衛星信号受信処理装置および衛星信号受信処理方法
【課題】少なくとも位置計算可能条件は満たしているときには、速度計算可能条件に関係なく、位置計算を可能とする衛星信号受信処理装置を提供する。
【解決手段】複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理装置である。複数の人工衛星の集合から、軌道情報が既知であり、かつ、拡散符号の発信時刻が既知である人工衛星の集合を、自装置の位置の算出に使用する位置算出用人工衛星の集合として決定する位置算出用衛星決定手段と、複数の人工衛星の集合から、軌道情報が既知であり、かつ、受信信号の搬送波周波数が安定していると判断された人工衛星の集合を、自装置の速度の算出に使用する速度算出用人工衛星の集合として決定する速度算出用衛星決定手段とを備える。
【解決手段】複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理装置である。複数の人工衛星の集合から、軌道情報が既知であり、かつ、拡散符号の発信時刻が既知である人工衛星の集合を、自装置の位置の算出に使用する位置算出用人工衛星の集合として決定する位置算出用衛星決定手段と、複数の人工衛星の集合から、軌道情報が既知であり、かつ、受信信号の搬送波周波数が安定していると判断された人工衛星の集合を、自装置の速度の算出に使用する速度算出用人工衛星の集合として決定する速度算出用衛星決定手段とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばGPS(Global Positioning System)のような全地球測位システム(GNSS: Global Navigation Satellites System)において、複数個の人工衛星からの信号電波を受信して、自装置の位置や速度を算出する衛星信号受信処理装置およびこの装置に使用する衛星信号受信処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星(以下、単に衛星という)を利用して移動体の位置を測定するGNSSシステム、例えばGPSシステムにおいて、衛星信号受信処理装置としてのGSP受信機は、4個以上の衛星からの信号を受信し、その受信信号から自受信機の位置を計算し、また、自受信機の速度を計算し、ユーザに知らせることが基本機能である。
【0003】
GPSシステムにおいては、衛星からの信号は、C/A(Clear and Acquisition)コードと呼ばれる拡散符号によりスペクトラム拡散されている。C/Aコードは、送信信号速度(チップレート)が1.023MHz、符号長が1023のPN(pseudo random noise;擬似ランダム雑音)系列の符号、例えばGold符号からなる拡散符号である。このC/AコードのPN系列の符号は、衛星ごとに異なっている。
【0004】
そして、衛星からの信号(以下、衛星信号という)は、50bpsのデータを、この拡散符号を用いてスペクトラム拡散した信号により、周波数が1575.42MHzの搬送波(キャリア)をBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調した信号である。
【0005】
例えば特許文献1(特開2003−258769公報)に記載されているように、GPS受信機は、上述のような衛星信号を受信し、その受信信号を復調して、アルマナックやエフェメリスと呼ばれる衛星の軌道情報や時刻情報を含む航法メッセージを獲得し、軌道情報等はメモリに格納して保持する。
【0006】
そして、GPS受信機は、衛星の軌道情報および時間情報と、衛星信号の遅延時間(受信信号の到達時刻と衛星からの発信時刻との差)とから、自受信機の3次元位置を連立方程式により導き出す。すなわち、GPS受信機は、自受信機の位置を、4個以上の衛星についての軌道情報と、当該4個の衛星から受信する信号の拡散符号の発信時刻および到達時刻から拡散符号発信時の衛星の位置および擬似距離を計算し、GPS受信機の3次元座標と、GPS受信機・衛星間の時計誤差の4個を未知数とした連立方程式を立て、その連立方程式を解くことで算出することができる。
【0007】
測位のために4個の衛星からの信号が必要となるのは、GPS受信機内部の時間と衛星の時間とで誤差があり、その誤差の影響を除去するためである。なお、この明細書において、測位というときには、受信機位置の算出のみならず、受信機速度の算出を含むものとする。
【0008】
前記連立方程式の各方程式は異なる未知数同士の乗算項の無い2次式で、一般には解に近い適当な初期値を与え、ニュートン法のような反復法により連立方程式を解く。ニュートン法は、与えられた方程式を解に近い点で局所的に線形近似し、最初は初期値を用いて線形連立方程式を解き、解いた結果を次の初期値として再び解を得、解が一定誤差以内に収束するまで同じ計算を反復することで最終的な解を得る方法である。
【0009】
また、GPS受信機は、上述のように自身の3次元位置と時刻を求めると共に、4個の衛星信号の搬送波のドップラー周波数を求めることにより、速度(3次元速度)を算出する。C/Aコードにもドップラー効果は現れるが、得たい速度精度を満足するために、一般には、衛星信号の搬送波のドップラー周波数が用いられる。
【0010】
すなわち、GPS受信機は、4個以上の衛星について軌道情報と拡散符号の発信時刻から、衛星の位置および衛星の速度を計算し、また、上述の説明のようにして求まった自受信機の位置と、自受信機の同期保持部から得られる、安定していると判断された衛星のキャリア周波数を用いて、自受信機の3次元速度と、中間周波キャリア誤差を未知数とした線形連立方程式を立て、その線形連立方程式を解くことで得ることができる。
【0011】
通常、GPS受信機においては、自身の位置算出や速度算出に当たっては、先ず、可視衛星を見つける。軌道情報が受信機に記憶されていないときには、全ての衛星からの電波をサーチして、電波を受信可能として可視衛星を見つける。軌道情報が受信機に記憶されているときには、当該軌道情報から計算により地平線より上にあるとされる可視衛星を見つける。
【0012】
次に、GPS受信機は、可視衛星の受信信号について、拡散符号および搬送波の同期保持を行なうようにする。そして、GPS受信機では、同期保持できた衛星からの受信信号を用いて自身の位置算出および速度算出を行なうが、同期保持できた衛星からの受信信号の全てを用いて、自身の位置算出および速度算出を行なうわけではなく、予め定めた所定の精度以上で、位置、速度が算出できる衛星からの受信信号のみを用いるようにする。
【0013】
すなわち、GPS受信機は、従来は、
(a)軌道情報が既知であること
(b)拡散符号の発信時刻が既知であること
(c)キャリア周波数が安定して既知であること
という、3つの条件をすべて満足する複数の衛星の集合を、GPS受信機自身の位置および速度を算出することができる位置および速度算出用衛星の集合として見つけ出す。
【0014】
次に、位置および速度算出用衛星の集合の中から、算出される位置および速度の精度が所定閾値を満足するであろう4個以上の衛星の組み合わせを見つけ出す。一般には、このために、衛星の配置による精度への影響を示す精度指標として、DOP(dilution of precision;精度低下率)を用いている。
【0015】
すなわち、GPS受信機は、自身の位置および速度の算出を行なおうとしている衛星の組み合わせについて、DOP値を求め、求めたDOP値が、予め定められた閾値以下である場合に、位置および速度の算出を実行し、求めたDOP値が、前記閾値よりも大きく、精度が悪くなるときには、位置および速度の算出はしないようにしている。この場合に、DOP値の閾値は、位置算出用および速度算出用として共通の1つである。
【0016】
なお、上記のGPS受信機の位置算出および速度算出のいずれの場合においても、5個以上の衛星について解を得ることができる場合は、線形連立方程式から2乗誤差が最小となるような解が求まることが一般に知られている。つまり、計算に使用する衛星の個数は多いほうが一般には精度が良くなる。
【0017】
上記の特許文献および非特許文献は、次の通りである。
【特許文献1】特開2003−258769公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
以上のように、従来は、GPS受信機の自身の位置および速度を算出する場合において、当該算出対象衛星の集合は、上記(a)〜(c)の条件を全て満足するものとして求めるようにしている。そして、従来のGSP受信機は、上記の(a)〜(c)の条件の全てを満足している衛星のうちから、DOP値を用いた精度指標の閾値条件を満足する、精度の高い算出結果が得られるであろう衛星の群をサーチし、当該衛星群が見つかれば測位演算を実行してその結果を出力するようにしていた。
【0019】
ところで、実際上は、GPS受信機が、自身の位置を算出する衛星の集合を決定するための条件としては、上記の(a)〜(c)の条件の全てを満足する必要はなく、
(a)軌道情報が既知であること
(b)拡散符号の発信時刻が既知であること
の2条件を満たせばよい。以下、この2条件を位置計算可能条件と呼ぶ。
【0020】
また、GPS受信機の速度算出に使用する衛星の集合を決定するための条件としては、
(a)軌道情報が既知であること
(c)キャリア周波数が安定に既知であること
の2条件を満たす必要がある。以下、この2条件を速度計算可能条件と呼ぶ。
したがって、GPS受信機の位置と速度の両方を求める場合に、上記の位置計算可能条件を満たし、かつ、上記の速度計算可能条件を満たす衛星であれば、これらの衛星について同期保持部からの情報を元に位置計算も速度計算も行なうことができる。
【0021】
従来のGPS受信機では、上記のように、自身の位置および速度を算出する場合において、当該算出対象衛星の集合は、(a)〜(c)の条件の全てを満足するものとして決定しているので、上記の位置計算可能条件を満たし、かつ、上記の速度計算可能条件を満たしている。
【0022】
従来、位置計算可能条件を満たす衛星の集合と、速度計算可能条件を満たす衛星の集合とを別々に求めなかったのは、従来のGPS受信機では、衛星からの信号を捕捉して保持するときの感度が低かったので、上記位置計算可能条件を満たすときには、上記速度計算可能条件をも満たしていたからである。
【0023】
すなわち、従来は、GPS受信機の衛星信号の同期感度が低いために、図1(A)に示すように、位置計算可能条件を満たす衛星の集合(以下、Pと表記する)と、速度計算可能条件を満たす衛星の集合(以下、Vと表記する)は等しく、P=Vとなる。この場合は、P∩V=P=V、つまり、|P∩V|=|P|=|V| となり、位置計算および速度計算は、使用可能な衛星を最大限用いて行なうことができる。なお、|A|は有限集合Aの要素の数を表すものとする。
【0024】
しかし、上記の条件を満足することができるのは、海上や郊外などのようなGPS衛星からの電波を遮蔽する要因の少ない場所で用いる場合である。ビルや高架建造物など衛星からの電波を遮蔽する要因の多い場所などでは、わずかな電波の遮断の間にキャリア周波数の追従が遅れたりすると、「キャリア周波数が既知である」という速度計算可能条件の一方が満たされなくなり、位置計算可能条件を満たす衛星の集合と速度計算可能条件を満たす衛星の集合P,Vが異なる状態、図1(B)に示すように、V⊂Pとなることが起こり得る。
【0025】
従来のGPS受信機のように、集合P∩Vに含まれる衛星、すなわち、位置計算可能条件と速度計算可能条件の両方を満たす集合の衛星からの情報で位置計算と速度計算を行なう場合、|P∩V|≦|P|となり、本来、位置計算可能条件は満たしているのにもかかわらず、速度計算可能条件を満たしていないために、位置計算に用いられない衛星が発生する可能性がある。
【0026】
特に、|P|=4の場合は、|P∩V|≦4となり、条件によっては測位に使用できる衛星の個数が3個以下となってしまい、精度の良い測位計算ができない、もしくは、測位に使用できる衛星の個数が2個以下となってしまい、測位計算そのものができない、ということも起こる可能性があるという問題がある。
【0027】
また、最近のGPS受信機は感度が高くなってきており、このため、図1(B)または(C)に示すように、位置計算可能条件を満たす衛星の集合Pと、速度計算可能条件を満たす衛星の集合Vは一致しない状況が生じてきている。
【0028】
すなわち、位置計算可能条件のうちの「(b)拡散符号の発信時刻が既知」であるためには、速度計算可能条件のうちの「(c)キャリア周波数が安定に既知」を厳密に満たす必要はない。なぜなら、衛星からの受信信号におけるキャリア周波数の変動に対して、拡散符号の周波数の変動は、約1/1000以下だからである。つまり、拡散符号チップレート/RFキャリア周波数=1.023MHz/1575.42MHz=1/1540であるからである。
【0029】
このため、GPS受信機の感度が上がれば、位置計算可能条件を満たす衛星の集合Pと、速度計算可能条件を満たす衛星の集合Vは、図1(B)または(C)に示すような関係となることが生じる。
【0030】
すると、前述した受信条件が悪い環境の場合と同様の状況が発生し、位置計算可能条件は満たしているのにもかかわらず、速度計算可能条件を満たしていないために、位置計算に用いられない衛星が発生したり、測位に使用できる衛星の個数が減ってしまって、精度の良い測位計算ができない、もしくは、測位計算そのものができない、ということが起こる可能性があるという問題がある。
【0031】
この発明は、以上のような状況にかんがみ、少なくとも位置計算可能条件は満たしているときには、速度計算可能条件に関係なく、位置計算を可能とすることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明による衛星信号受信処理装置は、
複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理装置において、
複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記拡散符号の発信時刻が既知である人工衛星の集合を、自装置の位置の算出に使用する位置算出用人工衛星の集合として決定する位置算出用衛星決定手段と、
前記複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記受信信号の搬送波周波数が安定していると判断された人工衛星の集合を、自装置の速度の算出に使用する速度算出用人工衛星の集合として決定する速度算出用衛星決定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0033】
この請求項1の発明によれば、位置計算可能条件を満たす衛星の集合Pに含まれる全ての衛星を受信機位置算出に用いるので、仮に速度計算可能条件を満たす衛星の集合Vが、|V|<3であっても、少なくとも受信機位置を算出することが可能となる。つまり、従来であれば位置計算ができないような状況でも位置計算が可能となる場合があり、位置測位率の向上に寄与する。また、従来よりも位置計算に使用する衛星数が増える可能性があるので(|P|≧|P∩V|)、位置精度の向上にも寄与する。
【0034】
また、請求項5の発明は、
複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理装置において、
前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合のうちの、自装置の測位計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め定められた位置精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて測位計算を実行する手段と、
前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合のうちの、自装置の速度計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め前記位置精度指標閾値とは独立に定められた速度精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて前記速度計算を実行する手段と
を備えることを特徴とする。
【0035】
請求項5の発明においては、精度指標閾値は、位置精度指標閾値と速度精度指標閾値とが独立に設定される。そして、同期保持がなされている衛星の中から、位置精度指標閾値以下である複数個の人工衛星からの受信信号が検出できれば測位計算を実行し、また、同期保持がなされている衛星の中から、速度精度指標閾値以下である複数個の人工衛星からの受信信号が検出できれば速度計算を実行するようにする。
【0036】
したがって、請求項5の発明においては、位置精度指標閾値と速度精度指標閾値とが独立に設定され、速度計算ができないときであっても、測位計算ができるようにすることができる。
【発明の効果】
【0037】
この発明によれば、少なくとも位置計算可能条件は満たしているときには、速度計算可能条件に関係なく、位置計算を可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、この発明による衛星信号受信処理装置および方法の実施形態を、図を参照しながら説明する。以下では、全地球測位システム(GNSS: Global Navigation Satellites System)を構成する少なくとも4個の衛星から送出された信号を受信して、その受信信号に基づいて自己の位置を算出する受信処理装置に、この発明を適用した場合について説明する。なお、本例においては、全地球測位システムとして、日本国で広く利用されているGPSを想定し、このGPSに対応した衛星信号受信処理装置であるGPS受信機について説明する。
【0039】
以下に説明する例のGPS受信機は、図2に示すように、衛星から受信した受信信号を復調する際に、自己が発生する擬似ランダムノイズ系列、つまりPN系列の拡散符号と受信信号における拡散符号との同期を捕捉する機能と、拡散符号と搬送波(以下、キャリアという)との同期を保持する機能とを分離することにより、小さい回路規模のもとに、同期捕捉を高速化するように構成されたものである。
【0040】
ただし、この発明は、このようなGPS受信機への適用に限定されるものではなく、全地球測位システムを構成する複数の衛星から送出された信号を受信して自己の位置を算出する受信装置および位置算出方法に広く適用可能であることは勿論である。
【0041】
[GPS受信機の構成]
図2は、この実施形態のGPS受信機10の構成例を示すブロック図である。この例のGPS受信機10は、同図に示すように、所定の発信周波数を有する発信信号D1を生成する水晶発振器 (以下、XOという)11と、このXO11とは異なる所定の発振周波数FOSCを有する発振信号D2を生成する温度補償型水晶発振器(以下、TCXOという)12と、このTCXO12から供給される発振信号D2を逓倍及び/又は分周する逓倍/分周器13とを備える。
【0042】
XO11は、例えば32.768kHz程度の所定の発振周波数を有する発振信号D1を生成する。XO11は、生成した発振信号D1を後述するRTC(Real Time Clock)回路27に供給する。
【0043】
TCXO12は、XO11とは異なる例えば18.414MHz程度の所定の発振周波数FOSCを有する発振信号D2を生成する。TCXO12は、生成した発振信号D2を逓倍/分周器13、および後述する周波数シンセサイザ18等に供給する。
【0044】
逓倍/分周器13は、後述するCPU(Centra1 Processing Unit)26から供給される制御信号D3に基づいて、TCXO12から供給される発振信号D2を、所定の逓倍率で逓倍し、および/または、所定の分周比で分周する。逓倍/分周器13は、逓倍および/または分周した発振信号D4を、後述する同期捕捉部24、後述する同期保持部25、CPU26、後述するタイマ28および後述するメモリ29に供給する。
【0045】
また、GPS受信機10は、GPS衛星から送信されてきたRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナ14と、このアンテナ14によって受信された受信RF信号D5を増幅するローノイズ・アンプ(Low Noise Amplifier;以下、LNAという)15と、このLNA15によって増幅された増幅RF信号D6のうち、所定の周波数帯域成分を通過させる帯域通過フィルタ(Band Pass Filter;以下、BPFという)16と、このBPF16を通過した増幅RF信号D7をさらに増幅する増幅器17と、TCXO12から供給される発振信号D2に基づいて所定の周波数FLOを有する局部発振信号D10を生成する周波数シンセサイザ回路18と、増幅器17によって増幅された所定の周波数FRFを有する増幅RF信号D8に対して周波数シンセサイザ回路18から供給された局部発振信号D10を乗算する乗算器19と、この乗算器19によって乗算されることによってダウンコンバートされた所定の周波数FIFを有する中間周波数(Intermediate Frequency; 以下、IFという) 信号Dllを増幅する増幅器20と、この増幅器20によって増幅された増幅IF信号D12のうち所定の周波数帯域成分を通過させる低域通過フィルタ(Low Pass Filter; 以下、LPFという)21と、このLPF21を通過したアナログ形式の増幅IF信号D13をデジタル形式の増幅IF信号D14に変換するアナログ/デジタル変換器(Analog/Digital Converter;以下、A/D変換器という)22とを備える。
【0046】
アンテナ14は、GPS衛星から送信されてきた、周波数が1575.42MHzのキャリアが拡散されたRF信号を受信する。このアンテナ14によって受信された受信RF信号D5は、LNA15に供給される。
【0047】
LNA15は、アンテナ14によって受信された受信RF信号D5を増幅する。LNA15は、増幅した増幅RF信号D6をBPF16に供給する。
【0048】
BPF16は、いわゆるSAW(Surface Acoustic Wave)フィルタからなり、LNA15によって増幅された増幅RF信号D6のうち所定の周波数帯域成分を通過させる。このBPF16を通過した増幅RF信号D7は、増幅器17に供給される。
【0049】
増幅器17は、BPF16を通過した増幅RF信号D7をさらに増幅する。増幅器17は、増幅した所定の周波数FRF、すなわち、1575.42MHzの増幅RF信号D8を乗算器19に供給する。
【0050】
周波数シンセサイザ回路18は、CPU26から供給される制御信号D9による制御のもとに、TCXO12から供給される発振信号D2に基づいて所定の周波数FLOを有する局部発振信号D10を生成する。周波数シンセサイザ回路18は、生成した局部発振信号D10を乗算器19に供給する。
【0051】
乗算器19は、増幅器17によって増幅された所定の周波数FRFを有する増幅RF信号D8に対して周波数シンセサイザ回路18から供給された局部発振信号D10を乗算することによって増幅RF信号D8をダウンコンバートし、例えば1.023MHz程度の所定の周波数FIFを有するIF信号Dllを生成する。このIF信号Dllは、増幅器20に供給される。
【0052】
増幅器20は、乗算器19によってダウンコンバートされたIF信号Dllを増幅する。増幅器20は、増幅した増幅IF信号D12をLPF21に供給する。LPF21は、増幅器20によって増幅された増幅IF信号D12のうち所定の周波数よりも低帯域成分を通過させる。このLPF21を通過した増幅IF信号D13は、A/D変換器22に供給される。
【0053】
A/D変換器22は、LPF21を通過したアナログ形式の増幅IF信号D13をデジタル形式の増幅IF信号D14に変換する。このA/D変換器22によって変換された増幅IF信号D14は、1ビットずつ同期捕捉部24および同期保持部25に供給される。
【0054】
なお、GPS受信機10においては、上述の各部のうち、LNA15,17,20,BPF16、周波数シンセサイザ回路18、乗算器19、LPF21およびA/D変換器22は、アンテナ14によって受信された1575.42MHzの高い周波数を有する受信RF信号D5を、デジタル信号処理しやすいように、例えば1.023MHz程度の低い周波数FIFを有する増幅IF信号D14にダウンコンバートする周波数変換部23として構成される。
【0055】
さらに、GPS受信機10は、自己が発生する拡散符号とA/D変換器22から供給される増幅IF信号D14における拡散符号との同期捕捉および増幅IF信号D14におけるキャリア周波数の検出を行なう同期捕捉部24と、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14における拡散符号とキャリアとの同期保持およびメッセージの復調を行なう同期保持部25と、各部を統括的に制御して各種演算処理を行なうCPU26と、XO11から供給される発振信号D1に基づいて時間を計測するRTC回路27と、CPU26の内部時計としてのタイマ28と、RAM(Random Access Memory) やROM(Read Only Memory)等からなるメモリ29とを備える。
【0056】
同期捕捉部24は、CPU26の制御のもとに、逓倍/分周器13から供給される発振信号D4に基づいて、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14における拡散符号の同期捕捉を行なうとともに、増幅IF信号D14におけるキャリア周波数の検出を行なう。このとき、同期捕捉部24は、粗い精度での同期捕捉を行なう。同期捕捉部24は、検出したGPS衛星を識別するための衛星番号、拡散符号の位相およびキャリア周波数を同期保持部25およびCPU26に供給する。
【0057】
同期保持部25は、CPU26の制御のもとに、逓倍/分周器13から供給される発振信号D4に基づいて、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14における拡散符号とキャリアとの同期保持を行なうとともに、増幅IF信号D14に含まれる航法メッセージの復調を行なう。このとき、同期保持部25は、同期捕捉部24から供給される衛星番号、拡散符号の位相およびキャリア周波数を初期値として動作を開始する。
【0058】
同期保持部25は、複数のGPS衛星からの増幅IF信号D14についての同期保持を並列的に行い、検出した拡散符号の位相、キャリア周波数および航法メッセージをCPU26に供給する。
【0059】
CPU26は、同期保持部25から供給される拡散符号の位相、キャリア周波数および航法メッセージを取得し、これらの各種情報に基づいて、自己の3次元位置の算出処理および3次元速度の算出処理や、当該GPS受信機10の時間情報を補正する処理などの各種演算処理を行なう。また、CPU26は、当該GPS受信機10の各部および各種ぺリフェラル(周辺機器)、並びに外部との入出力に関する制御を統括的に行なう。
【0060】
RTC回路27は、XO11から供給される発振信号D1に基づいて、時間を計測する。このRTC回路27によって計測される時間情報は、GPS衛星の正確な時間情報が得られるまでの間に代用されるものであって、GPS衛星の正確な時間情報を得たCPU26がXO11を制御することによって適宜補正される。
【0061】
タイマ28は、CPU26の内部時計として機能するものであり、各部の動作に必要となる各種タイミング信号の生成および時間参照に用いられる。例えば、GPS受信機10においては、同期捕捉部24が同期捕捉した拡散符号の位相に合わせて同期保持部25が内部に持つ拡散符号発生器の動作を開始させるタイミングを、このタイマ28によって参照する。
【0062】
RAMやROM等からなるメモリ29においては、CPU26等による各種処理を行なう際のワークエリアとしてRAMが用いられる。入力した各種データをバッファリングする際や、同期保持部25より得られた衛星の軌道情報であるエフェメリスおよびアルマナック、演算過程で生成される中間データおよび演算結果データを保持する際にも、このメモリ29のRAMが用いられる。
【0063】
また、メモリ29においては、各種プログラムや固定データ等を記憶する手段としてROMが用いられる。また、メモリ29においては、GPS受信機10の電源が切られている間であっても、衛星の軌道情報であるエフェメリスおよびアルマナックおよび測位結果の位置情報、TCXO12の誤差量などを記憶する手段として不揮発メモリが用いられる場合がある。
【0064】
なお、GPS受信機10においては、これらの同期捕捉部24、同期保持部25、CPU26、RTC回路27、タイマ28、メモリ29は、ベースバンド処理部として構成される。
【0065】
このような各部を備えるGPS受信器10においては、少なくとも、XO11、TCXO12、アンテナ14、LNA15、およびBPF16を除く各部を、集積回路化した1チップからなる復調回路30として構成することができる。
【0066】
[同期捕捉部24と同期保持部25の構成]
この実施形態では、後述するように、同期捕捉部24では、周波数変換部23からのIFデータの所定時間分をメモリに取り込み、このメモリに取り込んだIFデータについて、GPS衛星信号の衛星PN符号と、個々のGPS衛星の衛星PN符号に対応するGPS受信機が持つレプリカPN符号との相関演算を行って、拡散符号の位相同期捕捉を行なう。
【0067】
拡散符号の位相同期捕捉に関しては、上述のようなスライディング相関の手法を用いることなく、スペクトラム拡散信号の同期捕捉を高速に行なう方法として、マッチドフィルタを用いる方法がある。
【0068】
マッチドフィルタは、トランスバーサルフィルタにより、デジタル的に実現可能である。また、近年は、DSP(Digital Signal Processor)に代表されるハードウエアの能力の向上によって、高速フーリエ変換(以下、FFT(Fast Fourier Transform)という)処理を用いたデジタルマッチドフィルタにより、拡散符号の同期を高速に行なう手法が実現している。ただし、デジタルマッチドフィルタそのものは、拡散符号の同期を保持する機能を有しない。
【0069】
後者のFFT処理を用いる方法は、古くから知られる相関計算の高速化方法に基づいており、受信機側のレプリカPN符号と、衛星PN符号との間に相関がある場合には、後述する図5に示すような相関のピークが検出され、ピークの位置が衛星PN符号の先頭の位相である。したがって、この相関のピークを検出することで、衛星PN符号の同期を捕捉、すなわち、GPS衛星の受信信号における衛星PN符号の位相を検出することができる。
【0070】
GPS衛星からの受信信号のキャリア(中間周波数)は、FFTを利用した方法で、FFTの周波数領域での操作により、衛星PN符号の位相とともに検出することができる。衛星PN符号の位相は、疑似距離に換算され、4個以上の衛星について検出されれば、GPS受信機の位置を計算することができる。また、キャリア周波数が検出されると、ドップラーシフト量が判り、これにより、GPS受信機の速度が計算できる。
【0071】
以上のことから、この実施形態では、高速フーリエ変換(以下、FFT(Fast Fourier Transform)という)処理を用いたデジタルマッチドフィルタによりPN符号についての相関計算を行い、その相関計算に基づいて同期捕捉処理を高速に行なう。
【0072】
アンテナ14で受信されるGPS衛星信号には、複数のGPS衛星からの信号が含まれているが、同期捕捉部24では、すべてのGPS衛星についてのレプリカPN符号の情報を用意しており、その用意されているレプリカPN符号の情報を用いて、その時点でGPS受信機が利用可能な複数個のGPS衛星信号の衛星PN符号との相関を計算することにより、それらの複数個のGPS衛星信号の同期捕捉をすることが可能である。
【0073】
同期捕捉部24では、いずれのGPS衛星用のレプリカPN符号の情報を用いて同期捕捉したかにより、いずれのGPS衛星からの信号の同期捕捉をしたかを検知する。当該同期捕捉したGPS衛星の識別子としては、例えばGPS衛星番号が用いられる。
【0074】
そして、同期捕捉部24は、同期捕捉したGPS衛星の衛星番号の情報と、同期捕捉により検出した衛星PN符号の位相の情報と、IFキャリア周波数の情報と、また、必要に応じて、相関の度合いを示す相関検出信号からなる信号強度の情報を、同期保持部25に渡すようにする。
【0075】
同期捕捉部24で検出した衛星番号、衛星PN符号の位相、IFキャリア周波数、信号強度の情報を、同期保持部25へ渡す方法としては、データのフォーマット、割り込みの方法等を決めた上で、同期捕捉部24から同期保持部25へ直接渡す方法と、CPU26を介して渡す方法とがある。
【0076】
前者の場合には、同期捕捉部24のDSPで、同期保持部25に渡す情報を生成する。あるいは、同期保持部25に、例えばDSPで構成される制御部を設け、その制御部で、同期捕捉部24からの情報に基づいて、同期保持部25で必要な情報を生成する構成とする。
【0077】
また、後者の場合には、CPU26が制御し、CPU26を介して情報の受け渡し、またCPU26から同期捕捉部24および同期保持部25の制御を行なうことができるので、後述する衛星PN符号についての位相補正や、同期捕捉部24と同期保持部25の状況に応じた多様な同期手順を設定しやすくなる。
【0078】
そこで、以下に説明する実施形態では、同期捕捉部24から、衛星番号、衛星PN符号の位相、IFキャリア周波数、信号強度の情報を、同期保持部25へ渡す方法としては、CPU26を介して渡す方法を採用している。
【0079】
[同期捕捉部24の構成]
図3は、同期捕捉部24の構成例を示すものであって、この例では、サンプリング回路241と、データバッファ用のRAM(Random Access Memory)242と、DSP(Digital Signal Processor)243と、プログラムROM(Read Only Memory)と、ワークエリア用のRAMとからなるDSP243用のメモリ部244とを備えて構成される。DSP243およびDSP用のメモリ部244とは、CPU26に接続されている。
【0080】
サンプリング回路241では、周波数変換部23からの1.023MHzのIFデータを、その2倍以上の所定の周波数でサンプリングし、各サンプリング値をRAM242に書き込む。RAM242は、所定時間長分のIFデータを記憶する容量を有する。DSP243では、このRAM242の容量分の時間長のIFデータ単位に同期捕捉処理を行なう。
【0081】
すなわち、この例では、DSP243は、RAM242に取り込んだIFデータについて、高速フーリエ変換(以下、FFT(Fast Fourier Transform)という)処理を用いたデジタルマッチドフィルタにより、衛星PN符号の同期捕捉を高速に行なう。そして、DSP243は、その同期捕捉の結果として、同期捕捉したGPS衛星番号と、同期捕捉したGPS衛星信号の衛星PN符号の位相およびそのIFキャリア周波数とを検出する。
【0082】
サンプリング回路241におけるサンプリング周波数により、衛星PN符号の位相の検出精度が決まる。このサンプリング周波数は、サンプリング定理からIF信号に含まれる最大周波数の2倍以上である必要があり、IFキャリア周波数の整数倍の周波数が望ましい。
【0083】
また、RAM242の容量により決まるDSP243での処理単位の時間長により、IFキャリア周波数の検出精度が決まる。このDSP243での処理単位の時間長は、PN符号の1周期の整数倍、後述のように、特に2のべき乗倍が望ましい。
【0084】
ここで、サンプリング回路241でのサンプリング周波数を、拡散符号のチップレートのα倍、RAM242に取り込むIFデータの時間長をPN符号の1周期のβ倍(βミリ秒)とすると、DSP243では、FFTの周波数領域での操作により、衛星PN符号の位相は1/αチップの精度で検出することができ、IFキャリア周波数は、1/βkHz(±1/2βkHz)の精度で検出することができる。
【0085】
次に、DSP243におけるFFTを用いたデジタルマッチドフィルタによる同期捕捉のいくつかの例について詳述する。
【0086】
〔デジタルマッチドフィルタによる同期捕捉の例〕
この例においては、サンプリング回路241でのサンプリング周波数は、拡散符号のチップレートのほぼ4倍の4倍の4.096MHzとされる。そして、RAM242には、PN符号の1周期分(1ミリ秒)である4096サンプル点のデータを記憶する。DSP243は、このRAM242に取り込まれた1ミリ秒単位のデータについて、GPS衛星信号の衛星PN符号とGPS受信機のレプリカPN符号との相関を、FFTを用いた相関演算により計算して、同期捕捉を行なう。PN符号の1周期分は、1023チップであるから、1/4チップの精度で衛星PN符号の位相検出が可能となる。また、IFキャリア周波数の検出精度は、1ミリ秒単位のFFT処理であるので、1kHzである。
【0087】
この例では、図4に示すように、DSP243では、RAM242に書き込まれた1ミリ秒単位のIFデータを読み出して、FFT処理部101でFFT処理し、そのFFT結果をメモリ102に書き込む。そして、メモリ102から読み出した受信信号のFFT結果は、乗算部103に供給する。
【0088】
一方、PN符号発生部104から、GPS衛星からの受信信号に使用されているPN符号と同じ系列と考えられるレプリカPN符号を発生させる。実際的には、PN符号発生部104からは、予め用意されている複数個のGPS衛星に対するレプリカPN符号が順次に切り換えられて出力されることになる。
【0089】
このPN符号発生部104からの1周期分(1023チップ)のレプリカPN符号は、FFT処理部105に供給されてFFT処理され、その処理結果がメモリ106に供給される。このメモリ106からは、通常の場合と同様に、FFT結果が低い周波数から順に読み出されて乗算部103に供給される。
【0090】
乗算部103では、メモリ102からの受信信号のFFT結果と、メモリ106からのレプリカPN符号のFFT結果とが乗算され、周波数領域における受信信号の衛星PN符号とレプリカPN符号との相関の度合いが演算される。ここで、乗算部105での乗算は、受信信号の離散フーリエ変換結果と、レプリカPN符号の離散フーリエ変換結果とのどちらか一方の複素共役と他方とを乗算する演算となる。そして、その乗算結果は逆FFT処理部107に供給されて、周波数領域の信号が時間領域の信号に戻される。
【0091】
逆FFT処理部107から得られる逆FFT結果は、受信信号の衛星PN符号とレプリカPN符号との時間領域における相関検出信号となっている。この相関検出信号は、相関点検出部108に供給される。
【0092】
この相関検出信号は、拡散符号の1周期分の各チップ位相における相関値を示すものとなっており、所定の強度以上である受信信号中の拡散符号と、拡散符号発生部104からの拡散符号とが同期している位相(拡散符号の1周期分単位の位相)においては、図5に示すように、1023チップのうちのある一つの位相での相関値が、予め定められるスレッショールド値を超えるようなピーク値を示す相関波形が得られる。このピーク値の立つチップ位相が、相関点の位相であり、GPS受信機側のレプリカPN符号に対するGPS衛星信号の衛星PN符号の1周期の先頭の位相となる。
【0093】
一方、受信信号が所定の強度以下である場合、受信信号中の拡散符号と、拡散符号発生部104からの拡散符号とが同期しても、図5のようなピーク値が立つ相関波形は得られず、いずれのチップ位相においても、予め定められるスレッショールド値を超えるようなピークは立たない。
【0094】
相関点検出部108は、例えば、予め定めた値を超えるピーク値が、この相関点検出部108に供給される相関検出信号に存在するかどうかにより、受信信号の衛星PN符号とレプリカPN符号との同期が取れたかどうかを検出する。
【0095】
相関点検出部108で同期が取れたことを検出した場合には、前記ピーク値の位相を相関点、つまり、GPS衛星信号の衛星PN符号の位相として検出する。そして、DSP243は、そのときのPN符号発生部104からのレプリカPN符号がいずれのGPS衛星用のものであるかにより、GPS衛星番号を認識する。
【0096】
また、図5に示した相関検出信号は時間領域のものであるが、後述する処理により中間周波受信信号におけるキャリア成分を正しく除去した場合にのみ相関のピークが検出される。
【0097】
そして、除去を行ったキャリア成分の周波数が、前記の予め定めた値を超えるピーク値が立つ相関点に対応する、ドップラーシフト分を含めたIFキャリア周波数となる。したがって、このドップラーシフト分を含めたIFキャリア周波数が、相関点検出の結果としてDSP243において、検出される。
【0098】
以上のようにして、一つのGPS衛星についての同期捕捉が完了すると、この例では、PN符号発生部104から発生させるレプリカPN符号を他のGPS衛星信号の衛星PN符号に対応するものに変更して、上記の処理を繰り返す。また、同期が取れなかった場合にも、DSP243では、PN符号発生部104から発生させるレプリカPN符号を他のGPS衛星信号の衛星PN符号に対応するものに変更して、上記の処理を繰り返す。
【0099】
そして、DSP243では、サーチすべき全GPS衛星についての同期捕捉処理が終了したとき、あるいはCPU26からの情報により、例えば4個以上のGPS衛星についてのPN符号の同期が取れたときに、以上の同期捕捉処理を終了する。
【0100】
DSP243は、その同期捕捉の結果として検出した、同期捕捉したGPS衛星番号と、同期捕捉したGPS衛星信号の衛星PN符号の位相およびそのIFキャリア周波数とからなる情報を、CPU26に供給する。また、この例では、DSP243は、同期捕捉した各GPS衛星信号についての相関点のピーク値をも、CPU26に供給するようにしている。
【0101】
以上の説明では、受信信号のキャリアの処理を考慮していないが、実際には、受信信号は、キャリアを含んでいる。そして、受信信号から、データを得るためには、PN符号とキャリアとの同期をとってキャリア成分を除去する必要がある。
【0102】
この実施の形態では、FFTによる周波数領域での処理のみの簡単な構成により、PN符号とキャリア(IFキャリア)との同期をとってキャリア成分を除去することができるようにしている。
【0103】
すなわち、FFT処理部101から得られるGPS衛星からの受信信号のFFT結果は、通常は、受信信号の周波数成分の周波数が低いものから順にメモリ102から読み出されて、乗算部103に供給されるが、この実施の形態では、メモリ102からは、読み出しアドレス制御部109からの制御に従って、読み出しアドレスがシフト制御されて、順次、受信信号のFFT結果が読み出される。
【0104】
読み出しアドレス制御部109には、受信信号を得たGPS衛星についてのドップラーシフト量を正確に見積もることができ、かつ、GPS受信機内部の発振周波数および時間情報を正確に校正された状態において検出された受信信号のキャリア周波数の情報が得られれば、そのキャリア周波数(IFキャリア周波数)の情報が供給される。
【0105】
このIFキャリア周波数の情報は、前述したように、4個以上のGPS衛星からの受信信号が同期保持されていて、安定的に受信機位置が測定されているときには、受信機速度の算出に伴ってほぼ正確に求められるので、当該算出されたIFキャリアの情報が用いられる。また、IFキャリア周波数の情報は、GPS受信機外部から取得するようにすることもできる。
【0106】
そして、読み出しアドレス制御部109は、GPS受信機内部で生成した、あるいは外部から取得したキャリア周波数の情報に基づいて、そのキャリア周波数分だけ、読み出しアドレスをシフトして、メモリ102から受信信号のFFT結果を、順次、読み出し、乗算部103に供給するようにする。
【0107】
このように受信信号のFFT結果を、メモリ102から、受信信号のキャリア周波数分だけシフトして読み出すことにより、後述するように、キャリア成分を除去した受信信号のFFT結果と等価なFFT結果を得ることができ、そのキャリア成分を除去したFFT結果と、PN符号の1周期分のFFT結果との乗算結果を逆拡散することにより、確実に図5のように相関点でピークを生じる相関検出出力が得られる。
【0108】
[同期保持部25の構成]
複数のGPS衛星信号の同期保持を並列して行なうために、同期保持部25は、1つずつのGPS衛星信号を1チャンネルとして、複数チャンネル分を備える構成とされる。
【0109】
図6は、この実施形態における同期保持部25の構成例を示す。この同期保持部25は、nチャンネル分のチャンネル同期保持部40CH1、40CH2、・・・、40CHnと、コントロールレジスタ43とからなる。チャンネル同期保持部40CH1、40CH2、・・・、40CHnのそれぞれは、コスタスループ41とDLL(Delay Locked Loop)42とを備える。
【0110】
コントロールレジスタ43は、CPU26に接続され、後述するように、コスタスループ41やDLL42のループフィルタのパラメータや、フィルタ特性を定めるためのデータを受け取り、CPU26により指示されるチャンネルの、CPU26により指示される部位に、そのデータを設定するようにする。また、コントロールレジスタ43は、コスタスループ41やDLL42のループフィルタからの相関値情報や周波数情報を受け取り、CPU26からのアクセスに応じてそれらの情報をCPU26に渡すようにする。
【0111】
〔コスタスループ41と、DLL42の構成〕
図7はコスタスループ41の構成例を示すブロック図であり、また、図8は、DLL42の構成例を示すブロック図である。
【0112】
コスタスループ41は、IFキャリア周波数の同期保持、送信データである航法メッセージの抽出を行なう部分であり、DLL42は、GPS衛星信号の衛星PN符号の位相同期保持を行なう部分である。そして、コスタスループ41とDLL42とが協働し、GPS衛星信号についてスペクトラム逆拡散を行って、スペクトラム拡散前の信号を得るとともに、このスペクトラム拡散前の信号を復調して航法メッセージを得て、CPU26に供給する。以下、コスタスループ41とDLL42との動作について具体的に説明する。
【0113】
〔コスタスループ41について〕
周波数変換部23からのIFデータは、乗算器201に供給される。この乗算器201には、図8に示すDLL42のPN符号発生器320からのレプリカPN符号が供給される。
【0114】
DLL42のPN符号発生部320からは、一致(プロンプト)PN符号P、進み(アーリ)PN符号E、遅れ(レート)PN符号Lの、3つの位相のレプリカPN符号が発生する。DLL42では、後述するように、進みPN符号Eおよび遅れPN符号Lと、IFデータとの相関を計算し、それぞれの相関値が等しくなるように、PN符号発生器320からのレプリカPN符号の発生位相を制御し、これにより、一致PN符号Pの位相が、GPS衛星信号の衛星PN符号の位相と一致するようにする。
【0115】
コスタスループ41の逆拡散用の乗算器201には、PN符号発生器320からの一致PN符号Pが供給されて、逆拡散される。この乗算器201からの逆拡散されたIFデータは、乗算器202および203に供給される。
【0116】
コスタスループ41は、図7に示すように、乗算器202および203と、ローパスフィルタ204,205と、位相検出器206と、ループフィルタ207と、NCO(Numerical Controlled Oscillator;数値制御型発振器)208と、相関検出器209と、2値化回路210と、PN符号ロック判定部211と、スイッチ回路212と、IFキャリアロック判定部213とからなっている。
【0117】
ローパスフィルタ204,205のカットオフ周波数情報と、ループフィルタ207のフィルタ特性を定めるパラメータと、NCO208の発振中心周波数を定めるための周波数情報とは、後述するように、同期捕捉部24での同期捕捉結果に基づいて、CPU26からコントロールレジスタ43を通じて設定される。
【0118】
スイッチ回路212は、コスタスループ41のループを開閉制御するためのもので、CPU26からの切り換え制御信号によりオンオフされる。なお、同期保持動作がスタートする前の初期的な状態では、スイッチ回路212はオフとされ、ループ開の状態とされ、後述するように、同期保持動作がスタートして、コスタスループ41の相関検出器209の相関出力が有意なレベルとなったときに、このスイッチ回路212がオンとされて、ループ閉とされるようにされる。
【0119】
乗算器201において逆拡散された信号は、乗算器202、203に供給される。これら乗算器202,203には、CPU26からの周波数情報により、ほぼIFキャリア周波数にされたNCO208からの、直交位相のI(Cosine)信号と、Q(Sine)信号とが供給される。
【0120】
これら乗算器202および203の乗算結果は、ローパスフィルタ204および205を通じて位相検出器206に供給される。ローパスフィルタ204および205は、CPU26からのカットオフ周波数情報の供給を受け、これに供給された信号の帯域外ノイズを除去するものである。
【0121】
位相検出器206は、ローパスフィルタ204および205からの信号に基づいて、IFキャリアとNCO208からの周波数信号との位相誤差を検出し、この位相誤差をループフィルタ207を介してNCO208に供給する。これによりNCO208が制御されて、NCO208からの出力周波数信号の位相が、IFキャリア成分に同期するようにされる。
【0122】
なお、ループフィルタ207は、CPU26から供給されるパラメータに応じて、位相検出器206からの位相誤差情報を積分して、NCO208を制御するNCO制御信号を形成するものである。NCO208は、ループフィルタ207からのNCO制御信号によって、前述したように、NCO208からの出力周波数信号の位相が、IFキャリア成分に同期するようにされる。
【0123】
また、コスタスループ41のローパスフィルタ204および205の出力は、相関検出器209に供給される。相関検出器209は、これに供給されるローパスフィルタ204および205の出力信号をそれぞれ自乗して加算して出力する。この相関検出器209の出力は、IFデータとPN符号発生器320からの一致PN符号Pとの相関値CV(P)示すものである。この相関値CV(P)は、コントロールレジスタ43を通じてCPU26に渡される。
【0124】
そして、ローパスフィルタ204の出力信号は2値化回路210に供給されており、この2値化回路210より航法メッセージデータが出力される。
【0125】
また、相関検出器209からの相関値CV(P)出力は、PN符号ロック判定部211に供給される。PN符号ロック判定部211は、相関値CV(P)出力と、予め定められているスレッショールド値とを比較し、相関値CV(P)出力がスレッショールド値よりも大きいときには、同期保持がロック状態であることを示し、相関値CV(P)出力がスレッショールド値よりも小さいときには、同期保持がアンロック状態であることを示すPN符号ロック判定出力を出力する。
【0126】
この実施形態では、このPN符号ロック判定出力はCPU26に送られ、CPU26は、このPN符号ロック判定出力から、同期保持部25におけるPN符号のロック状態、アンロック状態を認識するようにする。CPU26は、このPN符号ロック判定出力からは、PN符号の同期が保持されていることのみを判定する。したがって、CPU26は、このPN符号ロック判定出力からでは、PN符号の同期は取れているが、IFキャリアのロックが外れた状態の検知は行なわない。CPU26は、IFキャリアロック判定部213の出力から、IFキャリアの周波数ロックは外れたか否かの判定を行なう。
【0127】
IFキャリアロック判定部213には、ローパスフィルタ204および205の出力は供給される。このIFキャリアロック判定部213では、ローパスフィルタ204および205の出力の絶対値の比を求め、その比の値が予め定めたスレッショールド値以上であるときには、IFキャリアの同期がロック状態であることを示し、そうでなかったときには、IFキャリアの同期が外れた状態(アンロック状態)であることを示すIFキャリアロック判定出力を出力する。
【0128】
すなわち、IFキャリアロック判定出力は、ローパスフィルタ204の出力をIo、ローパスフィルタ205の出力をQoとし、前記スレッショールド値をthとしたとき、
|Io|/|Qo|>th
であるときにはロック状態、そうでなければ、アンロック状態を示すものとなる。
【0129】
この実施形態では、このIFキャリアロック判定出力はCPU26に送られる。CPU26は、このIFキャリアロック判定出力から、IFキャリアについてのロック状態、アンロック状態を認識するようにする。
【0130】
〔DLL42について〕
図8に示すように、DLL42においては、周波数変換部23からのIFデータは、乗算器301および311に供給される。そして、乗算器301には、PN符号発生器320からの進みPN符号Eが供給され、また、乗算器311には、PN符号発生器320からの遅れPN符号Lが供給される。
【0131】
乗算器301は、IFデータと進みPN符号Eとを乗算することにより、スペクトラム逆拡散を行い、この逆拡散がなされた信号を乗算器302、303に供給する。そして、乗算器302には、前述のコスタスループ41のNCO208からのI信号が供給され、乗算器303には、NCO208からのQ信号が供給される。
【0132】
乗算器302は、逆拡散されたIFデータとNCO208からのI信号とを乗算し、その結果をローパスフィルタ304を通じて相関検出器306に供給する。同様に、乗算器303は、逆拡散されたIFデータとNCO208からのQ信号とを乗算し、その結果をローパスフィルタ305を通じて相関検出器306に供給する。
【0133】
なお、ローパスフィルタ304、305は、コスタスループ41のローパスフィルタ204,205と同様に、CPU26からのカットオフ周波数情報の供給を受け、これに供給された信号の帯域外ノイズを除去するものである。
【0134】
相関検出器306は、これに供給されるローパスフィルタ304,305からの出力信号をそれぞれ自乗して加算して出力する。この相関検出器306からの出力は、IFデータと、PN符号発生器320からの進みPN符号Eとの相関値CV(E)示すものである。この相関値CV(E)は、位相検出器321に供給されるとともに、コントロールレジスタ43に格納され、CPU26が用いることができるようにされる。
【0135】
同様に、乗算器311は、IFデータと遅れPN符号Lとを乗算することにより、スペクトラム逆拡散を行い、この逆拡散がなされた信号を乗算器312、313に供給する。乗算器312には、前述したように、NCO208からのI信号が供給され、乗算器313には、NCO208からのQ信号が供給される。
【0136】
乗算器312は、逆拡散されたIFデータとNCO208からのI信号とを乗算し、その結果をローパスフィルタ314を通じて相関検出器316に供給する。同様に、乗算器313は、逆拡散されたIFデータとNCO208からのQ信号とを乗算し、その結果をローパスフィルタ315を通じて相関検出器316に供給する。ローパスフィルタ314、315は、前述のローパスフィルタ304、305と同様に、CPU26からのカットオフ周波数情報の供給を受け、これに供給された信号の帯域外ノイズを除去するものである。
【0137】
相関検出器316は、これに供給されるローパスフィルタ314,315からの出力信号をそれぞれ自乗して加算し、その演算結果を出力する。この相関検出器316からの出力は、IFデータと、PN符号発生器320からの遅れPN符号Lとの相関値CV(L)を示すものである。この相関値CV(L)は、位相検出器321に供給されるとともに、コントロールレジスタ43に格納され、CPU26が用いることができるようにされる。
【0138】
位相検出器321は、相関検出器306からの相関値CV(E)と、相関検出器316からの相関値CV(L)との差分として、一致PN符号PとGPS衛星信号の衛星PN符号との位相差を検出し、その位相差に応じた信号をループフィルタ322を介してNCO323の数値制御信号として供給する。
【0139】
PN符号発生器320には、このNCO(Numerical Controlled Oscillator;数値制御型発振器)323の出力信号が供給されており、このNCO323の出力周波数が制御されることにより、PN符号発生器320からのPN符号の発生位相が制御される。
【0140】
なお、NCO323は、後述するように、同期捕捉部24の同期捕捉結果に応じたCPU26からの初期発振周波数を制御する周波数情報の供給を受ける。
【0141】
以上のDLL42におけるループ制御により、NCO323が制御されて、PN符号発生器320は、相関値CV(E)と相関値CV(L)とが同じレベルとなるように、PN符号P、E,Lの発生位相を制御する。これにより、PN符号発生器320から発生する一致PN符号Pが、IFデータをスペクトラム拡散しているPN符号と位相同期するようにされ、この結果、一致PN符号PによりIFデータが正確に逆スペクトラム拡散され、コスタスループ41において、2値化回路210から航法メッセージデータが復調されて出力される。
【0142】
そして、その航法メッセージデータの復調出力は、図示しないデータ復調回路に供給されてCPU26で使用可能なデータに復調された後、CPU26に供給される。CPU26では、航法メッセージデータは、測位計算に用いられ、また、適宜、軌道情報(アルマナック情報やエフェメリス情報)が抽出されて、メモリ29に格納される。
【0143】
なお、DLL42のループフィルタ322は、前述したコスタスループ41のループフィルタ207と同様に、CPU26から供給されるパラメータに基づいて、位相検出器321からの位相誤差情報を積分して、NCO323を制御するNCO制御信号を形成するものである。
【0144】
DLL42においても、ループフィルタ322と、NCO323との間に、ループの開閉制御用のスイッチ回路324が設けられ、CPU26からの切り換え制御信号によりオンオフされる。
【0145】
なお、同期保持動作がスタートする前の初期的な状態では、スイッチ回路324はオフとされ、ループ開の状態とされ、後述するように、同期保持動作がスタートして、コスタスループの相関検出器209の相関出力が有意なレベルとなったときに、このスイッチ回路324がオンとされて、ループ閉とされるようにされる。
【0146】
[位置算出および速度算出動作]
以上のように構成されているGPS受信機10においては、少なくとも4個のGPS衛星からのRF信号を受信して、このRF信号を周波数変換部23によってIF信号に変換した後、同期捕捉部24によって拡散符号の同期捕捉およびキャリア周波数の検出を行い、同期保持部25によって拡散符号とキャリアとの同期保持および航法メッセージの復調を行なう。
【0147】
そして、GPS受信機10は、拡散符号の位相、キャリア周波数および航法メッセージに基づいて、CPU26によって、自己の3次元位置および自己の3次元速度を算出する。
【0148】
この自受信機位置および自受信機速度の算出の実行に先立ち、GPS受信機10においては、自受信機位置および自受信機速度を算出するのに必要な衛星群の決定し、当該決定した衛星群の衛星からの受信信号を用いて測位計算および速度計算したときの精度誤差を求め、当該精度誤差が要求する精度誤差以下であるときに実際の測位計算および速度計算を実行するようにする。
【0149】
この場合に、この実施形態においては、従来と異なり、受信機位置の算出に用いる衛星の集合と、受信機速度の算出に用いる衛星の集合とは、別々に決定する。
【0150】
すなわち、位置算出用衛星の集合Pは、
・軌道情報が既知である
・拡散符号の発信時刻が既知である
という位置計算可能条件を満たすものとして決定する。
【0151】
また、速度算出用衛星の集合Vは、
・軌道情報が既知である
・キャリア周波数が安定に既知である
という速度計算可能条件を満たすものとして決定する。
【0152】
そして、この実施形態は、位置計算可能条件を満たす衛星の集合Pに含まれる全ての衛星を受信機位置算出に用いることにする。このため、この実施形態においては、仮に速度計算可能条件を満たす衛星の集合Vが|V|<3であっても、少なくとも受信機位置を算出することが可能となる。
【0153】
つまり、従来であれば位置計算ができないような状況でも位置計算が可能となる場合があり、位置測位率の向上に寄与する。また、従来よりも位置計算に使用する衛星数が増える可能性があるので(|P|≧|P∩V|) 、位置精度の向上にも寄与する。
【0154】
ところで、実際には、GPS受信機においては、位置計算可能条件および速度計算可能条件などを満たす衛星が4個以上あれば、常に位置計算および速度計算を行ない、その結果を出力する、というわけではない。GPS受信機では、測位精度を悪化させないために、衛星の幾何学的配置上、計算誤差が大きくなると予想される場合には、測位計算を行なわない、という判断を内部で行なっている。この場合に、精度指標としては、DOP(Di1ution of Precision)が一般に用いられている。
【0155】
そして、GPS受信機では、求めたDOPが、予め定められた閾値(DOP閾値)より大きい場合は、計算誤差が大きいとみなし、測位計算を行わない。DOPの値はGPS受信機に対する衛星の配置により定まる。また、DOPの性質として衛星の個数を順次増やしていけば、DOPの値は小さくなる傾向にある。
【0156】
なお、DOPには、3次元位置と時刻を加味したGDOP(Geometrical DOP)、3次元位置のみを加味したPDOP(Position DOP)等、幾何学的な意味に対応したDOPが定義されている。以下では、特に明記しない場合は、DOPはPDOPであるとしている。
【0157】
このPDOPの値は、例えば次のようにして求めることができる。先ず、測位計算に用いる衛星の位置座標およびGPS受信機の位置座標により図9の(式1)に示すような行列Aを定める。
【0158】
次に、図9に示すように、行列Aの転置行列と行列Aとの積の逆行列として、行例Bを定め、当該行列Bの対角要素を、図9(式2)〜(式5)に示すように定めたとき、PDOPを、図9の(式6)により求めるようにすることができる。
【0159】
この実施形態では、前述のように、位置計算に使用する衛星の集合Pと速度計算に使用する衛星の集合Vが異なることから、位置計算衛星に関するDOP (位置用DOP) と速度計算衛星に関するDOP (速度用DOP) の2種類のDOPを算出するようにする。ここで、位置用DOPおよび速度用DOPは、前述したように、いずれも図9に示したPDOPであるが、ここでは、算出対象となる衛星の集合がPとVとで異なることになる。
【0160】
そして、前述のように、位置計算可能条件を満たす衛星の集合をP、速度計算可能条件を満たす衛星の集合をVとしたとき、受信機位置算出に用いる衛星をP、受信機速度算出に用いる衛星をP∩Vと定めれば、|P|≧|P∩V|となるため、位置DOPをDp、速度DOPをDvとすると、測位に用いる衛星数が位置DOPの場合の方が多いために、Dp≦Dvとなる。
【0161】
従来は、常にDp=Dvであるため、DOP閾値は、位置用DOPと速度用DOPとで共通の閾値Lである。
【0162】
これに対して、この実施形態のように、Dp≦Dvとなる状況において、Dv≦Lであれば、常にDp<Lとなり、測位精度がある程度保証された受信機位置および受信機速度を得ることができる。
【0163】
一方、Dp≦L<Dvのような場合は、位置の測位精度は、ある程度保証されるが、速度の測位精度は保証されない、ということを意味する。この範囲では、受信機位置のみを算出することができる。
【0164】
ここで、受信機位置のみを算出する精度条件を緩和すれば、受信機位置と受信機速度が共に得られる場合の測位精度を、従来の程度に保ちつつ、受信機位置のみを算出する機会を増加させることにより、従来であれば衛星配置が悪い、すなわち、位置用DOPが大きい(Dp>L)ために、受信機位置が求まらないような状況でも、受信機の概略位置を得ることができる。
【0165】
受信機位置のみを算出する条件を緩和するために、この実施形態では、DOP閾値を、位置用DOPと速度用DOPとで別々に定めることとする。すなわち、位置用DOP閾値Lpと速度用DOP閾値Lvを別々に設け、Lp≧Lv=Lとする。
【0166】
以上により、Dv≦Lvの場合は、Dp≦Lv≦Lpも満たすため、受信機位置と受信機速度の測位精度を、従来と同程度に保つことができる。
【0167】
一方、Dv>Lv、かつ、Dp≦Lpの場合は、受信機速度の精度は悪いために当該受信機速度の算出は行なわないが、受信機位置については、測位精度が位置用DOP閾値Lpにより定まる範囲にあると予想されるため、受信機の概略位置として外部に出力する。これにより、この実施形態では、従来は速度計算ができないため非測位であるような状況であっても、ユーザに対して受信機の概略位置を通知することができる。
【0168】
以下に、以上説明した、自受信機位置および自受信機速度を算出するのに必要な衛星の決定から、実際に受信機位置の計算および受信機速度の計算の実行(または計算を実行しない)までの手順(測位実行判定処理手順と呼ぶ)を、図10および図11のフローチャートを参照しながら説明する。
【0169】
先ず、CPU26は、同期保持部25で同期保持されている複数の衛星のうち、拡散符号の発信時刻が既知であり、かつ、軌道情報も既知である衛星の集合を求め、この集合を位置算出用衛星の集合Pとする(ステップS1)。ここで、「軌道情報が既知である」ことは、メモリ29に、対象となる衛星の軌道情報が格納されていれば、その条件を満足することになる。
【0170】
次に、CPU26は、同期保持部25で同期保持されている衛星のうち、同期保持部25からキャリア周波数の情報を得ることができ(すなわち、安定にキャリア周波数の情報の情報を得ることができ)、かつ、軌道情報も既知である衛星の集合を求め、この集合を速度算出用衛星の集合Vとする(ステップS2)。
【0171】
次に、CPU26は、集合Pの要素数(衛星数)が4個以上であるか否か判別する(ステップS3)。集合Pの要素数が4未満であるときには、3次元位置の算出はできないので、この例では、CPU26は、測位失敗の旨の出力信号を出力する(ステップS9)。
【0172】
一方、ステップS3で、集合Pの要素数が4個以上であるときには、3次元位置の算出が可能であるが、実際に測位計算を実行するかどうかは、前述したように、計算誤差の指標となる位置用DOPを求め、予め定められてメモリ29に格納されている位置用DOP閾値Lpと比較することにより判定する。
【0173】
ここで、位置用DOPを求めるためには、前述のように、GPS受信機10の概略位置と、計算に使用する全ての衛星の位置の情報が必要である。受信機10の概略位置は、メモリ29に格納されている、前回の測位計算により求められた位置の情報を用いることとする。
【0174】
そこで、CPU26は、前回、測位に成功し、メモリ29に受信機10の位置情報が格納されていて、受信機位置が既知であるか否か判別する(ステップS4)。このステップS4で、受信機位置が既知であると判別したときには、CPU26は、前述の図9に示した演算式を用いて、集合Pに関するPDOPであるDpを求める(ステップS5)。そして、求めたDpと、メモリ29に格納されているDpに関する閾値Lpとを比較し、Dp≦Lpを満足するか否か判別する(ステップS6)。
【0175】
ステップS6で、Dp>Lpであると判別したときには、CPU26は、計算誤差が大きいと予測されるために、3次元位置の算出を行わず、測位失敗の旨の出力信号を出力する(ステップS9)。
【0176】
また、ステップS6で、Dp≦Lpを満足すると判別したときには、集合Pの衛星を用いてGPS受信機10の3次元位置の算出を実行する(ステップS7)。また、ステップS4で、メモリ29にGPS受信機の位置情報が格納されておらず、GPS受信機10の概略位置が不明である場合には、位置用DOPの算出ができないため、このステップS7に進んで、GPS受信機10の3次元位置の算出を行なう。
【0177】
そして、CPU26は、3次元位置の算出演算において実際に受信機位置が求まったか否か判別する(ステップS8)。3次元位置算出の過程で解が収束しないなどの理由で解が求まらなかった場合は、CPU26は、このステップS8で受信機位置が求まらないと判別し、3次元位置算出処理を中止して、測位失敗の旨の出力信号を出力する(ステップS9)。そして、ステップS9の後は、この測位処理ルーチンを終了する。
【0178】
そして、ステップS8で、GPS受信機10の3次元位置の算出に成功したと判別した場合は、CPU26は、GPS受信機10の3次元速度の算出を試みる。すなわち、CPU26は、集合P∩Vの要素数、すなわち、速度算出用衛星の集合に含まれる衛星数が4個以上であるか否か判別する(図11のステップS11)。
【0179】
ステップS11で、集合P∩Vの要素数が4個未満であると判別したときには、CPU26は、ステップS7で算出した受信機位置を、GPS受信機10の概略位置として出力する(ステップS18)。つまり、受信機速度は算出することができなかったので、GPS受信機の概略位置の情報のみを出力する。このとき、出力される当該受信機位置情報は、概略位置であることを示すフラグなどの付加情報を合わせて出力するようにしても良い。ステップS18の後には、この処理ルーチンを終了する。
【0180】
集合P∩Vの要素数が4個以上であれば、GPS受信機10の3次元速度の算出が可能であるが、実際に3次元速度の算出を行なうかどうかは、受信機位置算出のときと同様に、計算誤差の大きさの指標となるDOPを求め、予め定められて、メモリ29に格納された速度用DOP閾値Lvと比較することにより判定する。
【0181】
ここで、速度用DOPを求めるためには、前述のように、GPS受信機10の概略位置と、計算に使用する全ての衛星の位置の情報が必要である。受信機の概略位置は、メモリ29に格納されている、前回の測位計算で求めた位置を用いることにする。P∩Vの条件より衛星位置も算出可能である。
【0182】
そこで、CPU26は、前回、測位に成功し、メモリ29に受信機10の位置情報が格納されていて、受信機位置が既知であるか否か判別する(ステップS12)。このステップS12で、受信機位置が既知であると判別したときには、CPU26は、前述の図9に示した演算式を用いて、集合Vに関するPDOPであるDvを求める(ステップS13)。そして、求めたDvと、メモリ29に格納されているDvに関する閾値Lvとを比較し、Dv≦Lvを満足するか否か判別する(ステップS14)。
【0183】
ステップS6で、Dv>Lvであると判別したときには、CPU26は、計算誤差が大きいと予測されるために、3次元速度の算出を行わず、ステップS7で算出した受信機位置を、GPS受信機10の概略位置として出力する(ステップS18)。
【0184】
また、ステップS14で、Dv≦Lvを満足すると判別したときには、集合Vの衛星を用いてGPS受信機10の3次元速度の算出を実行する(ステップS15)。また、ステップS12で、メモリ29にGPS受信機10の位置情報が格納されておらず、GPS受信機10の概略位置が不明である場合には、速度用DOPの算出ができないため、このステップS15に進んで、GPS受信機の3次元速度の算出を行なう。
【0185】
そして、CPU26は、3次元速度の算出演算において実際に受信機速度が求まったか否か判別する(ステップS16)。3次元速度算出の過程で解が収束しないなどの理由で解が求まらなかった場合は、CPU26は、このステップS16で受信機速度が求まらないと判別し、3次元速度算出処理を中止して、ステップS7で算出した受信機位置を、GPS受信機10の概略位置として出力する(ステップS18)。そして、ステップS18の後は、この測位処理ルーチンを終了する。
【0186】
そして、ステップS16で、GPS受信機10の3次元速度の算出に成功したと判別した場合は、CPU26は、ステップS7で求めたGPS受信機10の3次元位置の情報と、ステップS15で求めた3次元速度の情報とを出力する(ステップS17)。そして、この測位処理ルーチンを終了する。
【0187】
以上のような、測位処理ルーチンが行なわれた処理結果としては、
(1)受信機位置も受信機速度も求まった。
【0188】
(2)受信機位置のみ求まった。
【0189】
(3)受信機位置も受信機速度も求まらなかった。
【0190】
という3つの場合が想定される。
【0191】
上記(1)の場合は、CPU26は、求まった受信機位置、受信機速度の情報をメモリ29に格納すると共に、I/ Oを通じて外部に、それら求まった受信機位置、受信機速度の情報を、測位結果として出力する。
【0192】
上記(2)の場合は、CPU26は、求まった受信機位置の情報のみをメモリ29に格納すると共に、当該求まった受信機位置の情報を、受信機概略位置として、I/ Oを通じて外部に測位結果として出力する。そして、GPS受信機26は、受信機速度情報については、メモリ29には計算失敗を示す情報を記録し、外部に対しては計算失敗の旨を出力する。
【0193】
上記(3)の場合は、CPU26は、メモリ29には受信機位置および受信機速度の計算失敗すなわち測位失敗を示す情報を記録し、測位失敗の旨をI/ Oを通じて外部に出力する。
【0194】
以上説明したように、この実施形態のGPS受信機10によれば、従来においては受信機位置も受信機速度も得られない状況において、受信機位置を算出することができ、位置測位率の向上に寄与するという効果が得られる。また、受信機の電源を入れてから最初に測位が成功するまでの時間(TTFF;Time To First Fix)の短縮化に寄与する。
【0195】
[その他の実施形態]
以上の実施形態では、同期保持した衛星について、受信機位置算出用の集合Pと、受信機速度算出用の集合Vとを求めた後、それぞれの集合について、位置用DOPおよび速度用DOPを計算するようにした。しかし、集合Pおよび集合Vを求めることなく、異ならせた位置用DOP閾値Lpと速度用DOP閾値Lv(例えばLv<Lp)とを用いて、受信機位置の算出の実行および/または受信機速度の算出の実行をするかどうかを決定するようにしても良い。
【0196】
すなわち、その場合には、同期保持した衛星が4個以上である場合に、測位を行なおうとする衛星についてDOP例えばPDOPを求め、求めたPDOPに対して、互いに独立に、異なって設定された位置用DOP閾値Lpと速度用DOP閾値Lvと比較する。そして、求めたPDOPが、位置用DOP閾値Lp以下であれば、受信機位置の測定を実行し、また、速度用DOP閾値Lv以下であれば、受信機速度の測定を実行するようにすることができる。この場合にも、上述と同様の作用効果が得られる。
【0197】
また、以上の説明は、位置用DOP閾値Lpを、従来のDOP閾値Lよりも緩和(Lp>L)するようにした場合であるが、速度用DOP閾値Lvを、従来のDOP閾値Lよりも緩和(Lv>L)するようにしてもよい。
【0198】
なお、精度指標としては、上述の例では、DOPを用いるようにしたが、DOPに他の要素条件を加えた指標や、その他の指標を用いることもできる。
【0199】
また、以上の実施形態の説明では、同期捕捉部24からの検出結果は、CPU26を介して同期保持部25に渡すようにしたが、同期捕捉部24から、同期保持部25に直接的に渡すように構成することができるものである。
【0200】
また、上述の例では、同期捕捉部24には、デジタルマッチドフィルタを用いた例としたが、この発明では、粗い精度の同期捕捉を同期捕捉部が行い、その結果を同期保持部に渡して、同期確立までを高速化することが目的であるので、同期捕捉部24は、デジタルマッチドフィルタを用いた例に限られるものではない。
【0201】
また、デジタルマッチドフィルタには、上述の例のようなFFTを用いた例のみではなく、前述したように、トランスバーサルフィルタを用いた構成とすることができるものである。
【0202】
また、同期捕捉部や同期保持部の構成は、上述の例の構成に限られるものではなく、その機能を実現することができるものであれば、どのようなものであってもよい。
【0203】
また、この発明は、上述のような同期捕捉部と同期保持部とに分ける構成のGPS受信機に限られるものではなく、例えば、周波数サーチを伴うスライディング相関によりキャリアおよび拡散符号についての同期検出を行なうと同時に、DLLとコスタスループとにより、同期捕捉および同期保持動作をするようにするGPS受信機にも、この発明は適用可能である。
【0204】
また、この発明による衛星信号受信処理装置は、上述したGPSシステム用の受信機に限られるものではなく、例えば、旧ソビエト連邦が構築したGLONASSシステムや、欧州各国が中心となって構築が進められているGALILEOシステム用の受信機にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0205】
【図1】この発明による衛星信号受信処理装置における要部を説明するために用いる図である。
【図2】この発明による衛星信号受信処理装置の一実施形態としてのGPS受信機の構成例を示すブロック図である。
【図3】図2のGPS受信機の一部の構成を説明するための図である。
【図4】図2のGPS受信機の一部の構成を説明するための図である。
【図5】図2のGPS受信機における動作を説明するために用いる図である。
【図6】図2のGPS受信機の一部の構成を説明するための図である。
【図7】図2のGPS受信機の一部の構成を説明するための図である。
【図8】図2のGPS受信機の一部の構成を説明するための図である。
【図9】精度指標としてのDOPを求める演算式を示す図である。
【図10】図2のGPS受信機の要部の動作説明のためのフローチャートの一部である。
【図11】図2のGPS受信機の要部の動作説明のためのフローチャートの一部である。
【符号の説明】
【0206】
10…GPS受信機、23…周波数変換部、24…同期捕捉部、25…同期保持部、26…CPU、29…メモリ
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばGPS(Global Positioning System)のような全地球測位システム(GNSS: Global Navigation Satellites System)において、複数個の人工衛星からの信号電波を受信して、自装置の位置や速度を算出する衛星信号受信処理装置およびこの装置に使用する衛星信号受信処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星(以下、単に衛星という)を利用して移動体の位置を測定するGNSSシステム、例えばGPSシステムにおいて、衛星信号受信処理装置としてのGSP受信機は、4個以上の衛星からの信号を受信し、その受信信号から自受信機の位置を計算し、また、自受信機の速度を計算し、ユーザに知らせることが基本機能である。
【0003】
GPSシステムにおいては、衛星からの信号は、C/A(Clear and Acquisition)コードと呼ばれる拡散符号によりスペクトラム拡散されている。C/Aコードは、送信信号速度(チップレート)が1.023MHz、符号長が1023のPN(pseudo random noise;擬似ランダム雑音)系列の符号、例えばGold符号からなる拡散符号である。このC/AコードのPN系列の符号は、衛星ごとに異なっている。
【0004】
そして、衛星からの信号(以下、衛星信号という)は、50bpsのデータを、この拡散符号を用いてスペクトラム拡散した信号により、周波数が1575.42MHzの搬送波(キャリア)をBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調した信号である。
【0005】
例えば特許文献1(特開2003−258769公報)に記載されているように、GPS受信機は、上述のような衛星信号を受信し、その受信信号を復調して、アルマナックやエフェメリスと呼ばれる衛星の軌道情報や時刻情報を含む航法メッセージを獲得し、軌道情報等はメモリに格納して保持する。
【0006】
そして、GPS受信機は、衛星の軌道情報および時間情報と、衛星信号の遅延時間(受信信号の到達時刻と衛星からの発信時刻との差)とから、自受信機の3次元位置を連立方程式により導き出す。すなわち、GPS受信機は、自受信機の位置を、4個以上の衛星についての軌道情報と、当該4個の衛星から受信する信号の拡散符号の発信時刻および到達時刻から拡散符号発信時の衛星の位置および擬似距離を計算し、GPS受信機の3次元座標と、GPS受信機・衛星間の時計誤差の4個を未知数とした連立方程式を立て、その連立方程式を解くことで算出することができる。
【0007】
測位のために4個の衛星からの信号が必要となるのは、GPS受信機内部の時間と衛星の時間とで誤差があり、その誤差の影響を除去するためである。なお、この明細書において、測位というときには、受信機位置の算出のみならず、受信機速度の算出を含むものとする。
【0008】
前記連立方程式の各方程式は異なる未知数同士の乗算項の無い2次式で、一般には解に近い適当な初期値を与え、ニュートン法のような反復法により連立方程式を解く。ニュートン法は、与えられた方程式を解に近い点で局所的に線形近似し、最初は初期値を用いて線形連立方程式を解き、解いた結果を次の初期値として再び解を得、解が一定誤差以内に収束するまで同じ計算を反復することで最終的な解を得る方法である。
【0009】
また、GPS受信機は、上述のように自身の3次元位置と時刻を求めると共に、4個の衛星信号の搬送波のドップラー周波数を求めることにより、速度(3次元速度)を算出する。C/Aコードにもドップラー効果は現れるが、得たい速度精度を満足するために、一般には、衛星信号の搬送波のドップラー周波数が用いられる。
【0010】
すなわち、GPS受信機は、4個以上の衛星について軌道情報と拡散符号の発信時刻から、衛星の位置および衛星の速度を計算し、また、上述の説明のようにして求まった自受信機の位置と、自受信機の同期保持部から得られる、安定していると判断された衛星のキャリア周波数を用いて、自受信機の3次元速度と、中間周波キャリア誤差を未知数とした線形連立方程式を立て、その線形連立方程式を解くことで得ることができる。
【0011】
通常、GPS受信機においては、自身の位置算出や速度算出に当たっては、先ず、可視衛星を見つける。軌道情報が受信機に記憶されていないときには、全ての衛星からの電波をサーチして、電波を受信可能として可視衛星を見つける。軌道情報が受信機に記憶されているときには、当該軌道情報から計算により地平線より上にあるとされる可視衛星を見つける。
【0012】
次に、GPS受信機は、可視衛星の受信信号について、拡散符号および搬送波の同期保持を行なうようにする。そして、GPS受信機では、同期保持できた衛星からの受信信号を用いて自身の位置算出および速度算出を行なうが、同期保持できた衛星からの受信信号の全てを用いて、自身の位置算出および速度算出を行なうわけではなく、予め定めた所定の精度以上で、位置、速度が算出できる衛星からの受信信号のみを用いるようにする。
【0013】
すなわち、GPS受信機は、従来は、
(a)軌道情報が既知であること
(b)拡散符号の発信時刻が既知であること
(c)キャリア周波数が安定して既知であること
という、3つの条件をすべて満足する複数の衛星の集合を、GPS受信機自身の位置および速度を算出することができる位置および速度算出用衛星の集合として見つけ出す。
【0014】
次に、位置および速度算出用衛星の集合の中から、算出される位置および速度の精度が所定閾値を満足するであろう4個以上の衛星の組み合わせを見つけ出す。一般には、このために、衛星の配置による精度への影響を示す精度指標として、DOP(dilution of precision;精度低下率)を用いている。
【0015】
すなわち、GPS受信機は、自身の位置および速度の算出を行なおうとしている衛星の組み合わせについて、DOP値を求め、求めたDOP値が、予め定められた閾値以下である場合に、位置および速度の算出を実行し、求めたDOP値が、前記閾値よりも大きく、精度が悪くなるときには、位置および速度の算出はしないようにしている。この場合に、DOP値の閾値は、位置算出用および速度算出用として共通の1つである。
【0016】
なお、上記のGPS受信機の位置算出および速度算出のいずれの場合においても、5個以上の衛星について解を得ることができる場合は、線形連立方程式から2乗誤差が最小となるような解が求まることが一般に知られている。つまり、計算に使用する衛星の個数は多いほうが一般には精度が良くなる。
【0017】
上記の特許文献および非特許文献は、次の通りである。
【特許文献1】特開2003−258769公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
以上のように、従来は、GPS受信機の自身の位置および速度を算出する場合において、当該算出対象衛星の集合は、上記(a)〜(c)の条件を全て満足するものとして求めるようにしている。そして、従来のGSP受信機は、上記の(a)〜(c)の条件の全てを満足している衛星のうちから、DOP値を用いた精度指標の閾値条件を満足する、精度の高い算出結果が得られるであろう衛星の群をサーチし、当該衛星群が見つかれば測位演算を実行してその結果を出力するようにしていた。
【0019】
ところで、実際上は、GPS受信機が、自身の位置を算出する衛星の集合を決定するための条件としては、上記の(a)〜(c)の条件の全てを満足する必要はなく、
(a)軌道情報が既知であること
(b)拡散符号の発信時刻が既知であること
の2条件を満たせばよい。以下、この2条件を位置計算可能条件と呼ぶ。
【0020】
また、GPS受信機の速度算出に使用する衛星の集合を決定するための条件としては、
(a)軌道情報が既知であること
(c)キャリア周波数が安定に既知であること
の2条件を満たす必要がある。以下、この2条件を速度計算可能条件と呼ぶ。
したがって、GPS受信機の位置と速度の両方を求める場合に、上記の位置計算可能条件を満たし、かつ、上記の速度計算可能条件を満たす衛星であれば、これらの衛星について同期保持部からの情報を元に位置計算も速度計算も行なうことができる。
【0021】
従来のGPS受信機では、上記のように、自身の位置および速度を算出する場合において、当該算出対象衛星の集合は、(a)〜(c)の条件の全てを満足するものとして決定しているので、上記の位置計算可能条件を満たし、かつ、上記の速度計算可能条件を満たしている。
【0022】
従来、位置計算可能条件を満たす衛星の集合と、速度計算可能条件を満たす衛星の集合とを別々に求めなかったのは、従来のGPS受信機では、衛星からの信号を捕捉して保持するときの感度が低かったので、上記位置計算可能条件を満たすときには、上記速度計算可能条件をも満たしていたからである。
【0023】
すなわち、従来は、GPS受信機の衛星信号の同期感度が低いために、図1(A)に示すように、位置計算可能条件を満たす衛星の集合(以下、Pと表記する)と、速度計算可能条件を満たす衛星の集合(以下、Vと表記する)は等しく、P=Vとなる。この場合は、P∩V=P=V、つまり、|P∩V|=|P|=|V| となり、位置計算および速度計算は、使用可能な衛星を最大限用いて行なうことができる。なお、|A|は有限集合Aの要素の数を表すものとする。
【0024】
しかし、上記の条件を満足することができるのは、海上や郊外などのようなGPS衛星からの電波を遮蔽する要因の少ない場所で用いる場合である。ビルや高架建造物など衛星からの電波を遮蔽する要因の多い場所などでは、わずかな電波の遮断の間にキャリア周波数の追従が遅れたりすると、「キャリア周波数が既知である」という速度計算可能条件の一方が満たされなくなり、位置計算可能条件を満たす衛星の集合と速度計算可能条件を満たす衛星の集合P,Vが異なる状態、図1(B)に示すように、V⊂Pとなることが起こり得る。
【0025】
従来のGPS受信機のように、集合P∩Vに含まれる衛星、すなわち、位置計算可能条件と速度計算可能条件の両方を満たす集合の衛星からの情報で位置計算と速度計算を行なう場合、|P∩V|≦|P|となり、本来、位置計算可能条件は満たしているのにもかかわらず、速度計算可能条件を満たしていないために、位置計算に用いられない衛星が発生する可能性がある。
【0026】
特に、|P|=4の場合は、|P∩V|≦4となり、条件によっては測位に使用できる衛星の個数が3個以下となってしまい、精度の良い測位計算ができない、もしくは、測位に使用できる衛星の個数が2個以下となってしまい、測位計算そのものができない、ということも起こる可能性があるという問題がある。
【0027】
また、最近のGPS受信機は感度が高くなってきており、このため、図1(B)または(C)に示すように、位置計算可能条件を満たす衛星の集合Pと、速度計算可能条件を満たす衛星の集合Vは一致しない状況が生じてきている。
【0028】
すなわち、位置計算可能条件のうちの「(b)拡散符号の発信時刻が既知」であるためには、速度計算可能条件のうちの「(c)キャリア周波数が安定に既知」を厳密に満たす必要はない。なぜなら、衛星からの受信信号におけるキャリア周波数の変動に対して、拡散符号の周波数の変動は、約1/1000以下だからである。つまり、拡散符号チップレート/RFキャリア周波数=1.023MHz/1575.42MHz=1/1540であるからである。
【0029】
このため、GPS受信機の感度が上がれば、位置計算可能条件を満たす衛星の集合Pと、速度計算可能条件を満たす衛星の集合Vは、図1(B)または(C)に示すような関係となることが生じる。
【0030】
すると、前述した受信条件が悪い環境の場合と同様の状況が発生し、位置計算可能条件は満たしているのにもかかわらず、速度計算可能条件を満たしていないために、位置計算に用いられない衛星が発生したり、測位に使用できる衛星の個数が減ってしまって、精度の良い測位計算ができない、もしくは、測位計算そのものができない、ということが起こる可能性があるという問題がある。
【0031】
この発明は、以上のような状況にかんがみ、少なくとも位置計算可能条件は満たしているときには、速度計算可能条件に関係なく、位置計算を可能とすることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明による衛星信号受信処理装置は、
複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理装置において、
複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記拡散符号の発信時刻が既知である人工衛星の集合を、自装置の位置の算出に使用する位置算出用人工衛星の集合として決定する位置算出用衛星決定手段と、
前記複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記受信信号の搬送波周波数が安定していると判断された人工衛星の集合を、自装置の速度の算出に使用する速度算出用人工衛星の集合として決定する速度算出用衛星決定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0033】
この請求項1の発明によれば、位置計算可能条件を満たす衛星の集合Pに含まれる全ての衛星を受信機位置算出に用いるので、仮に速度計算可能条件を満たす衛星の集合Vが、|V|<3であっても、少なくとも受信機位置を算出することが可能となる。つまり、従来であれば位置計算ができないような状況でも位置計算が可能となる場合があり、位置測位率の向上に寄与する。また、従来よりも位置計算に使用する衛星数が増える可能性があるので(|P|≧|P∩V|)、位置精度の向上にも寄与する。
【0034】
また、請求項5の発明は、
複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理装置において、
前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合のうちの、自装置の測位計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め定められた位置精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて測位計算を実行する手段と、
前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合のうちの、自装置の速度計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め前記位置精度指標閾値とは独立に定められた速度精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて前記速度計算を実行する手段と
を備えることを特徴とする。
【0035】
請求項5の発明においては、精度指標閾値は、位置精度指標閾値と速度精度指標閾値とが独立に設定される。そして、同期保持がなされている衛星の中から、位置精度指標閾値以下である複数個の人工衛星からの受信信号が検出できれば測位計算を実行し、また、同期保持がなされている衛星の中から、速度精度指標閾値以下である複数個の人工衛星からの受信信号が検出できれば速度計算を実行するようにする。
【0036】
したがって、請求項5の発明においては、位置精度指標閾値と速度精度指標閾値とが独立に設定され、速度計算ができないときであっても、測位計算ができるようにすることができる。
【発明の効果】
【0037】
この発明によれば、少なくとも位置計算可能条件は満たしているときには、速度計算可能条件に関係なく、位置計算を可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、この発明による衛星信号受信処理装置および方法の実施形態を、図を参照しながら説明する。以下では、全地球測位システム(GNSS: Global Navigation Satellites System)を構成する少なくとも4個の衛星から送出された信号を受信して、その受信信号に基づいて自己の位置を算出する受信処理装置に、この発明を適用した場合について説明する。なお、本例においては、全地球測位システムとして、日本国で広く利用されているGPSを想定し、このGPSに対応した衛星信号受信処理装置であるGPS受信機について説明する。
【0039】
以下に説明する例のGPS受信機は、図2に示すように、衛星から受信した受信信号を復調する際に、自己が発生する擬似ランダムノイズ系列、つまりPN系列の拡散符号と受信信号における拡散符号との同期を捕捉する機能と、拡散符号と搬送波(以下、キャリアという)との同期を保持する機能とを分離することにより、小さい回路規模のもとに、同期捕捉を高速化するように構成されたものである。
【0040】
ただし、この発明は、このようなGPS受信機への適用に限定されるものではなく、全地球測位システムを構成する複数の衛星から送出された信号を受信して自己の位置を算出する受信装置および位置算出方法に広く適用可能であることは勿論である。
【0041】
[GPS受信機の構成]
図2は、この実施形態のGPS受信機10の構成例を示すブロック図である。この例のGPS受信機10は、同図に示すように、所定の発信周波数を有する発信信号D1を生成する水晶発振器 (以下、XOという)11と、このXO11とは異なる所定の発振周波数FOSCを有する発振信号D2を生成する温度補償型水晶発振器(以下、TCXOという)12と、このTCXO12から供給される発振信号D2を逓倍及び/又は分周する逓倍/分周器13とを備える。
【0042】
XO11は、例えば32.768kHz程度の所定の発振周波数を有する発振信号D1を生成する。XO11は、生成した発振信号D1を後述するRTC(Real Time Clock)回路27に供給する。
【0043】
TCXO12は、XO11とは異なる例えば18.414MHz程度の所定の発振周波数FOSCを有する発振信号D2を生成する。TCXO12は、生成した発振信号D2を逓倍/分周器13、および後述する周波数シンセサイザ18等に供給する。
【0044】
逓倍/分周器13は、後述するCPU(Centra1 Processing Unit)26から供給される制御信号D3に基づいて、TCXO12から供給される発振信号D2を、所定の逓倍率で逓倍し、および/または、所定の分周比で分周する。逓倍/分周器13は、逓倍および/または分周した発振信号D4を、後述する同期捕捉部24、後述する同期保持部25、CPU26、後述するタイマ28および後述するメモリ29に供給する。
【0045】
また、GPS受信機10は、GPS衛星から送信されてきたRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナ14と、このアンテナ14によって受信された受信RF信号D5を増幅するローノイズ・アンプ(Low Noise Amplifier;以下、LNAという)15と、このLNA15によって増幅された増幅RF信号D6のうち、所定の周波数帯域成分を通過させる帯域通過フィルタ(Band Pass Filter;以下、BPFという)16と、このBPF16を通過した増幅RF信号D7をさらに増幅する増幅器17と、TCXO12から供給される発振信号D2に基づいて所定の周波数FLOを有する局部発振信号D10を生成する周波数シンセサイザ回路18と、増幅器17によって増幅された所定の周波数FRFを有する増幅RF信号D8に対して周波数シンセサイザ回路18から供給された局部発振信号D10を乗算する乗算器19と、この乗算器19によって乗算されることによってダウンコンバートされた所定の周波数FIFを有する中間周波数(Intermediate Frequency; 以下、IFという) 信号Dllを増幅する増幅器20と、この増幅器20によって増幅された増幅IF信号D12のうち所定の周波数帯域成分を通過させる低域通過フィルタ(Low Pass Filter; 以下、LPFという)21と、このLPF21を通過したアナログ形式の増幅IF信号D13をデジタル形式の増幅IF信号D14に変換するアナログ/デジタル変換器(Analog/Digital Converter;以下、A/D変換器という)22とを備える。
【0046】
アンテナ14は、GPS衛星から送信されてきた、周波数が1575.42MHzのキャリアが拡散されたRF信号を受信する。このアンテナ14によって受信された受信RF信号D5は、LNA15に供給される。
【0047】
LNA15は、アンテナ14によって受信された受信RF信号D5を増幅する。LNA15は、増幅した増幅RF信号D6をBPF16に供給する。
【0048】
BPF16は、いわゆるSAW(Surface Acoustic Wave)フィルタからなり、LNA15によって増幅された増幅RF信号D6のうち所定の周波数帯域成分を通過させる。このBPF16を通過した増幅RF信号D7は、増幅器17に供給される。
【0049】
増幅器17は、BPF16を通過した増幅RF信号D7をさらに増幅する。増幅器17は、増幅した所定の周波数FRF、すなわち、1575.42MHzの増幅RF信号D8を乗算器19に供給する。
【0050】
周波数シンセサイザ回路18は、CPU26から供給される制御信号D9による制御のもとに、TCXO12から供給される発振信号D2に基づいて所定の周波数FLOを有する局部発振信号D10を生成する。周波数シンセサイザ回路18は、生成した局部発振信号D10を乗算器19に供給する。
【0051】
乗算器19は、増幅器17によって増幅された所定の周波数FRFを有する増幅RF信号D8に対して周波数シンセサイザ回路18から供給された局部発振信号D10を乗算することによって増幅RF信号D8をダウンコンバートし、例えば1.023MHz程度の所定の周波数FIFを有するIF信号Dllを生成する。このIF信号Dllは、増幅器20に供給される。
【0052】
増幅器20は、乗算器19によってダウンコンバートされたIF信号Dllを増幅する。増幅器20は、増幅した増幅IF信号D12をLPF21に供給する。LPF21は、増幅器20によって増幅された増幅IF信号D12のうち所定の周波数よりも低帯域成分を通過させる。このLPF21を通過した増幅IF信号D13は、A/D変換器22に供給される。
【0053】
A/D変換器22は、LPF21を通過したアナログ形式の増幅IF信号D13をデジタル形式の増幅IF信号D14に変換する。このA/D変換器22によって変換された増幅IF信号D14は、1ビットずつ同期捕捉部24および同期保持部25に供給される。
【0054】
なお、GPS受信機10においては、上述の各部のうち、LNA15,17,20,BPF16、周波数シンセサイザ回路18、乗算器19、LPF21およびA/D変換器22は、アンテナ14によって受信された1575.42MHzの高い周波数を有する受信RF信号D5を、デジタル信号処理しやすいように、例えば1.023MHz程度の低い周波数FIFを有する増幅IF信号D14にダウンコンバートする周波数変換部23として構成される。
【0055】
さらに、GPS受信機10は、自己が発生する拡散符号とA/D変換器22から供給される増幅IF信号D14における拡散符号との同期捕捉および増幅IF信号D14におけるキャリア周波数の検出を行なう同期捕捉部24と、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14における拡散符号とキャリアとの同期保持およびメッセージの復調を行なう同期保持部25と、各部を統括的に制御して各種演算処理を行なうCPU26と、XO11から供給される発振信号D1に基づいて時間を計測するRTC回路27と、CPU26の内部時計としてのタイマ28と、RAM(Random Access Memory) やROM(Read Only Memory)等からなるメモリ29とを備える。
【0056】
同期捕捉部24は、CPU26の制御のもとに、逓倍/分周器13から供給される発振信号D4に基づいて、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14における拡散符号の同期捕捉を行なうとともに、増幅IF信号D14におけるキャリア周波数の検出を行なう。このとき、同期捕捉部24は、粗い精度での同期捕捉を行なう。同期捕捉部24は、検出したGPS衛星を識別するための衛星番号、拡散符号の位相およびキャリア周波数を同期保持部25およびCPU26に供給する。
【0057】
同期保持部25は、CPU26の制御のもとに、逓倍/分周器13から供給される発振信号D4に基づいて、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14における拡散符号とキャリアとの同期保持を行なうとともに、増幅IF信号D14に含まれる航法メッセージの復調を行なう。このとき、同期保持部25は、同期捕捉部24から供給される衛星番号、拡散符号の位相およびキャリア周波数を初期値として動作を開始する。
【0058】
同期保持部25は、複数のGPS衛星からの増幅IF信号D14についての同期保持を並列的に行い、検出した拡散符号の位相、キャリア周波数および航法メッセージをCPU26に供給する。
【0059】
CPU26は、同期保持部25から供給される拡散符号の位相、キャリア周波数および航法メッセージを取得し、これらの各種情報に基づいて、自己の3次元位置の算出処理および3次元速度の算出処理や、当該GPS受信機10の時間情報を補正する処理などの各種演算処理を行なう。また、CPU26は、当該GPS受信機10の各部および各種ぺリフェラル(周辺機器)、並びに外部との入出力に関する制御を統括的に行なう。
【0060】
RTC回路27は、XO11から供給される発振信号D1に基づいて、時間を計測する。このRTC回路27によって計測される時間情報は、GPS衛星の正確な時間情報が得られるまでの間に代用されるものであって、GPS衛星の正確な時間情報を得たCPU26がXO11を制御することによって適宜補正される。
【0061】
タイマ28は、CPU26の内部時計として機能するものであり、各部の動作に必要となる各種タイミング信号の生成および時間参照に用いられる。例えば、GPS受信機10においては、同期捕捉部24が同期捕捉した拡散符号の位相に合わせて同期保持部25が内部に持つ拡散符号発生器の動作を開始させるタイミングを、このタイマ28によって参照する。
【0062】
RAMやROM等からなるメモリ29においては、CPU26等による各種処理を行なう際のワークエリアとしてRAMが用いられる。入力した各種データをバッファリングする際や、同期保持部25より得られた衛星の軌道情報であるエフェメリスおよびアルマナック、演算過程で生成される中間データおよび演算結果データを保持する際にも、このメモリ29のRAMが用いられる。
【0063】
また、メモリ29においては、各種プログラムや固定データ等を記憶する手段としてROMが用いられる。また、メモリ29においては、GPS受信機10の電源が切られている間であっても、衛星の軌道情報であるエフェメリスおよびアルマナックおよび測位結果の位置情報、TCXO12の誤差量などを記憶する手段として不揮発メモリが用いられる場合がある。
【0064】
なお、GPS受信機10においては、これらの同期捕捉部24、同期保持部25、CPU26、RTC回路27、タイマ28、メモリ29は、ベースバンド処理部として構成される。
【0065】
このような各部を備えるGPS受信器10においては、少なくとも、XO11、TCXO12、アンテナ14、LNA15、およびBPF16を除く各部を、集積回路化した1チップからなる復調回路30として構成することができる。
【0066】
[同期捕捉部24と同期保持部25の構成]
この実施形態では、後述するように、同期捕捉部24では、周波数変換部23からのIFデータの所定時間分をメモリに取り込み、このメモリに取り込んだIFデータについて、GPS衛星信号の衛星PN符号と、個々のGPS衛星の衛星PN符号に対応するGPS受信機が持つレプリカPN符号との相関演算を行って、拡散符号の位相同期捕捉を行なう。
【0067】
拡散符号の位相同期捕捉に関しては、上述のようなスライディング相関の手法を用いることなく、スペクトラム拡散信号の同期捕捉を高速に行なう方法として、マッチドフィルタを用いる方法がある。
【0068】
マッチドフィルタは、トランスバーサルフィルタにより、デジタル的に実現可能である。また、近年は、DSP(Digital Signal Processor)に代表されるハードウエアの能力の向上によって、高速フーリエ変換(以下、FFT(Fast Fourier Transform)という)処理を用いたデジタルマッチドフィルタにより、拡散符号の同期を高速に行なう手法が実現している。ただし、デジタルマッチドフィルタそのものは、拡散符号の同期を保持する機能を有しない。
【0069】
後者のFFT処理を用いる方法は、古くから知られる相関計算の高速化方法に基づいており、受信機側のレプリカPN符号と、衛星PN符号との間に相関がある場合には、後述する図5に示すような相関のピークが検出され、ピークの位置が衛星PN符号の先頭の位相である。したがって、この相関のピークを検出することで、衛星PN符号の同期を捕捉、すなわち、GPS衛星の受信信号における衛星PN符号の位相を検出することができる。
【0070】
GPS衛星からの受信信号のキャリア(中間周波数)は、FFTを利用した方法で、FFTの周波数領域での操作により、衛星PN符号の位相とともに検出することができる。衛星PN符号の位相は、疑似距離に換算され、4個以上の衛星について検出されれば、GPS受信機の位置を計算することができる。また、キャリア周波数が検出されると、ドップラーシフト量が判り、これにより、GPS受信機の速度が計算できる。
【0071】
以上のことから、この実施形態では、高速フーリエ変換(以下、FFT(Fast Fourier Transform)という)処理を用いたデジタルマッチドフィルタによりPN符号についての相関計算を行い、その相関計算に基づいて同期捕捉処理を高速に行なう。
【0072】
アンテナ14で受信されるGPS衛星信号には、複数のGPS衛星からの信号が含まれているが、同期捕捉部24では、すべてのGPS衛星についてのレプリカPN符号の情報を用意しており、その用意されているレプリカPN符号の情報を用いて、その時点でGPS受信機が利用可能な複数個のGPS衛星信号の衛星PN符号との相関を計算することにより、それらの複数個のGPS衛星信号の同期捕捉をすることが可能である。
【0073】
同期捕捉部24では、いずれのGPS衛星用のレプリカPN符号の情報を用いて同期捕捉したかにより、いずれのGPS衛星からの信号の同期捕捉をしたかを検知する。当該同期捕捉したGPS衛星の識別子としては、例えばGPS衛星番号が用いられる。
【0074】
そして、同期捕捉部24は、同期捕捉したGPS衛星の衛星番号の情報と、同期捕捉により検出した衛星PN符号の位相の情報と、IFキャリア周波数の情報と、また、必要に応じて、相関の度合いを示す相関検出信号からなる信号強度の情報を、同期保持部25に渡すようにする。
【0075】
同期捕捉部24で検出した衛星番号、衛星PN符号の位相、IFキャリア周波数、信号強度の情報を、同期保持部25へ渡す方法としては、データのフォーマット、割り込みの方法等を決めた上で、同期捕捉部24から同期保持部25へ直接渡す方法と、CPU26を介して渡す方法とがある。
【0076】
前者の場合には、同期捕捉部24のDSPで、同期保持部25に渡す情報を生成する。あるいは、同期保持部25に、例えばDSPで構成される制御部を設け、その制御部で、同期捕捉部24からの情報に基づいて、同期保持部25で必要な情報を生成する構成とする。
【0077】
また、後者の場合には、CPU26が制御し、CPU26を介して情報の受け渡し、またCPU26から同期捕捉部24および同期保持部25の制御を行なうことができるので、後述する衛星PN符号についての位相補正や、同期捕捉部24と同期保持部25の状況に応じた多様な同期手順を設定しやすくなる。
【0078】
そこで、以下に説明する実施形態では、同期捕捉部24から、衛星番号、衛星PN符号の位相、IFキャリア周波数、信号強度の情報を、同期保持部25へ渡す方法としては、CPU26を介して渡す方法を採用している。
【0079】
[同期捕捉部24の構成]
図3は、同期捕捉部24の構成例を示すものであって、この例では、サンプリング回路241と、データバッファ用のRAM(Random Access Memory)242と、DSP(Digital Signal Processor)243と、プログラムROM(Read Only Memory)と、ワークエリア用のRAMとからなるDSP243用のメモリ部244とを備えて構成される。DSP243およびDSP用のメモリ部244とは、CPU26に接続されている。
【0080】
サンプリング回路241では、周波数変換部23からの1.023MHzのIFデータを、その2倍以上の所定の周波数でサンプリングし、各サンプリング値をRAM242に書き込む。RAM242は、所定時間長分のIFデータを記憶する容量を有する。DSP243では、このRAM242の容量分の時間長のIFデータ単位に同期捕捉処理を行なう。
【0081】
すなわち、この例では、DSP243は、RAM242に取り込んだIFデータについて、高速フーリエ変換(以下、FFT(Fast Fourier Transform)という)処理を用いたデジタルマッチドフィルタにより、衛星PN符号の同期捕捉を高速に行なう。そして、DSP243は、その同期捕捉の結果として、同期捕捉したGPS衛星番号と、同期捕捉したGPS衛星信号の衛星PN符号の位相およびそのIFキャリア周波数とを検出する。
【0082】
サンプリング回路241におけるサンプリング周波数により、衛星PN符号の位相の検出精度が決まる。このサンプリング周波数は、サンプリング定理からIF信号に含まれる最大周波数の2倍以上である必要があり、IFキャリア周波数の整数倍の周波数が望ましい。
【0083】
また、RAM242の容量により決まるDSP243での処理単位の時間長により、IFキャリア周波数の検出精度が決まる。このDSP243での処理単位の時間長は、PN符号の1周期の整数倍、後述のように、特に2のべき乗倍が望ましい。
【0084】
ここで、サンプリング回路241でのサンプリング周波数を、拡散符号のチップレートのα倍、RAM242に取り込むIFデータの時間長をPN符号の1周期のβ倍(βミリ秒)とすると、DSP243では、FFTの周波数領域での操作により、衛星PN符号の位相は1/αチップの精度で検出することができ、IFキャリア周波数は、1/βkHz(±1/2βkHz)の精度で検出することができる。
【0085】
次に、DSP243におけるFFTを用いたデジタルマッチドフィルタによる同期捕捉のいくつかの例について詳述する。
【0086】
〔デジタルマッチドフィルタによる同期捕捉の例〕
この例においては、サンプリング回路241でのサンプリング周波数は、拡散符号のチップレートのほぼ4倍の4倍の4.096MHzとされる。そして、RAM242には、PN符号の1周期分(1ミリ秒)である4096サンプル点のデータを記憶する。DSP243は、このRAM242に取り込まれた1ミリ秒単位のデータについて、GPS衛星信号の衛星PN符号とGPS受信機のレプリカPN符号との相関を、FFTを用いた相関演算により計算して、同期捕捉を行なう。PN符号の1周期分は、1023チップであるから、1/4チップの精度で衛星PN符号の位相検出が可能となる。また、IFキャリア周波数の検出精度は、1ミリ秒単位のFFT処理であるので、1kHzである。
【0087】
この例では、図4に示すように、DSP243では、RAM242に書き込まれた1ミリ秒単位のIFデータを読み出して、FFT処理部101でFFT処理し、そのFFT結果をメモリ102に書き込む。そして、メモリ102から読み出した受信信号のFFT結果は、乗算部103に供給する。
【0088】
一方、PN符号発生部104から、GPS衛星からの受信信号に使用されているPN符号と同じ系列と考えられるレプリカPN符号を発生させる。実際的には、PN符号発生部104からは、予め用意されている複数個のGPS衛星に対するレプリカPN符号が順次に切り換えられて出力されることになる。
【0089】
このPN符号発生部104からの1周期分(1023チップ)のレプリカPN符号は、FFT処理部105に供給されてFFT処理され、その処理結果がメモリ106に供給される。このメモリ106からは、通常の場合と同様に、FFT結果が低い周波数から順に読み出されて乗算部103に供給される。
【0090】
乗算部103では、メモリ102からの受信信号のFFT結果と、メモリ106からのレプリカPN符号のFFT結果とが乗算され、周波数領域における受信信号の衛星PN符号とレプリカPN符号との相関の度合いが演算される。ここで、乗算部105での乗算は、受信信号の離散フーリエ変換結果と、レプリカPN符号の離散フーリエ変換結果とのどちらか一方の複素共役と他方とを乗算する演算となる。そして、その乗算結果は逆FFT処理部107に供給されて、周波数領域の信号が時間領域の信号に戻される。
【0091】
逆FFT処理部107から得られる逆FFT結果は、受信信号の衛星PN符号とレプリカPN符号との時間領域における相関検出信号となっている。この相関検出信号は、相関点検出部108に供給される。
【0092】
この相関検出信号は、拡散符号の1周期分の各チップ位相における相関値を示すものとなっており、所定の強度以上である受信信号中の拡散符号と、拡散符号発生部104からの拡散符号とが同期している位相(拡散符号の1周期分単位の位相)においては、図5に示すように、1023チップのうちのある一つの位相での相関値が、予め定められるスレッショールド値を超えるようなピーク値を示す相関波形が得られる。このピーク値の立つチップ位相が、相関点の位相であり、GPS受信機側のレプリカPN符号に対するGPS衛星信号の衛星PN符号の1周期の先頭の位相となる。
【0093】
一方、受信信号が所定の強度以下である場合、受信信号中の拡散符号と、拡散符号発生部104からの拡散符号とが同期しても、図5のようなピーク値が立つ相関波形は得られず、いずれのチップ位相においても、予め定められるスレッショールド値を超えるようなピークは立たない。
【0094】
相関点検出部108は、例えば、予め定めた値を超えるピーク値が、この相関点検出部108に供給される相関検出信号に存在するかどうかにより、受信信号の衛星PN符号とレプリカPN符号との同期が取れたかどうかを検出する。
【0095】
相関点検出部108で同期が取れたことを検出した場合には、前記ピーク値の位相を相関点、つまり、GPS衛星信号の衛星PN符号の位相として検出する。そして、DSP243は、そのときのPN符号発生部104からのレプリカPN符号がいずれのGPS衛星用のものであるかにより、GPS衛星番号を認識する。
【0096】
また、図5に示した相関検出信号は時間領域のものであるが、後述する処理により中間周波受信信号におけるキャリア成分を正しく除去した場合にのみ相関のピークが検出される。
【0097】
そして、除去を行ったキャリア成分の周波数が、前記の予め定めた値を超えるピーク値が立つ相関点に対応する、ドップラーシフト分を含めたIFキャリア周波数となる。したがって、このドップラーシフト分を含めたIFキャリア周波数が、相関点検出の結果としてDSP243において、検出される。
【0098】
以上のようにして、一つのGPS衛星についての同期捕捉が完了すると、この例では、PN符号発生部104から発生させるレプリカPN符号を他のGPS衛星信号の衛星PN符号に対応するものに変更して、上記の処理を繰り返す。また、同期が取れなかった場合にも、DSP243では、PN符号発生部104から発生させるレプリカPN符号を他のGPS衛星信号の衛星PN符号に対応するものに変更して、上記の処理を繰り返す。
【0099】
そして、DSP243では、サーチすべき全GPS衛星についての同期捕捉処理が終了したとき、あるいはCPU26からの情報により、例えば4個以上のGPS衛星についてのPN符号の同期が取れたときに、以上の同期捕捉処理を終了する。
【0100】
DSP243は、その同期捕捉の結果として検出した、同期捕捉したGPS衛星番号と、同期捕捉したGPS衛星信号の衛星PN符号の位相およびそのIFキャリア周波数とからなる情報を、CPU26に供給する。また、この例では、DSP243は、同期捕捉した各GPS衛星信号についての相関点のピーク値をも、CPU26に供給するようにしている。
【0101】
以上の説明では、受信信号のキャリアの処理を考慮していないが、実際には、受信信号は、キャリアを含んでいる。そして、受信信号から、データを得るためには、PN符号とキャリアとの同期をとってキャリア成分を除去する必要がある。
【0102】
この実施の形態では、FFTによる周波数領域での処理のみの簡単な構成により、PN符号とキャリア(IFキャリア)との同期をとってキャリア成分を除去することができるようにしている。
【0103】
すなわち、FFT処理部101から得られるGPS衛星からの受信信号のFFT結果は、通常は、受信信号の周波数成分の周波数が低いものから順にメモリ102から読み出されて、乗算部103に供給されるが、この実施の形態では、メモリ102からは、読み出しアドレス制御部109からの制御に従って、読み出しアドレスがシフト制御されて、順次、受信信号のFFT結果が読み出される。
【0104】
読み出しアドレス制御部109には、受信信号を得たGPS衛星についてのドップラーシフト量を正確に見積もることができ、かつ、GPS受信機内部の発振周波数および時間情報を正確に校正された状態において検出された受信信号のキャリア周波数の情報が得られれば、そのキャリア周波数(IFキャリア周波数)の情報が供給される。
【0105】
このIFキャリア周波数の情報は、前述したように、4個以上のGPS衛星からの受信信号が同期保持されていて、安定的に受信機位置が測定されているときには、受信機速度の算出に伴ってほぼ正確に求められるので、当該算出されたIFキャリアの情報が用いられる。また、IFキャリア周波数の情報は、GPS受信機外部から取得するようにすることもできる。
【0106】
そして、読み出しアドレス制御部109は、GPS受信機内部で生成した、あるいは外部から取得したキャリア周波数の情報に基づいて、そのキャリア周波数分だけ、読み出しアドレスをシフトして、メモリ102から受信信号のFFT結果を、順次、読み出し、乗算部103に供給するようにする。
【0107】
このように受信信号のFFT結果を、メモリ102から、受信信号のキャリア周波数分だけシフトして読み出すことにより、後述するように、キャリア成分を除去した受信信号のFFT結果と等価なFFT結果を得ることができ、そのキャリア成分を除去したFFT結果と、PN符号の1周期分のFFT結果との乗算結果を逆拡散することにより、確実に図5のように相関点でピークを生じる相関検出出力が得られる。
【0108】
[同期保持部25の構成]
複数のGPS衛星信号の同期保持を並列して行なうために、同期保持部25は、1つずつのGPS衛星信号を1チャンネルとして、複数チャンネル分を備える構成とされる。
【0109】
図6は、この実施形態における同期保持部25の構成例を示す。この同期保持部25は、nチャンネル分のチャンネル同期保持部40CH1、40CH2、・・・、40CHnと、コントロールレジスタ43とからなる。チャンネル同期保持部40CH1、40CH2、・・・、40CHnのそれぞれは、コスタスループ41とDLL(Delay Locked Loop)42とを備える。
【0110】
コントロールレジスタ43は、CPU26に接続され、後述するように、コスタスループ41やDLL42のループフィルタのパラメータや、フィルタ特性を定めるためのデータを受け取り、CPU26により指示されるチャンネルの、CPU26により指示される部位に、そのデータを設定するようにする。また、コントロールレジスタ43は、コスタスループ41やDLL42のループフィルタからの相関値情報や周波数情報を受け取り、CPU26からのアクセスに応じてそれらの情報をCPU26に渡すようにする。
【0111】
〔コスタスループ41と、DLL42の構成〕
図7はコスタスループ41の構成例を示すブロック図であり、また、図8は、DLL42の構成例を示すブロック図である。
【0112】
コスタスループ41は、IFキャリア周波数の同期保持、送信データである航法メッセージの抽出を行なう部分であり、DLL42は、GPS衛星信号の衛星PN符号の位相同期保持を行なう部分である。そして、コスタスループ41とDLL42とが協働し、GPS衛星信号についてスペクトラム逆拡散を行って、スペクトラム拡散前の信号を得るとともに、このスペクトラム拡散前の信号を復調して航法メッセージを得て、CPU26に供給する。以下、コスタスループ41とDLL42との動作について具体的に説明する。
【0113】
〔コスタスループ41について〕
周波数変換部23からのIFデータは、乗算器201に供給される。この乗算器201には、図8に示すDLL42のPN符号発生器320からのレプリカPN符号が供給される。
【0114】
DLL42のPN符号発生部320からは、一致(プロンプト)PN符号P、進み(アーリ)PN符号E、遅れ(レート)PN符号Lの、3つの位相のレプリカPN符号が発生する。DLL42では、後述するように、進みPN符号Eおよび遅れPN符号Lと、IFデータとの相関を計算し、それぞれの相関値が等しくなるように、PN符号発生器320からのレプリカPN符号の発生位相を制御し、これにより、一致PN符号Pの位相が、GPS衛星信号の衛星PN符号の位相と一致するようにする。
【0115】
コスタスループ41の逆拡散用の乗算器201には、PN符号発生器320からの一致PN符号Pが供給されて、逆拡散される。この乗算器201からの逆拡散されたIFデータは、乗算器202および203に供給される。
【0116】
コスタスループ41は、図7に示すように、乗算器202および203と、ローパスフィルタ204,205と、位相検出器206と、ループフィルタ207と、NCO(Numerical Controlled Oscillator;数値制御型発振器)208と、相関検出器209と、2値化回路210と、PN符号ロック判定部211と、スイッチ回路212と、IFキャリアロック判定部213とからなっている。
【0117】
ローパスフィルタ204,205のカットオフ周波数情報と、ループフィルタ207のフィルタ特性を定めるパラメータと、NCO208の発振中心周波数を定めるための周波数情報とは、後述するように、同期捕捉部24での同期捕捉結果に基づいて、CPU26からコントロールレジスタ43を通じて設定される。
【0118】
スイッチ回路212は、コスタスループ41のループを開閉制御するためのもので、CPU26からの切り換え制御信号によりオンオフされる。なお、同期保持動作がスタートする前の初期的な状態では、スイッチ回路212はオフとされ、ループ開の状態とされ、後述するように、同期保持動作がスタートして、コスタスループ41の相関検出器209の相関出力が有意なレベルとなったときに、このスイッチ回路212がオンとされて、ループ閉とされるようにされる。
【0119】
乗算器201において逆拡散された信号は、乗算器202、203に供給される。これら乗算器202,203には、CPU26からの周波数情報により、ほぼIFキャリア周波数にされたNCO208からの、直交位相のI(Cosine)信号と、Q(Sine)信号とが供給される。
【0120】
これら乗算器202および203の乗算結果は、ローパスフィルタ204および205を通じて位相検出器206に供給される。ローパスフィルタ204および205は、CPU26からのカットオフ周波数情報の供給を受け、これに供給された信号の帯域外ノイズを除去するものである。
【0121】
位相検出器206は、ローパスフィルタ204および205からの信号に基づいて、IFキャリアとNCO208からの周波数信号との位相誤差を検出し、この位相誤差をループフィルタ207を介してNCO208に供給する。これによりNCO208が制御されて、NCO208からの出力周波数信号の位相が、IFキャリア成分に同期するようにされる。
【0122】
なお、ループフィルタ207は、CPU26から供給されるパラメータに応じて、位相検出器206からの位相誤差情報を積分して、NCO208を制御するNCO制御信号を形成するものである。NCO208は、ループフィルタ207からのNCO制御信号によって、前述したように、NCO208からの出力周波数信号の位相が、IFキャリア成分に同期するようにされる。
【0123】
また、コスタスループ41のローパスフィルタ204および205の出力は、相関検出器209に供給される。相関検出器209は、これに供給されるローパスフィルタ204および205の出力信号をそれぞれ自乗して加算して出力する。この相関検出器209の出力は、IFデータとPN符号発生器320からの一致PN符号Pとの相関値CV(P)示すものである。この相関値CV(P)は、コントロールレジスタ43を通じてCPU26に渡される。
【0124】
そして、ローパスフィルタ204の出力信号は2値化回路210に供給されており、この2値化回路210より航法メッセージデータが出力される。
【0125】
また、相関検出器209からの相関値CV(P)出力は、PN符号ロック判定部211に供給される。PN符号ロック判定部211は、相関値CV(P)出力と、予め定められているスレッショールド値とを比較し、相関値CV(P)出力がスレッショールド値よりも大きいときには、同期保持がロック状態であることを示し、相関値CV(P)出力がスレッショールド値よりも小さいときには、同期保持がアンロック状態であることを示すPN符号ロック判定出力を出力する。
【0126】
この実施形態では、このPN符号ロック判定出力はCPU26に送られ、CPU26は、このPN符号ロック判定出力から、同期保持部25におけるPN符号のロック状態、アンロック状態を認識するようにする。CPU26は、このPN符号ロック判定出力からは、PN符号の同期が保持されていることのみを判定する。したがって、CPU26は、このPN符号ロック判定出力からでは、PN符号の同期は取れているが、IFキャリアのロックが外れた状態の検知は行なわない。CPU26は、IFキャリアロック判定部213の出力から、IFキャリアの周波数ロックは外れたか否かの判定を行なう。
【0127】
IFキャリアロック判定部213には、ローパスフィルタ204および205の出力は供給される。このIFキャリアロック判定部213では、ローパスフィルタ204および205の出力の絶対値の比を求め、その比の値が予め定めたスレッショールド値以上であるときには、IFキャリアの同期がロック状態であることを示し、そうでなかったときには、IFキャリアの同期が外れた状態(アンロック状態)であることを示すIFキャリアロック判定出力を出力する。
【0128】
すなわち、IFキャリアロック判定出力は、ローパスフィルタ204の出力をIo、ローパスフィルタ205の出力をQoとし、前記スレッショールド値をthとしたとき、
|Io|/|Qo|>th
であるときにはロック状態、そうでなければ、アンロック状態を示すものとなる。
【0129】
この実施形態では、このIFキャリアロック判定出力はCPU26に送られる。CPU26は、このIFキャリアロック判定出力から、IFキャリアについてのロック状態、アンロック状態を認識するようにする。
【0130】
〔DLL42について〕
図8に示すように、DLL42においては、周波数変換部23からのIFデータは、乗算器301および311に供給される。そして、乗算器301には、PN符号発生器320からの進みPN符号Eが供給され、また、乗算器311には、PN符号発生器320からの遅れPN符号Lが供給される。
【0131】
乗算器301は、IFデータと進みPN符号Eとを乗算することにより、スペクトラム逆拡散を行い、この逆拡散がなされた信号を乗算器302、303に供給する。そして、乗算器302には、前述のコスタスループ41のNCO208からのI信号が供給され、乗算器303には、NCO208からのQ信号が供給される。
【0132】
乗算器302は、逆拡散されたIFデータとNCO208からのI信号とを乗算し、その結果をローパスフィルタ304を通じて相関検出器306に供給する。同様に、乗算器303は、逆拡散されたIFデータとNCO208からのQ信号とを乗算し、その結果をローパスフィルタ305を通じて相関検出器306に供給する。
【0133】
なお、ローパスフィルタ304、305は、コスタスループ41のローパスフィルタ204,205と同様に、CPU26からのカットオフ周波数情報の供給を受け、これに供給された信号の帯域外ノイズを除去するものである。
【0134】
相関検出器306は、これに供給されるローパスフィルタ304,305からの出力信号をそれぞれ自乗して加算して出力する。この相関検出器306からの出力は、IFデータと、PN符号発生器320からの進みPN符号Eとの相関値CV(E)示すものである。この相関値CV(E)は、位相検出器321に供給されるとともに、コントロールレジスタ43に格納され、CPU26が用いることができるようにされる。
【0135】
同様に、乗算器311は、IFデータと遅れPN符号Lとを乗算することにより、スペクトラム逆拡散を行い、この逆拡散がなされた信号を乗算器312、313に供給する。乗算器312には、前述したように、NCO208からのI信号が供給され、乗算器313には、NCO208からのQ信号が供給される。
【0136】
乗算器312は、逆拡散されたIFデータとNCO208からのI信号とを乗算し、その結果をローパスフィルタ314を通じて相関検出器316に供給する。同様に、乗算器313は、逆拡散されたIFデータとNCO208からのQ信号とを乗算し、その結果をローパスフィルタ315を通じて相関検出器316に供給する。ローパスフィルタ314、315は、前述のローパスフィルタ304、305と同様に、CPU26からのカットオフ周波数情報の供給を受け、これに供給された信号の帯域外ノイズを除去するものである。
【0137】
相関検出器316は、これに供給されるローパスフィルタ314,315からの出力信号をそれぞれ自乗して加算し、その演算結果を出力する。この相関検出器316からの出力は、IFデータと、PN符号発生器320からの遅れPN符号Lとの相関値CV(L)を示すものである。この相関値CV(L)は、位相検出器321に供給されるとともに、コントロールレジスタ43に格納され、CPU26が用いることができるようにされる。
【0138】
位相検出器321は、相関検出器306からの相関値CV(E)と、相関検出器316からの相関値CV(L)との差分として、一致PN符号PとGPS衛星信号の衛星PN符号との位相差を検出し、その位相差に応じた信号をループフィルタ322を介してNCO323の数値制御信号として供給する。
【0139】
PN符号発生器320には、このNCO(Numerical Controlled Oscillator;数値制御型発振器)323の出力信号が供給されており、このNCO323の出力周波数が制御されることにより、PN符号発生器320からのPN符号の発生位相が制御される。
【0140】
なお、NCO323は、後述するように、同期捕捉部24の同期捕捉結果に応じたCPU26からの初期発振周波数を制御する周波数情報の供給を受ける。
【0141】
以上のDLL42におけるループ制御により、NCO323が制御されて、PN符号発生器320は、相関値CV(E)と相関値CV(L)とが同じレベルとなるように、PN符号P、E,Lの発生位相を制御する。これにより、PN符号発生器320から発生する一致PN符号Pが、IFデータをスペクトラム拡散しているPN符号と位相同期するようにされ、この結果、一致PN符号PによりIFデータが正確に逆スペクトラム拡散され、コスタスループ41において、2値化回路210から航法メッセージデータが復調されて出力される。
【0142】
そして、その航法メッセージデータの復調出力は、図示しないデータ復調回路に供給されてCPU26で使用可能なデータに復調された後、CPU26に供給される。CPU26では、航法メッセージデータは、測位計算に用いられ、また、適宜、軌道情報(アルマナック情報やエフェメリス情報)が抽出されて、メモリ29に格納される。
【0143】
なお、DLL42のループフィルタ322は、前述したコスタスループ41のループフィルタ207と同様に、CPU26から供給されるパラメータに基づいて、位相検出器321からの位相誤差情報を積分して、NCO323を制御するNCO制御信号を形成するものである。
【0144】
DLL42においても、ループフィルタ322と、NCO323との間に、ループの開閉制御用のスイッチ回路324が設けられ、CPU26からの切り換え制御信号によりオンオフされる。
【0145】
なお、同期保持動作がスタートする前の初期的な状態では、スイッチ回路324はオフとされ、ループ開の状態とされ、後述するように、同期保持動作がスタートして、コスタスループの相関検出器209の相関出力が有意なレベルとなったときに、このスイッチ回路324がオンとされて、ループ閉とされるようにされる。
【0146】
[位置算出および速度算出動作]
以上のように構成されているGPS受信機10においては、少なくとも4個のGPS衛星からのRF信号を受信して、このRF信号を周波数変換部23によってIF信号に変換した後、同期捕捉部24によって拡散符号の同期捕捉およびキャリア周波数の検出を行い、同期保持部25によって拡散符号とキャリアとの同期保持および航法メッセージの復調を行なう。
【0147】
そして、GPS受信機10は、拡散符号の位相、キャリア周波数および航法メッセージに基づいて、CPU26によって、自己の3次元位置および自己の3次元速度を算出する。
【0148】
この自受信機位置および自受信機速度の算出の実行に先立ち、GPS受信機10においては、自受信機位置および自受信機速度を算出するのに必要な衛星群の決定し、当該決定した衛星群の衛星からの受信信号を用いて測位計算および速度計算したときの精度誤差を求め、当該精度誤差が要求する精度誤差以下であるときに実際の測位計算および速度計算を実行するようにする。
【0149】
この場合に、この実施形態においては、従来と異なり、受信機位置の算出に用いる衛星の集合と、受信機速度の算出に用いる衛星の集合とは、別々に決定する。
【0150】
すなわち、位置算出用衛星の集合Pは、
・軌道情報が既知である
・拡散符号の発信時刻が既知である
という位置計算可能条件を満たすものとして決定する。
【0151】
また、速度算出用衛星の集合Vは、
・軌道情報が既知である
・キャリア周波数が安定に既知である
という速度計算可能条件を満たすものとして決定する。
【0152】
そして、この実施形態は、位置計算可能条件を満たす衛星の集合Pに含まれる全ての衛星を受信機位置算出に用いることにする。このため、この実施形態においては、仮に速度計算可能条件を満たす衛星の集合Vが|V|<3であっても、少なくとも受信機位置を算出することが可能となる。
【0153】
つまり、従来であれば位置計算ができないような状況でも位置計算が可能となる場合があり、位置測位率の向上に寄与する。また、従来よりも位置計算に使用する衛星数が増える可能性があるので(|P|≧|P∩V|) 、位置精度の向上にも寄与する。
【0154】
ところで、実際には、GPS受信機においては、位置計算可能条件および速度計算可能条件などを満たす衛星が4個以上あれば、常に位置計算および速度計算を行ない、その結果を出力する、というわけではない。GPS受信機では、測位精度を悪化させないために、衛星の幾何学的配置上、計算誤差が大きくなると予想される場合には、測位計算を行なわない、という判断を内部で行なっている。この場合に、精度指標としては、DOP(Di1ution of Precision)が一般に用いられている。
【0155】
そして、GPS受信機では、求めたDOPが、予め定められた閾値(DOP閾値)より大きい場合は、計算誤差が大きいとみなし、測位計算を行わない。DOPの値はGPS受信機に対する衛星の配置により定まる。また、DOPの性質として衛星の個数を順次増やしていけば、DOPの値は小さくなる傾向にある。
【0156】
なお、DOPには、3次元位置と時刻を加味したGDOP(Geometrical DOP)、3次元位置のみを加味したPDOP(Position DOP)等、幾何学的な意味に対応したDOPが定義されている。以下では、特に明記しない場合は、DOPはPDOPであるとしている。
【0157】
このPDOPの値は、例えば次のようにして求めることができる。先ず、測位計算に用いる衛星の位置座標およびGPS受信機の位置座標により図9の(式1)に示すような行列Aを定める。
【0158】
次に、図9に示すように、行列Aの転置行列と行列Aとの積の逆行列として、行例Bを定め、当該行列Bの対角要素を、図9(式2)〜(式5)に示すように定めたとき、PDOPを、図9の(式6)により求めるようにすることができる。
【0159】
この実施形態では、前述のように、位置計算に使用する衛星の集合Pと速度計算に使用する衛星の集合Vが異なることから、位置計算衛星に関するDOP (位置用DOP) と速度計算衛星に関するDOP (速度用DOP) の2種類のDOPを算出するようにする。ここで、位置用DOPおよび速度用DOPは、前述したように、いずれも図9に示したPDOPであるが、ここでは、算出対象となる衛星の集合がPとVとで異なることになる。
【0160】
そして、前述のように、位置計算可能条件を満たす衛星の集合をP、速度計算可能条件を満たす衛星の集合をVとしたとき、受信機位置算出に用いる衛星をP、受信機速度算出に用いる衛星をP∩Vと定めれば、|P|≧|P∩V|となるため、位置DOPをDp、速度DOPをDvとすると、測位に用いる衛星数が位置DOPの場合の方が多いために、Dp≦Dvとなる。
【0161】
従来は、常にDp=Dvであるため、DOP閾値は、位置用DOPと速度用DOPとで共通の閾値Lである。
【0162】
これに対して、この実施形態のように、Dp≦Dvとなる状況において、Dv≦Lであれば、常にDp<Lとなり、測位精度がある程度保証された受信機位置および受信機速度を得ることができる。
【0163】
一方、Dp≦L<Dvのような場合は、位置の測位精度は、ある程度保証されるが、速度の測位精度は保証されない、ということを意味する。この範囲では、受信機位置のみを算出することができる。
【0164】
ここで、受信機位置のみを算出する精度条件を緩和すれば、受信機位置と受信機速度が共に得られる場合の測位精度を、従来の程度に保ちつつ、受信機位置のみを算出する機会を増加させることにより、従来であれば衛星配置が悪い、すなわち、位置用DOPが大きい(Dp>L)ために、受信機位置が求まらないような状況でも、受信機の概略位置を得ることができる。
【0165】
受信機位置のみを算出する条件を緩和するために、この実施形態では、DOP閾値を、位置用DOPと速度用DOPとで別々に定めることとする。すなわち、位置用DOP閾値Lpと速度用DOP閾値Lvを別々に設け、Lp≧Lv=Lとする。
【0166】
以上により、Dv≦Lvの場合は、Dp≦Lv≦Lpも満たすため、受信機位置と受信機速度の測位精度を、従来と同程度に保つことができる。
【0167】
一方、Dv>Lv、かつ、Dp≦Lpの場合は、受信機速度の精度は悪いために当該受信機速度の算出は行なわないが、受信機位置については、測位精度が位置用DOP閾値Lpにより定まる範囲にあると予想されるため、受信機の概略位置として外部に出力する。これにより、この実施形態では、従来は速度計算ができないため非測位であるような状況であっても、ユーザに対して受信機の概略位置を通知することができる。
【0168】
以下に、以上説明した、自受信機位置および自受信機速度を算出するのに必要な衛星の決定から、実際に受信機位置の計算および受信機速度の計算の実行(または計算を実行しない)までの手順(測位実行判定処理手順と呼ぶ)を、図10および図11のフローチャートを参照しながら説明する。
【0169】
先ず、CPU26は、同期保持部25で同期保持されている複数の衛星のうち、拡散符号の発信時刻が既知であり、かつ、軌道情報も既知である衛星の集合を求め、この集合を位置算出用衛星の集合Pとする(ステップS1)。ここで、「軌道情報が既知である」ことは、メモリ29に、対象となる衛星の軌道情報が格納されていれば、その条件を満足することになる。
【0170】
次に、CPU26は、同期保持部25で同期保持されている衛星のうち、同期保持部25からキャリア周波数の情報を得ることができ(すなわち、安定にキャリア周波数の情報の情報を得ることができ)、かつ、軌道情報も既知である衛星の集合を求め、この集合を速度算出用衛星の集合Vとする(ステップS2)。
【0171】
次に、CPU26は、集合Pの要素数(衛星数)が4個以上であるか否か判別する(ステップS3)。集合Pの要素数が4未満であるときには、3次元位置の算出はできないので、この例では、CPU26は、測位失敗の旨の出力信号を出力する(ステップS9)。
【0172】
一方、ステップS3で、集合Pの要素数が4個以上であるときには、3次元位置の算出が可能であるが、実際に測位計算を実行するかどうかは、前述したように、計算誤差の指標となる位置用DOPを求め、予め定められてメモリ29に格納されている位置用DOP閾値Lpと比較することにより判定する。
【0173】
ここで、位置用DOPを求めるためには、前述のように、GPS受信機10の概略位置と、計算に使用する全ての衛星の位置の情報が必要である。受信機10の概略位置は、メモリ29に格納されている、前回の測位計算により求められた位置の情報を用いることとする。
【0174】
そこで、CPU26は、前回、測位に成功し、メモリ29に受信機10の位置情報が格納されていて、受信機位置が既知であるか否か判別する(ステップS4)。このステップS4で、受信機位置が既知であると判別したときには、CPU26は、前述の図9に示した演算式を用いて、集合Pに関するPDOPであるDpを求める(ステップS5)。そして、求めたDpと、メモリ29に格納されているDpに関する閾値Lpとを比較し、Dp≦Lpを満足するか否か判別する(ステップS6)。
【0175】
ステップS6で、Dp>Lpであると判別したときには、CPU26は、計算誤差が大きいと予測されるために、3次元位置の算出を行わず、測位失敗の旨の出力信号を出力する(ステップS9)。
【0176】
また、ステップS6で、Dp≦Lpを満足すると判別したときには、集合Pの衛星を用いてGPS受信機10の3次元位置の算出を実行する(ステップS7)。また、ステップS4で、メモリ29にGPS受信機の位置情報が格納されておらず、GPS受信機10の概略位置が不明である場合には、位置用DOPの算出ができないため、このステップS7に進んで、GPS受信機10の3次元位置の算出を行なう。
【0177】
そして、CPU26は、3次元位置の算出演算において実際に受信機位置が求まったか否か判別する(ステップS8)。3次元位置算出の過程で解が収束しないなどの理由で解が求まらなかった場合は、CPU26は、このステップS8で受信機位置が求まらないと判別し、3次元位置算出処理を中止して、測位失敗の旨の出力信号を出力する(ステップS9)。そして、ステップS9の後は、この測位処理ルーチンを終了する。
【0178】
そして、ステップS8で、GPS受信機10の3次元位置の算出に成功したと判別した場合は、CPU26は、GPS受信機10の3次元速度の算出を試みる。すなわち、CPU26は、集合P∩Vの要素数、すなわち、速度算出用衛星の集合に含まれる衛星数が4個以上であるか否か判別する(図11のステップS11)。
【0179】
ステップS11で、集合P∩Vの要素数が4個未満であると判別したときには、CPU26は、ステップS7で算出した受信機位置を、GPS受信機10の概略位置として出力する(ステップS18)。つまり、受信機速度は算出することができなかったので、GPS受信機の概略位置の情報のみを出力する。このとき、出力される当該受信機位置情報は、概略位置であることを示すフラグなどの付加情報を合わせて出力するようにしても良い。ステップS18の後には、この処理ルーチンを終了する。
【0180】
集合P∩Vの要素数が4個以上であれば、GPS受信機10の3次元速度の算出が可能であるが、実際に3次元速度の算出を行なうかどうかは、受信機位置算出のときと同様に、計算誤差の大きさの指標となるDOPを求め、予め定められて、メモリ29に格納された速度用DOP閾値Lvと比較することにより判定する。
【0181】
ここで、速度用DOPを求めるためには、前述のように、GPS受信機10の概略位置と、計算に使用する全ての衛星の位置の情報が必要である。受信機の概略位置は、メモリ29に格納されている、前回の測位計算で求めた位置を用いることにする。P∩Vの条件より衛星位置も算出可能である。
【0182】
そこで、CPU26は、前回、測位に成功し、メモリ29に受信機10の位置情報が格納されていて、受信機位置が既知であるか否か判別する(ステップS12)。このステップS12で、受信機位置が既知であると判別したときには、CPU26は、前述の図9に示した演算式を用いて、集合Vに関するPDOPであるDvを求める(ステップS13)。そして、求めたDvと、メモリ29に格納されているDvに関する閾値Lvとを比較し、Dv≦Lvを満足するか否か判別する(ステップS14)。
【0183】
ステップS6で、Dv>Lvであると判別したときには、CPU26は、計算誤差が大きいと予測されるために、3次元速度の算出を行わず、ステップS7で算出した受信機位置を、GPS受信機10の概略位置として出力する(ステップS18)。
【0184】
また、ステップS14で、Dv≦Lvを満足すると判別したときには、集合Vの衛星を用いてGPS受信機10の3次元速度の算出を実行する(ステップS15)。また、ステップS12で、メモリ29にGPS受信機10の位置情報が格納されておらず、GPS受信機10の概略位置が不明である場合には、速度用DOPの算出ができないため、このステップS15に進んで、GPS受信機の3次元速度の算出を行なう。
【0185】
そして、CPU26は、3次元速度の算出演算において実際に受信機速度が求まったか否か判別する(ステップS16)。3次元速度算出の過程で解が収束しないなどの理由で解が求まらなかった場合は、CPU26は、このステップS16で受信機速度が求まらないと判別し、3次元速度算出処理を中止して、ステップS7で算出した受信機位置を、GPS受信機10の概略位置として出力する(ステップS18)。そして、ステップS18の後は、この測位処理ルーチンを終了する。
【0186】
そして、ステップS16で、GPS受信機10の3次元速度の算出に成功したと判別した場合は、CPU26は、ステップS7で求めたGPS受信機10の3次元位置の情報と、ステップS15で求めた3次元速度の情報とを出力する(ステップS17)。そして、この測位処理ルーチンを終了する。
【0187】
以上のような、測位処理ルーチンが行なわれた処理結果としては、
(1)受信機位置も受信機速度も求まった。
【0188】
(2)受信機位置のみ求まった。
【0189】
(3)受信機位置も受信機速度も求まらなかった。
【0190】
という3つの場合が想定される。
【0191】
上記(1)の場合は、CPU26は、求まった受信機位置、受信機速度の情報をメモリ29に格納すると共に、I/ Oを通じて外部に、それら求まった受信機位置、受信機速度の情報を、測位結果として出力する。
【0192】
上記(2)の場合は、CPU26は、求まった受信機位置の情報のみをメモリ29に格納すると共に、当該求まった受信機位置の情報を、受信機概略位置として、I/ Oを通じて外部に測位結果として出力する。そして、GPS受信機26は、受信機速度情報については、メモリ29には計算失敗を示す情報を記録し、外部に対しては計算失敗の旨を出力する。
【0193】
上記(3)の場合は、CPU26は、メモリ29には受信機位置および受信機速度の計算失敗すなわち測位失敗を示す情報を記録し、測位失敗の旨をI/ Oを通じて外部に出力する。
【0194】
以上説明したように、この実施形態のGPS受信機10によれば、従来においては受信機位置も受信機速度も得られない状況において、受信機位置を算出することができ、位置測位率の向上に寄与するという効果が得られる。また、受信機の電源を入れてから最初に測位が成功するまでの時間(TTFF;Time To First Fix)の短縮化に寄与する。
【0195】
[その他の実施形態]
以上の実施形態では、同期保持した衛星について、受信機位置算出用の集合Pと、受信機速度算出用の集合Vとを求めた後、それぞれの集合について、位置用DOPおよび速度用DOPを計算するようにした。しかし、集合Pおよび集合Vを求めることなく、異ならせた位置用DOP閾値Lpと速度用DOP閾値Lv(例えばLv<Lp)とを用いて、受信機位置の算出の実行および/または受信機速度の算出の実行をするかどうかを決定するようにしても良い。
【0196】
すなわち、その場合には、同期保持した衛星が4個以上である場合に、測位を行なおうとする衛星についてDOP例えばPDOPを求め、求めたPDOPに対して、互いに独立に、異なって設定された位置用DOP閾値Lpと速度用DOP閾値Lvと比較する。そして、求めたPDOPが、位置用DOP閾値Lp以下であれば、受信機位置の測定を実行し、また、速度用DOP閾値Lv以下であれば、受信機速度の測定を実行するようにすることができる。この場合にも、上述と同様の作用効果が得られる。
【0197】
また、以上の説明は、位置用DOP閾値Lpを、従来のDOP閾値Lよりも緩和(Lp>L)するようにした場合であるが、速度用DOP閾値Lvを、従来のDOP閾値Lよりも緩和(Lv>L)するようにしてもよい。
【0198】
なお、精度指標としては、上述の例では、DOPを用いるようにしたが、DOPに他の要素条件を加えた指標や、その他の指標を用いることもできる。
【0199】
また、以上の実施形態の説明では、同期捕捉部24からの検出結果は、CPU26を介して同期保持部25に渡すようにしたが、同期捕捉部24から、同期保持部25に直接的に渡すように構成することができるものである。
【0200】
また、上述の例では、同期捕捉部24には、デジタルマッチドフィルタを用いた例としたが、この発明では、粗い精度の同期捕捉を同期捕捉部が行い、その結果を同期保持部に渡して、同期確立までを高速化することが目的であるので、同期捕捉部24は、デジタルマッチドフィルタを用いた例に限られるものではない。
【0201】
また、デジタルマッチドフィルタには、上述の例のようなFFTを用いた例のみではなく、前述したように、トランスバーサルフィルタを用いた構成とすることができるものである。
【0202】
また、同期捕捉部や同期保持部の構成は、上述の例の構成に限られるものではなく、その機能を実現することができるものであれば、どのようなものであってもよい。
【0203】
また、この発明は、上述のような同期捕捉部と同期保持部とに分ける構成のGPS受信機に限られるものではなく、例えば、周波数サーチを伴うスライディング相関によりキャリアおよび拡散符号についての同期検出を行なうと同時に、DLLとコスタスループとにより、同期捕捉および同期保持動作をするようにするGPS受信機にも、この発明は適用可能である。
【0204】
また、この発明による衛星信号受信処理装置は、上述したGPSシステム用の受信機に限られるものではなく、例えば、旧ソビエト連邦が構築したGLONASSシステムや、欧州各国が中心となって構築が進められているGALILEOシステム用の受信機にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0205】
【図1】この発明による衛星信号受信処理装置における要部を説明するために用いる図である。
【図2】この発明による衛星信号受信処理装置の一実施形態としてのGPS受信機の構成例を示すブロック図である。
【図3】図2のGPS受信機の一部の構成を説明するための図である。
【図4】図2のGPS受信機の一部の構成を説明するための図である。
【図5】図2のGPS受信機における動作を説明するために用いる図である。
【図6】図2のGPS受信機の一部の構成を説明するための図である。
【図7】図2のGPS受信機の一部の構成を説明するための図である。
【図8】図2のGPS受信機の一部の構成を説明するための図である。
【図9】精度指標としてのDOPを求める演算式を示す図である。
【図10】図2のGPS受信機の要部の動作説明のためのフローチャートの一部である。
【図11】図2のGPS受信機の要部の動作説明のためのフローチャートの一部である。
【符号の説明】
【0206】
10…GPS受信機、23…周波数変換部、24…同期捕捉部、25…同期保持部、26…CPU、29…メモリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理装置において、
複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記拡散符号の発信時刻が既知である人工衛星の集合を、自装置の位置の算出に使用する位置算出用人工衛星の集合として決定する位置算出用衛星決定手段と、
前記複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記受信信号の搬送波周波数が安定していると判断された人工衛星の集合を、自装置の速度の算出に使用する速度算出用人工衛星の集合として決定する速度算出用衛星決定手段と、
を備えることを特徴とする衛星信号受信処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衛星信号受信処理装置において、
前記位置算出用衛星決定手段および前記速度算出用衛星決定手段は、前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合から、前記位置算出用衛星の集合および前記速度算出用衛星の集合を決定する
ことを特徴とする衛星信号受信処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の衛星信号受信処理装置において、
前記位置算出用人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め定められた位置精度指標閾値以下のときのみ前記自装置の位置の計算を行ない、
前記速度算出用人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め前記位置精度指標閾値とは独立に定められた速度精度指標閾値以下のときのみ前記自装置の速度の計算を行なう
ことを特徴とする衛星信号受信処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の衛星信号受信処理装置において、
前記位置精度指標閾値および前記速度精度指標閾値は、DOP(dilution of precision;精度低下率)を用いたものである
ことを特徴とする衛星信号受信処理装置。
【請求項5】
複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理装置において、
前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合のうちの、自装置の測位計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め定められた位置精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて測位計算を実行する手段と、
前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合のうちの、自装置の速度計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め前記位置精度指標閾値とは独立に定められた速度精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて前記速度計算を実行する手段と
を備える人工衛星信号受信装置。
【請求項6】
請求項5に記載の衛星信号受信処理装置において、
前記位置精度指標閾値および前記速度精度指標閾値は、DOP(dilution of precision;精度低下率)を用いたものである
ことを特徴とする衛星信号受信処理装置。
【請求項7】
複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理方法において、
複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記拡散符号の発信時刻が既知である人工衛星の集合を、自装置の位置の算出に使用する位置算出用人工衛星の集合として決定する位置算出用衛星決定工程と、
前記複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記受信信号の搬送波周波数が安定していると判断された人工衛星の集合を、自装置の速度の算出に使用する速度算出用人工衛星の集合として決定する速度算出用衛星決定工程と、
を備えることを特徴とする衛星信号受信処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の衛星信号受信処理方法において、
前記位置算出用衛星決定工程および前記速度算出用衛星決定工程においては、前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合から、前記位置算出用衛星の集合および前記速度算出用衛星の集合を決定する
ことを特徴とする衛星信号受信処理方法。
【請求項9】
請求項7に記載の衛星信号受信処理方法において、
前記位置算出用人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め定められた位置精度指標閾値以下のときのみ前記自装置の位置の計算を行ない、
前記速度算出用人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め前記位置精度指標閾値とは独立に定められた速度精度指標閾値以下のときのみ前記自装置の速度の計算を行なう
ことを特徴とする衛星信号受信処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載の衛星信号受信処理方法において、
前記位置精度指標閾値および前記速度精度指標閾値は、DOP(dilution of precision;精度低下率)を用いたものである
ことを特徴とする衛星信号受信処理方法。
【請求項11】
自装置の測位計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め定められた位置精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて測位計算を実行する工程と、
自装置の速度計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め前記位置精度指標閾値とは独立に定められた速度精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて前記速度計算を実行する工程と、
を備える人工衛星信号受信方法。
【請求項12】
請求項11に記載の衛星信号受信処理方法において、
前記位置精度指標閾値および前記速度精度指標閾値は、DOP(dilution of precision;精度低下率)を用いたものである
ことを特徴とする衛星信号受信処理方法。
【請求項1】
複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理装置において、
複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記拡散符号の発信時刻が既知である人工衛星の集合を、自装置の位置の算出に使用する位置算出用人工衛星の集合として決定する位置算出用衛星決定手段と、
前記複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記受信信号の搬送波周波数が安定していると判断された人工衛星の集合を、自装置の速度の算出に使用する速度算出用人工衛星の集合として決定する速度算出用衛星決定手段と、
を備えることを特徴とする衛星信号受信処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衛星信号受信処理装置において、
前記位置算出用衛星決定手段および前記速度算出用衛星決定手段は、前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合から、前記位置算出用衛星の集合および前記速度算出用衛星の集合を決定する
ことを特徴とする衛星信号受信処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の衛星信号受信処理装置において、
前記位置算出用人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め定められた位置精度指標閾値以下のときのみ前記自装置の位置の計算を行ない、
前記速度算出用人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め前記位置精度指標閾値とは独立に定められた速度精度指標閾値以下のときのみ前記自装置の速度の計算を行なう
ことを特徴とする衛星信号受信処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の衛星信号受信処理装置において、
前記位置精度指標閾値および前記速度精度指標閾値は、DOP(dilution of precision;精度低下率)を用いたものである
ことを特徴とする衛星信号受信処理装置。
【請求項5】
複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理装置において、
前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合のうちの、自装置の測位計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め定められた位置精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて測位計算を実行する手段と、
前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合のうちの、自装置の速度計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め前記位置精度指標閾値とは独立に定められた速度精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて前記速度計算を実行する手段と
を備える人工衛星信号受信装置。
【請求項6】
請求項5に記載の衛星信号受信処理装置において、
前記位置精度指標閾値および前記速度精度指標閾値は、DOP(dilution of precision;精度低下率)を用いたものである
ことを特徴とする衛星信号受信処理装置。
【請求項7】
複数の人工衛星からの拡散符号によりスペクトラム拡散された信号を受信し、その受信信号に基づいて自装置の位置および自装置の速度を算出する衛星信号受信処理方法において、
複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記拡散符号の発信時刻が既知である人工衛星の集合を、自装置の位置の算出に使用する位置算出用人工衛星の集合として決定する位置算出用衛星決定工程と、
前記複数の人工衛星の集合から、前記人工衛星の軌道情報が既知であり、かつ、前記受信信号の搬送波周波数が安定していると判断された人工衛星の集合を、自装置の速度の算出に使用する速度算出用人工衛星の集合として決定する速度算出用衛星決定工程と、
を備えることを特徴とする衛星信号受信処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の衛星信号受信処理方法において、
前記位置算出用衛星決定工程および前記速度算出用衛星決定工程においては、前記受信信号について前記拡散符号および前記搬送波周波数の同期保持がなされている複数の人工衛星の集合から、前記位置算出用衛星の集合および前記速度算出用衛星の集合を決定する
ことを特徴とする衛星信号受信処理方法。
【請求項9】
請求項7に記載の衛星信号受信処理方法において、
前記位置算出用人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め定められた位置精度指標閾値以下のときのみ前記自装置の位置の計算を行ない、
前記速度算出用人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め前記位置精度指標閾値とは独立に定められた速度精度指標閾値以下のときのみ前記自装置の速度の計算を行なう
ことを特徴とする衛星信号受信処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載の衛星信号受信処理方法において、
前記位置精度指標閾値および前記速度精度指標閾値は、DOP(dilution of precision;精度低下率)を用いたものである
ことを特徴とする衛星信号受信処理方法。
【請求項11】
自装置の測位計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め定められた位置精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて測位計算を実行する工程と、
自装置の速度計算に用いる複数個の人工衛星の配置から定まる精度指標が、予め前記位置精度指標閾値とは独立に定められた速度精度指標閾値以下である前記複数個の人工衛星からの受信信号を用いて前記速度計算を実行する工程と、
を備える人工衛星信号受信方法。
【請求項12】
請求項11に記載の衛星信号受信処理方法において、
前記位置精度指標閾値および前記速度精度指標閾値は、DOP(dilution of precision;精度低下率)を用いたものである
ことを特徴とする衛星信号受信処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−38792(P2006−38792A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222917(P2004−222917)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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