説明

衣料

【課題】 その一部にバイオマスポリマーを用いた繊維で構成されたにもかかわらず、耐湿熱性や染色堅牢度等に優れた環境考慮型の衣料を提供する。
【解決手段】 芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成された芯鞘型複合繊維を用いてなり、50℃×95%RH環境下500時間後の強力保持率が85%以上である衣料。この衣料の摩擦に対する染色堅牢度は、4級以上であることが好ましい。また、鞘部の石油系ポリマーは、ポリエチレンテレフタレートや、エチレンテレフタレート単位を主成分とし、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジカルボン酸のうち少なくとも一成分を5〜20モル%共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートが好ましく、芯部のバイオマスポリマーはポリ乳酸が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯部にバイオマスポリマーを用いた複合繊維からなり、耐湿熱性、耐乾熱性、染色堅牢度等に優れ、かつ製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素量を低減できる衣料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維は汎用性の点から幅広く用いられており、様々な分野で利用されてきた。
【0003】
しかしながら、合成繊維は石油などの限りある貴重な化石資源を原料としたものが主であり、将来資源不足が懸念されている。また、自然環境下ではほとんど分解されず、燃焼した場合は高熱を発し、焼却炉の損傷が激しいなどの問題が生じることに加え、二酸化炭素排出量が増大するため、廃棄処理が問題となっており、広く産業界では石油系合成繊維の使用量を低減すること自体が環境保護になるという思想が広まってきた。
【0004】
近年、バイオマスポリマーは、その原料である植物を栽培する段階で二酸化炭素を吸収するため、燃焼時に二酸化炭素が発生しても相殺されるというカーボンニュートラルの利点が注目され、繊維分野における衣料用途でも開発が進んでいる。例えば特許文献1ではバイオマスポリマー系繊維を用いた上衣が提案されている。
【特許文献1】特開2000−265309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
衣料用途においては、様々な環境で使用され、また洗濯やアイロン等の処理を行うため、物性や染色堅牢度については、実用において問題の生じない高レベルな引裂強力及び破裂強力、耐摩耗性、寸法安定性などが要求される。しかし、バイオマスポリマーからなる合成繊維を用いた場合、染色加工工程における精練や染色などの湿熱処理及び乾燥やヒートセットなどの乾熱処理の影響により強力低下が起こるため、石油系合成繊維より機械的物性が劣り、また摩擦堅牢度などの染色堅牢度が劣るという欠点があった。さらに、使用において洗濯と乾燥、特にタンブラー乾燥の繰り返しを受けたり、汗や雨などにより湿潤した状態で車中や屋外等の高温環境下に放置されると次第に劣化し、強力低下を起こすという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決し、その一部にバイオマスポリマーを用いた繊維で構成されたにもかかわらず、耐湿熱性や染色堅牢度等に優れた環境考慮型の衣料を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いることにより、耐湿熱性、染色堅牢度などに優れた環境考慮型の衣料が得られることを見出して本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
(1)芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成された芯鞘型複合繊維を用いてなり、50℃×95%RH環境下500時間後の強力保持率が85%以上であることを特徴とする衣料。
(2)摩擦に対する染色堅牢度が4級以上であることを特徴とする上記(1)記載の衣料。
(3)鞘部の石油系ポリマーが、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の衣料。
(4)鞘部の石油系ポリマーが、エチレンテレフタレート単位を主成分とし、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジカルボン酸のうち少なくとも一成分を5〜20モル%共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の衣料。
(5)芯部のバイオマスポリマーが、ポリ乳酸であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の衣料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の衣料は、芯部がバイオマスポリマーで形成された繊維を使用しているため、従来の石油系合成繊維のみで構成された衣料より、製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素量を低減することができ、かつ、バイオマスポリマー単独の繊維を用いた衣料より耐湿熱性、染色堅牢度などを向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の衣料は、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いたものである。
【0012】
まず、本発明で用いる芯鞘型複合繊維の鞘部を構成する石油系ポリマーは、溶融紡糸が可能なものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などのポリアルキレンテレフタレートに代表されるポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11及びナイロン12に代表されるポリアミド、ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィン、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンに代表されるポリ塩化ポリマー、ポリ4フッ化エチレン並びにその共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどに代表されるフッ素系繊維等が挙げられる。これらの中では、低コストであるポリエステルやポリアミド系ポリマーが好ましい。また、より好ましくはバイオマスポリマーとしては脂肪族ポリエステルが多いため、相溶性を考慮するとPETなどのポリエステル系のものがよい。また粘度、熱的特性、相溶性を鑑みてポリエステル系ポリマーには、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、及びエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどを共重合していてもよい。中でも、共重合成分として、イソフタル酸(IPA)、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)のうち少なくとも一成分を共重合した共重合PETが好ましい。また、その共重合量は5〜20モル%とすることが好ましく、5〜10モル%とすることがより好ましい。鞘部を上記成分の共重合ポリエステルにすることにより、重縮合反応時の反応温度を下げることができ、さらには、紡糸時の温度も下げることができるため、芯部に用いるバイオマスポリマーの融点が鞘部の石油系ポリマーより低い場合、紡糸時に起こる芯部バイオマスポリマーの熱分解を抑制することができる。また、50℃×95%RHのような高湿度環境における強力低下を抑制することもできる。さらに強度向上のため、溶融重合したポリエステル(プレポリマー)のチップを減圧下又は不活性ガス流通下にポリエステルの融点以下の温度で加熱して固相重合し、高重合度化して得られるポリマーを用いてもよい。
【0013】
次に、本発明で用いる芯鞘型複合繊維の芯部を構成するバイオマスポリマーについても、溶融紡糸が可能なものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、ポリ乳酸、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)やポリブチレンサクシネート(PBS)などバイオマス由来モノマーを化学的に重合してなるポリマー類や、ポリヒドロキシ酪酸などのポリヒドロキシアルカノエート(PHA)等の微生物生産系ポリマーを挙げることができる。これらの中では、耐熱性が安定し、比較的量産化が進んでいるポリ乳酸が好ましい。ポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体とすることが好ましい。そして、ポリ乳酸は、上記のようにL−乳酸とD−乳酸が単独で用いられているもの、もしくは併用されているものであるが、中でも融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましい。ポリ乳酸のホモポリマーであるポリL−乳酸やポリD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。
【0014】
さらに、いずれかの成分の割合を18モル%以上とすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。このような非晶性のポリマーとなると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維を得ることが困難になり、繊維が得られたとしても、耐熱性、耐摩耗性に劣ったものとなるため好ましくない。そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/D又はD/Lが82/18以上のものが好ましく、中でも90/10以上、さらには95/5以上のものが好ましい。また、ポリ乳酸の中でも、上記したようなポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)は、融点が200〜230℃と高いため、布帛にした後の工程通過性が良好で、またアイロン処理も可能となるので、特に好ましい。ポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸の共重合体である場合は、ヒドロキシカルボン酸の具体例としてはグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などが挙げられる。中でもヒドロキシカプロン酸又はグリコール酸を用いることがコスト面からも好ましい。ポリ乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体の場合は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられる。このようにポリ乳酸に他の成分を共重合させる場合は、ポリ乳酸を80モル%以上とすることが好ましい。80モル%未満であると、共重合ポリ乳酸の結晶性が低くなり、融点が120℃未満、融解熱が10J/g未満となりやすい。
【0015】
また、ポリ乳酸の分子量としては、分子量の指標として用いられるASTMD−1238法に準じ、温度210℃、荷重2160gで測定したメルトフローレートが、1〜100(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは5〜50(g/10分)である。メルトフローレートをこの範囲とすることにより、強度、湿熱分解性、耐摩耗性が向上する。また、ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。
【0016】
上記の石油系ポリマーやバイオマスポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて各種充填剤、増粘剤、結晶核剤として効果を示す公知の添加剤を添加することができる。具体的にはカーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素及びケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、ベヘン酸アミド等の脂肪族アミド系化合物、脂肪族尿素系化合物、ベンジリデンソルビトール系化合物、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩や、ガラス繊維、ウィスカーなどが挙げられる。これらは、そのまま添加してもよいし、ナノコンポジットとして必要な処理の後、添加することもできる。価格を抑え、良好な物性バランスを達成するためには、無機の充填剤の配合が好ましい。また、結晶核剤の配合も好ましい。
【0017】
また、上記の石油系ポリマー、バイオマスポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて可塑剤を配合することもできる。可塑剤を配合することで、加熱加工時、特に押出加工時の溶融粘度を低下させ、剪断発熱等による分子量の低下を抑制することが可能となり、場合によっては結晶化速度の向上も期待できる。可塑剤の種類は、特に限定されるものではないが、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤などが好ましく、ポリエステルとの相溶性に優れる点からエーテル系可塑剤、エステル系可塑剤がより好ましい。具体例として、エーテル系可塑剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。また、エステル系可塑剤としては、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類などを挙げることができ、脂肪族ジカルボン酸として、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸などを挙げることができ、脂肪族アルコールとして、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコールなどの1価アルコール、エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコールなどの2価アルコール、また、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストールなどの多価アルコールを挙げることができる。また、上記エーテル系化合物とポリエステル系化合物の2種以上の組み合わせからなる共重合体、ジ−コポリマー、トリ−コポリマー、テトラ−コポリマーなど、またはこれらのホモポリマー、コポリマーなどから選ばれる2種以上のブレンド物が挙げられる。さらに、エステル化されたヒドロキシカルボン酸なども用いることができる。上記の可塑剤は、必要に応じて1種もしくは複数種を用いることができる。
【0018】
さらに、上記の石油系ポリマーやバイオマスポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライトなどの臭気吸収剤、バニリン、デキストリンなどの香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、その他の副次的添加剤を配合することができる。
【0019】
また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、鞘部と芯部の複合界面における相溶性を向上させるために、上記のバイオマスポリマーや石油系ポリマーに相溶化剤を添加することができる。相溶化剤としては、バイオマスポリマー及び石油系ポリマーの両ポリマーに相溶性のある物質を用いることができ、例えば界面活性剤コポリマーやブロックコポリマーなどが挙げられる。さらに、両ポリマーと反応する架橋剤を用いることができ、例えば両末端にエポキシ基を有するエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物やそれらのコポリマー、カルボジイミド化合物やそれらのコポリマーなどが挙げられる。
【0020】
本発明に用いる芯鞘型複合繊維の芯鞘比率としては、芯/鞘の質量比率で20/80〜80/20が好ましい。芯/鞘の質量比率が20/80未満になると芯部バイオマスポリマーの比率が少なくなり、二酸化炭素の低減効果などのバイオマスポリマーを用いるメリットが少なくなるため好ましくない。また、芯/鞘の質量比率が80/20を超えると、本発明の目的とする強力保持性が得られ難くなるため好ましくない。
【0021】
本発明に用いる芯鞘型複合繊維の形態は特に限定されるものではなく、ステープル、ショートカットファイバー、フィラメントのいずれでもよく、フィラメントについてはモノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。また、原糸でも、仮撚加工やニットデニット、流体噴出加工などが施された加工糸でもよく、ダブルツイスター、リング撚糸機などを使用して得る撚糸として用いてもよい。また、芯鞘型複合繊維と他の繊維を複合してもよく、例えば混紡糸、混繊糸などの例が挙げられる。
さらに本発明に用いる芯鞘型複合繊維は、130℃水浴中30分間後の強力保持率が70%以上であることが好ましい。衣料用途ではファッション性や嗜好性を求め、通常は染色して用い、鞘部の石油系ポリマーとして好適に使用されるPETの場合は125〜135℃の水浴中で15分〜60分間の染色を行うが、芯部のバイオマスポリマーとして好適に使用されるポリ乳酸は100〜110℃の水浴中で15分〜60分間の染色を行う。そのため、芯鞘型複合繊維においては、染色温度によっては強力低下が懸念され、130℃水浴中30分間後の強力保持率が70%未満であると、染色時の強力低下が大きく、衣料として使用した場合、引裂強力や引張強力、破裂強力が不足し、実用に適さないため好ましくない。また、強力低下を抑制するため染色温度を下げた場合、衣料として要求される発色性が低くなるため好ましくない。
【0022】
本発明の衣料は、上記の芯鞘型複合繊維を用いて形成されているが、50℃×95%RH環境下500時間後の強力保持率が85%以上、特に90%以上であることが好ましい。
【0023】
なお、ここでいう強力保持率とは、本発明の衣料を構成する生地より取り出した繊維をJIS L−1013の規定に基づいて切断時の強さ(強力)を測定し、下記式(1)により算出した値である。
【0024】
【数1】

【0025】
強力保持率が85%未満になると、衣料としての使用において、洗濯と乾燥、特にタンブラー乾燥や晴天下での天日干しの繰り返しを受けたり、汗や雨等により湿潤した状態で車中や晴天時の屋外のような高温環境下に放置されると、次第に劣化して強力低下を起こすため、実用耐久性が乏しくなる。
【0026】
また、本発明の衣料は、摩擦に対する染色堅牢度が4級以上であることが好ましい。ここでいう摩擦に対する染色堅牢度とは、JIS L−0849の規定に基づいて測定されるものである。衣料用途では、摩擦に対する染色堅牢度が、好ましくは4級以上であることが求められる。芯部に用いるバイオマスポリマーは、単独で繊維として用いた場合は概して摩擦堅牢度が悪く、例えばポリ乳酸については、L*値50未満の濃色に染色した場合は乾燥状態の摩擦堅牢度が2−3級レベルであり、実用に適さない。本発明の衣料では、上記芯鞘型複合繊維を用いることで、摩擦に対する染色堅牢度を4級以上にすることができる。しかるに、本発明では、乾燥試験、湿潤試験のいずれの染色堅牢度においても4級以上が好ましいのである。
【0027】
本発明の衣料は、上記の芯鞘型複合繊維のみで構成されてもよいが、レーヨン、キュプラ、ポリノジックなどの再生セルロース繊維、溶剤紡糸セルロース繊維、又は綿、麻、絹、ウールなどの天然繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、PETやPBT、PTTなどの芳香族ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリウレタンなどの合成繊維を含んでもよい。
【0028】
しかし、製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素量を低減できる環境考慮型の衣料とするためには、上記の芯鞘型複合繊維を50質量%以上、特に70質量%以上使用したものが好ましい。
【0029】
なお、本発明の衣料には、上着、Tシャツ、ウインドブレーカー、ズボン、スカートなどの最終製品のほか、これらの衣料用途に使用される織物、編物、不織布などの布帛の状態のものも包含される。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各物性は、次の方法にて測定、評価した。
【0031】
(a)強力保持率(衣料)
前記したように、JIS L−1013の規定に基づいて測定した。
(b)摩擦に対する染色堅牢度
JIS L−0849の規定に基づいて測定した。具体的には、摩擦試験機2形(学振形)に試験片(220×30mm)として衣料の生地を試験片台上にセットする。そして、摩擦用白綿布を摩擦子の先端に取り付け、2Nの荷重で試験片100mm間を毎分30回往復の速度で100回往復摩耗させ、摩擦用白綿布の着色の程度をグレースケールと比較することで摩擦に対する染色堅牢度を判定する。なお、7.1乾燥試験及び7.2湿潤試験の両者について測定する。
【0032】
(実施例1)
バイオマスポリマーとして、相対粘度1.850、融点168℃、L−乳酸単位98.8モル%、D−乳酸単位1.2モル%のポリ乳酸を用い、石油系ポリマーとして、相対粘度1.336、融点230℃のイソフタル酸を8モル%共重合した芳香族ポリエステル(共重合PET)を用いた。それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、ポリ乳酸が芯部、共重合PETが鞘部となるように配し、芯/鞘複合比(質量比)を50/50、とし、紡糸温度260℃、紡糸速度3050m/分で溶融紡糸を行い、140dtex48fの高配向未延伸糸である芯鞘型複合繊維を得た。引き続き、この高配向未延伸糸を90℃の熱ローラを介して1.49倍に延伸し、さらに、150℃のヒートプレートで熱処理を行った後に巻き取り、95dtex48fの延伸糸である芯鞘型複合繊維を得た。
【0033】
得られた延伸糸を経糸と緯糸に用い、ウォータージェットルームで経糸密度160本/2.54cm、緯糸密度100本/2.54cmで2/2ツイル織物を製織した。
【0034】
得られた織物を、液流染色機を用いて80℃×20分の条件で処理液(ノニオン系活性剤濃度:1g/L、ソーダ灰濃度:5g/L)中で精練リラックスし、シュリンクサーファー型乾燥機にて130℃で乾燥させた後、150℃×1分間プレセットした。さらに、液流染色機を用いて下記染色処方1にて130℃×30分の条件で染色処理した。次に、染色した織物をソーダ灰5g/L、ハイドロサルファイト1g/L、ノニオン界面活性剤(サンモールFL:日華化学株式会社製)1g/Lを含む水溶液中で80℃×20分の条件で還元洗浄した。その後、130℃で乾燥、140℃×1分間仕上げセットして、芯鞘型複合繊維からなる織物を得た。得られた織物は、経糸密度170本/2.54cm、緯糸密度106本/2.54cmであった。この織物を用いてウインドブレーカーを作製した。
【0035】
(染色処方1)
分散染料 3%omf(Dianix Navy S−G 200%:ダイスタージャパン株式会社製)
分散均染剤 0.5g/L(ニッカサンソルト SN−130:日華化学株式会社製)
酢酸(濃度48質量%) 0.2cc/L
【0036】
(比較例1)
芯鞘型複合繊維に代えてポリ乳酸単独からなる95dtex48fの延伸糸を用いること、乾燥を120℃とすること、プレセットを130℃×1分間とすること、染色を110℃×30分とすること、還元洗浄を65℃×20分とすること、並びに仕上げセットを130℃×1分間とすること以外は、実施例1と同様に行いウインドブレーカーを得た。
【0037】
(比較例2)
芯鞘型複合繊維に代えてPET単独からなる95dtex48fの延伸糸を用いること、乾燥を150℃とすること、プレセットを180℃×1分間とすること、並びに仕上げセットを170℃×1分間とすること以外は、実施例1と同様に行いウインドブレーカーを得た。
【0038】
(実施例2)
実施例1における高配向未延伸糸を供給糸として、速度100m/分、ヒーター温度120℃、延伸倍率1.38倍、仮撚数2900回の条件にてZ方向に仮撚加工し、100dtex48fの芯鞘型複合仮撚加工糸を得た。
【0039】
この仮撚加工糸を用い、福原精機株式会社製LPJ-H型両面丸編機(28ゲージ)にて、スムース組織の丸編物(目付150g/m)を製編した。
【0040】
次いで、染色処方を下記染色処方2に変更する以外は、実施例1と同様の手段で後加工し、芯鞘型複合仮撚加工糸からなる編物を得た。得られた編物の目付は180g/mであった。この編物を用いてTシャツを作製した。
【0041】
(染色処方2)
分散染料 4%omf(Dianix Black S−R 200%:ダイスタージャパン株式会社製)
分散均染剤 0.5g/L(ニッカサンソルト SN−130:日華化学株式会社製)
酢酸(濃度48質量%) 0.2cc/L
【0042】
(比較例3)
芯鞘型複合仮撚加工糸に代えてポリ乳酸単独からなる100dtex48fの仮撚加工糸を用いること、乾燥を120℃とすること、プレセットを130℃×1分間とすること、染色を110℃×30分とすること、還元洗浄を65℃×20分とすること、並びに仕上げセットを130℃×1分間とすること以外は、実施例2と同様に行いTシャツを得た。
【0043】
(比較例4)
芯鞘型複合仮撚加工糸に代えてPET単独からなる100dtex48fの仮撚加工糸を用いること、乾燥を150℃とすること、プレセットを180℃×1分間とすること、並びに仕上げセットを170℃×1分間とすること以外は、実施例2と同様に行いTシャツを得た。
【0044】
上記した実施例及び比較例にかかるウインドブレーカー、Tシャツの強力保持率及び摩擦に対する染色堅牢度を測定し、その結果をそれぞれ表1、表2に示す。なお、表中における「乾」とは乾燥試験の結果を、「湿」とは湿潤試験の結果を指す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表1から明らかなように、実施例1のウインドブレーカーと実施例2のTシャツは、芯部にポリ乳酸、鞘部に共重合PETを配した芯鞘複合繊維を使用しているため、85%以上の強力保持率と4級以上の摩擦に対する染色堅牢度を有しており、実用性に優れたものであった。
【0048】
一方、比較例1のウインドブレーカーと比較例3のTシャツは、ポリ乳酸単独からなる繊維を使用しているため、強力保持率が85%未満であり、耐湿熱性が劣るものであった。さらに、乾燥状態での摩擦に対する染色堅牢度も1級又は1−2級と低いものであった。
【0049】
また、比較例2のウインドブレーカーと比較例4のTシャツは、PET単独からなる繊維を使用しているため、85%以上の強力保持率と4級以上の摩擦に対する染色堅牢度を有していた。しかしながら、バイオマスポリマーを使用していないため、製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素量を低減するという本発明の効果を有しないものであった。
【0050】
以上の結果より、本発明の衣料においては、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いているため、従来の石油系合成繊維のみで構成された衣料より、製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素量を低減することができ、かつ、バイオマスポリマー単独の繊維を用いた衣料より耐湿熱性、染色堅牢度等が向上し、実用性に優れていることが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成された芯鞘型複合繊維を用いてなり、50℃×95%RH環境下500時間後の強力保持率が85%以上であることを特徴とする衣料。
【請求項2】
摩擦に対する染色堅牢度が4級以上であることを特徴とする請求項1記載の衣料。
【請求項3】
鞘部の石油系ポリマーが、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1又は2記載の衣料。
【請求項4】
鞘部の石油系ポリマーが、エチレンテレフタレート単位を主成分とし、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジカルボン酸のうち少なくとも一成分を5〜20モル%共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1又は2記載の衣料。
【請求項5】
芯部のバイオマスポリマーが、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の衣料。


【公開番号】特開2008−190057(P2008−190057A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23132(P2007−23132)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】