説明

血管状態評価装置、血管状態評価方法および血管状態評価プログラム

【課題】動脈硬化の度合いをより高い精度で評価することが可能な血管状態評価装置、血管状態評価方法および血管状態評価プログラムを提供する。
【解決手段】位相線傾き算出部(実測)32は、周波数変換部30aおよび30bから出力される位相特性Pa(f)およびPb(f)を受信し、両者間の各周波数成分についての位相差に基づいて、実測の位相差特性を算出する。一方、位相線傾き算出部(モデル)38は、伝達関数算出部36で算出された伝達関数Ga(f)と伝達関数Gb(f)との間の位相差特性を算出し、算出した位相差特性を探索部40へ出力する。探索部40は、変数kをフィッティングして、傾きg(k)と傾きgexpとが互いに略一致する変数kopt(最適解)を決定する。この変数koptが被験者の動脈硬化の度合いを示す指標となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は生体を構成する血管の状態を評価する血管状態評価装置、血管状態評価方法および血管状態評価プログラムに関し、特に血管経路を伝達関数としてモデル化した上で、血管の動脈硬化の度合いを評価する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、動脈硬化に起因する循環器系疾患が増加しており、これを受けて血管の動脈硬化の度合いを評価する評価装置が実用化されている。動脈硬化の度合いを評価する代表的な方法として、脈波速度法が知られている。この脈波速度法は、心臓の拍動に伴う血圧変化が血管上を伝播する速度(脈波速度)と血管の弾力度合い(剛性)との間に相関があることを利用したものである。すなわち、弾性管である血管内を脈波が進む際、管壁が硬く、内径が細く、管厚が厚いほど脈波速度は増大するため、脈波速度を測定することで血管の動脈硬化の度合いを知ることができる。特に、両上腕および両足首における血圧の時間波形を用いる、baPWV法(brachial-ankle Pulse Wave Velocity method)による評価装置が実用化されている。
【0003】
このような脈波速度の測定方法として、たとえば、特開2006−326334号公報(特許文献1)には、複数の電圧波形のうち、隣り合う電圧電極対から得られた電圧波形間の時間的なひずみを検出する検出手段と、複数の電圧波形の全てについて、隣り合う電圧電極間の距離及び/又は時間的なずれとを用い、隣り合う電圧電極間における脈波伝播速度又は脈波伝播時間の変化率を求める算出手段とを有する脈波伝播速度測定装置が開示されている。
【特許文献1】特開2006−326334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2006−326334号公報(特許文献1)に記載されるように、脈波速度を測定する方法として、血管経路上の複数の点で測定した時間波形の間の時間差(遅れ時間)を求め、各点の心臓からの経路差を当該時間差で除することで脈波速度が算出される。
【0005】
しかしながら、実際の脈波速度は伝播経路や周波数に依存するため、単純に経路差を時間差で除するだけでは、厳密な脈波速度を算出することはできない。すなわち、被評価者の血管径や血管長、および脈波に含まれる周波数成分などに依存して、本来の脈波速度からずれた値が算出される場合があった。そのため、動脈硬化の度合いの評価精度をあまり高められないという問題があった。
【0006】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、動脈硬化の度合いをより高い精度で評価することが可能な血管状態評価装置、血管状態評価方法および血管状態評価プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のある局面に従う血管状態評価装置は、生体を構成する血管を複数の区間に分割してモデル化した循環系モデルを格納する記憶手段を備え、循環系モデルは、複数の区間の各々を代表する形状値を含む。さらに、血管状態評価装置は、生体の第1測定部位に装着されて第1生体信号の時間波形を測定する第1測定手段と、生体の第2測定部位に装着され、第1測定手段と同期して第2生体信号の時間波形を測定する第2測定手段と、第1生体信号と第2生体信号との間の各周波数成分についての位相差に基づいて、実測の位相差特性を算出する第1算出手段と、第1測定部位までの血管経路に対応して循環系モデルに基づいて規定された第1伝達関数と、第2測定部位までの血管経路に対応して循環系モデルに基づいて規定された第2伝達関数との間の位相差特性を算出する第2算出手段とを備え、第1伝達関数および第2伝達関数は、血管の弾力度合いを示す弾力度変数を含む。さらに、血管状態評価装置は、第1算出手段によって算出される実測の位相差特性に基づいて、第2算出手段によって算出される位相差特性をフィッティングすることにより、弾力度変数を決定する探索手段を備える。
【0008】
この発明によれば、循環系モデルに基づいて、第1および第2測定部位までの血管経路に対応してそれぞれ第1および第2伝達関数が規定された上で、第1伝達関数と第2伝達関数との間の位相差特性を算出する。ここで、第1および第2伝達関数は、血管の弾力度合いを示す弾力度変数を含む。一方で、第1および第2測定部位からそれぞれ第1および第2生体信号の時間波形が測定された上で、第1生体信号と第2生体信号との間の各周波数成分についての位相差に基づいて実測の位相差特性を算出する。さらに、実測の位相差特性に基づいて、第1伝達関数と第2伝達関数との間の位相差特性をフィッティングすることにより、弾力度変数を決定する。
【0009】
ここで、第1および第2伝達関数は、脈波の周波数特性を含んで規定されるので、フィッティングによって、実測の測定信号の周波数特性を反映した弾力度変数の最適解が得られることになる。よって、周波数特性を考慮した上で、血管の状態(動脈硬化の度合い)をより高い精度で評価することができる。
【0010】
好ましくは、血管状態評価装置は、第1および第2測定部位までの血管経路にそれぞれに対応する各区間の形状値に基づいて、第1および第2伝達関数を算出する伝達関数算出手段をさらに備える。
【0011】
好ましくは、伝達関数算出手段は、各区間に対応付けられた、血管の圧力および血液流量を入力変数とする分布定数モデルを用いて、第1および第2伝達関数を算出し、分布定数モデルの各々は、対応する区間における血液の流れやすさに応じた縦インピーダンスと、弾力度変数を有する横インピーダンスとを含む。
【0012】
好ましくは、血管状態評価装置は、探索手段によってフィッティングされた弾力度変数に基づいて、血管における脈波速度を算出する脈波速度算出手段をさらに備える。
【0013】
さらに好ましくは、脈波速度算出手段は、第1測定部位までの血管経路に対応する各区間の形状値および第2測定部位までの血管経路に対応する各区間の形状値に基づいて脈波速度を算出する。
【0014】
好ましくは、循環系モデルは、形状値として、血管径および血管長を含む。
好ましくは、循環系モデルは、生体を構成する血管を複数の区分に分類した上で、複数の区分の少なくとも1つの区分に属する血管をモデル化したものである。
【0015】
さらに好ましくは、生体を構成する血管は、血管径の大きさに基づいて複数の区分に分類される。
【0016】
また好ましくは、伝達モデル算出手段は、各区間に含まれる血管のうち、循環系モデルにおいてモデル化されていない血管をモデル化した末梢部モデルを、各区間に対応する循環系モデルに付加した上で、伝達関数を算出する。
【0017】
さらに好ましくは、伝達モデル算出手段は、各区間の循環系モデルを血管の形状差に基づいて変換することで、当該区間の末梢部モデルを算出する。
【0018】
さらに好ましくは、伝達モデル算出手段は、末梢部モデルの終端を無反射条件の下で伝達関数を算出する。
【0019】
好ましくは、血管状態評価装置は、第1生体信号から各周波数成分についての位相を示す第1位相特性を算出する第1周波数変換手段と、第2生体信号から各周波数成分についての位相を示す第2位相特性を算出する第2周波数変換手段とをさらに備え、第1算出手段は、第1位相データと第2位相データとを差分して差分位相データを算出する。さらに、血管状態評価装置は、差分位相データにおける周期遅れに起因する位相ずれを、1または2以上の周期に相当する位相の単位で補正することで、実測の位相差特性を算出する。
【0020】
好ましくは、第1算出手段は、第1生体信号と第2生体信号との間のコヒーレンス値が予め定められたしきい値より高い周波数成分を用いて実測の位相差特性を算出する。
【0021】
この発明の別の局面に従えば、生体を構成する血管を複数の区間に分割してモデル化した循環系モデルを用いて、生体を構成する血管の状態を評価する血管状態評価方法であって、循環系モデルは、複数の区間の各々を代表する形状値を含む。血管状態評価方法は、生体の第1測定部位から第1生体信号の時間波形を測定するとともに、生体の第2測定部位から第2生体信号の時間波形を測定するステップと、第1生体信号と第2生体信号との間の各周波数成分についての位相差に基づいて、実測の位相差特性を算出するステップと、第1測定部位までの血管経路に対応して循環系モデルに基づいて規定された第1伝達関数と、第2測定部位までの血管経路に対応して循環系モデルに基づいて規定された第2伝達関数との間の位相差特性を算出するステップとを備え、第1伝達関数および第2伝達関数は、血管の弾力度合いを示す弾力度変数を含む。さらに、血管状態評価方法は、実測の位相差特性に基づいて、第1伝達関数と第2伝達関数との間の位相差特性をフィッティングすることにより、弾力度変数を決定するステップを備える。
【0022】
この発明のさらに別の局面に従えば、演算処理部を有するコンピュータに、生体を構成する血管を複数の区間に分割して予めモデル化した循環系モデルを用いて、生体を構成する血管の状態の評価を実行させるための血管状態評価プログラムであって、循環系モデルは、複数の区間の各々を代表する形状値を含む。血管状態評価プログラムは、演算処理部が、生体の第1測定部位で測定される第1生体信号の時間波形を取得するとともに、生体の第2測定部位で測定される第2生体信号の時間波形を取得するステップと、演算処理部が、第1生体信号と第2生体信号との間の各周波数成分についての位相差に基づいて、実測の位相差特性を算出するステップと、演算処理部が、第1測定部位までの血管経路に対応して循環系モデルに基づいて規定された第1伝達関数と、第2測定部位までの血管経路に対応して循環系モデルに基づいて規定された第2伝達関数との間の位相差特性を算出するステップとを備え、第1伝達関数および第2伝達関数は、血管の弾力度合いを示す弾力度変数を含む。さらに、血管状態評価プログラムは、演算処理部が、演算処理部が、実測の位相差特性に基づいて、第1伝達関数と第2伝達関数との間の位相差特性をフィッティングすることにより、弾力度変数を決定するステップを備える。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、動脈硬化の度合いをより高い精度で評価することが可能な血管状態評価装置、血管状態評価方法および血管状態評価プログラムを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0025】
[実施の形態1]
(装置構成)
図1は、この発明の実施の形態1に従う血管状態評価装置100の概略構成図である。
【0026】
図1を参照して、この発明の実施の形態1に従う血管状態評価装置(以下、単に「評価装置」とも記す)100は、制御部2と、表示部4と、操作部6と、測定部20a,20bとを含む。
【0027】
制御部2は、評価装置100全体の制御を行なう装置であり、代表的に、CPU(Central Processing Unit)10と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)14とを含むコンピュータで構成される。
【0028】
CPU10は、演算処理部に相当し、ROM12に予め格納されているプログラムを読出して、RAM14をワークメモリとして使用しながら、当該プログラムを実行する。また、ROM12には、少なくとも後述する循環系モデルが予め格納されており、CPU10は、本実施の形態に従う血管状態評価方法を格納したプログラムの実行に際して、当該循環系モデルを参照する。
【0029】
また、制御部2には、表示部4および操作部6が接続されている。表示部4は、ユーザによる各種設定の入力を促したり、制御部2からの演算結果を表示したりする。これに対して、ユーザは、表示部4に表示される内容を確認しながら操作部6を操作して、所望の設定入力や操作を行なう。なお、表示部4は、一例として、LED(Light Emitting Diode)やLCD(Liquid Crystal Display)などからなる。
【0030】
より具体的には、制御部2は、測定部20a,20bに対して測定指令を与えるとともに、当該測定指令に応答して測定された測定信号Pa(t),Pb(t)を受信し、当該測定信号Pa(t),Pb(t)に基づいて、本実施の形態に従う血管状態評価方法を実行する。
【0031】
測定部20a,20bは、被験者200の所定の測定部位に装着された押圧カフ(空気袋)24a,24bの内圧(以下、「カフ圧」という)を加圧して、それぞれの測定部位における生体信号(一例として、脈波)の時間波形を測定する。なお、後述するように、制御部2は、測定信号Pa(t)と測定信号Pb(t)との間の各周波数成分についての位相差に基づいて、実測の位相差特性を算出するので、制御部2からは、測定部20aおよび20bが互いに同期して生体信号を測定できるように、測定指令が同時に与えられる。
【0032】
より詳細には、たとえば、押圧カフ24aおよび24bは、それぞれ被験者200の足首部および上腕部に装着され、それぞれ配管22aおよび22bを介して測定部20aおよび20bから供給される空気によって加圧される。そして、この加圧によって、押圧カフ24aおよび24bは対応の測定部位に押圧され、当該測定部位の脈波に応じた圧力変化がそれぞれ配管22aおよび22bを介して測定部20aおよび20bへ伝達される。測定部20a,20bは、この伝達される圧力変化を検出すことで、測定部位の脈波の時間波形を測定する。なお、測定信号Pa(t)およびPb(t)の所定の周波数成分(一例として、0〜20[Hz])に対して演算処理を行なうことが好ましいので、測定信号Pa(t)およびPb(t)の測定周期(サンプリング周期)は、この周波数成分に応じた時間間隔(一例として、25msec)より短くすることが好ましい。
【0033】
このような測定動作を実行するために、測定部20aは、圧力センサ28aと、調圧弁26aと、圧力ポンプ25aと、配管27aとを含む。圧力センサ28aは、配管22aを介して伝達される圧力変動を検出するための検出部位であり、一例として、単結晶シリコンなどからなる半導体チップに所定間隔に配列された複数のセンサエレメントを含む。調圧弁26aは、圧力ポンプ25aと押圧カフ24aとの間に介挿され、測定時に押圧カフ24aを加圧に用いられる圧力を所定の範囲に維持する。圧力ポンプ25aは、制御部2からの測定指令に応じて作動し、押圧カフ24aを加圧するための加圧空気を供給する。
【0034】
同様に、測定部20bは、圧力センサ28bと、調圧弁26bと、圧力ポンプ25bと、配管27bとを含む。各部の構成については、測定部20aと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0035】
なお、本実施の形態では、生体信号の一例として、脈波によって生じる圧力変化を、圧力カフを用いて測定する構成について説明するが、たとえば、被験者200の測定部位に微少の一定電流を流すとともに、脈波の伝播に応じて生じるインピーダンス(生体インピーダンス)の変化によって生じる電圧変化を測定するようにしてもよい。
【0036】
なお、図1に示す評価装置100と本願発明との対応関係については、測定部20a,20bと、配管22a,22bと、押圧カフ24a,24bとが「第1および第2の測定手段」に相当する。
【0037】
(機能ブロック図)
制御部2は、予め格納する循環系モデルに基づいて、それぞれ押圧カフ24aおよび24bが装着された測定部位までの血管経路に対応して規定される2つの伝達関数を算出する。ここで、それぞれの伝達関数は、血管の弾力度合いを示す弾力度変数を含む。すなわち、弾力度変数は、血管の動脈硬化の度合いを示す指標である。本実施の形態では、弾力度変数の代表例として「ヤング率」を用いるが、血管の剛性や柔軟度を示す他の変数を用いてもよい。そして、制御部2は、測定信号Pa(t)およびPb(t)を周波数領域の信号に変換した上で、両者間の実測の位相差特性を算出し、この実測の位相差特性が上述した2つの伝達関数の間の位相差特性と一致するように、弾力度変数をフィッティング(同定)する。このフィッティングされた弾力度変数が被験者200の動脈硬化の度合いを示す値となる。以下、このような制御部2における処理動作を実現するための機能ブロックについて説明する。
【0038】
図2は、この発明の実施の形態1に従う血管状態評価装置100の制御部2で実行される機能を模式的に示す機能ブロック図である。
【0039】
図2を参照して、制御部2は、周波数変換部(FFT)30a,30bと、位相線傾き算出部(実測)32と、記憶部34と、伝達関数算出部36と、位相線傾き算出部(モデル)38と、探索部40と、評価部42とを実現する。
【0040】
周波数変換部30aおよび30bは、それぞれ時間波形である測定信号Pa(t)およびPb(t)を所定期間にわたって受信し、当該受信した測定信号Pa(t)およびPb(t)を周波数領域の関数に変換する周波数変換部である。代表的に、周波数変換部30aおよび30bは、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformer)を用いて、周波数変換を実行する。なお、高速フーリエ変換に限らず、時間領域の関数をフーリエ級数などの周波数領域の関数に変換するものであれば、いずれのロジックを用いてもよい。
【0041】
そして、周波数変換部30aは、測定信号Pa(t)の各周波数成分についての位相を示す位相特性Pa(f)を算出し、算出した位相特性Pa(f)を位相線傾き算出部(実測)32へ出力する。同様に、周波数変換部30bは、測定信号Pb(t)の各周波数成分についての位相を示す位相特性Pb(f)を算出し、算出した位相特性Pb(f)を位相線傾き算出部(実測)32へ出力する。
【0042】
位相線傾き算出部(実測)32は、ユーザによる操作部6(図1)などの操作に応答して、測定指令を測定部20a,20bへ与える。この測定指令を与えた後、周波数変換部30aおよび30bから出力される位相特性Pa(f)および位相特性Pb(f)を受信し、両者間の各周波数成分についての位相差に基づいて、実測の位相差特性を算出する。具体的には、位相線傾き算出部(実測)32は、周波数成分毎に位相特性Pa(f)およびPb(f)の値を比較し、両者の位相差を算出する。後述するように、このように算出された位相差は、周波数成分についての一次関数として近似できるので、この近似された一次関数(位相線)の傾きgexp[deg/Hz]を、実測の位相差特性として探索部40へ出力する。すなわち、偏角φexp=∠位相特性Pa(f)/位相特性Pb(f)として算出される偏角φを用いて、傾きgexp=tan(φexp)として定義できる。
【0043】
一方、伝達関数算出部36は、心臓からそれぞれ押圧カフ24aおよび24bが装着された2つの測定部位までの血管経路の伝達特性を示す2つの伝達関数Ga(f)およびGb(f)を算出し、位相線傾き算出部(モデル)38へ出力する。より具体的には、伝達関数算出部36は、記憶部34に予め格納されている循環系モデルに基づいて、心臓を入力端とした全身についての脈波伝播モデル(伝達関数)を算出した上で、全身の脈波伝播モデルの中で2つの測定部位までの血管経路に対応する伝達関数Ga(f)およびGb(f)を算出する。この際、伝達関数Ga(f)およびGb(f)には、変数kを含む形でヤング率が組込まれるが、変数kには探索部40によって具体な値が設定される。
【0044】
記憶部34は、被験者200を構成する血管を複数の区間に分割してモデル化した循環系モデルを格納している。この循環系モデルは、各区間に対応付けて、各区間を代表する形状値が規定されている。このような形状値の一例として、本実施の形態では、各区間の血管径、血管長、血管壁の厚さなどが含まれる。なお、循環系モデルについては、後に詳述する。
【0045】
位相線傾き算出部(モデル)38は、伝達関数Ga(f)と伝達関数Gb(f)との間の位相差特性を算出し、算出した位相差特性を探索部40へ出力する。具体的には、位相線傾き算出部(モデル)38は、周波数領域における位相特性Pa(f)と位相特性Pb(f)との間の位相差である位相線の傾きg(k)[deg/Hz]を、位相差特性として探索部40へ出力する。ここで、傾きg(k)は、偏角φmodel=∠伝達関数Ga(f)/伝達関数Gb(f)として算出される偏角φmodelを用いて、傾きg(k)=tan(φmodel)として定義できる。
【0046】
探索部40は、位相線傾き算出部(実測)32によって算出される傾きgexpに基づいて、位相線傾き算出部(モデル)38によって算出される傾きg(k)をフィッティングすることにより、変数kを決定する。すなわち、傾きg(k)と傾きgexpとが互いに略一致するまで、変数kが初期値kから順次変更され、伝達関数算出部36および位相線傾き算出部(モデル)38における演算処理が繰返し実行される。このようにして、傾きg(k)と傾きgexpとが互いに略一致する変数kopt(最適解)が決定されると、探索部40は、決定した変数kの値を評価部42へ出力する。この決定された変数kの最適解が、被験者200の動脈硬化の度合いを示す指標となる。
【0047】
評価部42は、探索部40で決定された最適解kopt(または、最適解koptを用いて換算されたヤング率)を予め定められた基準値と比較し、動脈硬化の度合いについての評価を、表示部4(図1)などに出力する。
【0048】
以下、このような主要機能の動作や構成について詳述する。
(物理モデル)
上述したように、伝達関数算出部36は、心臓を入力端(始点)とする血管経路の伝達特性を示す伝達関数を算出するが、この算出される伝達関数は、脈波が血管を伝播する力学的なモデルから解析的に算出される。本実施の形態では、血管の各区間を一次元線形分布定数モデル化して、伝達関数を算出する構成について例示する。
【0049】
まず、血管を軸対象の微小変形する薄肉円管とし、内部の血液の流れを非粘性流体の層流とし、かつ反射波はないと仮定してモデル化すると、脈波速度Cと血管壁のヤング率Eとの関係は、Moens-Kortewegの式と呼ばれる(1)式で表される。なお、脈波速度Cは、心臓の拍動に伴う血圧変化が血管上を伝播する速度を意味する。
【0050】
【数1】

【0051】
この(1)式から、血管が硬く、内腔が細く、または血管壁が厚いほど脈波速度Cが増加することがわかる。
【0052】
図3は、血管内の血液の一次元流れモデルを示す図である。
一般に、血管に比べて血液の体積弾性率は十分高いので、血管を弾性円管とし、血液を非圧縮性流体として考えることができる。このような弾性管内における一次元流れの支配方程式は、以下のように導かれる。
【0053】
図3を参照して、一次元流れモデルの断面CS1−CS2間の検査体積50に関する質量の保存について考える。断面CS1の内腔の面積をA(=πr),流体(血液)の密度をρ,圧力をp,断面平均流速をUとし、断面CS1−CS2間にある分枝血管へ単位時間に漏れ出す流体の体積を単位長さおよび単位圧力あたりGとすると,質量保存則より(2)式が成り立つ。ここで、非圧縮性流体では密度ρは一定であるので(2)式は(3)式のように簡略化できる。
【0054】
【数2】

【0055】
図4は、図3に示す検査体積50に働く力52および出入りする運動量54を示す図である。
【0056】
図4を参照して、検査体積50内における運動量54の単位時間当たりの変化は、流入する正味の運動量54と検査体積50に及ぼされる力52に等しいので,高次の微少項を省略して(4)式が導かれる。
【0057】
【数3】

【0058】
(4)式を連続の式を用いて整理すると(5)式に示す運動方程式が得られる.
【0059】
【数4】

【0060】
次に、血管を一次元線形分布定数モデル化するために、(3)式および(5)式において非線形項を省略し、変数を圧力pと体積流量q(=AU)に置き換えることにより、(6)式および(7)式が得られる。
【0061】
【数5】

【0062】
ここで、(6)式および(7)式の4個の係数の物理的な意味については、Rは血液が流れるときの粘性抵抗を示し、Lは流れが変化するときに急な変化を妨げようとする血液の慣性を示し、Gは血管外もしくは分岐管に流れ出す血液の流れやすさを示し、Cは圧力変化に応じて血管が伸縮する際に血管内に血液を蓄える能力を示す。
【0063】
図5は、血管を一次元線形分布定数モデル化した模式図である。図5(a)は、(6)式および(7)式と血管の物理モデルとを対応付ける図である。図5(b)は、図5(a)に示す物理モデルを電気的な等価回路に置き換えた図である。
【0064】
すなわち、(6)式および(7)式は、図5(a)に示すような物理モデルと対応付けることができる。さらに、(6)式および(7)式において、圧力pを電圧vに置き換え、流量vを電流iに置き換えることで、図5(b)に示すような電気的な等価回路(分布定数回路)に置き換えることができる。ここで、Rは抵抗を示し、Lはインダクタンスを示し、Gはアドミタンスを示し、Cはキャパシタンスを示す。
【0065】
ここで、(6)式についてみれば、血管系では運動方程式に対応する一方、電気系ではオームの法則に対応する。そして、血管系において、断面CS1と断面CS2との間の圧力勾配によって流体が加速される現象が、電気系において、インダクタンスの両端に印加される電位差が電流を引き起こす現象に対応することを意味している。
【0066】
また、(7)式についてみれば、血管系では連続の式(質量保存則)に対応する一方、電気系では電荷の保存則に対応する。そして、血管系において、断面CS1から断面CS2へ進めない質量の滞留分が血管を押し広げて圧力の上昇を引き起こす現象が、キャパシタに溜まった電荷が電圧の上昇を引き起こす現象に対応することを意味している。
【0067】
さらに、(6)式および(7)式において、p=Pejwtとし、q=Qejwtとすると、それぞれ(8)式および(9)式に示す関係式が導出される。
【0068】
【数6】

【0069】
本明細書では、図5(b)および(8)式に示すZ(=r+jωL)を「縦インピーダンス」と称し、図5(b)および(9)式に示すZ(=(G+jωC)−1)を「横インピーダンス」と称す。(8)式および(9)式の一般解は、x=0における圧力の進行波の振幅値をPとし、後退波の振幅値をPとして、それぞれ(10)式および(11)式となる。なお、角周波数ωと周波数fとの間には、ω=2πfの関係が成立する。
【0070】
【数7】

【0071】
また、伝播定数γは、減衰定数βと位相速度(脈波速度)Cとを用いて、(12)式のように表される。
【0072】
【数8】

【0073】
ここで、位相速度Cは脈波が単位時間に進む距離を示す量であり、減衰定数βは脈波の振幅が単位距離を進むごとにe−β倍になることを示す。また、特性インピーダンスZは(13)式のように表せ、単位体積の脈波を進行方向へ進めるために必要な圧力を示す。
【0074】
【数9】

【0075】
さらに、距離lseを隔てた二点での圧力P,Pと体積流量Q,Qは、(14)式の伝達行列で接続される。
【0076】
【数10】

【0077】
本実施の形態では、(14)式に示す伝達行列を血管の各区間に対応付けて算出するとともに、対象とする血管経路に応じて、各区間に対応する伝達行列を縦続接続することで、伝達関数を算出する。このとき、任意の境界より下流の条件はその境界での圧力P,体積速度Qとの比である(15)式のインピーダンスZで表される。
【0078】
【数11】

【0079】
また、進行波と後退波の振幅の比である反射率Sは、(16)式で表される。
【0080】
【数12】

【0081】
(縦インピーダンスの算出)
縦インピーダンスZは、流体の粘性抵抗と慣性の項とからなり、血管断面内の流速分布をモデル化することで求められる。
【0082】
本実施の形態では、ウマースリーモデルに基づいて、縦インピーダンスを算出する。このウマースリーモデルは、ニュートン流体の円管内脈波流が十分に発達した状態での流速分布を表したものである。このウマースリーモデルに基づく縦インピーダンスは、第1種ベッセル関数Jを用いて(17)式で表せる。
【0083】
【数13】

【0084】
ここで、(17)式中のαは「ウマースリーのアルファ」と称され、脈波流の粘性項と慣性項の比を示す量であり、定常流におけるレイノルズ数に相当する。また、血液の密度ρは、代表的に1.03×10[kg/m]とし、血液の粘性係数μは、代表的に4×10−3[Pa・s]とした。
【0085】
なお、(17)式に示すウマースリーモデルに代えて、非粘性モデルを用いてもよい。このモデルは、血液を非粘性流体とし、断面内流速を一定とするものである。この非粘性モデルに基づく縦インピーダンスは、(18)式で表せる。
【0086】
【数14】

【0087】
さらに、上記のモデルに代えてポアゼイユモデルを用いてもよい。このモデルは、ニュートン流体の円管内定常流が十分に発達した状態での流速分布を表したものである。このポアゼイユモデルに基づく縦インピーダンスは、(19)式で表せる。
【0088】
【数15】

【0089】
(横インピーダンスの算出)
横インピーダンスは、遺漏または分岐の項Gと、管のコンプライアンスの項Cとからなる。
【0090】
遺漏または分岐の項については、血管壁から周囲組織への遺漏も分岐もない場合には、G=0とする。これに対して、分岐がある場合には、分岐管のアドミタンスをGとする。
【0091】
次に、管のコンプライアンスの項については、厚肉円管をモデル化したコンプライアンスを用いることができる。外圧および軸方向ひずみ一定の条件における厚肉円管の軸対称微小変形のコンプライアンスは、(20)式で表される。
【0092】
【数16】

【0093】
ここで、血管壁のポアソン比νは、代表的に0.5とした。
なお、(20)式に示す厚肉円管をモデル化したコンプライアンスに代えて、薄肉円管をモデル化したコンプライアンスを用いてもよい。外圧および軸方向ひずみ一定の条件における薄肉円管の軸対称微小変形のコンプライアンスは、(21)式で表される。
【0094】
【数17】

【0095】
(循環系モデル)
この発明の実施の形態1に従う血管状態評価装置100で用いる循環系モデルは、生体を構成する血管を複数の区間に分割してモデル化したものである。このような循環系モデルの代表的なものとして、参考文献1「Avolio,A.P, Multi-branched Model of Human Arterial System, 1980, Med. & Biol. Engng. & Comp., 18,796」に記載されている、いわゆる「Avolioモデル」が知られており、本実施の形態においても、循環系モデルとして、このAvolioモデルを採用する。
【0096】
図6は、Avolioモデルの模式図である。
図6を参照して、Avolioモデルでは、全身の動脈を128の血管要素(区間)に分割し、各区間を代表する形状値を規定している。Avolioモデルの各区間に対応付けられた形状値の一部を付表に示す。このAvolioモデルは、形状値として、各区間に対応付けられた、長さ・半径・管壁の厚さ・ヤング率を含む。なお、Avolioモデル中のヤング率は一応の基準値であり、後述するフィッティング処理においては、この基準値に変数kを乗じた値が用いられる。
【0097】
この循環系モデルは、生体を構成するさまざまな血管を複数の区分に分類した上で、当該複数の区分の少なくとも1つの区分に属する血管をモデル化したものである。代表的に、血管は、その血管径の大きさに基づいて、血管径の大きいものから順に大動脈、中動脈(φ3.2mm以上)、小動脈(φ0.5mm以上)、細動脈(φ0.03mm以上)、毛細血管などに区分される。そして、Avolioモデルは、これらの区分のうち、大動脈および中動脈に区分される血管についてモデル化したものである。
【0098】
なお、血管の区分の方法については、血管径の大きさに限らず、別の指標に基づいて区分してもよい。
【0099】
伝達関数算出部36(図2)は、記憶部34(図2)に予め格納されているこのような循環系モデルを参照して、(17)式および(20)式に従って、各区間の縦インピーダンスおよび横インピーダンスを算出する。さらに、伝達関数算出部36は、算出した縦インピーダンスおよび横インピーダンスを用いて、(12)式,(13)式,(14)式に従って各区間の伝達行列を算出し、各区間の実際の接続関係に対応付けて、各伝達関数を縦続接続および並列接続することで、心臓を基準点とした全身についての脈波伝播モデル(伝達関数)を算出する。より具体的には、(14)式に示す2行×2列の伝達行列が、各区間の接続関係(連続、分岐、および終端など)に応じて、順次接続されていく。
【0100】
そして、伝達関数算出部36は、算出された全身についての脈波伝播モデル(伝達関数)の中で、2つの測定部位までの血管経路に対応する伝達関数Ga(f)およびGb(f)を算出する。また、終端部では、その反射率に応じて(15)式の制約が加えられる。
【0101】
なお、心臓から吐出される圧力(圧力P)および体積流量(体積流量Q)は未知数となるが、本実施の形態では、伝達関数Ga(f)と伝達関数Gb(f)との間の位相差特性を算出すれば十分であるので、このような未知数が存在していても、互いにキャンセルできる。
【0102】
(末梢部モデル)
このような、全身についての脈波伝播モデル(伝達関数)ならびに伝達関数Ga(f)およびGb(f)の算出に際して、上述のAvolioモデルに末梢部モデルを加えることが好ましい。これは、Avolioモデルは、比較的太い血管(大動脈および中動脈)について厳密に形状値を与えている一方で、終端条件については末梢血管を模擬した一定の反射率を規定するにとどまっているからである。そのため、より高い評価精度を得るためには、Avolioモデルにおいてモデル化されていない血管(小動脈、細動脈、毛細血管)を考慮することが好ましい。このようなAvolioモデルにおいてモデル化されていない血管をモデル化したモデル(以下、「末梢部モデル」と称す)を、Avolioモデルから算出される伝達行列に付加した上で、全身についての脈波伝播モデル(伝達関数)などを算出する構成について説明する。
【0103】
このような末梢部モデルは、末梢血管の形状値と、当該末梢血管の上流側に接続されている区間の形状値との間の形状差を利用して算出する。本実施例では、形状差として、代表的に各血管の総断面積の差を用いる。
【0104】
図7は、末梢部モデルの模式図である。
図7を参照して、各血管(動脈)が循環系全体で有する総断面積は、分岐を経て下流の細い血管へ向かうにつれて増加する。特に、中動脈から細動脈までの分岐に伴う血管総断面積増加率は、参考文献2「William F.Ganong, Review of Medical Physiology 15ed.」によれば、20倍程度と報告されている。
【0105】
そこで、本実施の形態では、小動脈および細動脈を末梢部モデルの対象とする。そして、一例として、分岐に伴う血管総断面積増加率は、中動脈から小動脈の過程で4倍とし、小動脈から細動脈の過程で5倍であるとし、小動脈および細動脈の長さはそれぞれ10cmおよび5cmとする。また、小動脈および細動脈の血管径については、参考文献2に記載の一般的な値を採用し、それぞれの血管壁の厚さは、上流に接続されている中動脈の血管径と血管壁の厚さとの比に従って決定する。さらに、小動脈および細動脈のヤング率については、上流に接続されている中動脈のヤング率と同じ値を採用する。
【0106】
たとえば、橈骨動脈(図6に示すAvolioモデルの区間番号88または93)と、それに付加すべき末梢部モデルの形状値を以下の表に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
(末梢部モデルの終端条件)
上述した末梢部モデルにおける細動脈の終端条件は、以下に説明するように任意に設定できる。これは、末梢血管によって構成される中動脈終端での反射率(以下、末梢反射率と称する)が細動脈の終端条件に依存しないためである。そこで、本実施の形態では、末梢部モデルにおける終端を無反射条件の下で、全身についての脈波伝播モデル(伝達関数)などを算出する。
【0109】
図8は、表1に示す形状値を用いて、図7に示す細動脈終端での反射率Sを変化させた場合の末梢反射率の変化を示す図である。
【0110】
図8(a)は、反射率S=0(無反射)の場合を示し、図8(b)は、反射率S=1(閉鎖端)の場合を示し、図8(c)は、反射率S=−1(開放端)の場合を示す。
【0111】
図8(a)〜図8(c)を参照して、細動脈終端での反射率Sにかかわらず、振幅特性および周波数特性のいずれについても、略同一の挙動を示していることが分かる。すなわち、細動脈の終端条件は末梢反射率に寄与していないといえる。
【0112】
この現象を物理的に解釈できるように、各動脈内における脈波の伝播性状についても説明する。
【0113】
図9は、中動脈・小動脈・細動脈を伝播する脈波の減衰定数を数値計算によって求めた結果を示す図である。
【0114】
図9を参照して、脈波が伝播する血管の管径が小さくなるにつれて、減衰定数が指数的に大きくなっていることが分かる。これは、細い管内では、脈波(流体)の管壁摩擦抵抗の影響が大きくなるためであると考えられる。すなわち、細動脈終端に到達する脈波の振幅は、中動脈を伝播する脈波の振幅に比較して極めて小さくなっており、細動脈終端からの反射波は十分に減衰していると考えることができる。
【0115】
図10は、図7に示す中動脈の始端(座標x)から所定の周波数で加振(加圧)した場合の血管内圧力分布を示す図である。なお、図10の座標系は、図7に示す中動脈の始端を原点(x=0)とし、下流方向をxの正方向としたものである。
【0116】
図10には、加振周波数fを1Hz,5Hz,10Hz,20Hzの4種類とした場合の結果を示す。図10から分かるように、いずれの加振周波数においても細動脈内部を伝播する脈波はその終端付近において十分に減衰している。これは、上述したように、細動脈内における脈波の距離減衰が大きいためである。
【0117】
したがって、細動脈の終端にどのような境界条件を設けても、細動脈の終端からの反射波が上流の循環系に影響を及ぼすことはないと考えられる。すなわち、末梢反射率は、末梢部モデルにおける終端の境界条件に依存することなく、末梢血管の形状値のみによって決定される。
【0118】
(位相差特性)
図11は、一様な管路における脈波伝播の様子を示す模式図である。
【0119】
図11を参照して、反射波が存在せず、脈波速度Cが(1)式で与えられる周波数に依存しない定数であるとする。すると、測定部位Mpaの測定部位Mpbに対する脈波の位相遅れφは(22)式で表される。
【0120】
【数18】

【0121】
(22)式を脈波速度Cおよび周波数fを用いて書き直せば、(23)式が得られる。
【0122】
【数19】

【0123】
(22)式より、測定部位Mpa−測定部位Mpb間の位相線図(位相差特性)は、周波数fの一次関数となり、その勾配は脈波速度Cに応じた値になることが分かる。さらに、(1)式および(23)式を用いて(24)式が得られる。
【0124】
【数20】

【0125】
(24)式より、血管壁のヤング率Eが大きくなるほど位相線図の勾配が緩やかになることが分かる。
【0126】
(フィッティング)
再度、図2を参照して、上述したように2つの測定部位間の位相差特性は周波数fの一次関数となるので、探索部40は、この一次関数の傾きが実測値と一致するように、モデルをフィッティングする。
【0127】
より具体的には、伝達関数算出部36は、Avolioモデル中の各区間のヤング率E(n=1〜128)に変数kを乗じて得られる、仮のヤング率k・Eを用いて伝達関数Ga(f)およびGb(f)を算出する。そして、探索部40は、位相線傾き算出部(実測)32が算出する位相線の傾きgexpと、位相線傾き算出部(モデル)38が算出する位相線の傾きg(k)との偏差Δ(=|gexp−g(k)|)が最小化するように、変数kを最適化する。この最適化処理は、代表的に数理計画法(たとえば、最小二乗法)を用いて行なわれるが、数理計画法については公知であるので、詳細な説明は行なわない。
【0128】
(実測の位相差特性の算出)
以下では、本実施の形態に従う血管状態評価装置100を用いて、2人の被験者200aおよび200bについて、実際に測定を行なった結果を示す。
【0129】
図12は、被験者200a,200bの上腕および足関節に押圧カフを装着して測定した圧力の時間波形を示す図である。なお、測定信号Pa(t)が足関節における圧力を示し、測定信号Pb(t)が上腕における圧力を示す。
【0130】
図13は、図12に示す上腕の圧力波形と足関節の圧力波形との間のコヒーレンスを示す図である。
【0131】
図12(a)および図13(a)は、被験者200aの測定結果を示し、図12(b)および図13(b)は、被験者200bの測定結果を示す。
【0132】
ここで、コヒーレンスとは、波形間の周波数領域での相関性を示す指標であり、コヒーレンスが大きいほど(1に近いほど)両波形の相関性が高いことになる。なお、図13に示すコヒーレンスは、(25)式に従って算出した。
【0133】
【数21】

【0134】
図13(a)および図13(b)に示すように、特定の周波数においてコヒーレンスが低くなっていることが分かる。このようなコヒーレンス低下の力学的な要因としては、様々なものが考えられるが、代表的に、人体が有する非線形性や、測定部位での圧力が特定の周波数において節になってしまうことなどが影響していると考えられる。また、被験者の姿勢や測定中のわずかな動きといった人為的な要因によってもコヒーレンスが低下することも考えられる。
【0135】
このようなコヒーレンスの低いデータは、解析上の誤差を拡大してしまう恐れがあるため、測定信号Pa(t)と測定信号Pb(t)との間のコヒーレンスが予め定められたしきい値(たとえば、0.7)より小さいデータを排除することが望ましい。そのため、位相線傾き算出部(実測)32(図2)は、測定信号Pa(t)と測定信号Pb(t)との間のコヒーレンスが予め定められたしきい値より高い周波数成分のみを用いて、位相線の傾きgexpを算出する。
【0136】
図14は、図12に示す測定信号Pa(t)と測定信号Pb(t)との間の各周波数成分についての位相差をプロットした位相線図である。図14(a)は、図12(a)に対応する位相線図を示し、図14(b)は、図12(b)に対応する位相線図を示す。なお、図14(a)および図14(b)では、コヒーレンスが「0.7」より低いデータを排除している。
【0137】
図14(a)および図14(b)を参照して、それぞれの位相線図は、±180°を境界として不連続点を有している。これは、所定の周波数以上の周波数成分において、1周期(360°)以上の位相差が生じていることを意味する。そこで、位相線傾き算出部(実測)32(図2)は、このような位相線図の不連続点に対して、1または2以上の周期に相当する単位(n×360°)で補正を行なった上で、実測の位相差特性を算出する。
【0138】
図15および図16は、位相線傾き算出部(実測)32が実施する位相線図の補正処理を説明するための模式図である。
【0139】
図15(a)を参照して、測定信号Pa(t)を周波数変換して得られる位相特性Pa(f)と、測定信号Pb(t)を周波数変換して得られる位相特性Pb(f)とを比較し、周波数fに対応する位相差Aを位相線図上にプロットする。なお、周波数fは、低周波側から数えてi番目の周波数成分である。そして、位相線図上にプロットされる位相差Aのうち、不連続点が存在しない範囲のn個の位相差{A,A,・・・,A}を用いて、初期回帰直線lを算出する(図15(b))。
【0140】
次に、n+1番目の位相差An+1と、初期回帰直線lの周波数fn+1に対応する位相とが比較される。図15(c)に示すように、両者の偏差Δφ(0,i+1)が180°未満であれば、初期基準回帰lの算出に用いたn個の位相差{A,A,・・・,A}にn+1番目の位相差An+1を加えた位相差群{A,A,・・・,A,An+1}を用いて、回帰直線lを算出する(図15(d))。
【0141】
一方、図16(c)に示すように、両者の偏差Δφ(0,i+1)が180°以上であれば、不連続点があると判断される。そして、初期回帰直線lに対する偏差が180°未満となるように、位相差An+1に360°×m(mは、1以上の整数)を減算して、位相差An+1を位相差#An+1に遷移させる。すなわち、測定されたデータが有する見かけ上の誤差を補正する。
【0142】
そして、初期基準回帰lの算出に用いたn個の位相差{A,A,・・・,A}に、この補正された位相差#An+1を加えた位相差群{A,A,・・・,A,#An+1}を用いて、回帰直線lを算出する(図16(d))。
【0143】
以下、同様にして、すべての位相差Aについて、プロットおよび回帰直線の更新が繰返される。
【0144】
図17は、図14に示す位相線図を補正して連続化した結果を示す図である。図17(a)は、図14(a)に対応する位相線図を示し、図17(b)は、図14(b)に対応する位相線図を示す。
【0145】
図17(a)および図17(b)を参照して、上述の方法によって、各位相差が補正されて位相線図が連続化されていることが分かる。また、図17(a)および図17(b)には、プロットした位相データの回帰直線についてもそれぞれ示されており、これらの課回帰直線の傾きが図2に示す傾きgexpに相当する。
【0146】
(フローチャート)
図18は、この発明の実施の形態1に従う血管状態評価装置100において実行される処理の手順を示すフローチャートである。図18のフローチャートに示される各処理は、制御部2のCPU10がROM12に予め格納されているプログラムを読出し、RAM13上に展開して実行することで、図2に示す各機能を実現する。
【0147】
図18を参照して、ユーザによる操作部6などの操作に応答して、CPU10は、測定部20a,20bに対して測定指令を与え、測定部20a,20bが被験者200の所定の測定部位における生体信号の測定を開始する(ステップS100)。
【0148】
次に、CPU10は、測定部20a,20bで測定される時間波形である測定信号Pa(t),Pb(t)を周波数領域の位相特性Pa(f),Pb(f)に変換する(ステップS102)。そして、CPU10は、位相特性Pa(f)と位相特性Pb(f)との間の各周波数成分についての位相差に基づいて、実測の位相差特性(傾きgexp)を算出する(ステップS104)。
【0149】
また、CPU10は、変数kを初期値kに設定する(ステップS106)。そして、ROM12などに格納されている循環系モデルを参照して、心臓からそれぞれ押圧カフ24a,24bが装着された2つの測定部位までの血管経路の伝達特性を示す2つの伝達関数を算出する(ステップS108)。この伝達関数の算出に際して、各区間のヤング率は、循環系モデル中の規定された基準のヤング率に変数kを乗じた値が用いられる。さらに、CPU10は、ステップS106で算出した2つの伝達関数の間の位相差特性(傾きg(k))を算出する(ステップS110)。
【0150】
その後、CPU10は、ステップS104において算出された実測の位相差特性(傾きgexp)と、ステップS110において算出された伝達関数の間の位相差特性(傾きg(k))との偏差Δ(=|gexp−g(k)|)を算出する(ステップS112)。そして、CPU10は、偏差Δが予め定められた収束条件を満足しているか否かを判断する(ステップS114)。この収束条件としては、代表的に、偏差Δが予め定められたしきい値より小さいか否かが判断される。
【0151】
偏差Δが予め定められた収束条件を満足していなければ(ステップS114においてNO)、CPU10は、偏差Δを小さくする方向に、変数kを所定値だけ増減させる(ステップS116)。そして、ステップS108以降の処理を再度実行する。
【0152】
一方、偏差Δが予め定められた収束条件を満足していれば(ステップS114においてYES)、CPU10は、当該時点の変数kの値を最適解koptとして決定する(ステップS118)。そして、CPU10は、決定した最適解kopt、最適解koptを用いて換算されたヤング率、最適解koptの評価結果などを、表示部4へ出力する(ステップS120)。そして、評価処理は終了する。
【0153】
なお、上述の説明においては、心臓を入力端とした全身についての脈波伝播モデル(伝達関数)、末梢部モデル、および伝達関数Ga(f),Gb(f)を算出する方法について詳述したが、このようなモデルや伝達関数を必ずしも評価処理毎に算出する必要はない。すなわち、評価処理前に算出したモデルや伝達関数を記憶部34に予め格納しておいてもよい。
【0154】
この発明の実施の形態1によれば、実測の測定信号の周波数特性を反映した弾力度変数kの最適解を得ることができる。これにより、周波数特性を考慮した上で、血管の状態(動脈硬化の度合い)をより高い精度で評価することができる。
【0155】
[実施の形態2]
上述のこの発明の実施の形態1では、血管の弾力度合いを示す弾力度変数を算出する構成について例示したが、従来から実用化されている脈波速度法と同様の評価基準を用いることができるように、脈波速度を算出することも有効である。そのため、この発明の実施の形態2では、予め定められた2点間の脈波速度を算出する構成について説明する。
【0156】
この発明の実施の形態2に従う血管状態評価装置100#の構成は、制御部2#で実行される処理を除いて、図1に示すこの発明の実施の形態1に従う血管状態評価装置100と同様であるので、詳細な説明は繰返さない
図19は、この発明の実施の形態2に従う血管状態評価装置100#の制御部2#で実行される機能を模式的に示す機能ブロック図である。
【0157】
図19を参照して、制御部2#は、図2に示すこの発明の実施の形態1に従う制御部2で実行される機能において、評価部42に代えて、脈波速度モデル算出部44と、平均脈波速度算出部46と、評価部48とを設けたものである。その他の機能については、図2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0158】
脈波速度モデル算出部44は、探索部40によってフィッティングされた最適解koptに基づいて、予め定められた2点間を伝播する脈波速度を算出するための数学的なモデルを算出する。ここで、2点間を伝播する脈波速度とは、2つの測定部位間において空間的に平均化した脈波速度を意味する。すなわち、上述した循環系モデルの各区間の脈波速度は、管径および管長に応じて変化するため、2つの測定部位間の伝播経路の形状に応じて、脈波速度は増速したり減速したりする。そこで、従来の脈波速度法との整合性をとるために、以下に示すような空間的な平均化処理を行なって、測定部位間の脈波速度(以下、「平均脈波速度」とも称す)を算出する。脈波速度モデル算出部44は、このような平均化処理を含んだモデルを算出する。
【0159】
平均脈波速度算出部46は、脈波速度モデル算出部44で算出された数学モデルに基づいて演算を行ない、平均脈波速度Caveを算出する。
【0160】
評価部48は、平均脈波速度算出部46で算出された平均脈波速度Caveを予め定められた基準値と比較し、動脈硬化の度合いについての評価を、表示部4(図1)などに出力する。
【0161】
(平均脈波速度の算出)
記憶部34に予め格納されている循環系モデル、および探索部40によってフィッティングされた最適解koptに基づいて、2つの測定部位間の伝播経路における血管の形状値は既知となっている。
【0162】
図20は、2つの測定部位MpA,MpBの間の経路を模式的に示す管路モデルの図である。
【0163】
図20を参照して、2つの測定部位MpA,MpBの間の経路に、n個の要素管路(区間)が直列的に接続されているとする。区間iについての区間長をLとし、脈波速度をCとし、脈波の伝播に要する時間をtとすれば、測定部位MpA−MpB間の平均脈波速度は、(26)式で与えられる。
【0164】
【数22】

【0165】
ここで、t=L/Cであることを用いれば、(26)式は(27)式にように表される。
【0166】
【数23】

【0167】
なお、各区間の脈波速度Cは、(12)式を用いて、(28)式のように表される。
【0168】
【数24】

【0169】
このように、各区間の脈波速度を厳密に評価することで、測定部位間の平均脈波速度について周波数特性を反映した上で正確に算出することができる。さらに、各区間の脈波速度が経路によって異なる場合においても、測定部位間の平均的な脈波速度として有意な値を保証することができる。
【0170】
(評価例)
図21は、図12に示す被験者200a,200bから実測した測定信号Pa(t),Pb(t)に基づいて、平均脈波速度を算出した結果を示す図である。図21(a)は、被験者200aの算出結果を示し、図21(b)は、被験者200bの算出結果を示す。
【0171】
図21(a)および図21(b)を参照して、被験者200aおよび200bのそれぞれについて、平均脈波速度が周波数特性を反映した上で同定されていることが分かる。なお、被験者200aおよび200bの算出結果を比較すると、被験者200bの脈波速度がより大きく、相対的に動脈硬化が進行していることを示している。
【0172】
図22は、この発明の実施の形態2に従う血管状態評価方法による算出結果を従来の脈波速度法(baPWV法)によって得られた測定結果と比較した図である。なお、図22は、23名の被験者を対象とした結果を示す。また、上述したように、各区間の脈波速度Cは周波数依存性を有しているため、各測定体の拍動周期に対応した周波数に対応する脈波速度Cおよび平均脈波速度Caveを採用した。
【0173】
図22を参照して、この発明の実施の形態2に従う血管状態評価方法による算出結果と、従来の脈波速度法によって得られた測定結果との間の相関係数は0.93となった。この結果から、本実施の形態に従う血管状態評価方法は、従来の脈波速度法による測定結果と比較的高い相関を有しており、脈波速度法によって蓄積された評価基準と同様の評価基準を用いて、動脈硬化の度合いを評価することができる。
【0174】
(フローチャート)
図23は、本実施の形態2に従う血管状態評価装置100#において実行される処理の手順を示すフローチャートである。図23のフローチャートに示される各処理は、制御部2#のCPU10がROM12に予め格納されているプログラムを読出し、RAM13上に展開して実行することで、図19に示す各機能を実現する。
【0175】
図23を参照して、まず、CPU10は、図18に示すステップS100〜ステップS118と同様の処理を実行する。なお、これらの処理は、図18と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0176】
そして、CPU10は、ステップS118において決定した最適解koptと、ROM12などに格納されている循環系モデルの形状値とに基づいて、予め定められた2つの測定部位間の脈波速度モデルを算出する(ステップS202)。さらに、CPU10は、算出した脈波速度モデルに従って、平均脈波速度を算出する(ステップS204)。
【0177】
さらに、CPU10は、ステップS204で算出した平均脈波速度の評価結果などを、表示部4へ出力する(ステップS206)。そして、評価処理は終了する。
【0178】
この発明の実施の形態2によれば、実測の測定信号の周波数特性を反映した平均脈波速度を高い精度で算出できる。この平均脈波速度は、従来の脈波速度法を用いて測定した結果とも比較的高い相関値をもつので、従来から蓄積されてきた脈波速度法における評価基準を用いて、血管の状態を判定することもできる。
【0179】
[その他の形態]
さらに、本実施の形態に従う血管状態評価装置における評価方法を実現させるためのプログラムを提供することもできる。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)、ROM、RAMおよびメモリカードなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記録させた上、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて記録させて、プログラムとして提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムとして提供することもできる。
【0180】
なお、本発明にかかるプログラムは、コンピュータのオペレーションシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0181】
また、本発明にかかるプログラムは、たとえば通常の血圧測定を実行するためのプログラムといった他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には当該他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0182】
提供されるプログラム製品は、ハードディスクなどのプログラム格納部にインストールされて実行される。なお、プログラム製品は、プログラム自体と、プログラムが記録された記録媒体とを含む。
【0183】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0184】
(付表)
Avolioモデルの主要な形状値を以下の付表に示す。
【0185】
【表2】

【0186】
【表3】

【0187】
【表4】

【0188】
【表5】

【0189】
【表6】

【0190】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1】この発明の実施の形態1に従う血管状態評価装置の概略構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に従う血管状態評価装置の制御部で実行される機能を模式的に示す機能ブロック図である。
【図3】血管内の血液の一次元流れモデルを示す図である。
【図4】図3に示す検査体積に働く力および出入りする運動量を示す図である。
【図5】血管を一次元線形分布定数モデル化した模式図である。
【図6】Avolioモデルの模式図である。
【図7】末梢部モデルの模式図である。
【図8】表1に示す形状値を用いて、図7に示す細動脈終端での反射率Sを変化させた場合の末梢反射率の変化を示す図である。
【図9】中動脈・小動脈・細動脈を伝播する脈波の減衰定数を数値計算によって求めた結果を示す図である。
【図10】図7に示す中動脈の始端(座標x)から所定の周波数で加振(加圧)した場合の血管内圧力分布を示す図である。
【図11】一様な管路における脈波伝播の様子を示す模式図である。
【図12】被験者の上腕および足関節に押圧カフを装着して測定した圧力の時間波形を示す図である。
【図13】図12に示す上腕の圧力波形と足関節の圧力波形との間のコヒーレンスを示す図である。
【図14】図12に示す測定信号Pa(t)と測定信号Pb(t)との間の各周波数成分についての位相差をプロットした位相線図である。
【図15】位相線傾き算出部(実測)が実施する位相線図の補正処理を説明するための模式図である。
【図16】位相線傾き算出部(実測)が実施する位相線図の補正処理を説明するための模式図である。
【図17】図14に示す位相線図を補正して連続化した結果を示す図である。
【図18】この発明の実施の形態1に従う血管状態評価装置において実行される処理の手順を示すフローチャートである。
【図19】この発明の実施の形態2に従う血管状態評価装置の制御部で実行される機能を模式的に示す機能ブロック図である。
【図20】2つの測定部位MpA,MpBの間の経路を模式的に示す管路モデルの図である。
【図21】図12に示す被験者から実測した測定信号Pa(t),Pb(t)に基づいて、平均脈波速度を算出した結果を示す図である。
【図22】この発明の実施の形態2に従う血管状態評価方法による算出結果を従来の脈波速度法(baPWV法)によって得られた測定結果と比較した図である。
【図23】本実施の形態2に従う血管状態評価装置において実行される処理の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0192】
2,2# 制御部、4 表示部、6 操作部、10 CPU、12 ROM、14 RAM、20a,20b 測定部、22a,22b,27a,27b 配管、、24a,24b 押圧カフ、25a,25b 圧力ポンプ、26a,26b 調圧弁、28a,28b 圧力センサ、30a,30b 周波数変換部(FFT)、32 位相線傾き算出部(実測)、34 記憶部、36 伝達関数算出部、38 位相線傾き算出部(モデル)、40 探索部、42,48 評価部、44 脈波速度モデル算出部、46 平均脈波速度算出部、50 検査体積、100,100# 血管状態評価装置(評価装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体を構成する血管を複数の区間に分割してモデル化した循環系モデルを格納する記憶手段を備え、
前記循環系モデルは、前記複数の区間の各々を代表する形状値を含み、さらに
生体の第1測定部位に装着されて第1生体信号の時間波形を測定する第1測定手段と、
生体の第2測定部位に装着され、前記第1測定手段と同期して第2生体信号の時間波形を測定する第2測定手段と、
前記第1生体信号と前記第2生体信号との間の各周波数成分についての位相差に基づいて、実測の位相差特性を算出する第1算出手段と、
前記第1測定部位までの血管経路に対応して前記循環系モデルに基づいて規定された第1伝達関数と、前記第2測定部位までの血管経路に対応して前記循環系モデルに基づいて規定された第2伝達関数との間の位相差特性を算出する第2算出手段とを備え、
前記第1伝達関数および前記第2伝達関数は、血管の弾力度合いを示す弾力度変数を含み、さらに、
前記第1算出手段によって算出される実測の位相差特性に基づいて、前記第2算出手段によって算出される位相差特性をフィッティングすることにより、前記弾力度変数を決定する探索手段を備える、血管状態評価装置。
【請求項2】
前記第1および第2測定部位までの血管経路にそれぞれに対応する各区間の前記形状値に基づいて、前記第1および第2伝達関数を算出する伝達関数算出手段をさらに備える、請求項1に記載の血管状態評価装置。
【請求項3】
前記伝達関数算出手段は、各区間に対応付けられた、血管の圧力および血液流量を入力変数とする分布定数モデルを用いて、前記第1および第2伝達関数を算出し、
前記分布定数モデルの各々は、対応する区間における血液の流れやすさに応じた縦インピーダンスと、前記弾力度変数を有する横インピーダンスとを含む、請求項2に記載の血管状態評価装置。
【請求項4】
前記探索手段によってフィッティングされた前記弾力度変数に基づいて、血管における脈波速度を算出する脈波速度算出手段をさらに備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血管状態評価装置。
【請求項5】
前記脈波速度算出手段は、前記第1測定部位までの血管経路に対応する各区間の前記形状値および前記第2測定部位までの血管経路に対応する各区間の前記形状値に基づいて前記脈波速度を算出する、請求項4に記載の血管状態評価装置。
【請求項6】
前記循環系モデルは、前記形状値として、血管径および血管長を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の血管状態評価装置。
【請求項7】
前記循環系モデルは、生体を構成する血管を複数の区分に分類した上で、前記複数の区分の少なくとも1つの区分に属する血管をモデル化したものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の血管状態評価装置。
【請求項8】
前記生体を構成する血管は、血管径の大きさに基づいて複数の区分に分類される、請求項7に記載の血管状態評価装置。
【請求項9】
前記伝達モデル算出手段は、各区間に含まれる血管のうち、前記循環系モデルにおいてモデル化されていない血管をモデル化した末梢部モデルを、各区間に対応する前記循環系モデルに付加した上で、前記伝達関数を算出する、請求項2または3に記載の血管状態評価装置。
【請求項10】
前記伝達モデル算出手段は、各区間の前記循環系モデルを血管の形状差に基づいて変換することで、当該区間の前記末梢部モデルを算出する、請求項9に記載の血管状態評価装置。
【請求項11】
前記伝達モデル算出手段は、前記末梢部モデルの終端を無反射条件の下で前記伝達関数を算出する、請求項9または10に記載の血管状態評価装置。
【請求項12】
前記第1生体信号から各周波数成分についての位相を示す第1位相特性を算出する第1周波数変換手段と、
前記第2生体信号から各周波数成分についての位相を示す第2位相特性を算出する第2周波数変換手段とをさらに備え、
前記第1算出手段は、
前記第1位相データと前記第2位相データとを差分して差分位相データを算出し、さらに
前記差分位相データにおける周期遅れに起因する位相ずれを、1または2以上の周期に相当する位相の単位で補正することで、前記実測の位相差特性を算出する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の血管状態評価装置。
【請求項13】
前記第1算出手段は、前記第1生体信号と前記第2生体信号との間のコヒーレンス値が予め定められたしきい値より高い周波数成分を用いて前記実測の位相差特性を算出する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の血管状態評価装置。
【請求項14】
生体を構成する血管を複数の区間に分割してモデル化した循環系モデルを用いて、生体を構成する血管の状態を評価する血管状態評価方法であって、
前記循環系モデルは、前記複数の区間の各々を代表する形状値を含み、
前記血管状態評価方法は、
生体の第1測定部位から第1生体信号の時間波形を測定するとともに、生体の第2測定部位から第2生体信号の時間波形を測定するステップと、
前記第1生体信号と前記第2生体信号との間の各周波数成分についての位相差に基づいて、実測の位相差特性を算出するステップと、
前記第1測定部位までの血管経路に対応して前記循環系モデルに基づいて規定された第1伝達関数と、前記第2測定部位までの血管経路に対応して前記循環系モデルに基づいて規定された第2伝達関数との間の位相差特性を算出するステップとを備え、
前記第1伝達関数および前記第2伝達関数は、血管の弾力度合いを示す弾力度変数を含み、さらに、
前記実測の位相差特性に基づいて、前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との間の位相差特性をフィッティングすることにより、前記弾力度変数を決定するステップを備える、血管状態評価方法。
【請求項15】
演算処理部を有するコンピュータに、生体を構成する血管を複数の区間に分割して予めモデル化した循環系モデルを用いて、生体を構成する血管の状態の評価を実行させるための血管状態評価プログラムであって、
前記循環系モデルは、前記複数の区間の各々を代表する形状値を含み、
前記血管状態評価プログラムは、
前記演算処理部が、生体の第1測定部位で測定される第1生体信号の時間波形を取得するとともに、生体の第2測定部位で測定される第2生体信号の時間波形を取得するステップと、
前記演算処理部が、前記第1生体信号と前記第2生体信号との間の各周波数成分についての位相差に基づいて、実測の位相差特性を算出するステップと、
前記演算処理部が、前記第1測定部位までの血管経路に対応して前記循環系モデルに基づいて規定された第1伝達関数と、前記第2測定部位までの血管経路に対応して前記循環系モデルに基づいて規定された第2伝達関数との間の位相差特性を算出するステップとを備え、
前記第1伝達関数および前記第2伝達関数は、血管の弾力度合いを示す弾力度変数を含み、さらに、
前記演算処理部が、前記実測の位相差特性に基づいて、前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との間の位相差特性をフィッティングすることにより、前記弾力度変数を決定するステップを備える、血管状態評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2008−246010(P2008−246010A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92522(P2007−92522)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】