説明

衝撃吸収床構造および衝撃吸収ユニット

【課題】
木造・鉄筋コンクリート造の集合住宅等の床上で発生した衝撃を吸収する技術およびランニングマシーン等の室内運動機器から発生する衝撃を吸収する。
【解決手段】
衝撃吸収床構造1Aでは、床板11またはスラブと床パネル12との間に、自由状態(外力を受けない状態)で球または楕円球をなす複数の弾性体球14が配置されている。また、自由状態で球または楕円球をなす弾性体球と、弾性体球14を上方または下方の少なくとも一方から受承する受け部材151とからなる。床パネル12は置き床4とすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造・鉄筋コンクリート造の集合住宅等の床上で発生した衝撃を吸収する技術およびランニングマシーン等の室内運動機器から発生する衝撃を吸収する技術に関し、軽量、低製造コストで、かつ優れた衝撃吸収能力を持つ衝撃吸収床構造および衝撃吸収ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木造や鉄筋コンクリート造の集合住宅において、階上において生じた衝撃が階下に伝達されにくいように、当該衝撃を吸収するための床構造が種々提案されている。
【0003】
図10の床構造8(特許文献1等参照)は、床板81と、床パネル82と、表面材83と、支持材84と、防音材85とからなり、床パネル82と表面材83とからなる積層板は、支持材84により床板91上に支持されている。支持材84は、床板81側に位置する第1板片841と床パネル82側に位置する第2板片843とを備えている。
【0004】
第1板片841と第2板片843との間には、衝撃吸収部材842が設けられている。なお、第1板片841は床板81に、第2板片843は床パネル82に、それぞれ釘Nにより固定されている。床パネル82と床板81との間にの空間には、防音材85が充填されている。
【0005】
また、図11の床構造9(特許文献2等参照)は、床板91と、床パネル92と、表面材93と、支持具94とからなる。床パネル92と表面材93とからなる積層板は、支持具94により床板91上に支持されている。支持具94は、支持板941に固定されたナット942と、ナット942に螺合するボルト943と、ボルト943下端に取り付けられた弾性脚944とからなる。
【特許文献1】特開2002−285700
【特許文献2】特開2004−238925
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図10の床構造8は、人の音声などを防音する効果はあるが、子供が飛び跳ねる時の音、靴音といった衝撃音をほとんど吸収することはできない。これは、衝撃音が防音材85を透過してしまうこと、衝撃吸収部材842の設置個数が費用対効果・重量化回避の観点から限られることに由来する。
【0007】
また、図11の床構造9では、弾性脚944は、衝撃音を吸収することはできない。これは、弾性脚944は大きさが小さく、また設置個数は費用対効果・重量化回避の観点から限られることに由来する。
【0008】
本発明は、木造・鉄筋コンクリート造の集合住宅等の床における衝撃を吸収でき、またランニングマシーン等の室内運動機器から発生する衝撃を吸収できる、軽量、低製造コストの衝撃吸収床構造および衝撃吸収ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の衝撃吸収床構造は、(1)から(3)を要旨とする。
(1) 床板またはスラブと床パネルとの間に、自由状態(すなわち、外力が加えられない状態)で球または楕円球をなす複数の弾性体球が配置されていることを特徴とする衝撃吸収床構造。
【0010】
この弾性体球は、通常使用状態では多少は圧縮されている。施工後の状態では表面材等の重み(外力)により多少圧縮されるし、表面材上に配置した椅子等の重み(外力)によっても圧縮されている。
【0011】
(2) 前記床パネルが置き床であることを特徴とする(1)に記載の衝撃吸収床構造。
【0012】
(3) 前記弾性体球が中空をなし、前記各弾性体球の内部圧力が、気体源からチューブを介して注入された圧搾気体により所定圧力に調整されていることを特徴とする(1)または(2)に記載の衝撃吸収床構造。
【0013】
本発明において、床板は木造住宅では、典型的には根太に直接取り付けられる石膏ボードや木板を言い、スラブは鉄筋コンクリート建造物ではコンクリート床版を言う。
【0014】
本発明の衝撃吸収床構造で使用される、弾性体球の直径は小さすぎると、衝撃吸収効果が発揮できないし、逆に大きすぎると床板から床パネルまでの高さが大きくなり部屋空間の有効利用ができない。よって、弾性体球の直径は、4〜12cmの範囲とすることが好ましく、6〜10cmとすることがより好ましい。また、弾性体球の設置密度は、5〜20個/m2とすることが好ましく、9〜15個/m2とするがより好ましい。
【0015】
本発明では、基本的には、反発弾性率(JISK6255)に限定はないが、20から70%とすることが好ましい。
なお、弾性体球の素材の硬度は特段の限定はないが、たとえば20から50程度のショア硬度(A硬度)とすることができる。
【0016】
弾性体球は内部を中空とすることができ、弾性体球の内部を中空にする場合には、ポンプにより圧搾ガス(空気・窒素等)を弾性体球の内部に注入し、ガス圧を調整することで、実質の弾性を調整するようにもできる。
弾性体球は、非中空の複層構造とすることができ、たとえば中心部(コア)を高比重・高弾性の材料、高比重・非弾性の材料(金属等)により構成してもよい。
【0017】
弾性体球の素材は、典型的には、合成ゴムであり、当該ゴムには、ブチルゴム(IIR)や、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、クロロスルフォン化ゴム(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、フッ素ゴム(FKM)等の非ジエン系ゴムを使用することができる。
【0018】
本発明の衝撃吸収床構造では、たとえば内部充填弾性体球と、内部非充填の弾性体球とを併用することができる。また、弾性体球を複数層により構成することができる。さらに、弾性体球に、他の緩衝部材(球以外の合成ゴムのブロック、コイルスプリング等)を併用することもできる。
本発明の衝撃吸収床構造では、床の中央部分(たとえば、床の周囲を除く部分)にのみ適用することができる。
【0019】
本発明の衝撃吸収ユニットは、(4)を要旨とする。
(4) 自由状態で球または楕円球をなす弾性体球と、前記弾性体球を上方または下方の少なくとも一方から受承する受け部材とからなることを特徴とする衝撃吸収ユニット。
【0020】
本発明の衝撃吸収ユニットは、(1)から(3)の衝撃吸収床構造において、床板またはスラブと床パネルとの間に設けることができる。
また、本発明の衝撃吸収ユニットは、ランニングマシーン等の室内運動機器の脚部に取り付けて衝撃を吸収することができる。受け部材は、弾性体球を受承できれば、カップ状、筒状、皿状、リング状等、どのような形状であってもよい。プラスチックや弾性体球に使用したIIRや非ジエン系ゴムを使用することができる。
【0021】
本発明の衝撃吸収ユニットでも、弾性体球に、他の緩衝部材(球以外の合成ゴムのブロック、コイルスプリング等)を併用することができる。
【0022】
本発明の衝撃吸収床構造では、床パネル上で生じた衝撃エネルギー(たとえば、子供が飛び跳ねる時の音、靴音といった衝撃音)の多くは、床板に伝わるときに、または、衝撃エネルギーが床パネルおよび床板を伝播する間に、弾性体球に吸収される。すなわち、衝撃エネルギーが弾性体球の変形・復帰のエネルギー(主として熱)に変換される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、木造・鉄筋コンクリート造の集合住宅等の床における衝撃を効率よく吸収でき、またランニングマシーン等の室内運動器具から発生する衝撃を吸収できる。
本発明では、衝撃吸収を行なう弾性体球の重量を軽量にすることができるので、床板またはスラブと床パネルとの間に配置できる個数が制限されることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の衝撃吸収床構造を住宅に適用した実施形態を示す断面説明図であり、(A)は弾性体球が圧縮されていない場合を、(B)は弾性体球が力ISにより圧縮された場合を示している。
【0025】
図2(A)は図1(A)における衝撃吸収ユニット(後述する符号21)の拡大説明図、図2(B)は図1(B)における衝撃吸収ユニットの拡大説明図である(衝撃による力をisで表す)。
【0026】
衝撃吸収床構造1Aは、床板11と床パネル12と表面材13と弾性体球14と受け部材151,152とから構成される。なお、本実施形態では、本発明の衝撃吸収ユニット21を衝撃吸収床構造に取り入れており、弾性体球14と、受け部材151,152とが、衝撃吸収ユニット21を構成している。
【0027】
床板11は、たとえば根太(図示せず)上に配置された木板や石膏ボードからなる。鉄筋コンクリート造の住宅では、コンクリートスラブ(以下、コンクリートスラブを含めて、「床板」と称する)が床板11に対応する。
【0028】
床パネル12は、典型的には合板であり、表面材13は典型的には化粧板や合成樹脂シートである。本実施形態では、床パネル12と表面材13との合計厚は30mmとしてある。また、本実施形態では、衝撃吸収床構造1Aは置き床構造をなしており、パネル12は、弾性体球14により床板11上に支持されている。
【0029】
弾性体球14は、自由状態で球をなし、床板11と床パネル12の所定箇所に適宜配置される。弾性体球14は、本実施形態では、直径が70mmの中空合成ゴム製であり、合成ゴム材料として、反発係数50%、ショアA硬度50のブチルゴムを使用しているがこれには限定されない。弾性体球14のゴム厚は本実施形態では10mmとしてあるがこれには限定されない。
【0030】
本実施形態では、弾性体球14は、その下約1/4の高さを覆う受け部材151と、その上約1/4の高さを覆う受け部材152とに受承されている。本実施形態では、受け部材151,152は、金属やプラスチックにより形成することができるが、本実施形態では、ブチルゴムにより形成してある。受け部材151,152は、受け面が弾性体球14の表面と同一曲率であり、無底面の、肉厚の円錐台形状に形成されている。受け部152は、釘,両面テープ等により床パネル12に取り付けることができる。
【0031】
図3(A),(B),(C)に衝撃吸収床構造の他の実施形態を示す。
図3(A)の衝撃吸収床構造1Bでは、受け部材を使用することなく弾性体球14を床板11と床パネル12との間に配置してある。
【0032】
図3(B)の衝撃吸収床構造1Cでは、弾性体球14についてひとつの受け部材を使用している。受け部材153は、弾性体球14を、その上約1/4の高さを覆うように支承している。図3(B)では弾性体球14と受け部材153とが衝撃吸収ユニット22を構成している。受け部153は、金属やプラスチックにより形成することができるが、本実施形態では、ブチルゴムにより形成してある。また、受け部153は、釘,両面テープ等により床パネル12に取り付けることができる。
【0033】
図3(C)の衝撃吸収床構造1Dでは、自由状態で縦長の楕円球をなす弾性体球14を用いた実施形態を示している。図3(C)では弾性体球14と下側の受け部材154,上側の受け部材155とが衝撃吸収ユニット23を構成している。受け部155は、金属やプラスチックにより形成することができるが、本実施形態では、ブチルゴムにより形成してある。受け部155は、金属やプラスチックにより形成することができるが、本実施形態では、ブチルゴムにより形成してある。また、受け部155は、釘,両面テープ等により床パネル12に取り付けることができる。
【0034】
図3(D)に図1の衝撃吸収床構造1Aおよび図3(A)から(C)の衝撃吸収床構造1Bから1Dにおける圧縮特性(衝撃による圧縮力Fと変形量Xとの関係)を示す。
【0035】
図4(A)の衝撃吸収床構造1Eでは、弾性体球14が中空をなし、各弾性体球14の内部圧力が、気体源(エアーポンプ16)からチューブTを介して注入された圧搾空気(air)により所定圧力に調整されている。図4では弾性体球14と受け部材151,152とが衝撃吸収ユニット24を構成している。 図4(B)に図4(A)の衝撃吸収床構造1Eにおいて、弾性体球14の内圧を変化させたときの圧縮特性(衝撃による圧縮力Fと変形量Xとの関係)を示す。
【0036】
図5(A)から(E)は、本発明で使用される弾性体球14Aから14Eの構成を示す図である。図5(A)は肉厚が比較的薄い中空の弾性体球14Aを、図5(B)は肉厚が比較的厚い中空の弾性体球14Bを、図5(C)は肉厚が比較的厚い非中空の弾性体球14Cをそれぞれ示している。また、図5(D)はコアが低圧縮率の高重量球からなる2層の弾性体球14Dを示している。さらに、図5(E)はコアが低圧縮率の高重量球からなり、中間層の圧縮率がコアよりも低いが外層よりも高い3層の弾性体球14Eを示している。
【0037】
図6は、スプリングを併用した衝撃吸収ユニットの他の構成例を示す説明図である。図6における衝撃吸収ユニット25では、弾性体球14は、その下約1/4の高さを覆う受け部材156と、その上約1/4の高さを覆う受け部材155とに受承されている。受け部材156の下面にはスプリング機構17が設けられている。
【0038】
図7(A),(B)は、本発明の衝撃吸収ユニットをパーティクルボードに応用した実施形態を示す側面図および平面図である。図7(A),(B)に示すようにパーティクルボード4は、ボード41とその下面に設けられた4つの衝撃吸収ユニット(ここでは、図1,図2に示した衝撃吸収ユニット21)とからなる。受け部152は、前述したように金属やプラスチックにより形成することができるが、本実施形態では、ブチルゴムにより形成してある。また、受け部152は、釘,両面テープ等によりボード41に取り付けることができる。
【0039】
図8は、図3(A)の衝撃吸収ユニット22を、室内運動機器(ここではランニングマシーン)の脚部に取り付けて衝撃を吸収する実施形態を示す説明図である。図8においてランニングマシーン3の脚部の6箇所には衝撃吸収ユニット22が設けられている。ランニングにより生じた振動は6つの衝撃吸収ユニット22により吸収され、床18への伝達を低減することができる。衝撃吸収ユニット22の受け部材は、金属やプラスチックや硬質の合成ゴムにより構成でき、ボルト,両面テープ等により床パネル12に取り付けることができる。
【0040】
図9は、図3(A)の衝撃吸収ユニット22を、置き床4の下面の多数箇所に取り付けて衝撃を吸収する実施形態を示す説明図である。図9において、囲い付の置き床4の下面の多数箇所には衝撃吸収ユニット22が設けられている。たとえば、置き床4を幼児の遊戯用床として使用した場合に、幼児が飛び跳ねてたときの振動が衝撃吸収ユニット22に吸収され、床18への伝達を低減することができる。衝撃吸収ユニット22の受け部材は、釘,両面テープ等により床パネル12に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の衝撃吸収床構造を住宅に適用した実施形態を示す説明図であり、(A)は弾性体球が圧縮されていない場合を、(B)は弾性体球が圧縮された場合を示す図である。
【図2】(A)は図1(A)における衝撃吸収ユニットの拡大説明図、(B)は図1(B)における衝撃吸収ユニットの拡大説明図である。
【図3】衝撃吸収床構造の他の実施形態を示す説明図であり、(A)受け部材を使用せず弾性体球のみにより衝撃を吸収する例を示す図、(B)は弾性体球についてひとつの受け部材を使用して衝撃を吸収する例を示す図、(C)は自由状態で縦長の楕円球をなす弾性体球を使用して衝撃を吸収する例を示す図、(D)は図1の実施形態および(A)から(C)の実施形態における圧縮特性(衝撃による圧縮力Fと変形量Xとの関係)を示す図である。
【図4】(A)は弾性体球が中空をなし、各弾性体球の内部圧力が、気体源からチューブを介して注入された圧搾空気により所定圧力に調整される例を示す図、(B)は弾性体球の内圧により圧縮特性(衝撃による圧縮力Fと変形量Xとの関係)が変化する様子を示す図である。
【図5】(A)から(E)は、本発明で使用される弾性体球の構成を示す図である。
【図6】スプリングを併用した衝撃吸収ユニットの他の構成例を示す説明図である。
【図7】本発明の衝撃吸収ユニットをパーティクルボードに応用した実施形態を示す図であり、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図8】図3(A)の衝撃吸収ユニットを、室内運動機器の脚部に取り付けて衝撃を吸収する実施形態を示す説明図である。
【図9】図3(A)の衝撃吸収ユニットを、置き床の下面の多数箇所に取り付けて衝撃を吸収する実施形態を示す説明図である。
【図10】従来の床構造の一例を示す説明図である。
【図11】従来の床構造の他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1A,1B,1C,1D,1E 衝撃吸収床構造
3 ランニングマシーン
4 置き床
11 床板
12 床パネル
13 表面材
14 弾性体球
151,152,153,154,155,156 受け部材
16 エアーポンプ
17 スプリング機構
18 床
151,152 受け部材
21,22,23,24,25 衝撃吸収ユニット
151,152 受け部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床板またはスラブと床パネルとの間に、自由状態で球または楕円球をなす複数の弾性体球が配置されていることを特徴とする衝撃吸収床構造。
【請求項2】
前記床パネルが置き床であることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収床構造。
【請求項3】
前記弾性体球が中空をなし、前記各弾性体球の内部圧力が、気体源からチューブを介して注入された圧搾気体により所定圧力に調整されていることを特徴とする請求項1または2に記載の衝撃吸収床構造。
【請求項4】
自由状態で球または楕円球をなす弾性体球と、前記弾性体球を上方または下方の少なくとも一方から受承する受け部材とからなることを特徴とする衝撃吸収ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−37870(P2010−37870A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204154(P2008−204154)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(508240007)合資会社 江戸建工匠 (2)
【Fターム(参考)】