説明

表示装置

【課題】有機EL素子を用いた表示装置において有機化合物層よりも屈折率の高い透明層を伝播する伝播光を効率的に外部に取り出しながらも、表示装置にとって問題となる表示像のにじみを低減する。
【解決手段】有機EL素子の光出射側に、前記有機化合物層10,11よりも屈折率の高い高屈折率透明層13を設け、さらに、該高屈折率透明層13上に光取り出し構造物6を各副画素1,2の外周部全てを取り囲んで設け、互いに隣り合う画素間には可視光吸収部材5を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子を備えた表示装置に関するものであり、特に、1画素が異なる色を発光する複数の副画素からなる、フルカラー表示の表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、数ボルト程度の低駆動電圧で自己発光する有機発光素子が注目を集めている。有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、面発光特性、軽量、視認性といった優れた特徴を活かし薄型ディスプレイや照明器具、ヘッドマウントディスプレー、また電子写真方式プリンタのプリントヘッド用光源など発光装置としての実用化が進みつつある。
【0003】
有機EL素子は、有機材料からなる発光層やその他の機能分離された複数の有機材料からなる層を陽極及び陰極で挟んだ構造を有しており、少なくとも一方の光出射側の電極は透明である。この積層構造ゆえに、発光層の屈折率や光出射側の媒質、最終的な光の放出が行われる空気の屈折率で決定される各界面における臨界角以上の方向に進行する光は、全反射を受けて素子内部に伝播光として閉じ込められる。伝播光は素子内部の有機化合物層や金属電極により吸収され、外部に取り出されなくなり、光取り出し効率が低下する。
【0004】
光取り出し効率改善を目的として、伝播光を外部に取り出すために、光出射側の表面に微細凹凸構造或いはレンズ構造など、光の進行方向を変化させ全反射条件を破る方法が多く提案されている。特に、改善効果が高い方法として、透明電極の光出射側に接して屈折率が発光層と同等以上の透明層を設け、更に、この透明層の光出射側もしくは内部に光の反射・散乱角に乱れを生じさせる領域を設ける方法が提示されている(特許文献1)。
【0005】
この方法は、古典的なスネルの法則によれば発光層で発光した光の約80%を占める発光層内の伝播光を、発光層よりも高屈折率である高屈折率透明層に引き込むことで、透明層内の伝播光に変換する。その伝播光を透明層の表面もしくは内部の光の反射・散乱角に乱れを生じさせる領域によって外部に取り出せるようにしている。
【0006】
しかしながら、こうした高屈折率透明層内に光を伝播させる方法にはディスプレイなど表示装置に適用する場合に特有の課題が生じる。高屈折率透明層に導かれ光の反射・散乱角に乱れを生じさせる領域によって最終的に空気に出射する光は本来であれば全反射されていた臨界角以上の角度で進行する光を含む。従って、高屈折率透明層の厚さに起因した視差により実際の発光点とは異なる位置からの発光と認識されるため表示像のにじみの問題が発生する。これに対しては、高屈折率透明層ではないものの、光が伝播する基板の厚みを画素サイズの一定割合以下に抑える方法が提案されている(特許文献2)。
【0007】
更に、高屈折率透明層に導かれた光が反射・散乱角に乱れを生じさせる領域に入射した際に、必ずしも一回の入射で空気側に取り出されるわけではない。反射・散乱角に乱れを生じさせる領域によって進行方向を変えた光であっても、高屈折率透明層と空気界面の臨界角以上の角度に進む光は再度、全反射を受けて高屈折率透明層内を伝播する。この結果、光は高屈折率透明層内を横方向に伝播し、いずれ全反射条件が破れた発光点とは離れた位置で空気側に出射することになるため、やはり、表示像のにじみの問題が発生する。特に透明層の屈折率が高いほど、高角度成分の光が多いため反射・散乱角に乱れを生じさせる領域に入射する回数が減少、空気側に取り出されるまでの横方向の導波距離が長くなり、問題が顕著になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−296429号公報
【特許文献2】特開2005−322490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、有機EL素子を用いた表示装置において有機化合物層よりも高い屈折率の透明層を伝播する伝播光を効率的に外部に取り出し、表示像のにじみを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、異なる色を発光する複数の副画素を有する画素を複数備え、
前記副画素がそれぞれ、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と第2電極との間に配置された発光層を含む有機化合物層とを有する有機EL素子を備えた表示装置であって、
前記有機EL素子の光出射側に、前記有機化合物層よりも屈折率の高い高屈折率透明層を有し、
前記高屈折率透明層の上に設けられた光取り出し構造物が各副画素の外周部全てを取り囲んで設けられ、隣り合う画素間の領域には可視光吸収部材が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光取り出し効率を向上させつつ表示像のにじみが低減された表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の表示装置の一実施形態の構成を模式的に示す上面図である。
【図2】図1の表示装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の表示装置の有機EL素子の一例の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の表示装置の一実施形態の画素構成を模式的に示す上面図である。
【図5】本発明の表示装置の他の実施形態の構成を模式的に示す上面図である。
【図6】本発明の表示装置の他の実施形態の構成を模式的に示す上面図である。
【図7】本発明の表示装置の他の実施形態の構成を模式的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の表示装置は、互いに異なる色を発光する複数の副画素を有する画素を複数備え、各副画素がそれぞれ有機EL素子を備えている。有機EL素子は、第1電極上に発光領域を備えた発光層を含むいくつかの有機化合物層と第2電極とを有している。そして有機EL素子は、該第1電極と第2電極間に電圧を印加して有機化合物層に注入された正孔と電子が再結合する際に生じるエネルギーを利用して発光する素子である。第1電極と第2電極の一方は反射電極であり、他方は透明電極である。また、第1電極と第2電極の一方は陽極、他方は陰極である。本発明の表示装置は、第1電極として反射電極を支持基板上に形成し、透明電極側から発光を取り出す。また、本発明の表示装置は、有機EL素子内で発光した光を効果的に外部に取り出すために、透明電極に隣接して有機化合物層よりも高い屈折率を有する高屈折率透明層が設けられている。更に、高屈折率透明層に隣接して光を取り出すための光取り出し構造物が配置されている。係る構成により、発光層からの光は全反射せずに光取り出し構造物まで達し、効果的に外へ取り出されることになる。
【0014】
本発明においては表示上のにじみという問題を低減するために、隣り合う画素間領域に可視光吸収部材を配置する。それによって、画素間領域で混色することによる表示像のにじみを抑制することが本発明の特徴である。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の表示装置の一実施形態の平面レイアウトを示す上面図である。青、緑、赤の光の三原色をそれぞれ発光する副画素1,2,3により一つの画素4が形成されている。
【0016】
本発明の表示装置では、図1に示すように、画素4に含まれる副画素1,2,3のそれぞれの外周部全てを取り囲んで光取り出し構造物6を設け、隣り合う画素間の領域21には可視光吸収部材が配置されている。本発明の表示装置の画素4は、複数の副画素1,2,3と光取り出し構造物6を備え、表示の最小単位を構成するものである。尚、副画素1,2,3にそれぞれに設けた光取り出し構造物6の領域までを含めて画素4とする。本発明では光取り出し構造物6は副画素1,2,3の外周部を囲うように配置していればよく、また画素上に重なる領域があってもよい。
【0017】
本発明の表示装置では副画素1,2,3の発光領域は後述する支持基板8側に形成された、パターニングされた反射電極9の開口面積で決まる。その場合、図1のA−A’で示される部位の断面構造は図2に模式的に示すようになる。
【0018】
また、図2の構成では、画素間のクロストーク、ショート、電極配線の断線などの回避、又は電極間を絶縁して発光領域を限定するために、副画素間に隔壁7を設けているが、係る隔壁7はなくても構わない。図2の場合、隔壁7に設けられた開口部が図1の副画素1,2,3に対応する。
【0019】
副画素1,2,3は、それぞれの発光色を発光する有機EL素子からなる。図2においては、支持基板8上にそれぞれ第1電極として反射電極9を有し、該反射電極9上に有機化合物層10,11を備え、さらに光出射側に第2電極として透明電極12を備えている。有機化合物層10,11はそれぞれ、副画素1,2,3の発光色に応じた発光を行う発光層を備えている。透明電極12は表示領域全体にわたって連続して形成されており、その光出射側(支持基板8とは反対側)に、有機化合物層10,11よりも屈折率の高い高屈折率透明層13を有している。そしてさらに、各副画素1,2,3の外周部に光取り出し構造物6が設けられている。また、隣り合う副画素間の領域には可視光吸収部材5が形成されている。
【0020】
副画素1に用いられる有機EL素子の構成を、図3に断面模式図で示す。尚、副画素2,3に用いられる有機EL素子の断面構造も図3と同様である。支持基板8上に設けられた第1電極として反射電極9及び透明電極14と、第2電極としての透明電極12との間に、発光層を含むいくつかの有機化合物層10があり、発光効率、駆動寿命、光学干渉などの観点から様々な積層構成があることはよく知られている。尚、図2では第1電極として反射電極9のみを示したが、図3の構成では第1電極を反射電極9と透明電極14とで構成しており、本発明では反射性を有する電極構成であればいずれの構成でも構わない。
【0021】
図3の例では、図2の有機化合物層10として、正孔注入層15、正孔輸送層16、発光層17、電子輸送層18、電子注入層19を設けた構成を示す。本発明は、各層に含まれる材料には限定されない。例えば、発光層17を構成する材料は、蛍光材料、燐光材料のいずれでもよく、ホスト材料、発光材料の他に、少なくとも一種類以上の化合物が素子性能向上のために含まれていてもよい。また、正孔輸送層16は電子ブロック層として機能してもよく、電子輸送層18は正孔ブロック層として機能してもよい。
【0022】
有機化合物層10のうち、発光層17の発光位置と反射電極9の反射面との間の膜厚を調節することで、発光層17内部の放射分布を制御することができる。表示装置としては特に正面方向の輝度が高くなるように各有機化合物層の膜厚を設定することで、光学干渉により発光色も制御され、より高効率に正面方向に光が放出されるようになる。より具体的には、発光層17の発光位置から透明電極14と反射電極9の界面までの光学距離を発光波長のn/4(n=1、3、5、・・・)に調整することで、発光層17から光取り出し方向に向けた正面輝度をより高めることができる。
【0023】
光取り出し効率を高めるためには反射電極9の反射率はより高い方が好ましい。例えば、反射電極9の材料としては、アルミニウム(Al)電極よりも銀(Ag)電極の方が好ましい。更に反射率を高める手段として誘電多層膜ミラーのように屈折率の異なる層を積層する手法を用いてもよい。
【0024】
図3の例では第2電極に透明電極12を用いることで素子内に発光が閉じ込められなくなる。そして、この透明電極12の光出射側に高屈折率透明層13を設けることで、画素上に直接放出できない角度の高角度放射光成分の光が、光取り出し構造物6へ進入して内部反射の末に主に正面方向へ取り出されてくる。即ち、高角度側の光を高屈折率透明層13と空気或いは別の媒体などとの間で起こる全反射を介して、効果的に外部に取り出すことができる。
【0025】
また第2電極の透明電極12に代わって半透明電極を用いてもよい。その場合は第2電極の反射率が上昇し、光学共振器としての特性が発現してくる。しかしながら発光層17からの高角度放射光成分の発生は、程度は少なくても発生している。ゆえに、透明電極に比べて光取り出し効率の増加は小さいが効果はあるといえる。第2電極が透明かどうかそのものに特に限定されるものではない。
【0026】
高屈折率透明層13は水蒸気や酸素などのガスの侵入に対するバリア層として用いてもよい。バリア層として機能するには用いる材料にもよるが、数μm程度の膜厚であればよいが、0.5μm以上6.0μm以下の範囲である。好ましい膜厚は光取り出し構造物6のサイズにもよるため、本発明では規定する必要はない。高屈折率透明層13の膜厚が6.0μmより大きいと該高屈折率透明層13中を長距離伝播し易くなり、隣の画素4上の光取り出し構造物6から光が取り出されやすくなるので好ましくない。高屈折率透明層13の膜厚は、光取り出し効率の向上という点では、より好ましくは0.5μm以上1.0μm以下である。
【0027】
有機化合物層10,11,及び赤色発光層を含む有機化合物層の屈折率は材料によっても変化するが、概ね青の発光領域で1.6乃至2.0、緑では1.5乃至1.9、赤では1.5乃至1.8程度である。従って高屈折率透明層13は、青、緑、赤の各発光領域それぞれで少なくとも有機EL素子に用いる有機化合物層10,11,及び赤色発光層を含む有機化合物層よりも高い屈折率であればよい。
【0028】
また、高屈折率透明層13としては、酸化チタンや酸化ジルコニウム、酸化亜鉛などが挙げられる。しかしながらこれらの材料を加工するとなると困難である。本発明において高屈折率透明層13は窒化ケイ素膜(SiNx)などが好ましい。窒化ケイ素膜(SiNx)の元素組成及び元素組成比は特に限定されるものではなく、窒素、ケイ素を主成分としてその他の元素が混合されていてもよい。窒化ケイ素膜を得る成膜プロセスとしてはCVD(Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。窒化ケイ素膜は成膜条件、例えば基板温度や成膜速度などによっても、光学定数は変化するが、本発明においては有機化合物層10,11,及び赤色発光層を含む有機化合物層よりも高い屈折率を有する透明層であればよい。高屈折率透明層13の光透過率は、可視光域で85%以上が好ましく、より好ましくは90%以上である。
【0029】
本発明に係る光取り出し構造物6は高屈折率透明層13を直接加工して形成され、高屈折率透明層13と光取り出し構造物6の間には屈折率の差を無くすことが好ましい。
【0030】
光取り出し構造物6は少なくとも光取り出し方向に対して凸な形状であって、その断面形状は錐状或いは多角形であり、それらの足し合わせからなるものであってもよい。このような構造物があると画素上に取り出されないような高角度放射成分の光が進入してきた際に、内部反射を利用した光変角によって、さまざまに任意角度の光を強めることができる。同時に光取り出し効率も向上する。
【0031】
特に頂角120°乃至135°の二等辺三角形の断面形状のものであれば正面輝度の光取り出し効率を効果的に高めることができる。本発明ではさらに二つの底角が25°前後のものが正面輝度をより高められるため、ディスプレイ用途として好ましい。このようにして、有機EL素子の光取り出し効率は通常20%程度と言われるものが飛躍的に向上する。また、副画素1,2,3が円形の場合の各外周部を囲うようにリング状の光取り出し構造物6(円錐形状が一つなぎになったもの)が配置された構成であることが望ましい。
【0032】
該光取り出し構造物6の製造方法については、特に限定するものではないが、例えばフォトリソグラフィによってSiNxなどの膜上にレジストパターンを形成後、ドライエッチを行って所望の構造に形成してもよい。ナノインプリントによって所望のモールドのパターンをSiN上に転写した後、ドライエッチによってSiNxを加工してもよい。
【0033】
図4のように副画素間領域20上に光取り出し構造物6が設けられていると、該副画素間領域20に、該副画素間領域20に隣り合う副画素の発光が侵入し取り出されることになる。しかしながら、画素4内の光取り出し構造物6によって起こる混色、例えば、青、緑、赤の間での混色は階調制御された色同士の加法混色なので、所望の色度を得るための制御に対して影響は与えない。むしろ隣り合う副画素へ伝播した光を取り出すことができるため、取り出し効率が向上するという利点がある。
【0034】
一方、画素間領域21上に設けられた光取り出し構造物7からは、それぞれ別の階調制御された副画素の発光が混ざり合うことになる。例えば互いに異なる画素4に含まれ、画素間領域21を挟んで隣り合う赤色副画素3と青色副画素1の混色は、それぞれの副画素の階調制御が取り出したい発光色に合わせたものにならないため、全く意図しない加法混色された光として取り出される。
【0035】
ここでMacAdamの偏差楕円を例にとって考える。緑は赤や青よりも色度ずれに対して鈍感であり、青は色度ずれに対しては非常に敏感である。よって、図4の構成において発光色が青色の青色副画素1を例にとって表示像のにじみについて説明する。青色副画素22への他色の異なる階調制御された副画素からの光の侵入は青の色度ずれにつながる。この時、青色副画素22の色は所望の色度で発光しているが、隣り合う画素間領域21上から取り出される発光色は隣の赤色副画素23の色が混ざった色度のずれた発光である。ゆえに、青色副画素22上は所定の青に近いが画素間領域6上に所定の青色とは違う色が認識される。青色副画素22は赤色が混ざった発光色で認識されることになり、色がにじむことになる。また、画素間領域21では、画像を表示するための画素単位の所定の階調制御に対する色度のずれが起こるため表示された画像のエッジ部のにじみにつながる。
【0036】
通常の表示装置の画素の開口レイアウトは等ピッチに配されることが主流であり、通常大きくても開口率50%程度なので画素間領域21の占める面積は大きい。従ってここで起こる例えば青色領域の意図しない混色は色度の違う領域を形成し、表示像のにじみの原因となる。よって、本発明においては、にじみ防止のために、図4に示す画素間領域21に、図1に示すように可視光吸収部材5を配置することを特徴とする。図4に対してより好ましい形態としては、図5が挙げられる。図5は画素4内の副画素間領域20には可視光吸収部材5を設けずに、画素間領域21にのみ設けられたことで、混色して取り出してもよい画素4内の副画素間領域20からの光での光のロスを減少させることができる。
【0037】
これに対して図6のように副画素が画素単位で光取り出し構造物6を介して接し、画素間領域21にのみ配置した可視光吸収部材がより幅広に連続的につながって、画素4同士を隔てることが好ましい。具体的には、図1のように網目状(グリッド状)につながった画素間領域21を覆って、同様に網目状(グリッド状)につながった可視光吸収部材を形成することが好ましい。尚、前記したように、画素4内においては、隣り合う副画素間での混色は望ましいため、図5の場合同様に可視光吸収部材5は形成しなくてもよい。
【0038】
副画素1,2,3の開口形状は円形に限定されるものではなく図7のように長方形であってもよい。例えば長方形の副画素1,2,3に対して外周を取り囲むように、光取り出し構造物6を設けた場合、副画素は互いに備えた光取り出し構造物6で接しており、画素4を形成する。その画素4と隣の画素4の間の画素間領域21に可視光吸収部材5が形成される。
【0039】
画素間領域21の幅、つまり、隣り合う画素4同士の距離については、光の伝播距離を考慮する必要がある。光の伝播距離は、発光点と発光点での光の強度が半分になる点との間の距離とする。光の伝播距離は高屈折率透明層13の膜厚や吸収率、発光色などに関係する。本発明では、上記の理由より可視光吸収部材5によってにじみ解消する効果は発光色によって規定されるものではない。しかしながら、可視光吸収部材5を配置した画素間領域21の幅は、少なくとも光取り出し構造物6を隔てるものであれば良い。より好ましくは光取り出し構造物6の幅よりも、可視光吸収部材5を配置した画素間領域21の幅は大きいことが好ましい。また図4においては可視光吸収部材5を配置した画素間領域21の幅は光取り出し構造物6よりも幅が大きく、画素内の光取り出し構造物6の淵は隣接する副画素同志で互いに接することが好ましい。
【0040】
可視光吸収部材5としては、感光性ブラックレジストを用いることが好ましい。また、所望の光照射や、加熱、雰囲気変化などを行うことで光を吸収する波長領域を変化させ所望の色の光を吸収させてもよい。例えば、光照射によって光重合させて透明だった部分を褐色や黒色に変化させてもよい。また、カラーフィルタ等に使われるような材料を単独で或いは組み合わせて用いて、画素間領域21に可視光吸収部材5として設けてもよい。設ける方法としてはフォトリソを用いたパターニングやインクジェット方式、ノズルジェット方式などの塗布パターニングなどが好ましい。但し、光取り出しを阻害しないために可視光吸収部材5は光取り出し構造物6に重ならない配置で設けられることが好ましい。
【0041】
可視光吸収部材5を形成する工程は、光取り出し構造物6を設ける工程よりも前でもよいし後でもよい。前者の場合は、例えば図2の支持基板8の、副画素間の隔壁7上に黒色レジストをパターニングした領域を設けてもよく、或いは画素間領域21に対応する部分を黒色の隔壁として形成し、且つ、画素4内の副画素間の隔壁は透明なものを用いればよい。後者の場合は、例えば、画素4上に光取り出し構造物6を設けた後に、インクジェット方式により画素間領域21に可視光吸収部材5として黒色インクを塗布すればよい。
【0042】
上記のようにして、画素間領域21に可視光吸収部材5を設けることで、効果的に画素間のにじみを解消することができる。
【0043】
また、一方で、ブラックレジストなどの可視光吸収部材5を使用することによって、外光反射を低減する効果も期待できる。
【0044】
尚、本発明の表示装置を駆動するための回路、配線、及び用いるTFTの配置や特性は特に規定するものではなく、必要な性能を得るために所望の設計を施し具備してよい。
【0045】
また、本発明の表示装置では光取り出し構造物6は素子内部に閉じ込められる光を外に取り出すためのものであり、該光取り出し構造物6上を更にガラスキャップや板ガラスなどの封止ガラスで封止してもよい。該封止ガラス上には色度の改善のためカラーフィルタや、外光反射低減のために円偏光板を具備してもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。実施例では光取り出し構造物には一例としてリング形状で断面構造が二等辺三角形のものを用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
実施例1として、有機EL素子が図3の断面構造を持ち、表示領域が図2の断面構造を持ち、図1のように画素4、副画素1,2,3及び光取り出し構造物6がレイアウトされた構成の表示装置を、以下に示す方法で作製した。即ち、本例の表示装置は、複数の画素を有し、各画素が複数色(青色副画素1、緑色副画素2、赤色副画素3)の副画素からなり、副画素それぞれが有機EL素子を備えている。
【0048】
本例では、先ず、ガラス基板上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路(不図示)を形成し、その上にアクリル樹脂からなる平坦化膜(不図示)を形成して支持基板8とした。次に、支持基板8上に、反射電極9として、スパッタリングによりAg合金を約150nmの膜厚で形成した。Ag合金からなる反射電極9は、可視光の波長域(λ=380nm乃至780nm)で分光反射率80%以上の高反射膜である。更にスパッタリングにより透明電極14としてITO(Indium Tin Oxide)を成膜した。この後、隔壁7としてポリイミド系樹脂をスピンコートしフォトリソグラフィによって所望の各副画素に開口部を設けた。各副画素の開口の直径は27μmで、全ての副画素は60μmの等間隔に配置されている。
【0049】
この後、各有機化合物層10,11,赤色発光層を含む有機化合物層を順次、真空蒸着法により成膜して積層した。本表示装置では各副画素1,2,3において、各色の発光層から反射電極9までの光学膜厚が、各発光色波長の3/4に相当するように正孔輸送層16の膜厚を変えた。青色は蛍光材料を、緑色及び赤色に関してはより高い内部量子効率が期待できる燐光材料を発光層の発光ドーパントとして用いた。各副画素の有機化合物層のうち最も屈折率の高い層の屈折率は、青色副画素が1.86、緑色副画素が1.80、赤色副画素が1.78であった。
【0050】
次に透明電極12として、IZO(Indium Zinc Oxide)をスパッタリングにより成膜した。その後CVD法により窒化ケイ素(SiN)膜を4μmの厚さで成膜した。このSiN膜の屈折率は450nm(青色領域)で1.89、520nm(緑色領域)で1.88、620nm(赤色領域)で1.86であった。よって、いずれの副画素においても有機化合物層よりも屈折率が高かった。
【0051】
次にSiN膜上にヘキサメチルジシラザンをスピンコートして表面を改質した後、フォトレジストのAZ1500をスピンコートし、厚さが約2.5μmの膜厚を得た。次いでAZ312MIF現像液によって現像を行いレジストパターンを得た。これを120℃で3分間のポストベークを行い、レジスト形状をリフローさせた。これを四フッ化炭素と酸素によるドライエッチによりレジストパターンごとSiNをエッチングすることで各副画素を囲むようにリング状の光取り出し構造物にSiN膜を加工した。この時、有機化合物層10,11,赤発光層を含む有機化合物層よりも屈折率の高い高屈折率透明層13の膜厚は1μmであった。また、リング状光取り出し構造物6の高さは2.9μm、幅は10μmで断面形状は頂角は120°の三角形で、底角は内側30°、外側30°であった。
【0052】
次に直接加工したSiN膜に対して可視光吸収部材5として感光性ブラックレジストをスピンコートし膜厚1μmとした。次に、図1のように、それぞれの副画素を囲んで網目状につながるように設計したフォトマスクを用いて感光性ブラックレジストをパターニングした。露光にはマスクアライナーMPA−600FAを用いた。次いで、AZ312MIFと水を1:20で混合した現像液を用いて現像した後ホットプレートにより100℃で3分加熱した。
【0053】
副画素間領域20(可視光吸収部材5)の幅は13μmであった。従って、画素間領域21(可視光吸収部材5)中に、リング状光取り出し構造物6の底部幅よりも狭い部位はなかった。
【0054】
以上のようにして作製した表示装置のにじみ程度を確認するために、青空を背景に人物の画像を表示し、皮膚などの白色系の部位の輪郭部の発光色を確認した。本実施例によって得られた表示像の人物の輪郭部にはにじみに由来する発光色の変化は見られなかった。
【0055】
また、本実施例における光取り出し効率についてはリング状光取り出し構造物6が無かった場合の2倍程度、正面輝度は3倍程度に向上していた。発光強度は主に発光する正面方向に増加が見られた。
【0056】
(比較例1)
副画素間領域20に可視光吸収部材5を形成しないこと以外は実施例1と同じ構成の表示装置を実施例1と同様な製造プロセスで作製した。得られた表示装置のにじみ程度を実施例1と同様にして確認したところ、表示像の人物の輪郭部にはにじみに由来する発光色の変化が見られ、青紫色のにじみが輪郭部に視認された。一方で、光取り出し効率については2.3倍程度で正面輝度は3.1倍程度の向上であった。実施例1と同様であり、輝度は全視野角にわたって増加が見られた。
【0057】
(実施例2)
画素4内の副画素間領域20には可視光吸収部材5を設けない図5のような表示装置を実施例1と同様の方法で作製した。画素間領域21(可視光吸収部材5)の幅は13μmであり、画素間領域21(可視光吸収部材5)中に、光取り出し構造物6の底部幅よりも狭い部位はなかった。
【0058】
得られた表示装置のにじみ程度を実施例1と同様にして確認したところ、表示像の人物の輪郭部にはにじみに由来する発光色の変化はみられなかった。
【0059】
本実施例における光取り出し効率についてはリング状光取り出し構造物6が無かった場合の2.3倍程度、正面輝度は3.1倍程度に向上していた。輝度は正面方向に向かって増加が見られた。
【0060】
(実施例3)
副画素ピッチを画素単位で近づけ、画素4を形成する各副画素のリング状光取り出し構造物6が接するようにし、画素間領域21上にのみ可視光吸収部材5を設けた以外は実施例1と同じ構成の表示装置を実施例1と同様な製造方法で作製した。画素間領域21(可視光吸収部材5)の幅は軸1、軸2、軸3方向において最小で26.0μmであり、画素間領域21中に、リング状光取り出し構造物の底部幅よりも狭い部位はなかった。
【0061】
得られた表示装置のにじみ程度を実施例1と同様にして確認したところ、表示像の人物の輪郭部にはにじみに由来する発光色の変化はみられなかった。
【0062】
本実施例における光取り出し効率についてはリング状光取り出し構造物6が無かった場合の2倍程度、正面輝度は3倍程度に向上していた。輝度は正面方向に向かって増加が見られた。
【0063】
(実施例4)
図7のように画素4を構成する長方形の各副画素の光取り出し構造物6が接するようにし、画素4と画素4の間上にのみ可視光吸収部材5を設けた以外は実施例1と同じ構成の表示装置を実施例1と同様な製造方法で作製した。画素間領域21(可視光吸収部材5)の幅はX軸、Y軸2方向でそれぞれ13.0μmであり、画素間領域21(可視光吸収部材5)中に、図7における画素開口の外周部に設けた光取り出し構造物6の底部幅よりも狭い部位はなかった。
【0064】
得られた表示装置のにじみ程度を実施例1と同様にして確認したところ、表示像の人物の輪郭部にはにじみに由来する発光色の変化はみられなかった。
【0065】
本実施例における光取り出し効率についてはリング状光取り出し構造物6が無かった場合の2倍程度、正面輝度は3倍程度に向上していた。輝度は正面方向に向かって増加が見られた。
【符号の説明】
【0066】
1,2,3:副画素、4:画素、5:可視光吸収部材、6:光取り出し構造物、9,12:電極、10,11:有機化合物層、13:高屈折率透明層、17:発光層、20:副画素間領域、21:画素間領域、22,23:副画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる色を発光する複数の副画素を有する画素を複数備え、
前記副画素がそれぞれ、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と第2電極との間に配置された発光層を含む有機化合物層とを有する有機EL素子を備えた表示装置であって、
前記有機EL素子の光出射側に、前記有機化合物層よりも屈折率の高い高屈折率透明層を有し、
前記高屈折率透明層の上に設けられた光取り出し構造物が各副画素の外周部全てを取り囲んで設けられ、隣り合う画素間の領域には可視光吸収部材が設けられていることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記可視光吸収部材が、画素内の隣り合う副画素間の領域には配置されていない請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
光取り出し構造物の断面形状が錐状、多角形、或いはこれらの足し合わせのいずれかからなる請求項1又は2に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−73800(P2013−73800A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212118(P2011−212118)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】