説明

血液製剤からの物質の除去のためのフィルター

【課題】血液フィルター装置の多孔性エレメントの製造に特に好適な、新規の高分子材料を提供することが本発明の課題である。本発明のより具体的な課題は、さらなる表面のコーティングまたは表面のグラフト化の必要性なしに、血液フィルターに用いるために適当な親水性(CWST)を有する、例えば溶融発泡により微細線維に加工され得る高分子材料を提供することである。
【解決手段】血液製剤から物質を除去するためのフィルターであって、ポリエーテル−エステルコポリマーまたは該コポリマーを含む高分子混合物からなる高分子材料の多孔性エレメントを有するフィルターを提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液または血液成分からの粒子の除去のためのマイクロフィルターに関し、より詳しくは、全血を白血球を除去した血液成分に分離するために通常用いられる血液バッグシステムなどの血液精製装置における使用に適した白血球フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明が関係する前記血液フィルターは一般に、流入口と流出口を有する1個のハウジング、およびハウジング内部に流入口と流出口の間に挿入された少なくとも1個の多孔性エレメントを含む。
【0003】
前記多孔性エレメントは通常、1層またはそれ以上の層のろ過材により形成され得るウェブ(web)、一般には不織布からなり、それらは互いに結合され得るかまたは結合され得ない。
【0004】
先行技術によれば、前記多孔性エレメントは、血液と適合するいかなる材料からも産生され得、それは天然または合成繊維を含む繊維を形成することが可能である。
【0005】
好ましい材料は、合成ポリマー、特にポリオレフィン、ポリエステルおよびポリアミドなどである。
【0006】
繊維状の白血球フィルターは先行技術にて公知であり、例えばEP−A−0 313 348およびEP−A−0 397 403に記載されている。
【0007】
白血球フィルターに用いるために好ましい材料は、合成樹脂であり、それらは溶融発泡により微細繊維(好ましくは3μm以下の直径を有する)に加工されるのに適する。
【0008】
現在用いられている好ましい材料は、ポリブチレンテレフタラート(PBT)である。用いる繊維材料の表面の特性は、その湿潤性またはその臨界湿潤表面張力(CWST)(それは、材料の親水性の尺度である)を増大するために改変され得る。
【0009】
この目的のため、PBTなどの疎水性の樹脂の繊維は、より親水性のポリマー、特に親水性アクリルポリマーもしくはコポリマーまたは親水性ポリウレタンなどでコーティングされている。
【0010】
前記繊維に用いられる高分子材料はまた、EP−A−0 313 348に記載のように、前記高分子材料、特にPBTの表面をヒドロキシル基と結合したアクリル基またはメチルアクリレートまたはメチルメタクリレートなどのエチレン不飽和基、およびその組合せを含む化合物でグラフト化することにより、より親水性にされ得る。
【0011】
一般に、より高い親水性を有するフィルターは、US5 580 465およびUS 4 618 533に記載のように、血小板の回収を促進する。
【0012】
US 5 162 102は、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリエステルなどの疎水性の合成樹脂を形成する篩目を含むフィルター膜(それは、好ましくはプロピレンオキシドおよびエチレンオキシドのブロックコポリマーなどの非イオン性界面活性化剤でコーティングされる)を含む医療機器を記載する。
【0013】
EP−A−1 156 067は、フィルター材料(それは、好ましくはポリエチレンテレフタラート(PET)またはポリブチレンテレフタラート(PBT)の不織布である)を有する血液フィルター(それは、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートならびにアミノ、ピリジル、アジリジンおよびイミダゾリルなどのコポリマー化可能な官能基を有するコモノマーを含むコポリマーでコーティングされた表面である)を記載する。
【0014】
前記血液フィルターは、白血球および血小板の高い除去率と血液成分の低い活性化を達成するために特に好適であると記載されている。
【0015】
EP−A−1 262 204は、疎水性の構造単位および親水性の構造単位を有するポリマーならびに多孔質基質を含む白血球を選択的に除去するための血液フィルターを記載する。
【0016】
疎水性の構造単位を形成するための疎水性モノマーの例には、メタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルなどのエステル型モノマーが含まれる。
【0017】
親水性の構造単位を形成するための好ましい親水性モノマーは、N,N’−ジ置換アクリルアミドおよびN,N’−ジ置換メタアクリルアミドである。
【0018】
この場合にはまた、前記記載のポリマーは、PET繊維などの繊維から好ましく形成される基質上にコーティングされる。
【発明の概要】
【0019】
本発明の目的は、血液フィルター装置の多孔性エレメントの製造に特に好適な、新規の高分子材料を提供することである。
【0020】
本発明のより具体的な目的は、さらなる表面のコーティングまたは表面のグラフト化の必要性なしに、血液フィルターに用いるために適当な親水性(CWST)を有する、例えば溶融発泡により微細繊維に加工され得る高分子材料を提供することである。
【0021】
上記の目的を考慮し、本発明は、親水性および疎水性の成分を有するポリエーテル−エステルコポリマーを含むことを特徴とする高分子材料製の多孔質フィルターエレメントを含む、血液から物質を除去するためのマイクロフィルターを提供する。
【0022】
本発明はまた、本発明の新規なフィルターの使用により血液をろ過するため、特に白血球を除去するための方法、および血液を処理または精製するための装置、特に本発明のフィルターを含む、血液を白血球を除去した血液成分に分離するための血液バッグ装置を対象とする。
【0023】
本発明の対象を、添付の特許請求の範囲に定義する。
【0024】
本発明に用いられる前記ポリエーテル−エステルコポリマーは、少なくとも1個のアルキレングリコール、少なくとも1個の芳香族性ジカルボン酸またはそのエステル、およびポリアルキレンオキシドグリコールの溶解物中で重縮合により得られる。そのアルキレングリコールは、2〜4個の炭素原子を含んでいてよく、好ましいグリコールはブチレングリコールである。
【0025】
芳香族性ジカルボン酸として使用するのは、特にテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸および4,4’−ジフェニルジカルボン酸が好適である。
【0026】
好ましいポリアルキレンオキシドグリコールには、ポリブチレンオキシドグリコール、ポリプロピレンオキシドグリコールおよびポリエチレンオキシドグリコールまたはその組合せが含まれる;ポリプロピレンオキシド(PPO)/ポリエチレンオキシド(PEO)のブロックコポリマーが、特に好ましい。
【0027】
得られたポリマーは、アルキレングリコール(好ましくは1,4−ブタンジオール)および芳香族性ジカルボン酸(好ましくはテレフタル酸またはジメチルテレフタレート)から誘導される、繰り返し単位の(疎水性の)硬い成分と、1個のポリアルキレンオキシドグリコールから誘導される軟らかい親水性の成分とを組合せた骨格を有する。
【0028】
好ましい得られたポリマーの構造は、以下:
【化1】

であるが、本発明を限定するものと解釈されてはならない。
【0029】
好適なポリアルキレンオキシドグリコール、例えばPluronic PE6002(商標)などは市販されており、それは、Basf由来のエチレンオキシドグリコールで末端をキャップされたポリプロピレンオキシドである(エチレンオキシド:プロピレンオキシド=36/64−重量比)。
【0030】
本発明のコポリエーテルエステルは、市販されているかまたは公知の重縮合処理、好ましくはUS 6 441 125に記載の、チタンおよび単一の化合物中二価金属の組合せ、またはチタンおよび化合物を含む二価金属の組合せ(ここで、二価金属に対するチタンの分子比は、好ましくは1.5より低い)に基づく触媒の存在下、上記の成分の溶解物中での重縮合により製造され得る。
【0031】
前記二価金属は、好ましくはアルカリ土類金属であり、好ましくはマグネシウムである;チタンは、好ましくはチタンアルコキシドまたはチタンエステルなどの金属有機化合物の形態である。
【0032】
従来、親水性コポリマー繊維から作製された白血球フィルターは、コポリマーの特性が微細繊維を達成し得る「溶融発泡処理」に不適だと考えられていたため、推奨されていなかった。
【0033】
本発明の結果として、本明細書に記載のコポリエーテル−エステルが、6μm未満、好ましくは3μm未満の範囲の直径を有する繊維を得るために溶融発泡することにより処理され得るということが見出されている;好ましい平均直径は、1.8から2.2μmの範囲である。
【0034】
溶融発泡による処理可能性を改善するため、かつ本発明のフィルターに用いるために好適な特性を有する繊維を得るためには、コポリエーテルエステル中のポリアルキレンオキシドグリコールの量は、好ましくは0.1〜20%の重量の範囲または0.03〜6%の重量の範囲のポリエチレンオキシドであることが見出されている。
【0035】
コポリマー中のポリアルキレンオキシドの量および/またはポリプロピレンオキシドとポリエチレンオキシドの重量比(ブロックコポリマーPPO/PEOを用いるとき)の変化により、54−80ダイン/cmのCWSTの範囲に特徴付けられる繊維(それは、全血または血液成分のろ過に有用である)を得ることが可能である。
【0036】
本発明の材料で得られる繊維は、PBT繊維の特性と同じ繊維特性を有する。
【0037】
ポリエーテル−エステルコポリマー(上述)、および溶融発泡により処理されるのに適する熱可塑性高分子、特に芳香族性ポリエステル、好ましくはPETまたはPBTを含む高分子混合物の使用もまた、本発明の範囲内に意図される。
【0038】
高分子混合物にて、コポリエステル−エーテル成分と芳香族性ポリエステル(好ましくはPBT)との重量比は、1:99から99:1の範囲であり得る;好ましい高分子混合物は、コポリエステル−エーテルと芳香族性ポリエステルの和に対して、総重量の約40%までのコポリエステル−エーテルを含む。
【0039】
上記のコポリエーテル−エステルまたは高分子混合物で作製された繊維は、さらなる表面のコーティングまたはグラフト化を必要としない;しかしながら、その親水性をさらに増大するために表面をコーティングまたはグラフト化される本発明の繊維は、本発明の範囲内に包含される。
【0040】
本発明のフィルターは、血液および血液成分のろ過、特に白血球の除去に関するいかなる適用にも有利に用いられ得る;コポリエーテル−エステル中のポリアルキレンオキシドの量の変化による臨界湿潤表面張力の改変の可能性は、本発明による、それぞれろ過材の複数の層で作製される複数のフィルターエレメントを含むフィルター装置の生産を可能とし、ここで前記フィルターエレメントは、異なる親水性を有し、特にTO2002A000820に記載のフィルター装置は流入口から流出口へ減少する親水性(CWSTの減少)を有する。
【実施例】
【0041】
実施例1(比較)
繊維材料
ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)。
【0042】
繊維産生
前記繊維を、1.8から2.2μmの範囲の平均直径を有する溶融発泡繊維から産生する。
【0043】
フィルター製造
40層の繊維を、流入口と流出口を有する常套のハウジング(表面積50cm2)に挿入する。
【0044】
実施例2
繊維材料
前記繊維材料は、重縮合により得られるコポリエーテルエステルAであって、以下:
−テレフタル酸:60%
−ブタンジオール:39%
−ブロック共重合ポリプロピレンオキシド(PPO)/ポリエチレンオキシド(PEO):1%
の組成を有する(重量%)。
前記PEO成分は、0.3%である。
【0045】
繊維産生
前記繊維を、実施例1と同じ平均直径を有する溶融発泡繊維から産生する。前記繊維のCWSTは、54ダイン/cmである。
【0046】
フィルター製造
40層の繊維を、実施例1の流入口と流出口を有する同じハウジング(表面積50cm)に挿入する。
【0047】
実施例3
繊維材料
前記繊維材料を、重量比70/30でPBTとコポリエーテルエステルBとの混合により得る。
【0048】
前記コポリエーテルエステルBを重縮合により得、それは以下:
−テレフタル酸:32%
−ブタンジオール:15%
−ブロックコポリマーポリプロピレンオキシド(PPO)/ポリエチレンオキシド:53%
の組成を有する(重量%)。
混合物中の前記PEO成分は、4.4%である。
【0049】
繊維産生
前記繊維を、実施例1と同じ直径を有する溶融発泡繊維から産生する。前記繊維のCWSTは、72ダイン/cmである。
【0050】
フィルター製造
40層の繊維を、実施例1の流入口と流出口を有する同じハウジング(表面積50cm)に挿入する。
【0051】
血液ろ過
全血(450−550mlの範囲)を、70mlのCPDを有するPVCバッグ中に無作為な供与体から回収した。すべての全採血は、1,4−ブタン−ジオール・プレートの条件下で20−24℃に冷却して行った。前記ろ過を重力によって行った。細胞濃度を、総計の血小板(PLT)除去パーセントを測定するために、ろ過前の血液およびろ過後の血液を自動分析することにより測定した。前記ろ過血液中の白血球細胞(WBC)を、Nageotte血球計算器で計数した。
【0052】
表1:ろ過結果
【表1】

【0053】
表1に、純粋なPBT(実施例1)および異なる量のPEOを含む親水性コポリエーテル−エステル(実施例2−3)で得られたろ過結果の比較を示す。繊維材料(実施例2)中PEOの導入は、白血球を除去するためのフィルター材料の能力を増大させる。コポリエーテル−エステル(実施例3)中のPEO量の増加により、PLT回収が増加し、従って、PLTの回収が重要な適用におけるこの繊維材料の使用を可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料製の多孔性エレメントを含む、血液または血液成分から粒子を除去するためのマイクロフィルターであって、該高分子材料が、親水性成分および疎水性成分を有するポリエーテル−エステルコポリマーを含んでなることを特徴とする、マイクロフィルター。
【請求項2】
該高分子材料が、前記ポリエーテル−エステルおよび芳香族性ポリエステル、好ましくはポリブチレンテレフタラートを含む混合物であることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロフィルター。
【請求項3】
該混合物が、総重量の40%以下の前記ポリエーテル−エステルを含んでなることを特徴とする、請求項2に記載のマイクロフィルター。
【請求項4】
該ポリエーテル−エステルコポリマーが、1個のアルキレングリコールおよび少なくとも1個の芳香族性ジカルボン酸またはそのエステルから誘導される繰り返し単位の疎水性成分、ならびに少なくとも1個のポリアルキレンオキシドグリコールから誘導される親水性成分を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロフィルター。
【請求項5】
該芳香族性ジカルボン酸またはそのエステルが、テレフタル酸またはそのアルキルエステルである、請求項4に記載のマイクロフィルター。
【請求項6】
該アルキレングリコールが、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびブチレングリコールからなる群から選択される、請求項4または5に記載のマイクロフィルター。
【請求項7】
前記ポリアルキレンオキシドグリコールが、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリプロピレンオキシドグリコールおよびブロックコポリマーであるプロピレンオキシド/エチレンオキシドからなる群から選択される、請求項4から6のいずれか一項に記載のマイクロフィルター。
【請求項8】
該コポリエーテル−エステルが、総重量の0.1〜20%のポリアルキレンオキシドグリコールを含んでなる、請求項1から7のいずれか一項に記載のマイクロフィルター。
【請求項9】
該多孔性エレメントが、前記高分子材料の線維製であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のマイクロフィルター。
【請求項10】
該多孔性エレメントが、前記高分子材料由来の不織布を含む、請求項9に記載のマイクロフィルター。
【請求項11】
前記多孔性エレメントが、該ポリエーテル−エステルコポリマーまたは該高分子混合物の溶融発泡させたコーティングしていない線維製である、請求項1から8のいずれか一項に記載のマイクロフィルター。
【請求項12】
該多孔性エレメントが、50〜80ダイン/cmの範囲のCWSTを有する、請求項1から11のいずれか一項に記載のマイクロフィルター。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のマイクロフィルターに通して血液製剤を供給することを含む、該血液製剤から物質を除去するための方法。
【請求項14】
全血、多血小板血漿、濃縮赤血球、濃縮血小板および血漿からなる群から選択される血液製剤から白血球を除去するための請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から12のいずれか一項に記載のマイクロフィルターを含む血液精製装置。
【請求項16】
請求項1から12のいずれか一項に記載の白血球フィルターに通した第二のバッグと、流通可能につながった第一のバッグを含む、血液を白血球を除去した血液成分に分離するための血液バッグ装置からなる、請求項15に記載の血液精製装置。
【請求項17】
1個のコポリエーテル−エステルまたは請求項1から8に記載のような該コポリエーテル−エステルを含む1個の高分子混合物を溶融発泡することにより得られる線維。

【公開番号】特開2010−234079(P2010−234079A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142913(P2010−142913)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【分割の表示】特願2006−518082(P2006−518082)の分割
【原出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(505063533)フレゼニウス・ヘモケア・イタリア・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (7)
【氏名又は名称原語表記】FRESENIUS HEMOCARE ITALIA S.r.l.
【Fターム(参考)】