モデルに対するAcrp30g-2の効果を示す。麻酔したC57BI/6Jマウスの頚動脈が露出され、そして、血流量は、実験の間中、Transonic(登録商標)流量プローブで観察された。変化率が安定した(基礎)後に、3.75%のFeCl3が染み込んだ濾紙を適用することによって、血栓症が誘発された。血流量のる50%の減少が達成された時に、生理食塩水溶液(白四角、n=5)又は400μg/kgのAcrp30g-2(黒四角、n=6)が注射された。第3のマウス群において、100mg/kgのL-NAME(黒三角、n=3)が、動脈血栓症の誘導の1時間前にIPに注射された。結果は、生理食塩水、又はAcrp30g-2±L-NAMEの適用前、適用中、及び適用後に観察された平均血流量として発現される。全実験の間ずっと、頚動脈はFeCl3に晒されていた。
【図23】血小板凝集に対するAcrp30g-2と完全長Acrp30(fl-Acrp30)の効果を比較する。コラーゲンとエピネフリンで誘発した血小板凝集が、400μg/mlのAcrp30g-2(n=6)又は800μg/mlの完全長Acrp30(n=3)の存在下、又は不存在下(n=4)、ヒトPRPにおいて計測された。別の群(n=6)において、L-NAMEが、Acrp30g-2、コラーゲン、及びエピネフリンの添加10分前にPRPと共にプレインキュベートされた。結果は、コラーゲン/エピネフリン添加の5分後の平均血小板凝集率(%)として表される。
【図24】ECV304細胞におけるNO産生に対するAcrp30g-2の効果を示す。A.ECV304細胞は、漸増濃度のAcrp30g-2又はAcrp30(fl-Acrp30)の存在下、37℃で5分間、インキューベートされた。その後、細胞培地が回収され、そして、硝酸塩と亜硝酸塩の濃度が蛍光アッセイを使用して測定された。結果は、対照に対する割合の平均値(%)として表される。B.ECV304細胞は、0.2%のBSA及び漸増濃度のL-NAMEを含むPBS中、37℃で30分間、プレインキュベートされた。その後、Acrp30g-2(50μg/ml)が加えられ、それに続いて、37℃で2時間、インキュベーションされた。その後、細胞培地中の硝酸塩と亜硝酸塩レベルが測定された。結果は、L-NAMEの不存在下で得られた値の平均値(%)として表される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血栓症に関連する疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のためのAcrp30gポリペプチド又はその作動薬の使用。
【請求項2】
前記の血栓症に関連する疾患が、腫瘍の移植性転移、腫瘍の播種、及び転移から成る群から選択される疾患に関連する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記の血栓症に関連する疾患が、妊娠中の高血圧障害に関連する、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記Acrp30gポリペプチドが、以下の:
a)配列番号1の第114〜244アミノ酸を含むポリペプチド;
b)配列番号2を含むポリペプチド;
c)配列番号3を含むポリペプチド;
d)配列番号1の第106〜244アミノ酸を含むポリペプチド;
e)配列番号1の第79〜244アミノ酸を含むポリペプチド;
f)アミノ酸配列が(a)〜(e)の中の配列の少なくとも1つと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性をもつ(a)〜(e)のいずれかの突然変異タンパク質;
g)中程度ストリンジェント条件下、又は高いストリンジェント条件下、(a)〜(e)のいずれかをコードする天然DNA配列の相補鎖にハイブリダイズするDNA配列によってコードされる、(a)〜(e)のいずれかの突然変異タンパク質;
h)アミノ酸配列中のあらゆる変化が(a)〜(e)の中のアミノ酸配列に対する保存的なアミノ酸置換である(a)〜(e)のいずれかの突然変異タンパク質;
i)(a)〜(h)のいずれかの塩若しくは融合タンパク質、又は機能的誘導体、
から成る群から選択され、
ここで、上記Acrp30gポリペプチドが、配列番号1の第1〜70アミノ酸を含むことはなく;及び
ここで、上記Acrp30gポリペプチドが、抗凝血剤、及び/又は抗凝集剤活性を有する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記の血栓症に関連する疾患が、静脈血栓症に関連する疾患である、請求項1、2、又は4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記の静脈血栓症に関連する疾患が、深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、慢性静脈不全(CVI)、静脈血栓症、及び静脈炎後症候群から成る群から選択される、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記の血栓症に関連する疾患が、動脈血栓症に関連する疾患である、請求項1、2、又は4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記の動脈血栓症に関連する疾患が、冠状動脈血栓症、虚血性脳卒中、間欠性跛行症、及び心房細動から成る群から選択される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記の血栓症に関連する疾患が、動脈-静脈シャントの血栓症、汎発性血管内凝固、及び血栓形成傾向から成る群から選択される、請求項1、2、又は4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記腫瘍が、メラノーマ、白血病、リンパ腫、骨髄腫、及び癌腫から成る群から選択される、請求項2又は4に記載の使用。
【請求項11】
前記Acrp30gポリペプチドをペグ化する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記Acrp30gポリペプチドが、担体分子を含む融合タンパク質である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記Acrp30ポリペプチドが、免疫グロブリン(Ig)ドメインを含む融合タンパク質である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記医薬品が、同時の、連続した、又は別々の使用のための、前記Acrp30gポリペプチド又はその作動薬とは別の抗凝血剤、及び/又は抗凝集剤をを更に含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記医薬品が、同時の、連続した、又は別々の使用のための、線維素溶解薬を更に含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
前記医薬品が、同時の、連続した、又は別々の使用のための、癌治療用の薬物を更に含む、請求項2、4、又は10〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記Acrp30gポリペプチドを、約0.01〜10mg/kg体重、又は約0.05〜5mg/kg体重、又は約0.1〜1mg/kg体重、あるいは約9、8、7、6、5、4、3、2、又は1mg/kg体重の量で使用する、請求項1〜16のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公表番号】特表2009−502849(P2009−502849A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523282(P2008−523282)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063341
【国際公開番号】WO2007/014798
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(507348713)ラボラトワール セローノ ソシエテ アノニム (29)
【Fターム(参考)】