説明

表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法

【課題】表示画素の画素形成領域の略全域に膜厚が均一な発光機能層(有機EL層)を形成することができる表示装置の製造装置、及び、当該製造装置を用いた表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】第1のタイミングでプリンタヘッド11のインク吐出部INJによりパネル基板PSB上の画素形成領域に水系インク又は有機溶剤系インクを塗布し、第2のタイミングでインク吐出部INJに隣接して設けられた赤外光源部IRSA又はIRSBにより上記画素形成領域に塗布された水系インク又は有機溶剤系インクに対して赤外光を照射して加熱し、当該水系インク又は有機溶剤系インクの溶媒を蒸発、乾燥させて正孔輸送材料又は電子輸送材料をパネル基板PSB上に定着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法に関し、特に、発光機能材料からなる液状材料を塗布することにより発光機能層が形成された発光素子を有する表示画素を、複数配列した表示パネルを備えた表示装置を製造するための製造装置、及び、該製造装置を用いて、上記表示パネルに配列された各表示画素の形成領域に発光機能層を形成する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータや映像機器、携帯情報機器等のモニタ、ディスプレイとして多用されている液晶表示装置(LCD)に続く次世代の表示デバイスとして、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略記する)や発光ダイオード(LED)等のような自発光素子を2次元配列した発光素子型の表示パネルを備えたディスプレイ(表示装置)の本格的な実用化、普及に向けた研究開発が盛んに行われている。
【0003】
特に、アクティブマトリックス駆動方式を適用した発光素子型ディスプレイにおいては、液晶表示装置に比較して、表示応答速度が速く、視野角依存性もなく、また、高輝度・高コントラスト化、表示画質の高精細化等が可能であるとともに、液晶表示装置のようにバックライトを必要としないので、一層の薄型軽量化が可能であるという極めて優位な特徴を有している。
【0004】
ここで、発光素子型ディスプレイに適用される自発光素子の一例として、周知の有機EL素子の基本構造について簡単に説明する。
図13は、有機EL素子の基本構造を示す概略断面図である。
図13に示すように、有機EL素子は、概略、ガラス基板等の絶縁性基板111の一面側(図面上方側)に、アノード(陽極)電極112、有機化合物等(有機材料)からなる有機EL層(発光機能層)113、及び、カソード(陰極)電極114を順次積層した構成を有している。有機EL層113は、例えば、正孔輸送材料(正孔注入層形成材料)からなる正孔輸送層(正孔注入層)113aと、電子輸送性発光材料からなる電子輸送性発光層(発光層)113bとを積層して構成されている。
【0005】
このような素子構造を有する有機EL素子においては、図13に示すように、直流電圧源115からアノード電極112に正電圧、カソード電極114に負電圧を印加することにより、正孔輸送層113aに注入されたホールと電子輸送性発光層113bに注入された電子が有機EL層113内で再結合する際に生じるエネルギーに基づいて光(励起光)hνが放射される。このとき、光hνの発光強度は、アノード電極112とカソード電極114間に流れる電流量に応じて制御される。
【0006】
ここで、アノード電極112及びカソード電極114のいずれか一方を光透過性を有する電極材料を用いて形成し、他方を遮光性及び反射特性を有する電極材料を用いて形成することにより、図13に示したように、絶縁性基板111を介して光hνを放射するボトムエミッション型の発光構造を有する有機EL素子や、絶縁性基板111を介さずに上面のカソード電極114側に光hνを放射するトップエミッション型の発光構造を有する有機EL素子を実現することができる。
【0007】
ところで、上述したような有機EL素子の有機EL層113(正孔輸送層113a及び電子輸送性発光層113b)を構成する正孔輸送材料や電子輸送性発光材料としては、低分子系や高分子系の種々の有機材料が知られている。
ここで、低分子系の有機材料の場合、一般に、有機EL層における発光効率は比較的高いものの、製造プロセスにおいて蒸着法を適用する必要があるため、画素形成領域のアノード電極上にのみ当該低分子系の有機膜を選択的に薄膜形成する際に、上記アノード電極以外の領域への低分子材料の蒸着を防止するためのマスクを用いる必要があり、当該マスクの表面にも低分子材料が付着することになるため、製造時の材料ロスが大きいうえ、高精細なパターニングが難しいという問題を有している。
【0008】
一方、高分子系の有機材料を適用した場合には、有機EL層における発光効率は上記低分子系の有機材料を適用した場合に比較して低くなるものの、湿式成膜法としてインクジェット法(液滴吐出法)やノズルプリント法(液流吐出法)等を適用することができるので、画素形成領域(アノード電極上)にのみ選択的に上記有機材料の溶液を塗布して、効率的かつ良好に有機EL層(正孔輸送層及び電子輸送性発光層)の薄膜を形成することができるという製造プロセス上の利点を有している。
【0009】
このような高分子系の有機材料からなる有機EL層を備えた有機EL素子の製造プロセスにおいては、概略、ガラス基板等の絶縁性基板(パネル基板)上の、各表示画素が形成される領域(画素形成領域)ごとにアノード電極(陽極)を形成した後、隣接する表示画素との境界領域に絶縁性の樹脂材料等からなる隔壁(バンク)を形成して、当該隔壁に囲まれた領域に、インクジェット装置やノズルプリンティング装置を用いて、当該領域に高分子系の有機材料からなる正孔輸送材料を溶媒に分散、又は、溶解させた液状材料を塗布した後、加熱乾燥処理を行うことにより、図12に示した正孔輸送層113aを形成する工程と、高分子系の有機材料からなる電子輸送性発光材料を溶媒に分散、又は、溶解させた液状材料を塗布した後、加熱乾燥処理を行うことにより、図12に示した電子輸送性発光層113bを形成する工程を順次施すことにより、有機EL層113が形成される。
【0010】
すなわち、インクジェット法やノズルプリント法等の湿式成膜法を適用した製造方法においては、絶縁性基板上に突出して連続的に形成された隔壁により、各画素形成領域を画定するとともに、高分子系有機材料からなる液状材料を塗布する際に、隣接する画素形成領域に異なる色の発光材料が混入して表示画素間で発光色の混合(混色)等を生じる現象を防止する機能を有している。
【0011】
このような隔壁を備えた有機EL素子(表示パネル)の構成や、有機EL層(正孔輸送層及び電子輸送性発光層)を形成するためにインクジェット法やノズルプリント法を適用した製造方法については、例えば、特許文献1等に詳しく説明されている。なお、高分子系の有機材料からなる有機EL層を備えた有機EL素子の製造プロセスについては、上述したインクジェット法やノズルプリント法を適用する場合の他に、活版印刷やスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等の種々の印刷技術を適用した手法も提案されている。
【0012】
【特許文献1】特開2001−76881号公報 (第4頁〜第7頁、図1〜図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述したようなインクジェット法やノズルプリント法等の湿式成膜法を適用した有機EL層(正孔輸送層及び電子輸送性発光層)の製造方法においては、各表示画素(画素形成領域)間の境界領域に突出して設けられた隔壁表面の特性(撥水性)や、有機材料からなる液状材料(塗布液)の溶媒成分に起因する表面張力や凝集力、液状材料を塗布した後の乾燥方法等に起因して、図14に示すように、アノード電極112と隔壁121との周縁部に液状材料が凝集しやすく、隔壁121の側面に沿って塗布液LQDの液面端部が迫り上がり、厚く塗布されるのに対して、アノード電極112の中央部近傍上の液状材料は薄く塗布されることになるため、有機EL層の膜厚が不均一になるという問題を有していた。なお、図14は、従来技術における有機EL素子の製造プロセスの問題点を説明するための概略図である。
【0014】
このように、画素形成領域内に形成される有機EL層の膜厚が周辺領域(周縁部)と中央領域(中央部近傍)で異なることにより、発光動作時に供給される発光駆動電流が膜厚の薄い中央領域に集中して流れることになるため、当該中央領域付近においてのみ上記光hνが放射されることになり、表示パネル(又は、画素形成領域)に占める発光領域の割合(いわゆる、開口率)が低下して表示画質が劣化するとともに、上記中央領域に流れる発光駆動電流が過大となるため、有機EL層(有機EL素子)の劣化が著しくなり表示パネルの信頼性や寿命が低下するという問題を有していた。
【0015】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑み、表示画素の画素形成領域の略全域に膜厚が均一な発光機能層(有機EL層)を形成することができる表示装置の製造装置、及び、当該製造装置を用いた表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1記載の発明は、表示画素が複数配列された表示パネルを備えた表示装置の製造装置において、前記表示画素の形成領域に材料溶液を吐出して塗布するノズルが設けられた溶液吐出部と、前記溶液吐出部の近傍に配置され、前記表示画素の形成領域に塗布された前記材料溶液を加熱して乾燥させる溶液加熱部と、を備えたプリンタヘッドを有することを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の表示装置の製造装置において、前記溶液加熱部は、前記表示パネルに前記材料溶液を塗布する際の前記プリンタヘッドの走査移動方向に対して、前記溶液吐出部の後方側に配置されていることを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1記載の表示装置の製造装置において、前記溶液加熱部は、前記表示パネルに前記材料溶液を塗布する際の前記プリンタヘッドの走査移動方向に対して、前記溶液吐出部の前方側及び後方側に一対配置されていることを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の表示装置の製造装置において、前記プリンタヘッドは、前記表示パネルに前記材料溶液を塗布する際の前記プリンタヘッドの走査移動方向の垂直方向に、前記溶液吐出部及び前記溶液加熱部が配置されていることを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の表示装置の製造装置において、前記プリンタヘッドは、前記溶液吐出部と前記溶液加熱部とが一体的に形成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の表示装置の製造装置において、前記溶液吐出部は、前記表示パネルに前記材料溶液を塗布する際の前記プリンタヘッドの走査移動方向に対して垂直方向に複数の前記ノズルが設けられていることを特徴とする。
請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の表示装置の製造装置において、前記溶液加熱部は、前記表示画素の形成領域に塗布された前記材料溶液に対して、赤外光を照射して当該材料溶液を加熱して乾燥させる光源を備えていることを特徴とする。
【0020】
請求項8記載の発明は、表示画素が複数配列された表示パネルを備えた表示装置の製造方法において、前記複数の表示画素の形成領域に材料溶液を吐出して塗布する工程と、前記材料溶液を塗布する工程に並行して、前記表示画素の形成領域に既に塗布された前記材料溶液を加熱して乾燥させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の表示装置の製造方法において、前記前記材料溶液を加熱して乾燥させる工程は、前記材料溶液が前記表示画素の各形成領域に塗布された直後に実行することを特徴とする。
請求項10記載の発明は、請求項8又は9に記載の表示装置の製造方法において、前記前記材料溶液を加熱して乾燥させる工程は、前記表示画素の形成領域に塗布された前記材料溶液に対して、赤外光を照射して当該材料溶液を加熱して乾燥させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る表示装置の製造装置、及び、該製造装置を用いた表示装置の製造方法においては、発光素子を有する各表示画素の画素形成領域(画素電極上)の略全域にわたり膜厚が均一な発光機能層(電荷輸送層、有機EL層)が形成された表示パネルを実現することができる。したがって、表示パネルの開口率の低下を抑制して表示画質の劣化を抑制することができるとともに、有機EL素子の劣化を抑制して信頼性や寿命に優れた表示パネルを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る表示装置の製造方法及び表示装置の製造方法について、実施の形態を示して詳しく説明する。
[第1の実施形態]
<表示装置の製造装置>
まず、本発明に係る表示装置の製造装置について説明する。
図1は、本発明に係る表示装置の製造装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【0024】
本実施形態に係る表示装置の製造装置(表示パネルの製造装置)は、大別して、正孔輸送材料として、例えば導電性ポリマーであるポリエチレンジオキシチオフェンPEDOTと、ドーパントであるポリスチレンスルホン酸PSS(以下、「PEDOT/PSS」と略記する)を、水、エタノール、エチレングリコール等の水系溶媒に溶解又は分散させた強酸性の水系インク(正孔輸送材料含有液)や、電子輸送性発光材料として、例えばフルオレン系ポリマー或いはフェニレンビニレン系ポリマーを、テトラリン、テトラメチルベンゼン、メシチレン、キシレン、トルエン等の芳香族系の有機溶媒や水に溶解した又は分散した水系インク或いは有機溶剤系インク(発光材料含有液)を吐出するインク吐出機構部と、上記水系インクや有機溶剤系インクが塗布されるパネル基板(絶縁性基板)が載置され、上記インク吐出機構部に設けられたプリンタヘッド(詳しくは、後述する)に対して、2次元座標方向に相対的に移動する基板可動機構部と、を有している。
【0025】
(インク吐出機構部)
インク吐出機構部は、図1に示すように、少なくとも、上記水系インク又は有機溶剤系インクを吐出するとともに、塗布された水系インク又は有機溶剤系インクを加熱して乾燥させるための赤外光を出射するプリンタヘッド11と、当該プリンタヘッド11に対して上記水系インク又は有機溶剤系インクを供給するポンプ部12と、当該ポンプ部12におけるプリンタヘッド11への水系インク又は有機溶剤系インクの供給量や供給タイミング等の供給状態を制御するポンプ制御部13と、水系インク又は有機溶剤系インクを貯蔵するインクタンク14と、プリンタヘッド11からの赤外光の出射タイミング等の出射状態を制御する光源制御部15と、を備えている。図1(a)は、プリンタヘッド11及び基板ステージ21を上方から俯瞰した構造図であり、基板ステージ21は、X−Y2軸ロボット22によってX−Y平面(Xm方向及びYm方向)の任意の位置に移動自在である。図1(b)は、プリンタヘッド11及び基板ステージ21を側方から俯瞰した制御系構成図であり、プリンタヘッド11は、Zm方向(上下方向)の任意の位置に昇降自在である。
【0026】
(プリンタヘッド)
図2は、本実施形態に係る表示装置の製造装置に適用されるプリンタヘッドの一例を示す概略構成図である。ここで、図2(a)は、プリンタヘッドの平面図(上面図)であり、図2(b)は、プリンタヘッドの正面図であり、図2(c)は、プリンタヘッドの側面図であり、図2(d)は、プリンタヘッドの下面図(ノズル面図)である。
【0027】
プリンタヘッド11は、例えば図1に示すように、基板ステージ21の基板載置面側の上方であって、該基板ステージ21の移動方向(X−Yの2軸方向;図1(a)中、矢印Xm、Ymで表記)に対して、所定の位置に固定されて設置されている。また、プリンタヘッド11は、例えば図2に示すように、水系インク又は有機溶剤系インクをパネル基板PSBに吐出して塗布するインク吐出部(溶液吐出部)INJと、当該インク吐出部INJを挟んで隣接して設けられ、パネル基板PSB上に塗布された水系インク又は有機溶剤系インクに、800nm〜25μmの波長域の赤外光(又は、赤外線)を照射して乾燥処理する熱源となる一対の赤外光源部(溶液加熱部)IRSA、IRSBと、を備えている。特に、本実施形態においては、上記インク吐出部INJと一対の赤外光源部IRSA、IRSBが一体的に形成されている。
【0028】
インク吐出部INJは、具体的には、中空の筐体構造を有し、水系インク又は有機溶剤系インクを貯留するインク貯留部ISVと、当該インク貯留部ISVの上面(図2(a))側に設けられ、後述するポンプ部12から供給される水系インク又は有機溶剤系インクをインク貯留部ISVに注入するための注入口IKIと、インク貯留部ISVの下面(ノズル面;図2(d))側にインク吐出部INJの延伸方向(図面上下方向;後述する走査移動方向に対して垂直方向)に直線状に設けられ、インク貯留部ISVに注入された水系インク又は有機溶剤系インクを吐出するための複数(本構成例においては3個)の吐出口(ノズル)NZLと、画像処理部24に入力される画像情報データに基づいた量のインクをインク吐出部INJが吐出するように制御信号を出力する吐出制御部16に接続される制御配線CBLと、を備えている。
【0029】
ここで、インク吐出部INJに設けられた注入口IKIは、後述するポンプ部12の送出口とチューブ(又は、配管)を用いて接続されており、吐出制御部16が演算したインク吐出部INJから吐出された量に基づき、ポンプ制御部13が適宜ポンプ部12を駆動することによりインクタンク14から水系インク又は有機溶剤系インクを注入しているので、インク貯留部ISVに常に充填されている状態になっている。インク吐出部INJ(プリンタヘッド11)は、ピエゾ素子等の圧電素子或いは発熱抵抗素子であり、制御配線CBLから入力された制御信号にしたがって上記複数の吐出口NZLから同時に所定量の水系インク又は有機溶剤系インクが基板ステージ21に向けて吐出される。吐出された水系インク又は有機溶剤系インクは、後述するように基板ステージ21がプリンタヘッド11に対して、X−Y2軸方向(2次元座標方向)に相対的に移動することにより、パネル基板PSB上の所定の領域(画素形成領域)に塗布される。
【0030】
赤外光源部IRSA、IRSBは、各々赤外光(具体的には、赤外レーザー光や赤外線等)を基板ステージ21方向に出射する赤外光源を備え、例えば赤外光源部IRSA、IRSBの上面(図2(a))側には、上記各赤外光源を駆動するための制御配線CBLが接続され、また、赤外光源部の下面(図2(c))側には、基板ステージ21に載置されたパネル基板PSBに対して水系インク又は有機溶剤系インクを連続的に塗布する際の、上記インク吐出部INJに設けられた各吐出口NZLの走査移動方向線(図中、左右方向の一点鎖線で示す)上に、各々赤外光を出射するための複数(本構成例においては走査移動方向に対して垂直方向に各々3個)の出射部APLが配置されている。ここで、各出射部APLから出射される赤外光は、各赤外光源部IRSA、IRSB内に設けられた単一の光源から出射される赤外光を分光して各出射部APLから出射するものであってもよいし、各赤外光源部IRSA、IRSBの各出射部APLに対応して個別の光源を備えるものであってもよい。これらの赤外光は、いずれもマイクロレンズ等の光学系を介して所望の光束径に収束させて出射される。
【0031】
そして、各赤外光源部IRSA、IRSBは、光源制御部15から出力される制御信号に基づいて、上記インク吐出部INJによりパネル基板PSB上に塗布された水系インク又は有機溶剤系インクに対して局所的に赤外光を照射しているので、当該水系インク又は有機溶剤系インクの溶媒は赤外光の熱輻射によって加熱、蒸発されて、パネル基板PSB上に正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料を速やかに定着させる。ここで、上記制御信号に基づく赤外光の照射タイミングは、例えば上記インク吐出部INJにおける水系インク又は有機溶剤系インクの吐出タイミングに略同期するように設定されている。
【0032】
これにより、パネル基板PSBに対してプリンタヘッド11を走査させながら水系インク又は有機溶剤系インクを塗布する工程において、インク吐出部INJにより水系インク又は有機溶剤系インクを吐出して塗布しつつ(塗布動作)、すでに塗布された水系インク又は有機溶剤系インクに対して赤外光源部IRSA又はIRSBにより赤外光を照射して乾燥させる動作(乾燥動作)を同時並行して実行することができる。詳しくは、後述する製造方法において説明する。
【0033】
なお、図2に示したプリンタヘッド11においては、インク吐出部INJに設けられた単一のインク貯留部ISVに貯留された水系インク又は有機溶剤系インクを、複数の吐出口NZLから同時に吐出して、パネル基板PSB上の画素形成領域に塗布する構造について説明した。
【0034】
この場合、図2(d)に示すように、インク吐出部INJに設けられる複数の吐出口NZL相互の配置間隔P1を、パネル基板PSBに2次元配列された隣接する画素形成領域相互の配置間隔(例えば図4に示す表示パネル30における隣接する色画素間の間隔P2)に対応するように設定する(P1=P2)ことにより、パネル基板PSB上に正孔輸送材料を含む正孔輸送材料含有液、又は、モノクロ表示パネルに対応した単一の発光色からなる発光層を形成するための電子輸送性発光材料を含む発光材料含有液を良好に塗布することができる。
【0035】
また、上記吐出口NZL相互の配置間隔P1を、パネル基板PSBに2次元配列された隣接する表示画素の同一色の色画素相互の配置間隔(例えば図4に示す表示パネル30における隣接する同一発光色の色画素間の間隔P3)に対応するように設定(P1=P3=3×P2)し、カラー表示パネルに対応した赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の発光色のうちのいずれかの発光色からなる発光層を形成するための電子輸送性発光材料を含む発光材料含有液を塗布する操作を色画素PXr、PXg、PXbごとに3回繰り返すことによって良好に色画素をパターニングすることができる。
【0036】
ところで、本発明に係る表示装置の製造装置に適用可能なプリンタヘッド11(インク吐出部INJ)は、上述した例に限定されるものではなく、例えばインク吐出部INJに、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色に対応した個別のインク貯留部と、各インク貯留部にRGB各色の有機溶剤系インクを個別に注入するための注入口と、各インク貯留部に注入されたRGB各色の有機溶剤系インクを個別に吐出するための吐出口と、を備えるものであってもよい。
【0037】
この場合、図2(d)に示したインク吐出部に設けられる複数の吐出口相互の配置間隔P1を、パネル基板PSBに2次元配列された隣接する赤(R)、緑(G)、青(B)の各色画素相互の配置間隔(例えば図4に示す表示パネル30における隣接する色画素間の間隔P2)に対応するように設定する(P1=P2)ことにより、カラー表示パネルに対応した赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の発光色からなる発光層を形成するための電子輸送性発光材料をそれぞれ含む各発光材料含有液を各色画素の形成領域に同期して塗布することができる。
【0038】
なお、プリンタヘッド11は、インク吐出部INJの吐出口NZLとパネル基板PSB(又は、基板ステージ21)との間のクリアランス(パネル基板PSBに対する垂直方向の離間距離)を調整することができるように、図1(b)に示すように、基板ステージ21の移動方向(X−Y方向;図1(a)参照)に対して垂直な方向への移動(矢印Zmで表記)が可能なアーム部材等(図示を省略)に取り付けられているものであっても良い。
【0039】
(ポンプ部)
ポンプ部12は、ポンプ制御部13から出力される駆動信号に基づいて、インクタンク14に貯蔵された水系インク又は有機溶剤系インクを取り込んで上記プリンタヘッド11(インク吐出部INJ)に送出し、インク貯留部ISVは水系インク又は有機溶剤系インクで満たされた状態になっている。
【0040】
(吐出制御部)
吐出制御部16は、画像処理部24が画像情報データを解析した解析結果に基づいて、プリンタヘッド11が吐出する吐出量を制御する制御信号を制御配線CBLに出力するとともに、吐出量データをポンプ制御部13に出力する。
【0041】
(基板可動機構部)
基板可動機構部は、図1に示すように、例えば、パネル基板PSBが載置、固定される基板ステージ21と、当該基板ステージ21をX、Y方向の直交する2軸方向に移動させるX−Y2軸ロボット22と、基板ステージ21(又は、基板ステージ21に対して所定の基準位置に固定された上記プリンタヘッド11)に対するパネル基板PSBの載置位置(アライメントマークの整合状態)を検出して調整するためのアライメント(位置合わせ)用カメラ23と、該アライメント用カメラ23により撮像された画像を解析する画像処理部24と、該解析結果に基づいて、基板ステージ21がプリンタヘッド11に対して所定の位置関係に設定されるように、X−Y2軸ロボット22の移動量を制御するロボット制御部25と、を備えている。
【0042】
ここで、基板ステージ21は、図示を省略したが、載置されたパネル基板PSBを所定の位置に固定するための、真空吸着機構や機械的な支持機構を備えている。また、X−Y2軸ロボット22は、X軸方向及びY軸方向に独立して移動することにより、該X−Y2軸ロボット22に取り付けられた基板ステージ21(すなわち、載置、固定されたパネル基板PSB)を2次元座標方向に移動させ、プリンタヘッド11に対して所定の位置関係に設定する。
【0043】
さらに、基板ステージ21は、パネル基板PSBに対するプリンタヘッド11の初期吐出位置のアライメント(位置合わせ)のために、上記X−Y2軸方向に加え、回転方向(θ方向)に対しても微調整移動が可能な構造になっている。また、予めパネル基板PSB上に形成したアライメント用マークを検出するためのアライメント用カメラ23も、上述したプリンタヘッド11と同様に、基板ステージ21の移動方向に対して所定の位置に固定されている。
【0044】
図3は、本実施形態に係る表示装置の製造装置に適用されるプリンタヘッドを用いた水系インク又は有機溶剤系インクの塗布動作及び乾燥動作を説明するための概念図である。
上述したような表示装置の製造装置においては、第1のタイミングでプリンタヘッド11のインク吐出部INJによりパネル基板PSB上の画素形成領域に水系インク又は有機溶剤系インクを塗布し、第2のタイミングでインク吐出部INJに隣接して設けられた赤外光源部IRSA又はIRSBにより上記画素形成領域に塗布された水系インク又は有機溶剤系インクに対して赤外光を照射して加熱し、当該水系インク又は有機溶剤系インクの溶媒を蒸発、乾燥させて正孔輸送材料又は電子輸送材料等の電荷輸送材料をパネル基板PSB上に定着させる。
【0045】
すなわち、図3(a)、(b)に示すように、パネル基板PSBに対してプリンタヘッド11を図面右方向から左方向(図中、白抜き矢印で表記)へ走査移動させながら水系インク又は有機溶剤系インクの塗布動作及び乾燥動作を行う場合にあっては、まず、上記第1のタイミングにおいて図3(a)に示すように、インク吐出部INJの吐出口NZLが所望の画素形成領域上(具体的には、有機EL素子の画素電極の直上)に位置するように設定した状態で水系インク又は有機溶剤系インクINKが吐出されてパネル基板PSB表面に塗布される。
【0046】
次いで、第2のタイミングにおいて図3(b)に示すように、インク吐出部INJの吐出口NZLの中心と、当該インク吐出部INJに隣接して一体的に設けられた赤外光源部IRSAの赤外光の出射部APLの中心との間隔Pprに相当する寸法だけ、プリンタヘッド11をパネル基板PSB(基板ステージ21)に対して相対的に移動させて、インク吐出部INJの右側に隣接して設けられた赤外光源部IRSAから、上記第1のタイミングで塗布された水系インク又は有機溶剤系インクINKに赤外光Rirを照射して、当該水系インク又は有機溶剤系インクINKの溶媒を加熱、蒸発させて、画素形成領域に水系インク又は有機溶剤系インクINKに溶解していた正孔輸送材料又は電子輸送材料を定着させて、薄膜FMTからなる正孔輸送層又は電子輸送性発光層を形成する。
【0047】
一方、図3(c)に示すように、パネル基板PSBに対してプリンタヘッド11を図面左方向から右方向(図中、白抜き矢印で表記)へ走査移動させながら水系インク又は有機溶剤系インクの塗布動作及び乾燥動作を行う場合にあっては、上述した第2のタイミングにおいてインク吐出部INJの左側に隣接して設けられた赤外光源部IRSBから、第1のタイミングで塗布された水系インク又は有機溶剤系インクINKに赤外光Rirを照射して、当該水系インク又は有機溶剤系インクINKの溶媒を加熱、蒸発させて、画素形成領域に正孔輸送材料又は電子輸送材料を定着させる。
【0048】
このように、本実施形態においては、パネル基板(表示画素の画素電極)に対して、プリンタヘッドを相対的に図面右方向、あるいは、図面左方向のいずれの方向に走査移動させながら水系インク又は有機溶剤系インクを塗布して乾燥させる場合であっても、光源制御部から出力される制御信号により、当該走査移動方向の後方となる赤外光源部から赤外光を照射するように制御することができる。
【0049】
なお、図3においては、赤外光源部IRSA又はIRSBにより水系インク又は有機溶剤系インクに対して赤外光を照射して加熱する処理を概念的に示すため、パネル基板(画素電極)上に塗布された水系インク又は有機溶剤系インクが、便宜的に表面張力によりドーム状を有しているものとし、また、当該水系インク又は有機溶剤系インクの略中央部に収束された赤外光の光束が照射されているものとして図示したが、水系インク又は有機溶剤系インクは画素形成領域内にある程度の広がりを有して塗布されているものであってもよいし、また、赤外光は当該塗布された水系インク又は有機溶剤系インクの広がりの全域に照射されるものであってもよいし、少なくとも画素形成領域内の発光領域となる領域に照射されるものであってもよい。
【0050】
<表示装置の製造方法>
次に、上述したような製造装置を適用した表示装置(表示パネル)の製造方法について説明する。
まず、本実施形態に係る製造装置を適用して製造される表示パネルについて説明する。
【0051】
図4は、本実施形態に係る表示装置の製造方法により製造される表示パネルの画素配列の一例を示す要部概略図である。ここで、図4(a)は、表示パネルの平面図であり、図4(b)は、図4(a)における表示パネルのA−A断面図である。なお、図4(a)に示す平面図においては、説明の都合上、表示パネルを視野側から見た場合の、各表示画素(色画素)に設けられる画素電極の配置と、画素形成領域を画定する隔壁(バンク)の配設構造との関係のみを示し、また、画素電極及び隔壁の配置を明瞭にするために、便宜的にハッチングを施して示した。
【0052】
図4(a)に示すように、本実施形態に係る製造装置により製造される表示パネル30(表示装置)は、ガラス基板等の絶縁性基板からなるパネル基板PSBの一面側に、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色からなる色画素PXr、PXg、PXbが図面横方向に順次繰り返し複数(3の倍数)配列されるとともに、図面縦方向に同一色の色画素PXr、PXg、PXbが複数配列されている。ここでは、隣接する3色の色画素PXr、PXg、PXbを一組として一の表示画素PIXが形成されている。
【0053】
また、表示パネル30は、図4(a)、(b)に示すように、パネル基板PSBの一面側から突出し、柵状又は格子状の平面パターンを有して配設された隔壁(バンク)31により、パネル基板PSBの一面側に2次元配列された複数の表示画素PIX(色画素PXr、PXg、PXb)のうち、図4(a)の図面縦方向に配列された同一色の複数の色画素PXr、又は、PXg、PXbの形成領域を含む領域が画定される。また、当該領域に含まれる各色画素PXr、又は、PXg、PXbの形成領域には、各々画素電極32が形成されている。
【0054】
図5及び図6は、本実施形態に係る製造装置を適用した表示装置(表示パネル)の製造方法の一例を示す工程断面図である。ここでは、図4に示した、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の色画素PXr、PXg、PXbを一組とする表示画素PIXを備えたカラー表示パネルを製造する場合について説明し、各色画素への水系インク又は有機溶剤系インクの塗布工程については、上述したプリンタヘッドの説明(図3)を適宜参照するものとする。また、図7は、本実施形態に係る製造装置におけるパネル基板(基板ステージ)に対するプリンタヘッドの走査移動経路を説明するための概念図である。
【0055】
本実施形態に係る表示装置の製造方法、まず、図5(a)に示すように、ガラス基板等の絶縁性基板からなるパネル基板PSBの一面側(図面上方側)に設定された各画素形成領域Apxごとに画素電極(例えばアノード電極)32を形成した後、図5(b)に示すように、隣接する画素形成領域Apxとの境界領域に絶縁性の樹脂材料等からなる隔壁(バンク)31を形成する。隔壁31は、その表面が撥液性を示す処理が施されていることが好ましい。
【0056】
ここで、隔壁31に囲まれた画素形成領域Apxには、上記画素電極32が露出している。なお、本実施形態においては、図示の都合上、各画素形成領域Apxに画素電極32のみが形成された構造を示すが、当該画素電極32の各々に接続され、後述する有機EL層33(有機EL素子)に供給する発光駆動電流を制御する駆動制御素子(例えば薄膜トランジスタ)が画素電極32の下層側に設けられているものであってもよい。
【0057】
次いで、図5(c)に示すように、上述した構造の表示装置の製造装置(図1〜図3参照)を適用して、プリンタヘッド11H(上述したプリンタヘッド11と同等の構成を有する)のインク吐出部(上述したインク吐出部INJに相当する)から正孔輸送材料(例えば、上述したPEDOT/PSS)を水性溶剤(例えば水99〜80wt%、エタノール1〜20wt%)に加えてなる有機溶液(材料溶液;水系インク)HMCを、上述したポンプ部12及びポンプ制御部13により設定される所定量の液滴状にして吐出させ、各画素形成領域Apxの画素電極32上に塗布する。
【0058】
その後、図5(d)に示すように、プリンタヘッド11H(プリンタヘッド11)の赤外光源部(上述した赤外光源部IRSA又はIRSBに相当する;図中では便宜的に「IRS」と表記する)が、上記有機溶液HMCが塗布された画素電極32の直上に位置するようにパネル基板PSB(基板ステージ21)を相対的に移動させ、当該赤外光源部IRSから赤外光Rirを照射することにより有機溶液HMCを加熱して蒸発させ、画素電極32上に正孔輸送材料を薄膜状に定着させて有機EL層33の正孔輸送層33aを形成する。
【0059】
隔壁31は、図14の隔壁121で説明したように、表面張力で隔壁31に沿って水系インク又は有機溶剤系インクINKが凝集するために、色画素PXr、PXg、PXbの各周縁部では厚く堆積され、色画素PXr、PXg、PXbの各中央部で薄く堆積される傾向があるが、有機溶液HMCが色画素PXr、PXg、PXbの各周縁部にまで拡散しすぎて局在化する前に、赤外光源部IRSからの熱輻射で速やかに乾燥され速やかに定着することができる。このため、色画素PXr、PXg、PXbでの正孔輸送層33aの厚さを比較的均等にすることができる。
【0060】
上述したプリンタヘッドを備えた製造装置においては、正孔輸送材料を含む有機溶液(水系インク)を各表示画素(色画素)の画素電極上に塗布する工程において、図3(a)に示したように、まず、第1のタイミングで、有機溶液HMC(水系インクINK)を塗布するi番目(iは正の整数)の各画素電極32の直上にインク吐出部INJの各吐出口NZLが位置するように、X−Yロボット22を制御して基板ステージ21を移動させ、インク吐出部INJに設けられた複数の吐出口NZLの各々から所定量の有機溶液HMC(水系インクINK)を液滴状にして同時に滴下し、複数の画素電極32上に塗布する。
【0061】
次いで、図3(b)に示したように、第2のタイミングで、i+1番目の各画素電極32の直上にインク吐出部INJの各吐出口NZLが位置するように基板ステージ21を移動させる。これにより、プリンタヘッド11Hの走査移動方向(図5においては紙面に垂直方向)に対して後方側に設けられた赤外光源部IRS(図3(b)では赤外光源部IRSAに相当する)の出射部APLが上記i番目の各画素電極32の直上に位置することになる。この状態において、i番目の画素電極32の直上の赤外光源部IRSの各出射部APLから、第1のタイミングで塗布された有機溶液HMCに赤外光Rirを同時に照射することにより、当該有機溶液HMCの溶媒が加熱されて蒸発(乾燥)し、正孔輸送材料が各画素電極32上に薄膜状に定着し、正孔輸送層33aが形成される。
【0062】
なお、この第2のタイミングにおいては、インク吐出部INJの各吐出口NZLがi+1番目の各画素電極32の直上に位置しているので、上述したi番目の各画素電極32に塗布された有機溶液HMCに対して赤外光Rirを照射して乾燥させる動作に並行して、上記第1のタイミングと同様に、i+1番目の各画素電極32上に有機溶液HMC(水系インクINK)を滴下して塗布する動作を実行する。
【0063】
また、上述した第2のタイミングにおける有機溶液HMCへの赤外光Rirの照射は、例えば、少なくとも第1のタイミングで塗布された有機溶液HMCの塗布領域内のみに照射されるものであってもよいし、当該塗布領域を含む領域(例えば隔壁31に囲まれた領域)に赤外光Rirを連続的に照射するものであってもよい。
【0064】
そして、このような各画素形成領域Apx(画素電極32)に対する正孔輸送材料を含む有機溶液(水系インク)の塗布、乾燥工程を、プリンタヘッド11Hをパネル基板PSBに対して走査移動させつつ実行することにより、図4に示したように、パネル基板PSB上に2次元配列された各表示画素PIX(色画素PXr、PXg、PXb)の画素形成領域Apxに正孔輸送層33aを形成することができる。
【0065】
ここで、パネル基板PSB(基板ステージ21)に対するプリンタヘッド11Hの走査移動方法は、例えば図7(a)、(b)に示すように、プリンタヘッド11Hをパネル基板PSBの一方の端部(図面上端側)から他方の端部(図面下端側)までを走査する往路動作と、パネル基板PSBの他方の端部(図面下端側)から一方の端部(図面上端側)までを走査する復路動作とを、パネル基板PSBの全域を網羅するように繰り返す「折り返し経路」を有するように移動させつつ、上記有機溶液(水系インク)HMCの塗布、乾燥工程を実行することにより、パネル基板PSB上の全ての画素形成領域Apxに正孔輸送層33aを形成することができる。
【0066】
上記往路動作においては、図3(a)、図7(b)に示すように、インク吐出部INJから吐出され、画素電極32上に塗布された有機溶液HMCに対して走査移動方向(図7(b)中、白抜き矢印で表記)の後方側となる赤外光源部IRSAから赤外光が照射されて乾燥処理が実行され、一方、復路動作においては、図3(c)、図7(b)に示すように、走査移動方向(図7(b)中、白抜き矢印で表記)の後方側となる赤外光源部IRSBから赤外光が照射されて乾燥処理が実行される。
【0067】
なお、上述した正孔輸送層33aを形成する工程(各画素形成領域Apxの画素電極32上に有機溶液HMCを塗布する工程)に先立って、例えば酸素ガス雰囲気で上記パネル基板PSB表面に紫外線を照射することにより、活性酸素ラジカルを発生させて、画素電極32表面を親液化するとともに、隔壁31表面においてもラジカルを発生させて親液化し、その後、パネル基板PSBに対して、例えばフッ化物ガス雰囲気で紫外線を照射することにより、隔壁31表面にのみフッ素を結合させて撥液化するとともに、画素電極32表面の親液性を保持した親疎水パターンを形成してもよい。
【0068】
これによれば、上述した正孔輸送材料を含む有機溶液HMC及び後述する電子輸送性発光材料を含む有機溶液EMCの塗布工程において、仮に当該有機溶液HMC、EMCの液滴が隔壁31上に着滴した場合であっても、隔壁31表面が撥液性を有しているのではじかれて、親液性を有する各画素形成領域Apx内にのみ塗布されることになる。
【0069】
また、図5、図7においては、図示の都合上、プリンタヘッド11Hから隣接する3つの画素形成領域Apxに対して、同時に有機溶液HMCを吐出して各画素電極32上に塗布する場合について示したが、本発明に係る製造装置及び表示装置の製造方法はこれに限定されるものではなく、図2に示したプリンタヘッド11のインク吐出部INJに設けられる吐出口NZL及び赤外光源部IRSA、IRSBの各々に設けられる出射部APLの数を適宜設置することにより、より多数の画素形成領域Apxに正孔輸送材料を含む有機溶液HMCを同時に塗布して正孔輸送層33aを同時に形成することができる。
【0070】
次いで、図5(e)に示すように、上述した構成を有する表示装置の製造装置を適用して、プリンタヘッド11E(プリンタヘッド11Hとは別個の構成であるが、上述したプリンタヘッド11と同等の構成を有する)のインク吐出部(上述したインク吐出部INJに相当する)から有機高分子系の電子輸送性発光材料(例えば、上述したポリフェニレンビニレン系ポリマー)を溶剤に加えてなる有機溶液EMCを、上述したポンプ部12及びポンプ制御部13により設定される所定量の液滴状にして同時に吐出させ、上述した工程において各画素形成領域Apxの各画素電極32上に形成された正孔輸送層33a上に同時に塗布する。
【0071】
なお、図5(e)においては、表示画素PIXを備える各色の色画素PXr、PXg、PXbのうち、同一色となる複数の色画素の各形成領域(例えば、赤(R)色の色画素PXrの形成領域)に対して、当該発光色に対応した電子輸送性発光材料を含む有機溶液EMCを滴下して正孔輸送層33a上に塗布する場合について示すが、上述したように、プリンタヘッド11Eのインク吐出部INJとして、例えば赤(R)、緑(G)、青(B)の各色に対応した個別のインク貯留部と、各色に対応した吐出口とを備えるものを適用した場合には、隣接して配列された赤(R)、緑(G)、青(B)の各色画素の形成領域(画素形成領域Apx)に赤(R)、緑(G)、青(B)の各発光色に対応した電子輸送性発光材料を含む有機溶液を同時に塗布することができる。
【0072】
その後、図6(f)に示すように、プリンタヘッド11E(プリンタヘッド11)の赤外光源部(上述した赤外光源部IRSA又はIRSBに相当する;図中では便宜的に「IRS」と表記する)が、上記有機溶液EMCが塗布された画素電極32(正孔輸送層33a)の直上に位置するようにパネル基板PSB(基板ステージ21)を相対的に移動させ、当該赤外光源部IRSから赤外光Rirを照射することにより有機溶液EMCを加熱して蒸発させ、正孔輸送層33a上に電子輸送性発光材料を薄膜状に定着させて有機EL層33の電子輸送性発光層33bを形成する。
【0073】
なお、図6(e)、(f)に示した電子輸送性発光材料を含む有機溶液(有機溶剤系インク)EMCを各表示画素(色画素)の正孔輸送層上に塗布、乾燥させて電子輸送性発光層を形成する工程においても、上述した正孔輸送層の形成工程と同様に、第1のタイミングで、インク吐出部INJに設けられた複数の吐出口NZLの各々から所定量の有機溶液EMCを液滴状にして同時に滴下し、複数の画素形成領域Apxの正孔輸送層33a上に塗布し、次いで、第2のタイミングで、プリンタヘッド11Hの走査移動方向に対して後方側であって、インク吐出部INJに隣接して設けられた赤外光源部IRSの複数の出射部APLの各々から赤外光Rirを出射し、第1のタイミングで塗布された各有機溶液EMCに同時に照射することにより、当該有機溶液EMCの溶媒を加熱、蒸発(乾燥)させて、正孔輸送層33a上に薄膜状の電子輸送性発光層33bを形成する手法を適用することができる。
【0074】
そして、このような各画素形成領域Apxに対する電子輸送性発光材料を含む有機溶液(有機溶剤系インク)の塗布、乾燥工程を、例えば図7(a)、(b)に示した場合と同様に、プリンタヘッド11Eをパネル基板PSBに対して折り返し経路を有するように走査移動させつつ実行することにより、図4に示したように、パネル基板PSB上に2次元配列された各表示画素PIX(色画素PXr、PXg、PXb)の画素形成領域Apxに電子輸送性発光層33bを形成することができる。
【0075】
次いで、図6(g)に示すように、少なくとも上述した正孔輸送層33a及び電子輸送性発光層33bからなる有機EL層を介して、各画素電極32に対向する対向電極(例えばカソード電極)34を、各画素形成領域Apxに共通して一体的に形成した後、図6(h)に示すように、対向電極34を含むパネル基板PSB上に、保護絶縁膜や封止樹脂層35を形成し、さらに封止基板36を接合することにより、有機EL素子からなる表示画素PIXが2次元配列された表示パネル30が完成する。
【0076】
ここで、上述した有機EL層(正孔輸送層33a及び電子輸送性発光層33b)の形成工程における赤外光源の構成及び赤外光の照射条件について具体例を示す。ここでは、正孔輸送層33aを形成する工程について具体的に示すが、電子輸送性発光層33bについても同等の技術思想に基づいて、適宜構成及び照射条件を設定することができる。
【0077】
まず、赤外光源部IRSA、IRSBに備えられる赤外光源は、上述したプリンタヘッドの走査移動の速度にも依存するが、パネル基板PSB(画素電極32)上に塗布された有機溶液(水系インク)を、例えば50℃程度まで加熱できる波長及び出力を有するものを良好に適用することができる。この場合の赤外光の照射距離(パネル基板PSBとプリンタヘッド11との離間距離)は、スポットサイズ(赤外光の光束径)に依存する。
【0078】
具体的には、1ccの水を1℃上昇させるのに必要なエネルギーは約4Jであるので、隔壁31により画定された画素形成領域Apxを、例えば縦方向(走査移動方向)寸法375μm、横方向(走査移動方向に垂直方向)寸法55μmとし、隔壁31による有機溶液HMC(溶媒;水)の塗布許容高さを200nmとすると、当該領域に塗布可能な容量(すなわち、画素形成領域Apxの容積)は、375μm×55μm×200nm=4E−15m=4nccと計算されるので、この容量の有機溶液(水系インク)を1℃上昇させるのに必要な熱量は16nJとなる。したがって、例えば塗布時に10℃の有機溶液を50℃まで上昇させる(すなわち、40℃上昇させる)には、640nJのエネルギーを必要とする。
【0079】
プリンタヘッド11(赤外光源部IRSA、IRSB)を例えば3m/secで画素形成領域Apxを走査移動すると仮定すると、当該領域の縦方向(走査移動方向)寸法375μmを通過するための所要時間は125μsecと計算されるので、640nJ÷125μsec=5mWのエネルギーを有機溶液に吸収させることができる赤外光を照射すればよいことになる。ここで、有機溶液(水系インク)の溶媒である水の光吸収特性(吸収効率)を考慮すると、赤外線の波長が1.5μmの場合では50〜100mW、また、同波長が4.5μmの場合では10mW、同波長が6μmの場合では5mWの、各出力の光源を適用すればよいことになる。このように赤外光源部IRSA、IRSBでの出力は、溶媒や溶質の特性や量、さらには加熱時間等にしたがって適宜設定されている。
【0080】
なお、上述した表示装置(表示パネル)の製造方法においては、有機EL層を備える正孔輸送層33a及び電子輸送性発光層33bの双方を形成する工程(図5(c)〜図6(f))に、上述した構造を有する表示装置の製造装置を適用した場合について説明したが、正孔輸送層33a又は電子輸送性発光層33bのいずれか一方のみを形成する工程に上述した製造装置を適用するものであってもよい。
【0081】
このように、本実施形態によれば、各表示画素(各色画素)の有機EL層(例えば正孔輸送層及び電子輸送性発光層)の形成工程において、正孔輸送材料を含む有機溶液又は電子輸送性発光材料を含む有機溶液を各画素形成領域に塗布した直後に、選択的に当該有機溶液に赤外光を照射することにより効率的に加熱、乾燥させて、正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料を薄膜状に定着させることができる。
【0082】
すなわち、正孔輸送材料を含む有機溶液又は電子輸送性発光材料を含む有機溶液が塗布された直後に迅速に乾燥されるので、従来技術に示したような隔壁表面の特性(撥水性)や、上記有機溶液の溶媒成分に起因する表面張力や凝集力、有機溶液の乾燥方法等に起因する正孔輸送材料や電子輸送性発光材料の凝集を抑制することができ、隔壁側面における有機溶液の液面端部の迫り上がりを抑制することができる。これにより、画素形成領域の略全域において、膜厚が均一な正孔輸送層又は電子輸送性発光層を形成することができる。また、表示パネルの全域において、上述した有機EL層の形成工程を適用することにより、膜厚が均一な有機EL層(正孔輸送層及び電子輸送性発光層)を有する複数の表示画素が2次元配列された表示パネルを形成することができる。
【0083】
したがって、各画素形成領域の略全域において、発光駆動電流が均一に流れることにより、広い範囲の有機EL層で光が放射され、また、表示パネルに配列された複数の表示画素間で発光輝度のバラツキが抑制されるので、表示パネルの開口率を改善して表示画質を向上させることができるとともに、画素形成領域の特定の領域に過大な発光駆動電流が流れる現象が抑制されるので、有機EL層(有機EL素子)の劣化を抑制して表示パネルの信頼性の向上や寿命の改善を図ることができる。
【0084】
そして、従来のようにパネル基板PSB全体を加熱する場合、加熱手段を有しないプリンタヘッド11が、例えば図7(a)に示すように走査すると、パネル基板PSBにおいて一番最初に有機EL層33が成膜する表示画素PIXと一番最後に有機EL層33が成膜する表示画素PIXとでは加熱時間が異なってしまい、表示画素PIXの特性が異なってしまう可能性があるが、上記実施形態では、表示画素PIXの加熱時間が均等になるので、均等に加熱することができる。
【0085】
なお、上述した実施形態においては、プリンタヘッドの構成例として、インク吐出部を挟んで一対の赤外光源部を設け、光源制御部からの制御信号に基づいて、各赤外光源の駆動状態を制御する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば赤外光源をプリンタヘッドの外部に別個に設け、当該光源からの赤外光を光ファイバ等を介してプリンタヘッドに供給する(導く)ものであってもよいし、さらには、当該赤外光をプリンタヘッドに設けられた反射鏡等の光学部材を介してパネル基板側に照射するものであってもよい。
【0086】
図8は、本実施形態に係る表示装置の製造装置に適用されるプリンタヘッドの他の例を示す概略構成図である。ここで、図8(a)は、プリンタヘッドの平面図(上面図)であり、図8(b)は、プリンタヘッドの正面図であり、図8(c)は、プリンタヘッドの側面図であり、図8(d)は、プリンタヘッドの下面図(ノズル面図)である。なお、図2に示したプリンタヘッドと同等の構成については、同一の符号を付して説明する。また、図9は、本構成例に係るプリンタヘッドを備えた製造装置におけるパネル基板(基板ステージ)に対するプリンタヘッドの走査移動経路を説明するための概念図である。
【0087】
図2に示したプリンタヘッドにおいては、インク吐出部INJを挟んで一対の赤外光源部IRSA、IRSBが隣接して設けられた構造を示したが、本構成例においては、図8、図9に示すように、プリンタヘッド11の走査移動方向に対して後方側であって、インク吐出部INJに隣接して唯一の赤外光源部IRSが設けられている。
【0088】
そして、このような構造を有するプリンタヘッド11を備えた製造装置を適用した製造方法においては、パネル基板PSB(基板ステージ21)に対するプリンタヘッド11の走査移動方法として、例えば図9(a)、(b)に示すように、プリンタヘッド11をパネル基板PSBに対して「折り返し経路」を有するように移動させる場合にあっては、復路動作においてプリンタヘッド11を180°回転させて、プリンタヘッド11の走査移動方向(図9(b)中、白抜き矢印で表記)に対して、常にインク吐出部INJが前方側に、また、赤外光源部IRSが後方側に位置するように設定することにより、上述した実施形態と同等の製造方法(正孔輸送層及び電子輸送性発光層の形成工程)を適用して、簡易な構成のプリンタヘッドで膜厚の均一な有機EL層を形成することができる。
【0089】
[第2の実施形態]
図10は、第2の実施形態に係る表示装置の製造装置に適用されるプリンタヘッドの一例を示す概略構成図である。ここで、表示装置の製造装置の全体構成については上述した第1の実施形態(図1参照)と同等であるので、具体的な説明を省略する。ここで、図2、図8に示したプリンタヘッドと同等の構成については、同一の符号を付して説明する。また、図11は、本構成例に係るプリンタヘッドを備えた製造装置におけるパネル基板(基板ステージ)に対するプリンタヘッドの走査移動経路の一例を説明するための概念図であり、図12は、本構成例に係るプリンタヘッドを備えた製造装置におけるパネル基板(基板ステージ)に対するプリンタヘッドの走査移動経路の他の例を説明するための概念図である。
【0090】
上述した第1の実施形態に示したプリンタヘッド(図2、図8参照)においては、
プリンタヘッド11の走査移動方向線(図中、一点鎖線で表示)上に、インク吐出部INJの各吐出口NZLと、赤外光源部IRS(IRSA、IRSB)の各出射部APLが対応して配列された構造を示したが、本実施形態においては、図10、図11に示すように、インク吐出部INJと赤外光源部IRSが隣接して一体的に形成されたプリンタヘッド11において、当該プリンタヘッド11の走査移動方向(図10では一点鎖線、図11では白抜き矢印で表記)に対して垂直方向にインク吐出部INJの吐出口NZLと、赤外光源部IRSの出射部APLが配列されている。
【0091】
そして、このような構造を有するプリンタヘッド11を備えた製造装置を適用した製造方法においては、パネル基板PSB(基板ステージ21)に対するプリンタヘッド11の走査移動方法として、例えば図11(a)〜(c)に示すように、プリンタヘッド11をパネル基板PSBの一方の端部(図面上端側)から他方の端部(図面下端側)まで走査移動させる「一方向走査」を繰り返す場合にあっては、図11(b)、(c)に示すように、前回の一方向走査(i番目の走査)においてプリンタヘッド11のインク吐出部INJによりパネル基板PSB上に塗布された有機溶液に対して、次回の一方向走査(i+1番目の走査)においてプリンタヘッド11の赤外光源部IRSにより赤外光を照射して乾燥させ、当該有機溶液に含まれる正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料をパネル基板PSB上に定着させる。
【0092】
また、このような構造を有するプリンタヘッド11の走査移動方法の他の例としては、例えば図12(a)〜(c)に示すように、プリンタヘッド11をパネル基板PSBに対して「折り返し経路」を有するように移動させるものであってもよく、この場合においては、図12(b)、(c)に示すように、往路動作(前回の走査)においてプリンタヘッド11のインク吐出部INJによりパネル基板PSB上に塗布された有機溶液に対して、復路動作(次回の走査)においてプリンタヘッド11の赤外光源部IRSにより赤外光を照射して乾燥させ、当該有機溶液に含まれる正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料をパネル基板PSB上に定着させる。
【0093】
すなわち、本実施形態に係るプリンタヘッド11においては、インク吐出部INJに設けられる吐出口NZLと赤外光源部IRSに設けられる出射部APLとの配置間隔P4が、パネル基板PSBに2次元配列された隣接する画素形成領域相互の配置間隔(図11(b)、図12(b)に示すパネル基板PSBにおける隣接する表示画素間の間隔であって、図4に示した色画素の配置間隔と同等)P2に対応するように設定(P4=P2)されている。
【0094】
これにより、パネル基板PSBに対してプリンタヘッド11を走査させながら有機溶液を塗布する工程において、インク吐出部INJにより有機溶液を吐出して塗布しつつ(塗布動作)、すでに塗布された有機溶液に対して赤外光源部IRSにより赤外光を照射して乾燥させる動作(乾燥動作)を同時並行して実行することができるので、上述した第1の実施形態と同様に、膜厚の均一な有機EL層を形成することができる。
【0095】
なお、上述した各実施形態においては、プリンタヘッドとして、インク吐出部と赤外光源部を一体的に設けた構造を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、インク吐出部と赤外光源部が離間して設けられているものであってもよく、この場合、当該インク吐出部の吐出口と赤外光源部の出射部の配置間隔が、パネル基板(表示パネル)上に相互に隣接して配列される表示画素(色画素)間の配置間隔と同一、又は、その整数倍になるように設定されたものを適用することができる。
【0096】
また、上述した各実施形態においては、パネル基板上に塗布された有機溶液に対して、塗布直後に赤外光を照射して加熱、乾燥させる手法を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば上述した第1の実施形態に示したプリンタヘッドを適用して、有機溶液の塗布の直前(又は事前)に、インク吐出部の走査移動方向の前方に配置された赤外光源部から画素形成領域に赤外光を照射して当該領域を加熱(予熱)した状態で、有機溶液を塗布するようにしてもよく、さらに、当該有機溶液の塗布後に、インク吐出部の走査移動方向の後方に配置された赤外光源部から有機溶液にさらに赤外光を照射するものであってもよい。これによっても、画素形成領域に塗布された有機溶液が迅速に加熱されて乾燥処理されるので、上述した各実施形態と同様に、膜厚の均一な有機EL層を形成することができる。
【0097】
さらに、上述した各実施形態においては、パネル基板上に塗布された有機溶液に赤外光を照射して、有機溶液のみを加熱して乾燥させる手法を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、プリンタヘッドのインク吐出部に設けられた各吐出口に対して、赤外光源部に各々複数の赤外光(例えば、第1及び第2の赤外光)の出射部を設け、パネル基板上に塗布された有機溶液に対して(画素形成領域の)略中央領域に第1の赤外光を照射して、特定の温度(例えば第1の温度)に加熱し、これと同時に上記有機溶液が塗布された画素形成領域を画定する隔壁に対して第2の赤外光を照射して、上記第1の温度よりも高い第2の温度に加熱するものであってもよい。これにより、有機溶液が塗布された画素形成領域に温度差が形成され、画素形成領域の中央領域よりも隔壁近傍領域の方が高温になるため、迅速に溶媒の蒸発、乾燥が進行して、上述した各実施形態と同様に、膜厚の均一な有機EL層を形成することができる。
【0098】
また、上述した各実施形態においては、パネル基板上に塗布された有機溶液を加熱、乾燥させる手法として赤外光を照射する構造を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上述した赤外光を照射した場合と同等の状態で加熱、乾燥処理することができるもの、すなわち、パネル基板上に塗布された有機溶液を局所的に加熱して乾燥処理することができるものであれば、プリンタヘッドに例えば所定温度に加熱された熱風のように他の熱源(ヒータ等)を設けたものであってもよい。
【0099】
さらに、本発明は、上述したように有機溶液を液滴状にして吐出するインクジェット装置への適用のみならず、例えばノズルプリンティング装置等に適用するものであってもよい。この場合、有機EL層を形成するための有機溶液(水系インク又は有機溶剤系インク)は、パネル基板の複数の画素形成領域に対してインク吐出部から液流状に連続的に吐出されて塗布されることになるため、当該塗布された有機溶液に対して赤外光源部により連続的に赤外光を照射して(又は、熱源から熱量を供給して)加熱、乾燥させることにより、正孔輸送材料又は電子輸送性発光材料をパネル基板上に薄膜状に定着させることができる。
また、上記各実施形態では、有機EL層33が正孔輸送層33a及び電子輸送性発光層33bであったが、これに限らず正孔輸送兼電子輸送性発光層のみでもよく、正孔輸送性発光層及び電子輸送層でもよく、また間に適宜電荷輸送層が介在してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明に係る表示装置の製造装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る表示装置の製造装置に適用されるプリンタヘッドの一例を示す概略構成図である。
【図3】本実施形態に係る表示装置の製造装置に適用されるプリンタヘッドを用いた水系インク又は有機溶剤系インクの塗布動作及び乾燥動作を説明するための概念図である。
【図4】本実施形態に係る表示装置の製造方法により製造される表示パネルの画素配列の一例を示す要部概略図である。
【図5】本実施形態に係る製造装置を適用した表示装置(表示パネル)の製造方法の一例を示す工程断面図(その1)である。
【図6】本実施形態に係る製造装置を適用した表示装置(表示パネル)の製造方法の一例を示す工程断面図(その2)である。
【図7】本実施形態に係る製造装置におけるパネル基板(基板ステージ)に対するプリンタヘッドの走査移動経路を説明するための概念図である。
【図8】本実施形態に係る表示装置の製造装置に適用されるプリンタヘッドの他の例を示す概略構成図である。
【図9】本構成例に係るプリンタヘッドを備えた製造装置におけるパネル基板(基板ステージ)に対するプリンタヘッドの走査移動経路を説明するための概念図である。
【図10】第2の実施形態に係る表示装置の製造装置に適用されるプリンタヘッドの一例を示す概略構成図である。
【図11】本構成例に係るプリンタヘッドを備えた製造装置におけるパネル基板(基板ステージ)に対するプリンタヘッドの走査移動経路の一例を説明するための概念図である。
【図12】本構成例に係るプリンタヘッドを備えた製造装置におけるパネル基板(基板ステージ)に対するプリンタヘッドの走査移動経路の他の例を説明するための概念図である。
【図13】有機EL素子の基本構造を示す概略断面図である。
【図14】従来技術における有機EL素子の製造プロセスの問題点を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0101】
11、11H、11E プリンタヘッド
21 基板ステージ
30 表示パネル
31 隔壁
32 画素電極
33a 正孔輸送層
33b 電子輸送性発光層
34 対向電極
INJ インク吐出部
IRS、IRSA、IRSB 赤外光源部
NZL 吐出口
APL 出射部
PSB パネル基板
PIX 表示画素
Apx 画素形成領域
HMC、EMC 有機溶液
Rir 赤外光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示画素が複数配列された表示パネルを備えた表示装置の製造装置において、
前記表示画素の形成領域に材料溶液を吐出して塗布するノズルが設けられた溶液吐出部と、
前記溶液吐出部の近傍に配置され、前記表示画素の形成領域に塗布された前記材料溶液を加熱して乾燥させる溶液加熱部と、
を備えたプリンタヘッドを有することを特徴とする表示装置の製造装置。
【請求項2】
前記溶液加熱部は、前記表示パネルに前記材料溶液を塗布する際の前記プリンタヘッドの走査移動方向に対して、前記溶液吐出部の後方側に配置されていることを特徴とする請求項1記載の表示装置の製造装置。
【請求項3】
前記溶液加熱部は、前記表示パネルに前記材料溶液を塗布する際の前記プリンタヘッドの走査移動方向に対して、前記溶液吐出部の前方側及び後方側に一対配置されていることを特徴とする請求項1記載の表示装置の製造装置。
【請求項4】
前記プリンタヘッドは、前記表示パネルに前記材料溶液を塗布する際の前記プリンタヘッドの走査移動方向の垂直方向に、前記溶液吐出部及び前記溶液加熱部が配置されていることを特徴とする請求項1記載の表示装置の製造装置。
【請求項5】
前記プリンタヘッドは、前記溶液吐出部と前記溶液加熱部とが一体的に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表示装置の製造装置。
【請求項6】
前記溶液吐出部は、前記表示パネルに前記材料溶液を塗布する際の前記プリンタヘッドの走査移動方向に対して垂直方向に複数の前記ノズルが設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の表示装置の製造装置。
【請求項7】
前記溶液加熱部は、前記表示画素の形成領域に塗布された前記材料溶液に対して、赤外光を照射して当該材料溶液を加熱して乾燥させる光源を備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の表示装置の製造装置。
【請求項8】
表示画素が複数配列された表示パネルを備えた表示装置の製造方法において、
前記複数の表示画素の形成領域に材料溶液を吐出して塗布する工程と、
前記材料溶液を塗布する工程に並行して、前記表示画素の形成領域に既に塗布された前記材料溶液を加熱して乾燥させる工程と、
を含むことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項9】
前記前記材料溶液を加熱して乾燥させる工程は、前記材料溶液が前記表示画素の各形成領域に塗布された直後に実行することを特徴とする請求項8記載の表示装置の製造方法。
【請求項10】
前記前記材料溶液を加熱して乾燥させる工程は、前記表示画素の形成領域に塗布された前記材料溶液に対して、赤外光を照射して当該材料溶液を加熱して乾燥させることを特徴とする請求項8又は9に記載の表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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