説明

血液浄化装置

【課題】ドライウェイトを正しく簡単に定めるための情報を提供する血液透析装置を提供する。
【解決手段】血液透析装置1は、血液回路10内の圧力を測定する圧力測定装置12と、圧力測定装置12により測定された返血処理前後の血液回路10内の圧力に基づいて、返血処理前後の血圧上昇率を算出するための血圧上昇程度演算部61と、血圧上昇程度演算部61により算出された血圧上昇率を表示するため血圧上昇程度表示部62と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば血液透析処理は、血液透析装置により行われている。血液透析装置は、図8に示すように通常、血液浄化器101と、動脈穿刺針100から血液浄化器101に血液を供給するための血液供給流路102と、血液浄化器101から静脈穿刺針103に血液を返送するための血液返送流路104からなる血液回路105を有し、血液供給流路102には、血液を送出する血液ポンプ106が設けられている。血液透析処理時には、血液ポンプ106を稼働させ、動脈穿刺針100から採取された患者の血液を血液浄化器101に送り、浄化した後、静脈穿刺針103から患者に戻している。
【0003】
また、血液透析処理の終了時には、血液回路105内に残存している血液を患者に戻す返血処理を行う必要がある。このため、血液供給流路102の血液ポンプ106より上流側には、電解質液バック107に連通する電解質液供給流路108が接続されており、返血処理時には、電解質液供給流路108を通じて血液供給流路102に電解質液が供給され、血液回路105内が電解質液で置換され、血液回路105内の血液が患者に戻される。
【0004】
ところで、透析患者は、無尿であるため、自身で適正な体液量に保つことができず、血液透析処理前には、体液が過剰な状態になっている。血液透析処理では、患者の適正な体液量に対応する適正体重(ドライウェイト)を設定し、当該ドライウェイトを透析終了時の目標体重として除水量が定められて透析が行われている。このドライウェイトは、通常、レントゲン写真の所見や体の浮腫の状態、患者の症状等に基づいて、医師が決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】平澤由平ら、透析会誌. 34(9):1277-1286,2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このように医師の主観的な見解や経験則によりドライウェイトが決定されているため、ドライウェイトの設定が正しくない場合がある。ドライウェイトが低く設定されていると、血液透析処理中あるいは血液透析処理後に体液量が過小となり、患者の具合が悪くなったり患者が低血圧に陥ることがある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ドライウェイトを正しく簡単に定めるための情報を提供可能な血液透析装置などの血液浄化装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、体内から取り出した血液を血液浄化器に供給し当該血液浄化器から体内に戻す血液浄化処理を行うための血液回路を有し、血液浄化処理終了時に前記血液回路に血液の置換液を供給して前記血液回路内の血液を体内に戻す返血処理を行う血液浄化装置であって、前記返血処理前後の血圧上昇の程度を算出するための血圧上昇程度演算部と、前記血圧上昇程度演算部により算出された前記血圧上昇の程度を表示するため血圧上昇程度表示部と、を有するものである。
【0009】
本発明は、発明者によりドライウェイトの設定の適否と返血処理前後の血圧上昇の程度との間に相関があることが確認されたことによってなされたものである。本発明によれば、返血処理前後の血圧上昇の程度が算出され、当該血圧上昇の程度が表示されるので、ドライウェイトを正しく簡単に定めるための情報を提供できる。
【0010】
前記血圧上昇程度表示部は、前記血圧上昇の程度の経時的変化を表示できるものであってもよい。
【0011】
血液浄化装置は、前記血液回路内の圧力を測定する圧力測定装置をさらに有し、前記血圧上昇程度演算部は、前記圧力測定装置により測定された返血処理前後の圧力に基づいて前記血圧上昇の程度を算出できるものであってもよい。血液回路の圧力から返血処理前後の血圧上昇の程度を算出できるので、当該血圧上昇の程度を容易に求めることができる。
【0012】
前記圧力測定装置を有する血液浄化装置は、前記血液回路上に設けられ、前記血液回路内の血液の送出を行うための血液送出装置と、前記血液送出装置が前記血液浄化処理用の駆動モードから、前記返血処理用の駆動モードに変わったときに、前記圧力測定装置による前記返血処理前の圧力の測定を実行させ、前記血液送出装置の前記返血処理用の駆動モードが終了したときに、前記圧力測定装置による前記返血処理後の圧力の測定を実行させる制御装置と、をさらに有していてもよい。
【0013】
前記圧力測定装置を有する血液浄化装置は、前記血液回路への置換液の供給が開始される直前に、前記圧力測定装置による前記返血処理前の圧力の測定を実行させ、前記血液回路への置換液の供給が終了したときに、前記圧力測定装置による前記返血処理後の圧力の測定を実行させる制御装置を、さらに有していてもよい。
【0014】
前記血液浄化装置、カフにより腕を圧迫して血圧を測定する血圧測定装置をさらに有し、前記血圧上昇程度演算部は、前記血圧測定装置により測定された返血処理前後の血圧に基づいて前記血圧上昇の程度を算出できるものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ドライウェイトを正しく簡単に定めるための情報を提供できるので、医師が正確かつ迅速にドライウェイトの設定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】血液透析装置の構成の概略を示す説明図である。
【図2】返血処理時の血液透析装置の状態を示す説明図である。
【図3】返血処理時の血液透析装置の状態を示す説明図である。
【図4】表示部に表示された血圧上昇率の推移の例を示すものである。
【図5】血圧変化と補液との関係を示す実験結果である。
【図6】透析処理終了時の体液量の設定と血圧上昇率の関係を示す実験結果である。
【図7】血液透析処理時と返血処理時の血圧変動を示すグラフである。
【図8】改良前の血液透析装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の一例を図面を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態にかかる血液浄化装置としての血液透析装置1の構成の概略を示す説明図である。
【0018】
血液透析装置1は、例えば血液回路10と、返血装置11、圧力測定装置12及び制御装置13等を有している。
【0019】
血液回路10は、例えば血液を浄化する血液浄化器20と、動脈穿刺針21から血液浄化器20に血液を供給するための血液供給流路22と、血液浄化器20から静脈穿刺針23に血液を返送するための血液返送流路24と、ドリップチャンバ25、26を有している。
【0020】
血液供給流路22上には、血液を血液浄化器20に送出するための血液送出装置としての血液ポンプ27と、血液ポンプ27よりも上流側を開閉する電磁弁などの開閉弁28が設けられている。
【0021】
血液浄化器20は、例えば中空糸の膜30を内蔵した中空糸モジュールであり、膜30の一次側20aに血液を通し、二次側20bに透析液を通し、一次側20aの血液中の不要物質を膜30を通じて二次側20bの透析液に取り込んで血液を透析することができる。
【0022】
血液供給流路22及び血液返送流路24には、例えば軟質のチューブが用いられている。血液ポンプ27は、例えばチューブポンプであり、血液供給流路22のチューブを扱いて血液を血液浄化器20側に圧送できる。
【0023】
ドリップチャンバ25は、血液供給流路22の血液ポンプ27と血液浄化器20との間に設けられている。ドリップチャンバ26は、血液返送流路24に設けられ、ドリップチャンバ26には、静脈圧力センサ31が設けられている。
【0024】
返血装置11は、例えば電解質液バック40と、電解質液バック40から血液供給流路22に接続された電解質液供給流路41と、電解質液供給流路41を開閉する電磁弁などの開閉弁42とを有している。
【0025】
電解質液バック40は、血液の置換液としての電解質液を自由落下させるため高い位置に設置されている。電解質液供給流路41は、血液供給流路22の開閉弁28と血液ポンプ27との間に接続されている。
【0026】
圧力測定装置12は、例えば圧力検出部50と、当該圧力検出部50と血液供給流路22とを接続する圧力検出用流路51とを有している。圧力検出部50は、例えば気圧センサである。圧力検出用流路51は、血液供給流路22よりも内径が小さいチューブにより形成されており、血液供給流路22の開閉弁28の上流側に接続されている。圧力検出用流路51内には、気体と液体の境界があり、圧力測定装置12は、液圧を気圧に変換することによって血液供給流路22内の圧力を測定できる。
【0027】
制御装置13は、例えば汎用のコンピュータであり、記憶部60、血圧上昇程度演算部61、表示部(血圧上昇程度表示部)62等を有している。記憶部60は、例えば圧力検出部50により検出された返血処理前後の血液供給流路22の圧力情報を記憶できる。血圧上昇程度演算部61は、例えば記憶部60の返血処理前後の圧力情報から、返血処理前後の血圧上昇の程度としての血圧上昇率を算出できる。すなわち、例えば血液ポンプ27が停止した、血液供給流路22に血液が流通していない状態においては、血液供給流路22内の圧力はシャント血管圧に等しく、そのシャント血管圧は血圧に比例する。このため、血圧の返血処理前後の比は、血液ポンプ27が停止した状態における血液供給流路22内の圧力の返血処理前後の比に等しくなる。したがって、記憶部60の返血処理前後の血液ポンプ27が停止した状態における血液供給流路22の圧力情報から、返血処理前後の血圧上昇の程度としての血圧上昇率を算出できる。
具体的には、血圧上昇率Rは、次の式(1)により算出される。

血圧上昇率R=(返血後血液供給流路内圧−返血前血液供給流路内圧)/(返血前血液供給流路内圧)×100・・・式(1)

表示部62は、血圧上昇程度演算部61により算出された血圧上昇率Rを表示できる。
【0028】
また、制御装置13は、血液透析装置1の全体の動作も制御している。制御装置13は、圧力測定装置12、血液ポンプ27、開閉弁28、開閉弁42等の動作を制御し、血液透析処理及び当該血液透析処理終了時に行われる返血処理を実行することができる。
【0029】
次に、以上のように構成された血液透析装置1の作動方法を、血液透析処理及び返血処理のプロセスと共に説明する。
【0030】
血液透析処理では、例えば図1に示すように開閉弁42が閉鎖され、開閉弁28が開放された状態で、血液ポンプ27が正回転され、患者の血液が動脈穿刺針21から血液供給流路22を通って血液浄化器20に送られる。血液浄化器20において血液中の不要物質が除去される。血液浄化器20を通過して浄化された血液は、血液返送流路24を通って静脈穿刺針23から患者に戻される。
【0031】
所定時間の血液透析が行われた後、血液ポンプ27が停止され、血液透析処理が終了する。次に、血液回路10内の残存血液を患者に戻す返血処理が行われる。この返血処理の前後に圧力測定装置12により血液供給流路22内の圧力が測定される。
【0032】
返血処理前には、例えば血液透析処理終了後、血液ポンプ27が停止された状態で、開閉弁28が閉じられ、その状態で圧力検出部50により血液供給流路22内の圧力が検出される。圧力検出部50により検出された圧力情報は、制御装置13の記憶部60に記憶される。なお、血液供給流路22の圧力測定は、制御装置13により実行され、制御装置13は、血液ポンプ27が血液透析処理用の駆動モードから、返血処理用の駆動モードに変わった時に、返血処理前の血液供給流路22の圧力測定を実行する。
【0033】
返血処理では、先ず、図2に示すように開閉弁28が閉じられ、開閉弁42が開放され、血液ポンプ27が正回転されて、電解質液バック40の電解質液が電解質液供給流路41を通じて血液供給流路22内に流入せしめられる。このとき、電解質液は、血液供給流路22における電解質液供給流路41の接続部分Aよりも下流側に流れる。これにより、血液供給流路22の接続部分Aの下流側にある血液が電解質液により押され、静脈穿刺針23側から患者の体内に戻される。
【0034】
次に、図3に示すように開閉弁42が閉鎖され、開閉弁28が開放され、血液ポンプ27が逆回転される。これにより、血液供給流路22の電解質液供給流路41との接続部分Aより下流側に流入していた電解質液が当該接続部分Aよりも上流側に流され、当該上流側にある血液が動脈穿刺針21から患者の体内に戻される。
【0035】
このような図2に示した血液供給流路22の接続部分Aよりも下流側への電解質液の供給と、図3に示した血液供給流路22の接続部分Aよりも上流側への電解質液の供給が繰り返し行われ、血液浄化器20及び血液回路10等内の血液がすべて患者の体内に戻されると、血液ポンプ27が停止され、返血処理が終了する。
【0036】
次に、返血処理後の血液供給流路22内の圧力が測定される。この返血処理後の圧力測定は、上述の返血処理前の圧力測定と同様に、血液ポンプ27が停止された状態で、開閉弁28が閉じられ、その状態で圧力検出部50により血液供給流路22の圧力が検出されて行われる。この返血処理後の血液供給流路22の圧力情報は、例えば記憶部60に記憶される。なお、当該血液供給流路22の圧力測定は、制御装置13により実行され、制御装置13は、血液ポンプ27の返血処理用の駆動モードが終了したときに圧力測定を実行する。
【0037】
制御装置13では、記憶部60に記憶されている返血処理前後の血液供給流路22の圧力に基づいて、血圧上昇程度演算部70により上述の式(1)を用いて血圧上昇率Rが算出される。算出された血圧上昇率Rは、表示部62に表示される。
【0038】
以上の実施の形態によれば、血圧上昇程度演算部61により返血処理前後の血圧上昇率Rが算出され、表示部62により血圧上昇率Rが表示されるので、ドライウェイトを正しく簡単に定めるための情報が提供される。
【0039】
血圧上昇率Rの表示によりドライウェイトを正しく簡単に定めることができるのは、返血処理前後の血圧上昇率と患者のドライウェイトの設定の適否に相関があることによる。この相関について発明者は、次のように考えている。ドライウェイトの設定が低く設定されていると、すなわち、体内の適正体液量が過小に設定されていると、血液透析処理中に、体内の消化器系臓器や脳などの代謝が盛んな重要臓器に血液を環流させるのに必要な量よりも血液環流量が減少し、代謝が盛んなこれらの臓器への酸素の供給量が減少する。
代謝が盛んなこれらの臓器は大量の酸素を消費するので、当該臓器では酸素の供給量の減少により酸素濃度が低下する。このような状態になると、代謝が盛んなこれらの臓器ではアデノシンや一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質が分泌され、これにより血液環流量を再び増加させようとする。実際、アデノシンや一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質の分泌量の増加がある程度以下であれば、これに伴って、当該臓器では酸素供給量が再び増大し、以って、酸素濃度の低下が防がれる。しかし、アデノシンや一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質の分泌量の増加がある程度以上になると、拡張して容積の増した血管に有意の量の血液が貯留するようになるため、血圧が低下し、当該臓器への血液環流量はさらに低下し、当該臓器への酸素供給量はかえって減少するようになり、以て、当該臓器の酸素濃度はさらに低下する。
【0040】
このように、代謝が盛んな臓器でアデノシンや一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質の分泌が行われて、血圧が低下している状態で、血液供給流路22に電解質液が導入されて返血処理が行われると、血液回路10内に残留していた血液が体内に戻され、主に血管が拡張している当該臓器に流入する。この結果、代謝が盛んな当該臓器への酸素供給量が増大し、以って、アデノシンや一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質の分泌が停止し、当該臓器の血管は収縮して、血圧が上昇する。一方、血圧が低下していない状態で、返血処理が行われても、血圧が上昇する現象は起きない。(参考文献Shinzato T, et. al: Role of adenosine in dialysis-induced hypotension. J Am Soc Nephrol 4: 1987-1994, 1994.)
即ち、返血処理により血圧が上昇した場合、代謝が盛んな臓器の血液環流量が減少して血管拡張物質が分泌されていたことを示すものであり、体液量が過小でドライウェットの設定が低かったことを示すものである。したがって、返血処理前後の血圧上昇の程度は、ドライウェットの設定の低さの程度になる。
【0041】
これは、ドライウェットの設定が正しく、血液透析処理中の患者の状態が良好な場合には、電解質液を急速に補液しても、血圧は変化しないことからも明らかである。なお、後述する実施例では、これらを裏付ける実験結果を示す。
【0042】
以上の実施の形態においては、血液透析装置1が、返血前後の血液供給流路22内の圧力を測定する圧力測定装置12を有し、血圧上昇程度演算部61は、当該圧力測定装置12により測定された血液供給流路22内の圧力に基づいて血圧上昇率Rを算出するので、血圧上昇率Rの算出を自動で短時間で行うことができる。また、患者に不快感を与えることなく、安定的に血圧上昇率Rを測定できる。
【0043】
また、制御装置13は、血液ポンプ27が血液透析処理用の駆動モードから、返血処理用の駆動モードに変わったときに、圧力測定装置12に返血処理前における血液供給流路22内の圧力の測定を実行させ、血液ポンプ27の返血処理用の駆動モードが終了したときに、圧力測定装置12に返血処理後における血液供給流路22内の圧力の測定を実行させている。これにより、血液ポンプ27に対する既存のモード信号を血液供給流路22内の圧力の測定のトリガとして利用でき、当該圧力の測定の制御を簡略化できる。
【0044】
なお、制御装置13は、返血装置11による血液回路10への電解質液の供給が開始されたときに、圧力測定装置12に返血処理前の血液供給流路22内の圧力の測定を実行させ、返血装置11による血液回路10への電解質液の供給が終了したときに、圧力測定装置12に返血処理後の圧力の測定を実行させてもよい。かかる場合も、返血装置11の動作信号を圧力測定のトリガとして利用でき、圧力測定の制御を簡略化できる。
【0045】
以上の実施の形態において、表示部62は、血圧上昇率Rの経時的変化を表示できるものであってもよい。例えば、制御装置13が、血圧上昇程度演算部61により血圧上昇率を算出した日を特定するための時計を有し、表示部62は、図4に示すように、時計により特定された月日についての血圧上昇率Rを経時的に表示するようにしてもよい。こうすることにより、患者の過去の血圧上昇率Rの推移からドライウェイトをより正しく簡単に設定できる。なお、この例において、表示部62には、図4に示したように患者の血圧上昇率の適正範囲Sが表示されていてもよい。医師は、この適正範囲Sに基づいて次からの透析時のドライウェイトを決定することができる。
【0046】
以上の実施の形態において、返血処理後における血液供給流路22内の圧力を測定し、これらの圧力に基づいて血圧上昇率を算出していたが、血液透析装置1が、カフにより腕を圧迫して血圧を測定する血圧測定装置を有し、血圧上昇程度演算部61は、当該血圧測定装置により測定された返血処理前後に血圧に基づいて血圧上昇の程度を算出してもよい。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0048】
例えば、以上の実施の形態では、返血処理前後の血圧上昇の程度として血圧上昇率を用いていたが、血圧上昇の程度を表すものであれば他のものを用いてもよい。また、血圧の上昇程度を求める血圧として、収縮期血圧を用いてもよいし、平均血圧でも、拡張期血圧を用いてもよい。血圧は、シャント音に基づいて測定してもよい。血液透析装置1の回路構成は、他のものあってもよく、例えば血液供給流路22の血液ポンプ27の上流側に、ヘパリン溶液などの血液の抗凝固液を供給する抗凝固液供給流路が接続されていてもよい。また、血液供給流路22の抗凝固液供給流路との接続部分に圧力検出用流路51が接続されていてもよい。さらに、血液回路10は、血液供給流路22、血液返送流路24、又は血液浄化器20から分岐する流路を有するものであってもよい。制御装置13は、複数のコンピュータにより構成されていてもよい。また、以上の実施の形態では、返血処理後、直ちに血液供給流路22の圧力を測定したが、返血処理後、一定の時間後が経過して後に血液供給流路22の圧力を測定してもよい。本発明は、血液透析装置以外の血液浄化装置にも適用できる。
【実施例】
【0049】
(予備評価1)
血液透析患者(女性、78才、透析歴6年)における150mLの補液治療による収縮期血圧変化と臨床症状を図5に示した。患者の臨床症状は良好であり、血圧も安定していた1回目補液時には、補液により収縮期血圧はほぼ上昇しなかった。これに対し、患者が倦怠感を訴え、血圧も低下していた2回目補液時には、補液により収縮期血圧は著しく上昇した。更に、患者が悪心を訴え、血圧も低下していた3回目補液時にも、補液により収縮期血圧は著しく上昇した。これにより、血圧が安定し症状が良好のときに補液を行った場合には血圧がほぼ変化せず、血圧が低下し症状が悪化しているときに補液を行った場合には血圧が上昇することが確認できる。
(予備評価2)
専門医により血液浄化終了時の体液量が適正(ドライウェイトの設定が適正)と診断された19名の血液透析患者における血液浄化終了時の返血処理による収縮期血圧の上昇率と、専門医により血液浄化終了時の体液量が過小(ドライウェイトの設定が低い)と診断された10名の血液透析患者における血液浄化終了時の返血処理による収縮期血圧の上昇率と、専門医により血液浄化終了時の体液量が過大(ドライウェイトの設定が高い)と診断された10名の血液透析患者における血液浄化終了時の返血処理による収縮期血圧の上昇率を図6に示した。血液浄化終了時の体液量が過小と診断されていた血液透析患者では、血液浄化終了時の体液量が適正と診断されていた血液透析患者よりも、血液浄化終了時の返血処理による収縮期血圧の上昇率が大きく、血液浄化終了時の体液量が過大と診断されていた血液透析患者では、血液浄化終了時の体液量が適正と診断されていた血液透析患者よりも、血液浄化終了時の返血処理による収縮期血圧の上昇率が小さかった。すなわち、血液浄化終了時の体液量が適正と診断された19名の血液透析患者における収縮期血圧の上昇率は14.2±6.3%(平均値±標準偏差)、血液浄化終了時の体液量が過小であった10名の血液透析患者では60.6±30.4%、そして体液量が過大であった10名の血液透析患者では2.6±3.5%であった。
【0050】
この結果は、血液浄化終了時の返血処理による収縮期血圧の上昇率に基づいて、血液浄化終了時の目標体重(ドライウェイト)が適正か否か判断できることを示している。なお、血液浄化終了時に行う返血処理時には、血液浄化器、血液回路内の約200ml血液を患者の体内に戻し、この時、同時に約100ml電解質液が体内に入る。すなわち、血液浄化終了時に行う返血処理は、予備評価1により示された血液浄化中における電解質液の補液操作と同様な影響を及ぼす。
【0051】
図7には、ドライウェイトの設定が低い患者の血液浄化処理及び返血処理時の収縮期血圧と拡張期血圧の変化を示す。
(評価症例1)
血液透析患者(男性、71才、透析歴4年)において、血液浄化治療終了時における目標体重(ドライウェイト)を下げたので、その前後における血液浄化治療終了時の返血処理による血圧上昇率を調べた。なお、血液浄化治療終了時におけるドライウェイトを下げることは、血液浄化治療終了時における体液量の目標値を下げることを意味する。
【0052】
本実験によると、ドライウェイト46.6kgにおける透析終了時で返血処理前の収縮期血圧/拡張期血圧が184mmHg/82mmHgであったのに対して、返血処理終了の収縮期血圧/拡張期血圧は204mmHg/96mmHgであって、前記式(1)を用いて算出した収縮期血圧上昇率は、10.9%であった。
【0053】
一方、ドライウェイトを46.2kgに下げた後においては、透析終了時で返血処理前の収縮期血圧/拡張期血圧は168mmHg/92mmHg、返血終了時の収縮期血圧/拡張期血圧は198mmHg/92mmHgとなり、前記式(1)を用いた収縮期血圧上昇率は、17.9%であった。
【0054】
ドライウェイトを下げることにより、収縮期血圧上昇率が10.9%から17.9%へと増大したというこの結果は、ドライウェイトと収縮期血圧上昇率とが逆相関することを示している。
(評価症例2)
長期に渡って収縮期血圧上昇率を追跡した血液透析患者(女性、63才、透析歴7年)において、血液浄化終了時の体重の目標値(ドライウェイト)の変更時点を挟んだ収縮期血圧上昇率の推移を図4に示した。
【0055】
この患者においては、図4の矢印の時点で、血液浄化終了時のドライウェイトが低すぎるとの判断の下、血液浄化終了時のドライウェイトを40.0kgから40.5kgに引き上げられた。これと一致して、それまで徐々に上昇していた収縮期血圧上昇率が、血液浄化終了時のドライウェイトを引き上げると共に、41.5%から18.8%に低下した。この結果は、収縮期血圧上昇率の経時的変化は、血液浄化終了時のドライウェイトの評価において有用であることを示す。
【符号の説明】
【0056】
1 血液透析装置
10 血液回路
11 返血装置
12 圧力測定装置
13 制御装置
20 血液浄化器
22 血液供給流路
24 血液返送流路
27 血液ポンプ
60 記憶部
61 血圧上昇程度演算部
62 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内から取り出した血液を血液浄化器に供給し当該血液浄化器から体内に戻す血液浄化処理を行うための血液回路を有し、血液浄化処理終了時に前記血液回路に血液の置換液を供給して前記血液回路内の血液を体内に戻す返血処理を行う血液浄化装置において、
前記返血処理前後の血圧上昇の程度を算出するための血圧上昇程度演算部と、
前記血圧上昇程度演算部により算出された前記血圧上昇の程度を表示するため血圧上昇程度表示部と、を有する、血液浄化装置。
【請求項2】
前記血圧上昇程度表示部は、前記血圧上昇の程度の経時的変化を表示できる、請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記血液回路内の圧力を測定する圧力測定装置をさらに有し、
前記血圧上昇程度演算部は、前記圧力測定装置により測定された返血処理前後の圧力に基づいて前記血圧上昇の程度を算出できる、請求項1又は2に記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記血液回路上に設けられ、前記血液回路内の血液の送出を行うための血液送出装置と、
前記血液送出装置が前記血液浄化処理用の駆動モードから、前記返血処理用の駆動モードに変わったときに、前記圧力測定装置による前記返血処理前の圧力の測定を実行させ、前記血液送出装置の前記返血処理用の駆動モードが終了したときに、前記圧力測定装置による前記返血処理後の圧力の測定を実行させる制御装置と、を有する、請求項3に記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記血液回路への置換液の供給が開始される直前に、前記圧力測定装置による前記返血処理前の圧力の測定を実行させ、前記血液回路への置換液の供給が終了したときに、前記圧力測定装置による前記返血処理後の圧力の測定を実行させる制御装置を、さらに有する、請求項3に記載の血液浄化装置。
【請求項6】
カフにより腕を圧迫して血圧を測定する血圧測定装置をさらに有し、
前記血圧上昇程度演算部は、前記血圧測定装置により測定された返血処理前後の血圧に基づいて前記血圧上昇の程度を算出できる、請求項1又は2に記載の血液浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−152288(P2012−152288A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12185(P2011−12185)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【出願人】(500277803)有限会社ネクスティア (17)
【Fターム(参考)】