説明

血管壁硬軟度評価装置

【課題】簡単な手法で、血管の硬軟度を評価できる血管硬軟度評価装置を提供する。
【解決手段】生体の1箇所において動脈を伝わる脈波を検出する検知手段1と、検知手段で検出された脈波のうち、1回の心臓の拍動に相当する脈波を時間毎の周波数成分に変換する変換手段21と、変換された周波数成分のうち、心臓の収縮に伴う駆出波による最大ピークの後、大動脈弁が閉じるII音の前に現れる反射波による第1のピーク、又は最大ピークと第1のピークとの中間時点に現れる第2のピークを特定する手段22と、第1のピークと第2のピークとのピーク強度同士、または、第1のピーク又は第2のピークのピーク強度を基準値と比較して血管壁の硬軟度を評価する23とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管壁硬軟度評価装置、特に動脈壁の弾性を推定し、動脈硬化度を評価できる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現代社会は生活習慣の変化や高齢化に伴い、動脈硬化症に起因する循環器疾患が増加している。しかし、これらに対する早期発見のための医療制度は未確定な状態である。動脈硬化症に対しては血管壁の柔軟さの評価が大変重要であり、現在の診断装置としては、MRI,X線CTによる画像診断や脈波伝播速度法と呼ばれるものが一般的である。しかし、MRI,X線CTは検査費用が高く、日々のモニタリングには不向きである。また、脈波伝播速度法と呼ばれる手法は、血管壁の硬軟に応じて脈波の伝播速度が変化することを利用したものであり、検査が簡便に行えるため、医療現場では一般的に用いられている手法であるが、年齢と脈波伝播速度の関係が不明瞭であり、特に予防という観点や個人差を考慮するとその診断精度が低い。
【0003】
特許文献1には、生体の所定部位に装着される脈波検出装置と、この脈波検出装置の下流側に装着され、当該部位を圧迫することにより血流を抑制する圧迫装置とを備え、圧迫装置により血流が抑制されている状態で、脈波検出装置により検出される脈波の進行波成分のピークと反射波成分のピークとに基づいて、動脈硬化度を評価する装置が提案されている。具体的には、第1圧迫袋と第2圧迫袋とを一体に備えたカフを上腕部に装着し、第2圧迫袋によるその装着部位を止血した状態で第1圧迫袋により上腕脈波を検出すると、この上腕脈波は、進行波と第2圧迫袋の装着部位で生じた反射波との合成波となる。反射波は、動脈が硬いほど大きくなり且つ速度が速くなることから、動脈硬化情報算出手段により進行波成分のピークと反射波成分のピークとの時間差および強度比を算出すると、それら時間差および強度比は動脈硬化度によって変化するので、動脈硬化度を評価することができるとされている。
【0004】
特許文献1の場合、進行波と反射波の分離を行う手段として、第2圧迫袋を用いて動脈を止血させ、血流を抑制させた状態で脈波検出を行っている。このような手法を用いると、第1圧迫袋(測定部)と第2圧迫袋(止血部)の2種類の構成が必ず必要であり、2つの装置間の伝播経路を伝わる脈波の時間差から進行波と反射波を分離しているため、2つの装置間の距離ばらつきの影響を受ける。また、第2圧迫袋を用いることによる脈動への影響も考慮されておらず、第2圧迫袋の抑制力によって、その反射波成分の振幅強度は異なってしまう。さらに、皮下脂肪などは個人差があるため、その圧迫力の制御なども難しく、個体差を識別するための手法として不十分である。
【0005】
特許文献2には、例えば上腕に設けられた第1の脈波検出装置によって上腕の脈波の立ち上がりからピーク位置までの時間tp1を検出し、例えば膝に設けられた第2の脈波検出装置によって弾性動脈の脈波の立ち上がりからピーク位置までの時間tp2を検出し、正常な場合は時間tp1と時間tp2とはほぼ等しく、動脈硬化がある場合は第2の脈波検出装置から検出される弾性動脈の脈波のピーク位置が早くなり、動脈閉塞がある場合は第2の脈波検出装置から検出される弾性動脈の脈波のピーク位置が遅れることから、血管機能の判定を行うことができるとされている。
【0006】
しかし、この手法の問題点は、生体の上肢と下肢との脈波を検出する必要がある点である。心臓から上肢までの脈動経路と心臓から下肢までの脈動経路を同等と捉え、そのピーク位置までの時間のずれを比較することによって、血管機能の判定を行おうとするものであるが、上肢と下肢までの経路は個人によって異なり、その測定精度は乏しいと考えられる。また、測定部位が二箇所必要であり、簡便に計測を行うことが難しい。
【0007】
特許文献3には、被験者の動脈近傍にその脈動を検知可能な脈動センサを当接させ、検知された脈動を脈動−時間波形で示す脈動データとして取り出し、その脈動データを周波数解析し、基準となる標準化脈動データと比較することにより、被験者の血管硬化度を決定する血管硬化システムが提案されている。
【0008】
特許文献3の場合、硬い物質になるほど高い固有振動数を持つため、血管が硬化するほど高い周波数成分が含まれるという発想から、周波数−パワースペクトルの特性を求め、高周波領域におけるパワースペクトルを基準値と比較している。しかしながら、周波数−パワースペクトルで比較する限り、若年者と高齢者との間で顕著な差異は見られず、むしろ測定バラツキによる影響を考慮すると、このデータから血管硬化度を判定することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−113593号公報
【特許文献2】特開2006−158426号公報
【特許文献3】特開2008−73088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、簡単な手法で、血管の硬軟度を評価できる血管硬軟度評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、生体の1箇所において動脈を伝わる脈波を検出する検知手段と、前記検知手段で検出された脈波のうち、1回の心臓の拍動に相当する脈波を時間毎の周波数成分に変換する変換手段と、前記変換された周波数成分のうち、心臓の収縮に伴う駆出波による最大ピークの後、大動脈弁が閉じるII音の前に現れる反射波による第1のピーク、又は前記最大ピークと第1のピークとの中間時点に現れる第2のピークを特定する手段と、前記第1のピーク及び/又は第2のピークのピーク強度を用いて、血管壁の硬軟度を評価する手段と、を備えた血管壁硬軟度評価装置を提供する。
【0012】
心臓の心室が収縮し、房室弁が閉じるI音の後、動脈圧よりも心室内部の圧力が高まり、動脈弁が開き心室から血流が動脈へ送られる。心室から動脈へ駆出された血液によって血管内に圧力波が発生する。脈波とは、圧力波が血管内部を伝播する際、血管や皮膚を押し上げ皮膚表面変位として観測される波形のことである。脈波のピークに達する点が駆出圧の最大ピークである。駆出圧が低下し始め、血液の駆出が完全に終わり、大動脈弁が閉じるII音の前後で観測点に反射波が到達する。脈波の反射波とは、動脈壁への伝播波が血管の分岐点、抹消部位などで反射された後退波のことをさす。そのため、脈波を観測すると、駆出波と反射波の合成波が観測される。
【0013】
本発明では、まず生体の1箇所において動脈を伝わる脈波を検出し、その脈波から1回の心臓の拍動に相当する1つの脈波を取り出す。検出された脈波は時間領域信号であるため、これを時間毎の周波数成分に変換する。つまり、1つの脈波を振幅(強度)と時間軸と周波数軸とを持つ3次元座標で表現する。このように時間毎の周波数成分に変換された脈波は、心臓の収縮に伴う駆出圧による最大ピークの後に、反射波による複数のピーク波形を含んでいる。これらピーク波形は、時間軸上で相前後して現れ、周波数の変化に従って連続した波状となる。反射波は血管の柔軟性の影響を受けやすく、本発明では、特にII音の前に到達する反射波の周波数成分に、年齢差による顕著な差異が見られることに着目している。それらピーク波形強度又はその変化を比較・評価することで、血管壁の硬軟度を評価することができる。
【0014】
一般に、心臓の収縮に伴う駆出波による最大ピークの後、大動脈弁が閉じるII音の前に、末梢血管や分岐部などで反射した反射波による第1のピークが現れる。そして、最大ピークと第1のピークとの中間時点にも第2のピークが現れる。通常、最大ピークから第2のピークまでの時間は0.1〜0.2秒の範囲内にあり、最大ピークから第1のピークまでの時間は0.2〜0.3秒の範囲内にある。第1のピークのピーク強度は、高齢者の方が若年者に比べて大きい。その原因は、若年者の場合には、血管の柔軟性によって反射波が大きく減衰するのに対し、高齢者の場合には、血管の柔軟性が乏しいため、末梢部位で反射した反射波が減衰しにくいからであると考えられる。一方、駆出圧による最大ピークと反射波による第1のピークとの間に現れた第2のピークは、若年者の方が高齢者に比べて大きい。第2のピークは、血管の柔軟性と関連しており、そのピークが高くなるのは、駆出圧に付随して血管壁に発生する弾性波の周波数成分が大きくなるからであると考えられる。このように、時間毎の周波数成分に変換された脈波から、第1のピーク又は第2のピークを特定し、それらのピーク強度を各年齢層ごとに統計的に求め、統計値(基準値)と実測時とを比較することで、被験者の血管壁の硬軟度(又は血管年齢)を評価することができる。また、第1のピークと第2のピークとのピーク強度差又は比から、被験者の血管壁の硬軟度を評価することもできる。
【0015】
脈波を時間毎の周波数成分に変換するための変換手段として、ウエーブレット変換を用いるのが望ましい。ウエーブレット変換とは、基底関数としてウエーブレット関数を用いて、時間毎の周波数特性を算出する波形変換方法である。同じく時間−周波数変換方法として知られるフーリエ変換の場合には、時間領域情報が失われるが、ウエーブレット変換では時間領域情報を残しながら、広い周波数領域の解析を行うことができる。これによって、脈波の周波数信号の中に含まれる成分のうち、最大ピーク、反射波による第1のピーク、及び最大ピークと第1のピークとの中間時点に現れる第2のピークを抽出することができる。それら周波数成分から、動脈硬化に起因する脈波波形の差異を判定することができる。
【0016】
検知手段としては、脈波を検出できるものであれば何でもよいが、脈波を速度波形として検出できる検知手段が望ましい。生体の皮膚に検知手段を接触させることにより、脈波を速度信号として直接的に検出でき、しかも無傷、無痛で検出できるからである。検知手段として圧電トランスデューサを使用すれば、従来の医療用センサと同程度の脈波を検出でき、小型で安価な検知手段を構成できる。従来の脈波計のように脈圧を測定するのではなく、脈波の振動を直接測定するので、より簡単に、外環境(皮膚の状態など)に影響されることなく、精度よく脈波を測定することができる。
【0017】
検知手段が脈波を検出する生体の部位としては、頸部や胸部など心臓に近い位置でもよいが、心臓から適度に離れた部位、例えば生体の手首で検出するのが望ましい。その理由は、頸部などより手首の方が動脈壁の伝播経路が長いため、年齢差による減衰の差が大きくなり、強度差が生じるためであると考えられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生体の1箇所において検出した脈波のうち、1回の心臓の拍動に相当する脈波を時間毎の周波数成分に変換し、駆出波による最大ピークの後の反射波による第1のピーク、又は前記最大ピークと第1のピークとの中間時点に現れる第2のピークを用いて血管の硬化度を評価するため、従来のような脈動を止血させる圧迫装置を必要とせず、1個のセンサで簡便に測定を行うことができる。また、大がかりな分析装置を必要としないので、低コストで、安価に生体情報のモニタリングを行うことができる。さらに、第1のピーク及び/又は第2のピークは若年者と高齢者との間で顕著な差異が現れる波形であるから、血管壁の硬軟度を適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る血管壁硬軟度評価装置の一例のシステム図である。
【図2】圧電トランスデューサの一例の概略断面図である。
【図3】本発明に係る評価装置の内部回路図である。
【図4】20歳代の被験者と60歳代の被験者の手首脈波のそれぞれの波形図である。
【図5a】20代の被験者Iについて、手首脈波のウエーブレット変換結果を3D表示した図である。
【図5b】20代の被験者Iについて、手首脈波のウエーブレット変換結果を2D表示した等高線図を示す。
【図6a】20代の被験者IIについて、手首脈波のウエーブレット変換結果を3D表示した図である。
【図6b】20代の被験者IIについて、手首脈波のウエーブレット変換結果を2D表示した等高線図を示す。
【図7a】60代の被験者Iについて、手首脈波のウエーブレット変換結果を3D表示した図である。
【図7b】60代の被験者Iについて、手首脈波のウエーブレット変換結果を2D表示した等高線図を示す。
【図8a】60代の被験者IIについて、手首脈波のウエーブレット変換結果を3D表示した図である。
【図8b】60代の被験者IIについて、手首脈波のウエーブレット変換結果を2D表示した等高線図を示す。
【図9】各被験者の第1ピークP1を、振幅−周波数の関係で示した図である。
【図10】各被験者の第2ピークP2を、振幅−周波数の関係で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る動脈硬化評価/診断装置の一例を示す。この例は、人体の1箇所の脈波を測定することによって、動脈硬化を診断する例である。図1において、被験者Hの皮膚(この例では左手首)に接するように1個の圧電トランスデューサ1が取り付けられている。圧電トランスデューサ1は動脈を伝わる脈波を電気信号に変換する一種の音響センサである。トランスデューサ1の接触箇所は、左手首に限るものではなく、右手首、頸部、胸部、足首、腰部、大腿部、肩などの他の部位で測定してもよい。圧電トランスデューサ1は配線を介して評価装置2に接続され、評価装置2にはその診断結果を表示する表示装置3が設けられている。表示装置3には、被験者の動脈硬化度が数値、記号、グラフなどによって表示される。圧電トランスデューサ1とは別に、心臓の拍動の電気的な波形を測定する心電計を胸部に取り付け、その出力信号を評価装置2に入力し、心音の特定に利用してもよい。
【0022】
図2は圧電トランスデューサ1の一例を示す。トランスデューサ1は圧電ユニモルフ構造を有し、有底筒状のケース10の底部11が振動面として構成され、その底部11内面に圧電素子12が固定されている。底部11の外表面が被験者Hの皮膚に接触される。ケース10の開口部は封止材13によって閉じられ、この封止材13を介してリード線14が引き出されている。なお、圧電トランスデューサは図2の構造に限らないことは勿論である。
【0023】
図3は評価装置2の内部回路構成を示す。圧電トランスデューサ1で検出された脈波(変位速度信号)は増幅器20で増幅された後、波形変換ブロック21に入力される。入力された脈波信号のうち1回の心臓の拍動に相当する脈波は、ブロック21内でウエーブレット変換を用いて時間毎の周波数成分に変換される。得られた時間毎の周波数成分は、次にブロック22で、特定の時間領域の周波数成分の抽出が行われる。つまり、変換された周波数成分のピーク強度のうち、心臓の収縮に伴う駆出波による最大ピークの後、大動脈弁が閉じるII音の前に現れる反射波による第1のピークと、最大ピークと第1のピークとの中間時点に現れる第2のピークとを抽出する。抽出された第1のピークと第2のピークのピーク強度はブロック23で比較・評価され、被験者Hの動脈硬化度が出力される。
【実施例】
【0024】
次に、20歳代と60歳代の4人の被験者について、本評価/診断装置を用いて血管壁の硬軟度を評価・診断した結果について説明する。
【0025】
図4は、20歳代の被験者I、IIと、60歳代の被験者I、IIについて、圧電トランスデューサを用いて検出した手首の脈波の時間波形を示す。これら波形は、1回の心臓の拍動に相当する脈波(速度波形)の時間変化を示している。いずれの波形においても、最初の最大ピークの後、波形が振動しているが、これら波形だけでは年齢による顕著な差異を判定することは難しい。
【0026】
図5(a)は図4に示す20歳代の被験者Iの脈波波形をウエーブレット変換したデータを3D(振幅−時間−周波数)表示したものである。図5(b)は図5(a)のデータを周波数−時間で表示したものであり、この図から、心臓の収縮に伴う駆出波による最大ピークPm、大動脈弁が閉じるII音の前に現れる反射波による第1のピークP1、最大ピークと第1のピークとの中間時点に現れる第2のピークP2を特定することができる。第1ピークP1は最大ピークPmより0.2〜0.3秒遅れて現れ、第2ピークP2は最大ピークPmより0.1〜0.2秒遅れて現れる。
【0027】
ウエーブレット変換に際し、母関数として次式のようなガボール関数を用いた。但し、ガボール関数に代えて、Mexican hat, French hat, Meyerのウエーブレット、変形ガウシアンなどの関数を用いることもできる。
【数1】

【0028】
図6(a)は20歳代の被験者IIの脈波波形をウエーブレット変換したデータを3D(振幅−時間−周波数)表示したものであり、図6(b)は図6(a)のデータを周波数−時間で表示したものである。図6のうち、Pmは最大ピーク、P1は反射波による第1のピーク、P2は最大ピークと第1のピークとの中間時点に現れる第2のピークである。
【0029】
図7(a)は60歳代の被験者Iの脈波波形をウエーブレット変換したデータを3D(振幅−時間−周波数)表示したものであり、図7(b)は図7(a)のデータを周波数−時間で表示したものである。図7のうち、Pmは最大ピーク、P1は反射波による第1のピーク、P2は最大ピークと第1のピークとの中間時点に現れる第2のピークである。
【0030】
図8(a)は60歳代の被験者IIの脈波波形をウエーブレット変換したデータを3D(振幅−時間−周波数)表示したものであり、図8(b)は図8(a)のデータを周波数−時間で表示したものである。図8のうち、Pmは最大ピーク、P1は反射波による第1のピーク、P2は最大ピークと第1のピークとの中間時点に現れる第2のピークである。
【0031】
図9は図5〜図8で特定した各被験者の第1ピークP1を、振幅−周波数の関係で示したものである。実線は20歳代の被験者I、II、二点鎖線は60歳代の被験者I、IIを示す。第1ピークP1は反射波による影響が大きいと考えられ、60歳代の被験者I、IIのピーク強度が、20歳代の被験者I、IIより明らかに大きい。特に、10Hz以下の低周波成分において、ピーク強度差が顕著になっている。そのため、第1ピークを特定し、そのピーク強度を基準値と比較することで、測定バラツキの影響をさほど受けずに、血管壁の硬軟度を明瞭に評価することができる。
【0032】
図10は図5〜図8で特定した各被験者の第2ピークP2を、振幅−周波数の関係で示したものである。図10から明らかなように、20歳代の被験者I、IIの第2ピークのピーク強度は、60歳代の被験者I、IIに比べて明らかに大きい。特に、5Hz以上の周波数成分において、若年者のピーク強度が高齢者よりかなり大きい。そのため、第2ピークを特定し、そのピーク強度を基準値と比較することで、血管壁の硬軟度を明瞭に評価することができる。
【0033】
上記では第1のピークと第2のピークの基準値を予め測定しておき、第1のピーク又は第2のピークと基準値とを比較しているが、第1のピークP1と第2のピークP2とのピーク強度同士を比較して判断をしてもよい。すなわち、第1のピークP1と第2のピークP2のピーク強度同士を比較して、第1のピークP1のピーク強度の方が第2のピークのピーク強度に比べて大きい場合、血管壁が硬化ぎみであり、第2のピークP2のピーク強度の方が第1のピークP1のピーク強度に比べて大きい場合、血管壁に粘弾性があると判断することができる。
【0034】
検知手段を人体に接触させる方法としては、人が日常身につける衣服や時計、指輪、アクセサリーなどに組み込むことも可能であるし、いす、ソファー、毛布や靴など測定時に接触を得られる方法であればその手段を問わない。トランスデューサの接触箇所を最適に取れば、無痛、非侵襲で圧迫部などは必要としないため、被験者が測定時に意識せずにデータの取得を行うことが可能となり、家庭内計測器として常時測定データを蓄積することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 圧電トランスデューサ
2 評価装置
20 増幅器
21 ウエーブレット変換ブロック
22 特徴量抽出ブロック
23 比較・評価ブロック
Pm 最大ピーク
P1 第1のピーク
P2 第2のピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の1箇所において動脈を伝わる脈波を検出する検知手段と、
前記検知手段で検出された脈波のうち、1回の心臓の拍動に相当する脈波を時間毎の周波数成分に変換する変換手段と、
前記変換された周波数成分のうち、心臓の収縮に伴う駆出波による最大ピークの後、大動脈弁が閉じるII音の前に現れる反射波による第1のピーク、又は前記最大ピークと第1のピークとの中間時点に現れる第2のピークを特定する手段と、
前記第1のピーク及び/又は第2のピークのピーク強度を用いて、血管壁の硬軟度を評価する手段と、を備えた血管壁硬軟度評価装置。
【請求項2】
前記血管壁の硬軟度を評価する手段は、前記第1のピークのピーク強度と前記第2のピークのピーク強度とを相互に比較することにより、血管壁の硬軟度を評価するものである請求項1に記載の血管壁硬軟度評価装置。
【請求項3】
前記血管壁の硬軟度を評価する手段は、前記第1のピーク又は第2のピークのピーク強度を基準値と比較することにより、血管壁の硬軟度を評価するものである請求項1に記載の血管壁硬軟度評価装置。
【請求項4】
前記最大ピークから第2のピークまでの時間は0.1〜0.2秒の範囲内にあり、前記最大ピークから第1のピークまでの時間は0.2〜0.3秒の範囲内にあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の血管壁硬軟度評価装置。
【請求項5】
前記検知手段は、前記脈波を変位速度信号として検出するものである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の血管壁硬軟度評価装置。
【請求項6】
前記検知手段は圧電トランスデューサであることを特徴とする請求項5に記載の血管壁硬軟度評価装置。
【請求項7】
前記変換手段は、ウエーブレット変換手段である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の血管壁硬軟度評価装置。
【請求項8】
前記検知手段は、生体の手首の脈波を検出するものである請求項1乃至7のいずれか1項に記載の血管壁硬軟度評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【公開番号】特開2010−213842(P2010−213842A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62792(P2009−62792)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】