血液脳関門インヴィトロ・モデル、病態血液脳関門インヴィトロ・モデル、及びこれを用いた薬物スクリーニング方法、病態血液脳関門機能解析方法、病因解析方法
【課題】血液脳関門を通過して中枢に作用する薬物、あるいは血液脳関門自体に作用する薬物、あるいは中枢での作用を期待しない薬物で脳内に移行する薬物のスクリーニング系を提供することである。また、本発明の他の目的は、このスクリーニング系に様々な病態環境を負荷することで病態下における病因解析研究や上記スクリーニングを可能とすることである。
【解決手段】培養液と、当該培養液を保持するプレートと、当該培養液に浸漬し、かつ、当該プレートの底面に接触しないで配置されたフィルターと、からなる立体培養装置を用い、当該フィルターが直径0.35〜0.45μmの穴を多数有し、当該フィルターの上面に初代培養脳毛細血管内皮細胞を播き、当該フィルターの下面に初代培養脳ペリサイトを播き、当該プレートの内面に初代培養アストロサイトを播き、通常の培養液で共培養してなる、血液脳関門インヴィトロ・モデルである。
【解決手段】培養液と、当該培養液を保持するプレートと、当該培養液に浸漬し、かつ、当該プレートの底面に接触しないで配置されたフィルターと、からなる立体培養装置を用い、当該フィルターが直径0.35〜0.45μmの穴を多数有し、当該フィルターの上面に初代培養脳毛細血管内皮細胞を播き、当該フィルターの下面に初代培養脳ペリサイトを播き、当該プレートの内面に初代培養アストロサイトを播き、通常の培養液で共培養してなる、血液脳関門インヴィトロ・モデルである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液脳関門(blood―brain barrier)
(一般に、「BBB」と略して呼ばれている。)in vitroモデル及び病態血液脳関門インヴィトロ・モデルに関する。
「in vitro」あるいは「インヴィトロ」とは、「ガラス容器の中で」という意味のラテン語で、生物学用語としては種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」摘出・遊離されている状態をさす。(岩波 生物学辞典、 岩波書店、 1998年11月10日、参照)
すなわち、血液脳関門を通過して中枢に作用する薬物、あるいは血液脳関門自体に作用する薬物、あるいは中枢での作用を期待しない薬物で脳内に移行する薬物のスクリーニング系に関する。
【0002】
また、本発明は、血液脳関門インヴィトロ・モデル及び病態血液脳関門インヴィトロ・モデルを用いた薬物スクリーニング方法に関する。すなわち、本発明の血液脳関門インヴィトロ・モデルあるいはスクリーニング系に様々な病態環境を負荷することで病態下における病因解析研究や上記スクリーニングを可能とする。
【背景技術】
【0003】
血液脳関門(blood−brain barrier;BBB)は、繊細な神経細胞が生きる、脳という特異な環境における神経細胞の生存と活動のために進化した環境整備機構である。血液から中枢神経系への物質の侵入の遮断(関門)と取り込み(輸送)という二律背反を、その構成単位である脳毛細血管内皮細胞、アストロサイト(星状膠細胞)およびペリサイト(周皮細胞)の3種類の細胞が機能的に一体となって克服した高度機能分化システムということができる。BBBの関門機能は脳毛細血管内皮細胞の細胞間接着構造であるタイトジャンクション(tight junction, 密着結合)に代表され、選択的な取り込み(輸送)機構は神経細胞のエネルギー源であるD―グルコースの1型グルコーストランスポーター(GLUT1)が代表的である。関門機能と輸送機構はまた相互に密接に関連し合っていて、例えば構造的に一群の輸送分子群(ABC transporter)の一員であるP―糖タンパク(P−glycoprotein)はくみ出しポンプとして関門機能を担っているし、タイトジャンクションも陰イオンよりも陽イオンに選択的な低分子輸送を担っている(細胞間隙輸送paracellular pathway)。タイトジャンクションが密に存在すること、選択的な取り込みを担う担体(トランスポーター)やイオンチャネルなど経細胞性輸送(transcellular pathway)を担う輸送分子が管腔側(apical 膜脂質)と基底膜側細胞膜(basolateral 膜脂質)において非対称的に分布すること(極性)が、BBBの機能的本態である。
【0004】
この特異なBBB機能により、神経細胞の恒常性は保たれているが、その存在のために、疾病などの原因で人工的に生体に何らかの処理を施こそうとする場合に大きな障害となっている。開発が急がれている中枢神経性疾患(認知症、アルツハイマー病、プリオン病、脳卒中など)の予防薬・治療薬開発の大きな障壁となっており、試験管内や細胞培養実験で作用が発見された薬物候補化合物であっても、実験動物など生体に投与すると、その多くはBBBのために脳内に移行できず、実際の治療薬になり得ず、開発を断念せざるを得なくなっている。
【0005】
一方、多剤併用療法が主流になった現在、ほとんど脳内に移行しないと考えられる薬物が、薬物相互作用により脳内に移行し、中枢性の副作用の原因になることも予想される。
【0006】
以上のように、薬物のBBB透過性の予測は非常に重要であるが、BBBの特異な機能のために、脳内への移行性には一定の法則性が無く、薬物の化学構造や分子量などから予め判断できない。薬物の脳内移行性を動物実験で検討するには、膨大な手間と費用がかかるだけでなく、複雑な生体内で薬物の移行性だけを正確に判断する事は困難である。また、動物実験で使用する薬物量は、in vitroに比べ多くの量が必要になり、リード化合物の段階で動物実験に耐えうる化合物量を確保することは、更なる時間と費用が必要になり現実的ではない。よって、脳内で作用する薬物の新規開発、および適正な薬物治療のためには、我々生体の複雑なBBBと、近似的な機能を持つ試験管内再現システムを用いて薬物の透過性を予測することが必要である。脳内移行性を簡便に検定する検査キットがあれば、現在、膨大な費用と時間をかけて行われている創薬研究の効率化が図られ、より即応的で確実な創薬のスクリーニングシステムが達成できる。
【0007】
更に、in vitro BBBモデルには大きな利点がある。その培養条件を最適化することにより、病態を容易に再現できることである。中枢神経を取り巻き、恒常性を守る脳毛細血管内皮細胞は、様々な中枢神経性疾患と関係があり、BBBの機能障害が、発症あるいは病態進行に密接に関与する疾患が最近次々に明らかにされている。例えば、血液脳関門(blood―brain barrier、 BBB)は、脳浮腫発症の責任部位であり、タイトジャンクションの離開によって血漿タンパクが脳内への漏出し、Na+、グルタミン酸などの輸送体や水チャネルのアクアポリンなどの機能障害による水と電解質の貯留が生じ病態を進展させる(血管原生脳浮腫)。病態でのBBB機能の解析には、これまで述べてきた薬物脳内移行性スクリーニングと同様に、複雑な生体内のBBBを再現したin vitroのBBBモデルが力を発揮する。即ちin vitro BBBモデルの培養環境を変化させることにより、容易に病態環境を再現でき、病因解析研究に応用できる。
【0008】
また、病態下におけるBBB薬物透過性は変化していると考えられ、病態時における薬物透過性を判定することも重要である。
【0009】
血液脳関門の解剖学的な実体は密着結合した脳毛細血管内皮細胞であるが、その機能と維持にはアストロサイトやペリサイトが密接に関与していることが明らかとなった。In vitroにおいて脳毛細血管内皮細胞とアストロサイトを共培養すると、脳毛細血管内皮細胞に特異的な酵素であるalkaline phosphatase活性、γ−glutamyl transpeptidase活性の上昇 、膜抵抗の上昇 、tight junctionの増強 、P糖蛋白質の発現 (Sobue et al.,1999;Maxwell et al., 1987;Stanness et al.,1997;Fenart et al.,1998)、などの血液脳関門機能に特異的な機能が増強するとの報告がありアストロサイトの重要性を示している。一方で、ペリサイトの血液脳関門に果たす役割は不明な点が多いが、近年になりペリサイトがBBBにおいて重要な役割をしている事が報告されている。
【0010】
In vitroにおいて血管内皮細胞とペリサイトを共培養すると、膜抵抗が増強する(Dente et al.,2001)との報告は、ペリサイトが血液脳関門の維持機構を構成する素子としての重要性を示すものである。即ち、高度機能分化システムであるBBBは、内皮細胞単独では形成できず、内皮細胞、アストロサイト、ペリサイトの3種細胞のクロストークにより初めて構成され得ると考えられ、これら3種細胞を考慮したモデルが必要である。しかし、これまでのBBB in vitroモデルは、内皮細胞単層培養系や、内皮細胞とアストロサイトとの共培養系などの不完全なモデルしか報告されていない。
【0011】
最近の研究成果により、BBBの機能分子であるタイトジャンクション構成タンパク質群が明らかになった。血管内皮細胞管腔側(apical 膜脂質)に局在し関門機能の本態である。その中でも、クローディン(claudin、 Furuseら)、オクルディン(occludin、Furuseら)、およびZO(zonula occludens)−1などが、関門機能の主要なタンパク質である事が判明した。BBBタイトジャンクションは、末梢組織(脳毛細血管内)と中枢神経系(脳実質内)という異空間を隔てる関門であるが、異なる環境にそれぞれ面した脳毛細血管内皮細胞の管腔側膜(apical膜脂質)と基底膜側細胞膜(basolateral膜脂質)の境界に位置していて輸送体などの機能分子の非対称的な配列に寄与している(極性、タイトジャンクションのフェンス機能)。また関門であると同時に、陽イオン性物質に選択性のある低分子物質の細胞間隙輸送(paracellular transport)を担う機能分子単位でもある。事実、細胞内でのシグナル伝達分子との結合を介在する新しいPDZタンパクであるMUPP1(multi―PDZ domain protein)が発見され、タイトジャンクションは従来考えられていたような静的な固定的な関門では無く、細胞内情報伝達機構という動的・機動的な機能分子であることが明らかにされつつある。即ち、BBB in vitroモデルにおいて、タイトジャンクション機能が保たれていることは、必要不可欠であるが、これまで、その利便性より用いられてきた不死化脳毛細血管内皮細胞株は、このタイトジャンクション機能が保たれているか疑問がもたれる。また、関門機能だけではなく、細胞極性の不保持、薬物への細胞応答などが不十分であると考えられる。事実、ラット不死化脳毛細血管内皮細胞を用いた検討によると、タイトジャンクションタンパク質が、細胞−細胞間に集積しておらず、電気抵抗値も非常に低い事が分かった。よって、不死化脳毛細血管内皮細胞を用いた血液脳関門モデルは不完全なモデルであり正常なBBBを反映していない。
【0012】
また一方で、内皮細胞のタイトジャンクション機能を維持するために、その亢進因子として知られるcAMPを細胞培養液に添加するモデルが報告されているが、生理的なモデルと言い難く、特にcAMPを変動させる薬物のスクリーニングにおいて、問題があると考えられる。
【0013】
また、中枢神経を取り巻き、恒常性を守る脳毛細血管内皮細胞は、様々な中枢神経性疾患と関係があり、BBBの機能障害が、発症あるいは病態進行に密接に関与する疾患が最近次々に明らかにされている。ここでも重要となるのが、生体の血液脳関門は、脳毛細血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトにより構成されていて、様々な病態下ではそれぞれの細胞が様々な影響を及ぼし合っていることである。内皮細胞単独、あるいは内皮細胞とアストロサイトの共培養系など、BBB構成細胞がそろっていない不完全なBBBモデルでは、病態時のBBBを十分には再現していないと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
よって、本発明の1つの目的は、血液脳関門を通過して中枢に作用する薬物、あるいは血液脳関門自体に作用する薬物、あるいは中枢での作用を期待しない薬物で脳内に移行する薬物のスクリーニング系を提供することである。また、本発明の他の目的は、このスクリーニング系に様々な病態環境を負荷することで病態下における病因解析研究や上記スクリーニングを可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本出願の発明者は鋭意研究を行い、初代培養脳毛細血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトを共培養することにより、生体に近似し、高度な密着結合を有する血液脳関門モデルの開発に成功した。
【0016】
上記目的は、請求項1に記載の本発明に係る血液脳関門インヴィトロ・モデル、すなわち、培養液と、当該培養液を保持するプレートと、当該培養液に浸漬し、かつ、当該プレートの底面に接触しないで配置されたフィルターと、からなる立体培養装置を用い、当該フィルターが直径0.35〜0.45μmの穴を多数有し、当該フィルターの上面に初代培養脳毛細血管内皮細胞を播き、当該フィルターの下面に初代培養脳ペリサイトを播き、当該プレートの内面に初代培養アストロサイトを播き、通常の培養液で共培養してなる血液脳関門インヴィトロ・モデルによって、達成される。
【0017】
また、上記目的は、請求項2に記載の本発明に係る病態血液脳関門インヴィトロ・モデル、すなわち、培養液と、当該培養液を保持するプレートと、当該培養液に浸漬し、かつ、当該プレートの底面に接触しないで配置されたフィルターと、からなる立体培養装置を用い、当該フィルターが直径0.35〜0.45μmの穴を多数有し、当該フィルターの上面に初代培養脳毛細血管内皮細胞を播き、当該フィルターの下面に初代培養脳ペリサイトを播き、当該プレートの内面に初代培養アストロサイトを播き、所定の病態条件に対応する培養液で共培養してなる、病態血液脳関門インヴィトロ・モデルによって、も達成される。
【0018】
本発明の好ましい実施態様においては、請求項3に記載のように、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルを用い、フィルターの上方部に薬物を添加し、一定時間後に、当該フィルターの下方部に漏れ出た、当該薬物の量を測定して行う、薬物の血液脳関門通過容易性評価方法を開示している。
【0019】
本発明の他の好ましい実施態様においては、請求項4に記載のように、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルを用い、フィルターの上方部に薬物を添加し、一定時間後に、脳毛細血管内皮細胞を採取し、当該薬物添加後の脳毛細血管内皮細胞の性質を評価し、添加前の脳毛細血管内皮細胞の性質と比較して行う、薬物のスクリーニング評価方法を開示している。
【0020】
本発明のさらに他の好ましい実施態様においては、請求項5に記載のように、請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門の病態解析方法を開示している。
【0021】
本発明の別の好ましい実施態様においては、請求項6に記載のように、請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門における薬物の反応性評価方法を開示している。
【0022】
本発明のさらに別の好ましい実施態様においては、請求項7に記載のように、請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門における薬物の脳移行性評価方法を開示している。
【0023】
(作用)
請求項1に記載の本発明においては、多孔質のフィルター上に脳毛細血管内皮細胞を播き、フィルター裏側にペリサイトを播き、フィルターの受け皿であるプレートの内側にアストロサイトを播くことで、3種細胞間のクロストークが可能となり、生体に近似した血液脳関門in vitroモデルが完成した。
【0024】
また、請求項2に記載の本発明においては、上記血液脳関門インビトロ・モデルに様々な病態環境を負荷することにより病態血液脳関門インビトロモデルを得た。
【発明の効果】
【0025】
本発明は生体に最も近似したin vitroのBBBモデルであるから、現在開発が急がれている中枢神経作用薬の開発(血液脳関門を通過して中枢に作用する薬物)が効率的に行えるようになる。
【0026】
また、本発明は中枢での作用を期待しない薬物で脳内に移行する薬物のスクリーニング系であるため、適切な薬物療法の開発や新薬の開発に貢献できる。また、血液脳関門自体に作用する薬物のスクリーニングに有用である。
【0027】
さらには、本発明はこのスクリーニング系に様々な病態環境を負荷したものであるため、病態下における病因解析研究や上記スクリーニングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
初代培養脳毛細血管内皮細胞と、初代培養脳ペリサイト、初代培養アストロサイトを、多孔質のフィルターを含有する立体培養装置で、共培養することにより本発明の血液脳関門インヴィトロ・モデルが得られる。本発明の血液脳関門インヴィトロ・モデルは高度にタイトジャンクションが発達しており、より生体に近似した血液脳関門の再構成系となっている。
【0029】
図11は本発明に係る血液脳関門インヴィトロ・モデルの実施形態の概略図である。容器3の中に培養液4を収容し、フィルター2を吊るすハンガー1によって、フィルター2を培養液4の中の所定の位置に浸漬させている。直径0.4μmの穴2aを多数持つフィルター2の上部は血管腔側10として想定され、その下部は脳実質側20として想定されている。即ち、フィルター2の表面に初代培養脳毛細血管内皮細胞Eを播き、フィルター2の裏側に初代培養脳ペリサイトPを播き、更にそのフィルター2の下方に初代培養アストロサイトAを播く事で、生体での血液脳関門を最も良く再現した構造であると考えられる。また、フィルター2の多孔性により、3種の細胞間のクロストークが可能であり、複雑な生体での血液脳関門の維持・調節機構をも再現する事が可能となっている。
【0030】
3種細胞共培養により、BBBの特徴である、高度に発達したタイトジャンクションが内皮細胞に誘導されており、薬物のスクリーニング等に耐えうる血液脳関門再構成系が提供される。この血液脳関門再構成系を用いる事で、脳内での作用を期待する薬物、あるいは中枢での作用を期待しない薬物で脳内に移行する薬が、血液脳関門を通過できるかを容易に判断する事ができる。即ち、血管腔側10である、フィルター2の上部に当該薬物を添加し、一定時間後に、フィルター2の下部に漏れ出た薬物量を測定する事で判断できる。また、同様にこの血液脳関門再構成系を用いる事で、血液脳関門自体に作用する薬物のスクリーニングが容易に行う事ができる。即ち、血管腔側10である、フィルター2の上部に当該薬物を添加し、一定時間後に、脳毛細血管内皮細胞Eの性質を添加前後で比較する事で、判断できる。
【0031】
更には、BBBキットの培養条件を変化させることで容易に病態BBBキットが作製できる。即ち、BBBキットの培養液4を実際の病態条件に変えることにより病態BBBキットを作製し、この病態BBBキットにおける、脳毛細血管内皮細胞E、ペリサイトP、アストロサイトAの変化を通常の培養液で培養したそれらと比較することにより、BBBの病態解析ならびに病態下における薬物の反応性、脳移行性が判断できる。
【実施例1】
【0032】
(脳毛細血管片の単離)
クリーンベンチ内で3週齢のラットの脳を摘出し、氷冷したPhosphate buffer saline(―/―)(PBS(―/―);Sigma)中に入れ、滅菌した濾紙上で、硬膜、小脳、間脳、脳幹などを取り除き大脳皮質だけにした。この大脳皮質を氷冷したDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM;Sigma社製)3mLに入れ約1mm3大の大きさにメスで細断した。更に酵素(collagenase―class2(1mg/ml;Worthington社製)、300μL DNase(15μg/mL;Sigma社製))を含む15mLのDMEMを加え、5mLピペットで25回up−downし懸濁した。90分間37℃で振盪・インキュベートした後、10mLのDMEMを加え、遠心した。遠心後の沈殿ペレットを20%BSA(Sigma社製)/DMEM で遠心分離し、下層のペレットに酵素(collagenase/dispase(1mg/mL;Boehringer Manheim社製))、DNase(6.7μg/mL) を含む15mL DMEMで 懸濁し、60分37℃で振盪・インキュベートした。その後10mLのDMEMを加え遠心し、下層のペレットをあらかじめ 3000gで1時間遠心したパーコール(33%;Pharmacia社製)に重層させ遠心分離した。内皮層をシリンジで取り、2回DMEMで洗浄し脳毛細血管片を得た。得られた脳毛細血管片には、collagen(0.1mg/ml; Sigma社製)、fibronectine(0.1mg/mL;Sigma社製)でコーティングしたディッシュに分離した脳毛細血管片を播種した。37℃、5%CO2/95%大気下で20% Plasma derived serum(PDS)−DMEM/F12 にbFGF(1mg/mL;Boehringer Manheim社製)、heparin(100μg/mL;Sigma社製)、gentamacin(50μg/mL;Sigma社製)、puromycin(4μg/mL; Sigma社製)を加えた培養液(RBEC 培養液1)で、脳毛細血管内皮細胞を2日間培養した。3日目にpuromycinを加えない培養液(20% PDS―DMEM/F12にbFGF(1mg/mL)、 heparin(100μg/mL)、gentamacin(50μg/mL)を加えた培養液;RBEC培養液2)に置換し80%コンフルエントになるまで培養した。
【実施例2】
【0033】
(脳毛細血管周皮細胞:ペリサイト)
実施例1の脳毛細血管片には数パーセントペリサイトが含まれている。そこで、コラーゲンコーティングしたディッシュに、脳毛細血管片を播き、37℃、5%CO2/95%大気下 10% fetal bovine serum(FBS)−DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養液にて1週間培養し、ペリサイトを増殖させた。この段階では、脳毛細血管内皮細胞とペリサイトは混在している状態である。次に、1×トリプシン−EDTA溶液(Sigma社製)で細胞を剥ぎ、コーティングなしのディッシュに播き直しペリサイトを単離した(内皮細胞は接着できず、ペリサイトだけが増殖する)。
【実施例3】
【0034】
(アストロサイト)
クリーンベンチ内で、生後1、2日齢のラットから脳を取り出し、氷冷したPBS(―/―)中にいれ、滅菌した濾紙上で、硬膜、小脳、間脳、脳幹などを取り除き大脳皮質だけにした。この大脳皮質50mLのチューブに入れ、氷冷したDMEM10mLを加えた。20Gのシリンジでゆっくりup−downし組織をバラバラにした。しばらく静置した後、上清5mLを別の50mLチューブに入れた。残りの細胞懸濁液5mLに更に5mLのDMEMを加え、20Gのシリンジでup−downした。この操作を細胞塊が肉眼で確認できなくなるまで繰り返し、最後の細胞懸濁液5mLも加えた。その後、細胞懸濁液を70μmの登録商標セルストレイナー(Falcon社製)に通した。遠心し細胞を集め10% FBS―DMEMで再懸濁し、75cm2のフラスコに播いた。37℃、5%CO2/95%大気下 10% FBS―DMEM
にgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で培養し、細胞がコンフルエントになったら、フラスコを200rpmで1時間振盪し、ミクログリアを浮遊させ、取り除いた。1×トリプシン−EDTA溶液で継代し、新しい75cm2のフラスコに播き直し、コンフルエントになったら、もう一度200rpmで1時間浸透し、ミクログリアを浮遊させ、取り除き、アストロサイトを得た。
【実施例4】
【0035】
(共培養作製方法)
図1は種々の共培養作製方法を示す説明図である。実施例1で得られた、脳毛細血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトを、登録商標Transwell(Corning社製、0.4μm pore size)を用い以下の種々の共培養モデルを作製した。
【0036】
(i)脳毛細血管内皮細胞Eの単層培養系(E00)
登録商標Transwell インサートのpolyester membrane両面をcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、12−well cultureプレート(Corning社製)のwellに設置した。その後登録商標Transwellインサートの内側に脳毛細血管内皮細胞E(1.5×105 cell/cm2)を播種し、37℃、5%CO2/95%大気下、RBEC培養液2で培養した。
【0037】
(ii)脳毛細血管内皮細胞EとアストロサイトAが非接触状態の共培養
系(E0A)
12−well cultureプレートの底面をpoly−L−lysine(Sigma社製)溶液でコーティングし、アストロサイトA(1.0×105cell/cm2)を播種し37℃、5%CO2/95%大気下 10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳毛細血管内皮細胞Eを登録商標Tra
nswell インサートの内側に播種した。
【0038】
(iii)脳毛細血管内皮細胞EとアストロサイトAが接触した状態の共培
養系(EA0)
登録商標Transwell インサートのpolyester membrane両面をcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、上下逆にディッシュに設置した。アストロサイトA(2.0×104cell/cm2)
を播種し、6時間以上培養した。登録商標Transwellインサートを12−well cultureプレートのwellに設置し、
37℃、5%CO2/95%大気下 10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。
翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳毛細血管内皮
細胞Eを登録商標Transwellインサートの内側に播種した。
【0039】
(iv)脳毛細血管内皮細胞EとペリサイトPが非接触状態の共培養系
(E0P)
12−well cultureプレートの底面をcollagen 溶液でコーティングし、ペリサイトP(1.0×105cell/cm2)を播種し37℃、5%CO2/95%大気下 10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳
毛細血管内皮細胞Eを登録商標Transwellインサートの内側に播種した。
【0040】
(v)脳毛細血管内皮細胞EとペリサイトPが接触した状態の共培養系
(EP0)
登録商標Transwellインサートのpolyester membrane両面をcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、上下逆にディッシュに設置した。ペリサイト(2.0×104cell/cm2)を播種し、6時間以上培養した。登録商標Transwellインサートを12−well cultureプレートのwellに設置し37℃、5%CO2/95%大気下10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳毛細血管内皮細胞Eを
登録商標Transwellインサートの内側に播種した。
【0041】
(vi)脳毛細血管内皮細胞EとペリサイトPが接触し、アストロサイト
Aが非接触状態の共培養系(EPA)
12−well cultureプレートの底面をpoly−L−lysine溶液でコーティングし、アストロサイトA(1.0×105cell/cm2)を播種し37℃、5%CO2/95%大気下 10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。また、同時に、登録商標Transwellインサート(0.4μm pore size)のpolyester membrane両面をcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、上下逆にディッシュに設置した。ペリサイトP(2.0×104cell/cm2)を播種し、6 時間以上培養した。登録商標Transwell インサートをアストロサイトAを播種した、12−well cultureプレートのwellに設置し37℃、5%CO2/95%大気下10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳毛細血管内皮細胞Eを登録商標Transwellインサートの内側に播種した。
【0042】
(vii)脳毛細血管内皮細胞EとアストロサイトAが接触し、ペリサイト
Pが非接触状態の共培養系 (EAP)
12−well cultureプレートの底面をcollagen溶液でコーティングし、ペリサイトP(1.0×105cell/cm2)を播種し37℃、5%CO2/95%大気下10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。また、同時に登録商標Transwell インサート(0.4μm pore size)のpolyester membrane両面をcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、上下逆にディッシュに設置した。アストロサイトA(2.0×104cell/cm2)を播種し、6時間以上培養した。
登録商標Transwell インサートにアストロサイトAを播種した、12−well cultureプレートのwellに設置し37℃、5%CO2/95%大気下10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳毛細血管内皮細胞Eを
登録商標Transwellインサートの内側に播種した。
【実施例5】
【0043】
(不死化脳毛細血管内皮細胞と初代培養脳毛細血管内皮細胞の比較)
5―1. 初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞のフォンビルブランド因子(vWF)の発現(図2)
細胞培養の実施例1で得られたRBECならびに実施例4で得られたGP8.3を、8―well culture slide に1×
105cell/cm2で播き、3日後、培養液を取り除いて、PBS(―/―)で2回洗浄した。洗浄後、3%パラホルムアルデヒドで10分間室温固定した。その後0.2% triton―X溶液で10分間室温処理した。3%H2O2溶液で3分間処理し内因性のペルオキシダーゼ活性を除いた。PBS(―/―)で2回洗浄後、3%BSA−PBS(―/―)溶液で室温30分間ブロッキングした。0.1%BSA−PBS(―/―)で洗浄後、1次抗体反応として、anti−vWF(Sigma)を用いて37℃30分インキュベートした。0.1%BSA−PBS(―/―)で3回洗浄後、2次抗体反応として、ビオチン標識二次抗体で37℃30分間インキュベートした。その後、0.1%BSA−PBS(―/―)で3回洗浄後、パーオキシダーゼ標識ストレプトアビジン溶液で室温10分間反応させた。最後に発色基質としてジアミノベンジジン四塩酸塩を用い、顕微鏡で観察した。図2は初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞とを比較するための顕微鏡観察写真である。RBECならびにGP8.3は共に内皮細胞のマーカーであるvWF陽性を示した。
【0044】
5―2. 初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞のタイトジャンクション構成タンパク質の発現(図2)
細胞培養の実施例1で得られたRBECならびに実施例4で得られたGP8.3を、8−well culture slideに1×105cell/cm2で播き3日間培養した。培養液を取り除いて、PBS(―/―)で2回洗浄した。洗浄後、3%パラホルムアルデヒドで10分間室温固定した。その後0.2% triton−X溶液で10分間室温処理した。PBS(―/―)で2回洗浄後、3%BSA−PBS(―/―)溶液で室温30分間ブロッキングした。0.1%BSA−PBS(―/―)で洗浄後、1次抗体反応として、各タンパク質に特異的な抗体(anti claudin−1;Zymed, anti claudin−3;Zymed, anti claudin−5;Zymed,anti occludin;BD Bioscience,anti ZO−1;Zymed)を用いて37℃30分インキュベートした。0.1%BSA−PBS(―/―)で3回洗浄後、2次抗体反応として、Alexa488−conjugated IgG抗体で37℃30分間インキュベートした。その後、0.1%BSA−PBS(―/―)で3回洗浄後、LSM 5 Pascal(Zeiss)で観察した。図2は初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞とを比較するための顕微鏡観察写真である。その結果、RBECでは、細胞−細胞間に全てのタイトジャンクション構成タンパク質の集積が確認できたが、GP8.3ではZO−1のみ僅かに確認できた。
【0045】
5−3. 初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞の電気抵抗(TEER)とNa−F透過性の検討(図3)
RBECならびGP8.3細胞がタイトジャンクション機能を保持しているか検討するために以下の実験を行った。また、タイトジャンクション機能を亢進させる物質として知られる、cAMPを負荷し、その反応も検討した。細胞培養の実施例1で得られたRBECならびに実施例4で得られたGP8.3を、12−well typeの登録商標Transwellに1.5×105cell/cm2で播き、3日間培養した。cAMP(cpt−cAMP:Sigma社製)は2日目に250μMで負荷し12時間処置した。TEERをENDOHM(WPI社製)で測定した。その後、Na−F透過性の実験を行った。まず、培養液を取り除いて、PBS(―/―)で2回洗浄した。その後インサートの下部 (脳実質側)のwellにはassay buffer PBS(+/+);Sigma、d−glucorse(4.5mg/mL);和光純薬社製、HEPES(10mM);Sigmaを1.5mL満たした。10μg/mL sodium−fluorescein(Na−F);Sigma、を含んだassay buffer (0.5mL)をインサートの上部 (血管側)に添加した後、20分ごとに新しいwellにインサートを移動した。サンプルの蛍光強度は蛍光光度計 (島津制作)を用いて測定し(励起波長485nm、蛍光波長 530nm)、検量線よりNa−F濃度を算出した。クリアランスと透過係数 (P) の算出はDehouck、Isobeらに従った(Dehouck et al., 1992;Isobe et al., 1996)。クリアランスは血管側のchamberから脳実質側のchamberに移行したNa−Fの量をμLで表し、血管側に入れたNa−F、の初濃度[C]Lと脳実質側に移行したNa−F、EBAの最終濃度[C]Aから、Clearance(μL)=[C]A×VA/[C]Lより算出した(VA:脳実質側chamberの容積 (1.5mL))。透過係数 (cm/min)は1/PSapper=1/PSmembrane+1/PStransより求めた。PSは時間に対してクリアランスをプロットした直線の傾きで、(透過係数×(membraneの表面積)を表している。Pappはみかけの透過係数、Ptransは真の透過係数を表す。Pmembraneは、membraneのみの透過係数を表す。図3はRBECとGP8.3に対するcAMPの効果を示すグラフである。その結果、RBECはGP8.3に比べ有意に電気抵抗が高く、Na−F透過性も低い事が判明した。また、RBECで観察される、cAMPによるタイトジャンクション機能の亢進作用がGP8.3では確認されなかった。
【実施例6】
【0046】
初代培養脳毛細血管内皮細胞と初代培養脳ペリサイト、アストロサイトを用いた共培養の検討
6−1. 経内皮電気抵抗(図4)
図4は実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルについて経内皮電気抵抗値測定結果の経日変化を示すグラフであり、図5は実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルについて経内皮電気抵抗値の測定結果を比較したグラフである。経内皮電気抵抗(Trans Endothelial Electrical Resistance;TEER)はENDOHM(WPI社製)で測定した。各BBBモデルの電気抵抗値は、モデル作成後2日から7日後まで測定し、E00、E0A、E0Pではmembraneのみの電気抵抗値、EA0、EAPではアストロサイトのみを培養させたmembraneの電気抵抗値、EP0、EPAではペリサイトのみを培養させたmembraneの電気抵抗値を差し引く事で算出した。脳毛細血管内皮細胞の単層培養系(E00)に比べ、脳毛細血管内皮細胞とアストロサイトが非接触状態の共培養系(E0A)、脳毛細血管内皮細胞とペリサイトが非接触状態の共培養系(E0P)、脳毛細血管内皮細胞とペリサイトが接触し、アストロサイトが非接触状態の共培養系(EPA)において、経内皮電気抵抗値の有意な上昇が認められ、その中でもEPA型が最も高い値を示した。
【0047】
6−2. ウエスタンブロッティング(図6)
図6は実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルにおけるタイトジャンクション構成タンパク質(occludin、claudin−5、ZO−1)の発現を示す写真である。6wellの登録商標Transwellを用い、各BBBモデルを作製した。3日後、培養液を取り除いて、PBS(−/−)で2回洗浄した。洗浄後、メンブランの裏側に貼り付いている細胞を取り除くために、メスで裏面の細胞を剥ぎ取った。その後、CelLytic−M(Sigma)にprotease inhibitor cocktail(Sigma)を加えた細胞溶解液300μLを加え、20分間シェーカー上でインキュベートした。その後細胞溶解液を回収し、12,000×gで15分遠心した。上清を回収し一部を蛋白定量に使用し、残りをサンプルとした。サンプルにSDSと2−メルカプトエタノールを含むトリス塩酸−5×サンプルバッファーを加え、95℃で5分間熱処理し、−80℃で保存した。各サンプルのタンパク質量を測定し、タンパク質量が同量になるように、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)で分離した。次にPVDF膜にタンパク質を転写し、1% 登録商標perfect block(MoBiTec)を含む0.1% Tween20−TBS(100mM NaCl、10mM Tris−HCl、)溶液で室温1時間ブロッキングした。1次抗体反応として、各タンパク質に特異的な抗体(anti−Claudin−5;Zymed、anti−occludin;BD Bioscience、anti−ZO−1;Zymed、β−actin;Sigma)を用いて室温1時間インキュベートした。0.1% Tween20−TBSで5分×3回洗浄後、2次抗体反応として、horseradish peroxidase−conjugated anti IgG抗体で1時間インキュベートした。0.1% Tween20−TBSで5分×3回洗浄後、ECL plus(アマシャム)で目的のバンドを検出した。バンドの解析には、NIH imagingを用いた。各共培養系の中でEPA型が最もoccludin、claudin−5、ZO−1の発現が亢進していた。
【実施例7】
【0048】
虚血再灌流BBBモデル
7−1. 経内皮電気抵抗とNa−F透過性(図7、8、9)
細胞培養の実施例5の(i)、(vi)で示した、共培養方法を用い脳
毛細血管内皮細胞の単層培養系(E00)、と脳毛細血管内皮細胞とペリサイトが接触し、アストロサイトが非接触状態の共培養系(EPA)を作製した。作製したモデルをPBS(−/−)で1回洗浄後、窒素ガスで5分間バブリングしたglucose free Krebs−Ringer buffer(143mM NaCl、4.7mM KCl、1.3mM CaCl2、1.2mM MgCl2、1.0 mM NaH2PO4、25mM NaHCO3、11mMsucrose(以上すべて和光純薬) 10mM HEPES(Sigma)、pH7.4)で置換し、アネロカルト登録商標A miniに入れ6時間インキュベートした(虚血期間)。インキュベート後 normal Krebs−Ringer buffer(143 mM NaCl、4.7 mM KCl、1.3mM CaCl2、1.2mM MgCl2、1.0 mM NaH2PO4、25mM NaHCO3、11 mM d−glucose(Sigma)10mM HEPES、pH7.4)に置換し、3時間インキュベートした(再灌流期間)。コントロールとして上記操作を、全てnormal Krebs−Ringer buffer を用いて37℃、95% air/5%CO2下で行った。虚血再灌流モデルにおける電気抵抗値を図7に示した。虚血再灌流群では、コントロール群に比べ、電気抵抗の低下、Na−F透過性の増加が見られ、タイトジャンクション機能が低下していることが判明した。また、このタイトジャンクション機能の低下は、E00群よりも、EPA群がより顕著にタイトジャンクション機能の低下が見られたことから、ペリサイト及びアストロサイトが虚血再灌流障害に対し、影響を与えていることが考えられる(図8、9)。
【0049】
7−2.虚血再灌流BBBモデルにおけるラジカルスカベンジャー・エダラボンの効果(図10)
図7は虚血再灌流BBBモデルにおけるラジカルスカベンジャー・エダラボンの効果を示すグラフである。前記の方法で虚血再灌流BBBモデルを作製しエダラボンの効果を検討した。ラジカルスカベンジャーであるエダラボンは、虚血期間終了時に添加した。図10に示すように、虚血再灌流におけるタイトジャンクション機能の低下(TEERの減少、Na−F透過性の上昇)は、エダラボンの投与により有意に抑えられていた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】種々の共培養作製方法を示す説明図である。
【図2】初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞とを比較するための顕微鏡観察写真である。
【図3】RBECとGP8.3に対するcAMPの効果を示すグラフで ある
【図4】実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルについて経内皮電気抵抗値測定結果の経日変化を示すグラフである。
【図5】実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルについて経内皮電気抵抗値の測定結果を比較したグラフである。
【図6】実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルにおけるタイトジャンクション構成タンパク質(occludin、claudin−5、ZO−1)の発現を示す写真である。
【図7】虚血再灌流モデルにおける電気抵抗値を示すグラフである。
【図8】共培養により虚血再灌流障害(電気抵抗値の減少)が増悪したことを示すグラフである。
【図9】共培養により虚血再灌流障害(Na−F透過性の増加)が増悪したことを示すグラフである。
【図10】虚血再灌流BBBモデルにおけるラジカルスカベンジャー・エダラボンの効果を示すグラフである。
【図11】本発明に係る血液脳関門インヴィトロ・モデルの実施形態の概略図である。
【符号の説明】
【0051】
1 ハンガー
2 フィルター
2a 穴
3 容器
4 培養液
10 血管腔側
20 脳実質側
E 脳毛細血管内皮細胞
P ペリサイト
A アストロサイト
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液脳関門(blood―brain barrier)
(一般に、「BBB」と略して呼ばれている。)in vitroモデル及び病態血液脳関門インヴィトロ・モデルに関する。
「in vitro」あるいは「インヴィトロ」とは、「ガラス容器の中で」という意味のラテン語で、生物学用語としては種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」摘出・遊離されている状態をさす。(岩波 生物学辞典、 岩波書店、 1998年11月10日、参照)
すなわち、血液脳関門を通過して中枢に作用する薬物、あるいは血液脳関門自体に作用する薬物、あるいは中枢での作用を期待しない薬物で脳内に移行する薬物のスクリーニング系に関する。
【0002】
また、本発明は、血液脳関門インヴィトロ・モデル及び病態血液脳関門インヴィトロ・モデルを用いた薬物スクリーニング方法に関する。すなわち、本発明の血液脳関門インヴィトロ・モデルあるいはスクリーニング系に様々な病態環境を負荷することで病態下における病因解析研究や上記スクリーニングを可能とする。
【背景技術】
【0003】
血液脳関門(blood−brain barrier;BBB)は、繊細な神経細胞が生きる、脳という特異な環境における神経細胞の生存と活動のために進化した環境整備機構である。血液から中枢神経系への物質の侵入の遮断(関門)と取り込み(輸送)という二律背反を、その構成単位である脳毛細血管内皮細胞、アストロサイト(星状膠細胞)およびペリサイト(周皮細胞)の3種類の細胞が機能的に一体となって克服した高度機能分化システムということができる。BBBの関門機能は脳毛細血管内皮細胞の細胞間接着構造であるタイトジャンクション(tight junction, 密着結合)に代表され、選択的な取り込み(輸送)機構は神経細胞のエネルギー源であるD―グルコースの1型グルコーストランスポーター(GLUT1)が代表的である。関門機能と輸送機構はまた相互に密接に関連し合っていて、例えば構造的に一群の輸送分子群(ABC transporter)の一員であるP―糖タンパク(P−glycoprotein)はくみ出しポンプとして関門機能を担っているし、タイトジャンクションも陰イオンよりも陽イオンに選択的な低分子輸送を担っている(細胞間隙輸送paracellular pathway)。タイトジャンクションが密に存在すること、選択的な取り込みを担う担体(トランスポーター)やイオンチャネルなど経細胞性輸送(transcellular pathway)を担う輸送分子が管腔側(apical 膜脂質)と基底膜側細胞膜(basolateral 膜脂質)において非対称的に分布すること(極性)が、BBBの機能的本態である。
【0004】
この特異なBBB機能により、神経細胞の恒常性は保たれているが、その存在のために、疾病などの原因で人工的に生体に何らかの処理を施こそうとする場合に大きな障害となっている。開発が急がれている中枢神経性疾患(認知症、アルツハイマー病、プリオン病、脳卒中など)の予防薬・治療薬開発の大きな障壁となっており、試験管内や細胞培養実験で作用が発見された薬物候補化合物であっても、実験動物など生体に投与すると、その多くはBBBのために脳内に移行できず、実際の治療薬になり得ず、開発を断念せざるを得なくなっている。
【0005】
一方、多剤併用療法が主流になった現在、ほとんど脳内に移行しないと考えられる薬物が、薬物相互作用により脳内に移行し、中枢性の副作用の原因になることも予想される。
【0006】
以上のように、薬物のBBB透過性の予測は非常に重要であるが、BBBの特異な機能のために、脳内への移行性には一定の法則性が無く、薬物の化学構造や分子量などから予め判断できない。薬物の脳内移行性を動物実験で検討するには、膨大な手間と費用がかかるだけでなく、複雑な生体内で薬物の移行性だけを正確に判断する事は困難である。また、動物実験で使用する薬物量は、in vitroに比べ多くの量が必要になり、リード化合物の段階で動物実験に耐えうる化合物量を確保することは、更なる時間と費用が必要になり現実的ではない。よって、脳内で作用する薬物の新規開発、および適正な薬物治療のためには、我々生体の複雑なBBBと、近似的な機能を持つ試験管内再現システムを用いて薬物の透過性を予測することが必要である。脳内移行性を簡便に検定する検査キットがあれば、現在、膨大な費用と時間をかけて行われている創薬研究の効率化が図られ、より即応的で確実な創薬のスクリーニングシステムが達成できる。
【0007】
更に、in vitro BBBモデルには大きな利点がある。その培養条件を最適化することにより、病態を容易に再現できることである。中枢神経を取り巻き、恒常性を守る脳毛細血管内皮細胞は、様々な中枢神経性疾患と関係があり、BBBの機能障害が、発症あるいは病態進行に密接に関与する疾患が最近次々に明らかにされている。例えば、血液脳関門(blood―brain barrier、 BBB)は、脳浮腫発症の責任部位であり、タイトジャンクションの離開によって血漿タンパクが脳内への漏出し、Na+、グルタミン酸などの輸送体や水チャネルのアクアポリンなどの機能障害による水と電解質の貯留が生じ病態を進展させる(血管原生脳浮腫)。病態でのBBB機能の解析には、これまで述べてきた薬物脳内移行性スクリーニングと同様に、複雑な生体内のBBBを再現したin vitroのBBBモデルが力を発揮する。即ちin vitro BBBモデルの培養環境を変化させることにより、容易に病態環境を再現でき、病因解析研究に応用できる。
【0008】
また、病態下におけるBBB薬物透過性は変化していると考えられ、病態時における薬物透過性を判定することも重要である。
【0009】
血液脳関門の解剖学的な実体は密着結合した脳毛細血管内皮細胞であるが、その機能と維持にはアストロサイトやペリサイトが密接に関与していることが明らかとなった。In vitroにおいて脳毛細血管内皮細胞とアストロサイトを共培養すると、脳毛細血管内皮細胞に特異的な酵素であるalkaline phosphatase活性、γ−glutamyl transpeptidase活性の上昇 、膜抵抗の上昇 、tight junctionの増強 、P糖蛋白質の発現 (Sobue et al.,1999;Maxwell et al., 1987;Stanness et al.,1997;Fenart et al.,1998)、などの血液脳関門機能に特異的な機能が増強するとの報告がありアストロサイトの重要性を示している。一方で、ペリサイトの血液脳関門に果たす役割は不明な点が多いが、近年になりペリサイトがBBBにおいて重要な役割をしている事が報告されている。
【0010】
In vitroにおいて血管内皮細胞とペリサイトを共培養すると、膜抵抗が増強する(Dente et al.,2001)との報告は、ペリサイトが血液脳関門の維持機構を構成する素子としての重要性を示すものである。即ち、高度機能分化システムであるBBBは、内皮細胞単独では形成できず、内皮細胞、アストロサイト、ペリサイトの3種細胞のクロストークにより初めて構成され得ると考えられ、これら3種細胞を考慮したモデルが必要である。しかし、これまでのBBB in vitroモデルは、内皮細胞単層培養系や、内皮細胞とアストロサイトとの共培養系などの不完全なモデルしか報告されていない。
【0011】
最近の研究成果により、BBBの機能分子であるタイトジャンクション構成タンパク質群が明らかになった。血管内皮細胞管腔側(apical 膜脂質)に局在し関門機能の本態である。その中でも、クローディン(claudin、 Furuseら)、オクルディン(occludin、Furuseら)、およびZO(zonula occludens)−1などが、関門機能の主要なタンパク質である事が判明した。BBBタイトジャンクションは、末梢組織(脳毛細血管内)と中枢神経系(脳実質内)という異空間を隔てる関門であるが、異なる環境にそれぞれ面した脳毛細血管内皮細胞の管腔側膜(apical膜脂質)と基底膜側細胞膜(basolateral膜脂質)の境界に位置していて輸送体などの機能分子の非対称的な配列に寄与している(極性、タイトジャンクションのフェンス機能)。また関門であると同時に、陽イオン性物質に選択性のある低分子物質の細胞間隙輸送(paracellular transport)を担う機能分子単位でもある。事実、細胞内でのシグナル伝達分子との結合を介在する新しいPDZタンパクであるMUPP1(multi―PDZ domain protein)が発見され、タイトジャンクションは従来考えられていたような静的な固定的な関門では無く、細胞内情報伝達機構という動的・機動的な機能分子であることが明らかにされつつある。即ち、BBB in vitroモデルにおいて、タイトジャンクション機能が保たれていることは、必要不可欠であるが、これまで、その利便性より用いられてきた不死化脳毛細血管内皮細胞株は、このタイトジャンクション機能が保たれているか疑問がもたれる。また、関門機能だけではなく、細胞極性の不保持、薬物への細胞応答などが不十分であると考えられる。事実、ラット不死化脳毛細血管内皮細胞を用いた検討によると、タイトジャンクションタンパク質が、細胞−細胞間に集積しておらず、電気抵抗値も非常に低い事が分かった。よって、不死化脳毛細血管内皮細胞を用いた血液脳関門モデルは不完全なモデルであり正常なBBBを反映していない。
【0012】
また一方で、内皮細胞のタイトジャンクション機能を維持するために、その亢進因子として知られるcAMPを細胞培養液に添加するモデルが報告されているが、生理的なモデルと言い難く、特にcAMPを変動させる薬物のスクリーニングにおいて、問題があると考えられる。
【0013】
また、中枢神経を取り巻き、恒常性を守る脳毛細血管内皮細胞は、様々な中枢神経性疾患と関係があり、BBBの機能障害が、発症あるいは病態進行に密接に関与する疾患が最近次々に明らかにされている。ここでも重要となるのが、生体の血液脳関門は、脳毛細血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトにより構成されていて、様々な病態下ではそれぞれの細胞が様々な影響を及ぼし合っていることである。内皮細胞単独、あるいは内皮細胞とアストロサイトの共培養系など、BBB構成細胞がそろっていない不完全なBBBモデルでは、病態時のBBBを十分には再現していないと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
よって、本発明の1つの目的は、血液脳関門を通過して中枢に作用する薬物、あるいは血液脳関門自体に作用する薬物、あるいは中枢での作用を期待しない薬物で脳内に移行する薬物のスクリーニング系を提供することである。また、本発明の他の目的は、このスクリーニング系に様々な病態環境を負荷することで病態下における病因解析研究や上記スクリーニングを可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本出願の発明者は鋭意研究を行い、初代培養脳毛細血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトを共培養することにより、生体に近似し、高度な密着結合を有する血液脳関門モデルの開発に成功した。
【0016】
上記目的は、請求項1に記載の本発明に係る血液脳関門インヴィトロ・モデル、すなわち、培養液と、当該培養液を保持するプレートと、当該培養液に浸漬し、かつ、当該プレートの底面に接触しないで配置されたフィルターと、からなる立体培養装置を用い、当該フィルターが直径0.35〜0.45μmの穴を多数有し、当該フィルターの上面に初代培養脳毛細血管内皮細胞を播き、当該フィルターの下面に初代培養脳ペリサイトを播き、当該プレートの内面に初代培養アストロサイトを播き、通常の培養液で共培養してなる血液脳関門インヴィトロ・モデルによって、達成される。
【0017】
また、上記目的は、請求項2に記載の本発明に係る病態血液脳関門インヴィトロ・モデル、すなわち、培養液と、当該培養液を保持するプレートと、当該培養液に浸漬し、かつ、当該プレートの底面に接触しないで配置されたフィルターと、からなる立体培養装置を用い、当該フィルターが直径0.35〜0.45μmの穴を多数有し、当該フィルターの上面に初代培養脳毛細血管内皮細胞を播き、当該フィルターの下面に初代培養脳ペリサイトを播き、当該プレートの内面に初代培養アストロサイトを播き、所定の病態条件に対応する培養液で共培養してなる、病態血液脳関門インヴィトロ・モデルによって、も達成される。
【0018】
本発明の好ましい実施態様においては、請求項3に記載のように、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルを用い、フィルターの上方部に薬物を添加し、一定時間後に、当該フィルターの下方部に漏れ出た、当該薬物の量を測定して行う、薬物の血液脳関門通過容易性評価方法を開示している。
【0019】
本発明の他の好ましい実施態様においては、請求項4に記載のように、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルを用い、フィルターの上方部に薬物を添加し、一定時間後に、脳毛細血管内皮細胞を採取し、当該薬物添加後の脳毛細血管内皮細胞の性質を評価し、添加前の脳毛細血管内皮細胞の性質と比較して行う、薬物のスクリーニング評価方法を開示している。
【0020】
本発明のさらに他の好ましい実施態様においては、請求項5に記載のように、請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門の病態解析方法を開示している。
【0021】
本発明の別の好ましい実施態様においては、請求項6に記載のように、請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門における薬物の反応性評価方法を開示している。
【0022】
本発明のさらに別の好ましい実施態様においては、請求項7に記載のように、請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門における薬物の脳移行性評価方法を開示している。
【0023】
(作用)
請求項1に記載の本発明においては、多孔質のフィルター上に脳毛細血管内皮細胞を播き、フィルター裏側にペリサイトを播き、フィルターの受け皿であるプレートの内側にアストロサイトを播くことで、3種細胞間のクロストークが可能となり、生体に近似した血液脳関門in vitroモデルが完成した。
【0024】
また、請求項2に記載の本発明においては、上記血液脳関門インビトロ・モデルに様々な病態環境を負荷することにより病態血液脳関門インビトロモデルを得た。
【発明の効果】
【0025】
本発明は生体に最も近似したin vitroのBBBモデルであるから、現在開発が急がれている中枢神経作用薬の開発(血液脳関門を通過して中枢に作用する薬物)が効率的に行えるようになる。
【0026】
また、本発明は中枢での作用を期待しない薬物で脳内に移行する薬物のスクリーニング系であるため、適切な薬物療法の開発や新薬の開発に貢献できる。また、血液脳関門自体に作用する薬物のスクリーニングに有用である。
【0027】
さらには、本発明はこのスクリーニング系に様々な病態環境を負荷したものであるため、病態下における病因解析研究や上記スクリーニングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
初代培養脳毛細血管内皮細胞と、初代培養脳ペリサイト、初代培養アストロサイトを、多孔質のフィルターを含有する立体培養装置で、共培養することにより本発明の血液脳関門インヴィトロ・モデルが得られる。本発明の血液脳関門インヴィトロ・モデルは高度にタイトジャンクションが発達しており、より生体に近似した血液脳関門の再構成系となっている。
【0029】
図11は本発明に係る血液脳関門インヴィトロ・モデルの実施形態の概略図である。容器3の中に培養液4を収容し、フィルター2を吊るすハンガー1によって、フィルター2を培養液4の中の所定の位置に浸漬させている。直径0.4μmの穴2aを多数持つフィルター2の上部は血管腔側10として想定され、その下部は脳実質側20として想定されている。即ち、フィルター2の表面に初代培養脳毛細血管内皮細胞Eを播き、フィルター2の裏側に初代培養脳ペリサイトPを播き、更にそのフィルター2の下方に初代培養アストロサイトAを播く事で、生体での血液脳関門を最も良く再現した構造であると考えられる。また、フィルター2の多孔性により、3種の細胞間のクロストークが可能であり、複雑な生体での血液脳関門の維持・調節機構をも再現する事が可能となっている。
【0030】
3種細胞共培養により、BBBの特徴である、高度に発達したタイトジャンクションが内皮細胞に誘導されており、薬物のスクリーニング等に耐えうる血液脳関門再構成系が提供される。この血液脳関門再構成系を用いる事で、脳内での作用を期待する薬物、あるいは中枢での作用を期待しない薬物で脳内に移行する薬が、血液脳関門を通過できるかを容易に判断する事ができる。即ち、血管腔側10である、フィルター2の上部に当該薬物を添加し、一定時間後に、フィルター2の下部に漏れ出た薬物量を測定する事で判断できる。また、同様にこの血液脳関門再構成系を用いる事で、血液脳関門自体に作用する薬物のスクリーニングが容易に行う事ができる。即ち、血管腔側10である、フィルター2の上部に当該薬物を添加し、一定時間後に、脳毛細血管内皮細胞Eの性質を添加前後で比較する事で、判断できる。
【0031】
更には、BBBキットの培養条件を変化させることで容易に病態BBBキットが作製できる。即ち、BBBキットの培養液4を実際の病態条件に変えることにより病態BBBキットを作製し、この病態BBBキットにおける、脳毛細血管内皮細胞E、ペリサイトP、アストロサイトAの変化を通常の培養液で培養したそれらと比較することにより、BBBの病態解析ならびに病態下における薬物の反応性、脳移行性が判断できる。
【実施例1】
【0032】
(脳毛細血管片の単離)
クリーンベンチ内で3週齢のラットの脳を摘出し、氷冷したPhosphate buffer saline(―/―)(PBS(―/―);Sigma)中に入れ、滅菌した濾紙上で、硬膜、小脳、間脳、脳幹などを取り除き大脳皮質だけにした。この大脳皮質を氷冷したDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM;Sigma社製)3mLに入れ約1mm3大の大きさにメスで細断した。更に酵素(collagenase―class2(1mg/ml;Worthington社製)、300μL DNase(15μg/mL;Sigma社製))を含む15mLのDMEMを加え、5mLピペットで25回up−downし懸濁した。90分間37℃で振盪・インキュベートした後、10mLのDMEMを加え、遠心した。遠心後の沈殿ペレットを20%BSA(Sigma社製)/DMEM で遠心分離し、下層のペレットに酵素(collagenase/dispase(1mg/mL;Boehringer Manheim社製))、DNase(6.7μg/mL) を含む15mL DMEMで 懸濁し、60分37℃で振盪・インキュベートした。その後10mLのDMEMを加え遠心し、下層のペレットをあらかじめ 3000gで1時間遠心したパーコール(33%;Pharmacia社製)に重層させ遠心分離した。内皮層をシリンジで取り、2回DMEMで洗浄し脳毛細血管片を得た。得られた脳毛細血管片には、collagen(0.1mg/ml; Sigma社製)、fibronectine(0.1mg/mL;Sigma社製)でコーティングしたディッシュに分離した脳毛細血管片を播種した。37℃、5%CO2/95%大気下で20% Plasma derived serum(PDS)−DMEM/F12 にbFGF(1mg/mL;Boehringer Manheim社製)、heparin(100μg/mL;Sigma社製)、gentamacin(50μg/mL;Sigma社製)、puromycin(4μg/mL; Sigma社製)を加えた培養液(RBEC 培養液1)で、脳毛細血管内皮細胞を2日間培養した。3日目にpuromycinを加えない培養液(20% PDS―DMEM/F12にbFGF(1mg/mL)、 heparin(100μg/mL)、gentamacin(50μg/mL)を加えた培養液;RBEC培養液2)に置換し80%コンフルエントになるまで培養した。
【実施例2】
【0033】
(脳毛細血管周皮細胞:ペリサイト)
実施例1の脳毛細血管片には数パーセントペリサイトが含まれている。そこで、コラーゲンコーティングしたディッシュに、脳毛細血管片を播き、37℃、5%CO2/95%大気下 10% fetal bovine serum(FBS)−DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養液にて1週間培養し、ペリサイトを増殖させた。この段階では、脳毛細血管内皮細胞とペリサイトは混在している状態である。次に、1×トリプシン−EDTA溶液(Sigma社製)で細胞を剥ぎ、コーティングなしのディッシュに播き直しペリサイトを単離した(内皮細胞は接着できず、ペリサイトだけが増殖する)。
【実施例3】
【0034】
(アストロサイト)
クリーンベンチ内で、生後1、2日齢のラットから脳を取り出し、氷冷したPBS(―/―)中にいれ、滅菌した濾紙上で、硬膜、小脳、間脳、脳幹などを取り除き大脳皮質だけにした。この大脳皮質50mLのチューブに入れ、氷冷したDMEM10mLを加えた。20Gのシリンジでゆっくりup−downし組織をバラバラにした。しばらく静置した後、上清5mLを別の50mLチューブに入れた。残りの細胞懸濁液5mLに更に5mLのDMEMを加え、20Gのシリンジでup−downした。この操作を細胞塊が肉眼で確認できなくなるまで繰り返し、最後の細胞懸濁液5mLも加えた。その後、細胞懸濁液を70μmの登録商標セルストレイナー(Falcon社製)に通した。遠心し細胞を集め10% FBS―DMEMで再懸濁し、75cm2のフラスコに播いた。37℃、5%CO2/95%大気下 10% FBS―DMEM
にgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で培養し、細胞がコンフルエントになったら、フラスコを200rpmで1時間振盪し、ミクログリアを浮遊させ、取り除いた。1×トリプシン−EDTA溶液で継代し、新しい75cm2のフラスコに播き直し、コンフルエントになったら、もう一度200rpmで1時間浸透し、ミクログリアを浮遊させ、取り除き、アストロサイトを得た。
【実施例4】
【0035】
(共培養作製方法)
図1は種々の共培養作製方法を示す説明図である。実施例1で得られた、脳毛細血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトを、登録商標Transwell(Corning社製、0.4μm pore size)を用い以下の種々の共培養モデルを作製した。
【0036】
(i)脳毛細血管内皮細胞Eの単層培養系(E00)
登録商標Transwell インサートのpolyester membrane両面をcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、12−well cultureプレート(Corning社製)のwellに設置した。その後登録商標Transwellインサートの内側に脳毛細血管内皮細胞E(1.5×105 cell/cm2)を播種し、37℃、5%CO2/95%大気下、RBEC培養液2で培養した。
【0037】
(ii)脳毛細血管内皮細胞EとアストロサイトAが非接触状態の共培養
系(E0A)
12−well cultureプレートの底面をpoly−L−lysine(Sigma社製)溶液でコーティングし、アストロサイトA(1.0×105cell/cm2)を播種し37℃、5%CO2/95%大気下 10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳毛細血管内皮細胞Eを登録商標Tra
nswell インサートの内側に播種した。
【0038】
(iii)脳毛細血管内皮細胞EとアストロサイトAが接触した状態の共培
養系(EA0)
登録商標Transwell インサートのpolyester membrane両面をcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、上下逆にディッシュに設置した。アストロサイトA(2.0×104cell/cm2)
を播種し、6時間以上培養した。登録商標Transwellインサートを12−well cultureプレートのwellに設置し、
37℃、5%CO2/95%大気下 10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。
翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳毛細血管内皮
細胞Eを登録商標Transwellインサートの内側に播種した。
【0039】
(iv)脳毛細血管内皮細胞EとペリサイトPが非接触状態の共培養系
(E0P)
12−well cultureプレートの底面をcollagen 溶液でコーティングし、ペリサイトP(1.0×105cell/cm2)を播種し37℃、5%CO2/95%大気下 10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳
毛細血管内皮細胞Eを登録商標Transwellインサートの内側に播種した。
【0040】
(v)脳毛細血管内皮細胞EとペリサイトPが接触した状態の共培養系
(EP0)
登録商標Transwellインサートのpolyester membrane両面をcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、上下逆にディッシュに設置した。ペリサイト(2.0×104cell/cm2)を播種し、6時間以上培養した。登録商標Transwellインサートを12−well cultureプレートのwellに設置し37℃、5%CO2/95%大気下10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳毛細血管内皮細胞Eを
登録商標Transwellインサートの内側に播種した。
【0041】
(vi)脳毛細血管内皮細胞EとペリサイトPが接触し、アストロサイト
Aが非接触状態の共培養系(EPA)
12−well cultureプレートの底面をpoly−L−lysine溶液でコーティングし、アストロサイトA(1.0×105cell/cm2)を播種し37℃、5%CO2/95%大気下 10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。また、同時に、登録商標Transwellインサート(0.4μm pore size)のpolyester membrane両面をcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、上下逆にディッシュに設置した。ペリサイトP(2.0×104cell/cm2)を播種し、6 時間以上培養した。登録商標Transwell インサートをアストロサイトAを播種した、12−well cultureプレートのwellに設置し37℃、5%CO2/95%大気下10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳毛細血管内皮細胞Eを登録商標Transwellインサートの内側に播種した。
【0042】
(vii)脳毛細血管内皮細胞EとアストロサイトAが接触し、ペリサイト
Pが非接触状態の共培養系 (EAP)
12−well cultureプレートの底面をcollagen溶液でコーティングし、ペリサイトP(1.0×105cell/cm2)を播種し37℃、5%CO2/95%大気下10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。また、同時に登録商標Transwell インサート(0.4μm pore size)のpolyester membrane両面をcollagen(0.1mg/ml)、fibronectine(0.1mg/mL)でコーティングし、上下逆にディッシュに設置した。アストロサイトA(2.0×104cell/cm2)を播種し、6時間以上培養した。
登録商標Transwell インサートにアストロサイトAを播種した、12−well cultureプレートのwellに設置し37℃、5%CO2/95%大気下10%FBS―DMEMにgentamacin(50μg/mL)を加えた培養で一昼夜培養した。翌日、RBEC培養液2に交換し、(i)で示した方法で脳毛細血管内皮細胞Eを
登録商標Transwellインサートの内側に播種した。
【実施例5】
【0043】
(不死化脳毛細血管内皮細胞と初代培養脳毛細血管内皮細胞の比較)
5―1. 初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞のフォンビルブランド因子(vWF)の発現(図2)
細胞培養の実施例1で得られたRBECならびに実施例4で得られたGP8.3を、8―well culture slide に1×
105cell/cm2で播き、3日後、培養液を取り除いて、PBS(―/―)で2回洗浄した。洗浄後、3%パラホルムアルデヒドで10分間室温固定した。その後0.2% triton―X溶液で10分間室温処理した。3%H2O2溶液で3分間処理し内因性のペルオキシダーゼ活性を除いた。PBS(―/―)で2回洗浄後、3%BSA−PBS(―/―)溶液で室温30分間ブロッキングした。0.1%BSA−PBS(―/―)で洗浄後、1次抗体反応として、anti−vWF(Sigma)を用いて37℃30分インキュベートした。0.1%BSA−PBS(―/―)で3回洗浄後、2次抗体反応として、ビオチン標識二次抗体で37℃30分間インキュベートした。その後、0.1%BSA−PBS(―/―)で3回洗浄後、パーオキシダーゼ標識ストレプトアビジン溶液で室温10分間反応させた。最後に発色基質としてジアミノベンジジン四塩酸塩を用い、顕微鏡で観察した。図2は初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞とを比較するための顕微鏡観察写真である。RBECならびにGP8.3は共に内皮細胞のマーカーであるvWF陽性を示した。
【0044】
5―2. 初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞のタイトジャンクション構成タンパク質の発現(図2)
細胞培養の実施例1で得られたRBECならびに実施例4で得られたGP8.3を、8−well culture slideに1×105cell/cm2で播き3日間培養した。培養液を取り除いて、PBS(―/―)で2回洗浄した。洗浄後、3%パラホルムアルデヒドで10分間室温固定した。その後0.2% triton−X溶液で10分間室温処理した。PBS(―/―)で2回洗浄後、3%BSA−PBS(―/―)溶液で室温30分間ブロッキングした。0.1%BSA−PBS(―/―)で洗浄後、1次抗体反応として、各タンパク質に特異的な抗体(anti claudin−1;Zymed, anti claudin−3;Zymed, anti claudin−5;Zymed,anti occludin;BD Bioscience,anti ZO−1;Zymed)を用いて37℃30分インキュベートした。0.1%BSA−PBS(―/―)で3回洗浄後、2次抗体反応として、Alexa488−conjugated IgG抗体で37℃30分間インキュベートした。その後、0.1%BSA−PBS(―/―)で3回洗浄後、LSM 5 Pascal(Zeiss)で観察した。図2は初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞とを比較するための顕微鏡観察写真である。その結果、RBECでは、細胞−細胞間に全てのタイトジャンクション構成タンパク質の集積が確認できたが、GP8.3ではZO−1のみ僅かに確認できた。
【0045】
5−3. 初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞の電気抵抗(TEER)とNa−F透過性の検討(図3)
RBECならびGP8.3細胞がタイトジャンクション機能を保持しているか検討するために以下の実験を行った。また、タイトジャンクション機能を亢進させる物質として知られる、cAMPを負荷し、その反応も検討した。細胞培養の実施例1で得られたRBECならびに実施例4で得られたGP8.3を、12−well typeの登録商標Transwellに1.5×105cell/cm2で播き、3日間培養した。cAMP(cpt−cAMP:Sigma社製)は2日目に250μMで負荷し12時間処置した。TEERをENDOHM(WPI社製)で測定した。その後、Na−F透過性の実験を行った。まず、培養液を取り除いて、PBS(―/―)で2回洗浄した。その後インサートの下部 (脳実質側)のwellにはassay buffer PBS(+/+);Sigma、d−glucorse(4.5mg/mL);和光純薬社製、HEPES(10mM);Sigmaを1.5mL満たした。10μg/mL sodium−fluorescein(Na−F);Sigma、を含んだassay buffer (0.5mL)をインサートの上部 (血管側)に添加した後、20分ごとに新しいwellにインサートを移動した。サンプルの蛍光強度は蛍光光度計 (島津制作)を用いて測定し(励起波長485nm、蛍光波長 530nm)、検量線よりNa−F濃度を算出した。クリアランスと透過係数 (P) の算出はDehouck、Isobeらに従った(Dehouck et al., 1992;Isobe et al., 1996)。クリアランスは血管側のchamberから脳実質側のchamberに移行したNa−Fの量をμLで表し、血管側に入れたNa−F、の初濃度[C]Lと脳実質側に移行したNa−F、EBAの最終濃度[C]Aから、Clearance(μL)=[C]A×VA/[C]Lより算出した(VA:脳実質側chamberの容積 (1.5mL))。透過係数 (cm/min)は1/PSapper=1/PSmembrane+1/PStransより求めた。PSは時間に対してクリアランスをプロットした直線の傾きで、(透過係数×(membraneの表面積)を表している。Pappはみかけの透過係数、Ptransは真の透過係数を表す。Pmembraneは、membraneのみの透過係数を表す。図3はRBECとGP8.3に対するcAMPの効果を示すグラフである。その結果、RBECはGP8.3に比べ有意に電気抵抗が高く、Na−F透過性も低い事が判明した。また、RBECで観察される、cAMPによるタイトジャンクション機能の亢進作用がGP8.3では確認されなかった。
【実施例6】
【0046】
初代培養脳毛細血管内皮細胞と初代培養脳ペリサイト、アストロサイトを用いた共培養の検討
6−1. 経内皮電気抵抗(図4)
図4は実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルについて経内皮電気抵抗値測定結果の経日変化を示すグラフであり、図5は実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルについて経内皮電気抵抗値の測定結果を比較したグラフである。経内皮電気抵抗(Trans Endothelial Electrical Resistance;TEER)はENDOHM(WPI社製)で測定した。各BBBモデルの電気抵抗値は、モデル作成後2日から7日後まで測定し、E00、E0A、E0Pではmembraneのみの電気抵抗値、EA0、EAPではアストロサイトのみを培養させたmembraneの電気抵抗値、EP0、EPAではペリサイトのみを培養させたmembraneの電気抵抗値を差し引く事で算出した。脳毛細血管内皮細胞の単層培養系(E00)に比べ、脳毛細血管内皮細胞とアストロサイトが非接触状態の共培養系(E0A)、脳毛細血管内皮細胞とペリサイトが非接触状態の共培養系(E0P)、脳毛細血管内皮細胞とペリサイトが接触し、アストロサイトが非接触状態の共培養系(EPA)において、経内皮電気抵抗値の有意な上昇が認められ、その中でもEPA型が最も高い値を示した。
【0047】
6−2. ウエスタンブロッティング(図6)
図6は実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルにおけるタイトジャンクション構成タンパク質(occludin、claudin−5、ZO−1)の発現を示す写真である。6wellの登録商標Transwellを用い、各BBBモデルを作製した。3日後、培養液を取り除いて、PBS(−/−)で2回洗浄した。洗浄後、メンブランの裏側に貼り付いている細胞を取り除くために、メスで裏面の細胞を剥ぎ取った。その後、CelLytic−M(Sigma)にprotease inhibitor cocktail(Sigma)を加えた細胞溶解液300μLを加え、20分間シェーカー上でインキュベートした。その後細胞溶解液を回収し、12,000×gで15分遠心した。上清を回収し一部を蛋白定量に使用し、残りをサンプルとした。サンプルにSDSと2−メルカプトエタノールを含むトリス塩酸−5×サンプルバッファーを加え、95℃で5分間熱処理し、−80℃で保存した。各サンプルのタンパク質量を測定し、タンパク質量が同量になるように、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)で分離した。次にPVDF膜にタンパク質を転写し、1% 登録商標perfect block(MoBiTec)を含む0.1% Tween20−TBS(100mM NaCl、10mM Tris−HCl、)溶液で室温1時間ブロッキングした。1次抗体反応として、各タンパク質に特異的な抗体(anti−Claudin−5;Zymed、anti−occludin;BD Bioscience、anti−ZO−1;Zymed、β−actin;Sigma)を用いて室温1時間インキュベートした。0.1% Tween20−TBSで5分×3回洗浄後、2次抗体反応として、horseradish peroxidase−conjugated anti IgG抗体で1時間インキュベートした。0.1% Tween20−TBSで5分×3回洗浄後、ECL plus(アマシャム)で目的のバンドを検出した。バンドの解析には、NIH imagingを用いた。各共培養系の中でEPA型が最もoccludin、claudin−5、ZO−1の発現が亢進していた。
【実施例7】
【0048】
虚血再灌流BBBモデル
7−1. 経内皮電気抵抗とNa−F透過性(図7、8、9)
細胞培養の実施例5の(i)、(vi)で示した、共培養方法を用い脳
毛細血管内皮細胞の単層培養系(E00)、と脳毛細血管内皮細胞とペリサイトが接触し、アストロサイトが非接触状態の共培養系(EPA)を作製した。作製したモデルをPBS(−/−)で1回洗浄後、窒素ガスで5分間バブリングしたglucose free Krebs−Ringer buffer(143mM NaCl、4.7mM KCl、1.3mM CaCl2、1.2mM MgCl2、1.0 mM NaH2PO4、25mM NaHCO3、11mMsucrose(以上すべて和光純薬) 10mM HEPES(Sigma)、pH7.4)で置換し、アネロカルト登録商標A miniに入れ6時間インキュベートした(虚血期間)。インキュベート後 normal Krebs−Ringer buffer(143 mM NaCl、4.7 mM KCl、1.3mM CaCl2、1.2mM MgCl2、1.0 mM NaH2PO4、25mM NaHCO3、11 mM d−glucose(Sigma)10mM HEPES、pH7.4)に置換し、3時間インキュベートした(再灌流期間)。コントロールとして上記操作を、全てnormal Krebs−Ringer buffer を用いて37℃、95% air/5%CO2下で行った。虚血再灌流モデルにおける電気抵抗値を図7に示した。虚血再灌流群では、コントロール群に比べ、電気抵抗の低下、Na−F透過性の増加が見られ、タイトジャンクション機能が低下していることが判明した。また、このタイトジャンクション機能の低下は、E00群よりも、EPA群がより顕著にタイトジャンクション機能の低下が見られたことから、ペリサイト及びアストロサイトが虚血再灌流障害に対し、影響を与えていることが考えられる(図8、9)。
【0049】
7−2.虚血再灌流BBBモデルにおけるラジカルスカベンジャー・エダラボンの効果(図10)
図7は虚血再灌流BBBモデルにおけるラジカルスカベンジャー・エダラボンの効果を示すグラフである。前記の方法で虚血再灌流BBBモデルを作製しエダラボンの効果を検討した。ラジカルスカベンジャーであるエダラボンは、虚血期間終了時に添加した。図10に示すように、虚血再灌流におけるタイトジャンクション機能の低下(TEERの減少、Na−F透過性の上昇)は、エダラボンの投与により有意に抑えられていた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】種々の共培養作製方法を示す説明図である。
【図2】初代培養脳毛細血管内皮細胞と不死化脳毛細血管内皮細胞とを比較するための顕微鏡観察写真である。
【図3】RBECとGP8.3に対するcAMPの効果を示すグラフで ある
【図4】実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルについて経内皮電気抵抗値測定結果の経日変化を示すグラフである。
【図5】実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルについて経内皮電気抵抗値の測定結果を比較したグラフである。
【図6】実施例4で示した方法で作製した7種類の共培養モデルにおけるタイトジャンクション構成タンパク質(occludin、claudin−5、ZO−1)の発現を示す写真である。
【図7】虚血再灌流モデルにおける電気抵抗値を示すグラフである。
【図8】共培養により虚血再灌流障害(電気抵抗値の減少)が増悪したことを示すグラフである。
【図9】共培養により虚血再灌流障害(Na−F透過性の増加)が増悪したことを示すグラフである。
【図10】虚血再灌流BBBモデルにおけるラジカルスカベンジャー・エダラボンの効果を示すグラフである。
【図11】本発明に係る血液脳関門インヴィトロ・モデルの実施形態の概略図である。
【符号の説明】
【0051】
1 ハンガー
2 フィルター
2a 穴
3 容器
4 培養液
10 血管腔側
20 脳実質側
E 脳毛細血管内皮細胞
P ペリサイト
A アストロサイト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液と、当該培養液を保持するプレートと、当該培養液に浸漬し、かつ、当該プレートの底面に接触しないで配置されたフィルターと、からなる立体培養装置を用い、
当該フィルターが直径0.35〜0.45μmの穴を多数有し、当該フィルターの上面に初代培養脳毛細血管内皮細胞を播き、当該フィルターの下面に初代培養脳ペリサイトを播き、当該プレートの内面に初代培養アストロサイトを播き、通常の培養液で共培養してなる、血液脳関門インヴィトロ・モデル。
【請求項2】
培養液と、当該培養液を保持するプレートと、当該培養液に浸漬し、かつ、当該プレートの底面に接触しないで配置されたフィルターと、からなる立体培養装置を用い、
当該フィルターが直径0.35〜0.45μmの穴を多数有し、当該フィルターの上面に初代培養脳毛細血管内皮細胞を播き、当該フィルターの下面に初代培養脳ペリサイトを播き、当該プレートの内面に初代培養アストロサイトを播き、所定の病態条件に対応する培養液で共培養してなる、病態血液脳関門インヴィトロ・モデル。
【請求項3】
請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルを用い、フィルターの上方部に薬物を添加し、一定時間後に、当該フィルターの下方部に漏れ出た、当該薬物の量を測定して行う、薬物の血液脳関門通過容易性評価方法。
【請求項4】
請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルを用い、フィルターの上方部に薬物を添加し、一定時間後に、脳毛細血管内皮細胞を採取し、当該薬物添加後の脳毛細血管内皮細胞の性質を評価し、添加前の脳毛細血管内皮細胞の性質と比較して行う、薬物のスクリーニング評価方法。
【請求項5】
請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門の病態解析方法。
【請求項6】
請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門における薬物の反応性評価方法。
【請求項7】
請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門における薬物の脳移行性評価方法。
【請求項1】
培養液と、当該培養液を保持するプレートと、当該培養液に浸漬し、かつ、当該プレートの底面に接触しないで配置されたフィルターと、からなる立体培養装置を用い、
当該フィルターが直径0.35〜0.45μmの穴を多数有し、当該フィルターの上面に初代培養脳毛細血管内皮細胞を播き、当該フィルターの下面に初代培養脳ペリサイトを播き、当該プレートの内面に初代培養アストロサイトを播き、通常の培養液で共培養してなる、血液脳関門インヴィトロ・モデル。
【請求項2】
培養液と、当該培養液を保持するプレートと、当該培養液に浸漬し、かつ、当該プレートの底面に接触しないで配置されたフィルターと、からなる立体培養装置を用い、
当該フィルターが直径0.35〜0.45μmの穴を多数有し、当該フィルターの上面に初代培養脳毛細血管内皮細胞を播き、当該フィルターの下面に初代培養脳ペリサイトを播き、当該プレートの内面に初代培養アストロサイトを播き、所定の病態条件に対応する培養液で共培養してなる、病態血液脳関門インヴィトロ・モデル。
【請求項3】
請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルを用い、フィルターの上方部に薬物を添加し、一定時間後に、当該フィルターの下方部に漏れ出た、当該薬物の量を測定して行う、薬物の血液脳関門通過容易性評価方法。
【請求項4】
請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルを用い、フィルターの上方部に薬物を添加し、一定時間後に、脳毛細血管内皮細胞を採取し、当該薬物添加後の脳毛細血管内皮細胞の性質を評価し、添加前の脳毛細血管内皮細胞の性質と比較して行う、薬物のスクリーニング評価方法。
【請求項5】
請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門の病態解析方法。
【請求項6】
請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門における薬物の反応性評価方法。
【請求項7】
請求項2に記載の病態血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトを、それぞれ、請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロ・モデルにおける培養脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイト、及びアストロサイトと比較して行う、病態血液脳関門における薬物の脳移行性評価方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図6】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図6】
【公開番号】特開2007−166915(P2007−166915A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364636(P2005−364636)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(505467812)
【出願人】(305014836)ファーマコセル株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(505467812)
【出願人】(305014836)ファーマコセル株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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