説明

衝撃吸収網

【課題】衝撃吸収力に優れ、且つ破損可能性の低い衝撃吸収網を提供すること。
【解決手段】複数のベルトを略格子状に配置してなる衝撃吸収網であって、前記ベルトが、該ベルトの両側面へと連通する空間を形成する挿通部を複数有し、該挿通部に他のベルトを挿通して網目を形成する。本発明の衝撃吸収網によれば、各ベルトの交差部分を固定せずに摺動自在に構成するため、落下物受撃時の荷重伝達性に優れる。また、繊維製ロープからなる従来の衝撃吸収網と異なり、衝撃吸収網の表面に凹凸部分が形成されないため、摩擦抵抗が小さく偏摩耗による破損を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石、土砂、雪等の落下物から道路や建物を保護するために斜面等に設置する防護柵に用いる衝撃吸収網に関する。
【背景技術】
【0002】
防護柵は、一般的に、斜面に立設する複数の支柱と、前記支柱間に張設する衝撃吸収網と、を少なくとも含んでなる。
前記衝撃吸収網には種々の素材が採用されており、金属製や合成繊維製のネットを用いるものがある。
例えば、特許文献1には、高強度の硬鋼ワイヤーからなるロープを互いに編み合わせた金網を含んだ防護柵が開示されている。
また、特許文献2には、落石防護用の網状体として、合成樹脂製のロープを互いに編み合わせた網状体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−107322号公報
【特許文献2】特開2008−7986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記した衝撃吸収網では、少なくとも以下に示す問題のうち、少なくとも何れか一つを有する。
(1)ロープが結び目部分でそれぞれ固定されるため、落下物による荷重の伝達範囲が制限されてしまい、衝撃吸収力が小さい。
(2)ロープの結び目部分が衝撃吸収網の表面から突出する為、衝撃吸収網の表面が凹凸状を呈することとなり、衝撃吸収網の表面の摩擦抵抗が大きくなるほか、結び目部分への偏摩耗が生じやすく、ロープ破断が発生しやすくなる。
【0005】
したがって、本願発明は、衝撃吸収力に優れ、且つ破損可能性の低い衝撃吸収網を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した目的を達成すべくなされた本願発明は、複数のベルトを略格子状に配置してなる衝撃吸収網であって、前記ベルトが、該ベルトの両側面へと連通する空間を形成する挿通部を複数有し、該挿通部に他のベルトを挿通して網目を形成することを特徴とする、衝撃吸収網を要旨とするものである。
また、前記発明において、前記ベルトが、積層した二枚の帯材からなり、前記帯材間の非接合部分を前記連通部とするように構成してもよい。
また、前記発明において、互いに隣接するベルト同士において、前記連通部が、互い違いの位置に設けてあるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、以下に示す効果のうち、少なくとも何れか一つを得ることができる。
(1)衝撃吸収網を構成する各ベルトの交差部分を固定せずに摺動自在に構成したため、落下物受撃時の荷重伝達性に優れる。
(2)繊維製ロープからなる従来の衝撃吸収網と異なり、衝撃吸収網の表面に凹凸部分が形成されないため、摩擦抵抗が小さく偏摩耗による破損を抑制できる。
(3)ベルトに設けた挿通部に他のベルトを挿通する作業のみで衝撃吸収網を形成できるため、熟練者による作業が不要である。従って、従来の衝撃吸収網と比較して製造コスト等の低廉に寄与する。
(4)二枚の帯材を積層してベルトを形成した場合、挿通部を形成するための部材を新たに設ける必要が無く、製造が容易である。
(5)各ベルトの挿通部の挿通方向が互い違いとなるように各ベルトを配置して網目を形成することにより、落下物の受撃時における網目の目開きを小さくし、落下物の抜け出しを抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】衝撃吸収網の一実施例を示す概略斜視図。
【図2】衝撃吸収網の一実施例を示す概略平面図。
【図3】ベルトの構成例を示す概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
<1>全体構成
図1、2は、本発明の衝撃吸収網の一実施例を示す概略斜視図並びに概略平面図である。
衝撃吸収網Aは、落石や雪などの落下物を受撃して、落下物の衝突エネルギーを吸収する為の部材である。
衝撃吸収網Aは、帯状を呈するベルトを複数交差させて網目を形成したネット状の部材であり、本実施例においては、複数の縦ベルト1a及び横ベルト1bが直交するように配置することによって網目を形成している。
【0011】
<2>ベルト
ベルト(縦ベルト1a,横ベルト1b)は、落石等の受撃エネルギーを吸収するための帯状を呈する部材である。
ベルトの素材は、特に限定されないが、高強度で高弾性な素材で受撃に対する引張力に対して十分な抵抗力を有することが望ましく。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、低圧ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66等のポリアミド繊維、ポリパラテレフタルアミド、ポリメタテレフタルアミド等のアラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、炭素繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリオキシケトン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0012】
<3>挿通部
ベルトは、該ベルトの両側面へと連通する空間を形成する挿通部2を有する。
挿通部2は、ベルトの長手方向に対し、所定間隔を設けて複数形成される。
図1,2に示す通り、縦ベルト1aに設けた挿通部2aに、横ベルト1bを挿通することにより、二つのベルトが交差するように配されることとなる。また、他の挿通部2に対しても同様の挿通手順を繰り返すことで、複数のベルトが格子状に配されることとなり、網目を形成することとなる。
なお、衝撃吸収網Aは、各ベルトの挿通部2の挿通方向が互い違いとなるように複数のベルトを配置して網目を形成することが望ましい。この場合、隣り合うベルト間において、各ベルトに設ける挿通部2の設置位置の位相が半周期ずれた関係(いわゆる「逆位相」の関係)を呈することとなる。
【0013】
<4>挿通部の形成例
図3を参照しながら、挿通部の形成例について説明する。
【0014】
図3(a)では、ベルトが上下に積層配置した二枚の帯材3とからなる。
帯材は、長手方向に向かって接合部31及び非接合部32が周期的に区分けされており、両帯材の接合部31の部分を、接着や縫合、その他公知の方法によって接合することによって一体化している。この場合、両帯材3の非接合部32の間に形成される開孔部分が挿通部2に相当することとなる。
【0015】
図3(b)では、ベルトが、一枚の帯材3と前記帯材3に積層配置する帯片4と、からなる。帯片4は帯材3の長手方向に向かって前後の縁部に接合部41を有し、該接合部41を帯材3の接合部31に重ね合わせて接合することにより、帯材3と帯片4とを一体化している。この場合、非接合部32、42の間で形成される開孔部分が挿通部2に相当することとなる。
【0016】
図3(c)では、ベルトが、長手方向に分割された複数の分割帯5からなり、前記分割帯5の間に筒状部材6の側周を接合することにより、分割帯5と筒状部材6とを一体化している。この場合、筒状部材6が挿通部2に相当することとなる。
【0017】
<5>作用
本発明による衝撃吸収網の作用について以下に説明する。
【0018】
[ベルト表面の摩擦係数の低減]
本発明による衝撃吸収網は、ロープを編み合わせてなる従来の衝撃吸収網と異なり、衝撃吸収網の表面に凹凸部分が形成されないため、摩擦抵抗が小さく、偏摩耗による破損を抑制できる。
【0019】
[受撃性能の向上]
本発明による衝撃吸収網は、一方のベルトの挿通部内を他方のベルトが摺動するため、各ベルトの交差部分で衝撃力が集中することを回避し、落下物の受撃荷重を、より広範囲に伝達できるため、落下物の受撃エネルギーに対する吸収性能が向上する。
【0020】
[落下物の抜け出し抑止]
本発明による衝撃吸収網は、各ベルトの挿通部の挿通方向が互い違いとなるように各ベルトを配置して網目を形成することにより、落下物の受撃時における網目の目開きを小さくし、衝撃吸収体の背面側へと落下物が抜け出しにくくなる。
【0021】
[製造性の向上]
本発明による衝撃吸収網は、ベルトに設けた挿通部に他のベルトを挿通する作業のみで衝撃吸収網を形成できるため、熟練者による作業が不要である。従って、従来の衝撃吸収網と比較して製造コスト等の低廉に寄与する。
なお、二枚の帯材を積層してベルトを形成した場合、挿通部を形成するための部材を新たに設ける必要が無く、部材点数を低減することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 ベルト
2 挿通部
3 帯材
4 帯片
5 分割帯
6 筒状部材
A 衝撃吸収網

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のベルトを略格子状に配置してなる衝撃吸収網であって、
前記ベルトが、該ベルトの両側面へと連通する空間を形成する挿通部を複数有し、該挿通部に他のベルトを挿通して網目を形成することを特徴とする、
衝撃吸収網。
【請求項2】
前記ベルトが、積層した二枚の帯材からなり、前記帯材間の非接合部分を前記連通部としたことを特徴とする、請求項1に記載の衝撃吸収網。
【請求項3】
互いに隣接するベルト同士において、前記連通部が、互い違いの位置に設けてあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の衝撃吸収網。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−47014(P2012−47014A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192360(P2010−192360)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000201490)前田工繊株式会社 (118)
【Fターム(参考)】