説明

衣 料

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、低温低湿時の肌荒れを防止し、肌の健康を保持し得る衣料に関する。
[従来の技術]
従来、衣料素材、特に合成繊維製衣料の改善策としてはウォッシュアンドウェア性、各種機能性付与、さらにはそれの耐久性向上、物理的特性の改良や風合、触感、外観の改良などが主として行われていた。
[課題を解決するための手段]
しかしながら、これら従来の技術においては、肌荒れ防止機能が付与された衣料素材は存在していなかった。
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、低温低湿時の肌荒れを防止し、肌の健康を保持する肌荒れ防止機能を有する衣料を提供せんとするものである。
[発明が解決しようとする課題]
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用する。すなわち、本発明の衣料は、スクワラン、スクワレン、ミリスチン酸アルキルエステル、ミグリオール、パーセリン油、γ−オキザノール、蜜臘、ラノリンからなる群より選ばれた少なくとも一種の親油性保湿剤および/またはマイクロカプセル化された該親油性保湿剤がバインダーにより付着されていることを特徴とするものである。
[作用]
本発明において親油性保湿剤とは、肌に近接して存在させた際に肌の角質水分率を低下させないものをいう。したがって、必ずしも親油性保湿剤自身の平衡水分率が高い必要はないが、一般的には、絶乾状態から20℃、30℃RHの環境下に移して平衡状態に達したときの水分率が2〜30%、さらには8〜20%であるものが好ましく使用される。
本発明に用いる親油性保湿剤としては、スクワラン、スクワレン、ミリスチン酸アルキルエステル、ミグリオール、パーセリン油、γ−オキザノール、蜜臘、ラノリンからなる群より選ばれた少なくとも一種が使用され、これらの親油性保湿剤(以下、単に親油性保湿剤という)は後述するバインダーとの相溶性が良好であり、洗濯耐久性が良好であるという特徴を発揮する。
これらの親油性保湿剤をバインダー樹脂液に分散混合させるのを容易にするために非イオン系界面活性剤および/またはアニオン系界面活性剤を用いることも好ましく行なわれる。その際、非イオン系界面活性剤としては、HLBが9〜16、さらには、10〜12のものが親油性、親水性のバランスをとりやすく安定したエマルジョンを形成するので好ましい。
本発明においては該親油性保湿剤をそのままの状態および/またはマイクロカプセル化した状態でバインダーにより衣料に付着させるものである。
マイクロカプセル化された該親油性保湿剤を用いると、洗濯耐久性が向上し、また、該親油性保湿剤が徐々にマイクロカプセル内からしみ出してきて、保水や栄養補給などの効果を長期間発揮せしめるので、さらに好ましい。但し、洗濯耐久性を必要としない場合には、該親油性保湿剤および/またはマイクロカプセル化された親油性保湿剤をバインダーを使用せずに直接衣料に付着させても目的を達成することができることはいうまでもない。
該親油性保湿剤をマイクロカプセル化する場合に用いるマイクロカプセル用素材としては、無機質、有機質の微多孔微粒子であって、たとえば、シリカ、活性炭などの微多孔質無機粒子、中空微多孔メラミン樹脂粒子、アクリル酸エステル系樹脂粒子、ポリ尿素系樹脂粒子などがあげられる。アクリル酸エステル系樹脂粒子、ポリ尿素系樹脂粒子は該親油性保湿剤をマイクロカプセル化しやすく、マイクロカプセルの素材自体が肌荒れに悪影響しないなどの点からより好ましい素材である。
また、これら微粒子の外径は0.1〜100μであることが、バインダーによる繊維への保持性すなわち洗濯などによる脱落防止の面から好ましく、0.1〜40μであればより好ましい。
また、バインダー素材としては、アクリル酸エステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエーテルエステルブロックコポリマ、ポリアミド系樹脂、シリコーン系樹脂などをあげることができる。シリコーン系樹脂は洗濯耐久性、衣料の柔軟性を向上させるので好ましく、なかでも、80℃以下の低温でも造膜性に優れたシリコーン系樹脂、たとえば、ヒドロキシオルガノポリシロキサンにアルコキシシランをカップリング剤として添加したものなどは特に好ましい。
本発明の衣料を製造する方法を例示すれば、まず、該親油性保湿剤をそのままの状態および/またはマイクロカプセル化した状態で、必要に応じて界面活性剤を併用して、バインダー水分散液に混合分散させて処理液を調整する。布帛または縫製品の形態で該処理液中に浸漬し、余分な液をマングルまたは遠心などの手段で除去したのち、好ましくは180℃以下、さらに好ましくは50〜80℃で乾燥し、必要に応じて常法により乾熱または湿熱セットを行なう。
特に、マイクロカプセル化された該親油性保湿剤を使用する場合、該マイクロカプセル化保湿剤を編織物の繊維または糸条表面に付着、接合させ、編目や織目を目詰めしないで、該布帛が有する通気性を、できるだけそのまま保持させておくのがムレ防止の面から好ましい。そのために、バインダー樹脂液の粘度は余り高くしない方がよく、粘度が高くなるにつれて目詰めが発生するようになる。
該バインダーによって該衣服に付着した該親油性保湿剤は該バインダー薄膜で覆われたものもあれば、付着部分のみに該バインダーが付着しているものもあり、いずれの状態でも本発明の効果は達成される。耐久性の面からはバインダー薄膜で被覆されて付着されている状態が好ましいが、該親油性保湿剤の薬剤効果の面からは該被膜を極めて薄くするか、マイクロカプセル化された該親油性保湿剤を用いる場合は被膜表面に露出するマイクロカプセル化された該親油性保湿剤をできるだけ多くするのが好ましい。
本発明の衣料を構成する素材としては、木綿、絹、麻、羊毛などの天然繊維あるいはナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、レーヨン、ベンベルグ、アセテートなどの合成繊維、半合成繊維あるいはこれらの混用繊維からなるものがあげられる。
かかる繊維からなる布帛としては、該繊維単独からなる編織物や不織布、あるいは混紡、混繊や交編織などの混用繊維布帛など各種適用されるが、如何なる構造、形状の布帛であっても衣料として適用可能であればさしつかえない。
本発明の衣料は、低温低湿環境下での肌荒れを防止するものであって、たとえば外着や内着、さら衣料副資材を含めて衣類全般に使用することができるが、パンティーストッキング、ランジェリー、ペチコート、キャミソール、ショーツなどの肌着、ガードル、ブラジャー、ボディースーツなどのファンデーションなどのインナー類、さらには腹巻や手袋など、直接肌に接触して着用する衣料において特に優れた効果を発揮する。
本発明の衣料は、必ずしもその全面に該親油性保湿材が付着されている必要はなく、肌に直接接する部分に該親油性保湿材が付着されていれば良い。
[実施例]
以下実施例により本発明をさらに説明する。
本発明における肌荒れ防止効果の評価は次の方法で行なった。
<角質水分率> 角質水分率測定機(内外電機(株)製)で測定して評価した。
<肌荒れの有無> 肉眼により肌荒れの有無を判定した。
実施例1 重量比にして1:1にスクワランとヒアルロン酸を混合し、この混合液に粒径2〜6μの微多孔質シリカ粒子を含浸して、スクワランとヒアルロン酸の混合物をマイクロカプセル化した。このシリカ粒子は含浸前に比して倍の重量を示した。
このマイクロカプセルをアクリル酸エステル系バインダー(プライマールHA−16:日本ライヒホールド社製)に重量比で1:1の割合に混合分散し、120g/lの水分散液とした。
この混合分散液にナイロン6加工糸からなるストッキングを浸漬し、次いで家庭用遠心脱水機にかけて、ピックアップが50%になるまで脱水し、さらに120℃で乾燥,セットした。
このストッキングの保湿率は8.3%であった。また、この実施例に用いたマイクロカプセル単独の保湿率は20.2%であった。
この親油性保湿剤を付着させたストッキングを右脚に配し、通常のナイロン6加工糸からなるストッキングを左脚に配して縫製して、右脚のみに親油性保湿剤を付着させたパンティーストッキングを作った。このパンティーストッキングを1〜2月の冬場に20〜50才の5名の女性パネラーにより着用試験を行なった。2週間毎に2カ月間、角質水分率を測定したところ、左脚の角質水分率は2.8%(5名の平均値)と大幅に低下しており、著しい肌荒れが見られたが、右脚は角質水分率が8.5%(5名の平均値)と小さく、肌荒れは観察されなかった。
実施例2、3、比較例 粒径2〜10μのアクリル酸エステル系樹脂からなる微多孔質粒子をマイクロカプセル素材として用い、該粒子重量に対して1:1の割合に次の(a)、(b)の親油性保湿剤をそれぞれマイクロカプセル化した。
親油性保湿剤(a)スクワラン(実施例2)
(b)ラノリン(実施例3)
これらのマイクロカプセル化した2種類の親油性保湿剤を、ポリエーテルエステルブロックコポリマ(SR−1000:高松油脂社製)70部とメラミン系樹脂(スミテックスレジンM−3:住友化学社製)30部からなる混合バインダーに、1:1の割合でそれぞれ混合分散した100g/lの混合分散液を調整した。
このマイクロカプセル化された親油性保湿剤を含有する2種類の混合分散液にポリエステル繊維(75デニール・36フィラメント,ウーリー加工糸)からなる肌着用編地をそれぞれ浸漬し、固形分にして5%付着した後、150℃で3分間熱処理した。
この編地を右半分に配し、一方、通常のポリエステル繊維(75デニール・36フィラメント,ウーリー加工糸)からなる肌着用編地を左半分に配して2種類の紳士用シャツを縫製し、1月〜2月の冬場に2人の男性パネラーにより着用試験を行なった。
腹部表面の角質水分率は左側に比べ右側が高く、肌荒れ現象もなかった。結果を表1に示す。


また、150Dポリウレタン弾性糸に、30D/15Fのナイロン糸をカバリングした糸からなるサテンネット組織のガードルとブラジャー(ファンデーション)に、実施例2の前記混合分散液を10重量%付着させて、150℃、3分間熱処理した。
このファンデーションを5人の女性パネラーで秋口(10月中旬)と冬場(2月中旬)において角質水分率の変化について評価したところ、角質水分率の変化が小さく、肌荒れ防止効果が大きいことがわかった。
なお、比較のために通常のファンデーション(比較例)を着用した場合と実施例2のファンデーションを着用した場合との角質水分率を比較した。結果を表2に示す。


表2から、角質水分率は低温低湿である冬場では低くなることがわかる。特に、通常のファンデーションでは冬場での角質水分率が著しく低下し、肌荒れし易い状態にあることがわかる。
実施例4 ナイロン6(15デニール,5フィラメント)とポリウレタン弾性糸(20デニール,モノフィラメント)からなるダブルカバードヤーンで編成したパンティストッキングを常法で染色し、次の組成の処理液に右脚部分のみ浸漬し、遠心脱液して110℃で20秒間スチームセットすることにより、右脚部分にのみバインダーにより親油性保湿剤が付着されたパンティストッキングを得た。
処理液組成 親油性保湿剤:スクワレン 50g 乳化剤 :プライサーフA217E (第一工業製薬(株)製) 10gバインダー :トーレ・シリコーンBY22−826 (トーレ・シリコーン(株)製) 100g 水 840g なお、バインダーとして用いたトーレ・シリコーンBY22−826は低温造膜型シリコーン樹脂バインダーである。
このパンティストッキングを1月〜2月にかけ15人の女性パネラーにより着用試験を行なって、角質水分率、肌の荒れ具合を調べた。
親油性保湿剤が付着されていない左脚皮膚の角質水分率は2.9%(15人の平均値)に対し、親油性保湿剤が付着された右脚皮膚の角質水分率は7.4%(15人の平均値)と高く、また、肉眼判定によると、左脚皮膚に肌荒れが生じていたのに対し、右脚皮膚は肌荒れが生じていなかった。
実施例5〜7 保湿剤として、スクワレンに代えて次の(d)〜(f)の3種類の親油性保湿剤をそれぞれ用いた他の実施例4と同様にして、右脚部分のみバインダーにより親油性保湿剤が付着された3種類のパンティストッキングを得た。
親油性保湿剤(d)パーセリン油(実施例5)
(e)γ−オキザノール(実施例6)
(f)蜜蝋(実施例7)
このパンティストッキングを10人の女性パネラーにより実施例4と同様に着用試験を行なって、角質水分率、肌の荒れ具合を調べた結果を表3に示す。


実施例8 低温造膜型シリコーン樹脂バインダーとして、トーレ・シリコーンBY22−826に代えてKY7014(高松油脂(株)製)を用いた他は実施例4と同様にして、右脚部分のみバインダーにより親油性保湿剤が付着されたパンティストッキングを得た。
このパンティストッキングを実施例4と同様にして5名の女性パネラーにより着用試験を行なうとともに、洗濯耐久性も調べた。結果を表4に示す。


実施例9 実施例2で調整したマイクロカプセル化スクワランを含有する混合分散液11あたり、さらに、ミリスチン酸オクタデシルと乳化剤のレオドール440(花王(株)製)<重量比:5/1>の混合物を50g添加して十分に撹拌し混合分散液を調整した。
この混合分散液を用いた他は実施例4と同様にして、右脚部分のみ、バインダーにより、マイクロカプセル化された親油性保湿剤およびマイクロカプセル化されていない親油性保湿剤とが付着されたパンティストッキングを得た。
このパンティストッキングを実施例4と同様にして5名の女性パネラーにより着用試験を行なうとともに、洗濯耐久性も調べた。結果を表5に示す。


[発明の効果]
本発明の衣料は、低温低湿時での皮膚の角質水分率の低下を防止する効果が高く、肌の潤いを保持し、肌荒れ防止効果の高い、美容健康上、優れた衣料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】スクワラン、スクワレン、ミリスチン酸アルキルエステル、ミグリオール、パーセリン油、γ−オキザノール、蜜臘、ラノリンからなる群より選ばれた少なくとも一種の親油性保湿剤および/またはマイクロカプセル化された該親油性保湿剤がバインダーにより付着されていることを特徴とする衣料。
【請求項2】該衣料が、インナー類である特許請求の範囲第1項記載の衣料。

【特許番号】第2968297号
【登録日】平成11年(1999)8月20日
【発行日】平成11年(1999)10月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−33559
【出願日】平成2年(1990)2月14日
【公開番号】特開平2−300301
【公開日】平成2年(1990)12月12日
【審査請求日】平成6年(1994)9月21日
【審判番号】平9−3034
【審判請求日】平成9年(1997)2月27日
【出願人】(999999999)東レ株式会社
【合議体】
【参考文献】
【文献】特開 昭57−40543(JP,A)
【文献】特開 昭62−250281(JP,A)
【文献】特開 昭63−12765(JP,A)
【文献】特開 昭63−256769(JP,A)
【文献】社団法人 日本化学会 化学便覧応用編 改訂2版、昭和53年4月20日第5刷 丸善株式会社発行 1259〜1261頁