説明

血液サンプルの溶血の測定方法および装置

【課題】血液サンプルの溶血状態をより詳しく調べることができる、血液サンプルの溶血を測定するための改良技術を提供する。
【解決手段】血液サンプルの溶血の間に溶血の進行を測定する血液サンプルの溶血の測定は、測定光源から放射される測定光を溶血の間中血液サンプルに照射し、透過したおよび/または反射された測定光について、いくつかの測定時点で測定光量値を検出する。検出された測定光量値から測定光量値の時間依存的経過を作成して、その時間依存的経過について少なくとも区間ごとに割り当てられた測定曲線の勾配を異なる測定時点での測定光量値を比較するための比較基準として決定することにより、評価装置を用いて異なる測定時点について測定光量値のいくつかを比較し、かつ溶血進行の程度を測定する。その勾配がゼロと異なる測定期間の後に選択可能な測定精度内の勾配がゼロまで下がる最小値に下降するとき、溶血の終結を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液サンプルの溶血を測定するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「オキシメーター」と呼ばれる装置は血液サンプルを測定するために用いられる。ここでは、それは光学的な測定装置に関係し、この装置を用いて、総ヘモグロビン(tHb)、ヘモグロビン誘導体、例えばオキシヘモグロビン(O2Hb)、カルボキシヘモグロビン(COHb)、メトヘモグロビン(MetHb)など、さらに分解産物のビリルビンを測定することができる。これらのパラメーターはランベルト・ベールの法則(Lambert Beer law)に基づいて分光光度的に測定される。そのため、通常は、可視領域のいくつかの別々の波長(例えば、459nm〜666nmの範囲)についての各成分の相加的吸収(additive absorption)が測定される。そうした測定値は過剰決定的な線形方程式系(over-determined linear equation system)を形成し、これを多重線形回帰によって分析すると、関係する濃度を求めることができる。
【0003】
ヘモグロビン誘導体の測定は溶血産物(すなわち、溶血を起こした血液サンプル)において行われる。これは、赤血球などの、あらゆる分散的な微粒子血液成分が光学測定値の記録前に可能なかぎり完全に崩壊されていることをさし、このことが溶血を起こしたという意味である。血液細胞の溶血は典型的には、血液サンプルに超音波をあてることにより行われる。このようにしてホモジナイズされた媒質に基づいて、各成分の濃度を実際に決定するためにランベルト・ベールの法則を利用することができ、このランベルト・ベールの法則は、血液サンプルを通る光路に沿って検査対象の血液サンプルに入射した光が定常的に減衰することを述べている。
【0004】
溶血を起こしていない状態では、血液は、光学的観点から見ると、濁りのある「色鮮やかな」粒子含有媒質に相当する。光の入射はいずれも弱められ、波長に応じて分散される。光の分散は主に血液中に存在する細胞上で起こる。血液を通過する短波青色光の高度吸収と赤/赤外光の比較的低い吸収が、血液に特徴的な赤色を際立たせる。各種の血液成分が特徴的な波長範囲の光の吸収に影響を及ぼす。血液中に含まれる水は1000nmを超える赤外光を非常に強く吸収するのに対し、好ましいことに、タンパク質とヘモグロビンは緑色および青色スペクトル領域の光を吸収する。
【0005】
溶血を起こしていない全血では、吸収と共に、血液に含まれる粒子(とりわけ、細胞血液成分)での入射光の分散と回折が起こる。分散方法の複雑性のため(特に、形に左右される高い異方性、赤血球の両凹状の断面および形のばらつきによって変化する)、血中溶存物質の濃度と検出光の減衰との間に、解析上単純に提示できる関連性は認められない。それゆえに、再現性のある有益な光学測定を実施可能にするため、血液が溶血される。
【0006】
血液が完全に溶血された場合、そしてさらに、分散している細胞破片がすべて取り去られたならば、光度測定検査において血液サンプルに入射する光線は、理想的には、血液サンプルに含まれる成分によってのみ吸収される。その後、ランベルト・ベールの法則を用いて血液成分の濃度を決定することができる。
【0007】
こうして、溶血は血液サンプルのその後の光度測定検査のための非常に重要な前提条件である。したがって、溶血そのものを測定するための技術が求められており、特に、溶血した血液サンプルの後続の検査に向けて明確な出力条件を設定するため、また、それゆえに分析検査の精度と再現性を向上させるため、そうした技術が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、血液サンプルの溶血状態をより詳しく調べることができる、血液サンプルの溶血を測定するための改良技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、独立請求項1および8に記載の血液サンプルの溶血の測定方法により、また、独立請求項17および18に記載の血液サンプルの溶血の測定装置により、本発明に従って解決される。さらに、独立請求項21にはヘモリセーター(haemolysator)が提供される。本発明の有利な形態は従属請求項の対象である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】血液サンプルの溶血を測定するための装置を概略的に示した図である。
【図2】2つの異なる血液サンプルについて、時間t(ミリ秒)に依存する透過測定光からの測定強度I(相対単位)に関するグラフを示した図である。
【図3】時間t(ミリ秒)にそれぞれ依存する、透過測定光の強度I(相対単位)の曲線形状(上)およびその曲線の勾配を特徴づける一次微分S(相対単位)のグラフを示した図であり、これによって溶血は「適切(in order)」と分類された。
【図4】時間t(ミリ秒)にそれぞれ依存する、透過測定光の強度I(相対単位)の曲線形状(上)およびその曲線の勾配を特徴づける一次微分S(相対単位)のグラフを示した図であり、これによって溶血は「ボーダーライン」と分類された。
【図5】時間t(ミリ秒)にそれぞれ依存する、透過測定光の強度I(相対単位)の曲線形状(上)およびその曲線の勾配を特徴づける一次微分S(相対単位)のグラフを示した図であり、これによって溶血は「適切」と分類された。
【図6】ヘモグロビン誘導体と分解産物ビリルビン(bilirubin)のそれぞれの吸収バンドについての波長λ(nm)に依存する吸収A(mmol cm-1 L-1)を示した図である。
【図7】さまざまな溶血度の血液サンプルの波長λ(nm)に依存するいくつかの測定吸収スペクトルについての関係した吸収A(相対単位)を示した図である。
【図8】いくつかの血液サンプルについての測定吸収スペクトルにおける決定された曲線勾配(相対単位)と溶血度H(%)との間の帰属に関するグラフを示した図である。
【図9】いくつかの血液サンプルについての測定吸収スペクトルにおけるいわゆる剰余(residue)r(相対単位)と溶血度H(%)との間の帰属に関するグラフを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様によれば、血液サンプルの溶血の間に溶血の進行を測定する、血液サンプルの溶血の測定方法が提供され、この方法は以下のステップを含んでなる:
- 測定光源から放射される測定光を、溶血の間中、血液サンプルに照射すること、
- 検出装置を用いて、血液サンプルを透過したおよび/または血液サンプルにより反射された測定光について、いくつかの測定時点で測定光量値(light value)を検出すること、
- 検出された測定光量値から測定光量値の時間依存的経過を作成し、その時間依存的経過について少なくとも区間ごとに(section-wise)、割り当てられた測定曲線の勾配を、さまざまな測定時点での測定光量値を比較するための比較基準として、決定することにより、評価装置を用いて異なる測定時点について測定光量値のいくつかを比較し、かつ溶血進行の程度を測定すること、および
- その勾配がゼロと異なる測定期間の後に、選択可能な測定精度内の勾配がゼロまで下がる最小値に下降するとき、溶血の終結を決定すること。
【0012】
上記方法のさまざまな形態においては、溶血進行の程度を出力装置により出力することが提供される。これは、溶血区間の測定までに測定された、全てのまたは個々の進行の程度について、例えばディスプレーで知らせることにより、行うことができる。これによって、溶血進行の程度を連続的に測定して、溶血の間中それをディスプレーするタイプのオンライン溶血進行測定が実施可能である。あるいはまた、上記方法では、溶血進行の程度の出力を行わないで、随意に溶血の終了のみを、例えば光および/または音の信号によって、ディスプレーすることも可能である。
【0013】
割り当てられた測定曲線の勾配は、その曲線の形状の個々の点について、あるいはまた、その曲線のいくつかの点を通る曲線区間について決定することができる。正および負の勾配値が生じ、これらはその曲線の上昇および下降形状を示す。
【0014】
溶血終結の決定に関して、溶血されてない血液サンプルでは、入射した測定光について、吸収と同時に、分散と回折が包埋粒子において起こる。一方、血液が完全に溶血されて、分散している細胞破片がすべて取り除かれるならば、入射する測定光は、理想的な場合には、吸収されるだけである。吸収と分散と回折の複合状態から純粋な吸収への移行は、適時の測定曲線形状では、測定曲線のゼロではない勾配から、ついにはゼロの勾配まで下がる下降勾配への移行として認識可能である。時間の経過につれて勾配がもはや変化しない場合、このことは、その溶血方法が、目下の溶血に関係する限りにおいて、終結したことを示す。溶血区間はゼロ勾配に到達するとき測定してもよいし、勾配の経過に特徴的な変化が検出されるならば、その前に測定してもよい。
【0015】
本発明の別の態様によれば、血液サンプルの溶血の間に溶血の進行を測定する、血液サンプルの溶血の測定方法が提供され、この方法は以下のステップを含んでなる:
- 測定光源から放射される測定光を、溶血の間中、血液サンプルに照射すること、
- 検出装置を用いて、血液サンプルを透過した測定光について少なくとも1つの測定吸収スペクトルを検出すること、
- 評価装置で、少なくとも1つの標的吸収スペクトルと血液サンプルについての少なくとも1つの測定吸収スペクトルとを比較すること、
- 少なくとも1つの標的吸収スペクトルと少なくとも1つの測定吸収スペクトルとを比較することで、溶血度量(a measure for a haemolysis degree)を測定すること、および
- 評価装置に機能的に連結された出力装置を用いて、溶血度量から導出された情報信号を出力すること。
【0016】
標的吸収スペクトルは理論的にまたは実験的にいろいろな方法で得ることができ、これについて以下でより詳しく説明することにする。これは既知の溶血度(好ましくは、完全に溶血された血液サンプル)の吸収スペクトルに相当する。その後、検査すべき血液サンプルの溶血を測定するために少なくとも1つの測定吸収スペクトルを測定して、それを少なくとも1つの標的吸収スペクトルと比較する。
【0017】
別の態様によれば、本発明は、血液サンプルの溶血の進行を測定するように構成されている、血液サンプルの溶血の測定装置に関し、この装置は以下を含んでなる:
- 溶血の間中、血液サンプルに測定光を照射するように構成されている測定光源、
- 血液サンプルを透過したおよび/または血液サンプルにより反射された測定光について、いくつかの測定時点で測定光量値を検出するように構成されている検出装置、および
- 評価装置であって、
- 検出された測定光量値から測定光量値の時間依存的経過を作成して、その時間依存的経過について少なくとも区間ごとに(section-wise)、割り当てられた測定曲線の勾配を、異なる測定時点での測定光量値を比較するための比較基準として、決定することにより、異なる測定時点についての測定光量値のいくつかを比較し、このことから溶血進行の程度を測定するように構成されており、かつ
- その勾配がゼロと異なる測定期間の後に、選択可能な測定精度内の勾配がゼロまで下がる最小値に下降するとき、溶血の終結を決定するように構成されている評価装置。
【0018】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1つの標的吸収スペクトルと血液サンプルについての少なくとも1つの測定吸収スペクトルとを比較するように構成されている評価装置、およびその評価装置に連結されて、溶血度量から導出された情報信号を出力するように構成されている出力装置によって、溶血の進行を比較するように構成されている、血液サンプルの溶血の測定装置が提供される。
【0019】
上記の装置は個別にまたはヘモリセーターに組み合わせて提供することができる。
【0020】
本発明が意味するところは、血液サンプルの溶血の信頼できる測定を可能にする改良技術を利用できるようにした、ということである。これによって、個々のまたはいくつかの溶血方法(それ自体さまざまな方式が知られている)を用いて、希望する任意のやり方または方法で血液サンプルの溶血を実施することができる。こうして、超音波による溶血のために、測定チャンバーに配置した血液サンプルを加圧することが提供される。これに加えて、またはこれとは別に、1種以上の化学試薬を添加することによって、あるいは血液サンプルの浸透価を下げることによって、血液サンプルの溶血を行ってもよい。
【0021】
溶血進行の測定に関連して、血液サンプルを透過したおよび/または血液サンプルにより反射された測定光についての測定光量値の検出は、連続的または不連続的に行うことができる。測定光量値がいかなるスペクトルの帰属もなしに検出されるような好ましい方式での溶血進行の測定では、スペクトル的に分解された測定値は得られない。しかしまた、測定光量値の波長選択的検出を行うことも可能である。これは、特に単色光をいくつかの波長ごとに別々に照射して検出することで、達成される。
【0022】
血液サンプルの溶血度量の測定はスペクトル的に分解して行うことが好ましく、これは、少なくとも1つの標的吸収スペクトルからの標的吸収値がそれらのスペクトル帰属の測定吸収値と対比されることを意味する。例えば、同じ波長に帰属される測定値同士が互いに比較される。
【0023】
血液サンプルの溶血進行の測定ならびに溶血度量の測定は、血液サンプルを測定する際の効率の向上と再現性の最適化に寄与する。さらなる効果がそれらの可能な組み合わせで生じる。例えば、まず第一に溶血の進行を観察し、続いて十分な溶血が起こったかを溶血度量の測定から確認することが提供される。十分な溶血が起こらなかった場合には、後続の溶血を実施して、その後再び、その経過を溶血の進行に基づいて観察する。これを通して、追加の情報が得られ、結果的に、より安心して、後続の溶血が溶血しつつある血液サンプルの改善に寄与するかをその範囲で確認できる。その一方で、目下進行中の溶血の程度に関するさらなる情報を得るために、溶血と並行して溶血度量の測定を用いることができる。こうして、溶血進行の測定と溶血度量の測定は、組み合わされた形で、本発明により達成される血液サンプルの溶血測定を大いに改善する。
【0024】
好ましくは、血液サンプルの溶血は、測定セルに入れた血液サンプルに超音波を直接あてることによって行われる。他の溶血方法(例えば、溶血試薬の添加による溶血)と比べて、超音波溶血は、追加の試薬による細胞の溶解を別にすれば、血液サンプルの組成にいかなる変化も生じさせない。このことは、血液サンプルの組成をその後分析して決定する場合に、特に有利である。
【0025】
好ましくは、本発明の連続的構成では、測定光量値の検出を、血液サンプルの溶血のために用いる溶血装置の溶血操作が行われている間に少なくとも部分的に実施することが提供される。溶血操作では、ヘモリセーター(haemolysator)と呼ばれる溶血装置が実際に血液サンプルに作用して溶血を引き起こす。これは、例えば、血液サンプルへの超音波衝撃によって行われる。
【0026】
本発明の有利な実施形態においては、測定光量値の検出を、血液サンプルの溶血において操作が中断している間に少なくとも部分的に実施することが提供される。操作が中断している間に、溶血を補助する溶血装置が血液サンプルに及ぼす影響はまったくない。例えば、超音波衝撃が中断される。一方では溶血操作の間に、そして他方では中断操作の間に、測定光量値の記録を組み合わせて提供することも可能である。観察された溶血の進行に応じて、次の方法ステップが選択される。例えば、それ以上の溶血進行を観察できないことが確かであれば、その溶血サンプルを直ちにさらなる測定(例えば、ヘモグロビン誘導体の分光光度定量)に送るという可能性がある。また、溶血度の測定を続いて行ってから後続の溶血を実施すべきかどうかを判断してもよく、それについては進行の過程で観察することができる。
【0027】
本発明のさらなる実施形態では、測定光量値の検出を、血液サンプルの溶血を補助する1種以上の試薬が作用している間に少なくとも部分的に実施することが提供される。さらに、1種以上の試薬を用い、なおかつ超音波衝撃を用いて、溶血を実施することも提供される。溶血期間中に、希釈形態のTriton X-100、TWEEN 621およびBRIJ(Sigma Aldrich社から入手可能)のような機能性界面活性剤を試薬として利用することができる。
【0028】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、測定光量値の検出を、血液サンプルの溶血を補助する1種以上の試薬の作用が血液サンプルに及んでいない期間中に、少なくとも部分的に実施することが提供される。血液サンプルは、1種以上の試薬の溶血作用が使い尽くされるか、または阻害される場合に、その試薬の作用から免れる。測定後、追加の試薬を、特に後続の溶血のために、随意に添加してもよい。
【0029】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、測定光について、測定光量値として強度測定値を検出することが提供される。
【0030】
本発明の便利な実施形態では、溶血の終結を確認した後で、血液サンプルのヘモグロビン値を光学的測定方法によって測定することが提供される。そうした光学的方法それ自体はさまざまな実施形式が知られている。光学測定部品、例えば溶血の進行を測定するために用いる測定光源および/または検出装置がここでは部分的に使用される。本発明の有意義な形態では、血液サンプルを溶血装置(例えば、超音波溶血)によって溶血し、その間溶血進行について溶血の程度を測定し、溶血の終結後は、オキシメトリー測定(例えば、血液サンプルのヘモグロビン値の定量)を実施することが提供される。光学的測定方法を用いるオキシメトリー測定のために、さまざまな実施形式が知られている。溶血、溶血検査およびオキシメトリー測定は同一の測定セルで同一のサンプルに対して実施することが好ましい。その利点は、この方法ステップ間に起こりうるサンプルの汚染をなくすことにある。
【0031】
以下では、有利な実施形態を血液サンプルの溶血度量の測定に関連して説明する。
【0032】
有利な実施形態では、比較するときに、スペクトル的に互いに帰属される少なくとも1つの標的吸収スペクトルからの標的吸収値および少なくとも1つの測定吸収スペクトルからの測定吸収値についての局所曲線勾配値を比較することが提供される。不完全な溶血は、完全に溶血された血液サンプルを表す標的吸収スペクトルと比較して、測定吸収スペクトルに変化をもたらす。これは、まず第一に、溶血度に依存するオフセットにより吸収バンドが持ち上がるため、吸収スペクトルの増加として認められる。さらに、低吸収領域でのエッジの険しさ(edge steepness)に違いが見られる。さらにまた、溶血度がより高い場合は信号対ノイズ比が改善されるが、それはピクセル-ピクセルノイズが溶血の品質に対して敏感であるという理由による。これらの指標を個々にまたは組み合わせて解釈して、溶血度量を測定することができる。局所曲線の増加値は特にエッジの険しさの違いを表示する。ノイズの挙動もこれによって示される。随意に、こうした比較から決定された値をさらに処理してもよく、それには特に平均値、総和値、またはさらに加重値が含まれる。
【0033】
好ましくは、本発明のさらなる実施形態では、比較するときに、スペクトル的に互いに帰属される少なくとも1つの標的吸収スペクトルからの標的吸収値と、少なくとも1つの測定吸収スペクトルからの測定吸収値を比較することが提供される。スペクトル的に互いに帰属された吸収値の比較は、特に、いわゆる剰余(residue)が測定されるような減算形式として実行することができる。それらは多かれ少なかれ形成される先に記載のオフセット(溶血度に依存して上昇する)に関係している。これらの比較値に関連して、さらなる処理を随意に行ってもよい。
【0034】
本発明の有利な形態では、少なくとも1つの標的吸収スペクトルとして、吸収バンドの総和によって形成されるモデル吸収スペクトルを用いることが提供される。そのような標的吸収スペクトルを形成するには、関心をひくスペクトル領域の既知の吸収バンドのそれぞれの予想される成分について、総和を行って、全吸収スペクトルが生じるようにする。通常、吸収バンドは直線的に加算される。
【0035】
本発明のさらなる実施形態では、少なくとも1つの標的吸収スペクトルとして、測定較正吸収スペクトルを用いることが提供される。測定較正吸収スペクトルは、確実に溶血された血液サンプルに対して実験的に決定される。また、溶血度量の測定のためにモデル吸収スペクトルと測定較正吸収スペクトルの両方を利用する方式も提供される。
【0036】
本発明のさらなる好ましい形態では、情報信号を使って、品質管理基準(quality control measure)を血液サンプルのテスト品質のためにディスプレーすることが提供される。特に臨床環境においては、血液サンプルの溶血度量の測定は、血液サンプルの品質がまだ保たれているか、もはや失われているかを判定するためにも使用される。適用目的に応じて、品質管理基準により、既定の閾値量(threshold measure)を越えるまたはそれに達しない場合に、検査した血液サンプルがまだ使用可能であるか、または、例えば経時変化(エージング)があまりにも進みすぎたため、もはや使用不能であるかが示される。
【0037】
本発明の便利な実施形態の場合には、溶血度量が既定の閾値量(threshold value measure)に達しないとき、血液サンプルの後続の溶血を開始することが提供される。後続の溶血を行うか否かに関わりなく、出力装置を使って、閾値溶血度の達成をディスプレーする信号を発することが提供される。そうした信号の発生は音響的および/または視覚的方式で行われる。例えば、相応するディスプレーはそれに対するユーザーの注目を引くことができる。その一方で、閾値量に達しないならば、それをユーザーに知らせることもできる。その装置は、この場合、自動的に制御信号を発生し、この信号が溶血用のヘモリセーターに送られると、例えば血液サンプルにもう一度超音波衝撃をあてることで、後続の溶血が開始される。その後、溶血の程度を再度測定して、溶血が十分に行われたかをもう一度判断する。このようにして自動制御ループが実現され、これにより溶血度量に応じて溶血の操作が制御される。
【0038】
血液サンプルの溶血度量を測定する連続的構成の場合には、溶血の進行を測定することが提供されるが、ここでは、測定光源から放射される測定光を、溶血の間中、血液サンプルに照射し、検出装置を用いて、血液サンプルを透過したおよび/または血液サンプルにより反射された測定光について、いくつかの測定時点で測定光量値を検出し、また、評価装置を用いて、測定光量値のいくつかをさまざまな測定時点について比較し、このことから、溶血進行の程度を測定する。血液サンプルの溶血度量の測定は溶血進行の測定に合わせて実施することができる。しかしまた、溶血進行の測定に続く使用も提供される。このようにして、さらなる最終調整が可能である。別の方式では、溶血の程度が、溶血に関する1種の中間情報として、溶血装置の操作を中断しているときに用いられる。さらに、血液サンプルのヘモグロビン値の測定が光学的測定方法によって提供される。
【0039】
血液サンプルの溶血の測定装置の有利な実施形態に関しては、溶血の測定方法に関連して提示した説明が同様に当てはまる。溶血の測定装置はさまざまな方法の形態に従って構成することができる。
【0040】
本発明は、図面を参照しながら、好ましい実施例に基づいて以下でより詳しく説明される。
【実施例】
【0041】
図1は、血液サンプルの溶血を測定するための装置の概略図である。溶血のために、測定チャンバー1に入れた血液サンプルに、提示した実施例では、超音波装置2によって超音波をあてる。光源3から測定光が放射されるが、光源3は広帯域スペクトルの光またはさまざまな波長の単色光を測定チャンバー1に放射することができる。その後、透過測定光が血液サンプルを通過して検出装置4に達する。検出装置4を利用して、透過測定光について、場合によりスペクトル的に分解した形で、強度測定値を記録する。検出装置4は評価装置5に連結されており、評価装置5を用いて、記録した測定光量値を透過および/または吸収の判定のために評価することができる。補助的に、または代替的に、測定チャンバー1内の血液サンプルから反射される光を測定するように構成された、溶血の進行を測定するための検出器(示してない)を設置してもよい。
【0042】
図1によれば、評価装置5はさらに超音波装置2にも連結されており、評価結果に応じて超音波装置2を制御できるようになっている。
【0043】
図1には任意の出力装置6が点線で示されており、この装置から音声および/または映像信号を出して評価結果をディスプレーすることができる。さらに、入力装置7が設置されており、この装置によってユーザー入力が記録される。
【0044】
図1に示した実施例では、血液サンプルの溶血進行を測定するため、および血液サンプルの溶血度量を測定するため、検出装置4が評価装置5と一緒に使用される。これとは別に、これら2つの測定システムの別々の構成を提供することもでき、その結果、それらを個別にまたは組み合わせて、例えば個別のモジュールまたは統合モジュールとして、ヘモリセーターに組み込むことが可能である。
【0045】
図2は、時間に依存する測定強度に関するグラフを示す。図1に示した強度検出装置5を用いて、検査すべき血液サンプルの溶血の進行に関する曲線形状を定める。この曲線形状での開始期間I(0〜約4000ミリ秒(ms))の間、測定された光強度(光量)はおおむね変化していないことがわかる。溶血がまだ始まっていない。さらなる曲線区間II(約4000〜約8000ms)では、記録された測定光の強度がその後増加しているが、これは溶血の開始(4000msで開始)と溶血のさらなる進行を示す。溶血が進行するにつれて、曲線形状は飽和区間III(約8000〜約12000ms)に達し、ここでは透過測定光の強度がほとんど変化しない。これは完全な溶血を示す。
【0046】
四角形によって提示された測定曲線は、溶血経過と溶血結果が適切であったとする、血液サンプルの対の評価値を提供する。丸によって提示された測定曲線は、溶血の進行形状と溶血結果が適切でなかったとする、血液サンプルの対の評価値を提供する。
【0047】
透過測定光の強度についての時間依存的な曲線形状はさらに、溶血の間に気泡(曲線形状の変化につながる)が形成されるかを調べるために用いられる。気泡は透過測定光の急激な増加をもたらすが、それは吸収と分散が起こらないためである。その上、気泡を通過する測定光に焦点が合うかもしれない。測定曲線に望ましくない局所勾配が出現する。
【0048】
図2に示した溶血の進行形状に基づいて、その後、例えば最初に提供された溶血を延長すべきか否かを判断することができる。また、必要ならば、溶血方法を繰り返すかを判断することもできる。
【0049】
図3は、時間に依存する透過測定光の強度の曲線形状およびその曲線の勾配を特徴づける一次微分を示した図であり、これによって溶血は「適切」(in order)と分類された。溶血は記録された測定データ(生データ - 図3ではクロス)に強いノイズをもたらす。フィルタリングによるノイズの抑制が行われる。これにより測定データの記録が単純化される。この図では、フィルターにかけたデータを円で示してある。溶血の分類は最後の有意な曲線勾配の時間位置に応じて行った。これは、曲線勾配が閾値より上にあるときに明白である。そのような測定値は上部図にさらに白抜きの四角形で提示される。最後の有意な曲線勾配が有効な時間ウィンドウ内にあるとき、溶血は適切である。最後の有意な曲線勾配が時間ウィンドウの縁にあるときは、溶血が「ボーダーライン」と分類される(以下の図4を参照のこと)。最後の有意な曲線勾配が時間ウィンドウの外にあるときは、溶血が「適切」でない。
【0050】
図4は、時間に依存する透過測定光の強度の曲線形状およびその曲線の勾配を特徴づける一次微分を示した図であり、これによって溶血は「適切」と分類された。
【0051】
図5は、時間に依存する透過測定光の強度の曲線形状およびその曲線の勾配を特徴づける一次微分を示した図であり、これによって溶血は「適切でない」と分類された。
【0052】
図6は、ヘモグロビン誘導体と分解産物ビリルビンのそれぞれの吸収バンドについての波長に依存する吸収を示した図である。提示した物質の吸収バンドの総和によってモデル吸収スペクトルが形成され、溶血度量の測定においては、このモデル吸収スペクトルを検査対象の血液サンプルの測定吸収スペクトルと比較する。あるいはまた、溶血度量を測定する際に利用する標的吸収スペクトルは、較正用の血液サンプル(その溶血度が信頼できるとわかっているもの)を分光学的に検査することによっても得られる。例えば、較正用血液サンプルの溶血が完全に行われているならば、110%の溶血度についての較正吸収スペクトルが形成される。
【0053】
図7は、さまざまな溶血度(右上に示す)の血液サンプルについてのいくつかの吸収スペクトルを示した図である。
【0054】
図8は、いくつかの血液サンプルの測定吸収スペクトルにおいて決定された曲線勾配と溶血度の間の帰属を示した図である。溶血度と曲線勾配の関連性は直線方程式(ドイツ語では線形「fitgerade」ともいう)を用いて記載できることがわかる。比較のために、特別に、ある量の溶血血液と非溶血血液を相互に混合することで、溶血度がはっきりと定められたサンプルを作成した。追加の対照として、赤血球を顕微鏡のもとでカウントした。図8に示した曲線勾配の値は次のようにして決定した。すなわち、検査した領域の波長について、一方では100%溶血度のサンプルの吸収曲線と、他方では100%差の溶血度(a 100% different haemolysis degree)のサンプルの測定曲線の、互いに帰属された局所勾配を相互に比較し、それによって確立された差について記録を作成した。
【0055】
図9は、いくつかの血液サンプルについての、溶血度といわゆる剰余(residue)との間の帰属を示した図である。溶血度と剰余(二次フィット関数(quadratic fit function))との二次元の関連が生じる。剰余は、実験的に測定された値を用いた回帰によって見い出された適合曲線(adaptation curve)の合同(congruence)についての尺度である。
【符号の説明】
【0056】
1:測定チャンバー
2:超音波装置
3:光源
4:検出装置
5:評価装置
6:出力装置
7:入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液サンプルの溶血の間に溶血の進行を測定する、血液サンプルの溶血の測定方法であって、以下のステップ:
- 測定光源から放射される測定光を、溶血の間中、血液サンプルに照射すること、
- 検出装置を用いて、血液サンプルを透過したおよび/または血液サンプルにより反射された測定光について、いくつかの測定時点で測定光量値を検出すること、
- 検出された測定光量値から測定光量値の時間依存的経過を作成し、その時間依存的経過について少なくとも区間ごとに、割り当てられた測定曲線の勾配を、異なる測定時点での測定光量値を比較するための比較基準として、決定することにより、評価装置を用いて、異なる測定時点について測定光量値のいくつかを比較し、かつ溶血進行の程度を測定すること、および
- その勾配がゼロと異なる測定期間の後に、選択可能な測定精度内の勾配がゼロまで下がる最小値に下降するとき、溶血の終結を決定すること、
を含んでなる上記方法。
【請求項2】
測定光量値の検出を、血液サンプルの溶血のために用いる溶血装置の溶血操作中に少なくとも部分的に実施することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
測定光量値の検出を、血液サンプルの溶血のために用いる溶血装置の操作中断中に少なくとも部分的に実施することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
測定光量値の検出を、血液サンプルの溶血を補助する1種以上の試薬が作用している間に少なくとも部分的に実施することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
測定光量値の検出を、血液サンプルの溶血を補助する1種以上の試薬の作用が血液サンプルに及んでいない期間中に少なくとも部分的に実施することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
測定光についての測定光量値として、強度測定値を検出することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
溶血の終結を決定した後で、光学的測定方法によって血液サンプルのヘモグロビン値を測定することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
血液サンプルの溶血の間に溶血の進行を測定する、血液サンプルの溶血の測定方法であって、以下のステップ:
- 測定光源から放射される測定光を、溶血の間中、血液サンプルに照射すること、
- 検出装置を用いて、血液サンプルを透過した測定光について少なくとも1つの測定吸収スペクトルを検出すること、
- 評価装置で、少なくとも1つの標的吸収スペクトルと血液サンプルについての少なくとも1つの測定吸収スペクトルとを比較すること、
- 少なくとも1つの標的吸収スペクトルと少なくとも1つの測定吸収スペクトルとを比較することで、溶血度量を測定すること、および
- 評価装置に機能的に連結された出力装置を用いて、溶血度量から導出された情報信号を出力すること、
を含んでなる上記方法。
【請求項9】
比較するときに、スペクトル的に互いに帰属される少なくとも1つの標的吸収スペクトルからの標的吸収値および少なくとも1つの測定吸収スペクトルからの測定吸収値についての局所曲線勾配値を比較することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
比較するときに、スペクトル的に互いに帰属される少なくとも1つの標的吸収スペクトルからの標的吸収値と、少なくとも1つの測定吸収スペクトルからの測定吸収値とを比較することを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの標的吸収スペクトルとして、吸収バンドの総和によって形成されたモデル吸収スペクトルを用いることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの標的吸収スペクトルとして、測定較正吸収スペクトルを用いることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
情報信号を用いて、品質管理基準を血液サンプルのサンプル品質のためにディスプレーすることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
溶血度量が既定の閾値量に達しないとき、血液サンプルの後続の溶血を開始することを特徴とする、請求項8〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
溶血度の測定後、血液サンプルのヘモグロビン値を光学的測定方法によって測定することを特徴とする、請求項8〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
溶血の進行を、以下のステップ:
- 測定光源から放射される測定光を、溶血の間中、血液サンプルに照射すること、
- 検出装置を用いて、血液サンプルを透過したおよび/または血液サンプルにより反射された測定光について、いくつかの測定時点での測定光量値を検出すること、および
- 評価装置を用いて、異なる測定時点についての測定光量値のいくつかを比較し、このことから溶血進行の程度を測定すること、
により測定することを特徴とする、請求項8〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
血液サンプルの溶血の進行を測定するように構成されている、血液サンプルの溶血の測定装置であって、
- 溶血の間中、血液サンプルに測定光を照射するように構成されている測定光源、
- 血液サンプルを透過したおよび/または血液サンプルにより反射された測定光について、いくつかの測定時点で測定光量値を検出するように構成されている検出装置、および
- 評価装置であって、
- 検出された測定光量値から測定光量値の時間依存的経過を作成して、その時間依存的経過について少なくとも区間ごとに、割り当てられた測定曲線の勾配を、異なる測定時点での測定光量値を比較するための比較基準として、決定することにより、異なる測定時点についての測定光量値のいくつかを比較し、このことから溶血進行の程度を測定するように構成されており、かつ
- 勾配がゼロと異なる測定期間の後に、選択可能な測定精度内の勾配がゼロまで下がる最小値に下降するとき、溶血の終結を決定するように構成されている評価装置、
を含んでなる上記測定装置。
【請求項18】
血液サンプルの溶血の進行を測定するように構成されている、血液サンプルの溶血の測定装置であって、少なくとも1つの標的吸収スペクトルと血液サンプルについての少なくとも1つの測定吸収スペクトルとを比較するように構成されている評価装置、およびその評価装置に機能的に連結されて、溶血度量から導出された情報信号を出力するように構成されている出力装置、を含んでなる上記測定装置。
【請求項19】
請求項17に記載の装置および/または請求項18に記載の装置を備えたヘモリセーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−156688(P2010−156688A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−287493(P2009−287493)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】