説明

衛星信号判定装置

【課題】衛星航法システムにおいて、それぞれ同一の情報を含む2周波の信号が同一衛星から同時に出力される場合に、当該2周波の信号がどの衛星から発せられたかの判定を、正確、簡易に、かつ効率よく行うようにする。
【解決手段】 各チャンネルにおいて、次のような処理を行う。受信装置6では、L1信号のPNコードと所望する衛星のPNコードとの相関値を計算し、当該相関値のピークが第1閾値を越えたか否かによりL1信号が所望する衛星のものであるか否かを判定する。所望する衛星のものと判定したときは、L1信号判定部11では、所望する衛星の所望する以外の衛星のキャリア周波数の比較及び信号レベルの比較により、L1信号が所望する衛星のものか否か判定する。この判定を前提として、L2信号判定部12では、受信信号の送信時刻によりL2信号が所望する衛星のものか否か判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星信号判定装置、及び測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning System)は約20,000km上空を周回している29機(2006年6月1日現在)の衛星から送信される信号を受信機で同時に受信して、衛星の軌道情報や時刻情報を含む航法データを取得することにより、受信機の現在位置を算出することが可能とするシステムである。
【0003】
この場合、衛星は固有のPN(Pseudo Noise)コードと呼ばれる擬似ランダムコードを用い、スペクトラム拡散方式により位相変調された信号を送信している。受信機は衛星に応じたPNコードの発生器を備えているので、衛星からの信号を受信したときは、その衛星から受信したPNコードと受信機で発生させたPNコードとの相関値を求めることにより、受信機が所望の衛星の送信信号を受信しているか否かを判別する。ここで、PNコードの相関値は、受信信号のPNコードと受信機のPNコードとが同一位相の場合にピークが現れ、位相差が1チップ以上ある場合、又は、他の衛星と相互相関している場合には小さな値になる。ここで、「チップ(Chip)」とは、2進数で1又は0のいずれかを転送するのに必要な時間の長さのことである。
【0004】
ここで、衛星の送信信号を受信するには、まず各衛星から受信したPNコードと受信機が発生させたPNコードとの相関値を求める。その相関値に一定値以上のピークを検出した場合には、所望の衛星からの送信信号を受信したと判定し、その後は信号を捕捉しながら各衛星の航法データを収集する。航法データは50bpsで6秒(300ビット)のサブフレームとして送信される。サブフレームは5種類のカテゴリに分けられ、サブフレーム1は各衛星の時計の補正値、健康状態などであり、サブフレーム2,3は各衛星の軌道パラメータを含むエフェメリスデータであり、サブフレーム4,5は全衛星の概略の軌道情報(アルマナックデータ)や電離層遅延補正係数である。これらのサブフレーム1〜5は順番に送信され、サブフレーム1〜5が集まって1つのフレームとなる。この1つのフレームは放送するのには30秒(1500ビット)を必要とする。さらに、フレームは25種類に分けられる。これら25フレームを12.5分(1500×25ビット)受信することで全情報が収集できたことになる。
【0005】
受信機において当該受信機の現在位置を算出するためには、少なくとも3機以上の衛星を同時に受信して、エフェメリスデータを取得する必要がある。エフェメリスデータは、送信する衛星自身の詳細な軌道情報であり、送信する衛星白身の送信信号を受信しなければエフェメリスデータを取得できないので、エフェメリスデータも少なくとも3機以上の衛星で取得しなければならない。取得したエフェメリスデータから、その衛星の位置を算出し、受信機からその衛星までの距離をその伝搬時間から求め、所定の連立方程式を解くことにより測位結果を求めることができる。
【0006】
実際の受信機においては、衛星の送信信号を受信して、その受信信号がどの衛星のものかを特定する処理を行う。その特定の方法は、受信信号のPNコードと受信機の所望の衛星のPNコードとの相関値を計算し、そのピークがある一定の閾値を越えたか否かを判定することによる。ピークが閾値を越えた場合には、所望の衛星のPNコードを受信したと判定して追尾処理を行い、衛星から送られる航法データを受信する。
【0007】
ここで、図5は受信信号のPNコードと受信機における所望の衛星のPNコードとの位相シフト量を横軸とし、相関値を縦軸として表したグラフの一例である。同図の例では、自己相関となり、所望の衛星でピークが現れているので、所望の衛星の送信信号を受信しているとわかる。
【0008】
次に、この場合に、図6に示すように閾値を下げて高感度にした場合を考えてみる。ここで、所望の衛星を衛星A、所望の衛星以外の可視衛星を衛星Bとする。相互相関で衛星Bから受信したPNコードと受信機が発生させた衛星AのPNコードとで相関値のピークが閾値を越えてしまった場合には、受信機は衛星Aとして追尾するが、実際は衛星Bを誤って追尾していることになる。そして、このまま追尾を継続することで衛星Aのエフェメリスデータとして衛星Bのエフェメリスデータが受信される。つまり、受信したエフェメリスデータから計算される衛星位置は衛星Aのものではなく衛星Bのものとなる。また、衛星からの信号の送信時刻は相互相関で得られたピークから算出されるので、意昧のないものとなる。従って、この結果が測位誤差となって現れてしまうという不具合が生じる。
【0009】
そこで、特許文献1には、別の間違った衛星の送信信号を受信しているにもかかわらず、所望の衛星の信号を受信していると判定しないようにするための技術について開示している。
【0010】
このような誤った判定の防止策として、特許文献1には次のチェック1〜4の4つの手段について開示される。
【0011】
(1)チェック1
位置の分かっている基準局が発信する電波を利用して、基準局と全可視衛星間の距離の誤差を修正して精度を高める技術が知られている。ここで、基準局は、受信して得られた基準局と全可視衛星間の距離の情報を受信機に補助データとして送信する。そのため、その補助データで可視衛星の衛星番号がわかるので、補助データで送信された可視衛星の衛星番号と受信機で受信した衛星番号とを比較し、補助データで送信された可視衛星の衛星番号の中に受信機で受信した衛星番号が無かった場合には、所望の衛星から受信できていないと判定し、衛星から受信したエフェメリスデータを無効として測位計算には用いないようにする。
【0012】
(2)チェック2
所望の衛星の送信信号を受信機で受信し、そのキャリア周波数から取得したドップラ周波数Aと、所望の衛星から取得したエフェメリスデータから予測したドップラ周波数Bとを取得する。そして、ドップラ周波数Aとドップラ周波数Bとの差の絶対値を算出する。その差の絶対値が所定の閾値以上であった場合、ドップラ周波数Aを取得した衛星とドップラ周波数Bを取得した衛星とが異なると判定し、所望の衛星から受信したエフェメリスデータを無効として測位計算には用いないようにする。
【0013】
(3)チェック3
前回の受信機の概略位置から所望の衛星までの距離と、今回の受信機の概略位置から所望の衛星までの距離とを測定し、前回の距離と今回の距離の差から距離の変化量の実測値を測定する。また、所望の衛星から取得したエフェメリスデータから予測した所望の衛星と受信機との間の距離の変化量の予測値を算出し、実測値と予測値の差の絶対値を算出する。その差の絶対値が所定の閾値以上であった場合、実測値を測定した衛星と予測値を測定した衛星が異なると判定し、所望の衛星から受信したエフェメリスデータを無効として測位計算に用いないようにする。
【0014】
(4)チェック4
可視衛星の内、所望の衛星として衛星C、衛星C以外の衛星として衛星Dを考える。受信機の概略位置から衛星Cまでの距離と、受信機の概略位置から衛星Dまでの距離との差Aを算出する。また、衛星Cの送信信号の送信時刻と衛星Dの送信信号の送信時刻との差Bを算出する。そして、差Aと差Bとの差の絶対値を算出し、その差の絶対値が所定の閾値以上であった場合、衛星Cと衛星Dのどちらかの衛星は正しくないと判定し、衛星Cから受信したエフェメリスデータと衛星Dから受信したエフェメリスデータを無効として測位計算に用いないようにする。
【特許文献1】特開2003‐21672号公報
【非特許文献1】J.J.SPILKER,Jr.,“GPS Signal Structure andPerformance Characteristics”, GLOBAL POSITIONING SYSTEMPapers published in NAVIGATION VOLUME 1, THE INSTITUTE OF NAVIGATION, 1980, p46Table2-6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ここで、次世代GNSS(Global Navigation Satellite System)においては、衛星から送信される信号には、従来からのL1信号と民間で利用可能なL2信号とがある。このL1信号とL2信号とは、同一の衛星から同時刻に出力される同一の情報を含むものであるが、周波数帯域が互いに異なる(L1信号は1575.42MHz、L2信号は1227.60MHz)信号である。
【0016】
そして、前述のチェック1〜4の技術は、L1信号のみならずL2信号にも適用することができる。
【0017】
しかしながら、前述のチェック1〜4の技術においては、以下のような不具合がある。
【0018】
チェック1の技術では、基準局からの伝送に別途回線が必要であり、煩雑である不具合がある。
【0019】
チェック2の技術では、所望の衛星以外の可視衛星として衛星Eを考えると、相互相関で衛星Eから受信したPNコードと受信機が発生させた所望の衛星のPNコードで相関値のピークが閾値を越えてしまった場合、送信信号のキャリア周波数から取得できるドップラ周波数は衛星Eのドップラ周波数Cであり、そのときドップラ周波数の予測に使用するエフェメリスデータも衛星Eのものであるので、予想したドップラ周波数は衛星Eのドップラ周波数Cである。従って、同一衛星のドップラ周波数であるので差が生まれず、エフェメリスデータを排除できないことがあるという不具合がある。
【0020】
チェック3の技術では、所望の衛星を衛星F、衛星F以外の可視衛星を衛星Gとする。相互相関で衛星Gから受信したPNコードと受信機が発生させた衛星FのPNコードとの相関値のピークが閾値を越えてしまった場合、受信機は衛星Fとして追尾するが、実際は衛星Gを追尾していることになる。この場合、前述の通り衛星と受信機との間の距離が衛星Fと受信機との間の距離になり、送信時刻は相互相関で得られたピークから算出されることから意昧のないものとなるので、このとき算出される今回の測位結果は意味のないものとなる。しかし、次回の測位結果は今回の測位結果同様意味のないものであるが、今回の測位結果と次回の測位結果の差である今回の測位結果からの変化量Aは衛星Gに起因している。従って、その変化量Aは衛星Gのものとなる。また、衛星と受信機との間の距離の変化量の予測値に使用するエフェメリスデータも衛星Gから受信したエフェメリスデータであるので、衛星と受信機との間の距離の変化量の予測値は衛星Gのものとなる。従って、変化量Aと予測値とは同一衛星の変化量であるので差が生まれず、エフェメリスデータを排除できないという不具合がある。
【0021】
チェック4の技術では、前述の通り、衛星Cと衛星Dのどちらかの衛星が異なるとの判定は可能であるが、衛星Cと衛星Dのどちらの衛星が異なるかという特定はできない。従って、衛星Cから受信したエフェメリスデータと衛星Dから受信したエフェメリスデータを無効として測位計算に用いないようにする必要があるので、非効率であるという不具合がある。
【0022】
このように、チェック1〜4に開示の技術では、正しい衛星の判定を正確、簡易に、かつ効率よく行うことができないという不具合がある。
【0023】
また、次世代GNSSシステムでは、図7に例を示すように、衛星101,102,103からはL1信号111、L2信号112の2周波の信号が同時に送信され、受信機のアンテナ121で受信できる。
【0024】
そして、この場合に前述のチェック1〜4の判定を当該2周波の信号の判定に拡張した場合には、チェック数が増大し、処理負荷が重くなってしまうという不具合もある。
【0025】
そこで、L1信号の判定を正確、簡易に、かつ効率よく行うようにして、この判定結果を使用してL2信号の判定も効率よく行うことにより、全体として衛星から受信する2周波の信号がどの衛星から発せられたかの判定を、正確、簡易に、かつ効率よく行うようにしたい。
【0026】
そこで、本発明の目的は、衛星航法システムにおいて、それぞれ同一の情報を含む2周波の信号が同一衛星から同時に出力される場合に、当該2周波の信号がどの衛星から発せられたかの判定を、正確、簡易に、かつ効率よく行うようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
(1)本発明は、互いに帯域が異なり同一時刻に送信される第1信号及び第2信号を受信信号として各衛星から受信する受信装置と、前記第1信号のPNコードと所望の衛星のPNコードとの相関値を計算し、当該相関値のピークが第1閾値を越えたか否かにより当該第1信号が所望の衛星のものであるか否かを判定する第1判定手段と、前記第1判定手段により前記第1信号が前記所望の衛星のものであると判定したときは、当該所望の衛星から受信したキャリア周波数と所望以外の衛星から受信したキャリア周波数との差が第2閾値より大きいか否かにより当該所望の衛星と当該所望以外の衛星とから前記第1信号を受信して、相互相関しているのか否かを判定する第2判定手段と、前記第2判定手段により前記所望の衛星から受信したキャリア周波数と前記所望以外の衛星から受信したキャリア周波数との差が前記第2閾値以下であるときは、当該所望の衛星からの受信信号の信号レベルと当該所望以外の衛星からの受信信号の信号レベルとの差が第3閾値より小さいか否かにより当該所望の衛星と当該所望以外の衛星とから前記第1信号を受信しているのか否かを判定する第3判定手段と、前記第2及び第3判定手段により前記所望の衛星と前記所望以外の衛星とから前記第1信号を受信していると判定したときは、当該判定がされた衛星の前記第1信号の送信時刻と前記第2信号の送信時刻との差が第4閾値より小さいか否かにより前記第1信号を受信していると判定された衛星から前記第2信号も受信しているのか否かを判定する第4判定手段と、を備えている衛星信号判定装置である。
【0028】
(2)別の本発明は、互いに帯域が異なり同一時刻に送信されスペクトラム拡散方式により位相変調された第1信号及び第2信号を受信信号として各衛星から当該各衛星にそれぞれ対応している複数のチャンネルで受信する受信装置と、前記各チャンネルで受信した前記各衛星の各受信信号に含まれる当該衛星の軌道情報により測位計算を行う測位手段と、を備え、前記チャンネルごとに、前記第1信号のPNコードと当該チャンネルで所望する衛星のPNコードとの相関値を計算し、当該相関値のピークが第1閾値を越えたか否かにより当該第1信号が当該チャンネルで所望する衛星のものであるか否かを判定する第1判定手段と、前記第1判定手段により前記第1信号が当該チャンネルで所望する衛星のものであると判定したときは、当該チャンネルで所望する衛星から受信したキャリア周波数と当該チャンネル所望する以外の衛星から受信したキャリア周波数との差が第2閾値より大きいか否かにより当該チャンネルで所望する衛星と当該チャンネルで所望する以外の衛星とから前記第1信号を受信して、相互相関しているのか否かの判定を当該チャンネルで所望する衛星と当該チャンネルで所望する以外衛星との全ての組み合わせについて行う第2判定手段と、前記第2判定手段により当該チャンネルで所望する衛星から受信したキャリア周波数と当該チャンネルで所望する以外の衛星から受信したキャリア周波数との差が前記第2閾値以下であるときは、当該チャンネルで所望する衛星からの受信信号の信号レベルと当該チャンネルで所望する以外の衛星からの受信信号の信号レベルとの差が第3閾値より小さいか否かにより当該チャンネルで所望する衛星と当該チャンネルで所望する以外の衛星とから前記第1信号を受信しているのか否かを判定する第3判定手段と、前記第3判定手段により当該チャンネルで所望する衛星からの受信信号の信号レベルと当該チャンネルで所望する以外の衛星からの受信信号の信号レベルとの差が第3閾値より大きいときは、当該チャンネルで所望する衛星と当該チャンネルで所望する以外の衛星とのうち当該信号レベルの低い方の衛星からの前記受信信号を前記測位手段による測位計算の対象から除去する除去手段と、前記第2及び第3判定手段により当該チャンネルで所望する衛星と当該チャンネルで所望する以外の衛星とから前記第1信号を受信していると判定したときは、当該判定がされた衛星の前記第1信号の送信時刻と前記第2信号の送信時刻との差が第4閾値より小さいか否かにより前記第1信号を受信していると判定された衛星から前記第2信号も受信しているのか否かを判定する第4判定手段と、を備えている、測位装置である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、第1判定手段により(受信装置の各チャンネルで)所望の衛星のPNコードを発生させて所望の衛星を特定する。そして、その衛星の第1信号が所望の衛星のものか否かを第2判定手段、第3判定手段により判定する。第2判定手段では、キャリア周波数に乗るドップラ周波数が衛星毎に異なることを利用して、所望の衛星と所望以外の衛星とでキャリア周波数が似通った値ならば、両衛星は同一の衛星で、どちらかの衛星を間違って受信している可能性が高いと判定する。この場合は、第3判定手段でどちらの衛星を間違って受信しているのかを信号レベルを比較することにより判定する。よって、第2判定手段、第3判定手段により正確に衛星の正誤を判断できる。また、基準局からの伝送のための別途の回線は不要なので簡易に衛星の正誤を判断できる。さらに、第3判定手段でどちらの衛星も誤りとはしないので効率よく衛星の正誤を判断できる。
【0030】
次に、第1信号について衛星の正誤を正確、簡易に、かつ効率よく行なえたことを前提として、第1信号と第2信号とは同一衛星から同時に送信されるので、当該2周波の信号の送信時刻には誤差範囲の差しか生じないことを利用し、第4判定手段により第2信号について衛星の正誤を正確、簡易に、かつ効率よく行なうことができる。
【0031】
よって、衛星から受信する2周波の信号がどの衛星から発せられたかの判定を、全体として正確、簡易に、かつ効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0033】
図1は、本実施形態にかかる測位装置1の電気的な接続のブロック図である。この測位装置1は、各種演算を行い、測位装置1の各部を集中的に制御するCPU2と、CPU2が実行する各種プログラムや固定データを格納したROM3と、CPU2の作業エリアとなるRAM4とがバス5により接続されている。また、バス5にはスペクトラム拡散方式で変調された衛星の信号を受信する受信装置6が接続されている。
【0034】
図2は、ROM3に格納されたプログラムに基づいてCPU2が実行する処理を説明する機能ブロック図である。
【0035】
まず、受信装置6に接続されたアンテナ7により全可視衛星からの送信信号を受信する。受信装置6は、この受信した送信信号(L1信号とL2信号)のキャリア周波数とコード位相とを取得し、送信衛星を特定して、航法データを取得する。そして、取得した航法データの中からエフェメリスデータを取得する。キャリア周波数とコード位相とからは受信信号の信号レベルと伝搬時間と送信時刻とを算出することができる。また、エフェメリスデータは、衛星の軌道情報や時刻情報を含む航法データ中の送信する衛星自身の詳細な軌道情報である。
【0036】
受信装置6は、各衛星にそれぞれ対応した複数チャンネル(ここではチャンネル数をnとする)を備えている。そして、受信装置6においては、各チャンネルでそれぞれ自チャンネルが対象としている衛星のものであるとして特定したL1信号とL2信号とが得られる。ここで、L1信号とL2信号は、前述のとおり、同一衛星から同時刻に送信された同一の情報を含む信号であるが、互いに周波数帯域が異なっている。
【0037】
受信装置6の各チャンネルにおける送信衛星の特定は、前述のように、受信信号であるL1信号のPNコードと当該受信装置6が対象としている衛星のPNコードとの相関値を計算し、そのピークがある一定の閾値を越えたか否かを判定することにより行う。ピークが閾値を越えた場合には、所望の衛星のPNコードを受信したと判定して追尾処理を行い、衛星から送られる航法データを受信する。
【0038】
そして、本実施の形態の測位装置1では、各チャンネルで受信したL1信号、L2信号が所望の衛星から受信できているのか否かを判定する。
【0039】
まず、L1信号判定部11は、各チャンネルにおいてL1信号が所望の衛星から受信できているか否かを判定する。L1信号判定部11は、後述するキャリア周波数比較部12と、信号レベル比較部13とを備えている。
【0040】
また、L2信号判定部21は、各チャンネルにおいてL2信号が所望の衛星から受信できているか否かを判定する。L2信号判定部21は、後述する送信時刻比較部22を備えている。
【0041】
測位部31は、L1信号判定部11、L2信号判定部21における判定により各チャンネルで正しく受信された各衛星の信号により測位計算を行う。
【0042】
まず、L1信号判定部11で行う処理(L1判定)について説明する。図3は、L1信号判定部11で行う処理のフローチャートである。
【0043】
まず、受信装置6から全可視衛星のL1信号のコード位相とキャリア周波数を取得する(ステップS1)。
【0044】
前述のとおり、受信装置6の各チャンネルでは当該チャンネルが所望する衛星のPNコードを発生させて、所望の衛星を探している。ここで、複数のチャンネルの内、1つのチャンネルで所望する衛星を衛星K、当該チャンネル以外の何れかのチャンネルで所望する衛星を衛星Lとする。受信装置6で取得したキャリア周波数から、衛星Kのキャリア周波数と衛星Lのキャリア周波数を比較する。キャリア周波数に乗るドップラ周波数が衛星毎に異なるため、キャリア周波数は衛星毎に異なる値を示すことになる。すなわち、キャリア周波数比較部12で、キャリア周波数比較部22で衛星Kのキャリア周波数と衛星Lのキャリア周波数の差の絶対値を計算し(ステップS2)、その結果Aを所定の閾値aと比較する(ステップS3)。
【0045】
ここで、閾値aとしては、衛星Kのキャリア周波数と衛星Lのキャリア周波数とが似通っているか、あるいは異なっているかを切り分けることができるような適切な値に設定する。結果Aが閾値aより大きければ(ステップS3のY)、衛星Kと衛星Lとはそれぞれ衛星Kと衛星Lから受信できていると判定し(ステップS4)、L1信号を測位部31での測位計算に使用する。
【0046】
結果Aが閾値a以下であれば(ステップS3のN)、衛星Kと衛星Lとは同一の衛星で、どちらかの衛星を間違って受信している可能性が高いと判定し、引き続き、信号レベル比較部13で以下のような信号レベルの判定を行う。すなわち、信号レベル比較部13において、衛星Kと衛星Lとでどちらの衛星を間違って受信しているかを、信号レベルを比較して判定する。
【0047】
GPS標準の論文集の1つである前記の非特許文献1によれば、理論的に相互相関の場合の信号レベルは、自己相間の場合の信号レベルに比べて23.8dB程度低くなるとしている。この結果から、閾値をbとして、自己相関か相互相関かを判定できる信号レベルの差の値を設定する。仮に衛星Kの信号レベルが高く、衛星Lの信号レベルが低かったとする。衛星Kの信号レベルと衛星Lの信号レベルの差の絶対値を計算し(ステップS5)、その結果Bを閾値bと比較する(ステップS6)。
【0048】
そして、結果Bの値が閾値bより小さければ(ステップS6のY)、結果Aで衛星Kと衛星Lのキャリア周波数が似通っていたために、衛星Kと衛星Lが同一の衛星でどちらかの衛星を間違って受信している可能性が高いと判定したが、偶然にも同じドップラ周波数の衛星同士であったとして、衛星Kと衛星Lはそれぞれ衛星Kと衛星Lから受信できていると判定し(ステップS4)、L1信号を測位部31における測位計算に使用する。
【0049】
また、結果Bが閾値b以上であれば(ステップS6のN)、衛星Kは衛星Kから受信できていると判定し(ステップS7)、衛星Lは衛星L以外の衛星から受信していると判定して、衛星Lとして受信したエフェメリスデータを無効として、測位計算に用いないようにする(ステップS8)。
【0050】
以上のステップS2〜S8の判定は、衛星Kと衛星Lの組み合わせを各チャンネル内で総当りに行うことで(ステップS9〜S12)、L1信号については各チャンネルが所望する衛星から受信できていることを確認する。すなわち、所望の衛星がS1,S2,S3,S4の4つ存在し、この4つの衛星に対応して受信装置6が4チャンネルで、現在、衛星S1〜S4の全てが可視衛星であった場合、衛星S1〜S4の中の2つずつの組み合わせは6組あるので、この6組について各チャンネルで前述の判定を行う。
【0051】
次に、L2信号判定部21で行う処理(L2判定)について説明する。図4は、L2信号判定部21で行う処理のフローチャートである。
【0052】
L1信号判定部11で行う前述の処理により、L1信号が所望の衛星から受信できているので、このことを前提として、L2信号が所望の衛星から受信できているか否かをL2信号判定部21で判定する。まず、L1信号判定部11によるL1判定を通過することにより正しく受信できていると判定された衛星のL2信号のコード位相とキャリア周波数をL2信号判定部21が受信装置6から取得する(ステップS21)。
【0053】
これらの衛星のうち、1つの衛星を衛星Mとする。送信時刻比較部22は、この衛星MのL1信号のコード位相からL1信号の送信時刻を算出し、また衛星MのL2信号のコード位相からL2信号の送信時刻を算出する(ステップS22)。
【0054】
そして、衛星MのL1信号の送信時刻と衛星MのL2信号の送信時刻とを比較し、L2信号が衛星Mから受信できているか否かの判定を行う。衛星からはL1信号とL2信号とは同時に放送されるため、基本的には受信装置6で取得するL1信号の送信時刻とL2信号の送信時刻とは等しい時刻となる。しかしながら、L1信号とL2信号とはキャリア周波数が異なるため、電離層遅延、マルチパス等様々な誤差が異なる。従って、L1信号の送信時刻とL2信号の送信時刻とは誤差分だけ違いが生じる。しかし、これらの様々な誤差は合計しても高々0.1μs(30m)程度なので、違いが誤差だけによるものと判断するために、閾値cとして、このような誤差範囲にかからないように見積もった値(例えば1μs(300m))を設定する。そして、衛星MのL1信号の送信時刻と衛星MのL2信号の送信時刻との差の絶対値を計算し(ステップS23)、その結果Cを閾値cとを比較する(ステップS24)。
【0055】
これにより、結果Cが閾値cより小さければ(ステップS24のY)、衛星MのL2信号は衛星Mから受信できていると判定し(ステップS25)、L2信号を測位部31における測位計算に使用する。
【0056】
また、結果Cが閾値c以上であれば(ステップS24のN)、衛星MのL2信号は衛星M以外の衛星から受信していると判定し、衛星MのL2信号を測位に使用しないようにする(ステップS26)。
【0057】
以上のステップS22〜S26の処理は、各チャンネルにおいて、L1判定を通過した全衛星について行い(ステップS27)、L2信号が各々のチャンネルが所望する衛星から受信できていることを確認する。
【0058】
以上説明した測位装置1によれば、受信装置6の各チャンネルで所望の衛星のPNコードを発生させて所望の衛星を特定する。そして、その衛星のL1信号が所望の衛星のものか否かをキャリア周波数比較部12、信号レベル比較部13により判定する。キャリア周波数比較部12では、キャリア周波数に乗るドップラ周波数が衛星毎に異なることを利用して、所望の衛星と所望以外の衛星とでキャリア周波数が似通った値ならば、両衛星は同一の衛星で、どちらかの衛星を間違って受信している可能性が高いと判定する。この場合は、信号レベル比較部13でどちらの衛星を間違って受信しているのかを信号レベルを比較することにより判定する。よって、キャリア周波数比較部12、信号レベル比較部13により正確に衛星の正誤を判断できる。また、基準局からの伝送のための別途の回線は不要なので簡易に衛星の正誤を判断できる。さらに、信号レベル比較部13ではどちらの衛星も誤りとはしないので効率よく衛星の正誤を判断できる。
【0059】
次に、L1信号について衛星の正誤を正確、簡易に、かつ効率よく行なえたことを前提として、L1信号とL2信号とは同一衛星から同時に送信されるので、当該2周波の信号の送信時刻には誤差範囲の差しか生じないことを利用し、送信時刻比較部22によりL2信号について衛星の正誤を正確、簡易に、かつ効率よく行なうことができる。
【0060】
よって、衛星から受信する2周波の信号がどの衛星から発せられたかの判定を、全体として正確、簡易に、かつ効率よく行うことができる。
【0061】
なお、前述の例では、まず、L1信号について衛星の正誤を正確に判定し、これを前提としてL2信号について衛星の正誤を判定するようにしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、L2信号について衛星の正誤を正確に判定し、これを前提としてL1信号について衛星の正誤を判定するようにしてもよい。
【0062】
また、本発明はGPS技術への適用に限定されるものではなく、Galileo、GLONASSなどに適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態である測位装置の電気的な接続のブロック図である。
【図2】測位装置が実行する処理の機能ブロック図である。
【図3】L1信号判定部で実行する処理のフローチャートである。
【図4】L2信号判定部で実行する処理のフローチャートである。
【図5】本発明の課題について説明するグラフである。
【図6】本発明の課題について説明するグラフである。
【図7】L1信号、L2信号の送信について説明するグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1 測位装置
6 受信装置
11 L1信号判定部
12 キャリア周波数比較部
13 信号レベル比較部
21 L2信号判定部
22 送信時刻比較部
31 測位部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに帯域が異なり同一時刻に送信されスペクトラム拡散方式により位相変調された第1信号及び第2信号を受信信号として各衛星から受信する受信装置と、
前記第1信号のPNコードと所望の衛星のPNコードとの相関値を計算し、当該相関値のピークが第1閾値を越えたか否かにより当該第1信号が所望の衛星のものであるか否かを判定する第1判定手段と、
前記第1判定手段により前記第1信号が前記所望の衛星のものであると判定したときは、当該所望の衛星から受信したキャリア周波数と所望以外の衛星から受信したキャリア周波数との差が第2閾値より大きいか否かにより当該所望の衛星と当該所望以外の衛星とから前記第1信号を受信して、相互相関しているか否かを判定する第2判定手段と、
前記第2判定手段により前記所望の衛星から受信したキャリア周波数と前記所望以外の衛星から受信したキャリア周波数との差が前記第2閾値以下であるときは、当該所望の衛星からの受信信号の信号レベルと当該所望以外の衛星からの受信信号の信号レベルとの差が第3閾値より小さいか否かにより当該所望の衛星と当該所望以外の衛星とから前記第1信号を受信しているのか否かを判定する第3判定手段と、
前記第2及び第3判定手段により前記所望の衛星と前記所望以外の衛星とから前記第1信号を受信していると判定したときは、当該判定がされた衛星の前記第1信号の送信時刻と前記第2信号の送信時刻との差が第4閾値より小さいか否かにより前記第1信号を受信していると判定された衛星から前記第2信号も受信しているのか否かを判定する第4判定手段と、
を備えている衛星信号判定装置。
【請求項2】
互いに帯域が異なり同一時刻に送信されスペクトラム拡散方式により位相変調された第1信号及び第2信号を受信信号として各衛星から当該各衛星にそれぞれ対応している複数のチャンネルで受信する受信装置と、
前記各チャンネルで受信した前記各衛星の各受信信号に含まれる当該衛星の軌道情報により測位計算を行う測位手段と、
を備え、
前記チャンネルごとに、
前記第1信号のPNコードと当該チャンネルで所望する衛星のPNコードとの相関値を計算し、当該相関値のピークが第1閾値を越えたか否かにより当該第1信号が当該チャンネルで所望する衛星のものであるか否かを判定する第1判定手段と、
前記第1判定手段により前記第1信号が当該チャンネルで所望する衛星のものであると判定したときは、当該チャンネルで所望する衛星から受信したキャリア周波数と当該チャンネル所望する以外の衛星から受信したキャリア周波数との差が第2閾値より大きいか否かにより当該チャンネルで所望する衛星と当該チャンネルで所望する以外の衛星とから前記第1信号を受信して、相互相関しているか否かの判定を当該チャンネルで所望する衛星と当該チャンネルで所望する以外衛星との全ての組み合わせについて行う第2判定手段と、
前記第2判定手段により当該チャンネルで所望する衛星から受信したキャリア周波数と当該チャンネルで所望する以外の衛星から受信したキャリア周波数との差が前記第2閾値以下であるときは、当該チャンネルで所望する衛星からの受信信号の信号レベルと当該チャンネルで所望する以外の衛星からの受信信号の信号レベルとの差が第3閾値より小さいか否かにより当該チャンネルで所望する衛星と当該チャンネルで所望する以外の衛星とから前記第1信号を受信しているのか否かを判定する第3判定手段と、
前記第3判定手段により当該チャンネルで所望する衛星からの受信信号の信号レベルと当該チャンネルで所望する以外の衛星からの受信信号の信号レベルとの差が第3閾値より大きいときは、当該チャンネルで所望する衛星と当該チャンネルで所望する以外の衛星とのうち当該信号レベルの低い方の衛星からの前記受信信号を前記測位手段による測位計算の対象から除去する除去手段と、
前記第2及び第3判定手段により当該チャンネルで所望する衛星と当該チャンネルで所望する以外の衛星とから前記第1信号を受信していると判定したときは、当該判定がされた衛星の前記第1信号の送信時刻と前記第2信号の送信時刻との差が第4閾値より小さいか否かにより前記第1信号を受信していると判定された衛星から前記第2信号も受信しているのか否かを判定する第4判定手段と、
を備えている、
測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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