説明

血糖値上昇抑制剤

【課題】 血糖値上昇抑制作用を有する組成物を提供し、ひいては該組成物を含有する飲食品又は医薬部外品、医薬品を提供することにある。
【解決手段】 サクラ亜科植物(モモ,アンズ,スモモ)の成分を含有することを特徴とする血糖値上昇抑制組成物、及び該組成物を含有する飲食品又は医薬部外品、医薬品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血糖値上昇抑制を目的とした組成物、及び該組成物を含む飲食品又は医薬部外品、医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
血糖値上昇を抑制する飲食品、医薬品は糖尿病、肥満の予防、治療に有用である。また、ダイエットのカロリーコントロールにも利用されている。現在、血糖値上昇抑制剤として桑の葉、グァバ葉ポリフェノール、豆鼓エキス、ボグリボースなどが知られているが、より効果の高い新しい素材が求められている。
【0003】
サクラ亜科(学名:Prunoideae)とはバラ科の下位分類の一つでサクラ、ウメ、モモなど日本で古くから親しまれている花木類である。ウメ、モモ、アンズ、スモモは果肉が食用されている。モモ(学名:Prunus persica Batsch又はPrunus persica Batsch var Davidiana Maxim.)は中国原産とされるバラ科・サクラ亜科の落葉小高木である。アンズ(学名:Prunus armeniaca)は中国北部原産とされるバラ科・サクラ亜科の落葉小高木である。スモモ(別名プラム、プルーン)、(学名:Prunus salicina)は中国原産とされるバラ科・サクラ亜科の落葉小高木である。ウメ(学名:Prunus mume)は中国の長江流域原産とされる落葉高木である。梅の葉部の血糖値上昇抑制作用が報告されているが、有意な血糖値上昇抑制作用はない。また、細胞を用いた研究により、モモの果肉部にインスリン感受性の上昇作用があり糖尿病予防の可能性があることが報告されているが、本発明とはメカニズムが異なり、糖類の消化酵素阻害・吸収阻害による血糖値上昇抑制作用ではない。本発明は単回の摂取で効果のある糖質の消化酵素阻害・吸収阻害による血糖値上昇抑制組成物である。また、腸管内で起こる糖質の消化酵素阻害・吸収阻害による血糖値上昇抑制作用はインスリン感受性の上昇作用等、細胞内で起こる血糖値降下作用よりも安全性が高く、効果が明確なことから糖尿病治療の第1選択薬として使用されている.本発明以前の時点で、モモが糖質の消化酵素阻害・吸収阻害により血糖値上昇を抑制するという報告はまったく無い。また、モモの果肉以外の成分が糖尿病の予防、改善やダイエットなどに有用であることは全く知られていなかった。
【特許文献】特開2004−115542号公報
【非特許文献1】農産物の生活習慣予防作用に関する研究(第1報)モモ、リンゴ、プラム、ブドウ(巨峰)、アンズ抽出物による糖・脂質代謝の活性化とインスリン感受性の上昇、深井洋一、松沢恒友、関谷敬三、日本食品科学工学会誌、Vol47、No.2、Page92−96、2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、効果が高く、単回の摂取で効果があり、安全性の高い糖質の消化酵素阻害・吸収阻害による血糖値上昇抑制作用を有する組成物を提供し、ひいては該組成物を含有する飲食品又は医薬部外品、医薬品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、サクラ亜科の植物(モモ、アンズ、スモモ)に顕著な血糖値上昇抑制作用があることを見出した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
(1)サクラ亜科の植物(モモ、アンズ、スモモ)が糖質の消化酵素阻害・吸収阻害作用を有することを特徴とする血糖値上昇抑制組成物。
(2)上記(1)に記載の組成物を含有する飲食品又は医薬部外品、医薬品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、糖質の消化酵素阻害・吸収阻害作用を有するサクラ亜科の植物の成分を含有することを特徴とする血糖値上昇抑制組成物、及び該組成物を含有する飲食品又は医薬部外品、医薬品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に関わるサクラ亜科とは学名:Prunoideaeをさす。モモとは学名:Prunus persica Batsch又はPrunus persica Batsch var Davidiana Maxim.、アンズとは学名:Prunus armeniaca、スモモとは学名:Prunus salicinaをさす。
【0008】
本発明に関わるサクラ亜科植物は、植物全体、又は葉部をそのまま用いてもよく、これらを乾燥した乾燥体、もしくは乾燥後粉砕した粉末を用いることもできる。また、これらを水抽出、熱水抽出、酸性下での抽出、アルカリ性下での抽出、エタノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等有機溶媒で抽出した抽出物を用いることもできる。
【0009】
本発明に関わる血糖値上昇抑制剤を製造するには、上記の方法で製造したサクラ亜科植物の成分を用いることができ、常法に従って公知の医薬用無毒性担体と組み合わせて製剤化すればよい。本発明に関わる血糖値上昇抑制剤は、種々の剤型での投与が可能であり、例えば、経口投与剤としては錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤などの固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳化剤等の液剤、凍結乾燥剤等があげられ、これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、でんぷん、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルでんぷん、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、アルブミン、水、生理食塩水などが挙げられる。また、必要に応じて安定化剤、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤等の慣用の添加剤を適宜添加することができる。本発明に関わる血糖値上昇抑制剤において、サクラ亜科植物の成分の投与量は、患者の年齢、体重、症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態等により、適宜選択、決定されるが、例えば、一日当たり生葉等価量として0.01−100g/kg体重程度とされ、一日数回に分けて投与してもよい。
【0010】
また、本発明に関わるサクラ亜科植物は、毒性を有することは報告されていないことから、血糖値上昇抑制を目的とした飲食品として摂取することもできる。本発明に関わるサクラ亜科植物の成分は、特定保健用食品、栄養機能食品、又は健康食品等として位置付けることができる。機能性食品としては、例えば、サクラ亜科植物の成分に適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した状態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、ペースト状等に形成したものを用いることができる。この飲食品は、そのまま食用に供してもよく、また種々の食品(例えばハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、パン、バター、粉乳、菓子など)に添加して使用したり、水、酒類、果汁、牛乳、清涼飲料水等の飲物に添加して使用してもよい。かかる食品の形態における本発明のサクラ亜科植物の成分の摂取量は、年齢、体重、症状、疾患の程度、食品の形態等により適宜選択・決定されるが、例えば、一日当たり生葉等価量として0.01−100g/kg体重程度とされ、一日数回に分けて投与してもよい。
【実施例】
【0011】
以下に本発明をより詳細に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0012】
[実施例1]サクラ亜科植物の抽出物の調製
被験試料としてサクラ亜科の植物の葉のメタノール抽出物を用いた。サクラ亜科の植物の葉の粗切物を10倍量のメタノールに浸漬し、減圧乾固して抽出物を得た。
[実施例2]サクラ亜科植物(葉)メタノール抽出物の血糖値上昇抑制作用
6〜7週齢の雄ddYマウス(n=8)を実験前日から24時間絶食後、実験前に各群の平均体重が均等になるように群分けをした。糖負荷試験に用いるための溶性デンプン、マルトース、グルコースは1,000mg/Kgを、スクロースは2,000mg/Kgを1mlの蒸留水に溶解させた。サンプル投与群では、各々の糖とサンプル(1,000mg/Kg)を混合して1mlの蒸留水に溶解させ、ゾンデを用いてマウスの胃内へ直接経口投与した。採血は経口投与後、0(経口投与前)、30、60、90、120分時にマウスの尾部より行い、抗凝固剤を添加したマイクロチューブに血液を採血し、採血した血液サンプルは直ぐに10,000rpmで約2分間遠心し、血漿を2μlとり、96ウェルプレートに分注し、これを測定試料とした。血漿中のグルコース濃度測定にはグルコースCIIテストワコー(ムタローゼ・GOD法)(和光純薬)を使用し、492nmで吸光度を測定し、検量線から血糖値を求めた。投与後、血糖値の上昇値のピークは30分後であることから、糖負荷30分後の血糖値をコントロール群と比較した。結果の値は平均±標準誤差で表した。各群間の有意差はStudent’s t−testによって評価し、p<0.05を統計的に有意であるとした。その結果を表1に示した。
【0013】
【表1】

この結果より、サクラ亜科植物(モモ、アンズ、スモモ)の葉の抽出物は溶性デンプン、スクロース、マルトース、グルコース等の糖質摂取による血糖値の上昇を有意に抑制することが示された。
【0014】
上記の結果を受けて最も活性の強かったモモについて予想される血糖値上昇抑制作用のメカニズムの一つとして、糖質消化酵素の阻害活性を測定した。
[実施例3]サクラ亜科植物メタノール抽出物の糖質酵素阻害活性試験
α−アミラーゼ阻害活性試験はXiaoらの方法を改良して行った。2mM CaClと0.2%ウシ血清アルブミン含有0.1M酢酸Buffer(pH6.9),基質として2.5mg/mlの溶性デンプン溶液,酵素として0.2unitsの豚膵臓由来α−アミラーゼ(EC 3.2.1.1),呈色液にヨウ素溶液を用い,一定時間の反応ののち分解されずに残存したデンプンをヨウ素デンプン反応で評価した。α−アミラーゼ阻害活性はサンプルを含有していないコントロールと比較して表した。マルターゼ阻害活性,スクラーゼ阻害活性はマルトースとスクロースを基質としてDahlqvist,Aらの方法を改良して行った。2mM CaCl含有0.1Mリン酸Buffer,基質として83mMマルトースと166mMスクロース,酵素としてマウスの小腸上皮から回収したα−グルコシダーゼ粗酵素液(マルターゼ,スクラーゼを含む)を用い,一定時間の反応により生成されたグルコースをグルコースCIIテストワコーキットを用いて,吸光度492nmで測定し,検量線からグルコース量を算出した。マルターゼ,スクラーゼ阻害活性はサンプルを含有していないコントロールと比較して表した。結果を表2に示した。
【0015】
【表2】

この結果より、少なくともサクラ亜科植物の葉の抽出物は糖質消化酵素としてα−アミラーゼ,マルターゼ,スクラーゼ活性を濃度依存的に阻害することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明により、糖質の消化酵素阻害作用・吸収阻害を有するサクラ亜科(モモ、アンズ、スモモ)植物の成分を含有することを特徴とする血糖値上昇抑制組成物及び該組成物を含有する飲食品又は医薬部外品、医薬品提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サクラ亜科の植物(ウメ以外のモモ、アンズ、スモモ)が糖類の消化酵素阻害作用・吸収阻害を有することを特徴とする血糖値上昇抑制組成物。
【請求項2】
請求項1の組成物がサクラ亜科の植物(ウメ以外のモモ、アンズ、スモモ)が果肉以外の部位からなることを特徴とする血糖値上昇抑制組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物を含有する飲食品又は、医薬部外品、医薬品。
【請求項4】
請求項1または2に記載のサクラ亜科の植物がモモであることを特徴とする血糖値上昇抑制組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の組成物を含有する飲食品又は、医薬部外品、医薬品。
【請求項6】
請求項1または2に記載のサクラ亜科の植物がアンズであることを特徴とする血糖値上昇抑制組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の組成物を含有する飲食品又は、医薬部外品、医薬品。
【請求項8】
請求項1または2に記載のサクラ亜科の植物がスモモであることを特徴とする血糖値上昇抑制組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物を含有する飲食品又は、医薬部外品、医薬品。
【請求項10】
サクラ亜科の植物(ウメ以外のモモ、アンズ、スモモ)の葉を含有し、糖尿病、肥満の予防・改善、ダイエットの用途の旨を示す表示が付された飲食品又は、医薬部外品、医薬品。

【公開番号】特開2008−195719(P2008−195719A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33747(P2008−33747)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(300076688)有限会社湘南予防医科学研究所 (54)
【Fターム(参考)】