説明

表皮ブドウ球菌に対する防御免疫応答を誘導するためのポリペプチド

本発明は、配列番号1に構造的に関連しているアミノ酸配列を含むポリペプチド、およびそのようなポリペプチドの使用を特徴とする。配列番号1は完全長表皮ブドウ球菌ポリペプチドのトランケート化誘導体である。天然に存在する該完全長ポリペプチドは本明細書においては完全長ORF1319eと称される。配列番号1のHisタグ付き誘導体は表皮ブドウ球菌に対する防御免疫応答を生成することが見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮ブドウ球菌に対する防御免疫応答を誘導するためのポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願の全体において引用されている参考文献は、特許請求されている発明の先行技術であることを自認するものではない。
【0003】
表皮ブドウ球菌は、特に院内感染および易感染患者において、病原体として現れている(Ziebuhrら,International Journal of Antimicrobial Agents 28S:S14−S20,2006)。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)、主として表皮ブドウ球菌は、診断または治療方法において使用される外来物に関連して最も頻繁に分離される微生物感染菌である(HeilmannおよびPeters,Biology and Pathogenicity of Staphylococcus epidermidis,In:Gram Positive Pathogens,Fischettiら編,American Society for Microbiology,Washington D.C.2000ならびにThe Staphylococci in Human Disease,CrossleyおよびArcher(編),Churchill Livingstone Inc.1997)。
【0004】
核酸配列情報を得、オープンリーディングフレームおよび潜在的ポリペプチドに関する予測を行うために、表皮ブドウ球菌からの核酸が配列決定されている(Doucette−Stammら,米国特許第6,380,370号およびDoucette−Stammら,米国特許第7,060,458号)。
【0005】
潜在的抗原をコードする遺伝子を特定するために、提示技術のような技術および感染患者からの血清が使用されうる(Meinkeら,WO 02/059148,Meinkeら,WO 04/087746)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,380,370号
【特許文献2】米国特許第7,060,458号
【特許文献3】WO 02/059148
【特許文献4】WO 04/087746
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ziebuhrら著,International Journal of Antimicrobial Agents 28S:S14−S20,2006
【非特許文献2】HeilmannおよびPeters著,Biology and Pathogenicity of Staphylococcus epidermidis,In:Gram Positive Pathogens
【非特許文献3】Fischettiら著,American Society for Microbiology,Washington D.C.2000
【非特許文献4】CrossleyおよびArcher著,The Staphylococci in Human Disease,Churchill Livingstone Inc.1997
【発明の概要】
【0008】
発明の概括
本発明は、配列番号1に構造的に関連しているアミノ酸配列を含むポリペプチド、およびそのようなポリペプチドの使用を特徴とする。配列番号1は完全長表皮ブドウ球菌ポリペプチドのトランケート化誘導体である。天然に存在する該完全長ポリペプチドは本明細書において完全長ORF1319eと称される。配列番号1のHisタグ付き誘導体は表皮ブドウ球菌に対する防御免疫応答を生成することが判明した。
【0009】
「防御」免疫または免疫応答に対する言及は表皮ブドウ球菌感染に対する防御の検出可能なレベルを示す。「免疫原」に対する言及は、防御免疫を提供する能力を示す。
【0010】
したがって、本発明の第1の態様は、配列番号1と少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド免疫原を記載し、ここで、該ポリペプチドは配列番号3または4のアミノ酸配列を有さない。1つの実施形態においては、該ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸1−93により提供されるアミノ末端を含有しない。
【0011】
配列番号1と少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含むことに対する言及は、配列番号1に関連した領域が存在し追加的ポリペプチド領域が存在しうることを示す。1つの実施形態においては、追加的領域が存在する場合、該ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸1−93により提供されるアミノ末端を有さない。
【0012】
参照配列に対するパーセントの同一性(同一%とも称される)は、ポリペプチド配列を該参照配列に対して整列(アライン)させ、対応領域内の同一アミノ酸の数を決定することにより決定される。この数を該参照配列(例えば、配列番号1)内のアミノ酸の総数で割り算し、ついで100を掛け算し、最も近い整数に丸める。
【0013】
本発明のもう1つの態様は、表皮ブドウ球菌に対する防御免疫をもたらすアミノ酸配列と、カルボキシル末端またはアミノ末端において該配列に共有結合した1以上の追加的領域または部分とを含む免疫原を記載する。ここで、各領域または部分は、独立して、以下の特性、すなわち、免疫応答の増強、精製の促進またはポリペプチド安定性の促進の少なくとも1つを有する領域または部分から選ばれる。
【0014】
「追加的領域または部分」に対する言及は、ORF1319e領域とは異なる領域または部分を示す。該追加的領域または部分は例えば追加的ポリペプチド領域または非ペプチド領域でありうる。
【0015】
本発明のもう1つの態様は、患者において表皮ブドウ球菌に対する防御免疫を誘導しうる組成物を記載する。該組成物は、医薬上許容される担体と、表皮ブドウ球菌に対する防御免疫をもたらす免疫学的に有効な量の免疫原とを含む。
【0016】
免疫学的に有効な量は、表皮ブドウ球菌感染に対する防御免疫をもたらすのに十分な量である。該量は、表皮ブドウ球菌感染の可能性または重症度を有意に抑制するのに十分なものであるべきである。
【0017】
本発明のもう1つの態様は、表皮ブドウ球菌感染に対する防御免疫をもたらすポリペプチドをコードする組換え遺伝子を含む核酸を記載する。組換え遺伝子は、適切な転写およびプロセシングのための調節要素(これは翻訳および翻訳後要素を含みうる)と共にポリペプチドをコードする組換え核酸を含有する。該組換え遺伝子は宿主ゲノムから独立して存在することが可能であり、あるいは宿主ゲノムの一部でありうる。
【0018】
組換え核酸は、その配列および/または形態の点では天然では見出されない核酸である。組換え核酸の具体例には、精製された核酸、天然で見出されるものとは異なる核酸を与える一緒になった2以上の核酸領域、互いに天然で付随している1以上の核酸領域(例えば、上流または下流領域)の非存在が含まれる。
【0019】
本発明のもう1つの態様は組換え細胞を記載する。該細胞は、表皮ブドウ球菌に対する防御免疫をもたらすポリペプチドをコードする組換え遺伝子を含む。好ましくは、該細胞をインビトロで増殖させる。
【0020】
本発明のもう1つの態様は、表皮ブドウ球菌に対する防御免疫をもたらすポリペプチドの製造方法を記載する。該方法は、該ポリペプチドをコードする組換え核酸を含有する組換え細胞を増殖させ、該ポリペプチドを精製することを含む。
【0021】
本発明のもう1つの態様は、表皮ブドウ球菌に対する防御免疫をもたらすポリペプチドであって、宿主において該ポリペプチドをコードする組換え核酸を含有する組換え細胞を増殖させ、該ポリペプチドを精製する段階を含む方法により製造されたポリペプチドを記載する。種々の宿主細胞を使用することが可能である。
【0022】
本発明のもう1つの態様は、患者における表皮ブドウ球菌に対する防御免疫応答の誘導方法を記載する。該方法は、表皮ブドウ球菌に対する防御免疫をもたらす免疫学的に有効な量の免疫原を該患者に投与する段階を含む。
【0023】
個々の用語が互いに矛盾しない限り、「または(もしくは)(あるいは)」は一方または両方の可能性を示す。場合によっては、一方または両方の可能性を強調するために「および/または」のような表現が用いられる。
【0024】
「含む(含んでなる)」のような非限定的用語に対する言及は追加的な要素または段階を許容する。場合によっては、「1以上」のような表現は、追加的な要素または段階の可能性を強調するために非限定的用語と共に又はそれを伴わずに用いられる。
【0025】
明示的に示されていない限り、単数表現は単数を示すと限定されるものではない。例えば、「細胞」は複数の細胞を除外するものではない。場合によっては、可能な複数の存在を強調するために、1以上のような表現が用いられる。
【0026】
本発明の他の特徴および利点は、種々の実施例(具体例)を含む本明細書に記載の更なる説明から明らかである。記載されている実施例(具体例)は、本発明の実施に有用な種々の成分および方法を例示する。該実施例(具体例)は、特許請求されている本発明を限定するものではない。本開示に基づき、当業者は、本発明の実施に有用な他の成分および方法を特定し使用することが可能である。
【0027】
発明の詳細な説明
配列番号1関連ポリペプチドが防御免疫をもたらしうることは、配列番号2を使用する後記実施例において例示されている。配列番号2は配列番号1のHisタグ誘導体である。Hisタグはポリペプチドの精製および特定を促進する。図1は配列番号2を示し、ここで、配列番号1の領域が太字で示されている。
【0028】
配列番号1は完全長ORF1319e表皮ブドウ球菌ポリペプチドの誘導体である。配列番号1はORF1319eのアミノ酸94−557(配列番号3)を含有する。アミノ酸1−93はシグナル配列を含有すると予想された。配列番号3の完全長配列は557アミノ酸である。図2Aおよび2Bは配列番号3およびコードする核酸配列を示し、ここで、配列番号1の領域が太字で示されている。
【0029】
ORF1319eの配列
ORF1319e関連配列の具体例はGen−Bankアクセッション番号Q8CPQ5およびQ5HQC5において提供される。Gen−Bankアクセッション番号Q5HQC5は配列番号3に対応する。Gen−Bankアクセッション番号Q5HQC5はGillら,J Bacteriol.187(7):2426−2438,2005を参照している。Gen−Bankアクセッション番号Q8CPQ5(配列番号4)は、アミノ酸42におけるバリンの代わりにアラニンを有する点で、配列番号3とは異なる。Gen−Bankアクセッション番号Q8CPQ5はZhangら,Mol.Microbiol.49(6):1577−1593,2003を参照している。
【0030】
公知ORF1319e配列と比較した場合の高い度合の配列類似性または連続的なアミノ酸の存在に基づき、他の天然に存在するORF1319e配列を特定することが可能である。連続的なアミノ酸は特徴的なタグを与える。種々の実施形態において、天然に存在するORF1319e配列は、配列番号1の場合と同様に少なくとも20個、少なくとも30個または少なくとも50個の連続的なアミノ酸を有する、および/または配列番号1に対して少なくとも85%の配列類似性もしくは同一性を有する、ブドウ球菌属種、好ましくは表皮ブドウ球菌において見出される配列である。
【0031】
配列類似性は、当技術分野で公知の種々のアルゴリズムおよび技術により決定されうる。一般に、配列類似性は、配列の1つにおいてギャップ、付加および置換を許容しつつ最大のアミノ酸同一性を得るために2つの配列を整列(アライン)させる技術により決定される。
【0032】
配列類似性は、例えば、ラライン(lalign)なるプログラム(≪sim≫プログラム用にHuangおよびMillerにより開発されたもの,Adv.Appl.Math.12:337−357,1991)を利用する局所アライメント手段を用いて決定されうる。オプションおよび環境変数は、ギャップ内の第1残基に関する−f#ペナルティ(デフォルトで−14)、ギャップ内の各追加的残基に関する−g#ペナルティ(デフォルトで−4) −s str(SMATRIX)択一的(alternative)スコアリングマトリックスファイルのファイル名である。タンパク質配列の場合には、配列アライメントのためのデフォルト−w#(LINLEN)出力ライン長(60)により、PAM250が使用される。
【0033】
配列番号1関連ポリペプチド
配列番号1に構造的に関連したポリペプチドには、種々の表皮ブドウ球菌株において存在する対応領域および天然に存在する領域の誘導体を含有するポリペプチドが含まれる。配列番号1関連ポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含有する。「ポリペプチド」に対する言及は最小または最大のサイズ限界を示すものではない。
【0034】
配列番号1に対して少なくとも85%同一であるポリペプチドは、配列番号1からの約70個までのアミノ酸改変を含有する。各アミノ酸改変は、独立して、アミノ酸の置換、欠失または付加である。該改変は配列番号1領域内に存在することが可能であり、あるいは配列番号1の領域に付加されることが可能である。種々の実施形態において、配列番号1関連ポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも90%、少なくとも94%または少なくとも99%同一である;0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個のアミノ酸改変だけ配列番号1と異なる;あるいは配列番号1で実質的に構成される。
【0035】
示されているアミノ酸で「実質的に構成される」に対する言及は、言及されているアミノ酸が存在し、追加的なアミノ酸が存在しうることを示す。追加的なアミノ酸はカルボキシルまたはアミノ末端に位置しうる。種々の実施形態において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個の追加的なアミノ酸が存在する。好ましい追加的なアミノ酸はアミノ末端メチオニンである。
【0036】
表皮ブドウ球菌に対する防御免疫を誘導しうる誘導体を得るために、配列番号1に改変を施すことが可能である。改変は、例えば、表皮ブドウ球菌に対する防御免疫を誘導する能力を保有する誘導体を得るために、あるいは防御免疫をもたらすことに加えて、特定の目的を達成しうる領域をも有する誘導体を得るために、行うことが可能である。
【0037】
種々のORF1319e配列およびアミノ酸の公知特性を考慮して、改変を施すことが可能である。一般に、活性を保有するよう種々のアミノ酸を置換する場合には、類似した特性を有するアミノ酸を置換することが好ましい。アミノ酸の置換の場合に考慮されうる要因には、アミノ酸のサイズ、電荷、極性および疎水性が含まれる。アミノ酸の特性に対する種々のアミノ酸R基の効果が当技術分野でよく知られている(例えば、Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−2002,Appendix 1Cを参照されたい)。
【0038】
活性を維持するようアミノ酸を置換する際には、置換アミノ酸は、1以上の類似特性(例えば、ほぼ同じ電荷および/またはサイズおよび/または極性および/または疎水性)を有するべきである。例えば、ロイシンからバリンへの、リシンからアルギニンへの、およびグルタミンからアスパラギンへの置換は、ポリペプチドの機能の変化を引き起こさない優れた候補である。
【0039】
特定の目的を達成するための改変には、該ポリペプチドの産生もしくは効力またはコード化核酸のクローニングを促進するよう意図されたものが含まれる。ポリペプチドの産生は、組換え発現に適した開始コドン(例えば、メチオニンをコードするもの)の使用により促進されうる。該メチオニンは後に細胞プロセシング中に除去されうる。クローニングは、例えば、アミノ酸の付加または変化を伴いうる制限部位の導入により促進されうる。
【0040】
免疫応答を誘導するポリペプチドの効力はエピトープ増強により増強されうる。エピトープ増強は、MHC分子に対するペプチドアフィニティを改善するためのアンカー残基の改変を含む技術およびT細胞受容体に対するペプチド−MHC複合体のアフィニティを増加させる技術のような種々の技術を用いて行われうる(Berzofskyら,Nature Review 1:209−219,2001)。
【0041】
好ましくは、該ポリペプチドは、精製されたポリペプチドである。「精製されたポリペプチド」は、それが天然で付随している1以上の他のポリペプチドを欠く環境中に存在し、および/または存在する全タンパク質の少なくとも約10%に相当する。種々の実施形態において、精製されたポリペプチドは、サンプルまたは調製物中の全タンパク質の少なくとも約50%、少なくとも約75%または少なくとも約95%に相当する。
【0042】
1つの実施形態においては、該ポリペプチドは「実質的に精製」されている。実質的に精製されたポリペプチドは、該ポリペプチドが天然で付随している全て又はほとんどの他のポリペプチドを欠く環境中に存在する。例えば、実質的に精製された表皮ブドウ球菌ポリペプチドは、すべて又はほとんどの他の表皮ブドウ球菌ポリペプチドを欠く環境中に存在する。環境は例えばサンプルまたは調製物でありうる。
【0043】
「精製(された)」または「実質的に精製(された)」に対する言及は、ポリペプチドがいずれかの精製を受けることを要求するものではなく、例えば、精製されていない化学合成ポリペプチドを包含しうる。
【0044】
ポリペプチドの安定性は、ポリペプチドのカルボキシルまたはアミノ末端を修飾することにより増強されうる。可能な修飾の具体例には、アミノ末端保護基、例えばアセチル、プロピル、スクシニル、ベンジル、ベンジルオキシカルボニルまたはt−ブチルオキシカルボニル;およびカルボキシル末端保護基、例えばアミド、メチルアミドおよびエチルアミドが含まれる。
【0045】
本発明の1つの実施形態においては、ポリペプチド免疫原は、カルボキシル末端またはアミノ末端において該ポリペプチドに共有結合した1以上の追加的領域または部分を含有する免疫原の一部であり、ここで、各領域または部分は、独立して、以下の特性、すなわち、免疫応答の増強、精製の促進またはポリペプチド安定性の促進の少なくとも1つを有する領域または部分から選ばれる。ポリペプチドの安定性は、例えば、アミノまたはカルボキシル末端に存在しうるポリエチレングリコールのような基を使用して増強されうる。
【0046】
ポリペプチドの精製は、精製を促進させるための基をカルボキシルまたはアミノ末端に付加することにより促進されうる。精製を促進させるために使用しうる基の具体例には、アフィニティータグを付与するポリペプチドが含まれる。アフィニティータグの具体例には、6ヒスチジンタグ、trpE、グルタチオンおよびマルトース結合タンパク質が含まれる。
【0047】
免疫応答をポリペプチドが引き起こす能力は、免疫応答を一般に増強する基を使用することにより増強されうる。ポリペプチドに対する免疫応答を増強するためにポリペプチドに連結されうる基の具体例には、例えばIL−2のようなサイトカインが含まれる(Buchanら,2000.Molecular Immunology 37:545−552)。
【0048】
ポリペプチドの製造
ポリペプチドは、化学合成を伴う技術および該ポリペプチドを産生する細胞からの精製を伴う技術を含む標準的な技術を用いて製造されうる。ポリペプチドの化学合成のための技術は当技術分野でよく知られている(例えば、Vincent,Peptide and Protein Drug Delivery,New York,N.Y.,Decker,1990を参照されたい)。組換えポリペプチドの製造および精製のための技術も当技術分野でよく知られている(例えば、Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−2002を参照されたい)。
【0049】
細胞からのポリペプチドの入手は、該ポリペプチドを製造するための組換え核酸技術を用いることにより促進される。ポリペプチドを製造するための組換え核酸技術は、該ポリペプチドをコードする組換え遺伝子を細胞内に導入し又は細胞内で産生させ、該ポリペプチドを発現させることを含む。
【0050】
組換え遺伝子は、ポリペプチドの発現のための調節要素と共に、ポリペプチドをコードする核酸を含有する。組換え遺伝子は細胞ゲノム内に存在することが可能であり、あるいは発現ベクターの一部でありうる。
【0051】
組換え遺伝子の一部として存在しうる調節要素には、該ポリペプチドをコードする配列に天然で付随している調節要素、および該ポリペプチドをコードする配列に天然では付随していない外因性調節要素が含まれる。組換え遺伝子を特定の宿主内で発現させるためには又は発現レベルを増加させるためには、外因性プロモーターのような外因性調節要素が有用でありうる。一般に、組換え遺伝子内に存在する調節要素には、転写プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、および場合によって存在するオペレーターが含まれる。真核細胞内でのプロセシングのための好ましい要素はポリアデニル化シグナルである。
【0052】
細胞内での組換え遺伝子の発現は発現ベクターの使用により促進される。好ましくは、組換え遺伝子に加えて発現ベクターも、宿主細胞内での自律複製のための複製起点、選択マーカー、一定数の有用な制限酵素部位、および高いコピー数の潜在性を含有する。発現ベクターの具体例としては、クローニングベクター、修飾されたクローニングベクター、特別に設計されたプラスミドおよびウイルスが挙げられる。
【0053】
遺伝暗号の縮重のため、特定のポリペプチドをコードするために多数の異なるコード化核酸配列が用いられうる。ほとんど全てのアミノ酸は、異なる組合せのヌクレオチドトリプレット、すなわち「コドン」によりコードされているため、遺伝暗号の縮重が生じる。アミノ酸は、以下のとおりに、コドンによりコードされる。
A=Ala=アラニン:コドンGCA、GCC、GCG、GCU
C=Cys=システイン:コドンUGC、UGU
D=Asp=アスパラギン酸:コドンGAC、GAU
E=Glu=グルタミン酸:コドンGAA、GAG
F=Phe=フェニルアラニン:コドンUUC、UUU
G=Gly=グリシン:コドンGGA、GGC、GGG、GGU
H=His=ヒスチジン:コドンCAC、CAU
I=Ile=イソロイシン:コドンAUA、AUC、AUU
K=Lys=リシン:コドンAAA、AAG
L=Leu=ロイシン:コドンUUA、UUG、CUA、CUC、CUG、CUU
M=Met=メチオニン:コドンAUG
N=Asp=アスパラギン:コドンAAC、AAU
P=Pro=プロリン:コドンCCA、CCC、CCG、CCU
Q=Gln=グルタミン:コドンCAA、CAG
R=Arg=アルギニン:コドンAGA、AGG、CGA、CGC、CGG、CGU
S=Ser=セリン:コドンAGC、AGU、UCA、UCC、UCG、UCU
T=Thr=トレオニン:コドンACA、ACC、ACG、ACU
V=Val=バリン:コドンGUA、GUC、GUG、GUU
W=Trp=トリプトファン:コドンUGG
Y=Tyr=チロシン:コドンUAC、UAU
【0054】
配列番号1関連ポリペプチドの組換え核酸発現のための適当な細胞は原核生物および真核生物である。原核生物細胞の具体例には、大腸菌;ブドウ球菌属のメンバー、例えば表皮ブドウ球菌;ラクトバシラス(Lactobacillus)属のメンバー、例えばラクトバシラス・プランタルム(L.plantarum);ラクトコッカス(Lactococcus)属のメンバー、例えばラクトコッカス・ラクティス(L.lactis);バシラス(Bacillus)属のメンバー、例えばバシラス・サチリス(B.subtilis);コリネバクテリウム(Corynebacterium)属のメンバー、例えばコリネバクテリウム・グルタミクム(C.glutamicum);およびシュードモナス(pseudomonas)属のメンバー、例えばシュードモナス・フルオレッセンス(Ps.fluorescens)が含まれる。真核生物細胞の具体例には、哺乳類細胞;昆虫細胞;酵母細胞、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属のメンバー(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae))、ピチア(Pichia)属のメンバー(例えば、ピチア・パストリス(P.pastors))、ハンゼヌラ(Hansenula)属のメンバー(例えば、ハンゼヌラ・ポリモルファ(H.polymorpha))、クルイベロミセス(Kluyveromyces)属のメンバー(例えば、クルイベロミセス・ラクティス(K.lactis)またはクルイベロミセス・フラジリス(K.fragilis))およびシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属のメンバー(例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(S.pombe))が含まれる。
【0055】
組換え遺伝子の産生、細胞内への導入および組換え遺伝子発現のための技術は当技術分野でよく知られている。そのような技術の具体例はAusubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−2002およびSambrookら,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989のような参考文献に記載されている。
【0056】
所望により、特定の宿主内での発現はコドン最適化により増強されうる。コドン最適化は、より好ましいコドンの使用を含む。種々の宿主におけるコドン最適化のための技術が当技術分野でよく知られている。
【0057】
配列番号1関連ポリペプチドは、翻訳後修飾、例えばN−結合グリコシル化、O−結合グリコシル化またはアセチル化を含有しうる。「ポリペプチド」、またはポリペプチドの「アミノ酸」配列に対する言及は、宿主細胞(例えば、酵母宿主)からの翻訳後修飾の構造を有する1以上のアミノ酸を含有するポリペプチドを含む。
【0058】
翻訳後修飾は化学的に、または適当な宿主を使用することにより得られうる。例えば、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)においては、末端前アミノ酸の性質が、N末端メチオニンが除去されるかどうかを決定するらしい。さらに、末端前アミノ酸の性質は、N末端アミノ酸がNα−アセチル化されるかどうかをも決定する(Huangら,Biochemistry 26:8242−8246,1987)。もう1つの例には、分泌リーダー(例えば、シグナルペプチド)の存在により分泌のために標的化されるポリペプチドが含まれ、この場合、該タンパク質はN−結合またはO−結合グリコシル化により修飾される(Kukuruzinskaら,Ann.Rev.Biochem.56:915−944,1987)。
【0059】
アジュバント
アジュバントは、免疫応答の生成において免疫原を補助しうる物質である。アジュバントは、以下のうちの1以上のような種々のメカニズムにより機能しうる:抗原の生物学的または免疫学的半減期の延長、抗原提示細胞への抗原の運搬の改善、抗原提示細胞による抗原のプロセシングおよび提示の改善、ならびに免疫調節性サイトカインの産生の誘導(Vogel,Clinical Infectious Diseases 30(suppl.3):S266−270,2000)。1つの実施形態においては、アジュバントが使用される。
【0060】
免疫応答の生成を補助するために、多種多様なタイプのアジュバントが使用されうる。個々のアジュバントの具体例には、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムもしくはアルミニウムの他の塩、リン酸カルシウム、DNA CpGモチーフ、モノホスホリルリピドA、コレラ毒素、大腸菌易熱性毒素、百日咳毒素、ムラミルジペプチド、フロインド不完全アジュバント、MF59、SAF、免疫刺激性複合体、リポソーム、生分解性ミクロスフェア、サポニン、非イオン性ブロック共重合体、ムラミルペプチド類似体、ポリホスファゼン、合成ポリヌクレオチド、IFN−γ、IL−2、IL−12およびISCOMSが含まれる(Vogel Clinical Infectious Diseases 30(suppl 3):S266−270,2000,Kleinら,Journal of Pharmaceutical Sciences 89:311−321,2000;Rimmelzwaanら,Vaccine 19:1180−1187,2001,Kersten Vaccine 21:915−920,2003,O’Hagen Curr.Drug Target Infect.Disord.,1:273−286,2001)。
【0061】
防御免疫を誘導するための患者
「患者」は、表皮ブドウ球菌に感染しうる哺乳動物を意味する。患者は予防的または治療的に治療されうる。予防的治療は、表皮ブドウ球菌感染の可能性または重症度を軽減するのに十分な防御免疫をもたらす。治療的処置、表皮ブドウ球菌感染の重症度を軽減するために行われうる。
【0062】
予防的治療は、本明細書に記載の免疫原を含有するワクチンを使用して行われうる。そのような治療は、好ましくは、ヒトに対して行われる。ワクチンは、一般集団、または表皮ブドウ球菌感染のリスクの高い者に投与されうる。
【0063】
表皮ブドウ球菌感染のリスクの高い者には、医療従事者、入院患者、機能低下した免疫系を有する患者、手術を受けた患者、カテーテルまたは血管装置のような外来インプラントを受けた患者、免疫の機能低下を招く療法を受けている患者、外来物が関わる診断方法を受けている患者、および火傷または創傷のリスクの高い職業の者が含まれる。
【0064】
診断または治療方法において使用される外来物には、留置カテーテルまたは移植高分子装置が含まれる。外来物に関連した表皮ブドウ球菌感染の具体例には、レンサ球菌血症/心内膜炎(例えば、静脈内カテーテル、代用血管、ペースメーカーリード、除細動器系、人工心臓弁および左室補助装置)、腹膜炎(例えば、脳室−腹膜脳脊髄液(CSF)シャントおよび連続携行式腹膜透析カテーテル系)、脳室炎(例えば、内部および外部CSFシャント)および慢性高分子関連症候群(例えば、人工関節(股関節)弛緩、シリコーンプロテーゼでの豊胸術後の線維性被膜拘縮症候群、および白内障手術後の人工眼内レンズの移植の後の遅発性眼内炎)が含まれる(HeilmannおよびPeters,Biology and Pathogenicity of Staphylococcus epidermidis,In:Gram Positive Pathogens,Fischettiら編,American Society for Microbiology,Washington D.C.2000)。
【0065】
表皮ブドウ球菌に感染しうる非ヒト患者には、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ウマ、イヌ、ネコおよびマウスが含まれる。非ヒト患者の治療は、ペットおよび家畜を防御するのに、および特定の治療の効力を評価するのに有用である。
【0066】
1つの実施形態においては、患者は、外来物が関わる治療的または医学的方法と組合せて予防的に治療される。追加的な実施形態においては、患者は、該操作の前の約1ヶ月、約2ヶ月または約2〜6ヶ月の時点で免疫化される。
【0067】
混合(組合せ)ワクチン
配列番号1関連ポリペプチドは、単独で又は他の免疫原と組合せて、免疫応答を誘導するために使用されうる。存在しうる追加的な免疫原には、1以上の追加的な表皮ブドウ球菌免疫原、1以上の他のブドウ球菌生物、例えばスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)、スタヒロコッカス・ヘモリティカス(S.haemolyticus)、スタヒロコッカス・ワーネリ(S.warneri)もしくはスタヒロコッカス・ラグネンシス(S.lugunensis)を標的化する1以上の免疫原、および/または他の感染生物を標的化する1以上の免疫原が含まれる。
【0068】
1以上の追加的な免疫原の具体例には、ORF0657n関連ポリペプチド(Andersonら,WO 05/009379);ORF0657/ORF0190ハイブリッドポリペプチド(Andersonら,WO 05/009378);sai−1関連ポリペプチド(Andersonら,WO 05/79315);ORF0594関連ポリペプチド(Andersonら,WO 05/086663);ORF0826関連ポリペプチド(Andersonら,WO 05/115113);PBP4関連ポリペプチド(Andersonら,WO 06/033918);AhpC関連ポリペプチドおよびAhpC−AhpF組成物(Kellyら,WO 06/078680);スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)5型および8型莢膜多糖(Shinefieldら,N.Eng.J.Med.346:491−496,2002);コラーゲンアドヘシン、フィブリノーゲン結合タンパク質および凝集因子(Mamoら,FEMS Immunology and Medical Microbiology 10:47−54,1994,Nilssonら,J.Clin.Invest.101:2640−2649,1998,Josefssonら,The Journal of Infectious Diseases 184:1572−1580,2001)および多糖細胞間アドヘシンならびにそれらの断片(Joyceら,Carbohydrate Research 338:903−922,2003)が含まれる。
【0069】
投与
免疫原は、当技術分野でよく知られた技術と共に本明細書に記載の指針を用いて、製剤化され、患者に投与されうる。医薬投与全般に関する指針は、例えばVaccines,PlotkinおよびOrenstein編,W.B.Sanders Company,1999;Remington’s Pharmaceutical Sciences 20th Edition,Gennaro編,Mack Publishing,2000;ならびにModem Pharmaceutics 2nd Edition,BankerおよびRhodes編,Marcel Dekker,Inc.,1990に記載されている。
【0070】
医薬上許容される担体は免疫原の保存および患者への免疫原の投与を促進する。医薬上許容される担体は、バッファー、注射用無菌水、正常食塩水またはリン酸緩衝食塩水、スクロース、ヒスチジン、塩およびポリソルベートのような種々の成分を含有しうる。
【0071】
免疫原は皮下、筋肉内または粘膜のような種々の経路により投与されうる。皮下および筋肉内投与は、例えば針または噴射式注射器を使用して行われうる。
【0072】
適当な投与計画は、好ましくは、患者の年齢、体重、性別および医学的状態;投与経路;所望の効果;ならびに使用する個々の化合物を含む、当技術分野でよく知られた要因を考慮して決定される。該免疫原は複数回投与ワクチン形態で使用されうる。用量は全ポリペプチド1.0μg〜1.0mgの範囲からなると予想される。本発明の種々の実施形態においては、該範囲は5.0μg〜500μg、0.01mg〜1.0mgおよび0.1mg〜1.0mgである。
【0073】
投与の時機は、当技術分野でよく知られた要因に左右される。初回投与後、1以上の追加用量を投与して抗体力価を維持または増強することが可能である。投与計画の一例は、第1日、第1ヶ月、第3投与としての第4、6または12ヶ月の投与、および必要に応じて行う、間隔をあけて投与する追加的な追加投与であろう。
【0074】
抗体の産生
配列番号1関連ポリペプチドは、該ポリペプチドに又は表皮ブドウ球菌に結合する抗体および抗体フラグメントを産生させるために使用されうる。そのような抗体および抗体フラグメントは、ポリペプチドの精製、表皮ブドウ球菌の特定または表皮ブドウ球菌感染に対する治療的もしくは予防的治療における用途を含む種々の用途を有する。
【0075】
抗体はポリクローナルまたはモノクローナルでありうる。ヒト抗体を含む抗体の産生および使用のための技術は当技術分野でよく知られている(Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−2002,Harlowら,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988,Kohlerら,Nature 256:495−497,1975,Azzazyら,Clinical Biochemistry 35:425−445,2002,Bergerら,Am.J.Med.Sci.324(1):14−40,2002)。
【0076】
適切なグリコシル化は抗体機能のために重要でありうる(Yooら,Journal of Immunological Methods 261:1−20,2002,Liら,Nature Biotechnology 24(2):210−215,2006)。天然に存在する抗体は、重鎖に結合した少なくとも1つのN結合炭水化物を含有する(Yooら,Journal of Immunological Methods 261:1−20,2002)。他のN結合炭水化物およびO結合炭水化物が存在することが可能であり、抗体機能のために重要でありうる(前掲)。
【0077】
効率的な翻訳後修飾を得るために、哺乳類宿主細胞および非哺乳類細胞を含む種々のタイプの宿主細胞が使用されうる。哺乳類宿主細胞の具体例には、チャイニーズハムスター卵巣(Cho)、HeLa、C6、PC12および骨髄腫細胞が含まれうる(Yooら,Journal of Immunological Methods 261:1−20,2002,Persicら,Gene 187:9−18,1997)。非哺乳類細胞は、ヒトグリコシル化を模倣するために修飾されうる(Liら,Nature Biotechnology 24(2):210−215,2006)。糖操作されたピチア・パストリス(Pichia pastoris)はそのような修飾非哺乳類細胞の一例である(Liら,Nature Biotechnology 24(2):210−215,2006)。
【0078】
核酸ワクチン
配列番号1関連ポリペプチドをコードする核酸は、治療投与に適したベクターを使用して患者に導入されうる。適当なベクターは、許容されない副作用を引き起こすことなく標的細胞内に核酸を運搬しうる。使用されうるベクターの具体例には、プラスミドベクター、およびウイルスに基づくベクターが含まれる(Barouch J Pathol.205:283−289,2006,Eminiら,WO 03/031588)。
【0079】
細胞発現は、所望のポリペプチドをコードする遺伝子発現カセットを使用して達成される。該遺伝子発現カセットは、有益な効果を達成するための十分な量の核酸を標的細胞内で産生させプロセシングするための調節要素を含有する。
【0080】
ウイルスベクターの具体例には、第1および第2世代アデノウイルスベクター、ヘルパー依存性アデノベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アルファウイルスベクター、ベネズエラウマ脳炎ウイルスベクターおよびプラスミドベクターが含まれる(Hittら,Advances in Pharmacology 40:137−206,1997,Johnstonら,米国特許第6,156,588号,Johnstonら,WO 95/32733,Barouch J.Pathol.205:283−289,2006,Eminiら,WO 03/031588)。
【0081】
アデノベクターは、種々のアデノウイルス血清型、例えばヒトまたは動物において見出されるアデノウイルス血清型に基づくものでありうる。動物アデノウイルスの具体例には、ウシ、ブタ、チンパンジー、マウス、イヌおよびトリ(CELO)が含まれる(Eminiら,WO 03/031588,Collocaら,WO 05/071093)。ヒトアデノウイルスには、B、C、DまたはE群血清型、例えば2型(「Ad2」)、4型(「Ad4」)、5型(「Ad5」)、6型(「Ad6」)、24型(「Ad24」)、26型(「Ad26」)、34型(「Ad34」)および35型(「Ad35」)が含まれる。
【0082】
核酸ワクチンは、種々の技術および投与計画を用いて投与されうる(Eminiら,WO 03/031588)。例えば、該ワクチンは、1以上の電気パルスの存在下または非存在下、注射により筋肉内に投与されうる。電気媒介導入は、体液性および細胞性の両方の免疫応答を刺激することにより、遺伝的免疫化を補助しうる。投与計画はプライム・ブーストおよび異種プライム・ブーストアプローチを含む(Eminiら,WO 03/031588)。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は配列番号2のアミノ酸配列を示す。配列番号2は配列番号1のHisタグ付き誘導体である。配列番号1の領域が太字で示されている。
【図2A】図2Aは配列番号3の完全長ORF1319e(図2A)およびコードする核酸(図2B、配列番号5)を示す。図2Aにおいて、配列番号1の領域が太字で示されている。
【図2B】図2Bは配列番号3の完全長ORF1319e(図2A)およびコードする核酸(図2B、配列番号5)を示す。図2Bにおいて、配列番号1をコードする領域が太字で示されている。
【図3】図3は配列番号4のアミノ酸配列を示す。
【0084】
実施例
本発明の種々の特徴を更に詳しく例示する実施例を以下に記載する。該実施例は本発明の実施のための有用な方法をも例示する。これらの実施例は、特許請求されている本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0085】
防御免疫原の産生、精製および製剤化
以下に記載する実施例においては、配列番号1関連ポリペプチドが防御免疫をもたらしうることを例示するために配列番号2を使用した。配列番号2は配列番号1のHisタグ付き誘導体である。
【0086】
ORF1319eのクローニングおよび発現および修飾
ORF1319e DNA配列を、Vector NTIソフトウェアを使用して翻訳し、得られた557アミノ酸の配列を分析した。aa94で始まり末端L残基において終止コドンの前で終わる遺伝子を増幅するために、PCRプライマーを設計した。これらのPCRプライマーは、精製を助けるために、フォワードプライマー上に位置する追加的なHISタグをも有していた。
【0087】
該ベクターによりコードされる終止コドンおよびインサートを介してコードされるアミノ末端His残基を含有するpETBlue−1ベクターから発現されるよう、該タンパク質を設計した。また、メチオニン開始因子の後に該タンパク質にグリシン残基を付加した。得られた増幅された(1419bp)核酸は配列番号2の473(開始コドンを含む)アミノ酸の配列をコードしていた。
【0088】
PCR増幅された配列を、TAクローニングを用いて直接的にpETBlue−1ベクター(Novagen)内に連結した。該ベクターを熱ショックにより大腸菌Novablue(Novagen)内に導入した。コロニーを選択し、100μg/mL アンピシリンを含有するLB内で増殖させ、DNAミニプレップを作製し(Qiagen)、制限消化およびPCRにより挿入完全性を判定した。正しい挿入サイズを有するミニプレップを配列決定した。所望の配列からのDNAの変化を含有しないクローンを選択した。
【0089】
大腸菌Tuner(商標)(DE3)pLacI(Novagen)を形質転換し、アンピシリン(100μg/ml)を含有するLBプレート上で増殖させ、発現試験のために3個のコロニーを選択した。液体LB(アンピシリン)培養を、A600が0.6〜1.0となるまで37℃、250rpmでインキュベートし、ついで0.4mMの最終濃度までのIPTGの添加により誘導し、ついで更に3時間インキュベートした。培養(1.5ml)を14000rpm、4℃で、1分間の遠心分離により回収した。細胞を300μlの溶解バッファー(Bug Buster;Novagen プロテアーゼインヒビター含有)に再懸濁させ、15秒間で3回、音波処理した。等容量のローディングバッファー(最終容量2%のβ−メルカプトエタノールで補足されたもの)を加えた後、該サンプルを90℃で5分間加熱した。抽出物をNovex 4〜20% Tris−グリシンゲル上で泳動し、タンパク質に関してアッセイし(クーマシーブルー染色)、ニトロセルロース上にブロッティンングし、抗HIS6抗体(Zymedd)でプローブした。
【0090】
配列番号2の精製
凍結された組換え大腸菌細胞ペーストを解凍し、2容量の細胞溶解バッファー(50mM リン酸ナトリウム,pH7.4、0.5M NaCl、2mM 塩化マグネシウム、10mM イミダゾール、0.1% Tween−80、250単位/mLのBenzonase(EM#1.101697.0002)およびプロテアーゼインヒビター混合物(Complete(商標)、EDTA非含有,Roche#1873580)(50ml当たり錠剤1個))に再懸濁させた。ミクロフルイダイザーでライセートを調製した。該ライセートを10,000×g、4℃で45分間の遠心分離により清澄化した。上清を捨て、封入体を含有するペレットを洗浄バッファー(50mM リン酸ナトリウム,pH7.4、0.5M NaCl、2mM 塩化マグネシウム、10mM イミダゾールおよび0.1% Tween−80)で5回洗浄した。洗浄された封入体を8M グアニジン−HCl+1mM EDTAに溶解し、該溶液を10,000×g、4℃で1時間の遠心分離により清澄化した。上清を、Sephacryl S−300 26/60カラムを使用するサイズ排除クロマトグラフィーにより流速1ml/分で分画した。ランニングバッファーは8M Gd−HCl+1mM EDTAであった。ピークSEC画分をプールし、8M 尿素中に透析した。該尿素可溶性産物を滅菌濾過し、0.2mg/mlの最終濃度のアルミニウムヒドロキシホスファートアジュバントに吸着させた。該ミョウバン結合産物を食塩水で十分に洗浄することにより(遠心分離および再懸濁の複数反復)、残留尿素を除去した。
【実施例2】
【0091】
ラット留置カテーテルモデル(複数の免疫化)
配列番号1関連ポリペプチドを使用する能動免疫化が移植装置のブドウ球菌感染を抑制しうるかどうかを評価するために、配列番号2およびラット留置カテーテルモデルを使用した。実施例1に記載されているとおりに、配列番号2を含有するワクチンを得た。
【0092】
ラット(3〜4週齢)を購入し、第0、14および21日に、アルミニウムヒドロキシドホスファート(「AHP」)(Kleinら,Journal of Pharmaceutical Sciences 89:311−321,2000)上の免疫原でIPで免疫化し、あるいはアジュバントのみで模擬免疫した。第35日に、頚静脈内に留置カテーテルを配置するために該動物を手術した。手術後約10日間、該動物を休ませ、その時点で表皮ブドウ球菌RP62Aの亜致死的検証(IV)を行った(5〜7×10 CFU)。検証の24時間後に該ラットを犠死させ、該カテーテルを摘出した。
【0093】
該カテーテル全体をマンニトール塩寒天プレート上で培養することにより、該カテーテル上の細菌の存在を評価した。成長の何らかの兆候が該プレート上で観察された場合には、該カテーテルを培養陽性と評価した(表1)。模擬免疫化動物においては、該カテーテルの>80%がコロニー化されている。防御的とみなされる免疫原の場合、該カテーテルの<50%が該検証株によりコロニー化されている。
【0094】
【表1】

【実施例3】
【0095】
ラット留置カテーテルモデル(単一の免疫化)
ブドウ球菌ワクチン候補に対する能動免疫化が単回投与後に移植装置のブドウ球菌感染を予防しうるかどうかを評価するために、ラット留置カテーテルモデルを使用した。今回は、カニューレ挿入ラット(6週)をAHP上の単一用量(20μg)の配列番号2(IPまたはIM)またはAHP上のBSAの模擬ワクチン(20μg,IP)で免疫化し、第15日に表皮ブドウ球菌RP62A(7.0×10 CFU/ラット)でチャレンジした。配列番号2でワクチン接種された動物においては、カテーテルの100%浄化が観察された(表2)。
【0096】
【表2】

【実施例4】
【0097】
抗体依存的応答
留置カテーテルからの細菌の排除が抗体依存的であり、先天免疫系の潜在的刺激の結果ではないことを確認するために、カニューレ挿入ラット(6週)を配列番号2−AHPもしくはBSA−AHP(20μg,IP)またはAHPのみ(IP)で1回免疫化する実験を行った。該ラットの半数ずつを第5日または第14日に犠死させた。第5日には、能動免疫系が抗体を産生するとは予想され得ず、一方、先天免疫系は潜在的に刺激されうるであろう。第14日には、能動免疫系が刺激されることが可能であり、特異的抗体が産生されうるであろう。
【0098】
配列番号2で免疫化された動物からのカテーテルはいずれも、第5日に陰性であり、一方、配列番号2で免疫化された動物からのカテーテルの半数は第14日に陰性であった(表13を参照されたい)。
【0099】
【表3】

【0100】
他の実施形態も以下の特許請求の範囲内に含まれる。本明細書中には幾つかの実施形態が示され記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の修飾が施されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1と少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド免疫原であって、該ポリペプチドが表皮ブドウ球菌に対する防御免疫をもたらし、該ポリペプチドが、配列番号3または4により示されるアミノ酸配列を有さない、ポリペプチド免疫原。
【請求項2】
該ポリペプチドが、配列番号1と少なくとも94%同一であるアミノ酸配列からなる、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
該ポリペプチドが実質的に配列番号1からなる、請求項2記載のポリペプチド。
【請求項4】
該ポリペプチドが配列番号1またはメチオニン−配列番号1のアミノ酸配列からなる、請求項3記載のポリペプチド。
【請求項5】
該ポリペプチドが実質的に精製されている、請求項4記載のポリペプチド。
【請求項6】
配列番号1と少なくとも85%同一であるアミノ酸配列と、カルボキシル末端またはアミノ末端において該アミノ酸配列に共有結合した1以上の追加的領域または部分とを含んでなる免疫原であって、各領域または部分が、独立して、以下の特性、すなわち、免疫応答の増強、精製の促進またはポリペプチド安定性の促進の少なくとも1つを有する領域または部分から選ばれる、免疫原。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載の免疫原の免疫学的に有効な量と医薬上許容される担体とを含んでなる、患者において防御免疫応答を誘導しうる組成物。
【請求項8】
該組成物がアジュバントを更に含む、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか1項記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え遺伝子を含んでなる核酸。
【請求項10】
該核酸が発現ベクターである、請求項9記載の核酸。
【請求項11】
請求項9記載の核酸を含んでなる組換え細胞。
【請求項12】
防御免疫をもたらす表皮ブドウ球菌ポリペプチドの製造方法であって、
(a)請求項11記載の組換え細胞を、該ポリペプチドが発現される条件下で増殖させ、
(b)該ポリペプチドを実質的に精製する段階を含んでなる、製造方法。
【請求項13】
患者における防御免疫応答の誘導方法であって、配列番号1に対して少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含む免疫原の免疫学的に有効な量を該患者に投与する段階を含んでなる方法。
【請求項14】
該患者がヒトである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
表皮ブドウ球菌感染に対して該患者を予防的に治療する、請求項13記載の方法。
【請求項16】
患者における防御免疫応答の誘導方法であって、請求項12記載の製造方法により製造されたポリペプチドの免疫学的に有効な量を該患者に投与する段階を含んでなる方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−516279(P2010−516279A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547261(P2009−547261)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/000647
【国際公開番号】WO2008/140632
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】