説明

表示素子

【課題】画像が明るく且つ画像のボケを防止する表示素子を提供する。
【解決手段】本明細書に開示する表示素子は、光吸収層20上に、選択反射し且つコレステリック相を示す液晶層12B,12G,12Rが複数積層された反射型の表示素子10であって、一の液晶層12Gがフォーカルコニック状態にあるときに一の液晶層12Gを透過する光の散乱量が極小を示す極小波長が、一の液晶層12Gよりも光吸収層20側に配置された他の液晶層12Rの選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点に挟まれた波長の範囲内にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,各企業及び各大学等において、電子ペーパーの開発が盛んに進められている。電子ペーパーが期待されている応用市場として、電子ブックを筆頭に、モバイル端末機器のサブディスプレイやICカードの表示部等、多用な応用携帯機器が提案されている。電子ペーパーの有力な表示方式の一つに、コレステリック相を示す液晶組成物(コレステリック液晶、あるいはカイラルネマティック液晶と称される。ここでは、コレステリック液晶に統一して説明する。)を用いた表示素子がある。コレステリック液晶は、半永久的な表示保持特性(メモリ性)、鮮やかなカラー表示特性、高コントラスト特性、および高解像度特性等の優れた特長を有している。さらに、コレステリック液晶を用いた表示装置は、可撓性を有するフレキシブル表示装置を実現できる。
【0003】
コレステリック液晶を用いた表示装置では、液晶へ印加する電圧を供給する駆動回路は、表示の書き換え時のみ駆動電圧を出力するが、表示を維持する時には駆動電圧を出力する必要がないため低消費電力である。そのため、コレステリック液晶を用いた表示装置は、商用交流電源(例えば、家庭用AC100V)コンセントなどに接続せずに、バッテリーなどの携帯可能な電源ユニットを設けて駆動することができる。
【0004】
図1は、従来の表示素子の例を示す図である。
【0005】
図1は、コレステリック液晶を用いた3枚の表示パネルを積層してカラー表示を可能にした表示素子の概要を示している。図示のように、表示面側から順に、青色のB表示パネル110B、緑色のG表示パネル110G、赤色のR表示パネル110Rを積層して表示素子110が形成される。赤色のR表示パネル110Rの外側の面には黒色の光吸収層120が設けられる。
【0006】
表示素子110は、コレステリック液晶層の干渉反射を用いるので、明状態で反射される光は、波長により変化する。そのため、液晶の螺旋ピッチを設定することにより、反射光が赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)を呈する表示パネルが得られる。
【0007】
図1に示すように、B表示パネル110Bは、透明な上基板111B及び下基板113Bの間に液晶層112Bを挟持した構造を有する。上基板111Bが表示面側の基板である。G表示パネル110G及びR表示パネル110Rも、B表示パネル110Bと同様の構造を有する。
【0008】
コレステリック液晶は、基板表面に平行に層をなす状態と垂直方向に層をなす状態の2つの安定的な状態がある。この2つの状態は、電気的に切り替え可能であり、電圧を供給しなくとも、2つの状態が保持できる双安定性の特徴をもつ。
【0009】
上基板及び下基板に設けられた電極(図示せず)に高電圧を印加すると、螺旋状に連なる液晶分子の螺旋軸が、上基板及び下基板に垂直な方向に配列し、基板面に平行な層をなす状態になる。この状態をプレーナ(Planar)状態と呼ぶ。プレーナ状態の液晶層は、液晶分子の螺旋ピッチに応じた波長の光を選択的に反射(選択反射)し、特定の色を呈して、反射表示される。これが明状態(反射状態)である。この時、反射される光は螺旋ピッチの回転方向に応じて左右どちらかの一方の円偏光となる。
【0010】
反射が最大となる波長λは、液晶の平均屈折率n、螺旋ピッチpから次の式で示される。
【0011】
λ=n・p
一方、反射帯域Δλは液晶の屈折率異方性Δnに伴って大きくなる。
【0012】
これに対して、上基板及び下基板に設けられた電極に低電圧を印加すると、螺旋状に連なる液晶分子の螺旋軸が、上基板及び下基板に平行な方向に配列した状態になる。この状態をフォーカルコニック(Focal Conic)状態と呼ぶ。フォーカルコニック状態では、干渉反射は生じないため、素子に入射した光は透過する。これが暗状態(透過状態)である。反射状態でも、反射されない光は、液晶層を透過するだけなので、下層に異なる色を反射させる液晶層を配置させることにより、反射色を合成することが可能となる。
【0013】
駆動回路(図示せず)から各表示パネルの電極に電圧を印加することにより、各表示パネルの電極に対応した液晶層を明状態と暗状態にすることができ、画像を表示できる。各表示パネルは、マトリクス電極を備え,ドットマトリクス表示が可能である。
【0014】
B表示パネル110Bを明(反射)状態にし、G表示パネル110G及びR表示パネル110Rを暗(透過)状態にすると、青色の表示が行われる。同様に、G表示パネル110Gを明(反射)状態にし、B表示パネル110B及びR表示パネル110Rを暗(透過)状態にすると、緑色の表示が行われる。更に、R表示パネル110Rを明(反射)状態にし、B表示パネル110B及びG表示パネル110Gを暗(透過)状態にすると、赤色の表示が行われる。また、B表示パネル110BからR表示パネル110Rをすべて明(反射)状態にすると、白色の表示が行われ、B表示パネル110BからR表示パネル110Rをすべて暗(透過)状態にすると、黒色の表示が行われる。
【0015】
コレステリック液晶による反射型液晶表示方式では、上記のようにプレーナ状態を「明状態」、フォーカルコニック状態を「暗状態」として表示に利用する。表示特性としての明度は、プレーナ状態(明状態)の反射率が大きいほど良好となり、コントラストはフォーカルコニック状態(暗状態)での透明度が高いほど良好となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2001−147442号公報
【特許文献2】特開2001−147445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
図1では、R表示パネル110Rを明(反射)状態にし、B表示パネル110B及びG表示パネル110Gを暗(透過)状態にして、赤色の表示が行われている。即ち、プレーナ状態にあるR表示パネル110Rで反射した光が、表示面側のB表示パネル110B及びG表示パネル110Gを透過する様子を示している。
【0018】
R表示パネル110Rで反射した光は、1つ上のG表示パネル110Gを透過する際に、一部の光が入射方向以外の方向に散乱する。そして、G表示パネル110Gを透過した光は、最表面側のB表示パネル110Bを透過する際に、更に、一部の光が入射方向以外の方向に散乱する。
【0019】
同様に、G表示パネル110Gを明(反射)状態にし、B表示パネル110Bを暗(透過)状態にした場合には、G表示パネル110Gで反射した光は、表面側のB表示パネル110Bを透過する際に、一部の光が入射方向以外の方向に散乱する。
【0020】
このように、下層の表示パネルで反射した光が、表示面側の表示パネルを透過する際に散乱すると、画像がボケたり、画像の明るさが低下する原因となり得る。
【0021】
本明細書は、画像が明るく且つ画像のボケを防止する表示素子を提供することを目的とする。
【0022】
また、本明細書は、画像が明るく且つ画像のボケを防止する表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本明細書に開示する表示素子の一形態によれば、光吸収層上に、選択反射し且つコレステリック相を示す液晶層が複数積層された反射型の表示素子であって、一の液晶層がフォーカルコニック状態にあるときに上記一の液晶層を透過する光の散乱量が極小を示す極小波長が、上記一の液晶層よりも上記光吸収層側に配置された他の液晶層の選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点に挟まれた波長の範囲内にある。
【0024】
また、本明細書に開示する表示装置の一形態によれば、光吸収層上に、選択反射し且つコレステリック相を示す液晶層が複数積層された反射型の表示素子であって、一の液晶層がフォーカルコニック状態にあるときに上記一の液晶層を透過する光の散乱量が極小を示す極小波長が、上記一の液晶層よりも上記光吸収層側に配置された他の液晶層の選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点に挟まれた波長の範囲内にある表示素子と、上記表示素子を駆動する駆動回路と、を備える。
【発明の効果】
【0025】
上述した本明細書に開示する表示素子の一形態によれば、画像が明るく且つ画像のボケが防止される。
【0026】
また、上述した本明細書に開示する表示装置の一形態によれば、画像が明るく且つ画像のボケが防止される。
【0027】
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるだろう。
【0028】
前述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来の表示素子の例を示す図である。
【図2】本明細書に開示する第1実施形態の表示装置の断面構造を模式的に示す図である。
【図3】(A)は図2の表示装置の表示パネルの平面図であり、(B)は(A)に示す表示パネルの断面図である。
【図4】図2の表示装置のB液晶層及びG液晶層及びR液晶層がプレーナ状態の時の分光反射特性を示す図である。
【図5】フォーカルコニック状態にある液晶層を透過する光の散乱光強度と波長との関係を示す図(その1)である。
【図6】フォーカルコニック状態にある液晶層を透過する光の散乱光強度と波長との関係を示す図(その2)である。
【図7】フォーカルコニック状態にある液晶層を透過する光の散乱の極大を示す極大波長及び極小を示す極小波長と液晶層の厚さとの関係を示す図である。
【図8】図2の表示装置のプレーナ状態にある表示パネルで反射した光が、表示面側の表示パネルを透過する様子を示す図である。
【図9】第2実施形態の表示装置のB表示パネルの断面図である。
【図10】第2実施形態の表示装置のプレーナ状態にある表示パネルで反射した光が、表示面側の表示パネルを透過する様子を示す図である。
【図11】第2実施形態の変形例のフォーカルコニック状態にある液晶層を透過する光の散乱光強度と波長との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本明細書で開示する表示装置の好ましい第1実施形態を、図面を参照して説明する。但し、本発明の技術範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【0031】
図2は、本明細書に開示する第1実施形態の表示装置の断面構造を模式的に示す図である。図3(A)は、図2の表示装置の表示パネルの平面図であり、図3(B)は図3(A)に示す液晶パネルの断面図である。
【0032】
本実施形態の表示装置1は、3枚の表示パネル10B,10G,10Rを有する表示素子10と、表示素子10を駆動する駆動回路30B,30G,30Rとを備える。表示素子10は、外部からの光を反射して、画像を映し出す。
【0033】
本実施形態における表示装置1は、表示素子10の液晶層を透過する光の散乱光を低減して、明るい画像を提供すると共に画像のボケを防止するものである。まず、表示装置1の一般的な構造を説明した後、表示素子10の液晶層が透過する光の散乱光を低減する構成について詳述する。
【0034】
表示素子10は、表示面10S側から順に、青(B)表示パネル10Bと、緑(G)表示パネル10Gと、赤(R)表示パネル10Rとが積層された構造を有している。図示において、上方の基板側が表示面10Sであり、外光(実線矢印)は基板上方から表示面10Sに向かって入射するようになっている。なお、基板上方に観測者の目及びその観察方向(破線矢印)を模式的に示している。
【0035】
B表示パネル10Bは、一対の上基板11B及び下基板13Bと、基板間とシール部19により封入された青(B)用液晶のB液晶層12Bと、を有している。また、表示装置1は、B表示パネル10Bの基板上の電極に所定のパルス信号を印加してB液晶層12Bに所定のパルス電圧を印加する青用駆動回路30Bを有する。
【0036】
G表示パネル10GおよびR表示パネル10Rも同様の構成を有するが、選択反射光の中心波長が異なる。表示装置1は、G表示パネル10Gを駆動する緑用駆動回路30G及びR表示パネル10Rを駆動する赤用駆動回路30Rを有する。
【0037】
R表示パネルの下基板13Rの裏面には光吸収層20が配置されている。
【0038】
各R、G、R液晶層に用いられているコレステリック液晶は、ネマティック液晶にキラル性の添加剤(カイラル材ともいう)を数十wt%の含有率で比較的大量に添加した液晶混合物である。ネマティック液晶にカイラル材を比較的大量に含有させると、ネマティック液晶分子を強く螺旋状に捻ったコレステリック相を形成することができる。このためコレステリック液晶はカイラルネマティック液晶とも称される。
【0039】
コレステリック液晶は双安定性(メモリ性)を備えており、液晶に印加する電界強度の調節によりプレーナ状態、フォーカルコニック状態、またはそれらの混合による中間的な状態のいずれかの状態をとることができ、一旦プレーナ状態、フォーカルコニック状態、またはそれらの中間的な状態になると、その後は無電界下においても安定してその状態を保持する。プレーナ状態は、例えば、上下基板間に所定の高電圧を印加して液晶層に強電界を与え、液晶をホメオトロピック状態にした後、急激に電界をゼロにすることにより得られる。
【0040】
フォーカルコニック状態は、例えば、上記高電圧より低い所定電圧を上下基板間に印加して液晶層に電界を与えた後、急激に電界をゼロにすることにより得られる。あるいは、プレーナ状態から徐々に電圧を加えることで得ることができる。
【0041】
プレーナ状態とフォーカルコニック状態の中間的な状態は、例えば、フォーカルコニック状態が得られる電圧よりも低い電圧を上下基板間に印加して液晶層に電界を与えた後、急激に電界をゼロにすることにより得られる。プレーナ状態とフォーカルコニック状態の中間の状態においては,その状態に応じて反射光と透過光の割合を調整できるので,反射光の強度を可変できる。
【0042】
このように,コレステリック液晶では、螺旋状に捻られた液晶分子の配向状態で光の反射量を制御することができる。液晶分子の配向状態を変化させるには、前述したとおり、液晶表示素子を封入した上下基板に電圧を印加する必要がある。
【0043】
図3(A)及び図3(B)に示すように、B表示パネル10Bの下基板13BのB液晶層12Bの側には、図3(A)の図中上下方向に延びる複数の帯状のデータ電極14が並列して形成されている。また、上基板11BのB液晶層12Bの側には、図3(A)の図中左右方向に延びる複数の帯状の走査電極15が並列して形成されている。データ電極14、及び走査電極15は、透明電極のパターニングにより、所望のピッチで形成される。
【0044】
図3(A)に示すように、上下基板の電極形成面を法線方向に見て、両電極は、互いに交差して対向配置されている。両電極の各交差領域がそれぞれピクセル(画素)となる。ピクセルがマトリクス状に配列されて表示画面を形成している。
【0045】
上基板11Bには、複数の走査電極15を駆動する走査電極用ドライバICが実装された走査電極駆動回路32Bが接続されている。また、下基板13Bには、複数のデータ電極を駆動するデータ電極用ドライバICが実装されたデータ電極駆動回路31Bが接続されている。青用駆動回路30Bは、データ電極駆動回路31B及び走査電極駆動回路32Bにより形成される。青用駆動回路30Bは、外部から入力された所定の信号に基づいて、走査信号やデータ信号を所定の走査電極15又はデータ電極14に出力するようになっている。
【0046】
上基板11BのB液晶層12Bと接する面には、上配向膜16が、走査電極15を覆うように配置される。上配向膜16には、所定の方向に複数の溝が形成されており、B液晶層12Bの液晶分子の配向する方向を規制する。同様に、下基板13BのB液晶層12Bと接する面には、下配向膜17が、データ電極14を覆うように配置される。上配向膜16の溝の方向と、下配向膜17の溝の方向とは、上基板11B及び下基板13Bを重ね合わせたときに直交する方向(クロスラビング)とされる。
【0047】
これにより、プレーナ状態のB液晶層は、液晶分子の方向が全体に揃った方向に配向したモノドメイン状態となり、反射光の指向性が強くなるが、その方向の反射率は高くなる。配向規制力の強さに応じて反射光の指向性及び反射率が変化する。
【0048】
また、B表示パネル10Bは、B液晶層12Bの厚さを決定するスペーサ18を有する。上基板11Bと下基板13Bとの間には、複数のスペーサ18が配置されており、B液晶層12Bの厚さを一定にする。スペーサ18は、具体的には、上配向膜16と下配向膜17との間に配置される。スペーサ18としては、例えば、樹脂製または無機酸化物製の球体を用いることができる。
【0049】
上述したB表示パネル10B及び青用駆動回路30Bの説明は、B表示パネル10G及び緑用駆動回路30G並びにR表示パネル10R及び赤用駆動回路30Rに対しても適宜適用される。
【0050】
図4は、図2の表示装置のB液晶層及びG液晶層及びR液晶層がプレーナ状態の時の分光反射特性を示す図である。
【0051】
図4の縦軸は、反射率であり、横軸は波長である。カーブCbは、B液晶層12Bがプレーナ状態の時の選択反射光強度分布を示している。カーブCbは、選択反射光の中心波長λsbにおいて、極大の反射率を示す。カーブCgは、G液晶層12Gがプレーナ状態の時の選択反射光強度分布を示している。カーブCgは、選択反射光の中心波長λsgにおいて、極大の反射率を示す。カーブCrは、R液晶層12Rがプレーナ状態の時の選択反射光強度分布を示している。カーブCrは、選択反射光の中心波長λsrにおいて、極大の反射率を示す。図4に示す分光反射特性は、公知の測定方法を用いて測定することができる。
【0052】
次に、上述した表示素子10が、液晶層を透過する光の散乱光を低減して、明るい画像を提供すると共に画像のボケを防止する構成について、以下に説明する。
【0053】
表示素子10では、G液晶層12Gがフォーカルコニック状態にあるときにG液晶層12Gを透過する光の散乱量が極小を示す極小波長λmiが、G液晶層12Gよりも光吸収層20側に配置されたR液晶層12Rの選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点r1,r2に挟まれた波長の範囲内にある。
【0054】
図4には、R液晶層12Rがプレーナ状態の時の選択反射光強度分布であるカーブCrが示されている。図4に示すように、カーブCrは、上側に向かって凸状の部分と、この凸状の部分の両側に位置するなだらかな部分とを有する。また、図4には、R液晶層12Rの選択反射光の反射率における変化率の2つの変曲点r1,r2が示されている。R液晶層12Rの選択反射光の反射率の波長に対する変化率は、反射率の変化量と波長の変化量との比として求められ、1次微分係数として定義される。そして、この1次微分係数を更に波長で微分した値であるR液晶層12Rの選択反射光の反射率の2次微分係数がゼロとなる点が2つの変曲点r1,r2となる。R液晶層12Rの選択反射光の反射率は、変曲点r1よりも低い波長領域では下側に向かって凸の形状を有し、変曲点r1と変曲点r2との間の波長領域では、上側に向かって凸の形状を有し、変曲点r2よりも高い波長領域では下側に向かって凸の形状を有する。
【0055】
変曲点r1は、図4において、低い波長から中心波長λsrに向かって反射率が増加していく際の変曲点である。また、変曲点r2は、図4において、高い波長から中心波長λsrに向かって反射率が増加していく際の変曲点である。上述したカーブCrの変曲点に対する説明は、他のカーブCb及びCgの変曲点に対しても適宜適用される。
【0056】
R液晶層12Rは、G液晶層12Gに対して、光吸収層20側に位置しており、表示素子10の最下層の液晶層である。即ち、R液晶層12Rで反射した光は、G液晶層12G及びB液晶層12Bの2つの液晶層を透過して、表示面10Sから出射する。従って、R液晶層12Rで反射した光が、G液晶層12Gを透過する際に生じる散乱を低減することにより、R液晶層12Rで反射した光の指向性を高めることができる。
【0057】
そこで、G液晶層12Gを透過する光の散乱量が極小を示す極小波長λmiが、G液晶層12Gに対して光吸収層20側に配置されたR液晶層12Rの選択反射光の反射率の変化率の2つの変曲点r1,r2に挟まれた波長の範囲内にあることにより、R液晶層12Rで反射した光がG液晶層12Gで散乱することが防止されて、指向性の強い赤色の透過光が得られる。
【0058】
また、表示素子10では、フォーカルコニック状態にあるG液晶層12Gを透過する光の散乱量の極小を示す極小波長λmiが、R液晶層12Rの選択反射光の中心波長λsrの反射率に対して80%以上の反射率を示すR液晶層12Rの波長の範囲以内にあることが好ましい。
【0059】
図4には、R液晶層12Rの選択反射光の中心波長λsrの反射率に対して80%以上の反射率を示す、R液晶層12Rの選択反射波長の範囲の下限波長λsra及び上限波長λsrbが示されている。
【0060】
ここで、極小波長λmiと、下限波長λsraと、上限波長λsrbとが、下記の式を満足する。
【0061】
λsra=<λmi=<λsrb
【0062】
本明細書では、フォーカルコニック状態にある液晶層を透過する光の散乱量の極小を示す極小波長は、液晶層を透過する光が液晶層への入射方向以外の方向に透過して散乱する全散乱光の散乱光強度分布の極小を示す波長を意味する。
【0063】
図5は、フォーカルコニック状態にあるG液晶層12Gを透過する光の散乱光強度と波長との関係を示す図(その1)である。
【0064】
図5に示すように、G液晶層12Gを透過する光の散乱光強度分布は、入射する光の波長に依存して振動するように変化し、散乱光強度の極大を示す極大波長λmaと、極小を示す極小波長λmiとを有する。
【0065】
R液晶層12Rは、G液晶層12Gに対して、表示面10Sとは反対側に位置しており、表示素子10の最下層の液晶層である。即ち、R液晶層12Rで反射した光は、G液晶層12G及びB液晶層12Bの2つの液晶層を透過して、表示面10Sから出射する。従って、R液晶層12Rで反射した光が、G液晶層12Gを透過する際に生じる散乱を低減することにより、R液晶層12Rで反射した光の指向性を高めることができる。
【0066】
そこで、極小波長λmiが、R液晶層12Rの選択反射光の中心波長λsrに対して、下限波長λsra以上上限波長λsrb以下の範囲にあることにより、R液晶層12Rで反射した光がG液晶層12Gで散乱することが防止されて、指向性の強い赤色の透過光が得られる。
【0067】
R液晶層12Rで反射した光がG液晶層12Gで散乱することをより防止する観点から、極小波長λmiは、R液晶層12Rの選択反射光の中心波長λsrの反射率に対して90%以上の反射率を示すR液晶層12Rの選択反射波長の範囲以内にあることが好ましい。
【0068】
特に、極小波長λmiを、R液晶層12Rの選択反射光の中心波長λsrと一致させることにより、R液晶層12Rで反射した光がG液晶層12Gで散乱される量をより低減して、更に指向性の強い赤色の透過光を得ることができる。
【0069】
なお、液晶層に表示面10S側から入射した光も、液晶層を透過する際に散乱するが、画像として認識される光は、必ず下層の何れかのプレーナ状態の液晶層で反射されたものである。従って、反射された光が表示面10S側の液晶層を透過する際に生じる散乱を防止することが、画像を明るくし且つ画像のボケを防止する観点から重要となる。
【0070】
上述した図5に示すフォーカルコニック状態にあるG液晶層12Gを透過する光の散乱光強度と波長との関係は、本願の出願人が新たに発見したコレステリック相を有する液晶の物理的性質である。
【0071】
散乱光強度の波長依存性は、主にコレステリック液晶の厚さとベース液晶(カイラル材が添加される前のネマティック液晶)の複屈折率により決定される。ベース液晶の複屈折率が同じであれば、B液晶層及びR液晶層も同様の波長依存性を示す。従って、散乱光強度の波長依存性は、カイラル材の種類及び添加量により決定される選択反射波長とは、略独立した物理的性質である。
【0072】
図6は、図5に示すG液晶層の厚さを増加した場合のフォーカルコニック状態にあるG液晶層を透過する光の散乱光強度と波長との関係を示す図である。
【0073】
図6は、横軸に示す波長帯域は図5と同じであるが、散乱光強度の波長依存性が変化しており、振動の周期が短くなって、2つの極大と2つの極小が現れている。また、図6に示す極大波長λma1、λma2の値が、図5に示す極大波長λmaの値とは異なっている。同様に、図6に示す極小波長λmi1、λmi2の値が、図5に示す極小波長λmiの値とは異なっている。
【0074】
そこで、G液晶層の厚さと、極大波長及び極小波長との関係を調べた結果を図7に示す。
【0075】
図7は、フォーカルコニック状態にあるG液晶層を透過する光の散乱の極大を示す極大波長及び極小を示す極小波長と液晶層の厚さとの関係を示す図である。図7において、プロットP1が、極大波長と液晶層の厚さとの関係を示し、プロットP2が、極小波長と液晶層の厚さとの関係を示す。
【0076】
極大波長及び極小波長共に、液晶層の厚さに対して線形関係を有していることが分かる。従って、G液晶層12Gを透過する光の散乱光強度分布の極小波長は、G液晶層12Gの厚さを調節することにより決定され得る。同様に、G液晶層12Gを透過する光の散乱光強度分布の極大波長は、G液晶層12Gの厚さを調節することにより決定され得る。
【0077】
なお、図7に示す関係は、図5に示す極大波長λma及び極小波長λmiについて、G液晶層の厚さを変化させて測定した結果であるので、1つの極大波長と液晶層の厚さとの関係、及び1つの極小波長と液晶層の厚さとの関係が示されている。また、図6に示す2つの極大波長及び2つの極小波長について、G液晶層の厚さを変化させて測定した場合には、2つの極大波長と液晶層の厚さとの関係、及び2つの極小波長と液晶層の厚さとの関係が得られることになる。
【0078】
G液晶層12Gの厚さは、図3(B)に示すように、スペーサ18の寸法及びスペーサの数を調節することにより、変更することができる。スペーサ18の寸法の精度は、10nm程度はあるので、図7に示す関係から、散乱光強度の極大波長又は極小波長を数nmの単位で調節することができる。
【0079】
このように、フォーカルコニック状態にあるG液晶層12Gの散乱光強度分布の極大波長又は極小波長を変化させるために、G液晶層12Gの厚さを増加した場合には、プレーナ状態にあるG液晶層12Gの反射率が増加する。一方、G液晶層12Gの厚さを低減した場合には、プレーナ状態にあるG液晶層12Gの反射率が低減する。また、G液晶層12Gの厚さを変えた場合には、液晶層に一定の電場強度を印加するために駆動回路から供給される電圧を液晶層の厚さに応じて調節することになる。
【0080】
また、液晶層の厚さを調節するのとは別に、散乱光強度の極大波長又は極小波長を変化させる方法として、複屈折率が異なるベース液晶を用いることにより、極大波長又は極小波長を変化させることもできる。
【0081】
以上のG液晶層12Gの散乱光強度の極大波長又は極小波長に対する説明は、B液晶層12B及びR液晶層12Rに対しても適宜適用される。
【0082】
次に、液晶層を透過する光の散乱光強度と波長との関係を測定する方法を以下に説明する。
【0083】
まず、フォーカルコニック状態にある液晶層に対して入射光を垂直に照射し、積分球を用いて、入射方向に液晶層を透過した直進光と、液晶層を透過して入射方向以外の方向に散乱した散乱光とを合わせた全光線透過率T(λ)を、入射光の波長λを変えて波長ごとに測定する。
【0084】
次に、フォーカルコニック状態にある液晶層に対して入射光を照射し、積分球を用いて、入射方向に液晶層を透過した直進光の透過率R(λ)を、入射光の波長λを変えて波長ごとに測定する。
【0085】
次に、全光線透過率T(λ)及び直進光の透過率R(λ)を下記の式に代入して、波長ごとの散乱光強度S(λ)を得た。
【0086】
S(λ)=a×(T(λ)−R(λ))+b
【0087】
ここで、aはゲインパラメータであり、bはベースラインパラメータである。
【0088】
以上が、散乱光強度と波長との関係を測定する方法の説明である。
【0089】
図8は、図2の表示装置のプレーナ状態にある表示パネルで反射した光が、表示面10S側の表示パネルを透過する様子を示す図である。なお、図8では、一部の構成要素の図示を省略している。
【0090】
図8では、R表示パネル10Rを明(反射)状態にし、B表示パネル10B及びG表示パネル10Gを暗(透過)状態にして、赤色の表示が行われている。即ち、プレーナ状態にあるR表示パネル10Rで反射した光が、表示面10S側のB表示パネル110B及びG表示パネル110Gを透過する様子を示している。
【0091】
本実施形態の表示装置1では、R表示パネル10Rで選択反射された反射光がG表示パネル10Gを透過する際に生じる散乱が低減されているので、表示面10Sからは、指向性の高い赤色光が出射される。
【0092】
また、本実施形態の表示装置1の白表示状態では、全ての液晶層がモノドメインのプレーナ状態になっており、全ての液晶層の反射光は、表示面10S側の液晶層を透過する際に散乱が防止されているので、明るく鮮明な表示が得られる。
【0093】
上述した本実施形態の表示装置1によれば、下層からの反射光が表示面10S側の液晶層を透過する際に生じる散乱が低減しているので、画像が明るく且つ画像のボケが防止される。即ち、鮮明かつ明るいカラー画像の表示が得られる。
【0094】
上述した第1実施形態では、G液晶層12Gがフォーカルコニック状態にあるときにG液晶層12Gを透過する光の散乱量が極小を示す極小波長λmiが、G液晶層12Gよりも光吸収層20側に配置されたR液晶層12Rの選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点r1,r2に挟まれた波長の範囲内にあった。しかし、他の液晶層間に同様の関係を規定しても良い。例えば、B液晶層12Bがフォーカルコニック状態にあるときにB液晶層12Bを透過する光の散乱量が極小を示す極小波長λmiが、B液晶層12Bよりも光吸収層20側に配置されたG液晶層12Gの選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点g1,g2に挟まれた波長の範囲内にあっても良い。また、B液晶層12Bがフォーカルコニック状態にあるときにB液晶層12Bを透過する光の散乱量が極小を示す極小波長λmiが、B液晶層12Bよりも光吸収層20側に配置されたR液晶層12Rの選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点r1,r2に挟まれた波長の範囲内にあっても良い。なお、図4には、B液晶層12Bの選択反射光の反射率における変化率の2つの変曲点b1,b2も示されている。
【0095】
また、上述した第1実施形態では、フォーカルコニック状態にあるG液晶層12Gを透過する光の散乱量の極小を示す極小波長が、R液晶層12Rの選択反射光の中心波長λsrの反射率に対して80%以上の反射率を示すR液晶層12Rの選択反射波長の範囲以内にあった。即ち、G液晶層12Gを透過する光の散乱量の極小を示す極小波長と、R液晶層12Rの選択反射波長との関係を規定していた。しかし、他の液晶層間に同様の関係を規定しても良い。例えば、フォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bを透過する光の散乱量の極小を示す極小波長を、R液晶層12Rの選択反射光の中心波長λsrの反射率に対して80%以上の反射率を示すR液晶層12Rの選択反射波長の範囲以内にしても良い。また、フォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bを透過する光の散乱量の極小を示す極小波長を、G液晶層12Gの選択反射光の中心波長λsgの反射率に対して80%以上の反射率を示すG液晶層12Gの選択反射波長の範囲以内にしても良い。
【0096】
次に、上述した第1実施形態の表示装置の変形例1及び変形例2を以下に説明する。
【0097】
まず、変形例1の表示装置について、以下に説明する。
【0098】
変形例1の表示装置の表示素子10では、上述した第1実施形態と同様に、G液晶層12Gがフォーカルコニック状態にあるときにG液晶層12Gを透過する光の散乱量が極小を示す極小波長λmiが、G液晶層12Gよりも光吸収層20側に配置されたR液晶層12Rの選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点r1,r2に挟まれた波長の範囲内にある。これにより、R液晶層12Rで反射した光がG液晶層12Gで散乱することが防止されて、指向性の強い赤色の透過光が得られる。
【0099】
また、変形例1では、B液晶層12Bがフォーカルコニック状態にあるときにB液晶層12Bを透過する光の散乱量が極小を示す極小波長λmiが、B液晶層12Bよりも光吸収層20側に配置されたG液晶層12Gの選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点g1,g2に挟まれた波長の範囲内にある。これにより、G液晶層12Gで反射した光がB液晶層12Bで散乱することが防止されて、指向性の強い緑色の透過光が得られる。
【0100】
特に、B液晶層12Bを透過する光の散乱量の極小を示す極小波長が、G液晶層12Gの選択反射光の中心波長と一致しており、G液晶層12Gを透過する光の散乱量の極小を示す極小波長が、R液晶層12Rの選択反射光の中心波長と一致していることが好ましい。これにより、G液晶層12Gで反射した光がB液晶層12Bを透過する際に散乱される量を更に低減し、且つR液晶層12Rで反射した光がG液晶層12Gを透過する際に散乱される量を更に低減して、より指向性の強い透過光を得ることができる。
【0101】
変形例1のその他の構成は、上述した第1実施形態と同様である。
【0102】
次に、変形例2の表示装置について、以下に説明する。
【0103】
変形例2の表示装置の表示素子10では、上述した第1実施形態とは異なり、B液晶層12Bがフォーカルコニック状態にあるときにB液晶層12Bを透過する光の散乱量が極小を示す極小波長λmiが、B液晶層12Bよりも光吸収層20側に配置されたR液晶層12Rの選択反射光の反射率における変化率の2つの変曲点r1,r2に挟まれた波長の範囲内にある。これにより、R液晶層12Rで反射した光がB液晶層12Bで散乱することが防止されて、指向性の強い赤色の透過光が得られる。
【0104】
最表面側に位置する表示パネル10Bのフォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bに対して光吸収層20側に位置する他の液晶層は、B液晶層12Bよりも内側に位置する、G液晶層12G又はR液晶層12Rの2つがある。
【0105】
そして、変形例2の表示素子10では、フォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bを透過する光の散乱量の極大を示す極大波長が、B液晶層12Bに対して光吸収層20側に位置するG液晶層12Gの選択反射光の中心波長λsg及びR液晶層12Rの選択反射光の中心波長λsrとは異なっている。
【0106】
本明細書では、フォーカルコニック状態にある液晶層を透過する光の散乱の極大を示す極大波長は、液晶層を透過する光が液晶層への入射方向以外の方向に透過して散乱する全散乱光の散乱光強度分布の極大を示す波長を意味する。
【0107】
ここで、B液晶層12Bを透過する光の散乱量の極大を示す極大波長と、G液晶層12Gの選択反射光の中心波長λsgとの差は、該選択反射光の中心波長λsgを中心とする選択反射光強度である反射率分布の半値全幅Wg(図4参照)の半分よりも大きいことが好ましい。これにより、G液晶層12Gで反射した光がB液晶層12Bで散乱することが防止されて、指向性の強い緑色の透過光が得られる。
【0108】
また、図7に示すように、B液晶層12Bを透過する光の散乱光強度分布の極大波長は、B液晶層12Bの厚さを調節することにより決定され得る。
【0109】
変形例2のその他の構成は、上述した第1実施形態と同様である。
【0110】
次に、上述した表示装置の第2実施形態を、図9及び図10を参照しながら以下に説明する。第2実施形態について特に説明しない点については、上述の第1実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また、同一の構成要素には同一の符号を付してある。
【0111】
図9は、第2実施形態の表示装置のB表示パネル10Bの断面図である。
【0112】
本実施形態の表示装置では、上述した実施形態とは異なり、表示素子の最表示面側に位置するB液晶パネル10Bは、上配向膜及び下配向膜を有していない。一方、最表示面側以外に位置するG液晶パネル10G及びR液晶パネル10Rは、上述した実施形態と同様に、上配向膜及び下配向膜を有している。
【0113】
従って、最表示面側に位置するB液晶層12Bの液晶を所定の方向に配向するように規制する配向規制力は、他の液晶層12G,12Rの配向規制力よりも小さい。
【0114】
本実施形態は、上述した構造のB表示パネル10Bを有しているので、広い視野角を有する。この点に関して、以下に説明する。
【0115】
最表示面側に位置するB表示パネル10Bが配向膜を有していると、B液晶層12Bのプレーナ状態では、液晶分子の方向が全体に揃った方向に配向したモノドメイン状態が形成される。そして、最下層のR液晶層12Rで反射した光がB液晶層12Bを透過する際、モノドメイン状態では散乱が少ないので、指向性の高い赤色の透過光が得られる。即ち、R液晶層12Rで反射してB液晶層12Bに入射する光は、最表示面側に位置するB液晶層12Bにおける散乱が少ないために、入射方向以外に散乱して透過する光が少ない。
【0116】
また、表示装置が室内で使用される場合には、天井等に固定された照明等から表示素子に入射する光の入射方向には一般に指向性があるので、R液晶層12Rで反射してB液晶層12Bに入射する光にも指向性が存在する。
【0117】
従って、最表示面側に位置するB表示パネル10Bが配向膜を有していると、R液晶層12Rで反射した光は、表示面10Sから出射して特定の方向に進むので、画像の視野角が狭くなるおそれがある。
【0118】
一方、最表示面側に位置するB液晶層12Bが配向膜を有していないと、B液晶層12Bのプレーナ状態では、各領域の配向の方向がランダムであるポリドメイン状態が形成される。そして、R液晶層12Rで反射した光がB液晶層12Bを透過する際、ポリドメイン状態ではモノドメイン状態よりも散乱が多くなるので、入射方向以外の方向に透過して散乱する赤色光が多く得られる。
【0119】
同様に、G液晶層12Gで反射した光がB液晶層12Bを透過する際の散乱光も多くなる。
【0120】
また、本実施形態の表示素子10では、上述した第1実施形態と同様に、G液晶層12Gがフォーカルコニック状態にあるときにG液晶層12Gを透過する光の散乱量が極小を示す極小波長λmiが、G液晶層12Gよりも光吸収層20側に配置されたR液晶層12Rの選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点r1,r2に挟まれた波長の範囲内にある。
【0121】
また、本実施形態の表示素子10では、上述した第1実施形態と同様に、フォーカルコニック状態にあるG液晶層12Gを透過する光の散乱量の極小を示す極小波長が、R液晶層12Rの選択反射光の中心波長λsrの反射率に対して80%以上の反射率を示すR液晶層12Rの波長の範囲以内にある。
【0122】
図10は、第2実施形態の表示装置のプレーナ状態にあるR表示パネル10Rで反射した光が、表示面10S側の表示パネルを透過する様子を示す図である。
【0123】
図10では、B表示パネル10B及びR表示パネル10Rを明(反射)状態にし、G表示パネル10Gを暗(透過)状態にして、マゼンダ色(青色及び赤色の混合色)の表示が行われている。そして、プレーナ状態にあるR表示パネル10Rで反射した赤色光が、表示面10S側のB表示パネル10B及びG表示パネル10Gを透過する様子を示している。図示していないが、青色光が、プレーナ状態にあるB表示パネル10Bで反射されている。
【0124】
本実施形態の表示装置では、R表示パネル10Rで選択反射された反射光がG表示パネル10Gを透過する際に生じる散乱が低減されるので、G表示パネル10Gからは、指向性の高い赤色光がB表示パネル10Bに向けて出射される。
【0125】
そして、G表示パネル10Gを透過したR表示パネル10Rで選択反射された反射光がB表示パネル10Bを透過する際に、一部の透過光が入射方向以外の方向に散乱するので、赤色光による画像の視野角が広くなる。
【0126】
上述した本実施形態の表示装置によれば、画像が明るく且つ画像のボケが防止されると共に、画像の視野角が広くなる。
【0127】
次に、上述した第2実施形態の表示装置の変形例1及び変形例2を以下に説明する。
【0128】
まず、変形例1の表示装置について、以下に説明する。
【0129】
第2実施形態の変形例1の表示素子10では、フォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bを透過する光の散乱量の極小を示す極小波長が、G液晶層12G又はR液晶層12Rの選択反射光の中心波長とは異なっている。これにより、フォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bを透過する緑色光及び赤色光の一部が散乱するので、画像の視野角が広くなる。
【0130】
この観点から、特に、フォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bを透過する光の散乱量の極大を示す極大波長が、G液晶層12G又はR液晶層12Rの選択反射光の中心波長とは一致していることが好ましい。
【0131】
変形例1のその他の構成は、上述した第2実施形態と同様である。
【0132】
次に、変形例2の表示装置について、以下に説明する。
【0133】
図11は、第2実施形態の変形例2のフォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bを透過する光の散乱光強度と波長との関係を示す図である。
【0134】
図11に示す散乱光強度分布は、2つの極大波長λma1、λma2と、2つの極小波長λmi1、λmi2とを有する。
【0135】
変形例2では、フォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bを透過する光の散乱の極大を示す極大波長λma2と、この極大波長λma2に隣接する極小波長λmi1と、G液晶層12Gの選択反射光の中心波長λsgとが、
|λma2−λsg|<|λsg−λmi1|
なる関係を満足する。極小波長λmi1は、フォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bを透過する光の散乱量の極小を示す、極大波長λmaに隣接する一方の極小波長である。
【0136】
これにより、G液晶層12Gで反射した緑色光の一部がB液晶層12Bで散乱されることを許容しつつ、指向性の強い緑色の透過光が得られる。
【0137】
また、変形例2では、フォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bを透過する光の散乱の極大を示す極大波長λma2と、この極大波長λma2に隣接する極小波長λmi2と、R液晶層12Rの選択反射光の中心波長λsrとが、
|λma2−λsr|<|λsr−λmi2|
なる関係を満足する。極小波長λmi2は、フォーカルコニック状態にあるB液晶層12Bを透過する光の散乱量の極小を示す、極大波長λmaに隣接する他方の極小波長である。
【0138】
これにより、R液晶層12Rで反射した赤色光の一部がB液晶層12Bで散乱されることを許容しつつ、指向性の強い赤色の透過光が得られる。
【0139】
変形例2のその他の構成は、上述した第2実施形態と同様である。
【0140】
上述した変形例2の表示装置によれば、画像が明るく且つ画像のボケが防止されると共に、画像の視野角がより広くなる。
【0141】
本発明では、上述した実施形態及びその変形例の表示装置及び表示素子は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。また、一の実施形態が有する構成要件は、他の実施形態にも適宜適用することができる。
【0142】
例えば、上述した実施形態及びその変形例では、表示素子が、3つの液晶層を有していたが、表示素子は、2つの液晶層又は4つ以上の液晶層を有していても良い。
【0143】
ここで述べられた全ての例及び条件付きの言葉は、読者が、発明者によって寄与された発明及び概念を技術を深めて理解することを助けるための教育的な目的を意図する。ここで述べられた全ての例及び条件付きの言葉は、そのような具体的に述べられた例及び条件に限定されることなく解釈されるべきである。また、明細書のそのような例示の機構は、本発明の優越性及び劣等性を示すこととは関係しない。本発明の実施形態は詳細に説明されているが、その様々な変更、置き換え又は修正が本発明の精神及び範囲を逸脱しない限り行われ得ることが理解されるべきである。
【符号の説明】
【0144】
1 表示装置
10 表示素子
10S 表示面
10B、10G、10R 表示パネル
11B、11G、11R 上基板
12B、12G、12R 液晶層
13B、13G、13R 下基板
14 データ電極
15 走査電極
16 上配向膜
17 下配向膜
18 スペーサ
19 シール
20 光吸収層
30B、30G、30R 駆動回路
31B データ電極駆動回路
32B 走査電極駆動回路
λsb 青選択反射光の中心波長
λsg 緑選択反射光の中心波長
λsr 赤選択反射光の中心波長
λma、λma1、λma2 極大波長
λmi、λmi1、λmi2 極小波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収層上に、選択反射し且つコレステリック相を示す液晶層が複数積層された反射型の表示素子であって、
一の液晶層がフォーカルコニック状態にあるときに前記一の液晶層を透過する光の散乱量が極小を示す極小波長が、前記一の液晶層よりも前記光吸収層側に配置された他の液晶層の選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点に挟まれた波長の範囲内にあることを特徴とする表示素子。
【請求項2】
前記極小波長が、前記他の液晶層の選択反射光の中心波長の反射率に対して80%以上の反射率を示す波長の範囲以内にある請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
前記極小波長が、前記他の液晶層の選択反射光の中心波長と一致している請求項1又は2に記載の表示素子。
【請求項4】
前記極小波長が、前記一の液晶層の厚さにより決定される請求項1〜3の何れか一項に記載の表示素子。
【請求項5】
フォーカルコニック状態にある前記一の液晶層を透過する光の散乱量が極大を示す極大波長が、前記一の液晶層に対して前記光吸収層側に位置する全ての液晶層の選択反射光の中心波長とは異なっている請求項1〜4の何れか一項に記載の表示素子。
【請求項6】
前記光吸収層上に第3の液晶層及び第2の液晶層及び第1の液晶層の順番に配置されており、
前記第1の液晶層を透過する光の散乱量の極小を示す極小波長が、前記第2液晶層選択反射光の中心波長と一致しており、
前記第2の液晶層を透過する光の散乱量の極小を示す極小波長が、前記第3の液晶層選択反射光の中心波長と一致している請求項1〜4の何れか一項に記載の表示素子。
【請求項7】
前記一の液晶層は、最表示面側には位置しておらず、
最表示面側に位置する液晶層の液晶を所定の方向に配向するように規制する配向規制力は、最表示面側以外に位置する他の液晶層の配向規制力よりも小さい請求項1に記載の表示素子。
【請求項8】
光吸収層上に、選択反射し且つコレステリック相を示す液晶層が複数積層された反射型の表示素子であって、一の液晶層がフォーカルコニック状態にあるときに前記一の液晶層を透過する光の散乱量が極小を示す極小波長が、前記一の液晶層よりも前記光吸収層側に配置された他の液晶層の選択反射光の反射率における波長に対する変化率の2つの変曲点に挟まれた波長の範囲内にある表示素子と、
前記表示素子を駆動する駆動回路と、
を備えることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−177759(P2012−177759A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39800(P2011−39800)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】