説明

衛生マスク

【課題】 抗インフルエンザウイルス活性等の抗ウイルス活性が長時間持続しうる衛生マスクを提供する。
【解決手段】
マスク本体の呼吸通過箇所に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が付着した繊維基材と活性炭シートとが積層されていることを特徴とする衛生マスク。
マスクを装着した際に、活性炭シートが、抗ウイルス剤が付着した繊維基材よりも人体側に位置するように配されていることが好ましい。また、抗ウイルス剤が抗インフルエンザウイルス剤であり、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が、金属酸化物粉末と水酸化物を含んでいるものを用いるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク本体の呼吸通過箇所に抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤を付着させた衛生マスクに関し、特に、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスを不活化させる機能を持つ抗ウイルス剤を付着させた衛生マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、豚インフルエンザが世界的に流行し、今後も流行の拡大が危惧されている。豚インフルエンザは、鳥インフルエンザに比べて致死率は低いものの、妊婦、5歳以下又は60歳以上の人及び基礎疾患を有する人は、感染時に重症化する可能性が高く、感染予防が必須となっている。
【0003】
感染予防の一つとして、従来より、豚インフルエンザ等の新型インフルエンザに限らず旧型インフルエンザの場合でも、外出時に衛生マスクを着用することが推奨されている。衛生マスクとしては、ガーゼマスク及び不織布マスクがあるが、ガーゼマスクはマスク本体が目の粗いガーゼよりなるため、ここからインフルエンザウイルスが侵入し、感染予防の効果は低いと言われている。不織布マスクはマスク本体が目の細かい不織布よりなるため、ガーゼマスクに比べて感染予防の効果はあると言われているが、それでもなお、感染予防の効果が疑問視されている。
【0004】
そのため、マスク本体にインフルエンザウイルス捕捉剤を添着させた衛生マスクが提案されている(特許文献1)。しかしながら、単にインフルエンザウイルスを捕捉しただけでは、マスク本体中でインフルエンザウイルスが増殖し、咳やくしゃみにより、却ってインフルエンザウイルスを周囲にまき散らすことになる。また、マスク本体を手で触ると、手にインフルエンザウイルスが付着して口から人体に侵入することになる。したがって、インフルエンザウイルス捕捉剤を添着させた衛生マスクの効果も疑問視されている。
【0005】
このため、インフルエンザウイルス捕捉剤ではなく、インフルエンザウイルスを不活化させる抗インフルエンザウイルス剤を用いることも提案されている(特許文献2)。特許文献2は、抗インフルエンザウイルス剤として茶の抽出成分であるポリフェノールを用いたものである。そして、茶の抽出成分の水溶液を調製し、この水溶液に不織布を含浸して、不織布に茶の抽出成分を付着させた後、この不織布をマスク本体として使用したり、マスク本体に添着したりすることが提案されている。
【0006】
近年、抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤として、金属酸化物の水和物よりなる微粒子が提案されている(特許文献3)。この微粒子はヒドロキシラジカルを発生し、このヒドロキシラジカルによってウイルスを不活化させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−115572号公報(要約の項)
【特許文献2】特開平08−333271号公報(特許請求の範囲の項及び段落番号0026)
【特許文献3】特開2008−37814号公報(特許請求の範囲の項)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載の微粒子状の抗ウィルス剤は、二酸化炭素や水分と反応することによって、活性が低下することが知られている。つまり、マスクを装着した直後は十分な活性を有しているが、例えば4時間、8時間と装着時間が長くなるにしたがって、その活性が低下することが懸念される。したがって、8時間以上抗ウイルス活性が持続する、つまり朝から晩まで装着している間、抗ウイルス効果が持続するようなマスクの開発が非常に望まれている。
【0009】
本発明の課題は、マスクを長時間に亘って装着した場合であっても、抗ウイルス活性の持続性に優れた衛生マスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した抗ウイルス活性を有する微粒子を付着させたシートを用いたマスクにおいて、活性炭シートを併用することによって、マスクを長時間装着しても、抗ウイルス活性が持続することを発見した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、マスク本体の呼吸通過箇所に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が付着した繊維基材と活性炭シートとが積層されていることを特徴とする衛生マスクに関するものである。
【0012】
本発明に用いる微粒子状の抗ウイルス剤としては、たとえば、特許文献3及び国際公開2005/013695に記載されているものが挙げられる。すなわち、ドロマイト(苦灰石)を焼成し、それを水和した後、粉砕して微粒子としたものである。微粒子の組成は、CaCO3、Ca(OH)2及びMg(OH)2を主成分とするものである。また、微粒子の平均粒子径は0.1〜60μm程度である。かかる抗ウイルス剤は、ヒドロキシラジカルを発生する。そして、ヒドロキシラジカルは、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスはもとより、旧型インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス及びレトロウイルス等のウイルスを不活化する。
【0013】
本発明で用いる微粒子状の抗ウイルス剤は、繊維基材にたとえば接着剤成分によって付着せしめられる。接着剤成分としては、従来公知のものが用いられる。好ましい接着剤成分は、ポリビニルアルコール又はポリオレフィン樹脂である。
【0014】
接着剤成分であるポリビニルアルコールの重合度は250〜1000であるのが好ましい。この理由は、水溶液として取り扱いやすく、かつ接着作用を十分に発揮しうるからである。また、ポリビニルアルコールのケン化度は、35〜99モル%程度であるのが好ましい。特に、66〜99モル%が好ましく、より好ましくは90〜99モル%である。ケン化度が極端に低くなると、ヒドロキシ基が殆どなくなり、抗ウイルス剤からのヒドロキシラジカルの発生が長時間持続しにくくなると考えられる。また、ケン化度が極端に高くなると、水に溶けにくくなるため、扱いにくくなる。なお、ポリビニルアルコールは、一般的に水に溶解させたポリビニルアルコール水溶液の状態で接着剤として取り扱われる。
【0015】
接着剤成分であるポリオレフィン樹脂は、数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂の形態で用いるのが好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂微粒子の数平均粒子径は、日機装社製の「マイクロトラック粒度分布計 UPA150(MODEL No.9340)」を用いて求めたものである。数平均粒子径が大きすぎると、水系溶媒中に良好に分散しにくくなる傾向が生じる。 本発明では、特に水系溶媒に分散しやすいポリオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。かかるポリオレフィン樹脂は本件出願人が開発したものであって、特許第3699935号公報に記載されているものであり、(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物と(A2)炭素数2〜6のアルケンを含むモノマーを共重合してなる共重合体からなるものである。(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等が用いられる。また、(A2)炭素数2〜6のアルケンとしては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等が用いられる。なお、(A1)及び(A2)の他に、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のアクリル酸エステルを第三成分として共重合しても差し支えない。また、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルアルコール、アクリロニトリル等の第三成分を共重合しても差し支えない。
【0016】
(A1)と(A2)の共重合比は、質量比で、(A1):(A2)=0.5〜20:99.5〜80程度である。また、第三成分を共重合するときは、全体の35質量%以下程度の量で共重合される。 以上のような組成を持つポリオレフィン樹脂微粒子は、特許第3699935号公報に記載されているように、水系溶媒によく分散するものである。したがって、接着剤成分の一つであるポリオレフィン樹脂微粒子は、一般的に、水及び/又はアルコールに分散させた水系分散液の状態で接着剤として用いられる。
【0017】
本発明に用いる抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤を繊維基材に付着させるには、たとえば、以下のような方法によるのが好ましい。まず、微粒子状の抗ウイルス剤を水及びアルコールよりなる水系溶媒に分散させて水性分散液を準備する。水系溶媒中にアルコールを併用するのは、繊維基材への浸透性を向上させるためである。アルコールとしては、エタノール等の低級アルコールが水よりも低い沸点を持っており、水と共に蒸発させうるので、好ましい。そして、この水性分散液に、ポリビニルアルコールが溶解しているポリビニルアルコール水溶液等の接着剤成分を含む水性接着剤液を添加混合して、抗ウィルス剤を含む接着剤水溶液を得る。このようにして得られた接着剤水溶液を用いて、浸漬法、塗布法又は噴霧法等の従来公知の手段で、繊維基材に付与する。そして、乾燥して、水溶液中の水及びアルコールを蒸発させると、微粒子状の抗ウイルス剤が、接着剤成分によって繊維基材に付着せしめられるのである。
【0018】
また、接着剤成分としてポリオレフィン樹脂を用いるときは、数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂が水系溶媒に分散している水系分散液を、接着剤成分を含む水性接着剤液として用いればよい。この水系分散液も、水及びアルコールよりなる水系溶媒に、微粒子状のポリオレフィン樹脂を分散させて準備すればよい。アルコールを併用するのは、前記したのと同様の理由であり、かつ微粒子状のポリオレフィン樹脂の分散性を向上させるためである。また、使用するアルコールも、前記したのと同様の理由で、エタノール等の低級アルコールであるのが好ましい。
【0019】
繊維基材としては、不織布やガーゼ等の編織物が用いられる。不織布は、ガーゼ等の編織物に比べて目が細かいため、衛生マスクの素材として適している。不織布としては、短繊維不織布や長繊維不織布等の従来公知のものが用いられる。本発明では、抗ウイルス剤の接着性(抗ウイルス剤の付着量やその接着力)の向上を目的として、ポリオレフィン樹脂微粒子からなる接着剤を使用することがあるため、不織布としてもポリオレフィン系長繊維よりなる不織布を用いるのが好ましい。ポリオレフィン系長繊維としては、ポリプロピレン長繊維やポリエチレン長繊維を挙げることができる。しかしながら、このような単一成分の長繊維では、長繊維相互間が融着しすぎてフィルム状になり、通気性が悪くなるので、衛生マスクの素材として好適ではない。したがって、本発明でも、芯成分が高融点のポリエステルよりなり、鞘成分が低融点のポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンよりなる芯鞘型複合長繊維を用いるのが好ましい。このような芯鞘型複合長繊維の場合は、鞘成分のみの融着によって長繊維相互間が結合するため、通気性を犠牲にせずに、形態安定性のよい不織布が得られるからである。
【0020】
本発明には、活性炭シートを用いる。活性炭シートとは、活性炭(多孔性炭素)を含むシート状物である。具体的には、石炭ピッチを原料として溶融紡糸した活性炭繊維によって構成される不織布等のシートや、粉末状活性炭や繊維状活性炭をシートが含有してなるものが挙げられる。このような活性炭シートとしては、市場にて市販されているものを使用することができ、例えば、ユニチカ社製「活性炭繊維シート」、味の素ファインテクノ社製「AFT活性炭シート」、クラレケミカル社製「クラシート」などが挙げられる。
【0021】
衛生マスクのマスク本体は、従来より種々の態様のものが用いられている。たとえば、マスク本体の呼吸通過箇所に種々の繊維基材を何層も重ね、種々の機能を具備させたタイプのものがある。このようなタイプのものでは、何層も重ねた繊維基材のうち、少なくとも一層の繊維基材に抗ウィルス剤を付着させておき、さらに活性炭シートを重ねるとよい。また、簡易に使用できる衛生マスクは、マスク本体は不織布等を単層で用いたタイプのものもある。このようなタイプの場合には、単層の繊維基材に抗ウィルス剤を付着させて、さらに活性炭シートを重ねて、繊維基材と活性炭シートとの2層からなるマスクとすればよい。なお、活性炭シートと抗ウィルス剤を付着させた繊維基材とは、それぞれの層が接触するように重ねなければならないのではなく、間に他の繊維基材を積層してもよいことはいうまでもない。
【0022】
本発明において、ヒドロキシラジカルを発生する抗ウィルス剤が付着した繊維基材と活性炭シートとを積層することにより、抗ウィルス剤の活性を長時間持続させることが可能となる理由は、活性炭シートが、外気あるいは呼気に含まれる水分や二酸化炭素等を吸着することにあると考える。本発明の衛生マスクにおいては、マスク本体の呼吸通過箇所に繊維基材を重ねる際に、活性炭シートは、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウィルス剤が付着した繊維基材よりも人体側(口元側)に位置するように設けることがより好ましい。このように配置することにより、口元からの呼気は、一旦、活性炭シートを通して、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウィルス剤が付着した繊維基材を透過することとなり、呼気に含まれる水分と二酸化炭素等を効果的に活性炭シートに吸着させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る衛生マスクは、マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が付着させてなるものを用い、かつ活性炭シートを積層している。活性炭シートを配することによって、外気や呼気に含まれる水分および二酸化炭素が、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が付着してなる繊維基材を透過することを抑制し、抗ウイルス活性が長時間持続することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤水分散液(モチガセ社製、商品名「BR−P3」、固形分濃度15質量%)30.0gにエタノール13.2gを添加し十分に撹拌し、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液(固形分濃度10.4質量%)を調製した。一方、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」 重合度が300、ケン化度が98〜99モル%)を水に溶解させて固形分濃度10質量%としたポリビニルアルコール水溶液2.25gを抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液に添加し、十分に撹拌した。さらに、混合した分散液を攪拌しながら、下記方法によって調製されたポリオレフィン樹脂微粒子分散液(固形分濃度25質量%)2.7gをゆっくり添加し攪拌することによって、乳白色の抗ウィルス剤を含む接着剤水溶液を調製した。
【0026】
[ポリオレフィン樹脂微粒子分散液の調製]
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて、100gのポリオレフィン樹脂(アルケマ社製、商品名「ボンダイン HX−8290」)、有機溶媒として120gのエタノール、塩基性化合物として3.36gの85%水酸化カリウム及び170gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌し、ポリオレフィン樹脂微粒子を水中に浮遊させた。そして、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。系内温度を120℃に保って、さらに60分間攪拌した。その後、水浴に漬けて、回転速度300rpmを保ったまま攪拌しつつ、室温(約25℃)まで冷却した。最後に、300メッシュのステンレス製フィルター(平織組織で線径0.035mm)を用いて加圧濾過(空気圧0.25MPa)した。得られたポリオレフィン樹脂微粒子分散液は乳白色であり、微粒子の数平均粒子径は約0.06μmであった。なお、ここで使用したポリオレフィン樹脂は、エチレン80質量%、アクリル酸エチル18質量%、無水マレイン酸2質量%より構成された共重合体であり、融点は81℃のものである。
【0027】
抗ウィルス剤を含む接着剤水溶液を、スパンボンド不織布(ユニチカ社製、商品名「エルベス S0503WDO」、目付50g/m)にグラビアコート法により塗布した後、120℃で90秒間乾燥して、スパンボンド不織布に抗インフルエンザウイルス剤を付着させ、抗ウィルス剤が付着した繊維基材を得た。なお、ここで用いたスパンボンド不織布は、芯成分がポリエステル、鞘成分がポリエチレンよりなる芯鞘型複合長繊維で構成されたものであり、部分的にポリエチレンの融着によって生じた熱融着区域を持っているものである。なお、繊維基材に対する抗インフルエンザウイルス剤及びポリビニルアルコール、ポリオレフィン樹脂の付着量は約20g/mであった。したがって、抗インフルエンザウイルス剤の付着量は約15g/mである。
【0028】
得られた抗ウィルス剤が付着した繊維基材を用い、また、活性炭シートおよび他の繊維基材を準備し、マスクを作製した。マスクの外気側(人体と反対側)に位置する順に、ポリプロピレン製不織布(目付22g/m)、抗ウィルス剤が付着した繊維基材、ポリプロピレン製メルトブロー不織布(目付22g/m)、活性炭繊維シート(ユニチカ社製、商品名「FMS−A049」)、ポリプロピレン製不織布(28g/m)の順に繊維基材を積層してマスクを作製し、本発明のマスク(実施例)とした。マスクの両側に位置するポリプロピレン製不織布は、外側および内側(口元側)をカバーするためのカバー層としての役目を担い、ポリプロピレン製メルトブロー不織布は、繊維間空隙が極めて小さく緻密であるためウィルス等の侵入を物理的に阻止しようとする侵入阻止層としての役目も担うものといえる。
【0029】
また、一方、上記実施例のマスクにおいて、活性炭シートを積層せずに、それぞれの繊維基材を積層してマスクを作製し、これを比較例のマスクとした。
【0030】
得られた実施例および比較例のマスクを用いて抗インフルエンザウィルス活性を評価した。すなわち、6名の被験者が8時間連続して、まずは比較例のマスクを装着し、装着後のマスクの抗インフルエンザウイルス活性を評価した。次いで、翌日に、同じ6名の被験者が8時間連続して、実施例のマスクを装着し、装着後のマスクの抗インフルエンザウイルス活性を評価した。なお、抗インフルエンザウイルス活性とpHとの間に相関関係があることが知られているため、チモールフタレイン指示薬を用い、その発色の程度により活性の有無を確認した。すなわち、試験片が発色すれば、抗インフルエンザウイルス活性が有効であり、発色しなければ抗インフルエンザウイルス活性が無効であると評価できる。試験片の全ての部位が発色すれば、抗インフルエンザウイルス活性が完全に有効であるので10点とし、全ての部位が発色しなければ抗インフルエンザウイルス活性が無効であるので0点とし、発色部分の面積によって1〜9点までの点数付けを行い評価した。なお、装着前のマスクにおいては、実施例および比較例のマスクはいずれも全面が発色し10点であった。
【0031】
8時間装着後のマスクをチモールフタレイン指示薬により発色の有無を確認したところ、6名が装着した比較例のマスクの着後の評価点数は、0点、2点、2点、0点、1点、1点であり、8時間装着後の比較例のマスクは、ほぼ発色が見られないものであった。一方、6名が装着した実施例のマスクの評価点数は、それぞれ、5点、7点、6点、5点、8点、5点であり、平均すると6点であった。
【0032】
上記、評価結果から明らかなように、活性炭シートが積層された本発明のマスク(実施例)は、抗ウィルス活性の耐久性が伸びていた。よって、かかる構成の衛生マスクは長時間装着できるマスクとしてインフルエンザの感染予防に非常に有益であることが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク本体の呼吸通過箇所に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が付着した繊維基材と活性炭シートとが積層されていることを特徴とする衛生マスク。
【請求項2】
マスクを装着した際に、活性炭シートが、抗ウイルス剤が付着した繊維基材よりも人体側に位置するように配されていることを特徴とする請求項1記載の衛生マスク。
【請求項3】
抗ウイルス剤が抗インフルエンザウイルス剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の衛生マスク。
【請求項4】
ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が、金属酸化物粉末と水酸化物を含んでいるものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の衛生マスク。
【請求項5】
繊維基材が不織布であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の衛生マスク。
【請求項6】
不織布の構成繊維が芯鞘型複合長繊維であって、芯成分がポリエステルであり、鞘成分がポリオレフィンであることを特徴とする請求項5記載の衛生マスク。



【公開番号】特開2012−152327(P2012−152327A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13015(P2011−13015)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】