表示装置の光源明るさ決定方法及び光源発光方法、並びに、表示装置
【課題】高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずに光源による表示装置の表示を視認させ易くすることを課題とする。
【解決手段】(A)光の波長をλ、該波長λの関数とされた光源34の分光放射強度をI(λ)、波長λの関数とされた対象者の分光視感効率をVo(λ)、波長λの関数とされた標準とする分光視感効率をV(λ)、該標準とする分光視感効率V(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm、対象者の分光視感効率Vo(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm_o、可視放射の短波長側の波長をλS、可視放射の長波長側の波長をλLとするとき、標準の視感光度ILuと対象者の視感光度ILu_oとの比に対応した値を求め、(B)該求めた値に基づいて、標準の明るさを基準としてILu_oに対するILuの比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさを表示装置2の光源34の明るさとして決定する。
【解決手段】(A)光の波長をλ、該波長λの関数とされた光源34の分光放射強度をI(λ)、波長λの関数とされた対象者の分光視感効率をVo(λ)、波長λの関数とされた標準とする分光視感効率をV(λ)、該標準とする分光視感効率V(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm、対象者の分光視感効率Vo(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm_o、可視放射の短波長側の波長をλS、可視放射の長波長側の波長をλLとするとき、標準の視感光度ILuと対象者の視感光度ILu_oとの比に対応した値を求め、(B)該求めた値に基づいて、標準の明るさを基準としてILu_oに対するILuの比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさを表示装置2の光源34の明るさとして決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や色弱者といった対象者の視感に合わせた表示装置、並びに、光源明るさ決定方法及び光源発光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
システムバス、システムキッチン、洗面化粧台などに設置されるリモコン(遠隔操作装置)や操作パネルには、表示のための光源が設けられることがある。
また、高齢者や色弱者の視感に合わせて表示を変える技術として、特許文献1〜4に記載された技術が知られている。
なお、色弱者は、色覚障害者等とも呼ばれている。
【0003】
特許文献1には、互いに異なる色調で色付けられた各モード設定ボタンの中から選択されたモード設定ボタンに割り当てられた色調で操作画面を表示する画面表示方法が開示されている。従って、モード設定ボタン操作に応じて操作画面の色が変わることになる。
【0004】
特許文献2に開示された技術は、色覚障害者に固有の2種類の色差を算出し、色認知特性データベースから色覚健常者の色認知に関する心理尺度値を参照し、3種類の色差と心理尺度値に関する一定の基準を満たす色を検索し、色覚障害者が識別できない色を検索された色で置き換えるものである。従って、色覚健常者用に設計された色が変わることになる。
なお、特許文献2には、輝度軸とθ軸とを非線形的に伸縮させることは記載されているが、具体的にどの程度輝度軸を伸縮させるのかは記載されていない。
【0005】
特許文献3には、頭部又は顔面に取り付けられる画像表示装置を有する画像表示システムが開示されている。この画像表示システムは、色覚障害者が認識し難い色の領域を検出し、この領域のエッジ領域を検出し、このエッジ領域に白色ラインを重畳的に付加するとともに、緑の領域を青で表示する。従って、正常者用に設計された色やデザインが変わることになる。
なお、特許文献3には、画像の表示輝度を輝度変更ダイヤルの回転方向及び回転量に応じた輝度値に変更することが記載されている。従って、色覚障害者は画像の表示輝度を調整する操作を行う必要があり、色覚障害者の視感に応じて画像の表示輝度をどの程度変えるのか具体的な記載は無い。
【0006】
特許文献4には、コンピュータのユーザーの眼の状態にあわせて画面表示をコントロールする画像表示装置が開示されている。この画像表示装置は、老眼の有無や色覚異常等のユーザーの状態情報に基づいて、色や輝度の変換規則を含む表示コントロール情報を生成し、この表示コントロール情報を用いて表示する。色覚異常のユーザーの場合は、赤あるいは緑を他の色に変更する等、特定の色を他の色に変換する色変換規則を抽出する。従って、画面表示の色が変わることになる。
なお、特許文献4には、輝度を変換することは記載されているが、具体的にどの程度輝度を変換させるのかは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−77828号公報
【特許文献2】特開2007−293832号公報
【特許文献3】特開2007−122340号公報
【特許文献4】特開2007−010924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
色には、赤は熱い、青は冷たい、といった色自体の意味がある。従って、従来技術のように色を変えることは、色自体の意味が無くなることになり、色を用いた製品の使い易さが低下してしまうことに繋がる。製品のマニュアルを作る際にも、製品に表示される色が変わると、色を用いた説明をすることができなくなる。
なお、特許文献1,3記載の技術のように色覚障害者が認識し難い色の境界を抽出するためには抽出のための画像処理が必要となる。表示デバイスの解像度等の制限によっては、細かい部分について境界部分の強調ができなかったり、強調により逆に見え難くなったりすることがある。
一方で、従来技術には、高齢者や色弱者が視認し易くなる度合いで表示輝度を変える具体的な技術は無い。
【0009】
以上を鑑み、本発明は、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずに光源による表示装置の表示を視認させ易くすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、表示装置の光源について標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを基準として対象者の視感に合わせた前記光源の明るさを決定する表示装置の光源明るさ決定方法であって、
(A)光の波長をλ、該波長λの関数とされた前記光源の分光放射強度をI(λ)、前記波長λの関数とされた前記対象者の分光視感効率をVo(λ)、前記波長λの関数とされた標準とする分光視感効率をV(λ)、該標準とする分光視感効率V(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm、前記対象者の分光視感効率Vo(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm_o、可視放射の短波長側の波長をλS、可視放射の長波長側の波長をλLとするとき、標準の視感光度
【数1】
と前記対象者の視感光度
【数2】
との比に対応した値を求めるステップと、
(B)前記ステップ(A)で求めた値に基づいて、前記標準の明るさを基準として前記ILu_oに対する前記ILuの比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさを前記光源の明るさとして決定するステップと
を備えることを特徴とする。
【0011】
すなわち、本発明は、標準の視感光度ILuと対象者の視感光度ILu_oとの比という新規な概念が導入されている。各視感光度は、標準の使用者と対象者が感じる明るさを表す心理物理量ということができる。上記ステップ(B)により、光源の明るさは、標準の明るさを基準として対象者の視感光度ILu_oに対する標準の視感光度ILuの比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさに決定される。比ILu/ILu_oは、標準の使用者の心理物理量と対象者の心理物理量との比ということができ、標準の使用者と対象者の明るさの感じ方の違いを表す比率ということができる。
以上より、決定される光源の明るさは、対象者が光源による表示を見たときに標準の使用者が標準の明るさの光源による表示を見たときに感じる明るさに近づいている。従って、色が変わらなくても、高齢者や色弱者といった対象者は光源による表示を視認し易くなる。
【0012】
なお、高齢者や色弱者であっても、文字等のオブジェクトと背景との明るさの差があれば、色が変わらなくてもオブジェクトを認識することができる。従って、上述した方法で光源の明るさを決定することにより、高齢者や色弱者は十分に光源による表示を視認することができる。
以上より、高齢者や色弱者等の幅広いユーザーの色覚特性を考慮したカラーユニバーサルデザインの実現が容易となる。
【0013】
ところで、本発明にいう明るさを表す量には、光度、輝度、光束、照度、等が含まれる。
標準の視感光度ILuと対象者の視感光度ILu_oとの比には、ILu_o/ILuとILu/ILu_oの両方が含まれる。
ILuとILu_oとの比を表す値は、上記式(1),(2)の積分を厳密にして求められる値のみならず、上記式(1),(2)を数列の和に置き換えて求められる近似値、これらの値に所定値を加減乗除した値、等も含まれる。また、ステップ(A)では、ILu自体やILu_o自体を求める必要は無く、ILuとILu_oとの比を表す値が最終的に求まればよい。
標準の明るさを基準として比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさは、標準の明るさを表す量に比ILu/ILu_oを乗じて厳密に求められる量で表される明るさのみならず、複数段階の明るさのうち前記厳密に求められる量で表される明るさに最も近い明るさ、等が含まれる。
【0014】
また、前記光源に、n個(nは1以上の整数)のピーク波長λpi(iは1からnまでの整数)を有し各ピーク波長λpiに対応した半値全幅がλdiとされた光源を用い、
前記ステップ(A)では、各ピーク波長λpiに対応した標準偏差σiを
【数3】
とし、各ピーク波長λpiに対応した放射強度の補正係数をIiとして、前記分光放射強度I(λ)を
【数4】
と決定し、該決定した分光放射強度I(λ)を用いて前記ILuと前記ILu_oとの比に対応した値を求めてもよい。
ここで、ピーク波長λpiは、分光放射強度I(λ)が頂点となる波長をいう。理想的な単色光源の場合、ピーク波長pは、分光放射強度I(λ)が最大となる単一の波長となる。
【0015】
さらに、本発明は、上述した光源明るさ決定方法で決定された明るさで前記光源を発光させる表示装置の光源発光方法であって、
前記表示装置に、入力に応じた明るさに変えて前記光源を発光させる光源明るさ可変手段を設け、
前記ステップ(B)で決定された明るさに対応した入力を前記光源明るさ可変手段に対して行うことにより、前記標準の明るさで発光する前記光源の明るさを前記ステップ(B)で決定された明るさに変えることを特徴とする。
ここで、光源明るさ可変手段には、光源に供給する電圧パルスの幅を変える手段、光源に供給する電流量を変える手段、光源に供給する電圧を変える手段、等が含まれる。
【0016】
さらに、本発明の表示装置の光源発光方法は、上述した光源明るさ決定方法で決定された明るさに最も近い明るさの光源を複数の光源の中から選択し、該選択した光源を前記表示装置に装着して発光させることを特徴とする。
さらに、本発明の表示装置は、上述した光源明るさ決定方法で決定された明るさで前記光源を発光させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずに光源による表示装置の表示を視認させ易くすることが可能な光源明るさ決定方法を提供することができる。
請求項2に係る発明では、光源の分光放射強度が分かっていなくても、光源のピーク波長及び半値全幅から光源の分光放射強度を推定して高齢者や色弱者といった対象者の視感に合わせた光源の明るさを決定することができる。
請求項3に係る発明では、光源を変えなくても高齢者や色弱者といった対象者の視感に合わせた明るさで表示装置の光源を発光させることが可能な光源発光方法を提供することができる。
請求項4に係る発明では、光源の明るさを変える回路を設けなくても高齢者や色弱者といった対象者の視感に合わせた明るさで表示装置の光源を発光させることが可能な光源発光方法を提供することができる。
請求項5に係る発明では、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずに光源による表示を視認させ易くする表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一の実施形態に係る表示装置2の外観を例示する図である。
【図2】表示装置2を有するリモートコントロールシステム1の電気回路の概略を例示するブロック図である。
【図3】パルス幅変調制御により光源34の明るさを変える例を説明するための図である。
【図4】人の色覚特性の種類と呼称を示す図である。
【図5】明るさ知覚効率データベースDB1の構造を例示する図である。
【図6】光源明るさ決定方法に用いるコンピュータ80の構成の概略を例示するブロック図である。
【図7】表示装置2が行う処理を例示するフローチャートである。
【図8】LEDの分光放射強度I(λ)を例示する図である。
【図9】高齢者及び二色覚者の分光視感効率Vo(λ)を例示する図である。
【図10】高齢者と一型二色覚者の分光視感効率Velderly(λ),Vprotan(λ)を多項式フィッティングした場合の多項式の次数に対する決定係数R2を例示する図である。
【図11】発光ダイオードの半値全幅の違いによる高齢者の明るさ知覚効率BPEelderlyの違いを例示する図である。
【図12】発光ダイオードの半値全幅の違いによる一型二色覚者の明るさ知覚効率BPEprotanの違いを例示する図である。
【図13】コンピュータ80が行う光源明るさ決定処理を例示するフローチャートである。
【図14】コンピュータ80が行う分光放射強度分布決定処理を例示するフローチャートである。
【図15】第二の実施形態に係る表示装置が行う処理を例示するフローチャートである。
【図16】第三の実施形態に係るリモートコントロールシステム101の電気回路の概略を例示するブロック図である。
【図17】第三の実施形態に係る表示装置102の光源発光方法を模式的に例示する図である。
【図18】第四の実施形態に係る表示装置202の外観を例示する図である。
【図19】第四の実施形態に係るリモートコントロールシステム201の電気回路の概略を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、下記の順に従って本発明の実施形態を説明する。
(1)第一の実施形態に係る表示装置の概略:
(2)表示装置の光源明るさ決定方法及び光源発光方法の概略:
(3)光源明るさ決定方法に用いるコンピュータの説明:
(4)表示装置の処理の説明:
(5)光源の分光放射強度I(λ)の決定方法:
(6)高齢者と二色覚者の分光視感効率Vo(λ)の説明:
(7)明るさ知覚効率BPEの説明:
(8)明るさ知覚効率BPEを用いた光源明るさ決定方法の説明:
(9)光源明るさ決定プログラムによる光源明るさ決定方法の説明:
(10)光源明るさ決定方法及び光源発光方法の効果の説明:
(11)各種変形例:
【0020】
(1)第一の実施形態に係る表示装置の概略:
図1,2に示すように、リモートコントロールシステム1は、本発明の表示装置となるリモートコントロール装置(以下、リモコン装置)2で照明44〜46のオンオフ及びスポット照明45,46の明るさ変更を遠隔操作可能とされている。リモコン装置2の前面に設けられた操作パネル21には、各種操作ボタン23a〜23e,24a〜24cや各種LED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)34が設けられている。ここで、照明操作ボタン23a〜23cは、照明44〜46をオンオフするための押しボタンスイッチとされている。照明操作ボタン23d,23eは、スポット照明45,46の明るさを段階的に変更するための押しボタンスイッチとされている。LED34aは、どのスポット照明45,46が点灯しているかを示すための点光源とされている。LED34bは、点灯しているスポット照明の明るさを示すための点光源とされている。これらのLED34a,34bは、リモコン装置2を操作するときの位置(例えば50cm離れた距離)から見て視野角が2°未満の狭い表示面積とされている。
本実施形態のリモコン装置2は、高齢者や色弱者の視感に合わせてLED34の明るさを変更するためのモード切替ボタン24a〜24cを備えている。モード切替ボタン24a〜24cは、それぞれ、通常モード、高齢者モード、一型二色覚者モードを選択操作するための押しボタンスイッチとされている。
【0021】
図2に示すように、リモコン装置2は、コントロールユニット10に操作部20及び光源明るさ可変手段31が接続されている。
コントロールユニット10は、内部のバスにCPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、不揮発性半導体メモリ14、I/O(入出力)回路15、等が接続されたマイコン(マイクロコンピュータ)とされている。ROM12には、照明44〜46のオンオフやスポット照明45,46の明るさ変更を制御するためのプログラムが書き込まれている。不揮発性メモリ14には、PWM(Pulse Width Modulation;パルス幅変調)制御によりLED34の明るさを変更するためのパルス幅に対応したパルス幅値14a〜14cが記憶されている。PWM制御のパルス幅を指令するためのパルス幅指令値は、I/O回路15から光源明るさ可変手段31のパルス幅制御回路32へ出力される。また、照明44〜46のオンオフやスポット照明45,46の明るさ変更を制御するための照明制御信号は、I/O回路15から照明駆動回路41〜43へ出力される。CPU11は、ROM12に記録されたプログラムに基づいてリモコン装置2の各部を制御する。
操作部20には、上述した各種操作ボタン23a〜23e,24a〜24cが設けられている。
【0022】
光源明るさ可変手段31は、パルス幅制御回路32と光源駆動回路33を備え、コントロールユニット10からの入力に応じた明るさに変えてLED34を発光させる。
パルス幅制御回路32は、コントロールユニット10からパルス幅指令値を入力し、このパルス幅指令値に対応したパルス幅のPWM信号を生成する。パルス幅制御回路32は、公知の回路を用いることができ、例えば図2中に示した原理でPWM信号を生成することができる。ここで、図2中に示したグラフは、横軸が時間t、縦軸がカウンタのカウント値である。図2に示すパルス幅制御回路32は、クロックに同期したパルスをカウンタでカウントし、カウンタの値がクリア値に達するとカウンタを0に戻し、カウンタの値が0に戻った時点でPWM信号をオフからオンに切り替え、カウンタの値がパルス幅指令値に達した時点でPWM信号をオンからオフに切り替える。カウンタを0に戻す間隔は、LED発光のオンオフが人の目に判らない程度に短い間隔としている。図2に示す例の場合、総時間に対するLED点灯時間の比を表すPWM信号のデューティ比は、パルス幅指令値が大きくなるほど大きくなる。むろん、図2で示したPWM信号とはオンオフが逆となるPWM信号を生成するパルス幅制御回路でも、PWM制御によりLED34の明るさを変更することが可能である。
【0023】
光源駆動回路33は、パルス幅制御回路32からPWM信号を入力し、このPWM信号に同期したパルス幅の定電流をLED34に供給する。光源駆動回路33は、公知の回路を用いることができ、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、定電流レギュレータ、等でLED34を点灯させるのに十分な電圧の出力電流をPWM信号に従ってオンオフする。
LED34a,34bは、光源駆動回路33からパルス状の電流を入力して発光する。この電流は、コントロールユニット10からのパルス幅指令値に対応したパルス幅となる。LED発光のオンオフの周期が人の目で判らない程度に短ければ、見かけ上、LEDがデューティ比に比例した光度となる。
【0024】
リモコン装置2に接続された照明駆動回路41〜43は、コントロールユニット10から上記照明制御信号を入力し、この照明制御信号に従って照明44〜46を駆動(オンオフ)したりスポット照明45,46の明るさを制御したりする。
【0025】
ところで、LEDを使用した操作・表示機器の最も基本的な機能要件は、LEDの点灯を容易に認識させることである。また、機器のインターフェイスデザインとして、高齢者や色弱者等の幅広いユーザーの色覚特性に考慮したデザイン(カラーユニバーサルデザイン)が要望されている。しかし、LEDの発光波長特性(ピーク波長、発光スペクトルの広がり等)が高齢者や色弱者の感じる明るさに与える影響について、定量的に推定する方法は検討されていなかった。そのため、機器のハードウエア設計者は、どのような光学特性を持つLEDを製品に使用すれば高齢者や色弱者が見易くなるのか分からなかった。
一方、インターフェイスデザインの色を変えることは、色自体の意味が無くなることになり、色を用いた製品の使い易さが低下してしまうことに繋がる。
そこで、本実施形態のリモコン装置2は、色を変えずにLED34を視認させ易くした装置としている。
【0026】
(2)表示装置の光源明るさ決定方法及び光源発光方法の概略:
リモコン装置2のLED34の明るさを決定するため、第一のステップ(A)として、標準の視感光度ILuと高齢者や色弱者の視感光度ILu_oとの比に対応した値ILu_o/ILuを求めることにしている。この値ILu_o/ILuは、高齢者や色弱者が点灯状態のLEDを見たときに標準の使用者の感じる明るさの何倍に感じられるのかを表わす。以後、値ILu_o/ILuを「明るさ知覚効率」(brightness perception efficiency)と呼ぶことにする。
LED34の明るさを決定するための第二のステップ(B)として、明るさ知覚効率ILu_o/ILuに基づいて、標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを基準として明るさ知覚効率の逆数ILu/ILu_oに応じて変えた明るさをLED34の明るさとして決定する。
【0027】
LED34を発光させる際には、第二のステップ(B)で決定された明るさに対応した入力を光源明るさ可変手段31に対して行うことにより、標準の明るさで発光するLED34の明るさを第二のステップ(B)で決定された明るさに変える。
【0028】
PWM制御によりLED34の明るさを変更する場合、標準の使用者に合わせて設定されたPWM信号のデューティ比を明るさ知覚効率の逆数倍にすればよい。
図3は、ある青色のLED34の明るさをPWM制御により変える例を示している。ここで、BPEは、明るさ知覚効率ILu_o/ILuを示している。図3の例では、若年三色覚者向けの通常モードでPWM信号のデューティ比が20.0%であることが示されている。また、高齢者の明るさ知覚効率BPEelderlyが0.22であり、一型二色覚者の明るさ知覚効率BPEprotanが1.51であることが示されている。
【0029】
対象者が高齢者の場合、BPEelderly=0.22であるので、LED34の明るさは標準の明るさの1/0.22倍に決定される。そこで、PWM信号のデューティ比を20.0×(1/0.22)=90.9%とすれば、高齢者が点灯状態のLEDを見たときに標準の使用者と同等の明るさに感じることになる。
また、対象者が一型二色覚者の場合、BPEprotan=1.51であるので、LED34の明るさは標準の明るさの1/1.51倍に決定される。そこで、PWM信号のデューティ比を20.0×(1/1.51)=13.2%とすれば、一型二色覚者が点灯状態のLEDを見たときに標準の使用者と同等の明るさに感じることになる。
なお、対象者の明るさ知覚効率は、対象者の分光視感特性、及び、光源の分光放射強度分布によって変わる。従って、対象者の分光視感特性、及び、光源の分光放射強度分布に応じて光源の明るさを決定する必要がある。
【0030】
多くの人間は、L錐体、M錐体、S錐体の3種類の視細胞で色を認識している。これらの錐体のうち一つ以上の錐体が無い人や、錐体の機能が不十分である人を、色弱者と呼んでいる。図4は、人の色覚特性の種類と呼称を示している。図4に示すように、赤に近い波長の光を検出するL錐体のみ無い人を一型二色覚、L錐体の機能が不十分な人を一型三色覚、緑に近い波長の光を検出するM錐体のみ無い人を二型二色覚、M錐体の機能が不十分な人を二型三色覚、青に近い波長の光を検出するS錐体のみ無い人を三型二色覚、S錐体の機能が不十分な人を三型三色覚、と呼ぶ。日本人は、男性の5%、女性の0.2%が色弱者である。
【0031】
以上より、色弱者用の光源の明るさを色弱者のタイプに応じてきめ細やかに決めることも考えられる。本実施形態では、図9に示す分光視感効率のデータに基づいて、光源の明るさを決定する対象者を高齢者と一型二色覚者としている。そして、図6に示すようなコンピュータ80に対して、図5に示す明るさ知覚効率データベースDB1を構築している。この明るさ知覚効率データベースDB1には、高齢者と一型二色覚者とについて光源毎に明るさ知覚効率BPEが格納されている。
【0032】
(3)光源明るさ決定方法に用いるコンピュータの説明:
図6に示すコンピュータ80は、内部のバスにCPU81、ROM82、RAM83、不揮発性メモリ84、入力装置85、出力装置86、記録装置87、I/F(インターフェイス)88、等が接続されている。入力装置85は、キーボードやマウス(ポインティングデバイス)といった操作入力装置等を用いることができる。出力装置86は、ディスプレイといった画像出力装置等を用いることができる。記録装置87は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に対してデータを読み書き可能である。I/F88は、外部の装置に対してデータを送受信可能である。
【0033】
不揮発性メモリ84は、ハードディスク、不揮発性半導体メモリ、等を用いることができる。不揮発性メモリ84には、光源の明るさを決定するために用いられるプログラムP1、標準分光視感効率V(λ)、対象者の分光視感効率Vo(λ)、最大視感効果度km、対象者の最大視感効果度km_o、分光放射強度I(λ)、標準の視感光度ILu、対象者の視感光度ILu_o、明るさ知覚効率BPE、等が記憶されている。
コンピュータ80の使用者は、分光放射強度I(λ)と標準分光視感効率V(λ)と最大視感効果度kmを用いて標準の視感光度ILuを計算することができる。また、分光放射強度I(λ)と対象者の分光視感効率Vo(λ)と対象者の最大視感効果度kkm_oを用いて対象者の視感光度ILu_oを計算することができる。そして、視感光度I(λ),ILu_oを用いて表示装置の光源の明るさを決定することができる。
【0034】
対象者用の明るさが決まると、LED34を標準の使用者用の明るさとするパルス幅値14aと、LED34を対象者用の明るさとするパルス幅値14b,14cとを不揮発性メモリ14に書き込む。図3に示した例では、PWM信号のデューティ比をそれぞれ20.0%、90.9%、13.2%にするパルス幅値14a,14b,14cを不揮発性メモリ14に記憶させることになる。
【0035】
(4)表示装置の処理の説明:
リモコン装置2のコントロールユニット10は、図7に示す処理を行い、本実施形態の光源明るさ決定方法で決定された明るさでLED34を発光させる。図7に示す処理は、モード切替ボタン24a〜24cが押されたときに開始され、ROM12に書き込まれたプログラムに従ってCPU11が実行する。
まず、コントロールユニット10は、どのモードが選択操作されたかを判断する(ステップS102。以下、「ステップ」の記載を省略)。
【0036】
モード切替ボタン24aが操作された場合、通常モードが選択されたことになり、S104で若年三色覚者用のパルス幅指令値を取得する。不揮発性メモリ14に記憶されているパルス幅値14a〜14cがパルス幅指令値となる場合、若年三色覚者用のパルス幅値14aを不揮発性メモリ14から読み出せばよい。むろん、パルス幅値14a〜14cが直接パルス幅指令値とはならない場合、読み出したパルス幅値14aをパルス幅指令値に換算すればよい。
モード切替ボタン24bが操作された場合、高齢者モードが選択されたことになり、S106で高齢者用のパルス幅指令値を取得する。S106では、不揮発性メモリ14から高齢者用のパルス幅値14bを読み出し、必要に応じてパルス幅指令値に換算すればよい。
モード切替ボタン24cが操作された場合、一型二色覚者モードが選択されたことになり、S108で一型二色覚者用のパルス幅指令値を取得する。S108では、不揮発性メモリ14から一型二色覚者用のパルス幅値14cを読み出し、必要に応じてパルス幅指令値に換算すればよい。
【0037】
S104,S106,S108の後、コントロールユニット10は、取得したパルス幅指令値をパルス幅制御回路32へ出力する(S110)。また、コントロールユニット10は、操作ボタン23a〜23eの操作に応じて、照明44〜46のオンオフやスポット照明45,46の明るさ変更を制御し、LED34a,34bのオンオフを制御する(S112)。パルス幅指令値を入力したパルス幅制御回路32は、パルス幅指令値に対応したパルス幅のPWM信号を生成する。光源駆動回路33は、オンとされたLED34a,34bをPWM信号に対応した間隔で点灯させる。これにより、標準の明るさで発光するLED34a,34bは、高齢者モードが選択されたときに高齢者用に決定された明るさに変えられ、一型二色覚者モードが選択されたときに一型二色覚者用に決定された明るさに変えられる。
【0038】
(5)光源の分光放射強度I(λ)の決定方法:
LEDの明るさは,その分光放射強度分布が大きく影響する。このため、個人が感じる単色LEDの明るさを推定するためには、個々のLEDの分光放射強度分布を知る必要がある。しかし、市販のLEDに分光放射強度データが提供されている例はまれである。単色LEDの光学特性について提供されているデータは、一般に、ピーク波長、主波長、半値全幅(FWHM)、光度である。そこで、これらのデータから単色LEDの分光放射強度分布を推定することにする。
【0039】
単色LEDの分光放射強度分布は、LED素子のエネルギーギャップの確率密度分布に影響されるため、ガウス分布に近い形をとることが多い。そこで、単色LEDの分光放射強度I(λ)がピーク波長λp(nm)と半値全幅λd(nm)をパラメータとした式(5)のガウス関数であると仮定する。
【数5】
ただし、式(5)のI(λ)は、光の波長λ(nm)がピーク波長λpであるときに1となる相対値である。明るさ知覚効率BPE=ILu_o/ILuを計算する際には、両方の視感光度ILu,ILu_oにI(λ)が含まれているため、I(λ)を相対値とすることができる。分光放射強度I(λ)をW/sr・nm単位にするためには、式(5)に放射強度の補正係数I(W/sr)を乗じればよい。この場合、視感光度ILu,ILu_oの単位はcdとなる。
【0040】
また、ガウス関数の標準偏差σ(nm)は、半値全幅λdから求められる。
【数6】
図8(a)には、ピーク波長465nmの青色LEDについて、半値全幅が25nmと65nmとで推定した分光放射強度分布を示している。ただし、波長465nmでの分光放射強度を1(W/sr・nm)としている。
【0041】
市販の可視光単色LED、98種類(4メーカー、砲弾型)を調査したところ、ピーク波長は430〜700nm,半値全幅は12〜100nmであった。
【表1】
そこで、おおよそ表1に示したピーク波長及び半値全幅の範囲について、対象者が感じる明るさを推定することとした。
【0042】
単色でないLEDでも、異なる色のLEDチップを一つの発光源としたLEDはそれぞれの色についてピーク波長を有する分光放射強度分布となる。例えば、液晶ディスプレイのバックライト等に用いられる白色LEDには、赤色用チップと緑色用チップと青色用チップとが組み込まれたものがある。このような白色LEDは、赤色の波長と緑色の波長と青色の波長とにピーク波長を有する分光放射強度分布となる。
【0043】
そこで、n個(nは1以上の整数)のピーク波長λpi(iは1からnまでの整数)を有する光源を表示装置に用いる場合を考える。各ピーク波長λpi(nm)に対応した半値全幅をλdi(nm)とすると、各ピーク波長λpiに対応した標準偏差σi(nm)は、上述した式(3)、すなわち、
【数7】
となる。各ピーク波長λpiに対応した放射強度の補正係数をIi(W/sr)とすると、分光放射強度I(λ)(W/sr・nm)は、上述した式(4)、すなわち、
【数8】
となる。従って、式(4)を用いてLEDの分光放射強度I(λ)を決定することができる。
むろん、n=1とすれば、実質的に上記式(5)となる。
【0044】
決定した分光放射強度I(λ)は、標準の視感光度ILuと対象者の視感光度ILu_oとの比に対応した明るさ知覚効率BPEを求めるために用いることができる。
図8(b)には、465nmと585nmとにピーク波長を有するLEDについて、半値全幅30nmで推定した分光放射強度分布を示している。ただし、両波長465nm,585nmでの分光放射強度を1(W/sr・nm)としている。むろん、ピーク波長の分光放射強度に強弱の差があれば、強弱に応じて補正係数Iiを設定すればよい。
【0045】
以上説明した分光放射強度分布の決定方法によると、光源の分光放射強度が分かっていなくても、光源のピーク波長及び半値全幅から光源の分光放射強度を推定して対象者の視感に合わせた光源の明るさを決定することができる。
【0046】
(6)高齢者と二色覚者の分光視感効率Vo(λ)の説明:
光源の明るさの知覚は、個人の分光視感効率Vo(λ)が大きく影響する。
図9は、高齢者の分光視感効率Velderly、一型二色覚者の分光視感効率Vprotan、二型二色覚者の分光視感効率Vdeuteran、三型二色覚者の分光視感効率Vtritan、及び、CIE(国際照明委員会)において合意されたCIE標準分光視感効率V(λ)について、明所視の場合を例示している。ここで、横軸は波長λ(nm)、縦軸は分光視感効率である。これらの分光視感効率は、視野角の狭い(視野角2°未満の)表示を見るときの明るさを評価する場合に使用すると好適である。例えば、砲弾型など多くのLEDは、通常見る位置において視野角2°未満となる点光源であり、明るさ知覚効率BPEを用いて明るさを評価するのに適している。
図中、「Elderly 70's」、「Protanopes」、「Deuteranopes」、「Tritanopes」、「CIE V(λ)」は、それぞれ、70歳代の高齢者、一型二色覚者、二型二色覚者、三型二色覚者、CIE標準分光視感効率を示している。
70歳代の高齢者の分光視感効率は、K. Sagawa and Y. Takahashi: Spectral luminous efficiency as a function of age, J. Opt. Soc. Am(A), 18 pp. 2659-2667 (2001) で報告された分光視感効率を用いている。また、この文献には、CIE標準分光視感効率が25歳の分光視感効率に最もよく一致すると記載されている。そこで、若年三色覚者は、25歳であって分光視感効率がCIE標準分光視感効率である者とする。本実施形態では、この若年三色覚者を標準の使用者としている。
二色覚者の分光視感効率は、以下の文献(a)〜(e)で報告された分光視感効率を用いている。
(a)A. Stockman, N.I. MacLeod and N.E. Johnson: Spectral sensitivities of the human cones, J. Opt. Soc. Am(A), 10, pp. 2491-2521 (1993).
(b)V.C. Smith and J. Pokorny: Spectral sensitivity of the foveal cone photopigments between 400 and 500 nm, Vision Res., 15, pp. 161-171 (1975).
(c)Y. Hsia and C.H. Graham: Spectral luminosity curves for protanopic, deuteranopic, and normal subjects, in Proceedings of the National Academy of Sciences of U.S.A, 43, pp. 1011-1019 (1957).
(d)G. Wyszecki and W. Stiles: Color Science 2nd Edition, John Wiley and sons (1982).
(e)W. D. Wright: The characteristics of tritanopia,” J. Opt. Soc. Am., 42, pp. 509-521 (1952).
【0047】
図9に示すように、550nmよりも短波長の領域では70歳代の高齢者の分光視感効率Velderlyが最も低く、550nmよりも長波長の領域では一型二色覚者の分光視感効率Vprotanが最も低くなっている。このことは、特に高齢者と一型二色覚者の感度低下に注目して個人の分光視感効率の違いを考慮する必要があることを示している。そこで、本実施形態では、高齢者と一型二色覚者とを対象者として光源の明るさを決定することにしている。
【0048】
対象者が感じる光源の明るさを推定するために、高齢者と一型二色覚者の分光視感効率Velderly,Vprotanについて、図9に示した既存研究の結果を式(7),(8)の多項式でフィッティングした。
【数9】
【数10】
図10は、高齢者と一型二色覚者の分光視感効率Velderly(λ),Vprotan(λ)を多項式フィッティングした場合の多項式の次数に対する決定係数R2を示している。ここで、横軸は多項式の次数、縦軸は決定係数R2である。図中、「Protanopia」、「Elderly 70yrs」は、それぞれ、一型二色覚者、70歳代の高齢者を示している。
高齢者の場合、次数を9次から上げても決定係数はほとんど増加しなかった。また、一型二色覚者の場合、次数を7次から上げても決定係数はほとんど増加しなかった。そこで、高齢者の分光視感効率Velderly(λ)を9次の多項式でフィッティングし、一型二色覚者の分光視感効率Vprotanを7次の多項式でフィッティングした。
【0049】
表2は、高齢者の場合の近似係数aiを示している。
【表2】
表中、「*.*…*E−**」は*.*…*×10-**を意味し、「*.*…*E+**」は*.*…*×10**を意味する。
表2の近似係数aiを式(7)に適用することにより、高齢者の分光視感効率Velderly(λ)を高齢者の視感光度ILu_elderlyの計算に用いることができる。
【0050】
表3は、一型二色覚者の場合の近似係数aiを示している。
【表3】
表3の近似係数aiを式(8)に適用することにより、一型二色覚者の分光視感効率Velderly(λ)を一型二色覚者の視感光度ILu_protanの計算に用いることができる。
【0051】
(7)明るさ知覚効率BPEの説明:
波長λの関数とされた光源の分光放射強度I(λ)が求まると、明所視において標準とするCIE標準分光視感効率V(λ)とCIEで定められた最大視感効果度km=683lm/Wとを用いて標準の視感光度ILuを求めることができる。ここで、CIE標準分光視感効率V(λ)は、若年三色覚者の分光視感効率としている。最大視感効果度kmは、CIE標準分光視感効率V(λ)が最大となる波長における放射の視感効果度である。明所視の場合、CIE標準分光視感効率が最大になるのは、波長が555nmのときである。
標準の視感光度ILuは、上述した式(1)、すなわち、
【数11】
となる。ここで、λSは可視放射の短波長側の波長、λLは可視放射の長波長側の波長である。分光放射強度I(λ)に若年三色覚者の分光視感効率V(λ)が乗じられているので、標準の視感光度ILuは、若年三色覚者が感じる明るさを表す心理物理量ということができる。
【0052】
また、波長λの関数とされた対象者の分光視感効率Vo(λ)、及び、光源の分光放射強度I(λ)が求まると、対象者の分光視感効率Vo(λ)が最大となる波長における視感効果度km_oを用いて対象者の視感光度ILu_oを求めることができる。ここで、km_oを対象者の最大視感効果度と呼ぶことにする。対象者の視感光度ILu_oは、上述した式(2)、すなわち、
【数12】
となる。分光放射強度I(λ)に対象者の分光視感効率Vo(λ)が乗じられているので、対象者の視感光度ILu_oは、対象者が感じる明るさを表す心理物理量ということができる。
なお、視感光度ILu,ILu_oの計算は、コンピュータ80を用いた近似値を求める演算により行うことができる。
【0053】
標準の視感光度ILuと対象者の視感光度ILu_oが求まると、明るさ知覚効率BPE=ILu_o/ILuを求めることができる。式(1),(2)より、明るさ知覚効率BPEは、
【数13】
となる。明るさ知覚効率BPEは、標準の使用者の心理物理量に対する対象者の心理物理量の比ということができ、標準の使用者に対する対象者の明るさの感じ方の違いを表す比率ということができる。明るさ知覚効率BPEは、CIE標準分光視感効率V(λ)を持つ若年三色覚者がある光源を見たときに、その光源の光度を何倍すれば高齢者や一型二色覚者が感じる明るさを体験できるのかを示す減光率(増倍率)と言い換えることもできる。従って、明るさ知覚効率BPEを用いることにより、高齢者や一型二色覚者といった対象者の視感に合わせた光源の明るさを定量的に決定することができる。
【0054】
なお、明るさ知覚効率BPEを計算するための可視放射の範囲は、例えば、短波長側の波長λS=400nm、長波長側の波長λL=700nmとすることができる。JIS Z8113:1998(照明用語)に規定される可視放射の波長限界は、短波長側が360〜400nm、長波長側が760〜830nmであるので、これらの範囲内となるように波長λS,λLを設定してもよい。
【0055】
ところで、対象者の視感光度ILu_oを求めるためには、対象者の最大視感効果度km_oを求める必要がある。
Wernerらは、560nmの波長の光に対する明所視での絶対閾値の加齢変化を調べ、絶対閾値が加齢によって0.008A+7.68410(Aは年齢、単位はlog quanta・sec-1・deg-2)の割合で上昇することを報告している(J.S. Werner, K.A. Schelble and M.L. Bieber: Age-related increases in photopic increment thresholds are not due to an elevation in intrinsic noise, Color Res. Appl., 26-S1, pp. S48-S52 (2001))。この絶対閾値は光が見えるか否かの境界値を意味し、絶対閾値の逆数が目の感度に対応する。若年三色覚者を25歳、高齢者を70歳と仮定すると、若年三色覚者及び高齢者の絶対閾値は、それぞれ、7.884,8.244(log quanta・sec-1・deg-2)となる。このことは、560nmの光に対する高齢者の感度が若年三色覚者の0.437倍(=107.884/108.244)に減少することを意味する。
また、560nmの光に対する高齢者の分光視感効率及びCIE標準分光視感効率は、JISとCIEによると、それぞれ0.999、0.995である。そこで、高齢者の最大視感効果度をkm_e=0.437・(0.995/0.999)km=0.435kmと決定した。
【0056】
一型二色覚者については、Goldmann-Weekers 順応計を用いた実験で、白色光に対する一型二色覚者の絶対閾値が三色覚者とほぼ同じであるという報告がされている(A.E. Krill and E. Beutler: The red-light absolute threshold in heterozygote protan carriers; Possible genetic implications, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 3, pp.107-118 (1964).)。そこで、式(9)で定義した明るさ知覚効率の式に対して、一型二色覚者の分光視感効率Vprotanを表す7次の近似多項式をVoとして用い、CIEで規定された標準の光A(白色光)の分光放射強度分布をI(λ)として用い、BPE=1と仮定し、λS=400nm、λL=700nmとしてkm_oを算出した。その結果、km_o=1.380kmとなった。
以上より、一型二色覚者の最大視感効果度をkm_p=1.380kmと決定した。
【0057】
λS=400nm、λL=700nmとして、高齢者の明るさ知覚効率
【数14】
に高齢者の最大視感効果度km_e、式(5),(7)を代入すると、単色LEDのピーク波長λpと半値全幅λdに対する高齢者の明るさ知覚効率を算出することができる。図11は、このように算出した結果を示しており、単色LEDの半値全幅λdの違いによる高齢者の明るさ知覚効率BPEelderlyの違いを示している。
【0058】
図11に示すように、高齢者の場合、ピーク波長475nmで半値全幅15nmのときに明るさ知覚効率BPEelderlyが0.212と最も低かった。BPEelderly=0.212ということは、ピーク波長475nmで半値全幅15nmの単色LEDを高齢者が見たときに感じる明るさが光度を約21%に低下させた同じLEDを若年三色覚者が見たときに感じる明るさと等価であることを意味する。ピーク波長が475nmであっても半値全幅が100nmの単色LEDであれば、明るさ知覚効率が0.337となり、高齢者が感じるLEDの明るさ低下は半値全幅15nmの場合と比較して低減される。
ピーク波長530〜610nmの範囲では、半値全幅が15〜100nmの範囲で変化しても明るさ知覚効率の変化は0.03以下であった。このことは、ピーク波長530〜610nmの範囲ではピーク波長が同じであれば半値全幅が異なっても高齢者が感じるLEDの明るさがほとんど変化しないことを示している。
一方、ピーク波長610nm以上では、半値全幅の狭いLEDの方が半値全幅の広いLEDより明るさ知覚効率が大きいので、半値全幅の狭いLEDの方がより明るく感じられると予想される。
【0059】
また、一型二色覚者の明るさ知覚効率
【数15】
に一型二色覚者の最大視感効果度km_p、式(5),(8)を代入すると、単色LEDのピーク波長λpと半値全幅λdに対する一型二色覚者の明るさ知覚効率を算出することができる。図12は、このように算出した結果を示しており、単色LEDの半値全幅λdの違いによる一型二色覚者の明るさ知覚効率BPEprotanの違いを示している。
【0060】
図12に示すように、一型二色覚の場合、ピーク波長700nmで半値全幅15nmのときに明るさ知覚効率BPEprotanが0.053と最も低かった。BPEprotan=0.053ということは、ピーク波長700nmで半値全幅15nmの単色LEDを一型二色覚者が見たときに感じる明るさが光度を約5%に低下させた同じLEDを若年三色覚者が見たときに感じる明るさと等価であることを意味する。
図12を見ると、ピーク波長が535nmよりも長波長の場合、半値全幅が広がると一型二色覚者の明るさ知覚効率の低下を抑えられることが分かる。例えば、ピーク波長635nmのLEDの場合、半値全幅が15nmのときには明るさ知覚効率が0.229であるが、半値全幅が100nmのときには明るさ知覚効率が0.663である。一方、ピーク波長が535nmよりも短い場合、半値全幅に関わらず一型二色覚者の明るさ知覚効率は1以上である。白色光に対する一型二色覚者の絶対閾値が三色覚者とほぼ同じということは、一型二色覚者の場合、長波長側の感度が低下している分だけ短波長の感度が高くなっていることが予想される。従って、一型二色覚者は、短波長側のLEDの光を標準観測者より明るく感じている可能性がある。
【0061】
以上説明したピーク波長と半値全幅に対する明るさ知覚効率の結果は、光源を製品の表示に採用する際にそのピーク波長だけでなく半値全幅を考慮することにより高齢者や一型二色覚者の視認性を向上させることができることを示している。
例えば、ピーク波長530nm以下の光源(青色LED等)は、高齢者にとってはピーク波長の半値全幅が15〜100nmの範囲内で広くなるほど明るく感じられ、一型二色覚者にとっては15〜100nmの範囲内でいずれの半値全幅でも若年三色覚者よりも明るく感じられる。そこで、表示装置にピーク波長530nm以下の分光放射強度分布を有する光源を使用する場合、前記ピーク波長の半値全幅が広い(例えば65nm)光源を採用すると、高齢者が感じる光源の明るさを若年三色覚者が感じる光源の明るさに近付けることができる。
【0062】
また、ピーク波長610nm以上の光源(赤色LED等)は、高齢者にとってはピーク波長の半値全幅が15〜100nmの範囲内で狭くなるほど明るく感じられ、一型二色覚者にとってはピーク波長の半値全幅が15〜100nmの範囲内で広くなるほど明るく感じられる。そこで、表示装置にピーク波長610nm以上の分光放射強度分布を有する光源を使用する場合、ピーク波長610nm以上で第一の半値全幅λd1の分光放射強度分布を有する第一の光源と、同じピーク波長でλd1よりも大きい第二の半値全幅λd2の分光放射強度分布を有する第二の光源とを表示装置に設け、高齢者モードが選択されているときには第一の光源を発光させ、一型二色覚者モードが選択されているときには第二の光源を発光させてもよい。すると、高齢者や一型二色覚者が感じる光源の明るさを若年三色覚者が感じる光源の明るさに近付けることができる。
【0063】
さらに、図1,2に示す光源34bを530nm以下のピーク波長λp1を有する第一の光源(青色LED等)とし、光源34aを530nm以上のピーク波長λp2(λp2>λp1)を有する光源(赤色LED等)とした高齢者向けの表示装置を考える。この場合、第一の光源におけるピーク波長の半値全幅λd1を第二の光源におけるピーク波長の半値全幅λd2よりも大きくしてもよい。これにより、高齢者に対して色を変えずに表示装置の光源を視認させ易くすることができる。
【0064】
さらに、図1,2に示す光源34bを570nm以下のピーク波長λp1を有する第一の光源(青色LED等)とし、光源34aを570nm以上のピーク波長λp2(λp2>λp1)を有する光源(赤色LED等)とした一型二色覚者向けの表示装置を考える。この場合、第二の光源におけるピーク波長の半値全幅λd2を第一の光源におけるピーク波長の半値全幅λd1よりも大きくしてもよい。一型二色覚者の場合はピーク波長λp2が570nm以上のときに明るさ知覚効率BPEが1以下となるため、ピーク波長λp2が570nm以上の第二の光源についてピーク波長の半値全幅を大きくすることにより、一型二色覚者に対して色を変えずに表示装置の光源を視認させ易くすることができる。
【0065】
さらに、同じピーク波長で半値全幅の異なる複数の光源を表示装置に設け、これらの光源のいずれを発光させるかのモードの選択操作を受け付け、受け付けたモードに対応した光源を発光させるようにしてもよい。これにより、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずに表示装置の光源を視認させ易くすることができる。
【0066】
今回の検討では単色LEDの分光放射強度分布を式(4),(5)のガウス関数で定義したが、光源の分光放射強度分布がガウス関数でない場合もその分光放射強度分布を波長λの関数で定義することができれば明るさ知覚効率を計算することが可能となる。
【0067】
なお、標準の使用者に合わせて設計された光源の光度をBPE倍にする光源発光シミュレータを作製すると、高齢者や色弱者がどのくらい暗く感じているかを標準の使用者が実際に目で見て確認することができる。これにより、高齢者や色弱者が感じる明るさの低下に配慮した表示装置の設計が可能となる。
【0068】
(8)明るさ知覚効率BPEを用いた光源明るさ決定方法の説明:
以上説明したようにして対象者の明るさ知覚効率BPEを求めると、この明るさ知覚効率BPEに基づいて、標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを基準として明るさ知覚効率の逆数1/BPEに応じて変えた明るさをLED34の明るさとして決定する。
例えば、各光源34の標準の明るさを若年三色覚者に合わせて光度Iv(cd)と設定すると、対象者の視感に合わせた各光源34の明るさは、光度Iv_o=Iv/BPE(cd)とすることができる。明るさ知覚効率BPEは若年三色覚者の心理物理量に対する対象者の心理物理量の比に相当するので、光源34の標準の光度Ivに明るさ知覚効率の逆数1/BPEを乗じることにより、対象者に若年三色覚者が感じる明るさを感じさせる明るさが決まる。
【0069】
光源の明るさを決定するための明るさの指標は、光度以外にも、輝度、光束、照度、等を用いることができる。
例えば、光源の標準の明るさを輝度L(cd/m2)と設定すると、対象者の視感に合わせた光源の輝度Lo(cd/m2)は、L/BPEとすることができる。光源の標準の明るさを光束Φ(lm)と設定すると、対象者の視感に合わせた光源の光束Φo(lm)は、Φ/BPEとすることができる。光源の標準の明るさを照度E(lx)と設定すると、対象者の視感に合わせた光源の照度Eo(lx)は、E/BPEとすることができる。
【0070】
ところで、標準の明るさを表す光度等の量に明るさ知覚効率の逆数1/BPEを乗じて厳密に求められる量で表される明るさとなるように光源が発光することができないことも想定される。この場合、前記厳密に求められる量で表される明るさに最も近い明るさを対象者の視感に合わせた光源の明るさとして決定してもよい。例えば、光源の発光する明るさが段階的とされているとき、複数段階の明るさのうち前記厳密に求められる量で表される明るさに最も近い明るさを対象者の視感に合わせた光源の明るさとして決定することができる。このようにして決められる明るさも、標準の明るさを基準として視感光度の比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさに含まれる。
【0071】
決定される光源34の明るさは、対象者が光源34を見たときに標準の使用者が標準の明るさの光源34を見たときに感じる明るさに近づいている。従って、色が変わらなくても、高齢者や色弱者といった対象者は光源34を視認し易くなる。
【0072】
(9)光源明るさ決定プログラムによる光源明るさ決定方法の説明:
上述した光源明るさ決定方法を実施するためのプログラムを用意してコンピュータ80に実行させることも可能である。この場合、図6に示す不揮発性メモリ84に光源明るさ決定方法を実施するための光源明るさ決定プログラムP1を記憶させると、コンピュータ80が実行するのに好適である。
図13は、光源明るさ決定プログラムP1がコンピュータ80に実現させる処理を例示している。コンピュータ80は、図13に示す処理を開始すると、可視放射の波長の下限λSと上限λLとを設定する入力を受け付ける(S202)。ここで、λS=400nm、λL=700nm、等のデフォルト値があれば、これらのデフォルト値をλS,λLとして設定してもよい。
【0073】
S204では、光源の分光放射強度I(λ)を表すデータを取得する。取得するデータは、上述した式(4),(5)等を表すデータである。コンピュータ80で演算する便宜上、λS≦λ≦λLの範囲で波長λを所定刻み(例えば1nm刻み)とした各分光放射強度I(λ)の値を取得してもよい。
【0074】
n個(nは1以上の整数)のピーク波長λpi(iは1からnまでの整数)を有し各ピーク波長λpiに対応した半値全幅がλdiとされた光源を用いる場合、図14に示す分光放射強度分布決定処理をS204で行ってもよい。コンピュータ80は、分光放射強度分布決定処理を開始すると、光源のピーク波長λpiの入力を受け付ける(S302)。S304では、光源の半値全幅λdiの入力を受け付ける。S306では、ピーク波長の分光放射強度の強弱に応じた補正係数Iiの入力を受け付ける。S302〜S306の処理は、例えば、コンピュータ80の使用者からそれぞれ、ピーク波長の値、半値全幅の値、補正係数の値、の操作入力を受け付ける処理とすることができる。
S308では、上述した式(3)を用いて標準偏差σiを算出する。
【0075】
S310では、光源の分光放射強度分布に現れる全てのピーク波長についてλpi,λdi,Iiの入力を受け付けたか否かを判断する。入力が完了していなければ、S302〜S310の処理を繰り返す。全てのピーク波長についての入力を受け付けた場合、上述した式(4)を用いて分光放射強度I(λ)を表すデータを取得する(S312)。
【0076】
分光放射強度I(λ)を表すデータを取得した後、コンピュータ80は、対象者の分光視感効率Vo(λ)を表すデータを取得する(図13のS206)。取得するデータは、上述した式(7),(8)等を表すデータである。コンピュータ80で演算する便宜上、λS≦λ≦λLの範囲で波長λを所定刻み(例えば1nm刻み)とした各分光視感効率Vo(λ)の値を取得してもよい。
【0077】
S208では、標準とする最大視感効果度kmを取得する。kmは、CIE最大視感効果度683lm/W等を用いることができる。
S210では、対象者の最大視感効果度km_oを取得する。km_oは、上述したkm_e=0.435km、km_p=1.380km、等を用いることができる。
【0078】
S212では、上述した式(1)を用いて標準の視感光度ILuを算出する。S214では、上述した式(2)を用いて対象者の視感光度Ilu_oを算出する。コンピュータ80で演算する便宜上、λS≦λ≦λLの範囲で波長λを所定刻み(例えば1nm刻み)とした各視感光度ILu,Ilu_oの値を求めてもよい。
S216では、上述した式(9)〜(11)を用いて明るさ知覚効率BPE=ILu_o/ILuを算出する。
【0079】
S218では、標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを表す値Bmを取得する。Bmは、若年三色覚者に合わせて設定された光度Iv(cd)等を用いることができる。
S220では、対象者の視感に合わせた光源の明るさBm_oを決定する。Bm_oは、Bm/BPE、Bm/BPEに近い値、等を用いることができる。
【0080】
(10)光源明るさ決定方法及び光源発光方法の効果の説明:
図1,2で示したLED34を発光させる際には、対象者の視感に合わせて決定された明るさとなるように各LED34の発光量を図2で示した光源明るさ可変手段31で制御する。図3で示したようにLED34の明るさをPWM制御により変える場合、図2で示した不揮発性メモリ14に対して、通常モードのPWM信号のデューティ比に明るさ知覚効率の逆数1/BPEを乗じたデューティ比とするパルス幅値14b,14cを書き込んでおけばよい。リモコン装置2は、図7で示した処理を行って、対象者の視感に合わせて決定された明るさとなるようにLED34を発光させる。従って、リモコン装置2は、上述した光源明るさ決定方法で決定された明るさで光源を発光させる表示装置といえる。
上述した光源明るさ可変手段31がリモコン装置2にあることにより、LED34を変えなくても対象者の視感に合わせた明るさでLED34を発光させることができる。
【0081】
以上説明したように、本光源明るさ決定方法及び光源発光方法によると、明るさ知覚効率という新たな概念により、対象者の視感に合わせた光源の明るさを定量的に決定することができ、発光する光源を数値に基づいて制御することができる。従って、オブジェクトと背景との輝度コントラストを対象者の視感に応じて大きくすることができ、光源の色が変わらなくても、高齢者や色弱者といった対象者は光源による表示を視認し易くなる。むろん、オブジェクトと背景との明るさの差があれば、色が変わらなくても高齢者や色弱者はオブジェクトを認識することができる。
以上より、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずに光源による表示装置の表示を視認させ易くすることが可能となり、幅広いユーザーの色覚特性を考慮したカラーユニバーサルデザインの実現が容易となる。
【0082】
なお、コンピュータ80に個人情報データベースを設け、この個人情報データベースにどの色覚者に相当するかの情報を入れておけば、指紋認証や網膜認証といった個人認証を行った後に認証された個人に対応した色覚者の情報を個人情報データベースから取得することができる。明るさ知覚データベースから対応する明るさ知覚効率を取得すれば、個人の視感に合わせた光源の明るさを決定することができ、個人に合わせた明るさで発光する光源を有する表示装置を提供することができる。
【0083】
(11)各種変形例:
ところで、本発明を適用可能な表示装置は、照明装置用のリモコン装置以外にも、給湯機器のリモコン装置、浴室設備機器のリモコン装置、等が考えられる。
本発明を適用可能な光源は、液晶ディスプレイのバックライト、プラズマディスプレイ用の光源、有機EL(エレクトルルミネッセンス)、白熱灯、等でもよい。
本発明にいう標準の使用者は、若年でない三色覚者等でもよい。
本発明にいう対象者は、二型二色覚者等でもよい。
表示装置を主に暗所で用いる場合、明るさ知覚効率BPEを求めるための関数や係数は、暗所視や薄明視に相当する関数や係数を用いてもよい。
明るさ知覚効率BPEを求める代わりに、対象者の視感光度に対する標準の視感光度の比ILu/ILu_oを求め、この比ILu/ILu_oに基づいて対象者の視感に合わせた光源の明るさを決定してもよい。比ILu/ILu_oは、明るさ知覚効率BPEの逆数であり、光源の明るさを表す値に乗じられる増倍率といえる。また、BPEに所定値を加減乗除した値、ILu/ILu_oに所定値を加減乗除した値、等も明るさ知覚効率の代わりに用いることができる。
【0084】
表示装置に記憶させるパルス幅値は、図2に示すROM12等に記憶させてもよい。
LEDの明るさを変える際、光源明るさ可変手段は、LEDに供給する電流量を変更してもよいし、LEDに印加する電圧を変更してもよい。
【0085】
上述した明るさ知覚効率BPEは、表示装置に記憶させてもよい。
図15は、第二の実施形態に係るリモコン装置(表示装置)が行う処理を示している。本リモコン装置は、図2に示す不揮発性メモリ14に高齢者及び一型二色覚者の明るさ知覚効率BPEelderly,BPEprotanが記憶されているものとする。高齢者用と一型二色覚者用のパルス幅値14b,14cは、不揮発性メモリ14に記憶されていなくてもよい。図15に示す処理は、モード切替ボタン24a〜24cが押されたときに開始される。
【0086】
まず、コントロールユニット10は、通常モードのパルス幅指令値を取得する(S402)。S402では、不揮発性メモリ14から若年三色覚者用のパルス幅値14aを読み出し、必要に応じてパルス幅指令値に換算すればよい。
S404では、どのモードが選択操作されたかを判断する。
【0087】
モード切替ボタン24bが操作された場合、高齢者モードが選択されたことになり、S406で高齢者用の明るさ知覚効率BPEelderlyを不揮発性メモリ14から読み出す。S408では、通常モードのPWM信号のパルス幅を明るさ知覚効率の逆数倍1/BPEelderlyにするパルス幅指令値を取得する。例えば、若年三色覚者用のパルス幅値14aを1/BPEelderly倍にし、必要に応じてパルス幅指令値に換算すればよい。
モード切替ボタン24cが操作された場合、一型二色覚者モードが選択されたことになり、S410で一型二色覚者用の明るさ知覚効率BPEprotanを不揮発性メモリ14から読み出す。S412では、通常モードのパルス幅を明るさ知覚効率の逆数倍1/BPEprotanにするパルス幅指令値を取得する。例えば、若年三色覚者用のパルス幅値14aを1/BPEprotan倍にし、必要に応じてパルス幅指令値に換算すればよい。
【0088】
S404(通常モード時),S408,S412の後、コントロールユニット10は、取得したパルス幅指令値をパルス幅制御回路32へ出力し、図7のS112と同様の照明・表示処理を行う(S414〜S416)。すると、標準の明るさで発光するLED34は、高齢者モードが選択されたときに高齢者用に決定された明るさに変えられ、一型二色覚者モードが選択されたときに一型二色覚者用に決定された明るさに変えられる。
以上より、PWM信号のパルス幅を明るさ知覚効率の逆数倍にする本リモコン装置は、対象者の視感に合わせた光源の明るさを決定しているといえる。従って、本リモコン装置で行われる処理は、光源明るさ決定方法の一部を実施していることになる。
【0089】
図16は、第三の実施形態に係るリモートコントロールシステム101の電気回路の概略を例示するブロック図である。本実施形態のリモコン装置(表示装置)102は、パルス幅制御回路32が無く、発光するLED34の明るさは変わらない。そこで、上述した光源明るさ決定方法で決定される対象者用の明るさに最も近い明るさのLED34を複数のLEDの中から選択し、該選択したLED34をリモコン装置102に装着して発光させることにしている。
【0090】
図17は、第三の実施形態に係るリモコン装置102の光源発光方法を模式的に示している。
本光源発光方法を実施するために、まず、光源明るさデータベースDB2をコンピュータ80等に作成しておく。光源明るさデータベースDB2には、光源毎にピーク波長、半値全幅、等の光学特性のデータを格納しておくとともに、リモコン装置102に装着したときの光源の明るさを表すデータBi(例えば光度)を格納しておく。データBiは、光源の光学特性データに含まれる光度から求められるデータでもよいし、リモコン装置102に設ける電気回路に光源を装着して得られる実測データでもよい。
【0091】
上述した光源明るさ決定方法で対象者の明るさ知覚効率BPEが求められ、対象者の視感に合わせたLEDの明るさBm_o=Bm/BPEが決まると、まず、光源明るさデータベースDB2を検索する。ここで、Bmは、標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを表す値である。検索の際には、標準の使用者用のLEDと同系統の色のLEDを検索する。従って、光源明るさデータベースDB2にある同系統の色のLEDの中から明るさBm_oに最も近い明るさを選択する。次に、選択したLEDをリモコン装置102に装着する。これにより、リモコン装置102が対象者用となる。
対象者用のリモコン装置102のLED34を発光させると、対象者がLED34を見たときに標準の使用者が標準の使用者用のリモコン装置に装着されたLEDを見たときに感じる明るさに近づいている。
【0092】
第三の実施形態によると、光源の明るさを変える回路を設けなくても、高齢者や色弱者といった対象者に視感に合わせた明るさで表示装置の光源を発光させることが可能となる。
【0093】
図18は、第四の実施形態に係るリモコン装置(表示装置)202の外観を示している。本リモコン装置202は、液晶パネル220に位置入力装置222を組み合わせたタッチパネルが前面に設けられている。液晶パネル220の液晶表示面221には、第一の実施形態と同様の機能を有する各種操作ボタン23a〜23e,24a〜24cや、第一の実施形態のLED34bに対応する複数の表示領域221aが設けられている。各表示領域221aは、リモコン装置2を操作するときの位置(例えば50cm離れた距離)から見て視野角が2°未満の狭い表示面積とされている。操作ボタン23a〜23e,24a〜24cの機能は、液晶表示面221の対応する位置が押されたことを検出する位置入力装置222により実現される。
【0094】
図19に示すリモートコントロールシステム201のように、リモコン装置202は、コントロールユニット10に液晶ドライバ228、位置入力装置222及び光源明るさ可変手段31が接続されている。
液晶ドライバ228は、コントロールユニット10の制御に従って液晶パネル220を駆動し、液晶表示面221に操作ボタン23a〜23e,24a〜24cや表示領域221aを表示させる。液晶パネル220は、位置入力装置222が設けられるとともに、背後からバックライト(光源)234の光が照射されるようになっている。位置入力装置222は、タッチパッド等を用いることができる。
【0095】
光源明るさ可変手段31の光源駆動回路33には、バックライト234が接続されている。バックライト234は、赤色用チップと緑色用チップと青色用チップとを組み込んだ白色LEDであるものとする。このバックライト234は、第一の実施形態のLED34と同様、光源駆動回路33からパルス状の電流を入力して発光する。この電流は、コントロールユニット10からのパルス幅指令値に対応したパルス幅となる。光源駆動回路33にPWM信号を供給するパルス幅制御回路32は、コントロールユニット10からパルス幅指令値を入力し、このパルス幅指令値に対応したパルス幅のPWM信号を生成する。従って、バックライト234からの光が照射される液晶表示面221は、PWM信号のデューティ比が大きくなるほど明るくなり、PWM信号のデューティ比が小さくなるほど暗くなる。液晶表示面221を透過する光の透過特性の影響が小さければ、液晶表示面221は、PWM信号のデューティ比にほぼ比例した明るさになる。
【0096】
そこで、第一の実施形態と同様にして対象者の明るさ知覚効率BPEに基づいて、標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを基準として明るさ知覚効率の逆数1/BPEに応じて変えた明るさをバックライト234の明るさとして決定してもよい。例えば、バックライト234の標準の明るさを若年三色覚者に合わせて輝度L(cd/m2)と設定すると、対象者の視感に合わせたバックライト234の明るさは、輝度Lo(cd/m2)=L/BPE(cd/m2)とすることができる。むろん、バックライトの光度、光束、照度、等を用いて対象者の視感に合わせたバックライトの明るさを決定してもよい。
決定されるバックライト234の明るさは、この明るさで照射される液晶表示面221を対象者が見たときに標準の使用者が標準の明るさのバックライト234で照射される液晶表示面221を見たときに感じる明るさに近づいている。従って、色が変わらなくても、高齢者や色弱者といった対象者は液晶表示面221の表示領域221aを視認し易くなる。
【0097】
以上より、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずにバックライトによる表示装置の表示を視認させ易くすることが可能となり、幅広いユーザーの色覚特性を考慮したカラーユニバーサルデザインの実現が容易となる。
上述したバックライトは3色LED方式の光源であるものとして説明したが、青色用チップと蛍光体を用いた青黄色系疑似白色発光ダイオード等のバックライトを用いることも可能である。疑似白色発光ダイオード等のバックライトも、その分光放射強度の関数を用意すれば、明るさ知覚効率を求めることができ、対象者の視感に合わせたバックライトの明るさを定量的に決定することができる。
【0098】
なお、広い面積の(視野角2°以上の)単色光源に対して明るさを評価する場合、JIS S0031:2004の附属書2(参考)に示されている明るさ分光視感効率Vb(λ)を用いることが提案されている。そこで、光源が単色光で広い視野角を持つ場合には、上述した分光視感効率Vo(λ)の代わりにJIS S0031:2004附属書2(参考)に準拠した明るさ分光視感効率Vb(λ)を用いてもよい。
【0099】
ここで、単色光源のピーク波長をλp(nm)、このピーク波長に対応した半値全幅をΔd(nm)、波長λの関数とされた単色光源の分光放射強度をI(λ)、波長λの関数とされた標準とする明るさ分光視感効率をVb(λ)、波長λの関数とされた対象者の明るさ分光視感効率をVb_o(λ)、標準とする明るさ分光視感効率Vb(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm、対象者の明るさ分光視感効率Vb_o(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm_o、とすると、明るさ知覚効率BPEは、以下の式で表される。
【数16】
従って、視野角が2度以上の広い面積の単色光源について対象者の視感に合わせた明るさを決定する場合には、上記式(12)を用いて明るさ知覚効率BPEを求め、この明るさ知覚効率の逆数1/BPEに応じて変えた明るさを単色光源の明るさとして決定してもよい。
上記式(12)は、視感効率の比ILu_o/ILuを簡略化した式となる。従って、式(12)に従って明るさ知覚効率BPFを求めることは、本発明にいう、標準の視感効率ILuと対象者の視感効率ILu_oとの比を求めることに含まれる。
【0100】
むろん、明るさ分光視感効率Vb(λ)を用いて視野角の広い光源の明るさを決定するのは、明るさを非常に厳密に評価したい場合である。従って、ここまで厳密に明るさを評価する必要が無い場合には、第一の実施形態で示した分光視感効率を用いて視野角の広い光源の明るさを決定してもよい。
【0101】
なお、従属請求項に係る構成要件を有しておらず独立請求項に係る構成要件のみからなる装置及び方法でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、本発明は、上述した実施形態や変形例に限られず、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。
【符号の説明】
【0102】
1,101,201…リモートコントロールシステム、
2,102,202…リモートコントロール装置(表示装置)、
10…コントロールユニット、24a〜24c…モード切替ボタン、
31…光源明るさ可変手段、32…パルス幅制御回路、33…光源駆動回路、
34…発光ダイオード(光源)、
220…液晶パネル、234…バックライト(光源)、
DB1…明るさ知覚効率データベース。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や色弱者といった対象者の視感に合わせた表示装置、並びに、光源明るさ決定方法及び光源発光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
システムバス、システムキッチン、洗面化粧台などに設置されるリモコン(遠隔操作装置)や操作パネルには、表示のための光源が設けられることがある。
また、高齢者や色弱者の視感に合わせて表示を変える技術として、特許文献1〜4に記載された技術が知られている。
なお、色弱者は、色覚障害者等とも呼ばれている。
【0003】
特許文献1には、互いに異なる色調で色付けられた各モード設定ボタンの中から選択されたモード設定ボタンに割り当てられた色調で操作画面を表示する画面表示方法が開示されている。従って、モード設定ボタン操作に応じて操作画面の色が変わることになる。
【0004】
特許文献2に開示された技術は、色覚障害者に固有の2種類の色差を算出し、色認知特性データベースから色覚健常者の色認知に関する心理尺度値を参照し、3種類の色差と心理尺度値に関する一定の基準を満たす色を検索し、色覚障害者が識別できない色を検索された色で置き換えるものである。従って、色覚健常者用に設計された色が変わることになる。
なお、特許文献2には、輝度軸とθ軸とを非線形的に伸縮させることは記載されているが、具体的にどの程度輝度軸を伸縮させるのかは記載されていない。
【0005】
特許文献3には、頭部又は顔面に取り付けられる画像表示装置を有する画像表示システムが開示されている。この画像表示システムは、色覚障害者が認識し難い色の領域を検出し、この領域のエッジ領域を検出し、このエッジ領域に白色ラインを重畳的に付加するとともに、緑の領域を青で表示する。従って、正常者用に設計された色やデザインが変わることになる。
なお、特許文献3には、画像の表示輝度を輝度変更ダイヤルの回転方向及び回転量に応じた輝度値に変更することが記載されている。従って、色覚障害者は画像の表示輝度を調整する操作を行う必要があり、色覚障害者の視感に応じて画像の表示輝度をどの程度変えるのか具体的な記載は無い。
【0006】
特許文献4には、コンピュータのユーザーの眼の状態にあわせて画面表示をコントロールする画像表示装置が開示されている。この画像表示装置は、老眼の有無や色覚異常等のユーザーの状態情報に基づいて、色や輝度の変換規則を含む表示コントロール情報を生成し、この表示コントロール情報を用いて表示する。色覚異常のユーザーの場合は、赤あるいは緑を他の色に変更する等、特定の色を他の色に変換する色変換規則を抽出する。従って、画面表示の色が変わることになる。
なお、特許文献4には、輝度を変換することは記載されているが、具体的にどの程度輝度を変換させるのかは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−77828号公報
【特許文献2】特開2007−293832号公報
【特許文献3】特開2007−122340号公報
【特許文献4】特開2007−010924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
色には、赤は熱い、青は冷たい、といった色自体の意味がある。従って、従来技術のように色を変えることは、色自体の意味が無くなることになり、色を用いた製品の使い易さが低下してしまうことに繋がる。製品のマニュアルを作る際にも、製品に表示される色が変わると、色を用いた説明をすることができなくなる。
なお、特許文献1,3記載の技術のように色覚障害者が認識し難い色の境界を抽出するためには抽出のための画像処理が必要となる。表示デバイスの解像度等の制限によっては、細かい部分について境界部分の強調ができなかったり、強調により逆に見え難くなったりすることがある。
一方で、従来技術には、高齢者や色弱者が視認し易くなる度合いで表示輝度を変える具体的な技術は無い。
【0009】
以上を鑑み、本発明は、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずに光源による表示装置の表示を視認させ易くすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、表示装置の光源について標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを基準として対象者の視感に合わせた前記光源の明るさを決定する表示装置の光源明るさ決定方法であって、
(A)光の波長をλ、該波長λの関数とされた前記光源の分光放射強度をI(λ)、前記波長λの関数とされた前記対象者の分光視感効率をVo(λ)、前記波長λの関数とされた標準とする分光視感効率をV(λ)、該標準とする分光視感効率V(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm、前記対象者の分光視感効率Vo(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm_o、可視放射の短波長側の波長をλS、可視放射の長波長側の波長をλLとするとき、標準の視感光度
【数1】
と前記対象者の視感光度
【数2】
との比に対応した値を求めるステップと、
(B)前記ステップ(A)で求めた値に基づいて、前記標準の明るさを基準として前記ILu_oに対する前記ILuの比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさを前記光源の明るさとして決定するステップと
を備えることを特徴とする。
【0011】
すなわち、本発明は、標準の視感光度ILuと対象者の視感光度ILu_oとの比という新規な概念が導入されている。各視感光度は、標準の使用者と対象者が感じる明るさを表す心理物理量ということができる。上記ステップ(B)により、光源の明るさは、標準の明るさを基準として対象者の視感光度ILu_oに対する標準の視感光度ILuの比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさに決定される。比ILu/ILu_oは、標準の使用者の心理物理量と対象者の心理物理量との比ということができ、標準の使用者と対象者の明るさの感じ方の違いを表す比率ということができる。
以上より、決定される光源の明るさは、対象者が光源による表示を見たときに標準の使用者が標準の明るさの光源による表示を見たときに感じる明るさに近づいている。従って、色が変わらなくても、高齢者や色弱者といった対象者は光源による表示を視認し易くなる。
【0012】
なお、高齢者や色弱者であっても、文字等のオブジェクトと背景との明るさの差があれば、色が変わらなくてもオブジェクトを認識することができる。従って、上述した方法で光源の明るさを決定することにより、高齢者や色弱者は十分に光源による表示を視認することができる。
以上より、高齢者や色弱者等の幅広いユーザーの色覚特性を考慮したカラーユニバーサルデザインの実現が容易となる。
【0013】
ところで、本発明にいう明るさを表す量には、光度、輝度、光束、照度、等が含まれる。
標準の視感光度ILuと対象者の視感光度ILu_oとの比には、ILu_o/ILuとILu/ILu_oの両方が含まれる。
ILuとILu_oとの比を表す値は、上記式(1),(2)の積分を厳密にして求められる値のみならず、上記式(1),(2)を数列の和に置き換えて求められる近似値、これらの値に所定値を加減乗除した値、等も含まれる。また、ステップ(A)では、ILu自体やILu_o自体を求める必要は無く、ILuとILu_oとの比を表す値が最終的に求まればよい。
標準の明るさを基準として比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさは、標準の明るさを表す量に比ILu/ILu_oを乗じて厳密に求められる量で表される明るさのみならず、複数段階の明るさのうち前記厳密に求められる量で表される明るさに最も近い明るさ、等が含まれる。
【0014】
また、前記光源に、n個(nは1以上の整数)のピーク波長λpi(iは1からnまでの整数)を有し各ピーク波長λpiに対応した半値全幅がλdiとされた光源を用い、
前記ステップ(A)では、各ピーク波長λpiに対応した標準偏差σiを
【数3】
とし、各ピーク波長λpiに対応した放射強度の補正係数をIiとして、前記分光放射強度I(λ)を
【数4】
と決定し、該決定した分光放射強度I(λ)を用いて前記ILuと前記ILu_oとの比に対応した値を求めてもよい。
ここで、ピーク波長λpiは、分光放射強度I(λ)が頂点となる波長をいう。理想的な単色光源の場合、ピーク波長pは、分光放射強度I(λ)が最大となる単一の波長となる。
【0015】
さらに、本発明は、上述した光源明るさ決定方法で決定された明るさで前記光源を発光させる表示装置の光源発光方法であって、
前記表示装置に、入力に応じた明るさに変えて前記光源を発光させる光源明るさ可変手段を設け、
前記ステップ(B)で決定された明るさに対応した入力を前記光源明るさ可変手段に対して行うことにより、前記標準の明るさで発光する前記光源の明るさを前記ステップ(B)で決定された明るさに変えることを特徴とする。
ここで、光源明るさ可変手段には、光源に供給する電圧パルスの幅を変える手段、光源に供給する電流量を変える手段、光源に供給する電圧を変える手段、等が含まれる。
【0016】
さらに、本発明の表示装置の光源発光方法は、上述した光源明るさ決定方法で決定された明るさに最も近い明るさの光源を複数の光源の中から選択し、該選択した光源を前記表示装置に装着して発光させることを特徴とする。
さらに、本発明の表示装置は、上述した光源明るさ決定方法で決定された明るさで前記光源を発光させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずに光源による表示装置の表示を視認させ易くすることが可能な光源明るさ決定方法を提供することができる。
請求項2に係る発明では、光源の分光放射強度が分かっていなくても、光源のピーク波長及び半値全幅から光源の分光放射強度を推定して高齢者や色弱者といった対象者の視感に合わせた光源の明るさを決定することができる。
請求項3に係る発明では、光源を変えなくても高齢者や色弱者といった対象者の視感に合わせた明るさで表示装置の光源を発光させることが可能な光源発光方法を提供することができる。
請求項4に係る発明では、光源の明るさを変える回路を設けなくても高齢者や色弱者といった対象者の視感に合わせた明るさで表示装置の光源を発光させることが可能な光源発光方法を提供することができる。
請求項5に係る発明では、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずに光源による表示を視認させ易くする表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一の実施形態に係る表示装置2の外観を例示する図である。
【図2】表示装置2を有するリモートコントロールシステム1の電気回路の概略を例示するブロック図である。
【図3】パルス幅変調制御により光源34の明るさを変える例を説明するための図である。
【図4】人の色覚特性の種類と呼称を示す図である。
【図5】明るさ知覚効率データベースDB1の構造を例示する図である。
【図6】光源明るさ決定方法に用いるコンピュータ80の構成の概略を例示するブロック図である。
【図7】表示装置2が行う処理を例示するフローチャートである。
【図8】LEDの分光放射強度I(λ)を例示する図である。
【図9】高齢者及び二色覚者の分光視感効率Vo(λ)を例示する図である。
【図10】高齢者と一型二色覚者の分光視感効率Velderly(λ),Vprotan(λ)を多項式フィッティングした場合の多項式の次数に対する決定係数R2を例示する図である。
【図11】発光ダイオードの半値全幅の違いによる高齢者の明るさ知覚効率BPEelderlyの違いを例示する図である。
【図12】発光ダイオードの半値全幅の違いによる一型二色覚者の明るさ知覚効率BPEprotanの違いを例示する図である。
【図13】コンピュータ80が行う光源明るさ決定処理を例示するフローチャートである。
【図14】コンピュータ80が行う分光放射強度分布決定処理を例示するフローチャートである。
【図15】第二の実施形態に係る表示装置が行う処理を例示するフローチャートである。
【図16】第三の実施形態に係るリモートコントロールシステム101の電気回路の概略を例示するブロック図である。
【図17】第三の実施形態に係る表示装置102の光源発光方法を模式的に例示する図である。
【図18】第四の実施形態に係る表示装置202の外観を例示する図である。
【図19】第四の実施形態に係るリモートコントロールシステム201の電気回路の概略を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、下記の順に従って本発明の実施形態を説明する。
(1)第一の実施形態に係る表示装置の概略:
(2)表示装置の光源明るさ決定方法及び光源発光方法の概略:
(3)光源明るさ決定方法に用いるコンピュータの説明:
(4)表示装置の処理の説明:
(5)光源の分光放射強度I(λ)の決定方法:
(6)高齢者と二色覚者の分光視感効率Vo(λ)の説明:
(7)明るさ知覚効率BPEの説明:
(8)明るさ知覚効率BPEを用いた光源明るさ決定方法の説明:
(9)光源明るさ決定プログラムによる光源明るさ決定方法の説明:
(10)光源明るさ決定方法及び光源発光方法の効果の説明:
(11)各種変形例:
【0020】
(1)第一の実施形態に係る表示装置の概略:
図1,2に示すように、リモートコントロールシステム1は、本発明の表示装置となるリモートコントロール装置(以下、リモコン装置)2で照明44〜46のオンオフ及びスポット照明45,46の明るさ変更を遠隔操作可能とされている。リモコン装置2の前面に設けられた操作パネル21には、各種操作ボタン23a〜23e,24a〜24cや各種LED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)34が設けられている。ここで、照明操作ボタン23a〜23cは、照明44〜46をオンオフするための押しボタンスイッチとされている。照明操作ボタン23d,23eは、スポット照明45,46の明るさを段階的に変更するための押しボタンスイッチとされている。LED34aは、どのスポット照明45,46が点灯しているかを示すための点光源とされている。LED34bは、点灯しているスポット照明の明るさを示すための点光源とされている。これらのLED34a,34bは、リモコン装置2を操作するときの位置(例えば50cm離れた距離)から見て視野角が2°未満の狭い表示面積とされている。
本実施形態のリモコン装置2は、高齢者や色弱者の視感に合わせてLED34の明るさを変更するためのモード切替ボタン24a〜24cを備えている。モード切替ボタン24a〜24cは、それぞれ、通常モード、高齢者モード、一型二色覚者モードを選択操作するための押しボタンスイッチとされている。
【0021】
図2に示すように、リモコン装置2は、コントロールユニット10に操作部20及び光源明るさ可変手段31が接続されている。
コントロールユニット10は、内部のバスにCPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、不揮発性半導体メモリ14、I/O(入出力)回路15、等が接続されたマイコン(マイクロコンピュータ)とされている。ROM12には、照明44〜46のオンオフやスポット照明45,46の明るさ変更を制御するためのプログラムが書き込まれている。不揮発性メモリ14には、PWM(Pulse Width Modulation;パルス幅変調)制御によりLED34の明るさを変更するためのパルス幅に対応したパルス幅値14a〜14cが記憶されている。PWM制御のパルス幅を指令するためのパルス幅指令値は、I/O回路15から光源明るさ可変手段31のパルス幅制御回路32へ出力される。また、照明44〜46のオンオフやスポット照明45,46の明るさ変更を制御するための照明制御信号は、I/O回路15から照明駆動回路41〜43へ出力される。CPU11は、ROM12に記録されたプログラムに基づいてリモコン装置2の各部を制御する。
操作部20には、上述した各種操作ボタン23a〜23e,24a〜24cが設けられている。
【0022】
光源明るさ可変手段31は、パルス幅制御回路32と光源駆動回路33を備え、コントロールユニット10からの入力に応じた明るさに変えてLED34を発光させる。
パルス幅制御回路32は、コントロールユニット10からパルス幅指令値を入力し、このパルス幅指令値に対応したパルス幅のPWM信号を生成する。パルス幅制御回路32は、公知の回路を用いることができ、例えば図2中に示した原理でPWM信号を生成することができる。ここで、図2中に示したグラフは、横軸が時間t、縦軸がカウンタのカウント値である。図2に示すパルス幅制御回路32は、クロックに同期したパルスをカウンタでカウントし、カウンタの値がクリア値に達するとカウンタを0に戻し、カウンタの値が0に戻った時点でPWM信号をオフからオンに切り替え、カウンタの値がパルス幅指令値に達した時点でPWM信号をオンからオフに切り替える。カウンタを0に戻す間隔は、LED発光のオンオフが人の目に判らない程度に短い間隔としている。図2に示す例の場合、総時間に対するLED点灯時間の比を表すPWM信号のデューティ比は、パルス幅指令値が大きくなるほど大きくなる。むろん、図2で示したPWM信号とはオンオフが逆となるPWM信号を生成するパルス幅制御回路でも、PWM制御によりLED34の明るさを変更することが可能である。
【0023】
光源駆動回路33は、パルス幅制御回路32からPWM信号を入力し、このPWM信号に同期したパルス幅の定電流をLED34に供給する。光源駆動回路33は、公知の回路を用いることができ、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、定電流レギュレータ、等でLED34を点灯させるのに十分な電圧の出力電流をPWM信号に従ってオンオフする。
LED34a,34bは、光源駆動回路33からパルス状の電流を入力して発光する。この電流は、コントロールユニット10からのパルス幅指令値に対応したパルス幅となる。LED発光のオンオフの周期が人の目で判らない程度に短ければ、見かけ上、LEDがデューティ比に比例した光度となる。
【0024】
リモコン装置2に接続された照明駆動回路41〜43は、コントロールユニット10から上記照明制御信号を入力し、この照明制御信号に従って照明44〜46を駆動(オンオフ)したりスポット照明45,46の明るさを制御したりする。
【0025】
ところで、LEDを使用した操作・表示機器の最も基本的な機能要件は、LEDの点灯を容易に認識させることである。また、機器のインターフェイスデザインとして、高齢者や色弱者等の幅広いユーザーの色覚特性に考慮したデザイン(カラーユニバーサルデザイン)が要望されている。しかし、LEDの発光波長特性(ピーク波長、発光スペクトルの広がり等)が高齢者や色弱者の感じる明るさに与える影響について、定量的に推定する方法は検討されていなかった。そのため、機器のハードウエア設計者は、どのような光学特性を持つLEDを製品に使用すれば高齢者や色弱者が見易くなるのか分からなかった。
一方、インターフェイスデザインの色を変えることは、色自体の意味が無くなることになり、色を用いた製品の使い易さが低下してしまうことに繋がる。
そこで、本実施形態のリモコン装置2は、色を変えずにLED34を視認させ易くした装置としている。
【0026】
(2)表示装置の光源明るさ決定方法及び光源発光方法の概略:
リモコン装置2のLED34の明るさを決定するため、第一のステップ(A)として、標準の視感光度ILuと高齢者や色弱者の視感光度ILu_oとの比に対応した値ILu_o/ILuを求めることにしている。この値ILu_o/ILuは、高齢者や色弱者が点灯状態のLEDを見たときに標準の使用者の感じる明るさの何倍に感じられるのかを表わす。以後、値ILu_o/ILuを「明るさ知覚効率」(brightness perception efficiency)と呼ぶことにする。
LED34の明るさを決定するための第二のステップ(B)として、明るさ知覚効率ILu_o/ILuに基づいて、標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを基準として明るさ知覚効率の逆数ILu/ILu_oに応じて変えた明るさをLED34の明るさとして決定する。
【0027】
LED34を発光させる際には、第二のステップ(B)で決定された明るさに対応した入力を光源明るさ可変手段31に対して行うことにより、標準の明るさで発光するLED34の明るさを第二のステップ(B)で決定された明るさに変える。
【0028】
PWM制御によりLED34の明るさを変更する場合、標準の使用者に合わせて設定されたPWM信号のデューティ比を明るさ知覚効率の逆数倍にすればよい。
図3は、ある青色のLED34の明るさをPWM制御により変える例を示している。ここで、BPEは、明るさ知覚効率ILu_o/ILuを示している。図3の例では、若年三色覚者向けの通常モードでPWM信号のデューティ比が20.0%であることが示されている。また、高齢者の明るさ知覚効率BPEelderlyが0.22であり、一型二色覚者の明るさ知覚効率BPEprotanが1.51であることが示されている。
【0029】
対象者が高齢者の場合、BPEelderly=0.22であるので、LED34の明るさは標準の明るさの1/0.22倍に決定される。そこで、PWM信号のデューティ比を20.0×(1/0.22)=90.9%とすれば、高齢者が点灯状態のLEDを見たときに標準の使用者と同等の明るさに感じることになる。
また、対象者が一型二色覚者の場合、BPEprotan=1.51であるので、LED34の明るさは標準の明るさの1/1.51倍に決定される。そこで、PWM信号のデューティ比を20.0×(1/1.51)=13.2%とすれば、一型二色覚者が点灯状態のLEDを見たときに標準の使用者と同等の明るさに感じることになる。
なお、対象者の明るさ知覚効率は、対象者の分光視感特性、及び、光源の分光放射強度分布によって変わる。従って、対象者の分光視感特性、及び、光源の分光放射強度分布に応じて光源の明るさを決定する必要がある。
【0030】
多くの人間は、L錐体、M錐体、S錐体の3種類の視細胞で色を認識している。これらの錐体のうち一つ以上の錐体が無い人や、錐体の機能が不十分である人を、色弱者と呼んでいる。図4は、人の色覚特性の種類と呼称を示している。図4に示すように、赤に近い波長の光を検出するL錐体のみ無い人を一型二色覚、L錐体の機能が不十分な人を一型三色覚、緑に近い波長の光を検出するM錐体のみ無い人を二型二色覚、M錐体の機能が不十分な人を二型三色覚、青に近い波長の光を検出するS錐体のみ無い人を三型二色覚、S錐体の機能が不十分な人を三型三色覚、と呼ぶ。日本人は、男性の5%、女性の0.2%が色弱者である。
【0031】
以上より、色弱者用の光源の明るさを色弱者のタイプに応じてきめ細やかに決めることも考えられる。本実施形態では、図9に示す分光視感効率のデータに基づいて、光源の明るさを決定する対象者を高齢者と一型二色覚者としている。そして、図6に示すようなコンピュータ80に対して、図5に示す明るさ知覚効率データベースDB1を構築している。この明るさ知覚効率データベースDB1には、高齢者と一型二色覚者とについて光源毎に明るさ知覚効率BPEが格納されている。
【0032】
(3)光源明るさ決定方法に用いるコンピュータの説明:
図6に示すコンピュータ80は、内部のバスにCPU81、ROM82、RAM83、不揮発性メモリ84、入力装置85、出力装置86、記録装置87、I/F(インターフェイス)88、等が接続されている。入力装置85は、キーボードやマウス(ポインティングデバイス)といった操作入力装置等を用いることができる。出力装置86は、ディスプレイといった画像出力装置等を用いることができる。記録装置87は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に対してデータを読み書き可能である。I/F88は、外部の装置に対してデータを送受信可能である。
【0033】
不揮発性メモリ84は、ハードディスク、不揮発性半導体メモリ、等を用いることができる。不揮発性メモリ84には、光源の明るさを決定するために用いられるプログラムP1、標準分光視感効率V(λ)、対象者の分光視感効率Vo(λ)、最大視感効果度km、対象者の最大視感効果度km_o、分光放射強度I(λ)、標準の視感光度ILu、対象者の視感光度ILu_o、明るさ知覚効率BPE、等が記憶されている。
コンピュータ80の使用者は、分光放射強度I(λ)と標準分光視感効率V(λ)と最大視感効果度kmを用いて標準の視感光度ILuを計算することができる。また、分光放射強度I(λ)と対象者の分光視感効率Vo(λ)と対象者の最大視感効果度kkm_oを用いて対象者の視感光度ILu_oを計算することができる。そして、視感光度I(λ),ILu_oを用いて表示装置の光源の明るさを決定することができる。
【0034】
対象者用の明るさが決まると、LED34を標準の使用者用の明るさとするパルス幅値14aと、LED34を対象者用の明るさとするパルス幅値14b,14cとを不揮発性メモリ14に書き込む。図3に示した例では、PWM信号のデューティ比をそれぞれ20.0%、90.9%、13.2%にするパルス幅値14a,14b,14cを不揮発性メモリ14に記憶させることになる。
【0035】
(4)表示装置の処理の説明:
リモコン装置2のコントロールユニット10は、図7に示す処理を行い、本実施形態の光源明るさ決定方法で決定された明るさでLED34を発光させる。図7に示す処理は、モード切替ボタン24a〜24cが押されたときに開始され、ROM12に書き込まれたプログラムに従ってCPU11が実行する。
まず、コントロールユニット10は、どのモードが選択操作されたかを判断する(ステップS102。以下、「ステップ」の記載を省略)。
【0036】
モード切替ボタン24aが操作された場合、通常モードが選択されたことになり、S104で若年三色覚者用のパルス幅指令値を取得する。不揮発性メモリ14に記憶されているパルス幅値14a〜14cがパルス幅指令値となる場合、若年三色覚者用のパルス幅値14aを不揮発性メモリ14から読み出せばよい。むろん、パルス幅値14a〜14cが直接パルス幅指令値とはならない場合、読み出したパルス幅値14aをパルス幅指令値に換算すればよい。
モード切替ボタン24bが操作された場合、高齢者モードが選択されたことになり、S106で高齢者用のパルス幅指令値を取得する。S106では、不揮発性メモリ14から高齢者用のパルス幅値14bを読み出し、必要に応じてパルス幅指令値に換算すればよい。
モード切替ボタン24cが操作された場合、一型二色覚者モードが選択されたことになり、S108で一型二色覚者用のパルス幅指令値を取得する。S108では、不揮発性メモリ14から一型二色覚者用のパルス幅値14cを読み出し、必要に応じてパルス幅指令値に換算すればよい。
【0037】
S104,S106,S108の後、コントロールユニット10は、取得したパルス幅指令値をパルス幅制御回路32へ出力する(S110)。また、コントロールユニット10は、操作ボタン23a〜23eの操作に応じて、照明44〜46のオンオフやスポット照明45,46の明るさ変更を制御し、LED34a,34bのオンオフを制御する(S112)。パルス幅指令値を入力したパルス幅制御回路32は、パルス幅指令値に対応したパルス幅のPWM信号を生成する。光源駆動回路33は、オンとされたLED34a,34bをPWM信号に対応した間隔で点灯させる。これにより、標準の明るさで発光するLED34a,34bは、高齢者モードが選択されたときに高齢者用に決定された明るさに変えられ、一型二色覚者モードが選択されたときに一型二色覚者用に決定された明るさに変えられる。
【0038】
(5)光源の分光放射強度I(λ)の決定方法:
LEDの明るさは,その分光放射強度分布が大きく影響する。このため、個人が感じる単色LEDの明るさを推定するためには、個々のLEDの分光放射強度分布を知る必要がある。しかし、市販のLEDに分光放射強度データが提供されている例はまれである。単色LEDの光学特性について提供されているデータは、一般に、ピーク波長、主波長、半値全幅(FWHM)、光度である。そこで、これらのデータから単色LEDの分光放射強度分布を推定することにする。
【0039】
単色LEDの分光放射強度分布は、LED素子のエネルギーギャップの確率密度分布に影響されるため、ガウス分布に近い形をとることが多い。そこで、単色LEDの分光放射強度I(λ)がピーク波長λp(nm)と半値全幅λd(nm)をパラメータとした式(5)のガウス関数であると仮定する。
【数5】
ただし、式(5)のI(λ)は、光の波長λ(nm)がピーク波長λpであるときに1となる相対値である。明るさ知覚効率BPE=ILu_o/ILuを計算する際には、両方の視感光度ILu,ILu_oにI(λ)が含まれているため、I(λ)を相対値とすることができる。分光放射強度I(λ)をW/sr・nm単位にするためには、式(5)に放射強度の補正係数I(W/sr)を乗じればよい。この場合、視感光度ILu,ILu_oの単位はcdとなる。
【0040】
また、ガウス関数の標準偏差σ(nm)は、半値全幅λdから求められる。
【数6】
図8(a)には、ピーク波長465nmの青色LEDについて、半値全幅が25nmと65nmとで推定した分光放射強度分布を示している。ただし、波長465nmでの分光放射強度を1(W/sr・nm)としている。
【0041】
市販の可視光単色LED、98種類(4メーカー、砲弾型)を調査したところ、ピーク波長は430〜700nm,半値全幅は12〜100nmであった。
【表1】
そこで、おおよそ表1に示したピーク波長及び半値全幅の範囲について、対象者が感じる明るさを推定することとした。
【0042】
単色でないLEDでも、異なる色のLEDチップを一つの発光源としたLEDはそれぞれの色についてピーク波長を有する分光放射強度分布となる。例えば、液晶ディスプレイのバックライト等に用いられる白色LEDには、赤色用チップと緑色用チップと青色用チップとが組み込まれたものがある。このような白色LEDは、赤色の波長と緑色の波長と青色の波長とにピーク波長を有する分光放射強度分布となる。
【0043】
そこで、n個(nは1以上の整数)のピーク波長λpi(iは1からnまでの整数)を有する光源を表示装置に用いる場合を考える。各ピーク波長λpi(nm)に対応した半値全幅をλdi(nm)とすると、各ピーク波長λpiに対応した標準偏差σi(nm)は、上述した式(3)、すなわち、
【数7】
となる。各ピーク波長λpiに対応した放射強度の補正係数をIi(W/sr)とすると、分光放射強度I(λ)(W/sr・nm)は、上述した式(4)、すなわち、
【数8】
となる。従って、式(4)を用いてLEDの分光放射強度I(λ)を決定することができる。
むろん、n=1とすれば、実質的に上記式(5)となる。
【0044】
決定した分光放射強度I(λ)は、標準の視感光度ILuと対象者の視感光度ILu_oとの比に対応した明るさ知覚効率BPEを求めるために用いることができる。
図8(b)には、465nmと585nmとにピーク波長を有するLEDについて、半値全幅30nmで推定した分光放射強度分布を示している。ただし、両波長465nm,585nmでの分光放射強度を1(W/sr・nm)としている。むろん、ピーク波長の分光放射強度に強弱の差があれば、強弱に応じて補正係数Iiを設定すればよい。
【0045】
以上説明した分光放射強度分布の決定方法によると、光源の分光放射強度が分かっていなくても、光源のピーク波長及び半値全幅から光源の分光放射強度を推定して対象者の視感に合わせた光源の明るさを決定することができる。
【0046】
(6)高齢者と二色覚者の分光視感効率Vo(λ)の説明:
光源の明るさの知覚は、個人の分光視感効率Vo(λ)が大きく影響する。
図9は、高齢者の分光視感効率Velderly、一型二色覚者の分光視感効率Vprotan、二型二色覚者の分光視感効率Vdeuteran、三型二色覚者の分光視感効率Vtritan、及び、CIE(国際照明委員会)において合意されたCIE標準分光視感効率V(λ)について、明所視の場合を例示している。ここで、横軸は波長λ(nm)、縦軸は分光視感効率である。これらの分光視感効率は、視野角の狭い(視野角2°未満の)表示を見るときの明るさを評価する場合に使用すると好適である。例えば、砲弾型など多くのLEDは、通常見る位置において視野角2°未満となる点光源であり、明るさ知覚効率BPEを用いて明るさを評価するのに適している。
図中、「Elderly 70's」、「Protanopes」、「Deuteranopes」、「Tritanopes」、「CIE V(λ)」は、それぞれ、70歳代の高齢者、一型二色覚者、二型二色覚者、三型二色覚者、CIE標準分光視感効率を示している。
70歳代の高齢者の分光視感効率は、K. Sagawa and Y. Takahashi: Spectral luminous efficiency as a function of age, J. Opt. Soc. Am(A), 18 pp. 2659-2667 (2001) で報告された分光視感効率を用いている。また、この文献には、CIE標準分光視感効率が25歳の分光視感効率に最もよく一致すると記載されている。そこで、若年三色覚者は、25歳であって分光視感効率がCIE標準分光視感効率である者とする。本実施形態では、この若年三色覚者を標準の使用者としている。
二色覚者の分光視感効率は、以下の文献(a)〜(e)で報告された分光視感効率を用いている。
(a)A. Stockman, N.I. MacLeod and N.E. Johnson: Spectral sensitivities of the human cones, J. Opt. Soc. Am(A), 10, pp. 2491-2521 (1993).
(b)V.C. Smith and J. Pokorny: Spectral sensitivity of the foveal cone photopigments between 400 and 500 nm, Vision Res., 15, pp. 161-171 (1975).
(c)Y. Hsia and C.H. Graham: Spectral luminosity curves for protanopic, deuteranopic, and normal subjects, in Proceedings of the National Academy of Sciences of U.S.A, 43, pp. 1011-1019 (1957).
(d)G. Wyszecki and W. Stiles: Color Science 2nd Edition, John Wiley and sons (1982).
(e)W. D. Wright: The characteristics of tritanopia,” J. Opt. Soc. Am., 42, pp. 509-521 (1952).
【0047】
図9に示すように、550nmよりも短波長の領域では70歳代の高齢者の分光視感効率Velderlyが最も低く、550nmよりも長波長の領域では一型二色覚者の分光視感効率Vprotanが最も低くなっている。このことは、特に高齢者と一型二色覚者の感度低下に注目して個人の分光視感効率の違いを考慮する必要があることを示している。そこで、本実施形態では、高齢者と一型二色覚者とを対象者として光源の明るさを決定することにしている。
【0048】
対象者が感じる光源の明るさを推定するために、高齢者と一型二色覚者の分光視感効率Velderly,Vprotanについて、図9に示した既存研究の結果を式(7),(8)の多項式でフィッティングした。
【数9】
【数10】
図10は、高齢者と一型二色覚者の分光視感効率Velderly(λ),Vprotan(λ)を多項式フィッティングした場合の多項式の次数に対する決定係数R2を示している。ここで、横軸は多項式の次数、縦軸は決定係数R2である。図中、「Protanopia」、「Elderly 70yrs」は、それぞれ、一型二色覚者、70歳代の高齢者を示している。
高齢者の場合、次数を9次から上げても決定係数はほとんど増加しなかった。また、一型二色覚者の場合、次数を7次から上げても決定係数はほとんど増加しなかった。そこで、高齢者の分光視感効率Velderly(λ)を9次の多項式でフィッティングし、一型二色覚者の分光視感効率Vprotanを7次の多項式でフィッティングした。
【0049】
表2は、高齢者の場合の近似係数aiを示している。
【表2】
表中、「*.*…*E−**」は*.*…*×10-**を意味し、「*.*…*E+**」は*.*…*×10**を意味する。
表2の近似係数aiを式(7)に適用することにより、高齢者の分光視感効率Velderly(λ)を高齢者の視感光度ILu_elderlyの計算に用いることができる。
【0050】
表3は、一型二色覚者の場合の近似係数aiを示している。
【表3】
表3の近似係数aiを式(8)に適用することにより、一型二色覚者の分光視感効率Velderly(λ)を一型二色覚者の視感光度ILu_protanの計算に用いることができる。
【0051】
(7)明るさ知覚効率BPEの説明:
波長λの関数とされた光源の分光放射強度I(λ)が求まると、明所視において標準とするCIE標準分光視感効率V(λ)とCIEで定められた最大視感効果度km=683lm/Wとを用いて標準の視感光度ILuを求めることができる。ここで、CIE標準分光視感効率V(λ)は、若年三色覚者の分光視感効率としている。最大視感効果度kmは、CIE標準分光視感効率V(λ)が最大となる波長における放射の視感効果度である。明所視の場合、CIE標準分光視感効率が最大になるのは、波長が555nmのときである。
標準の視感光度ILuは、上述した式(1)、すなわち、
【数11】
となる。ここで、λSは可視放射の短波長側の波長、λLは可視放射の長波長側の波長である。分光放射強度I(λ)に若年三色覚者の分光視感効率V(λ)が乗じられているので、標準の視感光度ILuは、若年三色覚者が感じる明るさを表す心理物理量ということができる。
【0052】
また、波長λの関数とされた対象者の分光視感効率Vo(λ)、及び、光源の分光放射強度I(λ)が求まると、対象者の分光視感効率Vo(λ)が最大となる波長における視感効果度km_oを用いて対象者の視感光度ILu_oを求めることができる。ここで、km_oを対象者の最大視感効果度と呼ぶことにする。対象者の視感光度ILu_oは、上述した式(2)、すなわち、
【数12】
となる。分光放射強度I(λ)に対象者の分光視感効率Vo(λ)が乗じられているので、対象者の視感光度ILu_oは、対象者が感じる明るさを表す心理物理量ということができる。
なお、視感光度ILu,ILu_oの計算は、コンピュータ80を用いた近似値を求める演算により行うことができる。
【0053】
標準の視感光度ILuと対象者の視感光度ILu_oが求まると、明るさ知覚効率BPE=ILu_o/ILuを求めることができる。式(1),(2)より、明るさ知覚効率BPEは、
【数13】
となる。明るさ知覚効率BPEは、標準の使用者の心理物理量に対する対象者の心理物理量の比ということができ、標準の使用者に対する対象者の明るさの感じ方の違いを表す比率ということができる。明るさ知覚効率BPEは、CIE標準分光視感効率V(λ)を持つ若年三色覚者がある光源を見たときに、その光源の光度を何倍すれば高齢者や一型二色覚者が感じる明るさを体験できるのかを示す減光率(増倍率)と言い換えることもできる。従って、明るさ知覚効率BPEを用いることにより、高齢者や一型二色覚者といった対象者の視感に合わせた光源の明るさを定量的に決定することができる。
【0054】
なお、明るさ知覚効率BPEを計算するための可視放射の範囲は、例えば、短波長側の波長λS=400nm、長波長側の波長λL=700nmとすることができる。JIS Z8113:1998(照明用語)に規定される可視放射の波長限界は、短波長側が360〜400nm、長波長側が760〜830nmであるので、これらの範囲内となるように波長λS,λLを設定してもよい。
【0055】
ところで、対象者の視感光度ILu_oを求めるためには、対象者の最大視感効果度km_oを求める必要がある。
Wernerらは、560nmの波長の光に対する明所視での絶対閾値の加齢変化を調べ、絶対閾値が加齢によって0.008A+7.68410(Aは年齢、単位はlog quanta・sec-1・deg-2)の割合で上昇することを報告している(J.S. Werner, K.A. Schelble and M.L. Bieber: Age-related increases in photopic increment thresholds are not due to an elevation in intrinsic noise, Color Res. Appl., 26-S1, pp. S48-S52 (2001))。この絶対閾値は光が見えるか否かの境界値を意味し、絶対閾値の逆数が目の感度に対応する。若年三色覚者を25歳、高齢者を70歳と仮定すると、若年三色覚者及び高齢者の絶対閾値は、それぞれ、7.884,8.244(log quanta・sec-1・deg-2)となる。このことは、560nmの光に対する高齢者の感度が若年三色覚者の0.437倍(=107.884/108.244)に減少することを意味する。
また、560nmの光に対する高齢者の分光視感効率及びCIE標準分光視感効率は、JISとCIEによると、それぞれ0.999、0.995である。そこで、高齢者の最大視感効果度をkm_e=0.437・(0.995/0.999)km=0.435kmと決定した。
【0056】
一型二色覚者については、Goldmann-Weekers 順応計を用いた実験で、白色光に対する一型二色覚者の絶対閾値が三色覚者とほぼ同じであるという報告がされている(A.E. Krill and E. Beutler: The red-light absolute threshold in heterozygote protan carriers; Possible genetic implications, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 3, pp.107-118 (1964).)。そこで、式(9)で定義した明るさ知覚効率の式に対して、一型二色覚者の分光視感効率Vprotanを表す7次の近似多項式をVoとして用い、CIEで規定された標準の光A(白色光)の分光放射強度分布をI(λ)として用い、BPE=1と仮定し、λS=400nm、λL=700nmとしてkm_oを算出した。その結果、km_o=1.380kmとなった。
以上より、一型二色覚者の最大視感効果度をkm_p=1.380kmと決定した。
【0057】
λS=400nm、λL=700nmとして、高齢者の明るさ知覚効率
【数14】
に高齢者の最大視感効果度km_e、式(5),(7)を代入すると、単色LEDのピーク波長λpと半値全幅λdに対する高齢者の明るさ知覚効率を算出することができる。図11は、このように算出した結果を示しており、単色LEDの半値全幅λdの違いによる高齢者の明るさ知覚効率BPEelderlyの違いを示している。
【0058】
図11に示すように、高齢者の場合、ピーク波長475nmで半値全幅15nmのときに明るさ知覚効率BPEelderlyが0.212と最も低かった。BPEelderly=0.212ということは、ピーク波長475nmで半値全幅15nmの単色LEDを高齢者が見たときに感じる明るさが光度を約21%に低下させた同じLEDを若年三色覚者が見たときに感じる明るさと等価であることを意味する。ピーク波長が475nmであっても半値全幅が100nmの単色LEDであれば、明るさ知覚効率が0.337となり、高齢者が感じるLEDの明るさ低下は半値全幅15nmの場合と比較して低減される。
ピーク波長530〜610nmの範囲では、半値全幅が15〜100nmの範囲で変化しても明るさ知覚効率の変化は0.03以下であった。このことは、ピーク波長530〜610nmの範囲ではピーク波長が同じであれば半値全幅が異なっても高齢者が感じるLEDの明るさがほとんど変化しないことを示している。
一方、ピーク波長610nm以上では、半値全幅の狭いLEDの方が半値全幅の広いLEDより明るさ知覚効率が大きいので、半値全幅の狭いLEDの方がより明るく感じられると予想される。
【0059】
また、一型二色覚者の明るさ知覚効率
【数15】
に一型二色覚者の最大視感効果度km_p、式(5),(8)を代入すると、単色LEDのピーク波長λpと半値全幅λdに対する一型二色覚者の明るさ知覚効率を算出することができる。図12は、このように算出した結果を示しており、単色LEDの半値全幅λdの違いによる一型二色覚者の明るさ知覚効率BPEprotanの違いを示している。
【0060】
図12に示すように、一型二色覚の場合、ピーク波長700nmで半値全幅15nmのときに明るさ知覚効率BPEprotanが0.053と最も低かった。BPEprotan=0.053ということは、ピーク波長700nmで半値全幅15nmの単色LEDを一型二色覚者が見たときに感じる明るさが光度を約5%に低下させた同じLEDを若年三色覚者が見たときに感じる明るさと等価であることを意味する。
図12を見ると、ピーク波長が535nmよりも長波長の場合、半値全幅が広がると一型二色覚者の明るさ知覚効率の低下を抑えられることが分かる。例えば、ピーク波長635nmのLEDの場合、半値全幅が15nmのときには明るさ知覚効率が0.229であるが、半値全幅が100nmのときには明るさ知覚効率が0.663である。一方、ピーク波長が535nmよりも短い場合、半値全幅に関わらず一型二色覚者の明るさ知覚効率は1以上である。白色光に対する一型二色覚者の絶対閾値が三色覚者とほぼ同じということは、一型二色覚者の場合、長波長側の感度が低下している分だけ短波長の感度が高くなっていることが予想される。従って、一型二色覚者は、短波長側のLEDの光を標準観測者より明るく感じている可能性がある。
【0061】
以上説明したピーク波長と半値全幅に対する明るさ知覚効率の結果は、光源を製品の表示に採用する際にそのピーク波長だけでなく半値全幅を考慮することにより高齢者や一型二色覚者の視認性を向上させることができることを示している。
例えば、ピーク波長530nm以下の光源(青色LED等)は、高齢者にとってはピーク波長の半値全幅が15〜100nmの範囲内で広くなるほど明るく感じられ、一型二色覚者にとっては15〜100nmの範囲内でいずれの半値全幅でも若年三色覚者よりも明るく感じられる。そこで、表示装置にピーク波長530nm以下の分光放射強度分布を有する光源を使用する場合、前記ピーク波長の半値全幅が広い(例えば65nm)光源を採用すると、高齢者が感じる光源の明るさを若年三色覚者が感じる光源の明るさに近付けることができる。
【0062】
また、ピーク波長610nm以上の光源(赤色LED等)は、高齢者にとってはピーク波長の半値全幅が15〜100nmの範囲内で狭くなるほど明るく感じられ、一型二色覚者にとってはピーク波長の半値全幅が15〜100nmの範囲内で広くなるほど明るく感じられる。そこで、表示装置にピーク波長610nm以上の分光放射強度分布を有する光源を使用する場合、ピーク波長610nm以上で第一の半値全幅λd1の分光放射強度分布を有する第一の光源と、同じピーク波長でλd1よりも大きい第二の半値全幅λd2の分光放射強度分布を有する第二の光源とを表示装置に設け、高齢者モードが選択されているときには第一の光源を発光させ、一型二色覚者モードが選択されているときには第二の光源を発光させてもよい。すると、高齢者や一型二色覚者が感じる光源の明るさを若年三色覚者が感じる光源の明るさに近付けることができる。
【0063】
さらに、図1,2に示す光源34bを530nm以下のピーク波長λp1を有する第一の光源(青色LED等)とし、光源34aを530nm以上のピーク波長λp2(λp2>λp1)を有する光源(赤色LED等)とした高齢者向けの表示装置を考える。この場合、第一の光源におけるピーク波長の半値全幅λd1を第二の光源におけるピーク波長の半値全幅λd2よりも大きくしてもよい。これにより、高齢者に対して色を変えずに表示装置の光源を視認させ易くすることができる。
【0064】
さらに、図1,2に示す光源34bを570nm以下のピーク波長λp1を有する第一の光源(青色LED等)とし、光源34aを570nm以上のピーク波長λp2(λp2>λp1)を有する光源(赤色LED等)とした一型二色覚者向けの表示装置を考える。この場合、第二の光源におけるピーク波長の半値全幅λd2を第一の光源におけるピーク波長の半値全幅λd1よりも大きくしてもよい。一型二色覚者の場合はピーク波長λp2が570nm以上のときに明るさ知覚効率BPEが1以下となるため、ピーク波長λp2が570nm以上の第二の光源についてピーク波長の半値全幅を大きくすることにより、一型二色覚者に対して色を変えずに表示装置の光源を視認させ易くすることができる。
【0065】
さらに、同じピーク波長で半値全幅の異なる複数の光源を表示装置に設け、これらの光源のいずれを発光させるかのモードの選択操作を受け付け、受け付けたモードに対応した光源を発光させるようにしてもよい。これにより、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずに表示装置の光源を視認させ易くすることができる。
【0066】
今回の検討では単色LEDの分光放射強度分布を式(4),(5)のガウス関数で定義したが、光源の分光放射強度分布がガウス関数でない場合もその分光放射強度分布を波長λの関数で定義することができれば明るさ知覚効率を計算することが可能となる。
【0067】
なお、標準の使用者に合わせて設計された光源の光度をBPE倍にする光源発光シミュレータを作製すると、高齢者や色弱者がどのくらい暗く感じているかを標準の使用者が実際に目で見て確認することができる。これにより、高齢者や色弱者が感じる明るさの低下に配慮した表示装置の設計が可能となる。
【0068】
(8)明るさ知覚効率BPEを用いた光源明るさ決定方法の説明:
以上説明したようにして対象者の明るさ知覚効率BPEを求めると、この明るさ知覚効率BPEに基づいて、標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを基準として明るさ知覚効率の逆数1/BPEに応じて変えた明るさをLED34の明るさとして決定する。
例えば、各光源34の標準の明るさを若年三色覚者に合わせて光度Iv(cd)と設定すると、対象者の視感に合わせた各光源34の明るさは、光度Iv_o=Iv/BPE(cd)とすることができる。明るさ知覚効率BPEは若年三色覚者の心理物理量に対する対象者の心理物理量の比に相当するので、光源34の標準の光度Ivに明るさ知覚効率の逆数1/BPEを乗じることにより、対象者に若年三色覚者が感じる明るさを感じさせる明るさが決まる。
【0069】
光源の明るさを決定するための明るさの指標は、光度以外にも、輝度、光束、照度、等を用いることができる。
例えば、光源の標準の明るさを輝度L(cd/m2)と設定すると、対象者の視感に合わせた光源の輝度Lo(cd/m2)は、L/BPEとすることができる。光源の標準の明るさを光束Φ(lm)と設定すると、対象者の視感に合わせた光源の光束Φo(lm)は、Φ/BPEとすることができる。光源の標準の明るさを照度E(lx)と設定すると、対象者の視感に合わせた光源の照度Eo(lx)は、E/BPEとすることができる。
【0070】
ところで、標準の明るさを表す光度等の量に明るさ知覚効率の逆数1/BPEを乗じて厳密に求められる量で表される明るさとなるように光源が発光することができないことも想定される。この場合、前記厳密に求められる量で表される明るさに最も近い明るさを対象者の視感に合わせた光源の明るさとして決定してもよい。例えば、光源の発光する明るさが段階的とされているとき、複数段階の明るさのうち前記厳密に求められる量で表される明るさに最も近い明るさを対象者の視感に合わせた光源の明るさとして決定することができる。このようにして決められる明るさも、標準の明るさを基準として視感光度の比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさに含まれる。
【0071】
決定される光源34の明るさは、対象者が光源34を見たときに標準の使用者が標準の明るさの光源34を見たときに感じる明るさに近づいている。従って、色が変わらなくても、高齢者や色弱者といった対象者は光源34を視認し易くなる。
【0072】
(9)光源明るさ決定プログラムによる光源明るさ決定方法の説明:
上述した光源明るさ決定方法を実施するためのプログラムを用意してコンピュータ80に実行させることも可能である。この場合、図6に示す不揮発性メモリ84に光源明るさ決定方法を実施するための光源明るさ決定プログラムP1を記憶させると、コンピュータ80が実行するのに好適である。
図13は、光源明るさ決定プログラムP1がコンピュータ80に実現させる処理を例示している。コンピュータ80は、図13に示す処理を開始すると、可視放射の波長の下限λSと上限λLとを設定する入力を受け付ける(S202)。ここで、λS=400nm、λL=700nm、等のデフォルト値があれば、これらのデフォルト値をλS,λLとして設定してもよい。
【0073】
S204では、光源の分光放射強度I(λ)を表すデータを取得する。取得するデータは、上述した式(4),(5)等を表すデータである。コンピュータ80で演算する便宜上、λS≦λ≦λLの範囲で波長λを所定刻み(例えば1nm刻み)とした各分光放射強度I(λ)の値を取得してもよい。
【0074】
n個(nは1以上の整数)のピーク波長λpi(iは1からnまでの整数)を有し各ピーク波長λpiに対応した半値全幅がλdiとされた光源を用いる場合、図14に示す分光放射強度分布決定処理をS204で行ってもよい。コンピュータ80は、分光放射強度分布決定処理を開始すると、光源のピーク波長λpiの入力を受け付ける(S302)。S304では、光源の半値全幅λdiの入力を受け付ける。S306では、ピーク波長の分光放射強度の強弱に応じた補正係数Iiの入力を受け付ける。S302〜S306の処理は、例えば、コンピュータ80の使用者からそれぞれ、ピーク波長の値、半値全幅の値、補正係数の値、の操作入力を受け付ける処理とすることができる。
S308では、上述した式(3)を用いて標準偏差σiを算出する。
【0075】
S310では、光源の分光放射強度分布に現れる全てのピーク波長についてλpi,λdi,Iiの入力を受け付けたか否かを判断する。入力が完了していなければ、S302〜S310の処理を繰り返す。全てのピーク波長についての入力を受け付けた場合、上述した式(4)を用いて分光放射強度I(λ)を表すデータを取得する(S312)。
【0076】
分光放射強度I(λ)を表すデータを取得した後、コンピュータ80は、対象者の分光視感効率Vo(λ)を表すデータを取得する(図13のS206)。取得するデータは、上述した式(7),(8)等を表すデータである。コンピュータ80で演算する便宜上、λS≦λ≦λLの範囲で波長λを所定刻み(例えば1nm刻み)とした各分光視感効率Vo(λ)の値を取得してもよい。
【0077】
S208では、標準とする最大視感効果度kmを取得する。kmは、CIE最大視感効果度683lm/W等を用いることができる。
S210では、対象者の最大視感効果度km_oを取得する。km_oは、上述したkm_e=0.435km、km_p=1.380km、等を用いることができる。
【0078】
S212では、上述した式(1)を用いて標準の視感光度ILuを算出する。S214では、上述した式(2)を用いて対象者の視感光度Ilu_oを算出する。コンピュータ80で演算する便宜上、λS≦λ≦λLの範囲で波長λを所定刻み(例えば1nm刻み)とした各視感光度ILu,Ilu_oの値を求めてもよい。
S216では、上述した式(9)〜(11)を用いて明るさ知覚効率BPE=ILu_o/ILuを算出する。
【0079】
S218では、標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを表す値Bmを取得する。Bmは、若年三色覚者に合わせて設定された光度Iv(cd)等を用いることができる。
S220では、対象者の視感に合わせた光源の明るさBm_oを決定する。Bm_oは、Bm/BPE、Bm/BPEに近い値、等を用いることができる。
【0080】
(10)光源明るさ決定方法及び光源発光方法の効果の説明:
図1,2で示したLED34を発光させる際には、対象者の視感に合わせて決定された明るさとなるように各LED34の発光量を図2で示した光源明るさ可変手段31で制御する。図3で示したようにLED34の明るさをPWM制御により変える場合、図2で示した不揮発性メモリ14に対して、通常モードのPWM信号のデューティ比に明るさ知覚効率の逆数1/BPEを乗じたデューティ比とするパルス幅値14b,14cを書き込んでおけばよい。リモコン装置2は、図7で示した処理を行って、対象者の視感に合わせて決定された明るさとなるようにLED34を発光させる。従って、リモコン装置2は、上述した光源明るさ決定方法で決定された明るさで光源を発光させる表示装置といえる。
上述した光源明るさ可変手段31がリモコン装置2にあることにより、LED34を変えなくても対象者の視感に合わせた明るさでLED34を発光させることができる。
【0081】
以上説明したように、本光源明るさ決定方法及び光源発光方法によると、明るさ知覚効率という新たな概念により、対象者の視感に合わせた光源の明るさを定量的に決定することができ、発光する光源を数値に基づいて制御することができる。従って、オブジェクトと背景との輝度コントラストを対象者の視感に応じて大きくすることができ、光源の色が変わらなくても、高齢者や色弱者といった対象者は光源による表示を視認し易くなる。むろん、オブジェクトと背景との明るさの差があれば、色が変わらなくても高齢者や色弱者はオブジェクトを認識することができる。
以上より、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずに光源による表示装置の表示を視認させ易くすることが可能となり、幅広いユーザーの色覚特性を考慮したカラーユニバーサルデザインの実現が容易となる。
【0082】
なお、コンピュータ80に個人情報データベースを設け、この個人情報データベースにどの色覚者に相当するかの情報を入れておけば、指紋認証や網膜認証といった個人認証を行った後に認証された個人に対応した色覚者の情報を個人情報データベースから取得することができる。明るさ知覚データベースから対応する明るさ知覚効率を取得すれば、個人の視感に合わせた光源の明るさを決定することができ、個人に合わせた明るさで発光する光源を有する表示装置を提供することができる。
【0083】
(11)各種変形例:
ところで、本発明を適用可能な表示装置は、照明装置用のリモコン装置以外にも、給湯機器のリモコン装置、浴室設備機器のリモコン装置、等が考えられる。
本発明を適用可能な光源は、液晶ディスプレイのバックライト、プラズマディスプレイ用の光源、有機EL(エレクトルルミネッセンス)、白熱灯、等でもよい。
本発明にいう標準の使用者は、若年でない三色覚者等でもよい。
本発明にいう対象者は、二型二色覚者等でもよい。
表示装置を主に暗所で用いる場合、明るさ知覚効率BPEを求めるための関数や係数は、暗所視や薄明視に相当する関数や係数を用いてもよい。
明るさ知覚効率BPEを求める代わりに、対象者の視感光度に対する標準の視感光度の比ILu/ILu_oを求め、この比ILu/ILu_oに基づいて対象者の視感に合わせた光源の明るさを決定してもよい。比ILu/ILu_oは、明るさ知覚効率BPEの逆数であり、光源の明るさを表す値に乗じられる増倍率といえる。また、BPEに所定値を加減乗除した値、ILu/ILu_oに所定値を加減乗除した値、等も明るさ知覚効率の代わりに用いることができる。
【0084】
表示装置に記憶させるパルス幅値は、図2に示すROM12等に記憶させてもよい。
LEDの明るさを変える際、光源明るさ可変手段は、LEDに供給する電流量を変更してもよいし、LEDに印加する電圧を変更してもよい。
【0085】
上述した明るさ知覚効率BPEは、表示装置に記憶させてもよい。
図15は、第二の実施形態に係るリモコン装置(表示装置)が行う処理を示している。本リモコン装置は、図2に示す不揮発性メモリ14に高齢者及び一型二色覚者の明るさ知覚効率BPEelderly,BPEprotanが記憶されているものとする。高齢者用と一型二色覚者用のパルス幅値14b,14cは、不揮発性メモリ14に記憶されていなくてもよい。図15に示す処理は、モード切替ボタン24a〜24cが押されたときに開始される。
【0086】
まず、コントロールユニット10は、通常モードのパルス幅指令値を取得する(S402)。S402では、不揮発性メモリ14から若年三色覚者用のパルス幅値14aを読み出し、必要に応じてパルス幅指令値に換算すればよい。
S404では、どのモードが選択操作されたかを判断する。
【0087】
モード切替ボタン24bが操作された場合、高齢者モードが選択されたことになり、S406で高齢者用の明るさ知覚効率BPEelderlyを不揮発性メモリ14から読み出す。S408では、通常モードのPWM信号のパルス幅を明るさ知覚効率の逆数倍1/BPEelderlyにするパルス幅指令値を取得する。例えば、若年三色覚者用のパルス幅値14aを1/BPEelderly倍にし、必要に応じてパルス幅指令値に換算すればよい。
モード切替ボタン24cが操作された場合、一型二色覚者モードが選択されたことになり、S410で一型二色覚者用の明るさ知覚効率BPEprotanを不揮発性メモリ14から読み出す。S412では、通常モードのパルス幅を明るさ知覚効率の逆数倍1/BPEprotanにするパルス幅指令値を取得する。例えば、若年三色覚者用のパルス幅値14aを1/BPEprotan倍にし、必要に応じてパルス幅指令値に換算すればよい。
【0088】
S404(通常モード時),S408,S412の後、コントロールユニット10は、取得したパルス幅指令値をパルス幅制御回路32へ出力し、図7のS112と同様の照明・表示処理を行う(S414〜S416)。すると、標準の明るさで発光するLED34は、高齢者モードが選択されたときに高齢者用に決定された明るさに変えられ、一型二色覚者モードが選択されたときに一型二色覚者用に決定された明るさに変えられる。
以上より、PWM信号のパルス幅を明るさ知覚効率の逆数倍にする本リモコン装置は、対象者の視感に合わせた光源の明るさを決定しているといえる。従って、本リモコン装置で行われる処理は、光源明るさ決定方法の一部を実施していることになる。
【0089】
図16は、第三の実施形態に係るリモートコントロールシステム101の電気回路の概略を例示するブロック図である。本実施形態のリモコン装置(表示装置)102は、パルス幅制御回路32が無く、発光するLED34の明るさは変わらない。そこで、上述した光源明るさ決定方法で決定される対象者用の明るさに最も近い明るさのLED34を複数のLEDの中から選択し、該選択したLED34をリモコン装置102に装着して発光させることにしている。
【0090】
図17は、第三の実施形態に係るリモコン装置102の光源発光方法を模式的に示している。
本光源発光方法を実施するために、まず、光源明るさデータベースDB2をコンピュータ80等に作成しておく。光源明るさデータベースDB2には、光源毎にピーク波長、半値全幅、等の光学特性のデータを格納しておくとともに、リモコン装置102に装着したときの光源の明るさを表すデータBi(例えば光度)を格納しておく。データBiは、光源の光学特性データに含まれる光度から求められるデータでもよいし、リモコン装置102に設ける電気回路に光源を装着して得られる実測データでもよい。
【0091】
上述した光源明るさ決定方法で対象者の明るさ知覚効率BPEが求められ、対象者の視感に合わせたLEDの明るさBm_o=Bm/BPEが決まると、まず、光源明るさデータベースDB2を検索する。ここで、Bmは、標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを表す値である。検索の際には、標準の使用者用のLEDと同系統の色のLEDを検索する。従って、光源明るさデータベースDB2にある同系統の色のLEDの中から明るさBm_oに最も近い明るさを選択する。次に、選択したLEDをリモコン装置102に装着する。これにより、リモコン装置102が対象者用となる。
対象者用のリモコン装置102のLED34を発光させると、対象者がLED34を見たときに標準の使用者が標準の使用者用のリモコン装置に装着されたLEDを見たときに感じる明るさに近づいている。
【0092】
第三の実施形態によると、光源の明るさを変える回路を設けなくても、高齢者や色弱者といった対象者に視感に合わせた明るさで表示装置の光源を発光させることが可能となる。
【0093】
図18は、第四の実施形態に係るリモコン装置(表示装置)202の外観を示している。本リモコン装置202は、液晶パネル220に位置入力装置222を組み合わせたタッチパネルが前面に設けられている。液晶パネル220の液晶表示面221には、第一の実施形態と同様の機能を有する各種操作ボタン23a〜23e,24a〜24cや、第一の実施形態のLED34bに対応する複数の表示領域221aが設けられている。各表示領域221aは、リモコン装置2を操作するときの位置(例えば50cm離れた距離)から見て視野角が2°未満の狭い表示面積とされている。操作ボタン23a〜23e,24a〜24cの機能は、液晶表示面221の対応する位置が押されたことを検出する位置入力装置222により実現される。
【0094】
図19に示すリモートコントロールシステム201のように、リモコン装置202は、コントロールユニット10に液晶ドライバ228、位置入力装置222及び光源明るさ可変手段31が接続されている。
液晶ドライバ228は、コントロールユニット10の制御に従って液晶パネル220を駆動し、液晶表示面221に操作ボタン23a〜23e,24a〜24cや表示領域221aを表示させる。液晶パネル220は、位置入力装置222が設けられるとともに、背後からバックライト(光源)234の光が照射されるようになっている。位置入力装置222は、タッチパッド等を用いることができる。
【0095】
光源明るさ可変手段31の光源駆動回路33には、バックライト234が接続されている。バックライト234は、赤色用チップと緑色用チップと青色用チップとを組み込んだ白色LEDであるものとする。このバックライト234は、第一の実施形態のLED34と同様、光源駆動回路33からパルス状の電流を入力して発光する。この電流は、コントロールユニット10からのパルス幅指令値に対応したパルス幅となる。光源駆動回路33にPWM信号を供給するパルス幅制御回路32は、コントロールユニット10からパルス幅指令値を入力し、このパルス幅指令値に対応したパルス幅のPWM信号を生成する。従って、バックライト234からの光が照射される液晶表示面221は、PWM信号のデューティ比が大きくなるほど明るくなり、PWM信号のデューティ比が小さくなるほど暗くなる。液晶表示面221を透過する光の透過特性の影響が小さければ、液晶表示面221は、PWM信号のデューティ比にほぼ比例した明るさになる。
【0096】
そこで、第一の実施形態と同様にして対象者の明るさ知覚効率BPEに基づいて、標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを基準として明るさ知覚効率の逆数1/BPEに応じて変えた明るさをバックライト234の明るさとして決定してもよい。例えば、バックライト234の標準の明るさを若年三色覚者に合わせて輝度L(cd/m2)と設定すると、対象者の視感に合わせたバックライト234の明るさは、輝度Lo(cd/m2)=L/BPE(cd/m2)とすることができる。むろん、バックライトの光度、光束、照度、等を用いて対象者の視感に合わせたバックライトの明るさを決定してもよい。
決定されるバックライト234の明るさは、この明るさで照射される液晶表示面221を対象者が見たときに標準の使用者が標準の明るさのバックライト234で照射される液晶表示面221を見たときに感じる明るさに近づいている。従って、色が変わらなくても、高齢者や色弱者といった対象者は液晶表示面221の表示領域221aを視認し易くなる。
【0097】
以上より、高齢者や色弱者といった対象者に対して色を変えずにバックライトによる表示装置の表示を視認させ易くすることが可能となり、幅広いユーザーの色覚特性を考慮したカラーユニバーサルデザインの実現が容易となる。
上述したバックライトは3色LED方式の光源であるものとして説明したが、青色用チップと蛍光体を用いた青黄色系疑似白色発光ダイオード等のバックライトを用いることも可能である。疑似白色発光ダイオード等のバックライトも、その分光放射強度の関数を用意すれば、明るさ知覚効率を求めることができ、対象者の視感に合わせたバックライトの明るさを定量的に決定することができる。
【0098】
なお、広い面積の(視野角2°以上の)単色光源に対して明るさを評価する場合、JIS S0031:2004の附属書2(参考)に示されている明るさ分光視感効率Vb(λ)を用いることが提案されている。そこで、光源が単色光で広い視野角を持つ場合には、上述した分光視感効率Vo(λ)の代わりにJIS S0031:2004附属書2(参考)に準拠した明るさ分光視感効率Vb(λ)を用いてもよい。
【0099】
ここで、単色光源のピーク波長をλp(nm)、このピーク波長に対応した半値全幅をΔd(nm)、波長λの関数とされた単色光源の分光放射強度をI(λ)、波長λの関数とされた標準とする明るさ分光視感効率をVb(λ)、波長λの関数とされた対象者の明るさ分光視感効率をVb_o(λ)、標準とする明るさ分光視感効率Vb(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm、対象者の明るさ分光視感効率Vb_o(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm_o、とすると、明るさ知覚効率BPEは、以下の式で表される。
【数16】
従って、視野角が2度以上の広い面積の単色光源について対象者の視感に合わせた明るさを決定する場合には、上記式(12)を用いて明るさ知覚効率BPEを求め、この明るさ知覚効率の逆数1/BPEに応じて変えた明るさを単色光源の明るさとして決定してもよい。
上記式(12)は、視感効率の比ILu_o/ILuを簡略化した式となる。従って、式(12)に従って明るさ知覚効率BPFを求めることは、本発明にいう、標準の視感効率ILuと対象者の視感効率ILu_oとの比を求めることに含まれる。
【0100】
むろん、明るさ分光視感効率Vb(λ)を用いて視野角の広い光源の明るさを決定するのは、明るさを非常に厳密に評価したい場合である。従って、ここまで厳密に明るさを評価する必要が無い場合には、第一の実施形態で示した分光視感効率を用いて視野角の広い光源の明るさを決定してもよい。
【0101】
なお、従属請求項に係る構成要件を有しておらず独立請求項に係る構成要件のみからなる装置及び方法でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、本発明は、上述した実施形態や変形例に限られず、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。
【符号の説明】
【0102】
1,101,201…リモートコントロールシステム、
2,102,202…リモートコントロール装置(表示装置)、
10…コントロールユニット、24a〜24c…モード切替ボタン、
31…光源明るさ可変手段、32…パルス幅制御回路、33…光源駆動回路、
34…発光ダイオード(光源)、
220…液晶パネル、234…バックライト(光源)、
DB1…明るさ知覚効率データベース。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置の光源について標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを基準として対象者の視感に合わせた前記光源の明るさを決定する表示装置の光源明るさ決定方法であって、
(A)光の波長をλ、該波長λの関数とされた前記光源の分光放射強度をI(λ)、前記波長λの関数とされた前記対象者の分光視感効率をVo(λ)、前記波長λの関数とされた標準とする分光視感効率をV(λ)、該標準とする分光視感効率V(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm、前記対象者の分光視感効率Vo(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm_o、可視放射の短波長側の波長をλS、可視放射の長波長側の波長をλLとするとき、標準の視感光度
【数1】
と前記対象者の視感光度
【数2】
との比に対応した値を求めるステップと、
(B)前記ステップ(A)で求めた値に基づいて、前記標準の明るさを基準として前記ILu_oに対する前記ILuの比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさを前記光源の明るさとして決定するステップと
を備えることを特徴とする表示装置の光源明るさ決定方法。
【請求項2】
前記光源に、n個(nは1以上の整数)のピーク波長λpi(iは1からnまでの整数)を有し各ピーク波長λpiに対応した半値全幅がλdiとされた光源を用い、
前記ステップ(A)では、各ピーク波長λpiに対応した標準偏差σiを
【数3】
とし、各ピーク波長λpiに対応した放射強度の補正係数をIiとして、前記分光放射強度I(λ)を
【数4】
と決定し、該決定した分光放射強度I(λ)を用いて前記ILuと前記ILu_oとの比に対応した値を求めることを特徴とする請求項1に記載の表示装置の光源明るさ決定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の表示装置の光源明るさ決定方法で決定された明るさで前記光源を発光させる表示装置の光源発光方法であって、
前記表示装置に、入力に応じた明るさに変えて前記光源を発光させる光源明るさ可変手段を設け、
前記ステップ(B)で決定された明るさに対応した入力を前記光源明るさ可変手段に対して行うことにより、前記標準の明るさで発光する前記光源の明るさを前記ステップ(B)で決定された明るさに変えることを特徴とする表示装置の光源発光方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の表示装置の光源明るさ決定方法で決定された明るさに最も近い明るさの光源を複数の光源の中から選択し、該選択した光源を前記表示装置に装着して発光させることを特徴とする表示装置の光源発光方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の表示装置の光源明るさ決定方法で決定された明るさで前記光源を発光させることを特徴とする表示装置。
【請求項1】
表示装置の光源について標準の使用者に合わせて設定された標準の明るさを基準として対象者の視感に合わせた前記光源の明るさを決定する表示装置の光源明るさ決定方法であって、
(A)光の波長をλ、該波長λの関数とされた前記光源の分光放射強度をI(λ)、前記波長λの関数とされた前記対象者の分光視感効率をVo(λ)、前記波長λの関数とされた標準とする分光視感効率をV(λ)、該標準とする分光視感効率V(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm、前記対象者の分光視感効率Vo(λ)が最大となる波長における視感効果度をkm_o、可視放射の短波長側の波長をλS、可視放射の長波長側の波長をλLとするとき、標準の視感光度
【数1】
と前記対象者の視感光度
【数2】
との比に対応した値を求めるステップと、
(B)前記ステップ(A)で求めた値に基づいて、前記標準の明るさを基準として前記ILu_oに対する前記ILuの比ILu/ILu_oに応じて変えた明るさを前記光源の明るさとして決定するステップと
を備えることを特徴とする表示装置の光源明るさ決定方法。
【請求項2】
前記光源に、n個(nは1以上の整数)のピーク波長λpi(iは1からnまでの整数)を有し各ピーク波長λpiに対応した半値全幅がλdiとされた光源を用い、
前記ステップ(A)では、各ピーク波長λpiに対応した標準偏差σiを
【数3】
とし、各ピーク波長λpiに対応した放射強度の補正係数をIiとして、前記分光放射強度I(λ)を
【数4】
と決定し、該決定した分光放射強度I(λ)を用いて前記ILuと前記ILu_oとの比に対応した値を求めることを特徴とする請求項1に記載の表示装置の光源明るさ決定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の表示装置の光源明るさ決定方法で決定された明るさで前記光源を発光させる表示装置の光源発光方法であって、
前記表示装置に、入力に応じた明るさに変えて前記光源を発光させる光源明るさ可変手段を設け、
前記ステップ(B)で決定された明るさに対応した入力を前記光源明るさ可変手段に対して行うことにより、前記標準の明るさで発光する前記光源の明るさを前記ステップ(B)で決定された明るさに変えることを特徴とする表示装置の光源発光方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の表示装置の光源明るさ決定方法で決定された明るさに最も近い明るさの光源を複数の光源の中から選択し、該選択した光源を前記表示装置に装着して発光させることを特徴とする表示装置の光源発光方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の表示装置の光源明るさ決定方法で決定された明るさで前記光源を発光させることを特徴とする表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図9】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図9】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−70112(P2011−70112A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223063(P2009−223063)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(392008529)ヤマハリビングテック株式会社 (349)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(392008529)ヤマハリビングテック株式会社 (349)
【Fターム(参考)】
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