説明

血液細胞球沈降制御機構を有する血液分析器およびその使用方法

血液細胞の沈降を制御する機構を有する血液分析器を提供する。この分析器は、カセットコンパートメントと、このカセットコンパートメントに取り外し自在に配置される使い捨てカセット内の血液の有無を検知するように動作する血液センサーとを含むカセット収容インターフェースと、血液センサーに接続され、時間記録機構と、所定の沈降時間制御基準とを含むシステム制御部と、このシステム制御部に接続され、前記使い捨てカセットに接続するように構成された血液測定アセンブリとを含む。このシステム制御部は、時間記録機構と所定の沈降時間制御基準とを含む。さらに血液分析器でのサンプルの調製中に血液細胞の沈降を制御する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液細胞沈降(血沈)制御機構を有する血液分析器および血液分析器でサンプル調製する際の血液細胞の沈降を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に赤血球数(RBC)および白血球数(WBC)とも言われる血液サンプルの赤血球および白血球濃度は、重要な臨床診断パラメーターである。血液分析において、赤血球濃度は、通常、血液希釈剤で実質的に希釈された血液サンプル全体のアリコットを使用したインピーダンスまたは光の散乱を測定することによって測定され、白血球濃度は、通常、赤血球を溶かし、測定のためにある程度の白血球を維持するために溶血剤と混合された白血球サンプルの別のアリコットを使用したインピーダンスまたは光の散乱を測定することによって測定される。
【0003】
完全に自動化された血液分析器では、血液サンプル全体が血液を機器に吸引させる前に連続的に混合される。吸引後、所定量の血液が2つ以上のセグメントに分けられ、それぞれが特定の測定、例えば赤血球濃度の測定、白血球濃度の測定およびヘモグロビン濃度の測定のために試薬とすぐに混合される。自動作業中、血液は、動いていない時間または放置されている時間がないので、測定精度に対する沈降の影響は、実際上考慮されない。
【0004】
しかしながら、サンプルの調製が技術者によって手動で行われる半自動化された血液分析器では、1つ以上の工程で血液サンプルが動かない時間または放置されている時間があり、この間に血液の沈降が起こる場合がある。通常、この動いていない時間は、監視または制御されず、作業者に委ねられる。
【0005】
この停止しているまたは放置されている間に赤血球および白血球は、重力によって下降する。血小板などの他の粒子は、逆に上方に移動する。従って血液の垂直方向の異なる位置において、血液細胞の濃度が異なる。よって測定のための血液の一部をセグメント化するその後の工程において、セグメント化された部分の血液細胞の濃度は、血液全体のその血液細胞の最初の濃度を表さない場合がある。沈降の度合いが増す毎に測定結果に誤りが生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従ってサンプル調製中の沈降の影響を制御するための機構を有する血液分析器が望まれており、これにより作業者への依存度を低減し、血液分析器の正確な測定を確実に行えるようにすることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様において、本発明は、血沈制御機構を有する血液分析器に関する。1つの実施態様において、本発明の血液分析器は、カセットコンパートメントと、このカセットコンパートメントに取り外し自在に配置される使い捨てカセット内の血液の有無を検知するように動作する血液センサーとを含むカセット収容インターフェースと、血液センサーに接続されたシステム制御部と、これに接続され、使い捨てカセットに接続するように構成された血液測定アセンブリとを含む。このシステム制御部は、時間記録機構と、所定の沈降時間制御基準とを含む。この沈降時間制御基準は、血液センサーがカセット内に血液サンプルが充填されたことを検知したときの充填時間と所定量の血液サンプルが測定のためにカセット内で分離されたときのサンプリング時間との間の時間間隔によって定義される残留時間の上限を含む。
【0008】
システム制御部は、さらに所定の沈降制御基準を参照して血液サンプルの記録された残留時間を評価するために動作可能な沈降評価機構と、さらなる進行を指示するインストラクション、警告するインストラクションまたは中止させるインストラクションなどのサンプル分析に関する所定のインストラクションとを含む。
【0009】
1つの態様においてカセット収容インターフェースは、第1の位置と第2の位置との間で移動可能であり、血液分析器は、さらにシステム制御部に電気的に接続され、カセット収容インターフェースの位置を検知するために動作可能な位置センサーを含む。カセット収容インターフェースは、さらにシステム制御部に電気的に接続され、カセットコンパートメント内の使い捨てカセットの有無を検知するために動作可能なカセットセンサーを含む。
【0010】
さらなる実施態様において、沈降時間制御基準は、第1の残留時間の上限と第2の残留時間の上限とを含む。第1の残留時間は、血液センサーがカセット内に血液サンプルが充填されたことを検知したときの充填時間とカセット収容インターフェースが第2の位置に移動したときの係合時間との間の時間間隔によって定義される。第2残留時間は、この係合時間と所定量の血液サンプルが測定のためにカセット内で分離されたときのサンプル時間との間の時間間隔によって定義される。
【0011】
さらなる態様において、本発明は血液分析器でのサンプル調製工程中の血液細胞の沈降を制御する方法に関する。1つの実施態様において、この方法はカセットコンパートメントと、血液センサーとを含むカセット収容インターフェースと、血液測定アセンブリと、血液センサーおよび血液測定アセンブリに電気的に接続されたシステム制御部とを含み、このシステム制御部が時間記録機構と所定の沈降時間制御基準とを含む血液分析器を供する工程と、使い捨てカセットをカセットコンパートメント内に置いて、使い捨てカセット内に血液サンプルを充填する工程と、時間記録機構を用いて残留時間を記録する工程と、記録された血液サンプルの残留時間を所定の沈降時間制御基準の残留時間の上限と比較する工程と、比較または評価の結果に基づいてサンプル分析の結論を出す工程とを含む。
【0012】
本発明の利点は、本発明の例示的な実施態様を示す添付の図面を基にした以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】カセット収容インターフェースが閉じた位置にある本発明の1つの実施態様における血液分析器の斜視図である。
【図1A】カセット収容インターフェースが開いた位置にある本発明の1つの実施態様における血液分析器の斜視図である。
【図2】水平位置にある図1Aに示した血液分析器のカセット収容インターフェースの前方斜視図である。
【図3】カセット収容インターフェースのカセットコンパートメント内に配置された使い捨てカセットを有する、水平位置にある図1Aに示した血液分析器のカセット収容インターフェースの前方斜視図である。
【図4】カセット収容インターフェースが可動式のトレイ形状であって、これが開いた位置にある本発明の別の実施態様の血液分析器の斜視図である。
【図5】本発明の1つの実施態様における使い捨てカセットのサンプリングセクションの検知領域、血液センサーの光源および光検知器を例示する断面図である。
【図6】図3に示した使い捨てカセットの斜視図である。
【図7】図3に示した使い捨てカセットの上面図である。
【図8】図6に示した使い捨てカセットのサンプリングスレッドの斜視図である。
【図9】使い捨てカセットのサンプリングガスケットの底部斜視図である。
【図10】充填位置での充填口、第1および第2サンプリングキャビティーおよび換気開口部の連通状態を示す図11の2−2’線に沿った使い捨てカセットのサンプリングセクションの拡大断面図である。
【図11】サンプリングスレッドが充填位置にある使い捨てカセットのサンプリングセクションを例示した透視図である。
【図11A】サンプリングスレッドがフラッシング位置にある使い捨てカセットのサンプリングセクションを例示した透視図である。
【図12】血液分析器の血液測定アセンブリのカセットインターフェースの挿通エレメントとの使い捨てカセットの係合を示す図である。
【図13】電気的センサー型の血液分析器用の電気的感知機構として上部パネル上の換気開口部内に配置された一対の電極を有するカセットの実施態様を示す。
【図13A】血液サンプルが充填された後の使い捨てカセットのサンプリングセクションを示す。
【図14】サンプリングスレッドの第1サンプリングキャビティーおよびサンプリングガスケットの凹部に充填された血液サンプルを示すカセットが水平位置にあるときの図8のサンプリングスレッドのA−A’線に沿った使い捨てカセットのサンプリングセクション拡大部分断面図である。
【図14A】サンプリングスレッドの第1サンプリングキャビティーおよびサンプリングガスケットの凹部に充填された血液サンプルを示すカセットが垂直位置にあるときの図8のサンプリングスレッドのA−A’線に沿った使い捨てカセットのサンプリングセクション拡大部分断面図である。
【図15】異なる残留時間によって得られた赤血球濃度(RBC)と血液サンプル中の赤血球の濃度に対する沈降効果の依存度を示す。
【0014】
図中、同じ符号は、同じ部材を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1つの態様において、本発明は、血液細胞沈降制御機構を有する血液分析器を提供する。
【0016】
図1から3を参照すると、1つの実施態様において、本発明の血液分析器10は、システムハウジング12と、カセット収容インターフェース20と、血液測定アセンブリ70と、システム制御部80と、ユーザーインターフェース88とを含む。
【0017】
図1および1Aに示す実施態様において、カセット収容インターフェース20は、ドア形状であり、第1および第2の位置とも言われる開口位置と閉じた位置との間で可動である。カセット収容インターフェース20は、ドアパネル22と、カセットコンパートメント30と、血液サンプルの測定中にカセットコンパートメント30内に取り外し自在に配置される使い捨てカセット中に血液が存在するか否かを検知するために動作可能な血液センサー40とを含む。
【0018】
図2は、開いた水平位置にあるカセット収容インターフェース20を示し、図3は、カセットコンパートメント30内に使い捨てカセットが置かれた同じ位置にあるカセット収容インターフェース20を示す。図2に示すようにカセットコンパートメント30は、2つの側壁32Aと32B、後壁33と、実質的に平坦な基部34上にある前面ストッパー39によって形成されている。図示の実施態様では基部34は、ドアパネル22の内面であるが、カセットコンパートメントは、ドアパネルとは別個のユニットであってもよい。カセットコンパートメント30は、使い捨てカセット100の幅に対応した2つの側壁間の幅を有する。壁の高さは、カセットの厚さより高いことが好ましい。このようなカセットコンパートメント30の構造および寸法によって、使い捨てカセットは、血液分析器によって実施されるサンプル調製工程中にコンパートメント内にしっかりと保持される。
【0019】
図2に示す実施態様において血液センサー40は、図5に示すような光検知器44および好ましくは光源42を含む光学センサーである。図2の実施態様では光源42と光検知器44は、両方ともカセットコンパートメント30の基部34の下のドアパネル22に位置する。図5は、本発明の1つの実施態様における光源42と光検知器44に対する使い捨てカセット100のサンプリングセクション120の断面を部分的に示している。カセット100の構造を図6および7に示し、後述する。好ましくは使い捨てカセットのハウジングおよびサンプリングセクション120に配置されたサンプリングスレッド150は、透明な材料で作製されている。
【0020】
図5に示すように使い捨てカセット100のサンプリングスレッド150の下に位置する光源42は、カセットのサンプリングセクションの検知領域46に光を投影し、この領域の光は、光検知器44によって検知される。検知領域46は、血液サンプルが充填された際に血液で覆われ、光に妨害されないサンプリングセクション120の領域から選択される。検知領域は、約1mmから約100mmであってもよい。血液分析器が作動しているとき、血液サンプルがサンプリングガスケット190の充填口194を介してカセットのサンプリングスレッド150とサンプリングガスケット190の間のスペースに充填される(図13Aも参照されたい)。血液は、検知領域46の面を覆い、光を吸収し、光検知器44で検知される光を減少させる。光の強度の変化が血液の有無を示す。当然のことながらハウジングとサンプリングスレッドは、透明であるので、検知領域46は、一定レベルの光を外から受けるが、自然光源からの光強度は、環境によって変化する。外からの光より実質的に強い強度を有する光源42を使用して、より一定の検知が行え、外からの光の影響を受けないようにする。
【0021】
光源42と光検知器44は、血液分析器がカセットの血液サンプリングセクション内の血液の有無を敏感に感知できる限り、種々の異なる構成が可能である。図5に示す実施態様では入射光の軸と垂直軸(基部34の面から90度である)との角度αと検知された光と垂直軸との角度βは、共に45度である。一般に角度αは、約0度から90度の範囲内にあり、角度βは、0度から80度未満の範囲内にあり、これら2つの角度は、必ずしも同じでなくてもよい。例えば1つの形態において光源42は、光を真っ直ぐ上方に投影する。別の形態では光源42は、光を横から投影し、光検知器44は、検知領域46の真下で直接検知する。さらに別の態様では入射光をカセット30の基部34に対して水平に照射し、検知領域46に投影されるように鏡で反射させることも可能である。
【0022】
本発明の目的のために当業界で知られている種々の光源および光検知器を使用することが可能である。好適な光源としては、LED、レーザー、ランプなどが挙げられるが、これらに限定されず、好適な光検知器は、フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトセンサーアレイおよびCCDアレイなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
血液センサー40の光検知器44は、システム制御部80とその時間記録機構に接続され、光検知器44によって発生される信号は、下記に詳しく説明する血液残留時間を測定するために使用することができる。
【0024】
別の実施態様では血液センサーは、カセット収容インターフェース20の好適な位置、例えばカセットコンパートメント30の側壁または後壁などに配置される電気的センサーである。この電気的センサーは、血液分析器での血液サンプルの測定のためにカセット収容インターフェース20に置かれる使い捨てカセットの感知機構に接続するように構成されている。使い捨てカセットの1つの実施態様におけるこの感知機構について図13を参照して後で説明する。
【0025】
好ましくはカートリッジ収容インターフェース20は、さらにカセットコンパートメント30内の使い捨てカセットの有無を検知するために動作可能なカセットセンサー50を含む。カセットセンサー50は、カセットコンパートメント30の好適な位置、例えば基部34、側壁32Aまたは32Bまたは後壁33に配置される機械的、電気的または光学的センサーであってもよい。図2に示す実施態様においてカセットセンサー50は、基部34に置かれた機械的センサーである。カセットセンサー50は、システム制御部に電気的に接続され、カセットコンパートメント30内の使い捨てカセットの有無を表示する信号が、システム制御部80によって後で詳しく説明する血液分析器の作動の制御に使用される。
【0026】
血液分析器10は、カセット収容インターフェース20の位置を検知するために動作する位置センサー60をさらに含む。位置センサー60は、カセット収容インターフェース20の周囲などの好適な場所またはシステムハウジング12の前方開口部14の周囲の好適な場所に配置される機械的、電気的または光学的センサーであってもよい。図2に示す実施態様では位置センサー60はドアーヒンジの端部に位置している。位置センサー60は、閉じたまたは開いた位置にあるカセット収容インターフェース20を検知する。位置センサー60は、システム制御部80に電気的に接続され、カセット収容インターフェース20の開いた位置または閉じた位置を示す信号がシステム制御部80によって後で詳しく説明する血液分析器の作動の制御に使用される。
【0027】
図4は本発明のさらなる実施態様の血液分析器200を示す。図示するように血液分析器200は、スライドするトレイ形状のカセット収容インターフェース220を含む。カセット収容インターフェース220は、フロントパネル222、コンパクトディスクドライバを開閉するために使用されるものと類似のスライド機構(図示せず)を下側に有するサポート210を有する。このサポートパネル210の上にカセットコンパートメント230が配置されている。カセットコンパートメント230の構造は、血液分析器10のカセットコンパートメント30と類似し、底部234と側壁を有し、カセットコンパートメント30の寸法は、実質的にカセットコンパートメント30の寸法と実質的に同じである。カセットコンパートメント220が図4に示すように開いた位置にあるとき、使い捨てカセット100は、カセットコンパートメント230の内側に置くことができる。カセットインターフェース220が血液分析器200のシステムハウジング212内にスライドして閉じた状態になると、カセットコンパートメント230は、回転機構(図示せず)によって垂直位置に回転し、カセット収容インターフェース20が閉じた位置にあるときにカセット100を血液分析器10内にあるのと同じ向きに移動させる。
【0028】
この実施態様において血液センサー240の構造は、血液分析器10の血液センサー40と同じであってもよい。位置センサー260は、システムハウジング212の前方開口部の上方縁部に位置し、これは機械的、電気的または光学的センサーであってもよい。カセット収容インターフェース220が閉じられると、フロントパネル222と位置センサー260とが直接接触することにより、またはフロントパネル222によって光が遮られることをきっかけとしてセンサーがカセット収容インターフェース220が閉じられたことを示す。その後センサーに電気的に接続されたシステム制御部380が回転機構を作動させてカセットコンパートメント230を垂直位置へと回動させる。従ってこの実施態様では沈降を観察するためにカセット収容インターフェースの第1の位置は、図4に示すように開いた位置にあり、第2の位置は、カセットコンパートメント230が垂直位置にあるときの位置である。この実施態様ではカセット収容インターフェース以外の後で説明する血液測定アセンブリ、圧力アクチュエーターアセンブリ、システム制御部およびユーザーインターフェースは、血液分析器10のものと実質的に同じである。
【0029】
血液測定アセンブリ70は、血液サンプル中の血液細胞およびその含有量を測定するために動作可能な1つ以上の血液測定装置を含む。1つの実施態様において血液測定アセンブリ70は、2つの血液測定装置を含み、その1つは血液サンプルの赤血球および血小板を測定するために使用され、もう一方は血液サンプルの白血球を測定するために使用される。この血液測定装置は、開口部を有する流路と、開口部を通過する個々の細胞を検知するために開口部に隣接して配置された検知器を含む。この検知器は、電気的検知器または光学検知器であってもよい。電気検知器は、水性導電性サンプル混合物中に懸濁された各血液細胞が開口部を通過した際に発生する交流インピーダンス信号(DC)または無線周波数インピーダンス信号(RF)を直接測定する。これらのインピーダンス信号は、サンプル混合物中の細胞の数を数え、細胞の大きさを測定するために使用される。光学センサーは、開口部を通過する血液細胞によって発生する光の分散または吸収信号を測定し、これらの信号は、サンプル混合物中の細胞の数を数え、細胞の大きさを測定するために使用される。血液細胞測定のための当業界で知られている好適な電気検知器または光学検知器を本発明の目的のために使用することができる。
【0030】
血液測定アセンブリ70は、さらにヘモグロビン測定装置を含み、これは所定の長さの光経路を有するキュベット、光源およびキュベットを通過する光の吸収を測定するために光経路と位置合わせされた光学検知器とを含む。好ましくはキュベットは、白血球測定のために使用される血液測定装置と流体接続し、よって血液サンプル中のヘモグロビン濃度および白血球は、1つのサンプル混合物を使用して測定することができる。白血球およびヘモグロビン濃度を測定する際に一定量の血液サンプルが溶血剤と混合され、赤血球を溶かし、ヘモグロビン色原体を形成するヘモグロビン分子を通常ヘモグロビンリガンドまたは溶血剤に含まれている安定剤と共に放出される。形成されたサンプル混合物は、キュベットと同様に流路の開口部を通過し、白血球とヘモグロビン濃度は、同じサンプル混合物を使用して順次測定することができる。
【0031】
これとは別に2つの別個のサンプル混合物を調製し、これを白血球およびヘモグロビン濃度を測定するために使用することができる。この構成ではヘモグロビン測定装置は、白血球測定に使用される流路から隔てられている。
【0032】
赤血球、白血球およびヘモグロビン濃度測定において発生する信号は、システム制御部80から独立したまたはこれと一体化されたデータプロセッサーによって処理される。
【0033】
さらに血液測定アセンブリ70は、使い捨てカセット100と流体接続し、使い捨てカセット100内の調製されたサンプル混合物を測定用血液測定アセンブリ70内に移送する。図12に示すような1つの実施態様においてカセットインターフェース74は、後述するように挿通によって使い捨てカセット100のサンプリング出口およびクリーナー出口と係合する針74A、74Bおよび74Cなどの1つ以上の挿通エレメントを含む。
【0034】
1つの実施態様において血液分析器10または200は、後述するように血液と薬剤とを混合して測定のためのサンプル混合物を調製するために、選択された混合チェンバーに圧力を加えるための圧力アクチュエーターアセンブリ90を含む。図12に示す1つの実施態様において圧力アクチュエーターアセンブリ90は、複数のプランジャー92、94、96、98を含み、これらは1つ以上のモーター(図示せず)によって制御される。各プランジャーは、使い捨てカセット100のチェンバーの1つを押し込むように構成されたマッシュルーム状の頭部を有する。
【0035】
本発明の血液分析器の血液細胞沈降制御機構を理解してもらうために、血液分析器10または200に使用可能な使い捨てカセットの例を以下に説明する。
【0036】
図6に示すように使い捨てカセット100は、上部パネル112および充填口194を有するサンプリングセクション120を有するハウジング110と、このハウジング110の上部パネルに形成された窪み形状であって、ダイアフラム116によって封止された複数のチェンバーまたは容器130、132、134、136および138と、選択されたチェンバーを相互に連結するように構成された複数のチャネル140、142、144および146とを含む。1つの実施態様においてチェンバー130および132は、赤血球サンプル混合物を調製するために対として相互に連結され、図6に示すようにチェンバー132のようなこれら2つのチェンバーの1つには所定量の血液希釈剤が予め充填されている。同様にチェンバー134および136は、白血球サンプル混合物を調製するために対として相互に連結され、図6に示すようにチェンバー134のようなこれら2つのチェンバーの1つには所定量の溶血剤が予め充填されている。図示の態様ではチェンバー138には血液サンプルの測定の後に血液測定アセンブリ70の血液測定装置の流路をクリーニングするためのクリーニング液が予め充填されている。ダイアフラム116は、上部パネル112の上側全体を封止し、チェンバーおよびチャネルの周囲の隆起した境界に溶接されるが、血液を充填している間にサンプリングセクション内の空気を放出するためにサンプリングセクションにおいて、特に上部パネル112の換気開口部175上でダイアフラムと上部パネル112との間にスペース172を設けるのが好ましい(図7および10参照)。
【0037】
使い捨てカセット100は、さらにサンプル出口131および135を含み、前者はチェンバー132とチャネル142とを相互に接続し、後者はチェンバー134とチャネル144とを相互に接続する。各サンプル出口は、ディバイダーを含み、チェンバー132および134に含まれている液体試薬を封止して、流れ出ないようにしている。またカセットは、チェンバー138に接続されたクリーナー出口139も有する。任意ではあるが使い捨てカセット100は、各カセットを識別するためのバーコード170を含んでもよい。
【0038】
1つの実施態様において使い捨てカセット100は、充填位置とフラッシング位置間で移動可能なサンプリングスレッド150をサンプリングセクション120に含む(図7および8参照)。図8に示すようにサンプリングスレッド150は、平坦な上面152、第1サンプリングキャビティー154、第2サンプリングキャビティー156を有する。両サンプリングキャビティーは、上面に形成された凹部形状であり、それぞれ所定の容量を有する。サンプリングキャビティー154は、赤血球測定のために血液サンプルを所定量分離するために使用され、サンプリングキャビティー156は、白血球測定のために血液サンプルを所定量分離するために使用される。1つの実施態様においてサンプリングキャビティー154は、約0.1μlの容量を有し、サンプリングキャビティー156は、約5μlの容量を有する。血液サンプル中の赤血球濃度は、実質的に白血球濃度より高いので、サンプリングキャビティー154は、実質的にサンプリングキャビティー156より小さい。サンプリングスレッド150は、スロット155および157を介してハウジングの上部パネルの下側にスナップ式に嵌め込まれる。サンプリングスレッド150は、ハウジング20のプッシャー開口部114を介して触れることができるプッシャーインターフェース158を有する(図6参照)。
【0039】
使い捨てカセット100は、さらに図9に示すようなサンプリングガスケット190を含み、これは上部パネル112の下側のガスケットシート内に配置される。サンプリングガスケット190は、サンプリング150の平坦な上面152に対して直接位置する平坦な下面192を有する。下面192には充填口194の外側から換気開口部195の外側に延びた長尺の凹部197がある。平坦な下面192がサンプリングスレッド150の平坦な上面152に直接位置するので、凹部197は血液充填スペースを形成する。サンプリングガスケット190は、円形のリム194aに囲まれた充填口194と換気開口部195を有する。充填口194は、血液サンプルを充填するためにカセット100の上側から直接触れることができる。サンプリングガスケット190は、チャネル140および142を接続する第1貫通孔196およびチャネル144および146を接続する第2貫通孔198を含む。
【0040】
図11および11Aは、サンプル容量分離またはセグメント化機構を例示している。図11においてサンプリングスレッド150は、充填位置4Aにあり、図11Aにおいてサンプリングスレッド150は、フラッシング位置4Bに移動している。サンプリングスレッド150の2−2’線の相対位置を参照されたい。充填位置4Aにおいて、サンプリングスレッド150の充填口194、換気開口部195、第1および第2サンプリングキャビティー154および156は、全てサンプリング150の2−2’線に位置合わせされている。これにより血液8が充填口194を介して充填されると、第1サンプリングキャビティー154および第2サンプリングキャビティー156内に流れ、凹部197を満たす(図11の影が付けられた部分を参照)。充填口194、凹部197、第1および第2サンプリングキャビティー154および156および換気開口部195の連通状態は、図11の2−2’線に沿った断面を示す図10にて確認できる。充填中、カセットは図10に示すように充填口194が上を向いた水平位置にある。
【0041】
充填後、サンプリングスレッド150は、プッシャー160または作業者の手で図11Aに示すフラッシング位置4Bに押し込まれる。サンプリングスレッド150の第1および第2サンプリングキャビティー154および156が凹部197から移動すると、第1および第2キャビティー154、156より上の血液は、サンプリングスレッド80の平坦な上面152に対してサンプリングガスケット190の凹部197の縁部197aによって掻き取られる。これにより所定の量の血液が赤血球測定のための第1サンプリングキャビティー154内にセグメント化または分離され、所定量の血液が白血球測定のための第2サンプリングキャビティー156内にセグメント化または分離される。図11Aに示すようにサンプリングスレッド150がフラッシング位置4Bにあるとき、第1キャビティー154は、チェンバー130、132と流体連通するチャネル140、142と連通し、第2キャビティー156は、チェンバー134、136と流体連通するチェネル144、146と位置合わせされる。
【0042】
血液サンプルを測定する工程に置いて、使い捨てカセット100は、開いた位置にあるカセット収容インターフェース20のカセットコンパートメント30内に置かれ、血液サンプルが充填口194を介してカセットのサンプリングセクション120内に充填される。それから直ぐにカセット収容インターフェース20は、閉じた位置に移動する。このとき血液測定アセンブリ70のカセットインターフェース74は、サンプリング出口131、135およびクリーナー出口139内に挿通する針74A、74Bおよび74Cと使い捨てカセット100を係合させる(図12参照)。針74Aおよび74Bは、サンプル出口内のディバイダーを突き通し、チェンバーとそれらの対応するチャネル間で流体連通を生じさせる。その後血液分析器が圧力アクチュエーターアセンブリ90を作動させ、プランジャー94を移動させてチェンバー132に圧力を加え、血液希釈剤がチェンバー132からチャネル142、貫通孔196、チャネル140を介してチェンバー130内に流れるようにする。圧力アクチュエーターアセンブリ90は、プランジャー96も移動させて、チェンバー134に圧力を加えて、溶血剤がチェンバー134からチャネル144、貫通孔198、チャネル146を介してチェンバー136内に流れ込むようにする。これによって各対のチャネル、貫通孔およびチェンバーは、その中に含まれている各試薬によって下塗りされる。
【0043】
この時システム制御部は、血液分析器のサンプリング作動機構としてプッシャー160を作動させ、サンプリングスレッド150を充填位置4Aからフラッシング位置4Bへと押し込む。サンプリングスレッドがこのように移動することによって第1キャビティー154内の血液サンプルを第1の所定量にセグメント化または分離し、第2キャビティー156内の血液サンプルを第2の所定量にセグメント化または分離する。サンプリングスレッド150がフラッシング位置に移動すると、圧力アクチュエーターアセンブリ90がプランジャー94、96を前方に移動させ、再び圧力をチェンバー132、134に加える。この時チェンバー132内の希釈剤は、チャネル142を介して流れ、第1サンプリングキャビティー154内の所定量の血液8をチャネル140内にフラッシングし、図11Aに示すように血液をチェンバー130内に移送する。同様にチェンバー134内の溶血剤は、チャネル144を介して流れ、第2サンプリングキャビティー156内の所定量の血液8をチャネル146内にフラッシングし、図11Aに示すように血液をチェンバー136内に移送する。それからさらに圧力アクチュエーターアセンブリ90がチェンバー130および132に圧力を交互に加え、血液と血液希釈剤を混合し、第1のサンプル混合物を形成し、チェンバー134および136に圧力を交互に加えて血液と溶血剤を混合し、第2のサンプル混合物を形成する。図12においてカセットの仮想線像は、係合を例示するために示したものである。
【0044】
その後第1および第2サンプル混合物は、サンプル出口131および135から針およびそれに接続された導管を介して赤血球および白血球濃度を測定するための2つの血液測定装置内に引き込まれる。測定が終了した後、チェンバー138内のクリーニング液は、出口139を介して2つの血液測定装置の流路に接続されたカセットインターフェースの導管内に引き込まれ、流路を洗浄し、サンプル混合物はチェンバー130、132およびチャネル134、136内に戻される。それからカセット収容インターフェース20は、開いた位置に移動し、使用済みのカセットが作業者によって廃棄される。
【0045】
本発明の使い捨てカセットおよび血液分析器でのその使用についての説明と共に電気的センサー型の血液センサーによって動作可能な電気的感知機構について図13および13Aを参照してここで説明する。図13に示すように使い捨てカセット100は、上部パネル112の換気開口部175内に配置された一対の電極176a、176bを含んでもよい。電極の上端176a’および176b’は、電気接触のために露出した電極インターフェースを形成するハウジング110の側壁または上部パネル112に位置し、周囲がダイアフラム116によって封止されている。電極インターフェースは、カセットが血液分析器で使用されているとき、血液分析器のカセットインターフェース20の電気的センサー(図示せず)に接続するように構成されている。図13Aに例示するように血液8が血液充填口194を介してサンプリングセクションに充填されると、血液が第1および第2キャビティー154および156内に流れ、さらに換気開口部175内のスペース、通常換気開口部上の狭い入り口スペース172を満たす。従って充填中、電極176a、176bは、血液に浸り、回路を閉じる。発生した電気信号は、カセット内の血液の有無を表す血液分析器の電気的センサーによって感知される。この電気的センサーは、システム制御部80およびその時間記録機構に接続され、電気的センサーによって発生した信号は、後述する血液残留時間を決定するために使用することができる。
【0046】
血液分析器10のシステム制御部80は、時間記録機構および予め定められた沈降時間制御基準を含む。時間記録機構は血液の沈降を制御するためにサンプル調製の工程において1つ以上の選択された期間を記録する。1つの実施態様において時間記録機構は、デジタルまたはアナログタイマーであって、血液センサー、位置センサーおよび/または上述のサンプリング作動機構によって作動または停止される。
【0047】
本発明の1つの実施態様において第1の血液残留時間と第2の血液残留時間を記録し、これらをサンプル調製の間の血液の沈降を制御するために使用することができる。第1残留時間は、血液サンプルがカセット100のサンプリングセクション120に充填される際の血液センサーが血液サンプルの有無を検知したときの充填時間とカセット収容インターフェース20が閉じた位置に移動した、またはカセット収容インターフェース220のカセットコンパートメント230が垂直位置に移動したときの係合時間との間の時間間隔として定義される。第2残留時間は、この係合時間と所定量の血液サンプルが測定のためにサンプリングセクション120で分離されたときのサンプリング時間との間の時間間隔として定義される。サンプリングスレッド150が血液分析器によって移動した際に、所定量の血液サンプルは、血液分析器がサンプリング作動機構を作動させると直ぐに分離または沈降するので、サンプリング時間は血液分析器がサンプリング作動機構を作動させる時間となり得る。
【0048】
上述のサンプル調製工程から明らかなように、充填時にはカセット収容インターフェース20は、開いた状態、実質的には水平位置にあり、使い捨てカセット100も実質的に水平位置にある。作業者が血液サンプルを充填口194を介して導入した後、血液はサンプリングセクション120内の利用可能なスペース全体を満たす。図14および14Aは、図8のサンプリングスレッドのA−A’線に沿ったカセットのサンプリングセクションの部分拡大断面図であり、血液サンプル8が第1サンプリングキャビティー154および凹部197(第2サンプリングキャビティーは図示せず)に充填されたカセットの水平および垂直位置にある状態をそれぞれ示している。図示したように水平位置では、第1キャビティー154上の血液中の血液細胞は、カセットがこの位置に留まる場合、重力によって下方に移動し、キャビティー内に沈む。カセットがこの水平位置に約20分間維持された場合、言い換えれば第1残留時間がこれを越えた場合、血液細胞が充分に沈降して血液分析器によって報告される赤血球濃度を上昇させる原因になることが観察された。さらに第1残留時間を延ばすと、医療診断目的として要求される許容誤差範囲を超えてしまう。
【0049】
当然のことながら同じ沈降現象が、血液が白血球測定に使用される第2キャビティー156の血液にも生じる。しかしながら測定される細胞、即ち赤血球、血小板および白血球の中で、医療診断分析の赤血球濃度測定に必要とされる精度は、他の細胞測定の精度より実質的に高く、通常、要求される変動係数(CV)は、1%未満である。一般に血小板濃度測定に要求されるCVは、5%未満である。従って沈降の影響という点で、赤血球濃度(RBC)が最も影響を受けるパラメーターである。
【0050】
図15は上述の血液分析器での赤血球濃度測定に対する沈降の影響を例示したものであり、サンプル調製工程中の異なる第1残留時間による血液サンプルの赤血球濃度(RBC)の結果を示している。血液サンプルを測定するための本発明の使い捨てカセット100および血液分析器を使用することによって、一般的な医療検査の技量を有する作業者の平均的な第1残留時間は、約10から15秒であり、赤血球濃度の測定に対する沈降の影響が最も小さく、測定結果は要求された精度および正確さの範囲に充分入っている。しかしながら残留時間を延ばした場合に生じ得る影響を評価、例示するために、図15に示した結果は、技量が劣る作業者または不慮の状況を模した通常の工程より実質的に長い第1残留時間によって得られたものである。図15に示すように報告されたRBCは、第1残留時間に対してほぼ直線的に増加している。さらに判るように第1残留時間に対する報告されたRBCの増加率は、血液サンプルの赤血球濃度が低い程増加する。言い換えれば沈降は、比較的低い赤血球濃度を有する血液サンプルに強い影響を与える。
【0051】
図14Aは、カセット収容インターフェース20が閉じた位置に移動した際の垂直に配向された使い捨てカセット100のサンプルセクション120を示している。言い換えれば第2残留時間中、血液8はこのように配向されている。この時、最初は第1キャビティー154および第2キャビティー156(図示せず)上にあった血液は、これらキャビティーの横に位置している。このため第2残留時間中の血液細胞の沈降は、第1残留時間中の沈降ほど血液濃度の結果に与える影響は実質的に小さい。サンプリングの際には第1キャビティー154と第2キャビティー156の外側にある血液は、掻き取られ、これらキャビティー内の血液は、サンプリングセクション120内の血液サンプルの他の部分とは接触しない。従って分離の後、この分離された血液を試薬と混合する前に放置しても、血液細胞測定の結果はさらなる沈降の影響を受けない。言い換えればキャビティー内の血液細胞の数は、カセットが垂直に配向されている際に血液細胞が均一に懸濁している、あるいはキャビティーの下側に向かって下降しているに関係なく、一定である。従って当然のことながら沈降の影響は、第1および第2残留時間中のみ考慮すればよく、所定量の血液が分離された後は沈降は影響を及ぼさない。
【0052】
システム制御部のさらなる部材およびその機能を血液細胞の沈降が血液サンプルの測定の精度に影響を与えないようにするためのサンプル調製工程および血液分析器での測定の制御に関して以下に説明する。
【0053】
システム制御部80は、システム制御プログラムを有するマイクロプロセッサーであってもよい。1つの実施態様においてシステム制御プログラムは、第1残留時間の上限を含む所定の沈降時間制御基準を含む。この所定の沈降時間制御基準は、後述するようなさらに他の好適なパラメーター、例えば第2残留時間の上限を含んでもよい。さらにシステム制御部は、所定の沈降制御基準を参照して血液サンプルの記録された残留時間を評価するために動作可能な沈降評価機構をさらに含み、所定のサンプル分析に関するインストラクション、例えばさらなる進行を指示するインストラクション、注意を促すインストラクションまたは中止させるインストラクションの内の1つ以上が以下に詳述するように評価の結果に基づいた沈降評価機構によって発せられる。
【0054】
上述のサンプル分析工程において、作業者が血液サンプルをカセット10の充填口194を介してサンプリングセクション120内に導入すると、時間記録機構が血液センサー40によって作動し、第1残留時間を記録する。その後システム制御部80の沈降評価機構が記録された第1残留時間と沈降時間制御基準にプリセットされた上限と比較し、この比較または評価の結果に基づいてサンプル分析に関するインストラクションを発する。記録された第1の残留時間が上限を超えない場合、さらなる進行を指示するインストラクションが沈降評価機構によって発せられる。このインストラクションによって血液測定アセンブリ70が使い捨てカセットとの係合を進行させ、赤血球および白血球濃度並びにヘモグロビン濃度を測定するための流路に第1および第2サンプル混合物を送り込む。これらの測定結果は、血液分析器に報告される。
【0055】
記録された第1の残留時間が上限を超えた場合、注意を促すインストラクションが沈降評価機構によって発せられる。このようなインストラクションの下では血液測定アセンブリ70が上述のような測定を進行させるが、沈降の警告が血液分析結果に発せられる、または沈降の警告のみが測定の結果なしに発せられる。
【0056】
さらに記録された第1の残留時間が上限を超えた場合、注意を促すインストラクションが発せられる代わりに工程を中止させるインストラクションが沈降評価機構によって発せられる場合がある。このようなインストラクションの下では、サンプル調製の後の工程、例えば所定量の血液の分離および血液と試薬の混合並びに血液測定アセンブリ70による血液サンプル混合物の測定などが完全に中止される。この状況ではエラーメッセージをユーザーインターフェース88に表示して、作業者にこの血液サンプルを新しいカセットでやり直すことを要請するようにすることも可能である。
【0057】
システム制御部の沈降評価機構は、記録された残留時間とその定義された上限との比較、および/または所定の沈降制御基準の他の要件の評価を行い、サンプル分析に関するインストラクションまたは決定を発するように設計されたアルゴリズムを含むコンピュータープログラムであってもよい。
【0058】
上述のように所定の沈降時間制御基準は、第2残留時間の上限を含んでもよい。この場合、システム制御部の沈降評価機構は、記録された第1および第2残留時間を沈降時間制御基準にプリセットされたそれぞれ対応する上限と比較し、上述のように比較の結果に基づいてサンプル分析のインストラクションを発する。
【0059】
上述の実施態様において、サンプリングスレッド150は、充填位置4Aからフラッシング位置4Bへとシステム制御部80によって作動するプッシャー160によって移動する。作業を自動化する場合、システム制御部80は、サンプリングに関するインストラクションを含み、これは位置センサー60がカセット収容インターフェース20が閉じた位置に移動したことを検知したときにサンプリング作動機構を作動させる。当然のことながら自動化された作業では第2残留時間は、機器に故障が生じなければ、実質的に血液分析器で調製される全ての血液サンプルの定数になり得る。従って第2残留時間の上限は、機器の信頼性基準としても機能する。
【0060】
また別の実施態様において、使い捨てカセット100が水平位置にあり、カセット収容インターフェース20が開いた位置にあるとき、サンプリングスレッド150を充填位置4Aからフラッシング位置4Bへと手動で移動させることも可能である。この実施態様ではカセットコンパートメントの側壁32Aに作業者が触れることができる開口部を設けることも可能である。この場合、所定量の血液の分離は、第1キャビティー154および第2キャビティー156が図13Aおよび14に示すように水平位置にあるときに行われる。分離の後、2つのキャビティー上の血液は、掻き取られ、従ってカセットがさらに水平位置に留まる場合、またはカセット収容インターフェース20が閉じた位置に移動した後にさらに動かない状態にある場合、さらに血液細胞濃度測定に沈降が影響することはない。このような状況において上述の第1残留時間は、沈降を考慮する必要がある間の残留時間となる。
【0061】
作業を自動化する場合、システム制御部80は開始基準を含んでもよく、これは血液サンプルの分析の開始、言い換えれば前の血液サンプルの測定が完了した後の新しいサイクルのサンプル調製および測定の開始のための準備が整ったことの表示を含む。1つの実施態様において位置センサー60が閉じた位置にカセット収容インターフェース20が存在しないことを検知し、カセットセンサー50がカセットコンパートメント30内に使い捨てカセット100が存在しないことを検知した場合、これは使用済みのカセットが取り除かれ、カセット収容インターフェース20が新しいカセットを収容するために開いた位置にあることを意味する、システム制御部80は新しいサンプルの分析を開始するためにタイマーおよびデータープロセッサーをリセットする準備が整ったことを表示する。当然のことながら、この時血液センサー40は血液の有無も検知する。
【0062】
さらに作業者が血液サンプルを作業台で充填し、充填されたカセットを血液分析器に装填するのを防ぐために、システム制御部80の開始基準はカセットをカセットコンパートメント30に装填し、血液サンプルを充填する順番および時間間隔に関する条件を含んでもよい。このような条件は、血液センサーが血液サンプルのカセット内の充填を検知する前にカセットセンサーがカセットがカセットコンパートメント30内に装填されたことを検知することを要求するものである。もしこの要求が満たされなければ、システム制御部80は血液の分析の開始を中止する。もし作業者が作業台のカセット内に血液サンプルを充填し、既に充填されたカセットをカセットコンパートメント30に移動させた場合、カセットセンサーと血液センサーは、同時にカセットと血液の存在を検知する。これは上記条件を満たさず、システム制御部80は、上述のサンプル調製工程を開始しない。
【0063】
さらに本発明の血液分析器は、1つ以上のユーザー規制機構を含んでもよい。1つの実施態様において血液分析器は、時間記録機構またはシステム制御部80に接続されたアラームをさらに含む。血液サンプルがカセットに充填され、記録された時間が所定の警告リミット、例えば10秒間を超えると、時間記録機構またはシステム制御部80がアラームを鳴らし、作業者にカセット収容インターフェースを閉じた位置に移動させるように知らせる。これとは別にカセット収容インターフェースを記録された時間が所定の警告リミットを超えたら、自動的にカセット収容インターフェースを閉じた位置に移動させるようにすることも可能である。さらに別の実施態様では血液分析器は、図2に示したようなヒンジ式のドアパネルの代わりにバネで留められたドアパネルを含んでもよい。このようなバネで留められたドアパネルによって、作業者は血液サンプルを充填するために片手でドアパネルを開いた保持する必要があり、作業者が手を離すとドアが閉じる。この構造は、作業者の遅延による第1残留時間が延びる可能性を自然に低減することができる。
【0064】
上述の沈降制御機構に加えて、任意ではあるが光学的なカセット収容インターフェース20がさらにサンプルセクション120内に充填された血液細胞を移動させて沈降を遅らせるためにドアパネルに配されたバイブレーターのようなモーションアクティベーターを含んでもよい。
【0065】
上記から明らかなように上述の沈降制御機構を有する本発明の血液分析器は、沈降が測定結果の精度に影響を与えないように血液の残留時間を監視、制御することができる。当然のことながら本発明を細胞粒子計数に直接関連する血液分析を参照して説明してきたが、本発明の沈降制御機構は、血液サンプル中の細胞粒子の沈降が考慮される他の血液分析機器にも使用することができる。さらに本発明の沈降制御機構は、サンプル分離および測定工程において他の粒子の懸濁液、生物学的または非生物学的懸濁液の粒子の沈降を監視、制御するために使用することも可能である。
【0066】
本発明を添付の図面を参照し、詳しく説明したが、これらは本発明の範囲を限定するものではなく、むしろ本発明の好ましい実施態様の例示であるとみなすべきである。当然のことながら種々の変性および変更は、本明細書中で説明し、添付の特許請求の範囲に記載れた本発明の範囲内およびそれと法的に同等なものの範囲内で可能であることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カセットコンパートメントと、このカセットコンパートメントに取り外し自在に配置される使い捨てカセット内の血液の有無を検知するように動作する血液センサーとを含むカセット収容インターフェースと、
(b)血液センサーに接続され、時間記録機構と、所定の沈降時間制御基準とを含むシステム制御部と、
(c)このシステム制御部に接続され、前記使い捨てカセットに接続するように構成された血液測定アセンブリとを含む血液分析器。
【請求項2】
前記血液センサーは、光学的、機械的または電気的センサーを含むことを特徴とする請求項1記載の血液分析器。
【請求項3】
前記沈降時間制御基準は、残留時間の上限を含み、この残留時間は、血液センサーがカセット内に血液サンプルが充填されたことを検知したときの充填時間と所定量の血液サンプルが測定のためにカセット内で分離されたときのサンプリング時間との間の時間間隔によって定義されることを特徴とする請求項1記載の血液分析器。
【請求項4】
前記システム制御部は、所定の沈降制御基準を参照して血液サンプルの記録された残留時間を評価するために動作可能な沈降評価機構をさらに含むことを特徴とする請求項3記載の血液分析器。
【請求項5】
前記カセット収容インターフェースは、第1の位置と第2の位置との間で移動可能であり、前記血液分析器は、さらにシステム制御部に電気的に接続され、カセット収容インターフェースの位置を検知するために動作可能な位置センサーを含むことを特徴とする請求項1記載の血液分析器。
【請求項6】
前記位置センサーは、光学的、機械的または電気的センサーを含むことを特徴とする請求項5記載の血液分析器。
【請求項7】
前記カセットに充填された所定量の血液サンプルの分離を開始するために前記カセットと係合するように構成されたサンプリング活性機構をさらに含むことを特徴とする請求項5記載の血液分析器。
【請求項8】
前記沈降時間制御基準が第1残留時間の上限を含み、この第1残留時間は、血液センサーがカセット内に血液サンプルが充填されたことを検知したときの充填時間と前記カセット収容インターフェースが前記第2の位置に移動したときの係合時間との間の時間間隔として定義されることを特徴とする請求項5記載の血液分析器。
【請求項9】
前記システム制御部が前記所定の沈降制御基準を参照して血液サンプルの記録された残留時間を評価するために動作可能な沈降評価機構をさらに含むことを特徴とする請求項8記載の血液分析器。
【請求項10】
前記システム制御部がさらなる進行を指示するインストラクション、警告するインストラクションまたは中止させるインストラクションなどのサンプル分析に関する所定のインストラクションをさらに含むことを特徴とする請求項9記載の血液分析器。
【請求項11】
前記システム制御部がサンプリングに関するインストラクションを含み、このインストラクションは、前記カセット収容インターフェースが前記第2の位置に移動した際に前記サンプリング活性機構を始動させて、前記カセット内の前記所定量の血液サンプルを測定のために分離することを特徴とする請求項8記載の血液分析器。
【請求項12】
前記沈降時間制御基準がさらに第2残留時間の上限を含み、この第2残留時間は、前記係合時間と所定量の血液サンプルが測定のために前記カセット内で分離されたときのサンプリング時間との間の時間間隔として定義されることを特徴とする請求項11記載の血液分析器。
【請求項13】
記録された第1残留時間が前記上限を超えた際に前記カセット収容インターフェースが前記第2の位置に移動することを特徴とする請求項8記載の血液分析器。
【請求項14】
前記システム制御部がさらなる進行を指示するインストラクション、警告するインストラクションまたは中止させるインストラクションなどのサンプル分析に関する所定のインストラクションをさらに含むことを特徴とする請求項13記載の血液分析器。
【請求項15】
前記カセット収容インターフェースがシステム制御部に電気的に接続され、カセットコンパートメント内の使い捨てカセットの有無を検知するために動作可能なカセットセンサーをさらに含むことを特徴とする請求項11記載の血液分析器。
【請求項16】
前記システム制御部がさらに開始基準を含み、この開始基準は、前記位置センサーが前記第2の位置に前記カセット収容インターフェースが無いことを検知し、前記カセットセンサーが前記カセットコンパートメントに前記使い捨てカセットが無いことを検知した際にサンプル分析を開始することの準備が整ったことを示す表示を含むことを特徴とする請求項15記載の血液分析器。
【請求項17】
前記システム制御部がさらに前記カセットを前記カセットコンパートメント内に配置することと前記血液サンプルを前記カセットに充填することの順番、時間間隔に関する条件を含むことを特徴とする請求項15記載の血液分析器。
【請求項18】
前記カセット収容インターフェースがさらに前記カセットコンパートメント内に配置された前記使い捨てカセットに影響を与え、前記カセット内の血液の粒子を移動させて沈降を遅らせるように構成された移動アクティベーターを含むことを特徴とする請求項1記載の血液分析器。
【請求項19】
血液分析器でサンプルを調製する間に血液細胞の沈降を制御する方法であって、該方法は、
(a)カセットコンパートメントおよび血液センサーを含むカセット収容インターフェースと、血液測定アセンブリと、前記血液センサーと前記血液測定アセンブリに電気的に接続され、時間記録機構および所定の沈降時間制御基準を含むシステム制御部とを含む血液分析器を供する工程と、
(b)使い捨てカセットを前記カセットコンパートメント内に置き、前記使い捨てカセット内に血液サンプルを充填する工程と、
(c)前記カセットの前記血液サンプルを所定量分離する工程と、
(d)前記血液センサーが前記カセット内に血液サンプルが充填されたときを検知した充填時間と前記所定量の血液サンプルが前記カセット内で分離されたときのサンプリング時間との間の時間間隔によって定義される残留時間を前記時間記録機構を使用して記録する工程と、
(e)前記血液サンプルの記録された残留時間を前記所定の沈降時間制御基準の前記残留時間の上限と比較する工程と、
(f)サンプルの分析結果を(e)で得られた結果に基づいて発する工程とを含む。
【請求項20】
前記分析結果が記録された残留時間が前記上限を超えない場合に発せられるさらに分析を進めるインストラクションとなったときに前記血液測定アセンブリで前記血液サンプルを測定する工程をさらに含むことを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記分析結果が記録された残留時間が前記上限を超えた場合に発せられる警告のインストラクションとなったときに前記血液測定アセンブリで前記血液サンプルを測定し、血液分析レポートに沈降の警告を発する工程をさらに含むことを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記分析結果が記録された残留時間が前記上限を超えた場合に発せられる中止のインストラクションとなったときに前記血液測定アセンブリでの前記血液サンプルの測定を中止させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項23】
血液分析器でサンプルを調製する間に血液細胞の沈降を制御する方法であって、該方法は、
(a)(i)使い捨てカセットを収容するためのカセットコンパートメントと血液センサーとを含み、血液サンプルが前記カセットに充填される第1の位置と所定の量の前記血液サンプルが前記カセット内で分離される第2の位置との間で可動であるカセット収容インターフェースと、
(ii)血液測定アセンブリと、
(iii)前記血液センサーと前記血液測定アセンブリに接続され、時間記録機構と所定の沈降時間制御基準とを含み、この沈降時間制御基準が第1残留時間の上限を含み、この第1残留時間が血液センサーがカセット内に血液サンプルが充填されたときを検知した充填時間と前記カセット収容インターフェースが前記第1の位置から前記第2の位置に移動したときの係合時間との間の時間間隔として定義されるシステム制御部とを含む血液分析器を供する工程と、
(b)ユーザーが前記使い捨てカセットを前記カセットコンパートメント内に配置し、前記カセット収容インターフェースが前記第1の位置にあるときに血液サンプルを前記使い捨てカセット内に充填する工程と、
(c)前記時間記録機構を使用して前記血液サンプリングの前記第1残留時間を記録する工程と、
(d)記録された第1残留時間が前記上限を超えたときに前記血液サンプルの前記第1残留時間を制限する行為を開始する工程とを含む方法。
【請求項24】
前記行為が記録された第1残留時間が前記上限を超えた際に自動的に前記第2位置へと前記カセット収容インターフェースを移動させることを含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記行為が記録された第1残留時間を前記上限を超えた際にアラームを始動させるシステム制御を含むことを特徴とする請求項23記載の方法。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図11A】
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【図12】
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【図13】
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【図13A】
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【図14】
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【図14A】
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【図15】
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【公表番号】特表2012−513025(P2012−513025A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542051(P2011−542051)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【国際出願番号】PCT/SE2009/000520
【国際公開番号】WO2010/071542
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(599017461)ブール メディカル アーベー (6)
【Fターム(参考)】