説明

血液の粘度測定方法及び装置

【課題】 血液の粘度測定を精度高くかつ短時間で行うことができる血液の粘度測定装置を提供する。
【解決手段】 この発明に係る血液の粘度測定装置1は、密度の異なる複数の略針状落体2と、筒状の測定容器3と、前記測定容器の上部側に固定されたランチャー4と、前記測定容器3内を落下する略針状落体2の落下終端速度又は落下加速度を検出する検出手段5とを備え、前記略針状落体2は、密度1.0以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、血液中に密度の異なる複数の落体を落下させてその落下終端速度又は落下加速度を測定することによって血液の粘度特性を測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の血液の粘度に関して非常に関心が高まっている。例えば、一般に「ドロドロ血液」では健康状態が良くない状態であるとされ、これを「サラサラ血液」にするために効果のある食品や成分の紹介が新聞やテレビ等で多く行われている。このような血液の粘度特性を把握することができれば、血液疾患の予測が可能になったり、病気を早期に発見することも可能になると言われている。
【0003】
従来、流体の粘度を測定する装置としては、流体を満たした円筒状容器内を落下する円柱状落体の落下終端速度を測定することにより流体の粘度を求める落体式粘度測定装置が公知である(特許文献1参照)。この落体式粘度測定装置は、密度の異なる複数の円柱状落体と、被測定物である流体中を落下する前記円柱状落体の落下終端速度Utを検出する検出手段と、円柱状落体が有する密度ρsと被測定物である流体が有する密度ρfとの密度差(ρs−ρf)と、円柱状落体の落下終端速度Utとを座標軸として各円柱状落体毎に得た座標の分布を満足する線分を求め、該線分に近似する流体の流動曲線から流体の種類を特定し、該流体に対応する構成方程式を用いて被測定物である流体の流動曲線を算出する演算手段とを備えている。前記円柱状落体としては、細円筒状のガラス管内に底部側から順に磁石、錘が収納された構成からなる落体が用いられている。
【0004】
この粘度測定装置によれば、被測定物である流体中に密度の異なる複数の円柱状落体を落下して各円柱状落体毎に落下終端速度Utを測定し、円柱状落体が有する密度ρsと被測定物である流体が有する密度ρfとの密度差(ρs−ρf)と、円柱状落体の落下終端速度Utとを座標軸として各円柱状落体毎に得た座標の分布を満足する線分を求め、該線分に近似する流体の流動曲線から流体の種類を特定して該流体の構成方程式を用いることにより被測定物である流体の粘度を求めることができる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−219973号公報(特許請求の範囲、段落0047、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の落体式粘度測定装置を用いて人の血液の粘度測定を試みた場合には次のような問題があった。即ち、円柱状落体の表面に血液の成分がこびり付きやすく、このために血液の粘度測定を精度高く行うことができないという問題があった。
【0006】
また、血液の粘度測定を行うためには人等の動物の体から血液を採取しなければならないが、体への負担を配慮してその採取量は極力少なくすることが求められ、従って血液の粘度を測定する装置としては少量の血液採取量でもって精度高く粘度測定できるものであることが望ましいのであるが、上記従来の落体式粘度測定装置では粘度測定には比較的多い量の試料液を必要とした。
【0007】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、血液の粘度測定を精度高くかつ短時間で行うことができる血液の粘度測定装置を提供することを第1の目的とする。
【0008】
また、この発明は、測定対象の血液量が少量であっても血液の粘度測定を精度高く行うことができる血液粘度測定装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0010】
[1]密度の異なる複数の略針状落体と、筒状の測定容器と、前記測定容器の上部側に固定されたランチャーと、前記測定容器内を落下する略針状落体の落下終端速度又は落下加速度を検出する検出手段とを備え、前記略針状落体は、密度1.0以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体からなることを特徴とする血液の粘度測定装置。
【0011】
[2]前記略針状体を構成する合成樹脂がオレフィン樹脂である前項1に記載の血液の粘度測定装置。
【0012】
[3]前記測定容器の底面の中心部に小孔が設けられ、この小孔の径は、前記略針状落体の外径より大きく且つ4mm以下の範囲に設定され、前記測定容器の下に該測定容器に連接して落体回収容器が配置されている前項1または2に記載の血液の粘度測定装置。
【0013】
[4]前記略針状落体中の錘として金属製の錘が用いられると共に、前記測定容器の外側における該測定容器の底面の小孔より低い位置に磁性体が配置され、該磁性体の磁気吸引力によって、前記小孔内に挿通される略針状落体に対して下方への落下を付勢し得るものとなされている前項3に記載の血液の粘度測定装置。
【0014】
[5]前記測定容器の底面は、その周縁側から中心部の小孔に向かって上から下に傾斜する傾斜面に形成されている前項3または4に記載の血液の粘度測定装置。
【0015】
[6]前記ランチャーは筒状に形成され、この筒状ランチャーの一部に1ないし複数の開口部が形成されている前項1〜5のいずれか1項に記載の血液の粘度測定装置。
【0016】
[7]前記略針状落体中の錘として金属製の錘が用いられる一方、前記ランチャーは筒状に形成され、この筒状ランチャーの長さは前記略針状落体の長さの2倍以上に設定されると共に、該筒状ランチャーの下方部の外側に一対の磁力発生部が上下方向に離間して配置されている前項1〜6のいずれか1項に記載の血液の粘度測定装置。
【0017】
[8]前記測定容器内を攪拌する攪拌部材を備えている前項1〜7のいずれか1項に記載の血液の粘度測定装置。
【0018】
[9]前記攪拌部材は、前記測定容器内に配置された攪拌部と、前記測定容器の外に配置された把持部と、該把持部と前記攪拌部とを繋ぐ連結部とを備えている前項8に記載の血液の粘度測定装置。
【0019】
[10]前記測定容器は恒温槽内に配置され、所定温度に制御された水等の液体が該恒温槽と前記測定容器との空間に送流されるものとなされている前項1〜9のいずれか1項に記載の血液の粘度測定装置。
【0020】
[11]血液を満たした筒状の測定容器内を落下する略針状落体の落下終端速度又は落下加速度を測定することにより血液の粘度を求める方法であって、前記略針状落体として、密度1.0以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体を用いることを特徴とする血液の粘度測定方法。
【0021】
[12]前記略針状体を構成する合成樹脂がオレフィン樹脂である前項11に記載の血液の粘度測定方法。
【発明の効果】
【0022】
[1]の発明では、密度の異なる複数の略針状落体と、筒状の測定容器と、前記測定容器の上部側に固定されたランチャーと、前記測定容器内を落下する略針状落体の落下終端速度又は落下加速度を検出する検出手段とを備えているから、密度の異なる複数の略針状落体について、血液を満たした測定容器内を落下する各落体の落下終端速度又は落下加速度を検出することによって血液の粘度を短時間で求めることができる。この時、略針状落体は、密度1.0以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体からなる構成であるので、略針状落体の表面に血液がこびり付くことがなく、従って血液の粘度測定を精度高く行うことができる。
【0023】
[2]の発明では、略針状体を構成する合成樹脂としてオレフィン樹脂が用いられているので、落体の表面への血液のこびり付きを確実に防止することができ、これにより血液の粘度測定の精度をさらに向上させることができる。
【0024】
[3]の発明では、小孔の径は4mm以下に設定されているから、血液が測定容器から落体回収容器内に流れ込むのを防止することができると共に、小孔の径は、略針状落体の外径より大きく設定されているから、小孔は略針状落体の通過を許容し、測定容器の下に該測定容器に連接して設けた落体回収容器に落体を回収することができる。このような落体回収容器を設けない構成では、落体の測定本数を増やすためには測定容器内にこれら落体を収容するためのスペースが必要となることにより必然的に測定容器の内容量を大きくして投入血液量を多くしなければならず、少量の血液採取量でもって粘度測定することは困難であるが、本構成を採用すれば、落体の測定本数を増やした場合でも、測定が終わった落体を順次落体回収容器内に回収できるので、少量の血液採取量でもって粘度測定することが可能となる。また、落体が測定容器から小孔を介して落体回収容器内に落ちると、落体回収容器内から落体の体積分の気体(空気等)が気泡となって小孔を介して測定容器内に入り込む。本構成では、このように測定容器の底面の小孔を落体が通過して落体回収容器に回収される毎に該小孔を介して気泡が浮上するものとなるが、このような気泡が測定容器内を浮上することで測定容器内の血液を攪拌することができ、これにより、時間の経過と共に血液が分離する傾向を阻止し得て再現性の良い精度高い粘度測定を可能にすることができる。また、落体回収容器内に洗浄液を入れておけば、落体の即時洗浄が可能となり、落体の再利用を図ることもできる。
【0025】
[4]の発明では、測定容器の外側における測定容器の底面の小孔より低い位置に配置された磁性体の磁気吸引力によって、小孔内に挿通された略針状落体に対して下方への落下を付勢することができ、これにより小孔内に略針状落体が停滞してしまうことを防止することができる。
【0026】
[5]の発明では、測定容器の底面は、その周縁側から中心部の小孔に向かって上から下に傾斜する傾斜面に形成されているので、測定容器内を落下してきた略針状落体を測定容器底面の小孔にスムーズに誘導案内することができる。
【0027】
[6]の発明では、ランチャーは筒状に形成されているから落体を筒状測定容器の中心軸に沿って落下させることができる。更に、筒状ランチャーの一部に1ないし複数の開口部が形成されているから、筒状ランチャー内を略針状落体が落下する際に血液がこの開口部からランチャー外に出て行くものとなることでランチャー内を略針状落体が落下する際の抵抗を低減することができ、ランチャー内を略針状落体が通過する時間を短縮でき、これにより粘度測定に要する時間を短縮することができる。
【0028】
[7]の発明では、ランチャーは筒状に形成されているから落体を筒状測定容器の中心軸に沿って落下させることができる。また、筒状ランチャーに略針状落体を2以上の複数個装填することができるのであるが、この時、一対の磁力発生部の磁界発生を制御することにより、即ち例えば一対の磁力発生部のうち一方の磁力発生部が磁界を発生した場合に他方の磁力発生部は磁界を発生しない状態に切り替えることにより、筒状ランチャー内に装填された複数個の略針状落体を粘度測定の進行状況に合わせて順次測定容器内に落下せしめることができる。このように筒状ランチャー内に装填された複数個の略針状落体を(手で順次投下するのではなく)連続的に自動投下できる制御システムを構築できるので、血液の粘度測定に要する時間を大幅に短縮できる利点がある。
【0029】
[8]の発明では、攪拌部材によって測定容器内を攪拌することができる。従って、例えば1つの落体を落下させて落体の落下終端速度又は落下加速度を測定した後、次の落体を落下させる前に該攪拌部材によって測定容器内を攪拌することによって、時間の経過と共に血液が分離する傾向を阻止し得て再現性の良い精度高い粘度測定をすることができる。
【0030】
[9]の発明では、攪拌部材は、測定容器内に配置された攪拌部と、測定容器の外に配置された把持部と、該把持部と攪拌部とを繋ぐ連結部とを備えているから、この把持部を手等によって上下に動かす操作を行うだけでこれに伴う攪拌部の上下移動によって測定容器内の血液を十分に攪拌することができ、このように簡単な操作で測定容器内の血液の攪拌を十分に行うことができる利点がある。
【0031】
[10]の発明では、測定容器は恒温槽内に配置され、所定温度に制御された水等の液体が該恒温槽と前記測定容器との空間に送流されるものとなされているから、一定の温度条件の中での血液の粘度測定が可能になる。
【0032】
[11]の発明(測定方法)によれば、血液を満たした測定容器内を落下させる略針状落体として、密度1.0以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体を用いるので、略針状落体の表面に血液がこびり付くことがなく、従って血液の粘度測定を精度高く行うことができる。
【0033】
[12]の発明では、略針状体を構成する合成樹脂としてオレフィン樹脂が用いられているので、落体の表面への血液のこびり付きを確実に防止することができ、これにより血液の粘度測定の精度をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
この発明に係る血液粘度測定装置(1)の一実施形態を図1〜3に示す。図1において、(2)は略針状落体、(10)は装置本体部である。
【0035】
前記略針状落体(2)は、密度1.0以上の錘(12)を中に封入した合成樹脂製の略針状体(11)からなる。本実施形態では、図2に示すように、有底筒状の合成樹脂製の略針状体(11)の内部に密度1.0以上の金属製の錘(12)が配置されると共に略針状体(11)の上部開口端にキャップ(13)が嵌合されてなる略針状落体(2)が用いられている。
【0036】
前記装置本体部(10)は、図1に示すように、測定容器(3)と、ランチャー(4)と、検出手段(5)とを備えている。
【0037】
前記測定容器(3)は有底筒状の容器からなる。この測定容器(3)の底面の中心部に小孔(24)が形成され、該測定容器(3)の底面は、その周縁部から中心部の小孔(24)に向かって上から下に傾斜する傾斜面(25)に形成されている(図1参照)。前記小孔(24)の径は、前記略針状落体(2)の外径より大きく設定され、且つ4mm以下に設定されている。このように小孔(24)の径が4mm以下に設定されることで前記測定容器(3)内にある血液がこの小孔(24)を通過して下に落ちてしまうのを効果的に防止することができる。
【0038】
前記測定容器(3)の下に該測定容器(3)に連接して筒状の落体回収容器(6)が配置されている。前記落体回収容器(6)の下端は、外形形状が略直方体形状の土台部(17)の上面中央部に設けられた筒状突起部(17a)に外嵌め状態に嵌合されており、こうして土台部(17)の上に筒状の落体回収容器(6)が立設され、該落体回収容器(6)の上端部からさらに上方に向けて筒状測定容器(3)が延設されている。更に、前記落体回収容器(6)および測定容器(3)の外周を取り囲む態様でこれら(6)(3)と離間状態に筒状の恒温槽(8)が配置され、この恒温槽(8)の下端は前記土台部(17)の上面中央部に設けられた嵌合孔に内嵌め状態に嵌合固定されている。
【0039】
前記測定容器(3)の上端には略盤状の蓋体(18)が取付固定されており、該蓋体(18)によって前記測定容器(3)の上端および前記恒温槽(8)の上端が封止されている。前記蓋体(18)の中心部には取付穴が形成され、該取付穴に筒状のランチャー(4)が挿通固定されている。このランチャー(4)は、落下する落体(2)が測定容器(3)の中心軸に沿って垂直落下するように誘導するための部材であり、ランチャー(4)の内径は、略針状落体(2)の通過を許容する大きさに設定されている。
【0040】
前記恒温槽(8)の上端側には排水口(22)が設けられている。また前記土台部(17)の側面には導水口(21)が設けられ、この導水口(21)は、前記土台部(17)の上面中央部の嵌合孔に連通している。しかして、前記土台部(17)の側面の導水口(21)に供給された水等の液体は、前記恒温槽(8)と前記落体回収容器(6)の間の隙間、さらに前記恒温槽(8)と前記測定容器(3)の間の隙間を順次通過した後、前記排水口(22)から出て恒温制御ユニット部(図示しない)に戻る。この恒温制御ユニット部では、加熱装置等により水等の液体を一定温度に制御する。前記恒温制御ユニット部に戻された水等の液体は、ここで所定温度に調整された後、再び前記土台部(17)の側面の導水口(21)に供給されて、これらの間を順に循環することによって前記測定容器(3)内の血液の温度を一定温度に保つことができる。
【0041】
前記蓋体(18)には、上下方向に貫通する貫通孔(20)が設けられている。これにより前記測定容器(3)の内部空間と外部大気とが該貫通孔(20)を介して連通された状態となるから、落体(2)がランチャー(4)内を通過する際に測定容器(3)内の上部空間に存在する空気等の気体を前記貫通孔(20)を介して外部大気に逃がすことができ、これにより落体(2)がランチャー(4)内を通過する際の抵抗を低減することができ、ランチャー(4)内において落体(2)をスムーズに落下させることができる。
【0042】
前記ランチャー(4)の下端側には複数の開口部(23)…が形成されている。本実施形態では、軸線方向が上下方向に沿うスリット形状の開口部(23)…が形成されている(図3参照)。なお、ランチャー(4)に設けられる開口部(23)は、図4(イ)に示すように複数個の小穴形状に形成されていても良いし、或いは図4(ロ)に示すように軸線方向が上下方向に沿うスリット状の切欠き部に形成されていても良い。
【0043】
前記測定容器(3)の内部には攪拌部材(7)が配置されている。この攪拌部材(7)は、測定容器(3)内に配置された攪拌部(14)と、測定容器(3)の外に配置された把持部(15)と、該把持部(15)と前記攪拌部(14)とを繋ぐ連結部(16)とを備えてなる。前記攪拌部(14)はスプリング状(ばね状)に形成されている。前記把持部(15)を手などによって上下に動かす操作を行うだけでこれに伴う攪拌部(14)の上下移動によって測定容器(3)内の血液を十分に攪拌することができる。なお、落体(2)の落下時には、図5に示すように、前記スプリング状の攪拌部(14)を上昇移動して前記ランチャー(4)の下端部と前記測定容器(3)の間の環状スペースに収納した状態に配置せしめる。これにより、攪拌部(14)が存在することによる粘度測定への影響を防止することができ、精度高い粘度測定を行うことができる。
【0044】
前記測定容器(3)の外側、即ち前記恒温槽(8)の外側における前記測定容器(3)の底面の小孔(24)より低い位置に磁性体(30)が配置されている(図1参照)。このような磁性体(30)を配置することで、磁性体(30)の磁気吸引力によって、前記小孔(24)内に挿通された落体(2)に対して下方への落下を付勢することができるので、測定容器(3)底面の小孔(24)内に落体(2)が停滞してしまうことを効果的に防止することができる。
【0045】
前記測定容器(3)の長手方向(高さ方向)の中間部の外側に、該測定容器(3)内を落下する略針状落体(2)の落下終端速度を検出する検出手段(5)が配置されている。本実施形態では、検出手段(5)として一対の磁気センサー(5A)(5B)及び計測装置(5C)が用いられている。即ち、上側の磁気センサー(5A)は測定容器(3)の高さの二等分位置またはその近傍位置に配置される一方、下側の磁気センサー(5B)は前記上側の磁気センサー(5A)より下の位置で且つ上側の磁気センサー(5A)と所定間隔をあけて配置されている(図1参照)。また前記計測装置(5C)は、上側の磁気センサー(5A)からの検知信号を受けた後、下側の磁気センサー(5B)からの検知信号を受けるまでの時間を計測する装置である。この計測装置(5C)により、落体(2)が上側の磁気センサー(5A)から下側の磁気センサー(5B)の位置まで落下するのに要した時間を各落体(2)毎に得ることができる。
【0046】
しかして、上記構成からなる血液粘度測定装置(1)を用いた血液の粘度測定方法の一例について説明する。まず、恒温槽(8)に連結されている恒温制御ユニット部を運転状態とし、この恒温槽(8)内に所定温度に調整された水等の液体を流す。なお、攪拌部材(7)の攪拌部(14)を上昇移動させてランチャー(4)の下端部と測定容器(3)の間の環状スペースに攪拌部(14)を収納した状態としておく(図5参照)。
【0047】
次に、血液を採取し、採取した血液を速やかに測定容器(3)内に投入する。この時、図5に示すように、投入血液(60)の上面がランチャー(4)の下端部にかかる程度まで満たすのが望ましい。なお、本実施形態では、測定容器(3)の下の落体回収容器(6)の内部空間には空気(61)が存在している。採取した血液は約200〜240秒程度で凝固し始めるので以下の操作は極力速やかに行う。
【0048】
次いで、ランチャー(4)内に略針状落体(2)を投入して測定容器(3)内に略針状落体(2)を落下せしめる。この時、ランチャー(4)を介して投入するので、落体(29)を筒状測定容器(3)の中心軸に沿って落下させることができる(図5参照)。落体(2)が上側の磁気センサー(5A)を通過した時に、計測装置(5C)は上側の磁気センサー(5A)からの検知信号を受け、その後落体(2)が下側の磁気センサー(5B)を通過した時に、計測装置(5C)は下側の磁気センサー(5B)からの検知信号を受け、これらにより、計測装置(5C)は、落体(2)が上側の磁気センサー(5A)から下側の磁気センサー(5B)の位置まで落下するのに要した時間を算出する。
【0049】
前記落体(2)は、さらに測定容器(3)内を落下し、測定容器(3)の底面の小孔(24)に到達する。この時、測定容器(3)の底面は、その周縁部から小孔(24)に向かって上から下に傾斜する傾斜面に形成されているから、落体(2)の下端はスムーズに小孔(24)内に誘導案内される。
【0050】
前記小孔(24)内に進入した落体(2)は、磁性体(30)の磁気吸引力によって下方への落下を付勢されるので、落体(2)は小孔(24)内をスムーズに落下して落体回収容器(6)内に落下する(図5参照)。これで1本目の落体(2)についての操作が完了する。
【0051】
なお、落体(2)が小孔(24)を通過して落体回収容器(6)内に回収された際に落体(2)の体積分の気泡(空気の気泡)が小孔(24)を介して浮上するが、このような気泡が測定容器(3)内を浮上することで測定容器(3)内の血液(60)が攪拌される。この時の浮上する気泡の大きさは、測定容器(3)底面の傾斜面(25)の傾斜角度によって調整することが可能である。
【0052】
次に、攪拌部材(7)の把持部(15)を手で持って上下に動かすことによって攪拌部材(7)の攪拌部(14)を下降移動せしめた後、上昇移動させて再びランチャー(4)の下端部と測定容器(3)の間の環状スペースに収納した状態とする(図5参照)。このように測定容器(3)内で攪拌部(14)を上下移動せしめることによって測定容器(3)内の血液(60)をさらに攪拌する。
【0053】
次いで、1本目の略針状落体とは密度の異なる別の略針状落体(2本目の略針状落体)をランチャー(4)内に投入して測定容器(3)内に略針状落体(2)を落下せしめる。以下、前記同様にして、計測装置(5C)により、落体(2)が上側の磁気センサー(5A)から下側の磁気センサー(5B)の位置まで落下するのに要した時間が算出される。また落体(2)は小孔(24)内をスムーズに落下して落体回収容器(6)内に落下する(図5参照)。これで2本目の落体(2)についての操作が完了する。
【0054】
以下、3本目以上の略針状落体(2)についても同様にして落体(2)が上側の磁気センサー(5A)から下側の磁気センサー(5B)の位置まで落下するのに要した時間を算出する。こうして、落体(2)が上側の磁気センサー(5A)から下側の磁気センサー(5B)の位置まで落下するのに要した時間を各落体(2)毎に求める。求められた時間から各落体(2)の落下終端速度Utを算出する。即ち、相互に密度の異なる複数の落体(2)の落下終端速度Utをそれぞれ算出する。
【0055】
次に、前記得られた各落体(2)の落下終端速度Utを用いて粘度特性を求める方法について説明する。
【0056】
図8は、略針状落体(2)が落下している時の状態を示す概念図であり、図9は、落下する略針状落体(2)が押し退ける流体(血液)の移動方向を示す速度断面図である。これら図8、図9において、「L」は略針状落体(2)の長さ、「kR」は略針状落体(2)の半径、「R」は円筒状測定容器(3)の半径であり、また(50)は落下する落体により押し退けられる落体周囲の流体要素としての微小円柱殻であり、「r」は微小円柱殻の内半径、「r+dr」は微小円柱殻の外半径、「L」は微小円柱殻の長さである。
【0057】
略針状落体(2)の落下速度が0.1×10-3m/s〜0.18m/sと非常に小さく、流体(血液)と落体の間および流体(血液)と測定容器内壁面の間には滑りが発生せず、流体(血液)は非圧縮性であり、管内流動は層流であるという条件(仮定)の下で、円筒状測定容器(3)に満たされた流体(血液)の中央を略針状落体(2)が落下終端速度Utで落下すると、図8に示すように、微小円柱殻(50)の上面及び下面にはそれぞれ圧力p1、p2が働き、内側面及び外側面にはそれぞれ剪断応力τ、τ+dτが働く。また、流体(血液)は等速落下運動をしているので、運動量増加速度は0となる。従って、このときの微小円柱殻(50)に働く力の釣り合いから以下の関係式<1>が成り立つ。
【0058】
【数1】

【0059】
但し、△p=p1−p2 (△p<0)である。
【0060】
また、このとき、図2に示すように、落体(2)の壁面と測定容器(3)の内壁面には滑りが生じないと仮定しているので、速度に関する境界条件として以下の関係式<2>が成り立つ。
【0061】
【数2】

【0062】
また、落体(2)の壁面と測定容器(3)の内壁面との間に形成される環状流路を単位時間当たりに通過する流体(血液)の量は落体(2)が押し退ける流体(血液)の量と等しいので、以下の関係式<3>が成り立つ。
【0063】
【数3】

【0064】
さらに、落体(2)の壁面において、重力、浮力、圧力及び粘性力が釣り合っているので、以下の関係式<4>が成り立つ。
【0065】
【数4】

【0066】
以上の式<1>〜<4>に、流体(血液)の構成方程式(Newton流体の構成方程式)である式<5>を連立させることによって、流体(血液)の粘度、剪断速度、剪断応力等の流動特性を解析することができる。
【0067】
【数5】

【0068】
なお、式<5>において、τは剪断応力、γ(ガンマ)は剪断速度、μ(ミュー)は流体(血液)の粘度である。
【0069】
解析手順について詳述すると、まず、前記相互に密度の異なる複数の落体(2)毎に算出された落下終端速度UtをX軸、密度差(ρs−ρf)をY軸としてプロットして、(Ut)−(ρs−ρf)線分を得る。なお、「ρs」は略針状落体の密度であり、「ρf」は流体(血液)の密度である。この(Ut)−(ρs−ρf)線分と流体の流動曲線とは相似性を有することから、(Ut)−(ρs−ρf)線分が原点(0,0)を通れば、Newton流体、Pseudoplastic流体またはDilatant流体であると判別できる。
【0070】
ここで、流動指数nの値を知るために、Power Law流体の構成方程式
τ=Kγn
を前記式<1>と式<4>にそれぞれ代入し、
【0071】
【数6】

【0072】
【数7】

【0073】
式<6>及び式<7>を得る。次いで、式<6>を無次元化し、簡単にして式<7>に代入すると、
【0074】
【数8】

【0075】
式<8>が得られ、(ρs−ρf)とUtとの関係が示される。但し、C1は積分定数である。
【0076】
次に、流動指数nの意味を明確にするために、式<8>の両辺の対数をとると、
【0077】
【数9】

【0078】
式<9>になる。式<9>より明らかなように、流動指数nはlog(Ut)をX軸、log(ρs−ρf)をY軸として得た直線の勾配を表しているので、落下終端速度Utと密度差(ρs−ρf)との対数をとり、落下終端速度Utの対数と密度差(ρs−ρf)の対数とを座標軸とする線分の勾配を調べることにより、流体の種類を明確に判別することができる。即ち、原点(0,0)を通り、且つ勾配が1であれば、Newton流体であると特定できる。血液は、凝固する前の状態であれば、Newton流体である。しかして、式<1>〜<4>にNewton流体の構成方程式である式<5>を連立させることによって、流体(血液)の流動曲線を得ることができ、粘度、剪断速度、剪断応力等の流動特性を解析することができる。
【0079】
なお、前記「落下終端速度」とは、流体中を等速度落下運動をしているときの速度のことである。また、落下終端速度Utと密度差(ρs−ρf)とを座標軸とする第1の線分が原点(0,0)を通るか否かは、該第1の線分を表す関数の定数項が0であるものの他、計算上の誤差を見越して、−0.07≦(定数項)≦0.07を満足するものも原点(0,0)を通ると判断するのが良い。これは多数の実験結果から統計的に得られたものである。更に、第1の線分がほぼ原点を通り、落下終端速度Utの対数と密度差(ρs−ρf)の対数とを座標軸とする第2の線分がほぼ直線である場合に、該第2の線分の勾配nが1である場合にはNewton流体であると判断できる。この時、勾配nが0.95≦n≦1.05を満足すればNewton流体であると特定するのが良い。これは、多数のNewton流体について検討した結果、統計的に、勾配nが0.95≦n≦1.05を満足すればNewton流体であるとして特定できるという結果に基づいている。
【0080】
次に、この発明に係る血液粘度測定装置(1)の他の実施形態を図6に示す。本実施形態では、筒状ランチャー(4)の長さが前記実施形態のものよりも長く設定されており、この筒状ランチャー(4)の中に4本の略針状落体(2)(2)(2)(2)が装填配置されていると共に、筒状ランチャー(4)の下方部の外側に一対の磁力発生部(31)(32)が上下方向に離間して配置されている。本実施形態では、これら一対の磁力発生部(31)(32)は、一方の磁力発生部が磁界を発生した場合に他方の磁力発生部は磁界を発生しない状態に切り替え可能となされている。具体的には、図7に示すように、上側の磁力発生部(31)は、鉄芯(41)の周囲に金属コイルが捲回されたものからなり、下側の磁力発生部(32)は、棒状の永久磁石(42)の周囲に金属コイルが捲回されたものからなり、これらコイルが直流電源(DC)(43)に接続配線されると共に、配線の途中にスイッチ(44)が設けられた構成が採用されており、該スイッチ(44)のON、OFFを切り替えることにより、一方の磁力発生部が磁界を発生した場合に他方の磁力発生部は磁界を発生しない状態に切り替えることができる。なお、これら以外の構成は、前記図1〜3に示す実施形態と同様であるのでその説明は省略する。
【0081】
図6に示す状態では、下側の磁力発生部(32)は磁界を発生した状態にあり、上側の磁力発生部(31)は磁界を発生しない状態になっており、下側の磁力発生部(32)から発せられる磁気吸引力によって最下側の略針状落体(2A)の落下が阻止されている。この状態からスイッチ等による切り替え操作により、上側の磁力発生部(31)は磁界を発生し、下側の磁力発生部(32)は磁界を発生しない状態に設定すると、ランチャー(4)内の最下側の略針状落体(2A)が落下する一方、その直上の略針状落体(2B)は上側の磁力発生部(31)から発せられる磁気吸引力によって落下が阻止された状態となる。しかる後、再びスイッチ等による切り替え操作を行って下側の磁力発生部(32)は磁界を発生した状態に、上側の磁力発生部(31)は磁界を発生しない状態に戻すと、略針状落体(2B)は下側の磁力発生部(32)の高さまで落下して停止し、その直上位置に略針状落体(2C)(2D)が順次載置された状態となる(落下スタンバイ状態となる)。
【0082】
しかして、最下側の略針状落体(2A)の測定が終了した後に、上側の磁力発生部(31)は磁界を発生し、下側の磁力発生部(32)は磁界を発生しない状態に設定すると、ランチャー(4)内の略針状落体(2B)が落下する一方、その直上の略針状落体(2C)は上側の磁力発生部(31)から発せられる磁気吸引力によって落下が阻止された状態となる。しかる後、再びスイッチ等による切り替え操作を行って下側の磁力発生部(32)は磁界を発生した状態に、上側の磁力発生部(31)は磁界を発生しない状態に戻すと、略針状落体(2C)は下側の磁力発生部(32)の高さまで落下して停止し、その直上位置に略針状落体(2D)が載置された状態となる(落下スタンバイ状態となる)。
【0083】
しかして、略針状落体(2B)の測定が終了した後に、上側の磁力発生部(31)は磁界を発生し、下側の磁力発生部(32)は磁界を発生しない状態に切替設定すると、ランチャー(4)内の略針状落体(2C)が落下する一方、その直上の略針状落体(2D)は上側の磁力発生部(31)から発せられる磁気吸引力によって落下が阻止された状態となる。しかる後、再びスイッチ等による切り替え操作を行って下側の磁力発生部(32)は磁界を発生した状態に、上側の磁力発生部(31)は磁界を発生しない状態に戻すと、略針状落体(2D)は下側の磁力発生部(32)の高さまで落下して停止して落下スタンバイ状態となる。
【0084】
次いで、略針状落体(2C)の測定が終了した後に、上側の磁力発生部(31)は磁界を発生し、下側の磁力発生部(32)は磁界を発生しない状態に設定すると、ランチャー(4)内の略針状落体(2D)が落下する。本実施形態の装置では、このようにして、筒状ランチャー(4)内に装填した4本の略針状落体(2A)(2B)(2C)(2D)を連続的に自動投下することができるので、血液の粘度測定に要する時間を短縮できる利点がある。
【0085】
この発明において、前記略針状体(11)を構成する合成樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。なお、合成樹脂からなる略針状体(11)の表面に、気泡が付着するのを防止するためのコーティング層が形成されても良い。このような気泡付着防止コーティング層としては、例えば親水性コーティング層を例示できる。
【0086】
また、前記密度1.0以上の錘(12)としては、密度が1.0以上の材料からなるものであればその材質は特に限定されないが、金属製の錘が好適である。また、前記錘(12)は、塊状、粒体、粉体等どのような形態であっても良い。このような錘(12)の封入量を変えることで密度の異なる略針状落体(2)を製作することができる。血液の粘度測定を行うには、密度0.7〜2.0g/cm3の範囲で密度の異なる複数個の略針状落体(2)を用いるのが好ましい。また、前記錘(12)は、略針状体(11)の下方部に封入されるのが好ましく、この場合には落体(2)の重心が低くなるので、落下挙動が安定するという効果が得られる。
【0087】
前記略針状落体(2)の大きさとしては、特に限定されないものの、より少量の血液量での粘度測定を可能にすると共に粘度測定の精度を向上させる観点から、外径(m1、m2)が0.5〜3mm、長さ(h)が5〜100mmの範囲に設定されるのが好ましい。図2において、m1=m2、m1>m2、m1<m2、いずれの関係が成立する構成でも良い。なお、前記略針状落体(2)の密度とは、見かけ密度を意味するものであり、落体(2)の質量を落体の体積(空隙部を含めた体積)で除した値である。
【0088】
なお、前記実施形態では、検出手段(5)として、一対の磁気センサー(5A)(5B)及び計測装置(5C)が用いられているが、特にこのような構成のものに限定されるものではなく、落下する略針状落体(2)の落下終端速度を検出できる手段であればどのようなものでも良い。
【0089】
また、前記実施形態では、各略針状落体(2)の落下終端速度を測定することにより血液の粘度を求めているが、これに代えて各略針状落体(2)の落下加速度を測定することにより血液の粘度を求めるようにしても良い。このような落体(2)の落下加速度を測定する検出手段(5)としては、上下に離間して配置された3つの磁気センサー及び計測装置からなる構成が挙げられる。
【0090】
また、前記実施形態では、落体回収容器(6)の内部空間に空気(61)が存在する態様が採用されているが、これに代えて窒素ガス等の不活性ガスを落体回収容器(6)内に封入せしめた構成を採用しても良い。この場合には、落体(2)が落体回収容器(6)内に回収される毎に小孔(24)を介して不活性ガスの気泡が測定容器(3)内を浮上することによって血液を攪拌するものとなるので、測定容器(3)内の血液の変質を効果的に防止できると共に血液凝固までの時間も延ばすことができる。
【実施例】
【0091】
次に、この発明の具体的実施例について説明する。
【0092】
<実施例1>
45歳の男性から血液を採取し(以下、この血液を「血液X」と言う)、図1に示す構成からなる血液粘度測定装置(1)を用いて前項で説明した手順に従って血液の粘度測定を行った。採取した血液の密度は1.054g/cm3であった。測定容器(3)の内径は8mm、長さは90mmであり、測定容器(3)の内容量は約3mLであった。略針状落体(2)の長さ(L)は20mm、上方側の外径(m1)は2.0mm、下方側の外径(m2)は1.8mmであった。測定容器(3)内の血液(60)が37.0℃になるように恒温槽(8)を制御して測定を行った。また、密度の異なる複数の略針状落体(2)として、密度1.130、1.165、1.212、1.260、1.280、1.314、1.330、1.397g/cm3の8種類の略針状落体を使用した。各落体(2)が上側の磁気センサー(5A)から下側の磁気センサー(5B)の位置まで落下するのに要した時間と、これより求められた各落体(2)の落下終端速度Utを表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
表1に示すデータに基づき、落下終端速度Utと密度差(ρs−ρf)とを座標軸としてプロットし(図10参照)、(Ut)−(ρs−ρf)線分を表す関数を算出した結果、(ρs−ρf)=1×10-6(Ut)2+1.93×10-2(Ut)−4×10-4となり、定数項は−0.0004であった。−0.0004は−0.07≦(定数項)≦0.07を満足することから、この定数項の値と線分の形状から、血液XがNewton流体であることを確認し得た。
【0095】
更に、落下終端速度Utの対数と密度差(ρs−ρf)の対数をとった結果を表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
表2に示すデータに基づき、落下終端速度の対数ln(Ut)と密度差の対数ln(ρs−ρf)とを座標軸としてプロットし(図11参照)、(Ut)−(ρs−ρf)対数線分を表す関数を算出した結果、ln(ρs−ρf)=1.01ln(Ut)+7.58となり、その勾配nの値は1.01で、0.95≦n≦1.05を満足することから、血液Xが確実にNewton流体であることを確認した。
【0098】
式<1>〜式<4>の4式とNewton流体の構成方程式<5>とを連立させて血液の粘度μを算出し、血液Xの流動曲線を得た(図12参照)。この血液Xの流動曲線は、τ=0.00463γであった。従って、血液Xの粘度μは4.63mPa・secであった。
【0099】
<実施例2>
24歳の男性から血液を採取し(以下、この血液を「血液Y」と言う)、図1に示す構成からなる血液粘度測定装置(1)を用いて前項で説明した手順に従って血液の粘度測定を行った。採取した血液の密度は1.055g/cm3であった。測定容器(3)の内径は8mm、長さは90mmであり、測定容器(3)の内容量は約3mLであった。略針状落体(2)の長さ(L)は20mm、上方側の外径(m1)は2.0mm、下方側の外径(m2)は1.8mmであった。測定容器(3)内の血液(60)が37.0℃になるように恒温槽(8)を制御して測定を行った。また、密度の異なる複数の略針状落体(2)として、密度1.130、1.138、1.165、1.212、1.260、1.290、1.314、1.330g/cm3の8種類の略針状落体を使用した。各落体(2)が上側の磁気センサー(5A)から下側の磁気センサー(5B)の位置まで落下するのに要した時間と、これより求められた各落体(2)の落下終端速度Utを表3に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
表3に示すデータに基づき、落下終端速度Utと密度差(ρs−ρf)とを座標軸としてプロットし(図13参照)、(Ut)−(ρs−ρf)線分を表す関数を算出した結果、(ρs−ρf)=−1×10-4(Ut)2+2.07×10-2(Ut)−8.7×10-3となり、定数項は−0.0087であった。−0.0087は−0.07≦(定数項)≦0.07を満足することから、この定数項の値と線分の形状から、血液YがNewton流体であることを確認し得た。
【0102】
更に、落下終端速度Utの対数と密度差(ρs−ρf)の対数をとった結果を表4に示す。
【0103】
【表4】

【0104】
表4に示すデータに基づき、落下終端速度の対数ln(Ut)と密度差の対数ln(ρs−ρf)とを座標軸としてプロットし(図14参照)、(Ut)−(ρs−ρf)対数線分を表す関数を算出した結果、ln(ρs−ρf)=1.02ln(Ut)+7.57となり、その勾配nの値は1.02で、0.95≦n≦1.05を満足することから、血液Yが確実にNewton流体であることを確認した。
【0105】
式<1>〜式<4>の4式とNewton流体の構成方程式<5>とを連立させて血液の粘度μを算出し、血液Yの流動曲線を得た(図15参照)。この血液Yの流動曲線は、τ=0.00450γであった。従って、血液Yの粘度μは4.50mPa・secであった。
【0106】
<実施例3>
23歳の男性から血液を採取し(以下、この血液を「血液Z」と言う)、図1に示す構成からなる血液粘度測定装置(1)を用いて前項で説明した手順に従って血液の粘度測定を行った。採取した血液の密度は1.058g/cm3であった。測定容器(3)の内径は8mm、長さは90mmであり、測定容器(3)の内容量は約3mLであった。略針状落体(2)の長さ(L)は20mm、上方側の外径(m1)は2.0mm、下方側の外径(m2)は1.8mmであった。測定容器(3)内の血液(60)が37.0℃になるように恒温槽(8)を制御して測定を行った。また、密度の異なる複数の略針状落体(2)として、密度1.078、1.130、1.170、1.212、1.260、1.290、1.330、1.365g/cm3の8種類の略針状落体を使用した。各落体(2)が上側の磁気センサー(5A)から下側の磁気センサー(5B)の位置まで落下するのに要した時間と、これより求められた各落体(2)の落下終端速度Utを表5に示す。
【0107】
【表5】

【0108】
表5に示すデータに基づき、落下終端速度Utと密度差(ρs−ρf)とを座標軸としてプロットし(図16参照)、(Ut)−(ρs−ρf)線分を表す関数を算出した結果、(ρs−ρf)=7.0×10-5(Ut)2+1.96×10-2(Ut)+2.6×10-3となり、定数項は0.0026であった。0.0026は−0.07≦(定数項)≦0.07を満足することから、この定数項の値と線分の形状から、血液ZがNewton流体であることを確認し得た。
【0109】
更に、落下終端速度Utの対数と密度差(ρs−ρf)の対数をとった結果を表6に示す。
【0110】
【表6】

【0111】
表6に示すデータに基づき、落下終端速度の対数ln(Ut)と密度差の対数ln(ρs−ρf)とを座標軸としてプロットし(図17参照)、(Ut)−(ρs−ρf)対数線分を表す関数を算出した結果、ln(ρs−ρf)=1.00ln(Ut)+7.64となり、その勾配nの値は1.00で、0.95≦n≦1.05を満足することから、血液Zが確実にNewton流体であることを確認した。
【0112】
式<1>〜式<4>の4式とNewton流体の構成方程式<5>とを連立させて血液の粘度μを算出し、血液Yの流動曲線を得た(図18参照)。この血液Zの流動曲線は、τ=0.00458γであった。従って、血液Zの粘度μは4.58mPa・secであった。
【0113】
<実施例4>
25歳の男性から血液を採取し、実施例1と同様にして測定を行ったところ、この血液の粘度μは4.20mPa・secであった。
【0114】
<実施例5>
24歳の男性(実施例2の男性とは異なる人)から血液を採取し、実施例1と同様にして測定を行ったところ、この血液の粘度μは4.19mPa・secであった。
【0115】
<実施例6>
23歳の男性(実施例3の男性とは異なる人)から血液を採取し、実施例1と同様にして測定を行ったところ、この血液の粘度μは4.40mPa・secであった。
【0116】
<実施例7>
22歳の男性から血液を採取し、実施例1と同様にして測定を行ったところ、この血液の粘度μは4.41mPa・secであった。
【0117】
<実施例8>
24歳の女性から血液を採取し、実施例1と同様にして測定を行ったところ、この血液の粘度μは3.05mPa・secであった。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】この発明に係る血液粘度測定装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】略針状落体の一実施形態を示す縦断面図である。
【図3】装置本体部の上端部の一部を切り欠いて示す斜視図である。
【図4】(イ)(ロ)いずれもランチャーに形成される開口部の形状の変形例を示す斜視図である。
【図5】測定の途中状態で示す血液粘度測定装置の縦断面図である。
【図6】この発明に係る血液粘度測定装置の他の実施形態を示す縦断面図である。
【図7】図6に示す装置の磁力発生部の構成を詳細に示す図である。
【図8】略針状落体が落下している時の状態を示す概念図である。
【図9】落下する略針状落体が押し退ける流体(血液)の移動方向を示す速度断面図である。
【図10】実施例1における(Ut)−(ρs−ρf)線分を示すグラフである。
【図11】実施例1における(Ut)−(ρs−ρf)対数線分を示すグラフである。
【図12】実施例1における流動曲線を示すグラフである。
【図13】実施例2における(Ut)−(ρs−ρf)線分を示すグラフである。
【図14】実施例2における(Ut)−(ρs−ρf)対数線分を示すグラフである。
【図15】実施例2における流動曲線を示すグラフである。
【図16】実施例3における(Ut)−(ρs−ρf)線分を示すグラフである。
【図17】実施例3における(Ut)−(ρs−ρf)対数線分を示すグラフである。
【図18】実施例3における流動曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0119】
1…血液粘度測定装置
2…略針状落体
3…測定容器
4…ランチャー
5…検出手段
6…落体回収容器
7…攪拌部材
8…恒温槽
10…装置本体部
11…略針状体
12…錘
13…キャップ
14…攪拌部
15…把持部
16…連結部
23…開口部
24…小孔
25…傾斜面
30…磁性体
31…磁力発生部
32…磁力発生部
60…血液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度の異なる複数の略針状落体と、
筒状の測定容器と、
前記測定容器の上部側に固定されたランチャーと、
前記測定容器内を落下する略針状落体の落下終端速度又は落下加速度を検出する検出手段とを備え、
前記略針状落体は、密度1.0以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体からなることを特徴とする血液の粘度測定装置。
【請求項2】
前記略針状体を構成する合成樹脂がオレフィン樹脂である請求項1に記載の血液の粘度測定装置。
【請求項3】
前記測定容器の底面の中心部に小孔が設けられ、この小孔の径は、前記略針状落体の外径より大きく且つ4mm以下の範囲に設定され、前記測定容器の下に該測定容器に連接して落体回収容器が配置されている請求項1または2に記載の血液の粘度測定装置。
【請求項4】
前記略針状落体中の錘として金属製の錘が用いられると共に、前記測定容器の外側における該測定容器の底面の小孔より低い位置に磁性体が配置され、該磁性体の磁気吸引力によって、前記小孔内に挿通される略針状落体に対して下方への落下を付勢し得るものとなされている請求項3に記載の血液の粘度測定装置。
【請求項5】
前記測定容器の底面は、その周縁側から中心部の小孔に向かって上から下に傾斜する傾斜面に形成されている請求項3または4に記載の血液の粘度測定装置。
【請求項6】
前記ランチャーは筒状に形成され、この筒状ランチャーの一部に1ないし複数の開口部が形成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液の粘度測定装置。
【請求項7】
前記略針状落体中の錘として金属製の錘が用いられる一方、
前記ランチャーは筒状に形成され、この筒状ランチャーの長さは前記略針状落体の長さの2倍以上に設定されると共に、該筒状ランチャーの下方部の外側に一対の磁力発生部が上下方向に離間して配置されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の血液の粘度測定装置。
【請求項8】
前記測定容器内を攪拌する攪拌部材を備えている請求項1〜7のいずれか1項に記載の血液の粘度測定装置。
【請求項9】
前記攪拌部材は、前記測定容器内に配置された攪拌部と、前記測定容器の外に配置された把持部と、該把持部と前記攪拌部とを繋ぐ連結部とを備えている請求項8に記載の血液の粘度測定装置。
【請求項10】
前記測定容器は恒温槽内に配置され、所定温度に制御された水等の液体が該恒温槽と前記測定容器との空間に送流されるものとなされている請求項1〜9のいずれか1項に記載の血液の粘度測定装置。
【請求項11】
血液を満たした筒状の測定容器内を落下する略針状落体の落下終端速度又は落下加速度を測定することにより血液の粘度を求める方法であって、前記略針状落体として、密度1.0以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体を用いることを特徴とする血液の粘度測定方法。
【請求項12】
前記略針状体を構成する合成樹脂がオレフィン樹脂である請求項11に記載の血液の粘度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−208260(P2006−208260A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22513(P2005−22513)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年10月20日 日本熱物性学会発行の「第25回 日本熱物性シンポジウム 講演論文集」に発表
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】