説明

血液成分調製用容器及び血液成分分離収容装置

【課題】所定量の血液を高精度で採取することのできる血液成分調製用容器、及び該血液成分調製用容器を用いた血液成分分離収容装置を提供すること。
【解決手段】血液等の流動体を導入する流動体導入口21及び流動体のうちの一部の成分を導出する成分導出口22を有する流動体貯留室2と、流動体貯留室2に隣接して形成され流体の導入及び導出が可能な連通口31を有する流体充填室3と、流動体貯留室2と流体充填室3とを区分する可撓性の隔膜4とを備え、流動体貯留室2は、連通口31から流体充填室3内に流体が導入されることにより隔膜4が流動体貯留室2側に変形されてその容積が減少され、流体充填室3内に導入された流体が連通口31から導出されることにより隔膜4が流体充填室3側に変形されてその容積が増加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液成分調製用容器及び該血液成分調製用容器を用いた血液成分分離収容装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、再生医療分野においては、対象者から採取した幹細胞を体外で増殖又は分化させたうえで対象者に移植することで対象者の組織の再生を促進させるという研究が行われている。幹細胞は、種々の組織や器官に分化する多分化能を有し、再生医療のカギを握る細胞として注目されている。
【0003】
幹細胞の体外培養増殖では、培地に対して血清を添加すれば効果的であることが知られている。しかし、ヒトの治療を目的とする場合には、ヒト以外の動物を由来とする血清を用いることは安全上の問題から避けるべきことであり、ヒト由来、特に対象者本人から採取した血液より調製した血清を用いることが要求される。また、血液検査と比べると再生医療の分野における幹細胞の培養には、比較的多くの血清が必要となる。更に、ヒトに適用することを想定した血清を調製するためには、閉鎖系で無菌的に血清を分離、収容することが要求される。
【0004】
上記の様々な要求に対応しうるものとして、本出願人は、先に、血液を貯留する血液貯留部と、この血液貯留部に無菌的かつ気密に連結された成分収容部とを備え、前記血液貯留部は、前記血液と接触し凝固を促進させる血液凝固促進個体を備え、この血液凝固促進個体が、血清を無菌的に製造するものである血清調製装置を提示している(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3788479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の血清調製装置は、血清を高い安全性を確保しながら迅速、且つ効率的に生産することができるものである。特許文献1記載の血清調製装置においては、一端が血液貯留部である血液成分調製用容器に連結された採血チューブの他端に取り付けられた穿刺針を採血対象者に穿刺して血液を採取する。そして、採血した血液を血液成分調製用容器に導入する際には、採血対象者の血圧、及び採血対象者の採血位置(採血に用いる穿刺針を穿刺する位置)と血液成分調製用容器の設置位置との落差圧を利用していた。
【0006】
しかしながら、採血対象者の血圧が低い場合等には、血圧を利用して所定量の血液を採取できず、また、採血量が比較的少量の場合には、採血対象者の採血位置と血液成分調製用容器の設置位置との間に十分な落差を設けることは困難であった。このように、特許文献1記載の血清調製装置における血液成分調製用容器によっては、所定量の血液を高精度で採取することは困難であった。
【0007】
従って、本発明は、採血対象者の血圧や採血対象者の採血位置と血液成分調製用容器の設置位置との落差圧に依存せずに、所定量の血液を高精度で採取することのできる血液成分調製用容器、及び該血液成分調製用容器を用いた血液成分分離収容装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも血液由来の液性成分と血小板とを含む流動体を導入する流動体導入口及び前記流動体のうちの少なくとも一部の成分を導出する成分導出口を有する流動体貯留室と、前記流動体貯留室に隣接して形成され流体の導入及び導出が可能な連通口を有する流体充填室と、前記流動体貯留室と前記流体充填室とを区分する可撓性の隔膜と、を有し、前記連通口から前記流体充填室内に前記流体が導入されることにより、前記隔膜が前記流動体貯留室側に変形されて該流動体貯留室の容積が減少され、前記連通口から前記流体が導出されることにより、前記隔膜が前記流体充填室側に変形されて前記流動体貯留室の容積が増加される血液成分調製用容器を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
また、本発明は、少なくとも血液由来の液性成分と血小板とを含む流動体を導入する流動体導入口及び前記流動体のうちの少なくとも一部の成分を導出する成分導出口を有する流動体貯留室と、前記流動体貯留室に隣接して形成され流体の導入及び導出が可能な連通口を有する流体充填室と、前記流動体貯留室と前記流体充填室とを区分する可撓性の隔膜と、を有し、前記連通口から前記流体充填室内に前記流体が導入されることにより、前記隔膜が前記流動体貯留室側に変形されて該流動体貯留室の容積が減少され、前記連通口から前記流体が導出されることにより、前記隔膜が前記流体充填室側に変形されて前記流動体貯留室の容積が増加される血液成分調製用容器と、該血液成分調製用容器に貯留された前記流動体のうち前記成分導出口から導出される少なくとも一部の成分を収容する成分収容容器と、前記血液成分調製用容器と前記成分収容容器とを無菌的に連結する連結チューブと、を備える血液成分分離収容装置を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の血液成分調製用容器、及び該血液成分調製用容器を用いた血液成分分離収容装置によれば、採血対象者の血圧や採血対象者の採血位置と血液成分調製用容器の設置位置との落差圧に依存せずに、所定量の血液を高精度で採取することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の血液成分調製用容器及び血液成分分離収容装置をその好ましい実施形態に基づき、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の血液成分調製用容器1は、図1及び図2に示すように、少なくとも血液由来の液性成分と血小板とを含む流動体を貯留する流動体貯留室2と、流動体貯留室2に隣接して形成され流体の導入及び導出が可能な流体充填室3と、流動体貯留室2と流体充填室3とを区分する可撓性の隔膜4とを備えており、採血対象者より採取した血液から血清を調製することを目的として用いられるものである。
【0012】
また、本実施形態の血液成分分離収容装置10は、血液成分調製用容器1と、血液成分調製用容器1に貯留された流動体のうちの少なくとも一部の成分を収容する成分収容容器7と、血液成分調製用容器1と成分収容容器7とを無菌的に連結する連結チューブ8とを備えている。
【0013】
ここで、「血液」とは、血球(赤血球、白血球、血小板)と液体成分である血漿(血清)からなる全血、及びこれらの少なくとも1種を含んだ液体(例えば成分献血で採取された血液)をいう。また、「血清」とは、採取した血液を放置すると流動性が低下し、その後に赤い凝固塊(血餅)から分離される淡黄色の液体をいう。本発明における「血清」とは、血餅から分離されない点で生成方法が一般的な血清とは異なるが、そこに含まれる凝固因子や増殖因子が実質的に一般的な血清と同等である細胞培養に有用な血液中の液性成分をいう。
【0014】
「血液由来の液性成分」とは、「血球以外の血液成分」あるいは「血球以外の血液成分に抗凝固剤等の薬剤を添加した混合液」をいう。
【0015】
本実施形態においては、血液成分調製用容器1は略球形であり、硬質合成樹脂によって形成されている。また、血液成分調製用容器1は、その内部空間が可撓性を有する隔膜4によって流動体貯留室2と流体充填室3とに区分されている。隔膜4としては、柔軟且つ耐圧性を有しており、加工性に優れ、可撓性を有する柔軟なシート材等を好適に用いることができる。このようなシート材は、例えばポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等から構成することができる。
【0016】
尚、血液成分調製用容器1の形状は、その対象とする血液を成分分離調製可能な形状であれば、特にその制限はない。
例えば、血液成分調製用容器1を縦長の円筒形状とし、その内部空間に設けられる隔膜4をその内部空間の形状に略一致させたような形状とすることもできる。
【0017】
流動体貯留室2には、図1及び図2に示すように、少なくとも血液由来の液性成分と血小板とを含む流動体を導入する流動体導入口21及び導入された流動体のうちの少なくとも一部の成分を導出する成分導出口22が設けられている。
流動体導入口21には、血液等の流動体を導入するための採血チューブ6の一端が接続されている。採血チューブ6の他端には穿刺針60が取り付けられており、穿刺針60を採血対象者に穿刺して血液を採取可能になされている。このようにして、採血対象者から採取された血液は採血チューブ6及び流動体導入口21を経て、無菌的に流動体貯留室2内に貯留される。流動体導入口21と採血チューブ6とは、図2に示すように、流動体貯留室2における流動体導入口21が形成されている部分の外面側に設けられた第1突起部210に採血チューブ6の端部を係合させることにより接続されている。
【0018】
成分導出口22には、後述する連結チューブ8の一端が接続されている。成分導出口22と連結チューブ8とは、図2に示すように、流動体貯留室2における成分導出口22が形成されている部分の外面側に設けられた第2突起部220に連結チューブ8の端部を係合させることにより接続されている。
【0019】
流動体貯留室2には、導入された血液等の流動体と接触することで流動体の凝固を促進させる血液凝固促進個体23が収容されている(図1及び図2参照)。血液凝固促進個体23は、フィブリンや血小板等の血液凝固因子を活性化させることが可能な程度に含有されており、血液に対して不溶解性を有することが好ましい。血液凝固促進個体23が血液に対して不溶解性を有することにより、得られる血清に不純物が混在するという事態を回避することができる。
【0020】
また、血液から血清を調製する場合には、血小板及び血液凝固因子等の被活性化因子の活性化を図った上で、遠心分離を行うことになるが、この場合における赤血球の破壊(溶血)や流動体貯留室2の破損を抑制するという面から、血液凝固促進個体23の外観形状を略球状としておくことが好ましい。更に、上記被活性化因子を迅速に活性化させる観点から、血液凝固促進個体23の表面を二酸化ケイ素化合物からなる層で形成しておくことが好ましい。
【0021】
二酸化ケイ素化合物としては、ガラス、シリカ、珪藻土、カオリン等から選択される少なくとも1種以上を使用することができるが、これらに限られるものではない。本実施形態においては、血液凝固促進個体23として略球形のガラス加工体を用いている。
【0022】
流動体貯留室2内の血液凝固促進個体23については、流動体貯留室2に貯留可能な血液量に対して、0.1〜25mm/mlの関係をもってその表面積を設定しておくことが、活性化の促進及び溶血の抑制という両方の面から好ましい。
【0023】
流体充填室3には、流体が導入及び導出可能な連通口31が設けられており、この連通口31を介して流体充填室3に流体を導入し、また流体充填室3に導入した流体を導出可能となされている。
【0024】
上述したように、本実施形態の血液成分調製用容器1は、可撓性を有する隔膜4によって流動体貯留室2と流体充填室3とが隔てられている。そのため、流動体貯留室2は、連通口31から流体充填室3内に流体32が導入されることにより隔膜4が流動体貯留室2側に凸となるように変形されて、その容積が減少され、また、流体充填室3内に導入された流体32が連通口31から導出されることにより隔膜4が流体充填室3側に凸となるように変形されて、その容積が増加される。
【0025】
そして、本実施形態の血液成分調製用容器1においては、隔膜4が流体充填室3側に凸となるように変形されて流動体貯留室2の容積が増加されることにより、流動体導入口21から流動体が吸引導入されるように構成されている。また、吸引導入された流動体のうちの少なくとも一部の成分は、隔膜4が流動体貯留室2側に凸となるように変形されて流動体貯留室2の容積が減少されることにより、成分導出口22から導出されるように構成されている。
【0026】
流体充填室3に導入及び導出される流体32としては、空気等の気体であってもよく、水や生理食塩水等の液体であってもよい。また、流体32としてゲル状のものを用いてもよい。流体32として、水や生理食塩水等の液体、又はゲル状の物質を用いた場合には、流体充填室3内に流体32を導入する際の加圧により流体の体積が変化しないため、流動体貯留室2に導入する血液等の流動体の量、及び成分導出口22から後述する成分収容容器へ導出する血清等の血液成分の量を正確に把握できる点で好ましい。
【0027】
本実施形態においては、流体32として生理食塩水が用いられている。流体32として生理食塩水を用いることにより、流体充填室3と流動体貯留室2とを区分する隔膜4に破損が生じて流体(生理食塩水)が流動体貯留室2に導入された血液等に混入した際にも、混入した流体により血液が溶血を起こす等の悪影響を軽減することができる。
【0028】
尚、流体32として液体やゲル状の物質を用いる場合には、流体充填室3には、連通口31とは異なる第2連通口(図示せず)を設けることが好ましい。第2連通口を設けることにより、流体充填室3内に液体やゲル状の物質である流体32を導入する際に流体充填室3内に存在する気体(空気)と導入する流体32との置換を容易に行うことができる。
【0029】
連通口31には、流体充填室3内に流体を導入及び導出可能な流体注入手段5が着脱自在に連結されている(図1及び図2参照)。また、流体注入手段5は、流体充填室3内に導入又は導出される流体の量を測定可能な流体量測定部54を有している。
本実施形態においては、流体注入手段5として、図2に示すように、シリンジ50が用いられている。シリンジ50は、筒状の本体部51と、本体部51内に挿入され本体部51内を摺動可能なガスケット52と、ガスケット52に連結されガスケット52を摺動させるプランジャー53とを備えている。また、本体部51の外周面には、流体量測定部54としての目盛りが形成されている(図1参照)。
シリンジ50は、その先端部が連通口31に係合可能に構成されている。詳細には、流体充填室3における連通口31が形成されている部分の外面側に設けられた連通口突起部310にシリンジ50の先端部を係合させることにより接続されている。シリンジ50と連通口31とは直接接続されてもよいが、チューブ等を介して接続されてもよい。
【0030】
このように、連通口31には、流体充填室3内に流体を導入及び導出可能な流体注入手段5であるシリンジ50が着脱自在に連結されているため、シリンジ50のプランジャー53を操作することにより容易に流体充填室3内の流体量を制御することができる。
更に、シリンジ50の本体部51には、目盛り54が形成されているため、流動体貯留室2への流動体の導入量、及び流動体貯留室2からの流動体のうちの少なくとも一部の成分の導出量を精度高く把握し、また導入量や導出量を調節することができる。
【0031】
連結チューブ8は、図2に示すように、血液成分調製用容器1と成分収容容器7とを無菌的に連結している。本実施形態においては、連結チューブ8は、成分導出口22と後述するキャップ73に形成された成分導入口77とを連結している。連結チューブ8と成分導出口22とは、血液成分調製用容器1における成分導出口22が形成されている部分の上面側に設けられた第2突起部220に連結チューブ8の一端を係合させることにより接続されている。
【0032】
成分収容容器7は、図1及び図2に示すように、第1容器71と、第1容器71を収容する第2容器72と、第1容器71及び第2容器72に接合されるキャップ73とを備えている。
【0033】
第1容器71は、図2に示すように、縦長の円筒形状であり、側面が可撓性を有する材料から構成されている。可撓性を有する材料としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、シリコーン、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、合成ゴム、各種エラストマー等の軟質合成樹脂を用いることができる。第1容器71の一端である上端は開口となっており、キャップ73に接続されて密閉されている。第1容器71の他端である下端部には第1容器71に収容された血液成分を採取する成分採取口74が形成されている。
成分採取口74は、第1容器71の底面の一部に、薄膜状の厚みの薄い領域を設けることにより形成されている。また、成分採取口74の形成された領域には、第1容器71の底面から下方に突出する中空の円筒部741が形成されている。第1容器71内に収容された血液成分は、成分採取口74を注射針等の穿刺具にて破断穿刺することにより、採取することができる。この際に、成分採取口34の形成された領域には中空の円筒部741が形成されているため、穿刺具を確実に成分採取口74に穿刺することができる。
【0034】
第2容器72は、縦長の円筒形状であり、その直径及び高さ共に第1容器71よりも一回り大きく構成されている。第2容器72の一端である上端も開口となっており、キャップ73に嵌合されて密閉可能となされている。第2容器72の他端である下端部近傍においては、第2容器72の径が下方に向けて漸減した後、底面が平らとなる戴頭円錐形状を上下反転させた形状となっている。
本実施形態においては、第2容器72は、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリメチルペンテン、メタクリル、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート)、ポリ塩化ビニル等の硬質合成樹脂から構成されており可撓性は有していない。
第2容器72の上端近傍における外側面には、図2に示すように、ねじ山が形成されており、このねじ山の形状に対応するねじ溝を有するカバーキャップ(図示せず)を螺合可能となっている。
【0035】
キャップ73は、平面形状が円形であり、その直径が第2容器72の外径と略同一となっている。キャップ73は、その一面である下面に、第2容器72に接続可能な第1接続部75と、第1接続部75の内側に第1容器71と接続可能な第2接続部76とを有している。第1接続部75及び第2接続部76は、下方に向けて突出した形状を有している。
第1接続部75は、その外径が第2容器72の開口における内径と略同一であり、第1接続部75の外周面に第2容器72の開口近傍が被嵌可能となされている。第2接続部76は、その外径が第1容器71の開口の内径と略同一であり、第2接続部76の外周面に第1容器71の開口近傍が被嵌可能となされている。
【0036】
即ち、本実施形態においては、第1容器71及びこれを収容する第2容器72は、両者ともキャップ73に嵌合されて構成されている。そして、第1容器71はキャップ73に嵌合されることにより密閉されており、第2容器72もキャップ73に嵌合されることにより密閉されている。
【0037】
成分収容容器7は、血液成分調製用容器1から導出された流動体のうちの少なくとも一部の成分が導入される成分導入口77を有している。本実施形態においては、成分導入口77は、図2に示すように、キャップ73に設けられている。成分導入口77は、キャップ73に、その上面から下面に貫通する貫通孔が形成されることにより設けられている。
【0038】
成分導入口77には、連結チューブ8が接続されており、血液成分調製用容器1から導出された血清等は、無菌的に成分収容容器7(第1容器71)内に収容される。成分導入口77と連結チューブ8とは、キャップ73における成分導入口77が形成されている部分の上面側に設けられた第3突起部730に連結チューブ8の端部を係合させることにより接続されている。
【0039】
成分収容容器7には、第1容器71内に空気を出入りさせる通気路78が設けられており、通気路78には、通気フィルタ91を備えた通気チューブ9が更に連結されている。本実施形態においては、通気路78は、キャップ73に設けられている。詳細には、通気路78はキャップ73に設けられた貫通孔であり、キャップ73における第2接続部76の内側の領域に形成されている。
通気路78には、通気チューブ9の一端が接続され、通気チューブ9の他端には、通気フィルタ91が接続されている。通気フィルタ91とは、気体は通過させるが液体は通過させず、また、細菌等も通過させない性質を有するフィルタである。即ち、通気フィルタ91が連結された通気路78からは、第1容器71内に無菌的に空気を出し入れさせることができる。通気路78と通気チューブ9とは、キャップ73における通気路78が形成されている部分の上面側に設けられた第4突起部780に通気チューブ9の端部を係合させることにより接続されている。
【0040】
次に、本実施形態の血液成分分離収容装置10における各構成部材の好ましい大きさ等について説明する。
血液成分調製用容器1全体の容積は、比較的少量の血液を精度高く採取する観点から、好ましくは5〜200mlであり、より好ましくは5〜50mlである。
第1容器71における血液成分の収容量は、流動体貯留室2に収容された血液から分離された液性成分を確実に収容する観点から、流動体貯留室2における血液収容量の40〜100%であることが好ましい。
【0041】
第2容器72は、第1容器71を収容できる大きさであれば、特にその大きさに制限はないが、好ましくはその直径が10〜30mmであり、その高さは、好ましくは50〜150mmである。
【0042】
次に、上記構成を有する本実施形態の血液成分分離収容装置10を用いた血液成分分離収容操作の好ましい一実施態様について、図3〜図7を用いて説明する。
【0043】
本実施態様の血液成分分離収容操作は、図3に示すように、大別して7つの工程(S1〜S7)から構成されている。
【0044】
まず、貯留工程S1においては、図1に示すように、穿刺針60を対象者(患者)に刺し、血液を採取する。この際、穿刺針60から採取された血液は、採血チューブ6を介して、流動体貯留室2内に貯留される(図4参照)。
【0045】
ここで、採血の際には、先ず、流体充填室3内に流体を導入して隔膜4を流動体貯留室2側に凸となるように変形させて流動体貯留室2の容積を減少させておく(図2参照)。そして採血に併せて流体充填室3内に導入された流体を連通口31から導出させて隔膜4を前記流体充填室側に凸となるように変形させることにより流動体貯留室2の容積を増加させる(図4参照)。これにより、流動体貯留室2及びそれに連通する採血チューブ6内に陰圧が負荷されて、流動体貯留室2への血液の導入を容易に行うことができる。
また、流体充填室3への流体32の導入及び導出を、流体注入手段5であるシリンジ50を用いて行うことにより、流体充填室3内の流体量を容易に制御することができ、延いては流動体貯留室2への血液の導入量や導入速度も容易に制御することができる。
更に、シリンジ50の本体部51には、目盛り54が形成されているため、流動体貯留室2への血液の導入量を精度高く把握し、また調節することができる。
【0046】
尚、採血チューブ6には、採血中の血液が対象者に逆流することを防ぐ逆流防止弁(図示せず)を設けることも好ましい。
また、貯留工程S1においては、流動体貯留室2の容積を増加させることによる血液採取時の血液の吸引効果を高めるために、連結チューブ8の経路がクランプ(図示せず)等を用いて流動体貯留室2の根元側で閉鎖されている。また、連結チューブ8と流動体貯留室2との間に破断可能な隔壁(図示せず)が備えられていてもよい。貯留工程S1は、採血時における患者の体調等を考慮して、所要量を採取し終了される。ここでいう所要量は、患者の体格や体調に問題がない場合には5〜50ml程度である。
【0047】
貯留工程S1後、採血対象から穿刺針60を抜針し、穿刺針60と血液成分調製用容器1とを連結している採血チューブ6の一部を溶断し、且つ、同時にその溶断端を溶着する(溶断工程S2)。採血チューブ6の溶断には、所謂シーラーといわれる溶断機(図示せず)を用いることができる。
【0048】
次に、図3及び図5に示すように、貯留工程S1及び溶断工程S2の終了後、血液成分調製用容器1を振盪させる(活性化促進工程S3)。活性化促進工程S3においては、採取された血液を貯留した流動体貯留室2を含む血液成分調製用容器1は、振盪装置100により緩やかに攪拌され、流動体貯留室2の内部に収納された血液凝固促進個体23と接触することになる。そして、血液中に含まれる血小板及び凝固因子が血液凝固促進個体23の表面で活性化し、活性化された血小板から、これらを由来とする増殖因子が放出される。
【0049】
尚、活性化促進工程S3においては、図5に示すように、流体注入手段5は連通口31から分離される。また、連通口31は、流体充填室3内に導入された流体が導出しないように封止手段(図示せず)によって封止される。このように、流体注入手段5を分離して血液成分調製用容器1を振盪させることにより、血液成分調製用容器1の振盪を容易に行うことができる。また、連通口31が封止されているため、振盪中に隔膜4が変形することを防止できる。
【0050】
一方、活性化促進工程S3を経て採血対象から分離された血液成分調製用容器1は、成分収容容器7、連結チューブ8及び通気チューブ9等と共に遠心分離機にかけられる(遠心分離工程S4)。尚、連結チューブ8は、貯留工程S1の際と同様にクランプや破断可能な隔壁等(いずれも図示せず)により経路が閉鎖された状態に保たれている。
【0051】
尚、遠心分離工程S4においても、流体注入手段5は連通口31から分離された状態であり、連通口31は、流体充填室3内に導入された流体が導出しないように封止手段(図示せず)によって封止されている。従って、血液成分調製用容器1の遠心分離を容易に行うことができる。また、連通口31が封止されているため、遠心分離中に隔膜4が変形することを防止できる。特に、流体充填室3に導入する流体32として生理食塩水等の液体を用いた場合には、遠心分離の際に加わる圧力によって体積の変化が生じないため、隔膜4の変形防止効果を向上させることができる。
【0052】
血液成分調製用容器1に対する遠心分離の条件は、貯留された血液の量及び分離する成分の種類によって設定されるものであるが、例えば、2250g×10min、4℃に設定される。
【0053】
活性化促進工程S3を経た後に遠心分離された血液は、図6に示すように、流動体貯留室2内では、大別して血清61、白血球62、赤血球63の3つの層に分離分画される。また、流動体貯留室2の底には、血液凝固促進個体23がその表面に血小板及び凝固因子の凝固体が付着した状態で沈んでいる。
【0054】
活性化促進工程S3及び遠心分離工程S4を経て得られた血清61は、上述のように、活性化促進工程S3において十分に血小板及び凝固因子から放出されたこれら由来の増殖因子を含むものである。
【0055】
活性化促進工程S3から遠心分離工程S4で活性化された血小板や凝固因子等の被活性化因子は血液凝固促進個体23の表面に付着し、塊状になって血液から分離される(分離工程S5)。
【0056】
ついで、図7に示すように、導出工程S6では、分離工程S5において流動体貯留室2内で分離された血清61を成分収容容器7における第1容器71に導出する。
【0057】
流動体貯留室2内で分離された血清61を成分収容容器7(第1容器71)に導出する際には、図7に示すように、流体充填室3内に流体32を導入することにより隔膜4を流動体貯留室2側に凸となるように変形させて流動体貯留室2の容積を減少させる。ここで、採血チューブ6は、上記溶断工程S2により溶着されているため、分離された上清部分である血清61は、成分導出口22から連結チューブ8を介して導出され、成分収容容器7(第1容器71)内に導入される。
【0058】
尚、導出工程S6においては、流体注入手段5であるシリンジ50が再び連通口31に連結され、シリンジ50のプランジャー53を押し込むことにより容易に流体を流体充填室3内へ導入することができる。また、シリンジ50の本体部51には、目盛り54が形成されているため、成分収容容器7(第1容器71)への血清61の導出量を精度高く調節することができる。
【0059】
第1容器71に所要量の血清61が充填された後、連結チューブ8及び通気チューブ9を溶断及び溶着する(溶断工程S7)。この溶断及び溶着については、遠心分離工程S4の前に採血チューブ6を溶断及び溶着したのと同様の方法を用いることができる。また血清61が第1容器71内に充填された成分収容容器7は、冷凍保存等の保存処置が施される。ここで、第1容器71を収容している第2容器72は硬質合成樹脂から構成されているため、収容された血清61を移送、保存する際に成分収容容器7に外力がかかっても第1容器71が破損することを防止できる。また、第1容器71を保存する際には、収容された内容物についての情報を記載したラベル等の添付を容易に行うこともできる。
【0060】
上述した構成を有する本実施形態の血液成分調製用容器1によれば、可撓性の隔膜4を変形させて流動体貯留室2の容積を可変させることにより、流動体貯留室2内に血液等の流動体を吸引導入させることができるため、採血対象者の血圧や採血対象者の採血位置と血液成分調製用容器の設置位置との落差圧に依存せずに、所定量の血液を高精度で採取することができる。特に本実施形態の血液成分調製用容器1は、所定量の血液を高精度で採取することができるため、例えば、5〜50ml程度の比較的少量の血清を調製する際に好適に用いることができる。
【0061】
また、本実施形態の血液成分調製用容器1は、流動体貯留室2と流体充填室3とが隔膜4により区分されており、また本実施形態の血液成分分離収容装置10は、採血チューブ6、流動体貯留室2、連結チューブ8及び第1容器71が無菌的に連結されているため、血清等の血液成分を無菌的に調製することができる。
【0062】
また、流動体貯留室2に、血液凝固促進個体23が収容されているため、血清調製時に血餅が血液凝固促進個体23の表面に付着し、血清を分取する際の血清中へのフィブリンや血餅の混入が防止される。
【0063】
以上、本発明をその好ましい実施形態及び実施態様に基づき説明したが、本発明は上記実施形態及び実施態様には制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。
例えば、成分収容容器7は、本実施形態においては、第1容器71、第2容器72及びキャップ73から構成されていたが、本実施形態における血液成分調製用容器1と同様の構成からなるものを用いてもよい。この場合には、成分収容容器内の空間は、隔膜によって血液成分調製用容器から導出された成分を収容する第1空間と流体の導入及び導出が可能な第2空間とに区分されることとなる。
そして、血液成分調製用容器から導出された成分を成分収容容器(第1空間)内に導入する際には、成分収容容器における隔膜を変形させて第1空間の容積を増加させることにより、第1空間内に陰圧を負荷して、血液成分調製用容器から導出された成分の成分収容容器への導入を容易に行うことができる。
【0064】
また、成分収容容器7は、可撓性を有する袋体から構成されていてもよい。
即ち、成分収容容器7は、血液成分調製用容器1から導出された流動体の成分を収容できる構成であればその形状等に特に制限はない。
【0065】
また、流体注入手段5は、本実施形態においてはシリンジ5であったが、流体注入手段5はポンプ等であってもよい。
また、血液凝固促進個体23は、本実施形態においてはガラス加工体であったが、ガラス加工体に代えて空気を用いてもよく、また、ガラス加工体及び空気を併用してもよい。
また、成分導出口22、連結チューブ8又は成分導入口77のいずれかにおける中空部分に、血球除去フィルタ(図示せず)を介在配置させてもよい。これにより、流動体貯留室2中の血球成分を血球除去フィルタで捕捉でき、成分収容容器7への血球成分の混入を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の血液成分調製用容器及び血液成分分離収容装置を示す図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】本発明の血液成分分離収容装置を用いて血液成分の分離収容を行う手順を示す図である。
【図4】本発明の血液成分分離収容装置を用いた血液成分分離収容操作における貯留工程を示す図である。
【図5】本発明の血液成分分離収容装置を用いた血液成分分離収容操作における活性化促進工程を示す図である。
【図6】本発明の血液成分分離収容装置を用いた血液成分分離収容操作における遠心工程後の状態を示す図である。
【図7】本発明の血液成分分離収容装置を用いた血液成分分離収容操作における血液成分の分離工程を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 血液成分調製用容器
2 流動体貯留室
21 流動体導入口
22 成分導出口
23 血液凝固促進個体
3 流体充填室
31 連通口
32 流体
4 隔膜
5 流体注入手段
50 シリンジ
51 本体部
52 ガスケット
53 プランジャー
6 採血チューブ
60 穿刺針
61 血清
62 白血球
63 赤血球
7 成分収容容器
71 第1容器
72 第2容器
73 キャップ
74 成分採取口
75 第1接続部
76 第2接続部
77 成分導入口
78 通気路
8 連結チューブ
9 通気チューブ
91 通気フィルタ
10 血液成分分離収容装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも血液由来の液性成分と血小板とを含む流動体を導入する流動体導入口及び前記流動体のうちの少なくとも一部の成分を導出する成分導出口を有する流動体貯留室と、前記流動体貯留室に隣接して形成され流体の導入及び導出が可能な連通口を有する流体充填室と、前記流動体貯留室と前記流体充填室とを区分する可撓性の隔膜と、を備え、
前記流動体貯留室は、前記連通口から前記流体充填室内に前記流体が導入されることにより前記隔膜が前記流動体貯留室側に凸となるように変形されて、その容積が減少され、前記流体充填室内に導入された前記流体が前記連通口から導出されることにより前記隔膜が前記流体充填室側に凸となるように変形されて、その容積が増加される血液成分調製用容器。
【請求項2】
前記流動体貯留室には、前記隔膜が前記流体充填室側に凸となるように変形されて該流動体貯留室の容積が増加されることにより、前記流動体導入口から前記流動体が吸引導入され、
吸引導入された前記流動体のうちの少なくともその一部の成分は、前記隔膜が前記流動体貯留室側に凸となるように変形されて該流動体貯留室の容積が減少されることにより、前記成分導出口から導出される請求項1記載の血液成分調製用容器。
【請求項3】
前記流体は生理食塩水である請求項1又は2記載の血液成分調製用容器。
【請求項4】
前記連通口に連結され、前記流体充填室内に前記流体を導入及び導出可能な流体注入手段を更に備える請求項1〜3のいずれかに記載の血液成分調製用容器。
【請求項5】
前記流体注入手段は、前記流体充填室内に導入又は導出される前記流体の量を測定可能な流体量測定部を有する請求項4記載の血液成分調製用容器。
【請求項6】
前記流動体には、前記流動体と接触することで該流動体の凝固を促進させる血液凝固促進個体が収容されている請求項1〜5のいずれかに記載の血液成分調製用容器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の血液成分調製用容器と、該血液成分調製用容器に貯留された前記流動体のうち前記成分導出口から導出される少なくとも一部の成分を収容する成分収容容器と、前記血液成分調製用容器と前記成分収容容器とを無菌的に連結する連結チューブと、を備える血液成分分離収容装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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