説明

衣服の裏地

【課題】 夏用のテーラードタイプ(背広型)の衣服に適した、着やすさを維持した、涼しい背広型衣服の裏地を提供する。
【解決手段】 衣服がテーラードタイプの上着であり、前裏6の脇下領域A、背裏7の脇下領域Aおよび下袖裏11の上部領域Cがメッシュ生地10からなり、前裏6、背裏7および下袖裏11における他の領域B、Dが織物生地20からなり、両者は両領域の境界で縫合わされている。ズボンの膝裏13は、前開き部に隣接した膝裏のフロント領域Eがメッシュ生地10からなり、膝裏における他の領域Fが織物生地20からなる。前記メッシュ生地が銀糸を含んでいることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衣服の裏地に関するものであり、特に、テーラードタイプ(背広型)の衣服における裏地であって、夏用の衣服に適した裏地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、テーラードタイプの上着では、夏物でも裏地の分量は冬物におけるそれよりも少なくなっているが、ワイシャツなどを着た状態で上着を着用する際に着やすいように、滑りをよくするために裏地が取付けられている。従来の裏地は滑りをよくするために目の詰まったものが使用されており、そのため風通しが悪く、夏のスーツなどは表生地を薄いものにしても、着用すると暑い状態となる。
【0003】
また、テーラードタイプの衣服においては、ズボンにおいても滑りをよくするために膝裏をつけたものが多いが、このような膝裏をつけたものは滑りがよいので着用するときは着やすいが、夏物用としては暑い感じがする。
【0004】
実用新案登録第3088492号公報(特許文献1)には、夏用の上着において、メッシュ・ネット製生地を細長に裁断して前裏地とし、メッシュ・ネット製生地を略背幅大に裁断して後裏地とすることが提案されている。
【特許文献1】実用新案登録第3088492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
夏物用の背広やジャケット、ズボンなどに従来の裏地を使用していると、裏地のために表生地を薄いものにしても暑く感じるという問題がある。また、夏は汗をかきやすいので、脇の下やズボンの前立ての部分などは汗により雑菌が繁殖して、衛生的でなく、汗臭くなるという問題がある。
【0006】
特許文献1に開示されている上着においては、前裏地が細幅であって、脇の下の箇所には裏地が存在しない。そのため、ワイシャツの脇の下が汗により濡れると、上着の表地が直接に濡れて、染みになってしまうという問題がある。更に、裏地としてメッシュ・ネット製生地を大きく使用しているが、メッシュ・ネット製生地は滑りが悪いので、上着が着難いという問題も生じる。
【0007】
本発明は、夏用のテーラードタイプ(背広型)の衣服に適した、着やすさを維持した、涼しい背広型衣服の裏地を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は衣服の裏地において、裏地の一部領域がメッシュ生地であり、他の領域が織物生地であり、両者は両領域の境界で縫合わされていることを特徴とする衣服の裏地により前記目的を達成する。
【0009】
また、本発明は、衣服がテーラードタイプの上着であり、前裏の脇下領域、背裏の脇下領域および下袖裏の上部領域がメッシュ生地からなり、前裏、背裏および下袖裏における他の領域が織物生地からなり、メッシュ生地と織物生地とが領域の境界で縫合わされていることを特徴とする衣服の裏地により前記目的を達成する。
【0010】
衣服がズボンの場合は、裏地が膝裏であって、ズボンの前開き部に隣接した膝裏のフロント領域がメッシュ生地からなり、膝裏における他の領域が織物生地からなり、両者は両領域の境界で縫合わされていることにより前記目的を達成する。
【0011】
本発明はメッシュ生地が銀糸を含んでいることが好ましい。特に、銀糸がフィルムに銀層を設けたもので、銀層がフィルムにより挟まれた状態のものが使用しやすい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、裏地がメッシュ生地と薄地の目の粗い織物生地とから構成されているので通気性がよく涼しいものである。
【0013】
本発明によれば、汗をかきやすい脇の下に対応して、前身頃および後身頃における脇下領域や、袖において脇下部となる下袖裏の上部領域(すなわち、袖付けに近い部分)にメッシュ生地を使用しているので、その脇下領域は通気性がよくなり、汗をかき難くなる。
【0014】
特に、前裏と背裏を別個のものとした場合、その重なり合う脇下領域を両者ともメッシュ生地としているので通気性がよい。しかも、前裏と後裏を別としたことにより、各裏地を表生地に縫着する際にそれぞれ別個に縫着すればよいので、縫製し易い。そして、前裏および後裏の自由端部分をフラシとしているので、前裏および後裏がそれぞれ自由に動ける余地があり、衣服を着用した状態で腕を上げ下げする際も、裏地によって動きを制限されることがない。
【0015】
本発明によれば、ズボンの膝裏で、前開きに隣接したフロント領域をメッシュ生地としているので、通気性がよくなり、好ましい。また、ズボンにおけるシック(ズボンの内側の股の当たりに付ける補強布のこと)もメッシュ生地とすることが好ましい。
【0016】
特に、メッシュ生地が銀糸を含むようにすると抗菌性、防臭性が発揮できる。銀糸は合成樹脂フィルムに銀層を真空蒸着などにより形成し、それをスリットしたものを使用すると、銀イオンが発生し易すいものとなるので好ましい。この場合、銀層をフィルムでサンドイッチしたり、フィルムと保護層の間に状態のサンドイッチしたものとすると、銀が酸化し難いので好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に示した実施例に基いて本発明を詳細に説明する。図1は本発明の裏地の一実施例を衣服の表地に取付けた状態を示す平面図であり、図2(a)は衣服の右前身頃に使用する前裏を構成するメッシュ生地と織物生地を示す平面図、図2(b)は衣服の右後身頃に使用する背裏を構成するメッシュ生地と織物生地を示す平面図、図2(c)は図2(a)に示したメッシュ生地と織物生地を縫い合わせた前裏を示す平面図、図2(d)は図2(b)に示したメッシュ生地と織物生地を縫い合わせた背裏を示す平面図である。
【0018】
図1において、符号1は前身頃の表生地を示し、符号2は後身頃の表生地を示し、符号3は身返しを示す。身返しは表生地と同じ生地が使用される。符号4はポケットを示している。符号A、Bで示した部分が本発明の裏地である。
【0019】
前裏6は肩から裾まで延びており、フラシ状態で表生地に取付けられている。すなわち、その側縁61は身返し3に縫着されるが、反対側の縁62は脇線(前身頃と後身頃の縫い合わせ箇所)5の上端付近から身返し3の下端に向かって斜めに裁断されており、テープ63で縁取りされ、縁62はフラシ状態(表生地にしっかり固定しないで、浮かせた状態のこと)である。このようにすると縫製もし易く、また着用時の体の動きに対しても裏地により引きつれたりすることがない。
【0020】
図1に示すように、背裏7は背中の上部にしか存在せず、この衣服は背抜きの状態である。背裏7は左右2枚の背裏7、7が背中心8の箇所で部分的に重なり合っており、その下端は脇線5を越えて延びており、前裏6と部分的に重なり合っている。背裏7の下端縁71はテープ73で縁取られ、フラシの状態である。 図2(a)に示すように、前裏6はメッシュ生地10と織物生地20によって構成されており、図1に領域Aで示した箇所(脇下領域)がメッシュ生地10からなり、領域Bで示した箇所(領域A以外の領域)が織物生地20からなる。
【0021】
同様に、図2(b)に示すように、背裏7もメッシュ生地10と織物生地20によって構成され、図1では領域Bしか見えないが、前裏6と重なった脇下領域に領域Aがある。脇下領域Aにおいては前裏6と背裏7のメッシュ生地10同士が重なり合ってるが、メッシュ同士なので穴が開いており、通気性が非常によい状態となっている。
【0022】
図2(c)および(d)に示すように、領域Aと領域Bの境界線の部分30においてメッシュ生地10と織物生地20が縫合わされて、それぞれ前裏6または背裏7となる。なお、図2に示した前裏6および背裏7は右身頃用であり、左身頃用の裏地は図2に示したものと左右対称の形状となる。
【0023】
領域Bに使用する織物生地20は薄手で、比較的織密度が小さく、通気性を有するものが好ましい。織密度が高いと通気性が悪くなり、また織密度が小さ過ぎると織物の目ずれが生じたり、滑りが悪くなったりする。なお、織物生地20は前裏6のものと背裏7のものが同じ生地でもよいし、異なった生地でもよい。
【0024】
図1および図2に示した実施例では、前裏6と背裏7が分離したものであり、しかも前裏6および背裏7の下端部分がはテーピングで縁縢りされており、それぞれフラシ状態で表生地に取付けられている。このように前裏6と背裏7を分離すると縫製もし易く、また着用時の体の動きに対しても裏地により引きつれたりすることがない。
【0025】
図3は本発明の裏地の別の実施例を衣服の表地に取付けた状態を示す平面図であり、図4(a)は衣服の右前身頃に使用する前裏を構成するメッシュ生地と織物生地を示す平面図、図4(b)は図4(a)に示したメッシュ生地と織物生地を縫い合わせた前裏を示す平面図、図4(c)は衣服の右後身頃に使用する背裏を構成する織物生地を示す平面図である。
【0026】
図3および図4示した実施例では、図1と同じものには同じ符号を付しており、詳細な説明は省略する。この実施例が図1に示した実施例と異なっている点は、前裏6と背裏7とが一連のものとなっている点である。ただし、左右の身頃の裏地は別体であり、左右対称の形状である。
【0027】
図4に示すように、前裏6はメッシュ生地10と織物生地20によって構成されており、図3に領域Aで示した箇所(脇下領域)がメッシュ生地10からなり、領域Bで示した箇所(領域A以外の領域)が織物生地20からなる。そして、領域Aと領域Bの境界線の部分30においてメッシュ生地10と織物生地20が縫合わされて、前裏6となっている。図4に図示した前裏6は右前身頃用のものであり、図3に示すように、その右側縁64は脇線5の箇所に位置する。右背裏7は図4(c)に示す形であり、織物生地20からなり、左側側縁74は前裏6メッシュ生地10の側縁64と縫合わされる。背裏7は第1実施例と同様に、左右の背裏7、7が背中心8の箇所で部分的に重なり合っている。一体となった前裏6と背裏7の下端縁はテープ63および73で縁取られ、フラシ状態となっている。
【0028】
図5(a)は本発明の袖裏地の一実施例で、下袖裏と山袖裏を縫い合わせた筒状の袖裏の平面図であり、図5(b)は下袖裏を構成するメッシュ生地と織物生地を示す平面図、図5(c)は図5(b)に示したメッシュ生地と織物生地を縫い合わせた下袖裏を示す平面図、図5(d)は山袖裏を示す平面図である。
【0029】
図5(a)に示すように、袖裏9は下袖裏11と山袖裏12とからなる。図5(b)に示すように、下袖裏11は上部領域C(袖付けに近い部分)はメッシュ生地10とし、他の領域D(袖口側)は薄手で通気性がよく、滑りのよい織物生地20で構成し、図5(c)示すように、両領域の境界30でメッシュ生地10と織物生地20が縫合わされて、下袖裏11となる。図5(d)に示した山袖12は薄手で通気性がよく、滑りのよい織物生地を使用する。下袖裏11の下部領域Dおよび山袖12は滑りをよくするために前裏6や背裏7の領域Bに使用していた織物生地20よりも織密度の大きい滑りのよい織物生地20からなる裏地を使うことが好ましい。
【0030】
図5に示したような袖裏9は、衣服の着用者が手を下ろしたときに脇の下となる領域にメッシュ生地10が使用されているので、通気性がよい。また、その他の部分については織物生地20を使用しているので、滑りがよく、衣服の着脱が楽である。
【0031】
図6(a)は膝裏の一実施例であり、膝裏を構成するメッシュ生地と織物生地を示す平面図、図6(b)は図6(a)に示したメッシュ生地と織物生地を縫い合わせた膝裏を示す平面図である。図7は図6(b)に示した膝裏をズボンの右身頃に取付けた状態を示す平面図であり、膝裏およびズボン本体の上部のみが図示されている。
【0032】
図6に示すように、本発明の膝裏はメッシュ生地10と織物生地20により構成され、図6(b)のように両者は縫合わされ、膝裏13となる。なお、符号131を付した二点鎖線は前中心線を示している。そして、図7に示すように、ズボンにおける膝裏13は前開き部14に隣接したフロント領域Eはメッシュ生地10であり、他の領域Fは滑りのよい織物生地20である。両者はその境界30において縫合わされている。なお、符号15は腰裏を示し、腰裏15の中央部151(斜線を付した部分)をメッシュ生地10としてもよい。また、符号16、17はポケットを示しており、このポケット16により膝裏13の一部が覆われた状態で図示されている。また、ズボンにおいてはシック(股下部分の補強布)をメッシュ生地10とすることが好ましい。
【0033】
本発明の裏地に使用するメッシュ生地10は銀糸を含んでいるものが好ましい。銀糸は銀イオンによる抗菌作用があり、脇下領域のように汗をかきやすい部分に使用した場合、汗により菌が繁殖したりすることを防ぐことができ、これにより菌による匂いの発生も防止できる。
【0034】
銀糸としては合成樹脂フィルムに真空蒸着やスパッタリング等により銀層を形成したものが好ましく、通常、銀層の上に更に保護層やフィルムなどが設けられている。銀層をフィルムでサンドイッチしたり、フィルムと保護層の間に状態のサンドイッチしたものは、銀が酸化し難い。このような銀層を形成したフィルムをマイクロスリッターによりスリットして糸としたものを使用することが好ましい。銀層を形成したフィルムをスリットすると、スリット箇所において銀層が外部に現れるので、銀イオンが発生し易く、抗菌作用が大きい。このような銀糸を単独あるいは他の糸と撚り合わせたものを、メッシュ編を行うときに使用することにより、メッシュ生地10が抗菌性を有するものとなる。この抗菌性を有するメッシュ生地10を実施例に示したように身頃の裏地の脇下領域や、袖裏の上部領域、ズボンのフロント領域に使用すれば、汗による菌の繁殖を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の裏地の一実施例を衣服の表地に取付けた状態を示す平面図である。
【図2】(a)は衣服の右前身頃に使用する前裏を構成するメッシュ生地と織物生地を示す平面図、(b)は衣服の右後身頃に使用する背裏を構成するメッシュ生地と織物生地を示す平面図、(c)は図2(a)に示したメッシュ生地と織物生地を縫い合わせた前裏を示す平面図、(d)は図2(b)に示したメッシュ生地と織物生地を縫い合わせた背裏を示す平面図である。
【図3】本発明の裏地の別の実施例を衣服の表地に取付けた状態を示す平面図である。
【図4】(a)は衣服の右前身頃に使用する前裏を構成するメッシュ生地と織物生地を示す平面図、(b)は図4(a)に示したメッシュ生地と織物生地を縫い合わせた前裏を示す平面図、(c)は衣服の右後身頃に使用する背裏を構成する織物生地を示す平面図である。
【図5】(a)は本発明の袖裏地の一実施例で、下袖裏と山袖裏を縫い合わせた筒状の袖裏の平面図であり、(b)は下袖裏を構成するメッシュ生地と織物生地を示す平面図、(c)は図5(b)に示したメッシュ生地と織物生地を縫い合わせた下袖裏を示す平面図、(d)は山袖裏を示す平面図である。
【図6】(a)は膝裏の一実施例であり、膝裏を構成するメッシュ生地と織物生地を示す平面図、(b)は図6(a)に示したメッシュ生地と織物生地を縫い合わせた膝裏を示す平面図である。
【図7】図6(b)に示した膝裏をズボンの右身頃に取付けた状態を示す平面図であり、膝裏およびズボン本体の上部のみが図示されている。
【符号の説明】
【0036】
A 脇下領域
B その他の領域
C 下袖裏の上部領域
E 膝裏のフロント領域
10 メッシュ生地
20 織物生地
6 前裏
7 背裏
9 袖裏
11 下袖裏
13 膝裏

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服の裏地において、裏地の一部領域がメッシュ生地であり、他の領域が織物生地であり、両者は両領域の境界で縫合わされていることを特徴とする衣服の裏地。
【請求項2】
衣服がテーラードタイプの上着であり、前裏の脇下領域、背裏の脇下領域および下袖裏の上部領域がメッシュ生地からなり、前裏、背裏および下袖裏における他の領域が織物生地からなることを特徴とする請求項1記載の衣服の裏地。
【請求項3】
衣服がズボンであり、裏地が膝裏であって、ズボンの前開き部に隣接した膝裏のフロント領域がメッシュ生地からなり、膝裏における他の領域が織物生地からなることを特徴とする請求項1記載の衣服の裏地。
【請求項4】
前記メッシュ生地が銀糸を含んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の衣服の裏地。
【請求項5】
前記銀糸がフィルムに銀層を設けたものであることを特徴とする請求項4記載の衣服の裏地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−231490(P2007−231490A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58235(P2006−58235)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(593085417)株式会社オンワード樫山 (14)
【Fターム(参考)】