説明

衣類

【課題】長時間の着用後の伸長回復性が良好で、洗濯後に接着部位がはがれにくく、常温環境下及び低温環境下のいずれにおいても接着部である端縁部及び/又は接合部が柔らかく、風合いの良好な衣類を得る。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタン樹脂で衣類生地を溶融接着した接着部を有する衣類であって、該接着部が衣類の端縁部、及び/又は、生地部品を複数接合して衣類を構成するための部品接合部であり、該接着部の−10℃での伸長回復性試験において、80%R/Sが15%以上であり、かつ残留歪が50%以下である、衣類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を衣類の端縁部及び/又は衣類を構成する複数の部品の接合部に配置し、加熱によって該熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶融させて、該端縁部及び/又は該接合部を溶融接着させた衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣類の端縁部及び衣類を構成する複数の生地部品の接合部は、糸により縫製されることが一般的であったが、近年、縫製を行うことなく接着樹脂テープを用いて衣類の端縁部を形成する方法(特許文献1参照)及び熱融着テープにより複数の生地部品を接合して製作された衣類(特許文献2参照)が提案されている。
【0003】
こうした接着樹脂テープとして一般的に用いられるホットメルト樹脂としては、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリエチレン系、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アタクチックポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル系、ポリ酢酸ビニル系及びアクリル系等の樹脂が挙げられるが、伸縮性、耐水性及び接着部分のソフト感を保つためにはポリウレタン系の樹脂が好適である。
【0004】
通常、ポリウレタン樹脂のソフトセグメント成分はポリエーテルであり、中でもテトラヒドロフラン(以下、THFと記す)の重合体であるポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと記す)を用いたポリウレタン樹脂は、弾性特性、耐加水分解性等の点に優れている。しかしながら、PTMGを用いたポリウレタン樹脂(例えばフィルム状)から得られたテープを接着した生地及び衣類は、テープの伸長時又は低温環境下でソフトセグメントが結晶化することによって、伸縮性が低下する、回復性が悪い、あるいは低温環境下で硬化するという問題がある。また、このような衣類を一日着用した際には、回復性が悪く、伸びきった状態になったり、あるいは生地を低温環境下で使用すると硬化する等の問題がある。さらに、上記のテープを用いて接着された生地及び衣類は、長時間の着用又は洗濯の後に接着部位が剥がれやすいといった問題、及び着用時のパワーが不十分であるといった問題を抱えていた。
【0005】
こうした伸縮性の改良を目的として、共重合タイプのポリエーテルポリオールをポリウレタンのソフトセグメントとして使用することが従来提案されている。ネオペンチルグリコール基又は3−メチル−1,5−ペンタンジオール基が共重合したポリアルキレンエーテルジオール化合物から得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂で接着された布帛(特許文献3)、熱可塑性ポリウレタン樹脂で接着された部位の伸長回復性試験において、80%R/Sが35%以上でありかつ、接着部位の残留歪が18%以下である衣類(特許文献4)が提案されている。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂で衣類生地を溶融接着した接着部を有する衣類において、樹脂層厚みの樹脂浸透部厚みに対する比を制御することで、長時間の着用後の伸長回復性が良好で、洗濯後も接着部位がはがれにくく、低温環境下においても接着部である端縁部及び接合部が硬くならず、風合いの良好な衣類を得ること(特許文献5)等が提案されている。これらの検討によって伸長回復性及び風合いに優れた接着部を有する布帛を得ることができるようになった。
【0006】
しかし、これらの方法を適用して製造した布帛を用いた衣類において、特に接着部の柔らかさが問題になることがあった。接着部の柔らかさは、後述するような、接着部が長手方向に延びるように短冊形にサンプリングした試料を長手方向に折り曲げたときの高さで表すことができる。接着部に用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂の伸長回復性能が高いほど、折り曲げ方向の応力が大きいために上記高さが大きくなる。このような接着部が硬い布帛からなる衣類は、表面の手触り、及び風合い自体が良好であっても、伸縮時に肌に当たる感触があり、好ましくない。
【0007】
これらの問題に関して、使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる熱融着テープの構成、生地の特性、及び熱融着テープと生地との特性の相性について検討されたことはない。ポリウレタン又はポリウレタンウレアを主な構成単位とする重合体からなる弾性繊維(以下、ポリウレタン弾性繊維という)がポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維、及び/又は綿等の天然繊維等と交編織された布帛は、ファンデーション、ソックス、パンティストッキング及びスポーツウエア等多分野において伸縮機能素材として広く利用され、衣類にストレッチ性能を与えている。熱融着テープにより複数の生地部品を接合して作製された衣類においても、こうしたポリウレタン弾性繊維を用いた生地が用いられるが、通常のPTMGを用いたポリウレタン弾性繊維からなる生地で作製された衣類では、着用伸長時又は低温環境下でソフトセグメントが結晶化し、伸縮性が低下する、回復性が悪い、あるいは低温環境下で風合いが硬くなるという問題がある。ネオペンチルグリコール及び/又は3−メチル−1,5−ペンタンジオールを8〜85モル%共重合したポリウレタン弾性繊維を使った織物及び編地が伸長回復性及び着用感に優れることが記載されている(特許文献6、7)が、これら文献には、熱融着テープと接着した生地及びそれを用いた衣類に関する開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−211369号公報
【特許文献2】特開2005−226175号公報
【特許文献3】特開2010−95810号公報
【特許文献4】特開2010−95808号公報
【特許文献5】特開2010−203008号公報
【特許文献6】特開平3−130435号公報
【特許文献7】特開平3−59150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて、端縁部を処理し、及び/又は生地部品を接合させて得られる衣類であって、長時間の着用後の伸長回復性が良好で、洗濯後も接着部位がはがれにくく、常温環境下及び低温環境下のいずれにおいても接着部である端縁部及び/又は接合部が柔らかく、風合いの良好な衣類を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成は以下のとおりである。
【0011】
(1) 熱可塑性ポリウレタン樹脂で衣類生地を溶融接着した接着部を有する衣類であって、
該接着部が衣類の端縁部、及び/又は、生地部品を複数接合して衣類を構成するための部品接合部であり、
該接着部の−10℃での伸長回復性試験において、80%R/Sが15%以上であり、かつ残留歪が50%以下である、衣類。
(2) 該接着部が、フィルム状、テープ状及び繊維状のいずれかである熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて形成されている、上記(1)に記載の衣類。
(3) 該熱可塑性ポリウレタン樹脂が該衣類生地上に単層構造で形成されている、上記(1)又は(2)に記載の衣類。
(4) 該熱可塑性ポリウレタン樹脂が、
(i)有機ポリイソシアネート化合物を、
(ii)分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物であって、下記の構造単位(A):
【化1】

と、構造単位(B)、(C)及び(D):
【化2】

【化3】

【化4】

から選ばれる1種以上の構造単位とからなり、かつ下記式(1):
0.08≦(MB+MC+MD)/(MA+MB+MC+MD)≦0.85 (1)
{式中、MA、MB、C及びMDは、それぞれ、ポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)、(B)、(C)及び(D)のモル数である。}
を満たすもの
と反応させて得られる構造を含有する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の衣類。
(5) 該(i)有機ポリイソシアネート化合物と該(ii)ポリアルキレンエーテルジオール化合物との当量比が、1.3:1〜3.0:1である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の衣類。
(6) 該熱可塑性ポリウレタン樹脂が、(iii)イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物に由来する構造をさらに含有する、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の衣類。
(7) 該(i)有機ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基に対する、該(ii)ポリアルキレンエーテルジオール化合物中の水酸基及び該(iii)イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物中の活性水素の合計の当量比が0.90〜1.10である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の衣類。
(8) 該(iii)イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物がジオール類である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の衣類。
(9) 該衣類生地が弾性繊維を含む、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の衣類。
(10) 該弾性繊維がポリウレタン弾性繊維である、上記(9)に記載の衣類。
(11) 該衣類生地における該ポリウレタン弾性繊維が、
(i)有機ポリイソシアネート化合物を、
(ii)分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物であって、下記の構造単位(A):
【化5】

と、構造単位(B)、(C)及び(D):
【化6】

【化7】

【化8】

から選ばれる1種以上の構造単位とからなり、かつ下記式(1):
0.08≦(MB+MC+MD)/(MA+MB+MC+MD)≦0.85 (1)
{式中、MA、MB、MC及びMDは、それぞれ、ポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)、(B)、(C)及び(D)のモル数である。}
を満たすもの
と反応させて得られる構造を含有する、上記(10)に記載の衣類。
(12) 該衣類生地における該ポリウレタン弾性繊維が、(iii)イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物に由来する構造をさらに含有する、上記(10)又は(11)に記載の衣類。
(13) 該(iii)イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物がジアミン類である、上記(12)に記載の衣類。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて端縁部を処理し、及び/又は生地部品を接合させて得られる衣類であって、長時間の着用後の伸長回復性が良好で、さらに洗濯後も接着部位がはがれにくく、常温環境下のみならず低温環境下においても接着部である端縁部及び/又は接合部が柔らかく、風合いの良好な衣類が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明における接着部を含む生地サンプルの伸長回復性測定グラフ(S−Sカーブ)を示す図である。
【図2】本発明における接着部を含む生地サンプルの柔らかさ測定方法を示す図である。
【図3】本発明における接着部の拡大写真から浸透比を算出する方法を示す図である。
【図4】本発明に用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂のTMA(熱機械分析)チャートから流動開始温度を算出する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について、以下具体的に説明する。
【0015】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂で衣類生地を溶融接着した接着部を有する衣類であって、該接着部が衣類の端縁部、及び/又は、生地部品を複数接合して衣類を構成するための部品接合部であり、該接着部の−10℃での伸長回復性試験において、80%R/Sが15%以上であり、かつ残留歪が50%以下である、衣類を提供する。
【0016】
本発明における衣類の端縁部の構造例として、以下の3種類が挙げられるが、これに限定するものではない。
(a)衣類を構成する生地(生地)の端縁部を折り返し、その内面同士を接着固定した、折り返し構造の端縁部。
(b)衣類を構成する生地の内面側あるいは外面側の端縁部に縁取りテープを接着固定した貼付け構造の端縁部。
(c)2つ折りした縁取りテープに衣類を構成する生地の端縁部を挿入して接着固定した、パイピング構造の端縁部。
【0017】
また、本発明における衣類を構成する生地部品の接合例としては、以下の例が挙げられるが、これに限定するものではない。
(d)衣類を構成する主たる生地からなる部品、例えば前身頃生地部品と後身頃生地部品の接合。
(e)衣類本体と装飾部品又は付属部品、例えばポケット、レース、リボン、モチーフ、アップリケ、ファスナー等との接合。
【0018】
本発明においては、衣類の接着部の−10℃での伸長回復性試験において、80%R/S及び残留歪が所定範囲内に制御されることによって、長期間の着用後の伸長回復性が良好であり、洗濯後に接着部位がはがれにくく、常温環境下及び低温環境下のいずれにおいても接着部が柔らかく、風合いの良好な衣類を得ることができる。
【0019】
本発明においては、接着部の−10℃での伸長回復性試験において、80%R/Sは15%以上であり、かつ残留歪は50%以下である。−10℃での伸長回復性試験における80%R/Sは、常温下での着用を想定した伸長回復性の指標となると同時に、接着部の柔らかさの指標となる。これらは溶融接着に用いる熱可塑性ポリウレタン樹脂の性質及び生地の特性、さらに接着条件により決定される。
【0020】
すなわち、本発明者は、鋭意研究の結果、接着部の−10℃での伸長回復性は、常温下での着用状態及び接着部の柔らかさを反映していることを突き止めた。
【0021】
通常、非晶性高分子は、温度変化とともに分子構造を変化させることが知られている。すなわち、ガラス転移点を境に、ガラス転移点より低い温度ではガラス状態であり、ガラス転移点より高い温度ではゴム状態となる。衣類で用いられる弾性繊維及び熱融着テープでは、ガラス転移点が常温域より低い温度に存在すること、すなわち常温域ではゴム状態を示すことが必要である。また一般にポリウレタンは、ソフトセグメントとハードセグメントとからなるブロック共重合ポリマーであり、ソフトセグメントがストレッチ性を担うことが知られており、ソフトセグメントの融点制御が重要である。すなわち、ソフトセグメントの融点が−10℃程度から常温域に存在すると、常温下での着用時のストレッチ性及び柔らかさを妨げることとなり、好ましくない。また熱接着等により熱履歴を受けると、ソフトセグメントの融点が変化することがある。従って接着工程を経た後の、接着部の−10℃程度から常温域での伸長回復性を制御することが重要であることがわかった。
【0022】
以上から、接着部の−10℃での伸長回復性試験において、80%R/Sが15%以上、かつ残留歪が50%以下であることが、着用時のストレッチ性と柔らかさとを示す指標となる。より好ましくは、80%R/Sが20%以上、かつ残留歪が45%以下、さらに好ましくは、80%R/Sが30%以上、かつ残留歪みが30%以下である。
【0023】
上記の80%R/Sは、例えば以下の方法で求めることができる。すなわち、長手方向に80%以上接着部を含むように短冊型(幅3cm、長さ15cm)にサンプリングしたテープ状のサンプルを作製する。なお、接着部が12cmに満たない場合は、接着部が80%を超えるようにサンプル長を設定するものとする。引張試験機(例えば、テンシロン万能試験機 RTC−1210A:(株)オリエンテック社製)を使用し、−10℃の条件下で、サンプルの長手方向に伸長するようチャックの掴み代を上下各2.5cmにしてサンプルを挟み、300mm/分で100%伸長した後、回復させる。伸長回復性測定のS−Sカーブから、L1を80%伸長時の応力、L2を100%伸長後80%まで回復した際の応力として、80%R/Sを下記式により求める。
80%R/S=L2/L1×100
また上記の残留歪は、上記S−Sカーブの伸長回復後の応力ゼロとなった伸度L3として求める。
【0024】
上記80%R/S及び残留歪の値をそれぞれ上記所定の範囲内に制御するための具体的な手段としては、後述の熱可塑性ポリウレタン樹脂の設計の制御、後述の接着する生地の設計、及び後述の接着条件の適切な選択、のそれぞれ又はこれらの2つ以上の組合せが挙げられる。
【0025】
接着部は、フィルム状、テープ状及び繊維状のいずれかである熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて形成されていることが好ましい。フィルム状又はテープ状の場合、熱可塑性ポリウレタン樹脂が接着された生地あるいは衣類の接着部の厚みを適度な範囲に制御することが容易になり、着用感に優れ、かつ良好な外観を有する衣類を得ることができる。また繊維状の場合、曲線部の接着が容易となる。
【0026】
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、公知の熱可塑性ポリウレタン押出成型方法によりフィルム、テープ、あるいは繊維状にすることができる。フィルムとしては、Tダイを使用して、広幅シート状に押出して成形したものが挙げられ、テープとしては、上記フィルムを所定の幅に切断してテープ状にしたもの、及び押出成型において例えばスリットダイを使用することにより直接テープ状に押出成形したものが挙げられ、繊維としては、押出成型において、紡口を使用して繊維状に押出成型したものが挙げられる。
【0027】
このようにして得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂のフィルム又はテープの幅及び厚み、又は繊維状にする場合の繊度等は、用途及び目的によって任意に選ぶことができる。フィルム及びテープの厚みは、通常、それぞれ0.02〜0.5mm程度が好ましく、さらに好ましくは、0.04〜0.3mmである。繊維状にする場合の繊度は、5dtex〜30000dtexが好ましく、より好ましくは100dtex〜20000dtex、さらに好ましくは1000dtex〜10000dtexである。
【0028】
本発明においては、熱可塑性ポリウレタン樹脂が生地上に単層構造で形成されていることが好ましい。例えば、接着層と、熱接着時には融解せずパワーを発現する層とを有するような、2層以上の構造体では、熱接着部が厚くなりすぎ、着用感及び外観を損なう場合がある。本発明において形成される樹脂層が単層構造である場合には、熱接着部の厚みが適度になり、着用感及び外観が良好となる。また本発明の衣類は、樹脂層と樹脂浸透部とを有するため、樹脂層が単層構造であっても、熱接着後に十分な接着強度及びパワーを発現することができる。
【0029】
本発明において、熱可塑性ポリウレタン樹脂は、有機ポリイソシアネート化合物とポリアルキレンエーテルジオール化合物とを反応させて得られた構造を含有することが好ましい。さらに、必要に応じて、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物を鎖延長剤として用いることができる。
【0030】
より好ましくは、本発明において用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂は、
(i)有機ポリイソシアネート化合物を、
(ii)分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物であって、下記の構造単位(A):
【0031】
【化9】

【0032】
と、構造単位(B)、(C)及び(D):
【0033】
【化10】

【0034】
【化11】

【0035】
【化12】

【0036】
から選ばれる1種以上の構造単位とからなり、かつ下記式(1):
0.08≦(MB+MC+MD)/(MA+MB+MC+MD)≦0.85 (1)
{式中、MA、MB、C及びMDは、それぞれ、ポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)、(B)、(C)及び(D)のモル数である。}
を満たすものと反応させて得られる構造を含有する。
【0037】
有機ポリイソシアネート化合物(i)としては、分子内に少なくとも2個以上のイソシアネート基を有する化合物、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−フェニルイソシアネート)、メチレン−ビス(3−メチル−4−フェニルイソシアネート)、2,4−トリレンジイソシアネート、2、6−トリレンジイソシアネート、m−又はp−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−キシリレンジイソシアネート、m−又はp−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジメチル−1,3−キシリレンジイソシアネート、1−アルキルフェニレン−2,4又は2,6−ジイソシアネート、3−(α−イソシアネートエチル)フェニルイソシアネート、2,6−ジエチルフェニレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニル−ジメチルメタン−4,4−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−又は1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソフォロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0038】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)は、上記の構造単位(A)を含有し、さらに側鎖にメチル基を有する構造として、構造単位(B)、(C)及び(D)から選ばれる1種以上の構造単位とからなり、かつ上記式(1)で定義されるように、側鎖にメチル基を持つセグメントを8モル%以上かつ85モル%以下含むことが好ましい。側鎖にメチル基を持つセグメントが8モル%以上85モル%以下である場合、種々の弾性機能、例えば破断伸度及び弾性回復性に優れた熱接着ポリウレタンフィルムを形成できる熱可塑性ポリウレタン樹脂が好適に得られる。よって熱可塑性ポリウレタン樹脂を該熱接着ポリウレタンフィルムの形状で衣類の接着に用いることにより、衣服の端縁部及び接合部の伸縮性をより向上させることができる。側鎖にメチル基を持つセグメントの範囲は、より好ましくは、下記式(2)で示す範囲、特に好ましくは、下記式(3)で示す範囲である。
【0039】
0.09≦(MB+MC+MD)/(MA+MB+MC+MD)≦0.45 (2)
0.09≦(MB+MC+MD)/(MA+MB+MC+MD)≦0.30 (3)
(式(2)及び(3)中、MA、MB、C及びMDは前述の式(1)において説明したのと同じ意味である。)
【0040】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)は、例えば、THFと、ネオペンチルグリコール及び/若しくは3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,4−ブチレンジオール又はそれらの脱水環状低分子化合物、例えば、3,3−ジメチルオキセタン又は、3−メチル−テトラヒドロフランとを、特開昭61−123628号公報に記載の方法に従って、水和数を制御したヘテロポリ酸を触媒として反応させることにより好適に製造される。その共重合ジオールは、所定の分子量、共重合成分構成及び共重合比となるように、反応の方法及び条件を種々変化させることによって容易に製造することができる。
【0041】
該ポリアルキレンジオール化合物(ii)を構成するネオペンチル単位、3−メチル−1,5−ペンチレン単位、及び/又は2−メチル−1,4−ブチレン単位は、テトラメチレン単位に対してランダム状あるいはブロック状のいずれで分布していてもよく、ヘテロポリ酸触媒を用いた反応ではブロック状又はランダム状いずれにも分布させることができ、得られるポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)の結晶性を種々効果的に変えることが可能であり、本発明で用いる熱可塑性ポリウレタン樹脂の特性に合わせて各々の結晶性を持つジオールを製造することができる。
【0042】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)の数平均分子量は300〜30,000であることが好ましく、より好ましくは500〜5,000で、さらに好ましくは900〜2,000である。数平均分子量が300より小さいとテープの伸度が低くなり、着用時に引き伸ばすことが難しい傾向がある。また、数平均分子量が30,000より大きいとテープの強度が低くなる傾向がある。
【0043】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)は、他のジオールとして、例えば数平均分子量250〜20,000程度のジオール、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール及びポリオキシペンタメチレングリコール等のホモポリエーテルジオール、炭素原子数2から6の2種以上のオキシアルキレンから構成される共重合ポリエーテルジオール、アジピン酸、セバチン酸、マレイン酸、イタコン酸、アゼライン酸及びマロン酸等の二塩基酸の1種又は2種以上とエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール,1,3−プロピレングリコール,2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール,1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン及び1,4−ジメチロールシクロヘキサン等のグリコールの1種又は2種以上とから得られたポリエステルジオール、ポリエステルアミドジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオール及びポリバレロラクトンジオール等のポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリアクリルジオール、ポリチオエーテルジオール若しくはポリチオエステルジオール、又はこれらジオールの共重合物、等と任意の割合に混合すること等により併用できる。
【0044】
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)に由来する構造をさらに含有できる。上記化合物は鎖延長剤として作用する。イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)としては、例えば、(イ)低分子量のグリコール、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン又は1,4−ジメチロールシクロヘキサンヒドラジン、(ロ)炭素原子数2〜10の直鎖又は分岐した脂肪族、脂環族又は芳香族の活性水素を有するアミノ基を持つ化合物で例えばエチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、カルボジヒドラジド、アジペン酸ジヒドラジド又はセバシン酸ジヒドラジド、(ハ)1官能性アミノ化合物、例えば第2級アミン、すなわちジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチル−n−プロピルアミン、メチル−イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、メチル−n−ブチルアミン、メチル−イソブチルアミン又はメチルイソアミルアミン、(ニ)水、(ホ)上記ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)のうち有機ポリイソシアネート化合物(i)と反応していないもの、(ヘ)公知の数平均分子量250〜5,000程度のジオール類及び(ト)一価のアルコール類、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコールが挙げられる。成形時の加工性の観点から好ましくはジオール類であり、特に1,4−ブタンジオール及び/又は炭素原子数が4〜8のジアルキレングリコールがさらに好ましい。またポリウレタン分子量の精密な制御の観点から、ジオール類と、末端停止剤としての一価のアルコール類との併用も有効である。特に、1,4−ブタンジオールとn−ブタノールとの併用が好ましい。
【0045】
有機ポリイソシアネート化合物(i)と、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)とは、各々単独で用いてもよいが、必要に応じて予め混合して用いてもよい。
【0046】
ポリウレタン化反応の操作に関しては、公知のポリウレタン化反応の技術を用いることができる。例えば、ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)と有機ポリイソシアネート化合物(i)とを、有機ポリイソシアネート化合物(i)過剰の条件下で反応させ、ウレタンプレポリマーを合成した後、該プレポリマー中のイソシアネート基に対して、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)を添加し、反応させることもできる。あるいは、有機ポリイソシアネート化合物(i)、ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)及びイソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)を同時に1段で反応させるワンショット重合法でも反応させることができる。
【0047】
有機ポリイソシアネート化合物(i)とポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)との当量比(i):(ii)は、1.3:1〜3.0:1が望ましい。上記当量比1.3:1より有機ポリイソシアネート化合物(i)の比率が小さい場合、接着時の流動性が高くなり、生地裏側まで樹脂が染み出し、接着部位の外観及び風合いが低下する傾向がある。また上記当量比3.0:1より有機ポリイソシアネート化合物(i)の比率が大きい場合、接着時に流動しにくく、生地へ浸透しにくくなり、接着強度が小さくなる傾向がある。上記当量比は、さらに好ましくは、1.5:1〜2.0:1である。なお本明細書において、熱可塑性ポリウレタン樹脂及び後述のポリウレタン弾性繊維の製造に関し、ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)に対する有機ポリイソシアネート化合物(i)の当量比(すなわち(i)/(ii))をN値ということもある。
【0048】
また、下記(4)式で表されるような、有機ポリイソシアネート化合物(i)中のイソシアネート基に対する、ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)中の水酸基、及びイソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)中の活性水素の合計の当量比αが0.90〜1.10となるような仕込み比が好ましい。
【0049】
α=(ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)中の水酸基当量+活性水素含有化合物(iii)中の活性水素当量)/(有機ポリイソシアネート化合物(i)中のイソシアネート当量) (4)
【0050】
αは、接着強度と関連付けられる。αが0.90未満である場合、有効架橋度が大きくなり、前述のように接着時の流動性が低くなり生地へ樹脂が染み込みにくく、接着強度が低くなる傾向がある。αが1.10超である場合、重合したポリマーの分子量が小さくなり、接着時の流動性が高くなり、生地裏側まで樹脂が染み出し、接着部位の外観や風合いが低くなる傾向がある。また接着後の樹脂層の強度が低くなり、接着強度が低くなる傾向もある。上記αは、より好ましくは、0.92〜1.08であり、さらに好ましくは0.95〜1.05である。
【0051】
上記のポリウレタン化反応においては、必要に応じ、触媒及び安定剤等を添加することができる。触媒としては例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレート及びオクチル酸第一錫等が挙げられ、安定剤としては、ポリウレタン樹脂に通常用いられる他の化合物、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、耐ガス安定剤、帯電防止剤、着色剤、艶消し剤及び充填剤、膠着防止剤等が挙げられる。
【0052】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の流動開始温度は、80〜180℃であることが好ましい。通常、熱可塑性ポリウレタン樹脂の生地への熱接着温度としては、生地に使われている繊維の風合い及び外観を損なわないよう、100〜170℃が選ばれる。例えば、ナイロン繊維等は、180℃程度を超える熱接着温度で接着すると、アタリ等によって外観を損なう場合がある。また100℃より低い温度では、十分な接着強度が得られにくい場合がある。
【0053】
このような接着温度に対し、熱可塑性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が80℃以上の場合、接着時の流動性が高すぎず、生地裏側まで樹脂が染み込んで接着部位の外観及び風合いを損なう恐れが少ない。また熱可塑性ポリウレタン樹脂の流動開始温度が180℃以下の場合、接着時に流動しやすく、生地への浸透がしやすいため、接着強度が良好である。より好ましい流動開始温度は、100〜170℃であり、さらに好ましい流動開始温度は、120〜160℃である。なお上記流動開始温度は、TMA(熱機械分析)装置を用い、実施例において後述する方法及び条件で測定される値である。
【0054】
本発明の衣類に使用される生地を構成する繊維としては、繊維全般が適用可能であり、例えば、綿、ウール、麻、シルク等の天然繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維から、1種又は2種以上から選ばれ、またこれらは、先染め糸であってもよい。また本発明においては、生地が弾性繊維を含むことが好ましい。より好ましくは、上記繊維と弾性繊維とを交編織する。
【0055】
弾性繊維としては、ポリウレタン弾性繊維、及び、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等からなるポリエステル系弾性繊維等が挙げられる。伸長回復性の点から、上記弾性繊維が、ポリウレタン弾性繊維を含むか又はポリウレタン弾性繊維であることが好ましい。ポリウレタン弾性繊維は裸糸又は被覆弾性糸であることができる。
【0056】
上記ポリウレタン弾性繊維は、有機ポリイソシアネート化合物とポリアルキレンエーテルジオール化合物とを反応させて得られた構造を含有することが好ましい。さらに、必要に応じて、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物を鎖延長剤として用いることができる。
【0057】
より好ましくは、ポリウレタン弾性繊維は、
(i)有機ポリイソシアネート化合物を、
(ii)分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物であって、下記の構造単位(A):
【0058】
【化13】

【0059】
と、構造単位(B)、(C)及び(D):
【0060】
【化14】

【0061】
【化15】

【0062】
【化16】

【0063】
から選ばれる1種以上の構造単位とからなり、かつ下記式(1):
0.08≦(MB+MC+MD)/(MA+MB+MC+MD)≦0.85 (1)
{式中、MA、MB、C及びMDは、それぞれ、ポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)、(B)、(C)及び(D)のモル数である。}
を満たすものと反応させて得られる構造を含有する。
【0064】
有機ポリイソシアネート化合物(i)としては、分子内に少なくとも2個以上のイソシアネート基を有する化合物、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−フェニルイソシアネート)、メチレン−ビス(3−メチル−4−フェニルイソシアネート)、2,4−トリレンジイソシアネート、2、6−トリレンジイソシアネート、m−又はp−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−キシリレンジイソシアネート、m−又はp−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジメチル−1,3−キシリレンジイソシアネート、1−アルキルフェニレン−2,4又は2,6−ジイソシアネート、3−(α−イソシアネートエチル)フェニルイソシアネート、2,6−ジエチルフェニレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニル−ジメチルメタン−4,4−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−又は1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソフォロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0065】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)は、上記の構造単位(A)を含有し、さらに側鎖にメチル基を有する構造として、構造単位(B)、(C)及び(D)から選ばれる1種以上の構造単位とからなり、かつ上記式(1)で定義されるように、側鎖にメチル基を持つセグメントを8モル%以上かつ85モル%以下含むことが好ましい。側鎖にメチル基を持つセグメントが8モル%以上85モル%以下である場合、種々の弾性機能、例えば破断伸度及び弾性回復性に優れたポリウレタン弾性繊維が好適に得られる。よってこのようなポリウレタン弾性繊維を衣類の接着生地に用いることにより、衣服の端縁部及び/又は接合部の伸縮性をより向上させることができる。側鎖にメチル基を持つセグメントの範囲は、より好ましくは、下記式(2)で示す範囲、特に好ましくは、下記式(3)で示す範囲である。
【0066】
0.09≦(MB+MC+MD)/(MA+MB+MC+MD)≦0.45 (2)
0.09≦(MB+MC+MD)/(MA+MB+MC+MD)≦0.30 (3)
(式(2)及び(3)中、MA、MB、C及びMDは前述の式(1)において説明したのと同じ意味である。)
【0067】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)は、例えば、THFと、ネオペンチルグリコール及び/若しくは3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,4−ブチレンジオール又はそれらの脱水環状低分子化合物、例えば、3,3−ジメチルオキセタン又は、3−メチル−テトラヒドロフランとを、特開昭61−123628号公報に記載の方法に従って、水和数を制御したヘテロポリ酸を触媒として反応させることにより好適に製造される。その共重合ジオールは、所定の分子量、共重合成分構成及び共重合比となるように、反応の方法及び条件を種々変化させることによって容易に製造することができる。
【0068】
該ポリアルキレンジオール化合物(ii)を構成するネオペンチル単位、3−メチル−1,5−ペンチレン単位、及び/又は2−メチル−1,4−ブチレン単位は、テトラメチレン単位に対してランダム状あるいはブロック状のいずれで分布していてもよく、ヘテロポリ酸触媒を用いた反応ではブロック状又はランダム状いずれにも分布させることができ、得られるポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)の結晶性を種々効果的に変えることが可能であり、本発明で用いるポリウレタン弾性繊維の特性に合わせて各々の結晶性を持つジオールを製造することができる。
【0069】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)の数平均分子量は300〜30,000であることが好ましく、より好ましくは500〜5,000で、さらに好ましくは900〜2,000である。数平均分子量が300より小さいとポリウレタン弾性繊維の伸度が低くなり、着用時に引き伸ばすことが難しい傾向がある。また、数平均分子量が30,000より大きいとポリウレタン弾性繊維の強度が低くなる傾向がある。
【0070】
ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)は、他のジオールとして、例えば数平均分子量250〜20,000程度のジオール、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール及びポリオキシペンタメチレングリコール等のホモポリエーテルジオール、炭素原子数2から6の2種以上のオキシアルキレンから構成される共重合ポリエーテルジオール、アジピン酸、セバチン酸、マレイン酸、イタコン酸、アゼライン酸及びマロン酸等の二塩基酸の1種又は2種以上とエチレングリコール、1,2ープロピレングリコール,1,3ープロピレングリコール,2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール,1,4ーブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン及び1,4−ジメチロールシクロヘキサン等のグリコールの1種又は2種以上とから得られたポリエステルジオール、ポリエステルアミドジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオール及びポリバレロラクトンジオール等のポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリアクリルジオール、ポリチオエーテルジオール若しくはポリチオエステルジオール、又はこれらジオールの共重合物、等と任意の割合に混合すること等により併用できる。
【0071】
ポリウレタン弾性繊維は、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)に由来する構造をさらに含有できる。上記化合物は鎖延長剤として作用する。イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)としては、例えば、(イ)低分子量のグリコール、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン又は1,4−ジメチロールシクロヘキサンヒドラジン、(ロ)炭素原子数2〜10の直鎖又は分岐した脂肪族、脂環族又は芳香族の活性水素を有するアミノ基を持つ化合物で例えばエチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、カルボジヒドラジド、アジペン酸ジヒドラジド又はセバシン酸ジヒドラジド、(ハ)1官能性アミノ化合物、例えば第2級アミン、すなわちジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチル−n−プロピルアミン、メチル−イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、メチル−n−ブチルアミン、メチル−イソブチルアミン又はメチルイソアミルアミン、(ニ)水、(ホ)上記ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)のうち有機ポリイソシアネート化合物(i)と反応していないもの、(ヘ)公知の数平均分子量250〜5,000程度のジオール類及び(ト)一価のアルコール類等が挙げられる。染色加工時のポリウレタン弾性繊維の耐熱性保持の観点から好ましくはジアミン類であり、特にエチレンジアミン及び/又は炭素原子数が2〜8のアルキレンジアミンがさらに好ましい。
【0072】
有機ポリイソシアネート化合物(i)と、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)とは、各々単独で用いてもよいが、必要に応じて予め混合して用いてもよい。
【0073】
ポリウレタン化反応の操作に関しては、公知のポリウレタン化反応の技術を用いることができる。例えば、ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)と有機ポリイソシアネート化合物(i)とを、有機ポリイソシアネート化合物(i)過剰の条件下で反応させ、ウレタンプレポリマーを合成した後、該プレポリマー中のイソシアネート基に対して、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)を添加し、反応させることもできる。あるいは、有機ポリイソシアネート化合物(i)、ポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)及びイソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(iii)を同時に1段で反応させるワンショット重合法でも反応させることができる。
【0074】
有機ポリイソシアネート化合物(i)とポリアルキレンエーテルジオール化合物(ii)との当量比((i):(ii))は、1.3:1〜3.0:1が望ましい。上記当量比1.3:1より有機ポリイソシアネート化合物(i)の比率が小さい場合、ポリウレタン弾性繊維の伸長パワーが低くなりすぎ、衣類のフィット感が悪化する傾向がある。また上記当量比3.0:1より有機ポリイソシアネート化合物(i)の比率が大きい場合、ポリウレタン弾性繊維の伸長パワーが高くなりすぎ、衣類の着脱がしにくいものとなる傾向がある。上記当量比は、さらに好ましくは、1.5:1〜2.0:1である。
【0075】
上記のポリウレタン化反応においては、必要に応じ、触媒及び安定剤等を添加することができる。触媒としては例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレート及びオクチル酸第一錫等が挙げられ、安定剤としては、ポリウレタン樹脂に通常用いられる他の化合物、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、耐ガス安定剤、帯電防止剤、着色剤、艶消し剤及び充填剤、膠着防止剤等が挙げられる。
【0076】
本発明において、生地とは、丸編地、緯編地、経編地等の各種編成組織を有する編地、及び織物の全般をいう。例えば緯編地で使用可能な編成組織としては、平編の基本組織、タック編、浮編、片畦編、レース編、添糸編、ジャガード編等が挙げられる。また経編地で使用可能な編成組織としては、鎖編、デンビー編、コード編、アトラス編、挿入編等の基本組織、またこれらの組み合わせによる変化組織等が挙げられる。各種繊維とポリウレタン弾性繊維とを交編する場合、ポリウレタン弾性繊維を全面に編みこんでもよいし、所望する間隔に編みこんでもよい。またポリウレタン弾性繊維を挿入することも可能である。
【0077】
丸編地の編成には、一列針床を有する通常のシングルニット丸編機、二列針床を有する通常のダブルニット丸編機のような、給糸口数が多数あり、同時に複数本の糸を供給し得るフィーダーのある編機を使用できる。編機のゲージは、通常、5〜50ゲージであるが、使用目的によって適宜選定すればよい。
【0078】
緯編地の編成には、大緯編機、小緯編機、両頭機、両面機、ジャガード機等の緯編機、シングルニードル機、ダブルニードル機等のフルファッション編機を使用できる。編機のゲージは、通常、3〜50ゲージであるが、使用目的によって適宜選定すればよい。
【0079】
経編地の編成では、カールマイヤー整経機、リバー整経機等を用いた整経工程により、例えばポリウレタン弾性繊維及び/又は被覆ポリウレタン弾性糸並びに非弾性繊維を各々、目的とする商品に合わせた本数を揃えてビームに巻き取る。その後、後述の編機に、ポリウレタン弾性繊維及び/又は被覆ポリウレタン弾性糸、並びに非弾性繊維のビームを設置し、編成して所望の経編地を得る。
【0080】
経編地の編成にはトリコット編機、ラッセル編機、ダブルラッセル編機が使用でき、使用する糸のデニール数及び商品の狙いにより適宜使用デニール、編機種、及びゲージを選択すればよい。編成組織としては、上述の基本編成組織、これらの組み合わせによる変化組織を用いて、トリコット編機では2枚筬組織のハーフ組織、サテン組織、ジャガード組織、またこれらの組織の組み合わせによる変化組織等、ラッセル編機及びダブルラッセル編機では、パワーネット組織、サテンネット組織、ジャガード組織等によって所望の経編地が得られる。トリコット編機、ラッセル編機とも、3枚以上の筬組織で編成してもよい。編機のゲージは、通常10〜50ゲージであるが、使用目的によって適宜選定すればよい。
【0081】
織物としては、綿、麻等の天然繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン(製品名キュプラ)、特定セルロース(商品名テンセル)等の再生セルロース系繊維、ポリエステル、ポリアミド,PVA等の合成繊維等から選ばれる1種又は2種以上を常法で織って得られる織物が挙げられる。また本発明における熱可塑性ポリウレタン樹脂の特性を十分に発現させるために、織物においては、ポリウレタン弾性繊維が交織されることが好ましい。ポリウレタン弾性繊維は原糸のまま製織(裸糸使い)されていても良いが、耐久性及び風合い等の点から他の繊維と複合して用いることが好ましい。複合糸としては引き揃え糸、エアーカバーリング、カバーリング、合撚糸等が挙げられる。複合は1種類だけではなく複数種類の組み合わせで行ってもよい。得られる複合糸には通常知られているスチームセットを行ってもよい。複合糸の準備工程としては従来知られている工程を用いればよく、サイジング剤あるいはワックスとして従来使用されている剤が使用可能である。
【0082】
糸の配列方法は通常知られている方法でよく、組織及び密度によって適宜配列方法を決めればよい。また製織には従来知られている織機、例えばWJL、AJL、レピア等を使用できる。
【0083】
本発明の衣類に用いる生地には、編織された生機を開反し、リラックス処理を施した後、染色工程を経て、樹脂加工を含めた仕上げセット等を行う一般的な染色工程を適用することができる。
【0084】
本発明の衣類は、生地を熱可塑性ポリウレタン樹脂で溶融接着した接着部を有する。接着工程には、アイロン、フラットプレス機、連続接着ミシン等、従来知られている接着機を用いることが出来る。接着温度としては、アイロン、フラットプレス機では、100〜250℃、連続接着ミシン機では、熱風加熱タイプでは、設定温度100〜350℃、熱板加熱タイプでは、100〜250℃が好ましい。接着時間としては、アイロン、フラットプレス機では、10〜60秒、連続ミシン機では、接着速度で0.1〜6.0m/分が好ましい。接着圧力としては、フラットプレス機、連続ミシン機とも、エア圧で0.1〜1.0MPaが好ましい。接着温度、接着時間、及び接着圧力は、所望する剥離強度が得られ、かつ接着生地の風合いを損なわない条件を適切に選べばよい。本発明において柔らかい風合いの接着生地を得るためには、フラットプレス機の場合、より好ましくは、接着温度100〜220℃、接着時間10〜40秒、接着圧力0.1〜0.6MPa、さらに好ましくは、接着温度100〜200℃、接着時間10〜30秒、接着圧力0.1〜0.4MPaである。連続ミシン機の場合、より好ましくは、接着温度100〜320℃(熱風加熱タイプ)、100〜220℃(熱板加熱タイプ)、接着速度0.1〜2.0m/分、接着圧力0.1〜0.6MPa、さらに好ましくは、接着温度100〜300℃(熱風加熱タイプ)、100〜200℃(熱板加熱タイプ)、接着速度0.1〜1.0m/分、接着圧力0.1〜0.4MPaである。
【0085】
本発明が対象とする衣類は、衣類全般を包含し、例えば、ショーツ、シャツ、キャミソール、スリップ、ボディスーツ、ブリーフ、トランクス、肌着、ガードル、ブラジャー、スパッツ、腹巻き、パンティストッキング、タイツ、靴下等のインナーウェア、水着、トレーニングウェア、レオタード、スキーウェア、各種競技用スポーツウェア、アウトドア用ウェア等のスポーツウェア、Tシャツ、ジャケット、セーター、ベスト、パンツ、スカート、カットソー、コート、ジャンパー等のアウターウェア、手袋、帽子、マフラー等の服飾品、パジャマ、ガウン等のナイトウェア、介護用ウェア等が挙げられるがこれらに限定するものではない。
【0086】
本発明の衣類における接着部には、生地内部に熱可塑性ポリウレタン樹脂が浸透してなる樹脂浸透部と、該樹脂浸透部に接して生地表面に熱可塑性ポリウレタン樹脂によって形成される樹脂層とが存在する。すなわち、樹脂層とは、生地に浸透せずに生地表面に存在している熱可塑性ポリウレタン樹脂の層であり、樹脂浸透部とは、生地内の熱可塑性ポリウレタン樹脂が浸透している部分である。樹脂浸透部は、典型的には、生地表面から熱可塑性ポリウレタン樹脂を生地内に含浸させることによって形成できる。本発明において、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて生地が溶融接着される態様としては、接着部が樹脂層と樹脂浸透部とを有し、かつ樹脂層厚みと樹脂浸透部厚みとの比が所定範囲内に制御されることが好ましい。これにより、接着部の接着強度が良好であるとともに長期間の着用後の伸長回復性が良好であり、洗濯後も接着部位がはがれにくく、低温環境下においても接着部が硬くならず、風合いの良好な衣類を得ることができる。
【0087】
本発明においては、接着部における樹脂層厚みの樹脂浸透部厚みに対する比(以下、浸透比と記載することがある)が0.1〜1.5であることが好ましい。樹脂層厚み及び樹脂浸透部厚みは、生地への樹脂の浸透度合い(染み込み具合)の指標となり、これらは樹脂の性質及び接着条件により決定される。樹脂使用量が一定の場合、樹脂層厚みが大きくなれば、樹脂浸透部厚みは小さくなり、逆に樹脂層厚みが小さくなれば、樹脂浸透部厚みは大きくなる。接着部の接着強度は、樹脂層の樹脂強度と樹脂浸透部厚みによる強度との総和で決まると考えられる。従って、接着後に、樹脂層厚みと樹脂浸透部厚みとが各々適度に存在している必要がある。また、樹脂層厚みが小さすぎ、樹脂浸透部厚みが大きすぎると、生地内に染み込んだ樹脂の量が多すぎて、接着生地の風合いが悪くなる。逆に樹脂層厚みが大きすぎ、樹脂浸透部厚みが小さすぎると、表面樹脂層の厚みにより、接着生地の風合いが悪くなる。上記浸透比が0.1未満では、樹脂層の樹脂強度が低く接着強度が低い上に、樹脂が生地に浸透しすぎて接着生地の風合いが良好でない傾向がある。一方浸透比が1.5を超えると、樹脂が良好に生地に浸透しておらず、良好な接着強度を発現できない傾向がある上に、表面樹脂層の厚みによって、接着生地の風合いが良好でない傾向がある。浸透比は、より好ましくは0.2〜1.3、さらに好ましくは0.5〜1.2である。上記浸透比は、接着部の生地厚み方向の切断面を走査型電子顕微鏡で観察し、生地内部に樹脂が浸透している部分の厚みを樹脂浸透部厚みとして、該樹脂浸透部の表面に形成されている樹脂層の厚みを樹脂層厚みとしてそれぞれ測長し、(浸透比)=(樹脂層厚み)/(樹脂浸透部厚み)、の式に従って求めることができる。
【0088】
本発明においては、接着部の接着強度が20〜200cN/mmであることが好ましい。該接着強度が20cN/mm未満では、長時間の着用後や洗濯後に、接着部位が剥がれやすく、200cN/mmを超えると、接着生地及び衣類の風合いが硬くなる。上記接着強度は、より好ましくは、50〜190cN/mm、さらに好ましくは、70〜180cN/mmである。なお上記接着強度は、接着部を含むように幅2.5cm、長さ2cm以上にカットした短冊状試料の接着部端部から長さ方向に1cm程度2枚に剥離し、剥離部分を各々チャックして、テンシロンにて例えば300mm/分で伸長させ、応力チャートの最大応力と最小応力との平均値と、接着部の幅とから求めたときの値である。
【0089】
上述の接着後の好適な浸透比及び接着強度を得る方法としては、接着に用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂として、特定の動的粘弾性を有する樹脂を用いることが挙げられる。
【0090】
熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、1Hz条件下での温度依存性の動的粘弾性測定において、35℃における複素弾性率の絶対値が3.0〜15.0MPaであり、35℃における弾性成分量が0.995以上であり、かつ80℃における弾性成分量が0.990以上である樹脂が好ましい。
【0091】
35℃における複素弾性率の絶対値は、通常の着用条件下における、接着生地及び衣類の物理的強度(パワー)の指標となり、弾性成分量は、接着生地及び衣類の伸長回復性の指標となる。35℃における複素弾性率の絶対値が、3.0MPa以上の場合、接着生地及び衣類のパワーが良好であり、15.0MPa以下の場合、締め付け感が強すぎず着用感が良好である。また35℃における弾性成分量が0.995以上である場合、伸長回復性が良好である。
【0092】
80℃における弾性成分量は、タンブラー乾燥時の耐久性の指標となる。該弾性成分量が0.990以上の場合、タンブラー乾燥を施された接着生地及び衣類の寸法安定性が良好である。
【0093】
より好ましくは、35℃における複素弾性率の絶対値が4.0〜12.0MPa、35℃における弾性成分量が0.997以上、かつ80℃における弾性成分量が0.995以上であり、さらに好ましくは、35℃における複素弾性率の絶対値が5.0〜10.0MPa、35℃における弾性成分量が0.999以上、かつ80℃における弾性成分量が0.997以上である。なお上記複素弾性率及び弾性成分量は、動的粘弾性測定装置を用いて、35℃及び80℃における、貯蔵弾性率E’(MPa)及び損失弾性率E”(MPa)から、複素弾性率の絶対値|E*|=√(E’2+E”2)、弾性成分量=E’/|E*|、の式に従って求められる値である。
【0094】
また、熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、170℃条件下での周波数依存性の動的粘弾性測定において、0.1Hzにおける複素粘度の絶対値が300〜7000Pa・sであり、かつ100Hzにおける複素粘度の絶対値が50〜300Pa・sである樹脂が好ましい。
【0095】
170℃における複素粘度の絶対値の周波数依存性は、接着強度の指標となる。低周波数における複素粘度が高く、高周波数における複素粘度が低いほど、接着に適している。すなわち、熱と圧力とで熱可塑性ポリウレタン樹脂を接着する際、接着部位にかかる圧力によって、樹脂が流動し、生地内へ浸透していくが、圧力を除した時には熱可塑性ポリウレタン樹脂が流動しないことが好ましい。低周波数〜高周波数において複素粘度の絶対値が低いと、接着部位にかかる圧力によって樹脂が流動し生地へ浸透しやすいが、圧力を除しても、温度が下がるまでは樹脂が流動しつづけ、生地裏側まで樹脂が染み込んで接着部位の外観及び風合いが悪化する傾向がある。また低周波数〜高周波数において複素粘度の絶対値が高いと、接着時に樹脂が流動しにくく、生地内へ浸透しにくくなり、接着強度が低くなる傾向がある。
【0096】
以上から、170℃条件下での周波数依存性の動的粘弾性測定において、0.1Hzにおける複素粘度の絶対値が300〜7000Pa・sであり、かつ100Hzにおける複素粘度の絶対値が50〜300Pa・sであることが好ましい。0.1Hzにおける複素粘度の絶対値が300Pa・s以上でかつ100Hzにおける複素粘度の絶対値が50Pa・s以上の場合、接着部位の外観及び風合いが良好であり、0.1Hzにおける複素粘度の絶対値が7000Pa・s以下でかつ100Hzにおける複素粘度の絶対値が300Pa・s以下の場合、接着強度が良好である。より好ましくは、0.1Hzにおける複素粘度の絶対値が400〜6000Pa・s、かつ100Hzにおける複素粘度の絶対値が70〜250Pa・sであり、さらに好ましくは、0.1Hzにおける複素粘度の絶対値が500〜5000Pa・s、かつ100Hzにおける複素粘度の絶対値が80〜200Pa・sである。なお上記複素粘度は、レオメーターを用い、例えば、測定モード:ギャップ間距離50μの回転モード 25mmφのパラレルプレート使用、負荷応力:ひずみ20%、の条件で測定される複素粘度の絶対値|η*|(Pa・s)である。
【実施例】
【0097】
本発明を実施例でさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。後述の実施例及び比較例における測定値は、下記の測定法により求めたものである。
【0098】
(1)−10℃での伸長回復性試験
熱可塑性ポリウレタン樹脂が接着された衣類において、長手方向に80%以上接着部を含むように短冊型(幅3cm、長さ15cm)にサンプリングした。なお、接着部が12cmに満たない場合は、接着部が80%を超えるようにサンプル長を設定するものとする。引張試験機(テンシロン万能試験機 RTC−1210A:(株)オリエンテック社製)を使用し、−10℃の条件下で、テープの長手方向に伸長するようチャックの掴み代を上下各2.5cmにしてサンプルを挟み、300mm/分で100%伸長した後、回復させた。図1に伸長回復性測定のS−Sカーブを示す。L1を80%伸長時の応力、L2を100%伸長後80%まで回復した際の応力とすると、80%R/Sは下記式(4)で表される。
【0099】
80%R/S = L2/L1×100 (4)
また、残留歪は、伸長回復後のS−Sカーブの応力ゼロとなった伸度L3で示す。
【0100】
(2)接着部の柔らかさ
熱可塑性ポリウレタン樹脂が接着された衣類において、長手方向に80%以上接着部を含むように短冊型(幅3cm、長さ15cm)にサンプリングした。
【0101】
図2のように長手方向に折り曲げ、長さL4(mm)を求めた。接着部の柔らかい生地ほど、自重によりL4が小さくなる。
【0102】
(3)パネラー評価
熱可塑性ポリウレタン樹脂をショーツのウエスト部と股ぐりとの端縁部及び脇の接合部に配置し、加熱によって生地と該樹脂とを溶融接着して作製したショーツにつき、パネラー10名に着用してもらい、8時間後に着用感及びショーツのズレに関して以下の基準で判定してもらい、着用感については○を付けた合計人数をカウントし、フィット感については10名の合計点数で算出した。
(着用感)
○ : 着用時に接着部が気にならず、快適である。
× : 着用時に接着部が肌にあたる気がして不快である。
(フィット感)
5点: 非常にフィットし、動きに追随して快適である。
4点: よくフィットするが、動きに対しての追従性が若干悪い。
3点: フィット感は物足らないが、ズレることはない。
2点: フィット感が弱く、ズレ落ちる感じがする。
1点: フィット感が弱く、ズレ落ちる。
【0103】
(4)樹脂層厚みの樹脂浸透部厚みに対する比(浸透比)
熱可塑性ポリウレタン樹脂から成形したテープが接着された生地において、接着部位を鋭利なカミソリで切断し、走査型顕微鏡JSM−5510LV(日本電子データム(株)製)にて、切断面を観察し、樹脂層厚み及び樹脂浸透部厚みを測長した。図3は、浸透比を算出する方法を示す図である。図3に示すように、上下2枚の生地の間に形成されている樹脂層の厚みを樹脂層厚みとして求め、上下2枚の生地において、生地内部に樹脂が染み込んでいる部分の厚みの平均値(上側生地と下側生地との平均値)を樹脂浸透部厚みとして求め、樹脂層厚みの樹脂浸透部厚みに対する比、[(浸透比)=(樹脂層厚み)/(樹脂浸透部厚み)]を求めた。
【0104】
(5)接着強度
熱可塑性ポリウレタン樹脂から成形したテープが接着された生地において、接着部位を含むように幅2.5cm、長さ2cm以上にカットして短冊状試料を作製した。この試料の一端を長さ方向に1cm程度剥離し、剥離された上下の生地をテンシロンRTC−1310A((株)オリエンテック製)にチャックし、300mm/分で伸長し、チャート紙に描かれた応力チャートの最大応力と最小応力との平均値と、テープの幅とから接着強度(cN/mm)を求めた。
【0105】
(6)動的粘弾性測定(周波数一定、温度依存性)
動的粘弾性測定装置DMA800(TA・インスツルメントジャパン(株)製)を用いて、熱可塑性ポリウレタン樹脂から成形したテープの動的粘弾性(周波数一定、温度依存性)を下記条件にて測定した。35℃及び80℃における、貯蔵弾性率E’(MPa)及び損失弾性率E”(MPa)から、複素弾性率の絶対値|E*|=√(E’2+E”2)、弾性成分量=E’/|E*|、の式に従って、複素弾性率の絶対値及び弾性成分量を求めた。
【0106】
測定条件:
測定温度:室温〜100℃(昇温速度3℃/分)
測定モード:チャック間距離15mmの伸縮モード
負荷応力:ひずみ1%、周波数1Hz
【0107】
(7)動的粘弾性測定(温度一定、周波数依存性)
レオメーターAR2000(TA・インスツルメントジャパン(株)製)を用いて、熱可塑性ポリウレタン樹脂から成形したフィルム(作製方法は実施例1に記載)の動的粘弾性(温度一定、周波数依存性)を下記条件にて測定した。0.1Hz及び100Hzにおける、複素粘度の絶対値|η*|(Pa・s)を求めた。
【0108】
測定条件:
測定温度:170℃
測定モード:ギャップ間距離50μの回転モード 25mmφのパラレルプレート使用
負荷応力:ひずみ20%、周波数0.01〜100Hz
【0109】
(8)流動開始温度
TMA(熱機械分析)装置としてTMA8310(理学電機(株)製)を用いて、熱可塑性樹脂から成形したテープ類の流動開始温度を下記条件で測定した。
【0110】
測定条件
測定温度:室温〜270℃
昇温速度:10℃/min
測定モード:圧縮モード
押込プローブ径:φ1.2mm
荷重:−10mN一定
【0111】
図4は、TMAチャートから流動開始温度を算出する方法を示す図である。測定されたTMAチャートの値が急激に減少する直前の極大点における接線と、減少傾きがほぼ一定になる点における接線との交点を流動開始温度(℃)とした。
【0112】
(9)伸長回復性評価
タテ15cm、ヨコ5cmの2枚の生地を、熱可塑性ポリウレタン樹脂がタテ方向の中心にくるように配置し、加熱によって生地と該樹脂とを溶融接着させて短冊サンプルを作製した。上記の短冊サンプルを伸長率80%で伸長したまま、40℃で8時間加熱した後室温に戻し、加熱前後での寸法変化率((加熱後の寸法−加熱前の寸法)/(加熱前の寸法)×100%)にて評価した。
【0113】
(10)洗濯評価
風合い評価で作製した短冊サンプルを、AATCC136−2003の50回洗濯評価に供したのち、以下の基準で外観評価を行った。
○ : 洗濯前と比べ、外観に変化が認められない。
△ : 洗濯前と比べ、若干接着部位が波打っているか、縮んでいる。
× : 洗濯後、接着部位の少なくとも一部に剥離が認められる。
【0114】
[実施例1]
ポリアルキレンエーテルジオールとして、前述の式(1)における共重合組成MB/(MA+MB)が0.1である、旭化成せんい株式会社製PTXG1800を使用し、PTXG1500g及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート385.80gを、窒素ガス気流下80℃において180分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。次いで、これを急速に25℃まで冷却した後、1,4−ブタンジオール64.25gと、n−ブタノール1.06gとを上記プレポリマーに添加して30分間攪拌した。得られたポリウレタンに、酸化防止剤としてアデカ製AO−60を9.35g、紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(2−フェニルプロパン−2−イル)フェノールを6.54g、リン系酸化防止剤として、アデカ製PEP−36を0.93g混合した後、テフロン(登録商標)トレイに払い出した。この混合物をテフロン(登録商標)トレイに入れたまま、130℃の熱風オーブン中で3時間アニーリングしてポリウレタン樹脂を得た。
【0115】
このポリウレタン樹脂を、ホーライ社製粉砕機UG−280型にて、粒径3mm程度の粉末に粉砕し、テクノベル社製二軸押出機KZW15TW−45HGにて溶融押出し成形した。幅150mm、リップ幅1.0mmのTダイスよりダイス温度200℃で剥離紙リンテック62AA(リンテック(株)社製)上に押出し、厚み200μmのフィルムを得た。このフィルムをスリット加工し、熱可塑性ポリウレタン樹脂の6mm幅のテープを得た。
【0116】
一方、ポリウレタン弾性繊維は以下のようにして得た。
ポリアルキレンエーテルジオールとして、前述の式(1)における共重合組成MB/(MA+MB)が0.1である、旭化成せんい株式会社製PTXG1800を使用し、PTXG1500g及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート303.01gを、窒素ガス気流下80℃において180分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。
【0117】
次いで、これを急速に25℃まで冷却した後、乾燥ジメチルアセトアミド2203.68gを加えポリウレタンプレポリマー溶液とした。
【0118】
滴下ロートに、エチレンジアミン20.78gと、ジエチルアミン2.44gと、乾燥ジメチルアセトアミド1860.82gとを計量し、上記ポリウレタンプレポリマー溶液を攪拌しながら、これに滴下して反応させて粘度2,200ポイズ(30℃)のポリウレタン重合体溶液を得た。
【0119】
このポリウレタン重合体溶液に、ポリウレタン固形分に対して、p−クレゾールとジシクロペンタジエンとの重付加体のイソブチレン付加物を1.0質量%、Sumilizer GA−80(住友化学社製)を0.4質量%、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(2−フェニルプロパン−2−イル)フェノールを混合して紡糸原液とした。
【0120】
この紡糸原液を紡糸速度800m/分及び熱風温度325℃で乾式紡糸して、22dT/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を製造した。
【0121】
40ゲージ2枚筬のトリコット編機を使用し、フロント筬(F)にナイロン22dT/7フィラメントフルダル糸、バック筬(B)に上記で得られたポリウレタン弾性繊維22dTを用い、組織はデンビー組織で編成、通常の方法で染色、仕上げを行い、コース数72/インチ、ウェル数72/インチ、厚み320μmの編地を得た。この編地をショーツのパターンに裁断し、ウェスト部及び股ぐり部の端に沿うように6mmのテープを配置し、テープの幅の分を折り返して、フラットプレス機(LHP−HSC902型;クインライト電子精工(株)社製)で圧力0.2MPa、温度180℃で30秒接着した。また、テープをショーツの脇の接合部に配置し、同様にフラットプレスで接着し実施例1のサンプルを得た。こうして得た実施例1のサンプルにつき、ウェスト部を接着テープの長手方向に長くなるよう短冊型(幅3cm、長さ15cm)にサンプリングし、80%R/S及び残留歪の測定を行うとともに、別途着用評価及びウェスト部の端縁部の厚み測定を実施した。
【0122】
また、この編地を、編方向をタテ方向として、タテ15cm、ヨコ5cmとなるよう裁断し、こうして得た2枚の生地を、ニードルループ側を中にして合わせ、熱可塑性ポリウレタン樹脂を、生地タテ方向の中心にくるようにして生地間に配置し、フラットプレス機(LHP−HSC902型;クインライト電子精工(株)社製)で圧力0.2MPa、温度180℃で30秒接着して、実施例1の衣類想定サンプルを得た。こうして得た実施例1のサンプルにつき、接着部の柔らかさ評価、パネラー10名による風合い評価、伸長回復性評価、及び洗濯評価を実施した。
【0123】
[実施例2]
フィルムの厚みを100μmとする以外は、実施例1と同様の方法でテープと編地とを得た。このテープと編地とを用い、実施例1と同様の方法で実施例2のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0124】
[実施例3]
実施例1で得た熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末を直径50mmの単軸押出機にて溶融押出し、幅30mm、厚み0.2mmのスリットダイよりテープ状に押出し、延伸後、巻取って幅8mm、厚み170μmのテープを得た。このテープと、実施例1と同様の方法で得られた編地とを用いて、実施例1と同様の方法で実施例3のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0125】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で得たポリウレタン樹脂粉末を直径50mmの単軸押出機にて溶融押出し、丸断面の紡口を使用して繊維状に押出し、延伸後、巻取って繊度6000dTのモノフィラメント繊維を得た。この繊維と、実施例1と同様の方法で得られた編地とを用いて、実施例1と同様の方法で実施例4のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0126】
[実施例5]
実施例3の熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造において、PTXG1800の使用量を1400g、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの使用量を389.4g、1,4−ブタンジオールの使用量を70.50g、n−ブタノールの使用量を1.17gに変更し、丸断面紡口の代わりに扁平断面紡口を用いる以外は実施例3と同様にして繊維を得た。この繊維と、実施例1と同様の方法で得られた編地とを用いて、実施例1と同様の方法で実施例5のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0127】
[実施例6]
実施例4の熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造において、PTXG1800の使用量を1400g、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの使用量を389.40g、1,4−ブタンジオールの使用量を70.50g、n−ブタノールの使用量を1.17gに変更する以外は実施例4と同様にして繊維を得た。この繊維と、実施例1と同様の方法で得られた編地とを用いて、実施例1と同様の方法で実施例6のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0128】
[実施例7]
実施例1の熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造において、1,4−ブタンジオールの量を53.50gに変更し、n−ブタノールを使用しないで重合した以外は、実施例1と同様の方法でテープを得た。このテープと、実施例1と同様の方法で得られた編地とを用いて、実施例1と同様の方法で実施例7のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0129】
[実施例8]
実施例1の熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造において、1,4−ブタンジオールの量を70.50gに変更し、n−ブタノールを使用しないで重合した以外は、実施例1と同様の方法でテープを得た。このテープと、実施例1と同様の方法で得られた編地とを用いて、実施例1と同様の方法で実施例8のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0130】
[比較例1]
ポリアルキレンエーテルジオールとして、旭化成せんい株式会社製PTMG1,000を使用し、当該PTMG1400g及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート490.6gを、窒素ガス気流下80℃において180分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。次いで、これを25℃まで冷却した後、1,4−ブタンジオール50.40gを上記プレポリマーに添加して30分間攪拌した。得られたポリウレタンに、酸化防止剤としてアデカ製AO−60を9.35g、紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(2−フェニルプロパン−2−イル)フェノールを6.54g、リン系酸化防止剤として、アデカ製PEP−36を0.93g混合した後、テフロン(登録商標)トレイに払い出した。この混合物をテフロン(登録商標)トレイに入れたまま、130℃の熱風オーブン中で3時間アニーリングしてポリウレタン樹脂を得た。
【0131】
このポリウレタン樹脂を、ホーライ社製粉砕機UG−280型にて、粒径3mm程度の粉末に粉砕し、テクノベル社製二軸押出機KZW15TW−45HGにて溶融押出し成形した。幅150mm、リップ幅1.0mmのTダイスよりダイス温度200℃で剥離紙上に押出し、厚み200μmのフィルムを得た。このフィルムをスリット加工し、6mm幅のテープを得た。
【0132】
一方、ポリウレタン弾性繊維は以下のようにして得た。
ポリアルキレンエーテルジオールとして、旭化成せんい株式会社製PTMG1830を使用し、PTMG1500g及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート322.45gを、窒素ガス気流下80℃において60分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。
【0133】
次いで、これを急速に25℃まで冷却した後、乾燥ジメチルアセトアミド2227.44gを加えポリウレタンプレポリマー溶液とした。
【0134】
滴下ロートに、エチレンジアミン25.60gと、ジエチルアミン4.17gと、乾燥ジメチルアセトアミド1367.66gを計量し、上記ポリウレタンプレポリマー溶液を攪拌しながら、これに滴下して反応させて粘度2,500ポイズ(30℃)のポリウレタン重合体溶液を得た。
【0135】
このポリウレタン重合体溶液に、ポリウレタン固形分に対して、p−クレゾールとジシクロペンタジエンとの重付加体のイソブチレン付加物を1.0質量%、Sumilizer GA−80(住友化学社製)を0.4質量%、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(2−フェニルプロパン−2−イル)フェノールを混合して紡糸原液とした。
【0136】
この紡糸原液を紡糸速度800m/分及び熱風温度325℃で乾式紡糸して、22dT/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を製造した。
【0137】
上記ポリウレタン弾性繊維を用いて、実施例1と同様の方法で編地を得た。
【0138】
このテープと、上記で得られた編地とを用いて、実施例1と同様の方法で比較例1のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0139】
[比較例2]
フィルムの厚みを100μmとする以外は、比較例1と同様の方法で比較例2のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0140】
[比較例3]
比較例1で得た熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末を実施例3と同様の方法で押出して幅8mm、厚み170μmのテープとし、このテープと、比較例1と同様の方法で得られた編地とを用いて、実施例3と同様の方法で比較例3のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0141】
[比較例4]
比較例1で得た熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末を実施例4と同様の方法で押出して繊度6000dTの繊維とし、この繊維と、比較例1と同様の方法で得られた編地とを用いて、実施例1と同様の方法で比較例4のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0142】
[比較例5]
実施例1の熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造において、1,4−ブタンジオールの量を45.00gに変更し、n−ブタノールを使用しないで重合した以外は、実施例1と同様にテープを得た。このテープと、比較例1と同様の方法で得られた編地とを用いて、実施例1と同様の方法で比較例5のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0143】
[比較例6]
実施例1の熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造において、1,4−ブタンジオールの量を92.00gに変更して重合した以外は、実施例1と同様にテープを得た。このテープと、比較例1と同様の方法で得られた編地とを用いて、実施例1と同様の方法で比較例6のサンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0144】
以上の各実施例及び比較例における風合い評価の結果を表1に示す。表1の結果より、本発明の衣類は、常温環境下及び低温環境下のいずれにおいても、生地の端縁部及び接合部が硬くならず風合いが良好であり、長時間着用後の寸法安定性が良好であり、更に洗濯後に接着部位のはがれ及び風合い変化が生じず、良好な特性を有していることが分かる。
【0145】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の衣類は、常温環境下及び低温環境下のいずれにおいても、接着部である端縁部及び/又は接合部が柔らかく風合いが良好で、また長時間着用後の伸長回復性(すなわち寸法安定性)が良好で、洗濯後にも接着部位のはがれ及び風合い変化が生じにくく、良好な特性を有するため、インナーウェア、アウターウェア、スポーツウェア、ナイトウェア、介護用ウェア、服飾品等の各種衣類に好適に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタン樹脂で衣類生地を溶融接着した接着部を有する衣類であって、
前記接着部が衣類の端縁部、及び/又は、生地部品を複数接合して衣類を構成するための部品接合部であり、
前記接着部の−10℃での伸長回復性試験において、80%R/Sが15%以上であり、かつ残留歪が50%以下である、衣類。
【請求項2】
前記接着部が、フィルム状、テープ状及び繊維状のいずれかである熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて形成されている、請求項1に記載の衣類。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂が前記衣類生地上に単層構造で形成されている、請求項1又は2に記載の衣類。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂が、
(i)有機ポリイソシアネート化合物を、
(ii)分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物であって、下記の構造単位(A):
【化1】

と、構造単位(B)、(C)及び(D):
【化2】

【化3】

【化4】

から選ばれる1種以上の構造単位とからなり、かつ下記式(1):
0.08≦(MB+MC+MD)/(MA+MB+MC+MD)≦0.85 (1)
{式中、MA、MB、C及びMDは、それぞれ、ポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)、(B)、(C)及び(D)のモル数である。}
を満たすもの
と反応させて得られる構造を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の衣類。
【請求項5】
前記(i)有機ポリイソシアネート化合物と前記(ii)ポリアルキレンエーテルジオール化合物との当量比が、1.3:1〜3.0:1である、請求項1〜4のいずれかに記載の衣類。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂が、(iii)イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物に由来する構造をさらに含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の衣類。
【請求項7】
前記(i)有機ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基に対する、前記(ii)ポリアルキレンエーテルジオール化合物中の水酸基及び前記(iii)イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物中の活性水素の合計の当量比が0.90〜1.10である、請求項1〜6のいずれかに記載の衣類。
【請求項8】
前記(iii)イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物がジオール類である、請求項1〜7のいずれかに記載の衣類。
【請求項9】
前記衣類生地が弾性繊維を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の衣類。
【請求項10】
前記弾性繊維がポリウレタン弾性繊維である、請求項9に記載の衣類。
【請求項11】
前記衣類生地における前記ポリウレタン弾性繊維が、
(i)有機ポリイソシアネート化合物を、
(ii)分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物であって、下記の構造単位(A):
【化5】

と、構造単位(B)、(C)及び(D):
【化6】

【化7】

【化8】

から選ばれる1種以上の構造単位とからなり、かつ下記式(1):
0.08≦(MB+MC+MD)/(MA+MB+MC+MD)≦0.85 (1)
{式中、MA、MB、MC及びMDは、それぞれ、ポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)、(B)、(C)及び(D)のモル数である。}
を満たすもの
と反応させて得られる構造を含有する、請求項10に記載の衣類。
【請求項12】
前記衣類生地における前記ポリウレタン弾性繊維が、(iii)イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物に由来する構造をさらに含有する、請求項10又は11に記載の衣類。
【請求項13】
前記(iii)イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物がジアミン類である、請求項12に記載の衣類。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−117159(P2012−117159A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265414(P2010−265414)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】