表示体及び表示体付き物品
【課題】偽造が困難であり且つ特殊な視覚効果を提供し得る表示体を実現する。
【解決手段】本発明の表示体10は、500nm以下のピッチで2次元的に配列した複数の凹部又は凸部からなる回折構造が一方の主面に設けられたレリーフ構造形成層110と、金属又は合金からなり前記回折構造を被覆した反射層120とを具備し、前記反射層120のうち前記複数の凹部又は凸部にそれぞれ対応した複数の領域の各々は、厚さが50nm以上の第1部分と、開口部としての又は厚さが10nm以下の部分としての第2部分とを含んでいることを特徴とする。
【解決手段】本発明の表示体10は、500nm以下のピッチで2次元的に配列した複数の凹部又は凸部からなる回折構造が一方の主面に設けられたレリーフ構造形成層110と、金属又は合金からなり前記回折構造を被覆した反射層120とを具備し、前記反射層120のうち前記複数の凹部又は凸部にそれぞれ対応した複数の領域の各々は、厚さが50nm以上の第1部分と、開口部としての又は厚さが10nm以下の部分としての第2部分とを含んでいることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、偽造防止効果、装飾効果及び/又は美的効果を提供する表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラム及び回折格子などの回折構造は、その製造に特殊な技術を必要とし、印刷では再現できない視覚効果を提供する。そのため、特許文献1に記載されているように、紙幣、証券及びクレジットカードなどの物品には、その偽造を防止する目的で、回折構造を含んだ表示体を支持させることがある。
【0003】
しかしながら、近年の複製技術の発展に伴い、回折構造を含んだ表示体の偽造は容易になりつつある。しかも、肉眼による観察では、偽造品と真正品との区別が難しいことがある。
【特許文献1】特開平7−191604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、偽造が困難であり且つ特殊な視覚効果を提供し得る表示体を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面によると、500nm以下のピッチで2次元的に配列した複数の凹部又は凸部からなる回折構造が一方の主面に設けられたレリーフ構造形成層と、金属又は合金からなり前記回折構造を被覆した反射層とを具備し、前記反射層のうち前記複数の凹部又は凸部にそれぞれ対応した複数の領域の各々は、厚さが50nm以上の第1部分と、開口部としての又は厚さが10nm以下の部分としての第2部分とを含んでいることを特徴とする表示体が提供される。
【0006】
本発明の第2側面によると、第1側面に係る表示体と、これを支持した物品とを具備したことを特徴とする表示体付き物品が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、偽造が困難であり且つ特殊な視覚効果を提供し得る表示体が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体の一部を拡大して示す斜視図である。図3は、図2に示す表示体のIII−III線に沿った断面図である。図4は、図3に示す構造の一部を拡大して示す断面図である。図1乃至図4では、表示面に平行であり且つ互いに直交する方向をX方向及びY方向とし、表示面に垂直な方向をZ方向としている。
【0010】
なお、図1では、表示体10をその表示面側から観察した様子を描いている。他方、図2では、表示体10のうち参照符号DP1で示す表示部をその背面側から観察した様子を描いている。
【0011】
この表示体10は、図2乃至図4に示すように、レリーフ構造形成層110と反射層120との積層体を含んでいる。ここでは、一例として、レリーフ構造形成層110側を前面側とし且つ反射層120側を背面側とする。
【0012】
レリーフ構造形成層110の一方の主面には、凹構造及び/又は凸構造が設けられている。ここでは、一例として、レリーフ構造形成層110の一方の主面に、凹構造及び/又は凸構造として複数の凹部110Rを設けている。
【0013】
レリーフ構造形成層110の先の主面は、複数の凹部110Rが設けられた領域と、凹凸構造が設けられていない領域とを含んでいる。表示体10のうち、複数の凹部110Rが設けられた領域に対応した部分と凹凸構造が設けられていない領域に対応した部分とは、それぞれ、図1に示す表示部DP1及びDP2である。
【0014】
凹部110Rは、典型的には、先細りしている。例えば、凹部110Rは、円錐、角錐、円錐台、角錐台、楕円放物面又は回転放物面形状を有している。凹部110Rの側壁は、滑らかであってもよく、階段状であってもよい。或いは、凹部110Rは、円柱又は角柱状であってもよい。ここでは、一例として、凹部110Rは回転放物面形状を有していることとする。
【0015】
凹部110Rは、2次元的に配列しており、回折格子及びホログラムなどの回折構造を形成している。ここでは、一例として、凹部110Rは、X方向とY方向とに沿って正方格子状に配列しており、回折格子を形成している。凹部110Rの配列は、正方格子以外の格子を形成していてもよい。例えば、凹部110Rの配列は、三角格子を形成していてもよい。
【0016】
凹部110Rの配列のピッチPは、500nm以下であり、典型的には400nm以下である。この場合、表示部DP1はZ方向に1次回折光を射出しないか、又は、表示部DP1がZ方向に射出する1次回折光を視感度が低い波長の光のみとすることができる。
【0017】
ピッチPは、例えば300nm以上であり、典型的には330nm以上である。ピッチPが小さいと、表示体10は1次回折光を射出しないか、又は、表示体10が射出する1次回折光は視感度が低い波長の光のみとなる。
【0018】
なお、凹部110Rの先端の位置は、凹部110Rの開口の位置と比較してばらつきを生じ易い。従って、ピッチPは、凹部110Rの開口が形成している配列に基いて決定する。
【0019】
凹部110RのZ方向の寸法、即ち深さDは、例えば200nm乃至500nmの範囲内にあり、典型的には250nm乃至450nmの範囲内にある。凹部110Rの最大径Rは、例えば300nm乃至500nmの範囲内にあり、典型的には330nm乃至400nmの範囲内にある。
【0020】
最大径Rに対する深さDの比D/Rは、例えば0.400乃至1.667の範囲内にあり、典型的には0.625乃至1.364の範囲内にある。比D/Rを小さくすると、表示体10のZ方向についての反射率が大きくなる。比D/Rを大きくすると、凹部110Rを高い形状精度で形成することが難しくなるのに加え、回折効率が低下する。
【0021】
レリーフ構造形成層110は、例えば、微細な凸部を設けた金型を樹脂に押し付けることにより形成することができる。例えば、レリーフ構造形成層110は、基材上に設けられた熱可塑性樹脂層に、凸部が設けられた原版を、熱を印加しながら押し当てる方法、即ち、熱エンボス加工法により得られる。或いは、レリーフ構造形成層110は、基材上に紫外線硬化樹脂を塗布し、これに原版を押し当てながら基材側から紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させ、その後、原版を取り除く方法により形成することも可能である。
【0022】
この原版は、例えば、電子線描画装置を用いて製造する。なお、通常は、原版の凹凸構造を転写して反転版を製造し、この反転版の凹凸構造を転写して複製版を製造する。そして、必要に応じ、複製版を原版として用いて反転版を製造と、この反転版の凹凸構造を転写して複製版を更に製造する。実際の製造では、通常、このようにして得られる複製版を使用する。
【0023】
レリーフ構造形成層110の材料としては、例えば透明材料を使用することができる。また、レリーフ構造形成層110は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。例えば、先の基材の材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリカーボネートなどのプラスチック素材を使用し、先の熱可塑性樹脂又は紫外線硬化樹脂として、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル/スチレン共重合体系樹脂を使用してもよい。或いは、珪酸塩を含んだ無機材料を使用してもよい。
【0024】
レリーフ構造形成層110の凹部110Rを設けた面の裏面には、反射防止処理、ハードコート処理、帯電防止処理及び防汚処理などの表面処理を施してもよい。
【0025】
反射層120は、レリーフ構造形成層110の凹構造及び/又は凸構造が設けられた主面の全体又は一部を被覆している。
【0026】
反射層120の材料としては、例えば、金属又は合金を使用することができる。この金属又は合金としては、例えば、アルミニウム、銀、白金、ニッケル又はそれらの合金を使用することができる。
【0027】
反射層120のうち凹部110Rに対応した各領域は、遮光性であるか又は光透過率がより小さい第1部分120aと、開口部としての又は光透過率がより大きい部分としての第2部分120bとを含んでいる。各凹部110Rの側壁は、一部のみが第1部分120aによって被覆されている。第2部分120bは、各凹部110Rの側壁の他の一部と向き合っている。
【0028】
典型的には、凹部110Rに対する第1部分120aの相対的な位置は、先の領域間で互いに等しい。また、典型的には、凹部110Rに対する第2部分120bの相対的な位置は、先の領域間で互いに等しい。
【0029】
第1部分120aの厚さは、50nm以上である。他方、第2部分120bは、開口部であるか、又は、厚さが10nm以下の部分である。後で説明するように、厚さを50nm以上とすると高い光吸収率及び光反射率を達成でき、厚さを10nm以下とすると高い光透過率を達成できる。なお、ここでは、一例として、第2部分120bは開口部であるとする。
【0030】
反射層120は、例えば、気相堆積法により形成することができる。例えば、斜め蒸着又は斜めスパッタリングにより形成することができる。
【0031】
この表示体10は、その前面を白色光で照明した場合、例えば、以下に説明する画像を表示する。
【0032】
図5は、白色光で照明しながら表示面に垂直な方向から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す平面図である。
【0033】
上記の通り、表示部DP1においては、レリーフ構造形成層110の反射層120側の主面に、2次元的に配列した微細な凹部110Rが設けられている。そのため、表示部DP1に入射した光は、レリーフ構造形成層110の反射層120側の界面で複数回反射される。
【0034】
この界面のうち、第1部分120aに対応した領域では、入射光の一部が第1部分120aによって吸収される。また、この界面のうち、第2部分120bに対応した領域では、入射光の一部が透過する。その結果、入射光の多くは吸収されるか又は透過し、表示部DP1は、表示面に垂直な方向に反射光を射出しないか又は極めて弱い反射光を射出する。
【0035】
そして、回折構造のピッチを500nm以下としているので、表示面に垂直な方向に回折光が射出されることはないか又は表示面に垂直な方向に射出される回折光は視感度が低い波長の光のみである。従って、表示部DP1は、黒色を表示する。
【0036】
表示部DP2では、レリーフ構造形成層110と反射層120との界面は平坦である。それゆえ、正反射光を観察可能な場合には、表示部DP2は光源色である白色を表示する。
【0037】
従って、Z方向から観察した場合、表示体10は表示部DF1が黒インキを用いて形成した印刷パターンの如く見える画像を表示する。
【0038】
図6は、白色光で照明しながら表示面に対して右斜め前方から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図である。図7は、白色光で照明しながら表示面に対して左斜め前方から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図である。図6には、図3に示す観察者VW1が視認可能な画像を描いている。図7には、図3に示す観察者VW2が視認可能な画像を描いている。
【0039】
図4に示すように、反射層120は、第1部分120aと第2部分120bとを含んでいる。レリーフ構造形成層110の反射層120側の界面のうち、第1部分120aに対応した領域は、第2部分120bに対応した領域と比較して反射率がより大きい。
【0040】
そのため、或る特定のピッチP及び或る特定の照明条件のもとでは、観察者は、第1部分120aと略正対する方向から表示体10を観察した場合に、第2部分120bと略正対する方向から表示体10を観察した場合と比較して、より強い強度の回折光を知覚する。即ち、図3に示す観察者VW1は、図3に示す観察者VW2と比較して、より強い強度の回折光を知覚する。
【0041】
従って、観察者VW1には、表示部DP1は、図6に示すように着色して見える。そして、観察者VW2には、表示部DP1は、例えば、図7に示すように黒色に見える。
【0042】
このように、この表示体10の表示部DP1は、法線方向から観察した場合には黒色インキを用いて形成した印刷パターンの如く見え、或る斜め方向から観察した場合には着色して見える。そして、観察角度を一定としたまま表示体10をその法線の周りで180°回転させると、着色していた表示部DP1は黒色へと変化する。このような色変化は、通常の回折格子又はホログラムで再現することはできない。
【0043】
また、凹部110Rは微細であるため、不正を行う者にとって、それらの構造解析は難しい。そして、それらの構造を解析できたとしても、この微細構造を再現することは極めて困難である。即ち、この表示体10は、偽造が困難であり且つ特殊な視覚効果を提供する。
【0044】
また、第2部分120bを省略した場合、即ち、反射層120として厚さがほぼ均一な連続膜を形成した場合、比D/Rが小さいと、反射層120は入射光を十分に吸収できず、表示部DP1は法線方向から観察したときにダークトーンの色又は灰色を表示する。比D/Rを大きくすると、凹部110Rを高い形状精度で形成することが難しくなるのに加え、回折効率が低下する。
【0045】
反射層120が第2部分120bを含んでいる場合、入射光の一部は反射層120の裏側へと透過するため、比D/Rが比較的小さくても、表示部DP1は法線方向から観察したときに黒色を表示し得る。そして、比D/Rが十分に小さければ、特定の射出方向について高い回折効率を達成できる。即ち、反射層120に第2部分120bを設けると、表示部DP1に、法線方向から観察したときに黒色像を表示させ、特定の斜め方向から観察したときに明るい着色像を表示させることが可能となる。
【0046】
上記の通り、反射層120の厚さを50nm以上とすると高い光吸収率及び光反射率を達成でき、厚さを10nm以下とすると高い光透過率を達成できる。これについて、以下に説明する。
【0047】
図8乃至図10は、反射層の厚さがその光学特性に及ぼす影響の例を示すグラフである。図中、横軸は反射層の膜厚を示し、縦軸は反射層の反射率、透過率又は吸収を百分率で示している。
【0048】
図8乃至図10には、光学シミュレーションに広く利用されているFDTD法(finite difference time domain method)により得られたデータを示している。具体的には、図8には青色光についてのデータを示し、図9には緑色光についてのデータを示し、図10には赤色光についてのデータを示している。なお、この計算は、反射層の材料がアルミニウムであることを想定して行っている。
【0049】
図8乃至図10から明らかなように、可視光域内では、膜厚が10nm以下であれば、透過率が大きく且つ反射率は小さい。そして、膜厚が50nm以上であれば、反射率は大きく且つ膜厚の影響を殆ど受けない。なお、ここには、アルミニウムについて得られたデータを示したが、他の金属についてもほぼ同様の結果が得られている。
【0050】
凹部110Rの表面のうち第2部分120bに対応した領域の面積比は、例えば約50%未満とする。また、この面積比は、例えば約25%以上とする。この面積比が大きいと、図6を参照しながら説明した着色像を視認し辛くなる。
【0051】
上述した表示体10には、様々な変形が可能である。
図11は、一変形例に係る表示体を概略的に示す平面図である。
この表示体10は、以下の構成を採用したこと以外は、図1乃至図4に示す表示体10と同様である。即ち、図11に示す表示体10は、表示部DP3を更に含んでいる。レリーフ構造形成層110の反射層120側の主面のうち、表示部DP3に対応した領域には、複数の溝からなる回折格子が設けられている。このように、表示体10は、複数の溝からなる回折構造や、光散乱を生じるように不規則に配置された複数の凹部又は凸部からなる散乱構造などの微細構造を更に含んでいてもよい。
【0052】
図12は、他の変形例に係る表示体を概略的に示す平面図である。
この表示体10は、以下の構成を採用したこと以外は、図1乃至図4に示す表示体10と同様である。即ち、図12に示す表示体10は、表示部DP1の代わりに、表示部DP1a及びDP1bを含んでいる。
【0053】
表示部DP1aは、表示部DP1と同様の構造を有している。表示部DP1bは、凹部110Rに対する第1部分120aの相対位置及び凹部110Rに対する第2部分120bの相対位置の各々が表示部DP1aとは異なっていることを除き、表示部DP1aと同様の構造を有している。ここでは、一例として、表示部DP1aは図4に示す構造を有しており、表示部DP1bは図4に示す構造を左右反転させた構造を有しているとする。なお、反射層120のうち、表示部DP1aに対応した部分と表示部DP1bに対応した部分との各々を「反射部」と呼ぶ。
【0054】
図13は、白色光で照明しながら表示面に対して右斜め前方から観察した場合に図12に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図である。図14は、白色光で照明しながら表示面に対して左斜め前方から観察した場合に図12に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図である。
【0055】
図12に示す表示体10を白色光で照明しながら表示面に対して右斜め前方から観察すると、図13に示すように、表示部DP1aは着色して見え、表示部DP1bは黒色に見える。そして、この表示体10を白色光で照明しながら表示面に対して左斜め前方から観察すると、図14に示すように、表示部DP1aは黒色に見え、表示部DP1bは着色して見える。即ち、観察方向を変更することにより、表示部DP1a及びDP1b間で表示色を交替させることができる。
【0056】
レリーフ構造形成層110の反射層120側の主面に設ける回折構造は、凹部110Rの形状、ピッチ及び配列方向の少なくとも1つが互いに異なる複数の回折構造部を含んでいてもよい。こうすると、表示体10に、より複雑な像を表示させることができる。
【0057】
第2部分120bは、凹部110Rの側壁の位置に設けなくてもよい。例えば、第2部分120bは、隣り合う凹部110R間の境界の位置に設けてもよい。
【0058】
凹部110Rの代わりに、凸部を設けてもよい。この場合も、上述したのと同様の効果を得ることができる。
【0059】
上述した表示体10は、例えば、偽造防止用又は識別用ラベルとして使用することができる。表示体10は偽造又は模造が困難であるため、この表示体10を物品に支持させた場合、真正品であるこの表示体付き物品の偽造又は模造も困難である。また、この表示体10は上述した視覚効果を有しているため、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。
【0060】
図15は、表示体付き物品の一例を概略的に示す平面図である。
図15には、表示体付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、ID(identification)カードであって、印刷物本体20を含んでいる。
【0061】
印刷物本体20は、基材210を含んでいる。基材210は、例えば、プラスチックからなる。基材210上には、印刷層220が形成されている。基材210の印刷層220が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着層又は接着層を介して貼りつけることにより、基材210に固定する。
【0062】
この印刷物100は、表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物の偽造又は模造は困難である。また、この印刷物100は、表示体10を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、印刷層220を更に含んでいるため、これを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0063】
なお、図15には、表示体10を含んだ印刷物100としてIDカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びIC(integrated circuit)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0064】
また、図15に示す印刷物100では、表示体10を基材20に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
【0065】
また、表示体付き物品は、印刷物でなくてもよい。即ち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0066】
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【0067】
なお、これらの表示体付き物品の製造には、例えば、粘着ラベル又は転写箔を利用することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例)
本例では、図1乃至図4に示す表示体10を、以下の方法により製造した。
まず、厚さが75μmのPETフィルム上に、紫外線硬化樹脂を塗布した。次いで、版面に複数の凸部が設けられた原版を先の塗膜に押し当てながら、PETフィルム側から紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させた。その後、原版を取り除くことにより、レリーフ構造形成層110を得た。ここでは、凹部110Rの深さDは350nmとし、ピッチP及び最大径Rは300nmとした。
【0069】
次に、レリーフ構造形成層110の凹部110R側の主面に、真空蒸着法によりアルミニウムを堆積させて、反射層120を形成した。具体的には、レリーフ構造形成層110をその主面が水平に対して斜めになるように真空蒸着装置内に設置し、これにより、先の主面に対して斜め方向からアルミニウムを堆積させた。
【0070】
なお、この反射層120は、厚さが約100nmの第1部分120aと、開口部としての第2部分120bとを含んでいた。また、凹部110Rの表面のうち第2部分120bに対応した領域の面積比は30%であった。
【0071】
このようにして得られた表示体10を法線方向から観察したところ、表示部DP1は黒色に見えた。また、この表示体10を傾けて観察したところ、表示部DP1は着色して見えた。
【0072】
次に、この表示体10に20°の入射角で白色光を照射し、法線方向についての反射率を測定した。その結果、反射率は約9%であった。また、この表示体10に40°の入射角で白色光を照射し、このときの回折効率を測定した。その結果、波長が442nmの光に関する1次回折効率は最大で約11%であった。
【0073】
(比較例)
レリーフ構造形成層をその主面が水平になるように真空蒸着装置内に設置して厚さが反射層を形成したこと以外は、上記実施例とほぼ同様の方法により表示体を製造した。この表示体の反射層は、開口部を含んでおらず、その全体に亘って約30nmの厚さを有していた。
【0074】
この表示体10を法線方向から観察したところ、表示部DP1は黒色に見えた。しかしながら、この表示体10を傾けて観察しても、表示部DP1からの回折光は殆ど確認できなかった。
【0075】
次に、この表示体10に20°の入射角で白色光を照射し、法線方向についての反射率を測定した。その結果、反射率は約8%であった。また、この表示体10に40°の入射角で白色光を照射し、このときの回折効率を測定した。その結果、波長が442nmの光に関する1次回折効率は約0.7%であった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示体の一部を拡大して示す斜視図。
【図3】図2に示す表示体のIII−III線に沿った断面図。
【図4】図3に示す構造の一部を拡大して示す断面図。
【図5】白色光で照明しながら表示面に垂直な方向から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す平面図。
【図6】白色光で照明しながら表示面に対して右斜め前方から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図。
【図7】白色光で照明しながら表示面に対して左斜め前方から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図。
【図8】反射層の厚さがその光学特性に及ぼす影響の例を示すグラフ。
【図9】反射層の厚さがその光学特性に及ぼす影響の例を示すグラフ。
【図10】反射層の厚さがその光学特性に及ぼす影響の例を示すグラフ。
【図11】一変形例に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図12】他の変形例に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図13】白色光で照明しながら表示面に対して右斜め前方から観察した場合に図12に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図。
【図14】白色光で照明しながら表示面に対して左斜め前方から観察した場合に図12に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図。
【図15】表示体付き物品の一例を概略的に示す平面図。
【符号の説明】
【0077】
10…表示体、20…印刷物本体、100…印刷物、110…レリーフ構造形成層、110R…凹部、120…反射層、120a…第1部分、120b…第2部分、210…基材、220…印刷層、DP1…表示部、DP1a…表示部、DP1b…表示部、DP2…表示部、DP3…表示部、VW1…観察者、VW2…観察者。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、偽造防止効果、装飾効果及び/又は美的効果を提供する表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラム及び回折格子などの回折構造は、その製造に特殊な技術を必要とし、印刷では再現できない視覚効果を提供する。そのため、特許文献1に記載されているように、紙幣、証券及びクレジットカードなどの物品には、その偽造を防止する目的で、回折構造を含んだ表示体を支持させることがある。
【0003】
しかしながら、近年の複製技術の発展に伴い、回折構造を含んだ表示体の偽造は容易になりつつある。しかも、肉眼による観察では、偽造品と真正品との区別が難しいことがある。
【特許文献1】特開平7−191604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、偽造が困難であり且つ特殊な視覚効果を提供し得る表示体を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面によると、500nm以下のピッチで2次元的に配列した複数の凹部又は凸部からなる回折構造が一方の主面に設けられたレリーフ構造形成層と、金属又は合金からなり前記回折構造を被覆した反射層とを具備し、前記反射層のうち前記複数の凹部又は凸部にそれぞれ対応した複数の領域の各々は、厚さが50nm以上の第1部分と、開口部としての又は厚さが10nm以下の部分としての第2部分とを含んでいることを特徴とする表示体が提供される。
【0006】
本発明の第2側面によると、第1側面に係る表示体と、これを支持した物品とを具備したことを特徴とする表示体付き物品が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、偽造が困難であり且つ特殊な視覚効果を提供し得る表示体が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体の一部を拡大して示す斜視図である。図3は、図2に示す表示体のIII−III線に沿った断面図である。図4は、図3に示す構造の一部を拡大して示す断面図である。図1乃至図4では、表示面に平行であり且つ互いに直交する方向をX方向及びY方向とし、表示面に垂直な方向をZ方向としている。
【0010】
なお、図1では、表示体10をその表示面側から観察した様子を描いている。他方、図2では、表示体10のうち参照符号DP1で示す表示部をその背面側から観察した様子を描いている。
【0011】
この表示体10は、図2乃至図4に示すように、レリーフ構造形成層110と反射層120との積層体を含んでいる。ここでは、一例として、レリーフ構造形成層110側を前面側とし且つ反射層120側を背面側とする。
【0012】
レリーフ構造形成層110の一方の主面には、凹構造及び/又は凸構造が設けられている。ここでは、一例として、レリーフ構造形成層110の一方の主面に、凹構造及び/又は凸構造として複数の凹部110Rを設けている。
【0013】
レリーフ構造形成層110の先の主面は、複数の凹部110Rが設けられた領域と、凹凸構造が設けられていない領域とを含んでいる。表示体10のうち、複数の凹部110Rが設けられた領域に対応した部分と凹凸構造が設けられていない領域に対応した部分とは、それぞれ、図1に示す表示部DP1及びDP2である。
【0014】
凹部110Rは、典型的には、先細りしている。例えば、凹部110Rは、円錐、角錐、円錐台、角錐台、楕円放物面又は回転放物面形状を有している。凹部110Rの側壁は、滑らかであってもよく、階段状であってもよい。或いは、凹部110Rは、円柱又は角柱状であってもよい。ここでは、一例として、凹部110Rは回転放物面形状を有していることとする。
【0015】
凹部110Rは、2次元的に配列しており、回折格子及びホログラムなどの回折構造を形成している。ここでは、一例として、凹部110Rは、X方向とY方向とに沿って正方格子状に配列しており、回折格子を形成している。凹部110Rの配列は、正方格子以外の格子を形成していてもよい。例えば、凹部110Rの配列は、三角格子を形成していてもよい。
【0016】
凹部110Rの配列のピッチPは、500nm以下であり、典型的には400nm以下である。この場合、表示部DP1はZ方向に1次回折光を射出しないか、又は、表示部DP1がZ方向に射出する1次回折光を視感度が低い波長の光のみとすることができる。
【0017】
ピッチPは、例えば300nm以上であり、典型的には330nm以上である。ピッチPが小さいと、表示体10は1次回折光を射出しないか、又は、表示体10が射出する1次回折光は視感度が低い波長の光のみとなる。
【0018】
なお、凹部110Rの先端の位置は、凹部110Rの開口の位置と比較してばらつきを生じ易い。従って、ピッチPは、凹部110Rの開口が形成している配列に基いて決定する。
【0019】
凹部110RのZ方向の寸法、即ち深さDは、例えば200nm乃至500nmの範囲内にあり、典型的には250nm乃至450nmの範囲内にある。凹部110Rの最大径Rは、例えば300nm乃至500nmの範囲内にあり、典型的には330nm乃至400nmの範囲内にある。
【0020】
最大径Rに対する深さDの比D/Rは、例えば0.400乃至1.667の範囲内にあり、典型的には0.625乃至1.364の範囲内にある。比D/Rを小さくすると、表示体10のZ方向についての反射率が大きくなる。比D/Rを大きくすると、凹部110Rを高い形状精度で形成することが難しくなるのに加え、回折効率が低下する。
【0021】
レリーフ構造形成層110は、例えば、微細な凸部を設けた金型を樹脂に押し付けることにより形成することができる。例えば、レリーフ構造形成層110は、基材上に設けられた熱可塑性樹脂層に、凸部が設けられた原版を、熱を印加しながら押し当てる方法、即ち、熱エンボス加工法により得られる。或いは、レリーフ構造形成層110は、基材上に紫外線硬化樹脂を塗布し、これに原版を押し当てながら基材側から紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させ、その後、原版を取り除く方法により形成することも可能である。
【0022】
この原版は、例えば、電子線描画装置を用いて製造する。なお、通常は、原版の凹凸構造を転写して反転版を製造し、この反転版の凹凸構造を転写して複製版を製造する。そして、必要に応じ、複製版を原版として用いて反転版を製造と、この反転版の凹凸構造を転写して複製版を更に製造する。実際の製造では、通常、このようにして得られる複製版を使用する。
【0023】
レリーフ構造形成層110の材料としては、例えば透明材料を使用することができる。また、レリーフ構造形成層110は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。例えば、先の基材の材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリカーボネートなどのプラスチック素材を使用し、先の熱可塑性樹脂又は紫外線硬化樹脂として、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル/スチレン共重合体系樹脂を使用してもよい。或いは、珪酸塩を含んだ無機材料を使用してもよい。
【0024】
レリーフ構造形成層110の凹部110Rを設けた面の裏面には、反射防止処理、ハードコート処理、帯電防止処理及び防汚処理などの表面処理を施してもよい。
【0025】
反射層120は、レリーフ構造形成層110の凹構造及び/又は凸構造が設けられた主面の全体又は一部を被覆している。
【0026】
反射層120の材料としては、例えば、金属又は合金を使用することができる。この金属又は合金としては、例えば、アルミニウム、銀、白金、ニッケル又はそれらの合金を使用することができる。
【0027】
反射層120のうち凹部110Rに対応した各領域は、遮光性であるか又は光透過率がより小さい第1部分120aと、開口部としての又は光透過率がより大きい部分としての第2部分120bとを含んでいる。各凹部110Rの側壁は、一部のみが第1部分120aによって被覆されている。第2部分120bは、各凹部110Rの側壁の他の一部と向き合っている。
【0028】
典型的には、凹部110Rに対する第1部分120aの相対的な位置は、先の領域間で互いに等しい。また、典型的には、凹部110Rに対する第2部分120bの相対的な位置は、先の領域間で互いに等しい。
【0029】
第1部分120aの厚さは、50nm以上である。他方、第2部分120bは、開口部であるか、又は、厚さが10nm以下の部分である。後で説明するように、厚さを50nm以上とすると高い光吸収率及び光反射率を達成でき、厚さを10nm以下とすると高い光透過率を達成できる。なお、ここでは、一例として、第2部分120bは開口部であるとする。
【0030】
反射層120は、例えば、気相堆積法により形成することができる。例えば、斜め蒸着又は斜めスパッタリングにより形成することができる。
【0031】
この表示体10は、その前面を白色光で照明した場合、例えば、以下に説明する画像を表示する。
【0032】
図5は、白色光で照明しながら表示面に垂直な方向から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す平面図である。
【0033】
上記の通り、表示部DP1においては、レリーフ構造形成層110の反射層120側の主面に、2次元的に配列した微細な凹部110Rが設けられている。そのため、表示部DP1に入射した光は、レリーフ構造形成層110の反射層120側の界面で複数回反射される。
【0034】
この界面のうち、第1部分120aに対応した領域では、入射光の一部が第1部分120aによって吸収される。また、この界面のうち、第2部分120bに対応した領域では、入射光の一部が透過する。その結果、入射光の多くは吸収されるか又は透過し、表示部DP1は、表示面に垂直な方向に反射光を射出しないか又は極めて弱い反射光を射出する。
【0035】
そして、回折構造のピッチを500nm以下としているので、表示面に垂直な方向に回折光が射出されることはないか又は表示面に垂直な方向に射出される回折光は視感度が低い波長の光のみである。従って、表示部DP1は、黒色を表示する。
【0036】
表示部DP2では、レリーフ構造形成層110と反射層120との界面は平坦である。それゆえ、正反射光を観察可能な場合には、表示部DP2は光源色である白色を表示する。
【0037】
従って、Z方向から観察した場合、表示体10は表示部DF1が黒インキを用いて形成した印刷パターンの如く見える画像を表示する。
【0038】
図6は、白色光で照明しながら表示面に対して右斜め前方から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図である。図7は、白色光で照明しながら表示面に対して左斜め前方から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図である。図6には、図3に示す観察者VW1が視認可能な画像を描いている。図7には、図3に示す観察者VW2が視認可能な画像を描いている。
【0039】
図4に示すように、反射層120は、第1部分120aと第2部分120bとを含んでいる。レリーフ構造形成層110の反射層120側の界面のうち、第1部分120aに対応した領域は、第2部分120bに対応した領域と比較して反射率がより大きい。
【0040】
そのため、或る特定のピッチP及び或る特定の照明条件のもとでは、観察者は、第1部分120aと略正対する方向から表示体10を観察した場合に、第2部分120bと略正対する方向から表示体10を観察した場合と比較して、より強い強度の回折光を知覚する。即ち、図3に示す観察者VW1は、図3に示す観察者VW2と比較して、より強い強度の回折光を知覚する。
【0041】
従って、観察者VW1には、表示部DP1は、図6に示すように着色して見える。そして、観察者VW2には、表示部DP1は、例えば、図7に示すように黒色に見える。
【0042】
このように、この表示体10の表示部DP1は、法線方向から観察した場合には黒色インキを用いて形成した印刷パターンの如く見え、或る斜め方向から観察した場合には着色して見える。そして、観察角度を一定としたまま表示体10をその法線の周りで180°回転させると、着色していた表示部DP1は黒色へと変化する。このような色変化は、通常の回折格子又はホログラムで再現することはできない。
【0043】
また、凹部110Rは微細であるため、不正を行う者にとって、それらの構造解析は難しい。そして、それらの構造を解析できたとしても、この微細構造を再現することは極めて困難である。即ち、この表示体10は、偽造が困難であり且つ特殊な視覚効果を提供する。
【0044】
また、第2部分120bを省略した場合、即ち、反射層120として厚さがほぼ均一な連続膜を形成した場合、比D/Rが小さいと、反射層120は入射光を十分に吸収できず、表示部DP1は法線方向から観察したときにダークトーンの色又は灰色を表示する。比D/Rを大きくすると、凹部110Rを高い形状精度で形成することが難しくなるのに加え、回折効率が低下する。
【0045】
反射層120が第2部分120bを含んでいる場合、入射光の一部は反射層120の裏側へと透過するため、比D/Rが比較的小さくても、表示部DP1は法線方向から観察したときに黒色を表示し得る。そして、比D/Rが十分に小さければ、特定の射出方向について高い回折効率を達成できる。即ち、反射層120に第2部分120bを設けると、表示部DP1に、法線方向から観察したときに黒色像を表示させ、特定の斜め方向から観察したときに明るい着色像を表示させることが可能となる。
【0046】
上記の通り、反射層120の厚さを50nm以上とすると高い光吸収率及び光反射率を達成でき、厚さを10nm以下とすると高い光透過率を達成できる。これについて、以下に説明する。
【0047】
図8乃至図10は、反射層の厚さがその光学特性に及ぼす影響の例を示すグラフである。図中、横軸は反射層の膜厚を示し、縦軸は反射層の反射率、透過率又は吸収を百分率で示している。
【0048】
図8乃至図10には、光学シミュレーションに広く利用されているFDTD法(finite difference time domain method)により得られたデータを示している。具体的には、図8には青色光についてのデータを示し、図9には緑色光についてのデータを示し、図10には赤色光についてのデータを示している。なお、この計算は、反射層の材料がアルミニウムであることを想定して行っている。
【0049】
図8乃至図10から明らかなように、可視光域内では、膜厚が10nm以下であれば、透過率が大きく且つ反射率は小さい。そして、膜厚が50nm以上であれば、反射率は大きく且つ膜厚の影響を殆ど受けない。なお、ここには、アルミニウムについて得られたデータを示したが、他の金属についてもほぼ同様の結果が得られている。
【0050】
凹部110Rの表面のうち第2部分120bに対応した領域の面積比は、例えば約50%未満とする。また、この面積比は、例えば約25%以上とする。この面積比が大きいと、図6を参照しながら説明した着色像を視認し辛くなる。
【0051】
上述した表示体10には、様々な変形が可能である。
図11は、一変形例に係る表示体を概略的に示す平面図である。
この表示体10は、以下の構成を採用したこと以外は、図1乃至図4に示す表示体10と同様である。即ち、図11に示す表示体10は、表示部DP3を更に含んでいる。レリーフ構造形成層110の反射層120側の主面のうち、表示部DP3に対応した領域には、複数の溝からなる回折格子が設けられている。このように、表示体10は、複数の溝からなる回折構造や、光散乱を生じるように不規則に配置された複数の凹部又は凸部からなる散乱構造などの微細構造を更に含んでいてもよい。
【0052】
図12は、他の変形例に係る表示体を概略的に示す平面図である。
この表示体10は、以下の構成を採用したこと以外は、図1乃至図4に示す表示体10と同様である。即ち、図12に示す表示体10は、表示部DP1の代わりに、表示部DP1a及びDP1bを含んでいる。
【0053】
表示部DP1aは、表示部DP1と同様の構造を有している。表示部DP1bは、凹部110Rに対する第1部分120aの相対位置及び凹部110Rに対する第2部分120bの相対位置の各々が表示部DP1aとは異なっていることを除き、表示部DP1aと同様の構造を有している。ここでは、一例として、表示部DP1aは図4に示す構造を有しており、表示部DP1bは図4に示す構造を左右反転させた構造を有しているとする。なお、反射層120のうち、表示部DP1aに対応した部分と表示部DP1bに対応した部分との各々を「反射部」と呼ぶ。
【0054】
図13は、白色光で照明しながら表示面に対して右斜め前方から観察した場合に図12に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図である。図14は、白色光で照明しながら表示面に対して左斜め前方から観察した場合に図12に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図である。
【0055】
図12に示す表示体10を白色光で照明しながら表示面に対して右斜め前方から観察すると、図13に示すように、表示部DP1aは着色して見え、表示部DP1bは黒色に見える。そして、この表示体10を白色光で照明しながら表示面に対して左斜め前方から観察すると、図14に示すように、表示部DP1aは黒色に見え、表示部DP1bは着色して見える。即ち、観察方向を変更することにより、表示部DP1a及びDP1b間で表示色を交替させることができる。
【0056】
レリーフ構造形成層110の反射層120側の主面に設ける回折構造は、凹部110Rの形状、ピッチ及び配列方向の少なくとも1つが互いに異なる複数の回折構造部を含んでいてもよい。こうすると、表示体10に、より複雑な像を表示させることができる。
【0057】
第2部分120bは、凹部110Rの側壁の位置に設けなくてもよい。例えば、第2部分120bは、隣り合う凹部110R間の境界の位置に設けてもよい。
【0058】
凹部110Rの代わりに、凸部を設けてもよい。この場合も、上述したのと同様の効果を得ることができる。
【0059】
上述した表示体10は、例えば、偽造防止用又は識別用ラベルとして使用することができる。表示体10は偽造又は模造が困難であるため、この表示体10を物品に支持させた場合、真正品であるこの表示体付き物品の偽造又は模造も困難である。また、この表示体10は上述した視覚効果を有しているため、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。
【0060】
図15は、表示体付き物品の一例を概略的に示す平面図である。
図15には、表示体付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、ID(identification)カードであって、印刷物本体20を含んでいる。
【0061】
印刷物本体20は、基材210を含んでいる。基材210は、例えば、プラスチックからなる。基材210上には、印刷層220が形成されている。基材210の印刷層220が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着層又は接着層を介して貼りつけることにより、基材210に固定する。
【0062】
この印刷物100は、表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物の偽造又は模造は困難である。また、この印刷物100は、表示体10を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、印刷層220を更に含んでいるため、これを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0063】
なお、図15には、表示体10を含んだ印刷物100としてIDカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びIC(integrated circuit)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0064】
また、図15に示す印刷物100では、表示体10を基材20に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
【0065】
また、表示体付き物品は、印刷物でなくてもよい。即ち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0066】
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【0067】
なお、これらの表示体付き物品の製造には、例えば、粘着ラベル又は転写箔を利用することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例)
本例では、図1乃至図4に示す表示体10を、以下の方法により製造した。
まず、厚さが75μmのPETフィルム上に、紫外線硬化樹脂を塗布した。次いで、版面に複数の凸部が設けられた原版を先の塗膜に押し当てながら、PETフィルム側から紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させた。その後、原版を取り除くことにより、レリーフ構造形成層110を得た。ここでは、凹部110Rの深さDは350nmとし、ピッチP及び最大径Rは300nmとした。
【0069】
次に、レリーフ構造形成層110の凹部110R側の主面に、真空蒸着法によりアルミニウムを堆積させて、反射層120を形成した。具体的には、レリーフ構造形成層110をその主面が水平に対して斜めになるように真空蒸着装置内に設置し、これにより、先の主面に対して斜め方向からアルミニウムを堆積させた。
【0070】
なお、この反射層120は、厚さが約100nmの第1部分120aと、開口部としての第2部分120bとを含んでいた。また、凹部110Rの表面のうち第2部分120bに対応した領域の面積比は30%であった。
【0071】
このようにして得られた表示体10を法線方向から観察したところ、表示部DP1は黒色に見えた。また、この表示体10を傾けて観察したところ、表示部DP1は着色して見えた。
【0072】
次に、この表示体10に20°の入射角で白色光を照射し、法線方向についての反射率を測定した。その結果、反射率は約9%であった。また、この表示体10に40°の入射角で白色光を照射し、このときの回折効率を測定した。その結果、波長が442nmの光に関する1次回折効率は最大で約11%であった。
【0073】
(比較例)
レリーフ構造形成層をその主面が水平になるように真空蒸着装置内に設置して厚さが反射層を形成したこと以外は、上記実施例とほぼ同様の方法により表示体を製造した。この表示体の反射層は、開口部を含んでおらず、その全体に亘って約30nmの厚さを有していた。
【0074】
この表示体10を法線方向から観察したところ、表示部DP1は黒色に見えた。しかしながら、この表示体10を傾けて観察しても、表示部DP1からの回折光は殆ど確認できなかった。
【0075】
次に、この表示体10に20°の入射角で白色光を照射し、法線方向についての反射率を測定した。その結果、反射率は約8%であった。また、この表示体10に40°の入射角で白色光を照射し、このときの回折効率を測定した。その結果、波長が442nmの光に関する1次回折効率は約0.7%であった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示体の一部を拡大して示す斜視図。
【図3】図2に示す表示体のIII−III線に沿った断面図。
【図4】図3に示す構造の一部を拡大して示す断面図。
【図5】白色光で照明しながら表示面に垂直な方向から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す平面図。
【図6】白色光で照明しながら表示面に対して右斜め前方から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図。
【図7】白色光で照明しながら表示面に対して左斜め前方から観察した場合に図1乃至図4に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図。
【図8】反射層の厚さがその光学特性に及ぼす影響の例を示すグラフ。
【図9】反射層の厚さがその光学特性に及ぼす影響の例を示すグラフ。
【図10】反射層の厚さがその光学特性に及ぼす影響の例を示すグラフ。
【図11】一変形例に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図12】他の変形例に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図13】白色光で照明しながら表示面に対して右斜め前方から観察した場合に図12に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図。
【図14】白色光で照明しながら表示面に対して左斜め前方から観察した場合に図12に示す表示体が表示する画像の一例を概略的に示す斜視図。
【図15】表示体付き物品の一例を概略的に示す平面図。
【符号の説明】
【0077】
10…表示体、20…印刷物本体、100…印刷物、110…レリーフ構造形成層、110R…凹部、120…反射層、120a…第1部分、120b…第2部分、210…基材、220…印刷層、DP1…表示部、DP1a…表示部、DP1b…表示部、DP2…表示部、DP3…表示部、VW1…観察者、VW2…観察者。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
500nm以下のピッチで2次元的に配列した複数の凹部又は凸部からなる回折構造が一方の主面に設けられたレリーフ構造形成層と、金属又は合金からなり前記回折構造を被覆した反射層とを具備し、前記反射層のうち前記複数の凹部又は凸部にそれぞれ対応した複数の領域の各々は、厚さが50nm以上の第1部分と、開口部としての又は厚さが10nm以下の部分としての第2部分とを含んでいることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記凹部又は凸部に対する前記第1部分の相対的な位置は前記複数の領域間で互いに等しいことを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記複数の凹部又は凸部の各々の側壁は一部のみが前記第1部分によって被覆されていることを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記凹部又は凸部に対する前記第2部分の相対的な位置は前記複数の領域間で互いに等しいことを特徴とする請求項3に記載の表示体。
【請求項5】
前記反射層は、前記回折構造の一部を被覆した第1反射部と、前記回折構造の他の一部を被覆した第2反射部とを含み、前記第1及び第2反射部の各々において前記凹部又は凸部に対する前記第1部分の相対的な位置は前記複数の領域間で互いに等しく、前記第1及び第2反射部は前記凹部又は凸部に対する前記第1部分の前記相対的な位置が互いに異なっていることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項6】
前記回折構造は、前記凹部又は凸部の形状、ピッチ及び配列方向の少なくとも1つが互いに異なる複数の回折構造部を含んでいることを特徴とする請求項1又は5に記載の表示体。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体と、これを支持した物品とを具備したことを特徴とする表示体付き物品。
【請求項1】
500nm以下のピッチで2次元的に配列した複数の凹部又は凸部からなる回折構造が一方の主面に設けられたレリーフ構造形成層と、金属又は合金からなり前記回折構造を被覆した反射層とを具備し、前記反射層のうち前記複数の凹部又は凸部にそれぞれ対応した複数の領域の各々は、厚さが50nm以上の第1部分と、開口部としての又は厚さが10nm以下の部分としての第2部分とを含んでいることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記凹部又は凸部に対する前記第1部分の相対的な位置は前記複数の領域間で互いに等しいことを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記複数の凹部又は凸部の各々の側壁は一部のみが前記第1部分によって被覆されていることを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記凹部又は凸部に対する前記第2部分の相対的な位置は前記複数の領域間で互いに等しいことを特徴とする請求項3に記載の表示体。
【請求項5】
前記反射層は、前記回折構造の一部を被覆した第1反射部と、前記回折構造の他の一部を被覆した第2反射部とを含み、前記第1及び第2反射部の各々において前記凹部又は凸部に対する前記第1部分の相対的な位置は前記複数の領域間で互いに等しく、前記第1及び第2反射部は前記凹部又は凸部に対する前記第1部分の前記相対的な位置が互いに異なっていることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項6】
前記回折構造は、前記凹部又は凸部の形状、ピッチ及び配列方向の少なくとも1つが互いに異なる複数の回折構造部を含んでいることを特徴とする請求項1又は5に記載の表示体。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体と、これを支持した物品とを具備したことを特徴とする表示体付き物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−168928(P2009−168928A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4534(P2008−4534)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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