説明

衛星信号受信装置

【課題】 電源に無理な負荷をかけずに安定且つ高速な受信処理を行うことができる衛星信号受信装置を提供する。
【解決手段】 測位用衛星から送信された衛星信号を取得する衛星信号受信装置1において、測位用衛星が送信する周波数帯の電波を受信する受信手段12と、受信手段12が受信した電波に基づく所定の期間の受信データを記憶する記憶手段13と、記憶手段13に記憶された受信データから衛星信号を検出する検出手段16と、記憶手段13から検出手段16へのデータ出力処理速度、及び、記憶手段13から出力される受信データに基づく検出手段16による検出処理速度を制御し、データ出力処理速度と検出処理速度とを同期させて予め定められた処理速度から低減可能に構成されているクロック制御手段19、20と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、測位用衛星からの電波を受信する衛星信号受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
以前より、GPS(Global Positioning System)をはじめとするGNSS(Global Navigation Satellite System)を利用し、測位用衛星からの電波を受信して衛星信号を解読することで時刻情報や位置情報を取得する携帯端末機器がある。例えば、GPSで用いられる各測位用衛星(GPS衛星)から送信されている時刻情報を取得することで、携帯端末機器の現在時刻データを設定したり、修正したりすることができる。また、GPS衛星のうち少なくとも4機から電波を受信して時刻情報およびGPS衛星の軌道情報を取得することにより、携帯端末機器の現在位置を算出することができる。
【0003】
これらのGPS衛星から送信される電波の周波数は何れも同一である。しかしながら、各GPS衛星が軌道上を高速で移動することで、GPS衛星から送信された電波は、ドップラー効果により送信周波数から外れた周波数で受信される。また、各GPS衛星からの衛星信号は、GPS衛星毎に定められ、各GPS衛星の時刻と同期して生成される拡散符号(擬似ランダム雑音符号)により位相変調(スペクトル拡散)された上で送信されている。従って、予めGPS衛星の軌道情報やユーザの位置情報を持たない携帯端末機器を用いて何れかのGPS衛星から電波を受信する際には、先ず、電波を受信可能なGPS衛星および受信周波数を探索し、当該GPS衛星からの衛星信号を復調する逆拡散符号(拡散符号と同一の擬似ランダム雑音符号)と受信した衛星信号の拡散符号とを位相同期させる捕捉処理を行う必要がある。
【0004】
この捕捉処理では、受信周波数の送信周波数からの変化量、GPS衛星の識別番号に対応した擬似ランダム雑音符号のパターン、及び、擬似ランダム雑音符号の位相からなる受信パラメータをそれぞれ変化させ、総当りで組み合わせてコード信号を生成する。そして、この生成されたコード信号と受信した電波信号との相関値を求めることにより、衛星電波を検出する。このような処理では、演算量が非常に多くなり、従って、長い処理時間が必要となる。そこで、従来、相関値を求める相関器を多数利用し、同時並列的に処理を行うことにより探索時間を短縮する技術が開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−266834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、同時並列的に多くの演算処理を行うと、衛星信号の受信装置内で一時に多くの電力が消費されて大きな電流が流れることになる。従って、安定且つ高速に動作させるには、一時的な大電流を流すことが可能な大型のバッテリやキャパシタを受信装置に搭載するなど、電源設計に気を配らなければならないという課題があった。
【0007】
この発明の目的は、電源に無理な負担をかけずに安定且つ高速な受信処理を行うことができる衛星信号受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
測位用衛星から送信された衛星信号を取得する衛星信号受信装置において、
前記測位用衛星が送信する周波数帯の電波を受信する受信手段と、
前記受信手段が受信した電波に基づく所定の期間の受信データを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された受信データから前記衛星信号を検出する検出手段と、
前記記憶手段から前記検出手段へのデータ出力処理速度、及び、前記記憶手段から出力される受信データに基づく前記検出手段による検出処理速度を制御し、前記データ出力処理速度と前記検出処理速度とを同期させて予め定められた処理速度から低減可能に構成されているクロック制御手段と、
を備えていることを特徴としている。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の衛星信号受信装置において、
電力を供給する電源部と、
前記電源部から供給される電流値を計測する電流値計測手段と、
を備え、
前記クロック制御手段は、前記電流値計測手段により計測される電流値が所定の値以下となるように前記データ出力処理速度と前記検出処理速度とを制御する
ことを特徴としている。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の衛星信号受信装置において、
前記検出手段は、
複数の受信パラメータをそれぞれ切り替えて、当該複数の受信パラメータの組み合わせのうち、衛星信号が検出される組み合わせを探索する処理を、複数の組み合わせに対し同時並列的に実行可能である
ことを特徴としている。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の衛星信号受信装置において、
前記検出手段により検出された衛星信号を継続的に追尾する追尾手段を備え、
前記検出手段は、マッチドフィルタを有し、
前記追尾手段は、スライディング相関器を有する
ことを特徴としている。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の衛星信号受信装置において、
前記受信手段の動作状態を切り替えて、前記記憶手段から前記検出手段へ受信データが出力されている間には、前記受信手段を非動作の状態とする受信動作制御手段を備える
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従うと、衛星信号受信装置において、衛星から入力した電波信号を記憶する記憶手段と、衛星信号の検出を行う検出手段とを備え、当該検出手段での検出処理が実行される際に、記憶手段から検出手段へのデータ出力処理速度と検出手段での検出処理速度とを同期させて予め定められた処理速度から低減させることの可能なクロック制御手段を備えているので、電源に無理な負担をかけずに安定且つ高速な受信処理を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態である電子時計の内部構成を示すブロック図である。
【図2】捕捉回路に用いられる相関器の構成を示す図である。
【図3】追尾回路に用いられる相関器の構成を示す図である。
【図4】GPS電波の受信処理の制御手順を示すフローチャートである。
【図5】GPS電波の捕捉処理の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態である衛星信号受信装置を電子時計に適用した場合の電子時計の内部構成を示すブロック図である。
【0017】
この電子時計1は、GPS衛星からの電波を受信して時刻情報及び現在位置情報を取得可能であり、取得された時刻情報に基づいて現在時刻データの修正が行われる時計である。
【0018】
電子時計1は、アンテナ11と、受信手段としてのRF受信部12と、記憶手段としてのメモリ部13と、セレクタ14と、信号検出部15と、デコーダ18と、クロック供給回路19と、受信動作制御手段としてのCPU(Central Processing Unit)20と、RAM(Random Access Memory)21と、ROM(Read Only Memory)22と、表示部23と、計時部24と、電源部25と、電流値計測手段としての電流検出部26などを備えている。ここで、クロック供給回路19およびCPU20により、クロック制御手段が構成される。
【0019】
アンテナ11は、GPS衛星から送信されている1.57542GHz帯の電波を受信可能に構成されている小型のアンテナであり、例えば、パッチアンテナである。
【0020】
RF受信部12は、例えば、1個の集積回路からなり、アンテナ11により受信された電波に係る受信信号を増幅する増幅回路(LNA)や、受信信号から衛星信号の周波数帯以外の信号成分を除去するバンドパスフィルタ(BPF)や、局部発振信号を混合させて受信信号を中間周波数帯の信号に変換するミキサ回路や、中間周波数のアナログ信号を所定のサンプリング周波数でデジタル変換するアナログ・デジタル変換器(ADC)等を備えている。BPFは、例えば、数MHzの通過帯域幅を持ち、この通過帯域幅は、ドップラー効果による受信周波数の変化幅(±10KHz程度)に比して十分広い。また、変換された中間周波数は、数MHz程度である。なお、ADCの代わりに、例えば、リミッタやコンパレータを用いて出力電圧を2値化することも可能である。
【0021】
RF受信部12は、CPU20からの電源制御信号に基づき、電源をオンされることで受信動作を実行したり、電源をオフされることで受信動作を停止したりといった切換が可能になっている。電源制御信号により電源がオフされている間は、このRF受信部12における電流消費が非常に小さく抑えられる。或いは、LNAへの増幅電圧の供給やADCへのサンプル動作クロックの供給を停止することで非動作状態として、電流消費を抑えることとしてもよい。
【0022】
メモリ部13は、データを記憶するRAM13bと、RAM13bへのデータの書込みや読出しのアドレス、速度、および、タイミングを制御するメモリコントローラ13a等から構成される。
【0023】
RAM13bは、受信データから衛星信号を探索する捕捉処理を実行する際に用いられる所定時間の時系列データを一時的に蓄積するものであり、RF受信部12から出力されるデジタル信号を、例えば、10ミリ秒分記憶可能な容量を有している。
【0024】
メモリコントローラ13aは、CPU20からの動作制御信号を受けて、RF受信部12から出力されるデジタル信号を取り込んで時系列順にRAM13bに書き込んだり、このデータを時系列順に読み出してセレクタ14側へ出力したりする。
【0025】
このメモリ部13は、クロック供給回路19から動作クロックを受けて動作し、動作クロックが停止されることでメモリ部13の動作も停止する。また、この動作クロックを初期設定のクロック周波数から低下させることでRAM13bからデータを読み出す速度を低速にすることが可能となっている。低下可能なクロック周波数は、例えば、初期設定のクロック周波数の1/2や1/4である。なお、初期設定状態より高速に動作させることも可能なようにクロック周波数の初期設定を行ってもよい。
【0026】
セレクタ14は、CPU20からの選択制御信号に基づいて、信号検出部15へ送る信号の入力元をRF受信部12、又は、メモリ部13の何れかの間で切り換える。
【0027】
信号検出部15は、受信パラメータを変化させながら衛星信号を探索して検出する捕捉回路(検出手段)16と、検出された衛星信号を追尾しながら復調する追尾回路(追尾手段)17とを備えている。捕捉回路16は、各GPS衛星の擬似ランダム雑音符号(例えば、C/Aコード)を用いて生成したコード信号と受信電波に係る受信信号との相関値を求めて、一定値以上の相関値が得られる受信パラメータの設定を求める。このとき、捕捉回路16は、受信パラメータとして検出対象とする衛星信号の周波数、コード信号の生成に用いる擬似ランダム雑音符号、および、生成したコード信号と受信信号との位相差をそれぞれ変化させて、予め定められた範囲内の全ての組み合わせに対して相関値の算出を行う。追尾回路17は、捕捉回路16において検出された衛星信号に対して周波数や位相差を適宜調整しながら逆拡散処理を行い、衛星信号を復調する。これらの捕捉回路16、および、追尾回路17の内部構成、および、探索および追尾の原理については、後に詳述する。
【0028】
これら捕捉回路16および追尾回路17は、クロック供給回路19から動作クロックをそれぞれ独立的に受けて動作し、動作クロックの供給が停止されることで回路の動作が停止される構成となっている。
【0029】
クロック供給回路19は、所定の周波数の信号を発振して出力する発振回路、および、発振回路の発振周波数を分周する分周回路などを備えている。このクロック供給回路19は、CPU20からの切換制御信号に応じてメモリ部13や信号検出部15の指定された部位へ動作クロックを供給する。また、CPU20からのクロック切換制御信号により、メモリコントローラ13aや捕捉回路16へ供給する動作クロックの周波数を初期設定周波数から低下させることが可能となっている。
【0030】
デコーダ18は、追尾回路17で復調された衛星信号から航法メッセージを復号する。この復号された航法メッセージは、CPU20により解読されて、時刻データや軌道情報が取得される。
【0031】
電流検出部26は、電子時計1の各部が動作する際に電源部25から供給される電流値を計測して、この計測値をCPU20に出力する。なお、電流検出部26は、消費電力を算出してCPU20へ出力することとしてもよい。
【0032】
ROM22には、CPU20が実行する制御プログラムとして、計時部24の計時データと同期させて表示部23の表示内容を更新することで表示部23に計時データに対応した時刻表示を行わせる時刻表示処理のプログラムや、所定のタイミングでGPS衛星から衛星信号を受信して時刻情報を取得するとともにこの時刻情報に基づいて計時部24の計時時刻を修正する受信制御処理、および、時刻修正処理のプログラム等が格納されている。
【0033】
RAM21は、CPU20に作業用のメモリ空間を提供するとともに、GPS衛星からの受信履歴といった一時データを記憶する。
【0034】
次に、上記構成の電子時計1における衛星信号の検出および追尾の方法について説明する。
【0035】
各GPS衛星から送信される衛星信号では、1個当たり20msの長さを持つ1ビット符号データが所定のフォーマットで配列された航法メッセージにより情報が表される。この航法メッセージは、送信周波数の搬送波信号で位相変調されるとともに、擬似ランダム雑音信号でスペクトル拡散(位相変調)がなされて送信される。GPSが使用している送信周波数のうちL1帯送信電波において用いられている擬似ランダム雑音符号としては、C/AコードとP(Y)コードとがある。このうち、一般に公開されているC/Aコードは、1023kHzで送信される1ビット符号データ(チップ)1023個が所定の順番に配列されたものであり、即ち、C/Aコードの1周期が1msである。このC/Aコードは、航法メッセージを示す符号データ1個につき20周期繰り返される。また、C/Aコード1チップの長さは、搬送波信号の1540周期となる。
【0036】
一方、GPS衛星は、それぞれ軌道上を高速で移動している。従って、1.57542GHzで送信された電波は、電子時計1との相対速度に基づくドップラー効果により送信周波数とは若干異なる周波数で受信されることとなる。そこで、捕捉回路16や追尾回路17で衛星信号を復調する際には、信号検出部15内の局部発振器から出力されて中間周波数信号に混合される中間周波数搬送波の周波数を細かく制御する(例えば、100Hzステップで±15kHzの範囲)ことで、受信周波数を調整する。
【0037】
C/Aコードは、それぞれのGPS衛星ごとに固有の符号配列が設定されている。あるC/Aコードでスペクトル拡散された衛星信号は、同一のC/Aコードによる同一の位相の波形信号で復調され、一方、他の衛星信号は、更にスペクトル拡散されるので、混信を生じずに目的の衛星信号のみを取得することが可能となる。そこで、受信周波数、C/Aコード、及び、C/Aコードの位相を変化させながらこのC/Aコードに係るGPS衛星からの衛星信号が検出されるか否かを調べていくことで、全ての条件が一致して受信可能となるGPS衛星からの電波を探索する。
【0038】
図2は、捕捉回路16に用いられているマッチドフィルタの構成を示す図である。また、図3は、追尾回路17に用いられているスライディング相関器の構成を示す図である。
【0039】
図2に示すように、本実施形態の電子時計1におけるマッチドフィルタでは、例えば、1023個のDフリップフロップが直列に接続されたシフトレジスタが用いられている。このシフトレジスタには、1023kHzでサンプリングされた受信データが順番に1023個入力されてシフトしていく。一方で、C/Aコード生成器によりC/Aコード1周期分1023個の符号データが生成される。そして、シフトレジスタの各Dフリップフロップが保持する値とC/Aコード生成器で生成された同位相の符号データの値とがそれぞれ乗算器で乗算される。これらの乗算器からの出力は、加算器で積算され、この積算された値が相関値として出力される。更に、シフトレジスタへの入力信号を1チップずつ追加することで位相をずらしていきながら、それぞれの位相に対して相関値を算出することにより、C/Aコード1周期分の位相全てに対する相関値が求められる。このマッチドフィルタは、複数台設けることで、複数のGPS衛星に対応するC/Aコードそれぞれに対して同時に検出処理を行うことができるように構成してもよい。
【0040】
図3に示すように、スライディング相関器では、1チップずつ受信信号を順番に入力するとともに、C/Aコード生成器から1チップずつ順番に信号を出力して両者を逐次乗算する。そして、乗算された値を前回までの乗算結果の積算値に更に加算して保持する。この動作を1023回繰り返すことにより、一のC/Aコードの一の位相に対する相関値が算出される。なお、スライディング相関器は、例えば、1台のスライディング相関器に対して前後にそれぞれ1チップ以内の位相差のC/Aコードを生成して入力可能な2台のスライディング相関器を併せて設けることにより、より効率的に位相同期点を検出することができるようにすることが可能である。或いは、更に多くのスライディング相関器を備えることもできる。
【0041】
このように、マッチドフィルタでは、一のC/Aコードにおける全位相に対する総演算時間が劇的に短縮されるが、同時に複数のDフリップフロップ及び乗算器を動作させることで、一時に消費する電力が増大する(例えば、10〜10)。一方、スライディング相関器では、一度に一つの演算器のみが動作し、一時に消費する電力が低く抑えられるが、繰り返し演算の回数が増加して総演算時間が長くなる。そこで、本実施形態の電子時計1では、マッチドフィルタは、演算量の多い捕捉回路16に用いられ、スライディング相関器は、追尾回路17に用いられる。
【0042】
次に、電子時計1におけるGPSを利用した時刻データの取得および修正処理について、フローチャートを用いて説明する。
【0043】
図4は、時刻データ取得処理のCPU20による制御手順を示すフローチャートである。また、図5は、時刻データ取得処理の途中で呼び出される捕捉処理のサブルーチンを示すフローチャートである。
【0044】
この時刻データ取得処理は、例えば、毎日予め定められた時刻にROM22から実行プログラムが呼び出されて自動的に開始される処理である。
【0045】
時刻データ取得処理が開始されると、先ず、CPU20は、図4に示すように、RF受信部12へ電源制御信号を送り、RF受信部12の電源をオンして電波受信を開始させる。また、CPU20は、RAM13bに受信データを蓄積記憶させる(ステップS1)。具体的には、CPU20は、クロック供給回路19へ出力切換制御信号を送ってRF受信部12に動作クロックを供給させ、RF受信部12によりリアルタイムで受信された電波に基づく受信データを所定のサンプリング周波数でデジタル変換して出力させる。また、CPU20は、RF受信部12から出力されるデジタル変換された受信データをRAM13bが同一のサンプリング周波数で取得するための動作周波数クロック信号をクロック供給回路19からメモリ部13へ出力させる。それから、CPU20は、メモリコントローラ13aへ動作制御信号を送り、RF受信部12から出力された受信データをRAM13bに記憶させる。この段階では、CPU20は、クロック供給回路19への出力切換制御信号により、信号検出部15を動作させない。
【0046】
次に、CPU20は、RAM13bに記憶可能な容量分の受信データが取得されたか否かを判別する(ステップS2)。未だRAM13bに所定時間(例えば、10ms)の受信データが蓄積されておらず、RAM13bが満杯になっていないと判別された場合には、CPU20は、ステップS1へ戻って受信データの取得処理を継続する。10ms間のデータが蓄積されて、RAM13bが満杯になったと判別された場合には、CPU20の処理は、ステップS3へ移行する。
【0047】
続いて、CPU20は、RF受信部12へ電源制御信号を送ってRF受信部12の電源をオフする。また、CPU20は、セレクタ14に選択制御信号を送り、データの入力元をメモリ部13に設定する。そして、CPU20は、捕捉回路16に後述する捕捉処理を行わせる(ステップS3)。CPU20は、この捕捉処理でGPS衛星のうちの何れかから電波が受信されているかを探索する。それから、CPU20は、捕捉処理でGPS衛星からの電波が検出されたか否か、即ち、GPS衛星が発見されたか否かを判別する(ステップS4)。GPS衛星からの電波が検出されず、GPS衛星が発見されなかったと判別された場合には、CPU20の処理は、ステップS9へ移行して捕捉処理で行われたGPS受信動作を停止させる。
【0048】
一方、ステップS4の判別処理で、GPS衛星からの電波が検出され、GPS衛星が発見されたと判別された場合には、CPU20は、続いて、RF受信部12へ電源制御信号を送ってRF受信部12の電源をオンし、電波受信を再開させる。また、CPU20は、セレクタ14へ選択制御信号を送ってRF受信部12から送られる受信データを通過させ、追尾回路17へ入力させる。
【0049】
CPU20は、検出されたGPS衛星からの電波に係る受信信号から、擬似ランダム雑音符号との位相同期点を同定する処理を行う(ステップS5)。このとき、CPU20は、捕捉処理の結果に基づき、電波が検出されたGPS衛星の衛星番号および受信周波数の設定を利用する。そして、擬似ランダム雑音符号との位相同期点が検出されると、CPU20は、追尾回路17にこの位相同期点を追尾させながら復調されたデータをデコーダ18へ入力させ、デコーダ18に航法メッセージを復号させる(ステップS6)。また、CPU20は、復号された航法メッセージデータを取得する。
【0050】
それから、CPU20は、デコーダ18により復号された航法メッセージから現在時刻の算出に必要なデータが取得されたか否かを判別する(ステップS7)。未だ必要なデータが取得されていないと判別された場合には、ステップS6へ戻り、CPU20は、デコーダ18による航法メッセージの復号を継続させて、この復号された航法メッセージデータを取得する。現在時刻の算出に必要なデータが取得されたと判別された場合には、CPU20は、取得したデータに基づいて現在時刻を算出し、計時部24の時刻データを修正する(ステップS8)。また、計時部24の時刻データに基づいて表示部23に表示させる時刻を更新させる。そして、CPU20の処理は、ステップS9へ移行する。CPU20は、RF受信部12に電源制御信号を送ってRF受信部12の電源をオフさせ、また、クロック供給回路19に追尾回路17への動作クロックの供給を停止させることで、GPS受信動作を終了する。
【0051】
ステップS9の処理でGPS受信動作が終了すると、CPU20は、翌日の同時刻まで待機する(ステップS10)。或いは、ステップS4の判別処理でGPS衛星からの電波が検出できなかったと判別された場合には、CPU20は、例えば、1時間後に改めて時刻データ取得処理を再開することとしてもよい。
【0052】
次に、ステップS3における捕捉処理の詳細について説明する。
【0053】
図5に示すように、捕捉処理へ移行すると、先ず、CPU20は、検出対象の搬送波周波数の初期化を行う(ステップS21)。具体的には、CPU20は、RAM21に記憶された搬送波周波数を示す変数をリセットするとともに、初期値を、例えば、ROM22に記憶させたテーブルから取得する。それから、CPU20は、取得した値を変数として設定する(ステップS22)。
【0054】
次に、CPU20は、衛星番号の初期化を行う(ステップS23)。具体的には、CPU20は、RAM21に記憶された検出対象の衛星番号を示す変数をリセットするとともに、初期値を、例えば、ROM22に記憶させたテーブルから取得する。それから、CPU20は、衛星番号を示す変数としてこの取得した初期値を設定し、また、設定された衛星番号を示す変数に基づいて捕捉回路16のC/Aコード生成器が生成するC/Aコードのパターンを設定する(ステップS24)。
【0055】
CPU20は、RAM21に記憶されたメモリ部13から読み出す受信データのアドレスをリセットする(ステップS25)。次いで、CPU20は、電流検出部26の計測値に基づいて、RAM13bからのデータ読出し動作および捕捉回路16の動作を行わせる動作クロック周波数の設定を行う(ステップS26)。ここで、設定される動作クロック周波数は、初期設定状態では、リアルタイムでRF受信部12から受信データを入力させる速度より大きい。そして、この動作クロック周波数は、電流検出部26による計測値が大きくなるほど減速され、捕捉回路16を動作させたときに電源部25から供給される電流が電源部25の安定動作を維持可能な所定の値を超えないように設定される。
【0056】
そして、CPU20は、クロック供給回路19にクロック切換制御信号を送り、設定された動作クロック周波数でクロック信号を供給するように切り換える。また、CPU20は、クロック供給回路19に出力切換制御信号を送り、メモリコントローラ13aおよび捕捉回路16へこの切り換えられた周波数の動作クロック信号を供給させる。それから、CPU20は、セレクタ14へ選択制御信号を送り、入力元をメモリ部13側に切り替える。
【0057】
更に、CPU20は、動作制御信号をメモリコントローラ13aへ送り、RAM13bからセレクタ14側へデータの出力を行わせる。CPU20は、メモリコントローラ13aへ読出しアドレスと読出しコマンドとを出力し、また、RAM13bから読み出され、セレクタ14を介して捕捉回路16へ入力された受信データを順にシフトレジスタへ記憶させていく。CPU20は、シフトレジスタへ格納された受信データが1つずつシフトしていく毎に、設定に基づきC/Aコードを生成して各乗算器に出力させる。そして、CPU20は、各乗算器の出力を積算した捕捉回路16からの出力データを相関値として取得する(ステップS27)。これらの処理の間、CPU20は、電流検出部26の計測データを監視しながらクロック供給回路19にクロック切換制御信号を送って随時動作クロック周波数を変化させることも可能である。
【0058】
それから、CPU20は、RAM13bからの受信データの読み出しが全て終了したか否かを判別する(ステップS28)。受信データの読み出しが終了していないと判別された場合には、CPU20は、ステップS27へ戻って次のデータをRAM13bから読み出して捕捉回路16に入力させ、また、算出された相関値を取得する。全データの読み出しが終了したと判別された場合には、CPU20は、ステップS29へ移行する。
【0059】
RAM13bからの全データの読み出しが終了すると、CPU20は、取得した相関値データを衛星番号、搬送波周波数、および、C/Aコードの位相情報と関連付けて、例えば、RAM21に保存する(ステップS29)。このとき、取得した相関値全てを保存することも可能であるし、最大値のみを保存することとしてもよい。また、例えば、C/Aコード10周期分の相関値をそれぞれ取得し、同位相のデータ配列に対する10個の相関値をそれぞれ積算した値を保存することとしてもよい。
【0060】
続いて、CPU20は、設定されている衛星番号を変更する(ステップS30)。例えば、CPU20は、ROM22のテーブルに設定されている順番に次の衛星番号を示す値を読み出す。それから、CPU20は、全ての衛星番号が設定完了したか否かを判別する(ステップS31)。未だ、例えば、ROM22のテーブル内にある衛星番号を示す変数のうちに読み出されていないものがあり、全衛星番号に対する相関値を保存する処理が完了していないと判別された場合には、CPU20の処理は、ステップS24へ戻る。CPU20は、衛星番号を示す変数値としてステップS30の処理で取得された値を設定し、また、C/Aコード生成器によるC/Aコードの生成パターンを変更する。そして、ステップS24〜S31の処理を繰り返す。
【0061】
一方、既に、例えば、全ての衛星番号を示す値がROM22のテーブルから読み出されていて、全衛星番号に対する相関値を保存する処理が完了していると判別された場合には、CPU20の処理は、ステップS32へ移行する。そして、CPU20は、検出対象とする搬送波周波数の次の設定値を取得する(ステップS32)。続いて、CPU20は、全ての搬送波周波数に対する捕捉処理が完了したか否かを判別する(ステップS33)。全ての搬送周波数に対する捕捉処理が完了したと判別された場合、例えば、次の搬送波周波数が読み込めなかったり、設定の範囲外となったりした場合には、捕捉処理を終了して時刻データ取得処理へ戻る。一方、未だ全ての搬送波周波数に対する捕捉処理が完了していないと判別された場合には、CPU20の処理は、ステップS22へ戻る。そして、CPU20は、ステップS22〜S33の処理を繰り返す。
【0062】
そして、全ての衛星番号、搬送波周波数、および、C/Aコードの各位相における相関値が取得され、必要な値が保存された後に時刻取得・修正処理に戻り、保存された相関値を、例えば、所定の閾値レベルと比較することにより、GPS衛星からの電波が受信されたか否か、および、受信された場合のその受信周波数と衛星番号とが取得される。
【0063】
なお、上記の実施形態では、全てのGPS衛星および受信周波数に対する探索を行った後に受信されたか否かの判別を行ったが、捕捉処理において各GPS衛星における相関値の取得処理(ステップS27)が終了するたびに衛星信号が検出されたか否かの判別処理を行い、所定の数の衛星信号が検出された時点で捕捉処理を終了することとしてもよい。
【0064】
また、上記の実施形態では、CPU20、RAM21、および、ROM22を用いて捕捉処理の制御が行われたが、捕捉回路16に別途データ記憶領域や演算部を設け、捕捉回路16が独立に捕捉処理を実行できるように構成することとしてもよい。
【0065】
以上のように、本発明の実施形態の電子時計1によれば、RF受信部12で受信された電波に係る受信データを記憶するRAM13bと、RAM13bの記憶データに基づいてGPS衛星からの電波を検出する捕捉回路16とを備え、通常時に比して非常に電力消費量が増加する捕捉回路16を用いてGPS衛星からの電波を検出する際には、RAM13bから捕捉回路16へのデータ出力処理速度および捕捉回路16における検出処理速度を予め設定されている回路上の処理可能速度よりも低く抑えることによって電力消費量を制御することができる。従って、電源回路を安定に保ったまま高速に検出処理を行うことができる。
【0066】
また、特に、電子腕時計などの電力供給に制限のある携帯端末でGPS衛星からの電波を受信して時刻情報を取得する場合には、小型な装置内に大型な電源を配置する必要がなく、ソフトウェア制御のみによって安定して時刻情報の取得を行うことができる。
【0067】
また、電流検出部26を備え、この電流検出部26により計測された電源部25から供給される電流値が電子時計1の安定動作を妨げない範囲内に収まるようにRAM13bから捕捉回路16へのデータ出力処理速度および捕捉回路16における検出処理速度を適宜低下させることができるので、電子時計1の電源回路に過重な負荷をかけずに安定且つ高速な検出処理を行うことができる。
【0068】
また、捕捉回路16や追尾回路17において複数の相関器を同時に動作させて、複数のGPS衛星のC/Aコードに対する相関値の算出やC/Aコードの複数の位相に対する相関値の算出といった動作を同時に行わせることが可能であるので、クロック供給回路19からのクロック周波数を極端に大きく変更せずに高速且つ安定な動作を行わせることができる。
【0069】
また、捕捉回路16にマッチドフィルタを用いることにより、非常に効率よくGPS衛星からの電波検出を行うことができるとともに、マッチドフィルタの消費電力に応じてクロック供給回路19から供給される動作クロック周波数を低速とすることで、安定して高速の電波検出処理を行わせることができる。一方で、一度に大量の演算量を必要としない追尾回路17では、マッチドフィルタの代わりにスライディング相関器を用いることで不必要に多くの電力を消費せずに高速な動作クロック周波数を維持したままGPS衛星からの電波受信処理を続けさせることができる。
【0070】
特に、マッチドフィルタの使用により電力消費量の桁が変わるのに対し、クロック周波数の制御によりファクター2〜4程度の細かい電力制御が可能になるので、効率的なピーク電力の制御を行うことができる。
【0071】
更に、RAM13bから捕捉回路16へデータを出力させている間は、CPU20からの電源制御信号によりデータを受信する必要のないRF受信部12の電源をオフすることができる構成とすることにより不必要な電力消費を抑え、捕捉回路16の動作クロック周波数を必要以上に低下させずとも安定且つ高速な処理を行わせることができる。
【0072】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、電流検出部26の計測結果に基づいて動作クロック周波数の低下幅を制御したが、計測された電流値と予め設定した閾値との大小の比較を行って、閾値以上の電流量が供給されている場合には動作クロック周波数を下げるといった、2段階程度の制御であっても良い。或いは、電子時計のように、通常の動作で消費される電力とGPS衛星からの電波の捕捉処理に消費される電力とがそれぞれ毎回ほぼ定まっているような場合には、電流検出部26を備えることなくこれらの基準となる消費電力に基づいて動作クロック周波数の低下幅を予め設定することとしてもよい。
【0073】
また、上記実施の形態では、捕捉回路16にマッチドフィルタを用いたが、多数のスライディング相関器を並列に配置することとしてもよい。或いは、他の相関器を用いることも可能である。
【0074】
また、上記実施の形態では、電子時計を例に挙げて示したが、本発明の衛星信号受信装置を搭載する機器はこれに限られない。PDA(Personal Digital Assistant)、携帯通信端末、携帯型の撮影機器や録音機器など、多様な機器に用いることが可能である。その他、上記実施の形態で示した具体的な細部の構成や数値は、発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 電子時計
11 アンテナ
12 RF受信部
13 メモリ部
13a メモリコントローラ
13b、21 RAM
14 セレクタ
15 信号検出部
16 捕捉回路
17 追尾回路
18 デコーダ
19 クロック供給回路
20 CPU
22 ROM
23 表示部
24 計時部
25 電源部
26 電流検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位用衛星から送信された衛星信号を取得する衛星信号受信装置において、
前記測位用衛星が送信する周波数帯の電波を受信する受信手段と、
前記受信手段が受信した電波に基づく所定の期間の受信データを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された受信データから前記衛星信号を検出する検出手段と、
前記記憶手段から前記検出手段へのデータ出力処理速度、及び、前記記憶手段から出力される受信データに基づく前記検出手段による検出処理速度を制御し、前記データ出力処理速度と前記検出処理速度とを同期させて予め定められた処理速度から低減可能に構成されているクロック制御手段と、
を備えることを特徴とする衛星信号受信装置。
【請求項2】
電力を供給する電源部と、
前記電源部から供給される電流値を計測する電流値計測手段と、
を備え、
前記クロック制御手段は、前記電流値計測手段により計測される電流値が所定の値以下となるように前記データ出力処理速度と前記検出処理速度とを制御する
ことを特徴とする請求項1記載の衛星信号受信装置。
【請求項3】
前記検出手段は、
複数の受信パラメータをそれぞれ切り替えて、当該複数の受信パラメータの組み合わせのうち、衛星信号が検出される組み合わせを探索する処理を、複数の組み合わせに対し同時並列的に実行可能である
ことを特徴とする請求項1又は2記載の衛星信号受信装置。
【請求項4】
前記検出手段により検出された衛星信号を継続的に追尾する追尾手段を備え、
前記検出手段は、マッチドフィルタを有し、
前記追尾手段は、スライディング相関器を有する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の衛星信号受信装置。
【請求項5】
前記受信手段の動作状態を切り替えて、前記記憶手段から前記検出手段へ受信データが出力されている間には、前記受信手段を非動作の状態とする受信動作制御手段を備える
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の衛星信号受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−63235(P2012−63235A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207430(P2010−207430)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】