説明

衣服

【課題】耐摩耗性および軽量感に優れた衣服を提供する。
【解決手段】ポリフェニレンサルファイド繊維と他の繊維との混紡糸を用いた織物を有してなる衣服であって、身丈方向の糸のカバーファクターが7000〜7700、身幅方向の糸のカバーファクターが5000〜6150であることを特徴とする衣服。
ただし、各方向のカバーファクターは次式により定義される。
カバーファクター={(その方向の糸の繊度(dtex)}1/2 ×その方向の糸の密度(本/10cm)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袖口部や大腿部の耐摩耗性および着用軽量感に優れ、かつ保温性を有した衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の衣料用品のうち、作業用の衣服に要求される性能として、破れ易さや「こすれ」易さあるいは「てかり」などの耐久性、動き易さや軽量感などの着用快適さに重点が置かれ商品設計されてきた。
【0003】
特に官公庁や学校、銀行、公社あるいは民間のコンビニエンスストアーなどで使用される衣服ではここ数年、地球環境への配慮や省エネに対応して、リサイクル素材や化石原料を使わない天然素材を用いた見直しが図られてきている。
【0004】
一般衣服の冬物であれば、保温性が高く、最終的には省エネに繋がるような新素材への要求が、作業着では耐摩耗性に優れた長持ちするような素材への要求が強くなっている。
【0005】
現状では依然として冬物の高級品ではやはり羊毛を主体にした素材が、普及品ではポリエステルやアクリルを混紡した素材が主体に使われ、2極化は益々進行している。
【0006】
前者の高級品では羊毛を主体にしており、保温性や難燃性があるものの軽量感に欠けることが、後者の普及品ではポリエステル等を主体にしており耐久性はあるものの保温性や難燃性に欠けたり、風合いが「硬い」など、それぞれの素材に問題もある。
【0007】
そこで、衣服の中でも特に作業着に要求される保温性や難燃性あるいは耐久性などを改善する製造方法や製品の提案が行われてきた。
【0008】
例えば、ポリフェニレンサルファイド繊維(以下、単にPPSと略記する場合がある)と他の繊維の混紡糸を薄地織物や靴下に用い、保温性、耐蒸熱性、難燃性に優れたものとすることが提案されているが(例えば、特許文献1参照)、耐摩耗性や軽量感を改善する技術的な示唆は見当たらない。
【0009】
また、PPSと他の繊維の混紡糸を裏地に用い、保温性、耐光堅牢度に優れたものとすることが提案されているが(例えば、特許文献2参照)、やはり耐摩耗性や軽量感を改善する技術的示唆はない。
【0010】
また、PPSに毛羽やループを付与し他の繊維の混繊糸を毛布に用い、保温性に優れたものとすることが提案されているが(例えば、特許文献3参照)、やはり耐摩耗性や軽量感を改善する技術的示唆は見当たらない。
【0011】
また、PPSと竹レーヨンとの二重織を婦人織物に用い、保温性や吸湿性に優れたものとすることが提案されているが(例えば、特許文献4参照)、やはり耐摩耗性や軽量感については技術的な示唆はない。
【0012】
このように、PPS素材の機能性の一つである保温性や難燃性あるいは耐蒸熱性などの特徴をそのまま活かした衣服が提案されているが、衣服の中でもユニホームに必要な耐摩耗性や軽量感の改善につながる提案は行われていない。
【特許文献1】特開2001−55640号公報
【特許文献2】特開2003−278017号公報
【特許文献3】特開2003−339503号公報
【特許文献4】特開2004−244786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、係る従来技術の背景に鑑み、耐摩耗性および軽量感に優れた衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は、ポリフェニレンサルファイド繊維と他の繊維との混紡糸を用いた織物を有してなる衣服であって、身丈方向の糸のカバーファクターが7000〜7700、身幅方向の糸のカバーファクターが5000〜6150であることを特徴とする衣服である。
ただし、各方向のカバーファクターは次式により定義される。
カバーファクター={(その方向の糸の繊度(dtex)}1/2 ×その方向の糸の密度(本/10cm)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、衣服のスラックスにおいて、「股ズレ」と呼ばれる大腿部の内側どうしの摩耗性では、染色摩擦堅牢度が高いので白化が少なく、上着においては、袖口の「すり切れ」が少なく耐久性が高い衣服とすることができる。
【0016】
また、本発明によれば、PPS繊維を混紡させることにより、保温性や生地厚さを維持しながら目付が小さくなり、いわゆる軽量感を得ることができるので、動き易く着用快適感に優れた衣服とすることができる。
【0017】
さらにまた、PPSが混紡されているので、生地の曲げ硬さが柔らかくなり、着用の動き易さがさらに容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の衣服は、ポリフェニレンサルファイド繊維と他の繊維との混紡糸を有してなる。 PPS繊維を混紡させることにより、保温性や生地厚さを維持しながら目付を小さくすることができ、すなわち軽量感を得ることができ、また、生地の曲げ硬さが柔らかくなり、動き易く着用快適感に優れた衣服とすることができる。
【0019】
また、PPS繊維を混紡させることにより、耐摩耗性が向上する。繊維は、剛性が低すぎても高すぎても、良好な耐摩耗性を得ることができない。例えば、剛性が低すぎると、強度が弱いことになるので摩擦が生じる箇所から破断してしまい容易に摩耗してしまう。一方、剛性が高すぎると、摩擦が生じる箇所に応力が集中してしまい白化しやすくなる。この点においてPPS繊維は適度な剛性を有し、これを混紡することにより、摩擦に耐える強度を有しつつも摩擦による応力を分散できるので、耐摩耗性を向上させることができる。
【0020】
紡績糸に混紡されているPPS繊維の単繊維繊度としては0.5〜8.0dtexが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0dtexである。この範囲内とすることにより、他の繊維とバランス良く混紡し、良好な紡績性を得ることができる。また、0.5dtex以上とすることで風合いが極端に柔らかくなるのを防ぐことができ、8.0dtex以下とすることで風合いが硬くなるのを防ぐことができる。
【0021】
PPS繊維の平均繊維長としては、30〜100mmが好ましく、より好ましくは35〜80mmである。繊維長が30mm未満では混紡糸の強力が低くなることや、紡績性が低くなったり、繊維長が100mmを超えると短繊維糸が紡績糸から長くはみ出し、ピリングの発生や糸ムラになりやすく好ましくない。
【0022】
PPS繊維と混紡する相手の繊維としては、羊毛、木綿、絹、ポリエステル系繊維、ナイロン等のポリアミド系繊維、アクリル系繊維、レーヨン系繊維などから選ばれる少なくとも1種の短繊維が好ましく、衣服の用途や所望の風合いに応じて適宜選択するとよい。例えば、ポリエステルの混紡率を高くすると風合いは硬くなる傾向にあり、ポリアミドの混紡率を高くするとハリ・腰の風合いは柔らかくなる傾向にある。
【0023】
また、混紡する相手の繊維として複数種を組み合わせて採用してもよい。例えば、羊毛、ポリエステル、ナイロンや、羊毛、ポリエステル、アクリルや、羊毛、ポリエステル、レーヨンなどの組み合わせを挙げることができる。なかでも、羊毛を主として、ポリエステル、ポリアミドなどを組み合わせるのがコストおよび物性の点から好ましい。
【0024】
カーボン含有繊維を混紡することも、静電気の防止の点で好ましい。
【0025】
混紡糸におけるPPS繊維の混紡率としては、3〜50質量%が好ましく、より好ましくは5〜30質量%である。3質量%以上とすることで耐摩耗性向上の実効を得ることができ、50質量%以下とすることで、PPSの混紡のしすぎによる耐摩耗性の低下を防ぐことができる。
【0026】
また、本発明の衣服がスラックスからなるものまたはスラックスを含むものである場合には、スラックスの身丈方向の糸におけるPPS繊維の混紡率がスラックスの身幅方向の糸におけるPPS繊維の混紡率以上であることが好ましく、より好ましくは身丈方向の糸におけるPPS繊維の混紡率が身幅方向の糸におけるPPS繊維の混紡率を上まわることである。スラックスにおいては摩擦に関し特に「股ズレ」が問題となるが、股ズレにおいてはスラックスの身丈方向の糸同士の摩擦が支配的であるので、身丈方向の糸にPPS繊維を優先的に配することで、効果的に耐摩耗性を向上させることができる。
【0027】
また、本発明の衣服が袖口を有するものである場合には、袖口の袖口回り方向の糸におけるPPS繊維の混紡率が袖口の長手方向の糸におけるPPS繊維の混紡率以上であることが好ましく、より好ましくは袖口回り方向の糸におけるPPS繊維の混紡率が袖口の長手方向の糸におけるPPS繊維の混紡率を上まわることである。袖口の摩耗においては袖口回り方向の糸と机等との摩擦が支配的であるので、袖口回り方向の糸にPPS繊維を優先的に配することで、効果的に耐摩耗性を向上させることができる。
【0028】
また、本発明の衣服のその他の部位について、全般的には、身丈方向の糸におけるPPS繊維の混紡率が身幅方向の糸におけるPPS繊維の混紡率以上であることが好ましく、より好ましくは身丈方向の糸におけるPPS繊維の混紡率が身幅方向の糸におけるPPS繊維の混紡率を上まわることである。全般的にも、身丈方向の糸同士の摩擦が支配的である傾向にあるので、身丈方向の糸にPPS繊維を優先的に配することで、効果的に耐摩耗性を向上させることができるからである。
【0029】
特に好ましい組み合わせは、身丈方向の糸のPPS混防率を10〜30質量%、身幅方向の糸のPPS混紡率を5〜20質量%とすることである。
【0030】
本発明の衣服は、上記のような混紡糸を用いた織物を有してなる。
【0031】
また例えば、カーボン含有繊維を交織することも、静電気の防止の点で好ましい。
【0032】
織物の組織としては、平織、斜文織、朱子織等を採用することができ、一般的な中厚地衣服では斜文織(綾織り、あるいはツイルとも呼ばれる。)が適している。また、斜文織組織等の、タテ/ヨコの一方の糸の浮きが他方の糸の浮きよりも多い組織のものは、前述のように、用いる部位の摩耗において支配的となる方向に、糸の浮きが多い方向の糸を配し、かつ、PPS繊維を優先的に配することで、PPS繊維が表面に表れやすく、耐摩耗性の向上をより効果的に得ることができる。
【0033】
本発明の衣服は、身丈方向の糸のカバーファクターが7000〜7700、身幅方向の糸のカバーファクターが5000〜6150であることが重要である。
ただし、各方向のカバーファクターは次式により定義される。
カバーファクター={(その方向の糸の繊度(dtex)}1/2 ×その方向の糸の密度(本/10cm)
身丈方向の糸のカバーファクターを7000〜7700、身幅方向の糸のカバーファクターを5000〜6150とすると、目付を減らしても嵩高性や風合いはほとんど影響を受けないので、軽量感が得られる。一方、身丈方向の糸のカバーファクターが7000未満、身幅方向の糸のカバーファクターが5000未満になると、目付を減少させることはできるが地薄感が出やすく、逆に身丈方向の糸のカバーファクターが7700より大きく、身幅方向の糸のカバーファクターが6150より大きくなると地厚感が出やすく目付も増加するので、軽量感は得られにくくなる。また、身丈方向の糸のカバーファクターが7000未満では、織物の身丈方向の生地構成強さが弱くなりすぎ、摩擦性が低下したり、衣服のハリ・腰・風合いが柔らかなりすぎてしまい、また、7700を越えると織物の構成強さが強くなりすぎ、摩擦性が低下したり衣服のハリ感や腰感の風合いが硬くなりすぎてしまう。
【0034】
縫製において、袖口の生地の取り付け方法は、手首を巻き付けた後、手首の裏側に折り曲げ、折り曲げ部の0.5〜2.0mm内をミシンで縫うとよい。
【0035】
染色加工は、原綿を直接染色するトップ染めが好ましく、羊毛を混綿するので羊毛特有の縮絨や蒸絨などの後加工を施すことにより風合いや色目を調整することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明に用いた評価方法は以下のとおりである。
【0037】
(1)密度
JIS L 1096:1999 8.6.1「織物の密度」に拠って測定した。織物の異なる5か所のタテ方向2.54cm×ヨコ方向2.54cmにおけるタテ糸およびヨコ糸の本数を数え、それぞれについて平均値を算出し、10cmあたりの本数に換算して表した。
【0038】
(2)番手(s)
JIS L 1095:1999に拠って測定した。番手の表示は、同規格の4.2項に拠りメートル番手を用いた。
【0039】
(3)繊度(dtex)
JIS L 1013:1999 8.3.1 A法に基づき、112.5m分の小かせをサンプル数5採取し、その質量を測定し、その値(g)に10000/112.5をかけ、見掛け繊度(dtex)を求めた。見かけ繊度から、次の式によって正量繊度を求め、平均値を算出した。
正量繊度(dtex)=D’×(100+Rc)/(100+Re)
D’:見かけ繊度(dtex)
Rc:公定水分率(%)
Re:平衡水分率(%)。
【0040】
(4)目付(g/m
JIS L1096:1999 8.4.2に基づき、20cm×20cmの試験片を3枚採取し、それぞれの標準状態における質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0041】
(5)カバーファクター
上記(1)で得た密度の値を用い、次式により算出した。
カバーファクター={(繊度(dtex)}1/2×密度(本/10cm) 。
【0042】
(6)摩耗強さ(回)
JIS L 1096:1999 8.17.5 E法(マーチンデール法)に基づいて測定した。直径3.8cmの試験片を4枚採取し、同試験片の裏面にポリウレタンフォームのシートを重ねた。これをマーチンデール摩耗試験機の試料ホルダに取り付け、あらかじめ織フェルトの上に標準摩耗布を重ねて取り付けた摩耗台の上に載せて9.0kPaの押圧荷重を加えて多方向に摩擦し、毛羽立ちの発生の確認によるエンドポイントまでの回数を測り、4回の平均値を算出した。
【0043】
(7)染色摩擦堅牢度・乾燥(級)
JIS L 0849:2004に準じて、摩擦試験機II形(学振形)を用いて測定した。タテ方向に22cm×3cmの試験片を1枚切り取り、予備乾燥し、温度20℃、相対湿度65%の標準状態に4時間放置した。試験片を試験片台の上に取り付け、摩擦用白綿布を摩擦子の先端に取り付け、2Nの荷重で、試験片の中央部10cmの間を毎分30往復の速度で100回往復摩擦した。変退色用グレースケールと比較する視感法により判定した。
【0044】
(8)布−布摩擦堅牢度・乾燥(級)
スラックスの内股部分の擦れ度合い、つまり「股ズレ」の白化度合いを評価するものである。JIS L 1096:1999 8.17「摩耗強さ」のB法(スコット形法)に使用する揉み試験機を用いて、サンプルを6cm×8.5cmにカットし2枚作成する。両サンプルに接圧1kgを加え、ストローク6cm、速度120往復/分にて6000往復処理を施し、染色摩擦堅牢度の評価方法に準拠し級判定をした。この時、サンプルはタテ糸方向どうしが同方向に接触する方向に取り付け、ヨコ糸方向と同方向に揉み往復処理を施すのである。
【0045】
(9)袖口摩擦堅牢度・乾燥(級)
上着の袖口の摩耗度合い、つまり、机の上で袖口が擦れる「ほつれ」の度合いを評価するものである。ART法(アピアランスリテンション型)により2回折り返し縫目の上に接圧750gの研磨紙(粗さ:P1500)を当てながら40秒間(回転数が1000回/11分)フロスティング摩擦試験を行い染色摩擦堅牢度の評価方法に準拠し判定した。この時、袖口の縫製は腕を巻く方向と同方向に織物のタテ糸方向と同方向になるように取り付け、袖口は内側に折り曲げ、折り曲げ部1mmのところに5針/cmの縫い目をミシン機にて打ち込んだものである。
【0046】
(10)着用感
5人の試験者により官能試験を行い、次のような基準で評価した。
風合い:5級(ソフト)、3級(中間)、1級(硬い)
活動性:5級(動きやすい)、3級(中間)、1級(動きにくい)。
【0047】
(11)綾組織の表示はJIS L 1096の8.1.1項に拠って表した。
【0048】
[実施例1]
(タテ糸)
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度2.2dtex×繊維長51mmのポリフェニレンサルファイド繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ63.9質量%、13.7質量%、22.4質量%の混合比にてZ方向に混紡し、S方向に双糸加工し、番手2/60.6の混紡糸A1を製造した。
【0049】
(ヨコ糸)
単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度1.7dtex×繊維長44mmのナイロン繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ53.8質量%、46.2質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/69.4の混紡糸B1を製造した。
【0050】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmポリエチレンテレフタレート繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ78.6質量%、21.4質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/60.1の混紡糸C1を製造した。
【0051】
混紡糸B1と混紡糸C1とを合糸してS方向に撚糸して双糸とし、番手2/64の混紡糸D1を製造した。
【0052】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度2.2dtex×繊維長51mmのポリフェニレンサルファイド繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ63.7質量%、14.1質量%、22.2質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/30.6の混紡糸E1を製造した。
【0053】
(製織)
タテ糸に混紡糸A1を、ヨコ糸に混紡糸D1と混紡糸E1とを1本交互に用いて、レピア織機にて綾組織(3/2)の織物を製造した。
【0054】
(仕上げ加工)
その後、生機を通常の羊毛の仕上げ加工と同様に縮絨加工、セット加工、撥水処理、仕上げセット加工を施し仕上げた。
【0055】
(縫製)
得られた反物から、事務用作業着の上着およびスラックスを縫製した。その際、織物のタテ糸方向が身丈方向、ヨコ糸方向が身幅方向となるようにした。また、袖口においては、織物のタテ糸方向が袖口回り方向、ヨコ糸方向が袖口の長手方向となるようにした。
【0056】
[実施例2]
(タテ糸)
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度2.2dtex×繊維長51mmのポリフェニレンサルファイド繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ63.5質量%、21.9質量%、14.6質量%の混合比にてZ方向に混紡し、S方向に双糸加工し、番手2/61.2の混紡糸A2を製造した。
【0057】
(ヨコ糸)
単繊維繊度1.7dtex×繊維長44mmのナイロン繊維と、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ52.8質量%、47.2質量%にての混合比にてZ方向に混紡を行い、番手1/68.9の混紡糸B2を製造した。
【0058】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、ポリエチレンテレフタレート繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ74.0質量%、26.0質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/61.3の混紡糸C2を製造した。
【0059】
混紡糸B2と混紡糸C2とを合糸してS方向に撚糸して、番手2/60の混紡糸D2を製造した。
【0060】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度2.2dtex×繊維長51mmのポリフェニレンサルファイド繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ63.7質量%、14.8質量%、21.3質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/30.3の混紡糸E2を製造した。
【0061】
(製織)
タテ糸に混紡糸A2を、ヨコ糸に混紡糸D2と混紡糸E2とを1本交互に用いて、レピア織機にて綾組織(3/2)の織物を製造した。
【0062】
(仕上げ加工)
得られた生機に対し、実施例1と同様にして仕上げ加工を施した。
【0063】
(縫製)
得られた反物から、実施例1と同様にして事務用作業着の上着およびスラックスを縫製した。
【0064】
[比較例1]
(タテ糸)
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ73.6質量%、26.4質量%の混合比にてZ方向に混紡し、S方向に双糸加工し、番手2/53.16の混紡糸A3を製造した。
【0065】
(ヨコ糸)
単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度1.7dtex×繊維長44mmのナイロン繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ54.6質量%、45.4質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/55.2の混紡糸B3を製造した。
【0066】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ65.1質量%、34.9質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/55.3の混紡糸C3を製造した。
【0067】
混紡糸B3と混紡糸C3とを合糸してS方向に撚糸して双糸とし、番手2/55の混紡糸D3を製造した。
【0068】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ72.4質量%、27.6質量%の混合比にてZ方向に混紡し、S方向に双糸加工し、番手2/53.3の混紡糸E3を製造した。
【0069】
(製織)
タテ糸に混紡糸A3を、ヨコ糸に混紡糸D3と混紡糸E3とを1本交互に用いて、レピア織機にて綾組織(3/2)の織物を製織した。
【0070】
(仕上げ加工)
得られた生機に対し、実施例1と同様にして仕上げ加工を施した。
【0071】
(縫製)
得られた反物から、実施例1と同様にして事務用作業着の上着およびスラックスを縫製した。
【0072】
[比較例2]
(タテ糸)
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ73.1質量%、26.9質量%の混合比にてZ方向に混紡し、S方向に双糸加工し、番手2/54.3の混紡糸A4を製造した。
【0073】
(ヨコ糸)
単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度1.7dtex×繊維長44mmのナイロン繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ53.5質量%、46.5質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/54.3の混紡糸B4を製造した。
【0074】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレートの短繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ74.6質量%、25.4質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/54.0の混紡糸C4を製造した。
【0075】
混紡糸B4と混紡糸C4とを合糸してS方向に撚糸して双糸とし、番手2/54.0の混紡糸D4を製造した。
【0076】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ73.5質量%、26.5質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手2/54.6の混紡糸E4を製造した。
【0077】
(製織)
タテ糸に混紡糸A4を、ヨコ糸に混紡糸D4と混紡糸E4とを1本交互に用いて、レピア織機にて綾組織(3/2)の織物を製造した。
【0078】
(仕上げ加工)
得られた生機に対し、実施例1と同様にして仕上げ加工を施した。
【0079】
(縫製)
得られた反物から、実施例1と同様にして事務用作業着の上着およびスラックスを縫製した。
【0080】
[比較例3、4]
(タテ糸)
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールおよび単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度2.2dtex×繊維長51mmのポリフェニレンサルファイド繊維を、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ63.9質量%、13.7質量%、22.4質量%の混合比にてZ方向に混紡し、S方向に双糸加工し、番手2/60.6の混紡糸A5を製造した。
【0081】
(ヨコ糸)
単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度1.7dtex×繊維長44mmのナイロン繊維を、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ53.8質量%、46.2質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/69.4の混紡糸B5を製造した。
【0082】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールおよび単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維を、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ78.6質量%、21.4質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/60.1の混紡糸C5を製造した。
【0083】
混紡糸B5と混紡糸C5を合糸してS方向に撚糸して双糸とし、番手2/64の混紡糸D5を製造した。
【0084】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度2.2dtex×繊維長51mmのポリフェニレンサルファイド繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ63.7質量%、14.1質量%、22.2質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/30.6の混紡糸E5を製造した。
【0085】
(製織)
タテ糸に混紡糸A5を、ヨコ糸に混紡糸D5と混紡糸E5とを1本交互に用いて、レピア織機に綾組織(3/2)の織物を製造した。
この時、比較例3として、タテ糸本数を420本/10cmから360本/10cmに変更しカバーファクターを7595から6510に変更した。
また、比較例4として、タテ糸本数を420本/10cmから470本/10cmに変更しカバーファクターを7595から8500に変更した。
【0086】
(仕上げ加工)
得られた生機に対し、実施例1と同様にして仕上げ加工を施した。
【0087】
(縫製)
得られた反物から、実施例1と同様にして事務用作業着の上着およびスラックスを縫製した。
【0088】
[実施例3]
(タテ糸)
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度2.2dtex×繊維長51mmのポリフェニレンサルファイド繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ63.9質量%、22.0質量%、14.1質量%の混合比にてZ方向に混紡し、S方向に双糸加工し、番手2/61.8の混紡糸A6を製造した。
【0089】
(ヨコ糸)
単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度1.7dtex×繊維長44mmのナイロン繊維を、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ53.8質量%、46.2質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/69.4の混紡糸B6を製造した。
【0090】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ78.6質量%、21.4質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/60.1の混紡糸C6を製造した。
【0091】
混紡糸B6と混紡糸C6とを合糸してS方向に撚糸し、番手2/64の混紡糸D6を製造した。
【0092】
太さ20〜25μm、長さ3〜6cmのウールと、単繊維繊度2.8dtex×繊維長64mmのポリエチレンテレフタレート繊維と、単繊維繊度2.2dtex×繊維長51mmのポリフェニレンサルファイド繊維とを、それぞれ濃紺にトップ染めし、それぞれ63.7質量%、2.3質量%、34.0質量%の混合比にてZ方向に混紡し、番手1/30.0の単糸の混紡糸E6を製造した。
【0093】
(製織)
タテ糸に混紡糸A6を、ヨコ糸に混紡糸D6と混紡糸E6とを1本交互に用いて、レピア織機にて綾組織(3/2)の織物を製造した。
【0094】
(仕上げ加工)
得られた生機に対し、実施例1と同様にして仕上げ加工を施した。
【0095】
(縫製)
得られた反物から、実施例1と同様にして事務用作業着の上着およびスラックスを縫製した。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
表1,2,3に示すタテ糸、ヨコ糸の太さは毛番手(メートル式)に統一し、ヨコ糸の番手表示はヨコ糸に使用した2品種の平均の番手である。
【0100】
実施例1は、PPS繊維を混紡したことにより、PPS繊維が混紡されていない比較例1に比べ、カバーファクターはやや小さく、目付が軽く布−布摩擦堅牢度や袖口摩擦堅牢度(タテ方向)に優れ、着用感が快適な衣服である。
【0101】
実施例2も、実施例1と同様に比較例2に比べ、カバーファクターはやや小さく、目付が軽く、布−布摩擦堅牢度や袖口摩擦堅牢度(タテ方向)に優れ、着用感が快適な衣服である。
【0102】
比較例1は、タテ糸およびヨコ糸のPPS混率がゼロであり、実施例1に比べて、摩擦堅牢度は3−4級、袖口堅牢度(タテ)方向3−4級と低かった。
【0103】
比較例2は、タテ糸およびヨコ糸のPPS混率がゼロであり、実施例2に比べて、摩擦堅牢度は3−4級、袖口堅牢度(タテ)方向3−4級と低かった。
【0104】
比較例3は、タテ糸のカバーファクターを7000未満としたものであるが、実施例1のタテ糸のカバーファクター7595に比べ摩擦堅牢度および袖口堅牢度はいずれも3級であり極めて低く、さらに風合いもソフト過ぎるので衣服には適さない。
【0105】
比較例4は、タテ糸のカバーファクターを7700よりも大としたものであるが、実施例1のタテ糸のカバーファクターを7595としたものに比べ摩擦堅牢度および袖口堅牢度はいずれも3級であり極めて低く、さらに風合いも硬過ぎるので衣服には適さない。
【0106】
実施例3は、タテ糸に混紡されるPPSの重量比率がヨコ糸に混紡されるPPSの重量比率が少ない場合を示した。実施例1のタテ糸に混紡されるPPSの重量比率がヨコ糸に混紡されるPPSの重量比率が多い場合に比べると、染色および布−布摩擦堅牢度がやや低くなる傾向にある。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の衣服は、耐摩耗性と軽量感に優れていることから官公庁の制服や一般事務用作業服等のユニフォーム、また、中厚地で保温性があることから秋冬物用アウターに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド繊維と他の繊維との混紡糸を用いた織物を有してなる衣服であって、身丈方向の糸のカバーファクターが7000〜7700、身幅方向の糸のカバーファクターが5000〜6150であることを特徴とする衣服。
ただし、各方向のカバーファクターは次式により定義される。
カバーファクター={(その方向の糸の繊度(dtex)}1/2 ×その方向の糸の密度(本/10cm)
【請求項2】
ポリフェニレンサルファイド繊維と混紡される他の繊維が、羊毛、木綿、絹、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、レーヨン系繊維から選ばれた少なくとも1種である、請求項1記載の衣服。
【請求項3】
スラックスからなるまたはスラックスを含む衣服であって、スラックスの身丈方向の糸におけるポリフェニレンサルファイド繊維の混紡率がスラックスの身幅方向の糸におけるポリフェニレンサルファイド繊維の混紡率以上である、請求項1または2記載の衣服。
【請求項4】
袖口を有する衣服であって、袖口の袖口回り方向の糸におけるポリフェニレンサルファイド繊維の混紡率が袖口の長手方向の糸におけるポリフェニレンサルファイド繊維の混紡率以上である、請求項1〜3のいずれか記載の衣服。