説明

血球分離膜およびこれを用いた血液保持用具

血球の溶血を防止し、かつ、血清または血漿と血球とを分離する血球分離膜を提供する。
供給された血液から血球を分離する多孔質膜に、疎水性アミノカルボン酸、シルク由来のタンパク質、Tris、TES、ε−アミノヘキサン酸、トラネキサム酸またはヘパリンを含む溶液を含有させて乾燥し、血球分離膜とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、血液中の血球と、血清または血漿とを分離する血球分離膜および血液の保持や検査に使用する血液保持用具に関する。
【背景技術】
血液を検査する場合、検体毎に使い切るシート状の血液検査用具(試験片ともいう)が汎用されている。この検査用具は、血液を保持し、ここから血液を抽出して検査を行うタイプのものや、予め試薬等を検査用具に含有させたもの等があげられる。後者の用具は、例えば、その検査用具に血液を滴下することで血液と試薬とを反応させ、その反応を光学的手法や電気化学的手法により測定できる。
このような血液検査用具は、一般の臨床検査等では汎用されているだけでなく、例えば、遠隔臨床検査システムにおいても実際に使用されている。この遠隔臨床検査システムとは、在宅で患者自身が血液を採血し、これを血液検査用具に含有、乾燥させて、この血液検査用具を病院等の検査機関に郵送し、検査するシステムである。血液を郵送した患者等は、郵便等で検査結果を知ることも、また直接病院等に出向いても検査結果を知ることができる。
血糖値等のように、検査項目が血清または血漿中の成分の場合は、血液検査用具において、血液を血球と血清または血漿とに分離する必要がある。このため、従来の血液検査用具では、グラスフィルター等の血球分離材を血液検査用具に組み込むことが一般的であった。このような血液検査用具によれば、例えば、血球分離材によって血液を血球と血清・血漿とに分離し、前記血球分離材を通過した血清・血漿をさらに展開部に毛管現象によって展開させることによって、血清・血漿サンプルを調製できる。この他に、最近、孔径が厚み方向に変化する非対称性多孔質膜を用いた血液検査用具も開発されている(例えば、特表平11−505327号公報)。非対称性多孔質膜の孔径が大きい方の面から血液を供給すると、血液が厚み方向に浸透する過程で前記血液から血球が分離され、血清・血漿が供給面と反対側に出てくるため、これを回収すればよい。このような非対称性多孔質膜を用いた血液検査用具は、血球の目詰まりが防止されるという利点を有する。
しかしながら、このような従来の血液検査用具では、血球分離に伴って前記血球が溶血して、前記血球内成分が血清等に混入するおそれがあるため、予め、溶血防止のための添加剤を血液中に含有させる必要がある(例えば、特開平9−196908号公報)。しかし、この場合、溶血は防止されるものの、前記添加剤の影響によって得られた血清・血漿中のヘマトクリット(Ht)値が大幅に低下し、血清・血漿成分を精度よく測定することが困難であるという問題がある。
【発明の開示】
そこで、本発明の目的は、血球分離に伴う血球の溶血を防止しつつ、血球と血清・血漿とを分離できる血球分離膜およびそれを用いた血液保持用具の提供である。
前記目的を達成するために、本発明の血球分離膜は、血液中の血清または血漿と血球とを分離する多孔質膜を含み、前記多孔質膜が、疎水性アミノカルボン酸、シルク由来のタンパク質、Tris、TES、ε−アミノヘキサン酸、トラネキサム酸およびヘパリンからなる群から選択された少なくとも一つの溶血防止剤を含有することを特徴とする。
このように、本発明の血球分離膜は、前述のような種類の溶血防止剤を含有することによって、血球の溶血を防止できる。このため、前記血球分離膜を通過し、分離された血清または血漿試料は、前記血球内成分を含むことがなく、優れた精度で血清等の成分測定を行うことができる。また、溶血によるヘモグロビン色素の混入が防止されるため、前記分離された試料を、光学的手段や目視等によって直接測定することも可能になる。
また、本発明の血球分離膜を用いて血清・血漿サンプルを調製すれば、各種成分を高精度で測定することも可能になる。本発明者らは、前述のような従来の血球分離膜を使用した場合におけるヘマトクリット(Ht)値の低下や、各種分析項目における測定精度の低下について鋭意研究を行った。その結果、従来から溶血防止に使用されている添加物質がグリシンであり、通常、血球分離膜の体積(cm)当たり約100mg〜200mgの高濃度で含まれているため、前述のような影響が出ていることを突き止めた。特にGGT等の分析項目については、グリシンによる希釈効果だけでなく、グリシンによって血清または血漿成分が変化する結果、測定精度が低下していることを突き止めた。そして、本発明の血球分離膜のように、グリシンではなく前述の溶血防止剤を含有すれば、例えば、グリシンのように高濃度である必要はない。そのため、Ht値への影響も軽減され、各種分析項目、例えば、GGTについても高精度での測定が可能になることを見出したのである。以上のように、本発明の血球分離膜を用いれば、血球分離に伴う血球の溶血を防止しつつ、血球と血清・血漿とを分離でき、また、各種分析に影響を与えない血清または血漿試料を調製することができる。
つぎに、本発明の血液保持用具は、血液中の血球を分離する血球分離部と、血液中の血清または血漿を毛管現象により展開する展開部とを有し、前記血球分離部が、前記本発明の血球分離膜である。本発明の血液保持用具は、前述のような効果を奏する血球分離膜を有するため、例えば、前述のような遠隔臨床検査システムに特に有用であるといえる。なお、本発明の検体保持用具は、血球と血清・血漿とが分離された血液検体を、例えば、郵送等のために保持する用具としても使用でき、また、これ自体を目的成分の血液検査用具として使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の血液保持用具の一実施例を示す断面図である。
図2は、本発明の血液保持用具のその他の実施例を示す断面図である。
図3は、本発明の血液保持用具のさらにその他の実施例を示す断面図である。
図4は、本発明の血液保持用具のさらにその他の実施例を示す断面図である。
図5は、本発明の血液保持用具のさらにその他の実施例を示す断面図である。
図6は、本発明の血液保持用具のさらにその他の実施例を示す断面図である。
図7は、本発明の血液保持用具のさらにその他の実施例を示す断面図である。
図8は、本発明の血液保持用具のさらにその他の実施例を示す断面図である。
図9は、本発明の血液保持用具のさらにその他の実施例を示す断面図である。
図10は、本発明の血液保持用具のさらにその他の実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
前述のように、本発明の血球分離膜は、血液中の血清または血漿と血球とを分離する多孔質膜を含み、前記多孔質膜が、疎水性アミノカルボン酸、シルク由来のタンパク質、Tris、TES、ε−アミノヘキサン酸、トラネキサム酸およびヘパリンからなる群から選択された少なくとも一つの溶血防止剤を含有することを特徴とする。
前記疎水性アミノカルボン酸としては、例えば、疎水性アミノ酸が使用でき、具体的には、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等が使用できる。前記シルク由来のタンパク質とは、フィブロインの加水分解物をいう(以下、「シルクエッセンス」ともいう)。
前記溶血防止剤の中でも、バリン、ロイシン、ε−アミノヘキサン酸、トラネキサム酸、シルクエッセンスが好ましい。これらを使用した場合、前述のような溶血防止効果に加えて、血清・血漿と血球とを優れた効率で分離するという効果をも奏するためである。メカニズムは不明であるが、前記血球分離膜内にこれらの溶血防止剤を含有させることによって、前記血球分離膜内における血球の浸透速度が抑制され、一方、血清・血漿の浸透速度が促進される。また、血球が前記血球分離膜を通過した場合でも、例えば、展開部における血球の展開速度が抑制され、かつ、血清または血漿の展開速度が促進される。そのため、前記展開部において、血球の展開距離を短く、血清または血漿の展開距離を長くすることができる。つまり、血球の展開抑制と血清・血漿の展開促進という、相反する効果を双方実現できるため、血清または血漿のみの展開量を増加できるのである。したがって、前述のような溶血防止剤を含有させた血球分離膜によれば、血球と血清または血漿とが分離し易くなる。さらに血球が前記血球分離膜を通過した場合でも、血球の展開による血清・血漿回収率への影響を抑制できるため、その回収率を向上することもできる。このため、供給する血液量も低減でき、例えば、採血時における患者の負担も軽減できる。
さらに、中でもバリン、トラネキサム酸、ε−アミノヘキサン酸が特に好ましい。これらを使用する場合、例えば、前述のグリシンと比較して、グリシンの1/5〜1/10程度の含有量(重量)で、十分な効果を奏することからである
また、前記溶血防止剤は、いずれか一種類を用いてもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。組み合わせとしては、例えば、バリンとヘパリン、トラネキサム酸とヘパリン等の組み合わせがあげられる。
本発明において、前記溶血防止剤の含有量(重量)は、例えば、前記多孔質膜の体積(cm)当たり1mg〜50mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは5mg〜40mgの範囲であり、特に好ましくは10mg〜30mgの範囲である。前記溶血防止剤の含有量が前記多孔質膜の体積(cm)当たり1mg以上であれば溶血を十分に防止できる。なお、ここで「多孔質膜の体積」とは、多孔質膜の空孔部分を含む体積をいう。
具体的に、前記溶血防止剤がバリンの場合、その含有量(重量)は、例えば、前記多孔質膜の体積(cm)当たり5mg〜50mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは15mg〜45mgの範囲であり、特に好ましくは30mg〜40mgの範囲である。
前記溶血防止剤がロイシンの場合、その含有量(重量)は、例えば、前記多孔質膜の体積(cm)当たり1mg〜30mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは5mg〜25mgの範囲であり、特に好ましくは10mg〜20mgの範囲である。
前記溶血防止剤がトラネキサム酸の場合、その含有量(重量)は、例えば、前記多孔質膜の体積(cm)当たり5mg〜50mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは15mg〜45mgの範囲であり、特に好ましくは30mg〜40mgの範囲である。
前記溶血防止剤がε−アミノヘキサン酸の場合、その含有量(重量)は、例えば、前記多孔質膜の体積(cm)当たり5mg〜50mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは10mg〜45mgの範囲であり、特に好ましくは30mg〜40mgの範囲である。
本発明の血液分離膜は、前記溶血防止剤に加えて、さらに、例えば、プルラン、BSA等の添加剤を含有していてもよい。これらと前記溶血防止剤とを併用することで、溶血防止効果をさらに向上できる。
前記血球分離膜は、その全体に前記溶血防止剤が含有されていることが好ましいが、例えば、血球分離膜の少なくとも一方の表面、特に血液が供給される表面のみに前記溶血防止剤が含有されていてもよい。
前記多孔質膜は、通常、その内部を血球が通過し難いことが望ましく、例えば、血球が通過できない孔径の孔を有していることが好ましい。本発明において、「血球が通過できない孔径の孔」とは、孔径が血球の球径より小さいという意味ではなく、どのようなメカニズムかは問わず、結果的に血球が通過できない孔径であればよい。したがって、血球が通過できない孔径には、血球の球径より大きい孔径も含まれる。また、本発明の血球分離膜によれば、前述のように、例えば、前記分離膜を血球が通過した場合であっても、前記溶血防止剤により血清または血漿の展開速度を促進し、血球の展開速度を抑制されることも可能である。この場合には、前記多孔質膜は、多孔質膜内部で完全に血球の通過を阻止し、前記血球を保持するものではなく、例えば、血球が部分的に通過してしまう多孔質膜であってもよい。
具体的に、前記多孔質膜は、0.1μm〜20μmの孔径の孔を有することが好ましく、より好ましくは1μm〜10μmであり、特に好ましくは2μm〜8μmである。
前記多孔質膜としては、特に制限されず、従来から血球分離に使用されている各種材料が使用できる。具体的には、例えば、グラスフィルターや、厚み方向に平均孔径が連続的または不連続的に小さくなる孔径分布の非対称性多孔質膜等が使用できる。
前記グラスフィルターとしては、例えば、繊維密度が疎であるものが好ましく、市販のグラスフィルター、例えば、ミリポア社製の商品名AP25等を使用してもよい。
また、前記多孔質膜として非対称性多孔質膜を使用した場合、厚み方向に向かって孔径が変化するため、例えば、前記多孔質膜内部を厚み方向に血液が進むにつれ、徐々に血球が通過できなくなり、血球が通過できない孔径の部位で血球が保持される。したがって、目詰まりも起こり難く、迅速かつ容易に血球を分離できる。なお、本発明において、「平均孔径が不連続的に小さくなる」とは、例えば、段階的に小さくなること等をいう。
前記非対称性多孔質膜の孔径は、最大孔径が10μm〜300μmの範囲で、最小孔径が0.1μm〜30μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは最大孔径が100μm〜200μmの範囲で、最小孔径が1μm〜10μmの範囲であり、特に好ましくは最大孔径が150μm〜200μmの範囲で、最小孔径1μm〜5μmの範囲である。
前記非対称性多孔質膜の材質としては、特に制限されないが、例えば、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン等の樹脂があげられる。これらの多孔質膜は、単独で使用してもよいし、これらを2種類以上組み合わせて使用してもよい。これらの中でも好ましくは、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンであり、特に好ましくはポリエーテルスルホンである。
また、前記非対称性多孔質膜は、前述のような各種樹脂を用いて作製してもよいし、市販の非対称性多孔質膜、例えば、U.Sフィルター社製の商品名BST−SP、Primecare社製の商品名S/G等を使用してもよい。
前記血球分離膜の大きさは、例えば、供給する血液量等に応じて適宜決定できる。具体的には、供給する血液量が120μLの場合、例えば、長さ4mm×幅1.5mm×厚み50μm〜長さ50mm×幅20mm×厚み2000μmであり、好ましくは長さ5mm×幅3mm×厚み75μm〜長さ30mm×幅15mm×厚み1250μmであり、より好ましくは長さ10mm×幅5mm×厚み90μm〜長さ20mm×幅12mm×厚み1100μmである。なお、前記長さとは、血球分離膜の長手方向の長さ、幅とは幅方向の長さをそれぞれ示し、以下同様である。
前記血球分離膜としてグラスフィルターを使用した場合、その厚みは、例えば、200μm〜2000μmの範囲であり、好ましくは500μm〜1000μmの範囲である。また、その大きさは、供給する血液量が120μLの場合、例えば、長さ4mm×幅1.5mm×厚み100μm〜長さ50mm×幅20mm×厚み2000μmであり、好ましくは長さ5mm×幅3mm×厚み200μm〜長さ30mm×幅15mm×厚み1250μmであり、より好ましくは長さ10mm×幅5mm×厚み250μm〜長さ20mm×幅12mm×厚み1100μmである。
前記血球分離膜として非対称性多孔質膜を使用した場合、その厚みは、例えば、50μm〜400μmの範囲であり、好ましくは100μm〜350μmの範囲である。また、その大きさは、供給する血液量が40μLの場合、例えば、長さ4mm×幅1.5mm×厚み50μm〜長さ50mm×幅20mm×厚み400μmであり、好ましくは長さ5mm×幅3mm×厚み100μm〜長さ30mm×幅15mm×厚み350μmであり、より好ましくは長さ10mm×幅5mm×厚み200μm〜長さ20mm×幅12mm×厚み300μmである。
本発明の血球分離膜の製造方法は、特に制限されず、例えば、前記溶血防止剤の分散液または溶液に前記多孔質膜を浸漬して乾燥させたり、前記分散液等を前記多孔質膜に滴下して浸透させた後、乾燥する方法等がある。
前記分散液または溶液における前記溶血防止剤の濃度は、例えば、0.1重量%〜5重量%の範囲であり、好ましくは0.5重量%〜4重量%の範囲、より好ましくは2重量%〜3重量%の範囲である。
また、前記多孔質膜は、全血の透過を速やかに行えることから、前記溶血防止剤を保持させる前に、予め、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の親水性高分子等の処理溶液に浸漬することによって、親水化処理を施してもよい。前記処理溶液の濃度は、例えば、0.1重量%〜50重量%の範囲であり、処理時間は、例えば、0.1時間〜24時間の範囲である。前記溶液の溶媒としては、例えば、水や各種有機溶媒等が使用でき、前記有機溶媒としてはエタノール等のアルコール類等があげられる。
つぎに、本発明の血液保持用具は、前述のように、血液中の血球を分離する血球分離部と、血液中の血清または血漿を毛管現象により展開する展開部とを有し、前記血球分離部が、前記本発明の血球分離膜であることを特徴とする。
本発明の血液保持用具としては、例えば、前記展開部と前記血球分離部とが積層された積層型の実施形態A−1、非対称性多孔質膜が前記展開部と前記血球分離部とを備える単層型の実施形態(A−2およびA−3)および血液分離膜が血球分離部と展開部とを備える単層型の実施形態があげられる。A−1、A−2およびA−3の形態について、以下に具体的に説明する。
(実施形態A−1)
この実施形態は、前記血球分離部が本発明の血球分離膜であり、前記展開部が多孔質膜から構成され、前記展開部(展開用多孔質膜)の上に、前記血球分離膜が積層されている例である。この実施形態においては、前記血球分離膜の表面が血液供給部となる。
図1の断面図に、前記血液保持用具の一例を示す。同図に示すように、この血液保持用具10は、展開部11の一方の端部上に、血球分離部12が積層された構造であり、血球分離部12の表面が、血液供給部13となっている。同図において矢印Aは、血液中の血清・血漿の展開方向を示す(以下、図2〜10においても同じ)。
展開部11を構成する展開用多孔質膜としては、例えば、ろ紙、酢酸セルロース膜、多孔質膜、ガラス繊維膜が使用できる。前記多孔質膜の材質としては、例えば、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン等の樹脂等があげられ、好ましくはポリエーテルスルホン、ポリカーボネートである。また、前述のような非対称性多孔質膜を使用することもできる。展開部として前記非対称性多孔質膜を使用すれば、血球が血球分離部を通過した場合でも、前記非対称性多孔質膜の孔構造によって、展開部において、さらに、血球分離を行うことができる。これらの多孔質膜は、単独で使用してもよいし、これらを2種類以上組み合わせて使用してもよい。これらの中でも好ましくは、例えば、ろ紙、酢酸セルロース膜、ニトロセルロース膜、ポリスルホン製多孔質膜、ポリエステル製多孔質膜、ポリカーボネート製多孔質膜であり、特に好ましくは、ろ紙、ポリスルホン製多孔質膜、ポリエステル製多孔質膜である。また、前述の血球分離膜と同様に、血清または血漿の展開をより一層促進できることから、親水化処理を施してもよい。
前記展開用多孔質膜の平均孔径は、例えば、血清または血漿が毛管現象によって展開できれば特に制限されないが、0.1μm〜300μmの範囲が好ましく、より好ましくは1μm〜100μmであり、特に好ましくは2μm〜50μmである。この展開用多孔質膜の大きさは、例えば、供給する血液量等に応じて適宜決定できるが、供給する血液量が40μLの場合、例えば、長さ4mm×幅1.5mm×厚み50μm〜長さ50mm×幅20mm×厚み400μmであり、好ましくは長さ5mm×幅3mm×厚み100μm〜長さ30mm×幅15mm×厚み350μmであり、より好ましくは長さ10mm×幅5mm×厚み200μm〜長さ20mm×幅12mm×厚み300μmである。
また、前記血球分離膜だけでなく、前記展開用多孔質膜にも前記溶血防止剤が含有されていてもよい。
前記血球分離膜と展開用多孔質膜との組み合わせとしては、特に制限されないが、例えば、血球分離膜としてグラスフィルター、展開用多孔質膜として非対称性多孔質膜を使用する組み合わせや、血球分離膜として非対称性多孔質膜、展開用多孔質膜としてニトロセルロース膜を使用する組み合わせ等が好ましい。
本実施形態の血液保持用具は、例えば、前記展開用多孔質膜の上に前記血球分離膜を配置して、積層するだけでもよいし、前記展開用多孔質膜と前記血球分離膜との位置決めを行い、前記両者の端部を接着または圧着等することで製造できる。
また、前記展開用多孔質膜が、支持体で支持されていることが好ましい。前記展開用多孔質膜の強度に関係なく、充分な強度の血液保持用具を得ることができ、かつ、取り扱いが簡便になるためである。前記支持体を形成する材料としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)等のプラスチックが使用できる。前記材料は、いずれか一種類でも、二種類以上を併用してもよい。また、後述のように血液保持用具を用いて、光学的手法等によって直接測定する場合には、前記支持体が、光透過性であることが好ましく、例えば、ポリスチレン、PET、アクリル樹脂製の支持体等が使用できる。
つぎに、図1に基づき、血液保持用具10に血液を添加して血清または血漿試料を調製する一例について説明する。
まず、血液を血球分離部12表面の血液供給部13に滴下する。血液は、血球分離部12内を厚み方向に移行しながら、血球と血清・血漿とに分離される。そして、分離された血清・血漿は、展開部11に到達し、毛管現象によって展開部11内を面方向(同図において矢印A方向)に展開する。この際、本発明の血液保持用具によれば、血球分離部12は前記溶血防止剤を含有するため、血球を分離する際に生じる溶血が防止され、血球成分の混入が抑制された血清または血漿試料が得られる。
展開した血清または血漿試料を回収する場合は、血液保持用具10を風乾または自然乾燥等により乾燥する。その後、血液保持用具10から展開部11を剥離し、展開部11から血清または血漿の展開部分のみを切り抜けばよい。
そして、切り抜き等により得られた切片を、例えば、試験管に入れ、これに抽出溶液を添加し、放置することによって血清または血漿を抽出し、回収する。前記抽出溶液としては、血清または血漿を抽出でき、血清または血漿中の分析対象成分の検出に影響を与えないものであれば特に制限されない。例えば、緩衝液、生理食塩水、精製水、蛋白溶液等や、これらの混合液であってもよい。前記緩衝液としては、例えば、リン酸、クエン酸、塩酸、酢酸等を含む各種緩衝液等があげられ、そのpHは、例えば、pH6〜8の範囲である。前記抽出溶液の添加量は、特に制限されないが、切片の大きさ等によって適宜決定でき、例えば、切片体積の1倍〜1000倍の範囲である。また、抽出処理時間は、特に制限されず、例えば、1分〜300分の範囲である。
また、血清または血漿を展開させた後、展開部を切り抜き、直接遠心分離することによっても回収できる。
この回収液を用いて、血清または血漿中の分析対象成分の測定を行うことができる。
一方、この血液保持用具10において、展開部11に保持された血清または血漿を抽出液で回収せずに、そのまま分析を行うこともできる。この場合は、予め、展開部11に分析用試薬を含有させて、試薬部を形成すればよい。展開部11に試薬を配置する方法は、例えば、印刷法、含浸法、噴霧法等があげられる。
前記分析用試薬は、特に制限されず、目的の分析対象成分の種類により適宜決定できる。前記試薬の成分としては、例えば、各種酵素、リン酸塩や炭酸塩等の緩衝物質、発色剤等があげられる。具体的には、グルコースを分析する場合は、例えば、グルコキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、β−NADP、ATPおよび緩衝液等を含有させればよい。
また、展開部11に、血清または血漿の移動方向に対し並列に試薬を含有させれば、同一の血液保持用具において、多項目の分析を行うことができる。この場合、多項目の試薬が混合しないように、例えば、疎水性樹脂溶液を含有させておくことにより、試薬部間に境界層を設けることが好ましい。
このような血液保持用具10によれば、前述のように血液を供給して血清または血漿を展開させると、展開部11内で各種分析対象成分とその検出試薬とがそれぞれ反応する。この反応による発色等を、電気化学的手法や光学的手法(目視を含む)により検出すれば、容易に分析を行うことができる。
(実施形態A−2)
この実施形態は、前記血球分離部が非対称性多孔質膜であり、前記非対称性多孔質膜がさらに前記展開部を有し、前記非対称性多孔質膜において、前記血球分離部と前記展開部とが面方向に位置し、血球を供給する側が前記血球分離部であり、前記供給した血液の展開方向に沿って下流側が展開部である構成となる。つまり、一つの非対称性多孔質膜の面方向に、血球分離部と展開部とが存在し、一つの非対称性多孔質膜内において、血球分離と血清または血漿の展開とを行うことができる形態である。
図2の断面図に、前記血液保持用具の一例を示す。同図に示すように、この血液保持用具20は、厚み方向に平均孔径が連続的または不連続的に小さくなる孔径分布の非対称性多孔質膜から構成されている。矢印A方向の上流側が血液分離部22であり、下流側が展開部21である。そして、血液分離部22の表面が血液供給部23となる。
前記非対称性多孔質膜の孔径は、最大孔径が、例えば、10μm〜300μmの範囲であり、好ましくは50μm〜150μmの範囲、最小孔径が、例えば、0.1μm〜30μmの範囲であり、好ましくは1μm〜10μmの範囲である。
血液保持用具20の大きさは、前述と同様に特に制限されず、供給する血液検体の量等に応じて適宜決定できる。供給する全血が約100μLの場合、血液保持用具20全体の大きさは、例えば、長さ4mm×幅1.5mm×厚み50μm〜長さ60mm×幅20mm×厚み400μmであり、好ましくは長さ5mm×幅3mm×厚み100μm〜長さ30mm×幅15mm×厚み350μmであり、より好ましくは長さ10mm×幅5mm×厚み200μm〜長さ20mm×幅12mm×厚み300μmである。なお、長さとは、血液保持用具の長手方向の長さを、幅とは幅方向の長さをそれぞれいう。
このような血液保持用具20は、例えば、血液分離部22と展開部21とが、厳密に境界線によって分けられる必要はない。血液保持用具20では、血液供給部23に血液を滴下すると、前記血液は、厚み方向に移動しながら、血球と血清または血漿とに分離しつつ、その面方向(同図において矢印A方向)にさらに展開される。血液供給部23の大きさは、例えば、長さ2mm×幅1.5mm〜長さ15mm×幅20mmであり、好ましくは長さ4mm×幅3mm〜長さ10mm×幅15mmであり、より好ましくは長さ4mm×幅5mm〜長さ6mm×幅12mmである。この血液供給部23の厚み方向領域が、通常、血球分離部22にあたる。
この血液保持用具20は、前述のように単層の非対称性多孔質膜から構成される。このため、例えば、前記溶血防止剤を含有する溶液を、血球分離部22とする部分のみに含有させてもよいし、また、前記非対称性多孔質膜を前記溶液に浸漬させて、全体に含浸させてもよい。
つぎに、図2に基づき、前記血液保持用具20に血液を添加して血清または血漿試料を調製する一例について説明する。
まず、血液供給部23に血液を滴下する。前記血液は、血液分離部22の内部を厚み方向に移行しながら血球を分離する。そして、血清または血漿は、その面方向(同図において矢印A方向)に移動し、毛管現象によって展開部21に展開される。以後は、前記実施形態A−1と同様に展開部21から血清または血漿を回収すればよい。
(実施形態A−3)
実施形態A−2に示すような血液分離部および展開部の双方を備える非対称性多孔質膜から構成される血液保持用具は、より一層血球分離の効率を上げるため、例えば、前記血球分離部と前記展開部との境界に、さらに血球遮断部が設けられていることが好ましい。具体的には、前記血球分離部と前記展開部との間であって前記非対称性多孔質膜の幅方向に、血球が通過できない孔径の孔のみからなる血球遮断部が形成されている。そして、血液を供給した際に、血液の展開方向に沿って、前記血球遮断部よりも下流側が展開部であり、前記血球遮断部と、前記血球遮断部よりも上流側とが血液分離部となる構造である。このような構造であれば、例えば、血液中の血球が厚み方向だけでなく、面方向に移動した場合であっても、前記血球遮断部によって、確実に展開部への血球の通過が防止され、血清または血漿のみを展開部に展開することが可能になる。また、前記血球遮断部は、例えば、前記非対称性多孔質膜の前記幅方向に溝が形成され、前記溝の底面からこの底面に対応する非対称性多孔質膜表面までの間の部分であることが好ましい。なお、特に示さない限り、本実施形態の血液保持用具は、前記実施形態A−2と同様の条件(大きさ、材料等)である。
図3の断面図に、前記血液保持用具の一例を示す。同図に示すように、この血液保持用具30は、前記実施形態A−2の血液保持用具20と同様に、単層の非対称性多孔質膜から構成されており、さらに、その幅方向に溝が形成されている。この溝の底面から、前記底面に対応する非対称性多孔質膜表面までの間の部分が、血球遮断部32となる。そして、血球遮断部32と矢印A方向の上流側とが血球分離部となり、血球遮断部32の下流側が展開部31となる。また、血球分離部の孔径の大きい表面が血液供給部33となる。
前記非対称性多孔質膜において、血球遮断部32の孔径は、例えば、0.1μm〜50μmの範囲であり、好ましくは1μm〜30μmの範囲である。
血液保持用具30の大きさは、前述と同様に特に制限されず、供給する血液検体の量等に応じて適宜決定できる。供給する全血が約100μLの場合、血球遮断部32の大きさは、例えば、長さ0.1mm×幅1.5mm×厚み10μm〜長さ10mm×幅20mm×厚み400μmであり、好ましくは長さ0.2mm×幅3mm×厚み15μm〜長さ8mm×幅15mm×厚み350μmであり、より好ましくは長さ0.3mm×幅5mm×厚み20μm〜長さ6mm×幅12mm×厚み300μmである。
前記溝は、例えば、前記非対称性多孔質膜の表面の一部を圧縮して形成できる。例えば、円盤状ローラーを転がして圧縮したり、刃先が鈍い刃物で切れない程度に圧縮することにより形成できる。このように、圧縮により溝を形成した場合、血球遮断部において、非対称性多孔質膜の大きい孔径の孔も含まれることとなるが、圧縮により孔が変形したり潰れたりしているため、血球が通過することがない。
また、前記溝は、例えば、カッター等の刃物を用いて、前記非対称性多孔質膜の一部を切り取って形成してもよい。この時の溝の大きさなどは前述と同様である。
次に、本発明の血液保持用具の具体例として、血液検査用具として使用できる実施形態について、図4〜10を用いて説明する。なお、本発明の血液保持用具は、これらには制限されない。
(実施形態B−1)
図4の断面図に、血液保持用具の第1の形態(B−1)を示す。同図に示すように、血液保持用具40は、血液分離膜46と支持体44とを備え、血液分離膜46の一端には分析試薬を含有させた試薬部45が形成されている。血液分離膜46の一方の表面には、その一端(試薬部45とは反対側)が露出するように支持体44が積層され、この露出部分が血液供給部43となる。
このような血液保持用具40によれば、例えば、血液供給部43に血液を滴下すると、滴下された血液は、血液分離膜46内を矢印A方向に移行しながら、血球と血清とに分離される。なお、血液分離膜46は前述のように溶血防止剤を含有するため、血球の溶血を防止しつつ、血球と血清とが分離される。そして、分離された血清は、血液分離膜46内を移動して試薬部45に展開され、試薬部45において、分析試薬と血清中の分析対象物とが反応する。この反応を、例えば、電気化学的手法や光学的手法(目視を含む)によって検出すればよい。
(実施形態B−2)
図5の断面図に、血液保持用具の第2の形態(B−2)を示す。なお、特に示さない限り、本形態は、第1の形態(B−1)と同様であり、以下に示す第3〜第6の形態(B−3〜B−6)についても同様である。
同図に示すように、血液保持用具50は、血液分離膜56と分析試薬を含む試薬層55と支持体54とを備える。血液分離膜56の一方の表面には、その一端が露出するように支持体54が積層されており、この露出部分が血液供給部53となる。また、血液分離膜56の他方の表面(支持体積層面とは反対側表面)であって、かつ、血液供給部53とは反対側の端部に、試薬層55が積層されている。
このような血液保持用具50によれば、例えば、血液分離膜56内で分離された血清は、血液分離膜56に積層した試薬層55に展開され、試薬層55中の分析試薬と血清中の分析対象物とが反応する。
(実施形態B−3)
図6の断面図に、血液保持用具の第3の形態(B−3)を示す。同図に示すように、血液保持用具60は、血液分離膜66、支持体64および67を備える。血液分離膜66の一方の表面には、支持体67が積層され、血液分離膜66の他方の表面には、その一端が露出するように、支持体64が積層されている。この露出部分が血液供給部63となる。血液分離膜66は、分析試薬を含有させた3つの試薬部を有し、これらの第1試薬部651、第2試薬部652および第3試薬部653は、図中の矢印A方向に沿って順に形成されている。なお、これらの第1試薬部651、第2試薬部652および第3試薬部653には、第1分析試薬、第2分析試薬および第3分析試薬がそれぞれ含有されている。
このような血液保持用具60によれば、例えば、血液分離膜66内で分離された血清は、まず、第1試薬部651に展開され、血清中の分析対象物と第1分析試薬とが反応する。この反応液は、さらに第2試薬部652に展開され、第2分析試薬と反応する。そして、この反応液は、最終的に第3試薬部653に展開され、第3分析試薬と反応する。この反応を前述のように検出すればよい。
このような血液保持用具60は、分析対象の測定を多段階反応を利用して行う場合に適しており、その反応順序に応じて、第1試薬部651、第2試薬部652および第3試薬部653にそれぞれ対応する試薬を配置すればよい。
(実施形態B−4)
図7の断面図に、血液保持用具の第4の形態(B−4)を示す。同図に示すように、血液保持用具70は、血液分離膜76、分析試薬を含む3つの試薬層(751、752および753)、支持体74および77を備える。血液分離膜76の一方の表面には、その一端が露出するように支持体74が積層されており、この露出部分が血液供給部73となる。また、血液分離膜76の他方の表面には、第1試薬層751、第2試薬層752および第3試薬層753が、図中の矢印A方向に沿って順に積層されており、これらの試薬層を介して支持体77がさらに積層されている。なお、第1試薬層751、第2試薬層752および第3試薬層753には、第1分析試薬、第2分析試薬および第3分析試薬がそれぞれ含有されている。
このような血液保持用具70によれば、例えば、血液分離膜76内で分離された血清は、血液分離膜76に積層された第1試薬部751、第2試薬層752および第3試薬層753にそれぞれ展開される。そして、血清中の分析対象物が、各試薬層(751、752および753)の各分析試薬と反応する。このため、例えば、各試薬層にそれぞれ分析項目に応じた試薬を配置すれば、同一の用具で、同一の検体について、多項目の分析を行うことができる。
(実施形態B−5)
図8の断面図に、血液保持用具の第5の形態(B−5)を示す。
同図に示すように、血液保持用具80は、血液分離膜86、分析試薬を含む試薬層85、支持体84および87を備える。血液分離膜86の一方の表面には、その一端が露出するように支持体84が積層されており、この露出部分が血液供給部83となる。また、血液分離膜86の他方の表面には、貫通孔を有する支持体87が積層され、前記貫通孔に対応する部分には、試薬層85が積層されている。
また、図9の断面図に示すように、支持体97の貫通孔を矢印A方向に沿って順に3つ設け、各貫通孔に対応する血液分離膜86表面にそれぞれ試薬層(851、852および853)を設けてもよい。この血液保持用具90は、第4の形態(B−4)と同様に、多項目検査に適している。なお、図8と同一箇所には、同一の符号を付してある。
(実施形態B−6)
図10の断面図に、血液保持用具の第6の形態(B−6)を示す。
同図に示すように、血液保持用具100は、血液分離膜102、展開層101、支持体104および107を備える。展開層101の一方の表面には、支持体107が積層されており、他方の表面には、その一端が露出するように支持体104が積層され、かつ、この露出部分には、血液分離膜102が積層されている。この血液分離膜102の表面が、血液供給部103となる。そして、展開層101には、図中の矢印A方向に沿って、分析試薬を含有させた第1試薬部151および第2試薬部152が順に形成されている。そして、第2試薬部152は、さらに第1検出部を兼ね、この第2試薬部(第1検出部)152に対して、矢印A方向の下流側が、第2検出部153となる。
以下に、血液保持用具100を使用して、抗原抗体反応により、血清内成分の分析を行う方法の一例を説明する。なお、第1試薬部151には、分析対象物(抗原)に対する標識化された第1抗体および後述する第2抗体に対する標識化された第3抗体が配置されている。第2試薬部152には、抗原に対する未標識の第2抗体が固定化されている。前記標識化第1抗体と標識化第3抗体には、それぞれ、標識として着色ラテックス粒子が使用できる。
まず、血液供給部103に血液を滴下すると、血液分離膜102を通過することで血清が分離され、分離された血清は、展開層101内を矢印A方向に移行する。前記血清は、はじめに、第1試薬部151に展開され、血清中の抗原と標識化第1抗体とが抗原抗体反応により複合体を形成する。この複合体、抗原と未結合の標識化第1抗体および標識化第3抗体を含む血清は、さらに第2試薬部152に展開される。ここで、前記複合体および標識化第3抗体は、第2試薬部152に固定化された未標識の第2抗体と、抗原抗体反応によって結合し、第2試薬部152に捕捉される。そして、抗原と未結合の標識化第1抗体、第1検出部(第2試薬部)152で捕捉されなかった前記複合体および標識化第3抗体を含む血清は、さらに、第2検出部153に展開される。
そして、測定は以下のように行われる。まず、第1検出部(第2試薬部)152において、捕捉された抗原と標識化第1抗体との複合体を検出する。さらに、第1検出部152において、捕捉された標識化第3抗体、第2検出部153において、第2試薬部152で捕捉されなかった標識化第3抗体をそれぞれ検出する。なお、これらの検出は、標識化第1抗体および標識化第3抗体の各標識(着色ラテックス)に特有の波長で吸光度を測定することにより行える。そして、標識化第3抗体の検出結果から、第2試薬部152における捕捉効率を求める。この捕捉効率と前記複合体の見かけ上の検出結果とから、真の複合体量(抗原量)を算出する。このように標識化第3抗体を合わせて測定することにより、捕捉効率を用いて補正できるため、本実施形態によれば、分析対象物(抗原)の分析制度を向上できる。
【実施例】
(実施例1、比較例1)
前記実施形態A−1における図1に示す血液保持用具を作製し、これを用いて血球分離を行い、溶血の有無を確認した。以下、溶血防止剤の溶液濃度(%)は、特に示さない限り、溶媒の体積(100mL)における溶血防止剤重量(単位:g)を100分率で示す(単位:(w/v)%)。
(展開用多孔質膜)
市販のポリエーテルスルホン酸製非対称性多孔質膜(商品名プライムケアーS/G:スペクトラル社製)を以下の条件で洗浄し、これを展開用多孔質膜として使用した。この多孔質膜の大きさは、厚み290μm、長さ20mm、幅6mmであり、その最大孔径は200μmであり、最小孔径は2μmである。洗浄は、まず、前記非対称性多孔質膜を精製水に浸漬して10分間放置した後、新たな精製水に入れ替え、この操作を合計5回行った。そして、前記非対称性多孔質を、半日風乾させた後、さらにデシケーター内で半日乾燥させたものを、前記展開用多孔質膜とした。
(血液分離膜)
予め、溶血防止剤を溶媒(蒸留水)に溶解して、下記表1に示す各溶血防止剤を準備した。ついで、厚み1200μm、長さ12mm、幅6mmの市販のグラスフィルター(商品名AP25:ミリポア社製)に、下記表1に示す各種濃度の溶血防止剤溶液30μLを滴下して乾燥させた。乾燥後のグラスフィルターを、血液分離膜として使用した。下記シルクエッセンスは、福井絹商事社製の商品名シルクエッセンスを使用した。
(血液保持用具の作製方法)
支持体として、長さ50mm、幅6mm、厚み180μmのPETフィルムを準備し、この上に、接着剤によって前記展開用多孔質膜を接着し、さらに図1に示すように前記展開用多孔質膜の一方の端部上に前記グラスフィルターを配置した。そして、グラスフィルターを配置していない前記展開用多孔質膜の表面にカバー用のPET(厚み100μm)を配置した。これを血液保持用具として使用した(実施例1−1〜1−8)。
一方、比較例1としては、グラスフィルターに5%グリシン溶液を含有させた以外は、前記実施例1と同様にして血液保持用具を作製した。
(血球の溶血)
作製した各血液保持用具のグラスフィルター表面に、全血(ヘマトクリット38%)100μLを点着し、血球と血漿とを分離させて前記血漿を展開させた。そして、2分経過後、血球の溶血の有無を確認した。なお、血漿は、完全に展開部の先端(図1において、展開部11の右端部)に浸透するまで展開させた。血球の溶血は、展開した血漿が血球内のHbによって赤く着色されているか否かで判断した。

前記表1に示すように、比較例1では溶血が見られたが、同じ濃度もしくはそれ以下の濃度の溶血防止剤溶液を含有させた実施例1(1−1〜1−8)では溶血が防止された。
(実施例2、比較例2)
溶血防止剤として、下記表2に示す各種溶血防止剤を含有させた以外は、実施例1と同様にして血液保持用具を作製し、これを用い血球の展開を確認した。
(血球展開距離の測定)
血球展開距離は、血漿が展開して展開部の先端(図1において、展開部11の右端部)に達した時点において、展開用多孔質膜の血液を点着した側の端から血球の展開した先端(図1において、展開部11の左端部)までの距離を測定した。

前記表1および表2に示すように、5%グリシン(比較例2)では溶血が生じたのに対し、溶血防止剤を同量若しくはそれ以下の量を含有させた実施例2(2−1〜2−6)では、溶血防止はもちろんのこと、血球の展開距離も比較例2より抑えることができた。このように、前記溶血防止剤を含有させた本実施例の血液保持用具によれば、血球展開の抑制と血漿展開の促進とにより血球と血漿とが十分に分離されるため、血漿の展開量が増加し、血漿回収率を向上できることがわかった。
(実施例3、比較例3)
以下に示す展開用多孔質膜(ろ紙、酢酸セルロース膜)および血球分離用多孔質膜(グラスフィルター)を使用し、溶血防止剤としてバリンを用いた以外は、前記実施例1と同様にして血液保持用具を作製した(実施例3−1、3−2)。なお、比較例3としては、血球分離用多孔質膜にバリンを含有させない以外は、前記実施例3−1もしくは3−2と同様にして血液保持用具を作製した(比較例3−1、3−2)。そして、これらを用いて実施例1および2と同様に血球分離を行い、溶血の有無、および血球の展開を確認した。これらの結果を下記表3に示す。
(ろ紙)
商品名3MMchr(ワットマン社製)
材質:セルロース製
厚み:340μm
重量:185g/mm
空孔率(porosity):20sec/100mL/inch
(酢酸セルロース膜)
商品名C300A293C(東洋ろ紙社製)
材質:酢酸セルロース
厚み:185μm
重量:40g/mm
(血球分離用多孔質膜)
厚み1200μmのグラスフィルター(商品名AP25:ミリポア社製)を使用した。


前記表3に示すように、グラスフィルターにバリンを含有させていない比較例3−1、3−2では溶血が生じたのに対して、実施例3−1、3−2では共に溶血が起こらなかった。また、実施例3−1は、比較例3−1よりも短い血球展開距離を示し、実施例3−2も、比較例3−2より短い血球展開距離を示した。このことから、前記実施例2と同様に、本実施例の血液保持用具によれば、血球の展開を抑制できるため、血漿のみの展開を増加でき、その回収率を向上できるといえる。なお、前記実施例3−1と3−2とにおいて、血球展開距離が異なるが、これは展開用多孔質膜の種類に起因するものである。
(実施例4、比較例4)
溶血防止剤として、各種濃度(5%、2%、1%)のバリン溶液、2%のロイシン溶液を含有させた以外は、実施例1と同様にして血液保持用具をそれぞれ10個ずつ作製し、これを用いて血漿を回収し、血漿成分の測定を行った(実施例4)。
比較例4としては、所定濃度(20%、5%、0%)のグリシン溶液をグラスフィルターに含有させた以外は、前記実施例1と同様にして血液保持用具それぞれ10個ずつを作製した。
各血液保持用具に全血検体を滴下し、血球分離および血漿展開を行った。血漿の展開後、展開用多孔質膜のうち血漿のみが展開された部分を10mm×6mmの大きさに切り出した。この切片を、各溶血防止剤について10枚集め、これらを直接遠心分離機にかけて(15,000g、10分間)、血漿を回収した。この血漿を試料として各成分量の測定を行った。なお、コントロールとしては、前記全血検体を遠心分離(3000g、10分間)して得られた血漿を使用した。
(成分量の測定)
各成分量は、以下に示す市販キットを使用し、それらの使用方法に準じて、自動分析器(商品名:日立7070、日立製作所社製)により測定した。各種測定において、ブランクとして精製水を用いた。
1. 高比重リポ蛋白コレステロール(HDL−C)
:商品名 リキテック HDL−C(ロシュ社製)
2. アミラーゼ(AMY)
:商品名 AMY−NP(デンカ生研社製)
3. アルブミン(ALB)
:商品名 クリンメイトアルブミン(第一化学薬品社製)
4. グルタミック−オキサロアセティックトランスアミナーゼ(GOT)
:商品名 リキテック GOT IFCC(ロシュ社製)
5. ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)
:商品名 γ−GTP−J−HAワコー(和光純薬社製)
6. グルタミック−ピルビックトランスアミナーゼ(GPT)
:商品名 リキテック GPT IFCC(ロシュ社製)
7. トリグリセライド(TG)
:商品名 リキテック TG(ロシュ社製)
8. ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)
:商品名 LDH II−HAワコー(和光純薬社製)
9. 総タンパク(TP)
:商品名 RD総タンパク(ロシュ社製)
10. 総ビリルビン(T−Bil)
:商品名 T−Bil−V5(アズウェル社製)
11. クレアチニン(CRE)
:商品名 リキテック クレアチニン PAP(ロシュ社製)
12. 総コレステロール(TC)
:商品名 T−Cho−KL(国際試薬社製)
13. アルカリホスファターゼ(ALP)
:商品名 アルカリ性ホスファII−HRテストワコー(和光純薬社製)
14. 尿素窒素(BUN)
:商品名 尿素窒素II−HAテストワコー(和光純薬社製)
15. 尿酸(UA)
:商品名 ウリカラー・リキッド尿酸(小野薬品社製)
16. フルクトサミン(FRA)
:商品名 リキテックフルクトサミン(ロシュ社製)
17. グルコース(Glu)
:商品名 リキテックグルコース(ロシュ社製)
18. クレアチニンホスホキナーゼ(CPK)
:商品名 CK E−HAテストワコー(和光純薬社製)
これらの実施例4および比較例4の結果について、コントロールの測定値を100%とした場合の相対値(平均%)を下記表4に示す。

前記表4に示すように、グリシン添加の比較例によると、各成分の測定精度にバラツキが見られた。特にGGTについてはコントロールに対する相対値が50%前後という結果になった。これに対して、バリンまたはロイシンを添加した血液保持用具によれば、各成分ともに優れた測定結果が得られ、特にGGTについても同様に優れた結果をなった。また、実施例4は全て溶血を防止できたが、比較例4においては、5%のグリシン溶液を含有させた血液保持用具について溶血が確認された。また、20%のグリシン溶液を含有させた比較例4の血液保持用具については、すべての成分項目において、低い相対値を示す結果となった。これは、高グリシン濃度が原因となって血球が萎縮し、その分血漿成分の体積増加が起こり、その結果血漿成分の希釈が生じたためと考えられる。以上の結果から、本発明の血液保持用具によれば、溶血を防止し、かつ、各種成分測定に影響を与えることのないサンプルを調製できるといえる。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明の血球分離膜によれば、血球の溶血を防止しつつ、血球と血清または血漿とを分離することができるため、効率よく血清または血漿サンプルを調製できる。また、これによって調製したサンプルは、各種成分の測定系への影響が少ないため、高精度な測定が可能になる。このため、本発明の血球分離膜および血液保持用具は、例えば、前述のような臨床医療等の分野において有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液中の血清または血漿と血球とを分離する多孔質膜を含み、
前記多孔質膜が、疎水性アミノカルボン酸、シルク由来のタンパク質、Tris、TES、ε−アミノヘキサン酸、トラネキサム酸およびヘパリンからなる群から選択された少なくとも一つの溶血防止剤を含有する血球分離膜。
【請求項2】
疎水性アミノカルボン酸が、疎水性アミノ酸である請求の範囲1記載の血球分離膜。
【請求項3】
疎水性アミノ酸が、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンからなる群から選択された少なくとも一つのアミノ酸である請求の範囲2記載の血球分離膜。
【請求項4】
前記多孔質膜が、バリン、ロイシン、ε−アミノヘキサン酸、トラネキサム酸およびシルクエッセンスからなる群から選択された少なくとも一つの溶血防止剤を含有する請求の範囲1記載の血球分離膜。
【請求項5】
前記溶血防止剤の含有量が、前記多孔質膜の体積(cm)当たり1mg〜50mgの範囲である請求の範囲1〜4のいずれか一項に記載の血球分離膜。
【請求項6】
前記多孔質膜が、グラスフィルター、および、厚み方向に平均孔径が連続的または不連続的に小さくなる孔径分布の非対称性多孔質膜の少なくとも一方である請求の範囲1〜5のいずれか一項に記載の血球分離膜。
【請求項7】
前記非対称性多孔質膜の材質が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレンおよびポリアリールヒドラジドからなる群から選択された少なくとも一つの樹脂である請求の範囲6記載の血球分離膜。
【請求項8】
前記非対称性多孔質膜において、その最大孔径が30〜300μmの範囲であり、その最小孔径が1〜30μmの範囲である請求の範囲6または7記載の血球分離膜。
【請求項9】
血球分離膜の少なくとも一方の表面側に前記溶血防止剤が含有されている請求の範囲1〜8のいずれか一項に記載の血球分離膜。
【請求項10】
血液中の血球を分離する血球分離部と、血液中の血清または血漿を展開する展開部とを有し、前記血液分離部が、前記請求の範囲1〜9のいずれか一項に記載の血球分離膜である血液保持用具。
【請求項11】
前記展開部の上に前記血球分離部が積層されている請求の範囲10記載の血液保持用具。
【請求項12】
前記展開部が、多孔質膜である請求の範囲10〜11のいずれか一項に記載の血液保持用具。
【請求項13】
血液分離膜が血球分離部と展開部とを備えている請求の範囲10記載の血液保持用具。
【請求項14】
前記多孔質膜の材質が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレンおよびポリアリールヒドラジドからなる群から選択された少なくとも一つの樹脂である請求の範囲12記載の血液保持用具。
【請求項15】
前記血球分離部が非対称性多孔質膜であり、前記非対称性多孔質膜がさらに前記展開部を有し、前記非対称性多孔質膜において、前記血球分離部と前記展開部とが面方向に位置し、血液を供給する側が前記血球分離部であり、前記供給した血液の展開方向に沿って下流側が展開部である請求の範囲10記載の血液保持用具。
【請求項16】
前記血球分離部が非対称性多孔質膜であり、前記非対称性多孔質膜がさらに前記展開部を有し、前記非対称性多孔質膜において、前記血球分離部と前記展開部とが面方向に位置し、前記血球分離部と前記展開部との間であって前記非対称性多孔質膜の幅方向に、血球が通過できない孔径の孔のみからなる血球遮断部が形成されている請求の範囲15記載の血液保持用具。
【請求項17】
前記非対称性多孔質膜において、前記幅方向に溝が形成され、前記溝の底面からこの底面に対応する非対称性多孔質膜表面までの間の部分が、血球遮断部である請求の範囲16記載の血液保持用具。
【請求項18】
前記展開部が、さらに疎水性アミノカルボン酸、シルク由来のタンパク質、Tris、TES、ε−アミノヘキサン酸、トラネキサム酸およびヘパリンからなる群から選択された少なくとも一つの溶血防止剤を含有する請求の範囲10〜17のいずれか一項に記載の血液保持用具。
【請求項19】
前記展開部に分析試薬を含有させた試薬部が形成されている請求の範囲10〜18のいずれか一項に記載の血液保持用具。
【請求項20】
さらに、試薬を含有する試薬層を備える請求の範囲10〜19のいずれか一項に記載の血液保持用具。

【国際公開番号】WO2004/083852
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503653(P2005−503653)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003017
【国際出願日】平成16年3月9日(2004.3.9)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】