説明

表生地と裏生地を、直下接結の技法で一体化した、高密度・多層・多色の、厚地先染紋織物、及び、厚地先染無地織物。

【課題】 従来、厚地で、多彩色の絵柄模様を表現する紋織物を作るには、経糸と緯糸に太い糸を使って厚くするのであるが、この方法では、細かい模様を多彩色で表現することができない。また普通の紋織物に、別の厚生地やシートを当てて縫い合わせたり、接着剤で接着したりするが、何れの方法を取っても、縦横斜めの伸び縮み・よれ・折れ・捩れ・しわなどの欠点があり、織物自体のしなやかさ・弾性・原状回復性・強度・張りについても満足することができない。
【解決手段】 多彩色の絵柄模様を忠実に緻密に表現するためには、経糸も緯糸も高密度の糸数を使用し、経緯糸の色数を多くし、多層織りの織組織を組み合わせて対処する。これを表生地として、別途、太目のモノフィラメント糸等の経糸と緯糸で組織する網目織りの裏生地を、織りながら直下接結することによって、課題の欠点と不満を総て解決し、高密度多彩色多層紋織りの厚地織物ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多彩色の幾何模様とか絵柄模様を、先染糸の高密度な経糸及び緯糸によって、多層織りで表現した表生地に、太目で硬目の、モノフィラメントなどの糸を用いて、メッシュ調に組織した裏生地を、表生地の経糸と裏生地の緯糸を交差して組織することによって、直下接結の技法で一体化した、高密度多層紋織りの厚地紋織物、及び、模様を略した厚地無地織物、及び、これらを利用した製品。
【背景技術】
【0002】
従来の厚地紋織物においては、経糸及び緯糸に太い糸を使用することによって厚地を形成したり、或いは、紋織物に、別の生地やシートを縫い合わせたり、接着剤で接着したりして厚地を形成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の厚地紋織物において、経糸及び緯糸に太い糸を使用する場合は、組織的理由で、経糸及び緯糸の密度(本数)が少なくなる。従って、細かい絵柄模様を多彩色で緻密に表現することができない。また、機能的には、弾性・原状回復性・張り・強度において劣り、縦横斜めのどの方向にも、伸縮・よれ・折れ・捩れ・しわなどの欠点を発生するなどの問題がある。
【0004】
また、普通の紋織物に、別の生地やシートを当てて縫い合わせたり、接着剤で接着する方法も使用されるが、やはりこれらの問題を、総てにわたって解決することができない。
【0005】
本発明は、このような従来の織り方や接着の方法を踏襲せずに、これらの問題を解決しようとするものであり、あわせて、この厚地紋織物及び、厚地無地織物を、表面資材として、畳表・畳・ベッド・椅子・家具・その他のインテリア製品・屋内壁装材・及び袋物・箱物などの小物製品に利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためには、表生地と裏生地を同時に織りながら、表生地の経糸を裏生地の緯糸に交差させて直下接結するという技法を用いる。
【0007】
表生地の表面には、幾何模様とか絵柄模様を美しく表現しなければならない。美しくとは、多彩色であること、細かく緻密であること、模様の組織に変化があることなどである。従って、これらを可能にするためには、経糸にも緯糸にも、可能な限り高密度な糸本数を使用し、さらに、経糸には1種類以上、緯糸には4種類以上の先染色糸を使用することが好ましい。
【0008】
また、裏生地の厚さとのバランスをとるために、表生地そのものにも或る程度の厚さを必要とする。そのためには、絵柄模様を表現するに際し、多層織りの組織を用いることが望ましい。
【0009】
裏生地は、表生地に不足する厚さを補完するものであり、また資材として要求される色々な機能性を満たすものである。従って、経糸と緯糸には、太目で硬目のモノフィラメント等の糸を使用し、織り方はメッシュ調の平織りである。
【0010】
当生地の経糸を捲き上げるビームの本数は、表生地用として複数本、裏生地用として1本必要である。表生地は多層織り組織であるから、経糸相互の間において、織り縮みの程度の差を生じるためであり、裏生地は、表生地と全く異なる糸を使用するためである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
【0012】
この織物の表生地において、使用する経糸及び緯糸の本数が、可能な限り高密度であり、また、この経糸及び緯糸に使用する色糸の種類が多色であり、織り組織が多層織りであるなどの仕様により、細かく緻密で色彩感のある絵柄模様を表現することができる。
【0013】
この織物の裏生地において、経糸及び緯糸として使用するモノフィラメント等の糸を、細目にしたり太目にしたりすることによって、この厚地織物全体の厚さを自由に加減することができる。
【0014】
このような表生地と裏生地を、直下接結の技法で織り上げた厚地紋織物は、縦横斜めに引っ張っても伸び縮みしないし、圧迫しても弾性があって原状回復性を有する。また例えば、畳表に使用しても、しわ・よれ・折れ・捩れ・潰れ・破れなどの欠点を発生しない。
【0015】
4層から成る表生地に裏生地を直下接結すると5層構造になるから、通気性があり、しなやかさと吸音及び保温効果がある。
【0016】
従来の畳表は、植物の藺草の茎を麻糸で織ったものであるから、摩擦によって茎の表皮がはがれ、中身が露出する。また新しい青畳は、やがて黄褐色に変色する。重量のある家具で圧迫した部分にできる凹みは直らない。然し、この厚地織物は、摩擦に強く、変退色せず、圧迫による凹みは時間とともに原状回復する。
【0017】
従来の畳表に使用する藺草は、植物であるから、かび・だにを発生するが、この織物では、それらの心配は無用である。
【0018】
最近の畳表に、化学畳と称して、合成樹脂を用いた藺草畳まがいの商品がある。この化学畳は、冷やかで、通気性、しなやかさ、吸音性、保温性に乏しく、特に、使用するにつれて細い毛羽が発生し、それが次第に太くて長いささくれとなり、皮膚に不快感を与え、衣服を損傷する。多湿時にはべたつくなど問題点があるが、当該厚地織物において、それらの危惧はない。
【0019】
従来、畳を仕立てる際には、決まったように畳縁を併用する。然し、この厚地織物は、しなやかで、丈夫で、張りと原状回復性があるので、畳縁の使用を省略することができる。また畳縁の無い畳を敷きつめた部屋は広く見えるし、つまずくこともない。
【0020】
その上、畳縁を省略すれば、各家庭において、職人の手を借りずに、市販のガンタッカー等を使用してこの厚地織物を畳床に張り付けることができるので、少ない費用で表替えすることができる。また、変退色しないから一部の畳だけを表替えしても新旧の違和感はでてこない。
【0021】
この厚地織物は、藺草の畳表よりも丈夫で長持ちするので環境に優しい。
【0022】
以上で、畳表を例として説明した、この厚地織物の効果は、ベッド・椅子・家具・袋物・箱物・内装材などの表面材として使用する場合にも、そのまま当てはまる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
図1は、図2の表生地9の表面の、色柄模様が無い部分に当たる無地F(略して、地、又は、グランド)の部分の織り組織図である。この実施例では、経糸1の動きは8枚朱子の組織に基づいており、また緯糸2を織り進む、色の順番は、黄、赤、緑、青の繰返しである。そして黄と緑は上層3に、赤と青は下層4に位置する。8枚朱子の経糸1は、上層3の黄と緑の点5で組織される。下層4の赤と青については、可能な限り少ない点6で経糸1と組織される。また赤と青は殆ど無地の表面に現われることはなく、また、黄と緑は8枚朱子の組織点においてのみ表面に現われることになるはずであるが、経糸1の密度が高密度であるために、経糸と経糸の間に挟まって、殆ど表面に現われてこない。よって、地の色は経糸1の色Fだけで表現される。(図1(a))は、表生地9の経糸1が、上層3の緯糸(黄と緑)と交差する点5と、下層4の緯糸(赤と青)と交差する点6と、裏生地10の緯糸8と交差する組織点16を表わすものである。(図1(b))は、表生地9の緯糸2と、裏生地10の緯糸8に、8本の経糸1が夫々交差して組織している状況を表わすものである。この図を(図1(a))と照合することによって、表生地の組織と裏生地の組織の関係を、より詳細に説明することができる。
【0024】
図2は、表生地9の表面の色柄模様の部分の織り組織図である。実施例において、模様に使用する色は、黄(A)、赤(B)、緑(C)、青(D)、赤青(E)、の5色である。黄Aの模様は、8枚朱子で構成される無地の経糸1の上に、黄Aの緯糸を、柄の輪郭に合わせて並べることによって表現される。赤B,緑C,青D,の模様も、黄Aと同じように表現される。赤青Eの場合は、赤青赤青と交互に並べることによって、赤と青の混合色として表現される。
【0025】
図2において、ベージュFは、8枚朱子の組織によって、ベージュ色の経糸1だけが表面に出ている無地の色である。この層の下に、黄、緑、の上層3と、赤、青、の下層4があるので、無地は3層で形成される。赤青Eは上層3と下層4の間に、経糸1の層が位置するので3層になる。黄A、赤B,緑C,青D,においては、経糸1の層に上に、模様用の色糸が位置するので4層になる。
【0026】
図3において、縦の方向に並んだ方形の1列は、表生地9の経糸1の1本1本を意味し、横の方向に並んだ方形の1列は、表生地9の緯糸2の1本1本を意味する。また、経糸の断面図11と、緯糸の断面図12において、表生地9の経糸1、及び、緯糸2の夫々の配列の仕方が示される。
【0027】
この経糸の断面図11と、緯糸の断面図12において示された、表生地の経糸1と、表生地の緯糸2の、夫々の下方に、裏生地10の経糸13、及び、緯糸14が位置している。加えて、裏生地の経糸が裏生地の緯糸と交差し、裏生地の緯糸が裏生地の経糸と交差していることが示され、また、裏生地10は表生地9に対して、独立したメッシュ組織であることを明らかにしている。
【0028】
裏生地10には、充分な厚さと、弾性・強度・こわりなどの機能を持たせる必要があるので、これの経糸13と緯糸14には、共に、太目のモノフィラメント等の糸を使用する。
【0029】
そのために、表生地9の経糸本数と、裏生地10の経糸本数との割合を3対1とする。従って、裏生地の経糸の、1本1本の配列位置は、表生地の経糸の配列順番の、3の倍数に当たる経糸の直下となる。また同様に、緯糸本数の割合を4対1とするから、裏生地の緯糸の配列位置は、表生地の緯糸の配列の順番、即ち、黄赤緑青の内の青の緯糸の直下となる。
【0030】
図3において、×記号15は、裏生地の経糸13と、裏生地の緯糸14が交差する組織点であり、○記号16は、表生地の経糸1が裏生地の緯糸14と交差して、裏生地を表生地に直下接結する組織点である。
【0031】
図3の上部の欄外に記載した同一部分図17は、下の図の一部分を取り出して、見易く書き替えたものである。
【0032】
図4は、実施例における、多彩色の絵柄模様を表わす輪郭図である。彩色の種類は、黄(A)、赤(B)、緑(C)、青(D)、赤青混合(E)、ベージュ(F)の6色であり、模様の部分から引出線を引いて、その色を表示する。
【0033】
実施例において、経糸本数の密度は、表生地では1cm当り69本、裏生地では1cm当り23本、表裏合計では92本である。また、緯糸本数の密度は、表生地では1cm当り56本、裏生地では1cm当り14本、表裏合計では70本である。
【0034】
実施例において、表生地の経糸に使用する糸の太さは225デシテックスで、表生地の緯糸に使用する糸の太さは、綿番の15番手である。また、裏生地の経糸及び緯糸に使用する糸の太さは245デシテックスである。
【0035】
実施例において、表生地及び裏生地の、経糸及び緯糸の素材は、総て、非塩素系の合成繊維である。
【0036】
上記のような太さの糸を使用した、経糸と緯糸が、可能な限りの高密度で構成されているので、後加工による撥水加工の効果は、5級を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】表生地表面の、無地の部分の織り組織図である。
【図2】表生地表面の、色柄模様の部分を、緯糸の断面から見た織り組織図である。併せて、表生地の経糸と裏生地の緯糸との、直下接結の仕方を表わす図である。
【図3】裏生地だけの経糸と緯糸の組織点、並びに、表生地の経糸が裏生地の緯糸を、直下接結する組織点、を表わす組織図である。併せて、表生地の経糸及び緯糸の配列、並びに、裏生地の経糸及び緯糸の配列を表わす図である。
【図4】絵柄模様を輪郭だけで表わし、その部分部分に配色の色を書き入れた説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 表生地の経糸
2 表生地の緯糸
3 表生地の上層
4 表生地の下層
5 表生地の8枚朱子の経糸が、表生地の上層に位置する黄と緑に交差する位置を表わす組織点
6 表生地の8枚朱子の経糸が、表生地の下層に位置する赤と青に交差する位置を表わす組織点
7 裏生地の経糸
8 裏生地の緯糸
9 表生地
10 裏生地
11 経糸の断面図
12 緯糸の断面図
13 裏生地の経糸
14 裏生地の緯糸
15 裏生地の経糸と緯糸が交差する組織点
16 表生地の経糸が裏生地の緯糸と交差して、裏生地を表生地に直下接結する組織点
17 図3の上部の一部分を取り出して、理解し易く書き替えた同一部分図
A 絵柄模様の中の、黄配色の部分
B 絵柄模様の中の、赤配色の部分
C 絵柄模様の中の、緑配色の部分
D 絵柄模様の中の、青配色の部分
E 絵柄模様の中の、赤青混合配色の部分
F 絵柄模様の中の、ベージュ配色の部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多彩色の幾何模様又は絵柄模様を、先染糸の高密度な経糸及び緯糸によって、多層織りで表現した表生地に、太目で硬目の、モノフィラメントなどの糸を、経糸と緯糸に使用した、メッシュ調の裏生地を、夫々同時に織りながら、直下接結の技法で一体化した、高密度・多層・多色・絵柄紋織りの厚地紋織物。
【請求項2】
多彩色の幾何模様又は絵柄模様を、先染糸の高密度な経糸及び緯糸によって、多層織りで表現した表生地に、太目で硬目の、モノフィラメントなどの糸を、経糸と緯糸に使用した、メッシュ調の裏生地を、夫々同時に織りながら、直下接結の技法で一体化した、高密度・多層・多色・絵柄紋織りの厚地紋織物から、表面の絵柄模様を取り去って、表面全体を、地色だけで彩色した、高密度・多層・多色織りの厚地無地織物。
【請求項3】
請求項1、及び、請求項2記載の厚地織物を、表面資材として利用した、畳表、畳、ベッド、椅子、家具その他のインテリア製品、屋内壁装材、及び、袋物、箱物などの小物製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−265740(P2006−265740A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81034(P2005−81034)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(504386934)株式会社三栄テキスタイル (1)
【Fターム(参考)】