説明

血管内皮機能改善剤

【課題】血管内皮細胞の血管内皮型一酸化窒素産生酵素を活性化することで、血管内における一酸化窒素の産生量を亢進させる、長期間摂取しても高い安全性に懸念のない血管内皮機能改善剤を提供すること。
【解決手段】加熱処理した米糠を圧搾して得られた米糠油を、アルカリ剤を用いた処理を行なわず、少なくとも水蒸気蒸留による処理を行なった精製圧搾米糠油からなる血管内皮機能改善剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管内皮機能改善剤に関し、より詳細には、米糠を圧搾して得られた粗米糠油を、アルカリ剤を用いた処理を行なわず、少なくとも水蒸気蒸留による精製処理を行なった精製米糠油からなる血管内皮機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮は、血液成分などの血管透過性、血管の収縮や弛緩反応、凝固線溶系に関与することによる血液凝固性の調節、血小板機能の制御などさまざま重要な機能を有している。これらの機能は、血管内皮細胞がさまざまな生理活性因子を産生、分泌することと深く関係している。特に、生理活性因子の一つである一酸化窒素は、前記の血管の収縮や弛緩反応、凝固線溶系に関与することによる血液凝固性の調節などと極めて深い関係にあり、血管組織の恒常性を維持する重要な因子である。一酸化窒素を血管内皮細胞が産生、分泌する際には、血管内皮型一酸化窒素産生酵素(以下、[e-NOS]と略することがある。)が重要な役割を果たしており、この酵素活性が抑制されると高血圧症、脂質異常症、上昇高脂血症、動脈硬化、血栓症、糖尿病、糖尿病合併症などの発生に影響を与えることがわかっている。加えて、e-NOSの活性は、高血圧症、脂質異常症、上昇高脂血症、動脈硬化、血栓症、糖尿病、糖尿病合併症などによって血管内皮細胞が障害を受けると低下し、更に疾病の進行を促進させることも知られている。これらは慢性的な疾患であり、その予防や治療には長期間を要する必要がある。従って、長期間にわたって安全かつ効果的に、e-NOSの活性低下を防止し、または活性を向上できる技術の開発が望まれている。
【0003】
この要望に対して、従来より種々の技術が提案されている。例えば、血管内皮成長因子や同因子のレセプターアゴニストを使用する方法(特許文献1)、ペプチドを使用する方法(特許文献2)、フェネチルニコチンアミド誘導体を使用する方法(特許文献3)、プテリン誘導体を使用する方法(特許文献4)、ポリシロキサン誘導体を使用する方法(特許文献5)、HMG-CoAリダクターゼ阻害剤とγ-オリザノールやグルタチオンを併用する方法(特許文献6,7)などが挙げられる。しかし、これらは何れも合成された化合物を活用する技術であり、それらの技術を実施する場合には医師や薬剤師などの専門家の指示や指導を受ける必要があったり、長期間使用する場合に副作用が発生する恐れがあったり、予防的に長期間使用することが出来なかったりするなどの課題点があり、より安全性が高く、手軽に長期間使用できる効果的な技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−513105号公報
【特許文献2】特表2008−544747号公報
【特許文献3】特開2007−277096号公報
【特許文献4】特開2003−277265号公報
【特許文献5】特開2008−280260号公報
【特許文献6】特開2010−150288号公報
【特許文献7】特開2006−117645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、長期間摂取しても高い安全性に懸念のない、血管内皮細胞由来のe-NOSを活性化することで一酸化窒素の産生量を亢進させる、血管内皮機能改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、驚くべき事に、米糠を圧搾して得られた粗米糠油を、アルカリ剤を用いた処理を行なわず、少なくとも水蒸気蒸留による精製処理を行なった精製米糠油に優れたe-NOS活性化効果が存在することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は例えば以下の項1〜3に係る血管内皮機能改善剤を包含する。
項1.圧搾して得られる米糠油を、少なくとも水蒸気蒸留処理を行なうことにより得られる圧搾精製米糠油からなる血管内皮機能改善剤。
項2.前記圧搾精製米糠油が、トリグリセリド80〜90質量%、γ-オリザノール0.5〜2.5質量%、β-シトステロール0.5〜1.5質量%、トコフェロール類(α-、β-、γ-、δ-トコフェロールの総量)0.03〜0.07質量%、ロウ分0.1質量%以下、遊離脂肪酸1質量%以下、水分0.1質量%以下の組成を有することを特徴とする項1に記載の血管内皮機能改善剤。
項3.アルカリ剤を用いた処理工程が含まれない製造方法を用いて得られる項1または2に記載の血管内皮機能改善剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の血管内皮機能改善剤は、古くから日本で食経験がある食品成分である米糠油成分から構成されることから、長期に渡って摂取しても副作用を生じるなどの安全性上の懸念が全くないことから、専門家の指示がなくても安心して使用でき、また、予防的に長期間摂取することが出来る。また、毎年、多量に産出される米糠を原料とするため、安価に入手することが可能である。この血管内皮機能改善剤を継続して摂取することにより、高血圧症、脂質異常症、上昇高脂血症、動脈硬化症、血栓症、糖尿病、糖尿病合併症などの発症予防やこれらの症状を緩和させる効果を期待することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0010】
本発明の血管内皮機能改善剤は、米糠を圧搾して得られる米糠油の精製処理において、アルカリ剤を用いる精製処理を行なわず、少なくとも水蒸気蒸留を用いた精製処理を行うことを特徴とするものである。以下に詳しく説明する。
【0011】

圧搾搾油に供する米糠は、赤糠が好ましい。米糠は多量の油脂を含有するため、リパーゼによる油脂分解による品質の劣化が生じやすい。そのため、生成した米糠は、できるだけ早急に、加熱水蒸気法、超高温過熱法などの方法を用いて約100〜130℃まで米糠の温度を上昇させることによりリパーゼを失活させ、米糠の品質劣化を防止する処理を行なう。米糠の搾油は、通常、脱脂効率の良いヘキサンなどの有機溶媒を用いた抽出法が用いられるが、この有機溶媒を用いた抽出方法で得られた米糠油の場合、所期の効果が得られないため、米糠に圧力を負荷させることにより油分を削減する圧搾法による脱脂処理を行う。この圧搾処理には、特に限定するものではないが、スクリュー式搾油機(例:S100-400((株)サン精機社製)、一軸エキスペラー(例:搾油機V-05((株)スエヒロEPM社製)、低温連続圧搾機(例:ミラクルチャンバー((株)テクノシグマ社製)などの装置を用いることができる。(以下、圧搾法を用いて得られた米糠油を「圧搾米糠油」ということがある。)抽出法により得られる米糠油は、使用する有機溶媒に溶解性を有する非極性物質から構成されるが、圧搾米糠油は、米糠中に存在する圧搾処理条件下において液状となる物質から構成されるため、両者の組成は同一ではない。
【0012】
得られた圧搾米糠油は、フィルタープレスなどを用いた濾過により夾雑物を除去した後に、以下の処理を順次行なう。なお、前記処理を施した圧搾米糠油を、粗圧搾米糠油という。
【0013】

先ず、粗圧搾米糠油に水蒸気または水を添加する。前記処理は、粗圧搾米糠油を加温、撹拌しながら、添加することにより行う。添加処理が完了した後も撹拌を継続し、その後、生成した不溶化物質を遠心分離機等で除去する。この処理工程において、水蒸気や水の代わりにクエン酸等の有機酸を溶解した水溶液を使用することもできる。水蒸気や水を添加する際の米糠油の温度は、40〜100℃が好ましい。
【0014】

次いで、脱色処理、脱ロウ・ウィンター処理を行なう。これらの処理の順序は問わない。脱色処理は、前記の処理を行なった粗圧搾米糠油に酸性白土や活性白色土を添加し、撹拌することにより着色成分や着色原因になる成分を活性白色土に吸着させ、その後フィルタープレスなどを用いて白土を除去することにより行う。白土を除去の効率を高める目的で、白土に加えてケイソウ土などの濾過助剤を添加しても良い。処理時の粗圧搾米糠油の温度は70〜140℃であり、撹拌時間(処理時間)は10〜30分が好ましい。また、脱ロウ・ウィンター処理は、粗圧搾米糠油を0〜10℃まで冷却し、10〜50時間放置した後、公知の方法を用いて濾過すること行う。
【0015】

次いで、水蒸気蒸留を用いた処理を行なう。本発明における水蒸気蒸留は、5mmHg以下の陰圧下条件において、蒸留温度は230〜245℃、処理時間30分〜2時間、処理する粗圧搾米糠油に対して3質量%前後の水蒸気量を用いた処理を行うことが好ましい。
【0016】
前記処理を経て得られた、本発明の血管内皮機能改善剤に使用する精製圧搾米糠油は、トリグリセリドが80〜90質量%、γ-オリザノールが0.5〜2.5質量%、β-シトステロールが0.5〜1.5質量%、トコフェロール類(α-、β-、γ-、δ-トコフェロールの総量)0.03〜0.07質量%、ロウ分が0.1質量%以下、遊離脂肪酸が1質量%以下、水分0.1質量%以下の組成を有することが好ましい。
【0017】
本発明の血管内皮機能改善剤はそのまま使用でき、必要に応じて、カプセル化、粉末化、顆粒化することが出来る。また、所期の効果を損なわない限り、通常の経口組成物に配合することで使用することもできる。前記経口組成物としては、医薬品組成物、医薬部外品組成物、口腔用組成物および食品組成物が挙げられる。本発明の血管内皮機能改善剤を配合したこれらの経口組成物は、血管内皮機能を改善することで、高血圧症、脂質異常症、上昇高脂血症、動脈硬化症、血栓症、糖尿病、糖尿病合併症などの発症や症状を緩和させる効果が期待できることから、これらの疾病を発症している人や発症するリスクの高い人(例えば、遺伝的なリスクを有している人、メタボリックシンドロームや肥満に該当する人、それぞれの疾病において「境界域」に該当する「血圧が高めの人」「血中性脂肪の気になる人」「コレステロールが高めで気になる人」「食後の血糖値が気になる人」)用の経口組成物として使用できる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
血管内皮細胞におけるe−NOSの活性化
血管内皮細胞由来のe−NOSは、自身がリン酸化されることで活性化し、一酸化窒素の産生を亢進することが知られていることから、血管内皮細胞を用いたリン酸化e−NOS量を測定することで血管内皮機能改善効果を評価した。
具体的には下記の手順に従って、評価した。
評価には ウシ大動脈血管内皮細胞 (以下「BAEC」と略する。)を使用した。BAECの培養は、37℃、CO5%の存在下で、10%ウシ胎児血清(以下、「FBS」と略する。)、ペニシリン100U/mlおよび ストレプトマイシン100μg/mlを含有するM199培地 (Sigma Aldrichs社製) にて培養し、継代を行った。継代数7のBAECをI型コラーゲンで被覆した6well培養フラスコ (住友ベークライト(株)社製) に1.6 ×10/ wellの濃度で播種した。細胞がコンフルエントになった後、1%のFBSを含有するM199培地に交換し、24時間後、被験物質を1%のFBSを含有するM199培地に目的の濃度になるよう溶解することにより評価した。被検物質としては、下記の組成を有する圧搾抽出した精製米糠油、ヘキサン抽出法で製造された米糠油およびγ―オリザノールを用いた。各々の被検物質は、ウシ血清アルブミン (ナカライテスク(株)社製) にコンジュゲートさせてから、所定の濃度になるように培養細胞に添加した。24時間培養した後に、培養した細胞を冷PBS (-) で洗浄し、氷上でプロテアーゼ阻害剤 (Thermo Scientific社製) を添加したRIPA緩衝液(Thermo Scientific社製) を用いて細胞を回収した。遠心分離処理で得られた上清に、SDSサンプル緩衝液(Thermo Scientific社製) を添加し、加熱することでタンパク質変性した。その後SDS−PAGEを用いた電気泳動を行い、分離したタンパク質をニトロセルロース膜に転写した。タンパク質を転写したニトロセルロース膜を5%スキムミルクを含む0.05%ツイーン−20含有PBSにてブロッキングし、次いで、定法に従い、1次抗体としてマウス抗リン酸化e―NOS抗体 (BD Bioscience社製)、ウサギ抗eNOS抗体 (Cell Signaling Technology社製)、2次抗体として、HRP標識抗マウスIgG抗体 (Invitrogen社製)、HRP標識抗ウサギIgG抗体 (Santa Cruz社製) と反応させた。基質としてECL plus(GE Healthcare社製) を用いてニトロセルロース膜を化学発光させ、LAS4000mini (GE Healthcare社製) システムを用いてリン酸化e−NOSと総e−NOSの発光強度を数値化し、血管内皮細胞の生理活性機能の指標になりうるリン酸化e−NOS/総e−NOS値を求めた。
測定結果を、表1に示す。
評価に供した精製圧搾米糠油について
クッキング処理を施した赤糠を、ミラクルチャンバーを用いて圧搾し、得られた米糠油を、フィルタープレスを用いた濾過により夾雑物を除去し、粗圧搾米糠油を得た。粗圧搾米糠油は、加熱、撹拌条件で水蒸気を添加した後に、不溶物質を除去した。脱色処理、脱ロウ・ウィンター処理の順番で処理した後に、水蒸気蒸留を行い、得られた圧搾精製米糠油を得た。
粗圧搾米糠油は、トリグリセリドが83.0質量%、γ-オリザノールが1.77質量%、β-シトステロールが0.96質量%、トコフェロール類(α-、β-、γ-、δ-トコフェロールの総量)0.058質量%の組成を有し、前記処理を行うことにより得られた精製圧搾米糠油は、トリグリセリドが85.0質量%、γ-オリザノールが0.80質量%、β-シトステロールが0.77質量%、トコフェロール類(α-、β-、γ-、δ-トコフェロールの総量)0.050質量%、ロウ分が0.06質量%、遊離脂肪酸が0.14質量%、水分が0.02質量%の組成を有していた。
評価に供した精製ヘキサン抽出米糠油について
米糠からヘキサンを用いて油成分を抽出し、蒸留処理を行なうことでヘキサンを除去し粗米糠油を得る。得られた粗米糠油は、ガム質を除去した後に、低温で析出するロウ分の除去工程、水蒸留工程、アルカリ成分を用いた脱酸処理工程、活性白土を用いた脱色工程及び脱臭工程を経て得られたヘキサン抽出による精製米糠油である。
【表1】

【0019】
表1に示したとおり、精製圧搾米糠油には精製ヘキサン抽出米糠油に比べて、多くのリン酸化e−NOSを産生しており、血管内皮機能をより活性化していることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧搾して得られる米糠油を、少なくとも水蒸気蒸留処理を行なうことにより得られる圧搾精製米糠油からなる血管内皮機能改善剤。
【請求項2】
前記圧搾精製米糠油が、トリグリセリド80〜90質量%、γ-オリザノール0.5〜2.5質量%、β-シトステロール0.5〜1.5質量%、トコフェロール類(α-、β-、γ-、δ-トコフェロールの総量)0.03〜0.07質量%、ロウ分0.1質量%以下、遊離脂肪酸1質量%以下、水分0.1質量%以下の組成を有することを特徴とする請求項1に記載の血管内皮機能改善剤。

【公開番号】特開2012−206958(P2012−206958A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72362(P2011−72362)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】