説明

表示装置

【課題】メモリ性のある表示材料を使用した単純マトリクス型表示装置で、表示を書換える際の画面表示の一層の改善。
【解決手段】メモリ性を有する表示材料を用い、複数のスキャン電極と複数のデータ電極14,15を備え、表示を書換える時に、複数のスキャン電極に書換えパルスを印加するスキャンを行い、スキャンにおいて、書換えパルスを印加する複数のスキャン電極の位置が、非一定間隔で変化し、さらに逆方向に変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置として、例えば電子ペーパー等の、液晶を用いた表示装置が開発されている。液晶を用いた表示装置の駆動方法として、例えばダイナミック駆動方式(DDS)が用いられている。DDSを用いることにより、高コントラストの画像を高速に書換えることができる。
【0003】
DDSによる駆動期間は、3つのステージに大別され、先頭から、「前選択(Preparation)」期間、選択(Selection)」期間および「後選択(Evolution)」期間を含む。Preparation期間、Selection期間およびEvolution期間の前後には、非選択期間が設けられる。Preparation期間は、液晶をホメオトロピック状態に初期化する期間で、Preparation期間では、比較的高電圧の複数のPreparationパルスが印加される。Selection期間は、最終的な状態をプレーナ状態(明状態:白表示)かフォーカルコニック状態(暗状態:黒表示)に分岐するきっかけを与える期間である。Selection期間では、最終的にプレーナ状態にスイッチングする場合はホメオトロピック状態、フォーカルコニック状態にスイッチングする場合は過渡プレーナ状態がほぼ形成される。Selection期間では、プレーナ状態にスイッチングする時には相対的に高電圧のパルスが印加され、フォーカルコニック状態にスイッチングする時には相対的に低電圧のパルスが印加される。Evolution期間は、直前のSelection期間での過渡状態への変化を受けて、プレーナ状態またはフォーカルコニック状態に確定させる。Evolution期間では、PreparationパルスとSelectionパルスの間の電圧の複数のEvolutionパルスが印加される。
【0004】
液晶を用いた表示装置では、例えば汎用のスキャンドライバ(コモンドライバ)でスキャン電極を、セグメントドライバ(データドライバ)でデータ電極をそれぞれ駆動させている。DDSによる駆動でも、スキャン電極およびデータ電極が用いられている。
【0005】
DDSでは、スキャンドライバに、複数のPreparationパルス、1個のSelectionパルスおよび複数のEvolutionパルスのパルス群を指示するパルスデータを順に入力し、スキャンドライバのシフトレジスタでパルスデータを順にシフトする。これにより、上記のパルス群が印加されるスキャン電極の位置が、一方の端から他方の端に向かって1つずつシフトする。スキャンドライバは、リセット時に非選択パルスを指示するデータになり、上記のパルス群の後には、非選択パルスを指示するデータが入力されるので、上記のパルス群の前後には、非選択パルスが続く。セグメントドライバは、Selectionパルスが印加されるスキャン電極に対応した1ライン(スキャンライン)分の表示データ(白または黒)を出力する。
【0006】
液晶を用いた表示装置では、DDSのみならず、書換えパルス(上記のSelectionパルス)に補助パルス(上記のPreparationパルスおよびEvolutionパルス)を加え、補助パルスによって書換え速度やコントラストを向上させる方法により駆動が行われている。
【0007】
コレステリック液晶の駆動方法は上記のように、補助パルスを加えることによって書換え速度やコントラストの向上を図ることが多い。しかし、書換え時に、補助パルスが太い黒帯として見えてしまい、その太い黒帯が目障りとなり、表示内容を認識しにくくするほか、描画中の美観を損ねていた。また、スキャン電極を1ラインずつスキャンするため、表示内容の認識に時間を要していた。
【0008】
そこで、表示の書換えを、1ラインおきのスキャンを2回行うインターレース化して、描画中に生じるPreparation/Evolution期間の黒帯を分散して目立たなくすると共に、表示内容の早い認識を可能にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−242437号公報
【特許文献2】特開2001−282192号公報
【特許文献3】特開2001−282202号公報
【特許文献4】特開2001−282203号公報
【特許文献5】特開2001−282204号公報
【特許文献6】特開2002−148585号公報
【特許文献7】特開2008−033338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
インターレース化により、表示内容の早い認識が可能になる。しかしながら、黒帯は分散されるだけで、黒帯と白帯が交互に並んだ帯が伸びるように見えるため、依然として黒帯が目立ち、描画中の美観の点では十分ではなかった。また、インターレース化により、書き換えられる画像の認識をより早く行うことができる。ただし、表示画面の一方から順に画像が現れる点ではほぼ同じであり、画面の端には重要な情報が表示されることはないため、十分とは言えなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の一観点によれば、表示部と、前記表示部の画素にパルスを印加する電極と、前記パルスの印加を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記パルスを印加する前記電極の位置が非一定間隔で変化するように制御する表示装置が提供される。
【0012】
また、発明の別の観点によれば、メモリ性を有する表示材料を用い、複数のスキャン電極と複数のデータ電極を備える単純マトリクス型の複数の表示素子を積層した表示装置であって、表示の書換えは、複数の表示素子で同時に行い、各素子の表示を書換える時に、各素子の複数のスキャン電極に書換えパルスを印加するスキャンを行い、スキャンにおいて、書換えパルスを印加する複数のスキャン電極の位置が、非一定間隔で変化し、複数の表示素子の少なくとも2枚の表示素子で、書換えパルスを印加する複数のスキャン電極の位置変化のパターンが異なる表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
上記の観点によれば、表示を書換えるスキャンにおいて、書換えパルスを印加する複数のスキャン電極の位置が、非一定間隔で変化する。これにより、書換えられる画像は、広い領域に分散されて現れるため、補助パルスによる黒帯が分散され、目立たなくなると共に、表示が浮かび上がってくるように現れ、画像全体が早く認識できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例1の表示装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施例1で使用する表示素子の構成を示す図である。
【図3】図3は、1枚のパネルの構成を示す図である。
【図4】図4は、コレステリック液晶の状態を説明する図である。
【図5】図5は、一般的なコレステリック液晶の電圧−反射特性の一例を示している。
【図6】図6は、ダイナミック駆動方式(DSS)における駆動波形を示す図である。
【図7】図7は、実施例1において、スキャンドライバが、Preparation期間、Selection期間、Evolution期間およびNon-Select 期間に出力する駆動波形、セグメントドライバが白表示および黒表示に対して出力する駆動波形、および液晶への印加波形を示す。
【図8】図8は、実施例1において、スキャンドライバおよびセグメントドライバが図7に示す駆動波形を出力することにより液晶分子へ印加される電圧波形を、より具体的に示す図である。
【図9】図9は、実施例1の表示装置におけるスキャン順を示す図である。
【図10】図10は、図9に示したスキャン順を模式的に説明する図である。
【図11】図11は、スキャンドライバの構成を示す図である。
【図12】図12は、スキャンドライバの動作を説明する図であり、スキャン順およびライン選択データの変化を示す図である。
【図13】図13は、スキャン番号0に対して、スキャンドライバでのライン選択データの転送およびセグメントドライバでの画像データの転送を示すタイムチャートである。
【図14】図14は、実施例1におけるスキャン位置の変化(スキャン順)を、別の観点から説明する図である。
【図15】図15は、スキャン順の変形例を説明する図である。
【図16】図16は、スキャン順の別の変形例を説明する図である。
【図17】図17は、スキャン順の更に別の変形例を説明する図である。
【図18】図18は、図17のスキャン順の決定を行う場合の制御回路の構成を示す図である。
【図19】図19は、ライン情報量演算部と、スキャン順決定部における処理を示すフローチャートである。
【図20】図20は、スキャン順を変更可能にした変形例の構成を示す図である。
【図21】図21は、スキャン順を変更可能にした図20の変形例を更に変形した例を示す図である。
【図22】図22は、実施例2の表示装置におけるスキャン順を示す図である。
【図23】図23は、実施例3の表示装置において、1つのスキャンラインの液晶分子へ印加される電圧波形を示す図である。
【図24】図24は、擬似リセット方式を実行する場合の、2値出力の汎用ドライバICで構成したスキャンドライバおよびセグメントドライバの出力と、各画素に印加される電圧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【実施例1】
【0016】
実施例1について、図1から図14を参照して説明する。
【0017】
図1は、実施例1の表示装置を示すブロック図である。
【0018】
実施例1の表示装置は、表示素子10と、電源21と、昇圧部22と、電圧切替部23と、電圧安定部24と、原振クロック部25と、分周部26と、制御回路27と、スキャンドライバ28と、セグメントドライバ29と、を含む。
【0019】
電源21は、例えば3V〜5Vの電圧を出力する。昇圧部22は、DC−DCコンバータなどのレギュレータにより、電源21からの入力電圧を+36V〜+40Vに昇圧する。電圧切替部23は、抵抗による分圧などにより各種の電圧を生成する。電圧安定部24は、電圧切替部23から供給される各種の電圧を安定化させるために、オペアンプのボルテージフォロア回路を使用する。
【0020】
原振クロック部25は、動作の基本となる基本クロックを発生する。分周部26は、基本クロックを分周して、後述する動作に必要な各種クロックを生成する。
【0021】
表示素子10は、例えばRGBの3枚のコレステリック液晶パネルを積層したカラー表示可能な表示素子である。この表示素子は、例えばA4判XGA仕様で、1024×768画素を有する。ここでは1024本のデータ電極と768本のスキャン電極が設けられ、セグメントドライバ29が1024本のデータ電極を、スキャンドライバ28が768本のスキャン電極を、駆動する。RGBの各画素に与える画像データが異なるため、セグメントドライバ29は各データ電極を独立して駆動する。スキャンドライバ28は、RGBのスキャン電極を共通に駆動する。画面の最上部のスキャン電極に対応するスキャンラインを0ライン目とし、画面の最下部のスキャン電極に対応するスキャンラインを767ライン目とする。
【0022】
動作モードを設定することにより、スキャンドライバ(コモンドライバ)としても、セグメントドライバとしても使用可能な汎用STNドライバが製品化されている。実施例1では、スキャンドライバ28およびセグメントドライバ29は、汎用STNドライバで実現する。セグメントドライバ29は、セグメントモードに設定し、通常の動作を行う。スキャンドライバ28は、通常コモンモードに設定されるが、実施例1では、セグメントドライバとして動作するモードに設定する。実施例1では、汎用STNドライバをセグメントドライバとして動作するモードに設定した上でスキャンドライバとして使用するため、セグメントドライバ29に供給する電源電圧の一部を入れ替えてスキャンドライバ28に電源電圧として供給する。
【0023】
制御回路27は、基本クロック、各種クロックおよび画像データDに基づいて制御信号を生成して、スキャンドライバ28およびセグメントドライバ29に供給する。ライン選択データLSは、スキャンドライバ28が、Preparationパルス、SelectionパルスおよびEvolutionパルスを印加するスキャンラインを指示するデータであり、ここでは2ビットの信号である。画像データDATAは、セグメントドライバ29が各データ電極に印加する電圧を、白表示に対応した電圧にするかまたは黒表示に対応した電圧にするかを指示するデータである。データ取り込みクロックCLKは、スキャンドライバ28およびセグメントドライバ29が内部でライン選択データおよび画像データを転送するためのクロックである。フレーム開始信号FSTは、書換える表示画面のデータ転送の開始を指示する信号で、スキャンドライバ28およびセグメントドライバ29は、フレーム開始信号FSTに応じて内部をリセットする。パルス極性制御信号FRは、印加電圧の極性反転信号であり、1ラインの書き込みの中間時点で反転する。スキャンドライバ28およびセグメントドライバ29は、パルス極性制御信号FRに応じて出力する信号の極性を反転する。ラインラッチ信号LLPは、スキャンドライバ28におけるライン選択データの転送終了を指示する信号で、この信号に応じて転送されたライン選択データをラッチする。データラッチ信号DLPは、セグメントドライバ29における画像データの転送終了を指示する信号で、この信号に応じて転送された画像データをラッチする。ドライバ出力オフ信号/DSPOFは、印加電圧の強制オフ(OFF)信号である。
【0024】
セグメントドライバ29の動作およびそれに供給される信号は、一般的なものと同様である。スキャンドライバ28の動作は、後述する。
【0025】
図2は、実施例1で使用する表示素子10の構成を示す図である。図2に示すように、表示素子10は、見る側から順番に、青(ブルー)パネル10B、緑(グリーン)パネル10G、および赤(レッド)パネル10Rの3枚のパネルが積層されており、レッドパネル10Rの下側には光吸収層17が設けられている。パネル10B、10Gおよび10Rは、ほぼ同じ構成を有するが、パネル10Bは反射の中心波長が青色(約480nm)、パネル10Gは反射の中心波長が緑色(約550nm)、パネル10Rは反射の中心波長が緑色(約630nm)になるように、液晶材料およびカイラル材が選択され、カイラル材の含有率が決定されている。パネル10B、10Gおよび10Rのスキャン電極およびデータ電極は、スキャンドライバ28およびセグメントドライバ29により駆動される。
【0026】
パネル10B、10Gおよび10Rは、反射の中心波長が異なる以外ほぼ同じ構成を有する。以下、パネル10B、10Gおよび10Rの代表例を、パネル10Aとして表し、その構成を説明する。
【0027】
図3は、1枚のパネル10Aの構成を示す図である。
【0028】
図3に示すように、表示素子10Aは、上側基板11と、上側基板11の表面に設けられた上側電極層14と、下側基板13の表面に設けられた下側電極層15と、シール材16と、を有する。上側基板11と下側基板13は、電極が対向するように配置され、間に液晶材料を封入した後シール材16で封止される。なお、液晶層12内にスペーサが配置されるが図示は省略している。上側電極層14と下側電極層15の電極には、電圧パルス信号が印加され、それにより液晶層12に電圧が印加される。液晶層12に電圧を印加して、液晶層12の液晶分子をプレーナ状態またはフォーカルコニック状態にして表示を行う。複数のスキャン電極および複数のデータ電極は、上側電極層14と下側電極層15に形成される。
【0029】
上側基板11と下側基板13は、いずれも透光性を有しているが、パネル10Rの下側基板13は不透光性でもよい。透光性を有する基板としては、ガラス基板があるが、ガラス基板以外にも、PET(ポリエチレンテレフタレート)やPC(ポリカーボネート)などのフィルム基板を使用してもよい。
【0030】
上側電極層14と下側電極層15の電極の材料としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO: Indium Tin Oxide)が代表的であるが、その他インジウム亜鉛酸化物(IZO: Indium Zic Oxide)などの透明導電膜を使用することが可能である。
【0031】
上側電極層14の透明電極は、上側基板11上に互いに平行な複数の帯状の上側透明電極として形成され、下側電極層15の透明電極は、下側基板13上に互いに平行な複数の帯状の下側透明電極として形成されている。そして、上側基板11と下側基板13は、基板に垂直な方向から見た時に、上側電極と下側電極が交差するように配置され、交差部分に画素が形成される。電極上には絶縁性のある薄膜が形成される。この薄膜が厚いと駆動電圧を高くする必要がある。逆に、薄膜がないとリーク電流が流れるため、消費電力が増大するという問題を生じる。ここでは、薄膜は比誘電率が約5であり、液晶よりもかなり低いため、薄膜の厚さは約0.3μm以下とするのが適している。
【0032】
なお、この絶縁性薄膜は、SiO2の薄膜、あるいは配向安定化膜として知られているポリイミド樹脂、アクリル樹脂などの有機膜で実現できる。
【0033】
上記のように、液晶層12内にスペーサが配置され、上側基板11と下側基板13の間隔、すなわち液晶層12の厚さを一定にする。スペーサは、例えば樹脂製または無機酸化物製の球体、基板表面に熱可塑性の樹脂をコーティングした固着スペーサ等である。スペーサによって形成されるセルギャップは4μm〜6μmの範囲が好ましい。セルギャップが4μmより小さいと反射率が低下して暗い表示になり、高い閾値急峻性も期待できない。逆に6μmより大きいと、高い閾値急峻性は保持できるが、駆動電圧が上昇して汎用部品による駆動が困難になる。
【0034】
液晶層12を形成する液晶組成物は、例えばネマティック液晶混合物にカイラル材を10〜40重量%(wt%)添加したコレステリック液晶である。ここで、カイラル材の添加量は、ネマティック液晶成分とカイラル材の合計量を100wt%とした時の値である。
【0035】
ネマティック液晶としては、従来から公知の各種のものを使用可能であるが、例えば誘電率異方性(Δε)が15〜35の範囲の液晶材料であることが望ましい。誘電率異方性が15以下であれば、駆動電圧が全体的に高くなり、駆動回路に汎用部品を使用することが困難になる。一方、誘電率異方性が25以上になると、閾値急峻製が低下し、更には液晶材料自体の信頼性が低下する懸念が出てきる。
【0036】
屈折率異方性(Δn)は、0.18〜0.24であることが望ましい。屈折率異方性が、この範囲より小さいと、プレーナ状態の反射率が低くなり、この範囲より大きいと、フォーカルコニック状態での散乱反射が大きくなるのに加えて、粘度も高くなり、応答速度が低下する。
【0037】
次に、コレステリック液晶材料を使用した表示装置における、明暗(白黒)表示について説明する。コレステリック液晶表示装置は、液晶分子の配向状態で表示の制御を行う。
【0038】
図4の(A)および(B)は、コレステリック液晶の状態を説明する図である。図1の(A)および(B)に示すように、表示素子10は、上側基板11と、コレステリック液晶層12と、下側基板13と、有する。コレステリック液晶には、図1の(A)に示すように入射光を反射するプレーナ状態と、図1の(B)に示すように入射光を反射するフォーカルコニック状態と、があり、これらの状態は、無電界下でも安定してその状態が保持される。他に、強い電界を印加した時に、すべての液晶分子が電界の向きに従うホメオトロピック状態があるが、ホメオトロピック状態は、電界の印加を停止すると、プレーナ状態またはフォーカルコニック状態になる。
【0039】
プレーナ状態の時には、液晶分子のらせんピッチに応じた波長の光を反射する。反射が最大となる波長λは、液晶の平均屈折率n、らせんピッチpから次の式で表される。
【0040】
λ=n・p
一方、反射帯域Δλは、液晶の屈折率異方性Δnに伴って大きくなる。
【0041】
プレーナ状態の時には、入射光が反射するので「明」状態、すなわち白を表示することができる。一方、フォーカルコニック状態の時には、下側基板13の下に光吸収層を設けることにより、液晶層を透過した光が吸収されるので「暗」状態、すなわち黒を表示することができる。
【0042】
次に、コレステリック液晶を利用した表示素子の駆動方法を説明する。
【0043】
図5は、一般的なコレステリック液晶の電圧−反射特性の一例を示している。横軸は、コレステリック液晶を挟む電極間に所定のパルス幅で印加されるパルス電圧の電圧値(V)を表し、縦軸はコレステリック液晶の反射率(%)を表している。図2に示す実線の曲線Pは、初期状態がプレーナ状態のコレステリック液晶の電圧−反射率特性を示し、破線の曲線FCは、初期状態がフォーカルコニック状態のコレステリック液晶の電圧−反射率特性を示す。
【0044】
コレステリック液晶に強い電界(VP100以上)を発生させると、電界印加中は、液晶分子のらせん構造は完全にほどけて、すべての分子が電界の方向に従うホメオトロピック状態になる。次に、液晶分子がホメオトロピック状態の時に、印加電圧をVP100から所定の低電圧(例えば、VF)に急激に低下させて、液晶中の電界を急激にほぼゼロにすると、液晶のらせん軸は電極に垂直になり、らせんピッチに応じた光を選択的に反射するプレーナ状態になる。
【0045】
一方、コレステリック液晶分子のらせん構造が解けない程度の弱い電界を印加した後の電界除去(VF100a〜VF100bの範囲)、あるいは強い電界を印加し、その状態から緩やかに電界を除去した場合は、コレステリック液晶分子のらせん軸は電極に平行になり、入射光を反射するフォーカルコニック状態になる。
【0046】
また、中間的な強さの電界(VF0〜VF100aまたはVF100b〜VP0)を印加し、急激に電界を除去すると、プレーナ状態とフォーカルコニック状態が混在し、中間調の表示が可能となる。
【0047】
以上の現象を利用して、表示を行う。
【0048】
前述のように、コレステリック液晶を用いた表示装置では、高速の書換えを行う場合には、ダイナミック駆動方式(DSS)が使用される。実施例1の表示装置も、DDSで2値画像表示を行う。なお、画像の書換えを行う前に、全画素を同時にプレーナ状態にするリセット動作を行うようにしてもよい。リセット動作は、スキャンドライバ28およびセグメントドライバ29の全出力を、それぞれ強制的に所定の電圧値にすることにより行い、出力値を設定するためのデータの転送が不要なので、短時間に実行可能である。ただし、リセット動作は、電力を消費するので、低消費電力の装置では行わなくてもよい。
【0049】
図6は、DDSにおける駆動波形を示す図である。
【0050】
前述のように、DDSは、3つのステージに大別され、先頭から、「前選択(Preparation)」期間、選択(Selection)」期間および「後選択(Evolution)」期間を含む。これらの期間の前後には、非選択 (Non-Select) 期間が設けられる。Preparation期間は、液晶をホメオトロピック状態に初期化する期間で、高電圧のパルス幅の大きなPreparationパルスが印加される。Selection期間は、プレーナ状態またはフォーカルコニック状態に分岐するきっかけを与える期間であり、プレーナ状態にスイッチングする時には低電圧のパルス幅の小さなSelectionパルスが印加され、フォーカルコニック状態にスイッチングする時にはパルスは印加されない。Evolution期間は、直前のSelection期間での過渡状態に応じてプレーナ状態かフォーカルコニック状態に確定させる期間であり、中間電圧のパルス幅の大きなEvolutionパルスが印加される。Preparationパルス、SelectionパルスおよびEvolutionパルスは、それぞれ1組の正負のパルスである。
【0051】
実際には、Preparation期間およびEvolution期間では、図6のようにパルス幅の長い1組の正負のパルスを印加するのではなく、複数個の正負のPreparationパルスおよびEvolutionパルスを印加する。
【0052】
図7は、実施例1において、スキャンドライバ28が、Preparation期間、Selection期間、Evolution期間およびNon-Select 期間に出力する駆動波形、セグメントドライバ29が白表示および黒表示に対して出力する駆動波形、および液晶への印加波形を示す。
【0053】
実施例1でDSSを実行する場合、スキャンドライバ28は、GNDを含め6値を出力し、セグメントドライバ29は、2値表示の場合、GNDを含めて4値を出力する。
【0054】
スキャンドライバ28およびセグメントドライバ29は、Selection期間を4等分した期間を単位として出力を変化させる。セグメントドライバ29は、白表示に対しては、42V、30V、0V、12Vに変化する電圧波形を、黒表示に対しては、30V、42V、12V、0Vに変化する電圧波形を出力する。スキャンドライバ28は、Non-Select 期間には36V、36V、6V、6Vに変化する電圧波形を、Selection期間には30V、42V、12V、0Vに変化する電圧波形を、Evolution期間には12V、12V、30V、30Vに変化する電圧波形を、Preparation期間には0V、0V、42V、42Vに変化する電圧波形を出力する。
【0055】
これにより、Preparation期間では、白表示のデータ電極の液晶に対して、42V、30V、−42V、−30Vに変化する電圧波形が、黒表示のデータ電極の液晶に対して、30V、42V、−30V、−42Vに変化する電圧波形が印加される。Evolution期間では、白表示のデータ電極の液晶に対して、30V、18V、−30V、−18Vに変化する電圧波形が、黒表示のデータ電極の液晶に対して、18V、30V、−18V、−30Vに変化する電圧波形が印加される。Selection期間では、白表示のデータ電極の液晶に対して、12V、−12V、−12V、12Vに変化する電圧波形が、黒表示のデータ電極の液晶に対して、0Vの電圧波形が印加される。Non-Select 期間には、白表示のデータ電極の液晶に対して、6V、−6V、−6V、6Vに変化する電圧波形が、黒表示のデータ電極の液晶に対して、−6V、6V、6V、−6Vに変化する電圧波形が印加される。
【0056】
図8は、実施例1において、スキャンドライバ28およびセグメントドライバ29が図7に示す駆動波形を出力することにより液晶分子へ印加される電圧波形を、より具体的に示す図である。1つのスキャンラインに図8の電圧波形が印加される。
【0057】
図8に示すように、Preparation期間、Selection期間およびEvolution期間の順に配置され、前後に非選択(Non-Select)期間が配置される。Selection期間は、約0.5ms〜1ms程度の印加時間である。図8は、プレーナ状態にして白表示(明表示)を行う場合の±12VのSelectionパルスを示しており、フォーカルコニック状態にして黒表示(暗表示)を行う場合には、この期間中0Vが印加される。
【0058】
Preparation期間およびEvolution期間は、Selection期間の数倍から十数倍の長さであり、図7のPreparationパルスおよびEvolutionパルスが、複数個印加される。Non-Select期間は、描画に関与しない画素に常時印加されるパルスであり、低電圧であるため、画像を変化させない。
【0059】
図8のPreparationパルス、SelectionパルスおよびEvolutionパルスの組が、スキャンラインの位置を変えながら順次印加される。これにより、SelectionパルスがPreparationパルスとEvolutionパルスを伴い、1ライン当たりのSelectionパルスの印加時間で、パイプライン的にスキャン・書換えを行うことになる。そのため、XGA仕様の高精細サイズの表示素子であっても、1ms×768=0.77秒程度の速度で書換えを行うことができる。
【0060】
従来例では、汎用のSTNドライバをスキャン(コモン)モードで使用し、図8の印加波形を1スキャンラインずつシフトしながら印加していた。そのため、隣接するスキャンラインにPreparationパルスおよびEvolutionパルスが数パルスから十数パルス連続で印加されることになり、黒帯が現れた。インターレース化して、1スキャンラインおきにPreparationパルス、SelectionパルスおよびEvolutionパルスの組を印加する場合でも、1スキャンラインおきにPreparationパルスおよびEvolutionパルスが続けて印加される。そのため、黒帯は薄くなるが、長い黒帯が出現する。
【0061】
図9は、実施例1の表示装置におけるスキャン順を示す図である。前述のように、画面の最上部のスキャン電極に対応するスキャンラインを0ライン目とし、画面の最下部のスキャン電極に対応するスキャンラインを767ライン目とし、図9では、スキャン順が0から99番目のスキャンラインを示している。
【0062】
図10は、図9に示したスキャン順を模式的に説明する図である。スキャン電極(ライン)が横方向に伸びるとして、図10に示すように、画面を上下に分け、上側を第1領域、下側を第2領域とする。スキャンラインは、第1領域の最下部の383ライン、第2領域の最上部の384ライン、第1領域の最上部の0ライン、第2領域の最下部の767ライン、第1領域の最下部から2番目の382ライン、第2領域の最上部から2番目の385ライン、第1領域の最上部から2番目の1ライン、第2領域の最下部から2番目の766ライン、という具合に変化する。
【0063】
図9および図10に示したスキャン順で書き込みを行うため、実施例1のスキャンドライバ28は、6値以上の出力が可能な汎用STNドライバを、セグメントモードで使用することで実現する。
【0064】
図11は、スキャンドライバ28の構成を示す図である。図11に示すように、スキャンドライバ28は、データレジスタ31と、ラッチレジスタ32と、電圧変換部33と、出力バッファ34と、を備える。電圧変換部33および出力バッファ34は、出力の個数分設けられている。データレジスタ31は、データ取込みクロックCLKに応じて、入力されるライン選択データを1ビットずつシフトするシフトレジスタである。ラッチレジスタ32は、1画面分のライン選択データの転送が終了すると、ラインラッチ信号LLPに応じてデータレジスタ31の出力をラッチし、次のラインラッチ信号LLPが入力されるまで状態を維持する。電圧変換部33は、ラッチレジスタ32の出力する値に応じて7つの電圧V1〜V7から1つの電圧を選択するアナログ・マルチプレクサ35と、強制オフ信号に応じてアナログ・マルチプレクサ35の出力の一方を選択するスイッチ36と、を有する。スイッチ36の出力が出力バッファ34に入力される。図11では、アナログ・マルチプレクサ35は、7つの電圧V1〜V7から1つの電圧を選択する例を示したが、6つの電圧V1〜V7から1つの電圧を選択可能であればよい。
【0065】
なお、セグメントドライバ29は、図11に示したスキャンドライバ28と類似の構成を有するが、図7に示したようにGNDを含めて4値の出力が可能であればよい。
【0066】
図12は、スキャンドライバ28の動作を説明する図であり、スキャン順およびライン選択データの変化を示す図である。ここでは、ライン選択データの“0”がNon-Selectを、“1”がSelectionを、“2”がPreparationを、“3”がEvolutionを示す。したがって、ライン選択データLLSは2ビット以上であればよい。また、説明を簡単にするために、Selection パルスの前後にPreparationパルスとEvolutionパルスを3回ずつ印加する場合を説明する。
【0067】
スキャン順は、383ライン、384ライン、0ライン、767ライン、382ライン、385ライン、1ライン、766ライン、…の順である。スキャン順0の383ラインにSelection パルスを印加する時をスキャン番号“0”とし、以下順にスキャン番号が増加し、スキャン番号0の前に、Preparationパルスを3回印加するためのスキャン番号−3から−1が設けられる。また、図示していないが、スキャン番号767の後に、Evolutionパルスを3回印加するためのスキャン番号768から770が設けられる。
【0068】
スキャン番号−3では、383ラインに1を、それ以外に0を設定するライン選択データがスキャンドライバ28に転送され、スキャンドライバ28は、383ラインのスキャン電極にPreparationパルスを印加し、それ以外のスキャン電極にNon-Selectパルスを印加する。
【0069】
スキャン番号−2では、383ラインおよび384ラインに1を、それ以外に0を設定するライン選択データがスキャンドライバ28に転送され、スキャンドライバ28は、383ラインおよび384ラインのスキャン電極にPreparationパルスを印加し、それ以外のスキャン電極にNon-Selectパルスを印加する。
【0070】
スキャン番号−1では、383ライン、384ラインおよび0ラインに1を、それ以外に0を設定するライン選択データがスキャンドライバ28に転送され、スキャンドライバ28は、383ライン、384ラインおよび0ラインのスキャン電極にPreparationパルスを印加し、それ以外のスキャン電極にNon-Selectパルスを印加する。
【0071】
スキャン番号0では、383ラインに2を、384ライン、0ラインおよび767ラインに1を、それ以外に0を設定するライン選択データがスキャンドライバ28に転送され、スキャンドライバ28は、383ラインのスキャン電極にSelectionパルスを、384ライン、0ラインおよび767ラインのスキャン電極にPreparationパルスを印加し、それ以外のスキャン電極にNon-Selectパルスを印加する。
【0072】
スキャン番号1では、383ラインに3を、384ラインに2を、0ライン、767ラインおよび382ラインに1を、それ以外に0を設定するライン選択データがスキャンドライバ28に転送され、スキャンドライバ28は、383ラインのスキャン電極にEvolutionパルスを、384ラインのスキャン電極にSelectionパルスを、0ライン、767ラインおよび383ラインのスキャン電極にPreparationパルスを印加し、それ以外のスキャン電極にNon-Selectパルスを印加する。
【0073】
以下、同様にPreparationパルス、SelectionパルスおよびEvolutionパルスを印加するスキャンラインを変化させ、Evolutionパルスを3回印加したスキャンラインは以後Non-Selectパルスを印加する。
【0074】
ライン選択データのスキャンドライバ28への転送に同期して、画像データをセグメントドライバ29に転送して出力する。スキャン番号−3から−1に対しては、画像を変化させないブランクデータを、スキャン番号0に対しては383ラインの画像データを、スキャン番号1に対しては384ラインの画像データを、スキャン番号2に対しては0ラインの画像データを、スキャン番号3に対しては767ラインの画像データを、という具合に、Selectionパルスの印加されるラインの画像データを転送する。セグメントドライバ29は、画像データの白表示と黒表示に対応する駆動電圧を出力する。
【0075】
図13は、スキャン番号0に対して、スキャンドライバ28でのライン選択データの転送およびセグメントドライバ29での画像データの転送を示すタイムチャートである。ライン選択データLLSは、下位ビットDAT0と上位ビットDAT1の2ビットで構成され、“00”がNon-Selectを、“01”がSelectionを、“10”がPreparationを、“11”がEvolutionを表す。スキャンドライバ28およびセグメントドライバ29でのデータ転送は共通のデータ取込みクロックCLKで行われるので、ライン選択データの最初の256クロック分はダミーデータを転送する。図13に示すように、383ラインに相当するタイミングでDAT0が“1”に、384ライン、0ライン、767ライン385ラインに相当するタイミングでDAT1が“1”になる。転送されたライン選択データおよび画像データは、ラインラッチ信号LLPおよびデータラッチ信号DLPに同期してラッチされる。パルス極性制御信号FRは、1スキャンラインのSelection期間の中間位置で変化する。
【0076】
実施例1の表示装置では、図9および図10に示したスキャン順で書き込みを行うため、PreparationパルスおよびEvolutionパルスが印加されるスキャンラインが分散され、帯として目立つことはない。また、画像は、中央から上下の2方向に、上端から下方向に、および下端から上方向に向かって描画が進行するので、4箇所から浮かび上がるように現れる。
【0077】
なお、実施例1ではスキャンラインの位置が拡散するために、パネルの応答特性によっては表示ムラが生じることがある。この表示ムラは、画像書込み前後にかかる非選択電圧の印加時間に依存することが分かっている。例えば、最初のほうに描画されたラインは、その後の非選択電圧の印加時間が長く、相対的にコントラストが高い一方で、最後のほうに書込まれたラインは、その後の非選択電圧の印加時間が短く、相対的にコントラストが低くなる。そこで、画面の書込み終了後も、Non-Selectパルスを、少しの間かけ続けると、コントラストを補正可能である。
【0078】
図14は、実施例1におけるスキャン位置の変化(スキャン順)を、別の観点から説明する図である。図14に示すように、画面を上下に分け、上側を第1領域、下側を第2領域とする。スキャン位置は、第1領域では両端の383ラインと0ラインから交互に第1領域の内側に向かうように、第2領域でも両端の384ラインと767ラインから交互に第2領域の内側に向かうように選択し、さらに第1領域と第2領域を交互に選択する。これにより、図10に示すスキャン順になる。
【0079】
PreparationパルスおよびEvolutionパルスが印加されるスキャンラインが帯状に目立たないようにすると共に、書換える画像が浮かび上がるように現れるようにするには、スキャン順を分散する。どのように分散するかは、各種の変形例が可能である。以下、スキャン順の変形例を説明する。
【0080】
図15は、スキャン順の変形例を説明する図である。この変形例では、画面を上側から順に第1〜第4領域に分け、第1領域では両端の191ラインと0ラインから交互に第1領域の内側に向かうように、第2領域でも両端の192ラインと383ラインから交互に第2領域の内側に向かうように、第3領域では両端の575ラインと384ラインから交互に第3領域の内側に向かうように、第4領域でも両端の576ラインと767ラインから交互に第4領域の内側に向かうように、選択するものとする。その上で、第1領域と第2領域を交互に4回選択した後、第3領域と第4領域を交互に4回選択し、以下これを繰り返す。したがって、スキャン順は、図示の通り、191ライン、192ライン、0ライン、383ライン、575ライン、576ライン、384ライン、767ラインの順になる。
【0081】
なお、図15で、第1領域と第2領域を交互に4回選択した後、第3領域と第4領域を交互に4回選択するのではなく、第1領域、第3領域、第2領域、第4領域の選択を繰り返すようにしてもよい。図15の変形例は、実施例1の場合より、帯が一層目立たなくなる。
【0082】
スキャン順は、図15のほかにも各種の変形例が可能である。例えば、各領域で中央から両端に向かうようにスキャン位置を選択してもよく、画面を分割する個数や領域の選択順についても限定されない。
【0083】
図16は、スキャン順についての更に別の変形例を示す図である。
【0084】
図16のスキャン順は、画面中央を書換えの起点として、そこから上下方向に互い違いに書換えを進めるが、画面中央のスキャン順の間隔は小さくし、画面両端に進むほど間隔を大きくするように制御する。そして、中央付近の未書込みのスキャンラインから順に書き込みを行う。この場合の見え方としては、黒帯が分散されるのはもちろんとして、画面中央から徐々に浮かび上がってくるような見え方になる。
【0085】
図17は、スキャン順についての更に別の変形例を示す図である。
【0086】
図17のスキャン順は、書換える画像の重要度の高いラインから順に書換えを進めていく。重要度は、例えば文字画像の場合、文字に該当するラインを優先して書き込みを進める。一般の画像も含めた場合には、情報量の多いラインから順番に書換えを進めていく。情報量の定義としては、例えば水平方向での画素値の変動が考えられ、画素値の変動が多いほど情報量が多いと見なすが、他の情報量の定義を使用してもよい。この場合、逆に画素値の変動が少ない場合は、情報量が少ないと見なすことができる。新聞のような文字中心の表示内容である場合には、単純に文字が書かれているラインを抽出し、その抽出されたライン内で、実施例1および変形例のスキャン順を適用してもよい。
【0087】
図18は、図17のスキャン順の決定を行う場合の制御回路27の構成を示す図である。制御回路27は、ビットマップ形式の画像データ展開メモリ41と、画像書込み時に画像データ展開メモリ41から画像データを読み出す画像データ読出回路42と、ライン情報量演算部43と、スキャン順決定部44と、を有する。ライン情報量演算部43は、画像データ展開メモリ41にアクセスしてスキャンラインごとの画素変動値を演算し、それをライン情報量とする。スキャン順決定部44は、ライン情報量演算部43の演算したライン情報量に基づいてスキャン順を決定し、画像データ読出回路42における読出し順を制御する。
【0088】
図19は、ライン情報量演算部43と、スキャン順決定部44における処理を示すフローチャートである。
【0089】
S11からS16は、スキャンラインごとの画素変動値σを算出する処理で、S21からS27が、スキャン順を決定する処理である。
【0090】
S11では、スキャン位置(縦方向の位置)Yを0から767の範囲に設定し、繰り返し演算ではYを1ずつ増加する。
【0091】
S12では、画素位置(横方向の位置)Xを0から1023の範囲に設定し、繰り返し演算ではXを1ずつ増加する。
【0092】
S13では、スキャン位置Yのラインにおける画素位置Xの画素の隣接画素との画素値の差を画素変動値σとして算出する。
【0093】
S14では、スキャン位置Yのラインにおける画素変動値σの算出が終了したかを判定し、終了していなければS12に戻る。S12からS14を繰り返すことにより、スキャン位置Yのラインにおける全画素の画素変動値σの算出が行われる。
【0094】
S15では、スキャン位置Yのラインにおける全画素の画素変動値σの合計を算出して、Yと関連付けてリストに記憶する。
【0095】
S16では、全スキャンラインにおける画素変動値σの合計値の算出が終了したかを判定し、終了していなければS11に戻る。S11からS16を繰り返すことにより、全スキャンラインにおける画素変動値σの合計値の算出が行われ、リストに記憶される。
【0096】
S21では、スキャン順を示す変数Cを0から767の範囲に設定し、繰り返し演算ではCを1ずつ増加する。
【0097】
S22では、スキャン一Yを0から767の範囲に設定し、繰り返し演算ではYを1ずつ増加する。
【0098】
S23では、リストからスキャン位置Yの画素変動値σを読出し、それが前のスキャン位置Y−1における画素変動値σより大きいかを判定し、大きければそのスキャン位置をアドレスσmaxとして算出する。
【0099】
S24では、全スキャンラインにおいて前のスキャン位置の画素変動値との比較が終了したかを判定し、終了していなければS22に戻る。S22からS24を繰り返すことにより、全スキャンラインにおいて画素変動値が最大になるスキャンラインが算出される。
【0100】
S25では、S24で算出した画素変動値が最大になるスキャンラインを、スキャン順Cとして記憶する。
【0101】
S26では、S25で記憶した画素変動値が最大になるスキャンラインを、全スキャンラインの画素変動値を記憶したリストから除外する。
【0102】
S27では、スキャン順Cが最後まで決定されたかを判定し、決定されていなければS21に戻る。上記のように、S26では、最大変動値のスキャンラインを除外しているので、S11からS16を繰り返すことにより、すべてのスキャン順Cが決定する。
【0103】
PreparationパルスおよびEvolutionパルスが印加されるスキャンラインが帯状に目立たないようにするには、スキャン順をランダムに決定することも可能である。ランダムやスキャン順は、あらかじめランダムな固定パターンとしてスキャン順をメモリに記憶しておいても、時刻情報などに基づいて乱数を作成し、それに基づいてスキャン順をランダムに決定してもよい。スキャン順がランダムであるため、浮かび上がってくるような書換えはある程度可能となるが、ランダムであるため、実施例1および変形例のスキャン順と比較して視覚的な満足度はやや低下する場合が生じる。
【0104】
そのため、スキャン順は、何らかの定義可能な規則性を有するか、図17に示すように画像情報にしたがって決定することが望ましい。さらに、スキャン順は固定である必要はない。
【0105】
図20は、スキャン順を変更可能にした変形例の構成を示す図である。制御回路27は、スキャン順パターン記憶部50を有し、複数のスキャン順パターンA、B、C、DおよびEを記憶しており、表示を書換える時に、いずれのスキャン順で書換えを実行するかを適宜決定し、決定したスキャン順にしたがって書換えを実行する。スキャン順A、B、C、DおよびEは、例えば、図9および図10に示したパターン、図15、図16などに示したパターンなど、黒帯が目立たないスキャン順パターンであればよい。スキャン順パターンは、ランダムに選択しても、所定の規則にしたがって選択してもよい。
【0106】
画面書換え指示を受けると、S31で書き換え画面のデータが入力され、S32でスキャン順パターンを選択し、S33で選択したスキャン順パターンにしたがって画面の書換えを実行して終了する。
【0107】
また、図21に示すように、S31の後で、画像が文字画像であるかグラフィック画像であるかを表示データに基づいて判定し、その判定結果に応じてスキャン順パターンA〜Eのいずれかを選択するS35をさらに設けてもよい。S35で選択したパターンに関する情報はスキャン順パターン記憶部50に通知され、スキャン順パターン記憶部50は、選択されたパターンを出力する。これにより、書換える画像に適したスキャン順で書換えが行える。
【0108】
次に、実施例2の表示装置を、図22を参照して説明する。
【実施例2】
【0109】
図1に示すように、実施例1では、3枚のパネル10B、10Gおよび10Rを積層したカラー表示素子10を使用し、スキャンドライバ28は、3枚のパネル10B、10Gおよび10Rのスキャン電極を共通に駆動した。このため、3枚のパネル10B、10Gおよび10Rにおける画像は、同じスキャン順で書換えられた。しかし、3枚のパネル10B、10Gおよび10Rにおける画像の書換えを同じスキャン順で行う必要はない。
【0110】
実施例2の表示装置は、緑(グリーン)パネル10Gのスキャン順が、青色(ブルー)パネル10Bおよび赤色(レッド)パネル10Rのスキャン順と異なる。このような動作を可能にするには、3枚のパネル10B、10Gおよび10Rに対して3個のスキャンドライバ28を設け、3枚のパネル10B、10Gおよび10Rのスキャン電極を独立して駆動できるようにする。これ以外の部分は、実施例1とほぼ同じである。
【0111】
図22は、実施例2の表示装置におけるスキャン順を示す図である。
【0112】
図22に示すように、緑色パネル10Gのスキャン順は、図16に示した、画面中央を書換え起点として、そこから上下方向に互い違いに書換えを進めるが、画面中央のスキャン順の間隔は小さくし、画面両端に進むほど間隔を大きくする順番である。青色パネル10Bおよび赤色パネル10Rのスキャン順は、画面両端を書換えの起点として、そこから中央に向かい方向に互い違いに書換えを進めるが、画面両端のスキャン順の間隔は小さくし、画面中心に進むほど間隔を大きくする順番である。
【0113】
なお、各色のパネルをどのようなスキャン順で書換えるかについては各種の変形例が可能である。例えば、図22で、緑色パネル10Gのスキャン順を、青色パネル10Bまたは赤色パネル10Rに適用し、青色パネル10Bまたは赤色パネル10Rのスキャン順を緑色パネル10Gに適用してもよい。
【0114】
次に、実施例3の表示装置を、図23および図24を参照して説明する。
【実施例3】
【0115】
実施例1、その変形例および実施例2では、ダイナミック駆動方式(DDS)を使用したが、補助パルスを使用する駆動方式であれば、補助パルスを印加するスキャンラインを分散することで、補助パルスに起因する帯を目立たなくすることが可能である。実施例3の表示装置は、DDSでないコンベンショナル駆動の一例として、特許文献7(特開2008−033338号公報)に記載された擬似リセット方式を用いて表示の書換えを行う。
【0116】
図23は、実施例3の表示装置において、1つのスキャンラインの液晶分子へ印加される電圧波形を示す図である。図示のように、擬似リセット方式の駆動波形は、リセットライン設定期間と、休止ライン設定期間と、書込み期間と、を有し、前後に非書込み期間が設けられる。
【0117】
リセットライン設定期間は、DDSのPreparation期間に類似しており、Preparationパルスに類似の複数のリセットパルスを印加する。リセットパルスは、±38Vのパルスである。休止ライン設定期間には、0Vを印加する。書込期間は、白表示の場合は±38Vの1個のパルスで、黒表示の場合は±26Vの1個の書き込みパルスを印加する。リセットパルスの印加により、画素中の液晶はプレーナ状態かフォーカルコニック状態のいずれかに初期化されるので、書込みパルスで、プレーナ状態かフォーカルコニック状態のいずれかを確定する。リセットパルスは概ね20パルスほどの黒帯となる。
【0118】
図8と比較して明らかなように、擬似リセット方式は、DDSと同様に、一連のパルス列を各スキャンラインに印加しており、実施例1で説明したのと同様の構成で、スキャン順を設定して書込みを行うことができる。
【0119】
擬似リセット方式は比較的低速だが、書込み時の消費電力が小さく、バッテリーを有さず、ワイヤレス給電での書込みも可能である。また、擬似リセット方式は、DDSほどの多値出力は必要とせず、2値出力の安価な汎用ドライバICが使用可能である。
【0120】
図24は、擬似リセット方式を実行する場合の、2値出力の汎用ドライバICで構成したスキャンドライバおよびセグメントドライバの出力と、各画素に印加される電圧を示す図である。
【0121】
図24の(A)に示すように、セグメントドライバは、白表示の画素(ON−SEG)に対しては、前半38Vを、後半0Vを出力し、黒表示の画素(OFF−SEG)に対しては、前半26Vを、後半12Vを出力する。また、スキャンドライバは、選択ライン(リセットパルスおよび書込みパルスを印加するライン:ON−COM)に対しては、前半0Vを、後半38Vを出力し、非選択ライン(OFF−COM)に対しては、前半32Vを、後半6Vを出力する。
【0122】
したがって、図24の(B)に示すように、選択ライン上の白表示のデータ電極の画素には、前半38Vが、後半−38Vが印加され、選択ライン上の黒表示のデータ電極の画素には、前半268Vが、後半−26Vが印加される。さらに、非選択ライン上の白表示のデータ電極の画素には、前半6Vが、後半−6Vが印加され、非選択ライン上の黒表示のデータ電極の画素には、前半−6Vが、後半6Vが印加される。
【0123】
以上説明した実施形態では、3枚のパネルを積層したカラー表示素子を使用した例を説明したが、1枚のパネルのモノクロ表示素子に実施例1から3の構成を適用することも可能である。
【0124】
以上、実施形態を説明したが、ここに記載したすべての例や条件は、発明および技術に適用する発明の概念の理解を助ける目的で記載されたものであり、特に記載された例や条件は発明の範囲を制限することを意図するものではなく、明細書のそのような例の構成は発明の利点および欠点を示すものではない。発明の実施形態を詳細に記載したが、各種の変更、置き換え、変形が発明の精神および範囲を逸脱することなく行えることが理解されるべきである。
【符号の説明】
【0125】
10 表示素子
27 制御回路
28 スキャンドライバ
29 セグメントドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示部と、
前記表示部の画素にパルスを印加する電極と、
前記パルスの印加を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記パルスを印加する前記電極の位置が非一定間隔で変化するように制御することを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記表示部の表示面を複数の領域に画定し、
前記制御部は、
前記書換えパルスを印加する前記電極の位置を、異なる領域の電極を順に選択し、各々の前記領域で、両側から中心に向かって交互にまたは中心から両側に向かって交互に選択することを特徴とする請求項1記載の表示装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記パルスを印加する前記電極の位置を、中心から両側に向かって交互に且つ中心は密で両側は疎に、または両側から中心に向かって交互に且つ両側は密で中心は疎に、選択し、前記電極のすべてを選択する請求項1記載の表示装置。
【請求項4】
前記電極に対応したスキャンラインごとの情報量を演算するライン情報量演算部をさらに備え、
前記制御部は、
前記パルスを印加する前記電極の位置を、前記情報量に基づいて選択する請求項1記載の表示装置。
【請求項5】
前記パルスを印加する前記電極の位置の変化のパターンを記憶したスキャンパターン記憶部をさらに備え、
前記制御部は、
前記記憶部に記憶された前記パターンから選択したパターンにしたがって、前記パルスを印加する前記電極を変化させる請求項1から4のいずれか記載の表示装置。
【請求項6】
前記電極には、複数の前選択パルス、1つの選択パルス、および複数の後選択パルスが印加される請求項5記載の表示装置。
【請求項7】
前記電極には、複数のリセットパルス、1つの休止パルス、および1つの書き込みパルスが印加される請求項5記載の表示装置。
【請求項8】
積層された複数の表示素子を有し、
前記表示素子は、
表示部と、
前記表示部の画素にパルスを印加する電極と、
前記パルスの印加を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記パルスを印加する前記電極の位置が非一定間隔で変化するように制御するとともに、前記複数の表示素子の少なくとも2枚の表示素子で、前記パルスを印加する前記複数のスキャン電極の位置の変化が異なるように制御することを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−3017(P2012−3017A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137541(P2010−137541)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】