説明

表皮材用積層ポリエステルフィルムおよびこれを用いた触感が改善された複合成型体

【課題】成型性に優れるとともに、シリコーンゴム層とポリエステルフィルムとの接着性、その耐久性、特に耐熱水密着性に優れた表皮材用積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】面配向度が0.005〜0.15であるポリエステルフィルムの片面に耐熱水密着性改良層を介してシリコーンゴム層が形成された表皮材用積層ポリエステルフィルムにおいて、明細書中で定義した方法で耐熱水密着性を評価したときに、上記シリコーンゴム層が剥離しないことを特徴とする表皮材用積層ポリエステルフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型体の触感を改善することのできる表皮材用積層ポリエステルフィルムに関し、詳しくは、シリコーンゴム層とポリエステルフィルムの接着性や耐熱水密着性に優れ、かつ成型性にも優れた表皮材用積層ポリエステルフィルムおよびこれを用いた触感が改善された複合成型体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬質プラスチックフィルムの触感を改善するために、シリコーンゴム層とプラスチックフィルムとを複合したゴム複合フィルムが知られている(例えば特許文献1、2)。また、成型体の表面性状を改善するために、予め成型しておいた樹脂成型体を装入した金型内に、液状シリコーンゴム組成物を射出成型して硬化させるインサート成型が行われている(例えば、特許文献3等)。しかし、特許文献3等で行われている方法では、樹脂の成型工程と液状シリコーンゴムの射出成型工程とが必要であり、金型の複雑化を招いたり、成型サイクルが長時間となる等の問題がある。また、シリコーンゴムと樹脂成型体の密着性が劣っていたり、高度な加飾を施すとゴム層の触感が低下するため、意匠性にも劣っていた。
【0003】
一方、フィルムを金型内に入れておき、次いで、樹脂を射出成型することにより、フィルムと樹脂とが一体化した成型体を得ることのできるフィルムインサート成型が注目されている(特許文献4,5等)。フィルムインサート成型では、フィルム内側に加飾を施しておけるため、意匠性の高い成型体が一気に得られるという利点があり、成型サイクルも短時間で済むため、高効率に高意匠性の成型体を大量生産することができる。
【0004】
また、ポリエステルフィルムとゴムとの複合体のために用いられる成型性の高いポリエステルフィルムおよび該フィルムを用いた積層体が開示されている(特許文献6および7参照)。
【0005】
しかし、例えば、ゴムとポリエステル等の各種フィルムを接着剤で接着すると、成型性に劣る場合が生じたり、コスト高である。よって、特許文献1に記載のシリコーンゴム層を接着剤を介さずにポリエステルフィルムに積層したゴム複合フィルムが望ましい。ただし、ポリエステルフィルムのシリコーンゴム層積層面の反対側に、印刷、塗装等の加飾を施す際に、溶剤を用いると、ポリエステルフィルムとゴム層との間の密着性が低下するという問題があった。また、過酷な条件、例えば、高温多湿下での使用においても、フィルムとゴム層との密着性・耐久性が不足していることがあった。
【0006】
また、特許文献2に記載の方法は、硬質プラスティック層がポリカーボネート樹脂を主体とした未延伸シートであり、耐溶剤性に劣るので、印刷、塗装等の加飾を施す際に、溶剤による白色化や変形が起こるという問題があった。
【0007】
このように、従来公知の方法にはそれぞれ問題があり、これらの公知技術を組み合わせても、市場の高度な要求を満たすことができないという課題があった。
【特許文献1】特開平10−226022号公報
【特許文献2】特開2002−178478号公報
【特許文献3】特開2001−240746号公報
【特許文献4】特開2005−305786号公報
【特許文献5】特開2006−175639号公報
【特許文献6】特開2001−322167号公報
【特許文献7】特開2001−323081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、成型体表面に両面粘着シートで貼着したり、フィルムインサート成型に用いることで、成型体の硬い触感をソフトにすることのできる表皮材用積層ポリエステルフィルムとして、シリコーンゴム層とポリエステルフィルムとの接着性、その耐久性、特に耐熱水密着性に優れ、樹脂成型体とも良好に接着し、かつ成型性にも優れた表皮材用積層ポリエステルフィルムの提供を課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決した本発明の表皮材用積層ポリエステルフィルムは、面配向度が0.005〜0.15であるポリエステルフィルムの片面に耐熱水密着性改良層を介してシリコーンゴム層が形成された表皮材用積層ポリエステルフィルムにおいて、明細書中で定義した方法で耐熱水密着性を評価したときに、上記シリコーンゴム層が剥離しないことを特徴とする。
【0010】
耐熱水密着性改良層の厚みが0.01〜0.5μmであること、耐熱水密着性改良層が、ポリエステルフィルムの両面に形成されていることは、いずれも本発明の好適な実施態様である。
【0011】
上記ポリエステルフィルムのシリコーンゴム層形成面の反対面側に、加飾層が形成されていてもよく、また、ポリエステルフィルムのシリコーンゴム層形成面の反対面側に、接着性改良層が形成されていてもよい。なお、「反対面側」とある場合、ポリエステルフィルムに直接加飾層や接着性改良層が形成されている場合と、他の層を介してこれらの層が形成されている場合の両方を含むものとする(以下の説明においても、同じ)。
【0012】
上記ポリエステルフィルムのシリコーンゴム層形成面の反対面側に、粘着層が形成されていてもよい。粘着層は1層でも、粘着層は2層の粘着層で基材を挟んだ両面粘着シートであってもよい。この両面粘着シートは、表皮剤用積層ポリエステルフィルムの最表層に相当する粘着層の粘着力が内側の粘着層の粘着力よりも小さくなっていることが好ましい。このとき、上記両面粘着シートの最表層の粘着層の粘着力が0.05〜12N/25mmであり、内側の粘着層の粘着力が12〜30N/25mmであるのが好ましい。最表層の粘着層表面にはセパレートフィルムが積層されていてもよい。
【0013】
本発明には、粘着層を有さない表皮材用積層ポリエステルフィルムを、シリコーンゴム層が成型体の最表面になるように金型に挿入し、次いで、金型を閉じて樹脂を注入し、インサート成型されて得られた触感が改善された複合成型体、粘着層を有する表皮材用積層ポリエステルフィルムを、その粘着層で成型体表面に貼着して得られた触感が改善された複合成型体、および、粘着層を有さない表皮材用積層ポリエステルフィルムを、シリコーンゴム層が最表面になるように成型体表面に別体の両面粘着シートで貼着して得られた触感が改善された複合成型体が、それぞれ含まれる。
【0014】
別体の両面粘着シートを用いた複合成型体においては、この両面粘着シートのそれぞれの粘着層の粘着力が異なっており、粘着力の低い粘着層を成型体表面に貼着したものであることが好ましく、片面の粘着層の粘着力が0.05〜12N/25mmであり、もう片面の粘着層の粘着力が12〜30N/25mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表皮材用積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの面配向度が適度な範囲に制御されているので、成型性に優れている。また、シリコーンゴム層とポリエステルフィルムの接着性、その耐久性、耐熱水密着性等に優れている。粘着層を備えたタイプの積層ポリエステルフィルムでは、樹脂成型体と良好に接着する。さらに、表皮材用フィルムのポリエステルフィルム側に加飾を施しておくことで、高度な意匠が付与された複合成型体を効率よく生産できるようになった。また、シリコーンゴム層を最表面に配したことで弾力のある触感が得られる上に、このシリコーンゴム層が外力を緩和させるので、得られる複合成型体の耐久性を向上することができた。シリコーンゴム層を最表面に配して、このシリコーンゴム層の表面形状を目付け法で制御することにより、シリコーンゴム層表面の滑り性、グリップ性および触感性等を変化させることができるので、成型体の表面にこれらの機能を付与することが可能となる。
【0016】
よって本発明の表皮材用積層ポリエステルフィルムは、携帯電話、モバイルパソコン、携帯ゲーム機、携帯オーディオ機器等の筐体、保護ケース、キーパッド等;OA機器や家電の筐体や部材;インパネ、ハンドル等の自動車内装部材等の表皮材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の表皮材用積層ポリエステルフィルムは、シリコーンゴム層が特定の面配向度のポリエステルフィルムの片面に形成されたものである。この表皮材用積層ポリエステルフィルムを表皮材として、成型体に貼着したり、シリコーンゴム層が型に当接するように型内にフィルムを置いた後、樹脂を射出成型して一体化させることにより、触感が改善された複合成型体を得ることができる。以下の説明における「成型体」とは、表皮材用積層ポリエステルフィルムを含まない成型後の樹脂硬化物を意味し、「複合成型体」とは、表皮材が本発明の表皮材用積層ポリエステルフィルムであり、このフィルムと成型体とが一体となっている複合体を意味する。
【0018】
[表皮材用積層ポリエステルフィルム]
本発明の表皮材用積層ポリエステルフィルム(以下、単に表皮材用フィルムということがある)は、シリコーンゴム層がポリエステルフィルムの片面に形成されたものである。
【0019】
[シリコーンゴム層]
シリコーンゴム層を形成するためのシリコーンゴムとしては、平均単位式:RaSiO(4-a)/2で表される未架橋のオルガノポリシロキサンが好ましい。上式中、Rは置換または非置換の一価の炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。好ましくはメチル基、ビニル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基である。また、上式中、aは1.9〜2.1の範囲内の数である。
【0020】
シリコーンゴムは、上記の平均単位式で表されるが、これを構成する具体的なシロキサン単位としては、例えば、R3SiO1/2単位、R2SiO2/2単位、RSiO3/2単位およびSiO4/2単位が挙げられる。またR2(HO)SiO1/2単位であってもよい。
【0021】
シリコーンゴムの主成分は、R2SiO2/2単位とR3SiO1/2単位もしくはR2(HO)SiO1/2単位を必須とする直鎖状の重合体であり、場合により少量のRSiO3/2単位および/またはR3SiO1/2単位を含有してもよく、一部に分岐構造を有していてもよい。また、シリコーンゴム成分の一部として、R3SiO1/2単位およびSiO4/2単位からなる樹枝状(デンドリマー状)の重合体を用いることもできる。このようにシリコーンゴムは、二種以上の重合体の混合物であってもよい。
【0022】
また、シリコーンゴムの分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐鎖状、樹枝状等が挙げられるが、シリコーンゴムを形成するためには、直鎖状の重合体か、または直鎖状の重合体を主成分とする混合物であるのが好ましい。このような未架橋のシリコーンゴムとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)シロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)シロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)シロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメトキシシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメトキシシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメトキシシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメトキシシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、R3SiO1/2単位とSiO4/2単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、R2SiO2/2単位とRSiO3/2単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、R3SiO1/2単位とR2SiO2/2単位とRSiO3/2単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、これらの二種以上の混合物等が挙げられる。なお、上記シリコーンゴムの25℃における粘度は特に限定されないが、実用的には100センチストークス以上、特に1,000センチストークス以上が好ましい。
【0023】
上記シリコーンゴムは、通常、補強材や加工助剤等の添加剤を配合したシリコーンゴムコンパウンドとして利用されている。この発明においては、上記のシリコーンゴムコンパウンドとして、透明性の高いものを使用することが好ましい。例えば、粒子径の小さいシリカを配合したコンパウンドを用いるのが好ましい。また、上記のシリコーンゴムに他のゴムを混合して特性を改善してもよい。他のゴムとしては、天然ゴムまたは合成ゴムのいずれでもよく、合成ゴムとしてはブタジエン系、イソプレン系、スチレン系、ニトリル系、エチレンプロピレン系、フッ素系等が例示され、付加すべき特性に応じて選択される。
【0024】
上記シリコーンゴムはデュロメータータイプAで測定した硬度が20〜80度のものが好ましく、30〜60度のものがより好ましい。この範囲内で、触感性や耐久性等の要求特性に応じて選択するのが好ましい。デュロメータータイプA硬度が20度未満では、シリコーンゴム強度が弱くなり、シリコーンゴム層の耐摩耗性等の耐久性が低下するおそれがあるので好ましくない。逆に、デュロメータータイプA硬度が80度を超えた場合は、触感性の改善効果が低下するので好ましくない。
【0025】
シリコーンゴム層と後述するポリエステルフィルムの間の接着性を向上させるには、シリコーンゴム層を形成する際に、シリコーンゴムに接着性改良剤を配合することが好ましい。接着性改良剤としては、ラジカル反応に対して活性な反応基を含む化合物を用いるのが好ましい。このような化合物としては、(メタ)アクリル酸誘導体およびアリル誘導体等が例示されるが、中でも不飽和結合を2個以上、特に3個以上有する誘導体が好ましい。これらの化合物は、ゴムの共架橋剤として広く使用されており、例えば、多価アルコールのアクリル酸エステルやメタクリル酸エステル(以下、これらを併せて(メタ)アクリル酸エステルという場合がある)、多価カルボン酸のアリルエステル、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート等が挙げられる。
【0026】
上記多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルは、2個以上のアルコール性水酸基を有する多価アルコールのアルコール性水酸基2個以上を、(メタ)アクリル酸でエステル化したエステル化合物である。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンジ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールテトラ(メタ)アクリレート、ダイマージオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、特に3個以上の(メタ)アクリロイル基を含む化合物が好ましい。なお、上記の化合物は、アクリル酸およびメタクリル酸のそれぞれの単独エステル化合物を例示したが、アクリル酸とメタクリル酸の混合エステルの形であってもよい。
【0027】
また、多価カルボン酸のアリルエステルとしては、フタル酸ジアリレート、トリメリット酸ジアリレート、ピロメリット酸テトラアリレート等が挙げられる。
【0028】
上記接着性改良剤は、いずれか一種を単独で用いてもよく、また二種以上を併用してもよい。なお、本発明に用いられる接着性改良剤は、上記の例示化合物に限定されるものではない。
【0029】
上記接着性改良剤の配合量は、全シリコーンゴム成分100質量部に対して0.2〜20質量部とするのが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量部である。配合量が0.2質量部未満では、基材フィルムとの接着強度が不十分となる傾向があり、一方20質量部を超えて配合しても、配合量に見合う接着強度の向上効果は得られ難く、むしろシリコーンゴムの物性が低下する傾向がある。
【0030】
また、上記した接着性改良剤による接着性向上効果をより顕著なものとするため、シリコーンゴム層に対してパーオキサイド化合物を配合してもよい。表皮材用フィルムの耐熱水密着性が一層向上する。
【0031】
パーオキサイド化合物としては、アシル系またはアルキル系のいずれでもよく、ベンゾイルパーオキサイド、モノクロルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド等が例示される。
【0032】
上記パーオキサイド化合物の配合量は、全シリコーンゴム成分100質量部に対して0.05〜10質量部とするのが好ましく、特に1〜8質量部が好ましい。配合量が0.05質量部未満では、接着性向上効果に対する寄与が見られ難く、また10質量部を超えて配合しても、上述の接着性向上効果は飽和し、むしろ表皮材用フィルムの物性が低下する場合がある。
【0033】
シリコーンゴム層を形成するには、必要に応じて、上記接着性改良剤やパーオキサイド化合物、あるいは溶剤等を上記シリコーンゴムコンパウンド等のシリコーンゴム層原料組成物に添加して、2本ロール、バンバリーミキサー、ドウミキサー(ニーダー)等の混練機で混練した後、後述する耐熱水密着性改良層が形成された後のポリエステルフィルムに積層する。このとき、未架橋のシリコーンゴム層を積層した後、架橋させることが好ましい。本発明では、耐熱水密着性改良層を設ければ、シリコーンゴム層とポリエステルフィルムの密着性が向上するので、接着剤で接合しなくてもよい。これにより、ポリエステルフィルムとシリコーンゴム層を貼り合せる接着剤の使用と、その貼り合せ工程を省略できるので、経済的に有利になる。また、接着剤層による表皮材用フィルムの特性低下を抑制することもできる。なお、シリコーンゴム層には、必要に応じて、補強性充填剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、離型剤、難燃剤、チクソトロピー性付与剤、充填剤用分散剤等を配合してもよい。
【0034】
シリコーンゴム層を積層する方法は従来公知の方法を任意に選択すればよく、例えば、シリコーンゴム層原料組成物を有機溶媒に溶解した溶液を、耐熱水密着性改良層が形成された後のポリエステルフィルムに塗工、乾燥する方法;ポリエステルフィルムの耐熱水密着性改良層表面に、シリコーンゴム層原料組成物を高圧下で押出す方法;カレンダー法等が挙げられる。また、液状シリコーンゴムのような液状ゴムを用いる場合は、溶剤で希釈することなく塗工することができる。
【0035】
接着性改良剤やパーオキサイドを配合した場合は、シリコーンゴムと架橋反応させるために、加熱して架橋させることが好ましい。また、電子線やγ線等のような高エネルギーの活性線を照射してもよい。特に、活性線による方法は、過酸化物等のラジカルを発生させるための添加物を配合する必要がない。このため、これらの添加物の残渣による被着体の汚染やシリコーンゴム層の物性低下が抑制され、架橋用触媒等を添加した後のポットライフを考慮する必要もなく、短時間で効率的に架橋が完了するため生産性が高くなる等のメリットがある。活性線の中では、電子線架橋法が照射装置(EB照射装置)の入手しやすさから好適である。EB照射装置における電子線照射量としては、5〜50Mradの範囲が好ましい。電子線照射量を5Mrad以上とすることにより、シリコーンゴムの架橋反応を促進できる。一方、電子線照射量を50Mrad以下にすることにより、架橋反応の過度の進行による弾性の低下を抑制することができる。
【0036】
シリコーンゴム層の厚みは、5〜200μmが好ましい。10〜150μmがより好ましく、20〜100μmがさらに好ましい。シリコーンゴム層の厚みが5μm未満では、触感改善効果が低下するので好ましくない。逆に、200μmを超えた場合は触感改善効果が飽和し、経済的に不利になるので好ましくない。
【0037】
本発明の表皮材用フィルムの使用目的によっては、シリコーンゴム層の表面形状をいろいろと変えたい場合がある。例えば、触感改善を目的とする場合は、シリコーンゴム層の表面粗度を適度に制御するのがよい。一方、グリップ性を付与する場合は、平滑表面が好ましい。ゴムシートの表面形状制御法としては、一般的に行われている目付け法を採用するのが好ましい。すなわち、表面粗度や表面形状の異なるフィルムや布帛からなる目付け材を未架橋状態のゴム層表面に重ね、目付け材の表面形状をシリコーンゴム層表面に転写する方法である。目付け材としては、例えば、マット加工やエンボス加工を施したポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等のプラスチックフィルムや、ナイロンタフタやポリエステルタフタ等のフィラメント織物が挙げられる。目付け材は、これらに限定されるわけではないが、マット加工やエンボス加工を施したポリエステルフィルム(以下、目付け用ポリエステルフィルムということがある。)を用いるのが好ましい実施態様である。この場合、マット加工面やエンボス加工面にアルキルスルホン酸アルカリ金属塩等の界面活性剤を塗布してから、目付けを行うことが好ましい。目付け用ポリエステルフィルムを目付け加工後に剥離する際に、界面活性剤によって剥離力が低減されるので、スムーズな剥離が可能となる。
【0038】
目付け処理後の表面粗度としては、中心線平均粗さRa(JIS B0601:'82)を0.15〜1.0μmとすると、シリコーンゴム層表面に肌が触れた時の触感が著しく向上するので、好ましい実施態様である。0.15μm未満ではぬめり感が増大し、触感改善効果が低下するので好ましくない。逆に、1.0μmを超えた場合は、ざらつき感が増大し触感改善効果が低下するので好ましくない。中心線平均粗さRaは、0.20〜0.80μmがより好ましい。本発明の中心線平均粗さRaは、小坂研究所製「SE−200型表面粗度計」を用い、縦倍率:1000、横倍率:20、カットオフ:0.08mm、測定長:8mm、測定速度:0.1mm/分の条件で測定した値である。
【0039】
上記の目付け用ポリエステルフィルム等の目付け材は、シリコーンゴム層の架橋時にその表面に重ねられ、架橋終了後に剥離されるが、前記のようにシリコーンゴム層にポリエステルフィルムとの間の接着強度を向上させるための接着性改良剤等が配合されている場合は、架橋後に目付け材を剥離しようとしても、ゴム層と目付け材間の接着強度が大きくなって、目付け材の剥離が困難になる場合がある。しかし、架橋処理前に目付け材を剥離すると、シリコーンゴム層の一部が欠けて目付け材に付着することがある。
【0040】
従って、目付け材の剥離性を向上させるため、前記したように界面活性剤を用いて目付け材の目付け面に表面処理を行うことが好ましい。また、目付け材として、シリコーンゴム層に対する接着力が低い素材、例えばポリ−4−メチルペンテン−1またはエチレン・メチルメタクリレート共重合体からなるフィルムを用いてもよい。さらに、ゴム層を多層化し、ポリエステルフィルムと反対側のゴム層の接着性改良剤の配合量をポリエステルフィルム側のゴム層よりも目付け材側で少なくすることができる。また、架橋を電子線照射で行う場合は、その照射をポリエステルフィルム側から行うことも一方法であり、この場合はゴム層とポリエステルフィルムの接着力も向上する点で好ましい。
【0041】
一方、成型体表面にグリップ性を付与するために本発明の表皮材用フィルムを用いる場合は、表皮材用フィルムの上記中心線平均粗さRaは0.15μm未満とすることが好ましい。Raは0.1μm以下がより好ましく、0.05μm以下がさらに好ましい。このような表面が平滑な表皮材用フィルムを得るには、目付け用ポリエステルフィルムとして透明タイプのポリエステルフィルムを用いるとよい。この場合においても、目付け後の目付け材の剥離性を向上させるために、界面活性剤による表面処理を行っておくことが好ましい。
【0042】
また、目付け用ポリエステルフィルムの表面に、バインダー樹脂、高分子ワックス成分および帯電防止剤を含む剥離層を積層しておいてもよい。離型層の厚さは、0.03〜1μm程度が好ましい。
【0043】
上記バインダー樹脂としては、ポリエステル、ポリウレタンおよびアクリル系ポリマーよりなる群から選択される1種以上のポリマーであることが好ましく、これらのポリマーをそれぞれ単独で用いてもよく、また、異なる2種または3種を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
上記ポリエステル、ポリウレタンおよびアクリル系ポリマーは、後述する耐熱水密着性改良層の構成ポリマーとして例示するものと同様のポリマーを用いることができる。バインダー樹脂には架橋の必要性は低いが、耐熱水密着性改良層と同様に、架橋剤(後述)を併用してもよいし、自己架橋型(後述)のポリマーを用いてもよい。
【0045】
高分子ワックス成分は、従来公知の材料が使用可能である。例えばポリエチレン系、ポリプロピレン系、アクリル系、脂肪酸系等のワックスエマルジョン等が示されるが、特に粘着感の無い硬質タイプの熱分解安定性に優れた高分子ワックス剤は、剥離性の向上に効果があり、かつフィルム巻き取り時に、反対側表面へのワックスの転移を抑制することができるので好ましい。また、これらのワックス剤の好ましい数平均分子量は1000〜10000であり、より好ましくは1500〜6000の範囲である。
【0046】
前記高分子ワックス成分は、バインダー樹脂との合計を100質量%としたときに、固形分で、2〜10質量%含まれていることが好ましい。3〜8質量%含まれているのがさらに好ましい。高分子ワックス成分の添加量を2質量%以上とすることで、目付け材の剥離性が良好になる。一方、高分子ワックス成分の添加量を10質量%以下とすることにより、目付け材に適度な剥離力を付与することができる。
【0047】
帯電防止剤としては、バインダー樹脂と混合可能であるか、または相溶性のあるものであれば、イオン性は特に限定されるものではなく、従来公知の市販の材料が利用可能であり、例えばアニオン、カチオン、ノニオン、両性系の界面活性剤や、高分子型界面活性剤等がいずれも使用可能である。好ましくは積層面へのブリードアウトの少ない高分子型帯電防止剤が好ましい。
【0048】
高分子型帯電防止剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれも使用できるが、中でも、アニオン系とノニオン系の高分子型帯電防止剤が好適である。
【0049】
アニオン系高分子型帯電防止剤としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、硫酸エステル基から選ばれる少なくとも1つの極性基またはそれらの塩を有する極性ポリマーが好ましい。極性基はポリマー1分子当たり5モル%以上を必要とする。これらの導電性能を有する極性ポリマー中には、極性基としてヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、アジリジン基、活性メチレン基、スルフィン酸基、アルデヒド基、ビニルスルホン基を含んでいてもよい。これらの中でも、スチレンスルホン酸またはその塩を繰り返し単位として含む帯電防止剤が好適である。
【0050】
このような帯電防止剤としては、ポリスチレンスルホン酸またはその塩が挙げられる。塩としては、例えば、アンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩が挙げられる。ポリスチレンスルホン酸またはその塩は、例えば、日本エヌエスシーから、VERSA−TL(登録商標)という商品名で、分子量の異なる未中和や各種の塩が市販されている。また、スチレンスルホン酸またはその塩を繰り返し単位として含む帯電防止剤としては、スチレンスルホン酸−マレイン酸コポリマーも使用可能であり、日本エヌエスシーから市販されている。
【0051】
一方、ノニオン系高分子型界面活性剤としては、アニリンあるいはその誘導体、ピロールあるいはその誘導体、イソチアナフテンあるいはその誘導体、アセチレンあるいはその誘導体、チオフェンあるいはその誘導体等を構成単位として含むπ電子共役系導電性高分子が好ましい。それらの中でも着色が少ない点から、チオフェンあるいはその誘導体を構成単位として含むπ電子共役系導電性高分子が好ましい。π電子共役系導電性高分子は、1種の構成単位のみを繰り返し単位として含む単独重合体でもよく、2種以上の構成単位を繰り返し単位として含む共重合体でもよい。
【0052】
チオフェンあるいはその誘導体を構成単位として含む導電性高分子としては、例えば、スタルクヴィテック社製の「バイトロン(登録商標)P」シリーズ、ナガセケムテックス社製の「デナトロン(登録商標)P−502RG」、「デナトロン(登録商標)P−502S」、インスコンテック社製のコニソールF202、F205、F210、P810(以上、商品名)、信越ポリマー製CPS−AS−X03(商品名)等が市販されている。
【0053】
[ポリエステルフィルム]
本発明の表皮材用フィルムを構成するポリエステルフィルム(基材フィルム)の面配向度は、0.005〜0.15である。面配向度の上限は、0.14が好ましく、0.13がより好ましい。面配向度は成型性と関連のある物性であり、面配向度が高いほど分子鎖が面方向に配列し、成型性が低下する。従って、面配向度が小さいほど成型性は良くなる。一方、フィルムの強度や、厚み斑を抑制して平面性を確保する観点から、あるいは耐溶剤性の確保の観点から、面配向度の下限は0.01がより好ましく、0.04がさらに好ましい。
【0054】
ここで、面配向度とは、アッベ屈折計等を用いて測定されるフィルムの長手方向屈折率(Nx)、幅方向屈折率(Ny)、厚み方向屈折率(Nz)により下記(1)式から算出される値である。
面配向度=(Nx+Ny)/2−Nz ・・・・・式(1)
【0055】
本発明の表皮材用フィルムは、後述するとおり上記ポリエステルフィルムに積層される耐熱水密着性改良層の厚みが0.01〜0.5μmという薄い範囲に限定されており、耐熱水密着性改良層がポリエステルフィルムの屈折率に及ぼす影響は小さいと推察されるので、本発明においては、表皮材用フィルムの屈折率をポリエステルフィルムの屈折率と見なして、上記面配向度を算出する。また、複数層が積層された積層体におけるポリエステルフィルムの屈折率は、例えば、プリズムカプラ屈折率測定法やエリプソメータを用いて測定することができる。
【0056】
面配向度を上記範囲にする方法は限定されないが、ポリエステルフィルムを二軸延伸化したものが望ましく使用される。かかる二軸延伸の方法としては、同時二軸延伸、逐次二軸延伸のいずれであってもよい。
【0057】
上記の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法としては、特に限定されないが、例えばポリエステルを必要に応じて乾燥した後、公知の溶融押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、静電印加等の方式によりキャスティングドラムに密着させ、冷却固化し、未延伸シートを得た後、この未延伸シートを延伸すればよい。
【0058】
上記の二軸延伸ポリエステルフィルムにおいて面配向度を上記範囲にする方法は限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のホモポリエステル樹脂を原料として延伸倍率や熱セット温度を最適化することによる方法や、ポリエステル樹脂として、共重合ポリエステル樹脂や、共重合ポリエステル樹脂と上記ホモポリエステル樹脂を混合した混合樹脂を用いて面配向度を低下させて上記範囲とする方法、およびこれらの方法を組み合わせた方法等が挙げられる。
【0059】
例えば、延伸条件で面配向度を低下させるためには、二軸延伸時の延伸倍率を、長手方向、幅方向共に、1.6〜4.2倍とすることが好ましく、さらに好ましくは1.7〜4.0倍とする。特に好ましくは、1.8〜3.2倍である。この場合、長手方向、幅方向の延伸倍率はどちらを大きくしてもよく、同一としてもよい。また、延伸速度は1000%/分〜200000%/分であることが望ましく、延伸温度はポリエステルのガラス転移温度以上ガラス転移温度+100℃以下であれば任意の温度とすることができるが、80〜170℃の範囲で延伸するのがよい。二軸延伸後にフィルムの熱処理を行うが、この熱処理は、オーブン中や加熱されたロール上等で、従来公知の任意の方法で行うことができる。熱処理温度は120℃以上245℃以下の任意の温度とすることができるが、好ましくは150〜220℃である。また熱処理時間は任意とすることができるが、好ましくは1〜60秒間行うのがよい。なお、熱処理はフィルムをその長手方向および/または幅方向に弛緩させつつ行ってもよい。さらに、再延伸を各方向に対して1回以上行ってもよく、その後熱処理を行ってもよい。ここで、熱処理温度は、DSCで観測される熱処理に起因する結晶融解サブピークのピーク温度により確認することができる。
【0060】
面配向度をポリエステルの組成で下げる場合には、共重合成分を5〜50モル%含む共重合ポリエステルを原料として用いるのが好ましい。芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールと、分岐状脂肪族グリコールまたは脂環族グリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステル(a)、あるいはテレフタル酸およびイソフタル酸を含む芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステル(b)が好適である。また、ポリエステルが、さらにグリコール成分として1,3−プロパンジオール単位または1,4−ブタンジオール単位を含むと、成型性をさらに向上させることができる。
【0061】
芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールと、分岐状脂肪族グリコールまたは脂環族グリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステル(a)を用いる場合、芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体が好適であり、全ジカルボン酸成分に対するテレフタル酸および/またはナフタレンジカルボン酸成分の量は70モル%以上、好ましくは85モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、とりわけ好ましくは100モル%である。
【0062】
また、分岐状脂肪族グリコールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなどが例示される。脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどが例示される。
【0063】
これらのなかでも、ネオペンチルグリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。さらに、前記したとおり、上記のグリコール成分に加えて1,3−プロパンジオールや1,4−ブタンジオールを共重合成分とすることが、より好ましい実施態様である。これらのグリコールを共重合成分として使用することは、前記の特性を付与するために好適であり、さらに、透明性や耐熱性にも優れ、後述する耐熱水密着性改良層との密着性を向上させる点からも好ましい。
【0064】
また、上記共重合ポリエステルとして、テレフタル酸およびイソフタル酸を含む芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステル(b)を用いる場合、エチレングリコールの量は全グリコール成分に対し70モル%以上、好ましくは85モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、とりわけ好ましくは100モル%である。エチレングリコール以外のグリコール成分としては、前記の分岐状脂肪族グリコールや脂環族グリコール、またはジエチレングリコールが好適である。
【0065】
本発明において、ポリエステルフィルムの原料としては、(a)共重合ポリエステルのみを単独で用いる場合、(b)2種以上の共重合ポリエステルをブレンドして用いる場合、(c)1種または2種以上の共重合ポリエステルと、1種または2種以上のホモポリエステルとをブレンドする場合、のいずれの方法も可能である。これらの中でも、ブレンド法が融点の低下を抑制する点から好適である。
【0066】
本発明において、ポリエステルフィルムの長手方向および幅方向における10%伸長時応力(25℃)は、20〜200MPaであることが好ましい。10%伸張時応力(25℃)は20〜180MPaであることがより好ましく、20〜160MPaであることがさらに好ましい。10%伸長時応力(25℃)が20MPa以上であれば、ロール状のフィルムを引張って巻き出す際のフィルムの伸長や破断を防止することができる。一方、10%伸長時応力(25℃)が200MPa以下であれば、成型性を確保することができる。特に、凹凸や窪みのある金型を用いて成型する際に、成型前のフィルムを事前にそれらの型に軽く追随させて成型する場合があり、このような場合に、フィルムの成型性が良く、製品の意匠性が良好となる。
【0067】
ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されないが、10〜300μm程度が好ましく、より好ましくは70〜260μmである。フィルム厚が10μm未満では機械的強度が不足し、ハンドリングが難しくなるため好ましくない。一方、厚みが300μmを超えると、補強効果が飽和し、かつ経済的に不利である。
【0068】
ポリエステルフィルムには、コロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理等の公知の接着性向上処理を行ってもよい。
【0069】
ポリエステルフィルムのヘーズは0.1〜3.0%であるのが好ましい。ヘーズの下限値は0.3%がより好ましく、さらに好ましくは0.5%である。一方、ヘーズの上限値は2.5%がより好ましく、さらに好ましくは2.0%である。ヘーズが0.1%以上であれば、生産性良好に、工業規模でフィルムを製造することができる。一方、フィルムのヘーズが3.0%以下であれば、金属等の蒸着面やスパッタリング面、または印刷面をこれらの面の反対側から見たときに、金属光沢や印刷された文字や画像等が鮮明となり、良好な意匠性を確保することができる。粒子をフィルム中に含有させてフィルム表面に凹凸を形成し、フィルムのハンドリング性を改良する方法が汎用されているが、この方法では、ヘーズが2.0%以下のフィルムを得ることは難しい。
【0070】
フィルムの少なくとも片面(加飾層が形成される面)の中心線平均粗さRaは、0.005〜0.030μmであることが好ましい。Raの下限値は0.006μmがより好ましく、さらに好ましくは0.007μmである。一方、Raの上限値は0.025μmがより好ましく、さらに好ましくは0.015μmである。フィルムの少なくとも片面のRaが0.005μm以上であれば、フィルムの巻取りや、また、一旦ロール状に巻き取ったフィルムを巻き出す際に、ブロッキングやフィルムの破れが発生することもない。また、Raが0.03μm以下であれば、蒸着、スパッタリング、印刷等の後加工工程で、突起等の欠点は発生せず、意匠性が確保される。
【0071】
なお、ポリエステルフィルムには、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機または無機微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤等が添加されていてもよい。
【0072】
本発明で用いる表皮材用フィルムにおいては、上記ポリエステルフィルムとシリコーンゴム層が強固に接着していることが好ましい。すなわち、シリコーンゴム層とポリエステルフィルムとの間にカッターナイフを差し込んで、指で力を加えて引き剥がし(界面出し)を実施しても、界面出しができないことが好ましい。以下、この特性を接着性と称することもある。特に、複合成型体が、高温高湿度下で使用されても、シリコーンゴム層が剥離しないことが望ましい。
【0073】
また、本発明の表皮材用フィルムを熱水中で長時間保存しても、上記接着性が維持されることが好ましい。以下、接着性の熱水耐久性を耐熱水密着性と称する。
【0074】
[耐熱水密着性]
本発明で用いる表皮材用フィルムの重要な効果である耐熱水密着性の評価方法について説明する。表皮材用フィルムあるいは複合成型体を50mm×50mmに切断し、蒸留水400ccを入れた500ccの蓋付きの円筒状のガラス容器の中に、上記試料をシリコーンゴム層が下側になるように水中に沈め、試料全体が水中に浸漬した状態で容器に蓋をする。試料の自重だけでは水中に浸漬しない場合は、例えば、60mm×60mm、厚さ188μmのポリエステルフィルムを試料の上に載せて、重しにすればよい。重しの大きさや素材は特に限定されるものではなく、試料全体が水中に浸漬すればよい。試料の入った容器を、80℃に設定したギアーオーブン中に入れ、24時間静置する。熱処理後、オーブンから容器を取り出し、速やかに試料を取り出して、シリコーンゴム層側から端部に指腹で力を加えて10回擦り、シリコーンゴム層がポリエステルフィルム側から剥離するかどうかを評価し、ゴム層が剥離しないものを○、ゴム層が剥離するものを×とした。
【0075】
[耐熱水密着性改良層]
本発明においては、上記耐熱水密着性を満たすための方法は限定されないが、以下に述べるような耐熱水密着性改良層をシリコーンゴム層とポリエステルフィルムとの間に形成することが好ましい。
【0076】
耐熱水密着性改良層は、上記耐熱水密着性の評価において、シリコーンゴム層がポリエステルフィルムから剥離しないため設けることが好ましい層である。耐熱水密着性改良層の厚みは0.01〜0.5μmであることが好ましい。耐熱水密着性改良層の厚みが0.01〜0.5μmであれば、良好な耐熱水密着性を示すが、上記範囲外では耐熱水密着性が○にならないことがあるため好ましくない。より好ましい厚みの範囲は、0.03〜0.4μmであり、0.05〜0.3μmがさらに好ましい。
【0077】
耐熱水密着性改良層として好ましいのは架橋されたポリマー層(架橋ポリマー層)であり、ポリマーを架橋剤で架橋した層である場合と、自己架橋型ポリマーを用いた層である場合がある。
【0078】
架橋剤で架橋する方法において使用できるポリマーは特に限定されないが、ポリエステル、ポリウレタンおよびアクリル酸系ポリマーよりなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。上記ポリマーは、それぞれ単独で用いてもよく、また、異なる2種または3種を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
〔耐熱水密着性改良層用のポリエステル〕
上記ポリエステルは、主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するもので、多価カルボン酸とグリコールを重縮合して得られるものである。
【0080】
ポリエステルを構成する多価カルボン酸成分としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸や3価以上の多価カルボン酸あるいはこれらのエステル誘導体を使用することができる。
【0081】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビスフェノキシエタン−p,p’−ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸等を用いることができる。耐熱水密着性改良層(D)の強度や耐熱性の点から、これらの芳香族ジカルボン酸が、好ましくは多価カルボン酸成分100モル%中30モル%以上、より好ましくは35モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上を占めるポリエステルを用いることが好ましい。
【0082】
また、脂肪族および脂環族のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等、およびそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0083】
ポリエステルのグリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,4−ジメチル−2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、4,4’−チオジフェノール、ビスフェノールA、4,4’−メチレンジフェノール、4,4’−(2−ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェノール、o−,m−,およびp−ジヒドロキシベンゼン、4,4’−イソプロピリデンフェノール、4,4’−イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール等を用いることができる。
【0084】
また、ポリエステルを水系液にして塗液として用いる場合には、ポリエステルの水溶性化あるいは水分散化を容易にするため、カルボン酸(塩)基を含む化合物、スルホン酸(塩)基を含む化合物、ホスホン酸(塩)基を含む化合物等を共重合することが好ましい。
【0085】
カルボン酸(塩)基を含む化合物としては、例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、4−メチルシクロヘキセン−1,2,3−トリカルボン酸、トリメシン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、2,2’,3,3’−ジフェニルテトラカルボン酸、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸等、あるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0086】
スルホン酸(塩)基を含む化合物としては、例えば、スルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸、スルホ−p−キシリレングリコール、2−スルホ−1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等、あるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を用いることができる。
【0087】
ホスホン酸(塩)基を含む化合物としては、例えば、ホスホテレフタル酸、5−ホスホイソフタル酸、4−ホスホイソフタル酸、4−ホスホナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ホスホ−p−キシリレングリコール、2−ホスホ−1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等、あるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を用いることができる。
【0088】
また、本発明においては、上記ポリエステルとして、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシ等で変性したブロック共重合体、グラフト共重合体等の変性ポリエステル共重合体も使用可能である。
【0089】
好ましいポリエステルとしては、酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールから選ばれるものを用いた共重合体等が挙げられる。耐水性が必要とされる場合は、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の代わりに、トリメリット酸をその共重合成分とした共重合体等も好適に用いることができる。
【0090】
上記ポリエステルは、以下の製造法によって製造することができる。例えば、ジカルボン酸成分が、テレフタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸からなり、グリコール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールからなるポリエステルについて説明すると、これらのモノマーを直接エステル化反応させるか、あるいは、エステル交換反応させる第一段階と、この第一段階の反応生成物を重縮合反応させる第二段階とによって製造する方法等により製造することができる。
【0091】
この際、反応触媒として、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛、アンチモン、ゲルマニウム、チタン化合物等を用いることができる。
【0092】
また、カルボキシル基を末端および/または側鎖に多く有するポリエステルを得る方法としては、特開昭54−46294号公報、特開昭60−209073号公報、特開昭62−240318号公報、特開昭53−26828号公報、特開昭53−26829号公報、特開昭53−98336号公報、特開昭56−116718号公報、特開昭61−124684号公報、特開昭62−240318号公報等に記載の3価以上の多価カルボン酸を共重合することにより製造することができるが、むろんこれら以外の方法であってもよい。
【0093】
また、水分散ポリエステル樹脂として、例えば市販されている「バイロナール(登録商標)」シリーズ(東洋紡績社製)を用いることもできる。
【0094】
ポリエステルの固有粘度は、特に限定されないが、接着性の点で0.3dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.35dl/g以上、最も好ましくは0.4dl/g以上であることである。ポリエステルのガラス転移温度(以下、Tgと略称することもある)は、0〜130℃であることが好ましく、より好ましくは10〜85℃である。Tgが0℃以上のポリエステルを用いることで耐熱水密着性が向上し、また、耐熱水密着性改良層をポリエステルフィルムの表面に積層した後、一端巻き取る場合等のブロッキング現象を抑制することができる。また、Tgが130℃以下のポリエステルを用いることで、安定性や水分散性を良好に維持することができる。
【0095】
〔耐熱水密着性改良層用のポリウレタン〕
次に、ポリウレタンについて説明する。ポリウレタンは、ウレタン結合を有したものであれば特に限定されるものではなく、主要構成成分としては、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物を重合して得られるものである。
【0096】
ポリオール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、アクリル系ポリオール等を用いることができる。
【0097】
また、ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物等を用いることができる。
【0098】
ポリウレタンの合成の際には、上記ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の他に、公知の鎖延長剤や架橋剤等を含んでいてもよい。鎖延長剤あるいは架橋剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等を用いることができる。
【0099】
安定なポリウレタン水分散体を得るには、水への親和性が高められたポリウレタンを合成することが好ましく、具体的には、アニオン性基を適量ポリウレタン中に導入すればよい。例えば、ポリオール、ポリイソシアネート、鎖延長剤等に、アニオン性基を有する化合物を用いる方法、生成したポリウレタンの未反応イソシアネート基とアニオン性基を有する化合物を反応させる方法、あるいはポリウレタンの活性水素を有する基と特定の化合物を反応させる方法等を用いて製造することができる。
【0100】
上記ポリウレタン中のアニオン性基は、好ましくはスルホン酸基、カルボン酸基およびこれらのアンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩あるいはマグネシウム塩として用いられる。
【0101】
ポリウレタン中のアニオン性基を有するユニットの量は、ポリウレタンの水分散性の点から、0.05質量%〜15質量%が好ましい。
【0102】
また、例えばポリウレタン水分散体として、「ハイドラン(登録商標)」シリーズ(DIC社製)を用いることもできる。
【0103】
〔耐熱水密着性改良層用のアクリル系ポリマー〕
上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分としては、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等);2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有モノマー;(メタ)アクリルアミドN−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸およびそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)等のカルボキシル基またはその塩を含有するモノマー等を用いることができ、これらは1種もしくは2種以上を用いて(共)重合される。さらに、これらは他種のモノマーと併用することができる。
【0104】
ここで他種のモノマーとしては、例えば、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸およびそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のスルホン酸基およびそれらの塩を含有するモノマー;クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸およびそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のカルボキシル基またはその塩を含有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物を含有するモノマー;ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリスアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルキルイタコン酸モノエステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル等を用いることができる。
【0105】
また、上記アクリル系ポリマーとしては、変性アクリル系ポリマー、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂等で変性したブロック共重合体、グラフト共重合体等も使用可能である。
【0106】
上記アクリル系ポリマーのTgは、耐熱水密着性や耐ブロッキング性の点から下限を−10℃とすることが好ましく、より好ましい下限は0℃であり、最も好ましい下限は10℃である。一方、アクリル系ポリマーのTgは、耐熱水接着性や造膜性の点から上限を90℃とすることが好ましく、より好ましい上限は50℃、最も好ましい上限は40℃である。また、アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は5万以上が好ましく、より好ましくは30万以上とすることが、耐熱水密着性の点で望ましい。
【0107】
上記アクリル系ポリマーとして好ましいのは、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリル酸から選ばれたモノマーからなる共重合体等である。
【0108】
アクリル系ポリマーを水に溶解、乳化、あるいは懸濁し、水系液として用いることが、環境汚染や塗工時の防爆性の点で好ましい。このような水系アクリル系ポリマーは、親水性基を有するモノマー(アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、ビニルスルホン酸およびその塩等)との共重合や反応性乳化剤や界面活性剤を用いた乳化重合、懸濁重合、ソープフリー重合等の方法によって作成することができる。
【0109】
また、市販のアクリル系エマルジョンを用いてもよく、例えば、「ジョンクリル(登録商標)」シリーズ(BASFジャパン社製)が挙げられる。
【0110】
[耐熱水密着性改良層に用いられる架橋剤]
本発明においては、上記ポリエステル、ポリウレタンおよびアクリル系ポリマーは架橋されていることが好ましい。上記ポリマーを架橋剤を用いて架橋する場合、架橋剤としては、上記したポリマーに存在する官能基、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メチロール基、アミド基等と架橋反応し得るものを用いればよい。例えば、メラミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、メチロール化あるいはアルキロール化した尿素系架橋剤、アクリルアミド系架橋剤、、ポリアミド系樹脂、アミドエポキシ化合物、各種シランカップリング剤、各種チタネート系カップリング剤等を用いることができる。特に、メラミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤が、上記ポリマーとの相溶性や、耐熱水密着性等の点から好適に用いることができる。
【0111】
メラミン系架橋剤としては、特に限定されないが、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、あるいはこれらの混合物等を用いることができる。また、メラミン系架橋剤としてはモノマー、2量体以上の多量体からなる縮合物、あるいはこれらの混合物等を用いることができる。エーテル化に使用する低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール等を用いることができる。メチル化トリメチロールメラミン、ブチル化ヘキサメチロールメラミン等のメチロール化メラミン樹脂が好ましい。さらに、メラミン系架橋剤の熱硬化を促進するため、例えば、p−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いてもよい。
【0112】
また、オキサゾリン系架橋剤は、化合物中に官能基としてオキサゾリン基を有するものであれば特に限定されるものではないが、オキサゾリン基を含有するモノマーを少なくとも1種以上含み、かつ、少なくとも1種の他のモノマーを共重合させて得られるオキサゾリン基含有共重合体からなるものが好ましい。
【0113】
オキサゾリン基を含有するモノマーとしては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を用いることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することもできる。中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0114】
オキサゾリン基含有共重合体において、オキサゾリン基を含有するモノマーと共に用いられる少なくとも1種の他のモノマーとしては、オキサゾリン基を含有するモノマーと共重合可能なモノマーであれば、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類あるいはメタクリレート類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲン−α,β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン等のα,β−不飽和芳香族モノマー類等を用いることができ、これらは1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0115】
また、オキサゾリン基含有ポリマーとしては、例えば、「エポクロス(登録商標)」シリーズ(日本触媒社製)が入手可能である。
【0116】
イソシアネート系架橋剤は、化合物中に官能基としてイソシアネート基を有するものであれば特に限定されるものではないが、1分子中にイソシアネート基を2個以上を含む多官能性イソシアネート化合物の使用が好ましい。
【0117】
多官能性イソシアネート化合物としては、低分子または高分子の芳香族、脂肪族のジイソシアネート、3価以上のポリイソシアネートを用い得る。ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびこれらのイソシアネート化合物の3量体がある。さらに、これらのイソシアネート化合物の過剰量と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の低分子活性水素化合物、またはポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類等の高分子活性水素化合物とを反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物を挙げることができる。
【0118】
なお、イソシアネート化合物を架橋剤として用いる場合に、ブロック化イソシアネート化合物を用いることも可能である。ブロック化イソシアネートは上記イソシアネート化合物とブロック化剤とを従来公知の適宜の方法より付加反応させて調製することができる。イソシアネートブロック化剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノール等のフェノール類;チオフェノール、メチルチオフェノール等のチオフェノール類;アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレンクロルヒドリン、1,3−ジクロロ−2−プロパノール等のハロゲン置換アルコール類;t−ブタノール、t−ペンタノール等の第3級アルコール類;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピルラクタム等のラクタム類;芳香族アミン類;イミド類;アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステル等の活性メチレン化合物;メルカプタン類;イミン類;尿素類;ジアリール化合物類;重亜硫酸ソーダ等を挙げることができる。
【0119】
エポキシ系架橋剤としては、化合物中に官能基としてエポキシ基を有するものであれば特に限定されるものではないが、1分子中にエポキシ基を2個以上含む多官能性エポキシ化合物の使用が好ましい。
【0120】
多官能性エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、オルソフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、p−オキシ安息香酸ジグリシジルエステル、テトラハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルおよびポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類、トリメリット酸トリグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、1,4−ジグリシジルオキシベンゼン、ジグリシジルプロピレン尿素、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、グリセロールアルキレンオキサイド付加物のトリグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0121】
上記架橋剤として、アルキル化フェノール類、クレゾール類等のホルムアルデヒドとの縮合物のフェノールホルムアルデヒド樹脂;尿素、メラミン、ベンゾグアナミン等とホルムアルデヒドとの付加物、この付加物と炭素原子数が1〜6のアルコールからなるアルキルエーテル化合物等のアミノ樹脂等も使用できる。
【0122】
フェノールホルムアルデヒド樹脂としては、例えば、アルキル化(メチル、エチル、プロピル、イソプロピルまたはブチル)フェノール、p−tert−アミルフェノール、4,4’−sec−ブチリデンフェノール、p−tert−ブチルフェノール、o−、m−、p−クレゾール、p−シクロヘキシルフェノール、4,4’−イソプロピリデンフェノール、p−ノニルフェノール、p−オクチルフェノール、3−ペンタデシルフェノール、フェノール、フェニル−o−クレゾール、p−フェニルフェノール、キシレノール等のフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物を挙げることができる。
【0123】
アミノ樹脂としては、例えば、メトキシ化メチロール尿素、メトキシ化メチロールN,N−エチレン尿素、メトキシ化メチロールジシアンジアミド、メトキシ化メチロールメラミン、メトキシ化メチロールベンゾグアナミン、ブトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールベンゾグアナミン等が挙げられるが好ましくはメトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールメラミン、およびメチロール化ベンゾグアナミン等を挙げることができる。
【0124】
上記ポリマー(ポリエステル、ポリウレタン、アクリル系ポリマー)と架橋剤は任意の比率で混合して用いることができるが、本発明の耐熱水密着性の効果をより顕著に発現させるには、架橋剤は、ポリマー100質量部に対し、固形分質量比で2質量部以上、50質量部以下の添加が好ましく、より好ましくは3〜25質量部である。架橋剤の添加量が、2質量部未満の場合、その添加効果が小さく、また、50質量部を超える場合は、耐熱水密着性が低下する傾向がある。
【0125】
[耐熱水密着性改良層の自己架橋型ポリマー]
本発明においては、上記方法以外にも、例えば、前記したポリマーに架橋性の官能基を導入した自己架橋型のポリマーを用いて耐熱水密着性改良層を形成してもよい。自己架橋型のポリマーを用いる場合の架橋方法は、例えば、熱架橋であってもよく、紫外線、電子線およびγ線等のような高エネルギーの活性線による架橋であってもよい。
【0126】
以下、自己架橋型のポリマーとして、ポリエステルの場合について具体的な方法を例示する。
【0127】
本発明で好適に使用される自己架橋型のポリエステルは、疎水性共重合ポリエステルに、少なくとも1種のラジカル重合性二重結合を有する化合物をグラフトさせたポリエステル系グラフト共重合体である。本発明におけるポリエステル系グラフト共重合体の「グラフト化」とは、主鎖である幹ポリマーに、主鎖とは異なる重合体からなる枝ポリマーを導入することにある。グラフト重合は、通常、疎水性共重合ポリエステルを有機溶剤中に溶解させた状態において、ラジカル開始剤を使用して、少なくとも一種のラジカル重合性モノマーを反応させることにより実施される。疎水性共重合ポリエステルとは、本来それ自身で水に溶解しない、本質的に水不溶性のポリエステルであるため、水に溶解するポリエステル樹脂をグラフト重合の際の幹ポリマーとして使用する場合に比べ、耐熱水密着性に優れている。
【0128】
疎水性共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分100モル%中、芳香族ジカルボン酸が60〜99.5モル%、脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸が0〜39.5モル%、ラジカル重合性二重結合を含有するジカルボン酸が0.5〜10モル%であることが好ましい。より好ましくは、芳香族ジカルボン酸が68〜98モル%、脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸が0〜30モル%、重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸が2〜7モル%である。
【0129】
前記芳香族ジカルボン酸が60モル%以上であり、前記脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸が39.5モル%以下である場合には、耐熱水密着性が良好となる。また、ラジカル重合性二重結合を含有するジカルボン酸を0.5モル%以上用いることで、ポリエステル樹脂に対するラジカル重合性モノマーのグラフト化を効率よく行うことができる。一方、10モル%以下とすることにより、グラフト化反応の後期に、反応溶液の粘度が顕著に上昇することを抑制し、反応を均一に進行できるため好ましい。
【0130】
芳香族ジカルボン酸、脂肪族および/または脂環族ジカルボン酸は、前記例示の化合物がいずれも使用可能である。ラジカル重合性二重結合を含有するジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、等のα、β−不飽和ジカルボン酸;2,5−ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸等の不飽和二重結合を含有する脂環族ジカルボン酸等を例示することができる。これらの重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸のうち、重合性の点から、フマル酸、マレイン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸が好ましい。
【0131】
グリコール成分も、前記例示の化合物がいずれも使用可能である。グリコール成分は、2種以上併用してもかまわない。なかでも、炭素数2〜10の脂肪族グリコール、炭素数6〜12の脂環族グリコール等が好ましい。
【0132】
前記疎水性共重合ポリエステルには、0〜5モル%の3官能以上のポリカルボン酸および/またはポリオールを共重合することができる。3官能以上のポリカルボン酸としては、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、(無水)ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等が挙げられる。また、3官能以上のポリオールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が使用される。
【0133】
3官能以上のポリカルボン酸および/またはポリオールは、全酸成分あるいは全グリコール成分に対し0〜5モル%、好ましくは0〜3モル%の範囲で共重合され、この範囲であれば重合時のゲル化を抑制することができる。
【0134】
また、疎水性共重合ポリエステルの重量平均分子量は、耐熱水密着性の点から下限が5,000であることが好ましい。また、重合時のゲル化等の点で、上限は50,000であることが好ましい。
【0135】
疎水性共重合ポリエステルを合成した後は,グラフト重合を行う。グラフト重合は、疎水性共重合ポリエステルを有機溶剤中に溶解させた状態において、ラジカル開始剤を使用して少なくとも一種のラジカル重合性モノマーを反応させることにより行う。なお、グラフト反応終了後の反応生成物は、所望の疎水性共重合ポリエステルとラジカル重合性モノマーとのグラフト共重合体の他に、グラフト化を受けなかった疎水性共重合ポリエステルおよび疎水性共重合ポリエステルにグラフトしなかったラジカル重合性モノマーから得られる(共)重合体をも含有している。本発明におけるポリエステル系グラフト共重合体とは、上記したポリエステル系グラフト共重合体だけでなく、これに加えて、グラフト化を受けなかった疎水性共重合ポリエステル、グラフトしなかったラジカル重合性モノマーから得られる(共)重合体およびモノマー(残存モノマー)も含む反応混合物をも包含する。
【0136】
本発明において、疎水性共重合ポリエステルにラジカル重合性モノマーをグラフト重合させた反応物の酸価は、耐熱水密着性の点から、600eq/106g以上であることが好ましい。より好ましくは、反応物の酸価は1200eq/106g以上である。反応物の酸価が600eq/106g未満である場合は、耐熱水密着性が低下する場合がある。
【0137】
また、本発明の目的に適合する望ましい疎水性共重合ポリエステルとラジカル重合性モノマーの質量比率は、ポリエステル/ラジカル重合性モノマー=40/60〜95/5の範囲が望ましく、より望ましくは55/45〜93/7、最も望ましくは60/40〜90/10の範囲である。
【0138】
疎水性共重合ポリエステルの質量比率を40質量%以上とすることで、ポリエステルの優れた接着性を発揮することができる。一方、疎水性共重合ポリエステルの質量比率を95質量%以下とすることで、耐ブロッキング性を改善するとともに、反応物の酸価を上記範囲に調整することができる。
【0139】
グラフト重合反応物は、有機溶媒の溶液もしくは分散液または水系溶媒の溶液もしくは分散液の形態になる。特に、水系溶媒の分散液、すなわち、水分散体の形態が、作業環境、塗布性の点で好ましい。よって、グラフトさせるラジカル重合性モノマーとしては、親水性ラジカル重合性モノマーを必須的に含むラジカル重合性モノマーを用いることが好ましい。そして、有機溶媒中でグラフト重合した後は、有機溶媒を留去し、水を添加すれば、水分散体を得ることができる。
【0140】
親水性ラジカル重合性モノマーとは、親水基を有するか、後で親水基に変化できる基を有するラジカル重合性モノマーを意味する。親水基を有するラジカル重合性モノマーとしては、カルボキシル基、ヒドロキシル基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、アミド基、第4級アンモニウム塩基等を含むラジカル重合性モノマーを挙げることができる。一方、親水基に変化できる基を有するラジカル重合性モノマーとしては、酸無水物基、グリシジル基、クロル基等を含むラジカル重合性モノマーを挙げることができる。これらの中でも、水分散性の点から、カルボキシル基が好ましく、カルボキシル基を有するか、カルボキシル基を発生する基を有するラジカル重合性モノマーが好ましい。
【0141】
グラフト反応物の酸価を上記好適範囲にするためには、カルボキシル基を含有しているか、カルボキシル基を発生する基を有するラジカル重合性モノマーが含まれているほうが好ましい。このようなモノマーとしては、フマル酸、フマル酸モノエチル;マレイン酸とその無水物、マレイン酸モノエチル;イタコン酸とその無水物、イタコン酸のモノエステル;アクリル酸、メタクリル酸;およびこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)等が挙げられる。好ましくは、マレイン酸無水物である。上記モノマーは1種もしくは2種以上を用いて共重合させることができる。
【0142】
グラフトさせるラジカル重合性モノマーには、酸価を上記好適範囲にする限りは、他種のモノマーが含まれていてもよい。他種のモノマーとしては、前記したアクリル系ポリマーを合成するときに用い得るモノマーがそのまま用い得る。
【0143】
本発明で用いるグラフト重合開始剤としては、例えば、当業者に公知の有機過酸化物類や有機アゾ化合物類が挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、有機アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルパレロニトリル)が挙げられる。グラフト重合を行うための重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性モノマーに対して、少なくとも0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上である。
【0144】
重合開始剤の他に、枝ポリマーの鎖長を調節するための連鎖移動剤、例えば、オクチルメルカプタン、メルカプトエタノール、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソールを必要に応じて用い得る。この場合、重合性モノマーに対して0〜5質量%の範囲で添加することが望ましい。
【0145】
グラフト化反応生成物は、塩基性化合物で中和することが好ましく、中和することによって容易に水分散化することができる。塩基性化合物としては、塗膜形成時に揮散する化合物が望ましく、アンモニア、有機アミン類等が好適である。望ましい化合物としては、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等を挙げることができる。
【0146】
塩基性化合物は、グラフト化反応生成物中に含まれるカルボキシル基含有量に応じて、少なくとも部分中和または完全中和によって水分散体のpH値が5.0〜9.0の範囲であるように使用するのが望ましい。沸点が100℃以下の塩基性化合物を使用した場合であれば、乾燥後の塗膜中の残留塩基性化合物も少なく、例えば、高温、多湿下等の過酷な環境下における耐熱水密着性が向上する。
【0147】
グラフト化反応生成物では、ラジカル重合性モノマーの重合物の重量平均分子量は500〜50,000であるのが好ましい。ラジカル重合性モノマーの重合物の重量平均分子量を500未満にコントロールすることは一般に困難であり、グラフト効率が低下し、共重合ポリエステルへの親水性基の付与が充分に行われない傾向がある。また、ラジカル重合性モノマーのグラフト重合物は分散粒子の水和層を形成するが、充分な厚みの水和層をもたせ、安定な水分散体を得るためにはラジカル重合性モノマーのグラフト重合物の重量平均分子量は500以上であることが望ましい。
【0148】
ラジカル重合性モノマーのグラフト重合物の重量平均分子量は、溶液重合における重合性の点より、その上限値が50,000であることが好ましい。ラジカル重合性モノマーのグラフト重合物の重量平均分子量を500〜50,000の範囲内とするためには、開始剤量、モノマー滴下時間、重合時間、反応溶媒、モノマー組成、または必要に応じて連鎖移動剤や重合禁止剤を適宜組み合わせることにより行うことが好ましい。
【0149】
グラフト共重合体のガラス転移温度は、特に限定されないが、耐熱水密着性を考慮すれば、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上である。
【0150】
本発明において、疎水性共重合ポリエステルにラジカル重合性モノマーをグラフト重合させた反応物は、ポリエステル中のヒドロキシル基と,グラフト部分に存在するカルボキシル基が反応するため、自己架橋性を有する。また、常温では架橋しないが、塗膜形成の際の乾燥時の熱で、熱ラジカルによる水素引き抜き反応等の分子間反応を行い、架橋剤なしで架橋する。これにより、高度な耐熱水密着性を発揮する。塗膜の架橋度については、種々の方法で評価できるが、例えば、疎水性共重合ポリエステルおよびグラフトした重合体の両方を溶解するクロロホルム溶媒等での不溶分率を測定する方法等が挙げられる。
【0151】
80℃程度で乾燥し、120℃で5分間熱処理して得られる塗膜の不溶分率は、耐熱水密着性と耐ブロッキング性の点から、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上である。
【0152】
自己架橋型ポリエステル樹脂水分散体として、例えば、「バイロナール(登録商標)AGN702」(東洋紡績社製)等の市販のものを用いることもできる。
【0153】
また、上記と類似した方法でグラフト化ポリウレタンを調製することができる。
【0154】
[耐熱水密着性改良層の添加剤]
耐熱水密着性改良層中には本発明の効果が損なわれない範囲内で、各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤等が配合されていてもよい。
【0155】
特に、耐熱水密着性改良層中に無機粒子を添加したものは、例えば、ポリエステルフィルムの表面に耐熱水密着性改良層を積層して一旦巻き取る場合等に、易滑性や耐ブロッキング性が向上するので好ましい。この場合、添加する無機粒子としては、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等を用いることができる。用いられる無機粒子は、平均粒径0.005〜5μmが好ましく、より好ましくは0.01〜3μm、最も好ましくは0.05〜2μmである。無機粒子の使用量は特に限定されないが、耐熱水密着性改良層中のポリマー100質量部に対し、固形分で0.05〜10質量部混合することが好ましく、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0156】
[耐熱水密着性改良層の形成方法]
耐熱水密着性改良層は、上記したポリエステル、ポリウレタンおよびアクリル系ポリマーよりなる群から選択される1種以上のポリマーと架橋剤との混合物の水分散体や、自己架橋型ポリマーの水分散体から形成されるため、塗工法で形成するのが最も簡便である。ポリエステルフィルムの少なくともシリコーンゴム層を形成する面に耐熱水密着性改良層用塗工液を塗工すればよい。耐熱水密着性改良層は、シリコーンゴム層の反対側にも形成することが好ましい。すなわち、耐熱水密着性改良層はポリエステルフィルムの両面に形成することが好ましい。加飾層とポリエステルフィルムとの接着性・耐熱水密着性が向上する。
【0157】
上記塗工工程においては、ポリエステルフィルムの未延伸フィルムに塗布し、次いで少なくとも一方向に延伸する方法、縦延伸後に塗布する方法、配向処理の終了したフィルム表面に塗布する方法等、いずれの方法も可能である。なかでも、ポリエステルフィルムを製造する際、フィルムの結晶配向が完了する前に塗布し、その後、少なくとも1方向に延伸した後、ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させる、いわゆるインラインコート法が、容易に薄膜を形成できるため、本発明の効果をより顕著に発現させることができ、好ましい。
【0158】
ポリエステルフィルムの未延伸フィルムへ耐熱水密着性改良層用塗工液を塗布する場合は、各種の塗布方法、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、マイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法等を用いることができる。
【0159】
[加飾層]
本発明の表皮材用フィルムには加飾層を設けることが望ましい。高度な意匠性を有する複合成型体が、表皮材用フィルムを成型体に貼着する工程や、インサート(射出)成型工程のみで製造することができる。加飾層としては、印刷層、金属薄膜層、無機薄膜層等が挙げられ、これらのうちの1層以上を形成することが好ましい。加飾層は、ポリエステルフィルムのシリコーンゴム層と反対側の面に、上記耐熱水密着性改良層を介して形成することが望ましい。加飾層とポリエステルフィルムの密着性が良好となる。
【0160】
印刷層の形成には、グラビア印刷、平板印刷、フレキソ印刷、ドライオフセット印刷、パット印刷、スクリーン印刷等の公知の印刷方法を製品形状や印刷用途に応じて使用することができる。特に多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷やグラビア印刷が適している。また、表皮材用フィルムが複雑な形状に成型される場合は、延展性に優れた印刷インキを用いることが好ましく、バインダー樹脂がポリウレタン樹脂等の柔軟な樹脂を主成分とするインキが好ましい。特に、帝国インキ製造株式会社製のフィルムインサート成型用一液型スクリーンインキである「ISXスクリーンインキ(商品名)」等の延展性・成型性に優れた印刷インキの使用が好ましい。
【0161】
また、加飾層は、印刷層だけでなく、金属または金属酸化物の薄膜層であってもよく、印刷層と、金属(酸化物)の薄膜層との組合せからなるものでもよい。金属または金属酸化物の薄膜層を形成すると、樹脂成型体への水蒸気や酸素の透過が抑制されるため、樹脂成型体の耐久性等を向上させることができる。金属(酸化物)の薄膜層を形成する方法としては、例えば、蒸着法、溶射法、メッキ法等が挙げられる。
【0162】
蒸着法としては、物理蒸着法、化学蒸着法のいずれも使用できる。物理蒸着法としては、真空蒸着法、スパッタリング、イオンプレーティング等が例示される。化学蒸着(CVD)法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等が例示される。溶射法としては、大気圧プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法等が例示される。メッキ法としては、無電解メッキ(化学メッキ)法、溶融メッキ法、電気メッキ法等が挙げられ、電気メッキ法においては、レーザーメッキ法等も使用することができる。上記の中でも、蒸着法およびメッキ法が金属層を形成する上で好ましく、蒸着法が金属酸化物層を形成する上で好ましい。また蒸着法とメッキ法は組み合わせて使用することができる。
【0163】
蒸着に用いる金属としては、アルミニウム、クロム、銀、金、およびこれらの併用あるいは合金系が好ましい。表皮材用フィルムが複雑な形状に成型される場合は、延展性に優れた金属が好ましく、例えば、アルミニウムにインジウム等を配合したものが好ましい。
【0164】
また、加飾層に、部分的に金属(酸化物)の薄膜層を形成する場合は、薄膜層を必要としない部分に溶剤可溶性樹脂層を形成した後、その上の全面に薄膜層を形成し、溶剤洗浄を行って、溶剤可溶性樹脂層と共に不要な金属薄膜を除去すればよく、この場合によく用いられる溶剤は、水または水と親水性溶剤との混合溶液である。別の方法としては、全面的に金属(酸化物)薄膜を形成し、次にこの薄膜を残しておきたい部分にレジスト層を形成し、酸またはアルカリで薄膜のエッチングを行い、最後にレジスト層を除去する方法が
挙げられる。
【0165】
本発明の表皮材用フィルムの易成型性の特徴を活かすには、上記の金属薄膜層が変形してクラック発生等が起こり、外観不良になるのを防止するために、基材フィルムと金属薄膜層との密着性を向上させるアンカーコート層を設けたり、金属薄膜層を多層化する等の手段を採用することは、本発明の好ましい実施態様である。本発明の耐熱水密着性改良層はアンカーコート層としても機能するため、金属薄膜層が配設される側の基材フィルムに耐熱水密着性改良層を設ける構成、すなわち、基材フィルムの両面に耐熱水密着性改良層を設ける構成は、本発明において推奨される実施態様である。
【0166】
[接着性改良層]
本発明で用いる表皮材用フィルムには、必要に応じてシリコーンゴム層と反対側の最表層に、樹脂成型体との接着性を高めるための接着性改良層を設けてもよい。この接着性改良層に用いられる接着剤は、表皮材用フィルムと樹脂成型体との接着性を高める機能を有するものであれば特に限定されない。例えば、熱硬化タイプやホットメルトタイプ等が使用可能である。
【0167】
熱硬化タイプとしては、ポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系、その他等のラミネート用接着剤等を使用することができる。架橋剤も限定されない。例えば、耐熱水密着性改良層のところで説明した架橋剤を用いることができる。この場合の硬化を目的としたエージング条件は特に限定されないが、例えば、温度が45〜65℃であり、時間が24〜48時間であることが好ましい。エージング時間が短すぎる場合や温度不足であると、インサート成型時に、接着剤層が流されて、波状の波紋が残ったり、透明性を妨げるおそれがある。また、逆にエージングが過ぎると、接着性を損ね、浮きを生じ、たとえこれらの不都合が室温で現れなくても、耐熱性を損ねてしまうことがある。
【0168】
ホットメルトタイプとしては、天然ゴム系、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、スチレン・ブタジェン・スチレン共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SIS)等の樹脂エラストマー、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリ酢酸ビニル系等の各種熱可塑性樹脂が例示できる。さらに接着性を高めるような各種官能基あるいは極性基、例えばカルボキシル基や酸無水物基等を含むように変性された樹脂が、より好ましい。これらの変性は公知の方法で行うことができる。
【0169】
上記接着性改良層の厚みは特に限定されないが、1〜100μmが好ましく、3〜50μmがより好ましい。1μm未満では接着性改良効果が低下するので好ましくない。逆に100μmを超えた場合は、接着性向上効果が飽和し、かつ耐熱性等が低下する場合がある。また、経済的にも不利になる。
【0170】
上記接着性改良層の形成方法も限定されない。例えば、接着剤を溶液にして塗工して形成してもよいし、接着剤用樹脂を溶融押し出しして、形成してもよい。また、接着剤よりなるシートを重ね合わせて用いてもよい。接着剤用樹脂を溶融押し出して接着性改良層を形成する場合は、押出成型時に半硬化状態とし、型抜き後に完全硬化させると、成型時の形状追従性が向上し、接着性改良層にクラック等が発生するのを抑制することができる。また、反応性の接着剤用樹脂を用いても、同様の効果が得られるため、いずれも好ましい実施態様である。
【0171】
[粘着層]
本発明で用いる表皮材用フィルムには、必要に応じてシリコーンゴム層と反対側の最表層に、粘着層を設けてもよい。この粘着層は、既に形成された成型体に表皮材を貼着するために用いることができる。粘着層は、1層のみでも、2層の粘着層が基材を挟んだ両面粘着シートの形態の層であってもよい。
【0172】
粘着層を構成する粘着剤は、特に限定されず、公知の粘着剤がいずれも使用できる。中でも、アクリル系粘着剤が好ましい。アクリル系粘着剤は、例えば、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリレートを主モノマー成分とするアクリル系ポリマーを主成分またはベースポリマーとして含有しているものである。
【0173】
アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、アクリル酸イソノニル(メタ)アクリレート、アクリル酸デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0174】
また、上記(メタ)アクリレートと共重合性を有しているモノマー成分(共重合性モノマー)が用いられていてもよい。特に、アクリル系ポリマーを架橋させる際には、共重合性モノマーとしては、アクリル系粘着剤の改質用モノマーが好ましく、公知の改質用モノマーのいずれも使用可能である。共重合性モノマーは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0175】
具体的には、共重合性モノマーとしては、耐熱水接着性改良層用のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分や他種のモノマーとして例示したモノマーがいずれも使用でき、さらに、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン系モノマー等が挙げられる。
【0176】
改質用モノマーとしては、前記官能基含有モノマーが好適であり、これらのなかでもヒドロキシル基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーが好ましく、特にアクリル酸が好適である。なお、改質用モノマーに由来する官能基(特に極性基)を利用してアクリル系ポリマーを架橋することができる。
【0177】
アクリル系ポリマーを得るための重合方法としては、アゾ系化合物や過酸化物等の重合開始剤を用いて行う溶液重合方法、エマルジョン重合方法や塊状重合方法、光開始剤を用いて光や放射線を照射して行う重合方法等を採用することができる。本発明では、分解してラジカルを生成させる重合開始剤を用いて重合させる方法(ラジカル重合方法)を好適に採用することができる。このラジカル重合では、通常、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーマレエート等の過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系化合物等の重合開始剤を用いて行う。重合開始剤の使用量は、アクリル系モノマーの重合の際に通常用いられる量でよく、例えば、モノマー成分の総量100質量部に対して、0.005〜10質量部程度、好ましくは0.1〜5質量部程度である。
【0178】
アクリル系ポリマーの主モノマー成分としての炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの割合としては、粘着特性の観点から、モノマー成分100質量%に対して50質量%以上であることが好ましい。80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。従って、上記(メタ)アクリレート以外の共重合性モノマーの割合は、モノマー成分100質量%中、50質量%以下となる。
【0179】
前記モノマー成分を重合させて得られたアクリル系ポリマーはそのまま用いることができる。また、アクリル系ポリマーを架橋させることにより硬化させることも可能である。前記ポリマーを架橋させると、粘着剤の凝集力を一層大きくすることができる。架橋には、架橋剤を用いることができる。すなわち、アクリル系粘着剤には、アクリル系ポリマーとともに、架橋剤が配合されていてもよい。なお、ポリマーの架橋は、加熱架橋方法が好適に用いられる。
【0180】
架橋剤としては、耐熱水接着性改良層において用いることのできる架橋剤として例示した架橋剤が、いずれも使用可能である。架橋剤としては、特に、メラミン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤が好ましい。架橋剤は単独でまたは2種以上混合して使用することができる。メラミン系架橋剤および/またはエポキシ系架橋剤の使用量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、例えば0.001〜10質量部が好ましく、0.01〜5質量部がより好ましい。イソシアネート系架橋剤の使用量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、例えば0.01〜20質量部が好ましく、0.05〜15質量部がより好ましい。
【0181】
アクリル系粘着剤には、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。例えば、粘着特性を調整するため、粘着付与樹脂(例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン系樹脂等)を配合してもよい。両面粘着シートの無色透明性を高めたり、色調変化を抑えるという観点からは、水素添加型の粘着付与樹脂が好ましく、その配合割合は両面粘着シートのヘーズを上昇させない範囲とすることが好ましい。また、粘着付与樹脂以外の添加剤として、可塑剤、微粉末シリカ等の充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、界面活性剤等の公知の各種添加剤を配合することもできる。これらの添加剤の使用量は、いずれもアクリル系粘着剤に適用される通常の量でよい。
【0182】
改質用モノマー(官能基含有共重合性モノマー)や架橋剤の割合調整や界面活性剤を用いる方法等の方法により、アクリル系粘着剤層の粘着力を、制御することができる。アクリル系粘着剤層の厚さは特に制限されず、1層構成の場合、2層構成の場合のいずれにおいても、例えば、3〜200μmが好ましい。5〜50μmがより好ましく、10〜30μmがさらに好ましい。
【0183】
また、上記のアクリル系粘着剤として、例えば、綜研化学社製の「SKダイン」シリーズを用いることもできる。中でも、光学用粘着剤の銘柄の使用が好ましい。
【0184】
2層構成の両面粘着シート型の粘着層を表皮材用フィルムに設ける場合の基材としては、前記したポリエステルフィルムが好適に利用できる。
【0185】
上記アクリル系粘着剤層の形成方法は限定されない。1層構成の粘着層であれば、表皮材用フィルムの製造工程のいずれかの段階で、例えば、有機溶剤の溶液タイプの塗工液か、水分散体の形態の塗工液を調製し、塗工法で塗布する方法が簡便である。両面粘着シート型の粘着層を設ける場合には、別途両面粘着シートを作製してから、表皮材用フィルムに組み込む方法が簡便である。なお、両面粘着シート型の粘着層を設ける場合には、アクリル系粘着剤層と基材との間に、耐熱水接着性改良層と同一組成の層を設けて、アクリル系粘着剤層と基材との接着性を高めるように構成してもよい。
【0186】
2層構成の両面粘着シート型の粘着層を備えた表皮材用フィルムの場合、シリコーンゴム層が設けられたポリエステルフィルムに当接する側(内側)の粘着層の粘着力と、成型体に貼着される側(最表層)の粘着力は、異なっていることが好ましく、最表層の粘着力を小さく設定することが好ましい。本発明においては、表皮材用フィルムの貼着は、成型体が製品として組み立てられた後に行う場合も含まれており、表皮材フィルムを貼り損じた場合、高価な製品のロスに繋がるが、最表層の粘着力を小さく設定しておけば、貼り損じた場合に貼り直しができるため好ましい。具体的な最表層の粘着力の好適範囲は0.05〜12N/25mmである。一方、シリコーンゴム層が設けられたポリエステルフィルムに当接する側(内側)の粘着力が小さいと、この界面で剥離が起こった場合に粘着層が剥き出しとなり、製品の使用者に不快感を与えることになる。従って、内側の粘着力は、最表層の粘着力より大きいことが好ましく、12〜30N/25mm程度が好ましい。この粘着力は、23℃の雰囲気下で、SUS304に対する180度剥離試験の引張強度のことである。
【0187】
上記の2層構成の両面粘着シート型の粘着層を備えた表皮材用フィルムにおいては、市販の両面粘着シートを用いることもできる。ポリエステルフィルム基材の両面に粘着力の異なる粘着層を積層した両面粘着シートを用いることが好ましく、例えば、共同技研化学社製のPET基材両面粘着シート「412D50」等が挙げられる。上記の2層構成の両面粘着シートで表皮材用フィルムを成型体表面へ貼着する方法は限定されないが、まず、表皮材用フィルムを両面粘着シートの粘着力の大きい方の粘着層表面に貼り付けた後に、もう一層の粘着層で成型体表面に貼着するのが好ましい実施態様である。
【0188】
一方、1層タイプの粘着層で対応する場合には、貼着時の初期粘着力が小さく、経時または熱処理(以下、粘着力向上処理ということがある)によって粘着力が増大する粘着層を形成するのが好ましい。このような粘着層を用いることで、貼り付けミスによるロスを低減することができ、また、最終的には表皮材を成型体に強固に固定できるため、消費者が使用する段階で表皮材が剥離するというトラブルの低減につながる。
【0189】
上記1層タイプの粘着層における初期粘着力や粘着力向上処理後の粘着力は特に限定されないが、初期粘着力は8N/25mm未満であることが好ましく、6N/25mm以下がより好ましい。下限値は特に限定されないが0.05N/25mm程度である。粘着力向上処理後の粘着力は8N/25mm以上が好ましく、10N/25mm以上がより好ましく、12N/25mm以上がさらに好ましい。上限値は特に限定されないが、30N/25mm程度である。
【0190】
上記のような粘着特性を発現させるには、粘着力向上処理として、ブロックされた架橋剤等を用いて粘着層の架橋反応を遅延させる方法や、酸化硬化型の架橋剤を用いて触媒により硬化時間等を調整する方法等を採用すればよい。なお、粘着力向上処理の条件は特に限定されないが、室温保存で粘着力が向上するのが好ましい。目安として、貼着後、室温(20〜30℃程度)で144時間経過後の粘着力が上記数値を達成するのが好ましい実施態様である。
【0191】
[セパレートフィルム]
表皮材用フィルムが粘着層を有する構成の場合は、粘着層表面にセパレートフィルムを積層しておくことが好ましい。セパレートフィルムとしては、粘着層との剥離性が良好であれば特に限定されず、シリコーン化合物やフッ素系化合物よりなる離型層が積層された市販の離型用ポリエステルフィルムを用いるのが好ましい実施態様である。また、前記した目付け用ポリエステルフィルムのための剥離層と同様の構成の層を離型層として有するフィルムを用いてもよい。
【0192】
セパレートフィルムと上記粘着層との剥離強度は、0.04〜1.3N/25mmであることが好ましい。0.04N/25mm以上であれば、製造工程等において表皮材用フィルムを巻き取る際に、セパレートフィルムの浮きの発生を抑制することができ、高品位の製品を製造することができる。一方、剥離強度を1.3N/25mm以下にすることで、セパレートフィルムと上記粘着層との剥離性が良好になる。なお、前記した目付け用ポリエステルフィルムの剥離強度も上記範囲が好ましい。
【0193】
[複合成型体]
本発明の表皮材用フィルムを用いて、樹脂成型体と複合させることで、触感の改善された複合成型体が得られる。成型体を構成する樹脂は、市場要求等により適宜選択され、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が使用できる。
【0194】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;各種アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等が挙げられ、これらのブレンド物やアロイ組成物等も使用可能である。熱硬化性樹脂の具体例としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。これらの中では、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂が好ましい。上記樹脂中には、公知の強化繊維を含めてもよい。
【0195】
成型体との複合に際しては、3種類の方法がある。(1)インサート成型を行う方法、(2)表皮材用フィルムが有する粘着層を利用する方法、(3)別体の両面粘着シートを用いる方法である。
【0196】
(1)のインサート成型を行う方法においては、表皮材用フィルムに粘着層は形成しておく必要性はない。接着性改良層は設けておく方が望ましい。成型に際しては、予め、表皮材用フィルムに、真空成型、低圧下での圧空成型、プレス成型等で賦形しておき、シリコーンゴム層が型に当接するようにフィルムを型内に装入した後、樹脂を射出成型して一体化させてもよいし、フラットなままの表皮材用フィルムを型内に載置し、樹脂を射出成型して一体化させてもよい。成型条件等は、使用する樹脂によって適宜選択すればよい。
【0197】
(2)では、粘着層を備えている表皮材用フィルムを用いる。この表皮材用フィルムの粘着層からセパレートフィルムを剥離し、成型体表面に貼着すればよい。
【0198】
(3)では、粘着層を有さない構成の表皮材用フィルムを用い、別体の両面粘着シートを用いて、成型体と表皮材用フィルムとを貼り合わせればよい。別体の両面粘着シートは、いかなる両面粘着シートであっても構わないが、表皮材用フィルムの粘着層のところで説明した両面粘着シートが好ましい。
【実施例】
【0199】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、実施例で採用した測定・評価方法は次の通りである。また、実施例中で「部」とあるのは「質量部」を意味し、「%」とあるのは断りのない限り「質量%」を意味する。
【0200】
1.接着性
表皮材用フィルムのシリコーンゴム層とポリエステルフィルムとの間にカッターナイフを差し込んで、指で力を加えて引き剥がし(界面出し)を実施した。剥離強度が強固で界面出しができないものを○、界面出しが可能なものを×として評価した。
【0201】
2.耐熱水密着性
表皮材用フィルムを50mm×50mmに切断し、蒸留水400ccを入れた500ccの蓋付きの円筒状のガラス容器の中に、上記試料をシリコーンゴム層が下側になるように水中に沈め、試料全体が水中に浸漬した状態で容器に蓋をする。試料の自重だけでは水中に浸漬しない場合は、例えば、60mm×60mm、厚さ188μmのポリエステルフィルムを試料の上に載せて、重しにすればよい。重しの大きさや素材は特に限定されるものではなく、試料全体が水中に浸漬すればよい。試料の入った容器を、80℃に設定したギアーオーブン中に入れ、24時間静置する。熱処理後、オーブンから容器を取り出し、速やかに試料を取り出して、シリコーンゴム層側から端部に指腹で力を加えて10回擦り、シリコーンゴム層がポリエステルフィルム側から剥離するかどうかを評価し、ゴム層が剥離しないものを○、ゴム層が剥離するものを×とした。
【0202】
3.インキ密着力
JIS K5600−5−6(旧JIS K5400の8.5.1)記載の付着性(クロスカット法)試験方法に準拠し、表皮材用フィルムのポリエステルフィルム表面のインキ密着力を評価した。具体的には、表皮材用フィルムのポリエステルフィルム表面に下記インキを印刷後、クロスカットガイドを用いて1mmマス目を印刷面にカッター刃で100個作成した後、粘着テープ(ニチバン社製:「セロテープ(登録商標)31B」)を印刷面に貼り付け、エアーが残らないように完全に付着させた。次いで、粘着テープを垂直に剥離した後、印刷面のマス目部分の残存数を密着力(残存数/100個)として評価し、80個/100個以上を○、それ未満を×として判定した。インキとしてはUV硬化型インキ(東華色素社製、「ベストキュアー(登録商標)161」)を用い、表皮材用フィルムのポリエステルフィルム側にRIテスターで印刷後、100mJ/cm2のUVを照射した。
【0203】
4.面配向度の測定
アッベ屈折計(「4T」、アタゴ社製)を用いて、ポリエステルフィルムの長手方向屈折率(Nx)、幅方向屈折率(Ny)および厚み方向屈折率(Nz)を測定し、得られた値を下記(1)式に代入して面配向度を算出した。
面配向度=(Nx+Ny)/2−Nz ・・・・・式(1)
【0204】
5.成型性
(a)金型成型性
表皮材用フィルムに5mm四方のマス目印刷を施した後、100〜140℃の熱板に4秒間接触させて加熱した。続いて、金型温度30〜70℃、保圧時間5秒でプレス成型を行った。加熱温度は上記範囲内で各フィルムの最適温度を選択した。金型の形状は、開口部の直径が50mm、底面部の直径が40mm、深さが30mmのカップ型であり、全てのコーナーのRは0.5mmとした。最適条件下で成型した成型品5個について、成型性および仕上がり性を下記基準で評価した。なお、◎と○が合格で、×は不合格である。
◎:成型品に破れがなく、コーナーのRが1mm以下で、印刷のずれが0.1mm以下で、さらにシワや白化などの外観不良がないもの
○:成型品に破れがなく、コーナーのRが1mm超1.5mm以下、または印刷のずれが0.1mm超0.2mm以下で、シワや白化などの外観不良がなく、実用上問題ないレベルのもの
×:成型品に破れがあるもの、または、次の(i)〜(iv)のいずれかに該当するもの
(i)コーナーのRが1.5mmを超えるもの
(ii)大きなシワが入り、外観が悪いもの
(iii)フィルムが白化し、透明性が低下したもの
(iv)印刷のずれが0.2mmを超えるもの
【0205】
(b)真空成型性
表皮材用フィルムに5mm四方のマス目印刷を施した後、500℃に熱した赤外線ヒーターでフィルムを10〜15秒加熱した。続いて、金型温度30〜100℃で真空成型を行った。加熱温度は上記範囲内で各フィルムの最適温度を選択した。金型の形状および評価基準は、上記金型成型性の評価と同じである。
【0206】
6.耐溶剤性
25℃に調温したトルエンに表皮材用フィルムを30分間浸漬し、浸漬前後の外観変化について、下記の基準で評価し、○を合格とした。ヘーズは、JIS K7361−1に準じて、ヘーズ測定器(「NDH−2000」;日本電色工業社製)で測定した。
○:外観変化がほとんどなく、ヘーズの変化が1%未満
×:外観変化が認められるか、ヘーズの変化が1%以上
【0207】
7.表皮材用フィルムの滑り止め性
表皮材用フィルムのシリコーンゴム層面をガラス板上に置き、表皮材用フィルムをポリエステルフィルム側から指で押さえつけながら動かしてみて、シリコーンゴム層の滑り止め性を官能評価した。
滑り止め効果 大:○、滑り止め効果 中:△、滑り止め効果 小:×
【0208】
8.表皮材用フィルムの触感性
表皮材用フィルムのシリコーンゴム層表面を指でなぞってその触感性を官能評価した。
触感性 良:○、触感性 中:△、触感性 悪:×
【0209】
9.中心線平均粗さRa
小坂研究所社製「SE−200型表面粗度計」を用い、縦倍率:1000、横倍率:20、カットオフ:0.08mm、測定長:8mm、測定速度:0.1mm/分の条件で測定した。
【0210】
実施例1
(1)被覆ポリエステルフィルムの製造
(1−1)耐熱水密着性改良層形成用塗工液の調製
〔水分散性共重合ポリエステル樹脂の調製〕
蒸留塔が付属した1個の加圧エステル化反応槽と、真空発生装置が付属した2個の重縮合反応槽を用い、バッチワイズ方式で三酸化アンチモンを重縮合触媒として、水分散性共重合ポリエステルを合成した。
【0211】
水分散性共重合ポリエステルの共重合組成は、テレフタル酸/イソフタル酸/5−ソジウムスルホイソフタル酸//ネオペンチルグリコール/エチレングリコール=50/43/7//70/30(モル比)であり、還元粘度は、0.68dl/gであった。
【0212】
〔塗工液の調製〕
上記水分散性共重合ポリエステル樹脂の破砕物100部を、定法により水分散体化した。この水分散体の固形分100部に対し、メチロール化メラミン樹脂「サイメル(登録商標)303」(三井サイテック社製)を固形分で5部と、触媒として、「キャタリスト600」(三井サイテック社製)を0.025部加え、よく撹拌して塗工液とした。
【0213】
(1−2)ポリエステルフィルムの製造と耐熱水密着性改良層の積層
平均粒子径(SEM法)が1.5μmの無定形シリカを0.04%含むポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.65dl/g)のペレットを充分に真空乾燥した後、280℃に加熱された押し出し機に供給し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて、表面温度30℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化した。この未延伸フィルムを105℃の加熱ロール群を通過させながら、長手方向に3.0倍に延伸し、一軸延伸フィルムとした。このフィルムの両面にコロナ放電処理を施し、その両処理面に上記塗工液を塗布した。この一軸延伸フィルムをクリップで把持しながら予熱ゾーンに導き、110℃で乾燥後、引続き連続的に125℃の加熱ゾーンで幅方向に3.2倍延伸した。さらに195℃で、幅方向に6%弛緩させながら、6秒間、熱処理を行った。二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に、厚さ0.08μmの架橋された耐熱水密着性改良層が被覆された厚さ50μmの被覆ポリエステルフィルム(i)が得られた。このポリエステルフィルムの面配向度は、0.138であった。
【0214】
(2)シリコーンゴム層の形成
(2−1)シリコーンゴム層形成用塗工液の調製
高引裂き型シリコーンゴムコンパウンド(「TSE260−5U」;ゴム硬度55度;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)をトルエンに対する質量比率が23%となるように秤量し、トルエンと共に真空脱泡装置付き撹拌機に投入し、大気圧下、室温で15時間撹拌してトルエンに溶解させた。得られた溶液に、トリメチロールプロパントリメタクリレートを、ゴムコンパウンド100部に対して2部となるように添加し、均一に撹拌した後、真空脱泡装置を駆動し、ゲージ圧:−750mmHgの真空下でさらに20分間撹拌し、脱泡した。
【0215】
(2−2)シリコーンゴム層の積層
上記方法で得た被覆ポリエステルフィルム(i)に上記のシリコーンゴム層形成用塗工液を乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布し、続いてオーブンに導入して80℃で乾燥した。別途、目付け用ポリエステルフィルムとしてサンドマット加工をした厚み50μmのポリエステルフィルムのマット加工面にドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ溶液をマイクログラビア法で塗布し、乾燥した。乾燥後の厚みは約30nmであった。シリコーンゴム層表面に、目付け用ポリエステルフィルムの表面処理面を重ね、圧着ロールで圧力30N/cm2 で押さえながら連続的に積層した。
【0216】
次いで、上記の積層体を電子線照射装置に導入し、被覆ポリエステルフィルム側から200KV、15Mradの電子線を照射し、架橋をすることで、シリコーンゴム層積層ポリエステルフィルムを得てロール状に巻取った。なお、得られたシリコーンゴム層積層ポリエステルフィルムの目付け用ポリエステルフィルムの剥離力は、0.5N/25mmであった。
【0217】
(3)加飾層の形成
上記方法で得たシリコーンゴム層積層ポリエステルフィルムのシリコーンゴム層形成面の反対側に、前記したUV硬化型インキを用いて、オフセット印刷をすることにより、加飾層を形成した。
【0218】
(4)接着性改良層の形成
上記方法で製造した加飾層含有積層フィルムの加飾層表面に、ポリエステル系接着剤として、「タケラック(登録商標)A−310」と「タケネート(登録商標)A−3」(いずれも武田薬品工業(現三井化学ポリウレタン)社製)とを混合して、リバースロールコーティング法により3g/m2程度塗布し、接着剤層を形成し、この接着剤層の硬化を目的として、50℃、24時間でエージングを行って接着性改良層を形成した。これにより、加飾層と接着性改良層を備えた表皮材用フィルムのロール状の原反が得られた。ポリエステルフィルムと表皮材用フィルムの評価結果を表1に示した。
【0219】
(5)表皮材用フィルムのプレ成型
以上のようにして製造した表皮材用フィルムの原反から目付け用ポリエステルフィルムを剥離して断裁機にかけ、小立ち上がりにした後、絞り加工機で、上型が110℃、下型が90℃に加熱された絞り金型を用いて真空成型を施し、複雑な形状のインサート成型用プレ成型体を得た。
【0220】
(6)複合成型体の製造
次に、上記インサート成型用プレ成型体を所定の形状に打ち抜き、断面が直方形状のフィルムゲートを有する金型内に配置した。成型条件を、金型温度:100℃、ノズル樹脂温度:300℃、射出速度:2mm/secに設定して、ポリカーボネート樹脂を用いてインサート成型を行った。樹脂成型体の表面に上記表皮材用フィルムが一体化した複合成型体が得られた。
【0221】
本実施例で得られた表皮材用フィルムは、触感性に優れており、ポリエステルフィルムとシリコーンゴム層との接着性、耐熱水密着性にも優れていた。また、得られた複合成型体は、触感性に優れ、印刷の図柄が鮮明で、かつシリコーンゴム層により艶消しされた高級な外観を有するものであった。
【0222】
比較例1
実施例1において、シリコーンゴム層の積層を取り止める以外は、実施例1と同様の方法で表皮材用フィルムおよび複合成型体を得た。ポリエステルフィルムと表皮材用フィルムの評価結果を表1に示す。
【0223】
本比較例で得られた表皮材用フィルムおよび複合成型体は、シリコーンゴム層が積層されていないので、触感性や滑り止め効果に劣っていた。
【0224】
比較例2
実施例1において、被覆ポリエステルフィルムに変えて、耐熱水密着性改良層を積層していない面配向度0.001の未延伸ポリエステルフィルムを用いる以外は実施例1と同様にして、表皮材用フィルムを得た。評価結果を表1に示した。本比較例で得られた表皮材用フィルムは耐溶剤性が劣っていた。また、耐熱水密着性改良層を積層していないので、接着性、対熱水密着性およびインキ密着力に劣っていた。
【0225】
比較例3
実施例1において、縦延伸温度を95℃に、縦および横延伸倍率を3.5倍に、そして熱処理温度を225℃に変更する以外は実施例1と同様にして、ポリエステルフィルムおよび表皮材用フィルムを得た。評価結果を表1に示した。本比較例で得られた表皮材用フィルムは成型性に劣っており、低品質であった。
【0226】
比較例4
実施例1のポリエステルフィルム製造工程において、耐熱水密着性改良層用塗工液の塗布を取り止める以外は、実施例1と同様にして被覆ポリエステルフィルムを得た。得られた被覆ポリエステルフィルムを用いて、実施例1と同様の方法で表皮材用フィルムおよび複合成型体を得た。結果を表1に示す。本比較例で得られた表皮材用フィルムおよび複合成型体は、触感性は良好であるが、接着性および耐熱水密着性が劣っていた。
【0227】
比較例5
実施例1のポリエステルフィルム製造工程において用いる塗工液へ、架橋剤であるメチロール化メラミン樹脂の配合を行わなかった以外は、実施例1と同様にして被覆ポリエステルフィルムを得た。得られた被覆ポリエステルフィルムを用いて、実施例1と同様の方法で表皮材用フィルムおよび複合成型体を得た。結果を表1に示す。本実施例で得られた表皮材用フィルムおよび複合成型体は、触感性は良好であるが、耐熱水密着性が劣っていた。
【0228】
実施例2
実施例1の方法において、目付け用ポリエステルフィルムとして、下記方法で調製した剥離性を向上させた表面平滑なポリエステルフィルムを用いる以外は、実施例1と同様の方法で表皮材用フィルムおよび複合成型体を得た。結果を表1に示す。本実施例で得られた表皮材用フィルムおよび複合成型体は、滑り止め性が良好であり、かつ接着性や耐熱水密着性が良好であった。また、印刷像がクリアーであるという特徴を有していた。
【0229】
〔離型層用塗布液の調製〕
樹脂成分として水分散性共重合ポリエステル樹脂である「バイロナール(登録商標)MD−1900」(東洋紡績社製)、表面粗面化物質として平均粒子径2μmであるスチレン−ベンゾグアナミン系球状有機粒子「エポスター(登録商標)MS」(日本触媒社製)と平均粒子径0.05μmのコロイダルシリカ、高分子系ワックス成分としてポリエチレン系エマルジョンワックス剤、帯電防止剤としてアニオン系帯電防止剤(ドデシルジフェニルオキサイドジスルホン酸ナトリウム)を用いた。
【0230】
ホモジナイザーを用いて、表面粗面化物質の有機球状粒子を水とイソプロピルアルコール(質量比80/20)との混合液中で充分に分散させてから、塗布液の全質量に対して、樹脂成分2.5%、表面粗面化物質の有機球状粒子0.025%、コロイダルシリカ0.3%、高分子系ワックス成分0.13%、帯電防止剤0.13%となるように充分に混合して、塗布液を調製した。
【0231】
〔目付け用ポリエステルフィルムの製造〕
上記塗布液をワイヤバー(No.5)を用い、ポリエステルフィルム(38μm)上に塗布した。塗布液の塗布量は上記基材フィルム1m2当たり約8〜10g(湿潤状態)とした。塗布液を160℃において約60秒間乾燥して、目付け用ポリエステルフィルムを得た。
【0232】
【表1】

【0233】
実施例3
テレフタル酸100モル%、エチレングリコール40モル%、ネオペンチルグリコール60モル%からなる固有粘度が0.69dl/gの共重合ポリエステルのチップ(A)と、固有粘度が0.69dl/gで、平均粒子径(SEM法)が1.5μmの無定形シリカを0.04%含有するポリエチレンテレフタレートのチップ(B)をそれぞれ乾燥した。チップ(A)と(B)とが25:75の質量比となるように混合し、押出機のTダイで270℃で溶融押出した。表面温度40℃のチルロール状で急冷固化させ、同時に静電印加法でチルロールに密着させながら、無定形の未延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0234】
この未延伸フィルムを、加熱ロールと冷却ロールとの間で縦方向に90度に3.3倍に延伸した。続いて、実施例1で用いたものと同じ耐熱水密着性改良層用の塗工液を一軸延伸後のフィルムの両面に塗布した。塗布された一軸延伸フィルムをクリップで把持しながら予熱ゾーンに導き、110℃で乾燥した後、テンターに導き、120℃で10秒間予熱し、横延伸の前半部を110℃で、後半部を100℃で、3.9倍延伸した。
【0235】
さらに、一段目の熱処理を220℃で、二段目の熱処理を235℃で横方向に7%の弛緩処理を行いながら熱固定した。厚さ0.15μmの耐熱水密着性改良層が両面に積層された厚さ100μmの2軸延伸被覆ポリエステルフィルムを得た。このポリエステルフィルムの面配向度は0.081であった。
【0236】
得られた被覆ポリエステルフィルムを用いて、実施例1と同様の方法で表皮材用フィルムを得た。評価結果を表2に示した。本実施例で得られた表皮材用フィルムは、実施例1で得られた表皮材用フィルムに比べて成型性が一層向上しており、真空成型が可能で高品質であった。
【0237】
実施例4
実施例3の方法において、シリコーンゴム層を形成するシリコーンゴムコンパウンド(として「TSE260−3U」(ゴム硬度30度;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)に切り替える以外は、実施例3と同様の方法で表皮材用フィルムおよび複合成型体を得た。結果を表2に示す。
【0238】
本実施例で得られた表皮材用フィルムおよび複合成型体は、実施例3で得られたものと同等の特性を有しており、高品質であった。
【0239】
実施例5〜6
実施例3の耐熱水密着性改良層用塗工液を、それぞれ以下の組成に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、表皮材用フィルムおよび複合成型体を得た。評価結果を表2に示す。
【0240】
これらの実施例で得られた表皮材用フィルムおよび複合成型体は、実施例3と同等あるいはそれ以上の特性を有しており高品質であった。
【0241】
〔実施例5の塗工液〕
アクリル系エマルジョン(「ジョンクリル(登録商標)PDX−7630A」;BASFジャパン社製)の固形分100部に対し、前記の「サイメル303」10部と、前記の「キャタリスト600」0.04部を混合して、耐熱水密着性改良層用塗工液とした。
【0242】
〔実施例6の塗工液〕
ポリウレタン系水分散体(「ハイドラン(登録商標)AP40」;DIC社製)の固形分100部に対し、オキサゾリン系架橋剤として(「エポクロス(登録商標)WS−700」;日本触媒社製)を固形分で3部添加して、耐熱水密着性改良層用塗工液とした。
【0243】
実施例7
実施例3において、ゴム成分を、高引裂き型シリコーンゴムコンパウンド(「TSE260−3U」;ゴム硬度30度;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)に変え、かつ、トリメチロールプロパントリメタクリレート2部に変えて、ペンタエリスリトールテトラアクリレートをシリコーンゴムコンパウンドの全量100部に対して3部となるように用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で表皮材用フィルムおよび複合成型体を得た。評価結果を表2に示す。
【0244】
本実施例で得られた表皮材用フィルムおよび複合成型体は、実施例3で得られた表皮材用フィルムおよび複合成型体と同等の特性を有しており高品質であった。特に、本実施例で得られた複合成型体は接着性に優れていた。
【0245】
実施例8
実施例3において、耐熱水密着性改良層形成用塗工液として、下記の方法で調製したグラフト変性ポリエステル樹脂よりなる自己架橋型のポリエステル樹脂を用いたこと以外は、実施例3と同様にして表皮材用フィルムおよび複合成型体を得た。評価結果を表2に示す。
【0246】
本実施例で得られた表皮材用フィルムおよび複合成型体は、実施例3以上の特性を有しており高品質であった。
【0247】
〔耐熱水密着性改良層形成用塗工液の調製〕
(共重合ポリエステル樹脂の調製)
自己架橋型ポリエステル樹脂水分散体「バイロナール(登録商標)AGN702」(東洋紡績社製)40部、水24部およびイソプロピルアルコール36部を混合し、さらにアニオン系界面活性剤の10%水溶液0.6部、プロピオン酸1部、コロイダルシリカ粒子の20%水分散液1.8部、乾式法シリカ粒子(平均粒径200nm;平均一次粒径40nm)の4%水分散液1.1部を添加し、耐熱水密着性改良層用塗工液とした。
【0248】
【表2】

【0249】
実施例9
実施例1で得られた表皮材用フィルムの接着性改良層の表面に下記組成の粘着層形成用塗工液を乾燥後の厚みで30μmになるように塗布、乾燥した。別途、実施例3と同様の方法で製造した厚さ25μmの2軸延伸被覆ポリエステルフィルムの片面に、シリコーン系の離型層を形成し、セパレートフィルムを得た。前記粘着層の上に、このセパレートフィルムを離型層側が接する様に積層し、粘着層を有する表皮材用フィルムを得た。この表皮材用フィルムを、携帯ゲーム機の形態に合わせた形状にプレス成型を行った。得られた成形体からセパレートフィルムを剥がして、携帯ゲーム機表面に貼り付けた。これにより、ゲーム機表面の触感が改善できた。
【0250】
なお、上記粘着層を備えた表皮材用フィルムの初期粘着力は4.8N/25mmであり、粘着力向上処理後(貼着後、室温で144時間保存後)の粘着力は19.0N/25mmであった。
【0251】
初期粘着力が小さいので、貼り損じた場合もゲーム機の汚染や損傷はなく剥離できた。また、粘着力向上処理後の粘着力は大きいため、ゲーム機の使用等において表皮材用フィルムの剥離は発生しなかった。
【0252】
〔粘着層形成用塗工液〕
ブチルアクリレート、メチルアクリレートおよびヒドロキシルエチルアクリレートが質量比で60/8/2であるポリマー100部、酢酸エチル40部およびトルエン60部を混合して、アクリルポリマー溶液を作った。この溶液に、ブロックイソシアネート(「デュラネート(登録商標)MF−K60X」:旭化成ケミカル社製)2.0部と、ポリイソシアネート(「コロネートL(登録商標)」:日本ポリウレタン社製)3.0部を添加し、均一に混合し、粘着層形成用塗工液を調製した。
【産業上の利用可能性】
【0253】
本発明の表皮材用フィルムは、シリコーンゴム層とポリエステルフィルムの接着性、その耐久性、耐熱水密着性等に優れている。また、インサート成形時や、貼着時に、成型体とも良好に接着する。表皮材用フィルムのポリエステルフィルム側に加飾を施しておき、成型体と複合すると、高度な意匠が付与された複合成型体を効率よく大量生産できるようになった。また、シリコーンゴム層を最表面に配したことで弾力のある触感が得られる上に、このシリコーンゴム層が外力を緩和させるので、複合成型体の耐久性を向上することができた。また、シリコーンゴム層を最表面に配して、このシリコーンゴム層の表面形状を目付け法で制御することにより、シリコーンゴム層表面の滑り性、グリップ性および触感性等を変化させることができるので、複合成型体の表面にこれらの機能を付与することが可能となる。
【0254】
よって本発明の表皮材用フィルムは、携帯電話、モバイルパソコン、携帯ゲーム機、携帯オーディオ機器等の筐体、保護ケース、キーパッド等;OA機器や家電の筐体や部材;インパネ、ハンドル等の自動車内装部材等の表皮材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面配向度が0.005〜0.15であるポリエステルフィルムの片面に耐熱水密着性改良層を介してシリコーンゴム層が形成された表皮材用積層ポリエステルフィルムにおいて、明細書中で定義した方法で耐熱水密着性を評価したときに、上記シリコーンゴム層が剥離しないことを特徴とする表皮材用積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
上記耐熱水密着性改良層は、厚みが0.01〜0.5μmである請求項1に記載の表皮材用積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
上記耐熱水密着性改良層が、ポリエステルフィルムの両面に形成されている請求項1または2に記載の表皮材用積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
上記ポリエステルフィルムのシリコーンゴム層形成面の反対面側に、加飾層が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の表皮材用積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
上記ポリエステルフィルムのシリコーンゴム層形成面の反対面側に、接着性改良層が形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の表皮材用積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
上記ポリエステルフィルムのシリコーンゴム層形成面の反対面側に、粘着層が形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の表皮材用積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
上記粘着層は2層の粘着層で基材を挟んだ両面粘着シートである請求項6に記載の表皮材用積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
上記両面粘着シートは、表皮材用積層ポリエステルフィルムの最表層に相当する粘着層の粘着力が内側の粘着層の粘着力よりも小さくなっている請求項7に記載の表皮材用積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
上記両面粘着シートの最表層の粘着層の粘着力が0.05〜12N/25mmであり、内側の粘着層の粘着力が12〜30N/25mmである請求項8に記載の表皮材用積層ポリエステルフィルム。
【請求項10】
最表層の粘着層表面にセパレートフィルムが積層されてなる請求項6〜9のいずれかに記載の表皮材用積層ポリエステルフィルム。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載された表皮材用積層ポリエステルフィルムを、シリコーンゴム層が成型体の最表面になるように金型に挿入し、次いで、金型を閉じて樹脂を注入し、インサート成型されたものであることを特徴とする触感が改善された複合成型体。
【請求項12】
請求項6〜10のいずれかに記載された表皮材用積層ポリエステルフィルムを、その粘着層で成型体表面に貼着したものであることを特徴とする触感が改善された複合成型体。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれかに記載された表皮材用積層ポリエステルフィルムを、シリコーンゴム層が最表面になるように成型体表面に別体の両面粘着シートで貼着したものであることを特徴とする触感が改善された複合成型体。
【請求項14】
上記両面粘着シートのそれぞれの粘着層の粘着力が異なっており、粘着力の小さい粘着層を成型体表面に貼着したものである請求項13に記載の複合成型体。
【請求項15】
上記両面粘着シートの片面の粘着層の粘着力が0.05〜12N/25mmであり、もう一方の面の粘着層の粘着力が12〜30N/25mmである請求項14に記載の複合成型体。

【公開番号】特開2010−143202(P2010−143202A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326453(P2008−326453)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(591005006)クレハエラストマー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】